ゲスト
(ka0000)
【虚動】過去との遭遇
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/05 22:00
- 完成日
- 2015/01/10 10:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
――辺境某所。
「……だから、何故儂がやらねばならんのだ」
「別部隊からの救援要請があったのだ。やらねばなるまい……我々は英雄なのだから」
会話する二人の男。
騎馬民族風の衣装に身を包み、地面へ体を横たえている。
もう一方はリアルブルーの軍人風の出で立ちだ。
「英雄? 儂はそんなもんになりとうない。面倒くさい」
「これは英雄たるものの義務だ。やらねばならんのだ!
既に我が配下の者を現地へ派遣している。お前は、その弓で部隊を援護すればいい」
「ならば貴様が現地で指揮すれば良いだろう」
「英雄には数々の試練が立ちはだかっているのだ。私には別の試練がある」
力説する軍人に対して騎馬民族の男はやる気の欠片もなかった。
力説し続ける事数分、ついに騎馬民族の男が限界に到達する。
「ええい、分かった。……やれば良いのだろう、やれば!」
渋々立ち上がる騎馬民族の男。
軍人――災厄の十三魔の一人、ガエル・ソトは射貫くような視線を投げかけていた。
●
ザイダス峡谷はマギア砦の北に位置する地域だ。
かつてここには大きな川の支流が流れていたのだが、今は水も涸れて干上がっている。
周囲は岩や枯れ木に囲まれた寂しい光景だが――ここは既に歪虚のテリトリー。
いつ敵が現れるかも分からない。
「…………」
オイマト族の族長、バタルトゥ・オイマト(kz0023)は配下を連れてこの地を訪れていた。
CAM稼働実験場から奪われたCAMの一部が北を目指していた事に気付き、この地で部下と共に捜索を行っていたのだ。雪が吹雪く中の捜索は、さすがのオイマト族の戦士達も手間取っているようだ。
「族長、居ませんね」
「うむ」
「この地はオイマト族にとって忌むべき地。早々に離れましょう」
「…………」
オイマト族の戦士に対して族長は沈黙を守った。
ザイダス峡谷は辺境のベスタハ地方に属する地域だ。
族長の脳裏には『ベスタハの悲劇』と呼ばれる事件を思い浮かべていた。
当時のオイマト族族長が辺境部族を呼びかけて歪虚に対する反抗作戦を決行したのが、この地域だ。そして、その反抗作戦もオイマト族から裏切り者が原因で失敗。多くの戦士が歪虚に呑まれたと聞いてる。
それ以来、オイマト族はこの事件を禁忌として扱われ、一時期は他の部族から距離を置いていた。戦士としての誇りを奪われた感覚を、オイマト族の戦士は誰もが感じて――。
「ぎゃあ!!」
突然、オイマト族の戦士から悲鳴が上がる。
族長は、反射的に振り返る。
そこには背に乗せていたはずの主が消え失せた馬が一頭いるだけだった。
周囲を見回す族長。
「族長、あれ!」
オイマト族戦士が指差した先には地面に転がる男の姿があった。
胸から伸びた長い矢は男を貫通。
そして、角度から考えて矢は崖上から放たれたのは間違いない。
「…………!」
族長は、崖上に視線を送る。
そこには通常では考えられない異常に大きな馬型の雑魔に騎乗する一人の男がいた。
距離から考えて4メートル以上はある体躯。その手にはあまりにも大きすぎる鉄弓が握られていた。
「面倒くさい。何故、儂がこんな事をせねばならんのだ」
「敵か」
族長と戦士達は弓を手にする。
だが、距離的に考えてこちらの弓は崖上まで届かない。
おまけにこの吹雪。敵を弓で捉えるのは至難の業だ。
族長は戦士達と共に撤退の隙を窺うが、ここで敵から思わぬ一言が発せられる。
「儂はハイルタイ。頼まれたので少しだけ遊んでやるわい」
――ハイルタイ。
族長はその名前に聞き覚えがあった。否、忘れたくても忘れられない名だ。
ベスタハの悲劇を引き起こした裏切り者の名がハイルタイという名前だったのだから。
崖上にいるあの男が、部族を裏切り部族の誇りを失墜させた。
それが敵となって再び部族の前に姿を見せた。
その事実がいつもは寡黙で冷静な族長を激昂させる。
「貴様が! ……貴様が我が部族を!」
「何を興奮しておる。
それより良いのか? お主等の遊び相手は他にもおるぞ」
ハイルタイに注意を向けている間に、オイマト族の戦士達は複数の狼型雑魔に囲まれていた。
無数の狼が唸り声を上げる中、族長はハイルタイを睨み続ける。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
――辺境某所。
「……だから、何故儂がやらねばならんのだ」
「別部隊からの救援要請があったのだ。やらねばなるまい……我々は英雄なのだから」
会話する二人の男。
騎馬民族風の衣装に身を包み、地面へ体を横たえている。
もう一方はリアルブルーの軍人風の出で立ちだ。
「英雄? 儂はそんなもんになりとうない。面倒くさい」
「これは英雄たるものの義務だ。やらねばならんのだ!
既に我が配下の者を現地へ派遣している。お前は、その弓で部隊を援護すればいい」
「ならば貴様が現地で指揮すれば良いだろう」
「英雄には数々の試練が立ちはだかっているのだ。私には別の試練がある」
力説する軍人に対して騎馬民族の男はやる気の欠片もなかった。
力説し続ける事数分、ついに騎馬民族の男が限界に到達する。
「ええい、分かった。……やれば良いのだろう、やれば!」
渋々立ち上がる騎馬民族の男。
軍人――災厄の十三魔の一人、ガエル・ソトは射貫くような視線を投げかけていた。
●
ザイダス峡谷はマギア砦の北に位置する地域だ。
かつてここには大きな川の支流が流れていたのだが、今は水も涸れて干上がっている。
周囲は岩や枯れ木に囲まれた寂しい光景だが――ここは既に歪虚のテリトリー。
いつ敵が現れるかも分からない。
「…………」
オイマト族の族長、バタルトゥ・オイマト(kz0023)は配下を連れてこの地を訪れていた。
CAM稼働実験場から奪われたCAMの一部が北を目指していた事に気付き、この地で部下と共に捜索を行っていたのだ。雪が吹雪く中の捜索は、さすがのオイマト族の戦士達も手間取っているようだ。
「族長、居ませんね」
「うむ」
「この地はオイマト族にとって忌むべき地。早々に離れましょう」
「…………」
オイマト族の戦士に対して族長は沈黙を守った。
ザイダス峡谷は辺境のベスタハ地方に属する地域だ。
族長の脳裏には『ベスタハの悲劇』と呼ばれる事件を思い浮かべていた。
当時のオイマト族族長が辺境部族を呼びかけて歪虚に対する反抗作戦を決行したのが、この地域だ。そして、その反抗作戦もオイマト族から裏切り者が原因で失敗。多くの戦士が歪虚に呑まれたと聞いてる。
それ以来、オイマト族はこの事件を禁忌として扱われ、一時期は他の部族から距離を置いていた。戦士としての誇りを奪われた感覚を、オイマト族の戦士は誰もが感じて――。
「ぎゃあ!!」
突然、オイマト族の戦士から悲鳴が上がる。
族長は、反射的に振り返る。
そこには背に乗せていたはずの主が消え失せた馬が一頭いるだけだった。
周囲を見回す族長。
「族長、あれ!」
オイマト族戦士が指差した先には地面に転がる男の姿があった。
胸から伸びた長い矢は男を貫通。
そして、角度から考えて矢は崖上から放たれたのは間違いない。
「…………!」
族長は、崖上に視線を送る。
そこには通常では考えられない異常に大きな馬型の雑魔に騎乗する一人の男がいた。
距離から考えて4メートル以上はある体躯。その手にはあまりにも大きすぎる鉄弓が握られていた。
「面倒くさい。何故、儂がこんな事をせねばならんのだ」
「敵か」
族長と戦士達は弓を手にする。
だが、距離的に考えてこちらの弓は崖上まで届かない。
おまけにこの吹雪。敵を弓で捉えるのは至難の業だ。
族長は戦士達と共に撤退の隙を窺うが、ここで敵から思わぬ一言が発せられる。
「儂はハイルタイ。頼まれたので少しだけ遊んでやるわい」
――ハイルタイ。
族長はその名前に聞き覚えがあった。否、忘れたくても忘れられない名だ。
ベスタハの悲劇を引き起こした裏切り者の名がハイルタイという名前だったのだから。
崖上にいるあの男が、部族を裏切り部族の誇りを失墜させた。
それが敵となって再び部族の前に姿を見せた。
その事実がいつもは寡黙で冷静な族長を激昂させる。
「貴様が! ……貴様が我が部族を!」
「何を興奮しておる。
それより良いのか? お主等の遊び相手は他にもおるぞ」
ハイルタイに注意を向けている間に、オイマト族の戦士達は複数の狼型雑魔に囲まれていた。
無数の狼が唸り声を上げる中、族長はハイルタイを睨み続ける。
リプレイ本文
「ハイルタイやて……どう見ても味方ではないわなぁ」
レン・ダイノ(ka3787)は、崖の上に視線を送る。
吹雪の中、そこで立っているのは一人の男。あまりにも巨大過ぎる体躯に不釣り合いな右腕。その手には大きな鉄弓が握られている。
「貴様が! 貴様が、ハイルタイ! 我が部族を貶めた裏切り者!」
――激昂。
オイマト族のバタルトゥ・オイマト(kz0023)が、怒りがザイダス渓谷中に響き渡る。
ハンター達も寡黙な男だと聞いていたが、今のバタルトゥは感情を露わにして感情のままに怒り狂う男でしかなかった。
「貴様が部族を裏切らなければ、我が部族がこのような屈辱に塗れる事はなかった!」
「あ~ん? 何を言っているのだ?
裏切り? そんな事があったような、なかったような……」
「貴様っ!」
ハイルタイに向かって弓を引くバタルトゥ。
その様子を見かねてオウカ・レンヴォルト(ka0301)が引き留める。
「落ち着け」
「落ち着いて居られるか! あいつが部族を裏切らなければ、我が部族がこのような屈辱に塗れる事はなかった!」
バタルトゥが感情を発露した理由。
それはオイマト族が引き起こした事件に由来する。
かつて、オイマト族は辺境部族中の戦士を集めて歪虚へ対抗しようした事がある。
戦士達は、このザイダス峡谷にて歪虚の侵攻を食い止めようと防衛線を構築。力任せに動くだけの怠惰ならば撃退できると誰もが思っていた。
だが、その希望は見事に砕け散る。
オイマト族の中から出た裏切りによって怠惰の待ち伏せを受けたのだ。
後世において『ベスタハの悲劇』と呼ばれたこの事件以来、オイマト族は部族の中心になる事を避け続けてきた。
裏切り者の名こそ――ハイルタイ。
そのハイルタイが再びオイマト族の前に姿を現したのだ。
災厄の十三魔に名を連ねる者として。
「感情に身を任せて怒るだけなら誰でもできる」
オウカは、バタルトゥを諭した。
族長としてここで一人怒れば全滅する可能性があるからだ。
「しかしっ!」
「仮に族長なら聞き分けろ……お前が今なすべき事は、背負うべき同胞の命を巻き添えにして自分の感情を優先させる事か!!」
今度はオウカが声を荒げる。
バタルトゥはオイマト族の戦士であると同時に、一つの部族を背負う族長でもある。
否、今や辺境部族において支持を集めつつある大部族の一つだ。万が一、ここでバタルトゥが倒れるような事になれば、辺境部族の痛手は大きい。
「貴方の悲しみは理解できる、とは言わない……。だが、死んでしまったら何もならないんだ……!!」
仮面の下からジョージ・ユニクス(ka0442)が強く呼びかける。
自分の過去を理由にバタルトゥの感情に対して共感を覚えている。
だが、無謀な行動は死を招く。
死ねば考える事も、誇りを取り戻す事もできない。
ならば、ここは耐えて再起を図るべきだ。
「…………くっ」
ジョージの語りかけに対して、バタルトゥは耳を傾けていた。
それでも憮然とした表情を隠せない。
――パシッ!
唐突に投げつけられる雪玉。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が放った雪玉は、バタルトゥの顔に命中。本当は服の中にでも入れてショックを与えてやりたいところだが、馬上のバタルトゥに入れる難しかったので雪玉を投げつけたようだ。
「…………なんだ」
「落ち着きましたか?
これ以上、残された者の悲しみを増やしたくはありません」
メトロノームは、族長から目を背けながら呟いた。
感情に任せた行動が他者を傷つける。
そのような行為を誰が望むというのだろうか。
雪玉は、メトロノームなりにオイマト族の身を案じた行動だ。
その事にバタルトゥも気付いたようだ。
「……すまない」
オウカに詫びるバタルトゥ。
「話は無事に脱出できてからだ。
引くぞ。このままでは、全滅する」
オウカの言葉にバタルトゥは頷いた。
気付けば周囲には体躯の大きい狼型雑魔が取り囲んでいる。
そして、遙か崖の上には――。
「なんだ? 話は終わったか?
なら、儂が少し相手をしてやろう。面倒だからさっさと死んでもらえると楽なんだな」
ハイルタイは、再び鉄の矢を手にする。
吹雪の中で崖下にいる馬上の戦士を射貫いた手腕は、異常と表現しても良い。
ハンター達は、この窮地から如何に脱するのか――。
●
「しかし、包囲とは……やってくれる!」
ジョージはハイルタイの方を見ながらジリジリと後退を始める。
包囲網を突破する事を念頭においたハンター達。救援を待つよりも自力による脱出を選択したようだ。
「んん? その狼、儂は知らんぞ。そんな面倒な事はガエルの仕業だ。
まったく、そういう根回しだけは早い」
ハイルタイが巨体を揺らしながら面倒そうに呟いた。
ガエルとは、災厄の十三魔の一人であるガエル・ソトの事だろう。この場に姿を現さない代わりに狼に包囲させてバタルトゥ達を襲撃したようだ。
「突破と決まれば、行動開始だ。先陣は頼んだぜっ!」
イブリス・アリア(ka3359)は、オイマト族の戦士へ行動を促した。
次の瞬間、オイマト族の戦士達は来た道を戻るように突撃を開始する。
馬の突撃を利用して突破口を開こうというのだ。
――しかし。
「……やれやれ、無駄な足掻きを」
ハイルタイは、弓を横にする。
弓を引く手には数本の矢。
「連射か!」
イブリスの脳裏に危険の一言が浮かび上がる。
同じ事を、囮役を買って出ようとしていたロニ・カルディス(ka0551)も気付く。
「前へ出てはいけない」
ロニの声が届くよりも前に、ハイルタイは矢を放つ。
さらに次の矢を番えて指の力を緩める。
次々と放たれる矢は、狼を強行突破を試みる戦士達を射貫く。
辛うじて致命傷は避けられているようだが、戦士達を馬上から落とすには充分だった。
「一気に前へ出ようしちゃダメだ!」
強打で狼を吹き飛ばしながら、ジョージは警戒を促した。
無理に前へ出ようとすればハイルタイが矢を放ってくる。
だが、あの矢を止める術は今の所見つからない。
一体、どうすれば――。
●
「一手ご教授願えるかな」
戦槍『ボロフグイ』の切っ先をハイルタイに向けるロニ。
爽やかな笑みを浮かべてはいるが、明らかにハイルタイを挑発している。
ホーリーセイバーで自身を強化。先程倒された戦士達の為にも、ここで救援を待つ時間を稼ぐつもりのようだ。
「何故儂が、貴様の相手をせねばならんのだ。面倒くさい」
そう言いながらも、ロニへ矢を向けるハイルタイ。
挑発に乗ってロニへ狙いを定めたようだ。
「今や。撃たれた人を助けんと!」
矢を撃たれた戦士に向かって走り出したレン・ダイノ(ka3787)。
シャドウブリットで周囲の狼を蹴散らしながら戦士の元へ駆け寄ると、傷をヒールで癒し始める。
「痛かったやろなぁ。もうちょい頑張って」
戦士を気遣うレン。
目の前にいる戦士はまだ息もある。
痛みを感じることは、生きている証。
そういい聞かせて、レンは生き残った者にプロテクションをかけていく。
「……こんな所で、諦められない…!
アイツを見つける。その為に前に進むって、そう……決めているんだ…!!」
ショートソード「クラウンナイツ」を握り締め、前に出たのはジョージだ。
幸い、ハイルタイはロニが相手をしている。その間に狼を蹴散らしてハンターが突破口を開こうというのだ。
「微力ながら、お手伝いしましょう」
シールド「ゴッデス」を手にメトロノームがジョージの後方へとつく。
「……! 側面から、敵!」
ジョージの声に反応して、メトロノームが飛びかかろうとする狼の攻撃をゴッデスで防ぐ。
狼の牙と爪は、ゴッデスに阻まれてメトロノームには届かない。
「おやすみなさい」
メトロノームが囁くように呟くと、狼をスリープクラウドが襲う。
深い眠りへとついた狼は、その場で倒れ込み寝息を立てている。
「ちくしょう! くるんじゃねぇよ!」
ハンター達から少し離れた場所で、イブリスが雪の上で派手に転げ回る。
狼の本能なのか、弱者の方が手軽な獲物と考えるらしい。無様な姿を晒すイブリスの周囲に狼が集まり始める。
(……かかったな)
イブリスは、心の中でほくそ笑んだ。
実はイブリスは囮役を勝手出ていたのだ。一人離れて無様な醜態を晒して見せたのも、狼を自分に集める為の演技だった。
「ガウっ!」
狼の一匹が、イブリスへ襲いかかる。
イブリスはマルチステップで後方へジャンプ。同時に手裏剣「八握剣」を狼に向けて放つ。
八握剣が狼の眉間へ突き刺さり、狼は衝撃と共に地面へ倒れ込んだ。
「さて、本番はこっからだ。
狼の群を相手に何処まで遊べるかな?」
●
「ぐあっ!」
ザイダス峡谷にロニの声が木霊する。
苦痛に歪むロニ。
右腹部は朱に染まり、赤い血が滴り落ちる。
「抜かった」
「ちょろちょろ逃げ惑うな。面倒を掛けさせおって」
ハイルタイはため息をつく。
確かにハイルタイの強弓は狙った場所へ的確に命中させる。言い換えれば、狙いがある程度絞り込めるなら矢が飛んでくる場所を予測するのも可能だ。
「鉄の矢を槍で羽退けるリスクを考え……回避に徹したが……」
矢の威力を考え、戦槍「ボロフグイ」やシェルバックラーで受け流すよりも回避する事に専念したロニ。
その読みは外れておらず、当初はハイルタイの弓を回避し続けていた。
しかし、ハイルタイの弓はロニの動きに合わせて矢を連続で発射してきたのだ。
危険を察知してロニは身体を捻って矢を回避。
命中こそ避けられたものの、矢尻がロニの脇腹を大きく傷付けたようだ。
「大丈夫かいな!?」
慌ててレンがヒールを施す為に近寄ろうとする。
しかし、ロニはレンを手で制した。
「来てはいけない……ハイルタイは……まだ矢を番えている」
レンは、その場で顔を上げる。
見れば、ハイルタイは矢を構えたまま、こちらを見据えている。
「思ったよりも冷静だな。まあ、いい。疲れてきたのでこれで終いとしよう」
矢尻は、ロニに向けられる。
負傷したロニは先程のような退避も難しい。
そして、ハイルタイに容赦という言葉もない。
「終わりだ」
ハイルタイは、矢を放つ。
同時にロニの背後からバタルトゥが叫ぶ。
「危ないっ!」
「!」
バタルトゥが走る。
矢を防ぐつもりだ。
しかし――どうやって?
その事に気付いた時、バタルトゥはロニの前に立っていた。
「くっ!」
痛みに耐える準備をするバタルトゥ。
刹那、矢はバタルトゥにもロニにも命中する事なく、後方の崖へと突き刺さる。
「感情を優先させるな。さっきも言ったはずだ」
オウカがバタルトゥを諫める。
バタルトゥの前に張った防御障壁がハイルタイの矢の軌道を変えてくれたようだ。その証拠にバタルトゥの前で光の粒子が霧散する。
「早う、こっちや!」
次の矢が飛来しないことを確認したレンは、ヒールを施すべくロニを安全なところまで移動させる。
「大丈夫……ヒールなら俺も使える。その分、他の傷付いた者を癒んだ」
レンを安心させるべく、優しく微笑み掛けるロニ。
崖下からの攻撃手段を持たないバタルトゥとオウカは、その場でハイルタイを睨み付ける他なかった。
「外したか。まあ、約束は果たした。帰って休むとするか。遊びも大概にせんとな」
そう言い残し、ハイルタイは愛馬に跨がってその場を離れた。
●
ハイルタイが撤退したとはいえ、ハンター達の苦境は変わらなかった。
「まだ出てくるのか!」
ショートソード「クラウンナイツ」を構えたジョージが重量装備に物を言わせた突進を敢行。
数匹の狼を押し潰しながら道を切り開く。しかし、その穴を埋めるように他の狼が現れる為、突破口を開くには至らない。
刻一刻と過ぎゆく時間。
それは、消え逝く命が失われるには十分な時間だ。
「あかん! まだ逝ったら……」
レンの腕の中でオイマト族の戦士が一人息絶えた。
一度はヒールで持ち直した命だったが、狼の群れに襲撃されて戦士達は倒れていく。
狼達に囲まれてレンとロニのヒールも、イブリスのマテリアルヒールも癒やす暇がない。
ロニとイブリスが囮になることで時間を稼いでいたが、それでも限界だった。
「なんでや! 救援が来てくれるはずやないんか!」
レンは、叫んだ。
先日、オイマト族の集落が襲撃された事を考えれば、同じ辺境のスコール族かバタルトゥが親しくしている帝国だろう。
だが、彼らは未だに救援に来ない。
彼らが間に合っていれば、戦士達も助かったのかもしれない。
「悔いるのは後にしましょう……今は、生きることを」
レンの傍らでメトロノームがアースバレットを放つ。
石つぶてが狼を弾き飛ばし、その狼の体が他の狼を弾き飛ばす。
次々と現れる狼を前にハンター達も疲労の色を隠せない。
「このままでは全滅の恐れもあります。ここは俺が殿を」
レンのヒールで回復したロニが殿を申し出た。
突破において一番の障害であったハイルタイは既に撤退した。体力に懸念はあるものの、力を合わせれば決して脱出は不可能じゃない。
「なら、僕がもう一度突破口を」
最後の力を振り絞り、ジョージが撤退の目掛けて突進を開始する。
それに呼応してメトロノームもスリープクラウドで狼を眠らせていく。
「お願い。もう起きないで……」
「一蓮托生、ここで死なれちゃ困るってんだ。さっさとずらかろうぜ」
イブリスも前に出てジョージと共に狼の目を惹き付ける。
どこまで体が持つかは分からないが、全滅だけはさせてはいけない。
――絶対に。
「彼らの死を無駄にしない為にも、ここは撤退だ」
「…………そうだな。皆、すまない」
オウカの誘導に促され、バタルトゥは狼の群れへ剣を携え戦いに出る。
亡骸となったオイマト族の戦士達に別れを告げて。
●
――数刻後。
ハンターとバタルトゥは、ザイダス峡谷を彷徨っていた。
辛うじて狼の追撃を逃れたものの、気付けばオイマト族の戦士達はすべて倒されている。ハンター達もバタルトゥも満身創痍。もし、ここで怠惰の軍に遭遇すればひとたまりもないだろう。
「…………もう少しだ」
バタルトゥが、力無く呟く。
おそらく根拠など無いだろう。
端から見れば敗残兵同然の状況。
何故こうなってしまったのか。
そんな事を考える気力さえ失われていた。
「あれ、救援とちゃいます?」
レンは、振るえる人差し指で指を差す。
見れば、人間らしき者が数名こちらへ駆け寄ってくる。
遠目から、彼らが辺境部族の者である事は分かる。
「救援、か」
ジョージは大きくため息をついた。
――救援。待ちに待った助ける者の来訪。
しかし、今のハンター達にはこの状況を素直に喜べる者はいなかった。
レン・ダイノ(ka3787)は、崖の上に視線を送る。
吹雪の中、そこで立っているのは一人の男。あまりにも巨大過ぎる体躯に不釣り合いな右腕。その手には大きな鉄弓が握られている。
「貴様が! 貴様が、ハイルタイ! 我が部族を貶めた裏切り者!」
――激昂。
オイマト族のバタルトゥ・オイマト(kz0023)が、怒りがザイダス渓谷中に響き渡る。
ハンター達も寡黙な男だと聞いていたが、今のバタルトゥは感情を露わにして感情のままに怒り狂う男でしかなかった。
「貴様が部族を裏切らなければ、我が部族がこのような屈辱に塗れる事はなかった!」
「あ~ん? 何を言っているのだ?
裏切り? そんな事があったような、なかったような……」
「貴様っ!」
ハイルタイに向かって弓を引くバタルトゥ。
その様子を見かねてオウカ・レンヴォルト(ka0301)が引き留める。
「落ち着け」
「落ち着いて居られるか! あいつが部族を裏切らなければ、我が部族がこのような屈辱に塗れる事はなかった!」
バタルトゥが感情を発露した理由。
それはオイマト族が引き起こした事件に由来する。
かつて、オイマト族は辺境部族中の戦士を集めて歪虚へ対抗しようした事がある。
戦士達は、このザイダス峡谷にて歪虚の侵攻を食い止めようと防衛線を構築。力任せに動くだけの怠惰ならば撃退できると誰もが思っていた。
だが、その希望は見事に砕け散る。
オイマト族の中から出た裏切りによって怠惰の待ち伏せを受けたのだ。
後世において『ベスタハの悲劇』と呼ばれたこの事件以来、オイマト族は部族の中心になる事を避け続けてきた。
裏切り者の名こそ――ハイルタイ。
そのハイルタイが再びオイマト族の前に姿を現したのだ。
災厄の十三魔に名を連ねる者として。
「感情に身を任せて怒るだけなら誰でもできる」
オウカは、バタルトゥを諭した。
族長としてここで一人怒れば全滅する可能性があるからだ。
「しかしっ!」
「仮に族長なら聞き分けろ……お前が今なすべき事は、背負うべき同胞の命を巻き添えにして自分の感情を優先させる事か!!」
今度はオウカが声を荒げる。
バタルトゥはオイマト族の戦士であると同時に、一つの部族を背負う族長でもある。
否、今や辺境部族において支持を集めつつある大部族の一つだ。万が一、ここでバタルトゥが倒れるような事になれば、辺境部族の痛手は大きい。
「貴方の悲しみは理解できる、とは言わない……。だが、死んでしまったら何もならないんだ……!!」
仮面の下からジョージ・ユニクス(ka0442)が強く呼びかける。
自分の過去を理由にバタルトゥの感情に対して共感を覚えている。
だが、無謀な行動は死を招く。
死ねば考える事も、誇りを取り戻す事もできない。
ならば、ここは耐えて再起を図るべきだ。
「…………くっ」
ジョージの語りかけに対して、バタルトゥは耳を傾けていた。
それでも憮然とした表情を隠せない。
――パシッ!
唐突に投げつけられる雪玉。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が放った雪玉は、バタルトゥの顔に命中。本当は服の中にでも入れてショックを与えてやりたいところだが、馬上のバタルトゥに入れる難しかったので雪玉を投げつけたようだ。
「…………なんだ」
「落ち着きましたか?
これ以上、残された者の悲しみを増やしたくはありません」
メトロノームは、族長から目を背けながら呟いた。
感情に任せた行動が他者を傷つける。
そのような行為を誰が望むというのだろうか。
雪玉は、メトロノームなりにオイマト族の身を案じた行動だ。
その事にバタルトゥも気付いたようだ。
「……すまない」
オウカに詫びるバタルトゥ。
「話は無事に脱出できてからだ。
引くぞ。このままでは、全滅する」
オウカの言葉にバタルトゥは頷いた。
気付けば周囲には体躯の大きい狼型雑魔が取り囲んでいる。
そして、遙か崖の上には――。
「なんだ? 話は終わったか?
なら、儂が少し相手をしてやろう。面倒だからさっさと死んでもらえると楽なんだな」
ハイルタイは、再び鉄の矢を手にする。
吹雪の中で崖下にいる馬上の戦士を射貫いた手腕は、異常と表現しても良い。
ハンター達は、この窮地から如何に脱するのか――。
●
「しかし、包囲とは……やってくれる!」
ジョージはハイルタイの方を見ながらジリジリと後退を始める。
包囲網を突破する事を念頭においたハンター達。救援を待つよりも自力による脱出を選択したようだ。
「んん? その狼、儂は知らんぞ。そんな面倒な事はガエルの仕業だ。
まったく、そういう根回しだけは早い」
ハイルタイが巨体を揺らしながら面倒そうに呟いた。
ガエルとは、災厄の十三魔の一人であるガエル・ソトの事だろう。この場に姿を現さない代わりに狼に包囲させてバタルトゥ達を襲撃したようだ。
「突破と決まれば、行動開始だ。先陣は頼んだぜっ!」
イブリス・アリア(ka3359)は、オイマト族の戦士へ行動を促した。
次の瞬間、オイマト族の戦士達は来た道を戻るように突撃を開始する。
馬の突撃を利用して突破口を開こうというのだ。
――しかし。
「……やれやれ、無駄な足掻きを」
ハイルタイは、弓を横にする。
弓を引く手には数本の矢。
「連射か!」
イブリスの脳裏に危険の一言が浮かび上がる。
同じ事を、囮役を買って出ようとしていたロニ・カルディス(ka0551)も気付く。
「前へ出てはいけない」
ロニの声が届くよりも前に、ハイルタイは矢を放つ。
さらに次の矢を番えて指の力を緩める。
次々と放たれる矢は、狼を強行突破を試みる戦士達を射貫く。
辛うじて致命傷は避けられているようだが、戦士達を馬上から落とすには充分だった。
「一気に前へ出ようしちゃダメだ!」
強打で狼を吹き飛ばしながら、ジョージは警戒を促した。
無理に前へ出ようとすればハイルタイが矢を放ってくる。
だが、あの矢を止める術は今の所見つからない。
一体、どうすれば――。
●
「一手ご教授願えるかな」
戦槍『ボロフグイ』の切っ先をハイルタイに向けるロニ。
爽やかな笑みを浮かべてはいるが、明らかにハイルタイを挑発している。
ホーリーセイバーで自身を強化。先程倒された戦士達の為にも、ここで救援を待つ時間を稼ぐつもりのようだ。
「何故儂が、貴様の相手をせねばならんのだ。面倒くさい」
そう言いながらも、ロニへ矢を向けるハイルタイ。
挑発に乗ってロニへ狙いを定めたようだ。
「今や。撃たれた人を助けんと!」
矢を撃たれた戦士に向かって走り出したレン・ダイノ(ka3787)。
シャドウブリットで周囲の狼を蹴散らしながら戦士の元へ駆け寄ると、傷をヒールで癒し始める。
「痛かったやろなぁ。もうちょい頑張って」
戦士を気遣うレン。
目の前にいる戦士はまだ息もある。
痛みを感じることは、生きている証。
そういい聞かせて、レンは生き残った者にプロテクションをかけていく。
「……こんな所で、諦められない…!
アイツを見つける。その為に前に進むって、そう……決めているんだ…!!」
ショートソード「クラウンナイツ」を握り締め、前に出たのはジョージだ。
幸い、ハイルタイはロニが相手をしている。その間に狼を蹴散らしてハンターが突破口を開こうというのだ。
「微力ながら、お手伝いしましょう」
シールド「ゴッデス」を手にメトロノームがジョージの後方へとつく。
「……! 側面から、敵!」
ジョージの声に反応して、メトロノームが飛びかかろうとする狼の攻撃をゴッデスで防ぐ。
狼の牙と爪は、ゴッデスに阻まれてメトロノームには届かない。
「おやすみなさい」
メトロノームが囁くように呟くと、狼をスリープクラウドが襲う。
深い眠りへとついた狼は、その場で倒れ込み寝息を立てている。
「ちくしょう! くるんじゃねぇよ!」
ハンター達から少し離れた場所で、イブリスが雪の上で派手に転げ回る。
狼の本能なのか、弱者の方が手軽な獲物と考えるらしい。無様な姿を晒すイブリスの周囲に狼が集まり始める。
(……かかったな)
イブリスは、心の中でほくそ笑んだ。
実はイブリスは囮役を勝手出ていたのだ。一人離れて無様な醜態を晒して見せたのも、狼を自分に集める為の演技だった。
「ガウっ!」
狼の一匹が、イブリスへ襲いかかる。
イブリスはマルチステップで後方へジャンプ。同時に手裏剣「八握剣」を狼に向けて放つ。
八握剣が狼の眉間へ突き刺さり、狼は衝撃と共に地面へ倒れ込んだ。
「さて、本番はこっからだ。
狼の群を相手に何処まで遊べるかな?」
●
「ぐあっ!」
ザイダス峡谷にロニの声が木霊する。
苦痛に歪むロニ。
右腹部は朱に染まり、赤い血が滴り落ちる。
「抜かった」
「ちょろちょろ逃げ惑うな。面倒を掛けさせおって」
ハイルタイはため息をつく。
確かにハイルタイの強弓は狙った場所へ的確に命中させる。言い換えれば、狙いがある程度絞り込めるなら矢が飛んでくる場所を予測するのも可能だ。
「鉄の矢を槍で羽退けるリスクを考え……回避に徹したが……」
矢の威力を考え、戦槍「ボロフグイ」やシェルバックラーで受け流すよりも回避する事に専念したロニ。
その読みは外れておらず、当初はハイルタイの弓を回避し続けていた。
しかし、ハイルタイの弓はロニの動きに合わせて矢を連続で発射してきたのだ。
危険を察知してロニは身体を捻って矢を回避。
命中こそ避けられたものの、矢尻がロニの脇腹を大きく傷付けたようだ。
「大丈夫かいな!?」
慌ててレンがヒールを施す為に近寄ろうとする。
しかし、ロニはレンを手で制した。
「来てはいけない……ハイルタイは……まだ矢を番えている」
レンは、その場で顔を上げる。
見れば、ハイルタイは矢を構えたまま、こちらを見据えている。
「思ったよりも冷静だな。まあ、いい。疲れてきたのでこれで終いとしよう」
矢尻は、ロニに向けられる。
負傷したロニは先程のような退避も難しい。
そして、ハイルタイに容赦という言葉もない。
「終わりだ」
ハイルタイは、矢を放つ。
同時にロニの背後からバタルトゥが叫ぶ。
「危ないっ!」
「!」
バタルトゥが走る。
矢を防ぐつもりだ。
しかし――どうやって?
その事に気付いた時、バタルトゥはロニの前に立っていた。
「くっ!」
痛みに耐える準備をするバタルトゥ。
刹那、矢はバタルトゥにもロニにも命中する事なく、後方の崖へと突き刺さる。
「感情を優先させるな。さっきも言ったはずだ」
オウカがバタルトゥを諫める。
バタルトゥの前に張った防御障壁がハイルタイの矢の軌道を変えてくれたようだ。その証拠にバタルトゥの前で光の粒子が霧散する。
「早う、こっちや!」
次の矢が飛来しないことを確認したレンは、ヒールを施すべくロニを安全なところまで移動させる。
「大丈夫……ヒールなら俺も使える。その分、他の傷付いた者を癒んだ」
レンを安心させるべく、優しく微笑み掛けるロニ。
崖下からの攻撃手段を持たないバタルトゥとオウカは、その場でハイルタイを睨み付ける他なかった。
「外したか。まあ、約束は果たした。帰って休むとするか。遊びも大概にせんとな」
そう言い残し、ハイルタイは愛馬に跨がってその場を離れた。
●
ハイルタイが撤退したとはいえ、ハンター達の苦境は変わらなかった。
「まだ出てくるのか!」
ショートソード「クラウンナイツ」を構えたジョージが重量装備に物を言わせた突進を敢行。
数匹の狼を押し潰しながら道を切り開く。しかし、その穴を埋めるように他の狼が現れる為、突破口を開くには至らない。
刻一刻と過ぎゆく時間。
それは、消え逝く命が失われるには十分な時間だ。
「あかん! まだ逝ったら……」
レンの腕の中でオイマト族の戦士が一人息絶えた。
一度はヒールで持ち直した命だったが、狼の群れに襲撃されて戦士達は倒れていく。
狼達に囲まれてレンとロニのヒールも、イブリスのマテリアルヒールも癒やす暇がない。
ロニとイブリスが囮になることで時間を稼いでいたが、それでも限界だった。
「なんでや! 救援が来てくれるはずやないんか!」
レンは、叫んだ。
先日、オイマト族の集落が襲撃された事を考えれば、同じ辺境のスコール族かバタルトゥが親しくしている帝国だろう。
だが、彼らは未だに救援に来ない。
彼らが間に合っていれば、戦士達も助かったのかもしれない。
「悔いるのは後にしましょう……今は、生きることを」
レンの傍らでメトロノームがアースバレットを放つ。
石つぶてが狼を弾き飛ばし、その狼の体が他の狼を弾き飛ばす。
次々と現れる狼を前にハンター達も疲労の色を隠せない。
「このままでは全滅の恐れもあります。ここは俺が殿を」
レンのヒールで回復したロニが殿を申し出た。
突破において一番の障害であったハイルタイは既に撤退した。体力に懸念はあるものの、力を合わせれば決して脱出は不可能じゃない。
「なら、僕がもう一度突破口を」
最後の力を振り絞り、ジョージが撤退の目掛けて突進を開始する。
それに呼応してメトロノームもスリープクラウドで狼を眠らせていく。
「お願い。もう起きないで……」
「一蓮托生、ここで死なれちゃ困るってんだ。さっさとずらかろうぜ」
イブリスも前に出てジョージと共に狼の目を惹き付ける。
どこまで体が持つかは分からないが、全滅だけはさせてはいけない。
――絶対に。
「彼らの死を無駄にしない為にも、ここは撤退だ」
「…………そうだな。皆、すまない」
オウカの誘導に促され、バタルトゥは狼の群れへ剣を携え戦いに出る。
亡骸となったオイマト族の戦士達に別れを告げて。
●
――数刻後。
ハンターとバタルトゥは、ザイダス峡谷を彷徨っていた。
辛うじて狼の追撃を逃れたものの、気付けばオイマト族の戦士達はすべて倒されている。ハンター達もバタルトゥも満身創痍。もし、ここで怠惰の軍に遭遇すればひとたまりもないだろう。
「…………もう少しだ」
バタルトゥが、力無く呟く。
おそらく根拠など無いだろう。
端から見れば敗残兵同然の状況。
何故こうなってしまったのか。
そんな事を考える気力さえ失われていた。
「あれ、救援とちゃいます?」
レンは、振るえる人差し指で指を差す。
見れば、人間らしき者が数名こちらへ駆け寄ってくる。
遠目から、彼らが辺境部族の者である事は分かる。
「救援、か」
ジョージは大きくため息をついた。
――救援。待ちに待った助ける者の来訪。
しかし、今のハンター達にはこの状況を素直に喜べる者はいなかった。
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質問卓 メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/01/02 19:20:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/01 14:25:17 |
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相談卓 イブリス・アリア(ka3359) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/05 20:55:38 |