ゲスト
(ka0000)
【空蒼】クリムゾンウェストの歩き方
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/09 22:00
- 完成日
- 2018/11/15 23:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●気がかり
普段から「C.J.」以上に名乗らない彼は、大きくため息を吐いた。顔なじみのハンター司祭、アルトゥーロが、安心させるような微笑みを浮かべる。
「元気がないようですね」
「うーん、もう朝から契約、契約、依頼、契約、契約、契約って感じでもうクタクタなんだよ」
言いながら、にこにこして事務手続きを案内する同僚の女性職員をちらりと見る。
「彼女、ブルー出身でしたっけ?」
「……うん」
「気丈ですね」
「でしょ? でも作戦成功した時は酷い顔してたんだよ」
「わかりますよ。僕の故郷の村は、歪虚に襲われてなくなりましたが」
アルトゥーロは首を横に振る。
「二十年も前、当時七歳でしたけど、この前まで寝起きしていたところがなくなってしまったと言うのは大分ショックでしたね」
「僕は幸いそう言う経験ないけどね。彼女、自分が帰れないだけで故郷そのものはあって、いずれ帰れると思ってたのに……」
「まあ、ヴィルジーリオも気に掛けているようですし大丈夫ですよ」
そう言って、彼は友人である赤毛の司祭を指した。C.J.は目を剥く。確か朝一でやって来たところをカウンターからちらっと見たような……。
「あいつ朝来てなかった!? まだいんの!?」
「食事と手洗い以外はずっといますよ。見えるところにいると約束したそうで」
「り、律儀……」
「だから安心してください。あなた一人で彼女の身を案じる必要はありません」
「べ、別に僕はそんな心配なんて……」
「彼女のことを思って泣くあなたの涙は尊いですよ」
「まだ泣いてないんだけど!」
「ちょっと目が潤んでませんか?」
「うるさい! はい! 君との話はここでおしまい! 次の人!」
●アフターライフ
「あんた、他人のために泣くの? じゃあさ、こいつと俺のことも憐れんで泣いてくれよ」
と、横柄な口を叩きながらどっかりと座ったのは、二十歳になったかならないかくらいの少年であった。けだるそうな顔をしている。その後ろには、不本意そうな顔をしている少年と、不安げにしている少年が立っている。
「挨拶くらいしろよ、躾のなってないガキだな」
「教務みてぇなことを言うオッサンだな」
「誰がオッサンだ誰が! C.J.と呼べ! で? 用件は? 憐れんでほしいならそこの司祭様に言えよ」
「エド、失礼だ。申し訳ありません。僕はジョン。こっちはハンクです」
不本意そうな少年が割って入った。
「えっと、実は覚醒者になりたいんです、僕たち」
「素質があれば誰でもなれるけど……覚醒者になって何するの? 特にエド」
「別に何もしねぇよ。覚醒者になればアプリでやらかしたおかしな契約を上書きできるって聞いたから来ただけだ」
それで職員は得心がいった。
「なるほどね。じゃあさっさとしろ。死ぬぞ君たち」
「僕はインストールしてないんですが……」
ジョンがおずおずと言う。
「ジョンは契約しないの?」
「します」
●地に足がつかない
幸いにも、三人とも素質があった。エドは疾影士、ハンクは魔術師、ジョンは聖導士を選択した。
「すげーな、お前が信仰を力にするってタイプか?」
エドはジョンを見てにやにやと笑う。
「お前こそ斥候ってタイプじゃないだろ」
「お、落ち着いてよ二人とも……良いんじゃないかな。僕は二人とも、似合ってると思う」
なんでこの三人一緒にいるんだろう。職員は呆れながら疑問に思ったが、自分には関係ない。
「エドは人を指ささない! なんだか不安だからこのままベテランにレクチャーしてもらうからちゃんと聞くこと!」
「他人のことを思って怒鳴るあんたの怒りは尊いよ」
「コボルドの群れに放り込むぞ!」
職員はそう言い捨ててからハンターたちのたまり場に行った。
「ねぇ! ちょっと、将来に不安しかない子どもの面倒誰か見てくれない!? あのままだとコボルドの群れに轢き殺されそうなんだけど!」
普段から「C.J.」以上に名乗らない彼は、大きくため息を吐いた。顔なじみのハンター司祭、アルトゥーロが、安心させるような微笑みを浮かべる。
「元気がないようですね」
「うーん、もう朝から契約、契約、依頼、契約、契約、契約って感じでもうクタクタなんだよ」
言いながら、にこにこして事務手続きを案内する同僚の女性職員をちらりと見る。
「彼女、ブルー出身でしたっけ?」
「……うん」
「気丈ですね」
「でしょ? でも作戦成功した時は酷い顔してたんだよ」
「わかりますよ。僕の故郷の村は、歪虚に襲われてなくなりましたが」
アルトゥーロは首を横に振る。
「二十年も前、当時七歳でしたけど、この前まで寝起きしていたところがなくなってしまったと言うのは大分ショックでしたね」
「僕は幸いそう言う経験ないけどね。彼女、自分が帰れないだけで故郷そのものはあって、いずれ帰れると思ってたのに……」
「まあ、ヴィルジーリオも気に掛けているようですし大丈夫ですよ」
そう言って、彼は友人である赤毛の司祭を指した。C.J.は目を剥く。確か朝一でやって来たところをカウンターからちらっと見たような……。
「あいつ朝来てなかった!? まだいんの!?」
「食事と手洗い以外はずっといますよ。見えるところにいると約束したそうで」
「り、律儀……」
「だから安心してください。あなた一人で彼女の身を案じる必要はありません」
「べ、別に僕はそんな心配なんて……」
「彼女のことを思って泣くあなたの涙は尊いですよ」
「まだ泣いてないんだけど!」
「ちょっと目が潤んでませんか?」
「うるさい! はい! 君との話はここでおしまい! 次の人!」
●アフターライフ
「あんた、他人のために泣くの? じゃあさ、こいつと俺のことも憐れんで泣いてくれよ」
と、横柄な口を叩きながらどっかりと座ったのは、二十歳になったかならないかくらいの少年であった。けだるそうな顔をしている。その後ろには、不本意そうな顔をしている少年と、不安げにしている少年が立っている。
「挨拶くらいしろよ、躾のなってないガキだな」
「教務みてぇなことを言うオッサンだな」
「誰がオッサンだ誰が! C.J.と呼べ! で? 用件は? 憐れんでほしいならそこの司祭様に言えよ」
「エド、失礼だ。申し訳ありません。僕はジョン。こっちはハンクです」
不本意そうな少年が割って入った。
「えっと、実は覚醒者になりたいんです、僕たち」
「素質があれば誰でもなれるけど……覚醒者になって何するの? 特にエド」
「別に何もしねぇよ。覚醒者になればアプリでやらかしたおかしな契約を上書きできるって聞いたから来ただけだ」
それで職員は得心がいった。
「なるほどね。じゃあさっさとしろ。死ぬぞ君たち」
「僕はインストールしてないんですが……」
ジョンがおずおずと言う。
「ジョンは契約しないの?」
「します」
●地に足がつかない
幸いにも、三人とも素質があった。エドは疾影士、ハンクは魔術師、ジョンは聖導士を選択した。
「すげーな、お前が信仰を力にするってタイプか?」
エドはジョンを見てにやにやと笑う。
「お前こそ斥候ってタイプじゃないだろ」
「お、落ち着いてよ二人とも……良いんじゃないかな。僕は二人とも、似合ってると思う」
なんでこの三人一緒にいるんだろう。職員は呆れながら疑問に思ったが、自分には関係ない。
「エドは人を指ささない! なんだか不安だからこのままベテランにレクチャーしてもらうからちゃんと聞くこと!」
「他人のことを思って怒鳴るあんたの怒りは尊いよ」
「コボルドの群れに放り込むぞ!」
職員はそう言い捨ててからハンターたちのたまり場に行った。
「ねぇ! ちょっと、将来に不安しかない子どもの面倒誰か見てくれない!? あのままだとコボルドの群れに轢き殺されそうなんだけど!」
リプレイ本文
●黒歴史を知る者
「ヒッ」
エドは、職員に連れてこられた天王寺茜(ka4080)と輝羽・零次(ka5974)を見るなり息を呑んだ。しかし、ハンクは顔を輝かせる。
「茜、零次!」
「どこかで見た顔だと思ったら。三人とも無事にこっちの世界に来れたのね……良かった」
「知ってる奴でもいるかな、って思ったけどホントにどこかで見たやつがいるとは思わなかった」
「エド何してんの?」
職員はジョンの後ろに隠れようとするエドを怪訝そうに見る。ジョンはエドが隠れるのを阻止しようと、右に左に動いている。
「こいつ、森では茜たちにドヤ顔してたし、シャトルの時は零次たちにドヤ顔してたからそれが恥ずかしいんだと思います」
「恥ずかしくねーよバーカ! ハンクは鼻の下伸ばしてんじゃねぇ!」
「の、伸ばしてないよ!」
「元気そうで何よりだわ」
「ん? 何だ? 新しく覚醒者になったブルーの人間か?」
キャリコ・ビューイ(ka5044)がふむ、と三人の顔を見て頷く。
「ルーキーだから偉そうな事言えないけど、基本的なことは教えるよ」
と、告げたのは赤毛のオートマトン、ミトラ(ka7321)である。彼自身最近登録したハンターではあるが、既に何度か依頼をこなしており、実績もある。
「良い感じに年齢が近い人たちが揃ったし、丁度良いんじゃない? 仲良くね。喧嘩しないように。喧嘩すると怖い方の司祭呼んでくるからな」
「なんだか、なまはげみたいね」
茜が笑う。意味がわかったのは零次だけだろうか。少なくとも、新ハンター三人はなまはげが何なのかわからなくてきょとんとしている。
●約束
「三人が契約したのは、イクシード・アプリの上書きのためよね」
「まあな……」
「じゃあ、生活についてレクチャーしようかしら。ハンターになって知っておいた方が良いことと言ったら、やっぱりハンターオフィスかな」
茜はそう言って、依頼書が貼り出された壁を指さす。
「ハンターになったら歪虚と戦うばかりって思いがちだけど、困ってる人を助けにいく依頼だってたくさんあるわ」
「犬猫探しとかもあるのかな?」
ハンクが首を傾げた。
「うん。そういうのもあるわね。私が引き受けてる依頼だと、こっちの世界に移住を決めたリアルブルーの人たちが作ってる村があって、私はそこの生活のお手伝いをしてるの。私はこの世界に移住するかはまだ分からないけど、そういう人達も居るわ」
「ああ……」
エドは頷いた。いつ帰れるかわからないなら、ここを終の棲家と決めてしまう方が気が楽かもしれない。
「だから三人も、覚醒者になったからって簡単に戦おうとか思わないでね」
穏やかだが、真面目な眼差しから逃れるようにエドが目を逸らした。
「ハンクとは前に約束したけど、『次会う時も、元気な姿を見せてね』よ」
「お前そんな約束したの?」
「え、う、うん……」
照れ臭そうに笑うハンクの後ろ頭を、エドがはたいた。
「な、何するんだい」
「いや、あの状況でお前よくそんな約束したなって思って……」
「そうは言っても」
そこで話を引き継いだのは零次だった。
「戦闘に関わらない依頼ってのもあるにはあるけど、やっぱり向こうよりはそういう危機に巻き込まれやすいってのは覚えておいた方がいい」
「そうね。ただの野生動物かと思ったら雑魔だった、なんてこともザラだし」
「こういうご時世だしな、自分の身くらいは自分で守れといた方がいいぜ? 手合わせでもしてみるか?」
●メイスフルスイング
「うっそだろオイ」
零次の提案にエドが目を剥いた。
「お前、クラゲの装甲叩き割ってたじゃねぇか!? そんなお前と手合わせしたらこっちがやばくねぇ!?」
「お前と違って手加減するに決まってるだろ! すまない零次、こいつ本当はびびりなんだ」
ジョンが持っていた資料でエドの頭を叩く。ぱこーん、と小気味の良い音が響いた。
「覚えててくれたのか。もちろん手加減する」
「ええ……」
「じゃあ僕が」
ジョンが立ち上がった。さっき買ったばかりの聖導士装備のメイスを振るう。
「メイスファインティングなら使える」
「マジかよ。ミトラ、お前もその盾でぶん殴るの?」
「殴るだけじゃなくて、攻撃を受けたときに押し返して転ばせることもできる」
「聖導士ってなんなの? 戦闘民族?」
「失礼なやつだな。零次、構わないだろうか?」
「ああ、構わないさ。受け止めてやるから思いっきり打ち込んでこい」
メイスを持って立ち上がったジョンと、盾を構える零次を見て、職員が飛んできた。
「ちょっと! 何してんの君たち!」
「まあまあ」
見ていたアルトゥーロがそれを押しとどめる。
「大丈夫。あなたの心配するような事にはなりませんよ」
「マテリアルで全身が活性化するから、加減に気をつけて」
ミトラが助言した。ジョンは深呼吸してからメイスファイティングを使う。
「確かに……これは加減を間違えそうだ。運動神経は悪くないつもりだったが、慣れるまで大変そうだな」
「まあひとまず打ってみな」
「よし」
ジョンは野球のバットの様にメイスを振りかぶる。それから勢い良くスイングした。
重い金属音が響く。鐘のようだ。盾で打撃を受け止めた零次は、動じる様子はない。
「なるほど……」
「ど、どうだった?」
ハンクが尋ねると、ジョンは神妙な面持ちで答えた。
「肘がしびれた」
「馬鹿じゃねーの」
エドが毒づく。
「いや、お前もやってみろ。ていうかあんなに思いっきり殴ったのに、零次が微動だにしないんだよ。力の差がわかるな」
零次がその様子を見て笑う。
「な? 実際やってみると難しいだろ。戦える準備はしといた方が良い。今すぐじゃなくても、ちょっとずつでもな」
「そう、だね」
ハンクが頷いた。
●三人だからできること
「一人一人の能力も大事だとは思うけど」
ミトラが言った。彼もまた先輩ハンターたちのレクチャーをメモしている。
「戦う時に大切なのは味方との連携と個人的に思ってる」
「味方との連携」
エドが呟いた。
「一人では出来ないことも、味方と助け合えば出来ることもある」
「それはそうね。森でだって、分担して探したから全員無事だったと思ってるわ」
「茜でもそうなの?」
エドが意外そうに尋ねる。
「そうよ。私でも、と言うか、誰でもそうだと思う。基本的に、どんな依頼でも皆相談して連携してるわ」
「そう言うもんか」
「それに、お前達は固まっていた方が良いと思うぞ」
キャリコが言葉を添える。エドが怪訝そうに見た。
「何でだよ」
「ブルーと此方の世界では常識や社会通念が全く違うからそれを中心に教えてやろう」
淡々とした語り口に、エドもそれ以上は絡まなかった。
「良いか? 此処、クリムゾンウェストではリアルブルーの世界ではなくなった王政や貴族などの身分の階級制度が主流だ」
「マジかよ。イギリスとかにはまだ王室あるけど……」
「同盟はそこから独立した都市の集まりよ。領主様はいるけどね」
茜が補足した。
「領主……州知事みたいなもの?」
「ちょっと違うかな」
「難しいな」
「なので、下手な口を利いたら場合によってはお前達が捕まえられる場合も有るかもしれん。まぁ、その時は聖導士のお前が他の二人を抑えろ。わかったな?」
「法律を押さえておこう。釈放の条件を確認する」
ジョンが頷いた。
「今、茜が同盟の話をしたが、他にもグラズヘイム王国とゾンネンシュトラール帝国、辺境領域がある。後は東方のエトファリカ連邦国、北方王国リグ・サンガマ……ざっとこんなものか」
「あちこち行くのも楽しそうだね」
「どこからでも依頼は出る。ハンターとして依頼を受けていれば、色んな所に行く機会ができるだろう」
「キャリコと一緒に行くこともある?」
ハンクが首を傾げた。
「同じ依頼に入ればあるかもしれないな」
「その時はよろしくね。そこで会う人がどんな人なのか教えて」
「その前にお前達が覚えてくれれば良いんだがな」
「頑張るよ」
●依頼から学ぶこと
「じゃあ、一通り話終わったってことで、依頼でも見に行ってみる?」
茜はそう言って、依頼が貼り出されている壁の前に三人を連れて行った。
「『将来に不安しかない子どもの面倒誰か見てください』って依頼がありそうね」
「転移者たくさんいるからな」
茜がくすりと笑いながら言った冗談に、エドは片方の眉を上げてしれっと言い返す。
「こっちが報告書だよ」
ミトラが紙束を持ってきて見せる。ジョンは興味深そうに読んでから、唐突に閉じた。
「僕たちが森で救出された時の報告書が載ってる」
「シュレッダー掛けられねぇのか?」
「何言ってるのよ、もう」
茜が笑った。
「と言うことはシャトルの報告書もあるのか」
「ああ。あると思うぜ。興味があるなら読んでみろよ」
零次がエドの肩をぽんと叩いた。
「あれは俺そこまで恥ずかしくないから後で読もう」
「報告書を読むことも、この世界の生活を知る一助になるだろう」
キャリコが頷いた。
「ああ、そうだな。ありがとうキャリコ。お前の言うとおりだ」
得心がいったように顔を上げたのはジョンだ。
「判例なんかもわかるかもしれない」
「ごめんねキャリコ。こいつ法学部だからそういうの好きなの」
「お前、そいつにこれから救われるかもしれんぞ。法廷で」
「……マジ?」
「マジだ」
「裁判に掛けられるかは別として、先輩たちの戦い方からは学ぶところがたくさんある」
ミトラが言った。
「先輩ハンターと一緒に依頼に入ることで、きっと得るものがたくさんある。どんな依頼でも、連携することは忘れない方が良い」
「そうだね」
ハンクが頷いた。
「一人じゃ何もできないからね、特に僕は」
「ハンクだけじゃないわ。さっきも言ったけど、誰だってそうよ。だから皆で相談するの」
「助け合えば色んなことが出来るからさ。それにもう既に縁があるのならそれを大切にするべきかな」
「わかったわかった。ハンクの面倒は俺たちも見るから」
「お前の面倒を、ハンクも見るんだ」
キャリコが言い放つ。
「わあったよ……」
「じゃ、おすすめの食堂も教えてあげるわ」
「マジっすか茜様。女神様じゃん」
「調子に乗るな」
キャリコとジョンに左右から一喝されて、エドは舌を出した。
●今ある縁
「それにしても、急な転移で大変だっただろ」
オフィスを出て歩きながら零次が言った。
「俺もいきなし転移させられた口だから気持ちはわかるぜ」
「零次もリアルブルーから来たの?」
ハンクが首を傾げる。
「まあ、これでもこっちにきて二年は超えてるからよ、気軽になんでも聞いてくれよ。先輩面すんのも面映いけど、こんな機会滅多にないしなー」
「先輩なのは間違いないよ。転移者としても、ハンターとしても」
「そうか? まあマジもんのファンタジー世界なのはそうだけど、俺みたいなリアルブルーからの人間をこの騒動の前から受け入れてるってのもあって思ったよりは向こうと変わらないんじゃないかとも思うぜ。あくまで思ったよりは、って事だけどな」
「外国に住むようなものか」
ジョンが頷いた。
「そう考えればな……世界的な意味で同郷の人間もいるし、アメリカ人だってゼロじゃないだろう。それに、僕たちはあの騒動でハンターたちの戦う姿を見ている。ハンターになったところですごい抵抗があるわけじゃない」
「前向きね」
「そう考えないとやっていけない」
「ま、俺に案内できるとこなんて飯屋と馴染みのバイク屋くらいしか無いんだが」
零次は伸びをしながら三人を振り返る。
「なんか困った事あればいつでもいってこいよ」
連絡先を差し出しながら、笑う。
「これも何かの縁だ。ミトラも言ってたけど、今ある縁は大事にしようぜ」
「ありがとう、零次。ところで、こちらにもバイクはあるのか?」
ジョンが興味深そうに尋ねた。どちらかと言うと、十九世紀前後の文化と見受けられる町並みに、バイクのイメージはそぐわない。
「ああ。魔導バイクって言って、マテリアルで運転するんだよ。良かったらバイク屋も紹介しようか?」
「是非頼む。でもその前に……」
そのタイミングで、エドのお腹が鳴った。
「僕もお腹が空いた。茜のおすすめの食堂か、零次の馴染みの飯屋、どちらかに行きたい。この時間だから空いてるかわからないけど……空いてなければ飲み屋で軽食でも食べるか」
「そうね。とりあえず覗いてみましょうか。どっちが近いかな?」
時間的には大分遅かった。そこで、三人は改めて、この時間まで付き合ってくれたハンターたちに礼を述べた。
エドもこの時ばかりは素直だった。
「なあ、ミトラ。さっき言ってた、盾で押し返すやつなんだけど」
歩きながら、ジョンがこっそりミトラに耳打ちした。
「ああ、シールドバッシュ」
「僕があれを使えるようになったら教えてくれないか」
「もちろん。僕もまだルーキーだ。一緒に頑張ろう」
「同じ依頼に入ることがあったらよろしく頼む」
聖導士の二人は固い握手を交わした。
いつか共に戦うことを夢見て。
「ヒッ」
エドは、職員に連れてこられた天王寺茜(ka4080)と輝羽・零次(ka5974)を見るなり息を呑んだ。しかし、ハンクは顔を輝かせる。
「茜、零次!」
「どこかで見た顔だと思ったら。三人とも無事にこっちの世界に来れたのね……良かった」
「知ってる奴でもいるかな、って思ったけどホントにどこかで見たやつがいるとは思わなかった」
「エド何してんの?」
職員はジョンの後ろに隠れようとするエドを怪訝そうに見る。ジョンはエドが隠れるのを阻止しようと、右に左に動いている。
「こいつ、森では茜たちにドヤ顔してたし、シャトルの時は零次たちにドヤ顔してたからそれが恥ずかしいんだと思います」
「恥ずかしくねーよバーカ! ハンクは鼻の下伸ばしてんじゃねぇ!」
「の、伸ばしてないよ!」
「元気そうで何よりだわ」
「ん? 何だ? 新しく覚醒者になったブルーの人間か?」
キャリコ・ビューイ(ka5044)がふむ、と三人の顔を見て頷く。
「ルーキーだから偉そうな事言えないけど、基本的なことは教えるよ」
と、告げたのは赤毛のオートマトン、ミトラ(ka7321)である。彼自身最近登録したハンターではあるが、既に何度か依頼をこなしており、実績もある。
「良い感じに年齢が近い人たちが揃ったし、丁度良いんじゃない? 仲良くね。喧嘩しないように。喧嘩すると怖い方の司祭呼んでくるからな」
「なんだか、なまはげみたいね」
茜が笑う。意味がわかったのは零次だけだろうか。少なくとも、新ハンター三人はなまはげが何なのかわからなくてきょとんとしている。
●約束
「三人が契約したのは、イクシード・アプリの上書きのためよね」
「まあな……」
「じゃあ、生活についてレクチャーしようかしら。ハンターになって知っておいた方が良いことと言ったら、やっぱりハンターオフィスかな」
茜はそう言って、依頼書が貼り出された壁を指さす。
「ハンターになったら歪虚と戦うばかりって思いがちだけど、困ってる人を助けにいく依頼だってたくさんあるわ」
「犬猫探しとかもあるのかな?」
ハンクが首を傾げた。
「うん。そういうのもあるわね。私が引き受けてる依頼だと、こっちの世界に移住を決めたリアルブルーの人たちが作ってる村があって、私はそこの生活のお手伝いをしてるの。私はこの世界に移住するかはまだ分からないけど、そういう人達も居るわ」
「ああ……」
エドは頷いた。いつ帰れるかわからないなら、ここを終の棲家と決めてしまう方が気が楽かもしれない。
「だから三人も、覚醒者になったからって簡単に戦おうとか思わないでね」
穏やかだが、真面目な眼差しから逃れるようにエドが目を逸らした。
「ハンクとは前に約束したけど、『次会う時も、元気な姿を見せてね』よ」
「お前そんな約束したの?」
「え、う、うん……」
照れ臭そうに笑うハンクの後ろ頭を、エドがはたいた。
「な、何するんだい」
「いや、あの状況でお前よくそんな約束したなって思って……」
「そうは言っても」
そこで話を引き継いだのは零次だった。
「戦闘に関わらない依頼ってのもあるにはあるけど、やっぱり向こうよりはそういう危機に巻き込まれやすいってのは覚えておいた方がいい」
「そうね。ただの野生動物かと思ったら雑魔だった、なんてこともザラだし」
「こういうご時世だしな、自分の身くらいは自分で守れといた方がいいぜ? 手合わせでもしてみるか?」
●メイスフルスイング
「うっそだろオイ」
零次の提案にエドが目を剥いた。
「お前、クラゲの装甲叩き割ってたじゃねぇか!? そんなお前と手合わせしたらこっちがやばくねぇ!?」
「お前と違って手加減するに決まってるだろ! すまない零次、こいつ本当はびびりなんだ」
ジョンが持っていた資料でエドの頭を叩く。ぱこーん、と小気味の良い音が響いた。
「覚えててくれたのか。もちろん手加減する」
「ええ……」
「じゃあ僕が」
ジョンが立ち上がった。さっき買ったばかりの聖導士装備のメイスを振るう。
「メイスファインティングなら使える」
「マジかよ。ミトラ、お前もその盾でぶん殴るの?」
「殴るだけじゃなくて、攻撃を受けたときに押し返して転ばせることもできる」
「聖導士ってなんなの? 戦闘民族?」
「失礼なやつだな。零次、構わないだろうか?」
「ああ、構わないさ。受け止めてやるから思いっきり打ち込んでこい」
メイスを持って立ち上がったジョンと、盾を構える零次を見て、職員が飛んできた。
「ちょっと! 何してんの君たち!」
「まあまあ」
見ていたアルトゥーロがそれを押しとどめる。
「大丈夫。あなたの心配するような事にはなりませんよ」
「マテリアルで全身が活性化するから、加減に気をつけて」
ミトラが助言した。ジョンは深呼吸してからメイスファイティングを使う。
「確かに……これは加減を間違えそうだ。運動神経は悪くないつもりだったが、慣れるまで大変そうだな」
「まあひとまず打ってみな」
「よし」
ジョンは野球のバットの様にメイスを振りかぶる。それから勢い良くスイングした。
重い金属音が響く。鐘のようだ。盾で打撃を受け止めた零次は、動じる様子はない。
「なるほど……」
「ど、どうだった?」
ハンクが尋ねると、ジョンは神妙な面持ちで答えた。
「肘がしびれた」
「馬鹿じゃねーの」
エドが毒づく。
「いや、お前もやってみろ。ていうかあんなに思いっきり殴ったのに、零次が微動だにしないんだよ。力の差がわかるな」
零次がその様子を見て笑う。
「な? 実際やってみると難しいだろ。戦える準備はしといた方が良い。今すぐじゃなくても、ちょっとずつでもな」
「そう、だね」
ハンクが頷いた。
●三人だからできること
「一人一人の能力も大事だとは思うけど」
ミトラが言った。彼もまた先輩ハンターたちのレクチャーをメモしている。
「戦う時に大切なのは味方との連携と個人的に思ってる」
「味方との連携」
エドが呟いた。
「一人では出来ないことも、味方と助け合えば出来ることもある」
「それはそうね。森でだって、分担して探したから全員無事だったと思ってるわ」
「茜でもそうなの?」
エドが意外そうに尋ねる。
「そうよ。私でも、と言うか、誰でもそうだと思う。基本的に、どんな依頼でも皆相談して連携してるわ」
「そう言うもんか」
「それに、お前達は固まっていた方が良いと思うぞ」
キャリコが言葉を添える。エドが怪訝そうに見た。
「何でだよ」
「ブルーと此方の世界では常識や社会通念が全く違うからそれを中心に教えてやろう」
淡々とした語り口に、エドもそれ以上は絡まなかった。
「良いか? 此処、クリムゾンウェストではリアルブルーの世界ではなくなった王政や貴族などの身分の階級制度が主流だ」
「マジかよ。イギリスとかにはまだ王室あるけど……」
「同盟はそこから独立した都市の集まりよ。領主様はいるけどね」
茜が補足した。
「領主……州知事みたいなもの?」
「ちょっと違うかな」
「難しいな」
「なので、下手な口を利いたら場合によってはお前達が捕まえられる場合も有るかもしれん。まぁ、その時は聖導士のお前が他の二人を抑えろ。わかったな?」
「法律を押さえておこう。釈放の条件を確認する」
ジョンが頷いた。
「今、茜が同盟の話をしたが、他にもグラズヘイム王国とゾンネンシュトラール帝国、辺境領域がある。後は東方のエトファリカ連邦国、北方王国リグ・サンガマ……ざっとこんなものか」
「あちこち行くのも楽しそうだね」
「どこからでも依頼は出る。ハンターとして依頼を受けていれば、色んな所に行く機会ができるだろう」
「キャリコと一緒に行くこともある?」
ハンクが首を傾げた。
「同じ依頼に入ればあるかもしれないな」
「その時はよろしくね。そこで会う人がどんな人なのか教えて」
「その前にお前達が覚えてくれれば良いんだがな」
「頑張るよ」
●依頼から学ぶこと
「じゃあ、一通り話終わったってことで、依頼でも見に行ってみる?」
茜はそう言って、依頼が貼り出されている壁の前に三人を連れて行った。
「『将来に不安しかない子どもの面倒誰か見てください』って依頼がありそうね」
「転移者たくさんいるからな」
茜がくすりと笑いながら言った冗談に、エドは片方の眉を上げてしれっと言い返す。
「こっちが報告書だよ」
ミトラが紙束を持ってきて見せる。ジョンは興味深そうに読んでから、唐突に閉じた。
「僕たちが森で救出された時の報告書が載ってる」
「シュレッダー掛けられねぇのか?」
「何言ってるのよ、もう」
茜が笑った。
「と言うことはシャトルの報告書もあるのか」
「ああ。あると思うぜ。興味があるなら読んでみろよ」
零次がエドの肩をぽんと叩いた。
「あれは俺そこまで恥ずかしくないから後で読もう」
「報告書を読むことも、この世界の生活を知る一助になるだろう」
キャリコが頷いた。
「ああ、そうだな。ありがとうキャリコ。お前の言うとおりだ」
得心がいったように顔を上げたのはジョンだ。
「判例なんかもわかるかもしれない」
「ごめんねキャリコ。こいつ法学部だからそういうの好きなの」
「お前、そいつにこれから救われるかもしれんぞ。法廷で」
「……マジ?」
「マジだ」
「裁判に掛けられるかは別として、先輩たちの戦い方からは学ぶところがたくさんある」
ミトラが言った。
「先輩ハンターと一緒に依頼に入ることで、きっと得るものがたくさんある。どんな依頼でも、連携することは忘れない方が良い」
「そうだね」
ハンクが頷いた。
「一人じゃ何もできないからね、特に僕は」
「ハンクだけじゃないわ。さっきも言ったけど、誰だってそうよ。だから皆で相談するの」
「助け合えば色んなことが出来るからさ。それにもう既に縁があるのならそれを大切にするべきかな」
「わかったわかった。ハンクの面倒は俺たちも見るから」
「お前の面倒を、ハンクも見るんだ」
キャリコが言い放つ。
「わあったよ……」
「じゃ、おすすめの食堂も教えてあげるわ」
「マジっすか茜様。女神様じゃん」
「調子に乗るな」
キャリコとジョンに左右から一喝されて、エドは舌を出した。
●今ある縁
「それにしても、急な転移で大変だっただろ」
オフィスを出て歩きながら零次が言った。
「俺もいきなし転移させられた口だから気持ちはわかるぜ」
「零次もリアルブルーから来たの?」
ハンクが首を傾げる。
「まあ、これでもこっちにきて二年は超えてるからよ、気軽になんでも聞いてくれよ。先輩面すんのも面映いけど、こんな機会滅多にないしなー」
「先輩なのは間違いないよ。転移者としても、ハンターとしても」
「そうか? まあマジもんのファンタジー世界なのはそうだけど、俺みたいなリアルブルーからの人間をこの騒動の前から受け入れてるってのもあって思ったよりは向こうと変わらないんじゃないかとも思うぜ。あくまで思ったよりは、って事だけどな」
「外国に住むようなものか」
ジョンが頷いた。
「そう考えればな……世界的な意味で同郷の人間もいるし、アメリカ人だってゼロじゃないだろう。それに、僕たちはあの騒動でハンターたちの戦う姿を見ている。ハンターになったところですごい抵抗があるわけじゃない」
「前向きね」
「そう考えないとやっていけない」
「ま、俺に案内できるとこなんて飯屋と馴染みのバイク屋くらいしか無いんだが」
零次は伸びをしながら三人を振り返る。
「なんか困った事あればいつでもいってこいよ」
連絡先を差し出しながら、笑う。
「これも何かの縁だ。ミトラも言ってたけど、今ある縁は大事にしようぜ」
「ありがとう、零次。ところで、こちらにもバイクはあるのか?」
ジョンが興味深そうに尋ねた。どちらかと言うと、十九世紀前後の文化と見受けられる町並みに、バイクのイメージはそぐわない。
「ああ。魔導バイクって言って、マテリアルで運転するんだよ。良かったらバイク屋も紹介しようか?」
「是非頼む。でもその前に……」
そのタイミングで、エドのお腹が鳴った。
「僕もお腹が空いた。茜のおすすめの食堂か、零次の馴染みの飯屋、どちらかに行きたい。この時間だから空いてるかわからないけど……空いてなければ飲み屋で軽食でも食べるか」
「そうね。とりあえず覗いてみましょうか。どっちが近いかな?」
時間的には大分遅かった。そこで、三人は改めて、この時間まで付き合ってくれたハンターたちに礼を述べた。
エドもこの時ばかりは素直だった。
「なあ、ミトラ。さっき言ってた、盾で押し返すやつなんだけど」
歩きながら、ジョンがこっそりミトラに耳打ちした。
「ああ、シールドバッシュ」
「僕があれを使えるようになったら教えてくれないか」
「もちろん。僕もまだルーキーだ。一緒に頑張ろう」
「同じ依頼に入ることがあったらよろしく頼む」
聖導士の二人は固い握手を交わした。
いつか共に戦うことを夢見て。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
新人にレクチャーするの相談場 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/11/06 23:54:10 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/06 23:54:41 |