ゲスト
(ka0000)
【東幕】退けぬ戦い
マスター:電気石八生

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/10 19:00
- 完成日
- 2018/11/13 19:39
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●侵攻
エトフィリカ連邦南部に位置する千代国。
その肥沃な大地の中心部に据えられたものこそが、国の要であり、民の象徴でもある恵土城だ。
一度は歪虚の手に落ちたものの、見事奪還した現在は幕府より命を受けた古豪、大平正頼が仮の主としてこの城を預かり、民と共に復興へかかっていたのだが……
そのためにはまず、城にほど近い長江の平定が必須であり、それがままならぬ現状、度重なる歪虚の侵攻をなんとか食い止めて押し戻し、領土を保つが精いっぱいな有様であった。
「土が肥えてるってこた、つまるとこ田畑ばっかの平地だぁね。当然建ってる城も平城さぁ」
放棄され、草木が生い茂るばかりとなった荒れ地のただ中、憤怒は異相をぎちりと笑ませた。
特徴をひとつ挙げるならば猿となるだろう。ただし、その下腹部からは無数の細長い足が伸び出しており、足の数と種別さえ問わなければ蜘蛛さながらである。
主からはただ「クモザル」と呼ばれるばかりの彼は目玉を形成する複眼をすがめ、総堀(城を囲むもっとも外側の堀)の一点を見やる。
「雑兵ども、よっく見とけよぉ。あそこがてめぇらの死に場所だぁ」
クモザルが指したのは馬出(うまだし)――城の出入り口である虎口の外に半円を描いて土嚢を積み上げ、さらには総堀を水源とした堀でくるんだ防御陣地だ。後方には総堀に添って複数の出入り口が設けられており、正面を守りつつも騎馬やCAMで打って出ることができる。
「俺っちゃ東から攻める。別働組ぁ西からだぁ。南の大門は……ま、大将にお任せだぁね」
クモザルの指示を受けた憤怒と雑魔が移動を開始した。
「ああ、あんまこぼすなよぉ。もったいねぇからなぁ」
雑魔の半数にあたる魔獣はその体を泥で形作られている。叩けば爆ぜ、斬れば飛び散る弱き体。しかし、だからこそ連れてきたのだ。
「ったく、めんどくせぇ話だよぉ」
主はこの戦いを復讐と言う。一度手にしたものを力尽くで奪い返されたことへの復讐。以後もしぶとく侵攻の邪魔となり、こちらの手数を減らし続けていることへの復讐。つまらぬ地に縛りつけられ、奪回を強いられている現状への復讐。
「ようはメンツ潰された落とし前つけるって話よなぁ」
クモザルは苦笑する。
そいつぁ俺っちもいっしょだぜぇ。いっこやられたらじゅっこやり返す。そうでなくっちゃ憤怒じゃねぇだろ。
「さって、ほんとは俺っちの得意じゃねぇんだが、今日はハデに殴り合おうぜぇ?」
●ご城主(仮)
「ご城主(仮)殿、一大事にござりまする! 東西より歪虚群到来! ゆるゆると展開する陣容を見るに、城を挟み討つ腹づもりであろうかと!!」
本丸の御殿にて庶務をこなしていた正頼が、礼も忘れて駆け込んできた武士に目をやった。
「ふがふがふがふがぁ!?」
それを補佐役が通訳し。
「ご城主(仮)殿はこう申されておる。『歪虚の数はいかほどかぁ!?』と」
「ははっ。東西共、攻城兵器と長槍とを備えた妖魔足軽、土塊と思しき魔獣が五百ずつ、さらにそれを率いる憤怒がありまする!」
「ふがふが、ふがふが……」
「ご城主(仮)殿は『なんと、それほどの数が……』と嘆息されておる……」
補佐役が肩を落とし、情感たっぷりに通訳し。
「ふがふが、ふがふがふが。ふがふがふがふがふがふ!」
「『しかし、見過ごせようはずもあるまい。援軍を頼んで城を守り抜こうぞ!』とご城主(仮)殿は意気巻いておる!」
今度は拳を握り締め、熱く通訳を決めた。
「ふが、ふがふがふがふが。ふがふがふがふがふがふがふがふがふがふが――」
「かしこまった! 疾く、はんたぁずそさえてぃに早馬を走らせまする!」
正頼の『しかし、幕府に助けは求められまい。万一民草を壁とし死守せよとの命が下らぬとも限らぬ――』との言葉へうなずいた武士が、急ぎ駆けだしていった。
「ぬぅ、それがしの役どころはどこへ……?」
思わず膝から崩れ落ちた補佐役に、正頼は「ふがふがふがふがぁ」。
「ご城主(仮)殿は『人生そういうこともあるあるぅ』と、それがしをお慰めになられておる」
●意気
「かような次第にて、貴殿らにご助力を願った」
説明を終えた武士がハンターたちに頭を下げた。
「事情はいいんだけどぉ、むしろアンタたちの翻訳力を問い詰めてぇとこだわぁ……」
ハンター側を代表し、引率役のゲモ・ママ(kz0256)が顔をしかめるが――武士は「慣れでござるよ」と涼しい顔である。
「敵は東西より迫り来てござる。貴殿らには西か東かを担っていただきたい。我らはその逆に主軍を配し、遊軍を貴殿らにつけもうす」
数では大きく歪虚群に劣る守備軍だが、硬く高い城壁と深い堀の守りがある以上、平城とてそう容易く明け渡しはしない。
「我らが魂をもって守り抜くぞ! 皆の者、意気を揚げよ!!」
ふがっふがっふー!!
「あの。えいえいおー、とかじゃねぇの?」
おそるおそる尋ねたママにうなずいてみせた武士は、天守を返り見て。
「ご城主(仮)殿と意気を合わせるにはこれよりござらんので」
天守の窓際には正頼がおり、兵らと合わせて拳を振り上げていたりした。
「ふがーふが! ふがふがふがふっ、ふがふがーふがふがぁ!!」
「ねぇアレっ! ほんっとに慣れとかでわかんのぉ!?」
ママの問いを完全無視。武士は愛馬へと跨がり、軍配を取った。
「ささ、敵が迫ってござる! 疾く、支度をお頼みもうす!」
エトフィリカ連邦南部に位置する千代国。
その肥沃な大地の中心部に据えられたものこそが、国の要であり、民の象徴でもある恵土城だ。
一度は歪虚の手に落ちたものの、見事奪還した現在は幕府より命を受けた古豪、大平正頼が仮の主としてこの城を預かり、民と共に復興へかかっていたのだが……
そのためにはまず、城にほど近い長江の平定が必須であり、それがままならぬ現状、度重なる歪虚の侵攻をなんとか食い止めて押し戻し、領土を保つが精いっぱいな有様であった。
「土が肥えてるってこた、つまるとこ田畑ばっかの平地だぁね。当然建ってる城も平城さぁ」
放棄され、草木が生い茂るばかりとなった荒れ地のただ中、憤怒は異相をぎちりと笑ませた。
特徴をひとつ挙げるならば猿となるだろう。ただし、その下腹部からは無数の細長い足が伸び出しており、足の数と種別さえ問わなければ蜘蛛さながらである。
主からはただ「クモザル」と呼ばれるばかりの彼は目玉を形成する複眼をすがめ、総堀(城を囲むもっとも外側の堀)の一点を見やる。
「雑兵ども、よっく見とけよぉ。あそこがてめぇらの死に場所だぁ」
クモザルが指したのは馬出(うまだし)――城の出入り口である虎口の外に半円を描いて土嚢を積み上げ、さらには総堀を水源とした堀でくるんだ防御陣地だ。後方には総堀に添って複数の出入り口が設けられており、正面を守りつつも騎馬やCAMで打って出ることができる。
「俺っちゃ東から攻める。別働組ぁ西からだぁ。南の大門は……ま、大将にお任せだぁね」
クモザルの指示を受けた憤怒と雑魔が移動を開始した。
「ああ、あんまこぼすなよぉ。もったいねぇからなぁ」
雑魔の半数にあたる魔獣はその体を泥で形作られている。叩けば爆ぜ、斬れば飛び散る弱き体。しかし、だからこそ連れてきたのだ。
「ったく、めんどくせぇ話だよぉ」
主はこの戦いを復讐と言う。一度手にしたものを力尽くで奪い返されたことへの復讐。以後もしぶとく侵攻の邪魔となり、こちらの手数を減らし続けていることへの復讐。つまらぬ地に縛りつけられ、奪回を強いられている現状への復讐。
「ようはメンツ潰された落とし前つけるって話よなぁ」
クモザルは苦笑する。
そいつぁ俺っちもいっしょだぜぇ。いっこやられたらじゅっこやり返す。そうでなくっちゃ憤怒じゃねぇだろ。
「さって、ほんとは俺っちの得意じゃねぇんだが、今日はハデに殴り合おうぜぇ?」
●ご城主(仮)
「ご城主(仮)殿、一大事にござりまする! 東西より歪虚群到来! ゆるゆると展開する陣容を見るに、城を挟み討つ腹づもりであろうかと!!」
本丸の御殿にて庶務をこなしていた正頼が、礼も忘れて駆け込んできた武士に目をやった。
「ふがふがふがふがぁ!?」
それを補佐役が通訳し。
「ご城主(仮)殿はこう申されておる。『歪虚の数はいかほどかぁ!?』と」
「ははっ。東西共、攻城兵器と長槍とを備えた妖魔足軽、土塊と思しき魔獣が五百ずつ、さらにそれを率いる憤怒がありまする!」
「ふがふが、ふがふが……」
「ご城主(仮)殿は『なんと、それほどの数が……』と嘆息されておる……」
補佐役が肩を落とし、情感たっぷりに通訳し。
「ふがふが、ふがふがふが。ふがふがふがふがふがふ!」
「『しかし、見過ごせようはずもあるまい。援軍を頼んで城を守り抜こうぞ!』とご城主(仮)殿は意気巻いておる!」
今度は拳を握り締め、熱く通訳を決めた。
「ふが、ふがふがふがふが。ふがふがふがふがふがふがふがふがふがふが――」
「かしこまった! 疾く、はんたぁずそさえてぃに早馬を走らせまする!」
正頼の『しかし、幕府に助けは求められまい。万一民草を壁とし死守せよとの命が下らぬとも限らぬ――』との言葉へうなずいた武士が、急ぎ駆けだしていった。
「ぬぅ、それがしの役どころはどこへ……?」
思わず膝から崩れ落ちた補佐役に、正頼は「ふがふがふがふがぁ」。
「ご城主(仮)殿は『人生そういうこともあるあるぅ』と、それがしをお慰めになられておる」
●意気
「かような次第にて、貴殿らにご助力を願った」
説明を終えた武士がハンターたちに頭を下げた。
「事情はいいんだけどぉ、むしろアンタたちの翻訳力を問い詰めてぇとこだわぁ……」
ハンター側を代表し、引率役のゲモ・ママ(kz0256)が顔をしかめるが――武士は「慣れでござるよ」と涼しい顔である。
「敵は東西より迫り来てござる。貴殿らには西か東かを担っていただきたい。我らはその逆に主軍を配し、遊軍を貴殿らにつけもうす」
数では大きく歪虚群に劣る守備軍だが、硬く高い城壁と深い堀の守りがある以上、平城とてそう容易く明け渡しはしない。
「我らが魂をもって守り抜くぞ! 皆の者、意気を揚げよ!!」
ふがっふがっふー!!
「あの。えいえいおー、とかじゃねぇの?」
おそるおそる尋ねたママにうなずいてみせた武士は、天守を返り見て。
「ご城主(仮)殿と意気を合わせるにはこれよりござらんので」
天守の窓際には正頼がおり、兵らと合わせて拳を振り上げていたりした。
「ふがーふが! ふがふがふがふっ、ふがふがーふがふがぁ!!」
「ねぇアレっ! ほんっとに慣れとかでわかんのぉ!?」
ママの問いを完全無視。武士は愛馬へと跨がり、軍配を取った。
「ささ、敵が迫ってござる! 疾く、支度をお頼みもうす!」
リプレイ本文
●激突
「ふごふごふが、ふがふが!」
この城を歪虚の好きにはさせない、人も城もざくろたちが守る! と言いたかったらしい時音 ざくろ(ka1250)が、跨がった蒼海熱風『J9』の上で顔を赤らめた。この城でふがふがを聞きすぎてしまった副作用が出てしまったのだ。
が、グリフォンの力強き翼にはばたきを止めさせはしない。上空より軍用双眼鏡をもって迫り来る敵群を見張り、そして。
「敵の陣形は情報どおりに鋒矢! 妖魔を先に立てて魔獣が続いてる。その後ろは弓隊! 妖魔敵将はいちばん奥! 敵将はいちばん後ろで破城鎚部隊といるね――気をつけて、矢が来るよ!」
ざくろの声音を受け、バリスタ「プルヴァランス」を敵先陣へと向けたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、その口の端を不敵に吊り上げる。
敵の数はこちらの数倍。裏まで合わせたらほとんど10倍か。よほどこの城を落としたいらしいな。でも。
「数をそろえても、質が悪けりゃ意味がない。教えてやらないとな!」
多勢を相手に守りの勝負。上等だ。相手が歪虚ならば存分に命を張り合える。持てる手を惜しまず尽くし、賽の目を繰ってやろうじゃないか。
「まずは一発派手に行こうか。ブチかませ、ドラングっ!!」
刻令ゴーレム「Volcanius」“ドラングレーヴェ”がプラズマキャノン「アークスレイ」に炸裂弾を装填、その発射音で空を揺らす。
「はっはー! これこれこれだよ、俺様ちゃんが求めてた戦場はじゃーん!」
ドラングレーヴェの噴き上げた土煙をカーテン代わり、魔導アーマー「ヘイムダル」――通称“ダルちゃん”を駆けさせるゾファル・G・初火(ka4407)。ただしその軌道は言葉の激しさに反して迂回を描き、敵の鋒矢に対して横合いから突っ込む構えである。
ってか、妖魔より魔獣じゃん? 泥でできてるって、そりゃなんかあるだろーよ。
『魔獣のしかけに気ぃつけろ! なんかヤな予感すんじゃん!』
そのゾファルを見送る形で馬出を包む堀の前方に立ち、飛来する矢を正面から斬り払うアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、試作法術刀「華焔」、その実体ならぬ焔刃の向こうに迫る敵先陣を透かし見た。
泥の魔獣に意図を感じているのは彼女も同じ。しかし、現状ですべきは敵陣突破の足がかりを作ることだ。
「連続装填から砲撃開始。敵の腹が裂けるほど振る舞ってやれ」
主の命に応え、刻令ゴーレム「Volcanius」の紅蓮がプラズマキャノン「アークスレイ」を伸べ、炸裂弾を連射する。
ゴーレムたちの砲撃にダルちゃんのスペルランチャー「天華」が、そしてざくろの拡散ヒートレイが重なって――敵前衛をズタズタに引き裂き、焼き尽くす。
心なき雑魔が轟音の内でかき消える様を見やり、アニス・テスタロッサ(ka0141)はR7エクスシア“オリアス”の内より前衛4人へ声音を投げた。
『ある程度減らすまでは突っ込みすぎるんじゃねぇぞ! でねぇと飲み込まれて終わりだ!』
今の一手で、妖魔が雑魚であることは知れた。
しかし、数の暴力は侮れない。こちらに届いた瞬間、ただの雑魚は轟然たる津波と化すだろう。
『射程に入ったらぶっ放せ。食いつかれるまでが勝負だぜ』
後衛3人に言い置いて、マテリアルキャノン「タスラム」を起動。背に展開したマジックエンハンサーがジェネレーター「マヒアサリーダ」に加速され、出力を高める肌触りを確かめて。
敵先陣へマテリアルの魔法弾を叩きつけた。
『い、行くのですよぉ……!』
弓月・小太(ka4679)は未だ銘を持たぬダインスレイブを膝立ちさせて固定、大口径滑腔砲へ徹甲榴弾を送り込み、撃ち出した。
弧を描いて飛んだ弾は着弾地点の妖魔を押し潰し、まわりの妖魔を破片と爆炎とで引き裂く。
連続砲撃によって咲き乱れる火花の先に鋭い視線を投げ、小太はトリガーにかけた指へ力を込めた。
テスタロッサさんの言うとおり、近づかれる前に全部倒せるのが理想ですがぁ……さすがに数が多いのですよぉ。
胸中でうそぶき、彼はさらに思考を巡らせる。突破力重視ってことは、少しでも早くお城に着きたいってことですよねぇ。堀を埋めるとか、門の破壊とか。
いずれにせよだ。アニスの言うとおり、食いつかれるまでに一発でも多くを減らし、味方の攻めを支援するのが彼の仕事だ。
かくて数秒で数十を喪いながらもなお速度を保って駆け続ける敵群に、小太と共に後衛を務めるコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はすがめた青眼を向けた。
「実に見事な統制だが……それをいつまでも保てるなどと思い上がっているわけじゃなかろうな?」
統制を為すものは統率。それは英国海軍大尉という過去の内で思い知っていた――敵の指揮官を崩してその統率を乱せば、どれほどの強兵とてただの烏合に堕ちることを。
駿馬に跨がったままスナイパーライフル「ルーナマーレ」を構え、フォールシュートの豪雨で妖魔どもを撃ち据えた。
ハンターたちの最後尾、馬出を背負う形で守城兵の警備と最後の砦を兼任するイヴ(ka6763)は、搭乗するダインスレイブ“我が祖国(カチューシャ)”の内で敵を待ち受けていた。
東と西は陽動だ。本命はきっと別にいる。だとしたら、陽動班の目的はなに? こちらの戦力を分散させて各個撃破狙い? 全滅しても差し違えられたらいい? だったらもっと硬い雑魔をそろえて時間稼ぎしない理由は? うーん、あの泥の魔獣の使い道がわかったらなぁ。
目まぐるしく思考を巡らせながら、彼女はカチューシャの機体をアンカーで地に固定、精密砲撃姿勢を取らせる。
『敵が来るよ! 息を合わせて、ふが、ふが、ふーっ!』
果たして号令を飛ばし、守城兵の矢と自らの徹甲榴弾を合わせた。
一方。敵陣の最奥を進む憤怒は締まりのない笑みを垂れ流し、一気に減らされた妖魔先陣にため息をついてみせた。
「おー、やられたねぇ。こりゃあ長くは保たねぇなぁ。ああ、腹立つわぁ」
無数の足をギチギチ蠢かせて地団駄を踏み、命じる。
「さぁって、犬っころども、ハデにぶっちらばってこいやぁ! 弓は鳥に集中! んで前衛、犬に負けんなよぉ! 走れ走れ走れぇ!」
●奇襲
足を速めた歪虚群。本隊は攻撃と反撃を捨てて直進。その脇から駆け出した遊群が、その本隊に先んじて突進してきた。ただし目標は。
敵の動きが速い。そこからまた飛び出してくるって――
敵弓兵の迎撃を避けながら上空からの監視と迎撃を続けるざくろが、魔獣の向かう先を確かめて魔導パイロットインカムへ告げた。
「敵魔獣の目標は馬出じゃない! その後ろの、総堀だよ!」
だからこその泥! 眉根をしかめた彼は寸毫迷い、肚を据える。
後ろは仲間たちがしっかり固めてくれているんだから、信じる。
「j9、行こう! ざくろたちは敵将を強襲する!」
「そーゆーことか!」
ゾファルは奥歯を噛み締めた。
堀を埋められて陥落した平城の話などめずらしくもない。つまりあの魔獣群は特攻要員だ。爆弾の代わりに泥をまとい、その身をもって堀を埋め立てるための。
「後衛! 西にも連絡頼むじゃん! あの魔獣、堀埋める用の泥団子だって!」
トランシーバーを通して告げれば、コーネリアが速やかな返答を返す。
『了解した。ゾファルらはこちらにかまわず将を討て。敵がなにをしかけてこようと、指揮を失えば敵の勝利そのものが消える』
「よっし」
大きく広げた太い両脚でダルちゃんの上体を据え、右肩から伸び出す天華の仰角を調整。ゾファルは距離を詰めてくる敵先陣へ魔法炎を浴びせかけた。
先ほどまでとは異なり、鋒矢はその密度を薄めて拡がっている。こちらの範囲攻撃への対策を、わずか数十秒でとってきたわけだ。
それを見て取ったゾファルはすぐにダルちゃんを駆けさせる。機動力を捨てた重装魔法砲撃機、敵の意図と現状の先読みができなければ、あっという間にその存在意義を失ってしまう。
「そんでも切り込み線は入れといたぜ! 行けぇ!」
「主軍の魔獣はできうる限りこちらで担う」
イヤリング「エピキノニア」へ吹き込んだ言葉を置き去り、アルトは他のハンター、そしてゾファルがこじ開けた突入口へと踏み込んだ。
ナイトカーテンに紛れさせた踏鳴は数歩の過去にかすかな残響を逆巻き、彼女の脇をすり抜けていこうとした魔獣を焔の一閃にて突き抜いて華と散らす。
当然のごとくに周囲から槍が、上空からは矢が殺到し、彼女を押し包まんとするが……その一歩を縫い止めることはかなわなかった。
ふっ。魔獣の鼻先を踏んで空へと駆け上がり、体をひねって蹴り込んでおきながら、反動に乗せた華焔で首をはねる。
手応えが薄い、やはり芯まで泥か。
内になにかを隠しているかと思ったが、それはないようだ。だとすればやはり、堀を埋めるだけのための手駒か。
「よぉ、迅ぇなぁ。てめぇも人間辞めてるクチかぁ」
唐突に現われ、ナイトカーテンで護られているはずのアルトの顔面へ緑の霧を吹きつけたのは……最奥部にいたはずの憤怒だった。
敵将が出てきた!?
レイオスは彼自身が鍛え上げた闘旋剣「デイブレイカー」、その暁を思わせる刃を振りかぶり、思いきり薙ぎ払った。ソウルエッジで強化された魔法刃は衝撃波と化し、憤怒と自分との間を遮る妖魔と従魔を斬り払う。
将という立場にそぐわぬ早すぎる登場、かならず意図がある。しかし真意がどこにあろうと、こちらもまた将狙いである以上はこの機を生かさせてもらうだけだ。
「ドラングは正面から来る魔獣を狙え! 連続装填指示・火炎弾! 素焼きにしてやれ!」
インカムでドラングレーヴェへ指示を飛ばしつつ、駆け込んできた魔獣を横蹴りで突き飛ばし、地面に叩きつける。
堀を埋められれば、馬出は防衛拠点としての意味を失くす。しかしその前に魔獣の泥を乾かし、固めてしまえば駆け込めまい。
ゴーレムへの的確な指示と連携が、彼自身に前を向く余裕を与えている。
かくて突き出された妖魔の穂先をデイブレイカーの分厚い剣身で受け、肩を入れて押し退けたレイオスは、敵将へまた一歩、近づいた。
「西側に伝達! 敵の目的は泥魔獣による総堀の埋め立てだ! 遊群を優先して討て! 先に伝えた作戦概要の念押しも忘れるな!」
守城兵へ伝達し終えたコーネリアはすぐに馬を返した。
西側の守城兵にはすでに「敵先陣を崩すと同時、敵将の指揮を阻害するよう努めろ」と告げてある。正面は馬出の防御力で持ちこたえられようが、問題は遊群だ。
主の命を闇雲になぞり、目標の達成ばかりを目ざす。その点はゴーレムと同じだが、敵にコストを考える必要性がない以上、こちらの不利は明白。
鞍から跳び降りたコーネリアは愛馬の背にルーナマーレの銃身を据え、マテリアルを収束する。
結局は、指揮官を討ち取れるか否かだ。
今なお多勢を誇る雑魔の向こう、姿を現わした憤怒へ照準を合わせ、彼女は息を絞った。
アニスはオリアスに内臓されたマテリアルライフルを展開し、構えた。
ここからなら破城鎚部隊にもタスラムは届くが、釣り出したかった将はすでに前進、アルトを中心にした味方前衛へ肉迫している。そして遊群は陣を組むこともなく、全速力で総堀を目ざしてくる。
電撃戦ってやつか。命がいらねぇ雑魔だからこそってやつだな。
すでに遊群はタスラムの射程の内に潜り込んでいる。が、FMガンポッド「フテロマT4」の射程内まで引き込むまで待てば、結局は数で押し切られるだけだ。
『後衛、砲撃準備できてるか!? 射線重なんねぇようにぶっ放せ!!』
自らは横合いからの魔法弾で魔獣を串刺し、味方を射線から外すためにポジションを変えながら、次の射撃準備を整える。
追いかけっこの鬼は時間だぜ――って。
「は?」
味方の砲撃の隙をカバーしての砲撃と狙撃、さらには敵前衛の掃射。三役をこなしていた小太はダインスレイブのコクピットの内、アニスとほぼ同時にそのかわいらしい顔をしかめた。
大きくなってます!?
特攻を続ける魔獣の一部が、飛び散った魔獣の骸……すなわち泥を喰らって肥大化していく。2倍、3倍、4倍、CAMにも匹敵する体躯となって、湿った足で戦場を揺るがせる。
『――させませんよぉ!』
鮮赤の瞳にマテリアルを滾らせ、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で巨大魔獣をしたたかに撃ち据える。
が、あっけなく砕け散った魔獣は他の魔獣に吸収され、その体の一部となった。
「大きくなっても当てれば倒せます! 先頭にいる魔獣を優先しましょう!」
トランシーバーへ告げた小太は唇を引き結び、意を決する。お城もみなさんも、絶対守り抜いてみせます!
密度が下がった分、範囲攻撃の効果も下がってる。
イヴは爆煙を踏み越えて総堀へ跳び込む遊群、そして前方から先陣の妖魔をすり抜け、勢い込んで駆け込んでくる魔獣を見やり、奥歯を噛んだ。
わたしたちは指揮官が指揮に専念する、陣形を整えながら突破を目ざすって思い込んでた。
その結果、敵将に早期前進されて味方前衛が孤立。さらに6割以上を残した魔獣群の特攻を許すこととなり、こちらは連携を大きく乱されることとなった。
こうなれば、あえて数を増やした前衛にかけるしかない。
それに、こっちだってまだ終わりじゃないよ。堀が埋まりきって、あの破城鎚が届かないうちは。
ヘビーガトリング「イブリス」の弾雨を敵本隊の魔獣へ叩きつけ、イヴはカチューシャの手甲部にプラズマクラッカーが収納されていることを確かめる。
妖魔は後回し。とにかく魔獣を1匹でも抑えないと!
「ゴーレムにできるだけ正面の魔獣を減らすよう指示! 弓兵さんもよろしく!」
エピキノニアへ告げ、イヴはイブリスの焼けた砲身へ新たな弾丸を送り込んだ。
●抗戦
「っ」
アルトはとっさに目をかばい、退く。その間にも切っ先は下がることなく憤怒を差し、追撃の隙を与えない。
「ありゃ、俺っち特製の痺れ霧なんだけどなぁ。効かねぇとか、マジで人間辞めてんじゃねぇのぉ?」
その間に、将を援護しようと魔獣どものいくらかが進路を転じにかかったが。
「ひとりじゃないのはこちらも同じだ!」
アルトを巻き込まない距離を見極め、J9を急降下させたざくろがダウンバーストで泥塊どもを斬り飛ばした。
「うえー、俺っちばっか構ってていいのかなぁ? こっちゃまだまだ数がいるんだぜぇ?」
憤怒は握り込んでいたものを無造作にざくろへ投げつけた。
が、そのときにはもう、J9は空へ跳んでいた。
「石ころいっこで大げさだぜぇ」
土に転がった石。それを確かめたざくろは、次いで飛来した敵弓兵の矢を攻性防壁で弾くと共に、J9へさらに高度を上げさせる。
石だけじゃなくて言葉を合わせたフェイント。でも。
「将の首をあげれば戦は終わる! 輝け、必殺デルタエンド!!」
その澄んだ声音に応えて繰り出された攻撃は。
「青龍翔咬波――今はまあ、デルタエンドってことで!」
敵陣のただ中よりレイオスが放った、水まとう気功。
妖魔と魔獣をまっすぐ突き抜けた一閃は憤怒をも貫いて……
「騙されねぇよ! ってことで、空蝉だぜぇ」
立っていたはずの場所で崩れ落ちる妖魔を見やり、ニヤリと笑む憤怒。
「この手口と術……忍か」
痺れ薬を掌でぬぐい落としたアルトが、すがめた赤眼で憤怒の笑みをにらむ。
「ま、一応戦国の習いってやつで名乗っとくかぁ。――歪東流忍術開祖クモザル、推して参る」
臨兵闘者皆陳列在前、九字の印を結べば。
後方に控えていたはずの破城鎚部隊が、憤怒の目の前に出現した。
数体がかりで抱えていた鎚を捨て、妖魔が無手のまま、ハンターたちへ襲いかかる。
「もう始まっちまってんじゃん!」
ゾファルは群がる妖魔の攻めをスペルシールドで押し分け、天華を空へと押し立てた。
数を減らして憤怒――クモザルへ突っ込むつもりだったのに、まさか自ら出張ってくるとは。おかげで回り込んだダルちゃんの前には生き残りがひしめき、その行く手を塞いでいる。
って、なんでこいつら先に行かねーんだ? 魔獣の護衛とかどうでもいいってか?
撃ち放したマテリアルが炎の矢へと姿を換え、妖魔を地へ縫い止めながら焼き消した。
「待ってろよクモザルちゃん!」
「ち!」
足元を駆け抜けようとした魔獣をオリアスの膝で踏み潰し、そのまま膝撃ち姿勢を取らせたアニスが、マテリアルの光線で続く魔獣どもを貫いた。
「あとちょいだな……!」
仲間にかまわず、ハンターにかまわず、ただ総堀を目ざす遊群。いくらかは跳び込まれたが、初撃の範囲攻撃、そして小太との連動により、そのほとんどは防げている。
『こっちはもういい! 正面のほう頼むぜ!』
まとわりついてきた妖魔を蹴り散らし、小太へ声をかける。
『りょ、了解ですぅ!』
そうしておいて立ち撃ち姿勢でマテリアルライフルを伸べ、巨大化した魔獣の眉間に狙いを定めたアニスは、その先にいるクモザルの姿を確かめた。
あんたがなに考えてっか知らねぇが、目標ひとつは潰したぜ?
馬出正面では、魔獣との押し合いが繰り広げられていた。
馬出へ跳びかかる魔獣はドラングレーヴェと紅蓮のキャニスター弾に撃ち据えられ、墜ちる。しかしその泥は馬出を包む堀を埋めて続く魔獣に足がかりを与え、さらに馬出へ肉迫した魔獣は自らを土嚢へ打ちつけて、馬出を駆け上る足がかりを形成していく。
守城兵の大半は弓を捨て、乗り越えてくる魔獣へ脇差で退治ていたが、骸の泥は次第に彼らの足元を侵しつつあった。
遊群を囮に馬出を埋めるのが狙い?
あらゆる手を尽くして敵の浸透を阻んできたイヴは、奥歯を噛み締めてプラズマクラッカーを射出する。閃光が爆ぜ、巨大魔獣を消し飛ばしたが……それを盾にした魔獣どもは、飛び散って貼りついた泥を足がかりに駆け、土嚢を駆け上る。
大きい魔獣は囮だ! わたしたちの攻撃を引きつけて他を行かせるための! でも、放っておいたら一気に総堀まで埋められちゃう……うー、小賢しいっ!
『手が空いてる人、馬出の泥掻き出して! 埋まっちゃう前に早く!!』
イヴが告げる間にも、守城兵とゴーレム2体は押し込まれていく。
守城兵の指揮官が後退を覚悟した、そのとき。
徹甲榴弾の爆炎が正面に集まっていた魔獣をまとめて消し飛ばし、馬出の土嚢をさらりと洗った。
「お待たせしましたぁ! 遊群のほうはもう大丈夫ですぅ!」
通信を飛ばした小太はダインスレイブの内より視線を巡らした。敵勢は馬出正面に集中。これなら、劣勢も引っ繰り返せますぅ!
精密砲撃の必要性から連続砲撃こそできないが、敵の攻撃目標がひとつに絞られている今、範囲攻撃の利を最大に生かすことができる。
『射角そのままで砲撃続けて!』
イヴがカチューシャのハンドサインを交えて返してきた。
「タイミング合わせますぅ!」
FCSの計算に自らがここまで積んできた経験、そして射手の矜持を加え、小太は心を据える。
今祈るのは神様にじゃありません。この砲口に、ですぅ――
ここだ。
コーネリアのライフルからフローズンバニッシャーが飛んだ。粉雪さながらのオーラを舞い散らせ、前衛に押し寄せる妖魔をかすめて目ざした先は、クモザルの足。
2本を損なったクモザルは怒気を向けてきたが、かまってやる気はなかった。
次は弓兵だな。
再び馬へ跨がった彼女は、狙撃ポイントを求めて前へ進む。
●連携
コーネリアの一射が作った間をレイオスは見逃さない。しがみつきにかかる妖魔を薙ぎ払い、一気にクモザルとの間合を詰めた。
「指揮してるって感じもないし、城に執着してるようにも見えない。忍っていうからには主がいるんだろ? そいつの命令か?」
デイブレイカーの刃を無数の足で受け流したクモザルはとぼけた顔を向けて。
「はい、大将の命令でーとか言うかよぉ。ま、そうなんだけどなぁ」
左手で印を結ぶ。
と。それが完成するよりも早く、涼やかな歌声が戦場へ降りそそいだ。
ざくろのアイデアル・ソング。サークレット「セイレーンエコー」によっていや増された波動はレイオスとアルトのマテリアルをかき立て、抗いの盾となって彼らの心を護る。
クモザルが“術”を使うのはもう見たよ。だから――響け、勇気の歌!
しかし、弓兵はそれをいつまでも許してはおかなかった。J9の上で拍を取るざくろを無機質に見据え、次々と矢を射放す。
歌に集中する主を守り、J9はその身をもって矢を防ぐ。羽鎧の継ぎ目を穿たれ、翼を削がれ、それでも鳴き声を漏らすことなくホバリングで耐え続けた。
「かわいらしい搦め手だねぇ!」
途切れぬ歌声に顔をしかめ、レイオスへ火炎を吹きつけたクモザルが、あわてて彼を跳び越えた。斬り払われた3本の足を残して。
「3本か」
地をすべるがごとき踏鳴から繰り出されたアルトの散華。すれちがいざまに敵を斬るこの技はそう、斬ったそのときが終わりではない。
飛花・焔の加速に乗せたその体はさらに先へと駆け抜け、逃げたはずのクモザルに追いついていた
「次は何本置いていく?」
「ちぃ!」
九字を切り、先に見せた召喚を試みたクモザルだったが。
呼び出すつもりだった弓兵が燃えていた。
「なんだおいぃ!?」
数十メートルの向こう、ダルちゃんが多数の傷を負った体を巡らせ、力強くサムズアップを決める。
戦いとは複雑な状況をどれだけシンプルにまとめられるかの勝負だ。それを為すためにゾファルが選んだのは、範囲攻撃の最大効率を生かして敵兵力を滅することだった。
『あーらよっと。魔導アーマーダルちゃん、ただいま見参。遊ぼうぜ、ニンジャちゃーん!』
「ちっとばっか策が足りねぇ感じだったかぁ。つか、こんだけ範囲攻撃喰らっちゃなぁ」
アルトの焔刃に足を三割方斬り飛ばされたクモザルは、バランスを崩しながらも含み針で彼女の出足と追撃を抑えた。
と。
ダルちゃんの軽量型スペルランチャーから放たれた光線が逆側からクモザルを削ってその体の揺らぎを押し止め。
「待ってたぜ!」
続いて跳び込んできたレイオスの刺突一閃が突き立ち、胸を刺し貫いた。
「おいおい、仲間働かせて狙い打ちかよぉ。小狡いねぇ」
「おまえの忍術と同じだ。オレたちは代わりに連携を使う。それだけさ」
クモザルは瞬時に塵と化し、風にさらわれてかき消えた。
●南
戦後、後始末に追われる一同に西からの知らせが届いた。
『西門、敵の殲滅に成功したものの大破!』
『やられた?』
アニスのうそぶきにイヴが渋い声を返す。
『こっちと同じだよ。総堀を埋めるんじゃなくて、馬出の堀を埋められて乗り込まれたんだと思う』
『で、でも、敵はやっつけたんですよ、ね?』
小太の願いを込めた声に、コーネリアは静かに息をついた。火力の不足で押し切られる、戦争の理だな。
ここで上空から偵察にあたっているざくろから通信が入る。
『南1キロ地点に歪虚群展開中! 今のところ前進してくる気配はないけど、すごい数だよ!』
守城兵がおののく中、アルトは未だ見えぬ敵群へ鋭い視線を送り。
「クモザルもあっけなさすぎた。本当に死んだか怪しいものだな」
『まだ終わってねーってこった。上等じゃん』
コクピットの内、ゾファルが右拳を左手に叩きつけた。
「あれが大将ってやつか……」
デイブレイカーの柄を強く握り締め、レイオスは力を込めて意を決する。
来るなら来い。おまえが始めるなら、オレが終わらせてやる。
果たして恵土城を巡る戦いは、次なる激突を前に一時幕を下ろすのだ。
「ふごふごふが、ふがふが!」
この城を歪虚の好きにはさせない、人も城もざくろたちが守る! と言いたかったらしい時音 ざくろ(ka1250)が、跨がった蒼海熱風『J9』の上で顔を赤らめた。この城でふがふがを聞きすぎてしまった副作用が出てしまったのだ。
が、グリフォンの力強き翼にはばたきを止めさせはしない。上空より軍用双眼鏡をもって迫り来る敵群を見張り、そして。
「敵の陣形は情報どおりに鋒矢! 妖魔を先に立てて魔獣が続いてる。その後ろは弓隊! 妖魔敵将はいちばん奥! 敵将はいちばん後ろで破城鎚部隊といるね――気をつけて、矢が来るよ!」
ざくろの声音を受け、バリスタ「プルヴァランス」を敵先陣へと向けたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、その口の端を不敵に吊り上げる。
敵の数はこちらの数倍。裏まで合わせたらほとんど10倍か。よほどこの城を落としたいらしいな。でも。
「数をそろえても、質が悪けりゃ意味がない。教えてやらないとな!」
多勢を相手に守りの勝負。上等だ。相手が歪虚ならば存分に命を張り合える。持てる手を惜しまず尽くし、賽の目を繰ってやろうじゃないか。
「まずは一発派手に行こうか。ブチかませ、ドラングっ!!」
刻令ゴーレム「Volcanius」“ドラングレーヴェ”がプラズマキャノン「アークスレイ」に炸裂弾を装填、その発射音で空を揺らす。
「はっはー! これこれこれだよ、俺様ちゃんが求めてた戦場はじゃーん!」
ドラングレーヴェの噴き上げた土煙をカーテン代わり、魔導アーマー「ヘイムダル」――通称“ダルちゃん”を駆けさせるゾファル・G・初火(ka4407)。ただしその軌道は言葉の激しさに反して迂回を描き、敵の鋒矢に対して横合いから突っ込む構えである。
ってか、妖魔より魔獣じゃん? 泥でできてるって、そりゃなんかあるだろーよ。
『魔獣のしかけに気ぃつけろ! なんかヤな予感すんじゃん!』
そのゾファルを見送る形で馬出を包む堀の前方に立ち、飛来する矢を正面から斬り払うアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、試作法術刀「華焔」、その実体ならぬ焔刃の向こうに迫る敵先陣を透かし見た。
泥の魔獣に意図を感じているのは彼女も同じ。しかし、現状ですべきは敵陣突破の足がかりを作ることだ。
「連続装填から砲撃開始。敵の腹が裂けるほど振る舞ってやれ」
主の命に応え、刻令ゴーレム「Volcanius」の紅蓮がプラズマキャノン「アークスレイ」を伸べ、炸裂弾を連射する。
ゴーレムたちの砲撃にダルちゃんのスペルランチャー「天華」が、そしてざくろの拡散ヒートレイが重なって――敵前衛をズタズタに引き裂き、焼き尽くす。
心なき雑魔が轟音の内でかき消える様を見やり、アニス・テスタロッサ(ka0141)はR7エクスシア“オリアス”の内より前衛4人へ声音を投げた。
『ある程度減らすまでは突っ込みすぎるんじゃねぇぞ! でねぇと飲み込まれて終わりだ!』
今の一手で、妖魔が雑魚であることは知れた。
しかし、数の暴力は侮れない。こちらに届いた瞬間、ただの雑魚は轟然たる津波と化すだろう。
『射程に入ったらぶっ放せ。食いつかれるまでが勝負だぜ』
後衛3人に言い置いて、マテリアルキャノン「タスラム」を起動。背に展開したマジックエンハンサーがジェネレーター「マヒアサリーダ」に加速され、出力を高める肌触りを確かめて。
敵先陣へマテリアルの魔法弾を叩きつけた。
『い、行くのですよぉ……!』
弓月・小太(ka4679)は未だ銘を持たぬダインスレイブを膝立ちさせて固定、大口径滑腔砲へ徹甲榴弾を送り込み、撃ち出した。
弧を描いて飛んだ弾は着弾地点の妖魔を押し潰し、まわりの妖魔を破片と爆炎とで引き裂く。
連続砲撃によって咲き乱れる火花の先に鋭い視線を投げ、小太はトリガーにかけた指へ力を込めた。
テスタロッサさんの言うとおり、近づかれる前に全部倒せるのが理想ですがぁ……さすがに数が多いのですよぉ。
胸中でうそぶき、彼はさらに思考を巡らせる。突破力重視ってことは、少しでも早くお城に着きたいってことですよねぇ。堀を埋めるとか、門の破壊とか。
いずれにせよだ。アニスの言うとおり、食いつかれるまでに一発でも多くを減らし、味方の攻めを支援するのが彼の仕事だ。
かくて数秒で数十を喪いながらもなお速度を保って駆け続ける敵群に、小太と共に後衛を務めるコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はすがめた青眼を向けた。
「実に見事な統制だが……それをいつまでも保てるなどと思い上がっているわけじゃなかろうな?」
統制を為すものは統率。それは英国海軍大尉という過去の内で思い知っていた――敵の指揮官を崩してその統率を乱せば、どれほどの強兵とてただの烏合に堕ちることを。
駿馬に跨がったままスナイパーライフル「ルーナマーレ」を構え、フォールシュートの豪雨で妖魔どもを撃ち据えた。
ハンターたちの最後尾、馬出を背負う形で守城兵の警備と最後の砦を兼任するイヴ(ka6763)は、搭乗するダインスレイブ“我が祖国(カチューシャ)”の内で敵を待ち受けていた。
東と西は陽動だ。本命はきっと別にいる。だとしたら、陽動班の目的はなに? こちらの戦力を分散させて各個撃破狙い? 全滅しても差し違えられたらいい? だったらもっと硬い雑魔をそろえて時間稼ぎしない理由は? うーん、あの泥の魔獣の使い道がわかったらなぁ。
目まぐるしく思考を巡らせながら、彼女はカチューシャの機体をアンカーで地に固定、精密砲撃姿勢を取らせる。
『敵が来るよ! 息を合わせて、ふが、ふが、ふーっ!』
果たして号令を飛ばし、守城兵の矢と自らの徹甲榴弾を合わせた。
一方。敵陣の最奥を進む憤怒は締まりのない笑みを垂れ流し、一気に減らされた妖魔先陣にため息をついてみせた。
「おー、やられたねぇ。こりゃあ長くは保たねぇなぁ。ああ、腹立つわぁ」
無数の足をギチギチ蠢かせて地団駄を踏み、命じる。
「さぁって、犬っころども、ハデにぶっちらばってこいやぁ! 弓は鳥に集中! んで前衛、犬に負けんなよぉ! 走れ走れ走れぇ!」
●奇襲
足を速めた歪虚群。本隊は攻撃と反撃を捨てて直進。その脇から駆け出した遊群が、その本隊に先んじて突進してきた。ただし目標は。
敵の動きが速い。そこからまた飛び出してくるって――
敵弓兵の迎撃を避けながら上空からの監視と迎撃を続けるざくろが、魔獣の向かう先を確かめて魔導パイロットインカムへ告げた。
「敵魔獣の目標は馬出じゃない! その後ろの、総堀だよ!」
だからこその泥! 眉根をしかめた彼は寸毫迷い、肚を据える。
後ろは仲間たちがしっかり固めてくれているんだから、信じる。
「j9、行こう! ざくろたちは敵将を強襲する!」
「そーゆーことか!」
ゾファルは奥歯を噛み締めた。
堀を埋められて陥落した平城の話などめずらしくもない。つまりあの魔獣群は特攻要員だ。爆弾の代わりに泥をまとい、その身をもって堀を埋め立てるための。
「後衛! 西にも連絡頼むじゃん! あの魔獣、堀埋める用の泥団子だって!」
トランシーバーを通して告げれば、コーネリアが速やかな返答を返す。
『了解した。ゾファルらはこちらにかまわず将を討て。敵がなにをしかけてこようと、指揮を失えば敵の勝利そのものが消える』
「よっし」
大きく広げた太い両脚でダルちゃんの上体を据え、右肩から伸び出す天華の仰角を調整。ゾファルは距離を詰めてくる敵先陣へ魔法炎を浴びせかけた。
先ほどまでとは異なり、鋒矢はその密度を薄めて拡がっている。こちらの範囲攻撃への対策を、わずか数十秒でとってきたわけだ。
それを見て取ったゾファルはすぐにダルちゃんを駆けさせる。機動力を捨てた重装魔法砲撃機、敵の意図と現状の先読みができなければ、あっという間にその存在意義を失ってしまう。
「そんでも切り込み線は入れといたぜ! 行けぇ!」
「主軍の魔獣はできうる限りこちらで担う」
イヤリング「エピキノニア」へ吹き込んだ言葉を置き去り、アルトは他のハンター、そしてゾファルがこじ開けた突入口へと踏み込んだ。
ナイトカーテンに紛れさせた踏鳴は数歩の過去にかすかな残響を逆巻き、彼女の脇をすり抜けていこうとした魔獣を焔の一閃にて突き抜いて華と散らす。
当然のごとくに周囲から槍が、上空からは矢が殺到し、彼女を押し包まんとするが……その一歩を縫い止めることはかなわなかった。
ふっ。魔獣の鼻先を踏んで空へと駆け上がり、体をひねって蹴り込んでおきながら、反動に乗せた華焔で首をはねる。
手応えが薄い、やはり芯まで泥か。
内になにかを隠しているかと思ったが、それはないようだ。だとすればやはり、堀を埋めるだけのための手駒か。
「よぉ、迅ぇなぁ。てめぇも人間辞めてるクチかぁ」
唐突に現われ、ナイトカーテンで護られているはずのアルトの顔面へ緑の霧を吹きつけたのは……最奥部にいたはずの憤怒だった。
敵将が出てきた!?
レイオスは彼自身が鍛え上げた闘旋剣「デイブレイカー」、その暁を思わせる刃を振りかぶり、思いきり薙ぎ払った。ソウルエッジで強化された魔法刃は衝撃波と化し、憤怒と自分との間を遮る妖魔と従魔を斬り払う。
将という立場にそぐわぬ早すぎる登場、かならず意図がある。しかし真意がどこにあろうと、こちらもまた将狙いである以上はこの機を生かさせてもらうだけだ。
「ドラングは正面から来る魔獣を狙え! 連続装填指示・火炎弾! 素焼きにしてやれ!」
インカムでドラングレーヴェへ指示を飛ばしつつ、駆け込んできた魔獣を横蹴りで突き飛ばし、地面に叩きつける。
堀を埋められれば、馬出は防衛拠点としての意味を失くす。しかしその前に魔獣の泥を乾かし、固めてしまえば駆け込めまい。
ゴーレムへの的確な指示と連携が、彼自身に前を向く余裕を与えている。
かくて突き出された妖魔の穂先をデイブレイカーの分厚い剣身で受け、肩を入れて押し退けたレイオスは、敵将へまた一歩、近づいた。
「西側に伝達! 敵の目的は泥魔獣による総堀の埋め立てだ! 遊群を優先して討て! 先に伝えた作戦概要の念押しも忘れるな!」
守城兵へ伝達し終えたコーネリアはすぐに馬を返した。
西側の守城兵にはすでに「敵先陣を崩すと同時、敵将の指揮を阻害するよう努めろ」と告げてある。正面は馬出の防御力で持ちこたえられようが、問題は遊群だ。
主の命を闇雲になぞり、目標の達成ばかりを目ざす。その点はゴーレムと同じだが、敵にコストを考える必要性がない以上、こちらの不利は明白。
鞍から跳び降りたコーネリアは愛馬の背にルーナマーレの銃身を据え、マテリアルを収束する。
結局は、指揮官を討ち取れるか否かだ。
今なお多勢を誇る雑魔の向こう、姿を現わした憤怒へ照準を合わせ、彼女は息を絞った。
アニスはオリアスに内臓されたマテリアルライフルを展開し、構えた。
ここからなら破城鎚部隊にもタスラムは届くが、釣り出したかった将はすでに前進、アルトを中心にした味方前衛へ肉迫している。そして遊群は陣を組むこともなく、全速力で総堀を目ざしてくる。
電撃戦ってやつか。命がいらねぇ雑魔だからこそってやつだな。
すでに遊群はタスラムの射程の内に潜り込んでいる。が、FMガンポッド「フテロマT4」の射程内まで引き込むまで待てば、結局は数で押し切られるだけだ。
『後衛、砲撃準備できてるか!? 射線重なんねぇようにぶっ放せ!!』
自らは横合いからの魔法弾で魔獣を串刺し、味方を射線から外すためにポジションを変えながら、次の射撃準備を整える。
追いかけっこの鬼は時間だぜ――って。
「は?」
味方の砲撃の隙をカバーしての砲撃と狙撃、さらには敵前衛の掃射。三役をこなしていた小太はダインスレイブのコクピットの内、アニスとほぼ同時にそのかわいらしい顔をしかめた。
大きくなってます!?
特攻を続ける魔獣の一部が、飛び散った魔獣の骸……すなわち泥を喰らって肥大化していく。2倍、3倍、4倍、CAMにも匹敵する体躯となって、湿った足で戦場を揺るがせる。
『――させませんよぉ!』
鮮赤の瞳にマテリアルを滾らせ、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で巨大魔獣をしたたかに撃ち据える。
が、あっけなく砕け散った魔獣は他の魔獣に吸収され、その体の一部となった。
「大きくなっても当てれば倒せます! 先頭にいる魔獣を優先しましょう!」
トランシーバーへ告げた小太は唇を引き結び、意を決する。お城もみなさんも、絶対守り抜いてみせます!
密度が下がった分、範囲攻撃の効果も下がってる。
イヴは爆煙を踏み越えて総堀へ跳び込む遊群、そして前方から先陣の妖魔をすり抜け、勢い込んで駆け込んでくる魔獣を見やり、奥歯を噛んだ。
わたしたちは指揮官が指揮に専念する、陣形を整えながら突破を目ざすって思い込んでた。
その結果、敵将に早期前進されて味方前衛が孤立。さらに6割以上を残した魔獣群の特攻を許すこととなり、こちらは連携を大きく乱されることとなった。
こうなれば、あえて数を増やした前衛にかけるしかない。
それに、こっちだってまだ終わりじゃないよ。堀が埋まりきって、あの破城鎚が届かないうちは。
ヘビーガトリング「イブリス」の弾雨を敵本隊の魔獣へ叩きつけ、イヴはカチューシャの手甲部にプラズマクラッカーが収納されていることを確かめる。
妖魔は後回し。とにかく魔獣を1匹でも抑えないと!
「ゴーレムにできるだけ正面の魔獣を減らすよう指示! 弓兵さんもよろしく!」
エピキノニアへ告げ、イヴはイブリスの焼けた砲身へ新たな弾丸を送り込んだ。
●抗戦
「っ」
アルトはとっさに目をかばい、退く。その間にも切っ先は下がることなく憤怒を差し、追撃の隙を与えない。
「ありゃ、俺っち特製の痺れ霧なんだけどなぁ。効かねぇとか、マジで人間辞めてんじゃねぇのぉ?」
その間に、将を援護しようと魔獣どものいくらかが進路を転じにかかったが。
「ひとりじゃないのはこちらも同じだ!」
アルトを巻き込まない距離を見極め、J9を急降下させたざくろがダウンバーストで泥塊どもを斬り飛ばした。
「うえー、俺っちばっか構ってていいのかなぁ? こっちゃまだまだ数がいるんだぜぇ?」
憤怒は握り込んでいたものを無造作にざくろへ投げつけた。
が、そのときにはもう、J9は空へ跳んでいた。
「石ころいっこで大げさだぜぇ」
土に転がった石。それを確かめたざくろは、次いで飛来した敵弓兵の矢を攻性防壁で弾くと共に、J9へさらに高度を上げさせる。
石だけじゃなくて言葉を合わせたフェイント。でも。
「将の首をあげれば戦は終わる! 輝け、必殺デルタエンド!!」
その澄んだ声音に応えて繰り出された攻撃は。
「青龍翔咬波――今はまあ、デルタエンドってことで!」
敵陣のただ中よりレイオスが放った、水まとう気功。
妖魔と魔獣をまっすぐ突き抜けた一閃は憤怒をも貫いて……
「騙されねぇよ! ってことで、空蝉だぜぇ」
立っていたはずの場所で崩れ落ちる妖魔を見やり、ニヤリと笑む憤怒。
「この手口と術……忍か」
痺れ薬を掌でぬぐい落としたアルトが、すがめた赤眼で憤怒の笑みをにらむ。
「ま、一応戦国の習いってやつで名乗っとくかぁ。――歪東流忍術開祖クモザル、推して参る」
臨兵闘者皆陳列在前、九字の印を結べば。
後方に控えていたはずの破城鎚部隊が、憤怒の目の前に出現した。
数体がかりで抱えていた鎚を捨て、妖魔が無手のまま、ハンターたちへ襲いかかる。
「もう始まっちまってんじゃん!」
ゾファルは群がる妖魔の攻めをスペルシールドで押し分け、天華を空へと押し立てた。
数を減らして憤怒――クモザルへ突っ込むつもりだったのに、まさか自ら出張ってくるとは。おかげで回り込んだダルちゃんの前には生き残りがひしめき、その行く手を塞いでいる。
って、なんでこいつら先に行かねーんだ? 魔獣の護衛とかどうでもいいってか?
撃ち放したマテリアルが炎の矢へと姿を換え、妖魔を地へ縫い止めながら焼き消した。
「待ってろよクモザルちゃん!」
「ち!」
足元を駆け抜けようとした魔獣をオリアスの膝で踏み潰し、そのまま膝撃ち姿勢を取らせたアニスが、マテリアルの光線で続く魔獣どもを貫いた。
「あとちょいだな……!」
仲間にかまわず、ハンターにかまわず、ただ総堀を目ざす遊群。いくらかは跳び込まれたが、初撃の範囲攻撃、そして小太との連動により、そのほとんどは防げている。
『こっちはもういい! 正面のほう頼むぜ!』
まとわりついてきた妖魔を蹴り散らし、小太へ声をかける。
『りょ、了解ですぅ!』
そうしておいて立ち撃ち姿勢でマテリアルライフルを伸べ、巨大化した魔獣の眉間に狙いを定めたアニスは、その先にいるクモザルの姿を確かめた。
あんたがなに考えてっか知らねぇが、目標ひとつは潰したぜ?
馬出正面では、魔獣との押し合いが繰り広げられていた。
馬出へ跳びかかる魔獣はドラングレーヴェと紅蓮のキャニスター弾に撃ち据えられ、墜ちる。しかしその泥は馬出を包む堀を埋めて続く魔獣に足がかりを与え、さらに馬出へ肉迫した魔獣は自らを土嚢へ打ちつけて、馬出を駆け上る足がかりを形成していく。
守城兵の大半は弓を捨て、乗り越えてくる魔獣へ脇差で退治ていたが、骸の泥は次第に彼らの足元を侵しつつあった。
遊群を囮に馬出を埋めるのが狙い?
あらゆる手を尽くして敵の浸透を阻んできたイヴは、奥歯を噛み締めてプラズマクラッカーを射出する。閃光が爆ぜ、巨大魔獣を消し飛ばしたが……それを盾にした魔獣どもは、飛び散って貼りついた泥を足がかりに駆け、土嚢を駆け上る。
大きい魔獣は囮だ! わたしたちの攻撃を引きつけて他を行かせるための! でも、放っておいたら一気に総堀まで埋められちゃう……うー、小賢しいっ!
『手が空いてる人、馬出の泥掻き出して! 埋まっちゃう前に早く!!』
イヴが告げる間にも、守城兵とゴーレム2体は押し込まれていく。
守城兵の指揮官が後退を覚悟した、そのとき。
徹甲榴弾の爆炎が正面に集まっていた魔獣をまとめて消し飛ばし、馬出の土嚢をさらりと洗った。
「お待たせしましたぁ! 遊群のほうはもう大丈夫ですぅ!」
通信を飛ばした小太はダインスレイブの内より視線を巡らした。敵勢は馬出正面に集中。これなら、劣勢も引っ繰り返せますぅ!
精密砲撃の必要性から連続砲撃こそできないが、敵の攻撃目標がひとつに絞られている今、範囲攻撃の利を最大に生かすことができる。
『射角そのままで砲撃続けて!』
イヴがカチューシャのハンドサインを交えて返してきた。
「タイミング合わせますぅ!」
FCSの計算に自らがここまで積んできた経験、そして射手の矜持を加え、小太は心を据える。
今祈るのは神様にじゃありません。この砲口に、ですぅ――
ここだ。
コーネリアのライフルからフローズンバニッシャーが飛んだ。粉雪さながらのオーラを舞い散らせ、前衛に押し寄せる妖魔をかすめて目ざした先は、クモザルの足。
2本を損なったクモザルは怒気を向けてきたが、かまってやる気はなかった。
次は弓兵だな。
再び馬へ跨がった彼女は、狙撃ポイントを求めて前へ進む。
●連携
コーネリアの一射が作った間をレイオスは見逃さない。しがみつきにかかる妖魔を薙ぎ払い、一気にクモザルとの間合を詰めた。
「指揮してるって感じもないし、城に執着してるようにも見えない。忍っていうからには主がいるんだろ? そいつの命令か?」
デイブレイカーの刃を無数の足で受け流したクモザルはとぼけた顔を向けて。
「はい、大将の命令でーとか言うかよぉ。ま、そうなんだけどなぁ」
左手で印を結ぶ。
と。それが完成するよりも早く、涼やかな歌声が戦場へ降りそそいだ。
ざくろのアイデアル・ソング。サークレット「セイレーンエコー」によっていや増された波動はレイオスとアルトのマテリアルをかき立て、抗いの盾となって彼らの心を護る。
クモザルが“術”を使うのはもう見たよ。だから――響け、勇気の歌!
しかし、弓兵はそれをいつまでも許してはおかなかった。J9の上で拍を取るざくろを無機質に見据え、次々と矢を射放す。
歌に集中する主を守り、J9はその身をもって矢を防ぐ。羽鎧の継ぎ目を穿たれ、翼を削がれ、それでも鳴き声を漏らすことなくホバリングで耐え続けた。
「かわいらしい搦め手だねぇ!」
途切れぬ歌声に顔をしかめ、レイオスへ火炎を吹きつけたクモザルが、あわてて彼を跳び越えた。斬り払われた3本の足を残して。
「3本か」
地をすべるがごとき踏鳴から繰り出されたアルトの散華。すれちがいざまに敵を斬るこの技はそう、斬ったそのときが終わりではない。
飛花・焔の加速に乗せたその体はさらに先へと駆け抜け、逃げたはずのクモザルに追いついていた
「次は何本置いていく?」
「ちぃ!」
九字を切り、先に見せた召喚を試みたクモザルだったが。
呼び出すつもりだった弓兵が燃えていた。
「なんだおいぃ!?」
数十メートルの向こう、ダルちゃんが多数の傷を負った体を巡らせ、力強くサムズアップを決める。
戦いとは複雑な状況をどれだけシンプルにまとめられるかの勝負だ。それを為すためにゾファルが選んだのは、範囲攻撃の最大効率を生かして敵兵力を滅することだった。
『あーらよっと。魔導アーマーダルちゃん、ただいま見参。遊ぼうぜ、ニンジャちゃーん!』
「ちっとばっか策が足りねぇ感じだったかぁ。つか、こんだけ範囲攻撃喰らっちゃなぁ」
アルトの焔刃に足を三割方斬り飛ばされたクモザルは、バランスを崩しながらも含み針で彼女の出足と追撃を抑えた。
と。
ダルちゃんの軽量型スペルランチャーから放たれた光線が逆側からクモザルを削ってその体の揺らぎを押し止め。
「待ってたぜ!」
続いて跳び込んできたレイオスの刺突一閃が突き立ち、胸を刺し貫いた。
「おいおい、仲間働かせて狙い打ちかよぉ。小狡いねぇ」
「おまえの忍術と同じだ。オレたちは代わりに連携を使う。それだけさ」
クモザルは瞬時に塵と化し、風にさらわれてかき消えた。
●南
戦後、後始末に追われる一同に西からの知らせが届いた。
『西門、敵の殲滅に成功したものの大破!』
『やられた?』
アニスのうそぶきにイヴが渋い声を返す。
『こっちと同じだよ。総堀を埋めるんじゃなくて、馬出の堀を埋められて乗り込まれたんだと思う』
『で、でも、敵はやっつけたんですよ、ね?』
小太の願いを込めた声に、コーネリアは静かに息をついた。火力の不足で押し切られる、戦争の理だな。
ここで上空から偵察にあたっているざくろから通信が入る。
『南1キロ地点に歪虚群展開中! 今のところ前進してくる気配はないけど、すごい数だよ!』
守城兵がおののく中、アルトは未だ見えぬ敵群へ鋭い視線を送り。
「クモザルもあっけなさすぎた。本当に死んだか怪しいものだな」
『まだ終わってねーってこった。上等じゃん』
コクピットの内、ゾファルが右拳を左手に叩きつけた。
「あれが大将ってやつか……」
デイブレイカーの柄を強く握り締め、レイオスは力を込めて意を決する。
来るなら来い。おまえが始めるなら、オレが終わらせてやる。
果たして恵土城を巡る戦いは、次なる激突を前に一時幕を下ろすのだ。
依頼結果
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相談卓 イヴ(ka6763) エルフ|21才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/11/10 18:01:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/08 14:29:03 |