ゲスト
(ka0000)
【空蒼】対新人覚醒者模擬戦
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/09 19:00
- 完成日
- 2018/11/11 22:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
クリムゾンウェストに浮かぶ二つの月。
地球の封印とリアルブルーの月がクリムゾンウェストに転移。
大精霊リアルブルーが発したSOSをハンター達は見事受け取り、明日へ繋ぐ事ができた。
しかし、大規模な転移は二度目と言えども影響は少なくない。
「一時はどうなるか心配だったザマスが……ここがしばらくは拠点になりそうザマスね」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)は周囲を見回した。
元々は魔導エンジンを搭載したCAM実験場であったホープ。最近までは辺境周辺で活動する商人の物資集積場として機能していた。
ラズモネ・シャングリラは対異世界支援部隊『スワローテイル』としてクリムゾンウェストの活動拠点にこのホープを選んだ。現在、軍艦改修用ドックの建設が進んでいる。
「この世界にも少しは馴染んだようだな」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)もホープの光景が短期間で一変していく様を見つめていた。
サルヴァトーレ・ロッソから人員も来ているのだろうが、何よりも強化人間だったものが覚醒者へ生まれ変わり手を貸してくれた事は大きい。このお陰でラズモネ・シャングリラの人員は大幅に増えたと考えて良いだろう。
「そうザマスねぇ。同人誌も地球に封印されたのは問題ザマス。あたくしのコレクションの一部がラズモネ・シャングリラの自室に……」
「はぁ?」
「なんでもないザマス。それより新しく来られた皆さんも魔導型CAMの操縦も大分慣れたようザマスね」
八重樫がホープを訪れていたのは、新たに覚醒者となった者に魔導型CAMの操縦を教えていた。強化人間の中にはコンフェッサーを操縦していた者もいるが、改めて八重樫から訓練を受ける形となった。
また覚醒者として幻獣を希望する者には、団員と共に幻獣の森を訪れていた。ちなみに、初めて訪れた幻獣の森で新人の覚醒者を前に幻獣王を名乗って偉そうにしている馬鹿も確認されている。
「ああ……ちょうどいい。レオン」
振り返った八重樫は、一人の青年を呼んだ。
強化人間から覚醒者へと変わり、このラズモネ・シャングリラへ転戦した青年だ。ブロンドの髪を短く刈り込んだ軍人らしい気構えを感じさせる。
レオンは八重樫が魔導型CAMの操縦を教える者の一人だ。
「八重樫さん」
「訓練は続けているだろうな?」
「はい。シミュレーションを続けています。今、俺達にできるのはこれだけですから」
レオンは八重樫から見ても真面目で実直な男だ。
強化人間となったのも自身の正義感からなのかもしれない。
「レオン。ここにいたのか」
レオンの背後から二人の男が走り寄ってくる。
一人は線が細いが落ち着いた雰囲気の青年。
もう一人は褐色の肌を持つ体格の良い青年である。
「シーツとブロックか。訓練は怠るな。いつでも出撃できるように備えろ」
「はい。自分は今すぐにでも出撃できる事を待ち望んでますよ。歪虚の連中に一泡吹かせてやりますぜ」
自身に満ちたブロックの答え。強気を隠さないのは若さ故か。
それをシーツが軽く諫める。
「ブロック。その言葉遣いは失礼にあたる」
「まっ! うちの艦に新たなイケメンが来たザマス!?」
一人興奮する恭子。人の出入りが激しい為、新人のイケメンチェックにまで気が回らなかったのだろう。
「あ、あの艦長……?」
「三人とも、もう行っていい」
恭子が怪しい反応を見せたと同時に八重樫は早々にレオンを退散させる。
戸惑いながらもその場を離れるレオン。
「ああ……」
「それより。できればあの新人達には実戦を学ばせたい」
シミュレーションの時間は十分だ。
できれば、何かの任務で実戦を経験させたい。
八重樫はそう考えているようだ。
「実戦ザマスか。うーん、すぐには任務がないザマスが……」
「なんだ?」
「実戦経験豊富なハンターさんにお願いしてはどうザマショ? 新人育成なら経験もあるはずザマス。きっと彼らを訓練しながらいろいろな事を教えてくれるはずザマス。
先輩として良いアドバイスを後輩に。
そしていつしか先輩と後輩がイケない関係に……」
「バアさんそこまでだ。別世界にまでその思想を広めないでくれ」
●
冒険都市リゼリオなる街は、傍目から見ても不思議な光景だ。
タイムスリップした訳でもないのに、本のイラストで見たような光景。これがこの世界では当たり前なのだ。
先の話では既にホープへ移動して専用ドック建設の手伝いをしているらしい。
今から慌てていっても仕方ない。
愛機が動けるようになるには、もう少し時間がかかる。
整備が完了するまでは街の酒場で時間を潰すとしよう。
「いらっしゃい」
マスターの低い声が聞こえる。
周囲を見回せば見た事もない連中が多い。
だが、そんな事は関係ない。バーのカウンターに座れば、そこは孤独な男達が集まる空間となる。
「何にしましょう?」
マスターが問いかける。
俺は決まって、こう答える。
「ウイスキー。ダブルで。それから氷は少なくしてくれ。氷で冷えちまうと、俺を待ってる女が俺の体を心配しちまうからな」
地球の封印とリアルブルーの月がクリムゾンウェストに転移。
大精霊リアルブルーが発したSOSをハンター達は見事受け取り、明日へ繋ぐ事ができた。
しかし、大規模な転移は二度目と言えども影響は少なくない。
「一時はどうなるか心配だったザマスが……ここがしばらくは拠点になりそうザマスね」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)は周囲を見回した。
元々は魔導エンジンを搭載したCAM実験場であったホープ。最近までは辺境周辺で活動する商人の物資集積場として機能していた。
ラズモネ・シャングリラは対異世界支援部隊『スワローテイル』としてクリムゾンウェストの活動拠点にこのホープを選んだ。現在、軍艦改修用ドックの建設が進んでいる。
「この世界にも少しは馴染んだようだな」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)もホープの光景が短期間で一変していく様を見つめていた。
サルヴァトーレ・ロッソから人員も来ているのだろうが、何よりも強化人間だったものが覚醒者へ生まれ変わり手を貸してくれた事は大きい。このお陰でラズモネ・シャングリラの人員は大幅に増えたと考えて良いだろう。
「そうザマスねぇ。同人誌も地球に封印されたのは問題ザマス。あたくしのコレクションの一部がラズモネ・シャングリラの自室に……」
「はぁ?」
「なんでもないザマス。それより新しく来られた皆さんも魔導型CAMの操縦も大分慣れたようザマスね」
八重樫がホープを訪れていたのは、新たに覚醒者となった者に魔導型CAMの操縦を教えていた。強化人間の中にはコンフェッサーを操縦していた者もいるが、改めて八重樫から訓練を受ける形となった。
また覚醒者として幻獣を希望する者には、団員と共に幻獣の森を訪れていた。ちなみに、初めて訪れた幻獣の森で新人の覚醒者を前に幻獣王を名乗って偉そうにしている馬鹿も確認されている。
「ああ……ちょうどいい。レオン」
振り返った八重樫は、一人の青年を呼んだ。
強化人間から覚醒者へと変わり、このラズモネ・シャングリラへ転戦した青年だ。ブロンドの髪を短く刈り込んだ軍人らしい気構えを感じさせる。
レオンは八重樫が魔導型CAMの操縦を教える者の一人だ。
「八重樫さん」
「訓練は続けているだろうな?」
「はい。シミュレーションを続けています。今、俺達にできるのはこれだけですから」
レオンは八重樫から見ても真面目で実直な男だ。
強化人間となったのも自身の正義感からなのかもしれない。
「レオン。ここにいたのか」
レオンの背後から二人の男が走り寄ってくる。
一人は線が細いが落ち着いた雰囲気の青年。
もう一人は褐色の肌を持つ体格の良い青年である。
「シーツとブロックか。訓練は怠るな。いつでも出撃できるように備えろ」
「はい。自分は今すぐにでも出撃できる事を待ち望んでますよ。歪虚の連中に一泡吹かせてやりますぜ」
自身に満ちたブロックの答え。強気を隠さないのは若さ故か。
それをシーツが軽く諫める。
「ブロック。その言葉遣いは失礼にあたる」
「まっ! うちの艦に新たなイケメンが来たザマス!?」
一人興奮する恭子。人の出入りが激しい為、新人のイケメンチェックにまで気が回らなかったのだろう。
「あ、あの艦長……?」
「三人とも、もう行っていい」
恭子が怪しい反応を見せたと同時に八重樫は早々にレオンを退散させる。
戸惑いながらもその場を離れるレオン。
「ああ……」
「それより。できればあの新人達には実戦を学ばせたい」
シミュレーションの時間は十分だ。
できれば、何かの任務で実戦を経験させたい。
八重樫はそう考えているようだ。
「実戦ザマスか。うーん、すぐには任務がないザマスが……」
「なんだ?」
「実戦経験豊富なハンターさんにお願いしてはどうザマショ? 新人育成なら経験もあるはずザマス。きっと彼らを訓練しながらいろいろな事を教えてくれるはずザマス。
先輩として良いアドバイスを後輩に。
そしていつしか先輩と後輩がイケない関係に……」
「バアさんそこまでだ。別世界にまでその思想を広めないでくれ」
●
冒険都市リゼリオなる街は、傍目から見ても不思議な光景だ。
タイムスリップした訳でもないのに、本のイラストで見たような光景。これがこの世界では当たり前なのだ。
先の話では既にホープへ移動して専用ドック建設の手伝いをしているらしい。
今から慌てていっても仕方ない。
愛機が動けるようになるには、もう少し時間がかかる。
整備が完了するまでは街の酒場で時間を潰すとしよう。
「いらっしゃい」
マスターの低い声が聞こえる。
周囲を見回せば見た事もない連中が多い。
だが、そんな事は関係ない。バーのカウンターに座れば、そこは孤独な男達が集まる空間となる。
「何にしましょう?」
マスターが問いかける。
俺は決まって、こう答える。
「ウイスキー。ダブルで。それから氷は少なくしてくれ。氷で冷えちまうと、俺を待ってる女が俺の体を心配しちまうからな」
リプレイ本文
男は、ウイスキーの瓶に口を付けて一気に煽った。
食道に流れ込むアルコールが、喉を焼いていく。
普通ならばこんな飲み方はしない。
だが、この男はそうじゃない。これがこの男にとっての『普通』なのだ。
「酒の味は地球と一緒か。できれば、葉巻の方もあるといいんだがなぁ」
そう言いながら男は、葉巻に火を付ける。
煙が風に舞上げられていく。
男は、見据える。
――西の空を。
「よし。いっちょやってやるか!」
●
「今日は特別にハンターと戦闘訓練を行ってもらう」
ホープの空に山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)の声が木霊する。
ラズモネ・シャングリラの整備用ドックがこの地に建造される事になったが、同時にラズモネ・シャングリラにも元強化人間の新兵が配属されてきた。
しかし、強化人間としての戦闘経験はあるものの、CAMの戦闘はシミュレーションのみ。
今後実戦で経験させてやりたいが、歪虚との戦いが激化する可能性は高い。
そこでハンターを招聘して実戦に近い形での戦いを行う事となった。
「大丈夫ですよ。経験はあったとしても機体は古い奴が混じってますし」
新兵のブロックが魔導型デュミナスの操縦席で笑いを堪えている。
夜のような黒を基調に深紅のアクセントを付けた魔導型ドミニオン――夜天一式改「戦鬼」。
その操縦者であるオウカ・レンヴォルト(ka0301)は、ブロックの機体を黙って見つめていた。
「……この機体を笑うか」
「あ、いえ……」
怒られると思って慌てるブロック。
だが、オウカはブロックを前に怒る様子は見せない。
「旧式と甘く見るなら、お前達は何もできずに負ける」
オウカは静かに闘志を燃やす。
旧式とされるが新型CAMや幻獣が投入される中でも、ドミニオンの機体性能は数多の戦場を渡ってきた。決して侮って良い相手ではない事を新兵達へ教えなければ。
「ブロック、ハンターはわざわざこの為に来てくれたんだ。笑うもんじゃない」
同じく新兵のブロックはシーツを窘める。
自信があって豪快なブロックに対して、シーツは冷静なタイプのようだ。
「あなた達と同じ魔導型デュミナスのPhobosに乗っています。よろしくお願いします」
魔導型デュミナス『Phobos』で訓練に望むのはクオン・サガラ(ka0018)。
丁寧な口調のクオンを前に新兵達は少々緊張の糸を緩める。
これから胸を借りる相手ではあるが、新兵達もさすがに経験の違いは心得ている。既に厳しい態度で臨まれると思っていたので少し安心したのだろう。
シーツも少しだけ笑顔を見せる。
「宜しくお願い……」
「お願いしますっ!」
そんなシーツの声を書き消さんばかりの大声で応えるハンス。
前向きな性格で曲がったことが嫌いなハンス。実直だが不器用で生真面目。
クオンはその姿を見つめながら、心の中でそっと呟いた。
(とりあえず、『厳しい現実』を直視してもらいますか)
●
「装備換装Type-B特殊仕様。……アルフェウス・エンゲージ!」
訓練開始と同時にワイバーン『ティロ』と共にマリナ アルフェウス(ka6934)は上空へと舞い上がる。
訓練上は複数のコンテナが設置されたフィールド。
屋外で行われる以上、空を飛べるティロは重要な存在だ。
そして、マリナと連携する形で前に出たのはイリエスカ(ka6885)。
「模擬戦って全然経験ないから、なんだかワクワクしちゃうね!」
喜びに満ちたイリエスカは、コンフェッサー『Rampage Claw』で一気に新兵達との間合いを詰める。
マリナの視界からは西側よりスタートしたハンター達に対して、東側に布陣した新兵達が三人固まって防御姿勢を取っているのがよく分かる。
「有効射程に留意せよ。懐に入られた時に備えサブアームを持つといいだろう」
マリナは魔導スマートフォンでイリエスカへ指示を出す。
この訓練でマリナには一つの誓いがあった。
それは――
『初依頼での失敗を二度と犯さない』
というものだ。新兵の訓練に対してマリアは、ある種の失敗経験があった。
相手に対して全力で挑めば、新兵はどうなるか。
マリアはそれを痛い程理解した。
だからこそ、今度はそのような失敗を絶対に繰り返さない。
加減はするが、手は抜かない。
それがマリアの中での課題であった。
「敵は新兵。アサルトライフルの迎撃に注意されたし」
「分かってるって!」
新兵へ肉薄するイリエスカ。
それに対して一段となっていた新兵達はアサルトライフルによる銃撃で対応する。
「シーツ、八時方向から敵だ! 援護を頼むっ!」
「了解」
ハンスのデュミナスはしゃがみ撃ちの姿勢でRampage Clawをアサルトライフルで狙い撃ち。
さらにその後方ではシーツのデュミナスも立ったままでアサルトライフルを構える。
「おっと!」
二機から発射される弾丸は超接近戦を得意とするRampage Clawへ襲い掛かる。
マリアの忠告が無ければそのまま突進していただろうが、事前情報のおかげで苦も無くコンテナの影へ飛び込んだ。
この隙に上空からマリアのスペルライフル「オルデン」の威嚇射撃が炸裂する。
ハンスの足元に地面に突き刺さるオルデンの弾丸。
反射的にハンスはアサルトライフルの銃口を空に向けて立ち上がってしまう。
「うおっ! 上空からか!」
ハンスはマリアに向けてアサルトライフルを向ける。
だが、それはRampage Clawを狙っていた銃口が減る事を意味している。
ハンスの行為が一瞬隙を作る。
「ボクのCAM捌きを、新人くん達に見せつけちゃうよー!」
滑り込むRampage Claw。
デュミナスとRampage Clawの距離は――手の届く範囲となった。
そしてそれは、Rampage Clawがもっとも得意とする距離だ。
「それっ!」
ビームクロー「ウーニャシーカ」による一撃。
訓練である為、威力は抑えられているが、戦場で放たれていれば致命的なダメージを与えかねない一撃だ。
「ハンスっ!」
呼び掛けるシーツ。
だが、ハンスの機体が吹き飛ばされた後、Rampage Clawはシーツの機体の目前に――。
●
一方、ブロックの機体には戦鬼が迫っていた。
「うわぁぁぁぁ!」
アサルトライフルを乱射するブロック。
狙いも定めておらず、ブレた銃身から放たれた弾丸が明後日の方向に飛んでいく。
斬艦刀「雲山」を手にした戦鬼は、怯えるブロックのデュミナスを追い詰める。
だが、敢えて決定的な一撃は加えない。
「見た目での判断は、戦いの場において死に直結する。初見ならば尚更見た目で判断するな」
オウカの言葉だ。
戦う前ならば旧式のCAMだと甘く見ていたブロック。
戦鬼を発見した段階で前に出て迎撃を試みていたが、オウカはブロックを巧みに使ってデュミナスへ接近。死角付く形で何度も斬りつけていた。
これが本当の戦場であれば、ブロックは何度倒されているか分からない。
何処から攻撃されたのか分からなくなったブロックはパニックを起こしたようだ。
「くそぉ!」
屈辱で頭に血が上ったのか。はたまた、逆に落ち着いたのか。
デュミナスを直立させてアサルトライフルを構え直すブロック。
その銃口はしっかりと戦火を捉えている。
だが、この時点でブロックはミスを犯している。
敵対している相手は戦火一機ではない事に――。
「うわっ!」
突如ペイント弾がブロックのデュミナスに直撃する。
見れば、フライトフレーム「アディード」で上空からPhobosがキヅカキャノンの砲撃を行ったのだ。
「これが本物だったら、その機体はとっくに吹き飛んでいますね」
「…………くっ」
ブロックは思わず奥歯を噛み締めた。
確かに二対一の戦いではあった。ブロックが不利なのは間違いない。しかし、おそらく逆に二対四であったとしても結果は見えていた。
オウカとクオンは明確な役割分担が為されていたからだ。
接近戦を挑みながら敵の死角を付く戦いを仕掛けたオウカの戦火。
キヅカキャノンによる砲撃で後方から支援に努めていたクオンのPhobos。
二機の連携はブロックの鼻っ柱をへし折るには十分過ぎた。
「私からのアドバイスとしては……まず、自分の性格にあった戦術を確立する事とサブウェポンを用意する事ですね」
クオンからの一言。
三人の新兵にはそれぞれ性格が異なり、向き不向きが存在する。
ならば、その三人で役割分担する事ができれば戦い方に広がり方も生まれるはずだ。
「戦術、ですか」
「そうだ。射程の有利は確かにアドバンテージを取りやすい……だが、それを詰められたら逆に不利を押しつけられる。闘いでは有利をぜっていにするのではなく、不利を想定して対策しろ。有利を殺して押しつけられる不利を考えろ」
ブロックはオウカの言葉を耳にして戦い方を思い返してみた。
距離を置こうとしても一歩先を読んで逃げ道を封じられる。
もし、逃げられたとしても、それは逃げられたのではない。オウカが意図してそちらへ逃がしただけだ。コンテナに囲まれた場所へ追い込んで斬り倒す為に。
同時に後方に居るクオンの存在も計算に入れている。クオンが砲撃しやすい位置へ誘い込むケースもあった。
「先を読まれていた訳ですか」
「そうだ。前に出て暴れるだけが戦いじゃない。新型で出撃しても死ぬ時は簡単だ。CAMに乗っているからこそ、気を引き締めろ。死にたくないならな」
工夫と戦術。そして、連携。
ブロックは二人から学ぶ事があまりにも多すぎる。
腰を地面に付けた状態であるブロックのデュミナス。
あっさりと勝負がついた事を確認した八重樫は、新兵とハンターへ通信を入れる。
「よし、一旦休憩だ。新兵達を休めないと体がもたない」
●
休憩に入った新兵達は、椅子に座ってぐったりとしていた。
経験の差は理解していたが、あまりにもその差が大きい事を体感していた。
無理もない。ハンター達は新兵が強化人間になる前よりも歪虚と戦い続けていたのだから。
「あのね。一緒に戦う仲間を信じる事も大事だよー。一緒に戦えば、もっともっと頑張れるんだから」
イリエスカは、そういいながらマリナに抱き付いていた。
その様を見るだけで妙な説得力のあるイリエスカの言葉。事実、ハンスとシーツはマリナとイリエスカの連携を前に何度も翻弄された。これが戦場だったら、何度殺されているか分からない。
「……まったく、皆が見ているぞ?」
「いいじゃん。見せつけてやれば」
傍目からは冷静なマリナに対してイリエスカは楽しそうにスキンシップをしている。
この和やかな雰囲気の二人だが、戦闘になればきっちりとした役割分担と連携で、新兵達のデュミナスはペイントに汚れ放題となった。
「連携ですか。俺達にできるかな?」
自信なさげに呟くハンス。
その様子を見ていたマリナは冷静に言葉を返す。
「連携だけじゃない。もっと様々な状況を想定するんだ」
「想定?」
「そうだ。たとえば……敵の妨害は必ずある。対策しなければいい的だ。それに挑発には乗るな。それはおそらく裏に敵の意図がある」
マリナは上空からハンスとシーツの戦いを見ていた。
だからこそ、二人の動きが手に取るように分かった。
それはイリエスカが取ろうとする行動を理解できていたからこそなのだが、二人はイリエスカの狙い通りに動きすぎた。
「挑発……あ、マテリアルバルーンですか」
シーツの声にイリエスカが答える。
「ピンポーン! そう、よく相手を見ていないから囮にしたマテリアルバルーンを撃っちゃうんだ。マテリアルバルーンに気を取られていたから、ボクとRampage Clawは背後から攻撃できたんだ」
その言葉はハンスにも記憶があった。
敵がいると思って距離を置いた瞬間、それはRampage Clawのマテリアルバルーンだった。
その事に気付いてRampage Clawを探そうとした瞬間、背後からウーニャシーカによる衝撃を何とも受けた。経験が浅い新兵だから仕方ないかもしれないが、本番では経験不足は理由にならない。下手をすれば全滅を招きかねないのだ。
イリエスカのクローズコンバットで瞬く間に倒されたハリスとシーツだが、そこに至る過程を考える必要があるのだ。
「学ぶ事は多そうだな。では、休憩は終わりだ。そろそろ……」
ハンターと新兵のやり取りを見ていた八重樫だが、ここですっと振り返る。
不審な行動にマリナが問いかける。
「何かあったのか?」
「いや、気のせいか? 遠くからキャラピラ音が聞こえた気がしたのだが」
●
休憩の後に再び始まる第二戦。
新兵にとっては過酷だが、ここでへばるようでは歪虚との戦いで命を落としかねない。
せめて体に戦場の感覚を少しでも身につけて貰わなければならない。
「被弾、損傷軽微。戦闘続行」
ティロの体にペイントがへばりつく。
新人のアサルトライフルがティロに命中した瞬間だが、これもマリナの配慮だ。
適度に命中させる事で新人への自信に繋げる。
「……やった!」
「やったなぁ!」
命中を喜ぶハンスだが、その瞬間をイリエスカの脚爪「モーンストルム」が襲いかかる。
だが、ここでマリナが異変に気付く。
「……正体不明の車両が訓練場へ接近中」
「え!?」
マリナの言葉で思わずイリエスカは声を上げる。
上空にいたマリナからはよく見える。
砂煙を巻き上げながら接近する車両。
それは同じく上空にいたクオンからも確認できた。
「あれは……戦車でしょうか。それもかなり大型です」
「戦車だと!?」
クオンの声に八重樫が反応した。
八重樫には思い当たる節がある。
ニダヴェリール奪還の折りに突破口を開くべく反重力爆弾を抱えて特攻した『馬鹿な男』を。
ハンターにより救助されたと聞いていたが、まさか――。
「生まれたてのベイビー相手に訓練か? 俺も参加させろよ」
通信に割り込んできたのは、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉。
戦車型CAM『ヨルズ』に騎乗しての参戦だ。
「ドリスキル! お前、連絡一つ寄越さないで……!」
八重樫の怒声が各機へ飛び込んでくる。
それに対してドリスキルはまったく気にしていない様子だ。
「ヨルズの調整に手間取ってな。それより覚醒者になったばかりの新兵相手の訓練なんだろ? だったらちょうどいい」
「なんだと?」
「俺も覚醒者になったばかりなんだ。ちょっと……胸を借りるぜ、ハンター教官殿!」
唸りを上げるのはヨルズに標準装備された155mm大口径滑空砲。
轟音と共にイリエスカの傍にあったコンテナを一発で吹き飛ばす。
「ちょっと、それ実弾じゃないでしょうね?」
「ああ? ちゃんと訓練用だよ。だが、ペイント弾が間に合わなくてな。特製の暴徒鎮圧弾だ。当たればちょっとばかり痛いかもな」
粉々になったコンテナには飛来中に広がった弾丸があった。
徹甲弾ではないだろうが、こんなものが命中すればさすがに大きなダメージとなるはずだ。
「オウカさん、気を付けて下さい! そちらへ向かっています」
クオンは防御障壁、攻勢防壁、多重性強化で性能を引き上げる。
二体一の状態になっているブロックを助ける為にドリスキルは動き出したようだ。
「闘うのであれば、応えてしかるべき、だな」
戦鬼はブロック機と距離を置く。
こうしている間にもヨルズからは暴徒鎮圧弾を連発している。
おそらく訓練場のコンテナを破壊して動きやすいフィールドを作るつもりだろう。だが、これはオウカにとっても悪いばかりではない。隠れる場所が減ってしまうが、接近戦を挑めばヨルズを追い詰める事も可能だ。
しかし、ただ見守っている訳にもいかない。
「射程距離に入りました。ここから狙います」
上空にいたPhobosはキヅカキャノンでヨルズを狙い撃つ。
照準にヨルズを捉えるPhobos。
だが、その照準の中でヨルズの砲身が持ち上がるのが見える。
「空に上がるなら気をつけろよ。地上からの逆襲をな!」
再び轟音。
Phobosは危険を察知して素早く地上へと降り立った。
空中では分裂した榴弾がバラ撒かれている――対空用榴散弾。
「本当に訓練のつもりなのでしょうか?」
「分からん。だが、来るならば戦い他無い」
戦鬼に近寄るPhobos。
その間にヨルズは訓練場へ到達する。
「待たせたなガキ共! 一旦体勢を立て直す。集合だ!」
ヨルズはRampage Clawに向けて再び暴徒鎮圧弾を放つ。
イリエスカも砲弾を回避する為に、慌てながら近くのコンテナへ機体を回避させる。
「おっさん! これもう訓練じゃないでしょ!」
「おっさんじゃねぇ! ダンディなお兄さんだ!」
イリエスカの文句にドリスキルは言い返す。
負傷していた噂もあったが、どうやら元気にしているようだ。
だが、ハンター達も黙っている訳ではない。
「最終的には気力の勝負。我を押し通せ。自身を貫け。」
マリナはティロに乗ってさらに高度を上げる。
ヨルズの射角で届かない範囲へ逃れる為だ。
そして、バリスタ「プルヴァランス」でフォールシュートを叩き込む。
マテリアルを込めた連続射撃を行う事で、矢の雨がヨルズ周辺へと降り注ぐ。
「やるな、お嬢ちゃん。だけどな、強化人間だってそれなりに経験を積んだのもいるんだぜ」
ヨルズは破壊したコンテナの瓦礫へ乗り上げる。
射角を強引に上空へと向ける為だ。
これで砲身はマリナへと向けられる。
「……!」
「世界が変わったって、やる事は変わらねぇ。それに……諦めた時点で終わりだろ?」
マリナはバレルロールを試みる。
しかし、不規則な移動に食らい付くするドリスキル。飛来する場所へ対空用榴散弾を放つ為だ。
ヨルズの照準器を合わせて狙いを定める。
――が。
「そこまでだ!」
八重樫の怒声が再び発せられる。
その瞬間、マリナとドリスキルも一瞬で我に返る。
思わぬ乱入者によって訓練が中断された瞬間であった。
●
「まっ! ドリスキルさんザマスか!」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)が声を上げる。
それに訓練を終えたばかりのイリエスカが問いかける。
「あれ? 恭子はドリスキルが来るのを知らなかったの?」
「ヨルズの整備で遅れているって連絡はあったザマス。
もう、感動の再会のはずザマスのに……訓練を邪魔してはダメザマス!」
「リハビリだよ、リハビリ」
「リハビリ? かなり本気だったのでは?」
言い訳する横からマリナが釘を刺した。
実際、新兵を指導するよりもヨルズで訓練場を滅茶苦茶にした時間の方が遙かに長いからだ。
「お前達、ありがとうな。ガキ共の面倒見てくれたんだろ?」
「はい。もう少し実戦を積まれた方が良いですね」
ドリスキルの感謝にクオンはそう答える。
確かに新兵が訓練の成果を見せられる戦いがあれば良いのだが。
「どうだろうな。リアルブルーの状況をみれば敵の反撃は激化する事も考えられる。実戦で学んでもらうしかない」
オウカは厳しい現実を敢えて口にした。
あの邪神と黙示騎士達を考えれば、これから激戦が待っている事も想定される。
新兵に経験を積ませる余裕はあるのか――。
だが、ドリスキルは葉巻を咥えながら余裕を見せた。
「大丈夫だろ。お前達もいるんだから」
食道に流れ込むアルコールが、喉を焼いていく。
普通ならばこんな飲み方はしない。
だが、この男はそうじゃない。これがこの男にとっての『普通』なのだ。
「酒の味は地球と一緒か。できれば、葉巻の方もあるといいんだがなぁ」
そう言いながら男は、葉巻に火を付ける。
煙が風に舞上げられていく。
男は、見据える。
――西の空を。
「よし。いっちょやってやるか!」
●
「今日は特別にハンターと戦闘訓練を行ってもらう」
ホープの空に山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)の声が木霊する。
ラズモネ・シャングリラの整備用ドックがこの地に建造される事になったが、同時にラズモネ・シャングリラにも元強化人間の新兵が配属されてきた。
しかし、強化人間としての戦闘経験はあるものの、CAMの戦闘はシミュレーションのみ。
今後実戦で経験させてやりたいが、歪虚との戦いが激化する可能性は高い。
そこでハンターを招聘して実戦に近い形での戦いを行う事となった。
「大丈夫ですよ。経験はあったとしても機体は古い奴が混じってますし」
新兵のブロックが魔導型デュミナスの操縦席で笑いを堪えている。
夜のような黒を基調に深紅のアクセントを付けた魔導型ドミニオン――夜天一式改「戦鬼」。
その操縦者であるオウカ・レンヴォルト(ka0301)は、ブロックの機体を黙って見つめていた。
「……この機体を笑うか」
「あ、いえ……」
怒られると思って慌てるブロック。
だが、オウカはブロックを前に怒る様子は見せない。
「旧式と甘く見るなら、お前達は何もできずに負ける」
オウカは静かに闘志を燃やす。
旧式とされるが新型CAMや幻獣が投入される中でも、ドミニオンの機体性能は数多の戦場を渡ってきた。決して侮って良い相手ではない事を新兵達へ教えなければ。
「ブロック、ハンターはわざわざこの為に来てくれたんだ。笑うもんじゃない」
同じく新兵のブロックはシーツを窘める。
自信があって豪快なブロックに対して、シーツは冷静なタイプのようだ。
「あなた達と同じ魔導型デュミナスのPhobosに乗っています。よろしくお願いします」
魔導型デュミナス『Phobos』で訓練に望むのはクオン・サガラ(ka0018)。
丁寧な口調のクオンを前に新兵達は少々緊張の糸を緩める。
これから胸を借りる相手ではあるが、新兵達もさすがに経験の違いは心得ている。既に厳しい態度で臨まれると思っていたので少し安心したのだろう。
シーツも少しだけ笑顔を見せる。
「宜しくお願い……」
「お願いしますっ!」
そんなシーツの声を書き消さんばかりの大声で応えるハンス。
前向きな性格で曲がったことが嫌いなハンス。実直だが不器用で生真面目。
クオンはその姿を見つめながら、心の中でそっと呟いた。
(とりあえず、『厳しい現実』を直視してもらいますか)
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「装備換装Type-B特殊仕様。……アルフェウス・エンゲージ!」
訓練開始と同時にワイバーン『ティロ』と共にマリナ アルフェウス(ka6934)は上空へと舞い上がる。
訓練上は複数のコンテナが設置されたフィールド。
屋外で行われる以上、空を飛べるティロは重要な存在だ。
そして、マリナと連携する形で前に出たのはイリエスカ(ka6885)。
「模擬戦って全然経験ないから、なんだかワクワクしちゃうね!」
喜びに満ちたイリエスカは、コンフェッサー『Rampage Claw』で一気に新兵達との間合いを詰める。
マリナの視界からは西側よりスタートしたハンター達に対して、東側に布陣した新兵達が三人固まって防御姿勢を取っているのがよく分かる。
「有効射程に留意せよ。懐に入られた時に備えサブアームを持つといいだろう」
マリナは魔導スマートフォンでイリエスカへ指示を出す。
この訓練でマリナには一つの誓いがあった。
それは――
『初依頼での失敗を二度と犯さない』
というものだ。新兵の訓練に対してマリアは、ある種の失敗経験があった。
相手に対して全力で挑めば、新兵はどうなるか。
マリアはそれを痛い程理解した。
だからこそ、今度はそのような失敗を絶対に繰り返さない。
加減はするが、手は抜かない。
それがマリアの中での課題であった。
「敵は新兵。アサルトライフルの迎撃に注意されたし」
「分かってるって!」
新兵へ肉薄するイリエスカ。
それに対して一段となっていた新兵達はアサルトライフルによる銃撃で対応する。
「シーツ、八時方向から敵だ! 援護を頼むっ!」
「了解」
ハンスのデュミナスはしゃがみ撃ちの姿勢でRampage Clawをアサルトライフルで狙い撃ち。
さらにその後方ではシーツのデュミナスも立ったままでアサルトライフルを構える。
「おっと!」
二機から発射される弾丸は超接近戦を得意とするRampage Clawへ襲い掛かる。
マリアの忠告が無ければそのまま突進していただろうが、事前情報のおかげで苦も無くコンテナの影へ飛び込んだ。
この隙に上空からマリアのスペルライフル「オルデン」の威嚇射撃が炸裂する。
ハンスの足元に地面に突き刺さるオルデンの弾丸。
反射的にハンスはアサルトライフルの銃口を空に向けて立ち上がってしまう。
「うおっ! 上空からか!」
ハンスはマリアに向けてアサルトライフルを向ける。
だが、それはRampage Clawを狙っていた銃口が減る事を意味している。
ハンスの行為が一瞬隙を作る。
「ボクのCAM捌きを、新人くん達に見せつけちゃうよー!」
滑り込むRampage Claw。
デュミナスとRampage Clawの距離は――手の届く範囲となった。
そしてそれは、Rampage Clawがもっとも得意とする距離だ。
「それっ!」
ビームクロー「ウーニャシーカ」による一撃。
訓練である為、威力は抑えられているが、戦場で放たれていれば致命的なダメージを与えかねない一撃だ。
「ハンスっ!」
呼び掛けるシーツ。
だが、ハンスの機体が吹き飛ばされた後、Rampage Clawはシーツの機体の目前に――。
●
一方、ブロックの機体には戦鬼が迫っていた。
「うわぁぁぁぁ!」
アサルトライフルを乱射するブロック。
狙いも定めておらず、ブレた銃身から放たれた弾丸が明後日の方向に飛んでいく。
斬艦刀「雲山」を手にした戦鬼は、怯えるブロックのデュミナスを追い詰める。
だが、敢えて決定的な一撃は加えない。
「見た目での判断は、戦いの場において死に直結する。初見ならば尚更見た目で判断するな」
オウカの言葉だ。
戦う前ならば旧式のCAMだと甘く見ていたブロック。
戦鬼を発見した段階で前に出て迎撃を試みていたが、オウカはブロックを巧みに使ってデュミナスへ接近。死角付く形で何度も斬りつけていた。
これが本当の戦場であれば、ブロックは何度倒されているか分からない。
何処から攻撃されたのか分からなくなったブロックはパニックを起こしたようだ。
「くそぉ!」
屈辱で頭に血が上ったのか。はたまた、逆に落ち着いたのか。
デュミナスを直立させてアサルトライフルを構え直すブロック。
その銃口はしっかりと戦火を捉えている。
だが、この時点でブロックはミスを犯している。
敵対している相手は戦火一機ではない事に――。
「うわっ!」
突如ペイント弾がブロックのデュミナスに直撃する。
見れば、フライトフレーム「アディード」で上空からPhobosがキヅカキャノンの砲撃を行ったのだ。
「これが本物だったら、その機体はとっくに吹き飛んでいますね」
「…………くっ」
ブロックは思わず奥歯を噛み締めた。
確かに二対一の戦いではあった。ブロックが不利なのは間違いない。しかし、おそらく逆に二対四であったとしても結果は見えていた。
オウカとクオンは明確な役割分担が為されていたからだ。
接近戦を挑みながら敵の死角を付く戦いを仕掛けたオウカの戦火。
キヅカキャノンによる砲撃で後方から支援に努めていたクオンのPhobos。
二機の連携はブロックの鼻っ柱をへし折るには十分過ぎた。
「私からのアドバイスとしては……まず、自分の性格にあった戦術を確立する事とサブウェポンを用意する事ですね」
クオンからの一言。
三人の新兵にはそれぞれ性格が異なり、向き不向きが存在する。
ならば、その三人で役割分担する事ができれば戦い方に広がり方も生まれるはずだ。
「戦術、ですか」
「そうだ。射程の有利は確かにアドバンテージを取りやすい……だが、それを詰められたら逆に不利を押しつけられる。闘いでは有利をぜっていにするのではなく、不利を想定して対策しろ。有利を殺して押しつけられる不利を考えろ」
ブロックはオウカの言葉を耳にして戦い方を思い返してみた。
距離を置こうとしても一歩先を読んで逃げ道を封じられる。
もし、逃げられたとしても、それは逃げられたのではない。オウカが意図してそちらへ逃がしただけだ。コンテナに囲まれた場所へ追い込んで斬り倒す為に。
同時に後方に居るクオンの存在も計算に入れている。クオンが砲撃しやすい位置へ誘い込むケースもあった。
「先を読まれていた訳ですか」
「そうだ。前に出て暴れるだけが戦いじゃない。新型で出撃しても死ぬ時は簡単だ。CAMに乗っているからこそ、気を引き締めろ。死にたくないならな」
工夫と戦術。そして、連携。
ブロックは二人から学ぶ事があまりにも多すぎる。
腰を地面に付けた状態であるブロックのデュミナス。
あっさりと勝負がついた事を確認した八重樫は、新兵とハンターへ通信を入れる。
「よし、一旦休憩だ。新兵達を休めないと体がもたない」
●
休憩に入った新兵達は、椅子に座ってぐったりとしていた。
経験の差は理解していたが、あまりにもその差が大きい事を体感していた。
無理もない。ハンター達は新兵が強化人間になる前よりも歪虚と戦い続けていたのだから。
「あのね。一緒に戦う仲間を信じる事も大事だよー。一緒に戦えば、もっともっと頑張れるんだから」
イリエスカは、そういいながらマリナに抱き付いていた。
その様を見るだけで妙な説得力のあるイリエスカの言葉。事実、ハンスとシーツはマリナとイリエスカの連携を前に何度も翻弄された。これが戦場だったら、何度殺されているか分からない。
「……まったく、皆が見ているぞ?」
「いいじゃん。見せつけてやれば」
傍目からは冷静なマリナに対してイリエスカは楽しそうにスキンシップをしている。
この和やかな雰囲気の二人だが、戦闘になればきっちりとした役割分担と連携で、新兵達のデュミナスはペイントに汚れ放題となった。
「連携ですか。俺達にできるかな?」
自信なさげに呟くハンス。
その様子を見ていたマリナは冷静に言葉を返す。
「連携だけじゃない。もっと様々な状況を想定するんだ」
「想定?」
「そうだ。たとえば……敵の妨害は必ずある。対策しなければいい的だ。それに挑発には乗るな。それはおそらく裏に敵の意図がある」
マリナは上空からハンスとシーツの戦いを見ていた。
だからこそ、二人の動きが手に取るように分かった。
それはイリエスカが取ろうとする行動を理解できていたからこそなのだが、二人はイリエスカの狙い通りに動きすぎた。
「挑発……あ、マテリアルバルーンですか」
シーツの声にイリエスカが答える。
「ピンポーン! そう、よく相手を見ていないから囮にしたマテリアルバルーンを撃っちゃうんだ。マテリアルバルーンに気を取られていたから、ボクとRampage Clawは背後から攻撃できたんだ」
その言葉はハンスにも記憶があった。
敵がいると思って距離を置いた瞬間、それはRampage Clawのマテリアルバルーンだった。
その事に気付いてRampage Clawを探そうとした瞬間、背後からウーニャシーカによる衝撃を何とも受けた。経験が浅い新兵だから仕方ないかもしれないが、本番では経験不足は理由にならない。下手をすれば全滅を招きかねないのだ。
イリエスカのクローズコンバットで瞬く間に倒されたハリスとシーツだが、そこに至る過程を考える必要があるのだ。
「学ぶ事は多そうだな。では、休憩は終わりだ。そろそろ……」
ハンターと新兵のやり取りを見ていた八重樫だが、ここですっと振り返る。
不審な行動にマリナが問いかける。
「何かあったのか?」
「いや、気のせいか? 遠くからキャラピラ音が聞こえた気がしたのだが」
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休憩の後に再び始まる第二戦。
新兵にとっては過酷だが、ここでへばるようでは歪虚との戦いで命を落としかねない。
せめて体に戦場の感覚を少しでも身につけて貰わなければならない。
「被弾、損傷軽微。戦闘続行」
ティロの体にペイントがへばりつく。
新人のアサルトライフルがティロに命中した瞬間だが、これもマリナの配慮だ。
適度に命中させる事で新人への自信に繋げる。
「……やった!」
「やったなぁ!」
命中を喜ぶハンスだが、その瞬間をイリエスカの脚爪「モーンストルム」が襲いかかる。
だが、ここでマリナが異変に気付く。
「……正体不明の車両が訓練場へ接近中」
「え!?」
マリナの言葉で思わずイリエスカは声を上げる。
上空にいたマリナからはよく見える。
砂煙を巻き上げながら接近する車両。
それは同じく上空にいたクオンからも確認できた。
「あれは……戦車でしょうか。それもかなり大型です」
「戦車だと!?」
クオンの声に八重樫が反応した。
八重樫には思い当たる節がある。
ニダヴェリール奪還の折りに突破口を開くべく反重力爆弾を抱えて特攻した『馬鹿な男』を。
ハンターにより救助されたと聞いていたが、まさか――。
「生まれたてのベイビー相手に訓練か? 俺も参加させろよ」
通信に割り込んできたのは、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉。
戦車型CAM『ヨルズ』に騎乗しての参戦だ。
「ドリスキル! お前、連絡一つ寄越さないで……!」
八重樫の怒声が各機へ飛び込んでくる。
それに対してドリスキルはまったく気にしていない様子だ。
「ヨルズの調整に手間取ってな。それより覚醒者になったばかりの新兵相手の訓練なんだろ? だったらちょうどいい」
「なんだと?」
「俺も覚醒者になったばかりなんだ。ちょっと……胸を借りるぜ、ハンター教官殿!」
唸りを上げるのはヨルズに標準装備された155mm大口径滑空砲。
轟音と共にイリエスカの傍にあったコンテナを一発で吹き飛ばす。
「ちょっと、それ実弾じゃないでしょうね?」
「ああ? ちゃんと訓練用だよ。だが、ペイント弾が間に合わなくてな。特製の暴徒鎮圧弾だ。当たればちょっとばかり痛いかもな」
粉々になったコンテナには飛来中に広がった弾丸があった。
徹甲弾ではないだろうが、こんなものが命中すればさすがに大きなダメージとなるはずだ。
「オウカさん、気を付けて下さい! そちらへ向かっています」
クオンは防御障壁、攻勢防壁、多重性強化で性能を引き上げる。
二体一の状態になっているブロックを助ける為にドリスキルは動き出したようだ。
「闘うのであれば、応えてしかるべき、だな」
戦鬼はブロック機と距離を置く。
こうしている間にもヨルズからは暴徒鎮圧弾を連発している。
おそらく訓練場のコンテナを破壊して動きやすいフィールドを作るつもりだろう。だが、これはオウカにとっても悪いばかりではない。隠れる場所が減ってしまうが、接近戦を挑めばヨルズを追い詰める事も可能だ。
しかし、ただ見守っている訳にもいかない。
「射程距離に入りました。ここから狙います」
上空にいたPhobosはキヅカキャノンでヨルズを狙い撃つ。
照準にヨルズを捉えるPhobos。
だが、その照準の中でヨルズの砲身が持ち上がるのが見える。
「空に上がるなら気をつけろよ。地上からの逆襲をな!」
再び轟音。
Phobosは危険を察知して素早く地上へと降り立った。
空中では分裂した榴弾がバラ撒かれている――対空用榴散弾。
「本当に訓練のつもりなのでしょうか?」
「分からん。だが、来るならば戦い他無い」
戦鬼に近寄るPhobos。
その間にヨルズは訓練場へ到達する。
「待たせたなガキ共! 一旦体勢を立て直す。集合だ!」
ヨルズはRampage Clawに向けて再び暴徒鎮圧弾を放つ。
イリエスカも砲弾を回避する為に、慌てながら近くのコンテナへ機体を回避させる。
「おっさん! これもう訓練じゃないでしょ!」
「おっさんじゃねぇ! ダンディなお兄さんだ!」
イリエスカの文句にドリスキルは言い返す。
負傷していた噂もあったが、どうやら元気にしているようだ。
だが、ハンター達も黙っている訳ではない。
「最終的には気力の勝負。我を押し通せ。自身を貫け。」
マリナはティロに乗ってさらに高度を上げる。
ヨルズの射角で届かない範囲へ逃れる為だ。
そして、バリスタ「プルヴァランス」でフォールシュートを叩き込む。
マテリアルを込めた連続射撃を行う事で、矢の雨がヨルズ周辺へと降り注ぐ。
「やるな、お嬢ちゃん。だけどな、強化人間だってそれなりに経験を積んだのもいるんだぜ」
ヨルズは破壊したコンテナの瓦礫へ乗り上げる。
射角を強引に上空へと向ける為だ。
これで砲身はマリナへと向けられる。
「……!」
「世界が変わったって、やる事は変わらねぇ。それに……諦めた時点で終わりだろ?」
マリナはバレルロールを試みる。
しかし、不規則な移動に食らい付くするドリスキル。飛来する場所へ対空用榴散弾を放つ為だ。
ヨルズの照準器を合わせて狙いを定める。
――が。
「そこまでだ!」
八重樫の怒声が再び発せられる。
その瞬間、マリナとドリスキルも一瞬で我に返る。
思わぬ乱入者によって訓練が中断された瞬間であった。
●
「まっ! ドリスキルさんザマスか!」
ラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)が声を上げる。
それに訓練を終えたばかりのイリエスカが問いかける。
「あれ? 恭子はドリスキルが来るのを知らなかったの?」
「ヨルズの整備で遅れているって連絡はあったザマス。
もう、感動の再会のはずザマスのに……訓練を邪魔してはダメザマス!」
「リハビリだよ、リハビリ」
「リハビリ? かなり本気だったのでは?」
言い訳する横からマリナが釘を刺した。
実際、新兵を指導するよりもヨルズで訓練場を滅茶苦茶にした時間の方が遙かに長いからだ。
「お前達、ありがとうな。ガキ共の面倒見てくれたんだろ?」
「はい。もう少し実戦を積まれた方が良いですね」
ドリスキルの感謝にクオンはそう答える。
確かに新兵が訓練の成果を見せられる戦いがあれば良いのだが。
「どうだろうな。リアルブルーの状況をみれば敵の反撃は激化する事も考えられる。実戦で学んでもらうしかない」
オウカは厳しい現実を敢えて口にした。
あの邪神と黙示騎士達を考えれば、これから激戦が待っている事も想定される。
新兵に経験を積ませる余裕はあるのか――。
だが、ドリスキルは葉巻を咥えながら余裕を見せた。
「大丈夫だろ。お前達もいるんだから」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 マリナ アルフェウス(ka6934) オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/11/07 12:02:20 |
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相談卓 マリナ アルフェウス(ka6934) オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/11/09 18:21:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/05 21:13:26 |