ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずの寒い日
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/08 07:30
- 完成日
- 2015/01/17 01:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
珈琲サロンとぱぁずの東向きの窓は1枚だけ淡い桃色をしている。
「私が、子どもの頃だったかしら……今日みたいに風の強い日があって、飛んできた工具がぶつかって、割れちゃったのよね」
新しい窓ガラスを、当時は店長として店を切り盛りしていた祖父と、当時から珈琲を煎れていたローレンツと3人で探しに行って、ピンクが良いと駄々をこねて困らせたのよ。そう、店長代理のユリアが笑う。
年が変わったある日のこと、工場都市フマーレの商業区に店を構えるとぱぁずは、凍える風の中働く職人や商人達のためにいつも通りの時間に店を開けていた。
それでもこの天気では客足も望めないだろうと、日が落ちればいつもより早く閉める予定だった。
「やあ、開いてて良かったよ!」
ひゅうと吹き抜けていった突風に煽られ、帽子を目深に押さえ、外套の前を掻き合わせ。扉を体で押し開けながら常連の男が入ってきた。
「外はすっごい寒くてさ、帰るに帰れなくなっちまってね。帰ったところで1人なもんだから、ちょっと温まってこうってね――や、ユリアちゃん。お祖父ちゃんは元気かい?」
「いらっしゃい、元気です。ぴんぴんしてます……足を挫いて隠居したのに、この前なんか……ええと、リアルブルーの方に教わったゲーム、何だったかしら?」
ボールを打って、転がして、とメレンゲを作る手が止まる。
忘れちゃったわ、と、かしゃかしゃ再びユリアの手が動き出し、ローレンツが熱いコーヒーを差し出した。
そこへ新たな客が訪れる。
「こんにちは、いや、こんばんは、かな。店の中は温かいね、外は凍えるかと思ったよ……」
常連の男と同じように上着を押さえながら、突風に消された煙草を噛んで入ってきたのは、とぱぁずと同じ商業区で宝石店の店長を務める、まだ若い男だった。
「こんばんは、明かりが見えたから……あれ、満席かな?」
続いて現れたのは、一昨年移住してきた夫婦。編み針と丸めた毛糸を抱えた妻と、ワインのボトルを提げた夫。
近所の住人や常連たち、暖を求めた一見の客で、結局いつもの時間まで店は賑わっていた。
●
外が真っ暗になった頃、がたがたと煩く窓が鳴った。
「嫌な音。外、すごく寒そう……ロロさん、やっぱり今日はもう暫くいてくれる? お客さん追い出して閉めちゃうのも悪いし。お給金弾むから」
オーブンから甘い香りが漂ってくる。
覗けばふっくらとシフォンケーキが焼けていた。
ローレンツがいつもの仏頂面で店内を眺めながら、構わないと答えた。
家族連れの眠ってしまった幼い子どもから、不安げに外を眺める老人まで。確かに追い出しては可哀想だと。
「ユリアちゃん、コーヒーのお代わり貰える?」
「はぁい、すぐに。ロロさんコーヒー1つ」
「――こっちも、良いかしら?」
「――ケーキ焼けたのかい? 1切れ頼めるかな」
「はーい、コーヒーと、ケーキですね……少々お待ち下さい」
広くない店内の、満員の客席の間をくるくると歩き回って、コーヒーを、ケーキを給仕していく。
不意に、がん、がん、と不吉な音が鳴り響いた。
身を竦めて振り返るとピンクの窓にどこからか飛んできたらしいレンチが叩き付けられ、跳ね返っては風に吹き上げられて何度もぶつかっている。
「やだ、割れそう……っ。――ロロさん、ちょっと、頼むわね」
ユリアは寝起きしている2階へ道具箱を取りに走り、託されたローレンツが、ぶっきらぼうにコーヒーを差し出していく。
片腕にラグを抱え、反対の手に金鎚と釘の入った道具箱を提げて、ユリアは階段を駆け下りる。
窓には既にひびが入っていた。
「これで足りるかしら?」
窓に駆け寄り広げたラグを宛がうと、
「――ごめんなさい、ここ押さえていて下さらない?」
窓の近くに座っていたハンター達へ声を掛けた。
珈琲サロンとぱぁずの東向きの窓は1枚だけ淡い桃色をしている。
「私が、子どもの頃だったかしら……今日みたいに風の強い日があって、飛んできた工具がぶつかって、割れちゃったのよね」
新しい窓ガラスを、当時は店長として店を切り盛りしていた祖父と、当時から珈琲を煎れていたローレンツと3人で探しに行って、ピンクが良いと駄々をこねて困らせたのよ。そう、店長代理のユリアが笑う。
年が変わったある日のこと、工場都市フマーレの商業区に店を構えるとぱぁずは、凍える風の中働く職人や商人達のためにいつも通りの時間に店を開けていた。
それでもこの天気では客足も望めないだろうと、日が落ちればいつもより早く閉める予定だった。
「やあ、開いてて良かったよ!」
ひゅうと吹き抜けていった突風に煽られ、帽子を目深に押さえ、外套の前を掻き合わせ。扉を体で押し開けながら常連の男が入ってきた。
「外はすっごい寒くてさ、帰るに帰れなくなっちまってね。帰ったところで1人なもんだから、ちょっと温まってこうってね――や、ユリアちゃん。お祖父ちゃんは元気かい?」
「いらっしゃい、元気です。ぴんぴんしてます……足を挫いて隠居したのに、この前なんか……ええと、リアルブルーの方に教わったゲーム、何だったかしら?」
ボールを打って、転がして、とメレンゲを作る手が止まる。
忘れちゃったわ、と、かしゃかしゃ再びユリアの手が動き出し、ローレンツが熱いコーヒーを差し出した。
そこへ新たな客が訪れる。
「こんにちは、いや、こんばんは、かな。店の中は温かいね、外は凍えるかと思ったよ……」
常連の男と同じように上着を押さえながら、突風に消された煙草を噛んで入ってきたのは、とぱぁずと同じ商業区で宝石店の店長を務める、まだ若い男だった。
「こんばんは、明かりが見えたから……あれ、満席かな?」
続いて現れたのは、一昨年移住してきた夫婦。編み針と丸めた毛糸を抱えた妻と、ワインのボトルを提げた夫。
近所の住人や常連たち、暖を求めた一見の客で、結局いつもの時間まで店は賑わっていた。
●
外が真っ暗になった頃、がたがたと煩く窓が鳴った。
「嫌な音。外、すごく寒そう……ロロさん、やっぱり今日はもう暫くいてくれる? お客さん追い出して閉めちゃうのも悪いし。お給金弾むから」
オーブンから甘い香りが漂ってくる。
覗けばふっくらとシフォンケーキが焼けていた。
ローレンツがいつもの仏頂面で店内を眺めながら、構わないと答えた。
家族連れの眠ってしまった幼い子どもから、不安げに外を眺める老人まで。確かに追い出しては可哀想だと。
「ユリアちゃん、コーヒーのお代わり貰える?」
「はぁい、すぐに。ロロさんコーヒー1つ」
「――こっちも、良いかしら?」
「――ケーキ焼けたのかい? 1切れ頼めるかな」
「はーい、コーヒーと、ケーキですね……少々お待ち下さい」
広くない店内の、満員の客席の間をくるくると歩き回って、コーヒーを、ケーキを給仕していく。
不意に、がん、がん、と不吉な音が鳴り響いた。
身を竦めて振り返るとピンクの窓にどこからか飛んできたらしいレンチが叩き付けられ、跳ね返っては風に吹き上げられて何度もぶつかっている。
「やだ、割れそう……っ。――ロロさん、ちょっと、頼むわね」
ユリアは寝起きしている2階へ道具箱を取りに走り、託されたローレンツが、ぶっきらぼうにコーヒーを差し出していく。
片腕にラグを抱え、反対の手に金鎚と釘の入った道具箱を提げて、ユリアは階段を駆け下りる。
窓には既にひびが入っていた。
「これで足りるかしら?」
窓に駆け寄り広げたラグを宛がうと、
「――ごめんなさい、ここ押さえていて下さらない?」
窓の近くに座っていたハンター達へ声を掛けた。
リプレイ本文
●
押さえてほしいと差し出されたラグの角を捕まえ、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)はオーケィと頷いた。視線の合ったサントール・アスカ(ka2820)に反対側の角を示し、長身の2人で窓の高さに合わせて位置を決める。
「借りても良いかな?」
サントールがユリアの提げた道具箱へ手を伸ばし、釘と金鎚をでこんこんと軽く打ち付けてラグを止めた。
「丹々、もってるよー」
丹々(ka3767)がユリアに声を掛けて道具箱を受け取り、窓辺に集まるハンター達から一歩離れてそれを差し出す。
「任せなさい。こういうことは得意なの。これくらいの釘、有るかしら? それから金鎚も取って下さる?」
ジオラの横から手を伸ばし、下の半分を押さえるクォ・ルァシュ・フォレイラ(ka2891)が振り返る。
ミリエル=フェリアンナ(ka3626)が片手をラグに添えながら、丹々と道具箱を覗いて釘を探す。
「これですか?」
クォは差し出された釘を受け取り、反対側を白水 燈夜(ka0236)と共に打ち付ける。
「んしょ」
白水は角と数ヵ所をラグが緩まないように打ち付け、ちらりと視線を上向かせる。
そこにはリズミカルに釘を打つサントールとジオラがいた。上の作業も終わる。
「……何食ったらそんな育つんだろ」
踵を軽く浮かせて、顔の高さでもう1箇所止める。
「出来た。こんな感じで良いだろう」
「よし」
サントールが金鎚を仕舞い、ジオラもラグをぽんと軽く叩いて確かめる。
手際よく進められた作業に思わず見入っていたユリアが、はたと気付いて肩を竦めた。
「ありがとう、助かったわ。皆さんもゆっくりしていって? ハンターさん、いつも忙し――」
言葉を遮るように突風の音と、ラグにぶつかる衝撃が響いた。
「きゃっ……ふふ、間に合って良かった。本当にありがとう」
ユリアは窓の割れた様子に高い声を上げながら、それが店内に飛び込まなかったことに安堵し、6人に深く頭を下げる。その背後からローレンツの声が飛ぶ。
「――ユリア君、クッキー焦げるよ」
●
風の音がうるさく、窓もラグも氷のように冷たい。寛ぐばかりは性に合わないなと、ジオラはカウンターへ向かう。
「店を手伝おうかな、酒場の店主の血が騒ぐ」
「あたしはちょっと休もうかしら?」
ジオラが冗談めかして告げた言葉に、向かいの席で店内を眺めるクォは、いってらっしゃいと見送った。
「俺も……ここのコーヒー、飲んでみたいな」
カウンターの席に掛けたサントールが頬杖を突いて、ローレンツの手元に視線を向けた。
温めた広口のケトルの上に豆を詰めたネルを構え、沸かした湯は蓋を開けて暫し冷ます。湯をネルの中の豆に染み込ませて蒸らしながら……と、ここでローレンツは視線に気付き、「気になるのか」とサントールを一瞥した。
大きめのネルとケトルで数杯分を一度に煎れると、しゃがれた声でユリアを呼んだ。
「――注文ならユリア君に言ってくれ」
「いや、俺もギルドでコーヒーを煎れているので」
「……ふん。店か」
入れ立てのコーヒーをカップに一杯、サントールの前に出しながらローレンツは独り言のように尋ねた。
「ええ、珈琲専門店……」
「行ってみたいな。偶には……煎れてもらって飲みたいものだ」
コーヒーのケトルを取りに来たユリアが、私が下手だからずっとそう言ってるの、とサントールに耳打ちした。
ケトルとトレーとカップを手に、ユリアがホールへと向かう。
「手伝うよ」
ジオラが声を掛けると、それならあちらへとトレーに乗せた一杯を託された。
あちらと示されたのはクォの席だ。くるりとステップを踏むように向かい、はぁい、おまち、と溌剌と声を響かせると、クォの咳払いが返された。
「こら、珈琲カップをジョッキみたいに出さないの」
トレーを小脇にジオラが肩を揺らして笑うと、叱るように指を立てたクォも釣られて相好を崩した。
すぅとジオラが息を吸う。
こつん、とヒールの刻むリズムに乗せて歌を紡ぐ。
赤い衣をさらりと捨てて
火風の調べに身を焦がす
「あら、お上手。もう一杯頂きたくなったわ」
クォがカップで隠す口元で笑む。
歌声を響かせながら、ユリアからケトルを受け取り、コーヒーを注いではテーブルを巡っていく。
からりからりくるりと回る
響けば、嗚呼なんとかぐわしき
聞き入る客の中には若い顔や、まだ幼い顔もある。頬の赤らめた少女がジオラの歌声を辿って歌い始めた。
「先週のが、飲み頃だな……からりからりくるりと回る、か……」
ローレンツが思いついたように呟いて、棚から缶を取り出した。缶からスプーンに計った豆をミルに移す。歌のフレーズを繰り返し取っ手をゆっくり回し始めた。
白水は厨房に戻るユリアを待って声を掛けた。
「店内は足りてそうだから。こっちで何か手伝うことあるかなと思って……料理は得意なんだ」
厨房へのドアを開け、ユリアが白水を招く。
「チョコレート有る? 寒いから、フォンダンショコラ食いたいな……」
「嬉しい。私も好きなの」
ふわりと柔らかく笑む白水の言葉に、ユリアも目を細めながら材料を調理台に並べた。
粉を混ぜて、チョコレートを刻んで。
「――お店のレシピだと、どんな感じ? コーヒーに合うかな」
「ええ、ばっちり」
棚から引っ張り出された古いレシピを眺めながら混ぜ終えた材料をカップへ丁寧に注いでいく。
並べて後は、オーブンへ。
●
店内に焼き上がるチョコレートの芳ばしい香りが広がる。
談笑の満ちた店内で、丹々とミリエルが振り返った。
「ふぅ……焼けた」
最初の一個に粉砂糖を塗しフォークを立てる。チョコレートの零れる生地は美味しそうに焼けていた。
「うん、上手く出来た……――コーヒーって、苦くないのって、ないかな?」
完成に頬を緩めながら白水が尋ねる。そうねと首を傾がせたユリアが、出したままのミルクに目を留める。
「そうね……カフェオレを作りましょう」
ミルクパンを火に掛けていると、丹々とミリエルもカウンターに集まった。
「丹々もてつだうよー。これ運ぶ?」
トレーに並べたフォンダンショコラを指して尋ねる。入れ立てのカフェオレを添えて、ユリアがテーブルを1つ示した。
「お願いしてもいいかしら?」
「うん。あのお客さん? あは、丹々と同じくらいの子がいるとこだね」
いってきますと声を高らかに、少し重たいトレーを両手でしっかりと掴んで丁寧に運んでいく。
家族連れのテーブルには丹々と同じ年頃の子どもと、母親の腕に抱かれた赤子。
「おまたせしました!」
にっこり声を掛けると、風の音に窓を睨んでいた子どもが丹々の方へと向き直った。
「わ、私も、……あの――お手伝い、します」
座っていることも落ち着かず、手伝いの申し出も強張って、こくりと息を飲んで耳まで顔を赤くしながら、俯き気味の視線を揺らす。
「あら、ありがとう。ロロさん、お手伝いして下さるそうよ!」
ユリアが呼んだローレンツは何度目かの豆をミルに計ったところだった。眉間の皺をひくりとさせて、赤面した少女に顰め面の視線を向ける。皺の多い手が軽く招き、弾かれたように駆け寄ったミリエルに、無言でミルを押しやった。
「え、っと……これは……」
「ゆっくり、回すんだ。からりからりくるり、だ」
ミリエルが取っ手に手を掛けるとローレンツは隣で湯を豆に落とし始めた。視線を向けると無愛想で真剣な顔がじっとコーヒーを見詰めている。
「可愛い女の子が手伝ってくれて照れてるの、アレで結構喜んでるのよ」
ホールから下げた皿とカップをシンクへ積んで、洗い物を始めながらユリアがミリエルの耳元で囁いてくすりと笑う。
白水もカウンターの席に移り、ガトーショコラの味見をしながら2人を眺めた。
隣に座る常連の男が1皿受け取り、美味しい美味しいと楽しげに言う。
「君、料理上手いね、ハンターだっけ。何でもやるんだね」
白水が頷き、カップを揺らしながら相槌を添える。
「でも、ここの事はまだまだ知らないことが多い……です」
そうか、と男は眦の皺を増やしながら頷いて、君の世界の話を聞きたいと言う。
「――じゃあ、リアルブルーの話を……」
丹々は同じテーブルで子どもやその両親と喋りながら、甘いカフェオレを飲んでいた。
母親がふと話止めて腕を揺らす。
「寝ちゃったわ……寝てる内に帰れないかしら……?」
「やだ、寒いよ……」
そう抗議する子どもも眠たいのか頻りに目を擦って、何度も欠伸を堪えている。
丹々はじっと耳を済ませた。まだ風は強そうだ。暗い窓を見詰めれば泣き出しそうな子どもが映っている。父親も宥めようとはしているが、子どもは口を結んで首を振る。
「ねえ、いっしょに帰っても良い?」
丹々は子どもに手を伸ばしながら尋ねた。一緒にと首を傾げた子どもに、うん、と1つ頷いてみせる。
「丹々もおなじ方に帰るから、お話の続き聞かせて?」
聞かせてくれた、この町の話。そう言うと眠たげだった目を瞠って、子どもはいいよとはにかむ。「一緒に帰ろう」という手から温かさが伝わってきた。
「……ユリアちゃん、あたしら帰ろうと思うんだけど、いいかな」
「あら、可愛い寝顔。温かくして帰って下さいね――あと、ドアはすぐ閉めちゃうんで……」
見送りも出来ないけれどとユリアはその場で会釈を1つ。
家族と丹々は素早く外へ、ドアを閉めた。
フマーレはね、と暗い道を歩き、白い息を吐きながら子どもが語る。
「しゅーしゅーとか、かんかんとか、好き! いつか、すごい職人になるんだー」
夢が叶うと良いと喋りながら、歩いて行くと家族の家が見えてきた。足を止めた子どもが上着のポケットを探る。
「あのねー、これ。あげる」
丹々の手に乗せられたのは、ナッツの小さな包みだった。
「あら、食べなかったの? ――一緒に来てくれてありがとう、良かったら貰ってやって」
「うんっ。ありがとう! ばいばい」
母親が笑って会釈する。丹々が手を振ると、子どもは大きく腕を伸ばして応えた。
●
サントールとクォにコーヒーを出して、ローレンツはそれと分かる程楽しげに2人を眺めている。
「偶に焙煎もするんだ。客には、滅多に出さんがね」
「それは、どうも……良い香りだ」
「豆は同じなのかしら?」
「お生憎様、渋い浅煎りの方がお好みだったかな?」
ローレンツが口角を上げてクォを見た。香りを見るように一杯手元に置きながら、豆はジェオルジからユリアの祖父である店長が買い付けていると話す。だから、豆の種類はこれ1つきりと。
「……偶に生で仕入れて自分で炒ってはみるんだが、そちらの店長さんの眼鏡に適うとは嬉しいね――お嬢さんも。コーヒーは好きなんだろう?」
クォは尖らせた口をカップに寄せて視線を落として頷いた。
「まあね、いろんな種類があるって聞いたんだけど……スタンダードな物、高級な物」
ちょっと、飲んでみたかったのよと、目を伏せ呟く。ローレンツが挽いた豆を練ネルに移すと、芳ばしい香りが漂ってきた。
「うちのは同盟の一級品だってのが、店長の口癖でね」
「あらそう。……まあ、悪く無いわね――私も、そっち手伝おうかしら。洗い物溜まってそうだし」
クォがユリアを呼び止めカウンターへ向かう。
店を眺めてサントールはローレンツの手元へ視線を戻した。
「いつも、ネルフィルターを?」
「昔からこれでね」
透明な湯が細かな泡を浮かせながらゆっくりと円を描いて香りを広げる。
「スパイスなんかも……使ってなさそうですね」
「そんなのはあっちだ。ユリア君に聞いてくれ」
ネルから湯が下がると豆を捨てて、ローレンツは包みを1つサントールの手元に放り投げた。
「ユリア君が気に入って店に置いてるんだが、どうにも好かない。持ってってくれ」
どこにでも有る見慣れたナッツの包みだった。
コーヒー好きの若いお客さんが嬉しいのよ、とクォをシンクの前に招いて、皿を濯ぎながらユリアが囁く。
「そうなの?」
「私も、コーヒーは、苦い薬草を思い出してしまって……」
「……俺も。さっきのカフェオレの方がいいな」
クォは意外そうな顔を見せたが、ミリエルは首を横に揺らし。カウンターから覗いた白水も甘い方が好きだと肩を竦める。
洗って濯いで拭う流れ作業をこなしながら、ユリアは片手間にミルクを沸かす。
「――大分落ち着いたし、休みましょうか。カフェオレ、どう?」
温かなカフェオレに、ちょっと摘まめる菓子を添えて。
●
あるテーブルから楽しげな笑い声が響く。
「そう! 工業区にでっかい水車を運んだ。ごろごろやって楽しかったな」
ジオラがトレーを見立てに大振りなジェスチャーで語ると、年嵩のテーブルからは拍手が上がる。
職人達は、彼らの街の話しを嬉しそうに聞き、その笑う声はカウンターにも届いた。
「またあの子が騒いでる」
肩を竦めてくすくすと、クォが穏やかに目を細めて微笑む。聞こえる声に向けた視線が合うとジオラはにぃと歯を見せて手を振った。
「あたしはこっちを手伝っているの。あんたもしゃんとしなさいよ」
はーい、と笑いながらトレーに空いたカップを集めていく。
トレーに重なったカップが危なっかしく揺れると、クォがドレスの裾を翻して駆け寄った。
「もう、気をつけなさい。――って、言われるような年でもないんだから」
「どうも。心配を掛けしましたー……飲んでたんじゃ無かったのか」
ジオラがカウンターを示すと、クォは手を添えたトレーの上、ジオラの手元へ包みを1つ。
「あんたもどうぞ。店長代理から、だそうよ?」
「それは、それは」
持って来てくれたのかと茶化すように細めた目が、嬉しげな色を帯びて。
ミリエルと白水は休憩を終えると客席を回る。
退屈そうな席の傍らで話し相手になりながら、騒がしい風をやり過ごす。
夜も大分更けた頃、もう品切れだと笑いながらユリアとローレンツも2人の側の椅子に掛けた。
悪戯に人目を忍んで、2人の手にそれぞれ1包みずつ握らせる。
「あ。ありがとうございます……お好きなんですか?」
驚いて声を上げたミリエルの白く細い手に重なった皺だらけの手が指を跳ねさせる。ローレンツはふん、と鼻を鳴らしてすぐにカウンターに戻っていった。
ミリエルは零れそうな瞳を揺らして瞬き、白水も首を傾がせた。
「大好きよ。ちょっとでも切らすと、すぐ拗ねちゃうの」
手伝いの礼って、自分で言えば良いのにとユリアが口を尖らせる。瞠っていたミリエルの目が柔らかく弧を描いた。
「皆さん、今日は助かったわ……外は寒いのに、店はいつもより温かかったくらい」
ハンター達を見渡しながら店長代理がそう告げた。
はぁ、と悴む指先を吐息で温める。
丹々がポケットに触れると冷たい指がその包みの輪郭を辿る。
いっしょの方があたたかい、と繋いでいた手の温もりが蘇り、くしゃりと頬を染めて笑った。
押さえてほしいと差し出されたラグの角を捕まえ、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)はオーケィと頷いた。視線の合ったサントール・アスカ(ka2820)に反対側の角を示し、長身の2人で窓の高さに合わせて位置を決める。
「借りても良いかな?」
サントールがユリアの提げた道具箱へ手を伸ばし、釘と金鎚をでこんこんと軽く打ち付けてラグを止めた。
「丹々、もってるよー」
丹々(ka3767)がユリアに声を掛けて道具箱を受け取り、窓辺に集まるハンター達から一歩離れてそれを差し出す。
「任せなさい。こういうことは得意なの。これくらいの釘、有るかしら? それから金鎚も取って下さる?」
ジオラの横から手を伸ばし、下の半分を押さえるクォ・ルァシュ・フォレイラ(ka2891)が振り返る。
ミリエル=フェリアンナ(ka3626)が片手をラグに添えながら、丹々と道具箱を覗いて釘を探す。
「これですか?」
クォは差し出された釘を受け取り、反対側を白水 燈夜(ka0236)と共に打ち付ける。
「んしょ」
白水は角と数ヵ所をラグが緩まないように打ち付け、ちらりと視線を上向かせる。
そこにはリズミカルに釘を打つサントールとジオラがいた。上の作業も終わる。
「……何食ったらそんな育つんだろ」
踵を軽く浮かせて、顔の高さでもう1箇所止める。
「出来た。こんな感じで良いだろう」
「よし」
サントールが金鎚を仕舞い、ジオラもラグをぽんと軽く叩いて確かめる。
手際よく進められた作業に思わず見入っていたユリアが、はたと気付いて肩を竦めた。
「ありがとう、助かったわ。皆さんもゆっくりしていって? ハンターさん、いつも忙し――」
言葉を遮るように突風の音と、ラグにぶつかる衝撃が響いた。
「きゃっ……ふふ、間に合って良かった。本当にありがとう」
ユリアは窓の割れた様子に高い声を上げながら、それが店内に飛び込まなかったことに安堵し、6人に深く頭を下げる。その背後からローレンツの声が飛ぶ。
「――ユリア君、クッキー焦げるよ」
●
風の音がうるさく、窓もラグも氷のように冷たい。寛ぐばかりは性に合わないなと、ジオラはカウンターへ向かう。
「店を手伝おうかな、酒場の店主の血が騒ぐ」
「あたしはちょっと休もうかしら?」
ジオラが冗談めかして告げた言葉に、向かいの席で店内を眺めるクォは、いってらっしゃいと見送った。
「俺も……ここのコーヒー、飲んでみたいな」
カウンターの席に掛けたサントールが頬杖を突いて、ローレンツの手元に視線を向けた。
温めた広口のケトルの上に豆を詰めたネルを構え、沸かした湯は蓋を開けて暫し冷ます。湯をネルの中の豆に染み込ませて蒸らしながら……と、ここでローレンツは視線に気付き、「気になるのか」とサントールを一瞥した。
大きめのネルとケトルで数杯分を一度に煎れると、しゃがれた声でユリアを呼んだ。
「――注文ならユリア君に言ってくれ」
「いや、俺もギルドでコーヒーを煎れているので」
「……ふん。店か」
入れ立てのコーヒーをカップに一杯、サントールの前に出しながらローレンツは独り言のように尋ねた。
「ええ、珈琲専門店……」
「行ってみたいな。偶には……煎れてもらって飲みたいものだ」
コーヒーのケトルを取りに来たユリアが、私が下手だからずっとそう言ってるの、とサントールに耳打ちした。
ケトルとトレーとカップを手に、ユリアがホールへと向かう。
「手伝うよ」
ジオラが声を掛けると、それならあちらへとトレーに乗せた一杯を託された。
あちらと示されたのはクォの席だ。くるりとステップを踏むように向かい、はぁい、おまち、と溌剌と声を響かせると、クォの咳払いが返された。
「こら、珈琲カップをジョッキみたいに出さないの」
トレーを小脇にジオラが肩を揺らして笑うと、叱るように指を立てたクォも釣られて相好を崩した。
すぅとジオラが息を吸う。
こつん、とヒールの刻むリズムに乗せて歌を紡ぐ。
赤い衣をさらりと捨てて
火風の調べに身を焦がす
「あら、お上手。もう一杯頂きたくなったわ」
クォがカップで隠す口元で笑む。
歌声を響かせながら、ユリアからケトルを受け取り、コーヒーを注いではテーブルを巡っていく。
からりからりくるりと回る
響けば、嗚呼なんとかぐわしき
聞き入る客の中には若い顔や、まだ幼い顔もある。頬の赤らめた少女がジオラの歌声を辿って歌い始めた。
「先週のが、飲み頃だな……からりからりくるりと回る、か……」
ローレンツが思いついたように呟いて、棚から缶を取り出した。缶からスプーンに計った豆をミルに移す。歌のフレーズを繰り返し取っ手をゆっくり回し始めた。
白水は厨房に戻るユリアを待って声を掛けた。
「店内は足りてそうだから。こっちで何か手伝うことあるかなと思って……料理は得意なんだ」
厨房へのドアを開け、ユリアが白水を招く。
「チョコレート有る? 寒いから、フォンダンショコラ食いたいな……」
「嬉しい。私も好きなの」
ふわりと柔らかく笑む白水の言葉に、ユリアも目を細めながら材料を調理台に並べた。
粉を混ぜて、チョコレートを刻んで。
「――お店のレシピだと、どんな感じ? コーヒーに合うかな」
「ええ、ばっちり」
棚から引っ張り出された古いレシピを眺めながら混ぜ終えた材料をカップへ丁寧に注いでいく。
並べて後は、オーブンへ。
●
店内に焼き上がるチョコレートの芳ばしい香りが広がる。
談笑の満ちた店内で、丹々とミリエルが振り返った。
「ふぅ……焼けた」
最初の一個に粉砂糖を塗しフォークを立てる。チョコレートの零れる生地は美味しそうに焼けていた。
「うん、上手く出来た……――コーヒーって、苦くないのって、ないかな?」
完成に頬を緩めながら白水が尋ねる。そうねと首を傾がせたユリアが、出したままのミルクに目を留める。
「そうね……カフェオレを作りましょう」
ミルクパンを火に掛けていると、丹々とミリエルもカウンターに集まった。
「丹々もてつだうよー。これ運ぶ?」
トレーに並べたフォンダンショコラを指して尋ねる。入れ立てのカフェオレを添えて、ユリアがテーブルを1つ示した。
「お願いしてもいいかしら?」
「うん。あのお客さん? あは、丹々と同じくらいの子がいるとこだね」
いってきますと声を高らかに、少し重たいトレーを両手でしっかりと掴んで丁寧に運んでいく。
家族連れのテーブルには丹々と同じ年頃の子どもと、母親の腕に抱かれた赤子。
「おまたせしました!」
にっこり声を掛けると、風の音に窓を睨んでいた子どもが丹々の方へと向き直った。
「わ、私も、……あの――お手伝い、します」
座っていることも落ち着かず、手伝いの申し出も強張って、こくりと息を飲んで耳まで顔を赤くしながら、俯き気味の視線を揺らす。
「あら、ありがとう。ロロさん、お手伝いして下さるそうよ!」
ユリアが呼んだローレンツは何度目かの豆をミルに計ったところだった。眉間の皺をひくりとさせて、赤面した少女に顰め面の視線を向ける。皺の多い手が軽く招き、弾かれたように駆け寄ったミリエルに、無言でミルを押しやった。
「え、っと……これは……」
「ゆっくり、回すんだ。からりからりくるり、だ」
ミリエルが取っ手に手を掛けるとローレンツは隣で湯を豆に落とし始めた。視線を向けると無愛想で真剣な顔がじっとコーヒーを見詰めている。
「可愛い女の子が手伝ってくれて照れてるの、アレで結構喜んでるのよ」
ホールから下げた皿とカップをシンクへ積んで、洗い物を始めながらユリアがミリエルの耳元で囁いてくすりと笑う。
白水もカウンターの席に移り、ガトーショコラの味見をしながら2人を眺めた。
隣に座る常連の男が1皿受け取り、美味しい美味しいと楽しげに言う。
「君、料理上手いね、ハンターだっけ。何でもやるんだね」
白水が頷き、カップを揺らしながら相槌を添える。
「でも、ここの事はまだまだ知らないことが多い……です」
そうか、と男は眦の皺を増やしながら頷いて、君の世界の話を聞きたいと言う。
「――じゃあ、リアルブルーの話を……」
丹々は同じテーブルで子どもやその両親と喋りながら、甘いカフェオレを飲んでいた。
母親がふと話止めて腕を揺らす。
「寝ちゃったわ……寝てる内に帰れないかしら……?」
「やだ、寒いよ……」
そう抗議する子どもも眠たいのか頻りに目を擦って、何度も欠伸を堪えている。
丹々はじっと耳を済ませた。まだ風は強そうだ。暗い窓を見詰めれば泣き出しそうな子どもが映っている。父親も宥めようとはしているが、子どもは口を結んで首を振る。
「ねえ、いっしょに帰っても良い?」
丹々は子どもに手を伸ばしながら尋ねた。一緒にと首を傾げた子どもに、うん、と1つ頷いてみせる。
「丹々もおなじ方に帰るから、お話の続き聞かせて?」
聞かせてくれた、この町の話。そう言うと眠たげだった目を瞠って、子どもはいいよとはにかむ。「一緒に帰ろう」という手から温かさが伝わってきた。
「……ユリアちゃん、あたしら帰ろうと思うんだけど、いいかな」
「あら、可愛い寝顔。温かくして帰って下さいね――あと、ドアはすぐ閉めちゃうんで……」
見送りも出来ないけれどとユリアはその場で会釈を1つ。
家族と丹々は素早く外へ、ドアを閉めた。
フマーレはね、と暗い道を歩き、白い息を吐きながら子どもが語る。
「しゅーしゅーとか、かんかんとか、好き! いつか、すごい職人になるんだー」
夢が叶うと良いと喋りながら、歩いて行くと家族の家が見えてきた。足を止めた子どもが上着のポケットを探る。
「あのねー、これ。あげる」
丹々の手に乗せられたのは、ナッツの小さな包みだった。
「あら、食べなかったの? ――一緒に来てくれてありがとう、良かったら貰ってやって」
「うんっ。ありがとう! ばいばい」
母親が笑って会釈する。丹々が手を振ると、子どもは大きく腕を伸ばして応えた。
●
サントールとクォにコーヒーを出して、ローレンツはそれと分かる程楽しげに2人を眺めている。
「偶に焙煎もするんだ。客には、滅多に出さんがね」
「それは、どうも……良い香りだ」
「豆は同じなのかしら?」
「お生憎様、渋い浅煎りの方がお好みだったかな?」
ローレンツが口角を上げてクォを見た。香りを見るように一杯手元に置きながら、豆はジェオルジからユリアの祖父である店長が買い付けていると話す。だから、豆の種類はこれ1つきりと。
「……偶に生で仕入れて自分で炒ってはみるんだが、そちらの店長さんの眼鏡に適うとは嬉しいね――お嬢さんも。コーヒーは好きなんだろう?」
クォは尖らせた口をカップに寄せて視線を落として頷いた。
「まあね、いろんな種類があるって聞いたんだけど……スタンダードな物、高級な物」
ちょっと、飲んでみたかったのよと、目を伏せ呟く。ローレンツが挽いた豆を練ネルに移すと、芳ばしい香りが漂ってきた。
「うちのは同盟の一級品だってのが、店長の口癖でね」
「あらそう。……まあ、悪く無いわね――私も、そっち手伝おうかしら。洗い物溜まってそうだし」
クォがユリアを呼び止めカウンターへ向かう。
店を眺めてサントールはローレンツの手元へ視線を戻した。
「いつも、ネルフィルターを?」
「昔からこれでね」
透明な湯が細かな泡を浮かせながらゆっくりと円を描いて香りを広げる。
「スパイスなんかも……使ってなさそうですね」
「そんなのはあっちだ。ユリア君に聞いてくれ」
ネルから湯が下がると豆を捨てて、ローレンツは包みを1つサントールの手元に放り投げた。
「ユリア君が気に入って店に置いてるんだが、どうにも好かない。持ってってくれ」
どこにでも有る見慣れたナッツの包みだった。
コーヒー好きの若いお客さんが嬉しいのよ、とクォをシンクの前に招いて、皿を濯ぎながらユリアが囁く。
「そうなの?」
「私も、コーヒーは、苦い薬草を思い出してしまって……」
「……俺も。さっきのカフェオレの方がいいな」
クォは意外そうな顔を見せたが、ミリエルは首を横に揺らし。カウンターから覗いた白水も甘い方が好きだと肩を竦める。
洗って濯いで拭う流れ作業をこなしながら、ユリアは片手間にミルクを沸かす。
「――大分落ち着いたし、休みましょうか。カフェオレ、どう?」
温かなカフェオレに、ちょっと摘まめる菓子を添えて。
●
あるテーブルから楽しげな笑い声が響く。
「そう! 工業区にでっかい水車を運んだ。ごろごろやって楽しかったな」
ジオラがトレーを見立てに大振りなジェスチャーで語ると、年嵩のテーブルからは拍手が上がる。
職人達は、彼らの街の話しを嬉しそうに聞き、その笑う声はカウンターにも届いた。
「またあの子が騒いでる」
肩を竦めてくすくすと、クォが穏やかに目を細めて微笑む。聞こえる声に向けた視線が合うとジオラはにぃと歯を見せて手を振った。
「あたしはこっちを手伝っているの。あんたもしゃんとしなさいよ」
はーい、と笑いながらトレーに空いたカップを集めていく。
トレーに重なったカップが危なっかしく揺れると、クォがドレスの裾を翻して駆け寄った。
「もう、気をつけなさい。――って、言われるような年でもないんだから」
「どうも。心配を掛けしましたー……飲んでたんじゃ無かったのか」
ジオラがカウンターを示すと、クォは手を添えたトレーの上、ジオラの手元へ包みを1つ。
「あんたもどうぞ。店長代理から、だそうよ?」
「それは、それは」
持って来てくれたのかと茶化すように細めた目が、嬉しげな色を帯びて。
ミリエルと白水は休憩を終えると客席を回る。
退屈そうな席の傍らで話し相手になりながら、騒がしい風をやり過ごす。
夜も大分更けた頃、もう品切れだと笑いながらユリアとローレンツも2人の側の椅子に掛けた。
悪戯に人目を忍んで、2人の手にそれぞれ1包みずつ握らせる。
「あ。ありがとうございます……お好きなんですか?」
驚いて声を上げたミリエルの白く細い手に重なった皺だらけの手が指を跳ねさせる。ローレンツはふん、と鼻を鳴らしてすぐにカウンターに戻っていった。
ミリエルは零れそうな瞳を揺らして瞬き、白水も首を傾がせた。
「大好きよ。ちょっとでも切らすと、すぐ拗ねちゃうの」
手伝いの礼って、自分で言えば良いのにとユリアが口を尖らせる。瞠っていたミリエルの目が柔らかく弧を描いた。
「皆さん、今日は助かったわ……外は寒いのに、店はいつもより温かかったくらい」
ハンター達を見渡しながら店長代理がそう告げた。
はぁ、と悴む指先を吐息で温める。
丹々がポケットに触れると冷たい指がその包みの輪郭を辿る。
いっしょの方があたたかい、と繋いでいた手の温もりが蘇り、くしゃりと頬を染めて笑った。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/04 21:20:58 |
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ラグ張りとその後のことについて サントール・アスカ(ka2820) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/06 13:39:14 |