ゲスト
(ka0000)
【空蒼】再会~親愛なる者たちへ【郷祭】
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/13 09:00
- 完成日
- 2018/11/23 02:37
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
月面基地の地下にある病院。
病室で入院していた畑本は、強化人間だった。
いや、『強化人間になった』という方が、正しいのだろうか。
時折、怪我の痛みで目が覚めてしまい、畑本は、眠れない日々が続いていた。
トマーゾ教授のおかげもあり、畑本は元の穏やかな性格に戻っていたが、身体までは治すことができなかった。
そう思っていた……ある日のこと。
見舞客が訪れた。
「畑本……俺だ。分かるか?」
少しやつれたようにも見えたが、畑本には分かった。
「……田中……」
親友の名を呼ぶだけで、精一杯だった。
互いに、しばらく無言……それから、田中が話し始めた。
「俺は、脱出シャトルに乗って、月まで辿り着いた。病院に『畑本』という男性が入院していると聞いてな。いてもたってもいられず、来てしまったが……迷惑だったか?」
「迷惑かけたのは、私の方だ。お前も気が付いているだろう。私が、イクシード・アプリを使ったことを……だから、ここへ……運ばれたんだ。私は妻と娘を助けることができたが……その後、暴走していたようだ。その頃の記憶は曖昧だ。だが、赤いエクスシアに乗っていた青年に拘束されたことは、何故か……覚えている。彼は、覚醒者だったのだろうか? それとも、俺と同じく、何かを守るために、強化人間になったのだろうか?」
畑本には、知る由もなかった。
自分を捕獲したのは、OF-004というコードネームを持つ青年だということを。
「そうか。地球で君がいなくなった後、君の奥さんと娘さんが、俺の所へ来て、それから一緒に、脱出シャトルに乗ることができた」
田中はそう言いながらも、少し躊躇いがちにも見えた。
「愛子と瑠伊は……?」
震える手で、畑本が尋ねた。
「……まだ、会えていない。脱出シャトルには二人とも乗っていた。俺が二人の行方を探してみよう。きっと、崑崙のどこかにいるはずだ」
田中が、力強く、畑本の手を握り締めた。
「……ありがとう」
その一言で、気が緩んだのか、畑本は泣き崩れた。
●
翌日。
病院のフロアで、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)と名乗るハンターと出会った。
「畑本 愛子と、その娘である瑠伊を探しているのだが、何か思い当たることはないか?」
田中が人探しをしていることに気付き、マクシミリアンから声をかけたのだ。
「……データか、参考になりそうな物はあるか?」
マクシミリアンの問いかけに、田中は一枚の写真を取りだした。
「この写真に写っている女性と少女だ。この二人に見覚えはないか?」
「……今のところ、ないが……俺も探してみよう」
マクシミリアンの返答を聞いて、田中は安堵の溜息をついた。
「助かるよ。俺一人で探すとなると、時間がかかるし……できれば、赤いエクスシアに乗っていた青年とも会ってみたいが、そこまでは難しいか」
「赤いエクスシア? 見たことがあるのか? 会いたいというのは、何故だ?」
マクシミリアンが、やや鋭い眼差しだったこともあり、田中は恐る恐る応えた。
「俺ではなく、俺の親友が見たらしい。会いたいのは、礼を言いたいからだ。親友を助けてくれたから……まあ、正確に言うと、『捕まった』ということなんだが……」
そこまで言うと、田中は黙り込んだ。
察するマクシミリアン。
「田中の親友というのは、強化人間だな。だから、OF-004に捕まった後、月基地に運ばれた……そういうことか?」
「……そうだ。俺の親友は、家族を守るためにイクシード・アプリを使った。大切な者たちを救うためには、VOIDを倒せるだけの『力』が必要だった。親友の気持ちに偽りはない」
田中は、地球にいた頃、イクシード・アプリには懐疑的であった。だからこそ、最後の最後まで使うことはしなかった。
だが、畑本が家族を守るためにイクシード・アプリを使ったことは、間違っていないと思いたかった。
●
一方。
ラキ(kz0002)が本部にて、声をかけていたハンターたちが、少しずつ集まってきた。
「大きな戦いが続いたしさ、同盟の『郷祭』に参加して息抜きしようよ。気分転換になると思うよ」
自由都市同盟、農耕推進地域ジェオルジ近辺にある小さな村へと辿り着いた。
楽しそうに出店を廻るラキ。
美味しいそうな匂いが漂う店ばかり選ぶのは、ラキの好みだろう。
「最近、タパスが流行ってるらしいよ。あたしも食べたことあるけど、すっごく美味しいから、食べてみて」
ジュースや飲み物を販売している店もあった。
広場からは、定期的に訪れている音楽隊の曲が流れていた。
歌や踊りを披露している者たちもいて、見物している客たちが楽しそうに笑い合っていた。
気掛かりなこともあるが、改めて、ラキは実感していた。
笑顔は、それだけで、人を幸せにしてくれるということを……。
月面基地の地下にある病院。
病室で入院していた畑本は、強化人間だった。
いや、『強化人間になった』という方が、正しいのだろうか。
時折、怪我の痛みで目が覚めてしまい、畑本は、眠れない日々が続いていた。
トマーゾ教授のおかげもあり、畑本は元の穏やかな性格に戻っていたが、身体までは治すことができなかった。
そう思っていた……ある日のこと。
見舞客が訪れた。
「畑本……俺だ。分かるか?」
少しやつれたようにも見えたが、畑本には分かった。
「……田中……」
親友の名を呼ぶだけで、精一杯だった。
互いに、しばらく無言……それから、田中が話し始めた。
「俺は、脱出シャトルに乗って、月まで辿り着いた。病院に『畑本』という男性が入院していると聞いてな。いてもたってもいられず、来てしまったが……迷惑だったか?」
「迷惑かけたのは、私の方だ。お前も気が付いているだろう。私が、イクシード・アプリを使ったことを……だから、ここへ……運ばれたんだ。私は妻と娘を助けることができたが……その後、暴走していたようだ。その頃の記憶は曖昧だ。だが、赤いエクスシアに乗っていた青年に拘束されたことは、何故か……覚えている。彼は、覚醒者だったのだろうか? それとも、俺と同じく、何かを守るために、強化人間になったのだろうか?」
畑本には、知る由もなかった。
自分を捕獲したのは、OF-004というコードネームを持つ青年だということを。
「そうか。地球で君がいなくなった後、君の奥さんと娘さんが、俺の所へ来て、それから一緒に、脱出シャトルに乗ることができた」
田中はそう言いながらも、少し躊躇いがちにも見えた。
「愛子と瑠伊は……?」
震える手で、畑本が尋ねた。
「……まだ、会えていない。脱出シャトルには二人とも乗っていた。俺が二人の行方を探してみよう。きっと、崑崙のどこかにいるはずだ」
田中が、力強く、畑本の手を握り締めた。
「……ありがとう」
その一言で、気が緩んだのか、畑本は泣き崩れた。
●
翌日。
病院のフロアで、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)と名乗るハンターと出会った。
「畑本 愛子と、その娘である瑠伊を探しているのだが、何か思い当たることはないか?」
田中が人探しをしていることに気付き、マクシミリアンから声をかけたのだ。
「……データか、参考になりそうな物はあるか?」
マクシミリアンの問いかけに、田中は一枚の写真を取りだした。
「この写真に写っている女性と少女だ。この二人に見覚えはないか?」
「……今のところ、ないが……俺も探してみよう」
マクシミリアンの返答を聞いて、田中は安堵の溜息をついた。
「助かるよ。俺一人で探すとなると、時間がかかるし……できれば、赤いエクスシアに乗っていた青年とも会ってみたいが、そこまでは難しいか」
「赤いエクスシア? 見たことがあるのか? 会いたいというのは、何故だ?」
マクシミリアンが、やや鋭い眼差しだったこともあり、田中は恐る恐る応えた。
「俺ではなく、俺の親友が見たらしい。会いたいのは、礼を言いたいからだ。親友を助けてくれたから……まあ、正確に言うと、『捕まった』ということなんだが……」
そこまで言うと、田中は黙り込んだ。
察するマクシミリアン。
「田中の親友というのは、強化人間だな。だから、OF-004に捕まった後、月基地に運ばれた……そういうことか?」
「……そうだ。俺の親友は、家族を守るためにイクシード・アプリを使った。大切な者たちを救うためには、VOIDを倒せるだけの『力』が必要だった。親友の気持ちに偽りはない」
田中は、地球にいた頃、イクシード・アプリには懐疑的であった。だからこそ、最後の最後まで使うことはしなかった。
だが、畑本が家族を守るためにイクシード・アプリを使ったことは、間違っていないと思いたかった。
●
一方。
ラキ(kz0002)が本部にて、声をかけていたハンターたちが、少しずつ集まってきた。
「大きな戦いが続いたしさ、同盟の『郷祭』に参加して息抜きしようよ。気分転換になると思うよ」
自由都市同盟、農耕推進地域ジェオルジ近辺にある小さな村へと辿り着いた。
楽しそうに出店を廻るラキ。
美味しいそうな匂いが漂う店ばかり選ぶのは、ラキの好みだろう。
「最近、タパスが流行ってるらしいよ。あたしも食べたことあるけど、すっごく美味しいから、食べてみて」
ジュースや飲み物を販売している店もあった。
広場からは、定期的に訪れている音楽隊の曲が流れていた。
歌や踊りを披露している者たちもいて、見物している客たちが楽しそうに笑い合っていた。
気掛かりなこともあるが、改めて、ラキは実感していた。
笑顔は、それだけで、人を幸せにしてくれるということを……。
リプレイ本文
●廻る月
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は、本部にてハンター登録の手伝いをしていたが、休憩時間になり、控室で一休みしていた。
「脱出シャトルで、月に辿り着いたリアルブルー人がいるのは聞いてたけど、あの人たち……無事だったのかしら?」
一息ついた頃、控室から出ると、何やらマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が忙しそうに資料を眺めていた。
「やっほー。マクシミリアン♪ 何か調査でもしてるの?」
相変わらずポーカーフェイスのマクシミリアンであったが、カーミンが気さくに声をかけた。
「畑本 愛子と、その娘、瑠伊の行方を捜している。崑崙のどこかにいるはずなんだがな」
「そういうことだったら、私に任せなさいよ。情報屋としては、見逃せない案件ね。ランチ1回で手伝うわよ? 私の勘では、予想がつくけど」
カーミンが不敵な笑みを浮かべた。
「そうか。手伝ってくれると助かる。礼は、二人を無事に見つけてからだ」
マクシミリアンがそう告げると、カーミンはOKとばかりにウィンク。
こうして、二人は互いに協力して崑崙へと向かうことになった。
崑崙の地下。
ドームは破壊されており、人々は地下で生活していた。
病院のフロアで、マクシミリアンと田中が合流していると聞き付け、ジャック・エルギン(ka1522)が助太刀に来てくれた。
「田中って、あん時、名古屋のビルに捕まってた議員か?」
ジャックにそう言われて、田中は思い出したようだ。
「あの時は、礼も言えなかったが、助けてくれて、ありがとう」
案の定、赤いエクスシアに乗っていたOF-004の話題が出たが、ジャックは深く触れないようにしていた。田中の親友にとって、OF-004は命の恩人だ。彼がどうなってしまったのか、ジャックは知っていたが、相手の気持ちを思うと本当のことが言えなかった。畑本の立場を考えると尚更だ。
「親友の家族を探してるらしいな。そういうことだったら、俺も手伝うぜ」
ジャックたちが話し合っていると、アンネマリー・リースロッド(ka0519)とルシオ・セレステ(ka0673)が事情を知って、やってきた。
アンネマリーは、シャトル護衛をして、ここに辿り着いたが、シャトルに乗っていた人々がどうなってしまったのか気になっていたのだ。
「まずは、お役所へ行ってみようと思います。何か分かりましたら、マクシミリアンさんに報告しますね」
ルシオには、気になる点があった。
「夫が入院していると知ったら、ご家族も探したり、病院へすぐに来るとは思うけど、何か事情があって、ここに来れない訳があるかもしれないね」
そこに着目したルシオは、田中から許可を取って、畑本の家族写真を魔導スマートフォンのカメラ機能で撮影した。
「これなら、マクシミリアンと手分けして、探すこともできるね」
ルシオは、リアルブルーで出会った強化人間の子供たちを思い出し、他人事ではないと感じていた。
だからこそ、畑本の家族を見つけ出したいと思っていた。それも見舞いの一環になると考えていたからだ。
「私は、学校とか、児童施設とか、廻って調べてみるわ」
カーミンは、マクシミリアンに同行していた。ジャックが笑みを浮かべる。
「よっ、カーミン。そんじゃ俺は、田中が乗ってたシャトルが到着した場所の周辺で聞き込みするぜ」
「でしたら、ジャックさん、俺がご案内します」
田中は内心、心細かったが、こうして親身になってくれるハンターたちと出会えて、安堵していた。
病院の受付に辿り着いたレイア・アローネ(ka4082)は、見知った男性がいることに気付いた。
久我・御言(ka4137)だ。
「レイア君ではないか。ここで会うとは奇遇だな」
「マクシミリアンから、ここに畑本という強化人間が入院していると聞いてな。何かできることはないかと思って、な」
レイアも、強化人間とは、いろいろとあったようだ。
「私は、畑本という男性が赤いエクスシアを見たという噂を耳にしてな。心当たりがあったから、見舞いにきたという訳だ」
御言は整った白のスーツを着ていた。
レイアからすれば、御言はふざけた男に見えた。というより、そう思っていた。
「御言、必要なら頼れ。私でよければ手を貸そう」
「君が来てくれるなら、場も和むだろうな。では、共に参ろうではないか」
御言は、レイアを連れて、畑本がいる病室へと入った。
「顔色が良さそうで安心したよ。私の名前は久我・御言。ハンターをしている」
「私はレイア・アローネ。気晴らしに話でも、どうかな?」
御言とレイアが、畑本の体調を気遣いながら、挨拶した。
畑本は自己紹介した後、こう告げた。
「ずっと入院してるから話し相手が欲しかったところだよ」
「早速で申し訳ないが、赤いエクスシアに乗っていた青年のことが聞きたい」
御言には、その青年に思い当たることがあった。
畑本が青年の特徴を話していくうちに、御言の想いは確信に満ちた。
「彼は、クドウ・マコト君だな。君と同じく戦う事を選んだ強化人間であり、私の自慢の戦友だ」
「そうなのか! 強化人間でも、ハンターと手を取り合うことができるのだな」
畑本は自分が強化人間であることに後ろめたさがあったが、自分を助けた青年もまた強化人間だと分かり、うれしそうに微笑んでいた。
御言も、思わず笑っていた。自分の知らない所で、クドウが畑本を助けていたとは。
「クドウ君は、人質の女性を救ったこともある。強化人間だろうと覚醒者だろうと関係ない。まあ、彼の場合は『任務だ』と言うだろうがね」
「クドウ・マコトか。会ってみたいものだ。御言の自慢の戦友らしいからな」
微笑むレイア。
「らしいではない。戦友だと、ここで断言しておこうではないか」
至って本気で応じる御言であった。二人の会話を聞いて、畑本は久し振りに声を出して笑っていた。
そして、御言は新たに決意していた。
戦友であるクドウに手を差し伸べることを諦めない、と。
●
見舞客を装い、マリィア・バルデス(ka5848)は、病室のネームプレートを一つ一つ確認していた。
「……ここにも、名前がない、か」
マリィアの想い人は、なかなか見つからなかった。
壁に凭れて、溜息をつく。
強化人間が暴走して、保護された後……。あの時のことは、今でも覚えている。
ここでは、会えなかった。想いだけは募っていく。
もし、再会できたら、あの人はなんと言うだろうか。いつものように遠まわしな台詞で、思わせ振りな態度を取るのかしら?
マリィアは、全ての病室を廻った。
中尉の名前は、ない。
「会えなくて、悲しい……なんて」
マリィアが、呟く。
自分の想いは、あの人に伝えた。一方的な思い込みではないと、確かめたかった。
今度、会えたら……何を伝えようか。
マリィアは、両頬を叩き、気を取り直すように歩き出した。
この一歩が、少しずつでも、あの人の元へと続く様に……。
●
強化人間たちが入院している部屋には、可憐な花が飾られていた。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が、一人一人に贈った花だった。
花を見て、喜んでいる強化人間の少女がいた。
蜜鈴は、そっと見守った後、病院から出ることにした。
どう接したらいいのか、心の整理がつかなかったからだ。
蒼の地は、時間が停止し、邪神の攻撃を食い止めることができた。
それは、一人だけの力ではなく、大勢の人々が『力』を結集して『封印』したのだ。
(生まれた頃から蒼の世界にいたならば、妾は、どう生きていたのじゃろうか)
大切な者たちを守るために使った『力』、蜜鈴には悪とは思えなかった。
力を欲する者たち。それぞれ、動機が異なっていたことを、蜜鈴は目の当たりにしてきた。
凍結した世界で、眠る人々。
(救いたいと願うた妾の想いは、おんし等にとって傲慢に過ぎたのではなかろうか?)
愛別離苦。
扇を持つ手が、微かに震えた。
自分は、世界に比べれば蝶の鱗粉よりも小さき存在。
なれど、今一度、皆が地上で笑いあえる日を願う。
病室から、少女の笑い声が聴こえてきた。
ふと、蜜鈴が我に返り、微笑む。
たとえ小さき力であっても、救えた命もあるのだ。
少女の無邪気な声に、蜜鈴はそう思えてならなかった。
●
畑本が昼食を済ませた後、リーベ・ヴァチン(ka7144)が見舞いに訪れた。
互いに挨拶して、リーベがマクシミリアンから田中の親友が入院していると聞いて訪れたことを告げた。
「クドウ・マコト、そのパイロットのことなら私も知っている。彼に助けられたとか」
「……私が暴走して、暴れていた時に、彼が現れて、捕まったところまでは覚えている。次に気が付いたら、崑崙の地下施設にいて、この病院へ運ばれたようだ。あまり細かい事は覚えてなくてな」
申し訳なさそうに言う畑本に対して、リーベが元気づけるように微笑む。
「私がマコトと出会ったのは、名古屋の山小屋だった。その時、彼は体調があまり良くなかったのだが、私の作ったフレンチトーストを食べてくれてな。それから……」
「何かあったのか?」
「いえ、私も彼のことを全て知っている訳ではありません」
謝罪するリーベを見て、畑本は彼女もまた、クドウと縁のある者だと悟った。
「クドウさんは強化人間だと聞いたが、きっと大切なモノを守るために、その道を選んだのだと、俺は思っているよ」
「……もし、マコトに会えたら、そのことを伝えてみます。ご家族もきっとあなたとの再会を待ち望んでいると思います。どうか御体、大事にしてください」
リーベは、畑本の家族が戻ってくると信じて、一礼すると退室した。
(マコト、お前がしたことは無駄じゃなかったぞ)
誰がなんと言おうと、クドウが畑本を助けたことに変わりはない。
クドウ自身は認めないだろうが、カッツォが欲するほどに心根が綺麗だったのだろう。
リーベには、それが真実であった。
●
その頃。
ルシオが、愛子を発見したことを魔導スマートフォンで報告すると、マクシミリアンが応答した。
『カーミンが、瑠伊を発見した。女性専用の施設に保護されていたようだ』
「愛子は、娘を探して、シャトルが到着した場所で探し廻っていたらしいよ」
ルシオは病院の受付で聞き込みをしたが手掛かりがなく、外へ出て、通りかかった子供たちに写真を見せると「この人、見たことある」と教えてくれたのだ。
お礼にキャンディを手渡したルシオが、辿り着いたのはシャトルが到着した場所。
田中とジャックは、愛子を見つけることができたが、通信手段が無かった。
そこにルシオが現れて、魔導スマートフォンを使い、連絡することができたのだ。
「ルシオ、助かったぜ」
安堵するジャック。
『こちらカーミン、ルイは前日まで熱があったみたいだけど、施設の人たちが看病してくれたおかげで、かなり回復しているから安心して』
魔導パイロットインカムを使い、カーミンからルシオへ連絡が入った。
ルシオたちは愛子を連れて、瑠伊のいる施設へと向かった。
アンネマリーが役所で懸命に職員を説得した甲斐もあり、瑠伊が保護されている施設の場所も特定できた。
「善は急げです」
施設に到着したアンネマリーは、愛子たちが来るまで子供たちの気持ちを落ち着かせようと、リュート「イスペルダーニ」を奏でていた。子供たちには、いつでも笑顔でいてほしいから。
「お母さん!」
「瑠伊!」
そして、ようやく再会した親子。
ジャックたちが見守る中、母は娘を優しく抱き締めていた。
翌日、畑本の病室には、妻と娘の姿があった。
●二つの月
自由都市同盟、ジェオルジ近辺、とある小さな村。
郷祭で賑わう空には、二つの月が浮かんでいた。
穂積 智里(ka6819)はハンス・ラインフェルト(ka6750)に肩を抱かれながら、綿菓子の出店を見ていた。子供の頃、祖父に肩車してもらい、祖母が綿菓子を買ってくれた。懐かしい思い出……いつのまにか、智里の瞳から涙が零れ落ちた。
ハンスは智里の涙を隠すように、彼女を連れて人混みから離れた。
「どうしました、マウジー?」
「大好きなおじいちゃん、おばあちゃん、ここに来ることができませんでした。地球の時間が凍結されただけ……分かってます。それでも……」
涙が止まらない。ハンスが智里の髪を撫でる。
「全ての街の近くにシャトル発着場があったわけではないし、緊急事態でシャトルに乗る人も限られていた。貴女のオーマやオーパなら、きっと人に譲ったことでしょう。不思議なことではありません」
ハンスは智里を優しく抱き寄せ、彼女の額にキスをする。
「ありがとう。ごめんなさい。ハンスさんがいるから、私は大丈夫です。まだ頑張れます」
微笑むハンス。智里を宥めるため、話を変える。
「リアルブルーの月は、こちらの世界へ転移してきて、今では空を見上げれば、月が二つ……動揺していた人もいたようですが、邪神に全てを滅ぼされることがなかった、地球は凍結しているだけ、まだ勝ち目があると前向きな方達が多いようです。私達が勝てばいいだけです。ね?」
今度は、うれしくて涙が溢れてくる。智里が困っている時、いつも傍にいてくれるハンス。
最初はハンスの態度に戸惑ったこともあったが、今では智里にとって、かけがえのない人。
「ハンスさん……私も貴方を包める人になれていますか?」
「フフ、もちろんです。最初から、今、この時も。これからもです」
当たり前のように、ハンスはそう告げた。
鞍馬 真(ka5819)は、いつもの癖が出てしまった。
「せっかく皆が楽しんでいる時に、こういうことをするとはね」
スリをしようとした男の腕を掴み、加減したつもりであったが。
絶叫する男に、周囲の客たちが驚き。真も注目の的になっていた。
「あ、すみません。では、いこうか」
皆に謝りながら、真は男性を連れていく。警備員たちがいるテントへと。
休日でも、ハンターの仕事は忘れない。
「こんなところ、見られたら、休日くらいは休めと、また怒られるかな」
友人の顔が浮かび、真はいつのまにか微笑んでいた。
おや? こうして、笑ったのは、何日振りか?
周囲を見れば、祭りを楽しんでいる人々の笑顔がたくさん。
最近は笑う余裕もなかった。それだけ心に余裕がなかったのかもと、真は思いを巡らせていた。
そう、休むことなど考えてなかった。現状を打破するため、前のめりになっていた。
「時には何も考えずに楽しむことも大切だよね」
自分にそう言い聞かせたら、心の重荷が吹っ切れた。
自然と笑みが零れる。
真は、音楽隊のメンバーに交じって、心ゆくまで歌を唄った。
「人前で歌うのも久し振りだったな。さて、噂のタパスでも食べてみよう」
出店を廻り、真は美味しそうにタパスを食べていた。
その頃。
「ラキちゃん、休憩する場所、見つけたよ。こっちこっち!」
アリア(ka2394)が手招きして、皆をベンチへと誘導する。
ラキ(kz0002)に誘われて、集まってきたハンターたちが、出店で買ったタパスを食べるため、ベンチに座る。
宵待 サクラ(ka5561)は、大勢の人々に少し圧倒されながらも、ワクワクした気持ちが隠せず、目を輝かせながら見物していた。
「ラキさん、今回はお招きありがとう。胃袋の限界に挑戦だー!」
出店の食べ物は全て制覇する勢いで、サクラはラキお勧めのタパスを食べていた。
アリアは両手にエビの串焼きを持ち、買い食いを楽しんでいたが、他の仲間たちを気遣い、ゆっくりと話せる場所を確保してくれたのだ。
「次は、エビの串焼き、いくぞー!」
次々と焼きたてのエビを頬張るサクラ。食欲の秋だ。いっぱい食べるぞと、張り切っていた。
「ディエス様、お久し振りです」
フィロ(ka6966)が呼びかけたこともあり、オートマトンの少年ディエスも遊びに来ていた。
「お誘い、ありがとうございます。フィロさん」
ディエスに会えて、フィロはうれしかった。なのに、思うように笑えなかった。
リアルブルーは、まだ救える方法があった。
だが、エバーグリーンは……。そう考えると、フィロは哀しくて哀しくて、自分が泣いているのか、笑っているのか、分からなくなっていた。
ディエスには、フィロの想いが理解できた。だからこそ、言えること。
「ボクは、フィロさんと出会えてうれしかった。同じ故郷の思い出を話すことができるから」
「……ディエス様」
フィロは、ようやく微笑んでいた。
「やはりお会いできて、うれしいです。ディエス様は、動物がお好きでしたね。犬のグッズがあるお店を見つけましたから、一緒にいきませんか?」
その話を聞いていたラキが、フィロに目配せする。
「フィロさん、ディエス君のこと頼むね」
「かしこまりました。カイゼル様への土産も見繕ってまいりますね。やはりワインが良いでしょうか」
カイゼルとは、トパーズ精霊のことだ。別の場所に祠があるため、今回の村へは来ることができなかったのだ。フィロはディエスと一緒に買い物を楽しむことにした。
「ありがとー。カイゼルは、ここに来れないから土産があれば喜ぶと思うよ」
ラキはそう言いながらも、夢路 まよい(ka1328)の問いかけに、戸惑っていた。
「誤魔化さないで、白状しなさいよ。ラキだって、二人きりで一緒にいたい人とかいるんでしょ?」
まよいが、茶目っ気たっぷりに微笑む。
「そ、そりゃ、あたしだって、できれば、そうしたいけど、相手の都合もあるしさ」
頬を赤らめるラキ。
しめたとばかりに、まよいの瞳が光る。
「やっぱりいるんだぁ。その人って、もしかして」
ラキの耳元で囁いたため、まよいの発言は他の者には聴こえなかった。
「違うよー。そういう、まよいはどうなの?!」
ラキの反撃だ。まよい、言い淀む。
「えっと、戦闘依頼とかではね、一緒に行くことはあるけど、お祭りとか改めて誘うのは気恥ずかしいというか、なんというか」
「いるんだー。まよいと一緒に依頼で参加する人って言えば」
ラキがそこまで言うと、まよいは珍しく慌てていた。
「だから、友達だって!」
「友達?」
アリアの問いに、まよいの顔が赤くなった。
「私は、誰とか、まだ言ってないし、友達だから大切なんだし、だから、その、はっきり言ってないし、まだそういう関係じゃないから」
自分でも何を言っているのかと、まよい自身、不思議で仕方がなかった。
「わわ、落ち着いて、ね? こんなこともあろうかと、用意していたものがあるんだ♪」
アリアが人魚の竪琴を取り出して、弦を鳴らした。
初めは遠くから聴こえる波の音のように。……まよい、深呼吸。
次第に、曲調が上がり、アップテンポへと変わる。……ラキ、まよいが指でリズムを取り始めた。
聴いていると、踊りだしたくなる曲だ。
ラキとまよいは、互いに手を取り合い、ステップを軽く踏みながら即興のダンスをしていた。
ここに集まった人々のために、感謝を込めて、アリアは竪琴を奏でていた。
サクラと言えば。
「お土産100個、買えたのは良いけど、どうやって持ってかえろうかな」
日持ちする御菓子の箱100個を一人で運ぶには、何か手段を考えねば。
さてさて、サクラはどのようにして土産を持ち帰ったのか、それは知る人ぞ知る。
●
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、迷子になっていた子供を警備員が待機しているテントに案内した後、屋台を廻っていた。
「タパスって、酒の摘みにもなりそう」
エラが郷祭に参加したのは、経済状況を観察するためだ。
一時的に避難して、こちらの世界に来た者もいるだろうが、ここ最近は、新米ハンターが一気に増えていたのだ。
となれば、食料事情も気になるところだ。この地に定住していく者たちも増加していく可能性も考えられる。
「どこの世界も、人がいると、同じ問題に突き当たる」
今後の経済流通も、大事な要になるのではと、エラは推測していた。
「少なくとも、郷祭が行われている間は、注意ね」
スリだけでなく、喧嘩なども見逃さないように、エラの睨みが効いていた。
のんびりと祭りの情景を楽しんでいるのは、天央 観智(ka0896)。
流行のタパスを食べてみたが、イカフライとオリーブソースが絶妙に絡み合い、ふんわりとした食感だった。
「ホント、美味しいですね」
観智が、呟く。
郷祭を楽しもうという想いはあれど、リアルブルーの現状を考えると、無情に時が流れているようにも感じられた。
だが、地球は凍結しただけであり、今後、人々を救う手立てが見つかるならば、望みはあるとも思えた。
「最近、忙し過ぎましたからね。こうした時間も、とても貴重です」
観智は、久し振りの休日を大切に過ごすことにした。
一方、浴衣を着て祭りを見物している女性たちがいた。
七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)だ。互いに手を繋ぎ、歩く二人。
アクセサリの出店では、紅葉が試しにネックレスを付けたり、真夕に似合いそうな指輪を選んでいた。しばらく様々な小物を見て、可愛いとか綺麗など、感想を述べていた。
その後、リンゴ飴を二つ買った真夕が、紅葉に一つ手渡そうとする。
「紅葉、これ、美味しいよ」
そう言われて、軽く舐める紅葉。
「甘くて懐かしい味だね。今度は、真夕の番だよ」
紅葉が、もう一つのリンゴ飴を真夕に差し出す。
飴を食べ合っている二人は、周囲のことなど気にしていなかった。
こうして二人だけでデートするのは、本当に久し振りだった。
真夕は、リンゴ飴を舐めるのに夢中だった。
紅葉が、真夕が着ている浴衣の袖を軽く引いて、それから彼女の頬にキス。
驚く真夕に、紅葉が微笑む。
「油断大敵……だよ?」
彼女が別のことに気を取られていたこともあり、紅葉はつい、甘えたくなったのだ。
「もう、紅葉ったら」
真夕はそう言いながらも、紅葉の気持ちがうれしかった。
●
鹿東 悠(ka0725)は【食道楽】の引率係、もとい保護者のような立場で、仲間たちを連れて、郷祭に参加していた。
「もう、ケチやなー。奢ってくれへんの?」
白藤(ka3768)にそう言われても、悠は「応じません」の一点張りだ。
「しゃあないな。まぁ、ええわ」
ミア(ka7035)がタパス十人前を注文していたからだ。
「しーちゃん、悠ちゃん、陸ちゃん、ノアちゃーん、タパス食べようニャス♪ 出来上がるまで、少し時間がかかるみたいニャス」
「悠、私の好きなぱちぱちするお酒ってある?」
ノア(ka7212)は悠に誘われて来ていたが、初めての郷祭だった。
「ああ、果物酒ですね。ノアさんの好みとなると、出店の人に聞いて探してみましょう」
「だったら、俺も探すの手伝うよ。タパスが出来上がる頃までには、見つけたいな」
浅生 陸(ka7041)の気遣いに、ノアが目を細める。
「ありがとう。悠も含めて三人で探せば、見つかるよね」
「んー、うちとミアは、ここで待ってる……ノア、迷子にならんようにな」
白藤は、ミアの様子が気になり、二人でタパスが出来上がるのを待つことにした。
悠たちを見送った後、ミアが首を傾げていた。
「しーちゃん、どうしたニャス?」
「うちじゃなくて、ミアのことや」
優しくミアの頭を撫でる白藤。付き合いが長いこともあり、白藤にはミアが少し元気がないことに気が付いていたのだ。
そして。
気を付けていたはずなのに、ノアは悠たちと逸れてしまった。
「悠、みんな、どこー?」
5個の林檎を抱えたノア。果物屋の出店で林檎を選んでいたら、悠と陸の姿が見当たらない。
どうしようと思っていた時。
「ノアさん、果物酒ありましたよ」
後ろから、悠の声が。振り返ると、陸がサングリアを持ち、悠が手を振っていた。
「お待たせしてしまいましたね。白藤さんたちの所に戻りましょう」
「そろそろタパスも出来上がってる頃かな」
陸がそう告げると、ノアが二人の元へと駆け寄った。
「良かった。今のはセーフだよね」
ノアの言葉に、悠と陸が微笑んだ。
広場の休憩場にて、悠たちは料理と果物酒を堪能していた。
陸が、特注の焼きそばを食べていると、ミアが横から顔を出して、パクリと一口。
「あー、俺の目玉焼き~」
「陸ちゃんのものはミアのものニャス。目玉焼きが乗ってる焼きそば、珍しいニャス」
「焼きそばを見つけたから、目玉焼きも乗せてもらったんだ」
故郷での祭りを思い出して、楽しそうな陸。
悠は果実酒を飲み、ノアは美味しそうにタパスを食べていた。
「ミア、悠ちゃんが固形物食べてるとこ見たことないニャス」
じーと見つめるミア。
「人をなんだと思ってるんです」
悠が言うと、白藤がクスっと笑う。
「死神や」
黙り込む悠。否定はしないようだ。
「ほら、ミア。うちの分も食べな」
白藤の御裾分けに、ミアは大喜び。
「しーちゃん、ありがと。大好きニャス♪」
子猫のようなミアの無邪気さに、白藤も思わず微笑む。
「美味しいモノ食べて、にっこにこやな、ミア♪」
「幸せニャス。あ、ノアちゃん、ミアにも果実酒わけてくれニャスよ。しーちゃんの分も♪」
ノアが笑顔で、ミアと白藤のグラスに果物酒を注ぐ。
三人の会話を聞きながら、陸が悠に話しかけた。
「10も年上の姉さん、祭りが好きだったな。俺の手を繋いで、浴衣を着て……子供みたいにはしゃいでさ。祭りって、不思議な場所だよな」
「陸、あーんっやで?」
白藤が冗談交じりに言いながらエビの串焼きを差し出すが、陸はレディは大切にせねばとばかりに、エビを頬張り、「美味い」と一言。
「ほな、ミア、陸。こっち」
何やら小声で言う白藤。
悠とノアは並んで椅子に座り、様子を窺っていた。
「どうやら、三人で何か披露するようですね。まあ、俺ができるのは、精々ガンプレイ程度……」
悠が言いかけると、ノアが笑みを浮かべた。
「悠が死神と呼ばれているのは知ってるけど、祭りでは使わないよね?」
「銃で遊ぶと『ツキが離れる』と、昔、知人に随分と怒られましたからね」
今回は携帯だけと、ノアに説明する悠。二人は前列の席で応援することにした。
白藤がミアと陸に声をかけたのは、『えぇ感じ』の悠とノアを二人きりにしてあげたかったからだ。
三人の準備が整うと、ミアは広場に駆け出し、陸がクラシックギターを弾き始めた。
白藤が軽く一回転して、謳いだした。
皆の幸せを願う想いを、唄に乗せて。ギターの音色が、響く。
広場で玉乗りをしていたミアが、愛用のオカリナを吹くと、温かいメロディが広がっていく。
陸のソロ・パートになり、皆が静かに心地よく耳を澄ませていた。
曲が終わると同時に、観客の拍手が聴こえてきた。
陸は御辞儀した後、気持ちに満ちた感嘆を、拍手で伝えた。
クルっと一回転して地に着地し、礼をしてから空を見上げるミア。
(ミアは誰かを……あの人を、幸せにできるかニャ……)
祈るように両手を広げる白藤。
悠とノアが立ち上がり、拍手していた。
「素敵だったよ!」
満悦の笑みを浮かべるノア。彼女の微笑みを見るだけで、白藤は楽しい気持ちが湧き上がっていた。
それは、この場にいた皆が、同じ想いにも思えた。
何故なら、誰もが笑い合っていたから。
楽しい一日を、ありがとう。
この日は、やがて過ぎていっても、いつまでも心に残るだろう。
ノアは実感していた。笑顔は明日への原動力になることを……。
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は、本部にてハンター登録の手伝いをしていたが、休憩時間になり、控室で一休みしていた。
「脱出シャトルで、月に辿り着いたリアルブルー人がいるのは聞いてたけど、あの人たち……無事だったのかしら?」
一息ついた頃、控室から出ると、何やらマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が忙しそうに資料を眺めていた。
「やっほー。マクシミリアン♪ 何か調査でもしてるの?」
相変わらずポーカーフェイスのマクシミリアンであったが、カーミンが気さくに声をかけた。
「畑本 愛子と、その娘、瑠伊の行方を捜している。崑崙のどこかにいるはずなんだがな」
「そういうことだったら、私に任せなさいよ。情報屋としては、見逃せない案件ね。ランチ1回で手伝うわよ? 私の勘では、予想がつくけど」
カーミンが不敵な笑みを浮かべた。
「そうか。手伝ってくれると助かる。礼は、二人を無事に見つけてからだ」
マクシミリアンがそう告げると、カーミンはOKとばかりにウィンク。
こうして、二人は互いに協力して崑崙へと向かうことになった。
崑崙の地下。
ドームは破壊されており、人々は地下で生活していた。
病院のフロアで、マクシミリアンと田中が合流していると聞き付け、ジャック・エルギン(ka1522)が助太刀に来てくれた。
「田中って、あん時、名古屋のビルに捕まってた議員か?」
ジャックにそう言われて、田中は思い出したようだ。
「あの時は、礼も言えなかったが、助けてくれて、ありがとう」
案の定、赤いエクスシアに乗っていたOF-004の話題が出たが、ジャックは深く触れないようにしていた。田中の親友にとって、OF-004は命の恩人だ。彼がどうなってしまったのか、ジャックは知っていたが、相手の気持ちを思うと本当のことが言えなかった。畑本の立場を考えると尚更だ。
「親友の家族を探してるらしいな。そういうことだったら、俺も手伝うぜ」
ジャックたちが話し合っていると、アンネマリー・リースロッド(ka0519)とルシオ・セレステ(ka0673)が事情を知って、やってきた。
アンネマリーは、シャトル護衛をして、ここに辿り着いたが、シャトルに乗っていた人々がどうなってしまったのか気になっていたのだ。
「まずは、お役所へ行ってみようと思います。何か分かりましたら、マクシミリアンさんに報告しますね」
ルシオには、気になる点があった。
「夫が入院していると知ったら、ご家族も探したり、病院へすぐに来るとは思うけど、何か事情があって、ここに来れない訳があるかもしれないね」
そこに着目したルシオは、田中から許可を取って、畑本の家族写真を魔導スマートフォンのカメラ機能で撮影した。
「これなら、マクシミリアンと手分けして、探すこともできるね」
ルシオは、リアルブルーで出会った強化人間の子供たちを思い出し、他人事ではないと感じていた。
だからこそ、畑本の家族を見つけ出したいと思っていた。それも見舞いの一環になると考えていたからだ。
「私は、学校とか、児童施設とか、廻って調べてみるわ」
カーミンは、マクシミリアンに同行していた。ジャックが笑みを浮かべる。
「よっ、カーミン。そんじゃ俺は、田中が乗ってたシャトルが到着した場所の周辺で聞き込みするぜ」
「でしたら、ジャックさん、俺がご案内します」
田中は内心、心細かったが、こうして親身になってくれるハンターたちと出会えて、安堵していた。
病院の受付に辿り着いたレイア・アローネ(ka4082)は、見知った男性がいることに気付いた。
久我・御言(ka4137)だ。
「レイア君ではないか。ここで会うとは奇遇だな」
「マクシミリアンから、ここに畑本という強化人間が入院していると聞いてな。何かできることはないかと思って、な」
レイアも、強化人間とは、いろいろとあったようだ。
「私は、畑本という男性が赤いエクスシアを見たという噂を耳にしてな。心当たりがあったから、見舞いにきたという訳だ」
御言は整った白のスーツを着ていた。
レイアからすれば、御言はふざけた男に見えた。というより、そう思っていた。
「御言、必要なら頼れ。私でよければ手を貸そう」
「君が来てくれるなら、場も和むだろうな。では、共に参ろうではないか」
御言は、レイアを連れて、畑本がいる病室へと入った。
「顔色が良さそうで安心したよ。私の名前は久我・御言。ハンターをしている」
「私はレイア・アローネ。気晴らしに話でも、どうかな?」
御言とレイアが、畑本の体調を気遣いながら、挨拶した。
畑本は自己紹介した後、こう告げた。
「ずっと入院してるから話し相手が欲しかったところだよ」
「早速で申し訳ないが、赤いエクスシアに乗っていた青年のことが聞きたい」
御言には、その青年に思い当たることがあった。
畑本が青年の特徴を話していくうちに、御言の想いは確信に満ちた。
「彼は、クドウ・マコト君だな。君と同じく戦う事を選んだ強化人間であり、私の自慢の戦友だ」
「そうなのか! 強化人間でも、ハンターと手を取り合うことができるのだな」
畑本は自分が強化人間であることに後ろめたさがあったが、自分を助けた青年もまた強化人間だと分かり、うれしそうに微笑んでいた。
御言も、思わず笑っていた。自分の知らない所で、クドウが畑本を助けていたとは。
「クドウ君は、人質の女性を救ったこともある。強化人間だろうと覚醒者だろうと関係ない。まあ、彼の場合は『任務だ』と言うだろうがね」
「クドウ・マコトか。会ってみたいものだ。御言の自慢の戦友らしいからな」
微笑むレイア。
「らしいではない。戦友だと、ここで断言しておこうではないか」
至って本気で応じる御言であった。二人の会話を聞いて、畑本は久し振りに声を出して笑っていた。
そして、御言は新たに決意していた。
戦友であるクドウに手を差し伸べることを諦めない、と。
●
見舞客を装い、マリィア・バルデス(ka5848)は、病室のネームプレートを一つ一つ確認していた。
「……ここにも、名前がない、か」
マリィアの想い人は、なかなか見つからなかった。
壁に凭れて、溜息をつく。
強化人間が暴走して、保護された後……。あの時のことは、今でも覚えている。
ここでは、会えなかった。想いだけは募っていく。
もし、再会できたら、あの人はなんと言うだろうか。いつものように遠まわしな台詞で、思わせ振りな態度を取るのかしら?
マリィアは、全ての病室を廻った。
中尉の名前は、ない。
「会えなくて、悲しい……なんて」
マリィアが、呟く。
自分の想いは、あの人に伝えた。一方的な思い込みではないと、確かめたかった。
今度、会えたら……何を伝えようか。
マリィアは、両頬を叩き、気を取り直すように歩き出した。
この一歩が、少しずつでも、あの人の元へと続く様に……。
●
強化人間たちが入院している部屋には、可憐な花が飾られていた。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が、一人一人に贈った花だった。
花を見て、喜んでいる強化人間の少女がいた。
蜜鈴は、そっと見守った後、病院から出ることにした。
どう接したらいいのか、心の整理がつかなかったからだ。
蒼の地は、時間が停止し、邪神の攻撃を食い止めることができた。
それは、一人だけの力ではなく、大勢の人々が『力』を結集して『封印』したのだ。
(生まれた頃から蒼の世界にいたならば、妾は、どう生きていたのじゃろうか)
大切な者たちを守るために使った『力』、蜜鈴には悪とは思えなかった。
力を欲する者たち。それぞれ、動機が異なっていたことを、蜜鈴は目の当たりにしてきた。
凍結した世界で、眠る人々。
(救いたいと願うた妾の想いは、おんし等にとって傲慢に過ぎたのではなかろうか?)
愛別離苦。
扇を持つ手が、微かに震えた。
自分は、世界に比べれば蝶の鱗粉よりも小さき存在。
なれど、今一度、皆が地上で笑いあえる日を願う。
病室から、少女の笑い声が聴こえてきた。
ふと、蜜鈴が我に返り、微笑む。
たとえ小さき力であっても、救えた命もあるのだ。
少女の無邪気な声に、蜜鈴はそう思えてならなかった。
●
畑本が昼食を済ませた後、リーベ・ヴァチン(ka7144)が見舞いに訪れた。
互いに挨拶して、リーベがマクシミリアンから田中の親友が入院していると聞いて訪れたことを告げた。
「クドウ・マコト、そのパイロットのことなら私も知っている。彼に助けられたとか」
「……私が暴走して、暴れていた時に、彼が現れて、捕まったところまでは覚えている。次に気が付いたら、崑崙の地下施設にいて、この病院へ運ばれたようだ。あまり細かい事は覚えてなくてな」
申し訳なさそうに言う畑本に対して、リーベが元気づけるように微笑む。
「私がマコトと出会ったのは、名古屋の山小屋だった。その時、彼は体調があまり良くなかったのだが、私の作ったフレンチトーストを食べてくれてな。それから……」
「何かあったのか?」
「いえ、私も彼のことを全て知っている訳ではありません」
謝罪するリーベを見て、畑本は彼女もまた、クドウと縁のある者だと悟った。
「クドウさんは強化人間だと聞いたが、きっと大切なモノを守るために、その道を選んだのだと、俺は思っているよ」
「……もし、マコトに会えたら、そのことを伝えてみます。ご家族もきっとあなたとの再会を待ち望んでいると思います。どうか御体、大事にしてください」
リーベは、畑本の家族が戻ってくると信じて、一礼すると退室した。
(マコト、お前がしたことは無駄じゃなかったぞ)
誰がなんと言おうと、クドウが畑本を助けたことに変わりはない。
クドウ自身は認めないだろうが、カッツォが欲するほどに心根が綺麗だったのだろう。
リーベには、それが真実であった。
●
その頃。
ルシオが、愛子を発見したことを魔導スマートフォンで報告すると、マクシミリアンが応答した。
『カーミンが、瑠伊を発見した。女性専用の施設に保護されていたようだ』
「愛子は、娘を探して、シャトルが到着した場所で探し廻っていたらしいよ」
ルシオは病院の受付で聞き込みをしたが手掛かりがなく、外へ出て、通りかかった子供たちに写真を見せると「この人、見たことある」と教えてくれたのだ。
お礼にキャンディを手渡したルシオが、辿り着いたのはシャトルが到着した場所。
田中とジャックは、愛子を見つけることができたが、通信手段が無かった。
そこにルシオが現れて、魔導スマートフォンを使い、連絡することができたのだ。
「ルシオ、助かったぜ」
安堵するジャック。
『こちらカーミン、ルイは前日まで熱があったみたいだけど、施設の人たちが看病してくれたおかげで、かなり回復しているから安心して』
魔導パイロットインカムを使い、カーミンからルシオへ連絡が入った。
ルシオたちは愛子を連れて、瑠伊のいる施設へと向かった。
アンネマリーが役所で懸命に職員を説得した甲斐もあり、瑠伊が保護されている施設の場所も特定できた。
「善は急げです」
施設に到着したアンネマリーは、愛子たちが来るまで子供たちの気持ちを落ち着かせようと、リュート「イスペルダーニ」を奏でていた。子供たちには、いつでも笑顔でいてほしいから。
「お母さん!」
「瑠伊!」
そして、ようやく再会した親子。
ジャックたちが見守る中、母は娘を優しく抱き締めていた。
翌日、畑本の病室には、妻と娘の姿があった。
●二つの月
自由都市同盟、ジェオルジ近辺、とある小さな村。
郷祭で賑わう空には、二つの月が浮かんでいた。
穂積 智里(ka6819)はハンス・ラインフェルト(ka6750)に肩を抱かれながら、綿菓子の出店を見ていた。子供の頃、祖父に肩車してもらい、祖母が綿菓子を買ってくれた。懐かしい思い出……いつのまにか、智里の瞳から涙が零れ落ちた。
ハンスは智里の涙を隠すように、彼女を連れて人混みから離れた。
「どうしました、マウジー?」
「大好きなおじいちゃん、おばあちゃん、ここに来ることができませんでした。地球の時間が凍結されただけ……分かってます。それでも……」
涙が止まらない。ハンスが智里の髪を撫でる。
「全ての街の近くにシャトル発着場があったわけではないし、緊急事態でシャトルに乗る人も限られていた。貴女のオーマやオーパなら、きっと人に譲ったことでしょう。不思議なことではありません」
ハンスは智里を優しく抱き寄せ、彼女の額にキスをする。
「ありがとう。ごめんなさい。ハンスさんがいるから、私は大丈夫です。まだ頑張れます」
微笑むハンス。智里を宥めるため、話を変える。
「リアルブルーの月は、こちらの世界へ転移してきて、今では空を見上げれば、月が二つ……動揺していた人もいたようですが、邪神に全てを滅ぼされることがなかった、地球は凍結しているだけ、まだ勝ち目があると前向きな方達が多いようです。私達が勝てばいいだけです。ね?」
今度は、うれしくて涙が溢れてくる。智里が困っている時、いつも傍にいてくれるハンス。
最初はハンスの態度に戸惑ったこともあったが、今では智里にとって、かけがえのない人。
「ハンスさん……私も貴方を包める人になれていますか?」
「フフ、もちろんです。最初から、今、この時も。これからもです」
当たり前のように、ハンスはそう告げた。
鞍馬 真(ka5819)は、いつもの癖が出てしまった。
「せっかく皆が楽しんでいる時に、こういうことをするとはね」
スリをしようとした男の腕を掴み、加減したつもりであったが。
絶叫する男に、周囲の客たちが驚き。真も注目の的になっていた。
「あ、すみません。では、いこうか」
皆に謝りながら、真は男性を連れていく。警備員たちがいるテントへと。
休日でも、ハンターの仕事は忘れない。
「こんなところ、見られたら、休日くらいは休めと、また怒られるかな」
友人の顔が浮かび、真はいつのまにか微笑んでいた。
おや? こうして、笑ったのは、何日振りか?
周囲を見れば、祭りを楽しんでいる人々の笑顔がたくさん。
最近は笑う余裕もなかった。それだけ心に余裕がなかったのかもと、真は思いを巡らせていた。
そう、休むことなど考えてなかった。現状を打破するため、前のめりになっていた。
「時には何も考えずに楽しむことも大切だよね」
自分にそう言い聞かせたら、心の重荷が吹っ切れた。
自然と笑みが零れる。
真は、音楽隊のメンバーに交じって、心ゆくまで歌を唄った。
「人前で歌うのも久し振りだったな。さて、噂のタパスでも食べてみよう」
出店を廻り、真は美味しそうにタパスを食べていた。
その頃。
「ラキちゃん、休憩する場所、見つけたよ。こっちこっち!」
アリア(ka2394)が手招きして、皆をベンチへと誘導する。
ラキ(kz0002)に誘われて、集まってきたハンターたちが、出店で買ったタパスを食べるため、ベンチに座る。
宵待 サクラ(ka5561)は、大勢の人々に少し圧倒されながらも、ワクワクした気持ちが隠せず、目を輝かせながら見物していた。
「ラキさん、今回はお招きありがとう。胃袋の限界に挑戦だー!」
出店の食べ物は全て制覇する勢いで、サクラはラキお勧めのタパスを食べていた。
アリアは両手にエビの串焼きを持ち、買い食いを楽しんでいたが、他の仲間たちを気遣い、ゆっくりと話せる場所を確保してくれたのだ。
「次は、エビの串焼き、いくぞー!」
次々と焼きたてのエビを頬張るサクラ。食欲の秋だ。いっぱい食べるぞと、張り切っていた。
「ディエス様、お久し振りです」
フィロ(ka6966)が呼びかけたこともあり、オートマトンの少年ディエスも遊びに来ていた。
「お誘い、ありがとうございます。フィロさん」
ディエスに会えて、フィロはうれしかった。なのに、思うように笑えなかった。
リアルブルーは、まだ救える方法があった。
だが、エバーグリーンは……。そう考えると、フィロは哀しくて哀しくて、自分が泣いているのか、笑っているのか、分からなくなっていた。
ディエスには、フィロの想いが理解できた。だからこそ、言えること。
「ボクは、フィロさんと出会えてうれしかった。同じ故郷の思い出を話すことができるから」
「……ディエス様」
フィロは、ようやく微笑んでいた。
「やはりお会いできて、うれしいです。ディエス様は、動物がお好きでしたね。犬のグッズがあるお店を見つけましたから、一緒にいきませんか?」
その話を聞いていたラキが、フィロに目配せする。
「フィロさん、ディエス君のこと頼むね」
「かしこまりました。カイゼル様への土産も見繕ってまいりますね。やはりワインが良いでしょうか」
カイゼルとは、トパーズ精霊のことだ。別の場所に祠があるため、今回の村へは来ることができなかったのだ。フィロはディエスと一緒に買い物を楽しむことにした。
「ありがとー。カイゼルは、ここに来れないから土産があれば喜ぶと思うよ」
ラキはそう言いながらも、夢路 まよい(ka1328)の問いかけに、戸惑っていた。
「誤魔化さないで、白状しなさいよ。ラキだって、二人きりで一緒にいたい人とかいるんでしょ?」
まよいが、茶目っ気たっぷりに微笑む。
「そ、そりゃ、あたしだって、できれば、そうしたいけど、相手の都合もあるしさ」
頬を赤らめるラキ。
しめたとばかりに、まよいの瞳が光る。
「やっぱりいるんだぁ。その人って、もしかして」
ラキの耳元で囁いたため、まよいの発言は他の者には聴こえなかった。
「違うよー。そういう、まよいはどうなの?!」
ラキの反撃だ。まよい、言い淀む。
「えっと、戦闘依頼とかではね、一緒に行くことはあるけど、お祭りとか改めて誘うのは気恥ずかしいというか、なんというか」
「いるんだー。まよいと一緒に依頼で参加する人って言えば」
ラキがそこまで言うと、まよいは珍しく慌てていた。
「だから、友達だって!」
「友達?」
アリアの問いに、まよいの顔が赤くなった。
「私は、誰とか、まだ言ってないし、友達だから大切なんだし、だから、その、はっきり言ってないし、まだそういう関係じゃないから」
自分でも何を言っているのかと、まよい自身、不思議で仕方がなかった。
「わわ、落ち着いて、ね? こんなこともあろうかと、用意していたものがあるんだ♪」
アリアが人魚の竪琴を取り出して、弦を鳴らした。
初めは遠くから聴こえる波の音のように。……まよい、深呼吸。
次第に、曲調が上がり、アップテンポへと変わる。……ラキ、まよいが指でリズムを取り始めた。
聴いていると、踊りだしたくなる曲だ。
ラキとまよいは、互いに手を取り合い、ステップを軽く踏みながら即興のダンスをしていた。
ここに集まった人々のために、感謝を込めて、アリアは竪琴を奏でていた。
サクラと言えば。
「お土産100個、買えたのは良いけど、どうやって持ってかえろうかな」
日持ちする御菓子の箱100個を一人で運ぶには、何か手段を考えねば。
さてさて、サクラはどのようにして土産を持ち帰ったのか、それは知る人ぞ知る。
●
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、迷子になっていた子供を警備員が待機しているテントに案内した後、屋台を廻っていた。
「タパスって、酒の摘みにもなりそう」
エラが郷祭に参加したのは、経済状況を観察するためだ。
一時的に避難して、こちらの世界に来た者もいるだろうが、ここ最近は、新米ハンターが一気に増えていたのだ。
となれば、食料事情も気になるところだ。この地に定住していく者たちも増加していく可能性も考えられる。
「どこの世界も、人がいると、同じ問題に突き当たる」
今後の経済流通も、大事な要になるのではと、エラは推測していた。
「少なくとも、郷祭が行われている間は、注意ね」
スリだけでなく、喧嘩なども見逃さないように、エラの睨みが効いていた。
のんびりと祭りの情景を楽しんでいるのは、天央 観智(ka0896)。
流行のタパスを食べてみたが、イカフライとオリーブソースが絶妙に絡み合い、ふんわりとした食感だった。
「ホント、美味しいですね」
観智が、呟く。
郷祭を楽しもうという想いはあれど、リアルブルーの現状を考えると、無情に時が流れているようにも感じられた。
だが、地球は凍結しただけであり、今後、人々を救う手立てが見つかるならば、望みはあるとも思えた。
「最近、忙し過ぎましたからね。こうした時間も、とても貴重です」
観智は、久し振りの休日を大切に過ごすことにした。
一方、浴衣を着て祭りを見物している女性たちがいた。
七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)だ。互いに手を繋ぎ、歩く二人。
アクセサリの出店では、紅葉が試しにネックレスを付けたり、真夕に似合いそうな指輪を選んでいた。しばらく様々な小物を見て、可愛いとか綺麗など、感想を述べていた。
その後、リンゴ飴を二つ買った真夕が、紅葉に一つ手渡そうとする。
「紅葉、これ、美味しいよ」
そう言われて、軽く舐める紅葉。
「甘くて懐かしい味だね。今度は、真夕の番だよ」
紅葉が、もう一つのリンゴ飴を真夕に差し出す。
飴を食べ合っている二人は、周囲のことなど気にしていなかった。
こうして二人だけでデートするのは、本当に久し振りだった。
真夕は、リンゴ飴を舐めるのに夢中だった。
紅葉が、真夕が着ている浴衣の袖を軽く引いて、それから彼女の頬にキス。
驚く真夕に、紅葉が微笑む。
「油断大敵……だよ?」
彼女が別のことに気を取られていたこともあり、紅葉はつい、甘えたくなったのだ。
「もう、紅葉ったら」
真夕はそう言いながらも、紅葉の気持ちがうれしかった。
●
鹿東 悠(ka0725)は【食道楽】の引率係、もとい保護者のような立場で、仲間たちを連れて、郷祭に参加していた。
「もう、ケチやなー。奢ってくれへんの?」
白藤(ka3768)にそう言われても、悠は「応じません」の一点張りだ。
「しゃあないな。まぁ、ええわ」
ミア(ka7035)がタパス十人前を注文していたからだ。
「しーちゃん、悠ちゃん、陸ちゃん、ノアちゃーん、タパス食べようニャス♪ 出来上がるまで、少し時間がかかるみたいニャス」
「悠、私の好きなぱちぱちするお酒ってある?」
ノア(ka7212)は悠に誘われて来ていたが、初めての郷祭だった。
「ああ、果物酒ですね。ノアさんの好みとなると、出店の人に聞いて探してみましょう」
「だったら、俺も探すの手伝うよ。タパスが出来上がる頃までには、見つけたいな」
浅生 陸(ka7041)の気遣いに、ノアが目を細める。
「ありがとう。悠も含めて三人で探せば、見つかるよね」
「んー、うちとミアは、ここで待ってる……ノア、迷子にならんようにな」
白藤は、ミアの様子が気になり、二人でタパスが出来上がるのを待つことにした。
悠たちを見送った後、ミアが首を傾げていた。
「しーちゃん、どうしたニャス?」
「うちじゃなくて、ミアのことや」
優しくミアの頭を撫でる白藤。付き合いが長いこともあり、白藤にはミアが少し元気がないことに気が付いていたのだ。
そして。
気を付けていたはずなのに、ノアは悠たちと逸れてしまった。
「悠、みんな、どこー?」
5個の林檎を抱えたノア。果物屋の出店で林檎を選んでいたら、悠と陸の姿が見当たらない。
どうしようと思っていた時。
「ノアさん、果物酒ありましたよ」
後ろから、悠の声が。振り返ると、陸がサングリアを持ち、悠が手を振っていた。
「お待たせしてしまいましたね。白藤さんたちの所に戻りましょう」
「そろそろタパスも出来上がってる頃かな」
陸がそう告げると、ノアが二人の元へと駆け寄った。
「良かった。今のはセーフだよね」
ノアの言葉に、悠と陸が微笑んだ。
広場の休憩場にて、悠たちは料理と果物酒を堪能していた。
陸が、特注の焼きそばを食べていると、ミアが横から顔を出して、パクリと一口。
「あー、俺の目玉焼き~」
「陸ちゃんのものはミアのものニャス。目玉焼きが乗ってる焼きそば、珍しいニャス」
「焼きそばを見つけたから、目玉焼きも乗せてもらったんだ」
故郷での祭りを思い出して、楽しそうな陸。
悠は果実酒を飲み、ノアは美味しそうにタパスを食べていた。
「ミア、悠ちゃんが固形物食べてるとこ見たことないニャス」
じーと見つめるミア。
「人をなんだと思ってるんです」
悠が言うと、白藤がクスっと笑う。
「死神や」
黙り込む悠。否定はしないようだ。
「ほら、ミア。うちの分も食べな」
白藤の御裾分けに、ミアは大喜び。
「しーちゃん、ありがと。大好きニャス♪」
子猫のようなミアの無邪気さに、白藤も思わず微笑む。
「美味しいモノ食べて、にっこにこやな、ミア♪」
「幸せニャス。あ、ノアちゃん、ミアにも果実酒わけてくれニャスよ。しーちゃんの分も♪」
ノアが笑顔で、ミアと白藤のグラスに果物酒を注ぐ。
三人の会話を聞きながら、陸が悠に話しかけた。
「10も年上の姉さん、祭りが好きだったな。俺の手を繋いで、浴衣を着て……子供みたいにはしゃいでさ。祭りって、不思議な場所だよな」
「陸、あーんっやで?」
白藤が冗談交じりに言いながらエビの串焼きを差し出すが、陸はレディは大切にせねばとばかりに、エビを頬張り、「美味い」と一言。
「ほな、ミア、陸。こっち」
何やら小声で言う白藤。
悠とノアは並んで椅子に座り、様子を窺っていた。
「どうやら、三人で何か披露するようですね。まあ、俺ができるのは、精々ガンプレイ程度……」
悠が言いかけると、ノアが笑みを浮かべた。
「悠が死神と呼ばれているのは知ってるけど、祭りでは使わないよね?」
「銃で遊ぶと『ツキが離れる』と、昔、知人に随分と怒られましたからね」
今回は携帯だけと、ノアに説明する悠。二人は前列の席で応援することにした。
白藤がミアと陸に声をかけたのは、『えぇ感じ』の悠とノアを二人きりにしてあげたかったからだ。
三人の準備が整うと、ミアは広場に駆け出し、陸がクラシックギターを弾き始めた。
白藤が軽く一回転して、謳いだした。
皆の幸せを願う想いを、唄に乗せて。ギターの音色が、響く。
広場で玉乗りをしていたミアが、愛用のオカリナを吹くと、温かいメロディが広がっていく。
陸のソロ・パートになり、皆が静かに心地よく耳を澄ませていた。
曲が終わると同時に、観客の拍手が聴こえてきた。
陸は御辞儀した後、気持ちに満ちた感嘆を、拍手で伝えた。
クルっと一回転して地に着地し、礼をしてから空を見上げるミア。
(ミアは誰かを……あの人を、幸せにできるかニャ……)
祈るように両手を広げる白藤。
悠とノアが立ち上がり、拍手していた。
「素敵だったよ!」
満悦の笑みを浮かべるノア。彼女の微笑みを見るだけで、白藤は楽しい気持ちが湧き上がっていた。
それは、この場にいた皆が、同じ想いにも思えた。
何故なら、誰もが笑い合っていたから。
楽しい一日を、ありがとう。
この日は、やがて過ぎていっても、いつまでも心に残るだろう。
ノアは実感していた。笑顔は明日への原動力になることを……。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/13 02:08:35 |