ゲスト
(ka0000)
ユキフラシを探しに
マスター:STANZA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/04 12:00
- 完成日
- 2015/01/16 21:28
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここはフマーレ商店街の一角にある、猫雑貨と花の店フロル。
「え……今度はユキフラシですかー……?」
常連客エドアルド・ジラルディの注文を聞いて、フロル(kz0042)はまたしても大きな溜息を吐いた。
客の前だろうが何だろうが、しかもそれが金離れの良い上客だろうが、知ったこっちゃない。
だってそうだろう、何だってこう毎度毎度、面倒な注文ばかりを持って来るのか。
「エドさん、以前の鈴虫草で懲りたのではないのですかー?」
あの時、あんなうるさいものは二度とごめんだ、不思議な植物などもう二度と欲しがらないと、そう言っていたではないか。
あれから僅か三ヶ月で、もう忘れてしまったのか。
「あれは、ほれ、音がアレだったが……」
エドアルドは少々きまりが悪そうに視線を逸らしつつ言った。
「今度は違う。ただ庭に雪を降らせるだけだ、問題なかろう?」
彼は金持ちだ。
しかも、とんでもない金持ちだ。
屋敷の庭だって勿論、とんでもなく広い。
百人で雪合戦が出来るくらい広い。
ただ問題は、この地域は気候が温暖な為に雪など滅多に降らない事、なのだが。
名前の通り、ユキフラシは不思議な力で雪を降らせる植物だ。
一本植えておくだけで周囲の半径10mほどに、大人の膝丈ほどの雪を降らせてくれる。
遊びに降らせるには2〜3本もあれば充分だろう。
ところが。
「30本だ」
エドアルドはびしっと三本、右手の指を出す。
そこに左手でマルをくっつけた。
「いや、三本で充分……」
「30本。この私が、三本などというしみったれた注文を出すと思うのか!」
「いや、でも」
知らないよ、知らないからね、どうなっても。
「……わかりました、30本お届けしますー」
というわけで。
ユキフラシが群生するのは深い山奥の、そのまた深い雪の中。
お察しの通り、ユキフラシはそこに生えている数が多ければ多いほど、どっさり雪を降らせる。
三本まとめて生えていれば、半径10mに大人の膝丈×3倍の高さ。
十本なら十倍、百本なら百倍の高さまで、周囲に雪が降り積もるのだ。
「何しろ自分が雪に埋まっても、お構いなしに降らせ続けるんですからねぇ……」
ユキフラシの高さは、1m50cm程度、ほぼ人間と同じくらいと言って良いだろう。
見た目は真っ白なヒマワリといったところだろうか。
その大きなシャワーヘッドの様な花から、ふわりふわりと雪が吐き出され、宙に舞い、やがて降り積もる。
群生地ともなれば、5mは軽く積もっているだろうか。
それを掻き分けて花を採取して来るのは、一人では到底無理な話だ。
「雪山にはユキザルも出ますしねぇ……」
ユキザルとは真っ白な身体をした猿の様なモンスターだ。
身体は人間の半分ほど、雪の中に埋もれて待ち伏せし、集団で襲いかかって来る。
攻撃力は大した事はないが、邪魔だし鬱陶しいし、場所によっては彼等の行動が雪崩を引き起こす事もある。
とは言え、相手を格上と見れば逃げ去る程度の知恵はある。
見付けたら即座に上下関係をはっきりさせて追い払うのが、ユキザル対策の基本だ。
「では、雪山登山……頑張ってきましょうかー」
遭難しないように、気を付けて。
「え……今度はユキフラシですかー……?」
常連客エドアルド・ジラルディの注文を聞いて、フロル(kz0042)はまたしても大きな溜息を吐いた。
客の前だろうが何だろうが、しかもそれが金離れの良い上客だろうが、知ったこっちゃない。
だってそうだろう、何だってこう毎度毎度、面倒な注文ばかりを持って来るのか。
「エドさん、以前の鈴虫草で懲りたのではないのですかー?」
あの時、あんなうるさいものは二度とごめんだ、不思議な植物などもう二度と欲しがらないと、そう言っていたではないか。
あれから僅か三ヶ月で、もう忘れてしまったのか。
「あれは、ほれ、音がアレだったが……」
エドアルドは少々きまりが悪そうに視線を逸らしつつ言った。
「今度は違う。ただ庭に雪を降らせるだけだ、問題なかろう?」
彼は金持ちだ。
しかも、とんでもない金持ちだ。
屋敷の庭だって勿論、とんでもなく広い。
百人で雪合戦が出来るくらい広い。
ただ問題は、この地域は気候が温暖な為に雪など滅多に降らない事、なのだが。
名前の通り、ユキフラシは不思議な力で雪を降らせる植物だ。
一本植えておくだけで周囲の半径10mほどに、大人の膝丈ほどの雪を降らせてくれる。
遊びに降らせるには2〜3本もあれば充分だろう。
ところが。
「30本だ」
エドアルドはびしっと三本、右手の指を出す。
そこに左手でマルをくっつけた。
「いや、三本で充分……」
「30本。この私が、三本などというしみったれた注文を出すと思うのか!」
「いや、でも」
知らないよ、知らないからね、どうなっても。
「……わかりました、30本お届けしますー」
というわけで。
ユキフラシが群生するのは深い山奥の、そのまた深い雪の中。
お察しの通り、ユキフラシはそこに生えている数が多ければ多いほど、どっさり雪を降らせる。
三本まとめて生えていれば、半径10mに大人の膝丈×3倍の高さ。
十本なら十倍、百本なら百倍の高さまで、周囲に雪が降り積もるのだ。
「何しろ自分が雪に埋まっても、お構いなしに降らせ続けるんですからねぇ……」
ユキフラシの高さは、1m50cm程度、ほぼ人間と同じくらいと言って良いだろう。
見た目は真っ白なヒマワリといったところだろうか。
その大きなシャワーヘッドの様な花から、ふわりふわりと雪が吐き出され、宙に舞い、やがて降り積もる。
群生地ともなれば、5mは軽く積もっているだろうか。
それを掻き分けて花を採取して来るのは、一人では到底無理な話だ。
「雪山にはユキザルも出ますしねぇ……」
ユキザルとは真っ白な身体をした猿の様なモンスターだ。
身体は人間の半分ほど、雪の中に埋もれて待ち伏せし、集団で襲いかかって来る。
攻撃力は大した事はないが、邪魔だし鬱陶しいし、場所によっては彼等の行動が雪崩を引き起こす事もある。
とは言え、相手を格上と見れば逃げ去る程度の知恵はある。
見付けたら即座に上下関係をはっきりさせて追い払うのが、ユキザル対策の基本だ。
「では、雪山登山……頑張ってきましょうかー」
遭難しないように、気を付けて。
リプレイ本文
「雪の中から掘り出すのは、宝探しみたいでおもしろそうですね。フロルさんも、みなさんもよろしくお願いします」
出発前、シア(ka3197)は皆に向かって丁寧にご挨拶。
防寒具を着込んで、スコップとバケツを荷運び様のソリに乗せて、後は磁石と地図、ライトも念の為。
「群生地ってライブラリで調べられるのかね?」
頭から布団を被ったまま四足歩行する妙な生物――雪村 練(ka3808)が訊ねる。
パルムが興味を持てば登録されるかもしれないが、とりあえず今回、そこに目当ての花が存在する事は確かだった。
「根から土が落ちないように袋も要るな」
それと背負子があれば、帰りは布団ソリ滑降で楽が出来る、かも。
「念の為、数には余裕を持たせた方が良いのではないか」
そう助言したファウストゥス(ka3689)は、趣味と実益を兼ねた植物好きだ。
「そうですね、ありがとうございます~」
あ、でも待って。
「なあ、ソリって雪がない場所だと動かないんじゃねえか?」
ルリ・エンフィールド(ka1680)が良いところに気が付いた。
「無理ならソリは諦めるぜ?」
それなら途中まで荷馬車を借りて運べば良い。
勿論、費用は依頼人持ちだ。
というわけで。
「エドアルドさんも懲りない方ですねえ……」
馬車の荷台でシグリッド=リンドベリ(ka0248)は軽く溜息。
「でもまあ、丁度お仕事が貰えて助かりました」
大事なメイン武器がくず鉄化した為、資金が必要なのだ。
「こんな寒くなってきたのに雪を降らしたいなんて、金持ちの考えることは理解できねえぜ……」
いくら同盟領の気候が温暖でも、冬はそれなりに寒い。
ルリは毛皮のマントをしっかりと身体に巻き付けて、ぶるっと身震いをした。
「あ、わかったぜ! きっとかき氷をくいたくなったんだな!」
雪ってかき氷みたいなものだって聞いた。
「でも実はボク、雪って見たことないんだよな」
大丈夫、もうすぐ見られるよ。
嫌というほど、ね!
辿り着いた雪山を前に、エニグマ(ka3688)は胸を張る。
「オレサマからすると全部『山』だけどな!!!!」
そして積もった雪に全身ダイブ。
「ぐま」
ずぼっと嵌まって、ごろんごろん。
エニグマはそのまま転がる。自ら雪だるまになってゴロゴロ転がり、道を作る。
急な坂でも転げ落ちたりせずに、重力に逆らって転がり続ける。
それを追いかけて、一行は雪道を進んだ。
だがしかし。
「兄さん、行こっか!」
ウル=ガ(ka3593)とウィ=ガ(ka3596)の兄弟だけは、何故か道を外れていく。
「あ、遭難しない様にね。助けてあげないからね」
心配なら手を繋いであげようか?
「ほらほら、こっちだよ。何となく、こっちに生えてる気がするんだよね」
自信満々に、ずんずん歩いて行くウィ=ガだったが。
「……待てウィ=ガ。そっちじゃない……」
「え? こっちじゃないの? でも行ってみないと分からないよ?」
「わかるだろう」
と言うか、わかれ。
「仲間をすっかり見失ったぞ。オマエの方向感覚は壊滅的、だな」
「そうかな? でも、だったらどっちに行けば良いんだろう?」
周囲360度、全てが真っ白で目印もないんだけど。
「こっちだ」
「……分かるの?」
それなら信じてついて行こうか。
暫く行くと、雪がどんどん深くなってきた。
「ああ、そうだ! ユキフラシが有るって事は、雪が沢山ある方向を目指せば良い訳か。流石兄さんだね」
仲間達の姿も見えてくる。
「良かった、皆も無事だよ」
「迷ったのはオマエの方だがな」
ぼそり。
「これだけ積もってればスノーマンとか、雪の家とか作れますね」
シアは嬉しそうに目を輝かせる。
「持って帰れないけど、ちょっと遊べるといいな」
聞けば、リアルブルーには雪を閉じ込めた手乗りの丸いのがあるとか――
でもまずは、仕事を終わらせるのが先だ。
しかしエニグマは己の欲望を優先させた。
雪の中に尻を出して埋まってみたり、モグラごっこをしてみたり。
茶色い熊耳カチューシャとまんまる付け尻尾が、雪まみれのシロクマ仕様だ。
でも皆さん真面目にお仕事してるから、一人で遊んでいても今ひとつ盛り上がらない。
「……よし、此処に城を建てよう」
カマクラ作ってぬっくぬく作戦だ。
「遊ぶついでに花探してやんよ、えっと……『一人』30本だっけな?」
大人の漢は素手で勝負よ、道具なんか使わねぇ!
霜焼けだって怖くねぇ!
「フロルのおにーちゃん、ヒールおねがいっ☆」
ほらな、こういう優男は泣き落としに弱いんだぜ!
ヒリヒリ痛くて半分くらいマジ泣きだったけどな!
「雪掻き……! 力仕事頑張ります……!」
猫のシェーラさんをフロルに預け、シグリッドは頑張る。
「大丈夫です、子守よりは全然楽ですから!」
主に精神的に。
「つーかよぉ、なんで花から雪が出るのに背丈より深く積もんだ」
練がびしっとカメラ目線で指差す。
「絵面がありえねー」
いや、それより歩く布団の方がありえねーとは思いませんか。
「いいんだよそこは、こまけー事は気にすんな」
練は掘った雪を広げた布に積み上げ、いっぱいになったら引きずって捨てに行き……を繰り返しては、スコップでどんどん掘っていく。
「雪は珍しくないし、好きだけど……」
ウィ=ガは背丈の倍ほども積もった雪の壁を見上げる。
「流石にユキフラシが群生しているだけあって、積雪量が凄いね」
さて、何処に埋まっているのだろう。
「あ、兄さんは掘らなくていいよ? 手、大切だからね。その間、ユキザルが邪魔しない様に、見張っててね」
「ソリで雪を運び出すくらいは出来るぞ」
じゃ、それだけお願いしようかな。
「んー、やっぱり雪山ってのは綺麗だねー。悪天候じゃなくて良かったよ」
降り積もる雪の下に立って、力のない笑みを浮かべるレイン・レーネリル(ka2887)のそれは、多分きっと現実逃避。
「……インドア派な、私でも、この美し、さは見る価値が、あるねっ!」
ぜぇぜぇがくがくぶるぶる。
雪を踏み固めながらの行軍のお陰で、息はとっくに上がっている。
なのに汗をかかないどころか、それでもまだ寒いとは一体どういう事か。
「私みたいな暑がりエルフでも雪山は堪えるねぇ。久々だよ、こんなに着込むのは」
もっこもこに着込んで、スコップを振るう。
「ふいー、久々の肉体労働だねぇ。筋肉痛になりそうだわ。ここまで肉体が老いていたかー、なんてね」
むしろデフォルトで脆弱だって? 知ってる。
因みに外見年齢は16歳である。ぴっちぴちである。
「あぁ、さっさと終わらせて遊びたいねぇ」
「私は遊ぶより温泉や布団でぬっくぬくしたいですよー」
誰だ、そこでジジくさい事を言ってるのは――
イケメンだ。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は見る。
いや、確かに出発前にはキャーってなったけどね、普通に仕事着だったから。
でも今は、うさぎだ。まるごとうさぎだ。
とても暖かそうだが、残念な事にイケメン度は急降下……いや、寧ろ親しみやすさが増して好感度アップ?
これはナンパ的アタックのハードルも下がった気がするけれど、アタックってどうするんだっけ飛びかかるんだっけ?
いや、ここはきっと「か弱い女の子アピール」が効果を発揮する筈!
フロルの視線が向いた瞬間、エヴァはさっと目を逸らしつつ『きゃっ☆重ーい』みたいな演技を発動。
だってほら、女の子だもん。力仕事してる時とか見られるの恥ずかしいじゃない?
男子より力強い女子も多いって言うか、か弱い女子を探す方が難しそうな世界だけど、そこは乙女心、理屈じゃないの!
でも知ってる、今まで『どっせーい!』って勢いで豪快にやってたよね。
見なかったふりしてあげるけど。
「ユキザルの隠れる場所を減らす意味でも、さっさと雪かきを行うか」
ファウストゥスはスコップ片手に、まずは豪快に周囲の雪をどかしていく。
雪の中に花の一部でも見えれば、後は手作業だ。
「商品である花を傷つけるわけにはいかんしな」
ところが、目で確認する前に、スコップの先が何かに当たった。
「これは――」
「ところで、雪って美味しいのかなぁ……。うぅ、なんか雪見てたら腹がすいてきたぜ! さっさと終わらせて温かいもんくおうぜ!」
「ふむ、それなら何かあったかいもの用意するか」
ルリの訴えを聞いて、練が火を熾せる場所を探す。
と、シアが一箇所に纏めた雪の山を指差した。
「これを固めて中をくりぬいたら、疲れたときの休憩所にできそうですね」
先にこちらを作ってしまおうか。
出来映えに拘らなければ、制作にそう時間はかからないだろう。
そういう事ならと、仲間達も作業を中断して手伝ってくれた。
やがて完成したかまくらの中で、練が火を熾し始める。
四足歩行ゆえ、雪かきよりはこの方が楽だ。
「布団に燃え移らねえ様に注意だな」
それを見て、ルリはやる気を奮い立たせた。
まずは積もった雪に聞き耳を立て、何かが潜んでいないかと気配を探り――
「何かいるぜ!」
「「ユキザルだ!」」
ファウストゥスとルリが同時に叫ぶ。
それを合図に、雪の中から雪の様な毛玉が一斉に飛び出して来た。
「くっそぉ、ただでさえ重労働で腹減ってんのにおちょっくってくるとは猿のくせになかなかいい度胸だぜ……」
ルリは跳び下がって牽制の銃弾を撃ち込む。
しかし、それを「わざと外したものだ」と理解出来ない猿達は調子に乗った。
その時、エヴァの瞳に黄金色の炎が燃え上がる!
(真っ白な毛皮なんて高く売れそうじゃないいいじゃない、よし売ろう)
じゅるっ。
あ、いけないヨダレが。
こんなとこイケメンに見られてないよね?
よし大丈夫、では遠慮なく――狩る!
もはやエヴァにはユキザルが金貨にしか見えなかった……なーんて、そんな筈ないじゃない。
大丈夫ダヨー痛いことしないヨー、ちょっと絵を描かせてくれたら逃がしてあげるヨー?
「もう、どうして出て来るんですか……!」
大人しくしているなら自分達だって何もしないのに。
そう思いつつも、シグリッドはボスの姿を探す。
「ボスが逃げれば、皆逃げてくれると思うのです……!」
「そうだね」
レインが頷く。
「雑魔なら殲滅も考えるけど、今回はこっちが生活スペースにお邪魔しちゃってるからね」
少し大人しくなってもらう必要はあるが、無益な殺生は避けたいところだ。
ただ、長引けば雪崩の恐れがある。
「速攻で私達のほうが格上だって教えるけどね……ほらほら、痛い思いをするよー?」
魔導拳銃で牽制――は、やっぱり舐められてる?
「威嚇して散らせないなら、少し痛い目を見て貰うか」
ウル=ガは瞬時に距離を詰めると、一匹の猿に鞭を絡ませた。
そのまま縛り上げ、見せしめの様に手近な木の枝に吊す。
エニグマの場合は更に手加減がなかった。
制作途中のカマクラ城を壊したものに、無言で片鎌槍を叩き込む。
「オマエラの毛皮剥いで、ぼくちんぬくぬくしちゃうじょっ☆」
様々な布を身体に巻き付け、武器や道具の全てを腰に吊すのがエニグマのスタイル、そこに白い毛皮が加わったら、なかなかにクールだと思いませんか。
「あれがボスだな」
布団の中から目を光らせて、猿達の動きをじっと見ていた練が指差す。
「だれかなんとかしろよ」
カメラ目線で訴えた。
「あれか」
それを受けて、ファウストゥスが前に出る。
「獣相手に上下関係をと言うのなら、直球でこちらの力を示すのが手っ取り早い」
雪の中に踏み込んで上段から渾身の一撃、白銀のトンファーが白い雪を巻き上げた。
「邪魔をするな、去ね」
ぎろり。
泣く子も黙るどころか更に激しく泣き出し逃げる、気迫の籠もったメヂカラは――猿にも効いた。効いてしまった。
蛇に睨まれた蛙状態のボス猿は、シアが撃ち込んだアースバレットの石つぶてを足元に喰らって、はっと我に返った。
くるりと背を向けると、一目散に逃げて行く。
勿論、その子分達が慌てて後を追った事は言うまでもない。
「よし、これでやっと仕事に集中出来るね。さくっとユキフラシを回収するよ」
レインは再びスコップを握り締め、発掘途中だった白い花に声をかける。
「脅かしてゴメンね」
エヴァは花の周囲から丁寧に雪を避けると、イケメンの視線も眼中にない様子でスケッチを始めた。
切れる様な手の冷たさも、霜焼けで真っ赤になった指先も、些細な事としか思えない。
地に根付き咲き誇る花は、それほどまでに――何よりも美しかった。
(雪の白、花の白……どう描いたらもっと鮮明に塗り分けられるのかしら)
移動させてしまうのは、少し勿体ない気がする。
野にあるものは、野にあるからこそ美しい――
「夢中になるのも良いですが、凍傷には注意ですよー?」
ふわり、うさぎの着ぐるみが両手で凍えた手を包み、ヒールをかける。
慌てて単語カードを取り出したエヴァは、お礼と、それから。
『趣味は』
「猫と一緒にお昼寝する事でしょうかー」
『好きな食べ物は』
「ふわふわの甘い卵焼きですねー」
って、お見合いじゃないんだから君達。
あ、因みに彼女はいないそうですよ?
「お、あったあった! 初めて見るけど、綺麗なモノだね」
雪の中から現れたその姿に、ウィ=ガは目を細める。
何だか、抜いて持って帰るのは忍びないけれど。
「真っ白なヒマワリ……ユキフラシだった、か」
掘り出した根を大切に濡れた布で覆いながら、ウル=ガが呟いた。
「無事に帰ったら、銀細工で作ってみるのも良いかもしれん、な。きっと銀で作ったら美しいだろう」
フロルの店に置いて貰うのも良いかもしれない。
(猫雑貨と花の店、か……。花は美しい。猫も美しいモノだな)
何れ二人で訪ねてみたいものだと、ウル=ガは思う。
そこに丁度通りかかったフロルを、ウィ=ガが呼び止めた。
「今度お店にお邪魔しても構いませんか?」
「ええどうぞ、是非に~」
「花も、猫雑貨も気になって。セレクトはフロルさんが?」
新しい作家も年中無休で募集中だ。
「どちらもお好きだから始められたのでしょうか?」
それは勿論。
ルリは力技で根っこごと引っこ抜――
「あの、それはちゃんとスコップで掘り出した方が」
慌てて止めに入ったシアが応援を呼ぶ。
呼ばれて来たのはファウストゥス。大丈夫、怖くないよ?
「ユキフラシ、か。初めて見るな」
掘り出しと荷造りを終えると、興味津々の様子でスケッチを始めた。
見たままの姿を詳細に描き、生息環境や特性などの付記と共に記録する、それが彼の習慣であり、職業病の様なものでもあった。
「興味深い植物だし、出来れば私も一本貰いたいものだが……」
「あ、ぼくも出来たら頂きたいのです」
シグリッドも遠慮がちに手を上げる。
ダウンタウンの子達に持っていったら、きっと喜ぶだろう。
「ええ、構いませんよー」
必要な数は確保出来たし、後はご自由に。
口笛を吹きつつ細かい装飾にまで拘ったカマクラ城を作り上げたエニグマは、さっそく中でのんびりシエスタ。
その間に他の仲間達は――
「雪! 雪だるま作りたいです……!」
シグリッドは猫耳付きの雪だるまを作って、木の実や枝で顔を付けて。
「シェーラさんです(どやぁ」
ぺちっ。
シェーラさん、ぺしぺし猫パンチ。
「まっしろいし、すごくそっくりに出来たと思うのですが……」
何が気に入らないんだろう?
「んふふ、この恐ろしく降り積もった雪を使わない手は無いよねー。この場所なら雪も長持ちしそうだし」
レインは寒さも忘れて雪の彫刻を作り始めた。
「お姉さんの腕が鳴るねぇ。こう、なんて言うのかな。細部までこだわってこその美しさだよねぇ」
無駄にクオリティ高いの作っちゃうよ!
芸術関連ならウル=ガも負けてはいない。
「職人の血が騒ぐ……。美しい城を見事、作り上げてみせよう」
ウィ=ガが持参したホットミルクで休憩しつつ、雪を固めて削っていく。
「そうだな……小さくとも細部まで表現出来れば、良い仕上がりになるだろう……」
フロルは城よりも猫の彫像の方が興味があるかもしれないが。
ついでに雪の猫も遊ばせておこうか。
雪の中に、様々なオブジェが並ぶ。
精巧なものから素朴なものまで――それらを眺めながら、最後に皆で雪の中のお茶会を楽しんで。
「しッかしこの花はどうなってんだろーな」
帰り道、花と一緒に荷馬車に積まれた布団、もとい練は首を傾げる。
「雪降らすまではわかる。埋まっても降るのがわかんね」
それに何のためだ。仮説は4つ立てたが、自分が思いつくくらいなら、もう誰か調べたか。神霊樹にデータあるかしらん……ブツブツ。
「決まった量を積もったらそれ以上は雪を降らせないのか、それも疑問ですね」
シアが頷く。
持ち帰ったものを観察すればわかるだろうか。
「……しかしこれを30本も植えたら庭で遭難せんか、依頼人は」
「警告はしましたよー」
ファウストゥスの言葉にフロルはイイ笑顔を返す。
「これでいつでもかき氷喰い放題だな、蜂蜜かいちごミルクの日は呼んでもらうか」
というエニグマの言葉は冗談として――え、本気?
それはともかく、苦労して持ち帰ったのだから、枯らす事なく大事にして欲しいものだ。
「1本枯らす毎に一人死ぬぞー」
練がカメラ目線で訴える――嘘だけど。
後日、依頼人の屋敷から「庭で遭難した」と救助の依頼が出されたとか――
出発前、シア(ka3197)は皆に向かって丁寧にご挨拶。
防寒具を着込んで、スコップとバケツを荷運び様のソリに乗せて、後は磁石と地図、ライトも念の為。
「群生地ってライブラリで調べられるのかね?」
頭から布団を被ったまま四足歩行する妙な生物――雪村 練(ka3808)が訊ねる。
パルムが興味を持てば登録されるかもしれないが、とりあえず今回、そこに目当ての花が存在する事は確かだった。
「根から土が落ちないように袋も要るな」
それと背負子があれば、帰りは布団ソリ滑降で楽が出来る、かも。
「念の為、数には余裕を持たせた方が良いのではないか」
そう助言したファウストゥス(ka3689)は、趣味と実益を兼ねた植物好きだ。
「そうですね、ありがとうございます~」
あ、でも待って。
「なあ、ソリって雪がない場所だと動かないんじゃねえか?」
ルリ・エンフィールド(ka1680)が良いところに気が付いた。
「無理ならソリは諦めるぜ?」
それなら途中まで荷馬車を借りて運べば良い。
勿論、費用は依頼人持ちだ。
というわけで。
「エドアルドさんも懲りない方ですねえ……」
馬車の荷台でシグリッド=リンドベリ(ka0248)は軽く溜息。
「でもまあ、丁度お仕事が貰えて助かりました」
大事なメイン武器がくず鉄化した為、資金が必要なのだ。
「こんな寒くなってきたのに雪を降らしたいなんて、金持ちの考えることは理解できねえぜ……」
いくら同盟領の気候が温暖でも、冬はそれなりに寒い。
ルリは毛皮のマントをしっかりと身体に巻き付けて、ぶるっと身震いをした。
「あ、わかったぜ! きっとかき氷をくいたくなったんだな!」
雪ってかき氷みたいなものだって聞いた。
「でも実はボク、雪って見たことないんだよな」
大丈夫、もうすぐ見られるよ。
嫌というほど、ね!
辿り着いた雪山を前に、エニグマ(ka3688)は胸を張る。
「オレサマからすると全部『山』だけどな!!!!」
そして積もった雪に全身ダイブ。
「ぐま」
ずぼっと嵌まって、ごろんごろん。
エニグマはそのまま転がる。自ら雪だるまになってゴロゴロ転がり、道を作る。
急な坂でも転げ落ちたりせずに、重力に逆らって転がり続ける。
それを追いかけて、一行は雪道を進んだ。
だがしかし。
「兄さん、行こっか!」
ウル=ガ(ka3593)とウィ=ガ(ka3596)の兄弟だけは、何故か道を外れていく。
「あ、遭難しない様にね。助けてあげないからね」
心配なら手を繋いであげようか?
「ほらほら、こっちだよ。何となく、こっちに生えてる気がするんだよね」
自信満々に、ずんずん歩いて行くウィ=ガだったが。
「……待てウィ=ガ。そっちじゃない……」
「え? こっちじゃないの? でも行ってみないと分からないよ?」
「わかるだろう」
と言うか、わかれ。
「仲間をすっかり見失ったぞ。オマエの方向感覚は壊滅的、だな」
「そうかな? でも、だったらどっちに行けば良いんだろう?」
周囲360度、全てが真っ白で目印もないんだけど。
「こっちだ」
「……分かるの?」
それなら信じてついて行こうか。
暫く行くと、雪がどんどん深くなってきた。
「ああ、そうだ! ユキフラシが有るって事は、雪が沢山ある方向を目指せば良い訳か。流石兄さんだね」
仲間達の姿も見えてくる。
「良かった、皆も無事だよ」
「迷ったのはオマエの方だがな」
ぼそり。
「これだけ積もってればスノーマンとか、雪の家とか作れますね」
シアは嬉しそうに目を輝かせる。
「持って帰れないけど、ちょっと遊べるといいな」
聞けば、リアルブルーには雪を閉じ込めた手乗りの丸いのがあるとか――
でもまずは、仕事を終わらせるのが先だ。
しかしエニグマは己の欲望を優先させた。
雪の中に尻を出して埋まってみたり、モグラごっこをしてみたり。
茶色い熊耳カチューシャとまんまる付け尻尾が、雪まみれのシロクマ仕様だ。
でも皆さん真面目にお仕事してるから、一人で遊んでいても今ひとつ盛り上がらない。
「……よし、此処に城を建てよう」
カマクラ作ってぬっくぬく作戦だ。
「遊ぶついでに花探してやんよ、えっと……『一人』30本だっけな?」
大人の漢は素手で勝負よ、道具なんか使わねぇ!
霜焼けだって怖くねぇ!
「フロルのおにーちゃん、ヒールおねがいっ☆」
ほらな、こういう優男は泣き落としに弱いんだぜ!
ヒリヒリ痛くて半分くらいマジ泣きだったけどな!
「雪掻き……! 力仕事頑張ります……!」
猫のシェーラさんをフロルに預け、シグリッドは頑張る。
「大丈夫です、子守よりは全然楽ですから!」
主に精神的に。
「つーかよぉ、なんで花から雪が出るのに背丈より深く積もんだ」
練がびしっとカメラ目線で指差す。
「絵面がありえねー」
いや、それより歩く布団の方がありえねーとは思いませんか。
「いいんだよそこは、こまけー事は気にすんな」
練は掘った雪を広げた布に積み上げ、いっぱいになったら引きずって捨てに行き……を繰り返しては、スコップでどんどん掘っていく。
「雪は珍しくないし、好きだけど……」
ウィ=ガは背丈の倍ほども積もった雪の壁を見上げる。
「流石にユキフラシが群生しているだけあって、積雪量が凄いね」
さて、何処に埋まっているのだろう。
「あ、兄さんは掘らなくていいよ? 手、大切だからね。その間、ユキザルが邪魔しない様に、見張っててね」
「ソリで雪を運び出すくらいは出来るぞ」
じゃ、それだけお願いしようかな。
「んー、やっぱり雪山ってのは綺麗だねー。悪天候じゃなくて良かったよ」
降り積もる雪の下に立って、力のない笑みを浮かべるレイン・レーネリル(ka2887)のそれは、多分きっと現実逃避。
「……インドア派な、私でも、この美し、さは見る価値が、あるねっ!」
ぜぇぜぇがくがくぶるぶる。
雪を踏み固めながらの行軍のお陰で、息はとっくに上がっている。
なのに汗をかかないどころか、それでもまだ寒いとは一体どういう事か。
「私みたいな暑がりエルフでも雪山は堪えるねぇ。久々だよ、こんなに着込むのは」
もっこもこに着込んで、スコップを振るう。
「ふいー、久々の肉体労働だねぇ。筋肉痛になりそうだわ。ここまで肉体が老いていたかー、なんてね」
むしろデフォルトで脆弱だって? 知ってる。
因みに外見年齢は16歳である。ぴっちぴちである。
「あぁ、さっさと終わらせて遊びたいねぇ」
「私は遊ぶより温泉や布団でぬっくぬくしたいですよー」
誰だ、そこでジジくさい事を言ってるのは――
イケメンだ。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は見る。
いや、確かに出発前にはキャーってなったけどね、普通に仕事着だったから。
でも今は、うさぎだ。まるごとうさぎだ。
とても暖かそうだが、残念な事にイケメン度は急降下……いや、寧ろ親しみやすさが増して好感度アップ?
これはナンパ的アタックのハードルも下がった気がするけれど、アタックってどうするんだっけ飛びかかるんだっけ?
いや、ここはきっと「か弱い女の子アピール」が効果を発揮する筈!
フロルの視線が向いた瞬間、エヴァはさっと目を逸らしつつ『きゃっ☆重ーい』みたいな演技を発動。
だってほら、女の子だもん。力仕事してる時とか見られるの恥ずかしいじゃない?
男子より力強い女子も多いって言うか、か弱い女子を探す方が難しそうな世界だけど、そこは乙女心、理屈じゃないの!
でも知ってる、今まで『どっせーい!』って勢いで豪快にやってたよね。
見なかったふりしてあげるけど。
「ユキザルの隠れる場所を減らす意味でも、さっさと雪かきを行うか」
ファウストゥスはスコップ片手に、まずは豪快に周囲の雪をどかしていく。
雪の中に花の一部でも見えれば、後は手作業だ。
「商品である花を傷つけるわけにはいかんしな」
ところが、目で確認する前に、スコップの先が何かに当たった。
「これは――」
「ところで、雪って美味しいのかなぁ……。うぅ、なんか雪見てたら腹がすいてきたぜ! さっさと終わらせて温かいもんくおうぜ!」
「ふむ、それなら何かあったかいもの用意するか」
ルリの訴えを聞いて、練が火を熾せる場所を探す。
と、シアが一箇所に纏めた雪の山を指差した。
「これを固めて中をくりぬいたら、疲れたときの休憩所にできそうですね」
先にこちらを作ってしまおうか。
出来映えに拘らなければ、制作にそう時間はかからないだろう。
そういう事ならと、仲間達も作業を中断して手伝ってくれた。
やがて完成したかまくらの中で、練が火を熾し始める。
四足歩行ゆえ、雪かきよりはこの方が楽だ。
「布団に燃え移らねえ様に注意だな」
それを見て、ルリはやる気を奮い立たせた。
まずは積もった雪に聞き耳を立て、何かが潜んでいないかと気配を探り――
「何かいるぜ!」
「「ユキザルだ!」」
ファウストゥスとルリが同時に叫ぶ。
それを合図に、雪の中から雪の様な毛玉が一斉に飛び出して来た。
「くっそぉ、ただでさえ重労働で腹減ってんのにおちょっくってくるとは猿のくせになかなかいい度胸だぜ……」
ルリは跳び下がって牽制の銃弾を撃ち込む。
しかし、それを「わざと外したものだ」と理解出来ない猿達は調子に乗った。
その時、エヴァの瞳に黄金色の炎が燃え上がる!
(真っ白な毛皮なんて高く売れそうじゃないいいじゃない、よし売ろう)
じゅるっ。
あ、いけないヨダレが。
こんなとこイケメンに見られてないよね?
よし大丈夫、では遠慮なく――狩る!
もはやエヴァにはユキザルが金貨にしか見えなかった……なーんて、そんな筈ないじゃない。
大丈夫ダヨー痛いことしないヨー、ちょっと絵を描かせてくれたら逃がしてあげるヨー?
「もう、どうして出て来るんですか……!」
大人しくしているなら自分達だって何もしないのに。
そう思いつつも、シグリッドはボスの姿を探す。
「ボスが逃げれば、皆逃げてくれると思うのです……!」
「そうだね」
レインが頷く。
「雑魔なら殲滅も考えるけど、今回はこっちが生活スペースにお邪魔しちゃってるからね」
少し大人しくなってもらう必要はあるが、無益な殺生は避けたいところだ。
ただ、長引けば雪崩の恐れがある。
「速攻で私達のほうが格上だって教えるけどね……ほらほら、痛い思いをするよー?」
魔導拳銃で牽制――は、やっぱり舐められてる?
「威嚇して散らせないなら、少し痛い目を見て貰うか」
ウル=ガは瞬時に距離を詰めると、一匹の猿に鞭を絡ませた。
そのまま縛り上げ、見せしめの様に手近な木の枝に吊す。
エニグマの場合は更に手加減がなかった。
制作途中のカマクラ城を壊したものに、無言で片鎌槍を叩き込む。
「オマエラの毛皮剥いで、ぼくちんぬくぬくしちゃうじょっ☆」
様々な布を身体に巻き付け、武器や道具の全てを腰に吊すのがエニグマのスタイル、そこに白い毛皮が加わったら、なかなかにクールだと思いませんか。
「あれがボスだな」
布団の中から目を光らせて、猿達の動きをじっと見ていた練が指差す。
「だれかなんとかしろよ」
カメラ目線で訴えた。
「あれか」
それを受けて、ファウストゥスが前に出る。
「獣相手に上下関係をと言うのなら、直球でこちらの力を示すのが手っ取り早い」
雪の中に踏み込んで上段から渾身の一撃、白銀のトンファーが白い雪を巻き上げた。
「邪魔をするな、去ね」
ぎろり。
泣く子も黙るどころか更に激しく泣き出し逃げる、気迫の籠もったメヂカラは――猿にも効いた。効いてしまった。
蛇に睨まれた蛙状態のボス猿は、シアが撃ち込んだアースバレットの石つぶてを足元に喰らって、はっと我に返った。
くるりと背を向けると、一目散に逃げて行く。
勿論、その子分達が慌てて後を追った事は言うまでもない。
「よし、これでやっと仕事に集中出来るね。さくっとユキフラシを回収するよ」
レインは再びスコップを握り締め、発掘途中だった白い花に声をかける。
「脅かしてゴメンね」
エヴァは花の周囲から丁寧に雪を避けると、イケメンの視線も眼中にない様子でスケッチを始めた。
切れる様な手の冷たさも、霜焼けで真っ赤になった指先も、些細な事としか思えない。
地に根付き咲き誇る花は、それほどまでに――何よりも美しかった。
(雪の白、花の白……どう描いたらもっと鮮明に塗り分けられるのかしら)
移動させてしまうのは、少し勿体ない気がする。
野にあるものは、野にあるからこそ美しい――
「夢中になるのも良いですが、凍傷には注意ですよー?」
ふわり、うさぎの着ぐるみが両手で凍えた手を包み、ヒールをかける。
慌てて単語カードを取り出したエヴァは、お礼と、それから。
『趣味は』
「猫と一緒にお昼寝する事でしょうかー」
『好きな食べ物は』
「ふわふわの甘い卵焼きですねー」
って、お見合いじゃないんだから君達。
あ、因みに彼女はいないそうですよ?
「お、あったあった! 初めて見るけど、綺麗なモノだね」
雪の中から現れたその姿に、ウィ=ガは目を細める。
何だか、抜いて持って帰るのは忍びないけれど。
「真っ白なヒマワリ……ユキフラシだった、か」
掘り出した根を大切に濡れた布で覆いながら、ウル=ガが呟いた。
「無事に帰ったら、銀細工で作ってみるのも良いかもしれん、な。きっと銀で作ったら美しいだろう」
フロルの店に置いて貰うのも良いかもしれない。
(猫雑貨と花の店、か……。花は美しい。猫も美しいモノだな)
何れ二人で訪ねてみたいものだと、ウル=ガは思う。
そこに丁度通りかかったフロルを、ウィ=ガが呼び止めた。
「今度お店にお邪魔しても構いませんか?」
「ええどうぞ、是非に~」
「花も、猫雑貨も気になって。セレクトはフロルさんが?」
新しい作家も年中無休で募集中だ。
「どちらもお好きだから始められたのでしょうか?」
それは勿論。
ルリは力技で根っこごと引っこ抜――
「あの、それはちゃんとスコップで掘り出した方が」
慌てて止めに入ったシアが応援を呼ぶ。
呼ばれて来たのはファウストゥス。大丈夫、怖くないよ?
「ユキフラシ、か。初めて見るな」
掘り出しと荷造りを終えると、興味津々の様子でスケッチを始めた。
見たままの姿を詳細に描き、生息環境や特性などの付記と共に記録する、それが彼の習慣であり、職業病の様なものでもあった。
「興味深い植物だし、出来れば私も一本貰いたいものだが……」
「あ、ぼくも出来たら頂きたいのです」
シグリッドも遠慮がちに手を上げる。
ダウンタウンの子達に持っていったら、きっと喜ぶだろう。
「ええ、構いませんよー」
必要な数は確保出来たし、後はご自由に。
口笛を吹きつつ細かい装飾にまで拘ったカマクラ城を作り上げたエニグマは、さっそく中でのんびりシエスタ。
その間に他の仲間達は――
「雪! 雪だるま作りたいです……!」
シグリッドは猫耳付きの雪だるまを作って、木の実や枝で顔を付けて。
「シェーラさんです(どやぁ」
ぺちっ。
シェーラさん、ぺしぺし猫パンチ。
「まっしろいし、すごくそっくりに出来たと思うのですが……」
何が気に入らないんだろう?
「んふふ、この恐ろしく降り積もった雪を使わない手は無いよねー。この場所なら雪も長持ちしそうだし」
レインは寒さも忘れて雪の彫刻を作り始めた。
「お姉さんの腕が鳴るねぇ。こう、なんて言うのかな。細部までこだわってこその美しさだよねぇ」
無駄にクオリティ高いの作っちゃうよ!
芸術関連ならウル=ガも負けてはいない。
「職人の血が騒ぐ……。美しい城を見事、作り上げてみせよう」
ウィ=ガが持参したホットミルクで休憩しつつ、雪を固めて削っていく。
「そうだな……小さくとも細部まで表現出来れば、良い仕上がりになるだろう……」
フロルは城よりも猫の彫像の方が興味があるかもしれないが。
ついでに雪の猫も遊ばせておこうか。
雪の中に、様々なオブジェが並ぶ。
精巧なものから素朴なものまで――それらを眺めながら、最後に皆で雪の中のお茶会を楽しんで。
「しッかしこの花はどうなってんだろーな」
帰り道、花と一緒に荷馬車に積まれた布団、もとい練は首を傾げる。
「雪降らすまではわかる。埋まっても降るのがわかんね」
それに何のためだ。仮説は4つ立てたが、自分が思いつくくらいなら、もう誰か調べたか。神霊樹にデータあるかしらん……ブツブツ。
「決まった量を積もったらそれ以上は雪を降らせないのか、それも疑問ですね」
シアが頷く。
持ち帰ったものを観察すればわかるだろうか。
「……しかしこれを30本も植えたら庭で遭難せんか、依頼人は」
「警告はしましたよー」
ファウストゥスの言葉にフロルはイイ笑顔を返す。
「これでいつでもかき氷喰い放題だな、蜂蜜かいちごミルクの日は呼んでもらうか」
というエニグマの言葉は冗談として――え、本気?
それはともかく、苦労して持ち帰ったのだから、枯らす事なく大事にして欲しいものだ。
「1本枯らす毎に一人死ぬぞー」
練がカメラ目線で訴える――嘘だけど。
後日、依頼人の屋敷から「庭で遭難した」と救助の依頼が出されたとか――
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 15人 |
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ポイントがありませんので、拍手できません
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相談しようぜ! ルリ・エンフィールド(ka1680) ドワーフ|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/04 01:23:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/04 09:14:10 |