• 空蒼

【空蒼】辿る糸が消えないように

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/11/11 07:30
完成日
2018/11/12 06:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ハンターとして、伊佐美 透もチィ=ズヴォーも大規模作戦には参加していた。戦場を共にし、怪我も疲労もほぼ分けあって──幸い、双方重体にはならなかった──帰ってきた。
 つまり、その怪我や疲労が回復したタイミングもほぼ一緒だったと思う。
 が、透が、
「……飯でも食いに行かないか」
 と、チィの前に顔を出してくるまでは、それからそれなりに待つことになった。
 そうやって透からチィに声をかけるまでチィからは何も言わなかったことについて、透からは文句も感謝もなかった。チィも別にそれがどうだったのかは聞かない。
 ……透の横顔は、まだ、吹っ切れた、というような物ではなかった。
 回復するまで、そうしてからこれまでの間。透は今回の戦いのことをゆっくり振り返っていた。そうするだけの時間がようやく出来た。
 様々な事があった。色んなことを見せつけられた。それでも、人類を、自分を信じて戦い抜くとその戦いの中で決意して、そうしてきた。その決着の結果が。
 ──……そんなのってあるかよ。
 思いは、拭いきれなかった。
 またリアルブルーに行けなくなった。結局それが、事実として一番重く圧しかかる結果だった。
 必死で食らいついて、やっとまた掴み直した夢が、あっけなくするりと抜けていった気がする虚しさ。感じて宿った熱量がまた行き場を失っていく。
 ……転進、か。
 これで全てが終わったわけではない。これからまた、取り返すための戦いが始まるのだ。
 ──なんてやっぱり、綺麗事の誤魔化しだろう。
 分かっては、いるのだ。それを発した者も、綺麗事と分かって言っているのだろうと。分かった上で、それが必要だから言ったのだろうということも。……良く、分かってる。知っている。
 ただそれでも、その言葉は今の自分を引っ張りあげてはくれなくて。気持ちはどこまでも沈んでいく。
 外に出よう、いい加減、相棒に顔を出そうと思えたのは。これ以上は一人で考えていても仕方ないと思うところまで、一旦思考がどん底に落ちたからだった。

 あまり会話はないまま歩いて、よく行く、オフィス近くの食堂に入る。注文を終えて軽く食べ始めると、
「一先ずは、お疲れさん……ですかねえ」
「ああ……お疲れ様」
 ようやっと、それくらいの言葉を掛け合うきっかけにはなる。
 そのまま、チィは少し考えて。
「透殿は……こっちの世界でちゃんと芝居やる気は、ねえんですよね」
 そうして、かなり柔らかいところに、敢えて踏み込むようにそう聞いてきた。
「──……うん」
 促されたことが分かるから、そのまま吐き出す。ずっと分かってはいたことだ。演劇ならこちらの世界でも出来る。それでも……こっちでやるつもりはない。
 それは、こちらの技術に不満があるとかではなく、むしろ、分かっているからだった。稽古と、公演中の絆は自分にとって格別な物になってしまうということが。この世界にそれを築くのが怖かった。帰るのが惜しいと──帰れなくてもいいやと、いずれ考えるようになりそうなことが。
「……別に、お前との時間が何でもないってことじゃないんだ。どのみち誰とも関わらずに生きてくなんて、無理だしさ……だけど、だけどな?」
「ああ、そりゃわかりまさあ。好いてるもんと、根を張る場所ってのはまた別もんでさあ」
 リアルブルーが佳境を迎える時と前後して、辺境でも大きな戦いと変化が訪れていた。透の危機と辺境の分岐点。二択になったときにチィが迷うことは無かった。彼もまた、根は辺境の戦士だ。そういうこと。透が根を下ろす場所というと、そこなのだ。
「うん。ある意味じゃ、18年育ててくれた親元から飛び出してまで飛び込んでった世界だからさ……まあ、これも正確じゃないんだろうが」
 弁解のように、話し始める。
 ……ごく普通の家族だったと、思う。そうして、こちらのごく普通の家族の感覚として、高校を出たら上京して役者を目指したい、なんて話は当然、反対された。
 話し合いの末についた落とし処はこうなった。そんなに言うなら全て自分の力でやってみろと。どうしても未成年ではどうにもならない部分以外に手も金も出さない。そうして──但し、無理だと、辛いと思ったら何時でもすぐに帰ってきなさい。
 ……おそらく。半ば以上、親は半年ほどで挫折して帰ってくるだろうと思ってたのだろう。そうして、それくらいの遅れであれば取り返しはつくだろうと。ただ、もとより親には迷惑はかけないつもりで貯金なりの準備をしていた彼は、バイトとレッスンに疲れはてながら、事務所の扉を叩く日々をまず半年、どうにか耐えきった。
「その位から、姉貴から『親には内緒ね』って書き添えて救援物資が届くようになってさ」
 語る口は。思い出すのは、そうやって、止まらなくなっていった。……ああ、今、喋りたいんだな、と自覚した。チィは適度に相槌をしながら聞いていた。
「姉さんいたんですか」
「そういや改めて話すことも無かったか。……まあやっぱり、普通の姉弟だったと思う……から」
 小学校が始まって、世界が家以外に広がっていくにつれて程良く互いに無関心になっていった、だけど、だから特に衝突することもなく、家に帰れば同じ空間を共有することに無理がない程度の。
 ……だから。『親には内緒』といいつつ届くその物資のセンスが明らかに母親の物であるとか。礼の際に、『ありがとう。親にも良く言っといて』と言付ければ、『ああまあやっぱりバレるわよね。まあ、そう言うことにして付き合うことにしたから、「良く言っとく」からそっちもそうしといて』と返ってくるような。そんな温度の。
「……っていうか、姉貴か」
 そこまで言ってふと気がついて、透はここではっきり顔をしかめた。
「どうしやした?」
「……いや、時間凍結ってこれ、下手に長引いたら俺姉貴より年上になったりするのかもしかして」
「……。ちなみに、いくつ上なんですかい」
 何となく、そこで微妙な気持ちになるのは共感できたのか、気遣うようにチィが聞いてくる。
「……2つ」
「……そうですかい」
 それだけを言う相棒の態度は、『下手な慰めは言うまい』という感じだった。思わないことは言えない奴である。苦笑する。
 だからつまり。普通の家族だった。普通に……愛してくれた。
 だからやっぱり。それだけじゃない。世話になった人。尊敬する人。得た空間。自分を『創った』ものはやはりそこにあるのだと、どうしようもなく感じて。
 きっとここでも生きていける。幸せにもなれるだろう。それは分かってて。そうしてこうやって、また打ちのめされることになっても。
「早く、地球に戻れるように……なりたいな」
 それでも……どうしようもないのだ。
 そのためにやるべきことは分かっていて。その上で認識する現状に、この気持ちを重荷からやる気にするためには、もう少し時間と、何かが必要だった。

リプレイ本文

 大伴 鈴太郎(ka6016)は、透たちが来る前から偶々この食堂に居て、カウンターの隅で一人思いを巡らせていた。
(リアルブルー凍結か……)
 正面からしっかりと、その事実に向き合ってみて。思ったよりも凹んでいない気がする、というのが彼女の感覚だった。
 ──故郷の喪失、というのであれば。
(何もかも手遅れで、瓦礫を前に泣き叫ぶしか出来なかったあの時とは違うから)
 彼女の故郷……鎌倉。かつて目にしたその光景に比べれば、凍結していったあの風景は。
(──つっても、やっぱキチィよなぁぁ)
 そこまで考えたところで、彼女はカウンターに突っ伏した。
(芸能活動だって楽しくなってきたトコだったのによ……ヒヨや中橋のオッチャン、ファンレターくれたヤツら……みんな無事かな)
 何も思わないわけがない。幾つもの顔。交わした言葉。浮かんでは泡沫となって弾けていく。
 透とチィの会話に気付いたのは、そんな時だった。
(男同士だから出来る話ってあンだろな。オレだったら、知り合いの女──まして年下相手に弱ってるトコ見せたかねぇもん)
 そう思うと、咄嗟に、立ち去ろうと思って近くに居たウェイトレスに声をかける。
「ワリ、さっきの注文だけど……」
「あっはい! 今出来ますよ! お待たせしてます!」
「……」
 キャンセルを告げようとした口はそうしてどうしようもなく遮られて、鈴は座り直すしかなかった。
 こうなれば、バレないように祈りつつ、身を縮こませて食事を済ませるしかない──ついそのまま、彼らの方へ耳を傾けつつ。

 そうやって、偶々彼らの会話を聞きつけ反応したのは、彼女一人では無かった。最初に声をかけたのは丁度依頼帰りに食事に寄った鞍馬 真(ka5819)だ。
「二人ともお疲れ様。無事で何よりだよ」
 そこに、良い頃合いと判断したのだろう。アーサー・ホーガン(ka0471)も加わってくる。
 そこから、少し離れた座席。
「……何で今そこなんだ、伊佐美」
 トリプルJ(ka6653)は、その話が聞こえた瞬間。
 表情が消えて、暫くして聞こえないように小さく深く溜息をついていた。

「透もこっちで確たるつながりを作る事を避けてたのか。透みたいに情が湧くのが怖いって感じじゃねぇが、俺も同じと言えば同じだぜ」
 いつものように軽い口調──だがその心根は決して軽薄ではないと、透は思っている──で、アーサーはそう口火を切る。
 曰く……彼も帰還手段が見つかるまで、国や組織がらみのあれこれには関わらないようにしていたし、見つかってからも、しがらみを作らないようにするスタンスは変わっていない、と。
「あくまで、俺の帰属先はリアルブルーだぜ」
 語るのを、頷きながら拝聴する。全く性質が異なると思えるアーサーから根底は非なるのだろうが似た話を聞くというのは不思議な心地ではあった。
「だが、俺は今回の件にショックを受けちゃいねぇんだよな」
 ……そうしてそこから。彼は見解を異にする。
「はっきり言っちまうがよ。みんな捉え方が後ろ向きだと思うぜ。決定的な滅びをひとまず回避できて、俺達の頑張り次第で覆せる可能性が残されたなら上出来だろ。0と1とじゃ大違いってな」
「……まあ。可能性が残っているという事は。出来ることが、やるべきことがあるっていうのは……分かっては、います」
 ぎこちなく頷いて答える透に、アーサーはホントに分かってるかね、と軽く肩を上げる。
「あの戦いじゃ既にシュレディンガーが準備万端整えた後で、ただでさえ後手後手に回ってたんだ。あれで勝てると考えるのは、無事に乗り切れると考えるのは贅沢だぜ?」
 その言葉には。透は完全に、思わず、というふうに口を「あ。」と言いたげに間抜けに開いた。
「『こんなこともあろうかと』が間に合ってる辺り、むしろご都合主義の範疇とさえ言えるな」
 ……確かに。今回の戦いでは何かしら起こる度に……正直、感じていた。「やってられるか」「こんなのどうしろってんだ」、と。それを……考えようによっては、どうにかしてみせた、のだから。
「まあ、元々抱えてた物もあるだろうし、今回の件がきっかけでネガティブな感情が溢れ出てきちまうのは仕方ねぇ。今ここで吐き出しきっちまおうぜ」
 そうして最後。赦すようなアーサーの言。……ああ、と透は思う。本当に、彼は懐が深いな。己との落差に思わず目を閉じる。
「……うん。辛いのは当然だよね」
 そんな透の顔色を窺うようにして、真が先に口を開いた。
「記憶の無い私では、本当の意味で透の辛さを理解できなくて申し訳ないけど──沢山の命が喪われた。皆が苦しんだ。その結末がこれなのかって思いはある」
 真の言葉に、皆それぞれに僅かに表情を変えた。辛さが分からないという彼は……誰の目にも明らかなほど、疲れて見えたから。
 一切の余裕を削り落とすかのように働いているのではないか。やりきれない思いを誤魔化す為に。
「未来のためなんて言われても、あっさり納得できる筈が無いよね……。今は少し休んで、思い出を振り返って、前に進むための準備期間にしても良いんじゃないかな」
 そうやって。真からも、促すように視線を向けられて。
「……前に進むための準備期間、か」
 真の言葉。アーサーの言葉。準備のために、後は何が足りないのだろう。透が思っていると……。
「よ、お揃いだな。ちぃーっとばかりお前さん達の話が聞こえちまったもんでな。俺も交ぜてくれや」
 丁度そうして、誰もが沈黙したタイミング。Jが入ってきたのはその時だった。

「──お前さんの悩みはお前さんにとっちゃこの上もなく重いもんで、それだけを両手で抱え込んでるお前さんにゃ他の人間の悩みを聞く余裕も周りを見る余裕もねぇだろうなってのは分かる。ただ俺はどーしても分からねぇことがあるんで教えてほしい」
 分かる、と言いつつも、そこに含むものがあることを隠そうとはしない物言いだった。
「伊佐美。俺ぁ役者ってのは自分の演技を他人が見て感動してくれりゃ幸せになれる人種かと思ってたんだが……お前は最高の舞台装置で自分の最高の演技が出来りゃ観客なんざ1人も居なくても満足なクチか? それとも公民館みたいな整ってない場所でも老人や子供がお前の演技見て喜んでくれりゃうれしいか。お前は俳優としてどっちだ、伊佐美」
 鋭く問われて。
「俳優として……どちらか……か」
 Jの前で、透は顎に手を当ててじっくりと考え始めた──この問いで悩む、そのこと自体Jの期待を裏切っている意識もあったが。嘘も誤りもない答えを、きちんと出したかった。
「──最高の舞台、最高の演技……か。そうですね。興味があります。評判の脚本家、共演者、劇場……役者であることの喜びを考えて真っ先に思うのは、観客より……関係者との絆。その時間が、俺にとって一番かけがえのないものです」
 考えながら答えて……だから観る人の事などどうでもいい、というのも違うと思った。かつて高瀬少尉やインタラプタに言われたこと。ハンターである自分が演じることが、リアルブルー人に、ハンターにとって不幸なことであるならもう演じられない。あの時は本気で、そう思った。
 ネガティブな方向だけじゃない。合同ライブで。避難民に向けた演技で。何を想い、願っていたか。
「観客に幸せになって欲しい。それもある。日常やしがらみ、全てを忘れ去って解放されるような別世界を、共に。またどこかの劇場で再会しよう、それが次までの生きる目的になるくらいの」
 自分が初めて衝撃を受けた舞台から感じたもの。それを、自分も、そんな風にと。
「だけど……俺が演じていて幸せを感じていたい。素直に向き合うなら、その気持ちが先だ。そのために、観客にも幸せになってほしい。……うん。この順番です」
 答えた透を、Jは真っ直ぐに睨み据えている。緊張の汗を感じながら、それでも透は真っ直ぐ見返した。
「お前にゃ分からんだろうが……俺はこうなって嬉しかったぜ。リアルブルーにどうやって向き合うか自分が何ができるか何をしたいか……それがリアルブルー人全員の問題になった。転移者やハンター、軍人だけじゃねぇ、残ることを選んだ人間も転移を選んだ人間も全てがその問題に向き合った。こんなに心強い話もねぇだろ」
 続くJの言葉。それにも、透はすぐには何も言えずにいた。そういう考え方もあるのか、と興味は向けつつ、正直、素直には賛同できない。……何も変わらなくていい。平穏であってほしかった。帰るべき場所は。
「お前の悩みはハンターになれなかったリアルブルー人がみんな心に秘めてたもんだ。お前にとってのチィが居なくて、歪虚の囁きに落ちる人間も居た。お前も暫く開拓村に通いこんで依頼を受けて、色々見てきたらどうだ」
「……。他のリアルブルーの人たち。また、今クリムゾンウェストで戦う、あるいは脅威にさらされ、苦しむ人たち。自分以外のそうした人たちの全てをどうでもいいと……自分の悩みの前じゃ知った事じゃないというつもりでは、無いですよ」
 そうして透は、やはり自分なりの答えをそれに返す。
「でも俺には、順番がある。まず自分が今どうなのか。それをはっきりさせて……他に目を向ける、そのため何が出来るかを考えるのは、それからなんだ。そういう事だと……今、分かった」
 答えて、そうして透はしっかりと頭を下げた。
「きっと失望させる答えだったと思います。すみません。不甲斐ないし、身勝手だ。けど……それをはっきり考えさせてくれたことに、感謝します」

「……ま、それはそれとして、これからのことだな」
 再び訪れた沈黙をフォローしたのは、やはりというかアーサーだった。
「当面はクリムゾンウェスト側の脅威に対処する感じになるのかね?」
 もうそんな話をするのか……と、言いかけて、でも、そう、結局そういう話になるのだという事は皆、静かに認めていた。
「剣魔が邪神攻略の足掛かりになりそうだが、歪虚王の脅威も各地にあって相手には事欠かねぇからな」
「あー。今中心はそっちですかい。手前どもらはやっぱり。青木の事から意識が離れられねえ感じで」
「そっちの方はそいつがあったなあ……ったく、本当ビックマーは『和む』相手だったもんだ」
 そんな話になれば、やはり各々ハンターである。各地の動向、気になる点、言いたいことはそれなりに出てきた。
「とはいえ、俺には大局に影響を及ぼすことなんて出来やしねぇんだ。その場その場での最善を尽くすだけだぜ」
 アーサーの言葉に、頷いたのは真だった。
「そうだね……一つ一つ、前を向いて進む。出来ることはそれだけだ」
 息を呑む気配を。その場の誰もが、咄嗟に殺した。吐き出すことがこの場の目的ならば、真はまだ、全てを出せてはいない気がした。それは──
「……と、ご馳走さん、だ」
 からりと、アーサーがが食器を鳴らして告げた。空になったそれを主張するようにして、それから立ち上がる。どの道、俺が言いたいことは言った。そんな態度で。
「そうだな。頃合いか」
 Jもそうして、倣うように立ち上がって、二人は去っていった。

 ずっと、そんな会話に耳を傾けていた鈴はと言えば。
 その動きに慌てて自分の食事に視線を落せば、半分くらいしか進んでいなかった。
 盗み聞きに聞き入っていたことを恥じて、急いで食事を再開して──そして、続く会話をそのまま耳にした。
「──私は足を止めない」
 真の独白は、鈴が聞いていると認識していれば言われなかっただろう……この時の彼はそれほどすり減っていた。
「だって、私は人殺しだからね」
 鈴の手が、止まる。
「この戦いで何人殺しただろう。仕方がなかったなんて言わないよ。私が殺した。それが事実だ」
 そのまま聞こえて来たものは……聞いた言葉に間違いがなかったと、はっきりと証明していた。
「私は、あの子達の屍の上に築かれた希望を未来に繋げないといけない。……それが、彼らの未来を奪った私が果たすべき責任なんだ」
 兄のように慕っていた人間の罪の告白に……やはり、さほどショックは、受けなかった。
 寧ろ、合点がいく。以前の様子。そんな……辛い時にも庇護していてくれたことに気がついて。
 元々きっと、強化人間のことを知った時から、その可能性が頭をよぎらなかったわけでは無かったのだと、気付く。
 聞けなかったのは自分が傷つくのが怖くてだ。自分に聞かせたくないという真の気持ちに、甘えて逃げた。
 きっと今日、透に声を掛けられなかったのも。そうして。
(もっと強くなりたいな)
 ふと彼女は、寂しげに視線を上に向けた。
(──いつか父サンと母サンに会えたら、ガンバったねって褒めて貰えるように)
 ふとそんな感傷を覚える自分は、やはり少し疲れているのだろうか。
 ……今は少しだけ休みたい、と、そう思った。
 いつか来ると願い、信じる再会の日。その日までツッパリ通すために。
 そうして彼女は掻き込むように食事を終えると、気付かれないようにそっと、その場を──

「……この戦いは辛いことばかりだったけど、透と共に戦えたことは、良かったと思っているよ」
 真と透の会話は、そうして続いていた。
「きみはずっと私の希望で在ってくれた。受勲よりも、戦果よりも、きみの傍らで戦えることが一番の誇りだったんだ。ありがとう」
「……」
「それから、寄り掛かってばかりで何も返せなくてごめん」
「何で君はそう……君にはずっと、助けられてるよ。ありがとう。第一俺こそ、君にそこまで言われるのが本当に分からない。さっき聞いた通りでさ……」
 何気なく言いながら、Jとの会話を思い返す。自覚した自分の事。ただ身勝手で、自分の事だけで。それで……。
 そこで、透は組んだ手に額を押し付けるようにして俯いた。
「……幸せに。そうだよな。幸せになってもらわないと、俺は幸せになれない、から」
 そうしてポツリと。何かに思い当たるように、零す。
 それは、透もまた、完全に油断したから出てきたものだった。この場が、完全に自分を晒していい者だけになった。後からそうなったが故の気の緩み。
「──……普通に幸せにしてくれる相手と、普通に幸せになってくれればいいと思うんだ。いつかきっとそれが叶うと信じてるし、やっぱり、俺の仕事じゃ難しいんだよ」
 ああ……そういう──ことか。真は理解する。
「気付いて……わざとやってた?」
「いや、自分の事だと、そう確信出来るわけじゃないよ。……何も言われてないのに、こっちから切り出すのもおかしいし……──いや、それはやっぱり、違う……か」
 ずるりと、透の頭がさらに沈んでいく。自覚した、今日一番の自己嫌悪の波。
「そんなこと言って、身勝手なんだよ俺は。ただ……俺の身勝手なんだ」





(その時。彼女がもう立ち去っていたのか。意味を理解できるのか。それは、誰も確認していない。故にここにそれは書かれない)




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参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言