ゲスト
(ka0000)
偽虧兎狩り
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/12 22:00
- 完成日
- 2018/11/18 15:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
先日、フォニケが助けた帝国兵士が彼女にお礼を言いたいという依頼をハンターが遂行した日、工房管理官のアルフェッカと金属加工担当部署クレムトの職人であるシェダルはある部屋に呼ばれていた。
昼間だというのに薄暗いその部屋には蝋燭で灯りがあり、彼ら以外の影がある。
「盗賊の仕事だけではないのか」
シェダルとアルフェッカが見ているのはトライバル模様の書付。
「盗品の仕入れや売買もやっているようですにゃ」
三人目の人物は壁の方に立っており、蝋燭の明かりで辺境部族の衣装だろう一部が見えるくらいだ。
「仕入れ……人も物も関係なく……か」
ふむ、とアルフェッカが書付を懐に仕舞いこむ。
「以前にウチのメンバーがその盗賊のメンバーではにゃいのかと疑われたことがありますのにゃ」
「ルックスか……理由は聞いたのか?」
思い出すのはまだあどけない様子の少年だ。
時折、ドワーフ工房に顔を出しており、アルフェッカ達も既知である。
アルフェッカが追う盗賊はルックスの故郷……エーノス賊を滅ぼし、女達を奪っていった賊。
その族はドワーフ工房と提携している採掘場に姿を現していたことから始まる。
ドワーフ工房への被害は未遂とはいえ、また何かあれば被害が出るかもしれないと思い、独自で調査していた。
「そのハンターは東方の依頼で赤い羽根の首飾りの男を探しておりましたのにゃ」
「東方? そりゃまた遠いところまで」
目を剥くアルフェッカ同様にシェダルも驚いている。
「こちらが追っている盗賊団へは盗品を買い付けていると情報を得ましたにゃ」
情報提供者は更に情報を得てきたのだろう。
「怠惰王の侵攻もあったのによくやるな」
「少人数とはいえ、これくらいは大丈夫ですにゃ」
しれっと告げる影にアルフェッカはそれもそうかと納得する。
「長くやっていることから、頭目は数代変わっているってことか」
「売買に関しては必ず他の者を代理人としているようですにゃ。にゃけど、東方は自ら出向いているようですにゃ」
「西側より、足が付きにくいと思ったんだろうな」
呆れたシェダルはちゃちゃを入れるだけで巻き煙草を吸いだした。
「また、連中が動き出したのですにゃ。目的は盗品の競売」
提供者の言葉に二人は神妙な表情となる。
開催は近日ということであった。
「また報告に来ますにゃ」
そう言った情報提供者は身を屈めると、蝋燭の明かりで顔が照らされる。
金の瞳の月猫……部族なき部族のリーダーであるテトは消えていった。
「随分とご執心だな」
男二人になった時、シェダルが口を開く。
「工房に関わることだ。当然だろ」
あきれた様子のシェダルだが、アルフェッカの表情は動かない。
「この件、フォニケにバレるなよ。関わらせたくない」
「問題ない。今頃の彼女なら最悪、ハンターと追いかけっこだろ」
「どういうことだ?」
顔をしかめるシェダルにアルフェッカはクヤムという若い兵士がフォニケに助けてもらって、お礼が言いたいがどこの誰なのかわからずに困っているので、ハンターに依頼するように仕向けたと言った。
「その合間を狙って呼びつけたのか……で、そいつは気があるのか?」
「さぁ? 女性には慣れてないって話だし、ドワーフ工房の所属と言えば大抵興味をなくすだろ。そうでなければ見どころはある」
しれっと言うアルフェッカにシェダルは引いた表情を見せる。
「ふるいにかけたのかよ」
「フォニケちゃんは前の時代から大暴れしてくれたからな。悪い虫が近寄らなくてすむ」
「ありゃ、気を引くためだ」
「おお? 保護者なのに放置かよ」
「女いたのは知ってたからな」
部屋を出た二人は軽口を叩きながらドワーフ工房へと向かう。
「フォニケ?」
「あ、二人ともどこにいたの?」
廊下を歩いていたフォニケをシェダルが見つける。朝は髪を束ねていたのに、今は結い上げている。
「俺の仕事手伝わせていた」
アルフェッカが言うと、彼女は「そう」と納得しつつ、リストバンドの位置を直した。
「今日はご機嫌だね、フォニケちゃん」
「若い子から贈り物をもらったのよ」
ふふ、とご機嫌に笑うフォニケは助けたお礼に貰った髪留めを二人に見せる。
「ハンターから?」
「いいえ、クヤムっていう治安部隊の新人くんよ」
「へー、素直に受け取るなんて珍しい」
「失礼ね、人が心を込めて選んで贈ったものなのよ、嬉しいに決まってるじゃない」
フォニケとアルフェッカが軽口を叩きながら先を歩く。
紙巻き煙草を指先で弄んでいたシェダルの視線はフォニケのリストバンドへ向けられていた。
アルフェッカ達の密会をした数日後、部族なき部族のリーダーであるテトが要塞管理補佐官としてのアルフェッカの執務室に現れた。
「どうしたんだ?」
呼ばれたアルフェッカがテトに問う。
「しくじりましたにゃ……仲間が今追われてますにゃ」
テトの報告は急を要するものだった。
部族なき部族が偵察部隊に出したのは赤翡翠と飯綱のコードネームを持つ二人組。
目的の賊が競売をする街で飯綱が敵に怪しまれ、逃げ出そうとしたが、賊が街から逃げ出せないように手を打っているという。
「なんでまたそんなドジを踏んだんだ?」
「今回の競売には頭目もいたようですにゃ」
どうやら、規模の大きい競売をしようとしていたようであり、頭目は部下やら情婦やら引き連れて自ら出るほどだった。
「何を焦ったのかはわからないが、人命が第一だ。ハンターオフィスに連絡し、救出させよう。ただし、名目は歪虚の討伐だ」
「にゃ?」
アルフェッカの言葉にテトが驚いた表情となる。
「以前の報告で、あの街には歪虚アクベンスがいたという話があったし、盗賊団との繋がりがある可能性があるだろう。それの捜索をお題目にし、いたら討伐の振りをして陽動をかけ、二人を逃がそう。スコール族長が来たとか吹聴したら出てくるんじゃないのか? それは冗談だとして、手段は任せる」
最後は能天気な口調のアルフェッカにテトは「まさか……」と思ったが、アクベンスなのでわからない。
「……了解しましたにゃ」
こくりと頷いたテトはハンターオフィスへと向かった。
昼間だというのに薄暗いその部屋には蝋燭で灯りがあり、彼ら以外の影がある。
「盗賊の仕事だけではないのか」
シェダルとアルフェッカが見ているのはトライバル模様の書付。
「盗品の仕入れや売買もやっているようですにゃ」
三人目の人物は壁の方に立っており、蝋燭の明かりで辺境部族の衣装だろう一部が見えるくらいだ。
「仕入れ……人も物も関係なく……か」
ふむ、とアルフェッカが書付を懐に仕舞いこむ。
「以前にウチのメンバーがその盗賊のメンバーではにゃいのかと疑われたことがありますのにゃ」
「ルックスか……理由は聞いたのか?」
思い出すのはまだあどけない様子の少年だ。
時折、ドワーフ工房に顔を出しており、アルフェッカ達も既知である。
アルフェッカが追う盗賊はルックスの故郷……エーノス賊を滅ぼし、女達を奪っていった賊。
その族はドワーフ工房と提携している採掘場に姿を現していたことから始まる。
ドワーフ工房への被害は未遂とはいえ、また何かあれば被害が出るかもしれないと思い、独自で調査していた。
「そのハンターは東方の依頼で赤い羽根の首飾りの男を探しておりましたのにゃ」
「東方? そりゃまた遠いところまで」
目を剥くアルフェッカ同様にシェダルも驚いている。
「こちらが追っている盗賊団へは盗品を買い付けていると情報を得ましたにゃ」
情報提供者は更に情報を得てきたのだろう。
「怠惰王の侵攻もあったのによくやるな」
「少人数とはいえ、これくらいは大丈夫ですにゃ」
しれっと告げる影にアルフェッカはそれもそうかと納得する。
「長くやっていることから、頭目は数代変わっているってことか」
「売買に関しては必ず他の者を代理人としているようですにゃ。にゃけど、東方は自ら出向いているようですにゃ」
「西側より、足が付きにくいと思ったんだろうな」
呆れたシェダルはちゃちゃを入れるだけで巻き煙草を吸いだした。
「また、連中が動き出したのですにゃ。目的は盗品の競売」
提供者の言葉に二人は神妙な表情となる。
開催は近日ということであった。
「また報告に来ますにゃ」
そう言った情報提供者は身を屈めると、蝋燭の明かりで顔が照らされる。
金の瞳の月猫……部族なき部族のリーダーであるテトは消えていった。
「随分とご執心だな」
男二人になった時、シェダルが口を開く。
「工房に関わることだ。当然だろ」
あきれた様子のシェダルだが、アルフェッカの表情は動かない。
「この件、フォニケにバレるなよ。関わらせたくない」
「問題ない。今頃の彼女なら最悪、ハンターと追いかけっこだろ」
「どういうことだ?」
顔をしかめるシェダルにアルフェッカはクヤムという若い兵士がフォニケに助けてもらって、お礼が言いたいがどこの誰なのかわからずに困っているので、ハンターに依頼するように仕向けたと言った。
「その合間を狙って呼びつけたのか……で、そいつは気があるのか?」
「さぁ? 女性には慣れてないって話だし、ドワーフ工房の所属と言えば大抵興味をなくすだろ。そうでなければ見どころはある」
しれっと言うアルフェッカにシェダルは引いた表情を見せる。
「ふるいにかけたのかよ」
「フォニケちゃんは前の時代から大暴れしてくれたからな。悪い虫が近寄らなくてすむ」
「ありゃ、気を引くためだ」
「おお? 保護者なのに放置かよ」
「女いたのは知ってたからな」
部屋を出た二人は軽口を叩きながらドワーフ工房へと向かう。
「フォニケ?」
「あ、二人ともどこにいたの?」
廊下を歩いていたフォニケをシェダルが見つける。朝は髪を束ねていたのに、今は結い上げている。
「俺の仕事手伝わせていた」
アルフェッカが言うと、彼女は「そう」と納得しつつ、リストバンドの位置を直した。
「今日はご機嫌だね、フォニケちゃん」
「若い子から贈り物をもらったのよ」
ふふ、とご機嫌に笑うフォニケは助けたお礼に貰った髪留めを二人に見せる。
「ハンターから?」
「いいえ、クヤムっていう治安部隊の新人くんよ」
「へー、素直に受け取るなんて珍しい」
「失礼ね、人が心を込めて選んで贈ったものなのよ、嬉しいに決まってるじゃない」
フォニケとアルフェッカが軽口を叩きながら先を歩く。
紙巻き煙草を指先で弄んでいたシェダルの視線はフォニケのリストバンドへ向けられていた。
アルフェッカ達の密会をした数日後、部族なき部族のリーダーであるテトが要塞管理補佐官としてのアルフェッカの執務室に現れた。
「どうしたんだ?」
呼ばれたアルフェッカがテトに問う。
「しくじりましたにゃ……仲間が今追われてますにゃ」
テトの報告は急を要するものだった。
部族なき部族が偵察部隊に出したのは赤翡翠と飯綱のコードネームを持つ二人組。
目的の賊が競売をする街で飯綱が敵に怪しまれ、逃げ出そうとしたが、賊が街から逃げ出せないように手を打っているという。
「なんでまたそんなドジを踏んだんだ?」
「今回の競売には頭目もいたようですにゃ」
どうやら、規模の大きい競売をしようとしていたようであり、頭目は部下やら情婦やら引き連れて自ら出るほどだった。
「何を焦ったのかはわからないが、人命が第一だ。ハンターオフィスに連絡し、救出させよう。ただし、名目は歪虚の討伐だ」
「にゃ?」
アルフェッカの言葉にテトが驚いた表情となる。
「以前の報告で、あの街には歪虚アクベンスがいたという話があったし、盗賊団との繋がりがある可能性があるだろう。それの捜索をお題目にし、いたら討伐の振りをして陽動をかけ、二人を逃がそう。スコール族長が来たとか吹聴したら出てくるんじゃないのか? それは冗談だとして、手段は任せる」
最後は能天気な口調のアルフェッカにテトは「まさか……」と思ったが、アクベンスなのでわからない。
「……了解しましたにゃ」
こくりと頷いたテトはハンターオフィスへと向かった。
リプレイ本文
依頼人のテトと合流したハンターは時間の猶予はないので、早々に町へ向かう。
「テト、飯綱と赤翡翠の人相とか、特徴ってあるかな? 後ハンドサインとか」
道すがら、ディーナ・フェルミ(ka5843)がテトに尋ねる。
「飯綱は髪の色は明るい金色。髪はいつも編み込んでアップにしてますにゃ。任務中は髪を下ろして、髪色を汚してますにゃ。目は茶に緑がかった色で、背はアイラ(ka3941)と変わらないくらいですにゃ」
更に今回の服装の特徴を伝える。
今は変装用に南方の辺境部族の衣装を着ているという。
「赤翡翠……ルックスは金茶色の髪で今は伸ばしてますにゃ。細面で、紫色の目をしてますにゃ。背は鞍馬 真(ka5819)くらいですにゃ」
「伸びたなー」
驚きの声を上げたのはオウガ(ka2124)だ。始め会った頃は木綿花(ka6927)と似たような背丈だったのに。
「にゃはは、まだ伸びるようですにゃ」
入室前の合図をテトはハンターに教えた後、テトは木綿花の隣につく。
テトの歩き方は二足歩行なのに猫のようだ。
「木綿花に思うところがあれば、今のうちに吐き出せば……と」
しれっと告げるテトに木綿花は眉を下げる。
「以前、ルックス様を賊と間違えてしまいました……」
「木綿花は事情を知らなかっただけですにゃ」
テトはルックスから話を聞いていたようだった。
「ルックス様の事情は伺いました。傷ついていたら、謝らなければと……」
花が傾くかのように寂しげな表情を浮かべる木綿花にテトは「にゃぁ」と鳴く。
「確かに、ルックスの気持ちは当人しか分かりませんにゃ。どうか、助け出してくださいにゃ」
「勿論です」
こくりと頷く木綿花にテトは目を細めた。
「あの街?」
夢路 まよい(ka1328)が言えば、小さな集落のような街が見えてくる。
町に到着すると、テトはハンター達に逃げ道を伝える。
テトは「どこかの賊の逃げ道のようですにゃ」と説明した。
テトが周囲の調査をしていたところ。逃げ道のからくりを見つけていた模様。
「ご武運を……ですにゃ」
さっと隠れたテトは町中へ入るハンター達へ見送りの言葉を風に乗せた。
ハンター達は三手に分かれ、それぞれの目的地へと向かう。
オウガとアイラがまず先に向かったのは元締めの所だ。裏向きの目的はこの街で晒してはならないため。
元締めの店の目印の樽は表面が濡れていた。
「何の用じゃ」
「アクベンスという歪虚を探している。この街で見たことは?」
「また、お前さん達か」
紙巻き煙草を咥えたままで元締めが答える。まだ覚えていたようだ。
「アクベンスならまだ来てないのぉ」
「まだ?」
きょとんと、目を瞬くアイラに元締めは頷く。
「本当なら、この時期に競売があったんじゃが、だめになっちまってなぁ」
その話は依頼を受ける時に説明があったのをアイラ達は思い出す。
「いつもならもっと賑やかなんだが、まあいつもはアジトで踏ん反りがえっている頭目も来たもんだから、ダメになる前まで稼げたからいいけどよ」
カラカラ笑う元締めは稼げて満足そうだった。
「アクベンスが何も知らなかったら、今頃町にいるんじゃねぇか?」
顔を見合わせたハンター二人は礼金でもと思ったが、元締めは指で近寄れと合図を送る。
二人が近く寄ると元締めはそっと呟いた。
「あの坊主達、連れ出してくれ。連中がついでに悪さして面倒なんじゃ」
どうやら部族なき部族が入り込んでいた事は勘付かれていたようだ。
二人は了解し、店を離れ、情報を仲間に伝える。
真とまよいは賊にバレた赤翡翠と飯綱が拠点にしていた廃屋へ向かっていた。
建物の周りを見たが、見張りのような者がおり、タイミングを見計らっていると、まよいのトランシーバーよりアイラの声が聞こえる。
内容はアイラとオウガが元締めの店で聞いた話だった。
「それって、部族なき部族のメンバーの保護を頼まれたってこと?」
「秘密裏にってことだろうね」
肩を竦める真はソウルエッジを発動させる。
「頼むよ」
真の言葉の後、まよいが路地裏から躍り出た。見張りらしき男は警戒したが、姿が子供の背丈だったので、気を抜かす。
「なんだ、子供か」
そう言ったのも束の間、まよいの背後から出てきた真が活人剣で見張りを昏倒させる。
二人で素早く見張りを倒し、中へ入った。
飯綱達が拠点にしていた部屋の前にも見張りがおり、まよいは詠唱を始める。
「……果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
空間に青白い雲状のガスが一瞬広がった。ガスに包まれた見張りは目を回して昏倒した。
部屋の中から廊下の方を伺う音が聞こえて、靴音が廊下へと近づく。
「どうし……」
ドアを開けつつ、見張りを気遣う声は最後まで伝わらなかった。男は腹に鈍痛を覚え、少し膝を折り、前屈みに硬直してしまう。
鈍く軋む音を立てながらドアが開くと、奥の方から「どうしたんだ?」という声が聞こえる。
声をかけられた男は尻もちをつくように倒れ、男の後ろにいたのは見知らぬ若い男……真だった。
真は切りかかりながらすばやく踏み出して中へ入る。手近な男から倒し、奥にいた一人が短剣を抜いて抵抗を試みる為、真の方へと向かう。
狭い室内だが、真からは男の動きが良く見える。
真が持つダガーの効力で刃が炎に包まれ、男が悲鳴を飲み込むように刃を交わす。その隙に真は男の膝に蹴りを入れて体勢を崩した。
戦闘中の真の背を狙おうと、もう一人の男が襲おうとするが、後頭部からの衝撃で倒れてしまう。
「助かったよ」
振り返った真が言うのは、ふふふと笑顔を浮かべるまよい。
二人は手分けして縛り上げた後、真達は賊の中で身分が高そうな者を起こし、話を聞く。
尋ねる内容はアクベンスとの繋がり。
「頭とコマ連中が付き合いがあるって話だ」
「ここにいた理由は? アクベンスがここに来るのか?」
真が問うと、「頭に言われただけだ。俺たち下っ端は何も知らねぇよ!」と必死そうに男は叫ぶ。
「わかったわ。捕り物が終わるまでそこにいてね」
にっこり微笑むまよいは先を歩く真の後を追った。
テトより提示された拠点は三つであり、そのうちの一つは賊に知られている。
まだ知られていない方の片方へと向かうのはディーナ。もう片方は木綿花が向かっていた。
トランシーバーよりオウガから元締めとの会話を聞き、「了解なの」と返す。
目の前には当該の建物がある。
周囲に気を回しつつ、ディーナは中へ入っていく。
「アクベンスが潜入したと噂なの。調査するのー」
とても愛らしく、棒読みだ。
目的の部屋の前でテトより教えてもらった合図を鳴らすが、反応はない。
部屋のドアは空いていたが無人だ。
引き返そうとすると、近くに浮浪者らしき人物が蹲っていた。被っているローブから長い髪が見えるので、性別が判別できなかった。
「ねぇねぇ、アクベンスの手下だったりするのー?」
聖なる加護を受けた筈のメイスでつつくと、浮浪者はぴくり……と動く。
「あぁ、あいつなら今頃タットルの競売がなくなったことでがっかりしてるだろうよ」
嗄れ声の老人が言えばディーナはぴくりと聞き耳を立てる。
「タットルって?」
「賊の名前さ。頭も随分老けたもんだねぇ。けど、連れてる女の顔は変わらん。その顔欲しさにどこかのお嬢様を攫ったって話もあったからねぇ」
「ふぅん」
「ほら、そこを歩いているだろ。手下さ」
廊下の窓から街並みが見え、男達が歩いている。ディーナも目で追おうとすると、目が合う。
「オラァ!」
戸を蹴破って入ってくる男は二人。
ディーナもまた、備えており、彼女より光の波動が周囲に広がり、一瞬の光で男達の目を焼く。
その隙を逃がさず、ディーナはメイスで昏倒させる。手早く男達の衣服で口を塞ぎ、縛り上げていく。
ふと、賊の服を剥いだ肌の入墨が倒れている二人ともが同じものだと気づいた。
茫然とした浮浪者にディーナは「巻き添え食らう前に早く逃げるのー」と言ってハンター達との合流を図る。
木綿花は最後の潜入場所に到着していた。
賊らしい姿もない。部屋の前に到着すると、木綿花が教えてもらった合図をする。
そっと、ドアが開けられると、以前見た少年がいた。
「え」
ハンターが来ると思っていなかったのか、赤翡翠……ルックスが目を見開く。
「迎えに来ました」
「テトの代わりに来たんだね」
ほっとするルックスは木綿花を部屋に入れ、周囲を窺いながらドアを閉めた。部屋の奥には不安げな様子の娘がいた。
茶に汚した金の髪に茶に緑がかった瞳。テトが言っていた通り姿で、彼女が飯綱なのだろう。
「あたしが余計なことをしたばっかりに……」
「テト様は怒っていませんでした。帰りましょう」
自身を責める飯綱に木綿花は手を差し出す。
「うん……」
こくりと頷いた飯綱が手を取ろうとした時だ。
まよいから通信が入った。
内容はアイラとオウガがアクベンスに発見されたとの報告。木綿花も救助対象と合流できたことを告げると、ディーナと真を向かわせると返ってくる。
「わかりました」
木綿花は一度通信を切って、応援が来るのを待った。
「どうしたの?」
「歪虚、アクベンスがこの町にいるようです」
「バレちゃったのかな」
正直に告げる木綿花の言葉に飯綱が呟く。
「何をですか?」
「あたし、潜入先を間違って頭目が泊まっている部屋の前に来たんだ。そこにいた女と鉢合わせてさ……その人、ルックスと同じ部族の生き残りだったんだ」
飯綱の言葉に木綿花は目を見開く。
「あたし……ルックスに会わせたくて、逃がそうとしたんだ……」
「そうでしたか……」
悔やむ飯綱に木綿花が優しく言葉を返す。
テトの話で飯綱は任務を誠実にこなす人物と言っていた。きっと、良かれと思ったのだろう。
「でも、その人……もう帰れないって……あいつらと同じ入れ墨を彫られたって……あたしを逃がすために、囮にもなってくれたんだ」
俯く飯綱はそこで言葉を切り、部屋に静寂に包まれる。
程なくして援軍が到着した。
一方では淡い青灰色の髪を靡かせた少年型歪虚がアイラとオウガと対峙していた。
拠点へ行こうとしたいた頃にばったりと会ってしまったのだ。
「おやおや、競売がなくなったとがっかりしていたら、貴女に出会えるだなんて」
歪虚アクベンスは度重なる戦闘で気高い魂の人物と気に入ったアイラとの邂逅を運命だと謳っている。
アイラとしては運命なんてまっぴらごめんだし、その口調に鳥肌が立ちそうだ。
「私は会いたくなかったけど!」
叫ぶアイラの気持ちは本音。下手な嘘を言っても勘付かれそうな気がする。
「そんなところも素敵ですよ」
ふふふ……とアクベンスは笑う。
やり取りを傍で聞いていたオウガは展開していた超聴覚で声を拾う。
仲間には現状を伝えている。
もう少しで援軍が……と思案するオウガの視界に入る揺らめく灰髪の少女。
「どうして歪虚なのに人の生活に関与するの?」
鈴の如く愛らしい声がアクベンスの背後から聞こえた。アクベンスがその方向へ視線を向けようとした時、オウガが一気に間合いを詰め、魔斧「モレク」をアクベンスへ振り降ろす。
直線的な動きにアクベンスは軽々と避けたが、オウガは口元を笑みに緩ませる。
アクベンスが避けた位置へまよいが視線を向けており、彼女のマギサークレットの黄玉が煌めいたような気がした。
避けることも適わず、アクベンスへ水と地の攻撃を浴びてしまう。
「とんでもない熱烈アプローチですね」
ふーっと溜息をつくアクベンスはまよいの方を向く。
「人は面白いからとしか言いようがありません」
アクベンスはうさ耳帽子を振り払う。
「気高い魂が堕落して行く様も、執着に悶える様も」
くつりとアクベンスが嗤う。
「後者は誰?」
トランシーバーからの報告はまだなく、今も真達はテトがいる方向へ走ってる最中だろうとアイラは推察し、話を引き延ばす。
木綿花達と合流したディーナと真はテトがいる方向へと走っていった。
幸いにも、オウガ達が交戦している場所を通らないのがありがたいが、今回ハンターにとっての『敵』はアクベンスではない。
「おい、いたぞー!」
前から賊が来ており、ハンター達は怯むことなく駆けてく。
「ああ! あいつだ!」
賊の狙いは飯綱。彼女はローブで顔を隠しており、ルックスを庇うように前に立ち、その隣に真が剣を構える。
「やっちまえ!」
観念したと判断したのか、賊達は飯綱目がけて走ってきた。
ふわりと『彼女』のローブが風をはらむ。『彼女』の背に白龍にも似た虹色の翼が広がり、光線が賊へと放たれる。
ディーナが更にセイクリッドフラッシュで追い打ちをかけて賊の視界を奪った。
走っていくと、待ち合わせ場所にテトがいる。
肩越しに振り向いて周囲の様子を確認した真がまよいへ連絡を入れた。
「救出対象を脱出させた。そっちも程よく切り上げてくれ」
通信を切ると、真も町を出る。
まよいが真の通信を受けると、ごく小さい声で「成功したわ」と呟く。
その声は十分にアイラとオウガの聴覚に伝わった。
「じゃぁ、その後者を教えて貰おうか!」
吼え狂うオウガの声に呼応し、彼の中のマテリアルが荒れ狂う。その代わりに身体能力が強化される。
通常のオウガのスピードを更に超えた速度にアクベンスは咄嗟に出した複数の縄ひょうで受け止めようとするも、彼のパワーも高くなっていた。
アイラはブラックホールカノンを収束させようとしているまよいを守るように立っている。
「離れて!」
叫ぶまよいの言葉に応じようと、オウガはアクベンスとの間合いを離した。
「全てを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
禍々しい紫色の球体がアクベンスへと放たれる。着弾したのち、歪虚の身体は地に沈められる。
「くっ……」
まだ動こうとするアクベンスに気づいたアイラが被っていたローブを彼へと投げ込む。華奢な足がアクベンスを踏み台にして主へと戻る。
ローブは歪虚に被ったままで。
そして三人も町を出て行く。
無事に赤翡翠と飯綱を救出成功し、合流したハンター達は一度要塞都市へと戻る。一旦の隠れ家にドワーフ工房の世話になるとテトは言った。
「オウガ、アイラさん、来てくれてありがとう! 他の皆さんもありがとう」
「当たり前だ」
にっかりと笑うオウガとルックスに木綿花が立つ。
「あの時はごめんなさい」
「木綿花さんは知らなかったんだし、気にしてない。教えてくれて嬉しかったよ。お礼、言いたかったんだ。ありがとう」
気にしてなかったルックスの様子に木綿花に笑顔が綻ぶ。
「これからも手伝いをお願いする時があると思う。その時は皆さんも宜しく」
「にゃぁ……その締めはテトの台詞にゃ……」
台詞をとられたテトがぼやくと皆が笑った。
その後、ハンター達は救出対象者を要塞都市へ送り届け、依頼を終える。
「テト、飯綱と赤翡翠の人相とか、特徴ってあるかな? 後ハンドサインとか」
道すがら、ディーナ・フェルミ(ka5843)がテトに尋ねる。
「飯綱は髪の色は明るい金色。髪はいつも編み込んでアップにしてますにゃ。任務中は髪を下ろして、髪色を汚してますにゃ。目は茶に緑がかった色で、背はアイラ(ka3941)と変わらないくらいですにゃ」
更に今回の服装の特徴を伝える。
今は変装用に南方の辺境部族の衣装を着ているという。
「赤翡翠……ルックスは金茶色の髪で今は伸ばしてますにゃ。細面で、紫色の目をしてますにゃ。背は鞍馬 真(ka5819)くらいですにゃ」
「伸びたなー」
驚きの声を上げたのはオウガ(ka2124)だ。始め会った頃は木綿花(ka6927)と似たような背丈だったのに。
「にゃはは、まだ伸びるようですにゃ」
入室前の合図をテトはハンターに教えた後、テトは木綿花の隣につく。
テトの歩き方は二足歩行なのに猫のようだ。
「木綿花に思うところがあれば、今のうちに吐き出せば……と」
しれっと告げるテトに木綿花は眉を下げる。
「以前、ルックス様を賊と間違えてしまいました……」
「木綿花は事情を知らなかっただけですにゃ」
テトはルックスから話を聞いていたようだった。
「ルックス様の事情は伺いました。傷ついていたら、謝らなければと……」
花が傾くかのように寂しげな表情を浮かべる木綿花にテトは「にゃぁ」と鳴く。
「確かに、ルックスの気持ちは当人しか分かりませんにゃ。どうか、助け出してくださいにゃ」
「勿論です」
こくりと頷く木綿花にテトは目を細めた。
「あの街?」
夢路 まよい(ka1328)が言えば、小さな集落のような街が見えてくる。
町に到着すると、テトはハンター達に逃げ道を伝える。
テトは「どこかの賊の逃げ道のようですにゃ」と説明した。
テトが周囲の調査をしていたところ。逃げ道のからくりを見つけていた模様。
「ご武運を……ですにゃ」
さっと隠れたテトは町中へ入るハンター達へ見送りの言葉を風に乗せた。
ハンター達は三手に分かれ、それぞれの目的地へと向かう。
オウガとアイラがまず先に向かったのは元締めの所だ。裏向きの目的はこの街で晒してはならないため。
元締めの店の目印の樽は表面が濡れていた。
「何の用じゃ」
「アクベンスという歪虚を探している。この街で見たことは?」
「また、お前さん達か」
紙巻き煙草を咥えたままで元締めが答える。まだ覚えていたようだ。
「アクベンスならまだ来てないのぉ」
「まだ?」
きょとんと、目を瞬くアイラに元締めは頷く。
「本当なら、この時期に競売があったんじゃが、だめになっちまってなぁ」
その話は依頼を受ける時に説明があったのをアイラ達は思い出す。
「いつもならもっと賑やかなんだが、まあいつもはアジトで踏ん反りがえっている頭目も来たもんだから、ダメになる前まで稼げたからいいけどよ」
カラカラ笑う元締めは稼げて満足そうだった。
「アクベンスが何も知らなかったら、今頃町にいるんじゃねぇか?」
顔を見合わせたハンター二人は礼金でもと思ったが、元締めは指で近寄れと合図を送る。
二人が近く寄ると元締めはそっと呟いた。
「あの坊主達、連れ出してくれ。連中がついでに悪さして面倒なんじゃ」
どうやら部族なき部族が入り込んでいた事は勘付かれていたようだ。
二人は了解し、店を離れ、情報を仲間に伝える。
真とまよいは賊にバレた赤翡翠と飯綱が拠点にしていた廃屋へ向かっていた。
建物の周りを見たが、見張りのような者がおり、タイミングを見計らっていると、まよいのトランシーバーよりアイラの声が聞こえる。
内容はアイラとオウガが元締めの店で聞いた話だった。
「それって、部族なき部族のメンバーの保護を頼まれたってこと?」
「秘密裏にってことだろうね」
肩を竦める真はソウルエッジを発動させる。
「頼むよ」
真の言葉の後、まよいが路地裏から躍り出た。見張りらしき男は警戒したが、姿が子供の背丈だったので、気を抜かす。
「なんだ、子供か」
そう言ったのも束の間、まよいの背後から出てきた真が活人剣で見張りを昏倒させる。
二人で素早く見張りを倒し、中へ入った。
飯綱達が拠点にしていた部屋の前にも見張りがおり、まよいは詠唱を始める。
「……果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
空間に青白い雲状のガスが一瞬広がった。ガスに包まれた見張りは目を回して昏倒した。
部屋の中から廊下の方を伺う音が聞こえて、靴音が廊下へと近づく。
「どうし……」
ドアを開けつつ、見張りを気遣う声は最後まで伝わらなかった。男は腹に鈍痛を覚え、少し膝を折り、前屈みに硬直してしまう。
鈍く軋む音を立てながらドアが開くと、奥の方から「どうしたんだ?」という声が聞こえる。
声をかけられた男は尻もちをつくように倒れ、男の後ろにいたのは見知らぬ若い男……真だった。
真は切りかかりながらすばやく踏み出して中へ入る。手近な男から倒し、奥にいた一人が短剣を抜いて抵抗を試みる為、真の方へと向かう。
狭い室内だが、真からは男の動きが良く見える。
真が持つダガーの効力で刃が炎に包まれ、男が悲鳴を飲み込むように刃を交わす。その隙に真は男の膝に蹴りを入れて体勢を崩した。
戦闘中の真の背を狙おうと、もう一人の男が襲おうとするが、後頭部からの衝撃で倒れてしまう。
「助かったよ」
振り返った真が言うのは、ふふふと笑顔を浮かべるまよい。
二人は手分けして縛り上げた後、真達は賊の中で身分が高そうな者を起こし、話を聞く。
尋ねる内容はアクベンスとの繋がり。
「頭とコマ連中が付き合いがあるって話だ」
「ここにいた理由は? アクベンスがここに来るのか?」
真が問うと、「頭に言われただけだ。俺たち下っ端は何も知らねぇよ!」と必死そうに男は叫ぶ。
「わかったわ。捕り物が終わるまでそこにいてね」
にっこり微笑むまよいは先を歩く真の後を追った。
テトより提示された拠点は三つであり、そのうちの一つは賊に知られている。
まだ知られていない方の片方へと向かうのはディーナ。もう片方は木綿花が向かっていた。
トランシーバーよりオウガから元締めとの会話を聞き、「了解なの」と返す。
目の前には当該の建物がある。
周囲に気を回しつつ、ディーナは中へ入っていく。
「アクベンスが潜入したと噂なの。調査するのー」
とても愛らしく、棒読みだ。
目的の部屋の前でテトより教えてもらった合図を鳴らすが、反応はない。
部屋のドアは空いていたが無人だ。
引き返そうとすると、近くに浮浪者らしき人物が蹲っていた。被っているローブから長い髪が見えるので、性別が判別できなかった。
「ねぇねぇ、アクベンスの手下だったりするのー?」
聖なる加護を受けた筈のメイスでつつくと、浮浪者はぴくり……と動く。
「あぁ、あいつなら今頃タットルの競売がなくなったことでがっかりしてるだろうよ」
嗄れ声の老人が言えばディーナはぴくりと聞き耳を立てる。
「タットルって?」
「賊の名前さ。頭も随分老けたもんだねぇ。けど、連れてる女の顔は変わらん。その顔欲しさにどこかのお嬢様を攫ったって話もあったからねぇ」
「ふぅん」
「ほら、そこを歩いているだろ。手下さ」
廊下の窓から街並みが見え、男達が歩いている。ディーナも目で追おうとすると、目が合う。
「オラァ!」
戸を蹴破って入ってくる男は二人。
ディーナもまた、備えており、彼女より光の波動が周囲に広がり、一瞬の光で男達の目を焼く。
その隙を逃がさず、ディーナはメイスで昏倒させる。手早く男達の衣服で口を塞ぎ、縛り上げていく。
ふと、賊の服を剥いだ肌の入墨が倒れている二人ともが同じものだと気づいた。
茫然とした浮浪者にディーナは「巻き添え食らう前に早く逃げるのー」と言ってハンター達との合流を図る。
木綿花は最後の潜入場所に到着していた。
賊らしい姿もない。部屋の前に到着すると、木綿花が教えてもらった合図をする。
そっと、ドアが開けられると、以前見た少年がいた。
「え」
ハンターが来ると思っていなかったのか、赤翡翠……ルックスが目を見開く。
「迎えに来ました」
「テトの代わりに来たんだね」
ほっとするルックスは木綿花を部屋に入れ、周囲を窺いながらドアを閉めた。部屋の奥には不安げな様子の娘がいた。
茶に汚した金の髪に茶に緑がかった瞳。テトが言っていた通り姿で、彼女が飯綱なのだろう。
「あたしが余計なことをしたばっかりに……」
「テト様は怒っていませんでした。帰りましょう」
自身を責める飯綱に木綿花は手を差し出す。
「うん……」
こくりと頷いた飯綱が手を取ろうとした時だ。
まよいから通信が入った。
内容はアイラとオウガがアクベンスに発見されたとの報告。木綿花も救助対象と合流できたことを告げると、ディーナと真を向かわせると返ってくる。
「わかりました」
木綿花は一度通信を切って、応援が来るのを待った。
「どうしたの?」
「歪虚、アクベンスがこの町にいるようです」
「バレちゃったのかな」
正直に告げる木綿花の言葉に飯綱が呟く。
「何をですか?」
「あたし、潜入先を間違って頭目が泊まっている部屋の前に来たんだ。そこにいた女と鉢合わせてさ……その人、ルックスと同じ部族の生き残りだったんだ」
飯綱の言葉に木綿花は目を見開く。
「あたし……ルックスに会わせたくて、逃がそうとしたんだ……」
「そうでしたか……」
悔やむ飯綱に木綿花が優しく言葉を返す。
テトの話で飯綱は任務を誠実にこなす人物と言っていた。きっと、良かれと思ったのだろう。
「でも、その人……もう帰れないって……あいつらと同じ入れ墨を彫られたって……あたしを逃がすために、囮にもなってくれたんだ」
俯く飯綱はそこで言葉を切り、部屋に静寂に包まれる。
程なくして援軍が到着した。
一方では淡い青灰色の髪を靡かせた少年型歪虚がアイラとオウガと対峙していた。
拠点へ行こうとしたいた頃にばったりと会ってしまったのだ。
「おやおや、競売がなくなったとがっかりしていたら、貴女に出会えるだなんて」
歪虚アクベンスは度重なる戦闘で気高い魂の人物と気に入ったアイラとの邂逅を運命だと謳っている。
アイラとしては運命なんてまっぴらごめんだし、その口調に鳥肌が立ちそうだ。
「私は会いたくなかったけど!」
叫ぶアイラの気持ちは本音。下手な嘘を言っても勘付かれそうな気がする。
「そんなところも素敵ですよ」
ふふふ……とアクベンスは笑う。
やり取りを傍で聞いていたオウガは展開していた超聴覚で声を拾う。
仲間には現状を伝えている。
もう少しで援軍が……と思案するオウガの視界に入る揺らめく灰髪の少女。
「どうして歪虚なのに人の生活に関与するの?」
鈴の如く愛らしい声がアクベンスの背後から聞こえた。アクベンスがその方向へ視線を向けようとした時、オウガが一気に間合いを詰め、魔斧「モレク」をアクベンスへ振り降ろす。
直線的な動きにアクベンスは軽々と避けたが、オウガは口元を笑みに緩ませる。
アクベンスが避けた位置へまよいが視線を向けており、彼女のマギサークレットの黄玉が煌めいたような気がした。
避けることも適わず、アクベンスへ水と地の攻撃を浴びてしまう。
「とんでもない熱烈アプローチですね」
ふーっと溜息をつくアクベンスはまよいの方を向く。
「人は面白いからとしか言いようがありません」
アクベンスはうさ耳帽子を振り払う。
「気高い魂が堕落して行く様も、執着に悶える様も」
くつりとアクベンスが嗤う。
「後者は誰?」
トランシーバーからの報告はまだなく、今も真達はテトがいる方向へ走ってる最中だろうとアイラは推察し、話を引き延ばす。
木綿花達と合流したディーナと真はテトがいる方向へと走っていった。
幸いにも、オウガ達が交戦している場所を通らないのがありがたいが、今回ハンターにとっての『敵』はアクベンスではない。
「おい、いたぞー!」
前から賊が来ており、ハンター達は怯むことなく駆けてく。
「ああ! あいつだ!」
賊の狙いは飯綱。彼女はローブで顔を隠しており、ルックスを庇うように前に立ち、その隣に真が剣を構える。
「やっちまえ!」
観念したと判断したのか、賊達は飯綱目がけて走ってきた。
ふわりと『彼女』のローブが風をはらむ。『彼女』の背に白龍にも似た虹色の翼が広がり、光線が賊へと放たれる。
ディーナが更にセイクリッドフラッシュで追い打ちをかけて賊の視界を奪った。
走っていくと、待ち合わせ場所にテトがいる。
肩越しに振り向いて周囲の様子を確認した真がまよいへ連絡を入れた。
「救出対象を脱出させた。そっちも程よく切り上げてくれ」
通信を切ると、真も町を出る。
まよいが真の通信を受けると、ごく小さい声で「成功したわ」と呟く。
その声は十分にアイラとオウガの聴覚に伝わった。
「じゃぁ、その後者を教えて貰おうか!」
吼え狂うオウガの声に呼応し、彼の中のマテリアルが荒れ狂う。その代わりに身体能力が強化される。
通常のオウガのスピードを更に超えた速度にアクベンスは咄嗟に出した複数の縄ひょうで受け止めようとするも、彼のパワーも高くなっていた。
アイラはブラックホールカノンを収束させようとしているまよいを守るように立っている。
「離れて!」
叫ぶまよいの言葉に応じようと、オウガはアクベンスとの間合いを離した。
「全てを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
禍々しい紫色の球体がアクベンスへと放たれる。着弾したのち、歪虚の身体は地に沈められる。
「くっ……」
まだ動こうとするアクベンスに気づいたアイラが被っていたローブを彼へと投げ込む。華奢な足がアクベンスを踏み台にして主へと戻る。
ローブは歪虚に被ったままで。
そして三人も町を出て行く。
無事に赤翡翠と飯綱を救出成功し、合流したハンター達は一度要塞都市へと戻る。一旦の隠れ家にドワーフ工房の世話になるとテトは言った。
「オウガ、アイラさん、来てくれてありがとう! 他の皆さんもありがとう」
「当たり前だ」
にっかりと笑うオウガとルックスに木綿花が立つ。
「あの時はごめんなさい」
「木綿花さんは知らなかったんだし、気にしてない。教えてくれて嬉しかったよ。お礼、言いたかったんだ。ありがとう」
気にしてなかったルックスの様子に木綿花に笑顔が綻ぶ。
「これからも手伝いをお願いする時があると思う。その時は皆さんも宜しく」
「にゃぁ……その締めはテトの台詞にゃ……」
台詞をとられたテトがぼやくと皆が笑った。
その後、ハンター達は救出対象者を要塞都市へ送り届け、依頼を終える。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 オウガ(ka2124) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/11/12 21:42:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/12 07:58:27 |