ゲスト
(ka0000)
露と消えにし花命
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/15 07:30
- 完成日
- 2018/11/22 21:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ふう……」
村の外れにある畑を耕していた少女ミーニャは、小さく息を吐き出し鍬を握っていた自分の掌を見た。
掌にはいくつものマメが出来、所々皮がむけてしまっている。
何か月も前には、そんなものもなかったのに……。
しかしミーニャはその掌をみて嬉しそうに微笑んだ。
数カ月前、王国内の大きな街に住んでいたミーニャの穏やかな生活は、両親が他界して間もなく崩壊した。訳も分からぬまま家を追い出され、行く所も助けてくれる人も無く、ミーニャと妹のリシャはスラムで生活をするようになった。
同じ年頃の子供から年寄りまで、生気を失ったような顔つきの者が細い路地に座り、只々時間が過ぎるのを待っていた。
リシャがキューキューとお腹を鳴らせば、ミーニャは物乞いに大通りに立った。
スラムを牛耳る怖い大人から目を付けられないように隠れ、時にはゴミを漁り、必死に生に縋りつく……。
だけどいつからか、なぜ自分はここに居るのか……何の為に生きているのか……と考えるようになった。
その日もミーニャは大通りに佇んだ。
何時ものように両手を差し出し、誰かが何かを恵んでくれるのを待つ。
通りを歩く人々の機嫌を損ねないように……、殴られないように……俯いて只々待つ……。
じっと足元を見つめていると、そこにそっと影が差した。次いで差し出した両手を温かさが包み、ミーニャが勢いよく顔を上げると、目の前には優しそうな瞳をしたお姉さんが居た。
視線を合わせるように腰を落し、ミーニャの手を優しく握り微笑む。
金色の髪の毛が太陽でキラキラ光り、なんだか妖精みたい……そう思いながら見つめ返すと、お姉さんは僅かに眉尻を下げ、
「ご両親は?」
と、聞いた。
居ない……そう首を振ると、お姉さんは目を伏せ、それからミーニャの後ろに視線を向けた。
「妹さん?」
首を傾げるお姉さんに、うん、と返事をすると、握る手に更に力がこもった感じがした。
「私は、レイナ・エルト・グランツです。私と一緒に行きましょう」
そう言ってお姉さんはミーニャとリシャの手を引いた。
「一緒に行こう」
スラムで幾度となく聞いたその甘い言葉は、いつも毒を含んでいた。
だからいつもその甘い言葉には気を付けていた。それなのに……この人の手を振り払う事は出来なかった。
街の外には紋章を掲げた綺麗な馬車が停まっている。
ずっとお風呂に入っていない埃だらけで臭い二人を、少しも気にする風でもなく、お姉さんは馬車に乗せてくれた。
フカフカの椅子にクッション……、恐る恐る腰を落す二人に微笑みを向け、
「味気ない物しかないのだけれど、沢山あるからいっぱい食べてね」
そう言って焼き立ての白パンを手渡してくれた。
香ばしい匂いを吸い込むだけで、リシャのお腹がキューキューと鳴る。
本当に食べていいのか――、お姉さんをチラリと見ると、優しく目を細め頷いた。
直ぐに頬張り噛み締めれば溶けるように広がる香りと味―――。いつも慰め程度の量しか食べられずにいたパンを、何度も何度も手を伸ばし頬張った。
少しずづ膨らんでいくお腹―――、香ばしい香りも胸を満たし、何故だか鼻の奥がツンと痛み涙が零れた。
いつ振りだろう……お腹いっぱいに食べられたのは……。
いつ振りだろう……生きていると実感したのは……。
「領に着くまで時間が掛かるから、少し眠るといいわ」
お姉さんの声に促され、お腹が膨れた事と、心地よい馬車の揺れで二人はあっという間に眠りに就いた。
そして連れて来られたのは、林の近くにある小さな村の孤児院だった。
和やかな村人と、厳しくも優しい院長に迎えられ、二人は孤児院で生活するようになった。
孤児院での生活は大変だった。朝から晩まで掃除や洗濯、食事の用意と畑仕事。
だけど、毎日お腹いっぱいご飯が食べられ、ふかふかの温かな布団で眠るとどんなにくたくたに疲れていても、朝にはまた元気になれる。
スラムでの生活からは考えらないような、心穏やかな時間だった。
この生活を与えてくれた院長やお姉さんの為に、一生懸命働こう――。
ミーニャは今日も陽が暮れるまで、孤児院の畑を耕し続けた。
「おねーちゃん! もうご飯だよー」
妹のリシャが、村の方から駆けてくるのが見えた。
顔を上げると、茜と藍色が混ざり合う空に小さな星がポツポツと浮かんでいる。
キュルルル……と空腹を訴えた自分のお腹を擦り、リシャの方へと歩き出した。
「いい子にしてた?」
「うん、いい子だよー」
汚れた手を拭ってリシャの頭を撫でてあげれば、リシャは嬉しそうに目を細めた。
酷く痩せていたリシャも、今では随分と健康な体つきになった。昼間は孤児院の掃除や洗濯の手伝いなどをして、夕方になると畑に居るミーニャを呼びに来る。
ミーニャは農具を片付けて背負い込むと、リシャの手を取って歩き出した。
しかし直後――――、
「ゲギャギャギャギャ!!」
鳥の鳴き声よりも低く、いやに下品な声が二人の背後から響いた。
「っ!」
驚きに振り返った二人の視界に、人型の……やけに頭が大きく、身体ががっしりした生き物の姿が二つ映った。
暗くてもその生き物の肌が、人間の色と違う事にすぐ気が付く。
「………ゴ、……ゴブ、リン……」
震える声で呟くとリシャの手を強く引きミーニャは走り出した。
苦しくなる呼吸、背後から聞こえる足音はあっという間に二人に追いつき、刹那―――、息が止まる程の衝撃と痛みに襲われ、花びらが散るように赤い雫が辺りに散り、二人は地面に倒れた。
グランツ領、領主館――
「レイナ様、……ご報告が……」
何時もより険しい顔つきのサイファーが執務室に駆け込んで来た。
「サイファー、どうしたのです?」
深刻そうな雰囲気に、レイナ・エルト・グランツは、眉を寄せる。
「キルケ村の孤児院に預けていた、ミーニャとリシャの姉妹が……ゴブリンに襲われ、亡くなりました」
「っ!!」
鋭く息を飲んだレイナの顔が見る見る歪んでいき、直後――両手で顔を覆った。
小さく肩が震え、泣いているのだと気付いたサイファーは唇を噛み締めた。
スラムから救いだし、孤児院で生活できるよう取り計らったレイナは、あの姉妹をとても気にかけていた。その悲しみは計り知れない。
「……サイファー、直ぐにハンターオフィスに、向かって下さい」
「承知しました」
レイナは震える声を無理に押し込んで命を出すと、サイファーは小さく頭を下げ、執務室を後にした。
村の外れにある畑を耕していた少女ミーニャは、小さく息を吐き出し鍬を握っていた自分の掌を見た。
掌にはいくつものマメが出来、所々皮がむけてしまっている。
何か月も前には、そんなものもなかったのに……。
しかしミーニャはその掌をみて嬉しそうに微笑んだ。
数カ月前、王国内の大きな街に住んでいたミーニャの穏やかな生活は、両親が他界して間もなく崩壊した。訳も分からぬまま家を追い出され、行く所も助けてくれる人も無く、ミーニャと妹のリシャはスラムで生活をするようになった。
同じ年頃の子供から年寄りまで、生気を失ったような顔つきの者が細い路地に座り、只々時間が過ぎるのを待っていた。
リシャがキューキューとお腹を鳴らせば、ミーニャは物乞いに大通りに立った。
スラムを牛耳る怖い大人から目を付けられないように隠れ、時にはゴミを漁り、必死に生に縋りつく……。
だけどいつからか、なぜ自分はここに居るのか……何の為に生きているのか……と考えるようになった。
その日もミーニャは大通りに佇んだ。
何時ものように両手を差し出し、誰かが何かを恵んでくれるのを待つ。
通りを歩く人々の機嫌を損ねないように……、殴られないように……俯いて只々待つ……。
じっと足元を見つめていると、そこにそっと影が差した。次いで差し出した両手を温かさが包み、ミーニャが勢いよく顔を上げると、目の前には優しそうな瞳をしたお姉さんが居た。
視線を合わせるように腰を落し、ミーニャの手を優しく握り微笑む。
金色の髪の毛が太陽でキラキラ光り、なんだか妖精みたい……そう思いながら見つめ返すと、お姉さんは僅かに眉尻を下げ、
「ご両親は?」
と、聞いた。
居ない……そう首を振ると、お姉さんは目を伏せ、それからミーニャの後ろに視線を向けた。
「妹さん?」
首を傾げるお姉さんに、うん、と返事をすると、握る手に更に力がこもった感じがした。
「私は、レイナ・エルト・グランツです。私と一緒に行きましょう」
そう言ってお姉さんはミーニャとリシャの手を引いた。
「一緒に行こう」
スラムで幾度となく聞いたその甘い言葉は、いつも毒を含んでいた。
だからいつもその甘い言葉には気を付けていた。それなのに……この人の手を振り払う事は出来なかった。
街の外には紋章を掲げた綺麗な馬車が停まっている。
ずっとお風呂に入っていない埃だらけで臭い二人を、少しも気にする風でもなく、お姉さんは馬車に乗せてくれた。
フカフカの椅子にクッション……、恐る恐る腰を落す二人に微笑みを向け、
「味気ない物しかないのだけれど、沢山あるからいっぱい食べてね」
そう言って焼き立ての白パンを手渡してくれた。
香ばしい匂いを吸い込むだけで、リシャのお腹がキューキューと鳴る。
本当に食べていいのか――、お姉さんをチラリと見ると、優しく目を細め頷いた。
直ぐに頬張り噛み締めれば溶けるように広がる香りと味―――。いつも慰め程度の量しか食べられずにいたパンを、何度も何度も手を伸ばし頬張った。
少しずづ膨らんでいくお腹―――、香ばしい香りも胸を満たし、何故だか鼻の奥がツンと痛み涙が零れた。
いつ振りだろう……お腹いっぱいに食べられたのは……。
いつ振りだろう……生きていると実感したのは……。
「領に着くまで時間が掛かるから、少し眠るといいわ」
お姉さんの声に促され、お腹が膨れた事と、心地よい馬車の揺れで二人はあっという間に眠りに就いた。
そして連れて来られたのは、林の近くにある小さな村の孤児院だった。
和やかな村人と、厳しくも優しい院長に迎えられ、二人は孤児院で生活するようになった。
孤児院での生活は大変だった。朝から晩まで掃除や洗濯、食事の用意と畑仕事。
だけど、毎日お腹いっぱいご飯が食べられ、ふかふかの温かな布団で眠るとどんなにくたくたに疲れていても、朝にはまた元気になれる。
スラムでの生活からは考えらないような、心穏やかな時間だった。
この生活を与えてくれた院長やお姉さんの為に、一生懸命働こう――。
ミーニャは今日も陽が暮れるまで、孤児院の畑を耕し続けた。
「おねーちゃん! もうご飯だよー」
妹のリシャが、村の方から駆けてくるのが見えた。
顔を上げると、茜と藍色が混ざり合う空に小さな星がポツポツと浮かんでいる。
キュルルル……と空腹を訴えた自分のお腹を擦り、リシャの方へと歩き出した。
「いい子にしてた?」
「うん、いい子だよー」
汚れた手を拭ってリシャの頭を撫でてあげれば、リシャは嬉しそうに目を細めた。
酷く痩せていたリシャも、今では随分と健康な体つきになった。昼間は孤児院の掃除や洗濯の手伝いなどをして、夕方になると畑に居るミーニャを呼びに来る。
ミーニャは農具を片付けて背負い込むと、リシャの手を取って歩き出した。
しかし直後――――、
「ゲギャギャギャギャ!!」
鳥の鳴き声よりも低く、いやに下品な声が二人の背後から響いた。
「っ!」
驚きに振り返った二人の視界に、人型の……やけに頭が大きく、身体ががっしりした生き物の姿が二つ映った。
暗くてもその生き物の肌が、人間の色と違う事にすぐ気が付く。
「………ゴ、……ゴブ、リン……」
震える声で呟くとリシャの手を強く引きミーニャは走り出した。
苦しくなる呼吸、背後から聞こえる足音はあっという間に二人に追いつき、刹那―――、息が止まる程の衝撃と痛みに襲われ、花びらが散るように赤い雫が辺りに散り、二人は地面に倒れた。
グランツ領、領主館――
「レイナ様、……ご報告が……」
何時もより険しい顔つきのサイファーが執務室に駆け込んで来た。
「サイファー、どうしたのです?」
深刻そうな雰囲気に、レイナ・エルト・グランツは、眉を寄せる。
「キルケ村の孤児院に預けていた、ミーニャとリシャの姉妹が……ゴブリンに襲われ、亡くなりました」
「っ!!」
鋭く息を飲んだレイナの顔が見る見る歪んでいき、直後――両手で顔を覆った。
小さく肩が震え、泣いているのだと気付いたサイファーは唇を噛み締めた。
スラムから救いだし、孤児院で生活できるよう取り計らったレイナは、あの姉妹をとても気にかけていた。その悲しみは計り知れない。
「……サイファー、直ぐにハンターオフィスに、向かって下さい」
「承知しました」
レイナは震える声を無理に押し込んで命を出すと、サイファーは小さく頭を下げ、執務室を後にした。
リプレイ本文
僅かに陰りを見せた空のように、依頼を受けて村に駆け付けたハンター達の心も沈む。
その原因はゴブリンによる被害。
村はピリピリとした空気に包まれ、不安、怒り、悲しみで満ちていた。
劣悪なスラムから連れてこられた姉妹が成長する姿を見守ってきた村人にとって、悲惨な出来事となってしまった。皆一様に暗い表情をしている。
「痛ましいね……」
その様子を目にして落ち込んだように目を伏せた夢路 まよい(ka1328)が呟くと、
「はい。悲しいのです」
同感するカティス・フィルム(ka2486)が頷いた。
いつもと同じ時間が流れ、いつもと同じ生活が送られる……そのはずの場所には、警備の為に物々しい装備を身に着けた兵士たちの姿。
聴けば、森沿いの隣村にも同じように警備が配置されているそうだ。
「追い払ってそれで終わり、と行かないのが嫌なところだ。村を襲う事に味を占める前に、ここで駆除しておかねばならないな……」
ロニ・カルディス(ka0551)の少し沈んだ低い声が、乾いた空気に乗って響く。
「ああ、私には戦う事でしか弔いは出来ないが……。後顧の憂いを断つ為にも我々で奴らを倒そう」
愛刀の柄に手を掛けたレイア・アローネ(ka4082)は、掌に感じるカオスウィースの存在に目を細める。
「そのために来たんだ……。暴れさせてもらうぜ」
唇の端を持ちあげたトリプルJ(ka6653)は、白く長い煙草の煙を吐き出した。
その隣で風に揺れる銀糸の髪を耳にかけ直し、ソナ(ka1352)がゆっくりと口を開く。
「きっと森の動物たちも怯えている事でしょう。……これ以上、被害を広げる訳にはいきません」
「はい。行きましょう」
強く手を握り締めたカティスの声に、全員が頷いた。
林の入り口には踏み荒らした跡……。むき出しの土の上に残る足跡は、ゴブリンの物で間違いないだろう。
「足跡が少ないわね……」
地面に目を凝らしていたまよいがポツリと呟くと、
「まだ少数の偵察しか、林から出ていないのでしょう」
同じように足跡に視線を落としていたソナが応える。
「ここから先は枯葉が邪魔でどっちに行ったか分からないのですよ」
眉を寄せたカティスは林の奥へと視線を向けた。
「この先は、分かれて捜索しよう。連絡手段は持っているな?」
全員の顔をグルリと見回し頷いたロニは、まよいと共に左の方へ。
その背を見送ったカティスとレイアは中央へ、続いてトリプルJとソナは右の方へと踏み入った。
パリッ、パキバキ―――。
小枝や枯葉を踏みしめる音が林の中に響いた。
一つは軽く小さい、もう一つは静かに重い……。
邪悪な存在など生息しているとは思えないほど、林の中は静寂に満ち穏やかだ。
元々ここで生まれたのか、どこかから移ってきたのか、いつから住み付いているのかは不明だが、ゴブリンの方に地の利があるのは明白だ。
しかし、こちらから見つけるのが困難ならば、誘き出せばいいだけの事。
まよいは非覚醒の状態で村の子供を真似るように歩き油断を誘う。もちろん不意打ちを受けないよう、十分に注意を払って。
その少し後ろを歩くロニは背後にも感覚を研ぎ澄ませた。
暫らく歩くと、少し先からパキッと枝が折れる音が小さく響く。
「獣かな? それとも、……ゴブリンちゃんかしら?」
呟いたまよいが目を細めると同時にロニはまよいの側に駆け寄り、レヴェヨンサブレスを握り締める。
ガサガサッと木々の隙間を移動するような音と共に影が揺れ、風を切る音、そして僅かな光に飛び来る矢じりがキラリと光る姿を見せた。
刹那、チカチカとまよいの瞳が強い輝きを放ち、見えないオーラに吹き上げられているかのように、髪や服がなびいた。それはまよいの強い意思を表すように舞い踊る。
ロニは矢とまよいの間に身体を滑り込ませ、その矢をホーリーヴェールで弾くと光りの障壁は砕け散った。
「まよい、怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
ロニの問いに頷いたまよいは、ダブルキャストしたマジックアローを放つ。
ゴブリンが潜む木々の隙間に吸い込まれるように矢が飛ぶと、ギャっと短い悲鳴が幾つか聞こえた。
「コソコソと……随分卑怯じゃないか」
姿を隠し矢での攻撃を仕掛けてくるゴブリンに対しロニは鼻に皺を寄せ、ゴブリンがまよいの攻撃に怯んだその隙に、矢が放たれた場所へと踏み込んだ。
視界に映るのは、まよいのマジックアローを受け体勢を崩したゴブリン。尻もちをつき攻撃の手を止めている。
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ、我が敵を貫け―――――プルガトリオ!」
低くよく通る声が染み渡るように広がると宙には漆黒の刃が浮かび上がり、ゴブリンを目掛けて飛んだ。
再び短い悲鳴が周囲から幾つも上がり、下手くそな合唱のように重なる。静かな林の中に不釣り合いな喧騒を生み出した。
ドサリと地に落ちるもの……、血を流しながら逃げようと背を向けるもの……。
「指揮官でもいるのかしら? 普段のゴブリンとやり方が違うわね」
「ああ。あのゴブリンは泳がせて、ボスの所まで案内してもらうとしよう」
ロニの攻撃を奇跡的にかわしたゴブリンは、背後も気にせず一目散に逃亡を始めた。
微かに息のあるもの、足を負傷し動けなくなったゴブリンなどにとどめを刺し、二人は逃げるゴブリンを追った。
ガサガサと枯葉を踏みしめる音に迷いはない。先を歩くレイアは神経を張り巡らせ気配を探る。絹のような黒髪が歩みのリズムで揺れる様は、後ろを歩くカティスに僅かな安心感をもたらした。
「何だか不気味なのです」
「全くだな……。こうも気配がないとは……こちらが罠にかかっている気分だ」
そう不穏な言葉を零すが、レイアの口元には薄い笑みが浮かんでいる。
「わ、罠なのです?」
慌てたカティスは息を飲むが、
「罠ならば、それを利用してやるまでさ」
レイアの口元の笑みは深まるばかり。足取りも変わらない。
暫らく歩くと、レイアは不意に足を止める。
何本もの木々が立ち並ぶ林の中、ここは妙に拓けていた。
気配はなかった。自分の感覚でここまで来たと言うのに、何故か誘導されたような気がしてならない……。
「ふっ、考え過ぎか……」
そう呟いて、レイアはカオスウィースを抜き放つ。
挟み込むように姿を現したゴブリンを鋭く睨むと、ソウルエッジで強化した剣で攻めの構えをとる。
「……私は怒っている、悪いが加減は出来んぞ」
そう言って一気に踏み込むと、驚き目を見開いたゴブリンの肩から脇腹までを切り裂いた。
レイアが踏み込むタイミングでカティスは集中とグリムリリースで強化したアイスボルトを唱る。
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫き凍てつかせるのです―――アイスボルトーーーー!」
キラキラと輝く氷の粒は見る間に大きな刃へと変わり、ゴブリンを貫きその足を地面に縫止めた。
ゴブリンを両断したレイアの剣が翻り、凍てつき動きを止めたゴブリンに襲い掛かる。
凍てつく身体からは血潮が吹き出し、それは呆気なく地面に倒れた。
パキッ――――、カティスの背後で枝を踏み折る音が響く。聞き漏らすことなく敵を認識したカティッスは、振り向き様マジックアローを唱えた。
バチバチと光るエネルギーの矢は寸分の狂いも無く、ゴブリンの心臓を貫く。
ビクリと体が跳ねて倒れた後ビクビクとした痙攣はやがて止まり、ピクリとも動かなくななると、林には再び耳に痛いほどの静寂が戻った。
「挟み撃ちなんて、卑怯なのですよ」
唇を尖らせて呟くと、魔導スマートフォンが小さく震えた。
トリプルJの胸には怒りが込み上げていた。
スラムから脱し漸く穏やかな生活を送ることが出来るようになった幼い姉妹が、犠牲になってしまった事に。
イライラを少しも隠そうとせず、トリプルJは咥えた煙草の煙を吐き出した。
その心の内を十分に理解しているソナはその後ろ姿に眉尻を下げる。
手近な枝をポキリと折り目印を付けてはマッピングし、暗い足元は水晶球で照らして、ゴブリンの足跡や目印を探した。
「動物達の気配がないわね……近いかも知れないわ」
「ああ……そうだな」
偵察に送り込んだモフロウが上空を旋回している事を確認した後、何かを感じ取った様にトリプルJは前方を睨む。
「悪りぃ、先に行く!」
そう言ってトリプルJは駆け出した。ソナは目標を見つけたと理解し素早く跡を追う。
トリプルJが踏み込んだ先には、ゴブリンの一団が……。しかし、トリプルJの姿を見ると、散り散りに散開した。一対一では分が悪いと理解しているのだろうか? 一度身を隠そうと木の陰へと走る。
「テメェら逃がす気も後ろに行かせる気もねぇっつってんだろ!」
背を見せたゴブリンにワイルドラッシュを叩き込んだ。
ソナはゴブリンが姿を隠す前に、慈愛の祈りを唱えゴブリンの攻撃力を低下させる。
自棄になったゴブリンは足を止めて振り返った。
数とは力である。一個では脆弱であっても、数が増えればそれは大きな強さとなる。
そう主張するかのように、逃げていたゴブリン達が次々に足を止め振り返り、近くにいたトリプルJに武器を振り上げた。
「チッ! ……舐めた真似してくれんじゃねーか」
武器が掠めた頬に滲む血を拭い、トリプルJは不敵に笑う。
「闇よ、応えよ、我が声に。暗黒たる刃を我が敵に――――プルガトリオ!!」
ソナの形のいい唇から紡がれた言葉は、生み出された刃に震えるように力を与える。
鋭く煌めくとそれはゴブリンを貫き泡沫の如く消え、動きを止めたゴブリンは、トリプルJのインシネーションによって切り裂かれた。
直後、ゴウゥッと唸るような音と共に、閃光のように激しく燃える火球がトリプルJとソナ目掛けて飛ぶ。
跳び退った二人が居た場所に火球は着弾し爆発した。パラパラと砂粒が降る土埃の向こうに、小柄な人型の影―――ゴブリンに間違いない。だが……、
「魔法を使えるゴブリンが居たなんて思わなかったですね」
「ああ……」
ソナの静かな呟きに、トリプルJは短く応える。
先程の爆発音が目印になったのか、近付く足音が複数確認できた。
接敵前にソナが居場所を連絡していた為に駆け付けたハンター達のものだ。
「大丈夫か?」
息を切らしたロニが問えば、トリプルJはフッと鼻を鳴らす。
「魔法を使ったのはあのゴブリン?」
首を傾げ前方を見据えたまよいが尋ねると、
「ええ、そうです。頭のいいゴブリンが居るとは思いませんでした」
険しく目を細めたソナが呟いた。
「今までのゴブリン達の指揮を執っていたのも、このゴブリンなのですね?」
ムッと頬を膨らますカティス。
魔法を使うゴブリンを守る様に、五匹のゴブリンが前に出た。
ゲギャグギャと聞き取れない言葉を発しハンターを指差す魔法使いゴブリン。
その指揮にゴブリンは一斉にハンターに飛び掛かった。
「アンチボディ」
「アイスボルトー!」
「慈愛の祈り」
「マジックアローー」
一拍の間を置いて、ロニの低い声が――、カティスの凛とした声が――、ソナの包み込む声が――、まよいの高らかな声が――、重なり響き協和する。
飛び掛かったゴブリン達は射られ、傷つき動きを止める。
「逃がさねーっつってんだろ!!」
「逃がすか! これで終いだ!」
インシネーションを振り上げるトリプルJ、カオスウィースを強く引くレイア。
手下がやられ目を見開く魔法使いゴブリンは、数歩後ずさる。
駆け出し踏み込んだ二人が同時に武器を突きだすと、魔法使いゴブリンの頭に、心臓に、己が意志を託した武器が突き刺さり、魔法を唱えようと掲げていた杖はゴブリンの手から落ち、身体は力なく崩れ落ちた―――。
ゴブリンを退治したハンター達は、林の中をくまなく捜索し、残党のゴブリンが居ない事を確認し村へと戻った。
「むーー、せっかくゴブリンをバッタバタやっつけたのに、あんまり気分がスカッとしないね。死んじゃった孤児院の子達をかわいそうって思ってるせいかな? そういうことなのかな、これ。私にはよくわからないけど……」
胸にあるモヤモヤとした感情の正体を掴めず、まよいは小さなため息を吐いた。
「確かに、ゴブリンを掃討出来て万々歳……で終わりじゃないからな」
そのモヤモヤの原因を理解しているからこそ、ロニも小さくため息を吐く。
「この件が片付いたとしても、村人の心には傷が残ますね」
「はい。レイナさんも……なのです」
ソナの言葉に悲しげな面持ちでカティスが俯く。
ロニとソナが主導となって弔いの儀が行われ、小さな棺は穴の中に並べて納められた。棺を見据え、村人たちは涙を流し、死後の幸福を祈りながら可憐な花を手向ける。
「ごめんなさい……守ってあげられなくて……」
懺悔のように悔いる声で呟いたレイナの肩は震えている。
幾筋の涙の痕を残した頬に、また一粒の涙が流れる。
その震える肩にそっと手を置き、
「弔いは生者の為にあると聞く。生きている者が死んだ者とお別れをする儀だと。人は出会い、そして別れるものだ。……こらからも領主の務めを果たさなければならないだろうが……今だけは悲しんでいいと思うぞ、レイナ」
レイアの静かで優しい声に、レイナの肩が一層大きく震えた。
「祈りを―――」
「祈りましょう」
ロニとソナの声が空気に溶けて広がる。
村人も、レイナも、ハンターも手を組み、ミーニャとリシャの魂が今度こそ幸せな場所に行けるよう――祈った。
目を閉じて祈るレイナとハンターの周りを、柔らかな風が駆け抜ける―――。
クスクスと笑うような音を立て、それは上空へと登っていく。
目を開けて、その風を追いかけるように視線を上げると、いつの間にか雲は切れ太陽が辺りを照らしていた。
「歪虚の根絶ってのは難しい。被害を減らすこたぁ出来ても、ゼロにするこたぁできねぇだろう。二人はあそこで暮らせて感謝してたらしいぜ。覚えていてやってくれ。でもそれがお前の重荷になるなら忘れてやれ。お前が助けなきゃいけない領民はまだごまんと居るんだ」
再び俯いたレイナの頭を軽く撫でると、トリプルJは掌を差し出した。
そこには小さな花の飾りがついた髪留めが……。
「形見だ。持っててやんな」
そう言って髪留めをレイナの掌に置いた。
ポトリと落ちた涙が花の飾りを濡らす。朝露に息吹く華のように、陽の光に輝いた。
それから暫らく経った頃、孤児院の畑の縁に可愛らしい花が二輪、咲き誇ったのだった――。
その原因はゴブリンによる被害。
村はピリピリとした空気に包まれ、不安、怒り、悲しみで満ちていた。
劣悪なスラムから連れてこられた姉妹が成長する姿を見守ってきた村人にとって、悲惨な出来事となってしまった。皆一様に暗い表情をしている。
「痛ましいね……」
その様子を目にして落ち込んだように目を伏せた夢路 まよい(ka1328)が呟くと、
「はい。悲しいのです」
同感するカティス・フィルム(ka2486)が頷いた。
いつもと同じ時間が流れ、いつもと同じ生活が送られる……そのはずの場所には、警備の為に物々しい装備を身に着けた兵士たちの姿。
聴けば、森沿いの隣村にも同じように警備が配置されているそうだ。
「追い払ってそれで終わり、と行かないのが嫌なところだ。村を襲う事に味を占める前に、ここで駆除しておかねばならないな……」
ロニ・カルディス(ka0551)の少し沈んだ低い声が、乾いた空気に乗って響く。
「ああ、私には戦う事でしか弔いは出来ないが……。後顧の憂いを断つ為にも我々で奴らを倒そう」
愛刀の柄に手を掛けたレイア・アローネ(ka4082)は、掌に感じるカオスウィースの存在に目を細める。
「そのために来たんだ……。暴れさせてもらうぜ」
唇の端を持ちあげたトリプルJ(ka6653)は、白く長い煙草の煙を吐き出した。
その隣で風に揺れる銀糸の髪を耳にかけ直し、ソナ(ka1352)がゆっくりと口を開く。
「きっと森の動物たちも怯えている事でしょう。……これ以上、被害を広げる訳にはいきません」
「はい。行きましょう」
強く手を握り締めたカティスの声に、全員が頷いた。
林の入り口には踏み荒らした跡……。むき出しの土の上に残る足跡は、ゴブリンの物で間違いないだろう。
「足跡が少ないわね……」
地面に目を凝らしていたまよいがポツリと呟くと、
「まだ少数の偵察しか、林から出ていないのでしょう」
同じように足跡に視線を落としていたソナが応える。
「ここから先は枯葉が邪魔でどっちに行ったか分からないのですよ」
眉を寄せたカティスは林の奥へと視線を向けた。
「この先は、分かれて捜索しよう。連絡手段は持っているな?」
全員の顔をグルリと見回し頷いたロニは、まよいと共に左の方へ。
その背を見送ったカティスとレイアは中央へ、続いてトリプルJとソナは右の方へと踏み入った。
パリッ、パキバキ―――。
小枝や枯葉を踏みしめる音が林の中に響いた。
一つは軽く小さい、もう一つは静かに重い……。
邪悪な存在など生息しているとは思えないほど、林の中は静寂に満ち穏やかだ。
元々ここで生まれたのか、どこかから移ってきたのか、いつから住み付いているのかは不明だが、ゴブリンの方に地の利があるのは明白だ。
しかし、こちらから見つけるのが困難ならば、誘き出せばいいだけの事。
まよいは非覚醒の状態で村の子供を真似るように歩き油断を誘う。もちろん不意打ちを受けないよう、十分に注意を払って。
その少し後ろを歩くロニは背後にも感覚を研ぎ澄ませた。
暫らく歩くと、少し先からパキッと枝が折れる音が小さく響く。
「獣かな? それとも、……ゴブリンちゃんかしら?」
呟いたまよいが目を細めると同時にロニはまよいの側に駆け寄り、レヴェヨンサブレスを握り締める。
ガサガサッと木々の隙間を移動するような音と共に影が揺れ、風を切る音、そして僅かな光に飛び来る矢じりがキラリと光る姿を見せた。
刹那、チカチカとまよいの瞳が強い輝きを放ち、見えないオーラに吹き上げられているかのように、髪や服がなびいた。それはまよいの強い意思を表すように舞い踊る。
ロニは矢とまよいの間に身体を滑り込ませ、その矢をホーリーヴェールで弾くと光りの障壁は砕け散った。
「まよい、怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
ロニの問いに頷いたまよいは、ダブルキャストしたマジックアローを放つ。
ゴブリンが潜む木々の隙間に吸い込まれるように矢が飛ぶと、ギャっと短い悲鳴が幾つか聞こえた。
「コソコソと……随分卑怯じゃないか」
姿を隠し矢での攻撃を仕掛けてくるゴブリンに対しロニは鼻に皺を寄せ、ゴブリンがまよいの攻撃に怯んだその隙に、矢が放たれた場所へと踏み込んだ。
視界に映るのは、まよいのマジックアローを受け体勢を崩したゴブリン。尻もちをつき攻撃の手を止めている。
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ、我が敵を貫け―――――プルガトリオ!」
低くよく通る声が染み渡るように広がると宙には漆黒の刃が浮かび上がり、ゴブリンを目掛けて飛んだ。
再び短い悲鳴が周囲から幾つも上がり、下手くそな合唱のように重なる。静かな林の中に不釣り合いな喧騒を生み出した。
ドサリと地に落ちるもの……、血を流しながら逃げようと背を向けるもの……。
「指揮官でもいるのかしら? 普段のゴブリンとやり方が違うわね」
「ああ。あのゴブリンは泳がせて、ボスの所まで案内してもらうとしよう」
ロニの攻撃を奇跡的にかわしたゴブリンは、背後も気にせず一目散に逃亡を始めた。
微かに息のあるもの、足を負傷し動けなくなったゴブリンなどにとどめを刺し、二人は逃げるゴブリンを追った。
ガサガサと枯葉を踏みしめる音に迷いはない。先を歩くレイアは神経を張り巡らせ気配を探る。絹のような黒髪が歩みのリズムで揺れる様は、後ろを歩くカティスに僅かな安心感をもたらした。
「何だか不気味なのです」
「全くだな……。こうも気配がないとは……こちらが罠にかかっている気分だ」
そう不穏な言葉を零すが、レイアの口元には薄い笑みが浮かんでいる。
「わ、罠なのです?」
慌てたカティスは息を飲むが、
「罠ならば、それを利用してやるまでさ」
レイアの口元の笑みは深まるばかり。足取りも変わらない。
暫らく歩くと、レイアは不意に足を止める。
何本もの木々が立ち並ぶ林の中、ここは妙に拓けていた。
気配はなかった。自分の感覚でここまで来たと言うのに、何故か誘導されたような気がしてならない……。
「ふっ、考え過ぎか……」
そう呟いて、レイアはカオスウィースを抜き放つ。
挟み込むように姿を現したゴブリンを鋭く睨むと、ソウルエッジで強化した剣で攻めの構えをとる。
「……私は怒っている、悪いが加減は出来んぞ」
そう言って一気に踏み込むと、驚き目を見開いたゴブリンの肩から脇腹までを切り裂いた。
レイアが踏み込むタイミングでカティスは集中とグリムリリースで強化したアイスボルトを唱る。
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫き凍てつかせるのです―――アイスボルトーーーー!」
キラキラと輝く氷の粒は見る間に大きな刃へと変わり、ゴブリンを貫きその足を地面に縫止めた。
ゴブリンを両断したレイアの剣が翻り、凍てつき動きを止めたゴブリンに襲い掛かる。
凍てつく身体からは血潮が吹き出し、それは呆気なく地面に倒れた。
パキッ――――、カティスの背後で枝を踏み折る音が響く。聞き漏らすことなく敵を認識したカティッスは、振り向き様マジックアローを唱えた。
バチバチと光るエネルギーの矢は寸分の狂いも無く、ゴブリンの心臓を貫く。
ビクリと体が跳ねて倒れた後ビクビクとした痙攣はやがて止まり、ピクリとも動かなくななると、林には再び耳に痛いほどの静寂が戻った。
「挟み撃ちなんて、卑怯なのですよ」
唇を尖らせて呟くと、魔導スマートフォンが小さく震えた。
トリプルJの胸には怒りが込み上げていた。
スラムから脱し漸く穏やかな生活を送ることが出来るようになった幼い姉妹が、犠牲になってしまった事に。
イライラを少しも隠そうとせず、トリプルJは咥えた煙草の煙を吐き出した。
その心の内を十分に理解しているソナはその後ろ姿に眉尻を下げる。
手近な枝をポキリと折り目印を付けてはマッピングし、暗い足元は水晶球で照らして、ゴブリンの足跡や目印を探した。
「動物達の気配がないわね……近いかも知れないわ」
「ああ……そうだな」
偵察に送り込んだモフロウが上空を旋回している事を確認した後、何かを感じ取った様にトリプルJは前方を睨む。
「悪りぃ、先に行く!」
そう言ってトリプルJは駆け出した。ソナは目標を見つけたと理解し素早く跡を追う。
トリプルJが踏み込んだ先には、ゴブリンの一団が……。しかし、トリプルJの姿を見ると、散り散りに散開した。一対一では分が悪いと理解しているのだろうか? 一度身を隠そうと木の陰へと走る。
「テメェら逃がす気も後ろに行かせる気もねぇっつってんだろ!」
背を見せたゴブリンにワイルドラッシュを叩き込んだ。
ソナはゴブリンが姿を隠す前に、慈愛の祈りを唱えゴブリンの攻撃力を低下させる。
自棄になったゴブリンは足を止めて振り返った。
数とは力である。一個では脆弱であっても、数が増えればそれは大きな強さとなる。
そう主張するかのように、逃げていたゴブリン達が次々に足を止め振り返り、近くにいたトリプルJに武器を振り上げた。
「チッ! ……舐めた真似してくれんじゃねーか」
武器が掠めた頬に滲む血を拭い、トリプルJは不敵に笑う。
「闇よ、応えよ、我が声に。暗黒たる刃を我が敵に――――プルガトリオ!!」
ソナの形のいい唇から紡がれた言葉は、生み出された刃に震えるように力を与える。
鋭く煌めくとそれはゴブリンを貫き泡沫の如く消え、動きを止めたゴブリンは、トリプルJのインシネーションによって切り裂かれた。
直後、ゴウゥッと唸るような音と共に、閃光のように激しく燃える火球がトリプルJとソナ目掛けて飛ぶ。
跳び退った二人が居た場所に火球は着弾し爆発した。パラパラと砂粒が降る土埃の向こうに、小柄な人型の影―――ゴブリンに間違いない。だが……、
「魔法を使えるゴブリンが居たなんて思わなかったですね」
「ああ……」
ソナの静かな呟きに、トリプルJは短く応える。
先程の爆発音が目印になったのか、近付く足音が複数確認できた。
接敵前にソナが居場所を連絡していた為に駆け付けたハンター達のものだ。
「大丈夫か?」
息を切らしたロニが問えば、トリプルJはフッと鼻を鳴らす。
「魔法を使ったのはあのゴブリン?」
首を傾げ前方を見据えたまよいが尋ねると、
「ええ、そうです。頭のいいゴブリンが居るとは思いませんでした」
険しく目を細めたソナが呟いた。
「今までのゴブリン達の指揮を執っていたのも、このゴブリンなのですね?」
ムッと頬を膨らますカティス。
魔法を使うゴブリンを守る様に、五匹のゴブリンが前に出た。
ゲギャグギャと聞き取れない言葉を発しハンターを指差す魔法使いゴブリン。
その指揮にゴブリンは一斉にハンターに飛び掛かった。
「アンチボディ」
「アイスボルトー!」
「慈愛の祈り」
「マジックアローー」
一拍の間を置いて、ロニの低い声が――、カティスの凛とした声が――、ソナの包み込む声が――、まよいの高らかな声が――、重なり響き協和する。
飛び掛かったゴブリン達は射られ、傷つき動きを止める。
「逃がさねーっつってんだろ!!」
「逃がすか! これで終いだ!」
インシネーションを振り上げるトリプルJ、カオスウィースを強く引くレイア。
手下がやられ目を見開く魔法使いゴブリンは、数歩後ずさる。
駆け出し踏み込んだ二人が同時に武器を突きだすと、魔法使いゴブリンの頭に、心臓に、己が意志を託した武器が突き刺さり、魔法を唱えようと掲げていた杖はゴブリンの手から落ち、身体は力なく崩れ落ちた―――。
ゴブリンを退治したハンター達は、林の中をくまなく捜索し、残党のゴブリンが居ない事を確認し村へと戻った。
「むーー、せっかくゴブリンをバッタバタやっつけたのに、あんまり気分がスカッとしないね。死んじゃった孤児院の子達をかわいそうって思ってるせいかな? そういうことなのかな、これ。私にはよくわからないけど……」
胸にあるモヤモヤとした感情の正体を掴めず、まよいは小さなため息を吐いた。
「確かに、ゴブリンを掃討出来て万々歳……で終わりじゃないからな」
そのモヤモヤの原因を理解しているからこそ、ロニも小さくため息を吐く。
「この件が片付いたとしても、村人の心には傷が残ますね」
「はい。レイナさんも……なのです」
ソナの言葉に悲しげな面持ちでカティスが俯く。
ロニとソナが主導となって弔いの儀が行われ、小さな棺は穴の中に並べて納められた。棺を見据え、村人たちは涙を流し、死後の幸福を祈りながら可憐な花を手向ける。
「ごめんなさい……守ってあげられなくて……」
懺悔のように悔いる声で呟いたレイナの肩は震えている。
幾筋の涙の痕を残した頬に、また一粒の涙が流れる。
その震える肩にそっと手を置き、
「弔いは生者の為にあると聞く。生きている者が死んだ者とお別れをする儀だと。人は出会い、そして別れるものだ。……こらからも領主の務めを果たさなければならないだろうが……今だけは悲しんでいいと思うぞ、レイナ」
レイアの静かで優しい声に、レイナの肩が一層大きく震えた。
「祈りを―――」
「祈りましょう」
ロニとソナの声が空気に溶けて広がる。
村人も、レイナも、ハンターも手を組み、ミーニャとリシャの魂が今度こそ幸せな場所に行けるよう――祈った。
目を閉じて祈るレイナとハンターの周りを、柔らかな風が駆け抜ける―――。
クスクスと笑うような音を立て、それは上空へと登っていく。
目を開けて、その風を追いかけるように視線を上げると、いつの間にか雲は切れ太陽が辺りを照らしていた。
「歪虚の根絶ってのは難しい。被害を減らすこたぁ出来ても、ゼロにするこたぁできねぇだろう。二人はあそこで暮らせて感謝してたらしいぜ。覚えていてやってくれ。でもそれがお前の重荷になるなら忘れてやれ。お前が助けなきゃいけない領民はまだごまんと居るんだ」
再び俯いたレイナの頭を軽く撫でると、トリプルJは掌を差し出した。
そこには小さな花の飾りがついた髪留めが……。
「形見だ。持っててやんな」
そう言って髪留めをレイナの掌に置いた。
ポトリと落ちた涙が花の飾りを濡らす。朝露に息吹く華のように、陽の光に輝いた。
それから暫らく経った頃、孤児院の畑の縁に可愛らしい花が二輪、咲き誇ったのだった――。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/15 02:16:09 |
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ご相談 ソナ(ka1352) エルフ|19才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/11/15 07:26:26 |