ゲスト
(ka0000)
深き遺恨の道の標
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/07 22:00
- 完成日
- 2015/01/13 00:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●港町ガンナ・エントラータのある商会にて
痩せ男がデスクワークに追われていた。
中卸しを営む、ある商会で働く彼は、ここの所、ずっと家に帰れない状態だった。
人員の補充を繰り返し要望しても、聞く耳を持たない経営者。
今、商会の仕事の大部分は、彼が死ぬ思いでまわしていたのだ。
「……元気にしてるかな」
ふと、手を休め、家で待つ家族を思い出す。
今から数年前、普通に休めた頃、子供達と遊んだ日の事が浮かんだ。
「今日は絶対に帰るぞ!」
気合を入れ直し、仕事に戻る。
だが、彼が一時的に帰宅を許されたのは、それから数日後の事だった。
痩せ男が自宅に一時帰宅した時には、全てが手遅れだった。
「どこ行ったんだ……」
彼を待つ家族はいなかった。
テーブルの上に置手紙が置いてある。そこには、実家に帰る事が記されていた。
「う、嘘だ……こ、こんなの!」
紙をくしゃくしゃと握り潰す。
なにかの間違いだ。死ぬかと思うほど一生懸命働いた結果がこれだなんて。
その時、扉を叩く音。
零れた涙を袖で乱暴に拭い、玄関の戸を開けると、一人の女性騎士が立っていた。
「ど、どなたですか?」
「王国の者です。実は、この港町に来る途中の事で……」
そう切り出して女性騎士は重く語り出した。
ある街道でゴブリンの一団に襲われている馬車を見かけ、ゴブリンを追い払った事。しかし、既に犠牲者が数名おり、その中に、ある親子がいた事。
息を引き取る前に、言付けと渡す物を預かった事。
渡すべき家の主が、ここであった事……。
「つまり……私の妻と子は……」
「最後に、『愛している』と伝えて下さいと。あと、これを……お子様からです」
子供の誕生日に買った、宝石のついた十字のクロスだ。
「残念ですが……ご遺体はある村の教会に運ばれました。なんとか、お顔だけでも合わせてあげたいと、数日間、貴方を探していたのですが……」
遅れてしまって申し訳ないと深く頭を下げた。
「い、いえ、ありがとうございます」
痩せ男は気を失いそうな所を堪えて、女性騎士に感謝を告げた。
●遺恨
「行かせて下さい! 妻と子が待っているんです!」
痩せ男が上司に懇願した。
仕事はまだまだ残っている。だが、今すぐにでも行きたい。
「うるさい! どうせ、死んでるんだから、後で行けばいいだろう!」
「どうしても、行きたいんです!」
泣き出しながら必死にお願いする痩せ男の腹に、上司が容赦なく蹴りを入れる。
嗚咽をもらしながら崩れる痩せ男。
「例の商品を用意できるまでは、絶対に許さん!」
「そ、そんな。あれを集めるのに、一か月以上かかります!」
「てめぇで、なんとかしやがれ!」
再び蹴りが入る。今度は、痩せ男の顎に入った。
口の中を切ったのだろう。鉄の味がした。
「さっさとやれ!」
上司は怒鳴って出て行った。
●恨晴石
痩せ男は取引先に出かけた。
だが、やはり、用意しなければならない商品はすぐに集められない。
とぼとぼと十字のクロスを握りしめて歩く。
商会が憎い。上司が憎い。
大切な家族を守れなかった。傍にも行ってやれない自分が情けない。
頭の中を恨みと悲しみがぐるぐるまわっていた。
ふと、顔を上げたら、そこは商会ではなく、崩れかけた教会の前にいた。
視界の中に、台座に神々しいく乗っている石が見える。
噂で聞いた事があった。
己の全てと交換で恨みを晴らしてくれるという石が、この港町のどこかにあると……。
痩せ男は倒れこむ様に石に飛びつき、両手で、はさみこんだ。
そして、語りだした。恨みの全てを。悲しみの全てを。
「頼む……たのむぅ……」
大泣きしながら祈る痩せ男。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
どこからか、緑髪の少女が現れた。歳は12か13ぐらいだろうか。
クルセイダーローブに身を包んでいた。
「だ、誰ですか?」
「貴方のノゾミを叶える者です。貴方の全てと交換で、恨みを晴らせる場を教えます」
「……恨みを晴らせる場?」
そんな場所があるというのだろうか。普段なら警戒するだろう。しかし、痩せ男にとって、その話は今すぐにでも聞きたい所だった。
「港に今は使われなくなった、ある古倉庫があります。そこの古倉庫の中に雑魔が居ます。見境なしに襲ってきますので、貴方の命も……」
少女の言葉に、痩せ男は覚悟を決めた瞳で頷いた。
残す物などなにもない。この恨みの全てを晴らせるのであれば。
「僕の全て、ここに置いていきます」
十字のクロスを台座に置いた。
「貴方のノゾミ、確かに受け取りました」
少女が丁寧に一礼し、十字のクロスを大事そうに両手で包み込むように持った。
「私にも、貴方みたいな父親がいれば、きっと幸せだったと思います」
愛らしい笑顔を痩せ男に向けて、そう言ってから少女は足早に立ち去る。
痩せ男は救われたような気持ちで、それを見送った。
●あるハンターオフィスより
「惨劇は、今は使われていないはずの港の古倉庫で発生しました。倉庫の中で、数名が突如現れた雑魔に襲われて、全員死亡しだようです」
ハンター達に資料を渡しながら受付嬢が説明をした。
「たまたま近くを通りがかった人が、倉庫の窓から一部始終を目撃しておりまして、入り口を堅く封鎖したのですが、中には、雑魔が潜んでいます。ハンターの皆様は、速やかに雑魔の討伐をお願いします」
配られた資料には、倉庫と雑魔の情報が書かれている。
それとは、別の書類も入っていた。
「犠牲者は全員、ある中卸し業者の経営者や従業員です。倉庫の下見という事で、倉庫内に入ったそうですが……」
そこで一区切りし、
「この業者、従業員をこき使う事で評判悪いんですよ」
と、なくても良い様な情報を伝える。
「そういう事で、年末年始でお互い多忙だとは思いますが、この依頼、お引き受けいただけますか?」
苦笑を浮かべながら受付嬢は、ハンター達に依頼を紹介したのであった。
痩せ男がデスクワークに追われていた。
中卸しを営む、ある商会で働く彼は、ここの所、ずっと家に帰れない状態だった。
人員の補充を繰り返し要望しても、聞く耳を持たない経営者。
今、商会の仕事の大部分は、彼が死ぬ思いでまわしていたのだ。
「……元気にしてるかな」
ふと、手を休め、家で待つ家族を思い出す。
今から数年前、普通に休めた頃、子供達と遊んだ日の事が浮かんだ。
「今日は絶対に帰るぞ!」
気合を入れ直し、仕事に戻る。
だが、彼が一時的に帰宅を許されたのは、それから数日後の事だった。
痩せ男が自宅に一時帰宅した時には、全てが手遅れだった。
「どこ行ったんだ……」
彼を待つ家族はいなかった。
テーブルの上に置手紙が置いてある。そこには、実家に帰る事が記されていた。
「う、嘘だ……こ、こんなの!」
紙をくしゃくしゃと握り潰す。
なにかの間違いだ。死ぬかと思うほど一生懸命働いた結果がこれだなんて。
その時、扉を叩く音。
零れた涙を袖で乱暴に拭い、玄関の戸を開けると、一人の女性騎士が立っていた。
「ど、どなたですか?」
「王国の者です。実は、この港町に来る途中の事で……」
そう切り出して女性騎士は重く語り出した。
ある街道でゴブリンの一団に襲われている馬車を見かけ、ゴブリンを追い払った事。しかし、既に犠牲者が数名おり、その中に、ある親子がいた事。
息を引き取る前に、言付けと渡す物を預かった事。
渡すべき家の主が、ここであった事……。
「つまり……私の妻と子は……」
「最後に、『愛している』と伝えて下さいと。あと、これを……お子様からです」
子供の誕生日に買った、宝石のついた十字のクロスだ。
「残念ですが……ご遺体はある村の教会に運ばれました。なんとか、お顔だけでも合わせてあげたいと、数日間、貴方を探していたのですが……」
遅れてしまって申し訳ないと深く頭を下げた。
「い、いえ、ありがとうございます」
痩せ男は気を失いそうな所を堪えて、女性騎士に感謝を告げた。
●遺恨
「行かせて下さい! 妻と子が待っているんです!」
痩せ男が上司に懇願した。
仕事はまだまだ残っている。だが、今すぐにでも行きたい。
「うるさい! どうせ、死んでるんだから、後で行けばいいだろう!」
「どうしても、行きたいんです!」
泣き出しながら必死にお願いする痩せ男の腹に、上司が容赦なく蹴りを入れる。
嗚咽をもらしながら崩れる痩せ男。
「例の商品を用意できるまでは、絶対に許さん!」
「そ、そんな。あれを集めるのに、一か月以上かかります!」
「てめぇで、なんとかしやがれ!」
再び蹴りが入る。今度は、痩せ男の顎に入った。
口の中を切ったのだろう。鉄の味がした。
「さっさとやれ!」
上司は怒鳴って出て行った。
●恨晴石
痩せ男は取引先に出かけた。
だが、やはり、用意しなければならない商品はすぐに集められない。
とぼとぼと十字のクロスを握りしめて歩く。
商会が憎い。上司が憎い。
大切な家族を守れなかった。傍にも行ってやれない自分が情けない。
頭の中を恨みと悲しみがぐるぐるまわっていた。
ふと、顔を上げたら、そこは商会ではなく、崩れかけた教会の前にいた。
視界の中に、台座に神々しいく乗っている石が見える。
噂で聞いた事があった。
己の全てと交換で恨みを晴らしてくれるという石が、この港町のどこかにあると……。
痩せ男は倒れこむ様に石に飛びつき、両手で、はさみこんだ。
そして、語りだした。恨みの全てを。悲しみの全てを。
「頼む……たのむぅ……」
大泣きしながら祈る痩せ男。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
どこからか、緑髪の少女が現れた。歳は12か13ぐらいだろうか。
クルセイダーローブに身を包んでいた。
「だ、誰ですか?」
「貴方のノゾミを叶える者です。貴方の全てと交換で、恨みを晴らせる場を教えます」
「……恨みを晴らせる場?」
そんな場所があるというのだろうか。普段なら警戒するだろう。しかし、痩せ男にとって、その話は今すぐにでも聞きたい所だった。
「港に今は使われなくなった、ある古倉庫があります。そこの古倉庫の中に雑魔が居ます。見境なしに襲ってきますので、貴方の命も……」
少女の言葉に、痩せ男は覚悟を決めた瞳で頷いた。
残す物などなにもない。この恨みの全てを晴らせるのであれば。
「僕の全て、ここに置いていきます」
十字のクロスを台座に置いた。
「貴方のノゾミ、確かに受け取りました」
少女が丁寧に一礼し、十字のクロスを大事そうに両手で包み込むように持った。
「私にも、貴方みたいな父親がいれば、きっと幸せだったと思います」
愛らしい笑顔を痩せ男に向けて、そう言ってから少女は足早に立ち去る。
痩せ男は救われたような気持ちで、それを見送った。
●あるハンターオフィスより
「惨劇は、今は使われていないはずの港の古倉庫で発生しました。倉庫の中で、数名が突如現れた雑魔に襲われて、全員死亡しだようです」
ハンター達に資料を渡しながら受付嬢が説明をした。
「たまたま近くを通りがかった人が、倉庫の窓から一部始終を目撃しておりまして、入り口を堅く封鎖したのですが、中には、雑魔が潜んでいます。ハンターの皆様は、速やかに雑魔の討伐をお願いします」
配られた資料には、倉庫と雑魔の情報が書かれている。
それとは、別の書類も入っていた。
「犠牲者は全員、ある中卸し業者の経営者や従業員です。倉庫の下見という事で、倉庫内に入ったそうですが……」
そこで一区切りし、
「この業者、従業員をこき使う事で評判悪いんですよ」
と、なくても良い様な情報を伝える。
「そういう事で、年末年始でお互い多忙だとは思いますが、この依頼、お引き受けいただけますか?」
苦笑を浮かべながら受付嬢は、ハンター達に依頼を紹介したのであった。
リプレイ本文
●古倉庫前にて
雑魔が現れた古倉庫の管理人が、ハンター達を待っていた。
「ハンターの方々ですよ……ね?」
自信が無さそうな管理人の目の前には、5人の少女と、1人だけ、長身の中年の男性。
遠くから姿は見えていたが、保護者が少女達を引率している様にしか、管理人は見えていなかった。
「こんなところに突然雑魔ねぇ……」
鵤(ka3319)が管理人の質問に対して右手を挙げながら応えると、そんな言葉を呟き、古倉庫を眺める。
いかにも古めかしい赤レンガの倉庫だ。
「新年早々の事件! 港の古倉庫……ブラック企業……経営者の死亡……。これは事件の臭いがするよ!」
ビシっと、倉庫に指を差したのは、リンカ・エルネージュ(ka1840)だ。
ちょっとした探偵気分なのだろうか。
「そもそも、雑魔をこの倉庫に運び入れたのは誰なのかしら。町の中を雑魔が歩いていたら目立つわよ」
まるで、名探偵の助手の様に、リンカの横に並んだシエラ・ヒース(ka1543)が疑問を口にする。
木箱の形をした雑魔が夜な夜な街中を飛び跳ねる……想像すればするほど、ありえない。
「この倉庫には、長年使用されず、品物を保管してあるだけでして……」
管理人が弱々しく説明を始めた。
倉庫を買い取るという者が下見に来た際、鍵が壊されていると連絡があり、駆け付けてみたら、中から悲鳴。
心配になって、格子窓から中を見たら、木箱の雑魔が人間を襲っていたというのだ。
速やかに入口を封鎖したのは、雑魔が逃げ出さなかったので、良い判断だったかもしれない。
「……擬態雑魔……仕掛けた人がいたら、きっと性格悪い……と思う」
姫凪 紫苑(ka0797)は格子窓から中を覗くと、ボソっと独り言の様に呟く。
彼女の視界の中には、木箱が沢山転がっていた。
これでは、どれが雑魔なのか、パッと見たたけでは、わからない。
赤外線カメラでもあれば、きっとすぐにでも分かるかもしれないが……。
「なんにせよ、既に犠牲者が出てしまっているのでは見過ごすわけにはいきません」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)がグッと拳に力を込める。
犠牲者は、ある商会の従業員や経営者という事だ。
年末年始の忙しい時に仕事で亡くなるとは、さぞ、無念だったかもしれない。
「敵は、箱に紛れている雑魔でござるな」
まるで、うずら隠れの術を使っているかの如く、身動きのない木箱の雑魔の話に、藤林みほ(ka2804)が険しい顔をする。
確認されている雑魔は3体。そして木箱は30個。おまけに、木箱はなるべく壊さない様にというのがクライアントからの依頼だ。
人々の平穏の為、必ず、一匹残らず駆除しようと心に強く決める。
「それじゃ、手分けして、格子窓の強度でも確認しようかねぇ~」
飄々とした口調で鵤が、仲間に呼び掛ける。
「は~い」
「……」
「わかったわ」
「承知したでござる」
「わかりました」
それぞれが返事をして、手分けして倉庫の外周や格子窓の強度を確認しにいった。
まるで、課外授業の様だと管理人はその光景を見ながら思うのであった。
●沢山の木箱と
ハンター達は倉庫に入る。
格子窓が脆くなっている箇所はなかった。よほどの勢いがなければ、格子窓を割って外へ逃げるという事はできないだろう。
「入口周りから見ていこうかしらね」
シエラの言葉に、頷く、ユナイテル。
直ぐにでも戦闘態勢に移れるように、彼女は剣を構えた。
姫凪は見渡せる範囲内の木箱の様子をじーと見つめる。
違和感があればと思ったが、どうみても、木箱があるだけの様にしか見えない。
長い木の棒で、一番手前の木箱を慎重に突く藤林。
「大丈夫で……ござろう」
その感触から、雑魔ではないと判断した。
更にその横の木箱を鵤が小石を軽く投げつけて確かめた。続けて、別の木箱にも小石を投げつけ、音を確認する。
「これも、平気じゃないかな~」
「やっほー。起きてるかーい?」
リンカも小石を他の木箱にポイポイと投げて確認し、大丈夫と判断した物から、持ち上げる。
それなりには重たい。一体、中身はなにが入っているのだろうか。
ここまで警戒しても、万が一があり得るかもしれないと、防御障壁を準備していた鵤も、大丈夫だと判断し、両手で箱を持ち上げて移動させる。
とりあえず、3つ木箱を移動させたが、残りの木箱は、まだ乱雑に転がっている。
木箱の外観をユナイテルは観察していたが、この様子では、上手に擬態している雑魔を探しだすのは容易じゃないかもしれない。
慎重に剣先で木箱の一つを刺してみた。
特に反応はない……ただの木箱の様だ。
「これも、ハズレです」
一行の誰からか、ため息が漏れた。
油断なく、一つ一つを木箱を確認し、移動させるという作業だが、これは骨が折れるはずだ。
「仕方ないわね。まったく難儀な仕事」
苦笑を浮かべ、シエラがヌンチャクで木箱を軽く叩く。
「今頃……きっと、くしゃみ……している、はず」
姫凪が倉庫に入る前に言った通り、もし、この雑魔を仕掛けた人がいたら、きっと、悪い性格をしているに違いない。
ハンター達は、更に数個の木箱を寄せて整頓し、入口付近の空間を確保した。
「さて、次にいくでござる」
その状態から、藤林が近い所にある木箱に音も無く、警戒して近付いた。
コンコンと木箱を棒で突く。ちょっとした肝試しの様でもある。
大丈夫だと仲間達を振りかえった瞬間。
ボワァ!
と奇怪な音と共に、紫色のガスが木箱から噴出する。
油断していたわけじゃない。
しかし、ガスを噴出した木箱は、藤林が棒で突いた横の木箱だったのだ。
一瞬、眠気に藤林が襲われが、忍者らしく口に巻いていた布のおかげか、それとも、寝ないとする強い意識のおかげか、耐えきる。
続いて、雑魔が奥に向かって飛び跳ねた。
「これは、残念だねぇ」
自分達の方に飛んできたら、着地の瞬間を狙って銃撃をするつもりだった鵤は、呆れた様子だった。
「位置は分かるけど、また、木箱を移動させないといけないわね」
シエラの言葉通り、雑魔は再び擬態に入ったが、その位置は明らかだ。
だが、奥の方に移動してしまったので、まずは手前の木箱を片付けていかなくてはならない。
「他にも……2体……この、どこかに……」
姫凪が身長を越えた長さの大鎌を構える。
木箱はまだまだある。これは、長丁場になりそうな予感がした。
●擬態雑魔
その後も神経を擦り減らす様な作業は続いた。
一つ一つ、慎重に木箱が雑魔ではないかと調べ、丁寧に木箱を整理していく。
思えば、この木箱も乱雑に置かないで、整理してあったら、こんな苦労しないのに。
木箱が残り10個程という所で、犠牲者の死体に辿り着いた。
「こりゃ、ひどいねぇ」
鵤が言う通り、犠牲者達の身体はバラバラに食い散らかされていた。
頭やら腕やら足が胴体と離ればなれになっている。
血は辺りの木箱に飛び散り、床には大きな血溜まりができていた。
「これでは、誰が誰なのかわかりませんね」
ユナイテルが周囲を警戒しつつ、犠牲者達を見て言った。
数も合わないので、元の身体に合わすのは無理に近いだろう。
首の一つが……笑っていた様に見えるのは、きっと、気のせいだ。
「なにか……」
気になると小さく呟いた姫凪。
犠牲者達はバラバラだが、ほとんど一ヶ所といっても良い場所に集まっていた。
「まるで、待ち伏せでもあったようでござるな」
「人為的に、ここに雑魔がいると知っていたという事でしょうか?」
藤林の言葉に、ユナイテルが首を傾げた。
「けど、普通の人は雑魔なんて利用できないからなぁ」
リンカが口に手を当てながら考える。
おまけに、出入り口は一つしかなく、すぐに管理人が封鎖したので、密室の様なものだ。
「荷物として誰かに運ばれていなければ、ね」
入口の鍵が壊されていたという事もあるし、誰かが雑魔を運び込んだのだろうか。
シエラは色々と推測しつつ、木箱の一つを移動させた。
綺麗に積み重ねる。倉庫内の雑魔を討伐するついでに、まさか、倉庫の整理もする事になろうとは。
「普通の人ではない……何かが!? むぅ……この事件、深い裏がある気がするよ」
改めて注意深く倉庫内を観察するリンカ。
普通の人でなければ、歪虚か、もしくは、堕落者や契約者といった類になるのか。
王国を襲った傲慢に属する歪虚が残党として王国内に残っていたとしても不思議ではない。
「わかった……」
突如、姫凪が一つの木箱に近づいた。
それを全員が見守る。わかったのは、事件の真相ではなく、擬態している雑魔の様だ。
「……大丈夫……多分」
心配そうな顔を向けた仲間に向けて、そう言うと、大鎌を振りあげた。
だが、それを降ろすよりも、先に、木箱から腕の様な物が飛びだしてきた。
それを予測していたのか、それとも、周囲の木箱に被害が出ないようにか、ギリギリの所で避ける姫凪。
「……来る可能性があること……分かっていたら、ある程度対処……出来る、よ」
振り下ろした大鎌の先が、雑魔に突き刺さる。
「よくわかったでござるな!」
藤林が援護に入るべく、白銀の日本刀で雑魔に斬りかかった。
敵わぬと感じたのか、飛びあがって逃げようとする所に、リンカが放った魔法の水球が当たり、その衝撃で木箱の雑魔が塵となって消えていく。
「血痕の……向きが……違った、から」
わずかな跡だったのに違いないが、姫凪が感じた違和感はそこだったようだ。
警戒しながら、犠牲者の周囲の木箱を移動させる。
残りの木箱は数個になった。
鵤が移動しようとした木箱が不意に動いた。咄嗟に防御障壁を展開する。
ガラスが割れる様に障壁は雑魔の伸びた腕で壊れたが、鵤にダメージを与える事はなかった。反撃とばかり、電撃を与える。
「おっとぉ、警戒していたつもりなんだが……」
後ろに下がり距離を開けた所に、ユナイテルが進み出る。
「騎士の誇りに賭けて、雑魔如きに負けるつもりはない!」
気合いの掛け声と共に、防御を捨て全体重を掛けて踏み込む彼女の身体の周囲を土砂が包み込む。
リンカが防御力を高める魔法を使ったのだ。
雑魔が苦し紛れに板を放出したが、ユナイテルは傷一つ付く事はない。
渾身の力で剣を叩き込み、確かな手ごたえを感じた。
続けて斬撃を繰り出そうとしたユナイテルの動きよりも早く、雑魔が飛び上がる。
「木箱に当たったら、メンゴ」
「同じくです」
着地しようした所に鵤の銃撃と、リンカの魔法が放たれる。
雑魔は奇怪な音を発して、ボロボロと崩れて消えていった。
直後、先程、奥に逃げた木箱が暴れだす。近くにあった残りの木箱が割れて、中身と思われる物が散乱する。
絵の様な物や陶器の様な物が砕けていた。
「箱をこれ以上壊させたりはしないわ」
シエラが身体を張って雑魔の次の攻撃を受け止めようとする。
そこへ、リンカの援護魔法が飛ぶ。
雑魔の体当たりを受け止めるシエラ。魔法の援護と防具のおかげでダメージはない。
「一斉にかかるでござる」
「トドメ……」
藤林と姫凪が武器を構え、攻撃しようとするも、それより先に、雑魔が全周囲に向けて紫色のガスを放出した。
今までよりも範囲も広く、後衛まで届く。
息を止める者、咄嗟に後ろに下がる者、それぞれが睡眠ガスに対抗した。
「こんな所で寝るわけにはいかないわ!」
眠気を吹き飛ばし、シエラが力の限り、ナックルで殴りにかかる。
雑魔が最後とばかり、再び腕を振るった。
だが、それは、鵤が作りだした障壁により防がれる。
再び逃げ出そうとした所に、姫凪が立ち塞がる。
「……逃がさない」
クルクルっと器用に大鎌を回してから、雑魔にトドメの一撃を入れたのであった。
●恨晴石へ至る道標
「いやー。お疲れお疲れってかぁ?」
最後の木箱を整理してから鵤が全員に呼び掛けた。
なかなか時間がかかったかもしれないが、木箱への被害も最小限に抑える事ができたので、依頼の方は問題ないだろう。
「本当にお疲れ様でした。綺麗に整頓までしていただいて」
格子窓から中を覗き込んで安全を確認した管理人が倉庫の中に入ってきた。
「もう、年末年始から、こんなに忙しくなるとは思いもしなかったですよ」
苦笑を浮かべている管理人。
もっとも、それは、この依頼を受けたハンター達も同様なのだが。
「この倉庫の荷は誰が管理しているのからしら?」
シエラが埃まみれになった服をパンパンと叩きながら訊ねた。
「管理はされていませんよ。ここは、私の雇い主が若い頃に集めた思い出の品をただ保管しているだけの場所ですから」
まるで、懐かしむ様に、倉庫を見渡す。きっと、この管理人にもなにか思い出があるのだろうか。
そして、雑魔の攻撃で損壊した木箱の残骸に手をかけた。
「皆様のおかげで、私も助かりました。いよいよになったら、それこそ、恨晴石に泣きつく所でしたよ」
「恨晴石?」
リンカが身を乗り出すような勢いで管理人に聞く。
姫凪と藤林が、元王国騎士団所属であったユナイテルに視線を向ける。が、彼女は首を横に振るだけだ。
「この港町のどこかに、恨みを晴らす石があるって噂はご存じないのですか」
「面白い噂だねぇ」
煙草に火をつけて、そんな感想をつく鵤。
「ただ、恨みを晴らすには、望みを叶えに来た者の全てと交換するという話で……」
「あくまで、噂話でござるよね?」
「……私は見たのです。この倉庫で起きた惨状を……」
犠牲者達の骸は戦闘後に一つに集められた。
頭部や四肢等がバラバラだったからだ。
「次々と雑魔に襲われる中であって、1人だけ笑っている男がいました」
「……狂っていたの?」
姫凪が首を傾げる。
雑魔に襲われているのに、笑っているとは、狂気の沙汰としか言いようがない。
「どうでしょう。ただ、その男は叫んでいました。『恨みは晴れた! 望みは叶った!』と……」
「つまり、恨晴石は噂じゃないと……」
シエラが考える様に視線を変えた。
まさか、この前の事件も? と頭によぎる。
しかし、だとしてもだ。
「それが事実だとしても、やっぱり、どうして雑魔が倉庫にいたのかが、わかりませんね」
ユナイテルの言葉通りだ。
「その辺りは引き続き調査を衛兵にお願いするつもりです」
「結局、真相はわからないままか~」
残念そうなリンカ。
きっと、名探偵だったとしても、この謎は分からないだろう。
「ひとまずは、事件は解決したから、いいんじゃないかなぁ~。あとは地道に追いかければねぇ」
鵤が締める様に、まとめた言葉に全員が頷いた。
おっさんと、それを囲む少女達。
その光景を見て管理人は改めて思うのであった。
(うん……やっぱり、引率の先生にしか見えない……)
ハンター達の活躍により、倉庫内に現れた雑魔は全て討伐された。
木箱への被害も最小限で、クライアントも喜んだという。
おしまい。
雑魔が現れた古倉庫の管理人が、ハンター達を待っていた。
「ハンターの方々ですよ……ね?」
自信が無さそうな管理人の目の前には、5人の少女と、1人だけ、長身の中年の男性。
遠くから姿は見えていたが、保護者が少女達を引率している様にしか、管理人は見えていなかった。
「こんなところに突然雑魔ねぇ……」
鵤(ka3319)が管理人の質問に対して右手を挙げながら応えると、そんな言葉を呟き、古倉庫を眺める。
いかにも古めかしい赤レンガの倉庫だ。
「新年早々の事件! 港の古倉庫……ブラック企業……経営者の死亡……。これは事件の臭いがするよ!」
ビシっと、倉庫に指を差したのは、リンカ・エルネージュ(ka1840)だ。
ちょっとした探偵気分なのだろうか。
「そもそも、雑魔をこの倉庫に運び入れたのは誰なのかしら。町の中を雑魔が歩いていたら目立つわよ」
まるで、名探偵の助手の様に、リンカの横に並んだシエラ・ヒース(ka1543)が疑問を口にする。
木箱の形をした雑魔が夜な夜な街中を飛び跳ねる……想像すればするほど、ありえない。
「この倉庫には、長年使用されず、品物を保管してあるだけでして……」
管理人が弱々しく説明を始めた。
倉庫を買い取るという者が下見に来た際、鍵が壊されていると連絡があり、駆け付けてみたら、中から悲鳴。
心配になって、格子窓から中を見たら、木箱の雑魔が人間を襲っていたというのだ。
速やかに入口を封鎖したのは、雑魔が逃げ出さなかったので、良い判断だったかもしれない。
「……擬態雑魔……仕掛けた人がいたら、きっと性格悪い……と思う」
姫凪 紫苑(ka0797)は格子窓から中を覗くと、ボソっと独り言の様に呟く。
彼女の視界の中には、木箱が沢山転がっていた。
これでは、どれが雑魔なのか、パッと見たたけでは、わからない。
赤外線カメラでもあれば、きっとすぐにでも分かるかもしれないが……。
「なんにせよ、既に犠牲者が出てしまっているのでは見過ごすわけにはいきません」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)がグッと拳に力を込める。
犠牲者は、ある商会の従業員や経営者という事だ。
年末年始の忙しい時に仕事で亡くなるとは、さぞ、無念だったかもしれない。
「敵は、箱に紛れている雑魔でござるな」
まるで、うずら隠れの術を使っているかの如く、身動きのない木箱の雑魔の話に、藤林みほ(ka2804)が険しい顔をする。
確認されている雑魔は3体。そして木箱は30個。おまけに、木箱はなるべく壊さない様にというのがクライアントからの依頼だ。
人々の平穏の為、必ず、一匹残らず駆除しようと心に強く決める。
「それじゃ、手分けして、格子窓の強度でも確認しようかねぇ~」
飄々とした口調で鵤が、仲間に呼び掛ける。
「は~い」
「……」
「わかったわ」
「承知したでござる」
「わかりました」
それぞれが返事をして、手分けして倉庫の外周や格子窓の強度を確認しにいった。
まるで、課外授業の様だと管理人はその光景を見ながら思うのであった。
●沢山の木箱と
ハンター達は倉庫に入る。
格子窓が脆くなっている箇所はなかった。よほどの勢いがなければ、格子窓を割って外へ逃げるという事はできないだろう。
「入口周りから見ていこうかしらね」
シエラの言葉に、頷く、ユナイテル。
直ぐにでも戦闘態勢に移れるように、彼女は剣を構えた。
姫凪は見渡せる範囲内の木箱の様子をじーと見つめる。
違和感があればと思ったが、どうみても、木箱があるだけの様にしか見えない。
長い木の棒で、一番手前の木箱を慎重に突く藤林。
「大丈夫で……ござろう」
その感触から、雑魔ではないと判断した。
更にその横の木箱を鵤が小石を軽く投げつけて確かめた。続けて、別の木箱にも小石を投げつけ、音を確認する。
「これも、平気じゃないかな~」
「やっほー。起きてるかーい?」
リンカも小石を他の木箱にポイポイと投げて確認し、大丈夫と判断した物から、持ち上げる。
それなりには重たい。一体、中身はなにが入っているのだろうか。
ここまで警戒しても、万が一があり得るかもしれないと、防御障壁を準備していた鵤も、大丈夫だと判断し、両手で箱を持ち上げて移動させる。
とりあえず、3つ木箱を移動させたが、残りの木箱は、まだ乱雑に転がっている。
木箱の外観をユナイテルは観察していたが、この様子では、上手に擬態している雑魔を探しだすのは容易じゃないかもしれない。
慎重に剣先で木箱の一つを刺してみた。
特に反応はない……ただの木箱の様だ。
「これも、ハズレです」
一行の誰からか、ため息が漏れた。
油断なく、一つ一つを木箱を確認し、移動させるという作業だが、これは骨が折れるはずだ。
「仕方ないわね。まったく難儀な仕事」
苦笑を浮かべ、シエラがヌンチャクで木箱を軽く叩く。
「今頃……きっと、くしゃみ……している、はず」
姫凪が倉庫に入る前に言った通り、もし、この雑魔を仕掛けた人がいたら、きっと、悪い性格をしているに違いない。
ハンター達は、更に数個の木箱を寄せて整頓し、入口付近の空間を確保した。
「さて、次にいくでござる」
その状態から、藤林が近い所にある木箱に音も無く、警戒して近付いた。
コンコンと木箱を棒で突く。ちょっとした肝試しの様でもある。
大丈夫だと仲間達を振りかえった瞬間。
ボワァ!
と奇怪な音と共に、紫色のガスが木箱から噴出する。
油断していたわけじゃない。
しかし、ガスを噴出した木箱は、藤林が棒で突いた横の木箱だったのだ。
一瞬、眠気に藤林が襲われが、忍者らしく口に巻いていた布のおかげか、それとも、寝ないとする強い意識のおかげか、耐えきる。
続いて、雑魔が奥に向かって飛び跳ねた。
「これは、残念だねぇ」
自分達の方に飛んできたら、着地の瞬間を狙って銃撃をするつもりだった鵤は、呆れた様子だった。
「位置は分かるけど、また、木箱を移動させないといけないわね」
シエラの言葉通り、雑魔は再び擬態に入ったが、その位置は明らかだ。
だが、奥の方に移動してしまったので、まずは手前の木箱を片付けていかなくてはならない。
「他にも……2体……この、どこかに……」
姫凪が身長を越えた長さの大鎌を構える。
木箱はまだまだある。これは、長丁場になりそうな予感がした。
●擬態雑魔
その後も神経を擦り減らす様な作業は続いた。
一つ一つ、慎重に木箱が雑魔ではないかと調べ、丁寧に木箱を整理していく。
思えば、この木箱も乱雑に置かないで、整理してあったら、こんな苦労しないのに。
木箱が残り10個程という所で、犠牲者の死体に辿り着いた。
「こりゃ、ひどいねぇ」
鵤が言う通り、犠牲者達の身体はバラバラに食い散らかされていた。
頭やら腕やら足が胴体と離ればなれになっている。
血は辺りの木箱に飛び散り、床には大きな血溜まりができていた。
「これでは、誰が誰なのかわかりませんね」
ユナイテルが周囲を警戒しつつ、犠牲者達を見て言った。
数も合わないので、元の身体に合わすのは無理に近いだろう。
首の一つが……笑っていた様に見えるのは、きっと、気のせいだ。
「なにか……」
気になると小さく呟いた姫凪。
犠牲者達はバラバラだが、ほとんど一ヶ所といっても良い場所に集まっていた。
「まるで、待ち伏せでもあったようでござるな」
「人為的に、ここに雑魔がいると知っていたという事でしょうか?」
藤林の言葉に、ユナイテルが首を傾げた。
「けど、普通の人は雑魔なんて利用できないからなぁ」
リンカが口に手を当てながら考える。
おまけに、出入り口は一つしかなく、すぐに管理人が封鎖したので、密室の様なものだ。
「荷物として誰かに運ばれていなければ、ね」
入口の鍵が壊されていたという事もあるし、誰かが雑魔を運び込んだのだろうか。
シエラは色々と推測しつつ、木箱の一つを移動させた。
綺麗に積み重ねる。倉庫内の雑魔を討伐するついでに、まさか、倉庫の整理もする事になろうとは。
「普通の人ではない……何かが!? むぅ……この事件、深い裏がある気がするよ」
改めて注意深く倉庫内を観察するリンカ。
普通の人でなければ、歪虚か、もしくは、堕落者や契約者といった類になるのか。
王国を襲った傲慢に属する歪虚が残党として王国内に残っていたとしても不思議ではない。
「わかった……」
突如、姫凪が一つの木箱に近づいた。
それを全員が見守る。わかったのは、事件の真相ではなく、擬態している雑魔の様だ。
「……大丈夫……多分」
心配そうな顔を向けた仲間に向けて、そう言うと、大鎌を振りあげた。
だが、それを降ろすよりも、先に、木箱から腕の様な物が飛びだしてきた。
それを予測していたのか、それとも、周囲の木箱に被害が出ないようにか、ギリギリの所で避ける姫凪。
「……来る可能性があること……分かっていたら、ある程度対処……出来る、よ」
振り下ろした大鎌の先が、雑魔に突き刺さる。
「よくわかったでござるな!」
藤林が援護に入るべく、白銀の日本刀で雑魔に斬りかかった。
敵わぬと感じたのか、飛びあがって逃げようとする所に、リンカが放った魔法の水球が当たり、その衝撃で木箱の雑魔が塵となって消えていく。
「血痕の……向きが……違った、から」
わずかな跡だったのに違いないが、姫凪が感じた違和感はそこだったようだ。
警戒しながら、犠牲者の周囲の木箱を移動させる。
残りの木箱は数個になった。
鵤が移動しようとした木箱が不意に動いた。咄嗟に防御障壁を展開する。
ガラスが割れる様に障壁は雑魔の伸びた腕で壊れたが、鵤にダメージを与える事はなかった。反撃とばかり、電撃を与える。
「おっとぉ、警戒していたつもりなんだが……」
後ろに下がり距離を開けた所に、ユナイテルが進み出る。
「騎士の誇りに賭けて、雑魔如きに負けるつもりはない!」
気合いの掛け声と共に、防御を捨て全体重を掛けて踏み込む彼女の身体の周囲を土砂が包み込む。
リンカが防御力を高める魔法を使ったのだ。
雑魔が苦し紛れに板を放出したが、ユナイテルは傷一つ付く事はない。
渾身の力で剣を叩き込み、確かな手ごたえを感じた。
続けて斬撃を繰り出そうとしたユナイテルの動きよりも早く、雑魔が飛び上がる。
「木箱に当たったら、メンゴ」
「同じくです」
着地しようした所に鵤の銃撃と、リンカの魔法が放たれる。
雑魔は奇怪な音を発して、ボロボロと崩れて消えていった。
直後、先程、奥に逃げた木箱が暴れだす。近くにあった残りの木箱が割れて、中身と思われる物が散乱する。
絵の様な物や陶器の様な物が砕けていた。
「箱をこれ以上壊させたりはしないわ」
シエラが身体を張って雑魔の次の攻撃を受け止めようとする。
そこへ、リンカの援護魔法が飛ぶ。
雑魔の体当たりを受け止めるシエラ。魔法の援護と防具のおかげでダメージはない。
「一斉にかかるでござる」
「トドメ……」
藤林と姫凪が武器を構え、攻撃しようとするも、それより先に、雑魔が全周囲に向けて紫色のガスを放出した。
今までよりも範囲も広く、後衛まで届く。
息を止める者、咄嗟に後ろに下がる者、それぞれが睡眠ガスに対抗した。
「こんな所で寝るわけにはいかないわ!」
眠気を吹き飛ばし、シエラが力の限り、ナックルで殴りにかかる。
雑魔が最後とばかり、再び腕を振るった。
だが、それは、鵤が作りだした障壁により防がれる。
再び逃げ出そうとした所に、姫凪が立ち塞がる。
「……逃がさない」
クルクルっと器用に大鎌を回してから、雑魔にトドメの一撃を入れたのであった。
●恨晴石へ至る道標
「いやー。お疲れお疲れってかぁ?」
最後の木箱を整理してから鵤が全員に呼び掛けた。
なかなか時間がかかったかもしれないが、木箱への被害も最小限に抑える事ができたので、依頼の方は問題ないだろう。
「本当にお疲れ様でした。綺麗に整頓までしていただいて」
格子窓から中を覗き込んで安全を確認した管理人が倉庫の中に入ってきた。
「もう、年末年始から、こんなに忙しくなるとは思いもしなかったですよ」
苦笑を浮かべている管理人。
もっとも、それは、この依頼を受けたハンター達も同様なのだが。
「この倉庫の荷は誰が管理しているのからしら?」
シエラが埃まみれになった服をパンパンと叩きながら訊ねた。
「管理はされていませんよ。ここは、私の雇い主が若い頃に集めた思い出の品をただ保管しているだけの場所ですから」
まるで、懐かしむ様に、倉庫を見渡す。きっと、この管理人にもなにか思い出があるのだろうか。
そして、雑魔の攻撃で損壊した木箱の残骸に手をかけた。
「皆様のおかげで、私も助かりました。いよいよになったら、それこそ、恨晴石に泣きつく所でしたよ」
「恨晴石?」
リンカが身を乗り出すような勢いで管理人に聞く。
姫凪と藤林が、元王国騎士団所属であったユナイテルに視線を向ける。が、彼女は首を横に振るだけだ。
「この港町のどこかに、恨みを晴らす石があるって噂はご存じないのですか」
「面白い噂だねぇ」
煙草に火をつけて、そんな感想をつく鵤。
「ただ、恨みを晴らすには、望みを叶えに来た者の全てと交換するという話で……」
「あくまで、噂話でござるよね?」
「……私は見たのです。この倉庫で起きた惨状を……」
犠牲者達の骸は戦闘後に一つに集められた。
頭部や四肢等がバラバラだったからだ。
「次々と雑魔に襲われる中であって、1人だけ笑っている男がいました」
「……狂っていたの?」
姫凪が首を傾げる。
雑魔に襲われているのに、笑っているとは、狂気の沙汰としか言いようがない。
「どうでしょう。ただ、その男は叫んでいました。『恨みは晴れた! 望みは叶った!』と……」
「つまり、恨晴石は噂じゃないと……」
シエラが考える様に視線を変えた。
まさか、この前の事件も? と頭によぎる。
しかし、だとしてもだ。
「それが事実だとしても、やっぱり、どうして雑魔が倉庫にいたのかが、わかりませんね」
ユナイテルの言葉通りだ。
「その辺りは引き続き調査を衛兵にお願いするつもりです」
「結局、真相はわからないままか~」
残念そうなリンカ。
きっと、名探偵だったとしても、この謎は分からないだろう。
「ひとまずは、事件は解決したから、いいんじゃないかなぁ~。あとは地道に追いかければねぇ」
鵤が締める様に、まとめた言葉に全員が頷いた。
おっさんと、それを囲む少女達。
その光景を見て管理人は改めて思うのであった。
(うん……やっぱり、引率の先生にしか見えない……)
ハンター達の活躍により、倉庫内に現れた雑魔は全て討伐された。
木箱への被害も最小限で、クライアントも喜んだという。
おしまい。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 8人 |
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相談卓 リンカ・エルネージュ(ka1840) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/01/07 19:31:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/03 10:16:15 |