恩義に似た親愛

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/19 12:00
完成日
2018/11/29 19:55

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●これは現実
「ガーデンパーティまでには帰ってきてくださいね」
 夢追い人こと、セブンス・ユング(kz0232)にそう言ったのは、モンド家の使用人、クロスだった。
「え?」
 セブンスは首を傾げた。彼は、焼野原となった集落の復興手伝いから居候先であるモンド邸へ戻ってきてすぐ、また外出する支度をしていた。
「お嬢様がずいぶんと、楽しみにしておいでです。あなたにも、楽しんでほしいそうですよ。三日後です。是非、それまでには」
「……ありがとう、ございます。もし可能であれば、パーティまでに帰りましょう」
 セブンスは、居候をするようになってから何かと気遣ってくれるこのクロス青年を改めて好もしく思いながら頷いた。夢以外の記憶をすぐになくしてしまうセブンスにとって、こうして何度も顔を合わせ、話をしてくれる人物は貴重だ。クロスだけでなくモンド家の人々に、セブンスは深く感謝していた。
 そして、セブンスはモンド家を出て歩き出した。……故郷の街に向かって。



 ふるさと、といってもセブンスには懐かしさなど少しもなかった。なにせ、セブンスがこの街で過ごした時間はあまりに少なく、そしてその少ない時間のほとんどが、狭い部屋の中で流れるものだったのだから。
(つまりはもう、俺に帰る場所などひとつもないわけか)
 柄にもなくセンチメンタルな思いが湧いて、セブンスはそんな自分に苦笑した。そんなことは、今に始まった話ではない。
 深呼吸をひとつして、周囲を見回した。
 セブンスは先日、とある村の襲撃事件に関わった。無残にも焼き尽くされてしまったその村は、自分の故郷によく似ているように思われたのだが、それもそのはずで、その村はセブンスの故郷の街を真似てつくられたのだという。
 街は、穏やかだった。かなり人口の多い街であるようで、行き交う人々には、そうした大きな街特有の「他人への無関心さ」が備わっているようだった。きょろきょろ見回しながら歩くセブンスを気にする者はひとりもいない。あまり目立ちなくないセブンスとしては、有難い状況だった。
(さて……、どこをどう調べるべきか)
 セブンスは、きょろきょろしながら早速困ってしまった。特に故郷を探していたわけではなく、ここへ来ることになったのは成り行きに近かった。ただ……、まるで導かれるような流れだったことは、確かだ。そのため、セブンスにはひとつ予感もあった。
 もしかしたら、自分がここのところ追っている謎……、「意図的に見せられている夢」についての手掛かりが得られるのではないだろうか、という予感が。
 その謎を探るためのキーワードはふたつ。『緑色の宝石』と『玉虫色の瞳の男』である。生まれつき夢に関して不思議な力を持つセブンスの、その特殊な夢に干渉できる人物。何者なのか、そして目的は何なのか。
(まずは聞き込み、か……。あまり目立つわけにはいかないからな……、慎重に行かなければ)
 セブンスは表情を引き締めると、まずは街の宝石店に入り、これまでの事件で手に入れていた『緑色の宝石』を見せ、同じものを取り扱っていないか尋ねた。しかし、取り扱いはおろか、問屋などで見たこともないという。
(早速、行き詰まったか……)
 宝石店を出たセブンスは、もう一度街を見回した。そして、街の一番奥に立つ大きな屋敷を眺めた。嫌でも目に入る、街で一番大きな屋敷だった。
「あそこへ、行かなけれなならないのだろうか」
 セブンスは、沈鬱な声で呟いた。気が付けばもう、日が暮れかかっている。ひとまずどこか宿で一晩を過ごすことにして、セブンスは足早に夕暮れの街を歩いた。
 そしてその夜。
 セブンスは夢を見た。



●これは夢
 暗い部屋に、男が三人。頭を寄せ合い、何やらひそひそと密談をしている。
「そうだ、ここが正面入り口だ。で、こっちが金庫へ続く通路だ」
「全員で行くのか? ひとり見張りを置いた方が……」
「何を言ってるんだ、俺たちはたった三人なんだぜ、見張りなんか置いたら重い金庫をどうやって運び出すんだよ」
「何? 金庫ごと運び出すのか?」
「そうさ。この家の金庫は最新式だ。とても小手先で開けられる鍵じゃねえ。だから、金庫ごと盗みだして、鍵はあとでゆっくり、とこういう作戦さ」
「なるほどな……、で、決行はいつだ? というか、正面から行って大丈夫なのか?」
「三日後の夜だ。この日、この屋敷ではガーデンパーティとやらをするらしい。パーティ会場は裏口寄りだから、正面の方がむしろ安全ってわけさ」
「そういうことか。けっ、パーティか。いい気なものだぜ、金持ちってのはよ」
「まったくだぜ。ま、そのパーティで浮かれているうちに、盗みだしちまおうってことさ」
「じゃあ、俺は……で……」
「そうだな、そっちは任せた、そんでお前は……」
 男たちのひそひそ話は、さらに声量を落とされ、聞こえにくくなった。だいたいの相談が終わったらしい頃になって、ひとりの男が、ああそうだ、と少し大きな声を出した。
「これを配っておく。幸運の石だ。これを持っていれば、何事も上手くいくらしいぜ。とある筋から、手に入れたんだ」
「幸運の石ぃ? お前、そんなもの信じる方だったかぁ?」
「まあいいじゃねえか、ものは試しだ。こんな小さなもの、邪魔になるわけでもねえしよ」
 石の色は、部屋の暗さのせいで見ることができなかった……。



●これは現実
 セブンスは、飛び起きた。
「三日後……、ガーデンパーティー……」
 呆然と、呟く。どう考えても、偶然とは思えない。きっとこれは未来を示す夢で、その未来とはまさしく、モンド邸で行われる予定のガーデンパーティだ。
 実のところ、セブンスはパーティまでにモンド邸へ帰るつもりがなかった。クロスは知らなかったようだが、そもそもモンド邸からこの街まで来るには丸一日かかる。そう調査が上手く行くとも思っていなかったし、自分のような者がいてはパーティに水を差すだろうという心配もあったからだ。
 しかし。
「……すぐに帰って、知らせなければ」

 俺に帰る場所などひとつもないわけか。

「……ない、はずなのにな」
 昼間、自分の胸に湧いた思いをもう一度思い出して、セブンスは目を鋭くした。帰る場所などとそんな図々しいことは言えないけれど、守りたい場所であることは、間違いないのだ。

リプレイ本文

 セブンス・ユング ( kz0232 )はまだ明けきらぬ空の下、馬を駆っていた。モンド邸までは通常丸一日かかるが、この調子で急げばパーティの開始までには間に合うはずだ。……いや、間に合わせなければならない。
(……必ず)
 セブンスは、手綱を強く握りしめた。



 パーティの、朝が来た。
「楽しみだわ!!」
 いつもより早く起き出して、ダイヤがはしゃぐ。朝食の準備を整えながら、使用人のクロスが顔をしかめた。
「こんなに早くからそのペースで飛び跳ねていたら、夜までもちませんよ、お嬢さま」
「と、飛び跳ねてなんていないでしょ! 私もうそんなにお子様じゃないわよ!」
 お子様じゃない、と言いつつ子供っぽく頬を膨らませるダイヤを見て、メイドたちがくすくすと笑った。
 ダイヤが浮かれるのも無理はないのだ。今年は、ダイヤの大好きなハロウィン・パーティを行うことができなかったため、モンド邸で開催するパーティは実に久しぶりなのである。
「これまではお昼にやるパーティが多かったけど、今回は夕方から、ってところも楽しみよね。……セブ君も、来てくれるといいんだけど」
「……そうですね。パーティまでに帰ってきてくれるといいですが」
 クロスは表情を変えず平坦に頷きながら、内心では苦い思いでいた。パーティまでに帰ってきてください、とセブンスに告げた後、彼の目的地モンド邸からかなり遠くであることを知ったのである。どんなに急いでも、間に合いそうにはないほどに。迂闊なことを言ってしまった、とクロスは反省していた。彼にしては珍しいミスである。
「……お嬢さま、お子様扱いするわけではありませんが、今日は昼寝をなさっておいた方がいいのではないですか」
「昼寝? なんで?」
 ぽかんとするダイヤに、クロスは少し気まずそうな顔で告げた。
「……夜の、パーティでしょう。できるだけ長く夜更かし、したいんじゃないですか」
「! ええ!」
 夜更かし、という言葉に顔を輝かせるダイヤには、やはりまだ子供らしさが残っている。クロスは呆れたような、ホッとしたような笑みを浮かべた。セブンスはパーティの始まりには間に合わなくとも、終るまでには間に合うかもしれない、という期待も抱きながら。



 太陽が傾きかけた頃、パーティの参加者がぞくぞくと集まってきた。真っ先にやってきて、パーティの準備を手伝ってくれたのは、ジャン・マルコリーニだ。彼は、ダイヤの友人だ。……一目ぼれしてふられている、という経緯はあるが、一応、友人である。
 ジャンほどではないにしろ、早めにやってきたエメラルド・シルフィユ ( ka4678 )は、ダイヤに挨拶をしつつ、そのジャンの姿をみつけ、驚いたようだった。
「ダイヤ、久しぶりだ。今回はパーティーへの招待感謝する」
「エメラルドさん! こちらこそ、今日は来てくれてありがとう!」
 にこにこ挨拶を返すダイヤは実に可愛らしく、ジャンが執心するのも頷ける。一度ふられてもめげない、というのはエメラルドとしては思わず応援してしまいたくなってしまうが、いかんいかん、と心中で頭を横に振った。もしかしたらジャン自身はもうすっかり友人のつもりでいて、邪心はないのかもしれないのだし。
 そのエメラルドと共にやってきたレイア・アローネ ( ka4082 )は、きょろきょろとパーティ会場を見回していた。
「誰か探しているのか?」
 エメラルドに問われ、レイアは頷く。
「セブンス氏はいないようだな……、先日の挨拶をさせて貰おうと思ってたのだが……」
 レイアは以前、任務でセブンスと関わっていたのである。
「ほう……、プールにはいなかったな、その人物は。私も会ってみたかったものだが」
 エメラルドが残念そうに言い、そのセブンスは現れないまま、パーティの開始時間が迫ってきた。
 芝生の敷き詰められた、広い裏庭の上空にロープを渡してぶら下げられた無数のランタンに、灯りがともされる。
「わあ!!」
「きれーい!!」
 ひときわ感動した声をあげたのは、ダイヤと夢路 まよい ( ka1328 )だ。ふたりは同時に声をあげてから、顔を見合わせてふふふ、と嬉しそうに笑う。その愛らしい様子にイルム=ローレ・エーレ ( ka5113 )が目を細めた。
「ランプも綺麗だけれど、それに照らされるダイヤ君とまよい君もとっても綺麗だよ。さあ、ダイヤ君、乾杯といこうじゃないか。音頭を頼むよ」
「うん! では皆さん、グラスを持って……」
 イルムに促され、ダイヤが乾杯の音頭を取ろうとした、そのとき。
「皆さん!!! ご無事ですか!!!」
 大きく肩で息をしながら、ひとりの青年が駆け込んできた。勢い余って、芝生に倒れ込んでしまう。
「おっと、大丈夫か?」
 劉 厳靖 ( ka4574 )が咄嗟に支えた。乾杯を待てずにすでに酒を飲んでいた厳靖だが、その素早さはとても酔っているとは思えない。
「あっ、セブくん! パーティに間に合ったのね、よかった!」
 駆け込んできた青年がセブンスだと気が付き、ダイヤが笑顔になる。その近くで、蜜鈴=カメーリア・ルージュ ( ka4009 )が苦笑した。
「単にパーティに駆けつけたにしては様子が危機迫っておるぞ? っと、おや、以前に会うた物覚えの悪い殿御ではないか」
「ん? お前は、確か……」
 ルベーノ・バルバライン ( ka6752 )もセブンスの顔を見て頷いた。蜜鈴もルベーノも、セブンスのことは見知っていたのである。しかし、夢以外のことはすぐ忘れてしまうセブンスは、どちらのことも覚えていなかった。いつもならそのことを詫びるのだが、今はそれよりも、と、セブンスは咳き込みながら必死に、自分の見た夢について語った。
「し、信じていただけるとは、思いませんが、しかし……」
 セブンスが、苦しげに瞼を伏せる。と。
「信じますよ」
 真っ先にそう声を上げたのは、セブンスの後ろからやってきたクロスだった。ただ事とは思えぬ様子で駆けてきたセブンスを、すぐに追って来たのである。クロスの言葉に、ダイヤも頷く。しばらく共に生活していたふたりだが、セブンスの夢のことはほとんど何も知らされていなかった。ただ、何か深い事情がありそうだと感じていた。
「ボクも勿論、信じるよ! ダイヤ君やクロス君の大切な友人だもの。何事もなければ笑い話で済むだけさ」
 イルムがすぐさま笑顔で同意する。厳靖もこくこくと頷いた。
「まー、虫の知らせって言葉もあるしな。それに、お前さんの目を見りゃ、騙す気がねぇのは分かるさ。他の連中も疑ってねぇみたいだしな」
 けらけらと厳靖が笑って、ハンターたちを示すのを、セブンスは驚きのまなざしで見回した。誰一人として、セブンスを疑いの目で見る者はいない。
「その必死さを見て嘘をついているなどと思う者はここにはおらん」
 ルベーノがはっきり言い切って、強く頷いた。ルベーノはセブンスの「事実を夢に見る」力についてそもそもの理解があるのだが、たとえそうでなかったとしても、きっとセブンスのことを信じただろう。
「ありがとう、ございます」
 セブンスは深く頭を下げた。
「イルムが何事もなければ笑い話で済む、と言うたが裏を返せば、事実なれば笑うては居れぬということ」
 蜜鈴が涼やかに言って、場は緊張し、ハンターたちは、すぐさま行動を開始した。
「余興がここで役に立つとはな」
 そう言って真っ先に動き出したのはルベーノだ。セブンスを抱えると、余興のつもりで用意していたダイダロスで飛び上がる。
「え!?」
 セブンスが驚いている間もなく、裏口側のパーティ会場から、正面入り口へと飛び去って行った。
「あっ、私も!」
 まよいが杖にマジックフライトをかけ、屋敷の上を飛び越すようにして正面へと急行する。
「正門に着いたぞ! 敵は見当たらん」
 ルベーノからは、すぐさまトランシーバーで通信が入った。レイアが了解、と返すと、今度はルベーノとセブンスに合流したらしいまよいの声が聞こえてくる。
「私たち、ここで身を隠して強盗犯を待ち構えるね。挟み撃ちにできるように、裏口からの援護をお願い」
「いいとも、任されよう」
 イルムが快活に受け応えた。手短に連絡を終え、ルベーノはセブンスとまよいと共に注意深く身を隠しながら、ひそひそと問いかけた。
「よし、今のうちに強盗犯がどんな風体だったか教えろ」
「はい」
 思いがけず空を飛んでしまったことを驚いている暇はない、と、セブンスは深呼吸をして、ルベーノとまよいにさらに詳しく夢の話をした。



 一方、裏口側のパーティ会場でも、テキパキと対策が取られていた。まず、レイアとエメラルドの誘導で、ジャンと、モンド邸の使用人たちが一か所に集められた。
「全員いるのだろうか? お互いで確認してくれ」
 レイアはメイドたちに声をかけながら、内心で少し興奮していた。話に聞いていた夢追い人の「予知夢」というものをついに目の当たりにしたからである。エメラルドは、予知夢について「にわかには信じがたい」と思っていたのだが、レイアが信じていることを疑う理由はなく、疑念は消し去った。
 ダイヤは、というと。レイアたちの指示に従ってメイドと共に一か所に集まったものの、そわそわと正面入り口の方を気にしてみたり、ハンターたちの様子をうかがって見たりしていた。それに気がついたのは、イルムだった。
「ボクたちは今から屋敷内を通って強盗犯を挟み撃ちにしようとしているわけだけど……、ダイヤ君に屋敷内の最短ルートを案内してもらおうかな」
「えっ」
 ダイヤは驚いて目を見開いてから、パッと笑顔になった。イルムが悪戯っぽくウインクする。
「じっとしていられないだろう?」
「うん! 任せて!」
 こくこくと激しく頷くダイヤに、クロスは渋い顔だ。やめておいたほうが、と言いかけたクロスを、イルムがすかさず宥めた。
「大丈夫。クロス君。誓ってダイヤ君には指一本すら触れさせやしないから」
「……」
 クロスは少しだけ考えて、ハア、とため息をつくと頷いた。まだ強盗犯は来ていない状態で、これだけの数のハンターがばっちり準備をしているとあれば、彼らに勝ち目はないだろう、と瞬時に頭の中で判断したのである。
「お嬢さまを、お願い申し上げます」
「では、ゆくかの。道中金庫の位置も確認しておきたいのう。賊の狙いはソレであろ?」
 蜜鈴が箒に横乗りになりながら言う。ダイヤが元気よく頷いた。
「場所、わかるわ! ご案内します!」
 裏口へ先導するダイヤを、クロスはため息とともに見送った。ジャンはそんなダイヤとクロスを見比べて、くすくすと笑っている。ダイヤに一目惚れし、ふられてしまった彼は、今やダイヤとクロスのふたりの微妙な関係性を見守る立ち位置になったらしい。クロスは、ジャンに困ったような微笑を向けた。
そのクロスとジャンも集められた一か所へとおさまり、厳靖が、人数の確認できたらしいのを見て頼もしい笑みを浮かべる。
「さて。俺は、ここで待機するぜ。ま、念のためな」
「私もここで守りを固めよう。レイアは、正面へ行くか?」
 厳靖とエメラルドが使用人たちを守るのならば、ここは充分だろうと、レイアは頷いた。
「そうだな、私は正面へ向かう。ここを頼んだ」
 レイアがそう言って正面入り口に向かって駆けだしたころ、ダイヤは屋敷の中でイルムと蜜鈴の案内を立派につとめていた。
「こっちが金庫室への道よ。この突き当りなの。で、正面入り口は、こっち」
「ふむ。金庫室へのルートは随分単純なのだのう」
「そう言われてみればそうね……、今度お父さまに変更を相談しておくわ」
 先ほどのそわそわした様子とは打って変わって真剣な顔で頷くダイヤを見て、イルムは少し嬉しげに目を細めた。
「さて。確認もできたことだし、正面へと急ごうか、ダイヤ君」
 イルムはそう言うと、サッとダイヤを抱え上げた。
「えっ!? きゃあ!」
 いわゆる、お姫様だっこというやつである。ダイヤの頬が赤らむ。イルムがくすりと笑った。
「覚醒者の足で全速力で向かうから、しっかり掴まって案内をよろしくね? ……大丈夫。お姫様だっこのことは、クロス君にはナイショにしておくよ」
 すっかり見透かされていることにダイヤはますます頬を赤くしながら、ぎこちなく頷いたのだった。



 かくして。
 万全に迎撃の準備が整えられていると知らぬ哀れな強盗犯三人が、モンド邸へとやってきた。
 正面玄関の脇の生垣に身を隠したセブンス、まよい、ルベーノ、レイアは、男たちの姿を確認すると無言のまま目配せをした。黒っぽく身軽な服装の男たちは、セブンスが夢に見た者たちの特徴と一致していた。
 今すぐにでも飛び出して行って捕まえてやりたい気持ちを、レイアはぐっと押さえた。屋敷に入っていくのを見送って、裏口側からやってくる仲間と挟み撃ちにする計画になっているのだ。
「……お前は、ここに残れよ、いいな?」
 ルベーノが、セブンスに小声で告げると、セブンスは素直にこくりと頷いた。
「やけに静かだなあ。本当にパーティなんかやってるのか?」
 きょろきょろと油断なく周囲を見回していた、強盗犯のひとりがぼそりと言うのが聞こえ、一同は少しどきりとした。確かに、何も知らずに暢気にパーティをしているにしては、敷地全体が静かすぎる。対策を怠った範囲であった。
「なーに、ここは相当に広い屋敷だっていうからな。裏庭でやってるパーティの音なんざ、こっちまで届かないんだよ」
「そういうことか。けっ、これだから金持ちはさァ」
 男たちが勝手にそう解釈してくれたことに、ハンターたちは安堵した。目の前を通り過ぎるのを見逃して、男たちが玄関の扉を開き中に入っていくのを確認する。と。
「よし」
 ハンター四人は頷き合い、犯人たちを追って玄関へ駆けこんだ。
「わああ!?」
「なんだなんだ!?」
 強盗犯たちは、目の前に立ちふさがったイルムと蜜鈴、それにオマケのダイヤの姿に慌てふためいているところだった。武器すら構えていない無防備な姿でおろおろしている。イルムも蜜鈴も呆れて攻撃をしかけずにいたほどだった。
「うーん、でもまあ、一度眠ってもらおう。果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
 まよいが肩をすくめつつ魔法をかけると、強盗犯たちはたちまち眠りに落ちたのだった。



「なーんか、あっけなかったわねえ」
 眠っている間に縛り上げた強盗犯たちを見下ろして、ダイヤが言う。まったくだ、とレイアが頷いた。
「ははは、ダイヤ君は勇ましいね!」
 イルムが面白そうに笑うので、ダイヤは慌てた。
「あっ、今の、クロスにはナイショよ!?」
「もちろんだとも。ボクとダイヤ君の秘密が増えていくね!」
 すっかり和やかになった空気の中、セブンスもホッと息をついた。夢が、未来のもので良かったと心から思う。
「……過去のことは、もう、どうにもならない……」
 セブンスがみる夢はすべて「事実」となるが、それが未来のことなのか過去のことなのかは夢をみた時点ではわからないのだ。雪原で遺体を見つけたときや、集落がひとつ焼き払われたときなどは、もう過去のことだった。助けられなかった。
 その様子を目の当たりにして、レイアは内心で反省していた。これは、キツイ、と思う。セブンスの力に好奇心を抱いてしまったことを、恥じた。もう屋敷の者に危害は加わらないだろうと裏口からやってきたエメラルドが、そんなレイアの内心を察したように、軽く肩を叩く。
そしてセブンスは、考え込むように顔を引き締めた。煙管をくゆらせながら、蜜鈴が声をかける。
「幸運の石とやらは気になるのう……」
 ハッと、セブンスは蜜鈴の顔を見て、頷いた。セブンスも、それが気になっていたのである。これまでに何度か、夢の中に出てきた妙な宝石と同じなのではないか、と。
「ふむ。たたき起こして尋ねるとするかの」
 蜜鈴はそう呟くと、扇子で容赦なく強盗犯たちの頬を張り飛ばした。その光景にセブンスは一瞬かたまったが、すぐに気を取り直して呻く強盗犯たちに向き合った。
「お前たちに、尋ねたいことがある」
 セブンスが、幸運の石の出どころを尋ねると、強盗犯たちはがっくりと肩を落とし、素直に答えた。
「変な目の色をした男にもらったんだよぉ」
「変な目の色? もしかして、玉虫色か?」
 セブンスが身を乗り出した。玉虫色の瞳の男は、妙な宝石と共に、セブンスの夢に何度も関わってきている人物だった。今度こそ、正体がつかめるかもしれぬと思うと動悸が激しくなる。
「そうそう、そんな感じだ。ナントカって家で家庭教師をしているとかって……」
「ユング家だよ、ユング家。そう言ってたぜ」
「……ユング、家……」
 セブンスの、喉が引きつった。
「おい、確か、お前の名前……」
 ルベーノが、言いかけて口を閉ざした。セブンスは、悲痛な表情をしていた。
「はい。俺の名前は、セブンス・ユング。……ユング家は、俺の実家です。……家族の顔など、誰一人として覚えていませんが。……そうか。やはり、俺はそこへ行かなければならないのか」
「……ね、ねえ! それ、今すぐじゃなくちゃダメ!?」
 急に、ダイヤが叫んだ。それまでのやりとりを、はらはらと見守っていた末の、言葉だった。
「え?」
 セブンスが、ぽかんとする。
「今すぐ、そこへ行かなくちゃダメ!? もうちょっと後でもいいわよね!? せめて、パーティをやり直してからでも!!!」
 ダイヤは、必死に言いつのった。
「折角、皆集まってくれたんだし!!! 私、セブ君が帰って来るの待ってたんだし!!!」
「……その通りです。お嬢さまも、私も、待っていましたよ」
 クロスも、微笑んでそう言った。セブンスは、呆気にとられたように目を見開いて、誘われるままに頷いた。
「おーい、終ったんだろー? 早く飲みなおそうぜー!」
 厳靖がそう呼びかけながら手を振り、裏口方面からやって来るのが見える。ハンターたちは笑いながらそれに応じ、セブンスにも笑顔を向けた。
「……はい」
 セブンスは、もう一度、頷いた。

 帰る場所などないと、そう思っていた。
 すぐになにもかもを忘れてしまう、自分には。
 けれど。
 帰りたい場所は、あった。

「さあ、行きましょう」
 クロスに促されて歩き出しながら、セブンスは恩義のある人々に深く感謝した。そしてこれは、恩義であるだけでなく親愛の感情でもあるのだと、きちんと、自覚した。

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MVP一覧

  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009
  • 乙女の護り
    レイア・アローネka4082
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/16 09:12:16
アイコン 緊急事態
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/19 09:39:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/17 23:53:01