王都第七街区 謎の怪力事件簿──時限発芽

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/22 22:00
完成日
2018/11/29 19:59

みんなの思い出

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オープニング

 先に行われた再復興会議を経て、王都第七街区『ドゥブレー地区』は再び復興への道を進み始めた。
 とは言え、今の荒れた状況がすぐに改善されていくというものでもなく。フットワークの軽い王都第五・第六街区の新興商人たちに出遅れた第二・第三街区の老舗や大店の商人たちも、これを機会に地区の市場へ進出しようと王都の復興担当官に働きかけ、その鼻薬を嗅がされた担当官がゴネたり捻じ込もうとしてくる案件も多々あって…… 現場で復興の指揮を執る『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーは頭の痛い日々を送っている。

 最近、地区で頻発している『怪力事件』も、そんな『頭の痛い』事案の一つだった。
 切っ掛けはよくある酔っ払い同士の喧嘩だった。この辺りじゃ日常茶飯事の、飲み屋横丁の殴り合い。偶々通りかかったドゥブレー一家の警邏隊が仲裁に入った時にそれは起こった。
「まあまあ、おっちゃん。そんなに興奮しないで……」
「うるしぇえい! 俺にしゃわんなぁ……!」
 齢70は超えていると思しき酔っ払いの老人が、間に入った警邏の若者を力任せに振り払おうとして…… 比喩でも冗談でもなく、通りの端まで『吹っ飛ばした』のだ。
 ゴミ置き場まで吹っ飛ばされた警邏の若者は驚いた。もう一人の警邏と喧嘩相手も目を丸くした。
 吹っ飛ばした当の本人も驚愕していた。むしろ、その場にいる誰よりも。
「え……な……いや……え……???」
 すっかり酔いも醒めた様子で、信じられないものを見るように自分の手を見下ろすおっちゃん。
 とりあえず、「事務所の方で事情を聞かせてもらう」こととなったおっちゃんは、『取調室』でガタガタ震えながら答えた。
「俺は何も知らねぇ……! なんでこんな事になったのか、思い当る節なんて……ッ!」
 いや、心当たりはあるようだった。正確には、思い出したと言うべきか。
 供述の最中、何かにハッと気付いた様子を見せた老人は、サアッとその顔面を蒼白にした。そして「何でもない…… 何でもないんだ!」と叫びながら暴れ出し…… それを取り押さえるのに5人以上の人数が必要だった。

 それ以降、同じような怪力を発揮して捕まる者たちが増えて来た。
 それは最初の事件と同じく喧嘩の最中に思わず相手を怪我させてしまったり、他人の器物を損壊させてしまったケースが殆どだった。
「まったく…… ただでさえ色々と忙しいってぇのに……」
 執務室のデスクで書類の束に埋もれながら愚痴を零すドニに、報告に来た腹心のアンドルーは苦笑いでそれに応じた。
「お偉いさん方との折衝、本当にお疲れ様でやす。しかし、ドニの旦那にしか仕切れねぇ仕事ですから」
 そして、表情を切り替え、真剣な表情で告げる。
「あり得ねぇ怪力なんて、普通だったら絶対に『ありえねぇ』ことなんです」
「つまり、そこには何者かの意志が介在している」

 捜査を進めると、事件にこそなっていなかったものの、これまでにも似たような事案が何度も起きていたことが分かった。中には、誰も傷つけず、何も壊さず、日常生活の中に紛れて力を発揮していたケースもあった。
「第七城壁建設現場の作業員にも『怪力発揮者』がいました。急に重たい資材を軽々と運べるようになったとかで」
「『怪力発揮者』たちの間に繋がりはありやせんでした。強いて上げれば、殆どが『出稼ぎ組』ってことくらいですが……」
 『出稼ぎ組』── 元々、第七街区の他の地区に住んでいた者たちであるが、ドゥブレー地区の好景気に惹かれ、仕事を求めてこちらへ移り住んで来た者たちを指す言葉。第七街区の各地から多くの人間がこの地区に働きに来ていたが、テスカ教団とベリト──メフィストの王都襲撃事件以降は、その際に大きな被害が出た第七街区北西部出身者が最が多い。
「メフィストの王都襲撃…… メフィスト…… 歪虚、か……」
 ドニの言葉に、アンドルーを始めその場にいる全員の表情が緊張した。
「つまり、今回の怪力事件には歪虚が関わっていると?」
「分からん。メフィストが王都を襲撃してからかなり時間が経っているし、今頃何かが、ってえのも随分と悠長な話だ。話に聞くメフィストのやり方とも毛色が違う。何だ、『日々の仕事に役立つ歪虚の力』って……」
 ドニたちの苦笑は、しかし、慌てた様子で飛び込んで来た部下の報告にかき消された。
 謎の怪力による殺人事件が発生したのだ。

「そ、そいつが悪いんだ! 俺の家に押し入って来て、家族に刃を向けたから……!」
 事件現場は、第六城壁戦の被害の少なかった住宅地。その内の一軒に強盗が押し入り(残念なことにこの手の事件もまだまだ多い……)、それを家の主が返り討ちにした。
「だから殴り返した…… そうしただけだ! そうした……ひ、ひひ、ど……どうしちまったんだ、俺の身体……!」
 被害者の殴られた箇所は……原型を留めていなかった。怯える家主の妻と子供── 夫であり父である男の身体から、何か昏い陽炎の様なものが立ち上っていた。


 それから数日としない内に、ドゥブレー一家の事務所の地下牢は満杯になった。
 最初の頃、計犯罪者として捕らえられた者たちは、しかし、何故かいつまで経っても解放されず……そうこうしている内に後から入って来た者たちに、シャバの出来事──エスカレートしていく怪力事件の話を聞かされ、我が身にもたらされた得体の知れない力に恐怖した。
「違う。俺たちは選ばれたんだ」
 そんな牢の人間たちに、新しく入って来た男が断言した。
「これは選ばれし者の力だ。思い出してみろよ? 俺たちを捕らえるのに何人の警邏を必要とした? この力があればいったいどれだけのことが出来ると思う?」
 その男の言葉に『若者』が反応した。大勢が詰め込まれた牢屋の中で、誰とも蔓まず、誰とも話さず、牢の隅で蹲っていたような青年だった。
「……選ばれた、者の、力……?」
 青年は身を起こし、己の手をジッと見つめた。
「力…… 力か…… そう、昔、あの時、『あの男』も言っていた…… 『力が欲しいか』と── そうか。あの『力』とは、今、この時の為に……!」
 青年はおもむろに立ち上がると、座り込んだ人々の間を抜けて牢の扉の前まで進んだ。そして、固唾を飲んで……或いは、呆気に取られて見守る人々の前で深呼吸をすると、力…… 力…… と呟きながら集中し…… その身体からユラユラと陽炎を、そして、『闇色のオーラ』を噴出させると牢の鉄格子を掴み、飴細工の様にそれを引き千切った。
 牢屋は騒然とした。恐れ、神に祈る者。興奮し、後に続く者──
「お前、いったい何をした……? いや、何をするつもりだ?」
 新入りの男に訊ねられ、青年は振り返って言った。
「俺には金が要るんだ…… 纏まった額の大金が」

リプレイ本文

「怪力事件……ですか?」
 脱走直後── 深夜未明にもかかわらず、ドニからの急な参集に応じて事務所に集まったサクラ・エルフリード(ka2598)は、状況の説明を受けた際、反射的に友人に目をやった。
「シレークスさん、まさか……」
「わ、わたくしじゃねーですよ!?」
 その視線に慌てて首を振るシレークス(ka0752)。彼女は『剛力発現』を得意としている。
 ……冗談です、と答えて、思考を進める。──しかし、いったい何が原因なのか。『庭師』の様な輩が他にも存在しているというのか。
「『庭師』?」
 訊ねたドニに、サクラは以前にダフィールド侯爵領で起きた、似たようなケースについて説明した。その歪虚が『植え付け』ていたのは『黒い種子』── 使い手が望む時に『力』を与え、代償として歪虚化が進むという──
「確かに、似ているな……」
「でも、その歪虚は討伐しましたし、あの様な存在がゴロゴロいるというのも……」
 終わらないそのやり取りを、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が止めた。
「真相究明は後にして、今は被害が広がらないようにするべきでしょう。……まぁ、誰がどう見ても人ならざる力ですが」
「そんな力を持った人たちが逃げ出したなんて…… 放っておけない! はぐれハンター純情派、出動だよ!」
 とは言え、闇雲に探しに行っても仕方がない。時音 ざくろ(ka1250)は「まずは聞き込みだ!」と先頭に立って地下牢へ向かった。
「そう言えば、扇動に乗らずに牢に残った者たちがいましたっけ……」
 続いて階段に向かいながら、シレークスはアンドルーたちに声を掛け、脱獄犯たちについて分かっている事を纏めておくよう頼んだ。
「さあ、野郎ども! キリキリ動きやがるです!」

 月明りも差し込まないような地下空間に松明の炎が揺れて── 破壊されて開きっ放しとなった牢の中に、十人近い男たちがいた。
 彼らはてんでバラバラに壁際に座り込んでいた。そして、何かに怯える様な表情でこちらを見返していた。
「まずは確認させてください。今でも『力』があるかどうか……」
「嫌だ。アレはまっとうなもんじゃねぇ……!」
 アデリシアの頼みを男たちは拒絶した。彼らは自分に宿った力を悪魔のものだと信じていた。
 シレークスは慈愛の表情を浮かべてそっと彼らに歩み寄った。そして、落ちていた石を掴むと、それを握力だけで砕いて見せた。
「……ッ!」
「似たような力だったら私にだって使えます。怯えなくても良いのです」
 シレークスの祈りに応え、牢に残っていた男たちは脱獄犯らが脱走した時の様子をポツポツと語り始めた。
「……おいおい、『闇色のオーラ』と来やがったぞ。そいつァつまるところ『覚醒』したのか? それとも歪虚と契約しちまったのか?」
「揃いもそろって覚醒者、或いは契約者にでもなっちまったと……? なんだか訳わかんねえが、エクラ的にはあり得ねえ話だぜ」
 話を聞いて首をひねるJ・D(ka3351)とクルス(ka3922)。ルベーノ・バルバライン(ka6752)もまた「リアルブルーで起きたイクシードアプリ拡散の模倣かもしれんな」と深刻な表情をする。
「色々気になる事はあるけど…… あたしはクラークさんの調査をメインにするよ! だって、すごい怪しいんだもん!」
 コクコク相槌を打ちつつ、ピーン! と来たような表情で、シアーシャ(ka2507)。ざくろもそれに同意する。
「うん。僕も同感。自分たちは選ばれた人間とか言って煽っていたようだけど、それが目的で捕まった節があるもん」
「そう! 捕まった理由って窃盗罪でしょ? 怪力関係ないし! クラークさん自身に怪力があるのかも怪しい(怪力だけに)」
「でしょう? ……って訳で、描いてみたんだけど」
 ざくろはそう言うと皆に一枚の紙を見せた。それは男たちから話を聞いて作成したクラークの人相書きだった。
「……扇動の目的は何なのかな? テスカ教団と関係あるのかな……? それとも単に扇動して来いって誰かにお金で雇われた……?」
「その辺りの事は実際に会ってナシを聞かねえことには考えても埒が明かねえさ。ジェイミーとやらが纏まった金を欲しがってたって話だから、発現した力を使ってまたぞろ強盗の類をやらかすかも知れねえ。うめぇこと先回りしてとっ捕まえてえところだな」
 J・Dの言葉にルベーノとざくろがすぐに反応した。
「……ノーサム商会に誰か人をやった方が良いかもしれんな」
「商店街にも新興商人が戻って来たらしいし、この近辺も要チェックかも」
 クルスも頷いた。急に力を得た人間のすることとして、自分が敵わなかった──自分よりずっと強かった相手にその力を向ける事は十分にあり得る話だ。……ああ、俺にも似た経験がある。誰しも、イキがり始めってのは、そういうもんじゃねえか?
「ドニ。地区の商家へ警戒を促す通達を出してくれ。ぶっちゃけ金なんて取られてもいいから逃げることを優先するように、と。……相手はただの賊じゃねぇ。命を取られるよりはマシってもんだろ」
「……一応、勧告はしてみるけどな」
 ドニは渋い顔でクルスに答えた。
「あいつらは商人だ。自分の命と損失利益を平気で秤にかけられる連中だ。あいつらの返事を予告しようか? 『それを何とかするのが君の仕事だ。ドニ・ドゥブレー』 ……ああ、確かに、再復興会議で無理を言って地区に留まって貰ったのは俺だがな。畜生」
 最後に、アデリシアは牢に残った男たちに『ピュリフィケーション』を使ってみた。
 男たちに発現してもらった怪力は、それで一時的に弱くなった。……侯爵領での事件の時と同様に。


 早朝。捜索が始まる。アデリシアとざくろ、サクラとシレークス、シアーシャの5人が脱獄班たちの追跡調査。クルスは目抜き通り商店街の捜査と『警護』に専従。J・Dは捜査本部(事務所)に残り、捜査員たちから上がって来る情報を取り纏め、俯瞰的な立場で捜査を統括する。
「ざくろより本部。これより冒け……ごほん、聞き込みを開始。目撃情報を集めて脱走犯たちの足取りを追うよ!」
 インカムでJ・Dに報告しながら、ざくろは機械化怪鳥「Lo+」を空へと飛ばした。『ファミリアズアイ』で共有した視覚を確認し、空からいつでもドローン的に周囲を見渡せるようにする。
「これでよし、っと。じゃあ、行こうか、皆。捜査の基本は脚だって、昔テレビで言ってたもん」
「脚ですか……ひとつ派手に暴れてくれれば、見つけるのも容易になるのですが」
 ポツリと物騒なことを呟きながら、アデリシアも捜査を開始した。まずは事務所の周辺を聞き込み、逃走した方角を大まかに割り出そうとする。
 脱走時刻が夜中とあって目撃情報は少なかったが、それでも騒々しい物音に目を覚ました住民がいた。そうしてハンターたちから上げられて来る情報を、本部のJ・Dはその情報の種別ごとに色を変えたピンを壁に掛けた地図に刺していく……

 その頃、ルベーノは一人、ジョアニス教会を訪れていた。
「俺はシスターマリアンヌの力を借りに行こうと思う。……道に迷った者がいるようだからな」
 そうドニに告げて事務所を出た彼は常と変わらぬ表情・態度で中へと入り。「あ、ルベーノだー♪」と気付いて寄って来た子供たち全員をジャイアントスイングで遊んでやって「後は仕事が終わってからな!」とマリアンヌの元へと向かう。
「怪力事件のことは知っているか? 事件を起こして捕まった者がドニの事務所にいる。力を貸してくれ」
 道すがら、ルベーノは真剣な表情でマリアンヌに事情を説明した。
「騒動が起こり、隙が出来た──歪虚が人々に接触する下地がな。……今後、事件がどう転ぶか分からん。あんたに護衛もつけねばならんし、子供たちにも怪我はさせられん。騒動が収束する短い間だけでいい。悪いがつきあってもらえないか」
「なるほど、力を貸してほしいというのは口実ですね。納得しました。……私は非覚醒者。解呪の力も持ちませんし……」
「? 悪しき力に手を出してしまい、心の救済が必要な者たちがいる。道に迷った者を導くのに覚醒者も何もなかろう?」

「クラークさんが供述した住所と勤め先は出鱈目だったよ。それどころか、彼を見たことがある人──一緒に働いたとか、買い物に来たとか──これまで地区に住んでいた形跡がまるで無いんだよ!」
 クラークの身元調査に出ていたシアーシャが、J・Dにそう報告する。
 彼女はざくろの人相書きを手に、クラークの出身や仕事場、交友関係、普段の性格や言動、財務調査などを調査していたのだが、予想以上に何も出て来なかった。真っ白とさえ言っていい。
「多分、ドゥブレー地区の人じゃないよ。何かの目的を持って、他所から入って来た……!」

 捜査は続く。アデリシアは事務所を中心に渦を描くように、酒場やパン屋等の飲食店、炊き出し現場などの食べものを扱う場所を中心に虱潰しに目撃情報を集めて行った。シアーシャもまた、地方出身難民や日雇い復興作業員等が多く集まる簡易宿泊所まで出向いて行って(ついでに若い娘と見て手を出して来た不埒者をぶん投げたりしながら)聞き込みを掛けたりした。
 その過程で、幾人かの脱走犯が見つかった。とりあえず脱獄はしたものの、クラークら『過激派』についていけずに別れ、やけになって酒場で呑んだくれてたり、逃走資金を得る為に簡易宿泊所に隠れ潜んだ連中だった。
 彼らの供述によれば、クラークの扇動に乗った一派は怪力を使い、どこぞの商家を襲って大金をせしめる計画であるという。……ハンターたちの予測通りだ。
「ふん。やっぱりかよ。キナ臭ェ……」 
 J・Dはドニに銀行や商店など「纏まった金のある」心当たりを訊いて確認すると、近くにいるハンターたちにそれぞれ調査を依頼した。
「どうやら派手に暴れてくれるみたいね」
「それは……」
 呟くアデリシアに、苦笑するざくろ。サクラとシレークスもまた「あーもう、面倒くせぇですねぇっ!」などと叫びながら(←地区の反対側にいた)夕陽を背に駆け足で現場に向かう。
 J・Dは動かない。その理由をドニの部下に問われて、彼はニヤリと笑って肩を竦めた。
「猟犬は放たれた、ってヤツだ。俺の仕事は終わりだよ。……まぁ、万が一に備えて遊撃の戦力は残しておかねぇとならねぇからな。これはシレークスも言ってたことだが、商家襲撃が『陽動』ってことも十分あり得る」

 夜── 日が暮れ、すっかり人の気配がなくなった目抜き通り商店街に、肌に墨を塗り、全身黒尽くめとなった脱獄班たちが闇に紛れる様に忍び寄った。
 篝火を焚き、商店街の警戒に当たっていた警備員たち(商人たちに雇われていた)は瞬く間に制圧された。
「へっ。他愛も無ぇ。この力さえありゃあ……」
「力さえ有れば、何だ……? 暴力はダメだって、ガキの頃、殴られながら教わらなかったのか?」
 さり気に自分の過去を織り交ぜつつ、建物の陰から彼らの前に姿を現したのは、かの地で警戒に当たっていたクルスだった。
 雑魚い誰何の声を上げつつ、取り囲む脱獄犯たち。クルスはざくろが描いた似顔絵をチラと見ると、「確認した。……奴だ」とJ・Dに連絡しつつ、初手でいきなり『ジャッジメント』をクラークの足下の影目掛けて投射した。
「なんだ、これ、動け……」
「シアーシャのオーダーだ。何があってもお前だけは逃がすな、ってな」
「野郎……!」
 襲い掛かって来る男たち。だが、クルスはその場に留まらず、包囲される前に先んじて敵をぶん殴った。盾で正面の一人を弾き飛ばしつつ、すぐに地を蹴り、方向を変えて、背後を取った気になっていた男を足払いで地へ転がす。
「なんだ、こいつ、強ぇぞ……!」
「囲め、囲め!」
 だが、男たちはそれを果たせなかった。背後から黄金色のオーラをヒュンヒュン噴き出すシレークスと、サクラが自分たちの警備担当区域から増援にやって来たからだ。
「……そんなに力が有り余ってるなら、存分に扱き使ってやるぞ、ゴラァ!」
「どちらの筋力が上か、試してみましょうか……『ジャッジメント』!(←」
 錬筋術士の力を見せると言いながら、その前に先制の光の杭を投げつけるサクラ。卑怯? いえ、いいのです。その後、『マッスルトーチ』でポーズを決めて筋肉の力は思う存分に見せつけましたし。
 その光り輝くマッスルポーズに目を奪われた男たちの只中へ突っ込んでいくシレークス。彼女はまさに暴風だった。彼ら程度の『怪力』ではシレークスの『剛力』を止められない。
 元々烏合の衆であった男たちはすぐにバラバラになり、逃げ出そうとした。だが、そんな彼らの針路上に、脚部からマテリアルを噴出しながら斜め45度の急角度で降り落ちて来たざくろの飛び蹴りが突き刺さり…… 舞い上がる砂塵の中をざくろが立ち上がる。
「逃がさないよ。ざくろ、こう見えて力にはちょっと自信あるんだ……って、あら?」
 男たちは回れ右をした。もう訳の分からぬ者(ハンター)たちに係わるのはゴメンだった。なぜ自分はこんなことを、と目に涙を浮かべながら小路を逃げる。
 だが、ざくろの目──空中を跳ぶ機械鳥の目から逃れることはできなかった。すぐに無線で指示が飛び…… 闇の中から飛んできた見えざる鞭が篝火の光を反射して光の軌跡を描き。直後、先頭の一人に絡まり、拘束する。
「な、なんだ!?」
「隠れ潜んでいないのならば、私たちの敵ではないです」
 パシッとパリィンググローブを打ち鳴らしつつ、闇の中から戦装束のアデリシアが現れて…… 右往左往する男たちに光の杭が放たれた。


「む、出遅れたか」
 ルベーノが事務所から駆けつけた時、戦闘は既に終わっていた。
 脱獄犯たちは全て捕らえられ、聖導士たちの手によって分け隔てなく回復が行われた。
 ……ただ一人、ジェイミーだけがいなかった。
「あいつとは襲撃前に別れた。『この力があれば、そもそも大金なんて……』とか言って……」

「クラークが吐きました! 金で雇われ、怪力事件を起こした連中を唆して新興商人たちの店を襲わせるよう指示された、と!」
 翌日。取り調べを担当した部下からの報告に、ドニとJ・D、クルスは顔を見合わせた。
 大方、雇い主は王都の『老舗の大店】のどこかだろう。直接繋がるような証拠は残していないだろうが……

「ジェイミーの……住所、ですか?」
 ドニの部下の言葉に、サクラは足を止め、小首を傾げた。
「はい。以前、うちに相談に訪れたことがあるのを思い出して……シレークスさんに纏めておくよう言われていた資料がこれです」
 住所:新領──旧ノエル領。
 相談内容:悪徳高利貸しに家族が金を借りてしまった。なんとかできないか──

 サクラはアデリシア、シレークスと共にその住所を訪れた。
 そこには……壮年の男女二人の遺体が血まみれで転がっていた。

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参加者一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/21 17:32:12
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サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/11/22 19:05:59