ゲスト
(ka0000)
味覚狩りには御用心
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/28 12:00
- 完成日
- 2018/12/04 02:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ボランティア行楽日和
「良いボランティアの話があるんですが」
ある日のハンターオフィス。亜麻色の髪のアルトゥーロ司祭が朗らかな笑顔でやって来た。ハンターオフィスの青年職員は、届いた備品の文房具を片付けながら、ぽかんとして彼の顔を見た。
「まだやるの?」
「えっ」
アルトゥーロは心底驚いた様な顔で彼を見る。そして悲しげな顔になった。
「お嫌でしたか……エクラの信徒たるあなたが善行を積むことを、私は一司祭として非常に嬉しく感じ、微力ながらその支えになれればと……」
「僕が悪かった。それで? どんなボランティアを見付けてきてくれたの?」
「秋の味覚狩りです」
「楽しそう」
「そうでしょう。できるだけ楽しみがあるものをちゃんと選んでるんですよ」
「優しいねぇ」
それを聞きながら中年職員が肩を竦めた。
「当然のことです。それでですね、参加者さんを呼び集めたりするのを主に手伝ってほしいのです」
「ああ、味覚狩りだから方々行っちゃうんだね」
「そうなんですよ。皆さん張り切っているので」
司祭はにっこりと笑った。
「あなたが受けて下さって良かった。ヴィルジーリオも来ます」
「ハンターが二人も行くの?」
「ハンターというか、司祭ですね」
「ふぅん」
信心深い人たちが参加するのだろうか。それでエクラ教徒の自分も呼ばれたんだろう。彼はそう思っていた。
●狼の遠吠え
「Cさんや」
「あのね、じいさんや、みたいに言わないでくれます? どうしたんですか?」
最初自己紹介の段階で「C.J.って呼んでください」と言ったのだが、蓋を開ければこれである。高齢者と子どもの参加者が多く、この年齢の男は自分だけだった。子どもたちからはおじさんと呼ばれ、そのお母様方からはスタッフさんと呼ばれている。
「狼の遠吠えが聞こえたんじゃ」
「えっ、それは怖いですね。どっちですか?」
「あっち」
と、一人の老婦人が山の方を指した。あの山って狼がいたのか。
「司祭さまに言ってきますね」
そう言って、職員は両腕に子どもたちをぶら下げたヴィルジーリオの所に行った。
「覚醒していればこれくらいの人数、どうと言うこともありません。いくらでもぶら下がりなさい」
そう言ってぐるぐる回りながら人間遊具の様相を呈している。無表情で。
「ヴィルジーリオ!」
「おや、あなたでしたか。どうされましたか。ちょっと急に止まれないので回りながらでよろしいですか」
「おばあちゃんの一人が、狼の遠吠え聞いたって言うんだよ」
「狼ですか……この山に狼が住んでいるという話は聞きませんので……よそから来たか、あるいは歪虚もしれませんね」
徐々に減速しながらヴィルジーリオは言った。
「アルトゥーロに報告を。私は全員を集めます。さ、降りるんですよ。続きは帰ってからです」
「はぁい!」
●Cさんは麓へ人集めに
「Cさんや」
アルトゥーロに報告を済ませて、参加者を集めていると、一人の老男性が声を掛けた。
「だからじいさんや、みたいに言わないでください……どうしましたか、おじいちゃん」
「ゴリラがおったんじゃ」
「こんな山にゴリラがいるんですか……? 見間違いじゃないんですか?」
「そうかのう……確かにこう」
老男性はそう言って、胸を張ると、拳でドコドコと叩きはじめた。そしてむせた。
「げほっげほっ! こんな感じでドラミングしてたんじゃ……あれはゴリラの動きだったと思うがのお……」
「狼に続いてゴリラかよ……」
「それと、お隣のアラセリばあさんがまだ戻っていないようじゃ」
「ははあ。じゃあちょっと僕が見てきますね。おじいちゃんは司祭さまたちと一緒にいてください」
●Cさんはおばあさんを探しに
アラセリばあさんはすぐに見つかった。木に隠れて、何かをじっと見ている。
「アラセリさん、どうしましたか? みんな待ってますよ」
「Cさんや」
「だから……はい」
「あれは何かね……ゴリラに見えるし吠えると狼なんじゃが」
「は?」
職員はひょい、とアラセリばあさんの後ろから顔を出した。そして見た。
「ワオーン!」
その声はまさしく狼の遠吠え。だが、その見た目は完全にゴリラである。まるで自分の存在を誇示するかのようにドラミングをしているではないか。
「歪虚じゃん!」
彼は叫んだ。あんな自然の摂理のごった煮をして逆に摂理から外れたもの、歪虚で無ければなんだと言うのだ!
「アラセリさん! 早くここから離れましょう! 危ないですよ!」
「何を言うとるかね。吠えてるんだから危ないに決まってるじゃろ」
「じゃあとっとと逃げとけよな!?」
●Cさんはゴリラを発見したのでした
「狼とゴリラですか……」
報告を受けたアルトゥーロは、深刻そうな顔で思案した。
「……どちらも賢い生き物ですね」
「豪腕、敏捷、知的と三拍子揃ってますね。厄介ですよ」
無表情から眉間にわずかにしわを寄せたヴィルジーリオが呟いた。
「非常に危険です」
「そうだよ」
「狼の遠吠えの時点でオフィスに連絡を入れました。山狩りをしてくれるでしょう。我々は速やかに避難を……」
司祭二人が話している間に、職員は周囲を警戒した。いつの間にかすぐ傍に……なんて洒落にならない。そして彼は息を呑んだ。
「……二人とも……」
「……いましたか」
二人の司祭が各々武器を取ったその時だった。
「きゃーっ!」
子どもの悲鳴が後ろから聞こえた。恐らく、司祭たちが戻って来ないから見に来たのだ。軽い足音がする。走って逃げたらしい。そしてゴリラはそれを見た。
「来るぞ!」
職員は叫んだ。歪虚が一目散にこちらに向かって走ってくる。
「下がって!」
ヴィルジーリオが前に出た。マジックアローを撃ち込むが、ゴリラはそれを軽く回避する。そして反撃に出た。職員をかばって前に立った赤毛の司祭に、その殴打が入る。その一撃で、ヴィルジーリオが吹き飛んだ。
「嘘でしょ!?」
「どきなさい!」
後ろからアルトゥーロの声がして、職員は咄嗟に横に避けた。どこに隠し持っていたのか、アルトゥーロはメイスを思いっきり振りかぶっている。
「せいっ!」
重たい音がした。ゴリラは狼の様に唸ると、すぐに背中を向けて去って行った。ヴィルジーリオはむせて吐いている。
「ヴィルジーリオ! しっかりして!」
山の中に職員の声が響き渡った。
●オフィスにて
「あいつ呪われてるんじゃないのか?」
中年職員は、人の座っていないデスクを横目で見てからため息を吐いた。
「山の麓で秋の味覚狩りをしていたらしいんだけど、自然に湧いたのか山の動物が雑魔化でもしたのか、見た目がゴリラだけど、狼の声で吠える、なんて奴が出たそうだよ。狼はともかくゴリラはどこから来たんだろうね」
彼はやれやれと首を横に振る。
「それと、味覚狩りに同行していた司祭の一人が大怪我をしたらしい。覚醒者で、なおかつ他の覚醒者から回復を掛けてもらったようだが、それくらいの相手と言うことだ。気をつけて行ってきてくれ」
「良いボランティアの話があるんですが」
ある日のハンターオフィス。亜麻色の髪のアルトゥーロ司祭が朗らかな笑顔でやって来た。ハンターオフィスの青年職員は、届いた備品の文房具を片付けながら、ぽかんとして彼の顔を見た。
「まだやるの?」
「えっ」
アルトゥーロは心底驚いた様な顔で彼を見る。そして悲しげな顔になった。
「お嫌でしたか……エクラの信徒たるあなたが善行を積むことを、私は一司祭として非常に嬉しく感じ、微力ながらその支えになれればと……」
「僕が悪かった。それで? どんなボランティアを見付けてきてくれたの?」
「秋の味覚狩りです」
「楽しそう」
「そうでしょう。できるだけ楽しみがあるものをちゃんと選んでるんですよ」
「優しいねぇ」
それを聞きながら中年職員が肩を竦めた。
「当然のことです。それでですね、参加者さんを呼び集めたりするのを主に手伝ってほしいのです」
「ああ、味覚狩りだから方々行っちゃうんだね」
「そうなんですよ。皆さん張り切っているので」
司祭はにっこりと笑った。
「あなたが受けて下さって良かった。ヴィルジーリオも来ます」
「ハンターが二人も行くの?」
「ハンターというか、司祭ですね」
「ふぅん」
信心深い人たちが参加するのだろうか。それでエクラ教徒の自分も呼ばれたんだろう。彼はそう思っていた。
●狼の遠吠え
「Cさんや」
「あのね、じいさんや、みたいに言わないでくれます? どうしたんですか?」
最初自己紹介の段階で「C.J.って呼んでください」と言ったのだが、蓋を開ければこれである。高齢者と子どもの参加者が多く、この年齢の男は自分だけだった。子どもたちからはおじさんと呼ばれ、そのお母様方からはスタッフさんと呼ばれている。
「狼の遠吠えが聞こえたんじゃ」
「えっ、それは怖いですね。どっちですか?」
「あっち」
と、一人の老婦人が山の方を指した。あの山って狼がいたのか。
「司祭さまに言ってきますね」
そう言って、職員は両腕に子どもたちをぶら下げたヴィルジーリオの所に行った。
「覚醒していればこれくらいの人数、どうと言うこともありません。いくらでもぶら下がりなさい」
そう言ってぐるぐる回りながら人間遊具の様相を呈している。無表情で。
「ヴィルジーリオ!」
「おや、あなたでしたか。どうされましたか。ちょっと急に止まれないので回りながらでよろしいですか」
「おばあちゃんの一人が、狼の遠吠え聞いたって言うんだよ」
「狼ですか……この山に狼が住んでいるという話は聞きませんので……よそから来たか、あるいは歪虚もしれませんね」
徐々に減速しながらヴィルジーリオは言った。
「アルトゥーロに報告を。私は全員を集めます。さ、降りるんですよ。続きは帰ってからです」
「はぁい!」
●Cさんは麓へ人集めに
「Cさんや」
アルトゥーロに報告を済ませて、参加者を集めていると、一人の老男性が声を掛けた。
「だからじいさんや、みたいに言わないでください……どうしましたか、おじいちゃん」
「ゴリラがおったんじゃ」
「こんな山にゴリラがいるんですか……? 見間違いじゃないんですか?」
「そうかのう……確かにこう」
老男性はそう言って、胸を張ると、拳でドコドコと叩きはじめた。そしてむせた。
「げほっげほっ! こんな感じでドラミングしてたんじゃ……あれはゴリラの動きだったと思うがのお……」
「狼に続いてゴリラかよ……」
「それと、お隣のアラセリばあさんがまだ戻っていないようじゃ」
「ははあ。じゃあちょっと僕が見てきますね。おじいちゃんは司祭さまたちと一緒にいてください」
●Cさんはおばあさんを探しに
アラセリばあさんはすぐに見つかった。木に隠れて、何かをじっと見ている。
「アラセリさん、どうしましたか? みんな待ってますよ」
「Cさんや」
「だから……はい」
「あれは何かね……ゴリラに見えるし吠えると狼なんじゃが」
「は?」
職員はひょい、とアラセリばあさんの後ろから顔を出した。そして見た。
「ワオーン!」
その声はまさしく狼の遠吠え。だが、その見た目は完全にゴリラである。まるで自分の存在を誇示するかのようにドラミングをしているではないか。
「歪虚じゃん!」
彼は叫んだ。あんな自然の摂理のごった煮をして逆に摂理から外れたもの、歪虚で無ければなんだと言うのだ!
「アラセリさん! 早くここから離れましょう! 危ないですよ!」
「何を言うとるかね。吠えてるんだから危ないに決まってるじゃろ」
「じゃあとっとと逃げとけよな!?」
●Cさんはゴリラを発見したのでした
「狼とゴリラですか……」
報告を受けたアルトゥーロは、深刻そうな顔で思案した。
「……どちらも賢い生き物ですね」
「豪腕、敏捷、知的と三拍子揃ってますね。厄介ですよ」
無表情から眉間にわずかにしわを寄せたヴィルジーリオが呟いた。
「非常に危険です」
「そうだよ」
「狼の遠吠えの時点でオフィスに連絡を入れました。山狩りをしてくれるでしょう。我々は速やかに避難を……」
司祭二人が話している間に、職員は周囲を警戒した。いつの間にかすぐ傍に……なんて洒落にならない。そして彼は息を呑んだ。
「……二人とも……」
「……いましたか」
二人の司祭が各々武器を取ったその時だった。
「きゃーっ!」
子どもの悲鳴が後ろから聞こえた。恐らく、司祭たちが戻って来ないから見に来たのだ。軽い足音がする。走って逃げたらしい。そしてゴリラはそれを見た。
「来るぞ!」
職員は叫んだ。歪虚が一目散にこちらに向かって走ってくる。
「下がって!」
ヴィルジーリオが前に出た。マジックアローを撃ち込むが、ゴリラはそれを軽く回避する。そして反撃に出た。職員をかばって前に立った赤毛の司祭に、その殴打が入る。その一撃で、ヴィルジーリオが吹き飛んだ。
「嘘でしょ!?」
「どきなさい!」
後ろからアルトゥーロの声がして、職員は咄嗟に横に避けた。どこに隠し持っていたのか、アルトゥーロはメイスを思いっきり振りかぶっている。
「せいっ!」
重たい音がした。ゴリラは狼の様に唸ると、すぐに背中を向けて去って行った。ヴィルジーリオはむせて吐いている。
「ヴィルジーリオ! しっかりして!」
山の中に職員の声が響き渡った。
●オフィスにて
「あいつ呪われてるんじゃないのか?」
中年職員は、人の座っていないデスクを横目で見てからため息を吐いた。
「山の麓で秋の味覚狩りをしていたらしいんだけど、自然に湧いたのか山の動物が雑魔化でもしたのか、見た目がゴリラだけど、狼の声で吠える、なんて奴が出たそうだよ。狼はともかくゴリラはどこから来たんだろうね」
彼はやれやれと首を横に振る。
「それと、味覚狩りに同行していた司祭の一人が大怪我をしたらしい。覚醒者で、なおかつ他の覚醒者から回復を掛けてもらったようだが、それくらいの相手と言うことだ。気をつけて行ってきてくれ」
リプレイ本文
●折れそうなくらい抱きしめる
夢路 まよい(ka1328)は、ヴィルジーリオの顔を見て違和感を覚えた。何だろう。何かを隠している?
「ヴィルジーリオ、何か隠してない?」
「いいえ、何も」
どうも脇腹辺りをかばっているようにも見えた。話しに聞いた、雑魔に殴られた怪我が癒えないのだろう。少々様子を見た方が良さそうだ。
「リュー・グランフェストだ。よろしくな」
手を挙げて陽気に挨拶をしたのはリュー・グランフェスト(ka2419)。彼は山の方を見ると、
「狼みたいなほえ声を上げるゴリラね。うるさそうだな」
と、至極もっともな事を言う。
「うるさいって言うか、なんか、訳わかんないし正直僕は怖かった……」
C.J.がヴィルジーリオをちらりと見ながら言うと、
「Cさんや、気にする事はない」
レイア・アローネ(ka4082)がぽんとその肩を叩く。
「ヴィルジーリオは務めを果たしただけの事だ。どうしても気になるのなら『ありがとう』と、それだけ伝えればいい」
優しく微笑む。C.J.はレイアまでCさんと呼ぶのがおかしかったらしい。くすりと笑う。
「君までじいさんや、みたいに言うんだから……うん、そうだね……ありがとう」
「なんなの、そんな装備で熊や猪を狩れると思ってるの三人ともそこに直れなのー!」
やわらぎ掛けたC.J.の顔がそれで強ばった。ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
「フル装備で秋の味覚探索は、それはそれで動き辛そうですが……」
サクラ・エルフリード(ka2598)がフォローを入れるが、C.J.の顔つきは険しくなるばかりである。
「川に行きてはガッチン漁で魚を仕留め、山に入りては熊猪鹿狼猿狸、肉を仕留めるまでは村に戻る事能わず! それが秋の味覚との戦いなの常在戦場なの! そんな装備で秋に山に入るとか考えられないの、それでなくても子供を引率する時は狩りじゃなくてもフル装備してきなさいなのー!」
まくし立てるディーナの言葉に、ついにC.J.の目からぼろりと涙が落ちた。
「……うわあああん!」
そのまま振り返って後ろにいたヴィルジーリオへ子どものように抱きついた瞬間、赤毛の司祭が息の止まったような顔をしたのを、ハンターたちは見た。
取り乱してついに泣き出したC.J.は、レイアの付き添いで参加者たちに預けられた。戻って来たレイアは首を横に振る。
「さっきは落ち着いたようなことを言っていたが、ヴィルジーリオの怪我が相当堪えてるぞ」
「うーん、C.J.は覚醒者の素質もないって言ってたからね。戦えないのを気にしてるのかも。ところでヴィルジーリオ。もしかしてゴリラに殴られた時、肋骨にヒビ入ってたりとかした?」
まよいが尋ねると、赤毛の司祭は長いため息を吐いてから、頷いた。
「恐らく……今ので折れるかと思いましたよ。折れそうなほど抱きしめられる日が来るとはね」
彼女は彼の顔を見たときの違和感が何なのか理解した。肋骨のヒビに痛みを感じていたのだ。
「やっぱり隠してたんだ」
「申し訳ない。彼に知られると泣かれそうだったので」
「ヴィルジーリオ、君は彼を連れて先に帰れ。僕が残るよ。すぐ医者にかかるんだ」
アルトゥーロがやや険しい顔で言うと、レイアも頷いた。
「ああ、その方が良いだろう。彼にはヴィルジーリオの付き添い、と言う名目を付けると良い。アルトゥーロ、あなたは参加者の護衛に残ってもらえるだろうか」
「そうします。雑魔はお願いします」
「戦闘に参加するには確かに軽装ですしね……可能なら味覚狩りの続きもお手伝いできますし……」
サクラが控えめに申し添えると、ヴィルジーリオはぐるりとハンターたちを見回してから、頷いた。
「助かります。正直かなり痛くて。アルトゥーロ、申し訳ありません」
「いや、僕の方こそ……怪我をさせてしまって」
「いえ、結局被害がこの程度でしたから、あなたの準備は正しかったのですよ」
「そうだな。お前のお陰で参加者に被害が出なかった。ありがとう」
レイアが言うと、ヴィルジーリオはわずかに目を細めた。本人は微笑んだつもりかもしれないが、傍から見るとあまり変わらない。
「あなたの仰るとおり、務めです。それと彼のフォローありがとうございました。それでは皆さん、申し訳ありませんがあとはよろしくお願いします」
「ああ、後は任せてくれ!」
リューが明るい笑顔で請け負った。
●歪虚ゴリラは筋肉が放つ光の夢を見るか
さて、気を取り直してゴリラ狩り……もといゴリラ退治である。
「も~、美味しいものを集める邪魔をするのは大罪だよ!」
まよいはおかんむりである。
「食べ物の恨みは恐ろしいってことを思い知らせてあげないとね!」
「そうなの。ゴリラは高級食材と聞いたの」
味覚狩り、と言う言葉で既に食欲スイッチが全てONに切り替わっているらしい。ディーナにはもはや全ての生あるもの、植物も、動物も、虫も、調理前の食材なのかもしれなかった。
「へぇ! ゴリラって食べられるんだ。どうやって食べるの?」
まよいが興味深そうに尋ねると、ディーナは胸を張ったまま、
「それは知らないの」
リアルブルーの一部地域では燻製にされていたらしいが、近年では感染症の問題も浮上しているそうである(ハンターオフィス調べ)。
「狼声のゴリラとか謎な生物ですね……いや、歪虚なので生物ではない……のですかね……」
サクラは首を傾げている。
「それなりに知性があるなら筋肉の効果、あるでしょうか……?」
どの程度の知性なのかは、相対すればわかるだろう。
「勝つ事よりも逃がさない事が必要だな」
レイアが油断なくあたりを見渡しながら言う。断続的に吠え声が聞こえているため、一行はその声と、ディーナの犬に匂いを辿らせて探している。匂いサンプルは殴られたヴィルジーリオの上着である。後で返してください。そう言って彼は上着を預けて帰った。寒いより痛いの方が上回っているらしい。
「それにしても思ったよりうるさいな。これは参加者が警戒するのもわかるぜ」
遠吠えに耳を澄ませながら、リューが肩を竦める。ここにいるぜと言わんばかりの吠え声である。
「そろそろ近い様ですね……では……」
サクラはそう言うと、上腕二頭筋をむっきむきに隆起させた。錬筋術師のなせる技である。
肉体・精神共に屈強であると認められたものが放つ、知性に訴えかける生命の光!
「おお……!」
レイアが感嘆の声を上げる。
「すごーい!」
まよいも、目を輝かせて拍手した。
「これがプラトニスの加護ってやつか!」
リューも興味深そうにしている。
「これなら何も怖くないの。サクラさんも一緒にゴリラを袋叩きにしてお料理するの」
ディーナがそう言ったその瞬間だった。
「ワオーン!」
近くで狼の吠え声がした。ディーナの犬が吠える。振り返ったレイアが戦闘態勢に入った。ゴリラだ。
「来たぞ!」
「やはりマッスルトーチの有効な相手なのでしょうか」
筋肉の光を放ちながら、サクラは相手の出方を窺う。ゴリラは彼女をじっと見つめていた。どうやら、マッスルトーチが有効程度の知性はあるらしい。
「お猿さんは賢いっていうもんね。でも、そこから上はどうかな?」
まよいはマッスルトーチに惹かれるゴリラを面白そうに眺めながら、杖を構えた。
「リュー」
レイアが小隊仲間に声を掛ける。作戦はこうだ。二人で守りの構えを取って挟み撃ちにして逃走経路を阻む。その上でなおも逃げるようであれば、まよいやサクラ、ディーナが逃走を防ぐような魔法で釘付けにする。
「一度逃げられているからな。ここで逃がすとまた探すところから始めないといけない」
「そうだな。よし、行くか」
●袋叩き
「ここはもうお前の縄張りじゃあねえぜ?」
マッスルトーチは通じるが、言葉が通じるかと言うと別である。だがリューは挑発的な態度で相対した。戦う者のたしなみである。
反対にはレイアが立った。二人はそれぞれ、守りの構えを発動した。リューはケイオスチューンを用いて、構えで下がりがちな攻撃力を補強する。両者がソウルトーチを用いた。戦略的に逃走ができる歪虚。挟まれて、自分の逃げ道を探そうとするだろう。だが、注視させられていればそれも防げるか、少なくともこちらも対処はしやすいはずだ。
どうやら、リューから目を逸らすことには成功してしまったようだ。しかし、振り返ったゴリラの視線はレイアに釘付けとなる。
「今だ!」
レイアが合図すると、残りの三人が一斉に攻撃に転じた。
「行くよ!」
まよいがアブソリュートゼロを発動した。初撃は回避されたが、立て続けに放たれた二撃目がヒットする。これで、回避と攻撃の精度が大分落ちた筈だ。
「これでも食らえなのー!」
そこにディーナがプルガトリオを放った。ゴリラはその場で文字通り釘付けにされる。
「あとでちゃんと料理してあげるの。安心して食材になると良いの」
ディーナが移動を止めたことで、サクラはそこまで近寄らなくても良くなった。シャドウブリットを放つ。しかし、ゴリラは間一髪でかわしてしまった。
「なんて運の良い……」
ゴリラの反撃が始まる。いや、反撃と言っても、それが狙うのは、自分の注意を惹いたレイアなので、反撃と言ってしまって良いものか。とにかく、ゴリラはレイアに向かってその長い腕を振り上げた。
「甘い!」
しかし、黙って殴られるようなレイアではない。後ろにかばうべき市民もいない。ならば、彼女のやることは身の安全を確保することになる。攻撃に備えていた分、回避もより容易になっていた。もとより、レイアは攻撃をかわす身のこなしに秀でているのだ。
「レイア! 行くぞ!」
「ああ!」
リューは心の刃を解き放つ。己の力を信じる。野生の豪腕であろうと、断ち切る。その信じる気持ちが武器に乗り、刺突一閃が脚を貫いた!
それと同時に、レイアは二刀流で斬りかかっていた。元々は素早いのだろうが、先ほど身動きの精度を下げる魔法を掛けられたゴリラは避けきれずに腕と胴部を斬られる。怒りからか痛みからか、咆吼が轟いた。
「良いぜ! 効いてる!」
サクラとディーナが駆け寄った。サクラはプルガトリオを、ディーナはフォースクラッシュを込めた一撃をそれぞれ放つ。
「逃がしたりはしませんよ……闇の束縛を……プルガトリオ……! 今のうちに叩いてしまいましょう……」
「とりゃー!」
四方を囲まれて、本格的に逃げ場を失ったゴリラは満身創痍である。そう、味覚狩りの最中に出くわせば危険な相手だが、手練れのハンターが五人揃えばこの通り。
「そろそろあるべき場所に還るお時間かな?」
覚醒のために髪やスカートをはためかせたまよいが、青い目を煌めかせた。マテリアルを集中させている。
「ああ! まよい、やってくれ!」
レイアがそれに応じると、まよいはにっこりと笑った。
「よーし行くよ! アブソリュート……ゼロ!」
今度はどちらも回避できなかった。囲んだハンターたちが見守る中で、雑魔は消滅した。
●味覚狩り続行
戻って来たハンターたちを見て、アルトゥーロはほっとしたような顔を見せた。笑顔になって出迎える。
「ああ! お帰りなさい。早かったですね。ご無事で何よりです」
「戻ったぜ。こっちは何もなかったか?」
リューが尋ねると、亜麻色の司祭は頷いた。
「ええ、他の雑魔が寄ってくることもありませんでした。ありがとうございます」
「良かった。ところでアルトゥーロ、最初にも少し話していたが、味覚狩りはどうする?」
「そうですね……怖い思い出にしたくはありませんので、最後にあまり散らばらないで短時間だけ続けたいのですが、請けてくださいますか?」
「はい……構いません。秋の味覚、たくさん採れると良いですね……全部採ってしまってはいけませんが……」
どうやら、サクラは自身も味覚狩りに参加してみたかったらしい。わくわくしているようにも見えた。アルトゥーロはその様子を見て顔を綻ばせる。
「良かった。あなたが楽しそうなので、皆さんもきっと明るい気持ちを取り戻してくれますよ!」
「囲んでほぼその場で倒せたから、あまり麓も傷つけてないしな。戦いの跡を見付けて怖くなるってことはないと思う」
リューが申し添えると、アルトゥーロは頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました。やはりお呼びして良かった。僕が殴りに行っても良かったのですが……やはり戦闘となると不安な装備でしてね」
「そ、そうか……」
アルトゥーロはアルトーロで、地味に殺意が湧いていたらしい。
「ところで、ヴィルジーリオはなかなかタフなのだな。幸い私は回避が可能だったが、それでもあの勢いがある一撃を食らって耐えるとは。魔術師とは思えん」
「普段着だったら駄目だったとは言ってましたから、装備の力も大きいでしょうけどね。では、参加者さんを呼んできます。待機の方もいらっしゃると思うので、そちらは僕が付き添いましょう」
「それが良いと思うよ。不安だと思うし、顔を知ってるアルトゥーロがいた方が良いと思う」
まよいが頷いた。アルトゥーロが参加者を呼びに行く。複数のハンターが付き添ってくれると言うことで、結構な人数が再開を希望した。女性が増えたことに、女児とお母様方とおばあ様方の表情がちょっと緩む。
「女の子がいるとやっぱり華やかねぇ」
「同性がいる方がやっぱり安心するって言うか……あ、司祭様たちを警戒してるわけじゃないですよ?」
「おっきな栗見付けたらおねーちゃんにもわけてあげるね!」
「わけるのは私の方なの。でも気持ちは嬉しいの。ありがとうなの」
引率が増えたことで、賑やかさが増した。アルトゥーロと交替する形になった男手のリューに、男児たちが集まる。
「うおおお! かっこいい剣だぜ!」
「お、わかるか? かっこいいだろー?」
「やっぱり、次から催しをする時は、オフィスで人を募った方が良さそうですね」
警戒もそうだが、賑やかになる。アルトゥーロは空を見上げた。行事を続行するのに何も不安を感じさせない、秋晴れだった。
夢路 まよい(ka1328)は、ヴィルジーリオの顔を見て違和感を覚えた。何だろう。何かを隠している?
「ヴィルジーリオ、何か隠してない?」
「いいえ、何も」
どうも脇腹辺りをかばっているようにも見えた。話しに聞いた、雑魔に殴られた怪我が癒えないのだろう。少々様子を見た方が良さそうだ。
「リュー・グランフェストだ。よろしくな」
手を挙げて陽気に挨拶をしたのはリュー・グランフェスト(ka2419)。彼は山の方を見ると、
「狼みたいなほえ声を上げるゴリラね。うるさそうだな」
と、至極もっともな事を言う。
「うるさいって言うか、なんか、訳わかんないし正直僕は怖かった……」
C.J.がヴィルジーリオをちらりと見ながら言うと、
「Cさんや、気にする事はない」
レイア・アローネ(ka4082)がぽんとその肩を叩く。
「ヴィルジーリオは務めを果たしただけの事だ。どうしても気になるのなら『ありがとう』と、それだけ伝えればいい」
優しく微笑む。C.J.はレイアまでCさんと呼ぶのがおかしかったらしい。くすりと笑う。
「君までじいさんや、みたいに言うんだから……うん、そうだね……ありがとう」
「なんなの、そんな装備で熊や猪を狩れると思ってるの三人ともそこに直れなのー!」
やわらぎ掛けたC.J.の顔がそれで強ばった。ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
「フル装備で秋の味覚探索は、それはそれで動き辛そうですが……」
サクラ・エルフリード(ka2598)がフォローを入れるが、C.J.の顔つきは険しくなるばかりである。
「川に行きてはガッチン漁で魚を仕留め、山に入りては熊猪鹿狼猿狸、肉を仕留めるまでは村に戻る事能わず! それが秋の味覚との戦いなの常在戦場なの! そんな装備で秋に山に入るとか考えられないの、それでなくても子供を引率する時は狩りじゃなくてもフル装備してきなさいなのー!」
まくし立てるディーナの言葉に、ついにC.J.の目からぼろりと涙が落ちた。
「……うわあああん!」
そのまま振り返って後ろにいたヴィルジーリオへ子どものように抱きついた瞬間、赤毛の司祭が息の止まったような顔をしたのを、ハンターたちは見た。
取り乱してついに泣き出したC.J.は、レイアの付き添いで参加者たちに預けられた。戻って来たレイアは首を横に振る。
「さっきは落ち着いたようなことを言っていたが、ヴィルジーリオの怪我が相当堪えてるぞ」
「うーん、C.J.は覚醒者の素質もないって言ってたからね。戦えないのを気にしてるのかも。ところでヴィルジーリオ。もしかしてゴリラに殴られた時、肋骨にヒビ入ってたりとかした?」
まよいが尋ねると、赤毛の司祭は長いため息を吐いてから、頷いた。
「恐らく……今ので折れるかと思いましたよ。折れそうなほど抱きしめられる日が来るとはね」
彼女は彼の顔を見たときの違和感が何なのか理解した。肋骨のヒビに痛みを感じていたのだ。
「やっぱり隠してたんだ」
「申し訳ない。彼に知られると泣かれそうだったので」
「ヴィルジーリオ、君は彼を連れて先に帰れ。僕が残るよ。すぐ医者にかかるんだ」
アルトゥーロがやや険しい顔で言うと、レイアも頷いた。
「ああ、その方が良いだろう。彼にはヴィルジーリオの付き添い、と言う名目を付けると良い。アルトゥーロ、あなたは参加者の護衛に残ってもらえるだろうか」
「そうします。雑魔はお願いします」
「戦闘に参加するには確かに軽装ですしね……可能なら味覚狩りの続きもお手伝いできますし……」
サクラが控えめに申し添えると、ヴィルジーリオはぐるりとハンターたちを見回してから、頷いた。
「助かります。正直かなり痛くて。アルトゥーロ、申し訳ありません」
「いや、僕の方こそ……怪我をさせてしまって」
「いえ、結局被害がこの程度でしたから、あなたの準備は正しかったのですよ」
「そうだな。お前のお陰で参加者に被害が出なかった。ありがとう」
レイアが言うと、ヴィルジーリオはわずかに目を細めた。本人は微笑んだつもりかもしれないが、傍から見るとあまり変わらない。
「あなたの仰るとおり、務めです。それと彼のフォローありがとうございました。それでは皆さん、申し訳ありませんがあとはよろしくお願いします」
「ああ、後は任せてくれ!」
リューが明るい笑顔で請け負った。
●歪虚ゴリラは筋肉が放つ光の夢を見るか
さて、気を取り直してゴリラ狩り……もといゴリラ退治である。
「も~、美味しいものを集める邪魔をするのは大罪だよ!」
まよいはおかんむりである。
「食べ物の恨みは恐ろしいってことを思い知らせてあげないとね!」
「そうなの。ゴリラは高級食材と聞いたの」
味覚狩り、と言う言葉で既に食欲スイッチが全てONに切り替わっているらしい。ディーナにはもはや全ての生あるもの、植物も、動物も、虫も、調理前の食材なのかもしれなかった。
「へぇ! ゴリラって食べられるんだ。どうやって食べるの?」
まよいが興味深そうに尋ねると、ディーナは胸を張ったまま、
「それは知らないの」
リアルブルーの一部地域では燻製にされていたらしいが、近年では感染症の問題も浮上しているそうである(ハンターオフィス調べ)。
「狼声のゴリラとか謎な生物ですね……いや、歪虚なので生物ではない……のですかね……」
サクラは首を傾げている。
「それなりに知性があるなら筋肉の効果、あるでしょうか……?」
どの程度の知性なのかは、相対すればわかるだろう。
「勝つ事よりも逃がさない事が必要だな」
レイアが油断なくあたりを見渡しながら言う。断続的に吠え声が聞こえているため、一行はその声と、ディーナの犬に匂いを辿らせて探している。匂いサンプルは殴られたヴィルジーリオの上着である。後で返してください。そう言って彼は上着を預けて帰った。寒いより痛いの方が上回っているらしい。
「それにしても思ったよりうるさいな。これは参加者が警戒するのもわかるぜ」
遠吠えに耳を澄ませながら、リューが肩を竦める。ここにいるぜと言わんばかりの吠え声である。
「そろそろ近い様ですね……では……」
サクラはそう言うと、上腕二頭筋をむっきむきに隆起させた。錬筋術師のなせる技である。
肉体・精神共に屈強であると認められたものが放つ、知性に訴えかける生命の光!
「おお……!」
レイアが感嘆の声を上げる。
「すごーい!」
まよいも、目を輝かせて拍手した。
「これがプラトニスの加護ってやつか!」
リューも興味深そうにしている。
「これなら何も怖くないの。サクラさんも一緒にゴリラを袋叩きにしてお料理するの」
ディーナがそう言ったその瞬間だった。
「ワオーン!」
近くで狼の吠え声がした。ディーナの犬が吠える。振り返ったレイアが戦闘態勢に入った。ゴリラだ。
「来たぞ!」
「やはりマッスルトーチの有効な相手なのでしょうか」
筋肉の光を放ちながら、サクラは相手の出方を窺う。ゴリラは彼女をじっと見つめていた。どうやら、マッスルトーチが有効程度の知性はあるらしい。
「お猿さんは賢いっていうもんね。でも、そこから上はどうかな?」
まよいはマッスルトーチに惹かれるゴリラを面白そうに眺めながら、杖を構えた。
「リュー」
レイアが小隊仲間に声を掛ける。作戦はこうだ。二人で守りの構えを取って挟み撃ちにして逃走経路を阻む。その上でなおも逃げるようであれば、まよいやサクラ、ディーナが逃走を防ぐような魔法で釘付けにする。
「一度逃げられているからな。ここで逃がすとまた探すところから始めないといけない」
「そうだな。よし、行くか」
●袋叩き
「ここはもうお前の縄張りじゃあねえぜ?」
マッスルトーチは通じるが、言葉が通じるかと言うと別である。だがリューは挑発的な態度で相対した。戦う者のたしなみである。
反対にはレイアが立った。二人はそれぞれ、守りの構えを発動した。リューはケイオスチューンを用いて、構えで下がりがちな攻撃力を補強する。両者がソウルトーチを用いた。戦略的に逃走ができる歪虚。挟まれて、自分の逃げ道を探そうとするだろう。だが、注視させられていればそれも防げるか、少なくともこちらも対処はしやすいはずだ。
どうやら、リューから目を逸らすことには成功してしまったようだ。しかし、振り返ったゴリラの視線はレイアに釘付けとなる。
「今だ!」
レイアが合図すると、残りの三人が一斉に攻撃に転じた。
「行くよ!」
まよいがアブソリュートゼロを発動した。初撃は回避されたが、立て続けに放たれた二撃目がヒットする。これで、回避と攻撃の精度が大分落ちた筈だ。
「これでも食らえなのー!」
そこにディーナがプルガトリオを放った。ゴリラはその場で文字通り釘付けにされる。
「あとでちゃんと料理してあげるの。安心して食材になると良いの」
ディーナが移動を止めたことで、サクラはそこまで近寄らなくても良くなった。シャドウブリットを放つ。しかし、ゴリラは間一髪でかわしてしまった。
「なんて運の良い……」
ゴリラの反撃が始まる。いや、反撃と言っても、それが狙うのは、自分の注意を惹いたレイアなので、反撃と言ってしまって良いものか。とにかく、ゴリラはレイアに向かってその長い腕を振り上げた。
「甘い!」
しかし、黙って殴られるようなレイアではない。後ろにかばうべき市民もいない。ならば、彼女のやることは身の安全を確保することになる。攻撃に備えていた分、回避もより容易になっていた。もとより、レイアは攻撃をかわす身のこなしに秀でているのだ。
「レイア! 行くぞ!」
「ああ!」
リューは心の刃を解き放つ。己の力を信じる。野生の豪腕であろうと、断ち切る。その信じる気持ちが武器に乗り、刺突一閃が脚を貫いた!
それと同時に、レイアは二刀流で斬りかかっていた。元々は素早いのだろうが、先ほど身動きの精度を下げる魔法を掛けられたゴリラは避けきれずに腕と胴部を斬られる。怒りからか痛みからか、咆吼が轟いた。
「良いぜ! 効いてる!」
サクラとディーナが駆け寄った。サクラはプルガトリオを、ディーナはフォースクラッシュを込めた一撃をそれぞれ放つ。
「逃がしたりはしませんよ……闇の束縛を……プルガトリオ……! 今のうちに叩いてしまいましょう……」
「とりゃー!」
四方を囲まれて、本格的に逃げ場を失ったゴリラは満身創痍である。そう、味覚狩りの最中に出くわせば危険な相手だが、手練れのハンターが五人揃えばこの通り。
「そろそろあるべき場所に還るお時間かな?」
覚醒のために髪やスカートをはためかせたまよいが、青い目を煌めかせた。マテリアルを集中させている。
「ああ! まよい、やってくれ!」
レイアがそれに応じると、まよいはにっこりと笑った。
「よーし行くよ! アブソリュート……ゼロ!」
今度はどちらも回避できなかった。囲んだハンターたちが見守る中で、雑魔は消滅した。
●味覚狩り続行
戻って来たハンターたちを見て、アルトゥーロはほっとしたような顔を見せた。笑顔になって出迎える。
「ああ! お帰りなさい。早かったですね。ご無事で何よりです」
「戻ったぜ。こっちは何もなかったか?」
リューが尋ねると、亜麻色の司祭は頷いた。
「ええ、他の雑魔が寄ってくることもありませんでした。ありがとうございます」
「良かった。ところでアルトゥーロ、最初にも少し話していたが、味覚狩りはどうする?」
「そうですね……怖い思い出にしたくはありませんので、最後にあまり散らばらないで短時間だけ続けたいのですが、請けてくださいますか?」
「はい……構いません。秋の味覚、たくさん採れると良いですね……全部採ってしまってはいけませんが……」
どうやら、サクラは自身も味覚狩りに参加してみたかったらしい。わくわくしているようにも見えた。アルトゥーロはその様子を見て顔を綻ばせる。
「良かった。あなたが楽しそうなので、皆さんもきっと明るい気持ちを取り戻してくれますよ!」
「囲んでほぼその場で倒せたから、あまり麓も傷つけてないしな。戦いの跡を見付けて怖くなるってことはないと思う」
リューが申し添えると、アルトゥーロは頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました。やはりお呼びして良かった。僕が殴りに行っても良かったのですが……やはり戦闘となると不安な装備でしてね」
「そ、そうか……」
アルトゥーロはアルトーロで、地味に殺意が湧いていたらしい。
「ところで、ヴィルジーリオはなかなかタフなのだな。幸い私は回避が可能だったが、それでもあの勢いがある一撃を食らって耐えるとは。魔術師とは思えん」
「普段着だったら駄目だったとは言ってましたから、装備の力も大きいでしょうけどね。では、参加者さんを呼んできます。待機の方もいらっしゃると思うので、そちらは僕が付き添いましょう」
「それが良いと思うよ。不安だと思うし、顔を知ってるアルトゥーロがいた方が良いと思う」
まよいが頷いた。アルトゥーロが参加者を呼びに行く。複数のハンターが付き添ってくれると言うことで、結構な人数が再開を希望した。女性が増えたことに、女児とお母様方とおばあ様方の表情がちょっと緩む。
「女の子がいるとやっぱり華やかねぇ」
「同性がいる方がやっぱり安心するって言うか……あ、司祭様たちを警戒してるわけじゃないですよ?」
「おっきな栗見付けたらおねーちゃんにもわけてあげるね!」
「わけるのは私の方なの。でも気持ちは嬉しいの。ありがとうなの」
引率が増えたことで、賑やかさが増した。アルトゥーロと交替する形になった男手のリューに、男児たちが集まる。
「うおおお! かっこいい剣だぜ!」
「お、わかるか? かっこいいだろー?」
「やっぱり、次から催しをする時は、オフィスで人を募った方が良さそうですね」
警戒もそうだが、賑やかになる。アルトゥーロは空を見上げた。行事を続行するのに何も不安を感じさせない、秋晴れだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/28 09:47:18 |
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秋の味覚は常在戦場だと思うの ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/11/28 10:11:44 |