戦場 狩る者とは

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/26 12:00
完成日
2018/12/01 20:03

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「……で、結局今この辺ってどういう状況なんだ?」
「んー……どこからどういやいいですかねえ。……まあ、落ち着いたとは言えねえでさあ」
 伊佐美 透(kz0243)の問いに、チィ=ズヴォーは、その曖昧さに文句を言うでなく答える。
 辺境は、チュプ神殿。部族会議の戦士たちと共にここを見回りながらの会話である。
 リアルブルーの凍結。その後で、偶然生まれた会話。色々と思うところ、改めて自覚したこともあった透だが、今はといえば、割りとすっきりした顔をしていた。
(……まあ別に、正義のヒーローになりたいなんて思ったことは一度もないんだよな、そう言えば)
 全てを吐き出して、そうして整理し直してみれば。確かに自分は、ずっと自分のためだけに戦ってきたのだ。リアルブルーに帰りたい、また前のように芝居がやりたい、その一心で。
 その身勝手さをくっきりと意識させられて、その事に自己嫌悪が浮かばないでもないが、そう言うものだと自覚したことは結果として問題とそれへの向かい方を分かりやすくはした。そこに行き着いてしまえば、あとはそれからの一歩をどう踏み出すかである。
 ……最後に、つい溢してしまったアレも。あれこそ、ただ聞いて貰えばそれで目的は果たせた類いの代物だ。聞かされてどうしろってものでもないだろう。ただ自覚を深めて、踏ん切りをつけるための。ただの甘え。
「……そう、次の一歩。次の一歩だ」
 諭すように呟いて、そしていつかその時への覚悟を済ませると、一先ずは目の前へと向き直る。
(帰れれば良かった……その為の戦いだった)
 先ずこれまでの戦いを振り返る。別に誰かを助けようとか歪虚を滅ぼそうとかでは無かった。そうだった。
(……けど、帰るために邪神を倒す他無くなった、わけか)
 そうして、これからを意識する。……立ち向かわなければならない。強大な敵と、いずれ。避けようが無くなったそれに、備えねばならない。
 だからこうして最近は、しばしば辺境を訪れている。歪虚の動向を。戦いを求めて。
「青木とかの動きは……分からないんだよな」
「……大きな、歪虚の軍勢としての動きは、確認出来ねえでさあ。ただ、そもそもビックマー亡き後の怠惰どもを纏める気もねえんじゃ、って感じなんですよねい」
 困ったように腕組みしてチィは答える。実際困っているのだろう。組織として動かないと言うことは、動きが見えずとも、明日にも唐突に動いてくる可能性が無いわけではない。それから。
「ハンターども! 出てくるでおます! ビックマー様の仇でおます!」
 ……統制されていないから。こうやって、ビックマーの残党が制御されずに散発的に襲撃をしてくる。
 辺境の戦士たちが今主に対応し続けているのは、つまりこの状況だった。



 その、モグラの姿をした歪虚を、透は、報告書では知っていた。知っていたが……。
「お前一体だけ……?」
 厳密に言うと違うのだが。その姿に相応しくというか、モグラの雑魔を引き連れてそいつはやって来た。だが、歪虚の姿はそいつ一体である。報告に良くある……三人組ではない。
「お前らのせいでおます!」
 透の呟きに、歪虚──セルトポとか言う名だったか、とあやふやに思い出す──は叫ぶ。
「ビックマー様が倒されて以来、姐さんは夜も眠れず昼寝の日々……」
「寝ては居るんだな」
「あんな姐さんは見てられないでおます! 姐さんを元気付けるために覚悟するでおます!」
 歪虚にしては義理堅い話である。そこでセルトポが、話は終わったとばかりに動きを見せた。先陣を切るように自身の足元目掛けてダイブする。
 ……もしかして地中からの奇襲攻撃などが出来たのかもしれないが、ここは既に神殿内である。突き立てたスコップは石畳にそれなりに刺さったが掘り進むとはいかず、勢いと反動がぶつかりあってセルトポはその場にひっくり返る。本来思考などろくにないはずの雑魔が、これはどうすれば、と言いたげにわさわさとセルトポの周囲に集まり、小首を傾げるような仕草を見せた。ああ、こいつ馬鹿だった、ということを改めて確認する。
 知るよしもないが、自分が先導し地中一斉攻撃を仕掛けるつもりだった彼は、ここで作戦を見失い……。
「ええい、取り敢えず突撃でおます!」
 退却と見せかけて戦場を土の上に移す、とかの作戦は当然思い付かず、無策での突撃を敢行してきた。
 ……とまれ、歪虚とこの数の雑魔である。
「前には俺とチィで出る! 雑魔の牽制を!」
 部族会議の戦士たちにはそう伝えて、刀を抜いて前に出る。
 そうして受けたセルトポの一撃は……やはり歪虚、そして馬鹿なりの馬鹿力ではあった。
 とかく数が不利だ。戦士たちの援護を受けながら後退、狭い通路に誘き寄せ、一度に対応する数を絞って対処する。戦士たちの一人には連絡を頼んだ。間もなく応援のハンターたちがやってくるだろう。
 そうして。
 雑魔をある程度蹴散らせば、こいつの事だから退却するのではないか。状況の打開策として、そんなことが思い付くが……。
(倒そうとするべき……なのか?)
 ふとそんなことが頭を過る。これからの戦い。歪虚の戦力は可能なときに削るべき。その機会と、経験を求めて、自分はこうしてここに来ていたのではないか。
 ハンター。これまで透にとってそれはただの呼称であり、意味など考えていなかったが。
 狩人。そう呼ばれる者の中でも、自分が選んだ力──闘狩人。そう呼ばれる力は。戦い方は。
 今まで彼は、その力をどちらかと言うと防御寄りに。生き延び、そして攻撃する相棒を援護するために使ってきたが、本来はどうあるべきだったのか。
 これから、どうすべきかのか。踏み出す先の、その一歩は。
 ……やがて、魔導短伝話から、援護に来たハンターからの呼び掛けがあった。雑魔を蹴散らしながら、透は手短に状況を伝えて、そして。
「こいつ……ここで倒すべきなんだろうか?」
 ビックマーの仇。そう言って襲ってくるセルトポに、何か別の引っ掛かりも覚えつつ……透は、伝話にそう呼び掛けていた。

リプレイ本文

「何があったの? 襲ってきた相手を倒すべきか、なんて」
 魔導スマホから真っ先に声を返したのは、八原 篝(ka3104)だった。
『うん?』
「一見ギャグっぽくてもヴォイドは根っこの部分から歪んでるのよ。前に戦ったセラピストだってそうだったでしょう? 向こうから手を出してきた上に、多少バカだろうが実力はある。手を抜いていい理由は無いわ」
『……ああ』
 そこまで篝が言うと、透は話の行き違いを理解する。
『紛らわしい言い方をしてすまない。別にこいつに情が沸いてるとかじゃないぞ。ここの防衛を第一目的と考えるなら、そのうち逃げるだろう相手を窮鼠になるまで追い詰めるか? って話だ』
 立ち向かってくる相手に手を抜くつもりはないと彼は言う。だが、消極的な物言いで聞いてきたことに篝はまだ不安を覚えた。
 時には悩むことも必要なのだろうが、こちらは針の穴みたいな射線を通さなければならないのだ。戦闘中にフラフラされて、仲間を撃ちたくはない。
「必要な時だけ武器を抜き、武器を抜いたらためらうな。っていうのが、わたしの先生の教えなの」
 ……そんな会話を。
 アティエイル(ka0002)は、彼女自身は口を閉ざしながらも、どこか真剣に耳を傾けていた。
(あくまでも私の考え、ではあるが)
 彼女にも、この件について見解はある。
(雑魔も歪虚も、此処で残せば誰かの「仇」になってしまう……)
 可能ならここで倒すべき。意見として、彼女の中でそれは固まっている。が、敢えてここで口を挟むことはしない。
 ──人は其々の考え、意見し、思いも……その数だけある。
 それぞれの思いで武器を持ち、対峙した。
 自分の考えは、自分のものであり、人の考えは、人のものである。
 だから己と異なる意見を目にしたとき、それを、変えたいと思うわけではない。
 ……だが「知りたい」と、彼女はそう思うのだ。
 だから、もう少しこのままこの議論の成り行きを見てみたい、と思った。そして。
『……巻き込まれれば大きな被害を受けるだろう仲間も居る中で逃げる敵を追うのは、「必要な時」だろうか』
 聞き返す透の口調は批難や反論を感じさせるものではなかった。純粋に意見を聞きたがっている。そんな声。
「わたしは、ここで倒すべきと判断するわ」
 きっぱりと、篝は答えた。
 ここでセルトポを倒す事で、敵の戦力を削ぎ将来の禍根の一つを絶つことができるかも知れない。
 その逆に、倒す事で他の二体が報復に破壊活動を始めるのかも知れない。
 それは。
(……どう転がるか、その時になってみないと分らないわよ)
 それ以上は考えても無駄なこと。ならば今、己が決めたことを迷わずにやるより無いのだ。
 通信機は暫く沈黙していた。察して、鞍馬 真(ka5819)が声を上げる。
「人々に害を為す存在は殺せる時に殺す。相手がどんな歪虚でも、……人間でも。私は今までそうしてきたし、これからもそうするよ」
 自身の魔導スマホから、囁くように告げる。
「どうせ放っておけば青木かブラッドリーに喰われるだけでしょうしぃ、倒せる時に倒すべきだと思いますねぇ」
「話だけは聞いたことがあるけど……三馬鹿が一人しかいなけりゃ、ただの馬鹿だよ。……まあ、せっかくだからさ。三馬鹿を二馬鹿にしておきたいよねぇ?」
 そうして、星野 ハナ(ka5852)が、セレス・フュラー(ka6276)が、次々と述べた。
『……うん。そうか』
 援軍の意見は一致している。それを理解した透の声はさっぱりしていた。……元々彼自身、どちらかと言えば倒すように意識を傾け始めていて、それに間違いは無いのかを確かめるために聞いたようなものなのだ。

「ここまでお疲れ様! もう少し頼めるかな?」
 現着すると、真が、透とチィにヒーリングポーションを渡しながら声をかける。
 セレスの姿が掻き消えた。マテリアルを纏っての認識阻害。そのまま彼女は、壁を、雑魔の間から覗く僅かな足場を、自在に縫って、敵のひしめく通路を苦もなくすり抜けて透たちが居た通路の反対側へと抜ける。
 真もそれを追うのだろう気配を感じて、篝は狙いを定めて矢を放った。セルトポは今、透たち側に寄った位置に居る。裏に回るセレスと真が早くセルトポ戦に参加できるように、篝が狙うのは向こう側に居る敵だ。自在に踊る矢はその進路上に居る敵も引き裂いていく。繊細な指使いで二度襲いかかる連射にはセルトポも巻き込んでいた。
 続いてハナが符を放つ。
「怠惰はその性質のせいで滅多に会えませんからぁ。でもだからこそ目的のある一途な怠惰は好きですよぅ」
 符が停止したのは敵が布陣するほぼ中央辺り。現状セルトポを巻き込めて、かつ──
「絶対倒さなきゃいけないって気になりますからぁ!」
 より力ある声と共に、五色の光が敵に向かって降り注いでいく。目映い光は、元より敵だけを討つ術ではあるが。その光の影響を仲間に及ぼさないことを気遣っての着弾点。
「後ろより失礼、援護いたします」
 アティエイルもまた、透とチィの二人に告げて身構えた。
「セイド様、愛しき静寂を……此処に」
 祈り捧げるような言葉は契約した精霊の名。黒炎を纏う腕が伸ばされる。魔力の矢が貫くのは彼女から見て最前列の一体。着実に一体ずつ仕留め、前衛の負担を減らす方策だろう。
 真は立体機動で反対側へと到達すると、剣に己のマテリアルを這わせていく。二刀での攻撃で、目の前の敵から順次蹴散らしていく。
 セレスもまた、刃にマテリアルを纏わせていき──紫に輝くそれは、『ミゼリアの憎しみ』と名付けた毒を孕む──影に潜んだまま、意識は常にセルトポを狙うチャンスを伺いつつ、邪魔な敵を切り裂いていく。不可視の一撃を、馬鹿と雑魔が見破ることは無かった。
 増援のハンターの到着で状況は劇的に加速した。雑魔たちはみるみる内にその数を減らしていく。
「ちょ、ちょっとお前ら強すぎないでおますか?」
 今更慌てた声を上げる馬鹿。
「セルトポさん……ビックマーを倒したのが青木さんでもぉ、歪虚王になっちゃうと逆らえないんですねぇ、貴方方はぁ。とっても勉強になりますよぅ?」
 ハナが煽るような口調で告げる。
「は? なんでおますか? いっぺんに色々言われても分からないでおます」
 馬鹿に腹芸を受けるなど出来るはずもなく、馬鹿はただ馬鹿っぽく返事をした。予想していたのとはあまりにかけ離れた反応に、深読みして準備した仕込みが相当に虚しく空振ったのを予感する。
「知らないのかな、やっぱ。ビックマーに止めを刺したのって青木なんだよね」
 セレスが言い直す。単純に、一つの事実だけを伝えた言葉はようやく馬鹿にも伝わったらしく……。
「な、ナンダッテー! 姐さんに知らせるでおます!」
 そして、あっさり信じてくるりと反転した。
「え」
「え」
「え」
 何人かのハンターの声が入れ替わりに上がる。こうしてはいられないと、セルトポは完全に塞がれている透たちの方ではなく、真が居る方へと向かい……──
「おっと」
 咄嗟に真は、構えを切り替えて行く手を阻み、絶妙な剣捌きで移動を封殺する。
「な、何で進めないでおますかぁぁ! 姐さぁぁぁん!」
「えっと……止め、ちゃったけど、良いんだよね?」
 戸惑いながらセルトポの足を払い続ける真。
「いや、信じると思わなかったし、信じたら動揺した隙をついて倒そうと思っただけだから……」
 セレスが答える。なお残念ながら馬鹿は動揺などしない。ただ今目の前にあることにまっしぐらである。
「私はぁ。歪虚や辺境勢力の状況について情報引き出そうとしたんですけどぉ……」
 続いてハナ。どうやら青木に支配されている様子などは皆無のようである。……だが。こいつら馬鹿すぎるから特別、極力触らないようにしてるだけじゃないか。今にして考えればその可能性が極めて高いように思えた。つまり、こいつらから何か怠惰全体の事情を測ろうというのは全く当てにならない。
「……とにかく、倒すことに変わりは無いってことよね」
 あまりに間の抜けた展開に呆けかけた一同を引き戻したのは、立て続けに響く風切り音だった。
 ……空いた指に既に次の矢を挟み射撃直後にすかさずつがえ直す彼女が独自に研ぎ澄ませた連射技術。弓の機構も最大限に生かし音は三度響き、それを引く矢は全てセルトポへと突き刺さる。
「ぎゃあああ!? 痛いでおますうぅ!」
 悲痛な悲鳴を上げるセルトポ。だが逃がしはしないと、ハンターたちは猛攻撃をかける!
 姿を消したまま忍び寄るセレスの、研ぎ澄ませた一撃がセルトポの鎧の隙間を精密に抉る。
 真は魔法剣を掛け直すと叩きつけるなり即その力を解放、斬撃の威力に乗せて逆流する魔力の奔流を浴びせかけた。
 ハナは風雷陣に切り替えての攻撃。
 アティエイルが魔法で生み出した風が、さらに敵を切り刻む。
 対しセルトポは、移動を阻む真をなんとか撃破しようとスコップを振るうが、特殊能力も無いその攻撃は真の能力なら避けるのは難しくはない。
「勘違いで攻めて来たんだろうと、自分から不利な地形に足を踏み入れたんじゃ世話が無いわね」
 呟く篝。完全に、逃げられぬ敵を取り囲んでの勝ちの布陣……の筈なのだが。
「痛い、痛いでおますうぅぅぅ!」
 絶叫してゴロゴロと悶えるセルトポ。
「……あたし今、急所に入れた手応えあったんだけどな……」
「これでも魔法威力にはぁ……結構自信あったつもりなんですけどぉ……」
 セレスとハナが疲れた声を上げる。つまり痛がって暴れる体力がまだある相手に向かって。
 曲がりなりにも歪虚、に対して、一つ、予想が甘かったのではないだろうか。
 馬鹿って、無駄に頑丈だったりするのである。
「ぎょえええええ!?」
 馬鹿っぽい叫びを上げながら……つまりなおも、その悲鳴を上げるだけの体力は見せる馬鹿。
 ……時間がかかるということはどういうことか。
「……うわ!?」
 真が声を上げた。不意に死角から向かってきたセルトポの攻撃に。……避けることも受けることも出来ない一撃。どんな未熟者で達人であっても、偶然でもそれは起こりうる。
 それから。もう一つ。すなわち、真の拘束もそのうち振り切られる。ハナの五色符の効き具合からしても、やはり歪虚、抵抗力も、それなりにあったようだ。
「姐さぁぁあん! こいつら酷いでおますうぅぅぅ! 今帰るでおますうぅぅぅ!」
 透側と違い封鎖していたわけではないそこを、セルトポは泣きながら駆け抜けていき。
 セレスはそれを追うべきか一瞬考えて……やめた。

 ……。
 一行に、暫し気まずい沈黙が流れる。
 何が悪かったのか。持久戦を想定せず、回復や長期的に有効な足止め手段を用意しなかったことか。
「ごめん。あたしが半端な色気出したせいだね」
 いや、見誤っていたのは馬鹿の馬鹿さ加減だろう。
 冷徹にここで仕留めるつもりだったのならそこに不確定要素など一切盛り込むべきではなかった。逃がさないつもりなら、ヘイトはハンターに向けられたままの方が状況ははるかに単純だったのだから。
「いやまあ……」
 それを受けて、透が口を開く。
「正直、俺も気になってたけどな。青木のこと言ったらどうなるのか」
 無慈悲に倒しても良かったが、そうしたら、言えばどうなっていたか知る機会は永遠に失われた。……それを探った上でここで倒す、というのが心残りのない最善の結果だったかもしれないが、そこまで狙うには打ち合わせは不可欠だったろう。他にすべきこともある状況では、一人では自分の想像通りに行った場合の対応しか出来ないのは必定だった。そして想像と結果がかけ離れていたのだから仕方ない。
「……まずは、皆とこの神殿が無事であることです」
 アティエイルがそこで声を発した。
「あの者が本当に逃げたのか、他に敵は居ないか、見てまいります」
 そう言って周囲をぐるりと見回し、彼女は歩み始めた。

 ハナは透へと近づくと話しかける。
「伊佐美さん。私前を向いて頑張る人は大好きですぅ。私自身他人からハンター馬鹿なりハンターしないと死んじゃう鮪って呼ばれたいと思ってますぅ」
 ハナのその言葉に、透は何かを思い出すように暫く口を閉ざしていた。
「だから演技をする貴方は好きですしぃ、俳優の貴方は格好良いと思いますぅ……ハンターとしての貴方はそう思いませんけどぉ。でも多分、どっちも貴方なんでしょうねぇ」
 ハナの言葉に。透は少し間を置いて静かに首を振った。
「すまない。結局、君が何が言いたいのか俺には分からない。……つまるところ、君が好きだという俳優の俺も、それは君が思う俺で実際の俺とは別人なんだと思うよ」
 答えながら透は彼女と、意識して距離を取っていく。
「……だから、君も。結局文句があるなら、そんな無理矢理に俺のことを分かってやろうとしてくれなくても、いいよ」
 言い残して。透は彼女の表情を見ようともしないまま、そのまま離れて行った。

 透はそのまま、真の元へと向かっていく。大打撃を受けた真を気遣おうとして、制するように真から先に話しかけられる。
「吹っ切れたようで何より。……安心したよ」
「ああ……まあ、吹っ切れたというか、開き直ったみたいなもんだけど」
 肩を竦めて答える透の声はそれでも軽やかで、真は胸に渦巻くものを抑えつけて微笑を浮かべた。……真自身は相変わらずだが、もう弱い部分は見せない──前に進んでいる透の邪魔になりたくはない。
「透は守りに強いよね。私は攻撃寄りだからとても頼もしいよ。……歪虚に向き合う姿勢も、戦い方も、全部人それぞれ。故に自分らしく在ればいい。それで足りない部分は互いに補い合えば良いと、私は思うよ」
「補い合う、か」
 透はどこか寂しげに、その単語を復唱する。
「なあ、真。俺にとって君の言葉は軽くない。君にそう言って貰えるのは嬉しいし、よく考えてみるよ。……必要なことをするのに迷わない君の姿勢を、俺はこれまで何度も頼りにしてきたし、助けられてきたと思ってる。本当に尊敬する友人だから、だけど」
 じっと、透は微笑を続ける真を、覗き込むように見た。
「……どうなんだろう。俺のそんな言葉は、君を補えているんだろうか」

 神殿を歩きながら、アティエイルは肩を落とす。
「神聖なる神殿ですのに……」
 戦いの最中は気にすることも出来なかったが、自身もまた神を敬う者として、信仰する神は違えど、戦いの場として選ばれてしまったことに悲しみを覚える。
 次もまた、の可能性を残してしまったことを思えば、悔やまれる結果、なのだろうが。
 余計なこと何もかも捨てて、戦闘だけを考えていれば良かっただろうか。
 今でしか確かめられない想い、紡げる言葉があって、それを諦めてでも。
 ……それでも確かめたい、伝えたいことがあったのなら。その結果は、知るべきだったのではないか、と。彼女は、彼女だからこそ、そうも思うのだ。

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MVP一覧

  • ふたりで歩む旅路
    アティエイルka0002

重体一覧

参加者一覧

  • ふたりで歩む旅路
    アティエイル(ka0002
    エルフ|23才|女性|魔術師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/21 16:59:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/22 17:59:17
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/11/22 23:43:55