• 落葉

【落葉】瞬間、闇を斬って

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/26 19:00
完成日
2018/12/01 18:37

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●マテリアル汚染の発生

 長年数多の命を脅かしてきたラズビルナムの毒。その汚染も帝国が開発した機器や巫女たちの祈りによってその多くが除去されていった。
 しかし負のマテリアルの影響はそれだけでは収まらない。今度はソードオブジェクトによる異変が発生し、ハンターも軍人も巫女も帝国領内を奔走する日々を迎えている。

 そんなある日のこと。
 帝都近郊の自然公園に魔導トラックが止まると、中から中堅どころのハンターが飛び出してきた。
「ローザリンデ殿はいらっしゃるか!? お力添えをお願いしたい!」
 張りのある大声に軍人がすかさず隣接するコロッセオから対応に出る。ハンターは顔を強張らせ、早速早口で事情を説明した。
 ――どうやら帝都に比較的近い街を囲む森にマテリアル汚染が発生したらしい。しかも通常の緩やかに溜まっていく汚染とことなり、5体の雑魔がすぐさま猟師たちによって確認された危機的事態にあるという。
「雑魔はハンター達で倒せますが、汚染ばかりは……機械や巫女がいなければどうしようもありません。しかし軍やエルフハイムに連絡してみたところ、どちらも一日や二日ですぐに戻ってこられるような状況ではないと。ならば汚染を除去する力のある精霊殿のお力を借りたいのです」
 生真面目そうなハンターは「必ず無事にお返ししますゆえ」と言い、軍人の瞳をじっと見つめる。その真摯さに軍人は脱帽した。
「わかりました。お会いすることは結構です。しかしローザリンデ殿はあの森から帰還したばかりで、身体に問題を抱えています。依頼を受けるかどうかはご本人にお任せいただけますよう」
「はい、もし無理なようでしたら汚染除去の目途が立つまでハンターが周辺地域を見回りすることで対処いたします。無理は禁物……ですからね」
 そう言うとハンターは自然公園に速足で向かうのだった。


●ローザリンデの心意気

『ああ、それは構わないよ』
 ハンターが必死で説明した結果、曙光の精霊ローザリンデがまず口を開いて発したのはそんな軽いノリの返答だった。
『実は私も感じていたのさ。帝国のあちこちに不穏なマテリアルが溜まりつつあるとね。もしかしたらその汚染区域もソード……なんちゃらの影響の吹き溜まりになっているのかもしれないねェ。どうにかしてやらないと』
 腕と脚はしっかりと甲冑を着込んでいるのに、なぜか乳房と下腹部はわずかな装飾品でしか覆っていない……そんな精霊の姿にドギマギしながらハンターが言う。
「現地までは魔導トラックでお送りします。それと雑魔と戦うハンター達は既に現地に向かっておりますので……私も微力ながら支援するつもりです。ですのでその、危険は少ないものと考えていただければ」
『ふうん、至れり尽くせりってわけだ』
 機嫌が良いのか余裕げに微笑んで顎に手を当てるローザ。その姿はかつて精霊の中でも屈指の腕を持った剣士であったことを彷彿とさせる。
 だがそこに割り入る者がいた。ローザの弟分、つまりは精霊達だ。
『お前、姐さんが病み上がりなのを知ってるくせに、とんでもねえ話を持ってきてくれたもんだな!?』
 ハンターの胸倉を掴んで怒る石の精霊。
 炎の精霊はローザの前で膝を着くときっと顔を上げた。
『姐御、ここは俺達に任せてくださいよ。光とは違って少し時間はかかりやすが、俺達だって力を合わせりゃ浄化のひとつぐらいできますって』
『そうだ、俺達だって……』
 精霊達が声を荒げようとしたその瞬間、ローザが『おやめ!』と鋭い声を奔らせる。精霊達は凍り付いたように声を失った。
『あんた達が何と言おうとアタシは行くよ。異常な汚染っていうんだ、並みの汚染と同じく簡単に消せるもんだと己惚れるんじゃないよ! ……それに人様に救われた命、使いどころがあるならこれ幸いってことじゃないか。誰かを守ることでアタシはまた強くなれる。この機会を見逃すわけにはいかないんだよ。第一、こいつの切れ味もまだ確認していないしね』
 妖艶な笑みを湛え、背負った刀の刃を抜くローザ。煌めく波のような刃文がなんとも美しいそれは、生命が消えゆこうとしている瞬間に残されていたもの。彼女の生きざまそのものを示しているようにも思える。
『わかりやした……それなら俺達も行きます。姐さんを守るのが俺達の仕事ですからね』
『無理をしようってのなら姐さんの首を掴んでも助けますんで』
 その言葉にローザは『頼んだよ』と微笑む。ハンターはほっとしたように息を吐くと、彼らを魔導トラックに案内した。
『母様、無理しちゃダメだよ……必ず帰ってきてね』
 木漏れ日の精霊リンが泣き出しそうな声を放ちながらローザにすり寄る。
『いいかい? リン、いい子で待ってるんだよ。お前がいい子にしていたらアタシは元気に帰ってきて、その森をアンタの新しい遊び場にして……そうさね、人間でいうところのピクニックってやつを皆でやろう。きっと楽しいよ』
『うん……』
 リンはこくんと頷いたまま魔導トラックが見えなくなるまでその空間でじいっと佇み、母親代わりの精霊の無事を祈り続けた。


●その頃、森では

 ハンター達は負のマテリアルの流れをしかと感じていた。古戦場でも洞窟でも廃墟でもない、人通りのあるその森にかかる異様な力を。
『遅くなってすまない! 精霊を無事連れてくることができた。あと数分だけ待っていてくれ!』
 魔導スマートフォンから響くハンターの声。じきにトラックが到着し、あの勇敢な精霊を連れてきてくれるだろう。
(ローザには最後の浄化だけ手伝ってもらえればいい。とにかく無事にこの汚染を食い止めるんだ……!)
 ハンターのひとりはそう思いながら剣を抜いた。しかし彼は知らなかった。
 ――ローザリンデという精霊の激しすぎる気性とその身軽さを。

リプレイ本文

●魔導トラックにて

 帝都バルトアンデルス近郊の森を魔導トラックが疾走する。ハンターが運転する最中、助手席に座るは曙光の精霊ローザリンデ(kz0269)。彼女はしばし黙したまま前方を睨んでいた。
『……こいつは異界の臭いかね』
「異界、ですか? まさかこの地にソードオブジェクトが?」
『いや。異界が各地で発生している影響でできた澱みだろう』
 彼女は負のマテリアルが溜まった場所を確信しており、広げた地図へ円を描く。
『この辺りだ。他の地域からは異常は感じないから、雑魔もその辺でうろついている可能性が高いね』
 ローザの確信的な言葉にハンターは頷くと、早速先行するハンター達に連絡を始めるのだった。

 一方、トラックの荷台では護衛役の精霊3体と、移動中に荷台に乗り込んだジェスター・ルース=レイス(ka7050)が雑談に興じていた。もっとも護衛のうち岩の精霊と水の精霊は会話が苦手らしい。対話に嬉々と応じるのは火花の精霊のみだ。
 彼は自身を含め仲間の特徴を紹介し世間話にも一通り応じると、ジェスターに右腕を差し出した。
『俺の手、今は熱くねえから。ひとつよろしく』
「ああ、こちらこそ。なんだったら危ない時は俺を投げてくれても構わないぜ。硬さには自信があっからさ、盾役上等じゃん」
 微かに温かい手を強く握りあう。その様に岩の精霊が大きな口の端をぐいと吊り上げる。水の精霊も『……頼りにしています』とか細く呟いた。彼女の口が三日月の形になっているのを見るや、ジェスターは安堵する。
「おう、嬢ちゃんも一緒に頑張ろうじゃん。でも無理はすんなよ? 精霊ってすっげえ力持ってっけどさ……皆、たったひとつの大切な命なんだから」
 その言葉を向けた相手は荷台にいる者だけではないのだが……ローザはフロントガラスに映る風景を静かに見据えるだけだった。


●負の気配に包まれし戦場

 ローザが示した地域。そこには既に濃密な負のマテリアルが漂い、木々も枯れ果てていた。
 しかしトラックから降りてきた面々に清楚な花のような笑みを湛えた少女が歩み寄る。
「私はブリジット・サヴィンと申します。この度はご一緒させていただきます。よろしくお願いしますね」
 ブリジット(ka4843)が礼節をもって同行者に挨拶する。
 その一方、蓬(ka7311)は周囲を悲しげに眺めた。負のマテリアルが満ちた地とはここまで死に近いものなのかと。
「以前はこの辺りも綺麗な紅や橙で彩られていたんでしょうね……」
 そう呟きながらも、彼女はローザリンデの姿を見るなり微かに微笑んで会釈した。
(私の腕はまだ未熟。でも一人の銃士として、約束を違えず信頼に応えるために……できることをやるだけです)
 そんな彼女の心中を知らぬ白樺(ka4596)は雉を模した仮面を着けると無邪気に大きく頷いた。
「うん、そうだよね。ここにくるまではずっと綺麗な森だったもの。おかしいのはここだけ。せっかくの綺麗な森を穢しちゃう悪い子にはオシオキなのっ!」
 そんな息巻く一行の中で、どこか寄る辺なさを感じている者がいた。濡羽 香墨(ka6760)だ。
「どうしたの、香墨?」
 親友の澪(ka6002)が香墨の手を握る。その心遣いこそがなんとも温かい。香墨はつい心情を吐露した。
「ローザの気性を見ているとフリーデに似てるなって。……勇むのはいいけど、ちょっとしんぱい」
「大丈夫。ローザも精霊達も私達が守る。それにフリーデだってそう簡単にやられるような存在じゃない。絶対、帰ってくる」
「……うん。ありがと」
 香墨は小さく頷くと、十字架を模した短剣を握りしめた。そう、ここは敵地。感傷を過度に持ち込むことは許されない。
 そこで澪が振り向くと、魔導トラック周辺で待機する精霊達に静かに告げる。
「大丈夫だから。任せて。それよりもし後ろや横から来たら知らせて」と。
 これは死角からの奇襲への対策でもあるが……同時に精霊達が前に出ないようにという思いも含まれている。少なくともトラックが停められている周辺は負のマテリアルが薄くトラック自体も盾として使える。比較的安全な場所と言えるのだ。
 しかしローザは刀を抜き放ち、鋭い目で周囲を睨みつけた。
『どこかしこからアタシらへの悪意を感じるね。……やれやれ』
「ローザリンデ、前に出るつもり?」
『おうさ。得物がこれだからね』
 澪に刀を見せて笑むローザ。澪は額に手を当てて考え込んだ。
(ん。私も剣士だし、ローザの腕前には興味あるけど。手合わせにも興味あるけど。それよりも、無理しないでと言っても出そうだなぁ……)
 ローザ曰く、実は戦闘能力は駆け出しのハンターと同レベルまでしか回復していないらしい。そんな状態で雑魔5体を相手取って無事でいられるのだろうか? 答えは、否だ。ならばハンターが守り抜くしかない。
「……わかった。一緒に頑張ろう。私の腕、見せてあげる」
『ああ、あんたの太刀筋は繊細ながら豪快で好きだ。傍で観られるのが楽しみだよ』
 澪の思いに気づくことなく微笑むローザ。どこまでも届く光と同じく、根が自由で奔放な気質なのだろう。
 その声に火花の精霊が威勢よく応じた。彼は早速その手に白熱する光を宿す。しかしその光が敵を焼き弾く炎になるには些か時間が必要らしい。
『すまん、悪いがそれまで守りは頼むぜ』
「了解。その分、大きな火花を頼む」
 先ほどまで女性らしかったブリジットが戦闘を意識したのだろう、凛とした態度に切り替わった。そして彼女は先手必勝の業で神経を敏感にし、周りの木や岩を見据える。
(木や岩の雑魔なら擬態し、我々に接近することもあるはず。それなら!)
 ブリジットは丁度南側にひっそりと立つ枯れ木を護るように囲んでいる岩に気づくと咄嗟に叫んだ。
「皆、あの木から離れるんだっ!」
 同時に放たれたものは次元斬。艶やかな舞いを交えた鋭い無数の強靭な刃は岩を砕き、木の肌を抉った。
『ぐぁギャアッ!!?』
 奇妙な悲鳴を上げて、巨大な岩の雑魔が土を盛り上げ立ち上がる。高さにして4m。まずはそれが2体。続いて彼らに護られていた木が枝に巻き付けた蔓を垂らして歩み寄ってきた。
「やはり、読み通りだったか」
 苦い顔のブリジット。
 蓬は水の精霊の前で立ち塞がり、蔓を振りかぶった木雑魔に威嚇射撃で脚を止めさせた。続いて拳銃を発射。小枝の数本が軽い音を立てて折れていく。
 慌てふためく雑魔に蓬は銃を向けたまま、視線を外さない。何度同じことをしても無駄だと。彼女はそのままの姿勢で、後方に控える中堅ハンターへ叫んだ。
「ハンターさん、精霊さん達のことをお願いします!」
 丁度中堅ハンターの立ち位置は魔導トラックのすぐ隣である。トラックを盾替わりにすれば些か戦況は安定するはずだ。
「わかった、こっちは任せとけ!」
 両腕に握った銃を木雑魔に向けて連射するハンター。それを見届けた蓬が水の精霊に願う。
「私が必ずお守りします。ですから存分に癒しの舞を!」
『は、はい!』
 柔らかなマテリアルに満たされている水の精霊。彼女から生み出されるステップはまるで空間を波紋のように広がり、心身の痛みを取り去るような幸福感を孕んでいた。
 白樺はそれをバックアップに、ローザの手を引いた。一方的に護るのではなく、共に戦うことで共に生還する。そんな想いが彼の根幹にある。
「ローザ、シロがめいっぱいサポートするの! だから一緒に戦お!」
『澪といいあんたといい……でも今のアタシにゃ本当に心強いよ!』
 にっと笑うローザに安堵する白樺。彼はいつもの太陽のような笑みを浮かべると敵陣の中にありながら楽しげな声をあげた。
「シロの歌、聞いてくれる? 身も心も柔らかくしてあげるのっ♪」
 愛らしくも生命力あふれる歌と軽やかな舞は死者である雑魔の意思を威圧し、守りの力を奪っていく。そうしてローザを護衛する白樺がターンを決めた瞬間、傍にある細い枯れ木が突然動き出す姿が見えた。
(あれがもう1体の木雑魔! そっか、精霊はマテリアルの集合体だもん。シロたち人間よりも狙われやすいんだね! ……となると、最後の1体の岩雑魔もきっとそのうち出てくるはず。ローザ、油断しないで!)
 白樺は複雑な思考を巡らせつつ、歌を続けた。そして木雑魔が振り上げた蔓を杖に巻き付けると精一杯の力で茂みから引きずり出す。……丁度、岩雑魔2体も接近しており、白樺が狙っていたシチュエーションが完成した。
『なるほど、アタシの力を試すには最高の場面だ。感謝するよ、白樺』
 ローザの煌めく刃から光の衝撃波があふれ出し、木雑魔と岩雑魔2体の身体を容赦なく打ちのめす。木雑魔は表皮のほとんどを失い、脚となっている根が折れたが――岩雑魔は表面が粉砕された程度で健在だ。
『くっ、これが今のアタシの精一杯か!』
 岩雑魔達が哄笑するようにローザに足を振り上げる。そこに割り込むように駆け込み、炎の如きオーラを放つ者がいた。香墨だ。
「……誰も絶対にやらせない。こっちを見て」
 ソウルトーチは敵の注目を自らに集める、自己犠牲を前提にした業。小柄な香墨は岩雑魔になされるがまま、殴り飛ばされた。
『香墨、やめとくれ! これはアタシの不始末、アンタが傷つく必要はないんだよ!』
「でも……あなたが死んだら。みんな悲しむ。……たって生きて」
 そう言う香墨の兜が転がり落ち、口元から血が零れ落ちた。それを見咎めた澪は全身に熱いモノが滾る感覚を覚えた。
「よくも香墨を!」
 鞘に納めてマテリアルを満たした太刀に手をかけたまま、澪が疾走する。小柄な少女が4mの背丈の岩に挑む姿は奇妙なものにも映るが――しかし。小柄ゆえに懐へ容易く踏み込むと、半身のまま水平に岩雑魔の腹を裂いた。
『グギャ?』
 ぐらりと揺れる上半身。あと一押し、澪は白樺の歌が響き続ける中で火鳥風月を放った。炎を纏った暴風が傷口を焼き広げ、その身を完全に焼き切る。
「香墨を傷つける者は赦さない……どんな者であろうと」
 澪はそう呟くと、香墨を庇うように立ち塞がった。だがそこに尖った小枝を苦無の如く投げつけようとする者がいた。ローザの光で焼かれた木雑魔である。
 しかし、その小枝が澪に刺さることはなかった。蓬のエイミングを重ねた銃弾が幹の中心部を捉えていたのだ。
 ――バキッ。
 本来は美しい木だったそれは不運にも人類の敵とされた哀れな存在だ。徐々に土くれとなる雑魔に蓬はひそやかに願う。
(次はどうか最期まで美しく咲き誇る樹となられますよう。そして貴方が残した種がいつか健やかに芽吹くよう)
 そしてもう1体の生き残りの木雑魔も澪に襲い掛かろうとしたが――態勢を取り直した香墨が槍で幹を突き崩した。
「けがらわしい。澪を傷つけるモノは……消えちゃえ」
 そう呟く香墨の瞳に一切の迷いはなかった。

 一方、ジェスターは後方に控える精霊達の守りに徹していた。何しろまさかの真横から最後の岩雑魔がやってきたのだから。
 水の精霊はトラックに隠れながらも踊り続け、岩の精霊と火花の精霊は息の合った連携を見せる。
 岩の精霊が岩雑魔の攻撃を岩盤の盾で防ぎ、火花の精霊が苛烈な火炎で敵を焦がしては脆くした。中堅ハンターも二丁拳銃で幾度も相手を撃ち、徐々に動きを鈍くしていく。
 そしてジェスターもまた。
「こんな腑抜けた蹴りで吹っ飛ぶかよ!」
 柳の構えで大足による蹴飛ばしを軽やかに受け、不敵に笑った。そして刀を水平に構える。
「なあ、攻撃っていうのはこうするもんだろっ! 気合いれんのが常道ってなぁ!」
 渾身の疾風剣が放たれる。すると岩雑魔の両足がごろりと落ち、砂と化した。最早腕を脚代わりにして転がるしかできない岩雑魔。そこにブリジットが駆け付け、納刀した刃を一気に抜き放つと――本来なら手の届かぬ場所にあるはずの雑魔を画竜点睛の業で真っ二つにした。
「ジェスター君、君が奴の脚を潰してくれたおかげで仕留められた。感謝するよ」
「ああ、いや……それよりも前線は!?」
「今頃片付いているはずだ。あっちで生き残っていた岩雑魔は香墨君のコール・ジャスティスから始まって、澪君とちょっぴり反省したローザリンデ様のコンビネーションで倒したし……木雑魔もそれぞれ、ね」
 その報告にジェスターは安堵し、大地にごろりと横たわった。
「ふふ、安心したかい?」
「まぁな。誰も犠牲になってないならそれで十分だ。あ、そういや本人には言っちゃいないんだが、ローザって母ちゃんって感じだよなぁ。……母ちゃんなら子供に心配させないように無茶しないでほしいぜ、マジで」
 苦笑するジェスターの横で笑いながら三角座りをするブリジット。根本的な解決はこれからだが――充実感でふたりの心が満たされているのは事実だった。


●浄化の儀

 皆の無事を確認したところでローザが早々に浄化の儀を行うと言い出した。
『正直、皆には迷惑をかけたと思ってる。自惚れが過ぎた……すまなかったね。だから儀式をさっさとやって、ゆっくり休んでもらおうと思うんだ』
「でもローザも疲れてるんじゃないの?」
 心配する白樺に『浄化だけは平気。心配無用さ』と返したローザは澱みの中心に向かい、両手を静かに上げた。するとその手に赤・青・黄・緑・金・紫に輝く短剣が浮かび上がる。
「あれは6つの属性を現しているのでしょうか」
 ブリジットが興味津々といった様子でその輝きを見守る。
 続いて聞こえてきたものは唄だった。郷愁を誘うような切ない音色と子守歌のように響く柔らかな声。
 白樺はその歌に被せるようにして、覚醒時に広げる白い翼を広げ――歌った。ピュリフィケーションの力を宿した、小鳥の囀りのように言葉なき歌を。
(護ろうとした想いが、森が、もう傷つけられることのないように……)
 彼の願いに応えるように6本の短剣は地に突き刺さると空間の濁りを瞬時に吸い取っていき――まるで儚い硝子のように砕けて、消えた。
『これでおしまい。完全に枯れた樹はどうしようもないが、春になりゃ新しい芽が次々と出てくるはずさ。そうすりゃ獣たちも帰って来る』
 そう呟き、天を仰ぐローザ。すると一羽の鳥が枯れていた樹の枝に留まり、翼を休めた。
「動物は負のマテリアルに敏感なのに。ふたり掛かりとはいえ、浄化得意って。伊達じゃない」
 香墨が呟く。その時、彼女の口元にこびり付いた血を澪がそっとハンカチで拭った。すると水の精霊が彼女たちに申し出る。
『皆様のおかげで無事にローザリンデ様も仲間も無事に帰れます。お礼に治療をさせてくださいませ』
 そう言って彼女は癒しの波動をハンター達に広げた。心が和んでいく中で――白樺はローザの手を握る。
「まだ帝都の外は危ないのかな……。また公園に遊びに行くよってリンに伝えてくれる?」
 もちろんローザは『ああ、いつでも大歓迎さ』と笑い、白樺の柔らかな金髪を優しく撫でた。

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MVP一覧

  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺ka4596
  • 比翼連理―瞳―
    ka6002

重体一覧

参加者一覧

  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 咲き初めし白花
    ブリジット(ka4843
    人間(紅)|16才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • Braveheart
    ジェスター・ルース=レイス(ka7050
    ドラグーン|14才|男性|舞刀士
  • 絆を紡ぐ少女
    蓬(ka7311
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
蓬(ka7311
人間(リアルブルー)|13才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/11/24 20:59:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/22 23:17:40
アイコン 相談卓『森林掃除』
白樺(ka4596
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/11/26 00:32:19