ゲスト
(ka0000)
【CF】人手、足りるんですか?
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/03 22:00
- 完成日
- 2018/12/09 01:07
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●芋祭×ケーキバトルロイヤル
ゾンネンシュトラール帝国にも【Ernten Sie Fest】……つまり【収穫祭】は存在している。
寒い冬を乗り切るための準備期間、帝国に暮らす者達は特に忙しく立ち回る。
冬を乗り切るために家畜の数を減らしヴルストをしこたま作ったり、芋を備蓄し。
乾燥食材や保存食を作り、芋を備蓄する。
アクアヴィットを作ったりカルヴァドスを作り、芋を備蓄するのだ。
しかし祭だ、それだけで終わるものではない。
冬を越せる量を蓄えた後、その余剰分を使って『ぱぁーっと騒ぐ』……それが、収穫祭と呼ばれる所以である。
帝都や師団都市と言った大きな街に限らず、規模の小さな集落でも、それはかわらない。
そしてその祭を帝国民達に【芋祭】として親しまれていた。
そんな収穫祭の時期が近付く中、リゼリオでは新たな企画が持ち上がっていた。
クリムゾンウェストとリアルブルー、二つの世界の交流の為に提案されたのは……クリスマスケーキの販売対決だった。
各地から集まった店舗はその種類も数も多様である。
そして、その準備も慌ただしいものなのである!
●トラック屋台「ポテト戦隊」 ~カミラの場合~
「ジークリット、イサーク! 今年の収穫祭は特にパァーっとやるからな!」
エルヴィンバルト要塞のキッチンで仕込みながら、部下達にも檄を飛ばす。
怒りやら興奮やら熱意やら疲労やら、ここ最近の様々な展開のせいで多忙極まるカミラ・ゲーベル(kz0053)だが、収穫祭は冬支度も兼ねているために、手を抜くわけにはいかない。
しかもこれまでに培ってきた調理技術を試せて、各地の料理と競えるなんてイベントが来てしまったのである。
立場上直接発散するわけにもいかない怒りや鬱憤さえも全てやる気に変えて、カミラは出店を表明した。
「ふふふ、ふふ……っ! 短い休暇や空いた時間を使って、地道に改造してきた魔導トラックがついに日の目を見る時が来た……まさに、絶好の機会じゃないか!」
いつか師団にキッチントラックを配備したい、そんなことを考えていたカミラだが、流石に簡単ではなかった。会計業務を取り仕切っている鬼の副長テオバルトに、『それは貴女の趣味も入っているじゃないですか。個人でやって下さい』と切って捨てられたり……まあ、色々あったのである。
スキップしたい気持ちを抑えながらカミラは車庫へと移動する。
運転席は普通である。そもそも弄りようがない。
普通であれば幌で覆う程度の荷台は、しっかりとボックスタイプに改修されている。
そのボックスタイプだが……二階部分が存在していた。
一階部分だけで問題がないはずなのに、何故か上ににあがれるようになっている。乗った者が落ちないように手すりもあった。リアルブルーで言うところの、選挙カーで見るような、あれである。ご丁寧にスピーカーもついているので、マイク設備もついていると思われる。
「音と匂いで宣伝効果も抜群なトラック屋台……ふふふ、この対決は貰ったな!」
「流石師団長!」
持ち上げてくる食堂勤務イサークの隣で、上等兵ジークリットが首を傾げている。
「カミラ様ー? この屋台はリゼリオで販売するためのものですよね?」
マーフェルスの収穫祭で出す屋台と、リゼリオで出すこの屋台と、人手、足りるんですか?
「ぐっ……リゼリオでの販売用として、初回の納入は終わっている」
「それ、追加分は手つかずっていうんじゃないっすか……」
「臨時のアルバイトでも募集してみるか」
「それくらいしかー、ないですよね実際ー」
●アンテナショップ「森都からの贈り物」 ~シャイネの場合~
「シャイネ殿、丁度いいところに」
相談があるのだと持ち掛けてきたユレイテル・エルフハイム(kz0085)曰く。
「ケーキバトルロイヤルへの出店……ふぅん、なるほどね♪」
ユレイテル個人の知名度上昇はもちろん、エルフハイムの心象も良くなってほしいという狙いもきちんと込められている。なによりそのケーキは帝国産の食材、エルフハイム産の食材をふんだんに使っているし……リゼリオから発信する企画であるため、先も見据えているようで……
(助言を生かそうと頑張っている子は、ちゃあんと助けないといけないね?)
手を貸してもらえるだろうかと不安げな視線でこちらを伺ってくる長老に、シャイネ・エルフハイム(kz0010)はにっこりと笑みを返した。
「店長就任の話、しっかり承ったよ♪」
詩ってもいいみたいだし、宣伝係としてしっかり働いてこようじゃないか。
「ありがとうございます、シャイネ殿」
ほっと小さく息を吐いて、しかし表情は緩まない。
「彼女については……」
彼等が気にかけるのはもう一人の店員のこと。
「大丈夫だよ。看板娘は座っているだけでいいだろう?」
長老である君だって、そう長く店に出られるわけじゃないんだろう? そう続ければ、すみませんと謝罪が返って。
「ええ……助かります」
「適材適所という言葉があるらしいよ。君は気にしすぎないようにね。……ところで、シュトレンの仕込みは終わっているのかな?」
「おおむね。あとは梱包し、熟成を待つだけで……」
「数を考えれば、梱包は森の外かな。……でも、外の人手って、足りるのかい?」
人手の大半はシュトレン作りに駆り出されているし、そもそも外に出られる人員はそう多くない。尋ねる形をとっているが、シャイネは答えを知っている。今のはただの確認だ。
「……うん、オフィスで少し声をかけてみようか」
ゾンネンシュトラール帝国にも【Ernten Sie Fest】……つまり【収穫祭】は存在している。
寒い冬を乗り切るための準備期間、帝国に暮らす者達は特に忙しく立ち回る。
冬を乗り切るために家畜の数を減らしヴルストをしこたま作ったり、芋を備蓄し。
乾燥食材や保存食を作り、芋を備蓄する。
アクアヴィットを作ったりカルヴァドスを作り、芋を備蓄するのだ。
しかし祭だ、それだけで終わるものではない。
冬を越せる量を蓄えた後、その余剰分を使って『ぱぁーっと騒ぐ』……それが、収穫祭と呼ばれる所以である。
帝都や師団都市と言った大きな街に限らず、規模の小さな集落でも、それはかわらない。
そしてその祭を帝国民達に【芋祭】として親しまれていた。
そんな収穫祭の時期が近付く中、リゼリオでは新たな企画が持ち上がっていた。
クリムゾンウェストとリアルブルー、二つの世界の交流の為に提案されたのは……クリスマスケーキの販売対決だった。
各地から集まった店舗はその種類も数も多様である。
そして、その準備も慌ただしいものなのである!
●トラック屋台「ポテト戦隊」 ~カミラの場合~
「ジークリット、イサーク! 今年の収穫祭は特にパァーっとやるからな!」
エルヴィンバルト要塞のキッチンで仕込みながら、部下達にも檄を飛ばす。
怒りやら興奮やら熱意やら疲労やら、ここ最近の様々な展開のせいで多忙極まるカミラ・ゲーベル(kz0053)だが、収穫祭は冬支度も兼ねているために、手を抜くわけにはいかない。
しかもこれまでに培ってきた調理技術を試せて、各地の料理と競えるなんてイベントが来てしまったのである。
立場上直接発散するわけにもいかない怒りや鬱憤さえも全てやる気に変えて、カミラは出店を表明した。
「ふふふ、ふふ……っ! 短い休暇や空いた時間を使って、地道に改造してきた魔導トラックがついに日の目を見る時が来た……まさに、絶好の機会じゃないか!」
いつか師団にキッチントラックを配備したい、そんなことを考えていたカミラだが、流石に簡単ではなかった。会計業務を取り仕切っている鬼の副長テオバルトに、『それは貴女の趣味も入っているじゃないですか。個人でやって下さい』と切って捨てられたり……まあ、色々あったのである。
スキップしたい気持ちを抑えながらカミラは車庫へと移動する。
運転席は普通である。そもそも弄りようがない。
普通であれば幌で覆う程度の荷台は、しっかりとボックスタイプに改修されている。
そのボックスタイプだが……二階部分が存在していた。
一階部分だけで問題がないはずなのに、何故か上ににあがれるようになっている。乗った者が落ちないように手すりもあった。リアルブルーで言うところの、選挙カーで見るような、あれである。ご丁寧にスピーカーもついているので、マイク設備もついていると思われる。
「音と匂いで宣伝効果も抜群なトラック屋台……ふふふ、この対決は貰ったな!」
「流石師団長!」
持ち上げてくる食堂勤務イサークの隣で、上等兵ジークリットが首を傾げている。
「カミラ様ー? この屋台はリゼリオで販売するためのものですよね?」
マーフェルスの収穫祭で出す屋台と、リゼリオで出すこの屋台と、人手、足りるんですか?
「ぐっ……リゼリオでの販売用として、初回の納入は終わっている」
「それ、追加分は手つかずっていうんじゃないっすか……」
「臨時のアルバイトでも募集してみるか」
「それくらいしかー、ないですよね実際ー」
●アンテナショップ「森都からの贈り物」 ~シャイネの場合~
「シャイネ殿、丁度いいところに」
相談があるのだと持ち掛けてきたユレイテル・エルフハイム(kz0085)曰く。
「ケーキバトルロイヤルへの出店……ふぅん、なるほどね♪」
ユレイテル個人の知名度上昇はもちろん、エルフハイムの心象も良くなってほしいという狙いもきちんと込められている。なによりそのケーキは帝国産の食材、エルフハイム産の食材をふんだんに使っているし……リゼリオから発信する企画であるため、先も見据えているようで……
(助言を生かそうと頑張っている子は、ちゃあんと助けないといけないね?)
手を貸してもらえるだろうかと不安げな視線でこちらを伺ってくる長老に、シャイネ・エルフハイム(kz0010)はにっこりと笑みを返した。
「店長就任の話、しっかり承ったよ♪」
詩ってもいいみたいだし、宣伝係としてしっかり働いてこようじゃないか。
「ありがとうございます、シャイネ殿」
ほっと小さく息を吐いて、しかし表情は緩まない。
「彼女については……」
彼等が気にかけるのはもう一人の店員のこと。
「大丈夫だよ。看板娘は座っているだけでいいだろう?」
長老である君だって、そう長く店に出られるわけじゃないんだろう? そう続ければ、すみませんと謝罪が返って。
「ええ……助かります」
「適材適所という言葉があるらしいよ。君は気にしすぎないようにね。……ところで、シュトレンの仕込みは終わっているのかな?」
「おおむね。あとは梱包し、熟成を待つだけで……」
「数を考えれば、梱包は森の外かな。……でも、外の人手って、足りるのかい?」
人手の大半はシュトレン作りに駆り出されているし、そもそも外に出られる人員はそう多くない。尋ねる形をとっているが、シャイネは答えを知っている。今のはただの確認だ。
「……うん、オフィスで少し声をかけてみようか」
リプレイ本文
●
エルヴィンバルト要塞の厨房では歓声があがっていた。特に下っ端調理員の声が多い。
「皮ごと洗って、浅く切れ目を入れてから茹でた方が……」
なるべく薄く皮を剥くための労力は肉体的にも精神的にも少なくない。それに茹でた時に崩れる芋も勿体ない。手順を説明されて思わず呟いたルカ(ka0962)に是非にと教えを乞うたのはイサークで、どうせたくさんあるのだからと試した方法は何とも画期的。
次から全部この方法でいくぞ! なんて盛り上がる厨房の勢いに曖昧に笑ってからルカはそっと離れた。師団の厨房は仕込み量が多く、調理員も体格が良い男が多い……控えめに言っても暑苦しくて、騒がしいのだ。
イヴ(ka6763)も一緒に歓声を上げていた。
「すごい! これなら煮溶かさない……よな?」
練習もしているし大丈夫と信じたいけれど、不安に思った時点で失敗を約束してしまった気がする。
「茹でる以外のところをやることにするぞ。念のためだ!」
言いながら芋の芽を抉り、洗うためのザルに入れていく。迷ってるより手を動かした方がよいわけで。
「切れ目を入れるのも任せてほしい。芋の声を聴けば、剥きやすい場所を教えてくれるんだ!」
なんてったってじゃがいも農家だからな!
土ーの中で よく寝たぞー
たくさん力を 蓄えたー
いーもっ いーもっ
ころころ丸くー♪
「よーし、洗ってく傍から茹でちゃって!」
私が煮る必要がないと一番いいな!
洗った芋を鍋に入れたらすぐに離れるイヴ。フラグ回避は徹底している!
チーズクリームを黙々とかき混ぜるルカは時々、額に浮かぶ汗をぬぐう。
(本当……力技ですね)
持久力も鍛えられそうだ。実際クリームはもったりと重い。明日は腕が張りそうだ。
考えると妙に疲れてしまう気がしたので、あえて別の事を考える。
「……調理便利グッズ、あれば大活躍ですよね」
洗いながら皮が剥ける手袋なんて特に。毎日の食事の支度もあるはずで……あとでそちらの仕込みも手伝う事にしようか、なんて思いながら。
つるんと剥けてー ほっくほくー
卵じゃないぞ 芋肌だー
いーもっ いーもっ
ほかほか甘い―♪
イヴの即興お芋唄は二番になっている。
「ついつい出ちゃうんだよね」
煩かったかなと周囲を見回せば、気にするな、とカミラ。
「楽しく手が動くのが一番だろう?」
●
「いやーまさか帝国の激マズ飯がこんなに食べれるようになってるなんて……ん?」
揚げ芋を食べながら歩くフワ ハヤテ(ka0004)の目に映るのは、蜜衣に包まれた木の実を売る屋台。
「見てごらんリディ、あれエルフハイムのお菓子じゃないかい?」
「ん……」
口の端についたヴルストの肉汁をぺろりとなめとり、リンランディア(ka0488)もハヤテが示す先に視線を巡らせる。乾燥食品の店にはドライアップル、アクセサリーの陳列棚に木彫りの小物、日持ちする菓子屋台の一角に件の木の実。確かに他の商品よりもマテリアルを多く感じとるような、どこか懐かしいような感覚を二人とも感じている。
「目に見えて色々増えたね。前はほぼ芋しか無かった気がしたのに」
「確かに。でも、この時期に来たら芋は絶対に食べなきゃと思ってしまう」
実際に食べていたそれを分けようと差し出すハヤテに、有難うと受け取るリディ。かわりに持っていたエールのカップを渡して交換だ。
「うん、この組み合わせは定番だよね」
これを食べきったら、シードルと木の実で甘い組み合わせに変えようか。
芋祭の間は、いつもよりほんの少しだけ、抑えた色合いの服を身に着ける。
(お忍び抜き打ち視察旅行☆コーディネートなんダヨね)
口の中で収まる程度の声でアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は呟く。誰に伝えるわけでもなく、きっと自分の中に有る貴族の血に向けて。
外はさっくり、中はしっとり。ポテトアップルパイを食べながら、ミア(ka7035)は賑やかな中人の流れに任せて屋台を巡っていた。
(そういえば……ひとり、は久しぶりニャスな……)
一族の外に出てすぐは当たり前だったのに、今のミアは誰かと一緒にいることが多くなった。
隣にはいつも姉猫がいてくれて、大切な仲間達もいる。
死んだ兄と同じ、あたたかい背中をしている人もいて。
生意気な黒猫も、最近は少し……優しいときがある、ような?
それから……賑やかな場所で笑いあって――
「こんなところでクリスマスマーケットに参加できるなんて……」
軽快な足取りで歩む穂積 智里(ka6819)は、ふと気づいて首を傾げる。
「でも、こちらなら聖輝節市場とか言うんでしょうか」
傾ぎかけた身体を抱きとめるように支えるのはハンス・ラインフェルト(ka6750)。その目には愛情と、微かな安堵が浮かんでいる。
(嬉しそうなマウジーが見られて……来てよかったです)
ハンス自身も故郷に近い空気を持つ街に馴染みやすさを感じている。
「ありがとうございます、ハンスさん」
居住まいを正す智里。
「いつかおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に、おばあちゃんの故郷のクリスマスマーケットに行ってみたいなって思っていて」
感謝の言葉は支えてくれたことだけが理由ではない。この空気を持つ場所で共に時間を過ごせることにどれだけ感謝をしているか、伝えたくて。
「ここなら、探せばライブクーヘンもグリューワインもありそうですよね」
「定番メニューは外れがないのがいいよね~」
その上で店ごとのちょっとした違いを見つけるのが楽しいのだ。カルヴァドスだけは干すたびに次を買い、カップを空にしないようにしながら、グラディート(ka6433)は雲雀(ka6084)の隣を歩き、食べ歩きに興じている。
「雲雀ちゃん、これ美味しいよ~?」
確実なのは甘いものかな、とアップルパイを差し出すディ。その視線は楽しげに細められていた。
(デートではないのです、食べ歩きなのです)
気を抜くとすぐに頬が緩みそうで、両手は自身の頬を抑えるように添える。隣の気配に意識も向くし、屋台の目印や文字へも視線は向くのだが、どうしても自分を律したくてままならなくなっている雲雀である。
「……あ~ん?」
焼き色も香ばしい差し出されたそれを、無意識に受け取って口へ運ぶ。
(本当、色々ありますねぇ……これは何と言っていたでしょーか)
柔らかくなった林檎の酸味と甘みが口の中に広がる。むぐむぐ咀嚼しながらふと、閃いた。
(これって、餌付け……?)
酒ある所は良いところ、飯が美味けりゃ人入りドンドン倍率ドン!
「布教日和ですねぇ」
ジュースさながらにシードルを飲み干すのはシレークス(ka0752)。勿論もう片方の手にはしっかりヴルストを掴んでいる。
「日々のお勤めにも精が出せるというもので」
言いながらおかわりでアクアヴィットを購入。カソック着用の彼女を誰も止めないし台詞にも気を払わない。なにせどう見ても酔っ払いなので。建前っぽい台詞も気づかないふりをしてくれる。収穫祭にはお酒、誰しもパァーっと開放的になるものだから!
その横に居る素面のサクラ・エルフリード(ka2598)が護衛らしく見えたのが良かったのかもしれない。
「私にも一口……」
「サクラ、おめー何時も何時も油断ならねーですねぇ」
美味しそうな様子を見れば呑みたくもなる。いつも阻止されていることを思えば叶わないのは解っているのだけれど。
「言ってみただけです。にしても、ジュースってあまり見かけませんね」
見回せば大体が酒である。果実水くらいは、と探したサクラに甘い香りが届いた。
「湯気? ……ですかね」
爽やかさも混じる香りに近づけば、林檎酢の湯割り。季節柄寒くなっているため、冷やしたジュースよりはこちらが今の主流とのこと。
「あたたかい……」
酒で火照るのとは違うが、確かに芯から温まる。
「お酒が飲めないのが残念ですが、こうなったら食べる方で楽しむことにします……」
ほぅ、と白い息を吐くサクラ。
「全種類制覇と行きますよ……!」
「見つけるまで、競争にしませんか?」
言いながら先を進む智里の手に道行を任せ、視線を巡らせたハンスはライブクーヘンの屋台を見つけた。
「ありましたね」
聞こえない程度の小声。あまりに早く見つけてしまっても面白味はないだろうし、なにより。
(私はマウジーが楽しそうなら何でもいい)
拗ねた顔も嫌いではない、むしろ可愛らしいと思うが。折角だから今浮かべている笑顔をもうしばらく眺めていたい。
(帰りに買えばいいですね)
場所を覚えておけばいいだろう。
立ち止まった雲雀の顔をじっくりと覗き込むディ。
「アップルパイだよ、美味しい?」
「ち、違うのですっ」
至近距離、甘い微笑みつき。真っ赤にならない訳が無くて。
「……美味しくなかった?」
「美味しいですけど、今のはそうじゃなくて! と、鳥なのは名前の話だけなのです!」
雲雀の心中を察しつつも、ディの攻勢は緩まない。
「雲雀ちゃんには早かったかな~?」
こんなに真っ赤になっちゃって、可愛いけどね♪ するりと頬を撫でる。
「ッ! 雲雀も立派なレディなのですよ……と、いうかディ、それはお酒ではないです?」
ストレートのカルヴァドスの強い香りが鼻腔を擽る。
「そうだよ? 飲んでみる?」
強いから舐めるだけに、とディが言い切る前に、雲雀はカップを傾けていた。
(ディが呑んでるなら雲雀も大丈夫ですかね)
こくこくこく
「香りがいいからおいし……勢いつけすぎだって!?」
ふらっ……
「っと」
傾ぐ雲雀の身体を支えて、カップも難なく受け止める。残りはくいっと飲み干して。
「雲雀ちゃん?」
腕の中の温もりを見下ろせば、赤い顔のまま、静かに寝息をたてている。
「仕方がないなぁ、お持ち帰りだね♪」
背と膝裏に腕を回し抱き上げ帰路につくディ。
口元が緩んでいる雲雀姫はきっと、良い夢を見ているのだろう。
●
「よしっ、最初はビールだ!」
食器を取り出すのは藤堂研司(ka0569)。
味めぐりなら酒用のカップと皿も必要だと、金槌亭の親父が貸してくれたのだ。専用のジョッキなら美味しく楽しめるし、なにより、どれも容器ごと買うより安い!
「地ビールって感じがたまらーん!」
蒸かし芋の品種を確認しながら少しずつ食べ比べる。時折、塩やスパイスを入れて風味付けされたものもあって予想以上に飽きが来ない。黒ビールを見つけてこちらも追加。止まらないんだな、これが。
「お、アクアヴィット!」
ハンター生活最初の仕事を思い出し、懐かしさに自然と目を細めた。
石焼き芋に近い匂いを辿った研司が見たものは、第三師団の組み立て式竈。この時期は屋台用として貸し出しているようで。
「思ってた以上に野外料理だ」
馴染みがありすぎてむしろ笑える。焼き芋の店主に手続きを聞いて、師団の屋台に行くことにした。
シャーリーン・クリオール(ka0184)は師団の屋台の隣で腕を振るっていた。
「今日は菓子の予定なのだが」
一晩寝かせた生地を見せながら手伝いを申し出たのだが。互いに香りを邪魔しないし、食べ比べで両方購入なんて狙える、なんて笑顔付きで歓迎されたのだ。
芋と蕎麦粉を使った生地は薄く焼いてレースのように皿に盛る。コケモモのジャムとカットした詩天の琵琶を添えるけれど、客の好みも訊いて量はどちらかに寄せることも可能だ。何よりも生地を焼く時の甘い香りが常に漂うのがとても効果的な客引きになる。ちいさな子は親に抱え上げられて、シャーリーンがくるくると生地を伸ばすトンボの動きに目を輝かせていたりする。
「もうエンターテインメントの域じゃねぇか!」
出来たばかりのマッシュポテトを運んできた研司の目も輝いている。
「ふふ、慣れたら自然とこういう動きになるのさ」
やってみるかい?
「是非! 勿論失敗したら自分で買って食べるな」
「多めに用意してるし大丈夫さね」
四つ割の琵琶を包み込んだパイはひとつが小さいから食べやすい。
「はーい! おまたせしましたっ♪」
瑠璃色の鳥のシルエット模様が入った紙袋を二つ、客に差し出すのはノア(ka7212)。
「袋の角を折ってある方がお子さん用です!」
自分で持ちたいと手を伸ばしてくる少年に気付いて、親の方へと目配せで確認。
「気をつけて持ってね? 人がたっくさん居るところでおいしそーに食べてくれたらお姉さん嬉しいな! ……なーんてね♪」
そのまま見送るノアの背に、焼きたてを補充に来たシャーリーンが声をかける。
「お疲れ様だ、休憩がてら……味見の仕事なんていかがかな?」
「いいの!? ふふっ、いただきます♪」
さくっとしたパイ生地を齧れば、口の中にブランデーの香りが広がる。こちらは成人向けの方。少年に渡した子供向けはクリーム入りで、そちらもシャーリーンが差し出している。
「食べ比べにこっちもな」
「ぅう~~っ おいっしい!」
その満面の笑顔が決め手になって、注文客が増えていく。
「にっく~にっく~♪ ポテト、フライ、ふかし芋~♪」
持ち手としても使えるように骨が刺さった状態のヴルストを齧りながらボルディア・コンフラムス(ka0796)は屋台を巡っている。ぷしゅっと腸が破れる音を追いかけて肉汁が口の中にあふれた。
「んん~♪」
「いい食べっぷりですねお姉さん♪ こちらもどうですか!」
エプロンをひらめかせてノアが差し出すのは研司作のマッシュポテトのイチイソース掛け。鮮やかなソースが芋から出る湯気を吸って更に輝いている。
「今ならほっくほく! 出来立てですよーっ♪」
美味しそうという視界への攻撃からの、美味しさを保証する追撃の言葉。
「ちょうどよく芋だな! よしもらった!」
「ありがとうございまーす♪」
「あとはフライも……っと」
ふとボルディアの視界に入ったのは第三師団のエンブレム。ポテトアップルパイの屋台だ。
「なあ、ここでもケーキバトルロイヤルやってんだっけ?」
顔くらい出してみようかと聞いてみれば、アルバイトの応募かと喜ばれる。
「いや買いに……いいか。俺もやってやるよ、要塞に行けばいいんだな?」
「新顔さんが居るのカナ?」
例年同じ場所に立つ師団の屋台へと足を運べば、目新しい料理が並んでいて。ぱちくりと見回せば見覚えのある顔がちらほらと。
「アルヴィンさんいらっしゃい!」
「藤堂氏ー☆ ……は、体験入団なのカナ?」
「竈を借りてるんですよ!」
なるほど助け愛。頷いて、差し出された一皿をぱくり。
「ンン、このソースが新しいネ☆」
「わかりますか!」
「さっぱりで美味シイ!」
「なんださっきの変なトラック」
移動可能な射撃台か。そんな呟きがボルディアから零れる。
「店員が乗ってたら目立つだろう?」
二人とも見目良いからなと自慢げなカミラ。追加納品に向かうトラック、その見送りに出ていたらしい。
「……なあ、バイトにまかないって出たりしねぇ?」
折角の機会だと聞いてみる。
「休憩時の片手間でいいなら作るぞ?」
よし、屋台じゃねーが美味いもんゲット!
●
屋台の甘い香りに、高瀬 未悠(ka3199)は吸い寄せられていく。
「待っていてね、今食べにいくから……」
「高瀬さん?」「未悠ちゃん?」「未悠さん?」
三人の声が重なった。少しずつ違っても、全て未悠を呼ぶ声。
「はっ……いけない」
名残惜しくてまだ視線は揺れ動くけれど。
「なら、お茶請けに少し買っていきましょうか」
「アップルパイ買ってきます!」
「私はタルトを。手分けしたほうが早いですよね」
「ユメリア! ……って、あら?」
感激してユメリア(ka7010)に抱きつこうとした未悠の横を、ルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエ(ka3783)がそれぞれ駆けだしていく。
「「すぐ戻ります!」」
先に行ってて下さい!
「お言葉に甘えて、行きましょうか」
「あの店のお菓子も、どうかしら……?」
「じゃあそちらもですね」
通りがけの素敵な香りを少しずつ買い込んで、雑貨屋への道を歩んでいく。
出店で見つけた干し果物の入った袋に笑顔を零すのはリアリュール(ka2003)。冬支度の余剰品の中でも嗜好品は人気だ。差し入れにと買い込んで事務所へと向かっていく。
「少し多いけど……日持ちするものだしね」
そっと香りをかげば爽やかな甘みが感じられた。残っても事務所の備蓄にしてもらえばいい。御礼も兼ねていると言えば受け取ってもらえると思うし。
(甘いものって気が安らぐとも言うしね)
お茶会の参戦まで、あと少し。
巫女達もいないだろうかと、そわそわした足取りで事務所を訪れた夢路 まよい(ka1328)の耳に、楽しげな声が聞こえる。
「こんにちはー、アルバイトに来たよ!」
「「「まよいちゃん!」」」
丁度休憩中だったのだと、我先にと案内する巫女達に連れられてお茶会に席を用意される。
「わっ……って、私が労うつもりだったのに」
「この後で説明させていただく予定ですから」
大丈夫ですよ、とパウラがユメリアの淹れたお茶を目の前に置く。
「これとかお勧めっ」
差し出されたのはポテトアップルパイで。
「わぁこれ知ってる、師団の屋台のやつでしょ? 今年もあるんだね~」
一口食べて、変わらない味に頷いた。
包み方の説明に入ったあと、七色の紙の特性をより活かしたいと告げるリアリュールに、目を輝かせる少女達。
「皺加工……わざと皺をつけるのは如何? どんな光の角度でも反射してくれて目立つし、より綺麗に見せてくれると思うのよ」
続いてエステルがそっと差し出すのはいくつかのリボン。虹色の一本は幅広で、それぞれの一色だけを抜き出したような細いリボンが、7本。
「赤は恋愛運、黄は金運、緑は交友運とか……意味をつけてみたらどうでしょう?」
虹で全ての幸運を祈って、特別に添えた一色は中でも一番相手に届けたい祈りを込めてみたりして。
まよいの声が続く。
「運って付きそうな言葉か~……願望運、とか?」
願いが叶いますように、って祈ってもらえたら嬉しいんじゃないかな?
「私が祈るなら健康を……橙かしら」
リアリュールからもひとつ。多忙な長老が体調を崩さないだろうかと、心配が頭をよぎったせいだろうか。
包み方は各自に任されることになった。森都だって森の外と同じように色々なヒトがいるのだと、そんな意味も持たせて。
この日の梱包分から、リアリュールが作った印が箱に押されるようになった。枝葉が茂る生木の杖を土台に、エルフハイムのデザイン文字が並ぶ。箱でも紙でも、万能な印は今後の商品展開に用いられることになる。
気付けば大通りを抜けていて。ミアの目の前には雑貨屋があった。
珊瑚珠色のリボンに目を惹かれ、そっと手に取る。どれくらいの長さで切ってもらうか考えながらふと、思い出す。
「お土産でお菓子を買わニャいと」
甘い香りが漂っているせいだろうか。
「人手が足りないニャス?」
リボンの代金を払いながら店主に聞けば、二階の事務所に仕事があるらしい。
「……それ、終わったら買っていっても構わニャい?」
虹みたいに豊かな味なのか、皆と一緒に楽しめたらと思いついたから。
「猫の手でよければお貸しするニャスよ♪」
雑貨屋で、自身の瞳の色を写し取ったようなリボンをみつけたハンスは智里へのプレゼントに購入を決める。
「行ってみませんか、ハンスさん」
気付いた智里が照れ隠しに逸らした視線の先に、アルバイトの貼り紙だ。二人きりで過ごす時間を強く意識してしまったらしい。
「それじゃここでバイトして、帰りは」
「カリーヴルストも探さないと!」
被せるような言葉に目を瞬かせるハンスと、真っ赤な智里。
「シュトレンを買っていきましょう、と言うつもりで……でも、そうですね、それも食べて帰りましょうか」
ライブクーヘンの店も見つけてありますよ。
「……えっ、いつの間に見つけていたんですか!?」
ほっとした様子を見せてすぐ、驚いて、少し膨れた様子にかわって。忙しく表情を変える智里に、ハンスは熱を含む瞳のまま笑みを返した。
●
ワンピースに木の葉飾りを首から下げて。足に布を巻いた上から、編み上げたデザインのサンダルを重ねすっきりと。肩から大判のストールを掛け、ブローチで留める。
巫女達の衣装と揃うように着替えたユメリアの隣には、軍服姿の未悠がエスコートで控えている。
(誘惑に負けちゃ駄目。これは配る為のものなのだし)
すぐ傍にあるシュトレンの香りに我慢の限界が近い。
「高瀬さん、あーん♪」
味見だから少しですよ?
微笑んでユメリアが差し出す、試食用の一切れ。大きさが足りない、部分的に焦げてしまった等のいわゆるB級品が事務所の一角に詰まれていたのだ。
アルバイト料とは別に、手伝いへの礼の足しになるかもしれないと考えて置いてあったのだが。未悠の提案で試食に使うことになったのだ。
「ん~~美味しいっ♪」
「よかった……この味を知った私達で、笑顔で伝えていきたいです」
あなたの笑顔が私の幸せ。この気持ちで踊れば、それはきっと。
「幸せの舞を、共に踊りませんか?」
「ええ、喜んで!」
お茶会でお菓子もたくさん貰ったけれど。やっぱり包んでいるうちに、漂う香りに誘惑されてしまう。
「美味しそう!」
我慢できなくなった食いしん坊がひとり。ユノ(ka0806)が涎を拭く仕草でじっと耐えている。大丈夫、袖はまだ濡れていない!
「でもこれは商品なのだ……」
頭上のパルムから守る様に、大事に運ぶための箱に詰めていく。
「試食用に切り分けた分、まだあるみたいだけど」
演奏前の調律をしようと通りがかったルナが気付いて、ユノに声をかける。
「本当!?」
「パウラさんに言えばだしてもらえるんじゃないかな」
「行ってくる! ありがとー!」
すぐに駆けていく背を見送って、ルナが微笑む。
(勢いがある笑顔っていうのも、今日みたいな日には必要かな)
演奏はもうすぐ。呼吸を整えて、リハーサルで、にっこり。
Suiteが響かせる音に、フルートが主旋律を重ねる。ルナは未悠と色違いの軍服風の上着を重ねて、エステルはユメリアと揃いのワンピースに、虹色のリボンを靡かせて。
軽快に、架け橋のポルカが始まる。
喉が乾けば潤い満たす水を
戦う貴方に労いの気持ちを
差し出す手には輝く笑顔を
祈る貴女に感謝の気持ちを
踊りましょう手を取り合って
繋いだ手の温もりは新しい道標
雨のヴェールが遮る道に差し込む光で橋をかけましょう
踊りましょう支え合って
共に歩いた道が見守ってくれるから
音に誘われ広場に出れば、ポルカがまさに最高潮。
同じく来たばかりの人々が首を傾げているのに気づいて、アルヴィンはにんまりと笑みを浮かべた。くるりと回ってお辞儀をひとつ。
「森都からの祈りが籠もったセレモニーみたいダヨ☆」
あまり響かない程度の声量。ほんの少し、自分の周囲の人々の気を惹くくらいに。だってほんの手助け程度だ。
「演奏してる子達がきっと、教えてクレるんじゃナイ?」
二人のお手本が終わった後に、師団兵が巫女達へとダンスへと誘う。答える少女達の笑顔は歌の通り輝いて。
ユメリアの歌声を一番近くで聞きながら、未悠は試食をのせたトレイを持って踊りながら観衆へ勧めていく。
「聖輝節にシュトレンはいかがですか」
帝国と森都それぞれの特産品を使っているのだと、ルナが口上を述べる。演奏はベースの音におさえて、主旋律はエステルが担っている。
「リゼリオでの出店ですが、雑貨屋さんの二階……ユレイテル長老の事務所でも販売しています!」
踊りの間の一呼吸、間奏のタイミングでエステルも声を張り上げる。
(大丈夫? あまり休めていないけど)
喉が疲れないだろうかと心配するルナの視線にエステルが笑って頷く。
(だってほら……)
視線を向ければパウラが樹のカップを差し出している。蜂蜜入りのハーブティ。きっと飲みやすい温度になっている筈だ。
(ここが頑張りどころだと思えて楽しいから、かな)
人々の緩む頬を見て、美味しさは確実に伝わったとわかるから。
「ぜひ貴方の大切な人と一緒に食べてね。ラッピングもとても可愛いのよ」
笑顔で伝える未悠の一言に背を押された人は少なくないだろう。
「まさか帝国で観ることになるとは思わなかったよ」
商品が増えたことだけでなく。こうして手をとりあって、笑顔を零す様子はそれこそ難しいことだと、ずっとそう思っていた。
別に時世を読んでいないわけじゃない。こうして目にするまではどこか遠い場所のように思っていただけだ。
ポルカで盛り上がる広場を背にし、ゆっくりと歩みを再開するハヤテ。
「僕らには時間だけはあるからね」
隣を歩くリディも頷く。
「そのせいで、もっとかかるように思ってしまっただけかもしれないよ」
でも今日のように変化を目の前にしたら、まだ見えない世界の行く末も明るい気がして。
「森の奥に引きこもるまで、ゆっくりと見守るのも一興、かな」
視線は前を向いたまま、ハヤテの気配を伺う。
(今くらいは息抜きをしていてもいいだろう?)
言葉に出ないリディの想いは、ハヤテが手を引くことで満たされる。
「そうさ、時間だけは腐るほどあるのがボク等の取り柄だ」
各自で、ではなく。二人で一緒に。
「さあ、あっちにも美味しそうなのがあるよ」
まだ見ぬ店を目指して喧噪へと紛れていく。
食べきれなくても持ち帰ればいい。共に過ごす時間はまだ、たくさんあるのだから。
「ごー♪」
大通りを経由して、ポルカの音が事務所まで聞こえてくる。弾んだ声でロボットクリーナーのスイッチを入れるユノ。
「こちらでやりますのに……」
「いーのいーの。折角だし大掃除しちゃお?」
皆がポルカに出ている中、パウラとユノが留守番役。人が居ない今が好機と掃除大会になっていた。
「他は大丈夫ー? ひとっ飛びしてくるよー?」
買い出しとか、急ぎの連絡とか?
「ありがとうございます、今は大丈夫ですよ」
「終わったらまたお腹すいちゃうかな?」
「皆さんが戻ってらっしゃるでしょうし、屋台ごはん巡りに行きましょうか?」
「いいねー☆」
巫女達に混ざりポルカを踊っていたまよいが事務所に戻ってくる。事務所にあるシュトレンは全て包み終わっているし、今日の補充はもうないと聞いていたから。
「まだ時間あるし、皆で遊びに行っても大丈夫かな?」
友達兼護衛枠で、と頼み込む。何対もの期待の眼差しに折れた長老は、遅くならないうちに戻る様に、と保護者発言をして巫女達を街へと送り出した。
●
テーブル席を選んだのは、ゆっくりと話をしたいからだ。特製ヴルストの旨味が溶け込んだポトフや、濃厚な卵ソースをかけた白身魚のフライ。温野菜サラダには酸味の強い林檎を使ったドレッシング……頼んだ料理と酒を囲んで。
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は料理を楽しみながらも、タイミングに迷っていた。
「……聞くよ?」
ヨルムガンド・D・L(ka5168)がグラスを置いて、愛妻を促す。瞳に映りこむ迷いのような何かを気付いていない訳が無くて。
「のぅヨルガよ、前に話したことがある筈じゃが……」
ほんの少し、空気を改めるための間を置いて紡ぐ。
「リッター……我の愛馬のかたきと戦ってこねばならぬ」
「へー……また戦いに行くんだ」
こくり、息をのむ。どこか単調な返しに感情が読めなくて、緊張が高まる。
「家を空けることになるのじゃ。無事で帰ってくる事は、約束するから……」
「いいよ」
「行かせてはもらえぬか? ……って、いいのか!?」
「いいよ?」
それだけ強い感情を籠めて、闘志を秘めた瞳の美しさを陰らせる気はヨルガにはない。
(俺だけを見て、俺だけにその瞳を向けてくれればいいって、思っていたけど)
その想いは弱まったわけではなく、今も胸の内にある。
(命を賭してもやりたい事があるなら、黙って背中を押して邪魔しないのが甲斐性)
そうして輝く様子も好きで。いつまでも宿していて欲しいと願っているから。
「この料理、美味しいですね……。どうやって作っているのでしょう……」
「考えてばかりじゃ次に行けらねぇのですよ?」
新しい味に出会う度に立ち止まり、考え込もうとするサクラをシレークスが引っ張っていく。
「今度自分でも作ってみましょうか……」
「おめー何考えてやがりますか、そんなの」
酒をねだるよりましだろうか、ダメと言って反発させるよりはいいだろうかとシレークスが首を傾げる。
「……大丈夫、包丁を使わず剣で斬れば普通に料理出来ますから」
「菊理媛が泣きながら夢に出そうだからやめてあげやがれです」
やはり阻止しなければならないらしい。レシピチェックの為に腰を据えそうなサクラの腕を、ぐいと引いた。
「サクラ、巫女が居るみたいですよ!」
見覚えのある少女巫女の顔を見つけ、合流を測ることにする。
「ほら、いきやがりますよ!」
「……ふふ、そうかえ」
ぽかりと口を開けていたことに気付いてから、くすくすと笑いだすヴィルマ。戦いが近いせいで目を曇らせていたのかもしれない。
「霧の魔女が己の視界を狭めてどうするのじゃろうな」
改めてグラスを持てば、ヨルガもあわせてカチンと鳴らす。
「だとしても……俺が見つけるから大丈夫」
目を細めた笑みも添えられ、酒のせいだけではない熱が魔女の頬を染める。
「っ……我はそなたに甘えてばかりじゃなあ」
勢いをつけるように飲み干す。
「ヨルガも、我に我が儘言って良いからのぅ」
「それじゃあ……いっぱい美味しいもの食べて、力を付けないとね」
でもお酒は程々に。干したグラスを奪われて、軽く頬を膨らませる。
「今日は、旦那様が居るから大丈夫じゃろ?」
悪戯に笑いかければ、ウインクが返る。
「……仰せのままに、奥様?」
エルヴィンバルト要塞の厨房では歓声があがっていた。特に下っ端調理員の声が多い。
「皮ごと洗って、浅く切れ目を入れてから茹でた方が……」
なるべく薄く皮を剥くための労力は肉体的にも精神的にも少なくない。それに茹でた時に崩れる芋も勿体ない。手順を説明されて思わず呟いたルカ(ka0962)に是非にと教えを乞うたのはイサークで、どうせたくさんあるのだからと試した方法は何とも画期的。
次から全部この方法でいくぞ! なんて盛り上がる厨房の勢いに曖昧に笑ってからルカはそっと離れた。師団の厨房は仕込み量が多く、調理員も体格が良い男が多い……控えめに言っても暑苦しくて、騒がしいのだ。
イヴ(ka6763)も一緒に歓声を上げていた。
「すごい! これなら煮溶かさない……よな?」
練習もしているし大丈夫と信じたいけれど、不安に思った時点で失敗を約束してしまった気がする。
「茹でる以外のところをやることにするぞ。念のためだ!」
言いながら芋の芽を抉り、洗うためのザルに入れていく。迷ってるより手を動かした方がよいわけで。
「切れ目を入れるのも任せてほしい。芋の声を聴けば、剥きやすい場所を教えてくれるんだ!」
なんてったってじゃがいも農家だからな!
土ーの中で よく寝たぞー
たくさん力を 蓄えたー
いーもっ いーもっ
ころころ丸くー♪
「よーし、洗ってく傍から茹でちゃって!」
私が煮る必要がないと一番いいな!
洗った芋を鍋に入れたらすぐに離れるイヴ。フラグ回避は徹底している!
チーズクリームを黙々とかき混ぜるルカは時々、額に浮かぶ汗をぬぐう。
(本当……力技ですね)
持久力も鍛えられそうだ。実際クリームはもったりと重い。明日は腕が張りそうだ。
考えると妙に疲れてしまう気がしたので、あえて別の事を考える。
「……調理便利グッズ、あれば大活躍ですよね」
洗いながら皮が剥ける手袋なんて特に。毎日の食事の支度もあるはずで……あとでそちらの仕込みも手伝う事にしようか、なんて思いながら。
つるんと剥けてー ほっくほくー
卵じゃないぞ 芋肌だー
いーもっ いーもっ
ほかほか甘い―♪
イヴの即興お芋唄は二番になっている。
「ついつい出ちゃうんだよね」
煩かったかなと周囲を見回せば、気にするな、とカミラ。
「楽しく手が動くのが一番だろう?」
●
「いやーまさか帝国の激マズ飯がこんなに食べれるようになってるなんて……ん?」
揚げ芋を食べながら歩くフワ ハヤテ(ka0004)の目に映るのは、蜜衣に包まれた木の実を売る屋台。
「見てごらんリディ、あれエルフハイムのお菓子じゃないかい?」
「ん……」
口の端についたヴルストの肉汁をぺろりとなめとり、リンランディア(ka0488)もハヤテが示す先に視線を巡らせる。乾燥食品の店にはドライアップル、アクセサリーの陳列棚に木彫りの小物、日持ちする菓子屋台の一角に件の木の実。確かに他の商品よりもマテリアルを多く感じとるような、どこか懐かしいような感覚を二人とも感じている。
「目に見えて色々増えたね。前はほぼ芋しか無かった気がしたのに」
「確かに。でも、この時期に来たら芋は絶対に食べなきゃと思ってしまう」
実際に食べていたそれを分けようと差し出すハヤテに、有難うと受け取るリディ。かわりに持っていたエールのカップを渡して交換だ。
「うん、この組み合わせは定番だよね」
これを食べきったら、シードルと木の実で甘い組み合わせに変えようか。
芋祭の間は、いつもよりほんの少しだけ、抑えた色合いの服を身に着ける。
(お忍び抜き打ち視察旅行☆コーディネートなんダヨね)
口の中で収まる程度の声でアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は呟く。誰に伝えるわけでもなく、きっと自分の中に有る貴族の血に向けて。
外はさっくり、中はしっとり。ポテトアップルパイを食べながら、ミア(ka7035)は賑やかな中人の流れに任せて屋台を巡っていた。
(そういえば……ひとり、は久しぶりニャスな……)
一族の外に出てすぐは当たり前だったのに、今のミアは誰かと一緒にいることが多くなった。
隣にはいつも姉猫がいてくれて、大切な仲間達もいる。
死んだ兄と同じ、あたたかい背中をしている人もいて。
生意気な黒猫も、最近は少し……優しいときがある、ような?
それから……賑やかな場所で笑いあって――
「こんなところでクリスマスマーケットに参加できるなんて……」
軽快な足取りで歩む穂積 智里(ka6819)は、ふと気づいて首を傾げる。
「でも、こちらなら聖輝節市場とか言うんでしょうか」
傾ぎかけた身体を抱きとめるように支えるのはハンス・ラインフェルト(ka6750)。その目には愛情と、微かな安堵が浮かんでいる。
(嬉しそうなマウジーが見られて……来てよかったです)
ハンス自身も故郷に近い空気を持つ街に馴染みやすさを感じている。
「ありがとうございます、ハンスさん」
居住まいを正す智里。
「いつかおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に、おばあちゃんの故郷のクリスマスマーケットに行ってみたいなって思っていて」
感謝の言葉は支えてくれたことだけが理由ではない。この空気を持つ場所で共に時間を過ごせることにどれだけ感謝をしているか、伝えたくて。
「ここなら、探せばライブクーヘンもグリューワインもありそうですよね」
「定番メニューは外れがないのがいいよね~」
その上で店ごとのちょっとした違いを見つけるのが楽しいのだ。カルヴァドスだけは干すたびに次を買い、カップを空にしないようにしながら、グラディート(ka6433)は雲雀(ka6084)の隣を歩き、食べ歩きに興じている。
「雲雀ちゃん、これ美味しいよ~?」
確実なのは甘いものかな、とアップルパイを差し出すディ。その視線は楽しげに細められていた。
(デートではないのです、食べ歩きなのです)
気を抜くとすぐに頬が緩みそうで、両手は自身の頬を抑えるように添える。隣の気配に意識も向くし、屋台の目印や文字へも視線は向くのだが、どうしても自分を律したくてままならなくなっている雲雀である。
「……あ~ん?」
焼き色も香ばしい差し出されたそれを、無意識に受け取って口へ運ぶ。
(本当、色々ありますねぇ……これは何と言っていたでしょーか)
柔らかくなった林檎の酸味と甘みが口の中に広がる。むぐむぐ咀嚼しながらふと、閃いた。
(これって、餌付け……?)
酒ある所は良いところ、飯が美味けりゃ人入りドンドン倍率ドン!
「布教日和ですねぇ」
ジュースさながらにシードルを飲み干すのはシレークス(ka0752)。勿論もう片方の手にはしっかりヴルストを掴んでいる。
「日々のお勤めにも精が出せるというもので」
言いながらおかわりでアクアヴィットを購入。カソック着用の彼女を誰も止めないし台詞にも気を払わない。なにせどう見ても酔っ払いなので。建前っぽい台詞も気づかないふりをしてくれる。収穫祭にはお酒、誰しもパァーっと開放的になるものだから!
その横に居る素面のサクラ・エルフリード(ka2598)が護衛らしく見えたのが良かったのかもしれない。
「私にも一口……」
「サクラ、おめー何時も何時も油断ならねーですねぇ」
美味しそうな様子を見れば呑みたくもなる。いつも阻止されていることを思えば叶わないのは解っているのだけれど。
「言ってみただけです。にしても、ジュースってあまり見かけませんね」
見回せば大体が酒である。果実水くらいは、と探したサクラに甘い香りが届いた。
「湯気? ……ですかね」
爽やかさも混じる香りに近づけば、林檎酢の湯割り。季節柄寒くなっているため、冷やしたジュースよりはこちらが今の主流とのこと。
「あたたかい……」
酒で火照るのとは違うが、確かに芯から温まる。
「お酒が飲めないのが残念ですが、こうなったら食べる方で楽しむことにします……」
ほぅ、と白い息を吐くサクラ。
「全種類制覇と行きますよ……!」
「見つけるまで、競争にしませんか?」
言いながら先を進む智里の手に道行を任せ、視線を巡らせたハンスはライブクーヘンの屋台を見つけた。
「ありましたね」
聞こえない程度の小声。あまりに早く見つけてしまっても面白味はないだろうし、なにより。
(私はマウジーが楽しそうなら何でもいい)
拗ねた顔も嫌いではない、むしろ可愛らしいと思うが。折角だから今浮かべている笑顔をもうしばらく眺めていたい。
(帰りに買えばいいですね)
場所を覚えておけばいいだろう。
立ち止まった雲雀の顔をじっくりと覗き込むディ。
「アップルパイだよ、美味しい?」
「ち、違うのですっ」
至近距離、甘い微笑みつき。真っ赤にならない訳が無くて。
「……美味しくなかった?」
「美味しいですけど、今のはそうじゃなくて! と、鳥なのは名前の話だけなのです!」
雲雀の心中を察しつつも、ディの攻勢は緩まない。
「雲雀ちゃんには早かったかな~?」
こんなに真っ赤になっちゃって、可愛いけどね♪ するりと頬を撫でる。
「ッ! 雲雀も立派なレディなのですよ……と、いうかディ、それはお酒ではないです?」
ストレートのカルヴァドスの強い香りが鼻腔を擽る。
「そうだよ? 飲んでみる?」
強いから舐めるだけに、とディが言い切る前に、雲雀はカップを傾けていた。
(ディが呑んでるなら雲雀も大丈夫ですかね)
こくこくこく
「香りがいいからおいし……勢いつけすぎだって!?」
ふらっ……
「っと」
傾ぐ雲雀の身体を支えて、カップも難なく受け止める。残りはくいっと飲み干して。
「雲雀ちゃん?」
腕の中の温もりを見下ろせば、赤い顔のまま、静かに寝息をたてている。
「仕方がないなぁ、お持ち帰りだね♪」
背と膝裏に腕を回し抱き上げ帰路につくディ。
口元が緩んでいる雲雀姫はきっと、良い夢を見ているのだろう。
●
「よしっ、最初はビールだ!」
食器を取り出すのは藤堂研司(ka0569)。
味めぐりなら酒用のカップと皿も必要だと、金槌亭の親父が貸してくれたのだ。専用のジョッキなら美味しく楽しめるし、なにより、どれも容器ごと買うより安い!
「地ビールって感じがたまらーん!」
蒸かし芋の品種を確認しながら少しずつ食べ比べる。時折、塩やスパイスを入れて風味付けされたものもあって予想以上に飽きが来ない。黒ビールを見つけてこちらも追加。止まらないんだな、これが。
「お、アクアヴィット!」
ハンター生活最初の仕事を思い出し、懐かしさに自然と目を細めた。
石焼き芋に近い匂いを辿った研司が見たものは、第三師団の組み立て式竈。この時期は屋台用として貸し出しているようで。
「思ってた以上に野外料理だ」
馴染みがありすぎてむしろ笑える。焼き芋の店主に手続きを聞いて、師団の屋台に行くことにした。
シャーリーン・クリオール(ka0184)は師団の屋台の隣で腕を振るっていた。
「今日は菓子の予定なのだが」
一晩寝かせた生地を見せながら手伝いを申し出たのだが。互いに香りを邪魔しないし、食べ比べで両方購入なんて狙える、なんて笑顔付きで歓迎されたのだ。
芋と蕎麦粉を使った生地は薄く焼いてレースのように皿に盛る。コケモモのジャムとカットした詩天の琵琶を添えるけれど、客の好みも訊いて量はどちらかに寄せることも可能だ。何よりも生地を焼く時の甘い香りが常に漂うのがとても効果的な客引きになる。ちいさな子は親に抱え上げられて、シャーリーンがくるくると生地を伸ばすトンボの動きに目を輝かせていたりする。
「もうエンターテインメントの域じゃねぇか!」
出来たばかりのマッシュポテトを運んできた研司の目も輝いている。
「ふふ、慣れたら自然とこういう動きになるのさ」
やってみるかい?
「是非! 勿論失敗したら自分で買って食べるな」
「多めに用意してるし大丈夫さね」
四つ割の琵琶を包み込んだパイはひとつが小さいから食べやすい。
「はーい! おまたせしましたっ♪」
瑠璃色の鳥のシルエット模様が入った紙袋を二つ、客に差し出すのはノア(ka7212)。
「袋の角を折ってある方がお子さん用です!」
自分で持ちたいと手を伸ばしてくる少年に気付いて、親の方へと目配せで確認。
「気をつけて持ってね? 人がたっくさん居るところでおいしそーに食べてくれたらお姉さん嬉しいな! ……なーんてね♪」
そのまま見送るノアの背に、焼きたてを補充に来たシャーリーンが声をかける。
「お疲れ様だ、休憩がてら……味見の仕事なんていかがかな?」
「いいの!? ふふっ、いただきます♪」
さくっとしたパイ生地を齧れば、口の中にブランデーの香りが広がる。こちらは成人向けの方。少年に渡した子供向けはクリーム入りで、そちらもシャーリーンが差し出している。
「食べ比べにこっちもな」
「ぅう~~っ おいっしい!」
その満面の笑顔が決め手になって、注文客が増えていく。
「にっく~にっく~♪ ポテト、フライ、ふかし芋~♪」
持ち手としても使えるように骨が刺さった状態のヴルストを齧りながらボルディア・コンフラムス(ka0796)は屋台を巡っている。ぷしゅっと腸が破れる音を追いかけて肉汁が口の中にあふれた。
「んん~♪」
「いい食べっぷりですねお姉さん♪ こちらもどうですか!」
エプロンをひらめかせてノアが差し出すのは研司作のマッシュポテトのイチイソース掛け。鮮やかなソースが芋から出る湯気を吸って更に輝いている。
「今ならほっくほく! 出来立てですよーっ♪」
美味しそうという視界への攻撃からの、美味しさを保証する追撃の言葉。
「ちょうどよく芋だな! よしもらった!」
「ありがとうございまーす♪」
「あとはフライも……っと」
ふとボルディアの視界に入ったのは第三師団のエンブレム。ポテトアップルパイの屋台だ。
「なあ、ここでもケーキバトルロイヤルやってんだっけ?」
顔くらい出してみようかと聞いてみれば、アルバイトの応募かと喜ばれる。
「いや買いに……いいか。俺もやってやるよ、要塞に行けばいいんだな?」
「新顔さんが居るのカナ?」
例年同じ場所に立つ師団の屋台へと足を運べば、目新しい料理が並んでいて。ぱちくりと見回せば見覚えのある顔がちらほらと。
「アルヴィンさんいらっしゃい!」
「藤堂氏ー☆ ……は、体験入団なのカナ?」
「竈を借りてるんですよ!」
なるほど助け愛。頷いて、差し出された一皿をぱくり。
「ンン、このソースが新しいネ☆」
「わかりますか!」
「さっぱりで美味シイ!」
「なんださっきの変なトラック」
移動可能な射撃台か。そんな呟きがボルディアから零れる。
「店員が乗ってたら目立つだろう?」
二人とも見目良いからなと自慢げなカミラ。追加納品に向かうトラック、その見送りに出ていたらしい。
「……なあ、バイトにまかないって出たりしねぇ?」
折角の機会だと聞いてみる。
「休憩時の片手間でいいなら作るぞ?」
よし、屋台じゃねーが美味いもんゲット!
●
屋台の甘い香りに、高瀬 未悠(ka3199)は吸い寄せられていく。
「待っていてね、今食べにいくから……」
「高瀬さん?」「未悠ちゃん?」「未悠さん?」
三人の声が重なった。少しずつ違っても、全て未悠を呼ぶ声。
「はっ……いけない」
名残惜しくてまだ視線は揺れ動くけれど。
「なら、お茶請けに少し買っていきましょうか」
「アップルパイ買ってきます!」
「私はタルトを。手分けしたほうが早いですよね」
「ユメリア! ……って、あら?」
感激してユメリア(ka7010)に抱きつこうとした未悠の横を、ルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエ(ka3783)がそれぞれ駆けだしていく。
「「すぐ戻ります!」」
先に行ってて下さい!
「お言葉に甘えて、行きましょうか」
「あの店のお菓子も、どうかしら……?」
「じゃあそちらもですね」
通りがけの素敵な香りを少しずつ買い込んで、雑貨屋への道を歩んでいく。
出店で見つけた干し果物の入った袋に笑顔を零すのはリアリュール(ka2003)。冬支度の余剰品の中でも嗜好品は人気だ。差し入れにと買い込んで事務所へと向かっていく。
「少し多いけど……日持ちするものだしね」
そっと香りをかげば爽やかな甘みが感じられた。残っても事務所の備蓄にしてもらえばいい。御礼も兼ねていると言えば受け取ってもらえると思うし。
(甘いものって気が安らぐとも言うしね)
お茶会の参戦まで、あと少し。
巫女達もいないだろうかと、そわそわした足取りで事務所を訪れた夢路 まよい(ka1328)の耳に、楽しげな声が聞こえる。
「こんにちはー、アルバイトに来たよ!」
「「「まよいちゃん!」」」
丁度休憩中だったのだと、我先にと案内する巫女達に連れられてお茶会に席を用意される。
「わっ……って、私が労うつもりだったのに」
「この後で説明させていただく予定ですから」
大丈夫ですよ、とパウラがユメリアの淹れたお茶を目の前に置く。
「これとかお勧めっ」
差し出されたのはポテトアップルパイで。
「わぁこれ知ってる、師団の屋台のやつでしょ? 今年もあるんだね~」
一口食べて、変わらない味に頷いた。
包み方の説明に入ったあと、七色の紙の特性をより活かしたいと告げるリアリュールに、目を輝かせる少女達。
「皺加工……わざと皺をつけるのは如何? どんな光の角度でも反射してくれて目立つし、より綺麗に見せてくれると思うのよ」
続いてエステルがそっと差し出すのはいくつかのリボン。虹色の一本は幅広で、それぞれの一色だけを抜き出したような細いリボンが、7本。
「赤は恋愛運、黄は金運、緑は交友運とか……意味をつけてみたらどうでしょう?」
虹で全ての幸運を祈って、特別に添えた一色は中でも一番相手に届けたい祈りを込めてみたりして。
まよいの声が続く。
「運って付きそうな言葉か~……願望運、とか?」
願いが叶いますように、って祈ってもらえたら嬉しいんじゃないかな?
「私が祈るなら健康を……橙かしら」
リアリュールからもひとつ。多忙な長老が体調を崩さないだろうかと、心配が頭をよぎったせいだろうか。
包み方は各自に任されることになった。森都だって森の外と同じように色々なヒトがいるのだと、そんな意味も持たせて。
この日の梱包分から、リアリュールが作った印が箱に押されるようになった。枝葉が茂る生木の杖を土台に、エルフハイムのデザイン文字が並ぶ。箱でも紙でも、万能な印は今後の商品展開に用いられることになる。
気付けば大通りを抜けていて。ミアの目の前には雑貨屋があった。
珊瑚珠色のリボンに目を惹かれ、そっと手に取る。どれくらいの長さで切ってもらうか考えながらふと、思い出す。
「お土産でお菓子を買わニャいと」
甘い香りが漂っているせいだろうか。
「人手が足りないニャス?」
リボンの代金を払いながら店主に聞けば、二階の事務所に仕事があるらしい。
「……それ、終わったら買っていっても構わニャい?」
虹みたいに豊かな味なのか、皆と一緒に楽しめたらと思いついたから。
「猫の手でよければお貸しするニャスよ♪」
雑貨屋で、自身の瞳の色を写し取ったようなリボンをみつけたハンスは智里へのプレゼントに購入を決める。
「行ってみませんか、ハンスさん」
気付いた智里が照れ隠しに逸らした視線の先に、アルバイトの貼り紙だ。二人きりで過ごす時間を強く意識してしまったらしい。
「それじゃここでバイトして、帰りは」
「カリーヴルストも探さないと!」
被せるような言葉に目を瞬かせるハンスと、真っ赤な智里。
「シュトレンを買っていきましょう、と言うつもりで……でも、そうですね、それも食べて帰りましょうか」
ライブクーヘンの店も見つけてありますよ。
「……えっ、いつの間に見つけていたんですか!?」
ほっとした様子を見せてすぐ、驚いて、少し膨れた様子にかわって。忙しく表情を変える智里に、ハンスは熱を含む瞳のまま笑みを返した。
●
ワンピースに木の葉飾りを首から下げて。足に布を巻いた上から、編み上げたデザインのサンダルを重ねすっきりと。肩から大判のストールを掛け、ブローチで留める。
巫女達の衣装と揃うように着替えたユメリアの隣には、軍服姿の未悠がエスコートで控えている。
(誘惑に負けちゃ駄目。これは配る為のものなのだし)
すぐ傍にあるシュトレンの香りに我慢の限界が近い。
「高瀬さん、あーん♪」
味見だから少しですよ?
微笑んでユメリアが差し出す、試食用の一切れ。大きさが足りない、部分的に焦げてしまった等のいわゆるB級品が事務所の一角に詰まれていたのだ。
アルバイト料とは別に、手伝いへの礼の足しになるかもしれないと考えて置いてあったのだが。未悠の提案で試食に使うことになったのだ。
「ん~~美味しいっ♪」
「よかった……この味を知った私達で、笑顔で伝えていきたいです」
あなたの笑顔が私の幸せ。この気持ちで踊れば、それはきっと。
「幸せの舞を、共に踊りませんか?」
「ええ、喜んで!」
お茶会でお菓子もたくさん貰ったけれど。やっぱり包んでいるうちに、漂う香りに誘惑されてしまう。
「美味しそう!」
我慢できなくなった食いしん坊がひとり。ユノ(ka0806)が涎を拭く仕草でじっと耐えている。大丈夫、袖はまだ濡れていない!
「でもこれは商品なのだ……」
頭上のパルムから守る様に、大事に運ぶための箱に詰めていく。
「試食用に切り分けた分、まだあるみたいだけど」
演奏前の調律をしようと通りがかったルナが気付いて、ユノに声をかける。
「本当!?」
「パウラさんに言えばだしてもらえるんじゃないかな」
「行ってくる! ありがとー!」
すぐに駆けていく背を見送って、ルナが微笑む。
(勢いがある笑顔っていうのも、今日みたいな日には必要かな)
演奏はもうすぐ。呼吸を整えて、リハーサルで、にっこり。
Suiteが響かせる音に、フルートが主旋律を重ねる。ルナは未悠と色違いの軍服風の上着を重ねて、エステルはユメリアと揃いのワンピースに、虹色のリボンを靡かせて。
軽快に、架け橋のポルカが始まる。
喉が乾けば潤い満たす水を
戦う貴方に労いの気持ちを
差し出す手には輝く笑顔を
祈る貴女に感謝の気持ちを
踊りましょう手を取り合って
繋いだ手の温もりは新しい道標
雨のヴェールが遮る道に差し込む光で橋をかけましょう
踊りましょう支え合って
共に歩いた道が見守ってくれるから
音に誘われ広場に出れば、ポルカがまさに最高潮。
同じく来たばかりの人々が首を傾げているのに気づいて、アルヴィンはにんまりと笑みを浮かべた。くるりと回ってお辞儀をひとつ。
「森都からの祈りが籠もったセレモニーみたいダヨ☆」
あまり響かない程度の声量。ほんの少し、自分の周囲の人々の気を惹くくらいに。だってほんの手助け程度だ。
「演奏してる子達がきっと、教えてクレるんじゃナイ?」
二人のお手本が終わった後に、師団兵が巫女達へとダンスへと誘う。答える少女達の笑顔は歌の通り輝いて。
ユメリアの歌声を一番近くで聞きながら、未悠は試食をのせたトレイを持って踊りながら観衆へ勧めていく。
「聖輝節にシュトレンはいかがですか」
帝国と森都それぞれの特産品を使っているのだと、ルナが口上を述べる。演奏はベースの音におさえて、主旋律はエステルが担っている。
「リゼリオでの出店ですが、雑貨屋さんの二階……ユレイテル長老の事務所でも販売しています!」
踊りの間の一呼吸、間奏のタイミングでエステルも声を張り上げる。
(大丈夫? あまり休めていないけど)
喉が疲れないだろうかと心配するルナの視線にエステルが笑って頷く。
(だってほら……)
視線を向ければパウラが樹のカップを差し出している。蜂蜜入りのハーブティ。きっと飲みやすい温度になっている筈だ。
(ここが頑張りどころだと思えて楽しいから、かな)
人々の緩む頬を見て、美味しさは確実に伝わったとわかるから。
「ぜひ貴方の大切な人と一緒に食べてね。ラッピングもとても可愛いのよ」
笑顔で伝える未悠の一言に背を押された人は少なくないだろう。
「まさか帝国で観ることになるとは思わなかったよ」
商品が増えたことだけでなく。こうして手をとりあって、笑顔を零す様子はそれこそ難しいことだと、ずっとそう思っていた。
別に時世を読んでいないわけじゃない。こうして目にするまではどこか遠い場所のように思っていただけだ。
ポルカで盛り上がる広場を背にし、ゆっくりと歩みを再開するハヤテ。
「僕らには時間だけはあるからね」
隣を歩くリディも頷く。
「そのせいで、もっとかかるように思ってしまっただけかもしれないよ」
でも今日のように変化を目の前にしたら、まだ見えない世界の行く末も明るい気がして。
「森の奥に引きこもるまで、ゆっくりと見守るのも一興、かな」
視線は前を向いたまま、ハヤテの気配を伺う。
(今くらいは息抜きをしていてもいいだろう?)
言葉に出ないリディの想いは、ハヤテが手を引くことで満たされる。
「そうさ、時間だけは腐るほどあるのがボク等の取り柄だ」
各自で、ではなく。二人で一緒に。
「さあ、あっちにも美味しそうなのがあるよ」
まだ見ぬ店を目指して喧噪へと紛れていく。
食べきれなくても持ち帰ればいい。共に過ごす時間はまだ、たくさんあるのだから。
「ごー♪」
大通りを経由して、ポルカの音が事務所まで聞こえてくる。弾んだ声でロボットクリーナーのスイッチを入れるユノ。
「こちらでやりますのに……」
「いーのいーの。折角だし大掃除しちゃお?」
皆がポルカに出ている中、パウラとユノが留守番役。人が居ない今が好機と掃除大会になっていた。
「他は大丈夫ー? ひとっ飛びしてくるよー?」
買い出しとか、急ぎの連絡とか?
「ありがとうございます、今は大丈夫ですよ」
「終わったらまたお腹すいちゃうかな?」
「皆さんが戻ってらっしゃるでしょうし、屋台ごはん巡りに行きましょうか?」
「いいねー☆」
巫女達に混ざりポルカを踊っていたまよいが事務所に戻ってくる。事務所にあるシュトレンは全て包み終わっているし、今日の補充はもうないと聞いていたから。
「まだ時間あるし、皆で遊びに行っても大丈夫かな?」
友達兼護衛枠で、と頼み込む。何対もの期待の眼差しに折れた長老は、遅くならないうちに戻る様に、と保護者発言をして巫女達を街へと送り出した。
●
テーブル席を選んだのは、ゆっくりと話をしたいからだ。特製ヴルストの旨味が溶け込んだポトフや、濃厚な卵ソースをかけた白身魚のフライ。温野菜サラダには酸味の強い林檎を使ったドレッシング……頼んだ料理と酒を囲んで。
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は料理を楽しみながらも、タイミングに迷っていた。
「……聞くよ?」
ヨルムガンド・D・L(ka5168)がグラスを置いて、愛妻を促す。瞳に映りこむ迷いのような何かを気付いていない訳が無くて。
「のぅヨルガよ、前に話したことがある筈じゃが……」
ほんの少し、空気を改めるための間を置いて紡ぐ。
「リッター……我の愛馬のかたきと戦ってこねばならぬ」
「へー……また戦いに行くんだ」
こくり、息をのむ。どこか単調な返しに感情が読めなくて、緊張が高まる。
「家を空けることになるのじゃ。無事で帰ってくる事は、約束するから……」
「いいよ」
「行かせてはもらえぬか? ……って、いいのか!?」
「いいよ?」
それだけ強い感情を籠めて、闘志を秘めた瞳の美しさを陰らせる気はヨルガにはない。
(俺だけを見て、俺だけにその瞳を向けてくれればいいって、思っていたけど)
その想いは弱まったわけではなく、今も胸の内にある。
(命を賭してもやりたい事があるなら、黙って背中を押して邪魔しないのが甲斐性)
そうして輝く様子も好きで。いつまでも宿していて欲しいと願っているから。
「この料理、美味しいですね……。どうやって作っているのでしょう……」
「考えてばかりじゃ次に行けらねぇのですよ?」
新しい味に出会う度に立ち止まり、考え込もうとするサクラをシレークスが引っ張っていく。
「今度自分でも作ってみましょうか……」
「おめー何考えてやがりますか、そんなの」
酒をねだるよりましだろうか、ダメと言って反発させるよりはいいだろうかとシレークスが首を傾げる。
「……大丈夫、包丁を使わず剣で斬れば普通に料理出来ますから」
「菊理媛が泣きながら夢に出そうだからやめてあげやがれです」
やはり阻止しなければならないらしい。レシピチェックの為に腰を据えそうなサクラの腕を、ぐいと引いた。
「サクラ、巫女が居るみたいですよ!」
見覚えのある少女巫女の顔を見つけ、合流を測ることにする。
「ほら、いきやがりますよ!」
「……ふふ、そうかえ」
ぽかりと口を開けていたことに気付いてから、くすくすと笑いだすヴィルマ。戦いが近いせいで目を曇らせていたのかもしれない。
「霧の魔女が己の視界を狭めてどうするのじゃろうな」
改めてグラスを持てば、ヨルガもあわせてカチンと鳴らす。
「だとしても……俺が見つけるから大丈夫」
目を細めた笑みも添えられ、酒のせいだけではない熱が魔女の頬を染める。
「っ……我はそなたに甘えてばかりじゃなあ」
勢いをつけるように飲み干す。
「ヨルガも、我に我が儘言って良いからのぅ」
「それじゃあ……いっぱい美味しいもの食べて、力を付けないとね」
でもお酒は程々に。干したグラスを奪われて、軽く頬を膨らませる。
「今日は、旦那様が居るから大丈夫じゃろ?」
悪戯に笑いかければ、ウインクが返る。
「……仰せのままに、奥様?」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/03 00:13:26 |
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芋祭準備委員会 ユメリア(ka7010) エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/12/03 19:18:29 |