ゲスト
(ka0000)
歌を教えて~喉とキモチの整え方!
マスター:鮎川 渓
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2018/11/29 15:00
- 完成日
- 2018/12/04 15:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「て゛は゛承゛り゛ま゛す゛ね゛ぇ゛」
「よ、よろしくお願いします……」
「お゛気゛を゛つ゛け゛て゛ー」
オフィス職員のあまりのダミ声に始終ドン引いていた依頼人は、話を終えるやいなやそそくさと席を立った。
愛想は結構良いのに声が怖い。
見目も悪くないのに声が怖い。
時折何言ってるかわからない。
蒼界出身者が聞いたなら、日本の某プロレスラーのようだと評したかもしれない。
しかしてその実態は。
花も恥じらうピチピチ()の16歳、辺境オフィスに『お手伝い』として居座っている香藤 玲(kz0220)だった。
露骨な依頼人の態度に割とショックを受けた玲は、通りすがった職員・モリスにしがみつく。
「ね゛ぇ゛モ゛リ゛ス゛さ゛ん゛ー! 僕の声やっぱそんなヒドイー!?」
「酷いわ。声だけ聞くと酒焼けした場末のオカマバーのママね」
「ヒ゛ト゛イ゛!」
歯に衣着せぬモリスの酷評に、玲はカウンターに突っ伏しシクシク泣き始める。
「う゛っう゛っ……声変わりな゛ん゛て゛早く済んじゃえばい゛い゛の゛に゛」
「だから言ったじゃないの、無理して受付にいないで書類整理に回りなさいって」
こういうことだった。
成長期を迎えた玲は人並みに声変わりが始まった。それに伴い非常に声が出しづらくなってしまったのだが、オフィスのカウンターで依頼を受け付けたりする業務柄、喋らないわけにはいかず。
モリスや他の職員が『喋らずに済む他の業務に変更してはどうか、無理せず休んだ方が良いのでは』とアドバイスしたものの、意固地に窓口に居続け喋り倒した結果、すっかり喉を痛めてしまったのだ。
モリスは改めて玲を眺める。初めて出会った頃より随分背が伸び、顔つきも少しずつ大人びてきた。オフィスで働きたいと言い出した時には、こんな幼い子供に務まるだろうかと心配したものだったが。
窓から見える2つの月を仰ぎ溜息をつく。情報に疎い玲でもこうなった今では、地球が凍結されるに至った経緯を把握していた。
「まあ、ね……ある意味還るに還れなくなっちゃったわけだから、今ある場所に固執する気持ちもわからなくはないけど」
玲は彼女の視線を追うことはせず手許に目を落としたまま、
「……そんなんじゃないよ。仮に地球が元通りになって、還れる手段ができたとしたって、僕は……」
呟き、背を丸めて咳込んだ。
モリスは話題を変えようと玲の肩に手を置き、声を和らげる。
「それにしても惜しいわよね。あたしアンタのボーイソプラノ、結構好きだったのに」
「は? 何なの突然、キモチワルイんだけど?」
けれど玲はすげなくその手を払い、めいっぱい顔を顰めた。モリス、どつきたくなるのをぐっと堪える。
「いやぁ、アンタ前にハンターさん達に歌を教わったあと、よく鼻歌歌ってたじゃない? 楽しそうにさぁ。こっそり復習もしてたでしょ、知ってるんだから! よっぽどレッスンが楽しかったのね」
「う、煩いな、ヒトの鼻歌聞いてるとかタチ悪いよ!」
「そうだ、歌を嗜んでるハンターさんなら喉のケアの仕方とか詳しいんじゃない? またレッスンしてもらったらどう? 気晴らしにもなるだろうし」
「気晴らしって、忙しいハンターさんにそんな理由で頼めないよ」
「勿論それだけじゃないわ? そんな声のアンタを依頼のサポーターとして送り込んだら、まーたとんでもないレクイエム披露して味方にBSかけかねないもの。これは立派な事故防止よ」
「ヒ゛ト゛イ゛!」
喚き散らす玲をさっくり無視して、モリスはさらさらと依頼書を書き起こしていく。
喉のことは勿論、蒼界で起こった様々な出来事に胸を痛めたであろう玲が、再び歌を口遊める日が来るよう祈りながら。
「て゛は゛承゛り゛ま゛す゛ね゛ぇ゛」
「よ、よろしくお願いします……」
「お゛気゛を゛つ゛け゛て゛ー」
オフィス職員のあまりのダミ声に始終ドン引いていた依頼人は、話を終えるやいなやそそくさと席を立った。
愛想は結構良いのに声が怖い。
見目も悪くないのに声が怖い。
時折何言ってるかわからない。
蒼界出身者が聞いたなら、日本の某プロレスラーのようだと評したかもしれない。
しかしてその実態は。
花も恥じらうピチピチ()の16歳、辺境オフィスに『お手伝い』として居座っている香藤 玲(kz0220)だった。
露骨な依頼人の態度に割とショックを受けた玲は、通りすがった職員・モリスにしがみつく。
「ね゛ぇ゛モ゛リ゛ス゛さ゛ん゛ー! 僕の声やっぱそんなヒドイー!?」
「酷いわ。声だけ聞くと酒焼けした場末のオカマバーのママね」
「ヒ゛ト゛イ゛!」
歯に衣着せぬモリスの酷評に、玲はカウンターに突っ伏しシクシク泣き始める。
「う゛っう゛っ……声変わりな゛ん゛て゛早く済んじゃえばい゛い゛の゛に゛」
「だから言ったじゃないの、無理して受付にいないで書類整理に回りなさいって」
こういうことだった。
成長期を迎えた玲は人並みに声変わりが始まった。それに伴い非常に声が出しづらくなってしまったのだが、オフィスのカウンターで依頼を受け付けたりする業務柄、喋らないわけにはいかず。
モリスや他の職員が『喋らずに済む他の業務に変更してはどうか、無理せず休んだ方が良いのでは』とアドバイスしたものの、意固地に窓口に居続け喋り倒した結果、すっかり喉を痛めてしまったのだ。
モリスは改めて玲を眺める。初めて出会った頃より随分背が伸び、顔つきも少しずつ大人びてきた。オフィスで働きたいと言い出した時には、こんな幼い子供に務まるだろうかと心配したものだったが。
窓から見える2つの月を仰ぎ溜息をつく。情報に疎い玲でもこうなった今では、地球が凍結されるに至った経緯を把握していた。
「まあ、ね……ある意味還るに還れなくなっちゃったわけだから、今ある場所に固執する気持ちもわからなくはないけど」
玲は彼女の視線を追うことはせず手許に目を落としたまま、
「……そんなんじゃないよ。仮に地球が元通りになって、還れる手段ができたとしたって、僕は……」
呟き、背を丸めて咳込んだ。
モリスは話題を変えようと玲の肩に手を置き、声を和らげる。
「それにしても惜しいわよね。あたしアンタのボーイソプラノ、結構好きだったのに」
「は? 何なの突然、キモチワルイんだけど?」
けれど玲はすげなくその手を払い、めいっぱい顔を顰めた。モリス、どつきたくなるのをぐっと堪える。
「いやぁ、アンタ前にハンターさん達に歌を教わったあと、よく鼻歌歌ってたじゃない? 楽しそうにさぁ。こっそり復習もしてたでしょ、知ってるんだから! よっぽどレッスンが楽しかったのね」
「う、煩いな、ヒトの鼻歌聞いてるとかタチ悪いよ!」
「そうだ、歌を嗜んでるハンターさんなら喉のケアの仕方とか詳しいんじゃない? またレッスンしてもらったらどう? 気晴らしにもなるだろうし」
「気晴らしって、忙しいハンターさんにそんな理由で頼めないよ」
「勿論それだけじゃないわ? そんな声のアンタを依頼のサポーターとして送り込んだら、まーたとんでもないレクイエム披露して味方にBSかけかねないもの。これは立派な事故防止よ」
「ヒ゛ト゛イ゛!」
喚き散らす玲をさっくり無視して、モリスはさらさらと依頼書を書き起こしていく。
喉のことは勿論、蒼界で起こった様々な出来事に胸を痛めたであろう玲が、再び歌を口遊める日が来るよう祈りながら。
リプレイ本文
●
僕こと玲が会場の部屋の暖炉に火を熾していると、
「やっほー玲くんおっひさ☆」
相変わらずキャスケットが似合うレム・フィバート(ka6552)さんが飛び込んできた。
「久゛々゛ー」
「うわぁ……声、凄いことになってる」
続いて気の毒そうな顔をした氷雨 柊羽(ka6767)さんも。
「そんなヒ゛ト゛イ?」
「結構」
「キてますなっ。ともあれ、声変わりと聞いて参上とお祝いに参った、ぞっ!」
お祝い? 首を捻ると、柊羽さんが自分と僕の背を比べるように手を翳す。
「成長期でしょ? 背もこれから伸びそうだし、どんどん差が開いていきそうだよね。……隣に立ったら、僕の方が年下に見られたりするのかな?」
確かに、初めて会った頃は今より視線の高さが近かった気がする。レムさんは尤もらしく頷き、
「我が幼馴染くんも声変わりの時期が……時期がー……時期がーー……」
あったっけ、と真顔になって目をぱちくり。
「つまり、玲くんは一足先に大人になったってことですなっ☆」
「実感な゛い゛なぁ」
話していると、前回に続き友達のシエル・ユークレース(ka6648)と、ユメリア(ka7010)さんも来てくれた。
「玲くーん来ったよー♪」
「歌を好きになられたとか。私も嬉しいです」
「前に教えてくれた皆のお陰た゛よ゛」
改めて言われちょっと照れる。モリスさん、僕が鼻歌歌ってた事とかも全部依頼書に書いたんだ……ハズい。
「玲くんが歌うようになったの初めて知りましたぞっ」
「ちょっと聞いてみたかったな」
レムさんと柊羽さんも追い打ちかけないでぇっ、恥ずか死ぬ!
身悶えてるとまた扉が開いた。前回美味しい紅茶をご馳走してくれたエステル・クレティエ(ka3783)さんと、初めて会う金髪のイケメンさん。
「初めまして、玲。君の事はウチのばーさんから聞いてるよ」
ばーさん?
「君から“美魔女”って評されてた日はとても上機嫌でさ」
そう言って苦笑いした彼、カフカ・ブラックウェル(ka0794)さんの端正な顔に、前回孫発言で度肝を抜いてくれた美魔女さんの面影が重なった。美魔女の美遺伝子恐るべし。
するとエステルさんが「あの、」と手を挙げる。こないだの怪我は治ったみたい、良かった。
「玲さん……外に出てみませんか? 出来ればキャンプとか」
「え、辺境は寒いけ゛と゛大丈夫?」
尋ねると、エステルさんもカフカさんもテント持参で準備万端だった。
「今エステルと、モリスの外出許可をもらってきたんだ。『日中は日当たりが良く、夜はよく星が見える空気の良い近場でキャンプがしたい』とね」
星。
内心ギクリとしたけれど、
「気分転換も含めてそっちがいーねっ♪」
レムさんの明るい声に背を押される。
「皆了解済みなんた゛ね゛? 分かった、支度するね」
熾ったばかりの暖炉に灰をかける。灰の下でくすぶる薪の酸い臭いが舞った。
●
そうして僕達は高台の原っぱにやって来た。星がよく見えそうな場所を柊羽さんが下見してくれてたんだ。
食材を買いに行ってたカフカさんが戻るとキャンプが始まった。テントの組み立てを手伝っていると、彼はしげしげ僕を見下ろす。
「……玲は、故郷の国ではまだ成人前で、親元にいる歳なんだろ?」
頷くと、緑の瞳が心持ち優しくなる。
「転移してハンターとして暮らすのも大変なのに……」
そこで言葉の先を飲み込んだ。今度は僕から尋ねてみる。
「もう声変わりし゛た゛?」
「覚えがあるよ。声出せないと出そうとしちゃうんだよね」
と溜息混じりに苦笑い。おお、貴重な経験者だ!
「声変わりっていうのは、『声を自分好みに変えられるチャンス』って思うもんだって、ばーさんが言ってたな……」
「じゃあ僕ダンディな声になりた゛い゛!」
そう言うと皆一斉に目を逸した。何でさ。
「唄を忘れたカナリヤは―― 如何にしましょか」
と、風に乗ってお香の香りと優しい歌声が届いた。ユメリアさんだ。
「少し、復習しませんか? 腹式呼吸は声をよくする以外にも、深呼吸と同じく心を落ち着かせる効果もあります」
「声を゛よくする……渋イケボになれる?」
「ふふ、願えば叶うかもしれませんね」
カフカさんが敷いてくれた毛布の上に仰向けになる。前のレッスンを思い出し、吸って、吐いて……
「良い匂いー」
「それは重畳。ですがどの香りも、強いと不快なものになりますから、調整が必要です」
ユメリアさんは伏し目がちの青い瞳を更に細めた。
「私たちの行動も相手が心地よくなるよう、調節をしなければなりませんね」
心地良く、かぁ。
忙しい中集まってもらえただけで恐縮なのに、その上許可を取って準備して、外へ連れてきてくれて……僕が心地良く過ごせるようにって、皆気を遣ってくれたんだろうな……。
お香が燃え尽きた頃、
「ここで一息ティーブレイクですぞっ☆」
「蜂蜜ミルク作ったんだけど、どうかなっ?」
レムさんとシエルが手を振った。行ってみると、焚き火の上のケトルはしゅんしゅん蒸気を吹き、7つのカップからはほわりと湯気が立ち上っていた。
焚き火を囲んでシエルが淹れてくれた蜂蜜ミルクを頂く。シエルは喉を痛めた時にこれを飲んでるんだって。ホットミルクと蜂蜜の甘さがホッと息をつかせてくれる。
「小さい頃、風邪引いたときとかお兄ちゃんが作ってくれたんだよね。みんな的にも蜂蜜は鉄板かなっ?」
「私も蜂蜜が良いと思います。花梨の蜂蜜漬けや金柑の蜂蜜漬け、蜂蜜も色々種類がありますから。そのまま舐めたり食べたり、お湯に溶かして飲むとほっとしますよね」
とエステルさん。実際に今夜ご馳走してくれるんだって! お茶だけじゃなく身体に良い食べ物にも詳しくて感心してると、カフカさんはヴァイオリンで季節の曲を披露してくれながら言う。
「喉を傷めた時、実家ではタイムのハーブティーでうがいをするね」
「え、喉イガイガしない?」
「それが効くんだ。だから濃い目に淹れたタイムティーでうがいをする。あとやっぱり蜂蜜だね。薄めて蜂蜜を入れたらそのまま飲む事も出来るし、香りも良いから風邪の時の鼻づまりにも効くよ」
カフカさんは演奏家一家の生まれだそう。流石うがいにもこだわってるんだなぁ。
「あとは月並みだけど、口や喉は常に清潔・湿潤を保つ、消化の良い食事を摂る……かな」
するとレムさん、
「湿潤……おー! レムさんのししょーも、こういう時かしつ? 加湿すればいいって言ってた!」
「大事だよねっ。水蒸気とかいいかなーって」
シエルは焚き火の上のケトルを見る。
「あとはー、マスクとか、のど飴とかー潤いもたせてたらいーらしいよ!!」
「それなら僕が。手を出して?」
柊羽さんに言われるまま掌を差し出すと、キャンディの詰め合わせを乗せてくれた。それから顔を覗き込まれ、人差し指を立てて唇の前に。
「喉が乾燥すると良くないんだって。これ舐めて、なるべく大声出さないこと」
うーん。こういう仕草、おねえさんってカンジがして照れるよねー。ってそうぢゃない。早速ひとつ口に放り込むと、
「早速マスクしましょう」
エステルさんがマスクをしてくれ、
「どうぞ」
ユメリアさんが火から下ろしてくれたケトルの蒸気をマスク越しに吸い込む。
「あ゛ー沁みるー。実は、部屋より外のが乾いてて喉辛かったから、これちょー助かる……」
「ならそのまま休んでると良い。その間、僕は消化に良いポークミソスープを作るとしよう」
カフカさんは買った食材を取りに行く。豚味噌汁? ああ、豚汁! 楽器も弾けて料理もできるとはなんたるイケメン!
料理の手伝いや薪拾い、火の番をしたりとそれぞれに分かれる。と、レムさんと一緒に火の番してたシエルが僕を振り返った。
「元気、ないね?」
思わず頬が引きつる。一応普段通り振る舞ってたつもりだったんだけど。
「玲くんの気持ちを知りたいな。いつもなら、話したくないなら聞かないけれど……。でもそれで玲くんが元気にならないってわかってるから。だからボクに……ボクたちに教えて?」
レムさんもバッチコイの姿勢。……あんまネガティヴな事は言いたくないけど、心配かけたんだから打ち明けるのが誠意だよね、きっと。
「僕は蒼界から来たワケだけど……向こうで色々しんどい事あって、もームリーってビルの上からアイキャンフラーイしたら、何かこっちの世界にいたんだよねぇ」
深刻にならないよう軽い口調に徹する。
「別にあっちの世界を恨んでないけど、僕を待ってる人もいない。だから、いつか地球が元に戻っても還りたくないんだよ」
依頼で地球に何度か行ったけど、『絶対紅界に引き戻される』から行けたんだ。じゃなきゃ断固拒否してた。行った理由も地球を救いたいとかじゃなく、目の前で頑張るハンターさんの手助けしたかっただけ。
「で、強化人間さんの件でモヤったと思ったら、今度は命懸けで逃げてきたはずの向こうの世界の月『崑崙』がどーんとこっち来ちゃったじゃん? フクザツでさ」
そんな感情が常に胸の隅にあって、気持ちの切り替えがうまくできない。そう話すとふたりは顔を見合わせた。少し考え、年長のレムさんが口火を切る。
「ちょっと意外でしたがー……言いたくないことくらい誰にでもありますからなっ。向こうでのことは聞きませんぞっ」
"誰にでも"と言った時、レムさんの瞳が一瞬翳った気がした。けれどにぱっと笑ってうんと伸びをする。
「レムさんはねー。そゆとき『何も考えない』の」
考えない?
「一旦辛いこととかも楽しかったことも全部忘れて、そっから次やることを見るんだー。そしたら、次頑張らなきゃいけないのはこれ! って、優先的になれるんだけどーぅ」
玲くんには合わないかと思ったけど案外合うのかなー? と首をかくり。シエルは、
「ボクも似てる。とりあえずボクだったら『何もしない』っていうのもアリかなって。ぜーんぶ何も考えずに空っぽにするの。それでリセットって感じかなあ」
「リセットかぁ」
「でもこれはボクの方法だから、玲くんに合う方法をみんなで探そ? 夜は柊羽さん達がお話してくれるだろうし」
そう言うと間近で顔を覗き込んできた。
「気持ちを発散するのに、ボクに八つ当たりしてもいいよ。だってボクが玲くんを嫌いになるなんて絶対ないもん」
「しないよそんなっ!」
シエルの頬を両手でぺちっと包む。
「僕は地球から逃げだした臆病者だけど、そんな事しないよ?」
「そ、そういう意味じゃなくって、ボクはボクの意思で玲くんの力になりたいなって!」
おろおろするシエルの瞳は真剣で。思わず顔に触っちゃったし照れ臭くなる。
「ありがとシエル」
「っはー、せーしゅんですなーっ☆」
レムさんは腕組みしてうむうむ頷いていた。
●
そうして夜が、来た。
豚汁をご馳走になったあと、レムさんとシエルが片付けを請け負ってくれ、他の皆がテントから少し離れた場所へ連れてきてくれた。……火から離れ、少しでもよく星が見えるように。
「星……寒い分空気が澄んでてよく見えるね」
柊羽さんは白い息を吐きながら、「ね?」と同意を求めるように首を傾げる。けれど僕は、星の唄を奏でるカフカさんの器用に動く指ばかりを眺めていた。2つに増えた月のせいかはっきり見える。と、柊羽さんは何か言いかけてやめ、代わりにカフカさんに合わせるようにフルートを一頻り吹き、
「……僕は気が乗った時しかやらないから、音を奏でる時にどうこう、ってあまりないんだ。気が向いた時、楽しい時に歌ったり演奏したり……そんな感じでいいんじゃない?」
カフカさんが目で頷く。
「音楽や歌は作った人、奏でる人の想いが込められるものさ。喜怒哀楽、どれでも良い。素直に己の心のままに音を紡ぐんだ……例えば足音やお腹の音だって立派な音楽さ」
リズム取りのレッスンをした時に似たようなことを言われたっけ。でも、
「気分が落ちてると、歌おうって気になれなくて」
「玲さんがどうしてもその気になれないなら、無理することはないし。休んで、遊んで……悩みがあったら人に聞いてもらったりして。それでもまだ気が乗らないなら、その時にまた考えればいいと思う」
勿論僕も相談とか乗るしねと、柊羽さんは微笑んで請け負ってくれた。
その傍らで、エステルさんは並べたカップに花梨の蜂蜜漬けを一匙ずつ入れ、ユメリアさんがお湯を注いでいく。
「……水も方円の器に従うように、心に響く歌というのも相手の気持ちに寄り添うものでしょう。互いの想いを重ね合わせ、整えていく。それがハーモニー。調和です」
ユメリアさんはエステルさんを見て、
「あなたの笑顔が私を笑顔にしてくれる」
それから僕にも微笑みかけてくれる。ふたりは仲が良いみたい。何も言わず分担できちゃうふたりは、確かに協調――調和してるんだなぁ。エステルさんが皆を毛布で包んでくれると、ユメリアさんはそっと肩を寄せてきた。
「温かい……」
皆で温もりを持ち寄るようくっついて座り、とろりとした蜂蜜湯で内側からも温まる。飲みながらエステルさんは声帯を痛めた人の話を聞かせてくれた。
「絶対沈黙を守って音楽も聞かない方が良いそうです。そうなる前に、喉、休めましょう?」
「でも僕受付担当だからなぁ」
「書類の整理したり、自分が出来る事をしてはいかがです? それで夜はしっかり休む。……今までの積み重ねがあるから、ちょっと休んで離れたって簡単に居場所は無くならないですよ」
エステルさんの不思議な色合いの瞳に本心を見透かされ、目を伏せる。
「そうかな……不安なんだ。役に立たなくなったら"要らない"って言われそうで」
弱音を零すと、エステルさんはため息混じりに星空を仰いだ。
「私だって、何時も力が及ばなくて……小さくてもやれる事をって言い聞かせながら。音楽も依頼もです。周りを見たら皆凄い人ばかりで……出来ない事、胸が苦しい事の方がきっと多くて。兄もね、星や空をじっと見て……ふっと旅に出ていなくなっちゃう」
ユメリアさんも慰めるように寄り添ってくれ、
「みんな温かいから、つい比べてしまうのかもしれませんが、誰かより温かくなる必要はないんです。温め合っていれば、夜は過ぎ去り……朝が来る」
明日を探すように空へ視線を投げる。
でも僕は、顔を上げられないままだった。
――笑わなきゃ 皆こんなに励ましてくれてる。同じ物見て 笑って そうだねって
ああ、だけど ここは2つめの月が、"崑崙"が眩しすぎて。
あの時も……モリスさんは崑崙を見てこの依頼を提案したけど、僕はその視線を追わなかった。追えなかったんだ。僕にとって崑崙は、還りたくない世界の一部だから。
「大丈夫?」
僕の様子を見ていた柊羽さんの眉根が寄ってる。ヒドイ顔をしてるみたいだ。だから今はそれに甘えることにして。
「寒くて限界っ。戻ろっか」
手早く片付けを手伝って、逃げるようにテントへ戻った。
僕こと玲が会場の部屋の暖炉に火を熾していると、
「やっほー玲くんおっひさ☆」
相変わらずキャスケットが似合うレム・フィバート(ka6552)さんが飛び込んできた。
「久゛々゛ー」
「うわぁ……声、凄いことになってる」
続いて気の毒そうな顔をした氷雨 柊羽(ka6767)さんも。
「そんなヒ゛ト゛イ?」
「結構」
「キてますなっ。ともあれ、声変わりと聞いて参上とお祝いに参った、ぞっ!」
お祝い? 首を捻ると、柊羽さんが自分と僕の背を比べるように手を翳す。
「成長期でしょ? 背もこれから伸びそうだし、どんどん差が開いていきそうだよね。……隣に立ったら、僕の方が年下に見られたりするのかな?」
確かに、初めて会った頃は今より視線の高さが近かった気がする。レムさんは尤もらしく頷き、
「我が幼馴染くんも声変わりの時期が……時期がー……時期がーー……」
あったっけ、と真顔になって目をぱちくり。
「つまり、玲くんは一足先に大人になったってことですなっ☆」
「実感な゛い゛なぁ」
話していると、前回に続き友達のシエル・ユークレース(ka6648)と、ユメリア(ka7010)さんも来てくれた。
「玲くーん来ったよー♪」
「歌を好きになられたとか。私も嬉しいです」
「前に教えてくれた皆のお陰た゛よ゛」
改めて言われちょっと照れる。モリスさん、僕が鼻歌歌ってた事とかも全部依頼書に書いたんだ……ハズい。
「玲くんが歌うようになったの初めて知りましたぞっ」
「ちょっと聞いてみたかったな」
レムさんと柊羽さんも追い打ちかけないでぇっ、恥ずか死ぬ!
身悶えてるとまた扉が開いた。前回美味しい紅茶をご馳走してくれたエステル・クレティエ(ka3783)さんと、初めて会う金髪のイケメンさん。
「初めまして、玲。君の事はウチのばーさんから聞いてるよ」
ばーさん?
「君から“美魔女”って評されてた日はとても上機嫌でさ」
そう言って苦笑いした彼、カフカ・ブラックウェル(ka0794)さんの端正な顔に、前回孫発言で度肝を抜いてくれた美魔女さんの面影が重なった。美魔女の美遺伝子恐るべし。
するとエステルさんが「あの、」と手を挙げる。こないだの怪我は治ったみたい、良かった。
「玲さん……外に出てみませんか? 出来ればキャンプとか」
「え、辺境は寒いけ゛と゛大丈夫?」
尋ねると、エステルさんもカフカさんもテント持参で準備万端だった。
「今エステルと、モリスの外出許可をもらってきたんだ。『日中は日当たりが良く、夜はよく星が見える空気の良い近場でキャンプがしたい』とね」
星。
内心ギクリとしたけれど、
「気分転換も含めてそっちがいーねっ♪」
レムさんの明るい声に背を押される。
「皆了解済みなんた゛ね゛? 分かった、支度するね」
熾ったばかりの暖炉に灰をかける。灰の下でくすぶる薪の酸い臭いが舞った。
●
そうして僕達は高台の原っぱにやって来た。星がよく見えそうな場所を柊羽さんが下見してくれてたんだ。
食材を買いに行ってたカフカさんが戻るとキャンプが始まった。テントの組み立てを手伝っていると、彼はしげしげ僕を見下ろす。
「……玲は、故郷の国ではまだ成人前で、親元にいる歳なんだろ?」
頷くと、緑の瞳が心持ち優しくなる。
「転移してハンターとして暮らすのも大変なのに……」
そこで言葉の先を飲み込んだ。今度は僕から尋ねてみる。
「もう声変わりし゛た゛?」
「覚えがあるよ。声出せないと出そうとしちゃうんだよね」
と溜息混じりに苦笑い。おお、貴重な経験者だ!
「声変わりっていうのは、『声を自分好みに変えられるチャンス』って思うもんだって、ばーさんが言ってたな……」
「じゃあ僕ダンディな声になりた゛い゛!」
そう言うと皆一斉に目を逸した。何でさ。
「唄を忘れたカナリヤは―― 如何にしましょか」
と、風に乗ってお香の香りと優しい歌声が届いた。ユメリアさんだ。
「少し、復習しませんか? 腹式呼吸は声をよくする以外にも、深呼吸と同じく心を落ち着かせる効果もあります」
「声を゛よくする……渋イケボになれる?」
「ふふ、願えば叶うかもしれませんね」
カフカさんが敷いてくれた毛布の上に仰向けになる。前のレッスンを思い出し、吸って、吐いて……
「良い匂いー」
「それは重畳。ですがどの香りも、強いと不快なものになりますから、調整が必要です」
ユメリアさんは伏し目がちの青い瞳を更に細めた。
「私たちの行動も相手が心地よくなるよう、調節をしなければなりませんね」
心地良く、かぁ。
忙しい中集まってもらえただけで恐縮なのに、その上許可を取って準備して、外へ連れてきてくれて……僕が心地良く過ごせるようにって、皆気を遣ってくれたんだろうな……。
お香が燃え尽きた頃、
「ここで一息ティーブレイクですぞっ☆」
「蜂蜜ミルク作ったんだけど、どうかなっ?」
レムさんとシエルが手を振った。行ってみると、焚き火の上のケトルはしゅんしゅん蒸気を吹き、7つのカップからはほわりと湯気が立ち上っていた。
焚き火を囲んでシエルが淹れてくれた蜂蜜ミルクを頂く。シエルは喉を痛めた時にこれを飲んでるんだって。ホットミルクと蜂蜜の甘さがホッと息をつかせてくれる。
「小さい頃、風邪引いたときとかお兄ちゃんが作ってくれたんだよね。みんな的にも蜂蜜は鉄板かなっ?」
「私も蜂蜜が良いと思います。花梨の蜂蜜漬けや金柑の蜂蜜漬け、蜂蜜も色々種類がありますから。そのまま舐めたり食べたり、お湯に溶かして飲むとほっとしますよね」
とエステルさん。実際に今夜ご馳走してくれるんだって! お茶だけじゃなく身体に良い食べ物にも詳しくて感心してると、カフカさんはヴァイオリンで季節の曲を披露してくれながら言う。
「喉を傷めた時、実家ではタイムのハーブティーでうがいをするね」
「え、喉イガイガしない?」
「それが効くんだ。だから濃い目に淹れたタイムティーでうがいをする。あとやっぱり蜂蜜だね。薄めて蜂蜜を入れたらそのまま飲む事も出来るし、香りも良いから風邪の時の鼻づまりにも効くよ」
カフカさんは演奏家一家の生まれだそう。流石うがいにもこだわってるんだなぁ。
「あとは月並みだけど、口や喉は常に清潔・湿潤を保つ、消化の良い食事を摂る……かな」
するとレムさん、
「湿潤……おー! レムさんのししょーも、こういう時かしつ? 加湿すればいいって言ってた!」
「大事だよねっ。水蒸気とかいいかなーって」
シエルは焚き火の上のケトルを見る。
「あとはー、マスクとか、のど飴とかー潤いもたせてたらいーらしいよ!!」
「それなら僕が。手を出して?」
柊羽さんに言われるまま掌を差し出すと、キャンディの詰め合わせを乗せてくれた。それから顔を覗き込まれ、人差し指を立てて唇の前に。
「喉が乾燥すると良くないんだって。これ舐めて、なるべく大声出さないこと」
うーん。こういう仕草、おねえさんってカンジがして照れるよねー。ってそうぢゃない。早速ひとつ口に放り込むと、
「早速マスクしましょう」
エステルさんがマスクをしてくれ、
「どうぞ」
ユメリアさんが火から下ろしてくれたケトルの蒸気をマスク越しに吸い込む。
「あ゛ー沁みるー。実は、部屋より外のが乾いてて喉辛かったから、これちょー助かる……」
「ならそのまま休んでると良い。その間、僕は消化に良いポークミソスープを作るとしよう」
カフカさんは買った食材を取りに行く。豚味噌汁? ああ、豚汁! 楽器も弾けて料理もできるとはなんたるイケメン!
料理の手伝いや薪拾い、火の番をしたりとそれぞれに分かれる。と、レムさんと一緒に火の番してたシエルが僕を振り返った。
「元気、ないね?」
思わず頬が引きつる。一応普段通り振る舞ってたつもりだったんだけど。
「玲くんの気持ちを知りたいな。いつもなら、話したくないなら聞かないけれど……。でもそれで玲くんが元気にならないってわかってるから。だからボクに……ボクたちに教えて?」
レムさんもバッチコイの姿勢。……あんまネガティヴな事は言いたくないけど、心配かけたんだから打ち明けるのが誠意だよね、きっと。
「僕は蒼界から来たワケだけど……向こうで色々しんどい事あって、もームリーってビルの上からアイキャンフラーイしたら、何かこっちの世界にいたんだよねぇ」
深刻にならないよう軽い口調に徹する。
「別にあっちの世界を恨んでないけど、僕を待ってる人もいない。だから、いつか地球が元に戻っても還りたくないんだよ」
依頼で地球に何度か行ったけど、『絶対紅界に引き戻される』から行けたんだ。じゃなきゃ断固拒否してた。行った理由も地球を救いたいとかじゃなく、目の前で頑張るハンターさんの手助けしたかっただけ。
「で、強化人間さんの件でモヤったと思ったら、今度は命懸けで逃げてきたはずの向こうの世界の月『崑崙』がどーんとこっち来ちゃったじゃん? フクザツでさ」
そんな感情が常に胸の隅にあって、気持ちの切り替えがうまくできない。そう話すとふたりは顔を見合わせた。少し考え、年長のレムさんが口火を切る。
「ちょっと意外でしたがー……言いたくないことくらい誰にでもありますからなっ。向こうでのことは聞きませんぞっ」
"誰にでも"と言った時、レムさんの瞳が一瞬翳った気がした。けれどにぱっと笑ってうんと伸びをする。
「レムさんはねー。そゆとき『何も考えない』の」
考えない?
「一旦辛いこととかも楽しかったことも全部忘れて、そっから次やることを見るんだー。そしたら、次頑張らなきゃいけないのはこれ! って、優先的になれるんだけどーぅ」
玲くんには合わないかと思ったけど案外合うのかなー? と首をかくり。シエルは、
「ボクも似てる。とりあえずボクだったら『何もしない』っていうのもアリかなって。ぜーんぶ何も考えずに空っぽにするの。それでリセットって感じかなあ」
「リセットかぁ」
「でもこれはボクの方法だから、玲くんに合う方法をみんなで探そ? 夜は柊羽さん達がお話してくれるだろうし」
そう言うと間近で顔を覗き込んできた。
「気持ちを発散するのに、ボクに八つ当たりしてもいいよ。だってボクが玲くんを嫌いになるなんて絶対ないもん」
「しないよそんなっ!」
シエルの頬を両手でぺちっと包む。
「僕は地球から逃げだした臆病者だけど、そんな事しないよ?」
「そ、そういう意味じゃなくって、ボクはボクの意思で玲くんの力になりたいなって!」
おろおろするシエルの瞳は真剣で。思わず顔に触っちゃったし照れ臭くなる。
「ありがとシエル」
「っはー、せーしゅんですなーっ☆」
レムさんは腕組みしてうむうむ頷いていた。
●
そうして夜が、来た。
豚汁をご馳走になったあと、レムさんとシエルが片付けを請け負ってくれ、他の皆がテントから少し離れた場所へ連れてきてくれた。……火から離れ、少しでもよく星が見えるように。
「星……寒い分空気が澄んでてよく見えるね」
柊羽さんは白い息を吐きながら、「ね?」と同意を求めるように首を傾げる。けれど僕は、星の唄を奏でるカフカさんの器用に動く指ばかりを眺めていた。2つに増えた月のせいかはっきり見える。と、柊羽さんは何か言いかけてやめ、代わりにカフカさんに合わせるようにフルートを一頻り吹き、
「……僕は気が乗った時しかやらないから、音を奏でる時にどうこう、ってあまりないんだ。気が向いた時、楽しい時に歌ったり演奏したり……そんな感じでいいんじゃない?」
カフカさんが目で頷く。
「音楽や歌は作った人、奏でる人の想いが込められるものさ。喜怒哀楽、どれでも良い。素直に己の心のままに音を紡ぐんだ……例えば足音やお腹の音だって立派な音楽さ」
リズム取りのレッスンをした時に似たようなことを言われたっけ。でも、
「気分が落ちてると、歌おうって気になれなくて」
「玲さんがどうしてもその気になれないなら、無理することはないし。休んで、遊んで……悩みがあったら人に聞いてもらったりして。それでもまだ気が乗らないなら、その時にまた考えればいいと思う」
勿論僕も相談とか乗るしねと、柊羽さんは微笑んで請け負ってくれた。
その傍らで、エステルさんは並べたカップに花梨の蜂蜜漬けを一匙ずつ入れ、ユメリアさんがお湯を注いでいく。
「……水も方円の器に従うように、心に響く歌というのも相手の気持ちに寄り添うものでしょう。互いの想いを重ね合わせ、整えていく。それがハーモニー。調和です」
ユメリアさんはエステルさんを見て、
「あなたの笑顔が私を笑顔にしてくれる」
それから僕にも微笑みかけてくれる。ふたりは仲が良いみたい。何も言わず分担できちゃうふたりは、確かに協調――調和してるんだなぁ。エステルさんが皆を毛布で包んでくれると、ユメリアさんはそっと肩を寄せてきた。
「温かい……」
皆で温もりを持ち寄るようくっついて座り、とろりとした蜂蜜湯で内側からも温まる。飲みながらエステルさんは声帯を痛めた人の話を聞かせてくれた。
「絶対沈黙を守って音楽も聞かない方が良いそうです。そうなる前に、喉、休めましょう?」
「でも僕受付担当だからなぁ」
「書類の整理したり、自分が出来る事をしてはいかがです? それで夜はしっかり休む。……今までの積み重ねがあるから、ちょっと休んで離れたって簡単に居場所は無くならないですよ」
エステルさんの不思議な色合いの瞳に本心を見透かされ、目を伏せる。
「そうかな……不安なんだ。役に立たなくなったら"要らない"って言われそうで」
弱音を零すと、エステルさんはため息混じりに星空を仰いだ。
「私だって、何時も力が及ばなくて……小さくてもやれる事をって言い聞かせながら。音楽も依頼もです。周りを見たら皆凄い人ばかりで……出来ない事、胸が苦しい事の方がきっと多くて。兄もね、星や空をじっと見て……ふっと旅に出ていなくなっちゃう」
ユメリアさんも慰めるように寄り添ってくれ、
「みんな温かいから、つい比べてしまうのかもしれませんが、誰かより温かくなる必要はないんです。温め合っていれば、夜は過ぎ去り……朝が来る」
明日を探すように空へ視線を投げる。
でも僕は、顔を上げられないままだった。
――笑わなきゃ 皆こんなに励ましてくれてる。同じ物見て 笑って そうだねって
ああ、だけど ここは2つめの月が、"崑崙"が眩しすぎて。
あの時も……モリスさんは崑崙を見てこの依頼を提案したけど、僕はその視線を追わなかった。追えなかったんだ。僕にとって崑崙は、還りたくない世界の一部だから。
「大丈夫?」
僕の様子を見ていた柊羽さんの眉根が寄ってる。ヒドイ顔をしてるみたいだ。だから今はそれに甘えることにして。
「寒くて限界っ。戻ろっか」
手早く片付けを手伝って、逃げるようにテントへ戻った。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 4人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/26 22:29:21 |
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喉と心のケアを ユメリア(ka7010) エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/11/28 13:13:35 |