王国最強ロボ――必殺技編

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/12/03 09:00
完成日
2018/12/08 21:12

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●昼下がり
 王都の通りを、数十の野良パルムが元気に駆けていく。
 珍しいものを見たと驚く者。
 通行の邪魔だなと内心舌打ちする者。
 何か大きな催しがあるのかと考える者もいる。
 好悪はあっても全体的に好意的だ。
 パルムは野良でも邪魔にはならないし、神霊樹とハンターズソサエティーを介して人類に協力していることを知っているからだ。
「司教様」
「見えても気付かないふりをしなさい」
 とある馬車に乗る聖堂教会関係者が顔を青くしている。
 野良パルムだけでなく、うっきうきした中小精霊も一緒に走っているのを霊的な視覚で気付いてしまった。
「何か変事が……ああ、エクラ様どうか王都に平穏を……」
 残念ながら、今回の祈りはかなえられなかった。

●夜逃げ?
 四大精霊が一つ、プラトニス。
 聖堂戦士たちと筋トレ的な心地よい汗を流していた彼は、中小精霊の悲鳴を感じて太い眉を寄せた。
 歪虚出現の気配も正マテリアルが汚された気配も大量の命が失われた気配もない。
 要するに、何が起きているのかさっぱり分からない。
「プラトニス様、今日はありがとうございました」
「申し訳ありません。名残惜しいですが次の任務がありますので」
 半分ほどの筋肉……ではなく筋骨逞しい聖堂戦士たちが一斉に頭を下げた。
 これから、王国初の国産CAMを開発する研究所を警備するのだ。
「同行しよう」
「有り難くはありますが……プラトニス様、その、お顔の色が」
 凶悪な上下からの板挟みに苛まれる中間管理職のような、酷い顔色だ。
「邪魔をする気は無い。君たちも、大変だな」
 今回が初任務の彼等は、これから向かう場所が実際はどんな場所か、まだ分かっていなかった。

●王国国産CAM
 その研究所は、高級感あふれる屋敷に現代的な機材を無理矢理詰め込んだ、特徴的すぎる外見をしていた。
 CAMの射撃試験行っていたらしく、穴だらけの盛り土がいくつもある。
 昨日までは大量の物資が運び込まれ大勢の人間が行き交っていたその場所が、今は何故か廃屋同然の雰囲気だ。
 銀の鎧どこー?
 つぎあたしのばんー
 意地悪しないでよぅ
 中小精霊たちが騒ぎ、落ち込み、駄駄を捏ねていた。
「プラトニス様」
「うむ」
 聖堂戦士団とプラトニスが、真剣な面持ちで研究所内に突入する。
 予備パーツと検査機器で足の踏み場もなかったはずの場所が、今はぞっとするほどガランとしている。
「夜逃げの現場に見えます」
「夜逃げ」
「やっぱり王国にCAMは無理だったんでしょうか。以前別組織が開発失敗したって話も聞きますし」
「開発失敗」
 何故か安堵する自分に気付いてしまい、プラトニスは内心反省しながらさらに奥へと進む。
 隣の棟に続く分厚い扉を開くと、凄まじい勢いで荷造りをする研究者達がいた。
「次の便がもう来たのですか!?」
「プラトニス様こんにちはー」
「飛行用装甲の見本、俺のコンテナに入ってないぞっ」
 大混乱である。
 同程度に混乱しているプラトニスの横を、中小精霊が(精霊的な意味で)わーいと騒ぎながら通過した。
 動き易いっ
 あたしのばんなのに!
 次ぼく、ぼくなのっ
 待機状態の試作機……先行量産機と同一設計の機体を精霊たちが取り合いしている。
 乗り手が必要とはいえ、戦いにとことん向かない精霊でも対歪虚戦の力になれる機体だ。
 直接力を貸す気になる精霊も少しはいるし、とりあえず触ってみたいという物見高い精霊はそれ以上にいる。
「何があった」
 プラトニスが厳しい目を向けた。
 慣れぬキーボードで王宮向け報告書を書いていたアダム・マンスフィールドが、所長の姿がないのに気付いて仕方なく席を立つ。
「生産ライン立ち上げのため人材を送り出しました」
 鎧が少ないよ?
 はんたーつれてきてー
 ちょっと疲れたかも
 精霊の、音声ではない声が相変わらずうるさい。
「問題はないのか」
 中小精霊に協力を仰ぐあるいは中小精霊を利用するならここで造った方がいいのではないかと、心にもない言葉を口にした。
「世界中を飛び回るハンターの機体に、特定の土地と縁が深いかもしれない精霊を使うのはどうかという意見が」
「……奴か」
 プラトニスが自分の腹を押さえた。
 人間的な胃はないのに痛みを感じる。
 精霊に対する害意はないが敬意も存在しないこの発言は、ここの所長の発言だろう。
「力を減らす精霊が減るのはよいことではあるが」
 試作機を見上げる。
 装甲製造担当者の趣味らしく、騎士が纏う甲冑に似た要素がある。
「出力は足りるのか」
「乗り手次第です」
 分類はCAMだが霊的な要素も強い機体だ。
 根性で性能を跳ね上げるハンターもいるだろうし、関係が深い精霊と二人三脚で動かすハンターもいるだろう。
 設計者が全く想定していなかった戦い方をするハンターすらいるかもしれない。
「ハンターか」
 褒めるべきか呆れるべきか判断できず、大精霊の一側面である彼はため息をついた。

●近接スキルの行方
「今さら新規機能組み込みは無理ですよ!」
 研究員が悲鳴をあげる。
 既に生産ライン立ち上げは始まっているのだ。
 今から設計と試験を行い生産ラインの変更をしようとすれば、下手をすると数ヶ月生産が遅れる。
「エンジンもフレームも装甲も弄るつもりはない」
 所長は、余剰エネルギー運用記録をディスプレイに表示させた。
 射撃と魔法の威力は安定しているのに近接の威力だけが時折不自然に大きい。
「機体の白兵スキルがいくつかまだ発見できていないはずだ。この程度であれば内部ソフトの修正でスキルを組み込める。ハンターが見つけられればだがな」
「あんたこれ以上ハンターに無茶を言うつもりですか! テストパイロットと研究者何十人分の仕事をさせたと思ってるんですかぁ!」
「私の夢の機体であると同時に、彼等が実際に使う機体だ」
 正当な怒りを向けられても所長は眉一つ動かさない。
「妥協はしない」
 その日のうちに、ハンターズソサエティーに依頼が出されたのだった。

リプレイ本文

●研究所最後の探求
 騎士剣と太刀がぶつかり合う。
 西洋甲冑と東洋甲冑が大きな火花に照らし出される。
 2対4本の脚部が達人を思わせる動きで地面を滑らかに滑り。
 刃と刃が噛み合ったままフェイントと力押しを織り交ぜた攻防が繰り返され。
 1拍で両者の位置が入れ替わり、予め打ち合わせていたかのようにそれぞれが後ろへ跳んだ。
「それまで」
 プラトニスの宣言が聞こえると同時に2機のCAMの動きが止まる。
「計算結果が出ました。試作1番機を大破、ガルガリンを中破と判定します」
 ガルガリンから降りた鹿東 悠(ka0725)は渋い表情だ。
 王虎は改良に改良を重ねたとはいえドミニオンでしかない。
 これに負ける新型CAMなど存在価値がない……と言いたいがそう言い切れない面もある。
「やられたな」
 新型機から降りたジーナ(ka1643)が、自機と王虎を見比べる。
 刃の跡……正確に表現するなら刃に巻かれたウレタン樹脂に染みこんでいた水性インクの跡……は王虎の方がかなり多い。
 機体に乗り移る新操縦系の効果は圧倒的であり、得意分野は違っても同格の2人が戦うと王虎に勝ち目はない。
 だが真剣勝負になると逆の結果になる。
 リソースの多くを装甲に使った王虎の守りを新型機が打ち抜けず、10分の1しか被弾していないのに大破判定まで追い込まれた。
「個人にあわせた調整をしていない状態でコレか」
 新型機の関節部を確認しつつ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)がにんまりとする。
「間接の損耗も許容範囲じゃ。我ながらいい仕事をしたのう」
「ですが」
 心を落ち着けた悠が懸念を伝えようとすると、ミグは神妙にうなずいて巨大騎士剣を軽く叩いた。
「対邪神を謳うには攻撃力が足りんな。先程の一戦も、お主が刺突一閃を使えばその時点で勝負がついておった」
 本人スキル有りにすると機体が空を飛んだり計測機器まで攻撃が届くことになるので今回は無しだったのだ。
 デモンストレーション本番に使うスキル温存という意図もある。
「クリムゾンウエストでの戦闘の概念に囚われての製造なので……」
 試作機から引っ張り出したケーブルを計測機器に繋ぎながら、クオン・サガラ(ka0018)がなんとも切ない息を吐く。
「ゴーレム以上の射撃や砲撃は戦術に組み込めない以上、こんな感じかなと思います」
「Volcaniusはのぅ」
 半自律行動可能な自走砲とCAMを単純に比べるのは不毛ではあるが、新型CAMでも及ばないあの火力を考えるとちょっともやもやする。
 クオンは軽く頭を振って思考を切り替えた。
「精査は後になりますが、ダメージコントロールはできていると思います」
 高性能機ともなると、極端に表現すると立つようにするだけでも相当の調整が必要になる。
 高位ハンターが自然に行う、移動と攻撃と防御が一体になった動きは、それほど洗練された機体でしか再現出来ない。
「ダメージを受けた後の調整力はこれでよしとして、後は人機一体に耐えられる精度か」
「それは個々の精霊との交渉次第ではないか?」
 ジーナが2機目の試作機に乗り込む。
 1機目と機体の癖まで同じにしているはずなのに、エンジン出力も計算速度体感できる程度に異なる。
「お供えは同じのはずだが」
 武装なしの状態で試験場の中央へ。
 範囲攻撃を狙って手刀での薙ぎ払い、防護点貫通を狙って貫手、威力を重視して蹴り技を繰り出すが思ったような数字は出ない。
 余剰出力の使い方を少しずつ変えながら何十度も繰り返す。
「これか?」
 手応えがあった。
 CAMの拳では壊れないはずの標的が修理不能なまでに破壊される。
 途端に外が騒がしくなる。
「出ました! ウレタンを外した騎士剣以上の威力です!」
「ジーナさんもう一度お願いします!」
 クオンは騒ぎを横目に1号機を調整する。
 もう1人のテストパイロットが仮眠中なので、調整と終えた後に自分自身で1号機に乗る。
「試験場でスキルが出せないようでは話にならないのですが」
 先程のジーナを見本に、拳では無く騎士剣に威力を上乗せしようとするがわずかな効果しか無い。
 ならばと移動目的で余剰出力とマテリアルを使ってみると、狙っていた宙の足場作りはできずわずかな移動補助に留まる。
「苦しいですね」
 技術者としての腕に自信はある。コツさえ掴めば突貫工事でいける気はするが……量産開始に間に合うかどうか自信が無かった。
「機体スキルに限らず使える物は全て参考にしましょう、デモ本番に参加する力が残るかどうかは分かりません」
 疲れ切ったクオンから、悠が1号機と試験を引き継ぐ。
 ドミニオンMk5を参考に組んだプログラムを組み込み、錬機剣、アサルトダイブ、アグレッシブ・ファングの再現を目指す。
「さすがにYUKIMURAは無理ですが」
 直接的な攻撃では無く、攻撃の際の補助にエネルギーを使ったときに動きのキレが増した。
 ピンポイントバリア的運用を目指しても手応え無し。
 武器に直接や攻撃動作は、機体から後押しがあるかのように強力かつ滑らかに変化する。
「予想以上に前衛よりな機体だ。ウーナさんも無理をしなければいいが」
 連日の試験で疲労困憊なのに、仮眠しかとらずもうすぐ起きてくるウーナ(ka1439)のことを思う。
 CAM用銃器に持ち替えると、先程までの後押しが綺麗さっぱり消えていた。

●必殺技
 腹に響く笑い声が試験場を満たす。
 霊的な視覚で見れば、人間に近い次元にいる精霊が注意を引かれて集まってくるのが見えただろう。
「正式採用か! うむ、お前はやる漢だと思っていたぞ! 血反吐を吐こうが重体になろうが最後の最後まで付き合おうではないか!」
 上機嫌のルベーノ・バルバライン(ka6752)が、所長である老博士の背中をバンバン叩く。
「精霊のリジェクト機能を付けたのだろう? ならばそれに連動して自爆装置はどうだ。瞬間的なエネルギーで精霊の脱出と自爆のエネルギーが賄えて一石二鳥、いや合金を欠片も歪虚に渡さず一石三鳥ではないか」
「信仰心篤い国でそう言えるお前を尊敬するよ」
 博士の渋い表情に気付き、ルベーノは鼻で笑って不敵な顔になる。
「気にするのは精霊ではなく精霊を利用する側だろう。まあ最終的には王国が決めることだ。好きにやればいい」
 試験場の奥側から猛烈な銃声が聞こえる。
 ウーナが機体を使い潰す勢いで射撃のデータを取っているのだ。
「俺も負けてはいられないな。おい、リミッターを切れ! どうせ出荷された後はそれぞれのハンターが切った上でぎりぎりまで調整するのだ。設備が整っているここでやれることは先にやっておく」
 最初は止めようとした研究員も、ルベーノの勢いと説得力に負けて最終的には素直に従う。
「瞬間的に使える相性の良いスキルを探すのでは足りぬか」
 最初は自前のスキルを使っていたルベーノが力の使い方を変える。
 機体の動きがルベーノの動きから試作機の全てを引き出す動作に変わり、余剰出力を活かして生物的な動作で標的に迫る。
「もう1機はウーナが離さんか」
 じろりと研究員を見る。
「固体した標的はいらぬ! 組み手用に外のデュミナスを持って来い!」
「それはミグのオートソルジャーにやらせよう。壊すなよ?」
「誰に言っている」
 ルベーノは相変わらず傲岸だが仕事は確実だ。
 既に集められたデータを元に、まだ引き出し切れていない機体スキルを探り磨きをかける。
「スキルリンカーは既に無意味か。風来縷々との相性は良くも悪くも無し」
 途中で休憩を挟むことはあっても機体の整備と改良が優先でありルベーノの体力は回復しきれない。
 激しい動きで筋や骨にもダメージが残り、多めに用意したポーションも瞬く間に空になる。
「こうか」
 オートソルジャーが突き出す槍とジーナのプラヴァーの盾がほぼ同時に砕けた。
 どちらも計測用に貸し出された装備ではあるが、一部破損ではなく砕けるというのは、常識的に考えるとあり得ない現象だった。
「機体を潰すなとは言わぬが体は潰すなよ。本番はまだ先じゃ」
 試作機が止まると同時に、おそらく精霊によってルベーノが機体から追い出された。
 ミグは、見た目は厳しくその実ウキウキしながら自作の回路を取り付け乗り込む。
「ほぼ確認作業のようなものじゃが……うむ」
 騎士剣にエネルギーが集中して威力が急上昇する。
 研究所が騒がしくなり、これで攻守とも完璧という声が研究員から聞こえてくる。
「オーバードライブウェポンとでも名付けたいところじゃな」
 ミグの意識は次の実験に向かっている。
「こんな感じか? ふむ、ではこう……か」
 休憩中の悠から近接武器使用時の癖を聞き取り、ウーナから攻撃時の機体の癖を、ルベーノから機体内の力の循環を数値では無く言葉と感覚を聞き取る。
 操作ともいえぬ微かな操作を行うと、エンジンとミグ本人と外界が一瞬だけ繋がった感覚があった。
 忘我の状態で剣を振り抜く。
 1メートル間隔で並んでいた標的が、5つほどまとめて砕け散った。
 意識が平常に戻る。
 手応えを忘れないうちに先程の操作をメモにとり、そこまでしてからようやく息を吐く。
「搭乗者の近接攻撃力に影響するか」
 微かなマテリアルの余韻を、手元の武器から感じる。
「また戦術が変わるのう」
 どう利用するかは、乗り手次第だ。

●最後の挑戦
 ドワーフ鍛冶が血走った目でヤスリかげをしている。
 崑崙基地から強引に連れ出された職員が、最後の力を振り絞ってエンターキーを押す。
 ドワーフがベルトに引っかけたPDAから着信音。
 一度手を止めて内容を確認すると、さらに難度を増した設計図。
「うがー!」
 指先の速度とキレが増す。
 リアルブルーの旋盤以上の速度と精度でパーツが仕上がり積み上がる。
 ここもまた、対歪虚戦の最前線であった。
「ほんとは射撃機でもう一機ほしいとこなんだけど」
 パーツを0.7機分消費した後である。
 CAMに人生賭けるレベルでこだわりのあるウーナも、これ以上無理を言うのはためらってしまう。
 無理と無茶を言う前に一瞬ためらうだけだが。
「……次、対VOIDミサイルね」
「対VOIDミサイル再接続します!」
「クレーン代われ! 寝ぼけてるぞ!」
 試作機からアサルトライフルが取り外され、1発1発が凶悪な威力と射程のミサイルが取り付けられる。
「聖堂にれんらーく! 近くまでいくぞーっ」
 ウーナは安全確認を素早く済ませて発射。
 通行止めされた通りを飛び越え、歴史のある聖堂の裏庭に設置された標的に当てた。
「ずれてる……なぁ」
 隣に立たせた愛機から情報を引き出し比較する。
 近接戦闘の間合であれば新型機が圧倒しているが、射撃戦闘や砲戦の間合では新型機が負けている。
 無意識に爪を噛む。
 ケーブルを介してCADに直接入力しながら味わいもせず携行食を平らげる。
「素体の改良は諦める」
 研究所の緊張が一瞬緩み。
「装甲と外部パーツに射撃補助機能を盛り込ませる。これならぎりぎり間に合う……間に合わせる」
 ひぃ、と断末魔の叫びに近い音がいくつも聞こえた。
 悠が操る試作機が、実に滑らかに滑空している。
 対空砲火役の人間用アサルトライフルから放たれる銃弾を左手の盾で防ぎ、CAM用のアサルトライフルで複数の標的を狙う。
「人類の力と限界を感じる機体ですね」
 リアルブルーの枯れた技術から最新技術、クリムゾンウェストの機導術や刻令術。
 いずれも数年前なら門外不出だった技術が、CAMサイズの機体に詰め込まれている。
 そう、詰め込まれているだけなのだ。
 職人芸やハンター個々人の技術や勘で1つの兵器として成立させてはいるが、洗練されているとはとてもいえない。
「所長の言葉を借りるのであれば、「妥協はしない」が納期は遵守」
 飛行中の射撃も、余剰出力を駆使することで実用レベルまで仕上げた。
 射撃試験の成績をこれ以上上げることは可能ではあるが、機体の性能を上げるのではなく機体を悠にあわせる作業になる。
「これでいく」
「畜生やってやらぁっ」
 飛行用装備と近接戦用がそれぞれ2機分分解され突貫作業で1つの鎧ができあがる。
 どちらの性能も薄れ、射撃を最大限考慮した形状だ。
 残り3機分は残骸と化して研究所の隅に転がっていた。
「素が格闘9射撃1の機体を格闘7射撃3にはできたけど」
 悠が試験に付き合ってくれた。
 空を飛びながら撃ち合い、前衛ハンターを思わせる軌道で全てが躱される。
「FCSも高速演算も多分載せる余裕無いし、このっ」
 実戦なら蹴りをぶつけて距離をとる場面で発砲。
 悠機はペイント弾を浴びはするが撃墜判定は出ず、ウレタンソードをウーナ機の顔面に見事に直撃させた。
「博士ー!」
「分かっている」
 所長である老博士は、複数方向から撮った動画を検証しながら髪をかきむしる。
 ウーナ機の性能は基準を上回っている。
 しかしその性能が機体によるものかウーナの技量と特性によるものか判断できない。
「せめて後1ヶ……」
 繰り言を口にしそうになり慌てて口をつぐむ。
 大きく息を吐いて気を取り直し、必要な情報をまとめて報告書を書き上げる
「上と現場に話は通すがよくて4割だ」
 ウーナ機が静止し、力尽きたように膝をつく。
「まぁしょうがないか」
 降りてきたウーナの表情は固まったまま動かない。気力体力共に限界を超えている。
 全ての力を使い尽くした彼女は、そのまま気絶して新型機の脚にぶつかり……巨大な手の平に受け止められた。
「次の戦いまで休め」
 プラトニスは穏やかにつぶやき、駆け寄って来た聖導士にウーナを任せるのだった。

●招待状
「機体もやっと完成しますが、今後の所長の行動が気になりますね」
 開発の成功に満足して隠居するなら問題ないのだが、あの性格と嗜好と行動力では今後もやらかすとしか思えない。
「一応、所長を捕縛した方がいいかの検討もしておきましょうか」
「是非協力させてください」
 エルバッハ・リオン(ka2434)の背後に薄い気配が現れた。
 非常に複雑な策を練っていたとはいえ、超高位覚醒者であるエルバッハにこの距離まで気付かせない凄腕だ。
 スパイか暗殺者を疑う場面だがエルバッハは振り返りすらしない。以前からいるのは知っていた。あの博士の護衛だ。
「護衛お疲れ様です」
 エルバッハは十数通の招待状作成で忙しい。
「皆様のお陰で楽ができました。局長のお守り役として連合宇宙軍に転職しません? 多分私より給料いいですよ」
 冗談にしては気持ちが籠もりすぎていた。
「結構です。所長の引き取りはよろしくお願いしますね」
 エルバッハが振り返ると、最初からいなかったかのように気配が消えていた。
「今日は配達業ですね」
 見学希望者の中から、王国CAM開発計画賛成派、中立派と反対派の中で成果次第で転びそうな者、反対派閥の中で招かざるを得ない者に対して招待状を送り必要がある。
「おーい」
 エルバッハをボルディア・コンフラムス(ka0796)が呼び止める。
 ウーナに付き合って実弾相手に標的役をしたのに非常に元気だ。
「これ使わねぇと駄目か?」
 魔斧のレプリカを手首の力だけで回す。
 ウレタン製なのでとても軽い。
「本物では手加減ありでもデモンストレーションにならないかもしれません」
「いやそうかもしれねぇが」
「では」
 立ち去るエルバッハをしばし見送った後、ボルディアは大きく息を吐き肩を落とした。
 イェジドが、ウレタン斧をつついて遊んでいた。

●デモンストレーション
 薄手の甲冑が宙で踊っている。
 浮力もある。
 推力もあるのだろう。
 だがそれらの機能よりも手足の動きの方が繊細かつ力強い。
「癖になりそうじゃなっ」
 背部センサーからの情報を頼りに首を傾げ、高速の30ミリ弾をすれすれで躱す。
 回避のための動きの一部として抜刀、高さを速度に変えながら体を捻って向きを変える。
 精霊が囁く。
 コクピット内に固定したミグの体に負荷がかかりすぎている。
「まだ行けるとも!」
 右脚で地面を蹴る。
 向きが急降下から地面と水平へ。
 速度を落とさず飛行か走行へ切り替える。
 出迎えは拍手ではなく矢の雨だ。
 当たる数を撃つのではなく全て当てるための射撃だ。
 精霊が五月蠅い。
 この段階でようやく機体がミグ本人の危機を警告する。
「貴様等が出した金がどう使われたか、見るが良い!」
 射手と射手の隙間をすり抜け騎士剣を一閃。
 高位歪虚に見立てた標的が、右から後ろまで大きく切り裂かれた。
「うむ」
 興奮で混乱状態に陥った会場の隅で、ミグはよろめきながら試作機から降りた。
「気が利くの」
 オートソルジャーの給仕から高カロリー飲料を受け取り飲み干すが全く足りない。
「ミグは巨人『パンタグリュエル』の名を推そうと思うのじゃな」
「機体名なぞ王国にくれてやればいい。花より実だ」
「クレジットタイトルに載せるのは最低限じゃがな」
 ルベーノとミグは顔を見合わせ、全く同時に凄絶な笑みを浮かべる。
 造るだけでは終わらない。
 邪神を仕留めるまで終わらないのだ。
「プラトニス様、あれはプラトニス様が加護を!?」
 大精霊クリムゾンウェストに次ぐ精霊に、王国の高官達が詰め寄っていた。
 非難目的でも問い詰める目的でもなく、混乱しきって縋り付いているようにも見える。
「うまいことやってくれてるみたいだな」
 ボルディアは試験場の中央で待っている。
「しっかし」
 精霊が騒いでいる。
 騎士の鎧でも隠しきれない、禍々しいほどに鋭い光を放つ機体にどうしようもなく惹きつけられてる。
「精霊と機体の融合、か。一歩間違えりゃエバーグリーンの二の舞だな」
 それでも手を出さざるを得ない。
 前衛覚醒者として1つの頂点にあるボルディアも、大精霊の支援ありでも邪神の指1つも潰せなかったのだ。
「待たせた」
 ジーナが乗り込んだ試作機がやってくる。
 身のこなしも防御の堅さもボルディアに劣る。
 ハンター個人に最適化されていないため当然だが、それを知り実感として理解出来ている者は観客の中にはいない。
「最初は軽く行くぜ」
 プラトニスの号令で戦いが始まった。
 ボルディアは斧は使わず銃器で攻撃。
 個人携帯可能な銃としては極めて攻撃だが所詮は対単体攻撃。
 最大限巧く使っても10回中1回しか当たらない。
「――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ」
 ジーナが祈りを捧げる。
 機体と直結した五感をさらに機体へ近づけ、機体の飛行機能を限界まで引き出す。
 がんばれー
 ばれー
 精霊の声が多重に聞こえる。
 精霊が降りてきたのではなく、ジーナと新たな機体が高みに登りそこから上の次元を覗いているのだ。
「行くぞ」
「初っ端からそれか!」
 ジーナは一度研究所に戻り、屋上に設置された自爆装置用爆弾を飛んで運んでボルディアに対し爆撃する。
「客に刺激が強いんじゃねぇか?」
 ボルディアレベルだと爆風を見てから回避可能だ。
 万一当たったところで余程運が悪くない限り装甲で止まる。
「デモだからな」
「違いない!」
 イェジドとボルディアが全く同時に銃を手放した。
 この両者が近づき人騎一体となる様を目視できたのは極少数だ。
「すまないが1対3で戦わせてもらうぞ」
 模擬戦等を一時中断。
 前線に出せないほど貴重な、熟練整備士多数による装備換装が行われる。
 ボルディアが困惑し、試験場の端で立ち上がるデュミナスを見て苦虫を噛み潰したような表情になる。
「メーガンか」
「開発の趣旨に沿うならこうすべきと判断した」
「りょーかい、歪虚役に徹してやるよ」
 イェジドが急加速して魔導型デュミナスと合流する。
 デュミナスも悪い機体ではないが開発時期差は大きい。
 105ミリカノンで撃っても30ミリ弾を連射しても試作機にはかすりもしない。
 いや、1割弱は当たってはいるのだが小型で分厚い盾で防がれて無傷同然だ。
「そらっ」
 試作機が回避のため高度を下げたタイミングで魔斧が翻る。
 広大な面の攻撃を躱すほどの回避力はない。
 ジーナは回避失敗を直感し盾で受け流す。
「実戦ならこれで大破だ」
「デモだろ? 無傷ってことにしとけ」
 互いの通信機にのみ声を届けて直進。
 ボルディアが突破されデュミナスの護衛が0になる。
「あ」
 間抜けな声の割にデュミナスの動きは素早く的確だ。
 試作機の圧倒的な速度と正確さに対応不可能と即断。
 展開し地面に突き刺したままのCAMシールドの陰へ隠れ、ダガーを構えて勘のみでカウンターを試みる。
「ベルトを外すな。重要器官には当てない」
 増速する。
 この速度についてくることができた精霊は1柱のみだがそれで十分以上だ。
 薄緑色の光りに包まれた巨体と騎士剣がひたすら早くデュミナスへ迫る。
「これが出荷時点の性能だ」
 胸部、左脇、背部にかけて亀裂が走る。
 微かに遅れて衝撃が装甲へ伝わり、デュミナスの半身が歪みながら胸から上が引きちぎられる。
 兜を被ったままの女騎士が、デュミナスのコクピットで固まり目を丸くしていた。
「以上でデモンストレーションを終了する。詳しい説明は所長とエルバッハが行う」
「プラトニスも解説してくれるらしぜ」
 精霊から非難の視線が向けられても気付かないふりをしてボルディアが女騎士を大破機から回収した。
「すごい性能ですね」
「メーガンにゃ無理だろうがな。チェスで10手先を読みながら全力で斬り合いするようなモンらしいぜ」
「10手の時点で無理です。しかし……すばらしい」
 高位傲慢対策にもなる対歪虚装甲。
 超高位覚醒者と戦える水準の戦闘力。
 対大型歪虚、対歪虚群に絶大な効果を発揮する範囲攻撃。
 コスト高騰というマイナス面はあるが、技術面でぱっとしない王国のCAMとは思えない高性能機だ。
「実質的に残存世界総力結集CAMですね。リチャード博士、ここでの説明が終わり次第クリムゾンウェスト連合軍への報告、次にリアルブルー連合宇宙軍への報告と釈明をお願いします」
 司会担当のエルバッハに容赦は無い。
 ここまで来れば所長は用済みだ。
 最強ロボットという所長個人の夢ためではなく、世界のために希少な技術と知識を役立ててもらわなくてはならない。
「持っていけ」
 ジーナが薬用酒を博士へ投げ渡す。
「戦勝会でまた会おう」
 それきり振り返ることなく、あらゆる国から集まった者達がそれぞれの場所へ戻っていった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 13
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠ka0725

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    バウ・タンカー
    バウ・タンカー(ka0665unit010
    ユニット|自動兵器
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    オウコ
    王虎(ka0725unit003
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    エクスシア・トリニティ
    エクスシア・TTT(ka1439unit002
    ユニット|CAM
  • 勝利への開拓
    ジーナ(ka1643
    ドワーフ|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    タロン
    タロン(ka1643unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    オートソルジャー
    オートソルジャー(ka6752unit006
    ユニット|自動兵器

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン いよいよ大詰め相談卓
ミグ・ロマイヤー(ka0665
ドワーフ|13才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/12/02 20:39:05
アイコン メーガンに質問
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/12/01 17:25:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/28 22:27:03