珍味を釣れ!

マスター:ザント

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/08 09:00
完成日
2018/12/15 02:16

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 港湾都市ポルトワール近郊の街にある漁港。
 いつもは漁業で賑わっている港だが、今はいつも以上に活気に満ちていた。
 発端は三日前、漁業に出ていた一隻の漁船が沖で沈没したことから始まった。
 幸いにも船長及び船員は全員救助されたので犠牲者はいない。
 何故沈没したのかという問いに救助された船員の一人が好戦的な笑みを浮かべながら、沈没した原因を答えた。
 爆発する音がしたと思ったら船に大きな穴が空いた、と。
 その爆発する音は数年に一度あるかどうかという不定期ではあるが、この街ではよく知られるものの襲来を意味していた。
「やっと来やがったか」
 その話を聞いた漁師たちは皆一様に好戦的な笑みを浮かべ、まさに血湧き肉踊る状態で準備を始める。
「てめぇら、しくじるんじゃねぇぞ!」
 引退してやせ衰えた元漁師の老人でさえ、見た目では考えられない大きな声で現役時代の口調なのか荒々しい言葉で後輩たちを激励する。
 相手は一歩間違えれば船が沈没する程の危険生物だが、それでも全員がそれを捕まえようと動き出していた。
 襲来したものの正体は魚雷魚と呼ばれるクリムゾンウェスト固有の生物。
 その身は口に入れるとパチパチと炭酸のように弾けて自然にほぐれ、香りと味が口一杯に広がるという珍味だ。
 様々な料理方法があるがどう料理してもそうなり、そして街の住人で嫌いな者はいない。
 むしろ、大好物である。
 もちろん数年に一度という希少性と珍味で美味いということもあって、身入りは大きい。
 つまり、漁師にとって多少危険だろうが魚雷魚を逃す手などない。
「おい、トッポ!」
「なんすか船長!」
 漁師たちが大忙しの中、一人の漁師が自分の船の船員である男性を怒鳴るように呼ぶ。
「魚雷魚漁は危険だからな。ハンターに依頼をしてこい」
「ハンターに?」
 トッポと呼ばれた男性は船長の言葉に首を傾げると、船長は今回の襲来がトッポが漁師になって初めてなのだと思い出してトッポに言い聞かす。
「いいかトッポ。魚雷魚ってのはちゃんとした処理をしなきゃやべぇんだ。きちんと処理をしねぇとたった一匹で大樽が粉みじんに吹き飛ぶくらいの爆発が起きる」
「えっ」
「そんな奴らがうようよ居る海に入ってみろ、人間なんざひとたまりもねぇ」
 それを想像したのかトッポはぶるりっと体を大きく震わせる。
「まぁそれを好きでやる物好きも居るっちゃ居るが、俺たちは漁師であって物好きじゃねぇ。だから、海に落ちたり船が沈没したりした時の救助の為にハンターが必要なんだ」
 ハンターに依頼する理由を説明し終えた船長はトッポに再度依頼をしてくるように言うと、作業に戻る。
 道具の点検を入念にしているその姿を見て、トッポは自分を怯えさせる為の冗談ではなく、全て事実なのだと理解するとハンダーオフィスへと走り出した。

「爆発音とその後すぐに沈没した船。これは間違いなく魚雷魚の襲来を意味しています」
 ハンターオフィスの女性職員であるエルリア・ベルソー(kz0267)は妙に生き生きとしながら、魚雷魚について教えてくれた。
「魚雷魚は見た目は何の変哲もない魚ですが、頭部に衝撃を与えたり、適切な処理……頭部を取り除かずに放置していると爆発してしまうという危険な生物です。捕獲の難しさと適切な処理を行う技術を加味すると非常に希少で高価となります。ですので、漁師の方々も危険を承知で捕獲しようとするでしょう。もちろん、売るだけでなく食べる目的もあるのでしょう。羨ましい限りです……と、失礼」
 エルリアは口元を軽く拭うと、気を取り直して依頼内容をし始める。
「依頼主は漁場のある街の漁業組合。魚雷魚の捕獲時に海へ落ちてしまった船員または沈没する船からの救出をお願いしたいとのことです。何事もないのであれば魚雷魚の捕獲を手伝って欲しいとも言っていましたが、手伝っていて救出が遅れてはいけないので、気が向いたら程度で構いません。それとですね」
 説明を終えたエルリアは物欲しそうな顔で。
「お土産に魚雷魚を貰って来てくれてもいいんですよ?」
 と、言ってきた。

リプレイ本文


 港湾都市ポルトワール近郊の街にある港から船でしばらく沖へ出た海上。
 漁場へと向かって海を走る船団の一隻にロニ・カルディス(ka0551)は乗っていた。
 今回の依頼の肝となっているのは魚雷魚という危険生物だ。
 頭部に刺激を与えたり、頭部を取り除かずに放置していると爆発する非常に珍しい魚で、珍味として知られているらしい。
(なんと言うか……随分と珍しい魚がいたものだ。まぁ珍しいからこそ、危険を冒してでも漁をする価値があるという事か)
(取り扱い注意な珍味、かあ。物好きがいたもんだけど、そう聞くと好奇心をそそられるのも分からなくもないね)
 魚雷魚という存在と危険と知りつつも漁へ出ると言う漁師たちの行動を知ったロニと夢路 まよい(ka1328)は、その物珍しさもあって納得してしまったものだ。
 だが、危険なものは危険。
 漁師たちの手伝いはするものの、捕獲時に爆発して穴が空いた船からの、そして海へ落ちてしまった漁師の救助をする事が優先される。
 ロニが乗る船から少し離れた船に乗るトリプルJ(ka6653)は魚雷魚の話を聞いた時に。
「船に穴開けられたらそうも言ってられねぇが、樽吹っ飛ばす魚群に落ちたら、救助以前に爆殺されそうでなあ。ジョーズやオルカでもないただの魚に殺られるとか嫌すぎだぜ」
 と顔を顰めていた。
 その際に開かれた話し合いでは漁師の救助が優先で全員一致し、作戦としてはトリプルJから提案された「仲間内でばらけ且つ一人が主に見る数隻をある程度割り振ってから乗船」で行く事となった。
 ロニは漁場に着き漁が開始された後は、ワイバーンのラヴェンドラに騎乗して船団の中央上空で周辺を見渡して救助者がいないか、あるいは手持ちの双眼鏡を活用して漁の手伝いをするつもりだ。
 無線機を使っての仲間たちとの連携も忘れない。
 そして船団中央付近にある船にはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が乗船していた。
「うん、いい匂いだ」
 海を走る船の上で、彼女は大きく息を吸って海の匂いを楽しむ。
 というのも、彼女は船に乗るのも久しぶりであるので魚以外にも海の匂いも楽しもうと考えての参加だ。
 もちろん魚雷魚の話を聞いて不思議で物騒な魚、何をどうやったら頭が爆発するような生物になるんだろうか、爆発したら自分も死にそうな気がすると思ったものだが。
 とにかく、連れてきたグリフォンのジュリアを上空で警戒をさせ、魚雷魚の居る漁場までは船と海をアルトは純粋に楽しむ事にした。
 そしてそれは別の船に乗るまよいも同じだった。
「良い天気だね~」
 波に揺れる船の縁に凭れかかりながら、まよいは晴天の青空の下でまったりと過ごしていた。
 波に当たって大きく上下しながら移動する船は、激しい荒波にもなれば慣れているはずの漁師でさえ船酔いをしてしまうほど。
 船酔い等の乗り物酔いというのは、不規則な加速や減速の反復によって自律神経や平衡感覚の乱れによって起きる。
 今は少し波が出ている程度だが、船に慣れていない者が船酔いするには十分すぎるレベルだ。
 そんな中でまったりと過ごしているまよいは、ハンターである事を除いても高い自律神経と平衡感覚の持ち主である証拠だろう。
 また別の船では、空を見上げながらレイア・アローネ(ka4082)は連れてきたワイバーンのアウローラの姿を確認していた。
 船と漁の安全を保ちたいと考えているレイアは、漁場に着いたらアウローラを使って定期的に上空から魚影を確認し、海に落ちた漁師がいれば助けに飛び込むつもりだ。
 もっとも、その時はまよいに頼んでウォーターウォークをかけて貰い、巻き込まれないよう十分に注意をする。
(しかし、魚雷魚か。なかなか珍しい生き物だな。……これで歪虚ではないのか……)
 ふと魚雷魚について聞いた時の感想を思い出したレイアは、まだまだ自分が知らない事が多いなと苦笑をすると漁場はまだかと船首の方へと目を向ける。
「もうすぐだぜ、姉ちゃん」
 その時に船員と目が合い、察したのか漁場がもうすぐだと教えてくれたので礼を言うとレイアは気を引き締める。
 いつ魚雷魚が現れてもいいように。
 所変わって別の漁船に乗るトリプルJは、船首で前方を見つめていた。
 その体には柔軟性の高い一体型の衣服に複数の装甲が取り付けられた鎧を身に纏っている。
 これは潜水鎧と言って、潜水服としても用いることの出来る一品で、水中戦を考慮した泳ぎやすさを重視して作られたものだ。
 トリプルJとしては水中に落ちそうな船員が居れば、それを未然に防ぐつもりだ。
 なにせ、相手は爆発する魚だ。
(俺らは生きてさえいりゃ唾つけるだけでも治るが、一般人はそうもいかないからな)
 回復は基本的には聖導士であるロニに任せるつもりだが、その暇もないほどの大怪我には自分が使える回復手段を使う。
 だが、やはり間に合わないという事もある。
 その時はトリプルJ自身も飛び込んで水中転落者を救出する。
「そのための潜水鎧ってな」
 誰に言うでもないその呟きは、そのまま海風にかき消されていった。


 漁場に着くとすぐにロニはラヴェンドラに騎乗し上空に上がると中央付近で飛行しながら待機する。
 それに続いてハンターたちも準備を整えていく中、漁師たちも魚雷魚の捕獲準備をする。
 手にするのは釣竿や手鉤に出刃包丁だ。
 手鉤は鮪などの大物を引き上げる時にも使われるが、柄が短い物は魚の〆具としても使われている。
 今回の手鉤は前者の引き上げ時の物だ。
 魚雷魚の釣り方は糸を垂らし、海面に浮上してきたら頭に注意して素早く手鉤を刺し、引き上げたら出刃包丁で頭を落とす。
 効率は悪いが、これが魚雷魚を釣るのに最も適した方法なのだ。
 魚雷魚は頭に衝撃を与えると爆発するので、網でまとめては自殺行為。
 次に銛などで直接突く事も出来なくもないが、一度でも失敗して頭にでも当たれば当然の如く爆発する。
 可能な限り爆発させないようにした結果、導き出された方法がこれだ。
 もちろんこの方法でも誤って頭に手鉤を刺したり、力加減を失敗して勢い良く釣り上げてしまったり、不慮の事故が起こらないとも限らない。
「俺たちにゃあ、ハンターたちが付いてる。安心して失敗でもなんでもしやがれ!」
 船長の発破に船員たちは野太い声で答えると、海へと釣り針を投げ込む。
(出来れば失敗して欲しくないんだけどな~)
 瞳が強い輝きを放ち、吹き上げられているかのように髪や服がなびいて舞い踊っている中、まよいは当たり前の事を思いながら水を詰めたような宝石にリボンの飾り紐が付いた可愛らしい見た目の杖であるロイーレを手に持つ。
 まよいは杖に魔法を付与して飛行しながら空中を活動するつもりだが、付与には回数と時間制限がある。
 まだ漁は始まったばかりの今では無駄となる為に使ってはいない。
 まよいが周りを見回すと、他の船でも同じように釣り糸を垂らしている。
 そして遠くの船では丸っこい雰囲気の鳥が飛んでおり、船団中央付近ではワイバーンやグリフォンが飛んでいる。
「……うん、考えないようにしよっと」
 深く考えても良い事は無いと直感したまよいは、すぐに脳裏に浮かんだ思いを捨てるとトランシーバー越しにロニから齎される情報に耳を傾ける。
 どうやら多くの魚影が時折水しぶきを上げながら船団に向かって来ているらしい。
 素早く杖に魔法を付与して空中に飛び上がると、まよいは直感に従って移動を始めた。


「かかったぞ!」
 最初の船から上がったのを皮切りに、全ての船から同じ言葉が上がっていた。
 言葉と共に糸が巻かれ、手鉤が海面を叩く。
 そして引き上げられたのは一匹の魚……魚雷魚だ。
 魚雷魚が引き上げられると同時に出刃包丁を持った漁師が頭を押さえると頭を落とす。
 頭が落とされるとすぐに別の漁師が頭から針を外し、出来るだけ衝撃を与えずに海へと捨て、海へと沈んでいくのを見届ける。
 これでようやくワンセットが終了だ。
「次だ!」
「ほい来た!」
 役割分担して淀みなく処理していく様子は、とても慣れている事を感じさせる動きだった。
 アルトはその動きに感心しつつも、集中をする。
 すると、燃え盛る炎の様なオーラが一瞬鳥を象り全身と武器を覆う。
 髪が腰まで伸び、瞳と共にオーラと同色に染まると耳を澄ませて音に注意する。
 船員が誰も気が付かずに落ちるという事もあるかもしれないからだ。
 それと時折ではあるが、上空ではジュリアが誰か落ちている人がいないかをパトロールしている。
 もちろんロニがワイバーンに騎乗して警戒をしているのは知っているが、数は多いに越した事はないだろう。
 救助の時はアルト自身も魚雷魚に当たられないように注意をし、ミイラ取りがミイラにならないようにするのも忘れない。
(最悪水の中にまで沈んで行ってしまったら、泳いで助けるしかないか。さすがにこの時期は寒いからできるだけそんな事態になってほしくはないんだが)
「あっ!」
 海の寒さを想像して身を震わせると、アルトの耳に焦りに満ちた声が届く。
 見ると、まだ若い船員が加減を間違えたらしく思いっきり釣竿を引いていた。
 釣り糸の先には魚雷魚が付いている。
「赤髪の姉ちゃん!」
 時間がない状態だが、アルトの心に焦りはなく冷静そのもの。
 空を泳ぐ魚雷魚の頭へと狙いをすまして一閃。
 狙いは違えず、魚雷魚の頭と胴体は分かれる。
 体は船に落ち、頭は勢いのままに振り子のように大きく右に左と揺れ動く。
「っ!」
 その頭を避けようとした船員の一人が体を仰け反らせ、そのままバランスを崩して海へと落ちていくのをアルトは視界の隅に捉えた。
 一瞬の躊躇もせずにアルトはマテリアルを足に込めると船の甲鈑を強く踏み付ける。
 そしてその反動の力を利用して爆速的な加速を得ると船を飛び出て、落ちていく船員を空中でキャッチした。
 だが、勢い余って船から離れる形となってしまい、飛び出る時に方向や距離などは見ていなかったので進行方向に船はない。
 海には、数えるのも億劫な数の魚雷魚が泳ぎ回っている。
 このまま海へと落ちれば、待っているのは死あるのみ。
「う、うわぁあああ!」
 助けた船員がそれを理解して情けない声を上げ、アルト共々重力に従って効果を始めた時。
 アルトは空中に極薄のマテリアルによる足場を作り出すと、その上へと着地した。
「あぁぁぁ……あ?」
 間抜けな声を漏らす船員を尻目に、アルトはもう一度跳躍すると船へと降り立つ。
「た、助かったぜ赤髪の姉ちゃん」
「これも仕事だ、気にしないでくれ」
 通常時ならもう少し気の利いた事を言えただろうが、今は冷徹な性格になっているアルトは手短に告げると軽く周りを見渡して海に落ちている人がいないか確認をする。
 どうやら、見える範囲では居ないようだ。
 ひとまず肩の力を抜いたアルトの遥か後方から、爆発音と共に漁師たちの悲鳴が聞こえたのは、その時だった。


「おめぇら全員船首に集まれ!」
 船長の迅速な指示によって船員たちは船首へと集う。
 いきなり爆音と共に水しぶきが上がり、船尾からどんどんと海へと沈み始める船。
 推測にはなるが水しぶきが上がった事と船尾から沈んでる事から、恐らく船の舵にでもぶつかったのだろう。
 だが、これはほんの序章に過ぎない。
 沈むという事は当たる場所が増えるという事なので、更に魚雷魚がぶつかる事は容易に想像がつく。
 船長は一番近い船を見やるが、近いが魚雷魚がいる中で泳いでいくには危険すぎる距離だ。
「くそっ」
 船長が悪態を付くが、危機的な状況に変化は生じない。
「……ん?」
 ふと気づくと、一人の船員が不思議な力を纏っていた。
 他の船員にも続々と同じものが纏わせられ、困惑していると沈む船に灰色の髪の少女が降り立った。
「今なら水の上を歩けるから、早く避難してね」
 船員たちの変化は、直感に従って事故が起こる前から行動したまよいによるウォーターウォークだ。
 船員たちにかけられたウォーターウォークは、マテリアルを調整して射程を延長する技術を使用している上に持っている杖の力で波があっても問題なく移動できるようにもなっている。
「でもよ、歩いてる時に魚雷魚に当たりでもしたら……」
「それなら」
 船員の心配にまよいは海に向かって詠唱を始めた。
「果てなき夢路に迷え……トリームメイズ!」
 詠唱が終わると同時に青白いガスが一瞬広がり、次々と魚雷魚が海面に浮かび上がってきた。
「そーっと、そーっと……」
 浮かぶ魚雷魚を刺激しないようにまよいは捕獲すると、眠っている事を確認する。
「うん、ちゃんと眠ってるね。これでもう大丈夫だよ」
「すげぇ……」
「あ、私はもう行くから」
 感心する漁師たちをよそにまたしても直感が働いたのか、そう言うや否やまよいは別の船の方へと飛び去って行った。
「ありがとうよ、嬢ちゃん!」
「おめぇら、ついでに捕まえながら行くぞ!」
「おぅ!」
 まよいに向かって感謝の言葉を投げかけると、船員たちは船を脱出を始めた。
 別の所では、仲間同士で激突でもしたのか近くで爆発して揺れた船から大きく放り出された漁師を見つけたロニがラヴェンドラの足から垂らした結び目を作ったロープに捕まらせて救出をしていた。
「ふっ!」
 船へと下ろすと行きがけの駄賃として船に近い魚雷魚に向かって光の杭を打ち込み、その動きを阻害する。
「今のうちに捕獲を!」
「おぅ!」
 漁師はタモ網を使って動きが鈍い魚雷魚を引き上げるとすぐさま頭を断つ。
 今のところは沈没する船は一隻のみだが、そこかしこで爆発が起きて水しぶきが上がり船が大きく揺れ続けている。
 まるで地雷原の中に居るような感覚を覚えるが、それは言い得て妙なのかもしれない。
 ラヴェンドラに指示を出して上空へと上がり、周りを見回して要救助者が居ないか、居なければ双眼鏡をのぞいて魚影を確認する。
「……大量だな」
 その魚影の多さに苦笑しつつも、ロニは双眼鏡で見つけた要救助者をすぐ近くに居る仲間に無線で伝えた。
 その無線を聞き、要救助者を助けに向かったのはレイアだった。
「大丈夫か!」
「す、すまねぇっ」
 声をかけてから、レイアは漁師を海から引き上げるとそのまま海を歩いて船へと乗せる。
 これで何人目だろうか、レイアはまよいにかけてもらった強化されたウォーターウォークによって波を気にせず海を歩く事が出来るので効率よく救助が出来ていた。
 救助した中にはベテランも混じっており、慣れていようとも油断すればそうなってしまうという事実。
 これほど魚雷魚漁の過酷さを物語っているものはないだろう。
 特に今回は滅多にない大漁らしく、魚雷魚の数が多くて事故が多発しており、通常は海に落ちる人はもっと少ないらしい。
 運が良いのか悪いのか、漁師たちは運が良いと思う事にしたらしく魚雷魚の処理を終える度に歓声を上げている。
 無理をしているのは分かるが、そう思わないとやっていられないという事なのだろう。
 定期的に上空から魚影を確認させていたアウローラとロニから知らされる情報を頼りにレイアは船から離れた。


 足を滑らせ、船から落ちてしまったのが運のつきだった。
 トッポはそんな事を思いながら、下手に動けば周りを泳ぐ魚雷魚に当たってしまうので身動きが出来ず、そのまま海の底へと沈んでいく。
 叫びながら落ちたので、肺の中の空気もない状態だったのだ。
(あぁ、俺。このまま死ぬんだな)
 光に反射して煌めく魚雷魚たちを見上げながら、トッポは他人の事のように諦めて目を閉じる。
 その数秒後だった、何かが後ろからトッポを持ち上げる形で抱えたのは。
 驚いて後ろを見るトッポの目に映ったのはトリプルJだった。
 トリプルJは意識があるのを確認すると、そのままバタ足で海面を目指す。
 そんな二人に向かって何匹もの魚雷魚が突っ込んでくる。
 それを見たトッポが少ない空気を吐き出すが、トリプルJは魚雷魚に向かって立て続けに素早く蹴りを繰り出した。
 トッポが振り回されてしまうが、命がかかっているので我慢してもらう他ないだろう。
 繰り出した蹴りが向かってくる魚雷魚の頭以外に当たり、退けると海上へと浮上した。
 トリプルJが顔を出すと、まよいが海を覗き込む形で待機していた。
 直感に従ってここに来たようだが、ここまで行くと最早未来予知の域である。
 トリプルJとしては好都合だったので、すぐにまよいに頼み込む。
「夢路、こいつにウォーターウォークを頼む!」
「あなたはいいの?」
「俺にかかったら潜れなくなるだろ、要らねえよ」
「分かった」
 まよいはトッポへウォーターウォークをかけ、それを見届けたトリプルJは次の救助者の下へと向かう。
 トリプルJは現在ペットである鳥型の幻獣のモフロウと視覚共有している為、目の届かない場所にいる救助者もすぐに察知出来るのだ。
 次の救助者もまた水中転落者である。


「兄ちゃん、姉ちゃん、本当に世話になった」
「助かったぜ、ありがとうな」
 漁を終えると漁師たちは口々に感謝の言葉を口にし、ハンターたちはその感謝を受け取った。
 だが、遠足ではないが漁は港に帰るまで。
 ロニは精霊に祈りを捧げてけが人を治療すると処理していなかった魚雷魚の処理をする漁師の傍に待機して有事に備え、まよいはエルリアへのお土産に捕まえた魚雷魚をいくつか買い取る交渉を。
 アルトも買い取る交渉をした上でどういった調理法がいいのか漁師に教わって港に着くまでの時間を潰す。
 港に近づくに連れて大きくなる歓声を受け、漁師たちは船を港へとつけると処理した魚雷魚が入った籠を手に歓声に応えながら港に凱旋する。
「ほら、あんたたちも応えてやんな」
 そう言われて差し出された籠を手に、ハンターたちは港へと降り立った。

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MVP一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ラヴェンドラ
    ラヴェンドラ(ka0551unit004
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ジュリア
    ジュリア(ka3109unit003
    ユニット|幻獣
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 魚雷魚捕獲
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/12/08 08:40:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/07 19:02:58