ゲスト
(ka0000)
【CF】マチヨの聖夜に爆発しろ!
マスター:電気石八生
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●思惑
聖輝節。それは、なんかこういい感じな冬の祭典だったりするわけだが、今年はリアルブルーからの移民を受け入れたこともあり、なんかこういい感じを醸し出しづらい雰囲気があったり。
しかし!
そんなことで自粛してたらクルムゾンウェストの沽券に関わる!
盛り上がるのだ! リアルブルーの人たちも巻き込んで、なんかこういい感じに!
……そんなわけで、辺境の部族会議でもあれこれ話が持ち上がり、部族それぞれが思い思いの企画でウェルカムパーティーを開催することと相成ったのだが。
●復活
「アラローでどーっす?」
筋肉のことしか知らない、筋肉のことしか知りたくない、部族全員が練筋術師――ただしアヴソリュート・ポーズしか使えない――というマチヨ族の大胸筋長が厳かに提案した。
「どーいっす!」
どーい! どーい!
上腕三角筋長が同意を告げ、他の“長”もまたポージングで賛意を示す。
ちなみにアラローとは、アヴソリュート・ライトアップ・ロードの略であり、アヴソリュート・ポーズで決めた男たちが左右を固めたその間をお客さんに通ってもらうという、マチヨ族伝統の歓迎方法だ。問題は、通るにつれお客さんの知性が下がり、マチヨ族に同化していくこと。
「うーん、アタシ的には魅力的だけど、結局堪能できねぇから」
マチヨ族名誉族長の位にあるゲモ・ママ(kz0250)は禿頭を振り振りため息をつく。狂おしいほどオネェなママにとって、ご褒美を愉しみきれない内にアホ化するのは耐え難い。お触りは厳禁なのだから、せめて記憶くらいは全部持ち帰りたい。
「それにアレよ。マッチョは女子受けしねぇし、押し出してくと客幅が狭くなっちゃうわぁ。ま、アタシはぜんぜんかまわねぇけど! オトコオトコオトコぉぉぉおおお!」
どーい……男たちは力なくうなだれた。
マチヨ族は圧倒的な男率を誇る部族なので、外からお嫁さんをもらえないと困るのだ。ただでさえニッチな性癖に訴えなければならない彼らにとって、なんかこういい感じを引き寄せられる聖輝節はがんばっておかなければならない事情がある。
悩む男たち。が、2秒くらいで筋肉のことでいっぱいになってしまう頭では、なにを思いつくこともできず――
「願いまっす」
くわっと手を挙げた大腿四頭筋長に「はいどうぞ~」、ママが発言をうながせば。
「禁じられた祭、解禁するってのはどーっすか?」
どーい……! 場がどよめいた。
「まさか、あのマボ祭っす!?」
「筋肉の丈を競い合い、命を削り合うマボ祭っすか!!」
微妙に説明的な男たちへ、ママはちゃんと説明するよう促さざるをえなかった。
「もったいつけてたってどうしようもねぇんだから」
マッスルボンバー祭。それは広背筋を鍛えるために使うスレッジハンマーの先に爆薬を取りつけ、男たちが順番に地面へ置いた石をぶっ叩いてその爆発の度合と美しさを競い合う祭である。
ルールこそ簡単だが、綺麗に爆発させるには全身の筋肉を効率よく活用する必要があるし、もちろん危険を伴うから、どれだけ自身の筋肉の鎧を厚くできているかも重要だ。そしてなにより、取りつける爆薬の量は自由。
男たちはこぞって大量の火薬を取りつけては、文字通りに自爆してきたという。当然、その後の筋肉活動に障ることから、15年前に自粛が決められたわけだが……
「確かに見栄えはするわよねぇ。覚醒してたら死にゃしねぇし、なによりマッチョなオトコが爆炎に飾られてキラっキラ――見てぇわ、そりゃ見てぇわ!」
まあ、オンナ受けは絶対しねぇだろうけど。言うべき言葉を腹の底へ沈め、ついでに素知らぬ顔の裏に欲望を隠したママはぐいっとうなずいた。
「それでイキましょ! 早速参加者募集しねぇとね!」
果たしてリアルブルーの人々の受け入れが行われた冒険都市リゼリオの一角、命知らずのハンターを巻き込んでのマッスルボンバー祭が開催されることとなったのだ。
聖輝節。それは、なんかこういい感じな冬の祭典だったりするわけだが、今年はリアルブルーからの移民を受け入れたこともあり、なんかこういい感じを醸し出しづらい雰囲気があったり。
しかし!
そんなことで自粛してたらクルムゾンウェストの沽券に関わる!
盛り上がるのだ! リアルブルーの人たちも巻き込んで、なんかこういい感じに!
……そんなわけで、辺境の部族会議でもあれこれ話が持ち上がり、部族それぞれが思い思いの企画でウェルカムパーティーを開催することと相成ったのだが。
●復活
「アラローでどーっす?」
筋肉のことしか知らない、筋肉のことしか知りたくない、部族全員が練筋術師――ただしアヴソリュート・ポーズしか使えない――というマチヨ族の大胸筋長が厳かに提案した。
「どーいっす!」
どーい! どーい!
上腕三角筋長が同意を告げ、他の“長”もまたポージングで賛意を示す。
ちなみにアラローとは、アヴソリュート・ライトアップ・ロードの略であり、アヴソリュート・ポーズで決めた男たちが左右を固めたその間をお客さんに通ってもらうという、マチヨ族伝統の歓迎方法だ。問題は、通るにつれお客さんの知性が下がり、マチヨ族に同化していくこと。
「うーん、アタシ的には魅力的だけど、結局堪能できねぇから」
マチヨ族名誉族長の位にあるゲモ・ママ(kz0250)は禿頭を振り振りため息をつく。狂おしいほどオネェなママにとって、ご褒美を愉しみきれない内にアホ化するのは耐え難い。お触りは厳禁なのだから、せめて記憶くらいは全部持ち帰りたい。
「それにアレよ。マッチョは女子受けしねぇし、押し出してくと客幅が狭くなっちゃうわぁ。ま、アタシはぜんぜんかまわねぇけど! オトコオトコオトコぉぉぉおおお!」
どーい……男たちは力なくうなだれた。
マチヨ族は圧倒的な男率を誇る部族なので、外からお嫁さんをもらえないと困るのだ。ただでさえニッチな性癖に訴えなければならない彼らにとって、なんかこういい感じを引き寄せられる聖輝節はがんばっておかなければならない事情がある。
悩む男たち。が、2秒くらいで筋肉のことでいっぱいになってしまう頭では、なにを思いつくこともできず――
「願いまっす」
くわっと手を挙げた大腿四頭筋長に「はいどうぞ~」、ママが発言をうながせば。
「禁じられた祭、解禁するってのはどーっすか?」
どーい……! 場がどよめいた。
「まさか、あのマボ祭っす!?」
「筋肉の丈を競い合い、命を削り合うマボ祭っすか!!」
微妙に説明的な男たちへ、ママはちゃんと説明するよう促さざるをえなかった。
「もったいつけてたってどうしようもねぇんだから」
マッスルボンバー祭。それは広背筋を鍛えるために使うスレッジハンマーの先に爆薬を取りつけ、男たちが順番に地面へ置いた石をぶっ叩いてその爆発の度合と美しさを競い合う祭である。
ルールこそ簡単だが、綺麗に爆発させるには全身の筋肉を効率よく活用する必要があるし、もちろん危険を伴うから、どれだけ自身の筋肉の鎧を厚くできているかも重要だ。そしてなにより、取りつける爆薬の量は自由。
男たちはこぞって大量の火薬を取りつけては、文字通りに自爆してきたという。当然、その後の筋肉活動に障ることから、15年前に自粛が決められたわけだが……
「確かに見栄えはするわよねぇ。覚醒してたら死にゃしねぇし、なによりマッチョなオトコが爆炎に飾られてキラっキラ――見てぇわ、そりゃ見てぇわ!」
まあ、オンナ受けは絶対しねぇだろうけど。言うべき言葉を腹の底へ沈め、ついでに素知らぬ顔の裏に欲望を隠したママはぐいっとうなずいた。
「それでイキましょ! 早速参加者募集しねぇとね!」
果たしてリアルブルーの人々の受け入れが行われた冒険都市リゼリオの一角、命知らずのハンターを巻き込んでのマッスルボンバー祭が開催されることとなったのだ。
リプレイ本文
●パドック
「筋肉の素、プレーン大豆汁どーすか!!」
「筋肉の素、鶏ササミ塩水で煮たやつあるっす!!」
「筋肉の素、ローストビーフ棒うまいっす!!」
月の綺麗な夜空をマチヨの男たちの雄叫びが突き上げる。
ここ、マッスルボンバー祭の会場には屋台が建ち並び、とりどりの郷土料理が売られていた。
「とりどりって……全部“筋肉の素”だけど」
やれやれ。ゲモ・ママはかぶりを振り振り、ローストビーフ棒をかじる。食べ歩きしやすいよう、棒に巻かれたローストビーフの味つけは当然、塩。
ひと口大豆汁をすすれば、こちらは名前のとおり味つけなしの飲む豆腐。
「丸っとシンプルぅ!!」
思わず絶叫するママに、メンカル(ka5338)が声をかけてきた。
「ママ」
いつもながらクールである。そして筋肉! これよコレコレぇ。そのへんは全部胸の奥へ押し詰めて、ママはにこやかに手を挙げて。
「メンちゃんじゃねぇの! こないだはお疲れお疲れぇ~って、そっちの黒いオンナノコはぁ?」
尖り耳を見るにエルフであることは知れた。問題はそう、胸だ。擬音にすれば「もちぷりぷりぃん!!」。
「生きてるだけででかいっす!」
「レーゾーコ、業務用っす!」
マチヨの男たちもその圧倒的なもちぷりボディにおののくばかりである。
「アラロー……シて欲しいのなー! あ! ねぇね、筋肉触っていーい?」
男たちの視線をたどり、もちもちたゆたゆ駆け込んでいこうとする黒の夢(ka0187)。
それをやさしく引っぱり止め、メンカルがママに紹介した。
「こっちは黒の夢。俺の恋人だ。よろしく頼むぞ、ママ」
まわりの男たちへの牽制を込め、強く言い含める彼に、ママはとにかくオーケーサイン。
「んー、この子かなりアレよね?」
愛が広いタイプよね? 言わずに済ませたママに渋い顔をうなずかせたメンカルは、「だからこそ、頼む」。
「……はぁ、こんなに雄々しくて絞りきった筋肉できゅんきゅんなのに、メンカルちゃんのおかあさんだったとは……っ!」
今度はママを見て甘い吐息をつく黒の夢へ、メンカルはかぶりを振って。
「あのな。実母じゃなく、ママという名前の……ややこしいんで今度説明する。とりあえずの認識はママでいい」
アタシまでターゲットに!? 雄々しいとか言ってるけどこの子っ、筋肉だったらかなり深刻になんでもいいんじゃねぇのぉ!?
悩めるママははっと顔を上げ、振り向いた。
「こんなに苦しいのなら……愛などいらぬ!」
それはもう平らかな顔で、しかし地獄の釜のフタをうっかり開いちゃったみたいな怨嗟を噴き上げるキャリコ・ビューイ(ka5044)が吼えていた。
その後ろではマチヨの男たちも深くうなずいていたりする。見知らぬ同士なのに、すでに同志なんだった。
キャーちゃんってばシリアス一辺倒な子かと思ってたけど、これだったら立派にマチヨでもやってけるわねぇ。となれば!
「キャーちゃん、アタシがローストビーフ買ったげるから食べなさい。大豆汁も飲みなさぁい。悲しみも苦しみも、みぃんな筋肉が解決してくれんのよぉ」
がっし、キャリコを羽交い締めにしてずるずる引きずりながらささやくのだ。
「ママ待て! 邪な気配が隠しきれていないぞ。俺は今、あのふたりにただならぬ負の侵食を受けているが、あんたに体を売り渡すつもりは――」
「うるせぇわぁ! 黙ってマッチョになれゴラァあああああ!!」
思わず男に戻るママ。
「売るなら我輩が買あ~?」
いそいそ申し出る黒の夢を無言でメンカルが連れ去って。
場がそこそこ以上のカオスにまみれた、そのとき。
「わぁ、ママさんですね!」
飛び込んできたかわいらしい声で、ママは我に返った。
「あらぁ……って。お嬢ちゃん、ハジメマシテよねぇ?」
赤いロングヘアに橙の瞳を持つ鬼の少女――百鬼 一夏(ka7308)がぺこり、頭を下げて。
「百鬼 一夏です。よろしくお願いします!」
後ろに従うポロウの瑠璃茉莉もいっしょに頭を下げた。
「イヤー、かわいい! オンナノコに興味ねぇけどぉ!」
キャリコをぽーいと捨ててくねくねするママだったが。
「ママさんも格闘士さんなのですね! 今度ぜひ稽古をつけていただきたく! ……マッチョなボディで、敵を粉砕して爆散させて、塵に還してあげたいのですよね」
「は?」
一夏は支給されたスレッジハンマーを軽々と素振りし、ブォンブォン、重たい風切り音を鳴らしてみせる。
「好きな言葉は力任せと力尽くです!!」
あ~、この子ってば見かけカワイイけどアレね! 詰まってる脳みそ全部筋肉ねぇ~!
「背中に鬼がいるっす!」
「あんなにキレるには、眠れない夜もあったにちがいないっす!」
その向こう側、真っ当(?)にマチヨの目を釘づけているのは、エクラに仕えし白き修道女、シレークス(ka0752)だ。
「ったく、馬鹿でやがりますか? 馬鹿でやがりますね!? 筋力まではわかりますし、筋肉はよーくわかりますが、なんで爆発させやがりますか!」
「にゃ~」
お供を務めるユグディラのインフラマラエの相槌に合わせ、片腕一本でスレッジハンマーを地面へ叩きつける。と、平たいヘッドが柄に当たるまで土にめり込んだ。
「筋肉爆発ってのはそーゆー意味じゃねぇですよ、この軟弱者どもがぁ!!」
どーいっす!
「この流浪のエクラ教シスター、シレークスが魅せてやりますですよ――学と信仰のチカラ!!」
マチヨの「どーいっす!」の隅っこで、インフラマラエがかぶりを振り振り「(ご主人様、聖職者としてはいろいろおかしいです)にゃ~」。
そんなハンターたちの様子を俯瞰していた楊陟(ka7156)は息をついた。
マチヨ族、まさか嫁取りの習俗があったとはな。もっとも男の身なれば、血を繋いでやることはできぬが。
スレッジハンマーを手にし、その重心を確かめる。常ならばけして取ることのない得物だが、しかし。
ドラグーンの寿命は短く、儚い。それを知りながらたゆまぬ鍛錬と修練を重ね、俺はここまで来た。ゆえにこそ俺はこのハンマーに問う。俺の有り様とはなにかをだ。
「……今宵、15年ぶりの奇祭のひと彩となろう。儚きこの俺のすべてを込め、マチヨの永き繁栄がための祈りとならん!」
理論武装はさておき、要約すれば「鍛えあげたこの体をもって、奇祭で思いっきりドカンと逝ってみよう」である。
儚さと頭使う系であるがゆえの浮世離れのコラボがもたらす、結果的なおバカ。
楊は自らの在りように気づくことなく、末路へと向かう。
果たしてハンターたちは“爆発場”前に集められた。
土が剥き出された広場の中央に平石が置かれているばかりだが、その石がやけに濃く黒ずんでいるあたりに趣があったりなかったり。
「アンタたち、気合ぶっ込んでヤんのよぉ! 今夜はアタシがきっちり、骸も骨も拾ったげるからねぇ~!」
「言葉のあや、なんだよな?」
メンカルに応えず、ママはただただ不穏であった。
●シレークス
「しっかりと演奏しやがるですよ!」
「にゃにゃ~!」
シレークスの言葉に、インフラマラエが複合楽器「バンドリオン」を構えて合点承知!
両手両足を駆使することで“ひとりバンド”を為すこの楽器は、愉快な曲からしんみりした曲まで、厚い音で自在に奏でることが可能な代物だ。
そんなレパートリーの中から選んだのは、聖堂教会において信徒へ祈りを促すための、やさしくありながら荘厳なフーガである。
音色に乗って進み出たシレークスの肩に担がれたハンマー、その先につけられた火薬量は最小限に留められていた。
力を語りやがるなら、体ひとつに頼りやがれです!
彼女は自らにスキルの祝福を与えていった。
祈りの内で練り上げられたマテリアルがエクラの聖印と化し、両手の甲に浮き出すと同時、体を包む金光が怒りの赤を映す。
「行くでやがりますよ!!」
さらにその赤は炎と化し、夜気を押し退けて高く燃え立った。
シレークス式聖闘術『怒りの日』からのソウルトーチで破壊力をいや増しつつ、自らを“松明”と化した彼女は、面に慈愛の笑みをたたえてフーガに乗ってゆるやかに舞い、ハンマーで夜気を裂く。これはエクラに捧げる剣舞ならぬ鎚舞。
かくて人々の目をさらい、少しずつ高めていきながら――曲の終わりに合わせて気合一閃、踏込を為し。
「おらぁああああああ!!」
ハンマーを平石へ叩きつける。
どぐんっ!! 白金の爆炎が一条噴き上がった。そして。
消えゆく爆煙の内に残心を決めていたものは、修道衣は炎に焼き裂かれ、虎縞ビキニのみをまとったシレークスの爆裂ボディ。
「肩に馬車っ!」
「腹筋で大根下ろせるっす!!」
最高のサービスに超盛り上がるマチヨの男たちへ、インフラマラエのBGMに乗せた優美な礼と笑みを贈り、シレークスは豊かな双丘をたゆりと揺らした。
●楊
楊がおもむろに衣服を脱ぎ去り、細身の筋肉を晒す。
見せ筋ではないので見栄えは悪い。マチヨ族も「どーい……」、盛り下がり気味だ。
ふ。おまえたちの失意はすでに見通しているさ。
楊が取り出したのはオリーブオイルの小樽だった。栓を抜いで頭上へ掲げ、おもむろにざぱぁ。自らをテッカテカに。嫁がいたらその名を叫びそうな風情であるが。
前に出したつま先に重心を預け、攻めながら後ろへ置いた足をたぐる――八極拳にいう探馬歩に、元は陰陽や呪術に用いられた魔除け・祈願をもたらす禹歩を併せた独特な歩法で平石へ迫る。
その間にスレッジハンマーのまわりへ火竜票を展開、さらにコンボカードを発動して票の威力を押し上げた。
どーい……
どーい……
固唾をのんで見守るマチヨ族。あのハンマーにくくりつけられた大量の火薬と符。相乗効果を考えずとも、楊の思惑は明白だ。
「楊嗣志、マチヨの聖夜に言祝ぎを贈らん!!」
平石を打ったハンマーが起爆、その炎撃をもって符に引火し、勢絶な青白を咲かせた。さらに。
爆炎を受けた楊が吹き飛ぶ寸前、桜幕符を起動。宙を舞うその身を桜吹雪で飾る。
これが俺の、言祝ぎだ。
高く打ち上がり、オイルのせいで燃えながら地面へ頭から突き立った楊を見やり、ママはそっと涙した。
「見事よ……おバカだけど」
●一夏
「ハンマーよーし。火薬よーし。ぶっちらばる覚悟もよーし」
火薬200パーセント装備のハンマーを携え、歌うように唱えた一夏は、最後に自分の胸に指さし確認を決めた。
ちなみに瑠璃茉莉はドン引きである。
「ふっふっふ。そんなに心配しなくても大丈夫! きっちり優勝してくるから安心していいのよ!」
ぶっちらばる覚悟で安心? 疑いいっぱいの目でチラ見して、さらに距離を取る瑠璃茉莉だったが……残念ながら一夏には、それを悟るおミソがなかった。
がっしと愛ポロウを抱き寄せて跨がり、「空へ!」。
ああ、やっぱりマスターは高いところが好き。瑠璃茉莉は飛翔の翼をはためかせ、天を目ざして飛んだ。
「みなさんから見えるところで停まってね! 見せなくちゃだし、魅せなくちゃだから!」
硬く練り上げたマテリアルで自らを鎧い、一夏が下方で声をあげているマチヨ族へ手を振った。
「さぁ、行きますよー!!」
ハンマーにファイアエンチャント、精霊力が炎の幻影を立たせ、巻きつけた火薬を赤々と浮かび上がらせた。あとはほんの少し衝撃を与えてやれば、この盛り盛りな火薬はまさに爆散して果てるだろう。
おののく瑠璃茉莉へ、一夏は伸び出した犬歯を見せて笑み。
「武者震いだね! わかる!」
なにひとつわかってねぇんであった。
「あ、瑠璃茉莉はちゃんと離脱してね。もふもふがごわちりになっちゃったら困るからね。最近寒くなってきたし!」
ともあれ。跳び込むホーで急降下する瑠璃茉莉。
迫り来る平石を見定め、一夏は「はぁっ!」、それはもう華麗に跳んで。
「すべては筋肉のためにー!!」
起爆した次の瞬間、赤炎が――上がらなかった。
すべては一夏の、金剛で守られた体に遮られて。
音を置き去りにした衝撃が会場を突き抜け、マチヨの男たちがどーい!? 吹っ飛ばされた。
後に残されたものは、ハンマーを掲げて佇む黒アフロの焼けぼっくい。
やりきった炭の塊を上空から見下ろし、瑠璃茉莉は「ほぅ」、ため息をついた。
●黒の夢&メンカル、そしてキャリコ
「いえー、我輩ので・ば・ん♪」
楊のような溜めもなく、黒の夢はすでに半裸だった。
どこもかしこもやわらか~い体にトーガ「イシュタル」をゆる~く巻いただけの、もう風が吹いたら落ちるんじゃね? 的なあれである。
その魅惑の塊が、スレッジハンマーを軸にポールダンスよろしくくるくるしてみせたりするのだからもう!
「本命は修道女さんっすけど、なんかもやもやするっす!」
「自分は鬼っ子っす。ただあの黒エルフさんは自分の大胸筋にくるっす!」
「大胸筋は三角チョコパイ……でもあのパイは……ぱいっす」
動揺する男たちへ、「今なのな!」。もちぷりダイブを敢行しようとした黒の夢だったが。
「こんなことだろうと思ったぞ!?」
ランアウトで滑り込んできたメンカルがたゆったゆな黒の夢の頭から毛布ばさぁ! 視界を塞いでおいてお持ち帰り。
「あいつらには刺激が強すぎる」
「メンカルちゃんの毛布あったかーい」
うふふー。とろけるような笑みを向けた黒の夢へ薄笑みを返し、再びのランアウトで会場のただ中へ。マチヨの男たちを斜め上から見下ろして。
「さて。俺たちのボンバー前にひとつ言っておくことがある」
どーい?
「さすが脳筋、気づかんか。ならば聞け! この俺はっ! 俗に云う! リア充だあああああ!!」
ど ー い ー !!
絶望と混乱と悲哀が会場を押し包み、男たちが膝をつく。ガッデムっす! あれが伝説のリア充っすか!!
「さよならを言ったはずの過去が、感情が俺にささやく……メンカル、おまえを爆散させろと」
後ろで番を待っていたはずのキャリコが、渋い顔をメンカルへ向けたまま、相棒の刻令ゴーレム「Volcanius」へハンドサインを送った。
主の合図へ速やかに応え、Volcaniusは肩に装備した42ポンドゴーレム砲をメンカルに――
「いや待て。これはその、パフォーマンスの下準備で、ネタ」
「リア充にはもうあきた。そしてこれもさだめだ。炎の、な」
うそぶくキャリコの背に、貴賓席からママがぽつり。
「キャーちゃんてば、今夜はいつも以上にテツってるわねぇ」
「謎ワードで納得するな!」
「毛布もいいけど、人肌であっためるのがいちばんいいのよメンカルちゃん! あ、汝らも我輩あっためてくれる……? ほら、我輩いろいろ大きいから、みんなでね♪」
隙を突いてマチヨ族を誘惑にかかる黒の夢に、メンカルはあわてて毛布をかけなおし。
「俺のだからな! 絶対誰にも分けてやらん!」
その様に割れるほどの力を込めて奥歯を噛んでいたキャリコが、燃える両眼でメンカルを射貫き。
「――おまえを殺す」
「作品が変わってるぞキャリコお!!」
「こうなったらメンちゃんヤるしかねぇわぁ……」
「ママは最初からそれ狙い――なのか!? 悪いが男に興味は」
おののくメンカルを黒の夢がぎゅっと抱きしめ、毛布の内でぎゅうぎゅう。寒風はそのぬくもりとやわらかな肌で遮断され、ただひとりの恋人の胸へ限りない安堵と愛しさを灯す。
「じゃあメンカルちゃん、おっぱいいるー?」
まあ、ムードとかそういうのは一切ないわけだが、しかし。
表情をゆるめたメンカルは彼女の頬をつつく。
「俺はそれよりこっちがいいな」
黒の夢の愛がその体に収まりきっていないことなど、最初から承知している。だからこそ、俺が守る。それでこそ、俺は守られる。
「Volcanius、砲撃準備いいか? 一発で決めろ」
キャリコはついに決めたのだ。明日へ繋がる今日のため、42ポンド砲弾をもって友にさよならを言うと。
が、まあ、話が進まないので爆発に強制移行する。
平石に歩み寄る間にも、マチヨの男たちへウインクやら投げキッスやら飛ばして誘惑活動を続けつつ、黒の夢はスレッジハンマーを振り上げて、振り下ろした。
「火薬マシマシ200パーセントどーん!!」
轟爆がもたらした白風に舞い上がるトーガ。煙が晴れれば、それはそれは見事に剥き出された黒の夢がご開帳! ……彼女は元から黒いので、多分消し炭になっていてもわからない。ある意味エロス革命である!
「見せるかー!」
アサルトディスタンスで再び毛布を黒の夢へかぶせて横をすり抜け、メンカルが跳躍した。
「焼きつけろ! これが本当の、リア充大爆発だ!!」
マチヨの第ブーイングを浴びる中、体ごとハンマーを平石へ叩きつけ、緑に色づけされた炎煙を噴き上げた。
「メリー、クリス、マ、ス」
最期もとい最後はキャリコである。
どこにそんな引き出しがあったのものかはさっぱり不明だが、彼は今、Volcaniusの砲の内に収まっていた。つまりそう、あれである。
「発射!」
果たして高く撃ちあげられた彼は、最高到達点でその筋肉を美しくひねり込み、5回転半ひねりを決めてさらに1回転。
「これが俺の、全力の演技だ……!」
99パーセント増しされた火薬が真紅の火花を咲かせ、黒の夢が残した白、メンカルの残した緑と相まってクリスマスカラーを描いた。
どーい!! 盛り上がるマチヨの歓声、そして夜空を彩づける赤を背負い、彼は歩き出す。残されたリア充どもの屍を一瞥もせずに。
「今夜は炎のにおいで、むせる」
●アラロー
かくて祭は終了し。
ママがマチヨどもと、健在のシレークス、キャリコへ高く告げた。
ちなみに火薬200パーセントでぶっ飛んだ楊、一夏、黒の夢、メンカルはもれなく包帯ミイラに仕立て上げられ、筋肉にいい大豆汁をぶっ込まれている。
「お待ちかね! 一等賞の発表よぉ!」
どーい!!
「死人(死んでない)が多すぎるからなし!」
どーい!?
「それはそうだろうな……」
包帯ミイラ状態のメンカルがうなずき。
「火薬200パーセントが当たり前でやがりましたからね……」
シレークスがげんなりした。
「でもまあ、せっかくなんで無事だった参加ハンターにゃ~アラローで退場してもらおっかしら」
どーいー!!
「なに!?」
「どういうことでやがりますか!?」
ポージングを決めてビカビカ光るマチヨ族の間を、羽交い締められたメンカルとシレークスが行く。
「これわおれのほのおのしゃだめ」
「まけやがりませんよぉぉぉしゃけ! しゃけもってくゆでしゅう!」
4体の包帯ミイラが見送る中、アラローの点滅は聖夜を白く、美しく飾り続けた……。
「筋肉の素、プレーン大豆汁どーすか!!」
「筋肉の素、鶏ササミ塩水で煮たやつあるっす!!」
「筋肉の素、ローストビーフ棒うまいっす!!」
月の綺麗な夜空をマチヨの男たちの雄叫びが突き上げる。
ここ、マッスルボンバー祭の会場には屋台が建ち並び、とりどりの郷土料理が売られていた。
「とりどりって……全部“筋肉の素”だけど」
やれやれ。ゲモ・ママはかぶりを振り振り、ローストビーフ棒をかじる。食べ歩きしやすいよう、棒に巻かれたローストビーフの味つけは当然、塩。
ひと口大豆汁をすすれば、こちらは名前のとおり味つけなしの飲む豆腐。
「丸っとシンプルぅ!!」
思わず絶叫するママに、メンカル(ka5338)が声をかけてきた。
「ママ」
いつもながらクールである。そして筋肉! これよコレコレぇ。そのへんは全部胸の奥へ押し詰めて、ママはにこやかに手を挙げて。
「メンちゃんじゃねぇの! こないだはお疲れお疲れぇ~って、そっちの黒いオンナノコはぁ?」
尖り耳を見るにエルフであることは知れた。問題はそう、胸だ。擬音にすれば「もちぷりぷりぃん!!」。
「生きてるだけででかいっす!」
「レーゾーコ、業務用っす!」
マチヨの男たちもその圧倒的なもちぷりボディにおののくばかりである。
「アラロー……シて欲しいのなー! あ! ねぇね、筋肉触っていーい?」
男たちの視線をたどり、もちもちたゆたゆ駆け込んでいこうとする黒の夢(ka0187)。
それをやさしく引っぱり止め、メンカルがママに紹介した。
「こっちは黒の夢。俺の恋人だ。よろしく頼むぞ、ママ」
まわりの男たちへの牽制を込め、強く言い含める彼に、ママはとにかくオーケーサイン。
「んー、この子かなりアレよね?」
愛が広いタイプよね? 言わずに済ませたママに渋い顔をうなずかせたメンカルは、「だからこそ、頼む」。
「……はぁ、こんなに雄々しくて絞りきった筋肉できゅんきゅんなのに、メンカルちゃんのおかあさんだったとは……っ!」
今度はママを見て甘い吐息をつく黒の夢へ、メンカルはかぶりを振って。
「あのな。実母じゃなく、ママという名前の……ややこしいんで今度説明する。とりあえずの認識はママでいい」
アタシまでターゲットに!? 雄々しいとか言ってるけどこの子っ、筋肉だったらかなり深刻になんでもいいんじゃねぇのぉ!?
悩めるママははっと顔を上げ、振り向いた。
「こんなに苦しいのなら……愛などいらぬ!」
それはもう平らかな顔で、しかし地獄の釜のフタをうっかり開いちゃったみたいな怨嗟を噴き上げるキャリコ・ビューイ(ka5044)が吼えていた。
その後ろではマチヨの男たちも深くうなずいていたりする。見知らぬ同士なのに、すでに同志なんだった。
キャーちゃんってばシリアス一辺倒な子かと思ってたけど、これだったら立派にマチヨでもやってけるわねぇ。となれば!
「キャーちゃん、アタシがローストビーフ買ったげるから食べなさい。大豆汁も飲みなさぁい。悲しみも苦しみも、みぃんな筋肉が解決してくれんのよぉ」
がっし、キャリコを羽交い締めにしてずるずる引きずりながらささやくのだ。
「ママ待て! 邪な気配が隠しきれていないぞ。俺は今、あのふたりにただならぬ負の侵食を受けているが、あんたに体を売り渡すつもりは――」
「うるせぇわぁ! 黙ってマッチョになれゴラァあああああ!!」
思わず男に戻るママ。
「売るなら我輩が買あ~?」
いそいそ申し出る黒の夢を無言でメンカルが連れ去って。
場がそこそこ以上のカオスにまみれた、そのとき。
「わぁ、ママさんですね!」
飛び込んできたかわいらしい声で、ママは我に返った。
「あらぁ……って。お嬢ちゃん、ハジメマシテよねぇ?」
赤いロングヘアに橙の瞳を持つ鬼の少女――百鬼 一夏(ka7308)がぺこり、頭を下げて。
「百鬼 一夏です。よろしくお願いします!」
後ろに従うポロウの瑠璃茉莉もいっしょに頭を下げた。
「イヤー、かわいい! オンナノコに興味ねぇけどぉ!」
キャリコをぽーいと捨ててくねくねするママだったが。
「ママさんも格闘士さんなのですね! 今度ぜひ稽古をつけていただきたく! ……マッチョなボディで、敵を粉砕して爆散させて、塵に還してあげたいのですよね」
「は?」
一夏は支給されたスレッジハンマーを軽々と素振りし、ブォンブォン、重たい風切り音を鳴らしてみせる。
「好きな言葉は力任せと力尽くです!!」
あ~、この子ってば見かけカワイイけどアレね! 詰まってる脳みそ全部筋肉ねぇ~!
「背中に鬼がいるっす!」
「あんなにキレるには、眠れない夜もあったにちがいないっす!」
その向こう側、真っ当(?)にマチヨの目を釘づけているのは、エクラに仕えし白き修道女、シレークス(ka0752)だ。
「ったく、馬鹿でやがりますか? 馬鹿でやがりますね!? 筋力まではわかりますし、筋肉はよーくわかりますが、なんで爆発させやがりますか!」
「にゃ~」
お供を務めるユグディラのインフラマラエの相槌に合わせ、片腕一本でスレッジハンマーを地面へ叩きつける。と、平たいヘッドが柄に当たるまで土にめり込んだ。
「筋肉爆発ってのはそーゆー意味じゃねぇですよ、この軟弱者どもがぁ!!」
どーいっす!
「この流浪のエクラ教シスター、シレークスが魅せてやりますですよ――学と信仰のチカラ!!」
マチヨの「どーいっす!」の隅っこで、インフラマラエがかぶりを振り振り「(ご主人様、聖職者としてはいろいろおかしいです)にゃ~」。
そんなハンターたちの様子を俯瞰していた楊陟(ka7156)は息をついた。
マチヨ族、まさか嫁取りの習俗があったとはな。もっとも男の身なれば、血を繋いでやることはできぬが。
スレッジハンマーを手にし、その重心を確かめる。常ならばけして取ることのない得物だが、しかし。
ドラグーンの寿命は短く、儚い。それを知りながらたゆまぬ鍛錬と修練を重ね、俺はここまで来た。ゆえにこそ俺はこのハンマーに問う。俺の有り様とはなにかをだ。
「……今宵、15年ぶりの奇祭のひと彩となろう。儚きこの俺のすべてを込め、マチヨの永き繁栄がための祈りとならん!」
理論武装はさておき、要約すれば「鍛えあげたこの体をもって、奇祭で思いっきりドカンと逝ってみよう」である。
儚さと頭使う系であるがゆえの浮世離れのコラボがもたらす、結果的なおバカ。
楊は自らの在りように気づくことなく、末路へと向かう。
果たしてハンターたちは“爆発場”前に集められた。
土が剥き出された広場の中央に平石が置かれているばかりだが、その石がやけに濃く黒ずんでいるあたりに趣があったりなかったり。
「アンタたち、気合ぶっ込んでヤんのよぉ! 今夜はアタシがきっちり、骸も骨も拾ったげるからねぇ~!」
「言葉のあや、なんだよな?」
メンカルに応えず、ママはただただ不穏であった。
●シレークス
「しっかりと演奏しやがるですよ!」
「にゃにゃ~!」
シレークスの言葉に、インフラマラエが複合楽器「バンドリオン」を構えて合点承知!
両手両足を駆使することで“ひとりバンド”を為すこの楽器は、愉快な曲からしんみりした曲まで、厚い音で自在に奏でることが可能な代物だ。
そんなレパートリーの中から選んだのは、聖堂教会において信徒へ祈りを促すための、やさしくありながら荘厳なフーガである。
音色に乗って進み出たシレークスの肩に担がれたハンマー、その先につけられた火薬量は最小限に留められていた。
力を語りやがるなら、体ひとつに頼りやがれです!
彼女は自らにスキルの祝福を与えていった。
祈りの内で練り上げられたマテリアルがエクラの聖印と化し、両手の甲に浮き出すと同時、体を包む金光が怒りの赤を映す。
「行くでやがりますよ!!」
さらにその赤は炎と化し、夜気を押し退けて高く燃え立った。
シレークス式聖闘術『怒りの日』からのソウルトーチで破壊力をいや増しつつ、自らを“松明”と化した彼女は、面に慈愛の笑みをたたえてフーガに乗ってゆるやかに舞い、ハンマーで夜気を裂く。これはエクラに捧げる剣舞ならぬ鎚舞。
かくて人々の目をさらい、少しずつ高めていきながら――曲の終わりに合わせて気合一閃、踏込を為し。
「おらぁああああああ!!」
ハンマーを平石へ叩きつける。
どぐんっ!! 白金の爆炎が一条噴き上がった。そして。
消えゆく爆煙の内に残心を決めていたものは、修道衣は炎に焼き裂かれ、虎縞ビキニのみをまとったシレークスの爆裂ボディ。
「肩に馬車っ!」
「腹筋で大根下ろせるっす!!」
最高のサービスに超盛り上がるマチヨの男たちへ、インフラマラエのBGMに乗せた優美な礼と笑みを贈り、シレークスは豊かな双丘をたゆりと揺らした。
●楊
楊がおもむろに衣服を脱ぎ去り、細身の筋肉を晒す。
見せ筋ではないので見栄えは悪い。マチヨ族も「どーい……」、盛り下がり気味だ。
ふ。おまえたちの失意はすでに見通しているさ。
楊が取り出したのはオリーブオイルの小樽だった。栓を抜いで頭上へ掲げ、おもむろにざぱぁ。自らをテッカテカに。嫁がいたらその名を叫びそうな風情であるが。
前に出したつま先に重心を預け、攻めながら後ろへ置いた足をたぐる――八極拳にいう探馬歩に、元は陰陽や呪術に用いられた魔除け・祈願をもたらす禹歩を併せた独特な歩法で平石へ迫る。
その間にスレッジハンマーのまわりへ火竜票を展開、さらにコンボカードを発動して票の威力を押し上げた。
どーい……
どーい……
固唾をのんで見守るマチヨ族。あのハンマーにくくりつけられた大量の火薬と符。相乗効果を考えずとも、楊の思惑は明白だ。
「楊嗣志、マチヨの聖夜に言祝ぎを贈らん!!」
平石を打ったハンマーが起爆、その炎撃をもって符に引火し、勢絶な青白を咲かせた。さらに。
爆炎を受けた楊が吹き飛ぶ寸前、桜幕符を起動。宙を舞うその身を桜吹雪で飾る。
これが俺の、言祝ぎだ。
高く打ち上がり、オイルのせいで燃えながら地面へ頭から突き立った楊を見やり、ママはそっと涙した。
「見事よ……おバカだけど」
●一夏
「ハンマーよーし。火薬よーし。ぶっちらばる覚悟もよーし」
火薬200パーセント装備のハンマーを携え、歌うように唱えた一夏は、最後に自分の胸に指さし確認を決めた。
ちなみに瑠璃茉莉はドン引きである。
「ふっふっふ。そんなに心配しなくても大丈夫! きっちり優勝してくるから安心していいのよ!」
ぶっちらばる覚悟で安心? 疑いいっぱいの目でチラ見して、さらに距離を取る瑠璃茉莉だったが……残念ながら一夏には、それを悟るおミソがなかった。
がっしと愛ポロウを抱き寄せて跨がり、「空へ!」。
ああ、やっぱりマスターは高いところが好き。瑠璃茉莉は飛翔の翼をはためかせ、天を目ざして飛んだ。
「みなさんから見えるところで停まってね! 見せなくちゃだし、魅せなくちゃだから!」
硬く練り上げたマテリアルで自らを鎧い、一夏が下方で声をあげているマチヨ族へ手を振った。
「さぁ、行きますよー!!」
ハンマーにファイアエンチャント、精霊力が炎の幻影を立たせ、巻きつけた火薬を赤々と浮かび上がらせた。あとはほんの少し衝撃を与えてやれば、この盛り盛りな火薬はまさに爆散して果てるだろう。
おののく瑠璃茉莉へ、一夏は伸び出した犬歯を見せて笑み。
「武者震いだね! わかる!」
なにひとつわかってねぇんであった。
「あ、瑠璃茉莉はちゃんと離脱してね。もふもふがごわちりになっちゃったら困るからね。最近寒くなってきたし!」
ともあれ。跳び込むホーで急降下する瑠璃茉莉。
迫り来る平石を見定め、一夏は「はぁっ!」、それはもう華麗に跳んで。
「すべては筋肉のためにー!!」
起爆した次の瞬間、赤炎が――上がらなかった。
すべては一夏の、金剛で守られた体に遮られて。
音を置き去りにした衝撃が会場を突き抜け、マチヨの男たちがどーい!? 吹っ飛ばされた。
後に残されたものは、ハンマーを掲げて佇む黒アフロの焼けぼっくい。
やりきった炭の塊を上空から見下ろし、瑠璃茉莉は「ほぅ」、ため息をついた。
●黒の夢&メンカル、そしてキャリコ
「いえー、我輩ので・ば・ん♪」
楊のような溜めもなく、黒の夢はすでに半裸だった。
どこもかしこもやわらか~い体にトーガ「イシュタル」をゆる~く巻いただけの、もう風が吹いたら落ちるんじゃね? 的なあれである。
その魅惑の塊が、スレッジハンマーを軸にポールダンスよろしくくるくるしてみせたりするのだからもう!
「本命は修道女さんっすけど、なんかもやもやするっす!」
「自分は鬼っ子っす。ただあの黒エルフさんは自分の大胸筋にくるっす!」
「大胸筋は三角チョコパイ……でもあのパイは……ぱいっす」
動揺する男たちへ、「今なのな!」。もちぷりダイブを敢行しようとした黒の夢だったが。
「こんなことだろうと思ったぞ!?」
ランアウトで滑り込んできたメンカルがたゆったゆな黒の夢の頭から毛布ばさぁ! 視界を塞いでおいてお持ち帰り。
「あいつらには刺激が強すぎる」
「メンカルちゃんの毛布あったかーい」
うふふー。とろけるような笑みを向けた黒の夢へ薄笑みを返し、再びのランアウトで会場のただ中へ。マチヨの男たちを斜め上から見下ろして。
「さて。俺たちのボンバー前にひとつ言っておくことがある」
どーい?
「さすが脳筋、気づかんか。ならば聞け! この俺はっ! 俗に云う! リア充だあああああ!!」
ど ー い ー !!
絶望と混乱と悲哀が会場を押し包み、男たちが膝をつく。ガッデムっす! あれが伝説のリア充っすか!!
「さよならを言ったはずの過去が、感情が俺にささやく……メンカル、おまえを爆散させろと」
後ろで番を待っていたはずのキャリコが、渋い顔をメンカルへ向けたまま、相棒の刻令ゴーレム「Volcanius」へハンドサインを送った。
主の合図へ速やかに応え、Volcaniusは肩に装備した42ポンドゴーレム砲をメンカルに――
「いや待て。これはその、パフォーマンスの下準備で、ネタ」
「リア充にはもうあきた。そしてこれもさだめだ。炎の、な」
うそぶくキャリコの背に、貴賓席からママがぽつり。
「キャーちゃんてば、今夜はいつも以上にテツってるわねぇ」
「謎ワードで納得するな!」
「毛布もいいけど、人肌であっためるのがいちばんいいのよメンカルちゃん! あ、汝らも我輩あっためてくれる……? ほら、我輩いろいろ大きいから、みんなでね♪」
隙を突いてマチヨ族を誘惑にかかる黒の夢に、メンカルはあわてて毛布をかけなおし。
「俺のだからな! 絶対誰にも分けてやらん!」
その様に割れるほどの力を込めて奥歯を噛んでいたキャリコが、燃える両眼でメンカルを射貫き。
「――おまえを殺す」
「作品が変わってるぞキャリコお!!」
「こうなったらメンちゃんヤるしかねぇわぁ……」
「ママは最初からそれ狙い――なのか!? 悪いが男に興味は」
おののくメンカルを黒の夢がぎゅっと抱きしめ、毛布の内でぎゅうぎゅう。寒風はそのぬくもりとやわらかな肌で遮断され、ただひとりの恋人の胸へ限りない安堵と愛しさを灯す。
「じゃあメンカルちゃん、おっぱいいるー?」
まあ、ムードとかそういうのは一切ないわけだが、しかし。
表情をゆるめたメンカルは彼女の頬をつつく。
「俺はそれよりこっちがいいな」
黒の夢の愛がその体に収まりきっていないことなど、最初から承知している。だからこそ、俺が守る。それでこそ、俺は守られる。
「Volcanius、砲撃準備いいか? 一発で決めろ」
キャリコはついに決めたのだ。明日へ繋がる今日のため、42ポンド砲弾をもって友にさよならを言うと。
が、まあ、話が進まないので爆発に強制移行する。
平石に歩み寄る間にも、マチヨの男たちへウインクやら投げキッスやら飛ばして誘惑活動を続けつつ、黒の夢はスレッジハンマーを振り上げて、振り下ろした。
「火薬マシマシ200パーセントどーん!!」
轟爆がもたらした白風に舞い上がるトーガ。煙が晴れれば、それはそれは見事に剥き出された黒の夢がご開帳! ……彼女は元から黒いので、多分消し炭になっていてもわからない。ある意味エロス革命である!
「見せるかー!」
アサルトディスタンスで再び毛布を黒の夢へかぶせて横をすり抜け、メンカルが跳躍した。
「焼きつけろ! これが本当の、リア充大爆発だ!!」
マチヨの第ブーイングを浴びる中、体ごとハンマーを平石へ叩きつけ、緑に色づけされた炎煙を噴き上げた。
「メリー、クリス、マ、ス」
最期もとい最後はキャリコである。
どこにそんな引き出しがあったのものかはさっぱり不明だが、彼は今、Volcaniusの砲の内に収まっていた。つまりそう、あれである。
「発射!」
果たして高く撃ちあげられた彼は、最高到達点でその筋肉を美しくひねり込み、5回転半ひねりを決めてさらに1回転。
「これが俺の、全力の演技だ……!」
99パーセント増しされた火薬が真紅の火花を咲かせ、黒の夢が残した白、メンカルの残した緑と相まってクリスマスカラーを描いた。
どーい!! 盛り上がるマチヨの歓声、そして夜空を彩づける赤を背負い、彼は歩き出す。残されたリア充どもの屍を一瞥もせずに。
「今夜は炎のにおいで、むせる」
●アラロー
かくて祭は終了し。
ママがマチヨどもと、健在のシレークス、キャリコへ高く告げた。
ちなみに火薬200パーセントでぶっ飛んだ楊、一夏、黒の夢、メンカルはもれなく包帯ミイラに仕立て上げられ、筋肉にいい大豆汁をぶっ込まれている。
「お待ちかね! 一等賞の発表よぉ!」
どーい!!
「死人(死んでない)が多すぎるからなし!」
どーい!?
「それはそうだろうな……」
包帯ミイラ状態のメンカルがうなずき。
「火薬200パーセントが当たり前でやがりましたからね……」
シレークスがげんなりした。
「でもまあ、せっかくなんで無事だった参加ハンターにゃ~アラローで退場してもらおっかしら」
どーいー!!
「なに!?」
「どういうことでやがりますか!?」
ポージングを決めてビカビカ光るマチヨ族の間を、羽交い締められたメンカルとシレークスが行く。
「これわおれのほのおのしゃだめ」
「まけやがりませんよぉぉぉしゃけ! しゃけもってくゆでしゅう!」
4体の包帯ミイラが見送る中、アラローの点滅は聖夜を白く、美しく飾り続けた……。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/06 01:48:50 |
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開催にあたって【質問卓】 メンカル(ka5338) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/12/02 04:26:22 |