不安と恐怖は表裏

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/07 07:30
完成日
2015/01/12 13:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●閉ざされた家
 この村に大きな農園を持つ地主ロイが息子サムと共に家にこもって、三年が経つ。
 ロイの友人で農園経営に協力しているジーロは溜息と共に、地主の家がある緩やかな坂を上る。村はずれであり、心を籠めて育てた畑に囲まれた穏やかな土地であるが、ジーロには様々な思いがのしかかる。
 十年前ロイの妻が病気でなくなったのは悲しいが仕方がないことであった。
 その後、サムが結婚しその妻ニーナが子を産んだ。
 ロイは大変喜んでいた。
 この後不幸が重なる。初孫の事故死、二人目の孫の病死、家政婦の死、別の家政婦は大けが……。
 サムが村の青年会の帰り道で川に転落し、この怪我が元で体に麻痺が残り寝たきりに近くなった。ニーナが強盗からロイをかばって死んだ……のが三年前の出来事だった。
 ニーナの葬儀の時、仲間に支えられて参列したサムは無言で、父のロイが自分のせいだと慟哭していた。
「父さんだけが悪いんではないんです。犯人が一番悪い、こいつはもうつかまっています。僕だって、こんな体で、何もできなくて」
 ロイを慰めるサムの言葉を聞いて、ジーロは目を潤ませるしかなかった。
 葬式の後、ロイは高い塀で家を囲み、門は頑丈な鉄製を付け、外界と接触を大きく断った。ロイは門の所で生活必需品を商人から買ったり、ジーロから業務の報告を受ける。
 ジーロがこの道を登るのは、報告と少しの世間話のため。
 呼び出し鈴を引っ張ると、しばらくしてロイが出てきた。やせ細って青白いく、歩くのもやっとなのだろうと見える。
 業務のやり取りを行い、ジーロや村の事などを話題に雑談をする。
「サム君は元気かい?」
 三年の間、サムも自分で何とかしようと起き上がり歩く訓練をしているとロイから聞いていた。
「ああ、元気さ。二階で杖をついたり、壁に沿って歩き回っている。階段はまだ難しいがねぇ」
「あんただって階段上り下りできるんだろう? サム君だってできるさ」
「そうさな。わしは衰える一方だが、あいつはまだ若いんだし」
 ロイは寂しそうに顔をゆがめる。
「なあ、あんたさえよければ、わしの家の裏に空家あるんだ。そこに住めばいい」
「……いつも言うが、ここでわしはいい。この三年何も悪いこと起こってないから安全じゃ」
 ロイの笑顔は笑って見えないとジーロは言いそうになる。
 塀を作ってこもって悪いことはないが、良いこともないのではないか?
「そうか。でもまあ、気が変わったらいつでも言ってくれ。わしはロイやサム君と一緒も楽しいと思うんじゃ」
「すまんな」
 次に会う日を約束し、ジーロは後ろ髪を引かれつつも立ち去った。

●夜の悲鳴と村人
「来るな、サム」
「父さん! 早く」
「お前こそ隠れていなさい。ダメだ、うわああああああ」
 それに付属し何かを叩きつける音、階段を転げ落ちる音もした。助けに行かないといけない、扉を開けると奴がいるかもしれない、独りの方が息子は逃げられる……ロイは扉に手をかけたまま震えて動けなかった。

 高い塀に囲まれた家から洩れたのは、老人の物と思われる悲鳴だった。
 あの家でただならぬ事件が発生したというのは、悲鳴を聞きとった村人は思うこと。そして、すぐにジーロを中心に村人は集まって家の周りに来る。松明で照らされる地主宅の塀は、より巨大であり恐怖と不安の根源に見えた。
 門を壊すことはできず、周りから中に声をかける。戻ってくるのは静寂だけである。かすかな物音も聞き洩らさないようにするが、限度があった。
「梯子だ、梯子で入ろう」
 ジーロの提案は村人も受け入れる。ここで何が起こっているのか分からないのは、恐怖と不安の元である。隣との距離もあるのに悲鳴が聞こえる事態異常事態なのであるから。
 四メートル超える梯子を見つけ出すのに手間がかり、梯子を持ってきてかけたころには深夜になっていた。
 梯子をかけた後問題に気付かされる。上った若者が「超えるには針をどうにかしないとだめだ」と告げたのだ。侵入者を攻撃するように剣山のようにある針が、塀を乗り越える障害となっている。
 家を見張ることにして、一部の人間は一度解散することになった。

●救出に向けて
 日が昇る前に地主の家の周りに村人は三々五々やってくる。
 まず塀の上の針に板などを置き、七十センチほどを無力化させた。
 村の若者が率先して動くのを見て、ジーロはサムを思い出さずにはいられない。体が不自由になってしまったといは、この若者たちに齢は近いのだ。
 塀の中に降りるには梯子を入れずにロープを垂らして一人降り、門を開けることにした。
「まずは確認しないと」
 村人がじっくりと中を見るが、ずり落ちるように降りてきた。
「……俺の中の本能が入るなって言ってる」
 冗談ではないと、真っ蒼な顔でわかる。他の者が次に覗いてみたが、悲鳴を上げて戻る。
「なんかいるよ。黒くて大きい……ゴキブリみたいなのが」
 村人の中に恐怖が膨れ上がる。
「わしが行く」
 ジーロが上がり始めるが、二段で引きずり下ろされる。
「じいさんが怪我でもしたら大変だよ」
「なら、どうやって確認するんだ!」
 入るのは危険であるが見張りは必要、何かいるようなので出てこられると困る。その間にジーロにハンターに助けを求めに行ってもらう。
「おい、誰かがいるみたいだ」
 中を見ている若者が言う。手前の部屋に人影あるという。
「地主さん? 若さん?」
 村人の中でサムのことを地主の若い方ということで『若さん』と呼ぶ者もある。
 窓が少し開いてか細い声が聞こえた。
「サムが……サムがわしを助けようと……どうしたらいいんじゃ」
「地主さん! ハンターが来るからそこが安全なら動くなよ! 若さんはしっかりしているから隠れてるさ」
 梯子を登たいが止められているジーロは声を張り上げた。
「ロイ、大人しくしていろよ! わしは……言ってやらんといけないことがあるからな!」
 友が生きていると安堵したジーロは、すぐに村の馬車を使って街に向った。

●依頼
 ハンターオフィスに掲示された捜索依頼には、生存者がいるのが衰弱しているので早急に向かってほしいと印もつけられる。
「二階で夕食を摂った後、ロイさんが片付けのため台所に行き、巨大な黒光りする巨大な昆虫と遭遇。ロイさんを助けようとサムさんが部屋から出てたので二人で逃げ、二人で二階階段側のサムさんの部屋入りました。扉を閉める前、昆虫が入りそうでサムさんは追い払うために出たそうです。そのとき、階段から落ちたような音があったそうです」
 落ちたのは昆虫かサムか。
「サムさんは支えがないと歩けない状況なので、転がってしまった可能性が高いです。あの昆虫は飛べるので転げないでしょう」
 昆虫に関して質問すると職員は決まって視線が泳ぐ。
「ロイさんの救出、サムさんの捜索……雑魔も退治してください」

リプレイ本文

●突入
「地主さん、ハンターさんたちが来たから、もう少しの辛抱だ」
 村人が反応の薄くなったロイに声をかけ梯子を下りた後、ザレム・アズール(ka0878)は軽やかに上り塀を越えて中に入った。ロープを伝って下りるのだから、経験を積んだ彼には簡単なことであった。
 ザレムは高い塀のために薄暗い庭を門まで向かい、かんぬきを外し仲間に声をかける。
「家屋の周りには雑魔はいない」
 待機していたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が入ってくる。
「どんな化け物か知らんが、俺らが来たからには速攻で始末してやるさ」
 続いて入ったテトラ・ティーニストラ(ka3565)は塀に遮られた空を見る。狭くても青い空には違いはないが、寂しい感じがした。
「人命救助、手早くしよう!」
「ロイさんもサムさんも無事救出しないとねぇ。時間との戦いかね」
 壬生 義明(ka3397)は飄々と言う横でメリエ・フリョーシカ(ka1991)は暗い家を見て唇を一文字に結んだ。
「これ以上の不幸はわたし達で断ち切りましょう」
 最後に入ってきた藤田 武(ka3286)は粥の保温のために大き目になってしまった包みが入ったカバンに手をやる。
「ええ、村の人達の思いを継いで、ロイさんとサムさんを無事救出しましょう」
 一行は入りやすいだろう勝手口に用心しつつ向かった。
 体当たりや技を使ってでも開けるつもりでいた一行は拍子抜けするとともに、気を引き締め直す。
 扉は十センチほど開いていたからだ。
 勝手口の扉は大きくはないし、玄関に比べれば丈夫ではないようだ。

●救出
「中の様子は分からないが、雑魔がいるだけだろう」
「エヴァくんが突入するんだね」
 エヴァンスにテトラは手にライトを持って先を照らす準備をする。
「俺が扉を開けるよ?」
 義明は突入するメンバーの邪魔にならない位置に動く。
「わたしも飛び込みます」
 組んでいた腕をほどき、武器をきゅっと握り締めメリエがエヴァンスに並ぶ。
「プロテクションは掛けますか?」
「いや、まだ様子見たほうがいい」
 銃を構えながらザレムが武に応える。
 義明が扉を開け、テトラが照らすより早くエヴァンスとメリエが入った。食べ物が腐りかかっている匂いが室内に充満している。
 戦うには十分な広さだが、全員が入ると思うように武器を振るえない。
 台所には大きくなった黒光りする昆虫だった雑魔が三匹いる。一匹は台所から別の部屋に走って逃げ、残った二匹は暗がりで様子をうかがっている。
「貯蔵庫の扉」
 エヴァンスは指摘しつつ、近くにいる雑魔に対し戦槍をつきたてる。カサカサと間一髪でよける雑魔。
「デカくなった程度で怖がるか!」
 メリエの重い一撃は雑魔の背にたたきこまれる。
 ザレムの銃撃がその雑魔の急所をとらえた。
「しぶとい」
 まだ動く。
 義明と武が部屋の中を見て、貯蔵庫に続く地下室への扉を閉めるために動く。床にあるタイプの扉であるため、やや重い可能性がある。
 一方、雑魔たちはハンターに反撃をするが当たらない。
 エヴァンスの二撃目は雑魔を塵に返す。
「あと一匹!」
 テトラは勝手口のところで状況を見つつ明かりで中を照らす。
 残っている一匹も、義明と武が扉を閉める間に倒される。
「この上に重しを置くべじゃないかい?」
 義明は閉じる際に暗がりに動く雑魔を見ていた。
 貯蔵庫の敵を先に倒す選択肢もなくはないが、人命救助を考えると後だ。家の中には動き回っている雑魔が最低でも一匹はいる。
 ある程度重さのある小さな棚を地下に続く扉に置いた。
「勝手口もきちんと閉めないと……やはっ、扉壊れてるよ」
 扉を閉めても「かちり」という音がしない。閉めたつもりでも押すだけで外に向かって扉は開いた。
 鍵替わりの金具もあてにはならなさそうだ。
「貯蔵庫の雑魔は出られないとして、エントランス側の扉を締めれば、外には出られない可能性が高い」
 ザレムは扉の状況を確認する。
「ノブは回せないね、昆虫なら。さあ、捜しに行こう」
 義明は一行を促した。

 台所から続いているのは扉が閉まっている食堂と開いているエントランスだ。念のため食堂に誰もいないことを確認し、エントランスに向かう。
「さて、ここから二手に分かれよう」
 エヴァンスを先頭にメリエ、義明が二階に上って行った。
 残ったザレム、武とテトラは一階にいるはずのサムを探しに動く。
 ロイの言葉によると階段から落ちた可能性が高い。階段を中心に捜索する。扉が並び、階段の側にもある。
 テトラはライトで階段の下を照らしてみるが何もない。
「一番近いのはこちらの扉ですね」
 武が扉をノックする。
「サムさん、いますか?」
「いるなら返事してね。あたしたち、助けに来たハンターだよ」
 武とテトラが声をかけている間、ザレムは警戒のため周りを見る。複数の雑魔が吹き抜けとなっているエントランスにいるが特に動きはない。二階を行く仲間の明かりもうっすら見える。
 かすかに絞り出すような声が扉越しに聞こえてきた。
「ハンターの方ですか。ありがとうございます。僕は無事です、父を」

 二階に上がったエヴァンスたちはロイがいるサムの寝室に向かう。廊下に這っていた雑魔が慌てて移動していく。襲ってくる様子はない。
 扉をノックし、エヴァンスが開けようとするが動かない。
「鍵が閉まってる」
「ロイさん、助けに来ました」
 メリエも大きい音が出るようノックし声をかける。
「こじ開けると驚かすことになるけど、時間もあるしねぇ」
 義明の提案に是非もなく、勢いをつけエヴァンスが扉に体当たりした。
 蝶番が力に耐えきれず、扉が開き中が見える。
 唯一開いた窓の下にうずくまるロイの姿を見出した。
「ロイさん、助けに来たハンターです」
 メリエが声を掛けゆっくり近づくが、ロイからの反応は全くなかった。

 サムの元にザレム達はたどり着く。声を掛け合った扉には重めの棚が置かれており開けられなかったが、幸い隣にある応接間から中がつながっていたのでそちらから入る。
「やはり扉は開けられないらしいな」
 ザレムは入ってきた扉を閉める。
「サムさん、助けに来ました。痛い所などはありますか?」
 武がサムに近寄り、様子をうかがう。青白い顔をしているが、比較的元気なようだ。
「いえ、幸いなことに」
 体を動かした時に顔をしかめたので無傷ではないのが分かる。少しでも怪我を軽くするために、武はヒールを試みる。
「ありがとうございます」
 サムはほっとした様子を見せた。
「サムさん、逃げる元気を取り戻すため、どうぞ、これ」
 テトラがチョコレートと水の入った容器を取り出す。
「消化の良い粥もあります」
 藁でくるみその上に厚い布をかぶせた小さな閉められる鍋を武が出す。程よい温度の粥が湯気を上げる。
 二人が差し出した食料を見てサムは再び礼を述べ、一口ずつ頬張った。目じりに涙が浮かび、緊張がほぐれたのか口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「いただけるなら、後で父と一緒に」
 テトラも武も異口同音に「もちろん」と答えた。
「そろそろ玄関に行こう。二階でロイさんと無事出会えたそうだ」
 ザレムが魔導短伝話をしまいながら仲間とサムを見た。

「サムは?」
 エヴァンスはロイの唇を湿らす程度に水を与える。放心状態だったロイは反応を示した。
「ちょうど見つけたって連絡あったよ。元気そうだって」
 義明の言葉にロイはほっと息を付いた。
「外に出ましょう。歩けますか?」
 メリエが掛けた言葉に、ロイは怯える。
「ジーロや村の奴も、皆あんたの無事な姿を待ってるんだ」
 外に出る恐怖、今回の雑魔のことを考えるとロイは動けない。
「ここにいても何も始まらないよぉ? 一度、外の空気を吸うだけでも出てみよう」
「ジーロさんたちは心配しているからこそわたしたちをよこしたんです」
「息子の無事だって確認しないとならんだろう?」
 義明、メリエ、エヴァンスに言われ、ロイはかすかに首を縦に振った。
 ロイはさすがに歩くのは難しいので、エヴァンスが背負いしっかりとロープで固定した。メリエが盾を構え前を歩き、義明が後ろを警戒して歩く。
 雑魔が動いた。

 応接間の扉付近で待機するザレム達。いざとなったらサムを隠して雑魔と戦える。
 頭上と言って差し支えないところにある階段を複数の人間が下りる音がした。それと同じく羽音がする。
 階段を下りる音が激しくなった。
 ザレムは銃を構えるとエントランス中央に出る。一階に着いた仲間の側を雑魔が二匹飛んでいる。メリエの盾には触れないが、結構側まで来ていた。
 威嚇も込めて撃つと一匹に当たり、落ちる。側にいる義明が棍を振るい、テトラの手裏剣が突き刺さった。
 もう一匹は手の届かないところに移動してしまったので、用心しつつロイとサムを外に連れて行くことに専念した。

●駆除
 玄関からサムとロイを連れてエヴァンス、ザレム、義明が出る。雑魔が飛んできたような音がしたが、義明がさっと扉を閉めた。
 門の所で待機していたジーロや村人から安堵の声が漏れた。
 エヴァンスは背中のロイが固くなるのを感じる。
「ジーロさん、二人を」
 支えがあってなんとか歩くサムを村人が抱擁とともに迎える。
 降ろされたロイには何か言いたげだが今は黙ることにしたジーロが優しく迎えた。
「あとは害虫退治だ」
 三人は中に引き返す。

 ロイとサムを連れた一行が扉を閉めようとしているとき、雑魔が飛んできた。
「ちょ、エヴァくーん」
 テトラは悲鳴に近い声を上げつつも武器を構える。
「行かせない」
 メリエが構えていた盾で叩き落とした。
「殴る武器ではないですが」
 武もロッドで殴りつけた、魔法で守りに入る場合ではないから。
 簡単にやられてくれない雑魔が飛び立つ前に三人は片を付けた。

 一行は合流した後、貯蔵庫の扉を開けるために上に乗せた家具をどける。
 開いた瞬間に中が明るくなるように明かりを扉に向け、地下室の扉を持ち上げ開けた。梯子と言うより急こう配の階段がある。
 四方に棚があり、中央には作業に使うだろう小ぶりなテーブルがある。雑魔三匹は侵入してきたハンターを警戒して正面の壁や床にいる。
「先手必勝」
「塵芥に還れ!」
 エヴァンスとメリエが飛び降りるように飛び込む。強烈な一撃がそれぞれ目の前の雑魔にたたきこまれた。
「閃いて碧の風!」
 テトラの元気な声と共に手裏剣が雑魔に突き刺さり、ザレムの一撃が雑魔を突き抜け塵に返す。
「次はこいつ」
 義明はメリエの前にいる雑魔を殴りつける。
 入り乱れた状況で飛ぶ雑魔の行動を考え、武はテトラにプロテクションをかける。
 雑魔たちは逃げるために目の前のハンターと対峙する。一匹の攻撃はかすりもせず、一匹はメリエの盾に阻まれた。
「テトラ、タイミング合わせろ!」
「とっとと散ってちょーだい!」
 エヴァンスとテトラの攻撃により一匹が消える。
「残飯処理に徹してりゃ良かったものを!」
 メリエの強力な一撃が雑魔をとらえ、続けてザレムが撃ちぬく。
 義明が続いて殴った時、雑魔が塵のように消えた。
 雑魔はいなくなったようで静寂が訪れる。
「怪我はありませんね?」
「たはー! いや、もう、出る!」
 武の確認の声にテトラの悲鳴に近い声が重なった。
「一応、いないか確認はしたほうがいいよね?」
 義明が飄々と言いながらもかまえは解かず、家の中の確認へ動いた。

●解放
 家にあった目に見える脅威は去ったため、ジーロがロイとサムを運んだ家にハンターたちは向かった。
 一行にジーロは頭を深く下げ、礼を述べる。
「二人の容態はどうだ?」
「休息と食事でおおむね回復はすると思います」
 エヴァンスの問いにジーロは複雑な表情で応えた。
 サムに関してはそれで回復はできるだろうが、ロイはどうなのだろうかと言う疑問がある。ベッドに横たわるロイを見ると、様々な後悔にがんじがらめにあっているようだ。
「ロイさん、少しだけいいですか」
 ザレムは椅子にベッドの横の座り、声をかける。ぼんやりしているロイは動かない。
「つらかったのは察します。村の人がいたからこそあなたは助かった。雑魔がいたにもかかわらず、ジーロさんは中に入ろうとまでしたと聞く。俺たちが助けたサムはなかなかできた男だ。あなたも皆と関わった方が幸運もやってくると考えないか?」
 ロイはゆっくり顔を動かす。
「そうです。わたしたちができるのはあなたを雑魔という脅威から助けることでした。雑魔に殺されるかもしれない不幸はこれで消えたんです」
 メリエは安心させるような笑顔を向ける。
「まずは掃除だね。家の空気悪すぎるし、塀は高すぎる。外の空気はおいしい! 家に帰ったらあたしも掃除しよう」
 テトラの言葉を継ぎエヴァンスは言う。
「確かに、塀が高すぎで光が届かない。掃除……まずは空気の入れ替えだな」
 ロイの家に関して言えば、塀を壊すには時間がかかるかもしれないが掃除がはじめの一歩だろう。
「ロイさん、話には聞きましたが悪いことばかりが、人生にあったわけではないでしょう?」
 武の言葉に触発されたのかロイはいろいろ思い出し、目頭を押さえ震える。妻との生活、生まれた息子、友人と農業について語ったこと……それ以外に死や事件もあったが楽しいことだってあった。
「サムさんやジーロさんだっているんだし、ゆっくりでも歩き出せばいいんじゃない? あわてたって仕方がないよ」
 義明がちらりとジーロを見る。それに応えてジーロは力強くうなずいた。
「ロイ……すまなかった」
 ジーロの言葉にロイはうろたえる。
「なぜ、お前が謝るんだ。わしが……わしが起こしてしまったことなのに」
「塀を高くするとき、強く止めてやればよかった。不幸が重なったときもっと踏み込んで支えてやればよかった」
「違う。わしが怖かったから……ジーロ、お前は良くやってくれたんだ。だから、謝らんでくれ」
 ジーロはロイの側にやってきてその肩を抱きしめた。ロイも何年ぶりかの友人のぬくもりに力強くしがみついた。

 一行が村を後にするとき、村人に支えられて歩いてきたサムが見送りきた。
「サムさん、すっきりした顔していましたね」
 助けてから時間はそれほど経っていないが、サムにとっては大きな変化だったと武は実感する。
「外の空気が良かったんだろう。サムがこれからはロイを積極的に助けるだろう」
 ザレムは見えなくなった村を一瞬振り返る。
「そうですよね。ロイさんにはジーロさんだっているんです」
「俺たちはやることやったし、めでたしだろう」
 義明の言葉にメリエはうなずいた。
 テトラが突然立ち止まってうめく。
「手裏剣のクリーニング代請求するの忘れた」
「本気か、冗談か? それ込での報酬だろう」
 エヴァンスは苦笑した。

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参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • お茶会の魔法使い
    藤田 武(ka3286
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • Entangler
    壬生 義明(ka3397
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 飴玉お姉さん
    テトラ・ティーニストラ(ka3565
    エルフ|14才|女性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/05 08:46:43
アイコン 相談卓
藤田 武(ka3286
人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/01/06 22:17:13