ゲスト
(ka0000)
【CF】すとろべりぃぱれえど
マスター:愁水
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
●
自由を謳う、冒険都市リゼリオ。
今年も最後になる月へ足を踏み入れた日の出来事であった。
事は、ハンターズソサエティが企んだイベント――ケーキバトルロイヤル。
聖夜のケーキに埋もれた屍累々、最後に佇む覇者は誰か。次回、自由の都市に降る愛の雪、おまえはもうしんでry(天の声が神の拳に潰された音)
Take2。
ハンターズソサエティが企画したイベント、ケーキバトルロイヤルで募ったケーキ店は連日、各店舗とも盛況な様子であった。しかし、如何せん――
「……人手、足りなくない?」
ご尤も。
「全く、本部も確保するもんしてから無茶ぶりしてよね。只でさえこっちはサーカスのリハーサルやら公演やらで忙しいってのに、なんでこんなくだらないイベントごとに参加しなきゃ――」
はいはい、すみませんね。
本部からの告知を受け、天鵞絨サーカス団で結成したケーキ店――天鵞絨洋菓子店「とらいあんぐる」。
とは言っても、本部から直接“お達し”を受けたというわけではない。しかし、『人々に夢と笑顔を与えるサーカス団のあなた方なら、二つの世界のより良い架け橋になって下さいますよね』と受付の者に“本部の願い”を言われたら、無下に断れるような兄ではないことを、弟の黒亜(kz0238)は知っている。
最近は只でさえ心労を重ねている兄に、これ以上の負荷はかけたくない。かと言って、クッキングハンドカオスを持つ妹の紅亜(kz0239)に任せでもしたら、重体者が出かねないだろう。いや、確実に出る。客に訴えられる。そうなれば、自ずと自分にしわ寄せが来るわけで。
「ケーキ屋の店長とか夢にも見ないし。……てゆーか、結局ハク兄にも接客やらせてるんだよね」
ならば、最初から自分が断ればよかったのでは――。しかし、今更そんなことを言っても後の祭り。それならやらねばなるめぇケーキ屋さん。
ということで、本日も天手古舞いでケーキ売っています作っています。
「――よう、応援に来たぜ」
店先に、来客を知らせるベルの音が鳴る。
「遅くない? 死ねば?」
毒舌三割増しの無愛想極まりない黒亜が、二人の軍人――桜久世 琉架(kz0265)とシュヴァルツ(kz0266)を仕方なく迎え入れた。
「随分なご挨拶じゃねぇか。オレ達だって自分の店の隙間見て来てやったんだぜ?」
――そう。彼等も又、茶房「冬の週末」を担当する、言わば競争相手。ではあるが、昔馴染みの白亜(kz0237)がリアルに過労死するかもしれないとなれば、そこはやはり友の情が動く。
「白亜と紅亜は接客にまわってんのか?」
シュヴァルツが店内を見渡した。店はテイクアウトだけでなく、カフェスペースも広く設けている。その中で、白亜と紅亜が忙しなく動いていた。
「繁盛してるみてぇだな。そういや、人手ってオレら以外にもあてがあんだろ?」
「まあね。もう声かけてるよ」
「うっし。そしたら……そうだな、客層によって接客を分けっか」
「……わける?」
「客の対応にも得手不得手あんだろ。白亜とか特にな」
「まあ……そうだね」
冗談抜きで、白亜は女豹な女性客を相手にする度、やつれていっている。
「見た感じ、幸いこの店の客層は広ぇみてぇだしな。白亜は親子連れの客相手がやりやすいんじゃねーか? ガキんちょの対応も得意だろ、アイツ」
「確かに、白亜はその方がいいだろうね」
「で、紅亜は――」
「厨房には来させないでね、絶対」
「……承知しておりますわよ。そうねー、紅亜はサーカスの花形やってっからどの客層にも受けは良いだろうが、まあ、年の近ぇ若人相手がえーかしらね」
「俺はどうしようか?」
「ルカは……あー、そうね。あー……」
「何だい、はっきりお言いよ」
「マダムやマドモアゼルのお相手、よろしくさん」
「ん」
「……は?」
「お子ちゃまは知らなくていいことだよ」
形の良い口許に冷笑を浮かべ、琉架が視線を流してきた。黒亜は露骨に眉を顰めながら顔を逸らして、話を続ける。
「あんたはどうすんの?」
「オレか? 厨房はお前に任せるとして、オレは年寄りの相手でもしようかしら。ココいらのジジババとは面識もあるしな」
「……老人会?」
「バカヤロウ。時々、身体の具合とか診てやってんだよ」
「……ふぅん」
「つーワケで、後から来る人数揃ったら早速分かれようぜ。オイ、オレ達の制服は?」
「そこ」
――さあ、戦え。
自由を謳う、冒険都市リゼリオ。
今年も最後になる月へ足を踏み入れた日の出来事であった。
事は、ハンターズソサエティが企んだイベント――ケーキバトルロイヤル。
聖夜のケーキに埋もれた屍累々、最後に佇む覇者は誰か。次回、自由の都市に降る愛の雪、おまえはもうしんでry(天の声が神の拳に潰された音)
Take2。
ハンターズソサエティが企画したイベント、ケーキバトルロイヤルで募ったケーキ店は連日、各店舗とも盛況な様子であった。しかし、如何せん――
「……人手、足りなくない?」
ご尤も。
「全く、本部も確保するもんしてから無茶ぶりしてよね。只でさえこっちはサーカスのリハーサルやら公演やらで忙しいってのに、なんでこんなくだらないイベントごとに参加しなきゃ――」
はいはい、すみませんね。
本部からの告知を受け、天鵞絨サーカス団で結成したケーキ店――天鵞絨洋菓子店「とらいあんぐる」。
とは言っても、本部から直接“お達し”を受けたというわけではない。しかし、『人々に夢と笑顔を与えるサーカス団のあなた方なら、二つの世界のより良い架け橋になって下さいますよね』と受付の者に“本部の願い”を言われたら、無下に断れるような兄ではないことを、弟の黒亜(kz0238)は知っている。
最近は只でさえ心労を重ねている兄に、これ以上の負荷はかけたくない。かと言って、クッキングハンドカオスを持つ妹の紅亜(kz0239)に任せでもしたら、重体者が出かねないだろう。いや、確実に出る。客に訴えられる。そうなれば、自ずと自分にしわ寄せが来るわけで。
「ケーキ屋の店長とか夢にも見ないし。……てゆーか、結局ハク兄にも接客やらせてるんだよね」
ならば、最初から自分が断ればよかったのでは――。しかし、今更そんなことを言っても後の祭り。それならやらねばなるめぇケーキ屋さん。
ということで、本日も天手古舞いでケーキ売っています作っています。
「――よう、応援に来たぜ」
店先に、来客を知らせるベルの音が鳴る。
「遅くない? 死ねば?」
毒舌三割増しの無愛想極まりない黒亜が、二人の軍人――桜久世 琉架(kz0265)とシュヴァルツ(kz0266)を仕方なく迎え入れた。
「随分なご挨拶じゃねぇか。オレ達だって自分の店の隙間見て来てやったんだぜ?」
――そう。彼等も又、茶房「冬の週末」を担当する、言わば競争相手。ではあるが、昔馴染みの白亜(kz0237)がリアルに過労死するかもしれないとなれば、そこはやはり友の情が動く。
「白亜と紅亜は接客にまわってんのか?」
シュヴァルツが店内を見渡した。店はテイクアウトだけでなく、カフェスペースも広く設けている。その中で、白亜と紅亜が忙しなく動いていた。
「繁盛してるみてぇだな。そういや、人手ってオレら以外にもあてがあんだろ?」
「まあね。もう声かけてるよ」
「うっし。そしたら……そうだな、客層によって接客を分けっか」
「……わける?」
「客の対応にも得手不得手あんだろ。白亜とか特にな」
「まあ……そうだね」
冗談抜きで、白亜は女豹な女性客を相手にする度、やつれていっている。
「見た感じ、幸いこの店の客層は広ぇみてぇだしな。白亜は親子連れの客相手がやりやすいんじゃねーか? ガキんちょの対応も得意だろ、アイツ」
「確かに、白亜はその方がいいだろうね」
「で、紅亜は――」
「厨房には来させないでね、絶対」
「……承知しておりますわよ。そうねー、紅亜はサーカスの花形やってっからどの客層にも受けは良いだろうが、まあ、年の近ぇ若人相手がえーかしらね」
「俺はどうしようか?」
「ルカは……あー、そうね。あー……」
「何だい、はっきりお言いよ」
「マダムやマドモアゼルのお相手、よろしくさん」
「ん」
「……は?」
「お子ちゃまは知らなくていいことだよ」
形の良い口許に冷笑を浮かべ、琉架が視線を流してきた。黒亜は露骨に眉を顰めながら顔を逸らして、話を続ける。
「あんたはどうすんの?」
「オレか? 厨房はお前に任せるとして、オレは年寄りの相手でもしようかしら。ココいらのジジババとは面識もあるしな」
「……老人会?」
「バカヤロウ。時々、身体の具合とか診てやってんだよ」
「……ふぅん」
「つーワケで、後から来る人数揃ったら早速分かれようぜ。オイ、オレ達の制服は?」
「そこ」
――さあ、戦え。
リプレイ本文
●
楽しい季節を、楽しく過ごす。
当たり前のことのようだけど、それはきっと、奇跡なんだ。
……なあ、そうだろう?
**
アンティーク調のお洒落なカフェスペースには、男性客からファミリーまで様々な客層が集まっていた。しかし、その空間に忙しなさは感じられない。それは、集った仲間達が醸し出す人柄のおかげなのだろう。
白亜(kz0237)と揃いの白いスカーフタイを首に巻いた白藤(ka3768)は、賑やかな家族連れを受け持っていた。彼女の如才ない応対や自然な笑顔は、客に好感を持たせる。
女性の応対が苦手な白亜には、主に父親や子供の接客を任せた。時折、孤児院の子らを相手にしている故か、子供の扱いには慣れているようだ。それでも、女性客から声を掛けられれば応えないわけにはいかない。大抵の客は他意など無いのだが、世の中には隠れ肉食系女子という言葉もあるわけで。白藤は、白亜の裾をちょいちょいと引いて、フォローに回る。
「(残念、白亜はまるきりの草食系ってわけやないんやで。いや……多分。……ま、うちも白亜からすれば、彼女らと同じようなもんなんやろうけど)」
白藤は追加のドリンクオーダーを受けると、厨房の伝票ホルダーに差し込んだ。そこでは――
「店長! ケーキはご褒美に入るんニャスか!」
と、鈴に代わってアプリコットのタイを首に飾ったミア(ka7035)が、黒亜(kz0238)に向かって元気よく挙手をしていた。
「……あんたらの働き次第だね。ほら、無駄口叩いてないで手を動かす」
「あいあい」
「あいは一回」
「あーい」
そんな二人のやり取りを微笑ましげな様子で耳にしながら、大きなカップにたっぷりとラテを注ぐ、レナード=クーク(ka6613)。タイの色は、彼の心のように明るく澄んだ薄い空。
「(ふっふっふー……大好きな洋菓子屋さんのお手伝いが出来るなんて、夢みたいやわぁ)」
先程から、どうしようもなく口許が綻ぶ。
「(クリスマスシーズンで大忙しみたいやけど、皆と一緒なら安心の筈……やね! お客さんに甘くて美味しい思い出を届けられる様、沢山頑張るでーっ!)」
それにしても、と――
「お店のケーキ……後で貰えたりする事、出来るんかなぁ……」
つい漏れていた心の声に、黒亜の視線は(働き△次第)と語っていた。
●
深い青を帯びたネイビーのタイに、清潔感のあるオールバックで接客を務めるのは、浅生 陸(ka7041)
「紅亜には主に注文を聞いてもらおうかな。皿を運んだりするのは俺がやるよ」
「ん……わかった……」
「あ、変なのに絡まれたらすぐに俺の方を向くこと」
「……? なんで……?」
「なんでって……なんでも」
陸はぽやんとした紅亜(kz0239)の無垢な瞳を覗き込みながら顔を寄せると、諭すように「いいな?」と囁いた。
客の持て成し方は気さくに、チョコレートソースで仕上げられたドットデザインのデザートプレートは丁寧且つ優雅に運び、客の好感度を上げていく。
「(若いやつ相手なら畏まるよりそっちの方が近しくなれるだろうしな)」
時折、陸の美しい顔立ちや親しみやすい様に、誘うような態度を取る女性客もいるが、そこはやんわりと断る。
「(俺なんかより、ケーキ食ってもらえれば笑顔になること間違いなしだから)」
フォークを出す際には、何本かシルバーを入れた筒から選んでもらう趣向を取り入れた。当たりはチョコレートで作製したサンタクロースの顔がフォークの先端に付いたもの。当たりは多めに仕掛けていたが、ハズレた客には星形の飴をプレゼントした。
「一年で最も華やぐ時季だ。楽しい思い出にしないとな」
一先ず接客も一区切りついたかな、と、陸がふと担当スペースへ視線をやると、僅かに戸惑う瞳とぶつかった。
「(……ちっ)」
陸は途端、つかつかと距離を詰め、奥のテーブルで絡まれていた紅亜の肩を優しく引き、庇うように背中へ隠す。
「悪いな、この子うちの看板娘でね。気軽に話すのは構わないが……」
そう告げると、気さくな笑顔から一変、
「こいつに手を出したら生きて店を出られねぇと思えよ」
――わかったな? と語りかける陸の真剣な面持ちに、ナンパ男は二つ返事で頷いたのであった。
●
毅然とした黒のタイを首に結い。
注文を厨房へ伝え、配膳し、下膳――
「……って、やること多いじゃない」
ロベリア・李(ka4206)がぽつりと呟いた。しかし、その手と頭の回転は休ませない。席の埋まり具合は常に把握し、オーダーを受けてからの時間にも気を配る。
「(お客を無駄に待たせるわけにはいかないしね。満足した後、テイクアウトもしてもらえれば宣伝にもなるし)」
ロベリアが頃合いを見て、年配の客から温かい飲み物のお代わりを聞いていると――
「お、テオドーラんとこのばあちゃんじゃねぇか。何だよ、まだお迎え来ねーのか?」
髪を結い上げたシュヴァルツ(kz0266)が相好を崩しながら客を迎え入れる。
「(あんた、その言い方……)」
ロベリアの懸念を余所に、相手の老女は彼に席まで案内をしてもらった後、「シュヴァルツちゃんに診てもらってるんだから、まだまだ頑張らないとねぇ」と、にこやかに笑んだ。
要らぬ心配だったとロベリアが苦笑を漏らす一方――
「先人の話は為になるのう」
細い首に浅葱色のタイを彩った蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が、微笑み絶やさず、年配の客と楽しげに雑談を交わしていた。
「ふふ。なに、女人は幾つになろうと乙女じゃろう?」
と、唇に指先を置いて、ウインク。
あたたかい会話の場、肩の力を抜いた会話のキャッチボール。蜜鈴自身も彼等と大して変わらぬ“先人”故、話も合う――(ry
テラス使用客の為にブランケットを用意しておく抜かりなさは流石デスネ、蜜鈴ネエサン!
●
再び厨房。
「(ケーキの誘惑に少しでも負けへん様にせんと……あかんやんね! ほわ……でも、美味しそうな飾りが沢山……いやいや、此処はぐっと……我慢せんと……!)」
レナードがある意味、戦っていた。
デザートプレートにケーキを盛り付け、クリスマス向けのデコレーションにも挑戦。艶のあるベリーソースで雪だるまや星をトッピングした。……じゅるり。
「……クロア君。このケーキって、終わったら……僕も食べれたりするんやろかー……」
レナードの飢えたような呟きに返されたのは(働き次第△Part2)――に加えた、僅かな労い。
「……まあ、働いた分くらいは好きに食べたら?」
「や、やったーやんね! えへへ、三個はもろたでー!」
無愛想な救いに、俄然張り切るレナードであった。
●
その頃、レジの担当をしていたミアは、テイクアウトの客を店先まで見送っていた。
手提げのケーキ箱に添えられた“夢想の羽根”――ビオラが一輪、白いケーキ箱を華やかに彩る。“小さな幸福”という花言葉にささやかな感謝を込めた、ミアのアイデアだ。
「(ケーキ……ミアはまだ食べてないけど、心のこもった優しいお味なんだろうニャぁ。食べる人のことを考えて、丁寧に作られたんだと思うニャス)」
だって、ケーキに名付けられた“ふぁみーゆ”の意味を、ちゃんと調べてきたから。
「(美味しかった記憶は、ちゃんと刻まれて残るものニャス。お客さんが……ミアの大切な人達が、大好きな人が、冬を迎える度、優しい“ふぁみーゆ”の幸せを思い出してほしいな)」
冬に舞う、ミアの願い。そして――
「ミアにもいつか、できるかニャぁ……ほんとうの家族」
何時かの願い。
「あ、ミアさん。そろそろ交代の時間や――」
只今戻りました。
「でぇっ!?」
――招き猫です。
調子に乗ってケーキの宣伝してたら、笛吹きなんちゃら並の行列が出来てました。流石サーカス団員、よくやった。ミアは何食わぬ顔でレジ係を入れ替わり、後にはレナードの(嬉しい)悲鳴が残された。勿論、それだけではない。
「“とらいあんぐる”が作る甘い夢は勿論やけど……“サーカス”が見せる夢の世界も、また見に来たってくださいね」
冬の花に、笑顔を添えて。
画力はある意味アートなミアだが、自分なりに練習をしてきた“ミアート”をご覧あれ。
「ソースの色はケーキに合わせて統一感を出そうかニャ。あ! キウイソースとラズベリーソースでクリスマス感を出すのもいいニャスネ♪」
見た目は華やかに、印象深い色合いで仕上げる。
「そうだ、注文したお客さんに合わせてアートを変えてみようかニャ」
「へえ……いいんじゃない?」
子供用のプレートに猫を描いていると、横から黒亜が覗いてきた。
「えへへ、ミアもやるニャス?」
「……時と場合によっては」
お?
「なあなあ」
「なに」
「クロちゃんてやっぱり優しいニャスよネ。おにいちゃんの為に自分が褌締めたんニャスもんなぁ」
「……は?」
加え、皆に頼ってくれて嬉しかった、とミアは言う。
「お手伝いできてよかったニャス。だってミア、クロちゃんとお友達ニャスしな!」
「…………ともだち?」
混じり気のないミアの言葉と笑顔に、黒亜はそれ以上の純粋さで面食らっていたのだった。
●
淡い彩を帯びる藤色のタイ。
羽毛のように柔らかい髪は一つに束ね、み、と唇を結ぶ。
灯(ka7179)の実家はそれなりの資産家であった。故に、行儀作法は厳しく躾けられた。
「(それがこんなところで役に立つなんて皮肉ね)」
伏せた視線に隠した複雑な思いを、かぶりを振って払う。テーブルを拭き終えたその流れで、ふ、と睫毛を上げたその先――
「(変わらず、堂々としていらっしゃるのね)」
高慢そうな鼻をツンと立てた派手なドレス姿の女性を、桜久世 琉架(kz0265)が物慣れた様と巧みな話術で応対していた。自分に自信を持ち、何事にも動じない、その様。
「(……そんなところが羨ましくて、つい、目で追いかけてしまうの」
厨房に皿を下げていると、オーダーを受けた琉架が傍へ来た。
「あ……桜久世さん。ふふ」
「やや? どうかしたかい?」
「ご自分の仕事もあるのに、白亜さんのために手伝っている貴方は優しいのですね」
灯があどけない笑みを浮かべると、琉架はやれやれと鼻から息を抜いた。
「見せかけの優しさに騙されてはいけないよ。悪い狼に食べられてしまう」
「そう……なんですか?」
「そうだよ。さあ、注文を受けてきなさい」
そう言うと、琉架は人差し指で灯の鼻先を軽く押し出し、「少しは、気が紛れたかな?」と、灯の瞳の奥に隠れた“それ”へ、問い掛けたのであった。
接客は、人と人との真心。
「お似合いの花、ですか? そうですね……」
向き合うことで相手のことを考え、対話をする。
「失礼ですが、紫がお好きなのかしら? いえ、フレアのスカートもネイルも、上品な色合いの紫で組み合わせていらっしゃるので」
様々な意味で“裕福”な者達は、自身に相応しい色や物を既に知っている。そう見受けた灯は、敢えてその色とは異なる色の花を選んだ。
「白百合や白いガーベラ、ブルースターなどは如何でしょう? お好きな色にも合わせやすいかと思いますよ」
こんな花が、こんな選択があるのだと。
「(いろんな世界に気付いてくださる”欠片”になればいいな)」
●
「(ふふ、せっかくおいしいもん食べとるのに、叱りたくも叱られたくもないもんな?)」
白藤が気を利かせて渡しておいた、子供用の前掛けナプキン。可愛いパンダの顔を胸元に下げた子供達に、思わず笑みが零れる。
「(……)」
温い息が、ふと、漏れた。双眸を眩しそうに細めて、客席を眺める。
笑顔溢れる母親、優しそうな父親、可愛い子供――幸せそうな家族。
心の底から、羨ましくなる。
「(一から、作れるやろうか……うちが)」
贅沢は言わない。只、“家族”と呼べる皆が、集える場所を。
●
冬の風が、夜の街に冴える頃――
「よし、皆で打ち上げだ! クロ、ケーキ奢ってくれ!」
閉店した店内で、陸が号令を掛けた。
「ミアと白藤には特別に俺がケーキを食わせてやろう。ほれ、あーん――」
「むしゃあッニャス!」
「……スゲェ、ミアが食い攫っていったケーキが肉に見えたわ」
陸は猫と相棒を労い、レナードと灯はのんびりとケーキに舌鼓。
「えへへー……甘くて美味しいは、幸せやんねー。洋菓子屋さんのお手伝い、また出来たら嬉しいわぁ……」
「ふふ、そうですね。美味しいケーキに想いも弾んで……本当に、素敵な時間だわ」
灯は手許のケーキから視線を外し、ふと、面を上げる。無意識に探していた視線の先には、甘い物が苦手な彼が隅の席で一人、ブラック珈琲を飲んでいた。
「今日はお疲れ様。なかなか貴重な体験だったわ。……しかしまあ、見事に人たらしが集まった気がするわねー」
「あん? 何だよ、他人事じゃねぇか。まあ……お前はあんま得意そうじゃないわよね。世渡りテク」
「あら、わかってるじゃない」
“処方箋”と共にロベリアは珈琲を啜り、妹分の白藤はというと――
「黒亜ー! お疲れさん♪」
持ち前の気さくさで、黒亜の頭を遠慮なくわしゃわしゃと撫でる。一方黒亜は、1Lパックの苺牛乳をストローで一心不乱に飲んでいた。解れた緊張と疲労で、好きにすれば状態。
「白亜を心配して頑張るんもえぇけど、うちらぐらいはこき使ってや?」
「……じゃあ、もっと早く来なよ」
「あら、生意気」
「――おや、仲が良いな」
二人の背後から、食べかけのケーキの皿を手にした白亜が微笑みを湛え、声をかけてきた。
「白亜もお疲れさん。あら……白亜が食べてるケーキ、うちも食べたいなぁ?」
白藤が上目にあーんと口を開けて、包容力のある優しい微笑みにねだる。
「ん? なら、新しいケーキを――」
「……そういうん、気にせんでええのに」
「? そうか。ほら、口を窄めていると食べられないぞ。――、ああ……すまない、新しいフォークに変えればよかったな」
妙な気遣いに、口の中を甘くした白藤はきょとんとした。
「今日は頑張ったな、紅亜」
黙々とケーキを頬張る紅亜の頭を、陸がゆっくり撫でる。
「うむ……もっと褒めてもいいよー……えっへん……」
「ははっ。えらいえらい。……なあ、紅亜」
「ん……?」
「俺は誰にでも優しい訳じゃないよ。特別は……ちゃんと心に在ったんだ」
穏やかに、切実に、そう告げる陸。そんな彼に、彼女はこう応えた。
「……? じゃあ、陸の優しい心は……私のものなの……?」
穏やかに、真っ直ぐに――。
「今日一日のお客人方の笑顔の締め括りに、友の笑顔を見たいと思うておったが……妾の願いは天に届いたようじゃのう」
蜜鈴はケーキの“トップスター”を摘まむと、窓越しから見える夜空にそれを翳し、柔和に微笑んだのであった。
楽しい季節を、楽しく過ごす。
当たり前のことのようだけど、それはきっと、奇跡なんだ。
……なあ、そうだろう?
**
アンティーク調のお洒落なカフェスペースには、男性客からファミリーまで様々な客層が集まっていた。しかし、その空間に忙しなさは感じられない。それは、集った仲間達が醸し出す人柄のおかげなのだろう。
白亜(kz0237)と揃いの白いスカーフタイを首に巻いた白藤(ka3768)は、賑やかな家族連れを受け持っていた。彼女の如才ない応対や自然な笑顔は、客に好感を持たせる。
女性の応対が苦手な白亜には、主に父親や子供の接客を任せた。時折、孤児院の子らを相手にしている故か、子供の扱いには慣れているようだ。それでも、女性客から声を掛けられれば応えないわけにはいかない。大抵の客は他意など無いのだが、世の中には隠れ肉食系女子という言葉もあるわけで。白藤は、白亜の裾をちょいちょいと引いて、フォローに回る。
「(残念、白亜はまるきりの草食系ってわけやないんやで。いや……多分。……ま、うちも白亜からすれば、彼女らと同じようなもんなんやろうけど)」
白藤は追加のドリンクオーダーを受けると、厨房の伝票ホルダーに差し込んだ。そこでは――
「店長! ケーキはご褒美に入るんニャスか!」
と、鈴に代わってアプリコットのタイを首に飾ったミア(ka7035)が、黒亜(kz0238)に向かって元気よく挙手をしていた。
「……あんたらの働き次第だね。ほら、無駄口叩いてないで手を動かす」
「あいあい」
「あいは一回」
「あーい」
そんな二人のやり取りを微笑ましげな様子で耳にしながら、大きなカップにたっぷりとラテを注ぐ、レナード=クーク(ka6613)。タイの色は、彼の心のように明るく澄んだ薄い空。
「(ふっふっふー……大好きな洋菓子屋さんのお手伝いが出来るなんて、夢みたいやわぁ)」
先程から、どうしようもなく口許が綻ぶ。
「(クリスマスシーズンで大忙しみたいやけど、皆と一緒なら安心の筈……やね! お客さんに甘くて美味しい思い出を届けられる様、沢山頑張るでーっ!)」
それにしても、と――
「お店のケーキ……後で貰えたりする事、出来るんかなぁ……」
つい漏れていた心の声に、黒亜の視線は(働き△次第)と語っていた。
●
深い青を帯びたネイビーのタイに、清潔感のあるオールバックで接客を務めるのは、浅生 陸(ka7041)
「紅亜には主に注文を聞いてもらおうかな。皿を運んだりするのは俺がやるよ」
「ん……わかった……」
「あ、変なのに絡まれたらすぐに俺の方を向くこと」
「……? なんで……?」
「なんでって……なんでも」
陸はぽやんとした紅亜(kz0239)の無垢な瞳を覗き込みながら顔を寄せると、諭すように「いいな?」と囁いた。
客の持て成し方は気さくに、チョコレートソースで仕上げられたドットデザインのデザートプレートは丁寧且つ優雅に運び、客の好感度を上げていく。
「(若いやつ相手なら畏まるよりそっちの方が近しくなれるだろうしな)」
時折、陸の美しい顔立ちや親しみやすい様に、誘うような態度を取る女性客もいるが、そこはやんわりと断る。
「(俺なんかより、ケーキ食ってもらえれば笑顔になること間違いなしだから)」
フォークを出す際には、何本かシルバーを入れた筒から選んでもらう趣向を取り入れた。当たりはチョコレートで作製したサンタクロースの顔がフォークの先端に付いたもの。当たりは多めに仕掛けていたが、ハズレた客には星形の飴をプレゼントした。
「一年で最も華やぐ時季だ。楽しい思い出にしないとな」
一先ず接客も一区切りついたかな、と、陸がふと担当スペースへ視線をやると、僅かに戸惑う瞳とぶつかった。
「(……ちっ)」
陸は途端、つかつかと距離を詰め、奥のテーブルで絡まれていた紅亜の肩を優しく引き、庇うように背中へ隠す。
「悪いな、この子うちの看板娘でね。気軽に話すのは構わないが……」
そう告げると、気さくな笑顔から一変、
「こいつに手を出したら生きて店を出られねぇと思えよ」
――わかったな? と語りかける陸の真剣な面持ちに、ナンパ男は二つ返事で頷いたのであった。
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毅然とした黒のタイを首に結い。
注文を厨房へ伝え、配膳し、下膳――
「……って、やること多いじゃない」
ロベリア・李(ka4206)がぽつりと呟いた。しかし、その手と頭の回転は休ませない。席の埋まり具合は常に把握し、オーダーを受けてからの時間にも気を配る。
「(お客を無駄に待たせるわけにはいかないしね。満足した後、テイクアウトもしてもらえれば宣伝にもなるし)」
ロベリアが頃合いを見て、年配の客から温かい飲み物のお代わりを聞いていると――
「お、テオドーラんとこのばあちゃんじゃねぇか。何だよ、まだお迎え来ねーのか?」
髪を結い上げたシュヴァルツ(kz0266)が相好を崩しながら客を迎え入れる。
「(あんた、その言い方……)」
ロベリアの懸念を余所に、相手の老女は彼に席まで案内をしてもらった後、「シュヴァルツちゃんに診てもらってるんだから、まだまだ頑張らないとねぇ」と、にこやかに笑んだ。
要らぬ心配だったとロベリアが苦笑を漏らす一方――
「先人の話は為になるのう」
細い首に浅葱色のタイを彩った蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が、微笑み絶やさず、年配の客と楽しげに雑談を交わしていた。
「ふふ。なに、女人は幾つになろうと乙女じゃろう?」
と、唇に指先を置いて、ウインク。
あたたかい会話の場、肩の力を抜いた会話のキャッチボール。蜜鈴自身も彼等と大して変わらぬ“先人”故、話も合う――(ry
テラス使用客の為にブランケットを用意しておく抜かりなさは流石デスネ、蜜鈴ネエサン!
●
再び厨房。
「(ケーキの誘惑に少しでも負けへん様にせんと……あかんやんね! ほわ……でも、美味しそうな飾りが沢山……いやいや、此処はぐっと……我慢せんと……!)」
レナードがある意味、戦っていた。
デザートプレートにケーキを盛り付け、クリスマス向けのデコレーションにも挑戦。艶のあるベリーソースで雪だるまや星をトッピングした。……じゅるり。
「……クロア君。このケーキって、終わったら……僕も食べれたりするんやろかー……」
レナードの飢えたような呟きに返されたのは(働き次第△Part2)――に加えた、僅かな労い。
「……まあ、働いた分くらいは好きに食べたら?」
「や、やったーやんね! えへへ、三個はもろたでー!」
無愛想な救いに、俄然張り切るレナードであった。
●
その頃、レジの担当をしていたミアは、テイクアウトの客を店先まで見送っていた。
手提げのケーキ箱に添えられた“夢想の羽根”――ビオラが一輪、白いケーキ箱を華やかに彩る。“小さな幸福”という花言葉にささやかな感謝を込めた、ミアのアイデアだ。
「(ケーキ……ミアはまだ食べてないけど、心のこもった優しいお味なんだろうニャぁ。食べる人のことを考えて、丁寧に作られたんだと思うニャス)」
だって、ケーキに名付けられた“ふぁみーゆ”の意味を、ちゃんと調べてきたから。
「(美味しかった記憶は、ちゃんと刻まれて残るものニャス。お客さんが……ミアの大切な人達が、大好きな人が、冬を迎える度、優しい“ふぁみーゆ”の幸せを思い出してほしいな)」
冬に舞う、ミアの願い。そして――
「ミアにもいつか、できるかニャぁ……ほんとうの家族」
何時かの願い。
「あ、ミアさん。そろそろ交代の時間や――」
只今戻りました。
「でぇっ!?」
――招き猫です。
調子に乗ってケーキの宣伝してたら、笛吹きなんちゃら並の行列が出来てました。流石サーカス団員、よくやった。ミアは何食わぬ顔でレジ係を入れ替わり、後にはレナードの(嬉しい)悲鳴が残された。勿論、それだけではない。
「“とらいあんぐる”が作る甘い夢は勿論やけど……“サーカス”が見せる夢の世界も、また見に来たってくださいね」
冬の花に、笑顔を添えて。
画力はある意味アートなミアだが、自分なりに練習をしてきた“ミアート”をご覧あれ。
「ソースの色はケーキに合わせて統一感を出そうかニャ。あ! キウイソースとラズベリーソースでクリスマス感を出すのもいいニャスネ♪」
見た目は華やかに、印象深い色合いで仕上げる。
「そうだ、注文したお客さんに合わせてアートを変えてみようかニャ」
「へえ……いいんじゃない?」
子供用のプレートに猫を描いていると、横から黒亜が覗いてきた。
「えへへ、ミアもやるニャス?」
「……時と場合によっては」
お?
「なあなあ」
「なに」
「クロちゃんてやっぱり優しいニャスよネ。おにいちゃんの為に自分が褌締めたんニャスもんなぁ」
「……は?」
加え、皆に頼ってくれて嬉しかった、とミアは言う。
「お手伝いできてよかったニャス。だってミア、クロちゃんとお友達ニャスしな!」
「…………ともだち?」
混じり気のないミアの言葉と笑顔に、黒亜はそれ以上の純粋さで面食らっていたのだった。
●
淡い彩を帯びる藤色のタイ。
羽毛のように柔らかい髪は一つに束ね、み、と唇を結ぶ。
灯(ka7179)の実家はそれなりの資産家であった。故に、行儀作法は厳しく躾けられた。
「(それがこんなところで役に立つなんて皮肉ね)」
伏せた視線に隠した複雑な思いを、かぶりを振って払う。テーブルを拭き終えたその流れで、ふ、と睫毛を上げたその先――
「(変わらず、堂々としていらっしゃるのね)」
高慢そうな鼻をツンと立てた派手なドレス姿の女性を、桜久世 琉架(kz0265)が物慣れた様と巧みな話術で応対していた。自分に自信を持ち、何事にも動じない、その様。
「(……そんなところが羨ましくて、つい、目で追いかけてしまうの」
厨房に皿を下げていると、オーダーを受けた琉架が傍へ来た。
「あ……桜久世さん。ふふ」
「やや? どうかしたかい?」
「ご自分の仕事もあるのに、白亜さんのために手伝っている貴方は優しいのですね」
灯があどけない笑みを浮かべると、琉架はやれやれと鼻から息を抜いた。
「見せかけの優しさに騙されてはいけないよ。悪い狼に食べられてしまう」
「そう……なんですか?」
「そうだよ。さあ、注文を受けてきなさい」
そう言うと、琉架は人差し指で灯の鼻先を軽く押し出し、「少しは、気が紛れたかな?」と、灯の瞳の奥に隠れた“それ”へ、問い掛けたのであった。
接客は、人と人との真心。
「お似合いの花、ですか? そうですね……」
向き合うことで相手のことを考え、対話をする。
「失礼ですが、紫がお好きなのかしら? いえ、フレアのスカートもネイルも、上品な色合いの紫で組み合わせていらっしゃるので」
様々な意味で“裕福”な者達は、自身に相応しい色や物を既に知っている。そう見受けた灯は、敢えてその色とは異なる色の花を選んだ。
「白百合や白いガーベラ、ブルースターなどは如何でしょう? お好きな色にも合わせやすいかと思いますよ」
こんな花が、こんな選択があるのだと。
「(いろんな世界に気付いてくださる”欠片”になればいいな)」
●
「(ふふ、せっかくおいしいもん食べとるのに、叱りたくも叱られたくもないもんな?)」
白藤が気を利かせて渡しておいた、子供用の前掛けナプキン。可愛いパンダの顔を胸元に下げた子供達に、思わず笑みが零れる。
「(……)」
温い息が、ふと、漏れた。双眸を眩しそうに細めて、客席を眺める。
笑顔溢れる母親、優しそうな父親、可愛い子供――幸せそうな家族。
心の底から、羨ましくなる。
「(一から、作れるやろうか……うちが)」
贅沢は言わない。只、“家族”と呼べる皆が、集える場所を。
●
冬の風が、夜の街に冴える頃――
「よし、皆で打ち上げだ! クロ、ケーキ奢ってくれ!」
閉店した店内で、陸が号令を掛けた。
「ミアと白藤には特別に俺がケーキを食わせてやろう。ほれ、あーん――」
「むしゃあッニャス!」
「……スゲェ、ミアが食い攫っていったケーキが肉に見えたわ」
陸は猫と相棒を労い、レナードと灯はのんびりとケーキに舌鼓。
「えへへー……甘くて美味しいは、幸せやんねー。洋菓子屋さんのお手伝い、また出来たら嬉しいわぁ……」
「ふふ、そうですね。美味しいケーキに想いも弾んで……本当に、素敵な時間だわ」
灯は手許のケーキから視線を外し、ふと、面を上げる。無意識に探していた視線の先には、甘い物が苦手な彼が隅の席で一人、ブラック珈琲を飲んでいた。
「今日はお疲れ様。なかなか貴重な体験だったわ。……しかしまあ、見事に人たらしが集まった気がするわねー」
「あん? 何だよ、他人事じゃねぇか。まあ……お前はあんま得意そうじゃないわよね。世渡りテク」
「あら、わかってるじゃない」
“処方箋”と共にロベリアは珈琲を啜り、妹分の白藤はというと――
「黒亜ー! お疲れさん♪」
持ち前の気さくさで、黒亜の頭を遠慮なくわしゃわしゃと撫でる。一方黒亜は、1Lパックの苺牛乳をストローで一心不乱に飲んでいた。解れた緊張と疲労で、好きにすれば状態。
「白亜を心配して頑張るんもえぇけど、うちらぐらいはこき使ってや?」
「……じゃあ、もっと早く来なよ」
「あら、生意気」
「――おや、仲が良いな」
二人の背後から、食べかけのケーキの皿を手にした白亜が微笑みを湛え、声をかけてきた。
「白亜もお疲れさん。あら……白亜が食べてるケーキ、うちも食べたいなぁ?」
白藤が上目にあーんと口を開けて、包容力のある優しい微笑みにねだる。
「ん? なら、新しいケーキを――」
「……そういうん、気にせんでええのに」
「? そうか。ほら、口を窄めていると食べられないぞ。――、ああ……すまない、新しいフォークに変えればよかったな」
妙な気遣いに、口の中を甘くした白藤はきょとんとした。
「今日は頑張ったな、紅亜」
黙々とケーキを頬張る紅亜の頭を、陸がゆっくり撫でる。
「うむ……もっと褒めてもいいよー……えっへん……」
「ははっ。えらいえらい。……なあ、紅亜」
「ん……?」
「俺は誰にでも優しい訳じゃないよ。特別は……ちゃんと心に在ったんだ」
穏やかに、切実に、そう告げる陸。そんな彼に、彼女はこう応えた。
「……? じゃあ、陸の優しい心は……私のものなの……?」
穏やかに、真っ直ぐに――。
「今日一日のお客人方の笑顔の締め括りに、友の笑顔を見たいと思うておったが……妾の願いは天に届いたようじゃのう」
蜜鈴はケーキの“トップスター”を摘まむと、窓越しから見える夜空にそれを翳し、柔和に微笑んだのであった。
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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とらいあんぐるへるぷ【相談卓】 浅生 陸(ka7041) 人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/12/08 01:33:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/04 23:36:40 |