ゲスト
(ka0000)
【CF】ダウンタウンでボランティア
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/12 07:30
- 完成日
- 2018/12/18 01:43
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●同盟鼎談
ロメオ・ガッディ(kz0031)は山と積まれたラッピンググッズとパネトーネを見て息を吐いた。
ハンターズ・ソサエティ主催のケーキバトルロワイヤル。同盟からも出店することで、少しでも動乱にざわめく市民の心に楽しさをもたらすことができたら……と言うことで彼は期間限定のパティシエになることにした。祭り好きの血が騒いだのももちろんある。
ただ、一人では出店できぬ。何しろ、彼は食べるのと飲む方が好きで、料理の経験はあまりないからである。
と、言うことで彼はジェオルジ領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)と、ヴァリオス商工会青年会長のエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)に協力を打診した。セストは少し考えていたが、
「僕は、お菓子は食べる方が専門で、作ったことがないのですが、それでもよろしいのでしょうか?」
「ええ、構いません……と言うか、私も作った事なんてほとんどなくてね。そこで、農耕推進地域でもあるジェオルジなら、農作物を使ったレシピなんかも色々あるのではないかと。材料の提供もそうなのですが、そう言うところでもご協力を頂きたくて。輸入品に頼ることにはなりそうですが、ポルトワールからも材料は捻出できます」
「わかりました。なるべく急いで手配します」
セストが頷くと、ロメオは顔を綻ばせた。
「お願いします。エヴァルドさんには、出資とプロデュースをお願いしたいと思っております」
「わかりました」
エヴァルドはにこやかに頷いて見せる。
「他に、料理が得手な方をお招きしなくて大丈夫でしょうか?」
セストが首を傾げた。
「いえ、それは大丈夫でしょう」
エヴァルドが微笑んだ。
「お話を聞いている限り、ガッディさんはとても美味しいケーキで話題をさらおう、とは思っていらっしゃらないとお見受けします」
ロメオは頭を掻いた。参加を決めたら、後は野となれ山となれ、だ。
「ははは、おわかりでしたか。なるようになるだろう、とは思っています」
「それに」
エヴァルドは続ける。
「ジェオルジ領主とポルトワール統合本部長がケーキを作った、と言うのはなかなか話題性があるのではないでしょうか? 私は、イベント出店としては申し分ないと思います」
「ありがとうございます」
「それと、どうせならパネトーネなんていかがですか?」
エヴァルドが提案した。早速案出しをしてくれるとは頼もしい限りだ。
「パネトーネかぁ」
ドライフルーツを混ぜ込んだパンのようなケーキである。
「シフォンケーキならどの店も出すでしょうし、少し毛色の違うものを出してアピールするのも商戦では有効かと。もちろん、手堅くスタンダードにケーキで攻めるのもありです」
「いえ、どうせだからパネトーネで行きましょう。こういうことを言ったらいけないのかもしれませんが、私はその、盛り上がりを重視したいなと思いまして……」
売れるに越したことはないが、同盟らしさがなくてはいけない。ロメオがややバツが悪そうに言うと、エヴァルドは予想していたらしい。にっこりと笑う。
「そう仰ると思いました。ジェオルジとポルトワールで揃わない材料はこちらでできる限り手配します。ラッピングの材料はヴァリオスとフマーレで都合できるかと思います」
「いやあ、ありがたい! ラッピングまで正直手が回らなくてね……」
「包装も僕たちでやるとしたら、ちょっと早めに手を付けないといけませんね」
セストの一言で、ロメオは脳内のカレンダーをめくった。
「……日が足りない気がするね」
エヴァルドも呟く。そこでロメオは閃いた。
「手伝ってもらおう」
「あてがあるならお願いします」
エヴァルドが言った。
「こちらも、できるだけ早く手配しますよ」
●ダウンタウンに雪が降る?
「クリスマスラッピング キッズボランティア募集中! 一緒に同盟のケーキを包もう!」
その貼り紙がダウンタウンにほど近いポルトワールの町中に出されたのは、その数日後だった。ラッピングが終わったら、最後は参加者たちで打ち上げパーティも行なう。
もともと、海商は漁で取れた魚で余ったものをダウンタウンに提供している。その延長だ。ヴァネッサも駄目とは言わないだろう。海軍は、イベントに海商とダウンタウンだけが関わるのをよしとしなかった。海軍からも人を出すと言う。
「どれだけ来てくれるかなぁ……」
実際、ロメオは割と困っている。割と深刻な人手不足であり、食事は報酬のようなものだ。
すでに必要な資材は運び込まれており、後は人が来るだけだ。ヴァリオスから提供された、金縁のリボン。紺色、臙脂色、深緑色。シックなクリスマスのラッピングにぴったりだ。そのリボンにぶら下げる星の飾りは、フマーレの職人たちが少ない時間で精一杯作ってくれた透かし彫りのオーナメント。見ているだけで楽しい気分になる。まだ一つもできあがっていなくても、クリスマスの気配は見る人を励ますのだ。
「見本も作らないとだめかな」
彼は言いながら、大きな手でパネトーネにリボンをかけ……。
「……センスの良い子が一人でもいてくれればなぁ」
それから彼はハンターオフィスにも依頼を出した。
●ハンターオフィスにて
「面白い依頼だよ」
オフィス職員C.J.はそう言ってハンターたちに依頼書を見せた。
「ポルトワール本部長のロメオ・ガッディからの依頼さ。何でも、ケーキ屋さんするから、チャリティみたいな感じでダウンタウンの子どもたちにラッピングを手伝ってもらうんだって。その時に子どもたちの面倒を見て欲しいってことらしいよ。ラッピングが終わったら皆で炊き出しみたいな感じでご飯も食べるって。クリスマス前哨戦みたいで楽しそうだね」
ロメオ・ガッディ(kz0031)は山と積まれたラッピンググッズとパネトーネを見て息を吐いた。
ハンターズ・ソサエティ主催のケーキバトルロワイヤル。同盟からも出店することで、少しでも動乱にざわめく市民の心に楽しさをもたらすことができたら……と言うことで彼は期間限定のパティシエになることにした。祭り好きの血が騒いだのももちろんある。
ただ、一人では出店できぬ。何しろ、彼は食べるのと飲む方が好きで、料理の経験はあまりないからである。
と、言うことで彼はジェオルジ領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)と、ヴァリオス商工会青年会長のエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)に協力を打診した。セストは少し考えていたが、
「僕は、お菓子は食べる方が専門で、作ったことがないのですが、それでもよろしいのでしょうか?」
「ええ、構いません……と言うか、私も作った事なんてほとんどなくてね。そこで、農耕推進地域でもあるジェオルジなら、農作物を使ったレシピなんかも色々あるのではないかと。材料の提供もそうなのですが、そう言うところでもご協力を頂きたくて。輸入品に頼ることにはなりそうですが、ポルトワールからも材料は捻出できます」
「わかりました。なるべく急いで手配します」
セストが頷くと、ロメオは顔を綻ばせた。
「お願いします。エヴァルドさんには、出資とプロデュースをお願いしたいと思っております」
「わかりました」
エヴァルドはにこやかに頷いて見せる。
「他に、料理が得手な方をお招きしなくて大丈夫でしょうか?」
セストが首を傾げた。
「いえ、それは大丈夫でしょう」
エヴァルドが微笑んだ。
「お話を聞いている限り、ガッディさんはとても美味しいケーキで話題をさらおう、とは思っていらっしゃらないとお見受けします」
ロメオは頭を掻いた。参加を決めたら、後は野となれ山となれ、だ。
「ははは、おわかりでしたか。なるようになるだろう、とは思っています」
「それに」
エヴァルドは続ける。
「ジェオルジ領主とポルトワール統合本部長がケーキを作った、と言うのはなかなか話題性があるのではないでしょうか? 私は、イベント出店としては申し分ないと思います」
「ありがとうございます」
「それと、どうせならパネトーネなんていかがですか?」
エヴァルドが提案した。早速案出しをしてくれるとは頼もしい限りだ。
「パネトーネかぁ」
ドライフルーツを混ぜ込んだパンのようなケーキである。
「シフォンケーキならどの店も出すでしょうし、少し毛色の違うものを出してアピールするのも商戦では有効かと。もちろん、手堅くスタンダードにケーキで攻めるのもありです」
「いえ、どうせだからパネトーネで行きましょう。こういうことを言ったらいけないのかもしれませんが、私はその、盛り上がりを重視したいなと思いまして……」
売れるに越したことはないが、同盟らしさがなくてはいけない。ロメオがややバツが悪そうに言うと、エヴァルドは予想していたらしい。にっこりと笑う。
「そう仰ると思いました。ジェオルジとポルトワールで揃わない材料はこちらでできる限り手配します。ラッピングの材料はヴァリオスとフマーレで都合できるかと思います」
「いやあ、ありがたい! ラッピングまで正直手が回らなくてね……」
「包装も僕たちでやるとしたら、ちょっと早めに手を付けないといけませんね」
セストの一言で、ロメオは脳内のカレンダーをめくった。
「……日が足りない気がするね」
エヴァルドも呟く。そこでロメオは閃いた。
「手伝ってもらおう」
「あてがあるならお願いします」
エヴァルドが言った。
「こちらも、できるだけ早く手配しますよ」
●ダウンタウンに雪が降る?
「クリスマスラッピング キッズボランティア募集中! 一緒に同盟のケーキを包もう!」
その貼り紙がダウンタウンにほど近いポルトワールの町中に出されたのは、その数日後だった。ラッピングが終わったら、最後は参加者たちで打ち上げパーティも行なう。
もともと、海商は漁で取れた魚で余ったものをダウンタウンに提供している。その延長だ。ヴァネッサも駄目とは言わないだろう。海軍は、イベントに海商とダウンタウンだけが関わるのをよしとしなかった。海軍からも人を出すと言う。
「どれだけ来てくれるかなぁ……」
実際、ロメオは割と困っている。割と深刻な人手不足であり、食事は報酬のようなものだ。
すでに必要な資材は運び込まれており、後は人が来るだけだ。ヴァリオスから提供された、金縁のリボン。紺色、臙脂色、深緑色。シックなクリスマスのラッピングにぴったりだ。そのリボンにぶら下げる星の飾りは、フマーレの職人たちが少ない時間で精一杯作ってくれた透かし彫りのオーナメント。見ているだけで楽しい気分になる。まだ一つもできあがっていなくても、クリスマスの気配は見る人を励ますのだ。
「見本も作らないとだめかな」
彼は言いながら、大きな手でパネトーネにリボンをかけ……。
「……センスの良い子が一人でもいてくれればなぁ」
それから彼はハンターオフィスにも依頼を出した。
●ハンターオフィスにて
「面白い依頼だよ」
オフィス職員C.J.はそう言ってハンターたちに依頼書を見せた。
「ポルトワール本部長のロメオ・ガッディからの依頼さ。何でも、ケーキ屋さんするから、チャリティみたいな感じでダウンタウンの子どもたちにラッピングを手伝ってもらうんだって。その時に子どもたちの面倒を見て欲しいってことらしいよ。ラッピングが終わったら皆で炊き出しみたいな感じでご飯も食べるって。クリスマス前哨戦みたいで楽しそうだね」
リプレイ本文
●集合から開始まで
総勢十二名のハンターが集まった。ロメオ・ガッディは、集合したハンターたちに挨拶をする。
「本日は寒い中お集まり頂いてありがとうございます」
彼はそこで資材の山を指した。
「キッズボランティアとして、子どもたちにこのパネトーネの梱包をしてもらいます。ハンターさんたちには、子どもたちの傍についていて頂きたいのです。ハサミなんかも使いますのでね。後は話相手になっていただけると助かります。ずっと集中することは難しいと思いますので」
それから、彼は後ろを見た。料理店の建物がある。そこの厨房を借りる予定だ。
「それと、最後に全員で炊き出しを食べます。もちろん皆さんにも。それでですね、事前にお話は行っているかと思うんですが、海軍の食堂に勤務されている調理師の方にお越し頂いています。ただ、彼女一人では少し大変なのではないかと思いましてね。本人は頑張るとは言っていますが……もしよろしければ、そちらの方にも何名かお手伝いをお願いしたく存じます」
「聞いている。そちらには俺が行こうと思う」
と、手を挙げたのは鳳凰院ひりょ(ka3744)である。鳳凰院家の跡継ぎたる彼だが、料理の腕前は決して拙いものではない。
「私もそちらに回ろう。プロの料理人と一緒に厨房に立つと言うのはなかなかない機会だからな」
同じく手を挙げたのはレイア・アローネ(ka4082)。
「あら、二人も一緒なら心強いわ。私もそっちに回ろうと思っていたのよ」
マリィア・バルデス(ka5848)も厨房の手伝いを希望した。後の九人は、子どもたちの対応に回ってくれる。ロメオは頷いた。
「わかりました。よろしくお願いします。では厨房に来て下さる皆さんはあちらにお願いします」
「ご主人様」
フィロ(ka6966)が手を挙げた。今回の依頼人であるロメオは、彼女にとっての認識はご主人様である。
「はい、何でしょうか、フィロさん」
事前に、参加ハンターの経歴にはざっと目を通していたので特に驚かないロメオ。
「休憩も挟むとお伺いしております。その時のおやつに、パネトーネを出すことはできないのでしょうか?」
自分たちが包むものがどんなものなのか知りたいだろうし、何より食べた本人達から話が出れば宣伝にもなるのだと彼女は言う。
「子供達がよろこんで親しい人に報告する、それが一番の宣伝になると思います」
「そうですね……わかりました。都合しましょう。ただ、三十個全て出すのは流石に難しいので、そのことはご理解下さい。一つをいくつかに分割することになります」
「かしこまりました」
丁寧に腰を折るフィロ。完璧なメイドの振る舞いである。
●工作デート
ほどなくして、子どもたちがやって来た。張り切っている子もいれば、かったるそうにしている子もいる。中には、スープだけ飲みに来たような子どももいるのだろう。
雪ノ下正太郎(ka0539)は相棒であるイヴ(ka6763)と半ばデートの様な気持ちで来ている。仲睦まじげにしている二人を、四、五人が興味深そうな顔で遠巻きにしている。
「ケッコンしてるの?」
「出会いはどこ? お兄ちゃんの年収は?」
なかなかシビアな問いかけである。二人は子どもたちに目線を合わせながら、作業台を指す。
「君たちもラッピングを手伝ってくれるのかな?」
「手伝うって言うか……ヴァネッサの姐さんが、働かざる者食うべからずって言うから。スープが出るって言うから来たんだよ」
「そっかそっか。あのね、これはゲームだよ、どれだけ丁寧にきれいにラッピングできるかが肝心だ」
「ゲーム?」
子どもたちが顔を見合わせる。正太郎はにっこりと笑って見せた。
「一番数多くきれいにできた人はお兄さんの分のご飯上げる♪」
「言ったな」
「男に二言はないね?」
なかなかにシビアな反応である。
「もちろんだよ。約束だ」
「そういうわけでさ、早速作ってみようよ」
イヴが言いながら子どもたちを作業台に先導する。正太郎は日曜大工の心得が多少ある。用意されたリボンやワイヤー、飾りを器用にまとめて、見本になるものを一つ、作って見せた。
「こんな感じかな?」
「おー……」
なかなかにシビアな判定を下す子どもたちも、器用にリボンを掛けたその手腕には文句の付けようがなかったらしい。つんつん、と星飾りをつつく。
「ま、まあ上手なんじゃない?」
「心配しなくても、上手にできなかったからってご飯を僕が取っちゃうことはしないから安心して良いよ」
「本当?」
「本当」
「うーん」
一人の子どもが箱とリボン、ハサミを手に取った。正太郎はリボンをある程度引き出して、
「ここで切ってごらん」
と、長さの目安を示す。子どもは言われたとおりに、そこからちょきんとリボンを切り落とした。
「そうしたらまず上から掛けて……そうそう。丁度良いね。それから底で交差させて……うん、良い感じ。押さえるから、てっぺんで結んでごらん」
リボンがずれないように、正太郎が向かいから軽く押さえる。子どもは言われた通りにリボンを引っ張りながら、てっぺんで軽く結ぶ。
「じゃあここで星飾りをつけようか」
リボンにくっつけるように透かし彫りの星をワイヤーで結べば完成だ。
「下手じゃない?」
「そんなことないよ。ね、イヴさん」
「うん。上手だと思う。良い練習になったと思うし、皆もやってみる? そんな気負わない気負わない」
イヴの明るい励ましに、子どもたちは一人ずつ資材を持って広げ始めた。
「お兄ちゃん、こっち手伝って!」
「お姉ちゃんはこっち!」
すっかり工作の先生である。二人は笑顔を見せながらそれに応じた。
●女子力とは物理と見付けたり
「よく来たねぇ、あんたたち。おばちゃん一人じゃ正直キツいと思っててね。よろしくねぇ」
「こちらこそよろしくお願いするわ。プロの技術を盗める機会なんてそうそうないもの」
と、ウィンクするのはマリィアだ。
「うむ。料理の勉強になれば良いと思ってな」
レイアも神妙な顔で頷く。ひりょは一緒に来た二人のハンターの言葉に、うんうん、と頷く。
「二人もやっぱりそうか……俺も技術が少しでも向上すればと思ってな」
「あらやだよぅ、いくらプロって言ったって、お貴族様のお屋敷に務めるようなのとは訳が違うんだから。味がわかって食ってるのかわからないマッチョばっかだよ。今日は可愛い男の子とべっぴんさんたちが来てくれたからあたしも目の保養だね」
「あら、お上手。精一杯お手伝いさせて頂くわ」
「か、かわいい……」
「べっぴん……」
割とぐいぐいなおばちゃんだ。ひりょとレイアは目をしぱしぱとさせる。マリィアは持参品の中からクッキーの型抜きを持ち出した。星の形をしている。
「ニンジンなんか、これで型抜きしたら可愛いんじゃないかしら?」
「ああ、良いんじゃないか。クリスマスらしくて良いと思う」
「これが女子力か」
「そうだよ。これが女子力だよ。でも生のニンジンは割と固いからね。女子力とはすなわち腕力だよ。ホームパーティをするなら人数分の料理をした鍋を持ち上げる腕力がいるんだよ」
おばちゃんが我が意を得たりと言わんばかりに答えると、
「得意分野だ、任せてくれ」
頷くレイア。
「そ、それで良いのかレイア……」
「できることがあった方が料理は楽しいのよ」
マリィアが肩を竦める。
「マリィアは得意なのか?」
「うちの部隊もお祭り好きだったから自分達で料理してパーティはがんがんやってたわ。そう言うあなたは? 苦手意識は見えないけど」
今度はマリィアが尋ねると、ひりょは穏やかに微笑んで、頷いた。
「鳳凰院家の食事は俺が準備している」
「あら、育ちが良いとは思っていたけど、そう言うところも教えられていたのね」
「いや」
ひりょは首を横に振った。
「必要に駆られ、やり始めて備わったものだ」
「……そう」
その声音から、何かを察したマリィアはうんうん、と頷いた。
「辛かったわね」
「よくわからんが、ひりょとマリィア、それにおばちゃんは料理が得意なんだな。い、いや、私もできないわけではない。できないわけではないんだが……!」
「良いんだよ。こういうのは、とにかく皆で囲んで食べると八割増しくらいで美味しいんだから。とりあえずまずくないもの作れれば良いんだよ。最後はシチュエーションがものを言うんだから」
「そ、それで良いのかおばちゃん……」
「と言うことでまず野菜を切るところから始めようか」
「ああ。では人参はマリィアに任せて……俺はキャベツを切ろう」
「私は何をしたら良いだろうか!」
レイアが己の存在を主張する。
「そうだね。あんたはとりあえずトマトに十字の切り込みを入れて」
「十文字斬りと言うことだろうか?」
「分割はしちゃだめよ。湯むきするから」
「うむ……」
レイアはトマトをひっくり返すと、そっと包丁を入れた。
●同盟を飾る
「ご主人様」
フィロが再びロメオに声を掛ける。
「はい、どうしましたかフィロさん」
「こちらに用意していただいたリボンですが、ラッピング以外に使用してもよろしいでしょうか?」
「ええ、多めに用意していますから、余れば構いませんよ」
「ありがとうございます」
彼女はまた丁寧に頭を下げる。彼女は資材を積んである作業台に歩いて行った。
「俺たち、どちらかと言うとスープだけ飲みに来たんだけど」
と、年齢の割に世間擦れしたような少年が、リボンを弄びながら言い放つのに、ジャック・エルギン(ka1522)は肩を竦めて見せた。
「あんまり雑にするんじゃねーぜ。良いか? コイツはな……」
彼はそう言って空を見上げる。今はまだ明るいが、夜になれば月は二つ見える。リアルブルーから転移してきた月だ。
「あの空の向こう、新しく増えた月に居るリアルブルーの連中にだって届くんだ」
「それで?」
「住んでた場所を離れて、仲間や友達とも離れ離れになっちまったヤツらも居る。そいつらがコレ見て笑顔になると思えば、少しはヤル気も出るってもんだろ?」
「えー?」
疑わしげにリボンを弄ぶ少年の肩を、ジャックはぽんと叩いた。
「それに、もしかしたら可愛い女の子の笑顔かもしれねーしな」
「……ほんとに?」
「かなりの人数が転移してるから、一人くらい好みのかわいこちゃんがいるかもしれねーだろ」
「俺よりあんたの方が乗り気だね。月で好みの子にでも会ったの?」
「そいつは想像に任せる」
ジャックはそう言ってウィンクして見せた。
「ジャックくん、そっちの方面から攻めますかぁ」
ふんふんと頷いて見せるのは星野 ハナ(ka5852)である。
「身につまされますぅ」
「はは。まあ、なんだ、この中にも将来有望株がいるかもしれないぜ?」
「逆光源氏ですぅ? 悪くないですぅ」
冗談とも本気ともつかない調子で返しつつも、ハナは子どもたちに向き直る。優しそうで綺麗なお姉さんは、どちらかと言うと女児に人気である。
「今日はみんなお手伝いありがとうですぅ。お父さんやお母さん、家族や友達にプレゼントするつもりでぇ、頑張って包装していきましょぉ」
「はーい!」
「良いお返事ですぅ。あの金髪のお兄さんが言ってたみたいにぃ、このケーキは月にも届くんですぅ。リアルブルーが大変になっちゃって、月にたくさんの人が避難してるのは知ってるかなぁ?」
「知ってる! 同盟にもお引っ越しした人もいるって」
「そっかぁ。じゃあ、同盟にお引っ越しした人たちが楽しく食べられるように、頑張って包みましょぉ!」
「はーい!」
「よーし、手がいる奴は呼んでくれ。ハサミが使いにくけりゃリボンおさえたりしてやるからな。怪我はすんなよ」
●拗ねる指先
「ええ、とても、お上手だと思います」
「そうかな……」
「はい。プレゼントとは、お店で売っているようなものが全てではありません。あなた様の気持ちがこもり、手作りの楽しさが溢れるこのラッピング、私は好ましいと思います」
フィロは熱を込めてその少女が施したラッピングを褒めた。リボンは縦結びになっているし、ワイヤーは飛び出してしまっている。だが、フィロの言うとおりそれは手作りの楽しさがわかるものであった。
「もう少し、ワイヤーを切りましょう」
彼女はそう言ってニッパーを持ち出した。
「この飛び出しているところに……そう、そうです。お上手です」
余分なワイヤーが切り落とされた。無駄なものが省かれただけで、大分見た目も整って見える。
上手く行っていないのはその子だけではない。鞍馬 真(ka5819)が面倒を見ている子も、蝶結びが上手にできなくて苛々し始めている。
「もうやりたくない」
「うん。上手く行かなければ、そう思うのも仕方ない」
「ほんとにそう思ってるの?」
「私も、上手く行かないことはたくさんあるからね」
「ほんとに?」
「懐疑的だなぁ。クッキー、食べるかい? 甘い物を食べたら落ち着くかもしれないよ」
彼はそう言ってポケットからクッキーを取り出した。
「ね? 私も一緒に頑張るから。君の頑張りに応えよう」
「難しいことは知らないけど……」
少年はぶつくさ言いながらもクッキーを受け取った。真はそれを微笑んで見守る。彼は子どもが好きだ。歪虚に対しては毅然とした態度を取るが、今日の彼は優しいお兄さん、と言った風である。
糖分で少し苛立ちも収まっただろうか。少年はちらりと真を見上げる。
「もう一回やってみるから、手伝って」
「もちろんさ。じゃあ一度ほどこう」
「自分でやる」
「うん」
●怪獣ミアゴンとデラロサの剣
ロメオの一言で休憩と相成った。フィロが所望していたパネトーネも、いくつかに分割されたものを一人分として出される。言ってしまえば試食レベルの大きさだが、本来の用途を考えれば致し方あるまい。
「ハンターの皆さんもどうぞ」
「ありがたく頂くぜ」
ジャックが率先してパネトーネを摘まむ。
「うん。なかなかいけるぜ。食うか?」
「食べるー!」
その様子を見て、比較的素直な子どもたちは食いついた。斜に構えている子どもたちも、一緒に作業していたハンターに付き添われて手を伸ばす。
和気藹々としているところに、不意に全身ピンクの何者かが現れた。
「さあ、チビッ子達! ミアゴンが相手をしてやるニャスよー! かかってこい、がおー!」
猫の着ぐるみに身を包んだミア(ka7035)であった。不安げにしている子どももいると言うことで、身体を動かしたノリのままで行けば逆に上手く行くのではないか、と思ったのである。
「きゃーっ!」
「何それ!」
「出たなミアゴン。よーし、武器がいるやつは持って行け!」
それに楽しげな様子で応じるのは、余った資材やらチラシを細く巻いて棒状にしたものを子どもたちに配るデラロサ(ka7283)である。活発な子どもたちや、さっきまで彼と作業していた子どもたちが、我先にと彼から武器を調達する。
「まとめてひねり潰すニャスよー!」
「かかれー!」
「うおー!」
デラロサの掛け声で、ピンクの猫に子どもたちが群がる。転びそうになった子どもは、デラロサが支えた。
「まあ、慌てるなって。ミアゴンはそんなすぐに倒されないから」
「デラロサおにいさんも一緒に戦ってよ!」
「おう、いくぞ! ミアゴン覚悟ー!」
その様子を見ていたディーナ・フェルミ(ka5843)は、むむ、と考え込んでいた。
「よっぽど人手不足だったのでない限り、手先の器用なやる気のある子を集めたと思うの。それなのに集中してお手伝いできないのは、集中できないくらい何かがあるのかもしれないって思うの。同盟を元気にするケーキなの、お手伝いした子供達だって元気になって帰ってほしいの」
と、エクラ教司祭として使命感に燃えていた彼女は、おおざっぱに子どもたちの経歴を確認していた。確かに、ダウンタウンはどちらかと言うと治安は悪い部類に入るし、昨年春から続き、未だ解決していない嫉妬歪虚の侵攻もある。だが、
「ミネストローネが目当てできました」
「友達が行くって言うから」
「親に行けって言われた」
「ハンターに興味があって」
割と脳天気な理由で来ている子どもたちも多数である。そう、ボランティアとは、自発的な行動を表す言葉である。都市統合本部が指名したわけではない。
とは言うものの、柔らかな雰囲気を持ち、司祭として接するディーナの周りには、どちらかと言うと癒やしや安心を求める子どもたちが集まっているようにも感じられた。
「もしかしたら、何か困ったことがあるのかなって思ったの。手伝えそうなことないかな」
「同盟は大丈夫かなって思って……」
と、話すのは比較的年長の子どもだ。やはり、歪虚侵攻には不安が残っているらしい。
「いつになったら平和に戻るんだろう」
「いつ、とは言えないけど、きっと私たちが頑張って平和を取り戻すの」
ディーナは肩を抱く。
「うん、きっと」
「うえええん、ハナおねえちゃん!」
甘えるようにハナの胴部に抱きついた子どもがいる。ハナは目を丸くしながら、その子の背中をぽんぽんと叩いた。
「どうしたのぉ、疲れちゃったかなぁ」
「疲れちゃったぁ! リボン結ぶとかやったことないもーん」
「そっかぁ。頑張ったねぇ」
よしよしと頭を撫でる。元々甘え上手な子どもなのだろう。ハナに撫でられて嬉しそうだ。
「そういえば、ひりょ君たちは大丈夫かな……?」
真が、出てこない調理組に気付いて呟いた。
「大丈夫じゃないか? ひりょだって料理得意で志願したんだろ?」
応じたのはジャックだ。
「うん、まあそうなんだけど、こう言うときの調理って何かとトラブルが起きやすいものだから」
「ああ、砂糖と塩間違えたりするやつな。まあ、その辺はプロがついてるし大丈夫だろ」
●鍋の中身はなんだろか
「と言うことで、簡単にグラッセしてみたわ。あんまりくどくなってもトマトの味が活かせないから、そんなに濃く味付けはしてないんだけど」
マリィアが言いながら、小さい鍋の中身を他の三人に見せる。バターで少し黄色がかった星形の人参は、より星らしく見せた。おばちゃんはパンを焼いている。
「美味しそうじゃないか。良いね。じゃあそれは最後に入れようか。そっち、どうだい?」
「トマトの形がまだ少し残っているので生き残りを探している」
「レイア、雑魔じゃないんだからそこまで必死になって潰さなくても良いと思うぞ」
玉杓子でホールトマトのなれの果てを探すレイアにひりょが声を掛ける。
「うん、多少形が残ってる方が食べ応えがあるってもの」
「そうね。トマトが好きな子は欲しがるでしょうし、嫌いな子はそもそも来ていないか食べずに帰るでしょう。ちょっと残念ではあるけど」
「だったら、マリィアのグラッセを少しよけておいたらどうだ? ミネストローネーが出ることを知らないで来ているトマト嫌いもいるかもしれないし」
「そうね。それは良いかもしれない。おばちゃん、これ、少し取っておいても良いかしら?」
「良いとも」
「ひりょ君?」
「よー、大丈夫か?」
「鞍馬にジャックか」
ひょっこりと顔を出した真とジャックに、ひりょは目を丸くした。それから、ある可能性に思い至って慌てる。
「も、もしかしてもうラッピングが終わったのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだ。ひりょ君たちが出てこないから、忙しいのかなと思ってね。外は今休憩中で、パネトーネを分けてもらってたんだ。はい、これが皆の分だよ」
そう言って、切り分けられたパネトーネを空いたテーブルの上に置く。
「ああ、ありがとう。そうか、これがパネトーネか。心配してくれてありがとう。こちらは順調だ」
「グラッセか。美味そうだな。誰が作ったんだ?」
「私よ。楽しみにしててちょうだい。パネトーネ、ありがとうね」
「ああ、それは気にしないでくれ。ところで……」
ジャックは鍋を覗き込むレイアを指して尋ねる。
「レイアは何してんだ?」
「生き残りを殲滅している」
レイアはもくもくと玉杓子でトマトを潰しながら答えた。ジャックは目を瞬かせてから、
「玉ねぎ雑魔でも出たのか?」
フィロは一人の少女を膝に乗せて、その髪を編んでいる。リボンを編み込んでちょっとしたおしゃれさんだ。その様子を見ている少年の胸には、リボンを簡単に結んだ勲章の様なものがついており、これもフィロの作だ。ラッピングもある程度が進んで、使う資材の量にも目処が立ったので、余りそうな分だけもらったのである。
「興味がおありですか?」
「うん、妹にもやってあげたいなと思って」
「妹様にも、きっとそのお優しい心が伝わると思います。優しいお兄様なのですね」
「フィロちゃんは器用ニャスなぁ」
子どもたちとひとしきり遊んだミアも、興味深そうにフィロの手元を見る。ふと思いついて、彼女はぐるりと周囲を見渡した。
(忙しいエヴァルドちゃんがいるはずないニャスよな)
同盟が出店するという、パスティチェリア・アレアンザ。そのメンバーの一人に名を連ねているエヴァルド・ブラマンデと、彼女は面識がある。もしかしたら今日のラッピングボランティアにも顔を出しているのではないかと思ったのだが……。
「何かお探しですか?」
ロメオが尋ねる。彼女は目を瞬かせてから、何気なく尋ねた。
「今日、エヴァルドちゃんは来てないニャスか?」
「ああ、エヴァルドさんのお友達でしたか。申し訳ない。彼は本日別件の仕事があるようでして、失礼させて頂いております。ミアさんがお起こしになっていたことは彼にも伝えておきましょう」
ロメオは一礼して去って行った。エヴァルドが来ていないことは、彼女もわかっていた。商工会青年会長の肩書きを持つ彼は多忙を極めている。恐らくヴァリオスの方で仕事があるのだろう。
(彼の笑顔、見たかったニャぁ……ニャんて)
「ミアゴン?」
(一時でもいいから、笑顔にさせてあげたかった。日頃の疲れを拭ってあげたかったニャぁ)
「みーあごん!」
「ニャッ!?」
子どもの一人が腰に抱きついてくる。
「びっくりしたニャス! 不意打ちとは卑怯ニャスよ!」
「やーい恐れ入ったか!」
「がおー! 反撃ニャスー!」
●仕事の後のご褒美
そして、全てのラッピングが終わった。
「皆頑張ったねぇ」
正太郎が子どもたちの頭を撫でる。その中で、一番のラッピング量を誇る少年に、彼は視線を合わせた。
「約束通り、僕の分のご飯をあげるよ」
「太っ腹ー!」
「正太郎さんは私と半分こにしようね」
イヴがウィンクしてみせる。
「やっぱり半分こにするんだ!」
「はいあーんして、ってやつだろ! 知ってる!」
「ふふん。半分こするとそれはそれで美味しいんだから」
「お待ちかねのミネストローネだ! トマトがあまり得意じゃない子には、マリィアのキャロットグラッセがあるぞ!」
大鍋を運びながらひりょが声を張り上げる。その後ろから、レイアがパンを、マリィアが取り分けたグラッセの皿を持ってくる。
「ほら、早く食べたいのはわかるけど、あんまり近寄ると火傷するからな」
デラロサが逸る子どもの肩をそっと抑えた。
「さあ、あんたたち、並ぶんだよ! ルールを守らない子にはここの規則も守られないからね!」
おばちゃんが合図すると、子どもたちは揃って、
「はーい!」
と良いお返事をする。子どもたちは、ラッピング中に親しくなったハンターの元へわらわらと向かって行く。
「ジャックも並ぼう! お腹空いてるよね」
「ああ、行く行く。誘ってくれてありがとな」
「ディーナおねえさんも、一緒に食べるでしょう?」
「うん。食べるの。お相伴させてもらうの」
「ハナお姉ちゃん! お腹空いた!」
「一緒に並びましょうねぇ」
「真おにいちゃんも私たちと来て」
「うん、もちろん。楽しみだね。さっき覗いたけど美味しそうだったよ」
ミネストローネの鍋に列ができる。
「フィロさんは? 食べるの? オートマトンって……お食事はできるの?」
「はい。食事は可能です。皆さんと一緒に食事を囲めるのはとても嬉しいです。一緒に頂きに参りましょう」
「ミアゴン、先に並ばせてあげるからあたしたちのことは食べないでー!」
「ミアゴンは優しいから先に並んで良いニャス」
寒空の下で、皆で食べるミネストローネは、料理の味以上のおいしさを感じさせるものである。
「美味しい!」
「そうか、それは良かった。私もトマトを潰した甲斐があったと言うものだ」
子どもたちと、一緒にスープを飲みながら、レイアがしみじみと言う。
「そんなに気になるなら、裏ごししてもらえば良かったわね」
千切ったパンを浸しながらマリィアが言った。
「裏ごしか。その手があったな」
ひりょが片目をつぶりながら応じる。
「う、裏ごし……? いや、しかし本来ならそこまで潰さなくても良いのだろう? 玉杓子で潰すのもなかなか楽しかった」
「うんうん、楽しそうだったねぇ。ミネストローネはこれでばっちりだろレイアちゃん」
おばちゃんもスープをぐびぐび飲みながら頷いた。
「ばっちりだろうか……」
「はい、正太郎さん半分こ」
「ありがとうございます、イヴさん」
ミネストローネとパンを分け合いながら、正太郎とイヴは楽しそうに額をくっつけて笑い合う。一部の子どもたちが羨望の眼差しでその様を見ていた。
「この後、買い物でもして帰りましょうか」
「そうだね。久しぶりのデートだし、ちょっと歩きたいよね」
「良いなぁ」
一人の少年がそれを見て羨ましそうに言う。
「お、何だ、坊主、気になる女の子でもいるのか?」
パンを千切りながらジャックがにまにまして問いかける。
「そ、そーゆーんじゃなくてさ!」
「恋バナニャスか?」
着ぐるみを脱いだミアがスープカップを持って寄って来る。ミアゴンの中身が、猫耳カチューシャの美女であったことに、子どもたちはどよめいた。
ベンチには、ややお疲れ気味の子どもたちが、ディーナとハナを囲んで座っている。
「温かくて美味しいの」
「五臓六腑に染み渡りますぅ」
「ごぞーろっぷってなぁに?」
「全身のことだよぉ」
「そうだ、皆にお土産があるわ」
マリィアがそう言って自分の荷物の中からポマンダーを取りだした。スパイスの香りが広がる。
「わ、良い匂い!」
「お疲れさま、今日はありがとう。これは私の国の聖輝節の飾りなの。良かったらおうちで飾ってちょうだい」
人数分用意されている。子どもたちは、スープに並んだように、きちんと列を作ってマリィアからポマンダーを受け取った。
「見て真くん。もらっちゃった」
「ああ、良かったね。大事にすると良いよ。今日の思い出にね」
温かいスープと子どもたちの笑顔が染みる。真は笑顔を更に深めた。今日は話す機会のなかった、知人のイヴがこちらに手を振ってくれたので、振り返す。
「デラロサおにーちゃん見てください。ポマンダーと言うものをもらいました」
「お、良いものもらったじゃねぇか。頑張った甲斐があったな!」
そう言ってデラロサは自分にポマンダーを見せに来た子どもたちの頭をわしゃわしゃと撫でた。気さくな彼は、話す間に子どもたちの心を掴んでいたようである。すっかり打ち解けた様子で、子どもたちに囲まれていた。
「ご褒美ですね、皆様」
フィロも、ミネストローネやポマンダーを喜ぶ子どもたちに、優しい視線を向ける。
「ええ、本当に、寒い中頑張りました。風邪などお召しになりませんように」
●温かいものを持って行って
こうして、同盟のミニパネトーネのラッピングは無事に済んだ。これがケーキバトルロイヤルに出品され、クリムゾンウェストで、崑崙で配られる。
「ありがとうございました!」
最後もロメオの挨拶で締めくくられた。
「正直なところを申し上げますと、割と思いつきで参加したところがありまして。ただ、これで少しでもポルトワールが、同盟が元気になれば良いと言う気持ちに偽りはありません。本日頂いた皆さんからのご協力には、本当に感謝の一言に尽きます。よろしければ、ケーキバトルロイヤル期間に手に取るだけでもしていただければ、子どもたちも報われると思います。もちろん私やセストさん、エヴァルドさんも。今後とも、ポルトワールを、同盟をよろしくお願いします」
ハンターたちも帰路につく。人の待つところ、ペットの待つところ、あるいはいつも通りの自分の部屋が待つところ。
少しだけ、暖かな気持ちになりながら。
総勢十二名のハンターが集まった。ロメオ・ガッディは、集合したハンターたちに挨拶をする。
「本日は寒い中お集まり頂いてありがとうございます」
彼はそこで資材の山を指した。
「キッズボランティアとして、子どもたちにこのパネトーネの梱包をしてもらいます。ハンターさんたちには、子どもたちの傍についていて頂きたいのです。ハサミなんかも使いますのでね。後は話相手になっていただけると助かります。ずっと集中することは難しいと思いますので」
それから、彼は後ろを見た。料理店の建物がある。そこの厨房を借りる予定だ。
「それと、最後に全員で炊き出しを食べます。もちろん皆さんにも。それでですね、事前にお話は行っているかと思うんですが、海軍の食堂に勤務されている調理師の方にお越し頂いています。ただ、彼女一人では少し大変なのではないかと思いましてね。本人は頑張るとは言っていますが……もしよろしければ、そちらの方にも何名かお手伝いをお願いしたく存じます」
「聞いている。そちらには俺が行こうと思う」
と、手を挙げたのは鳳凰院ひりょ(ka3744)である。鳳凰院家の跡継ぎたる彼だが、料理の腕前は決して拙いものではない。
「私もそちらに回ろう。プロの料理人と一緒に厨房に立つと言うのはなかなかない機会だからな」
同じく手を挙げたのはレイア・アローネ(ka4082)。
「あら、二人も一緒なら心強いわ。私もそっちに回ろうと思っていたのよ」
マリィア・バルデス(ka5848)も厨房の手伝いを希望した。後の九人は、子どもたちの対応に回ってくれる。ロメオは頷いた。
「わかりました。よろしくお願いします。では厨房に来て下さる皆さんはあちらにお願いします」
「ご主人様」
フィロ(ka6966)が手を挙げた。今回の依頼人であるロメオは、彼女にとっての認識はご主人様である。
「はい、何でしょうか、フィロさん」
事前に、参加ハンターの経歴にはざっと目を通していたので特に驚かないロメオ。
「休憩も挟むとお伺いしております。その時のおやつに、パネトーネを出すことはできないのでしょうか?」
自分たちが包むものがどんなものなのか知りたいだろうし、何より食べた本人達から話が出れば宣伝にもなるのだと彼女は言う。
「子供達がよろこんで親しい人に報告する、それが一番の宣伝になると思います」
「そうですね……わかりました。都合しましょう。ただ、三十個全て出すのは流石に難しいので、そのことはご理解下さい。一つをいくつかに分割することになります」
「かしこまりました」
丁寧に腰を折るフィロ。完璧なメイドの振る舞いである。
●工作デート
ほどなくして、子どもたちがやって来た。張り切っている子もいれば、かったるそうにしている子もいる。中には、スープだけ飲みに来たような子どももいるのだろう。
雪ノ下正太郎(ka0539)は相棒であるイヴ(ka6763)と半ばデートの様な気持ちで来ている。仲睦まじげにしている二人を、四、五人が興味深そうな顔で遠巻きにしている。
「ケッコンしてるの?」
「出会いはどこ? お兄ちゃんの年収は?」
なかなかシビアな問いかけである。二人は子どもたちに目線を合わせながら、作業台を指す。
「君たちもラッピングを手伝ってくれるのかな?」
「手伝うって言うか……ヴァネッサの姐さんが、働かざる者食うべからずって言うから。スープが出るって言うから来たんだよ」
「そっかそっか。あのね、これはゲームだよ、どれだけ丁寧にきれいにラッピングできるかが肝心だ」
「ゲーム?」
子どもたちが顔を見合わせる。正太郎はにっこりと笑って見せた。
「一番数多くきれいにできた人はお兄さんの分のご飯上げる♪」
「言ったな」
「男に二言はないね?」
なかなかにシビアな反応である。
「もちろんだよ。約束だ」
「そういうわけでさ、早速作ってみようよ」
イヴが言いながら子どもたちを作業台に先導する。正太郎は日曜大工の心得が多少ある。用意されたリボンやワイヤー、飾りを器用にまとめて、見本になるものを一つ、作って見せた。
「こんな感じかな?」
「おー……」
なかなかにシビアな判定を下す子どもたちも、器用にリボンを掛けたその手腕には文句の付けようがなかったらしい。つんつん、と星飾りをつつく。
「ま、まあ上手なんじゃない?」
「心配しなくても、上手にできなかったからってご飯を僕が取っちゃうことはしないから安心して良いよ」
「本当?」
「本当」
「うーん」
一人の子どもが箱とリボン、ハサミを手に取った。正太郎はリボンをある程度引き出して、
「ここで切ってごらん」
と、長さの目安を示す。子どもは言われたとおりに、そこからちょきんとリボンを切り落とした。
「そうしたらまず上から掛けて……そうそう。丁度良いね。それから底で交差させて……うん、良い感じ。押さえるから、てっぺんで結んでごらん」
リボンがずれないように、正太郎が向かいから軽く押さえる。子どもは言われた通りにリボンを引っ張りながら、てっぺんで軽く結ぶ。
「じゃあここで星飾りをつけようか」
リボンにくっつけるように透かし彫りの星をワイヤーで結べば完成だ。
「下手じゃない?」
「そんなことないよ。ね、イヴさん」
「うん。上手だと思う。良い練習になったと思うし、皆もやってみる? そんな気負わない気負わない」
イヴの明るい励ましに、子どもたちは一人ずつ資材を持って広げ始めた。
「お兄ちゃん、こっち手伝って!」
「お姉ちゃんはこっち!」
すっかり工作の先生である。二人は笑顔を見せながらそれに応じた。
●女子力とは物理と見付けたり
「よく来たねぇ、あんたたち。おばちゃん一人じゃ正直キツいと思っててね。よろしくねぇ」
「こちらこそよろしくお願いするわ。プロの技術を盗める機会なんてそうそうないもの」
と、ウィンクするのはマリィアだ。
「うむ。料理の勉強になれば良いと思ってな」
レイアも神妙な顔で頷く。ひりょは一緒に来た二人のハンターの言葉に、うんうん、と頷く。
「二人もやっぱりそうか……俺も技術が少しでも向上すればと思ってな」
「あらやだよぅ、いくらプロって言ったって、お貴族様のお屋敷に務めるようなのとは訳が違うんだから。味がわかって食ってるのかわからないマッチョばっかだよ。今日は可愛い男の子とべっぴんさんたちが来てくれたからあたしも目の保養だね」
「あら、お上手。精一杯お手伝いさせて頂くわ」
「か、かわいい……」
「べっぴん……」
割とぐいぐいなおばちゃんだ。ひりょとレイアは目をしぱしぱとさせる。マリィアは持参品の中からクッキーの型抜きを持ち出した。星の形をしている。
「ニンジンなんか、これで型抜きしたら可愛いんじゃないかしら?」
「ああ、良いんじゃないか。クリスマスらしくて良いと思う」
「これが女子力か」
「そうだよ。これが女子力だよ。でも生のニンジンは割と固いからね。女子力とはすなわち腕力だよ。ホームパーティをするなら人数分の料理をした鍋を持ち上げる腕力がいるんだよ」
おばちゃんが我が意を得たりと言わんばかりに答えると、
「得意分野だ、任せてくれ」
頷くレイア。
「そ、それで良いのかレイア……」
「できることがあった方が料理は楽しいのよ」
マリィアが肩を竦める。
「マリィアは得意なのか?」
「うちの部隊もお祭り好きだったから自分達で料理してパーティはがんがんやってたわ。そう言うあなたは? 苦手意識は見えないけど」
今度はマリィアが尋ねると、ひりょは穏やかに微笑んで、頷いた。
「鳳凰院家の食事は俺が準備している」
「あら、育ちが良いとは思っていたけど、そう言うところも教えられていたのね」
「いや」
ひりょは首を横に振った。
「必要に駆られ、やり始めて備わったものだ」
「……そう」
その声音から、何かを察したマリィアはうんうん、と頷いた。
「辛かったわね」
「よくわからんが、ひりょとマリィア、それにおばちゃんは料理が得意なんだな。い、いや、私もできないわけではない。できないわけではないんだが……!」
「良いんだよ。こういうのは、とにかく皆で囲んで食べると八割増しくらいで美味しいんだから。とりあえずまずくないもの作れれば良いんだよ。最後はシチュエーションがものを言うんだから」
「そ、それで良いのかおばちゃん……」
「と言うことでまず野菜を切るところから始めようか」
「ああ。では人参はマリィアに任せて……俺はキャベツを切ろう」
「私は何をしたら良いだろうか!」
レイアが己の存在を主張する。
「そうだね。あんたはとりあえずトマトに十字の切り込みを入れて」
「十文字斬りと言うことだろうか?」
「分割はしちゃだめよ。湯むきするから」
「うむ……」
レイアはトマトをひっくり返すと、そっと包丁を入れた。
●同盟を飾る
「ご主人様」
フィロが再びロメオに声を掛ける。
「はい、どうしましたかフィロさん」
「こちらに用意していただいたリボンですが、ラッピング以外に使用してもよろしいでしょうか?」
「ええ、多めに用意していますから、余れば構いませんよ」
「ありがとうございます」
彼女はまた丁寧に頭を下げる。彼女は資材を積んである作業台に歩いて行った。
「俺たち、どちらかと言うとスープだけ飲みに来たんだけど」
と、年齢の割に世間擦れしたような少年が、リボンを弄びながら言い放つのに、ジャック・エルギン(ka1522)は肩を竦めて見せた。
「あんまり雑にするんじゃねーぜ。良いか? コイツはな……」
彼はそう言って空を見上げる。今はまだ明るいが、夜になれば月は二つ見える。リアルブルーから転移してきた月だ。
「あの空の向こう、新しく増えた月に居るリアルブルーの連中にだって届くんだ」
「それで?」
「住んでた場所を離れて、仲間や友達とも離れ離れになっちまったヤツらも居る。そいつらがコレ見て笑顔になると思えば、少しはヤル気も出るってもんだろ?」
「えー?」
疑わしげにリボンを弄ぶ少年の肩を、ジャックはぽんと叩いた。
「それに、もしかしたら可愛い女の子の笑顔かもしれねーしな」
「……ほんとに?」
「かなりの人数が転移してるから、一人くらい好みのかわいこちゃんがいるかもしれねーだろ」
「俺よりあんたの方が乗り気だね。月で好みの子にでも会ったの?」
「そいつは想像に任せる」
ジャックはそう言ってウィンクして見せた。
「ジャックくん、そっちの方面から攻めますかぁ」
ふんふんと頷いて見せるのは星野 ハナ(ka5852)である。
「身につまされますぅ」
「はは。まあ、なんだ、この中にも将来有望株がいるかもしれないぜ?」
「逆光源氏ですぅ? 悪くないですぅ」
冗談とも本気ともつかない調子で返しつつも、ハナは子どもたちに向き直る。優しそうで綺麗なお姉さんは、どちらかと言うと女児に人気である。
「今日はみんなお手伝いありがとうですぅ。お父さんやお母さん、家族や友達にプレゼントするつもりでぇ、頑張って包装していきましょぉ」
「はーい!」
「良いお返事ですぅ。あの金髪のお兄さんが言ってたみたいにぃ、このケーキは月にも届くんですぅ。リアルブルーが大変になっちゃって、月にたくさんの人が避難してるのは知ってるかなぁ?」
「知ってる! 同盟にもお引っ越しした人もいるって」
「そっかぁ。じゃあ、同盟にお引っ越しした人たちが楽しく食べられるように、頑張って包みましょぉ!」
「はーい!」
「よーし、手がいる奴は呼んでくれ。ハサミが使いにくけりゃリボンおさえたりしてやるからな。怪我はすんなよ」
●拗ねる指先
「ええ、とても、お上手だと思います」
「そうかな……」
「はい。プレゼントとは、お店で売っているようなものが全てではありません。あなた様の気持ちがこもり、手作りの楽しさが溢れるこのラッピング、私は好ましいと思います」
フィロは熱を込めてその少女が施したラッピングを褒めた。リボンは縦結びになっているし、ワイヤーは飛び出してしまっている。だが、フィロの言うとおりそれは手作りの楽しさがわかるものであった。
「もう少し、ワイヤーを切りましょう」
彼女はそう言ってニッパーを持ち出した。
「この飛び出しているところに……そう、そうです。お上手です」
余分なワイヤーが切り落とされた。無駄なものが省かれただけで、大分見た目も整って見える。
上手く行っていないのはその子だけではない。鞍馬 真(ka5819)が面倒を見ている子も、蝶結びが上手にできなくて苛々し始めている。
「もうやりたくない」
「うん。上手く行かなければ、そう思うのも仕方ない」
「ほんとにそう思ってるの?」
「私も、上手く行かないことはたくさんあるからね」
「ほんとに?」
「懐疑的だなぁ。クッキー、食べるかい? 甘い物を食べたら落ち着くかもしれないよ」
彼はそう言ってポケットからクッキーを取り出した。
「ね? 私も一緒に頑張るから。君の頑張りに応えよう」
「難しいことは知らないけど……」
少年はぶつくさ言いながらもクッキーを受け取った。真はそれを微笑んで見守る。彼は子どもが好きだ。歪虚に対しては毅然とした態度を取るが、今日の彼は優しいお兄さん、と言った風である。
糖分で少し苛立ちも収まっただろうか。少年はちらりと真を見上げる。
「もう一回やってみるから、手伝って」
「もちろんさ。じゃあ一度ほどこう」
「自分でやる」
「うん」
●怪獣ミアゴンとデラロサの剣
ロメオの一言で休憩と相成った。フィロが所望していたパネトーネも、いくつかに分割されたものを一人分として出される。言ってしまえば試食レベルの大きさだが、本来の用途を考えれば致し方あるまい。
「ハンターの皆さんもどうぞ」
「ありがたく頂くぜ」
ジャックが率先してパネトーネを摘まむ。
「うん。なかなかいけるぜ。食うか?」
「食べるー!」
その様子を見て、比較的素直な子どもたちは食いついた。斜に構えている子どもたちも、一緒に作業していたハンターに付き添われて手を伸ばす。
和気藹々としているところに、不意に全身ピンクの何者かが現れた。
「さあ、チビッ子達! ミアゴンが相手をしてやるニャスよー! かかってこい、がおー!」
猫の着ぐるみに身を包んだミア(ka7035)であった。不安げにしている子どももいると言うことで、身体を動かしたノリのままで行けば逆に上手く行くのではないか、と思ったのである。
「きゃーっ!」
「何それ!」
「出たなミアゴン。よーし、武器がいるやつは持って行け!」
それに楽しげな様子で応じるのは、余った資材やらチラシを細く巻いて棒状にしたものを子どもたちに配るデラロサ(ka7283)である。活発な子どもたちや、さっきまで彼と作業していた子どもたちが、我先にと彼から武器を調達する。
「まとめてひねり潰すニャスよー!」
「かかれー!」
「うおー!」
デラロサの掛け声で、ピンクの猫に子どもたちが群がる。転びそうになった子どもは、デラロサが支えた。
「まあ、慌てるなって。ミアゴンはそんなすぐに倒されないから」
「デラロサおにいさんも一緒に戦ってよ!」
「おう、いくぞ! ミアゴン覚悟ー!」
その様子を見ていたディーナ・フェルミ(ka5843)は、むむ、と考え込んでいた。
「よっぽど人手不足だったのでない限り、手先の器用なやる気のある子を集めたと思うの。それなのに集中してお手伝いできないのは、集中できないくらい何かがあるのかもしれないって思うの。同盟を元気にするケーキなの、お手伝いした子供達だって元気になって帰ってほしいの」
と、エクラ教司祭として使命感に燃えていた彼女は、おおざっぱに子どもたちの経歴を確認していた。確かに、ダウンタウンはどちらかと言うと治安は悪い部類に入るし、昨年春から続き、未だ解決していない嫉妬歪虚の侵攻もある。だが、
「ミネストローネが目当てできました」
「友達が行くって言うから」
「親に行けって言われた」
「ハンターに興味があって」
割と脳天気な理由で来ている子どもたちも多数である。そう、ボランティアとは、自発的な行動を表す言葉である。都市統合本部が指名したわけではない。
とは言うものの、柔らかな雰囲気を持ち、司祭として接するディーナの周りには、どちらかと言うと癒やしや安心を求める子どもたちが集まっているようにも感じられた。
「もしかしたら、何か困ったことがあるのかなって思ったの。手伝えそうなことないかな」
「同盟は大丈夫かなって思って……」
と、話すのは比較的年長の子どもだ。やはり、歪虚侵攻には不安が残っているらしい。
「いつになったら平和に戻るんだろう」
「いつ、とは言えないけど、きっと私たちが頑張って平和を取り戻すの」
ディーナは肩を抱く。
「うん、きっと」
「うえええん、ハナおねえちゃん!」
甘えるようにハナの胴部に抱きついた子どもがいる。ハナは目を丸くしながら、その子の背中をぽんぽんと叩いた。
「どうしたのぉ、疲れちゃったかなぁ」
「疲れちゃったぁ! リボン結ぶとかやったことないもーん」
「そっかぁ。頑張ったねぇ」
よしよしと頭を撫でる。元々甘え上手な子どもなのだろう。ハナに撫でられて嬉しそうだ。
「そういえば、ひりょ君たちは大丈夫かな……?」
真が、出てこない調理組に気付いて呟いた。
「大丈夫じゃないか? ひりょだって料理得意で志願したんだろ?」
応じたのはジャックだ。
「うん、まあそうなんだけど、こう言うときの調理って何かとトラブルが起きやすいものだから」
「ああ、砂糖と塩間違えたりするやつな。まあ、その辺はプロがついてるし大丈夫だろ」
●鍋の中身はなんだろか
「と言うことで、簡単にグラッセしてみたわ。あんまりくどくなってもトマトの味が活かせないから、そんなに濃く味付けはしてないんだけど」
マリィアが言いながら、小さい鍋の中身を他の三人に見せる。バターで少し黄色がかった星形の人参は、より星らしく見せた。おばちゃんはパンを焼いている。
「美味しそうじゃないか。良いね。じゃあそれは最後に入れようか。そっち、どうだい?」
「トマトの形がまだ少し残っているので生き残りを探している」
「レイア、雑魔じゃないんだからそこまで必死になって潰さなくても良いと思うぞ」
玉杓子でホールトマトのなれの果てを探すレイアにひりょが声を掛ける。
「うん、多少形が残ってる方が食べ応えがあるってもの」
「そうね。トマトが好きな子は欲しがるでしょうし、嫌いな子はそもそも来ていないか食べずに帰るでしょう。ちょっと残念ではあるけど」
「だったら、マリィアのグラッセを少しよけておいたらどうだ? ミネストローネーが出ることを知らないで来ているトマト嫌いもいるかもしれないし」
「そうね。それは良いかもしれない。おばちゃん、これ、少し取っておいても良いかしら?」
「良いとも」
「ひりょ君?」
「よー、大丈夫か?」
「鞍馬にジャックか」
ひょっこりと顔を出した真とジャックに、ひりょは目を丸くした。それから、ある可能性に思い至って慌てる。
「も、もしかしてもうラッピングが終わったのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだ。ひりょ君たちが出てこないから、忙しいのかなと思ってね。外は今休憩中で、パネトーネを分けてもらってたんだ。はい、これが皆の分だよ」
そう言って、切り分けられたパネトーネを空いたテーブルの上に置く。
「ああ、ありがとう。そうか、これがパネトーネか。心配してくれてありがとう。こちらは順調だ」
「グラッセか。美味そうだな。誰が作ったんだ?」
「私よ。楽しみにしててちょうだい。パネトーネ、ありがとうね」
「ああ、それは気にしないでくれ。ところで……」
ジャックは鍋を覗き込むレイアを指して尋ねる。
「レイアは何してんだ?」
「生き残りを殲滅している」
レイアはもくもくと玉杓子でトマトを潰しながら答えた。ジャックは目を瞬かせてから、
「玉ねぎ雑魔でも出たのか?」
フィロは一人の少女を膝に乗せて、その髪を編んでいる。リボンを編み込んでちょっとしたおしゃれさんだ。その様子を見ている少年の胸には、リボンを簡単に結んだ勲章の様なものがついており、これもフィロの作だ。ラッピングもある程度が進んで、使う資材の量にも目処が立ったので、余りそうな分だけもらったのである。
「興味がおありですか?」
「うん、妹にもやってあげたいなと思って」
「妹様にも、きっとそのお優しい心が伝わると思います。優しいお兄様なのですね」
「フィロちゃんは器用ニャスなぁ」
子どもたちとひとしきり遊んだミアも、興味深そうにフィロの手元を見る。ふと思いついて、彼女はぐるりと周囲を見渡した。
(忙しいエヴァルドちゃんがいるはずないニャスよな)
同盟が出店するという、パスティチェリア・アレアンザ。そのメンバーの一人に名を連ねているエヴァルド・ブラマンデと、彼女は面識がある。もしかしたら今日のラッピングボランティアにも顔を出しているのではないかと思ったのだが……。
「何かお探しですか?」
ロメオが尋ねる。彼女は目を瞬かせてから、何気なく尋ねた。
「今日、エヴァルドちゃんは来てないニャスか?」
「ああ、エヴァルドさんのお友達でしたか。申し訳ない。彼は本日別件の仕事があるようでして、失礼させて頂いております。ミアさんがお起こしになっていたことは彼にも伝えておきましょう」
ロメオは一礼して去って行った。エヴァルドが来ていないことは、彼女もわかっていた。商工会青年会長の肩書きを持つ彼は多忙を極めている。恐らくヴァリオスの方で仕事があるのだろう。
(彼の笑顔、見たかったニャぁ……ニャんて)
「ミアゴン?」
(一時でもいいから、笑顔にさせてあげたかった。日頃の疲れを拭ってあげたかったニャぁ)
「みーあごん!」
「ニャッ!?」
子どもの一人が腰に抱きついてくる。
「びっくりしたニャス! 不意打ちとは卑怯ニャスよ!」
「やーい恐れ入ったか!」
「がおー! 反撃ニャスー!」
●仕事の後のご褒美
そして、全てのラッピングが終わった。
「皆頑張ったねぇ」
正太郎が子どもたちの頭を撫でる。その中で、一番のラッピング量を誇る少年に、彼は視線を合わせた。
「約束通り、僕の分のご飯をあげるよ」
「太っ腹ー!」
「正太郎さんは私と半分こにしようね」
イヴがウィンクしてみせる。
「やっぱり半分こにするんだ!」
「はいあーんして、ってやつだろ! 知ってる!」
「ふふん。半分こするとそれはそれで美味しいんだから」
「お待ちかねのミネストローネだ! トマトがあまり得意じゃない子には、マリィアのキャロットグラッセがあるぞ!」
大鍋を運びながらひりょが声を張り上げる。その後ろから、レイアがパンを、マリィアが取り分けたグラッセの皿を持ってくる。
「ほら、早く食べたいのはわかるけど、あんまり近寄ると火傷するからな」
デラロサが逸る子どもの肩をそっと抑えた。
「さあ、あんたたち、並ぶんだよ! ルールを守らない子にはここの規則も守られないからね!」
おばちゃんが合図すると、子どもたちは揃って、
「はーい!」
と良いお返事をする。子どもたちは、ラッピング中に親しくなったハンターの元へわらわらと向かって行く。
「ジャックも並ぼう! お腹空いてるよね」
「ああ、行く行く。誘ってくれてありがとな」
「ディーナおねえさんも、一緒に食べるでしょう?」
「うん。食べるの。お相伴させてもらうの」
「ハナお姉ちゃん! お腹空いた!」
「一緒に並びましょうねぇ」
「真おにいちゃんも私たちと来て」
「うん、もちろん。楽しみだね。さっき覗いたけど美味しそうだったよ」
ミネストローネの鍋に列ができる。
「フィロさんは? 食べるの? オートマトンって……お食事はできるの?」
「はい。食事は可能です。皆さんと一緒に食事を囲めるのはとても嬉しいです。一緒に頂きに参りましょう」
「ミアゴン、先に並ばせてあげるからあたしたちのことは食べないでー!」
「ミアゴンは優しいから先に並んで良いニャス」
寒空の下で、皆で食べるミネストローネは、料理の味以上のおいしさを感じさせるものである。
「美味しい!」
「そうか、それは良かった。私もトマトを潰した甲斐があったと言うものだ」
子どもたちと、一緒にスープを飲みながら、レイアがしみじみと言う。
「そんなに気になるなら、裏ごししてもらえば良かったわね」
千切ったパンを浸しながらマリィアが言った。
「裏ごしか。その手があったな」
ひりょが片目をつぶりながら応じる。
「う、裏ごし……? いや、しかし本来ならそこまで潰さなくても良いのだろう? 玉杓子で潰すのもなかなか楽しかった」
「うんうん、楽しそうだったねぇ。ミネストローネはこれでばっちりだろレイアちゃん」
おばちゃんもスープをぐびぐび飲みながら頷いた。
「ばっちりだろうか……」
「はい、正太郎さん半分こ」
「ありがとうございます、イヴさん」
ミネストローネとパンを分け合いながら、正太郎とイヴは楽しそうに額をくっつけて笑い合う。一部の子どもたちが羨望の眼差しでその様を見ていた。
「この後、買い物でもして帰りましょうか」
「そうだね。久しぶりのデートだし、ちょっと歩きたいよね」
「良いなぁ」
一人の少年がそれを見て羨ましそうに言う。
「お、何だ、坊主、気になる女の子でもいるのか?」
パンを千切りながらジャックがにまにまして問いかける。
「そ、そーゆーんじゃなくてさ!」
「恋バナニャスか?」
着ぐるみを脱いだミアがスープカップを持って寄って来る。ミアゴンの中身が、猫耳カチューシャの美女であったことに、子どもたちはどよめいた。
ベンチには、ややお疲れ気味の子どもたちが、ディーナとハナを囲んで座っている。
「温かくて美味しいの」
「五臓六腑に染み渡りますぅ」
「ごぞーろっぷってなぁに?」
「全身のことだよぉ」
「そうだ、皆にお土産があるわ」
マリィアがそう言って自分の荷物の中からポマンダーを取りだした。スパイスの香りが広がる。
「わ、良い匂い!」
「お疲れさま、今日はありがとう。これは私の国の聖輝節の飾りなの。良かったらおうちで飾ってちょうだい」
人数分用意されている。子どもたちは、スープに並んだように、きちんと列を作ってマリィアからポマンダーを受け取った。
「見て真くん。もらっちゃった」
「ああ、良かったね。大事にすると良いよ。今日の思い出にね」
温かいスープと子どもたちの笑顔が染みる。真は笑顔を更に深めた。今日は話す機会のなかった、知人のイヴがこちらに手を振ってくれたので、振り返す。
「デラロサおにーちゃん見てください。ポマンダーと言うものをもらいました」
「お、良いものもらったじゃねぇか。頑張った甲斐があったな!」
そう言ってデラロサは自分にポマンダーを見せに来た子どもたちの頭をわしゃわしゃと撫でた。気さくな彼は、話す間に子どもたちの心を掴んでいたようである。すっかり打ち解けた様子で、子どもたちに囲まれていた。
「ご褒美ですね、皆様」
フィロも、ミネストローネやポマンダーを喜ぶ子どもたちに、優しい視線を向ける。
「ええ、本当に、寒い中頑張りました。風邪などお召しになりませんように」
●温かいものを持って行って
こうして、同盟のミニパネトーネのラッピングは無事に済んだ。これがケーキバトルロイヤルに出品され、クリムゾンウェストで、崑崙で配られる。
「ありがとうございました!」
最後もロメオの挨拶で締めくくられた。
「正直なところを申し上げますと、割と思いつきで参加したところがありまして。ただ、これで少しでもポルトワールが、同盟が元気になれば良いと言う気持ちに偽りはありません。本日頂いた皆さんからのご協力には、本当に感謝の一言に尽きます。よろしければ、ケーキバトルロイヤル期間に手に取るだけでもしていただければ、子どもたちも報われると思います。もちろん私やセストさん、エヴァルドさんも。今後とも、ポルトワールを、同盟をよろしくお願いします」
ハンターたちも帰路につく。人の待つところ、ペットの待つところ、あるいはいつも通りの自分の部屋が待つところ。
少しだけ、暖かな気持ちになりながら。
依頼結果
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皆でボランティア!(相談卓) ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/12/11 15:38:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/11 14:20:59 |