ゲスト
(ka0000)
【CF】皆で鍋をつつこうじゃないか
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/12/16 19:00
- 完成日
- 2018/12/24 02:22
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●リゼリオ
年の終わりが迫る季節。
カチャが最近購入した新居は一階部分が店舗になっている。
その店舗部分はグリーク商会が借り受けている。
現在そこでは、改装工事が行われていた。ポルトワールから直々に出張してきた次期会長のニケ・グリークが陣頭指揮を執っている。
「棚と棚の間をもう少し広げて。ああ、そこにも照明をつけてください。死角が出来ないようにね」
カチャはといえば、その内装工事を手伝っていた。
ちょうど依頼を受けていなかったこともあったが、新しく何かを始める手伝いをするというのが楽しく思えたので。
床が張り直され、くすんだ壁紙も貼り直される。全体に装飾は控えめ。色は、アイボリーがかった白に統一されている。
そこに突如、異彩を放つ人物がやってきた。
赤い鬣の巨大な熊を軽々担いだ、背の高い女。
カチャより少し肌の色が濃くて、瞳も髪も黒い。
彼女は我が家にでも入るような所作で、工事中の店舗に入ってきた。棚の据え置き作業を手伝っているカチャに呼びかけた。
「ちょっとあなた、何なのこれは。家を買っただけじゃなかったの?」
その声を聞くなりカチャは振り向いた。背筋をぴんとしゃっちょこ張らせ、手を放した。
「お、お母さん――」
片方の支えを失った棚がカチャの足の甲目がけ落下する。
「――んぎゃー!」
カチャはうずくまって床を叩く。
ハンターは普通の人間よりはるかに頑丈に出来ている。並大抵のことでは死なない。しかしだからといって、痛覚がないわけではない。
奥で陣頭指揮を執っていたニケが、彼女の声を聞き付けて出てきた。
「カチャさん、その方はお知り合いですか?」
「……私の母です……」
「ああ、なるほど。そういえば似ておられますね」
「……似てます?」
「ええ、そこそこ」
●自由都市同盟内、山間の町
ユニゾンの保養所が――予定より少し遅れたが、ついに開設した。
それを受けて英霊マゴイはコボルド・ワーカーたちに、念願の長期休暇を取らせることにした。
『……さて……これからあなたたちは長期休暇を取るわけだけど……その前に……ユニオン市民の合言葉を確認しましょう……』
と言って彼女は歌いだす。コボルドたちもそれに続く。皆で合唱。
ゆにおんしみんのあいことば
きょうもなかよしごあいさつ
あさはおはようございます
おひるにあったらこんにちは
よるにあったらこんばんは
ねむるまえにはおやすみなさい
『……良く出来ました……それでは……楽しんでらっしゃい……何かあったらウォッチャーに連絡すること……島との行き来は……来たときと同じように……扉を使うこと……』
千切れんばかり尻尾を振ったコボルドたちは、宿泊所へ駆けていった。
それを見送るマゴイは、幼子を無事幼稚園に送り出した母親のような面持ちであった。本人はそういう例えを心底嫌がるだろうが。
『……やっとワーカーが……長期休暇を……』
感無量に呟いた後彼女は、傍らに首を回した。そこには憮然とした面持ちのナルシスがいる。
高そうな防寒着に身を包んだ彼は、マフラーを口元まで引き上げ言った。
「で、僕は何すればいいの」
『……あなたには……二カ月の間……この保養所で……外部案内所の受付係をしてもらいたい……週休二日6時間……詳細はこれに……』
分厚いマニュアルを渡されたナルシスは、あーあと嘆息した。
「二カ月も働くとか、ほんと最悪」
『……働くことはいいこと……全ての労働は全ての幸福に通じる……ユニオン、ユニオン、いいところ みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪』
「いや、歌わなくていいよお姉さん。それ聞いてるとなんか洗脳されそうだし」
●再びリゼリオ
「――というわけで、この店は私のものです。カチャさんは、私に場所を提供しているだけでして」
ニケの説明を聞いたケチャは、眉を開いた。
「ああ、そういうこと。それならよかったわ。カチャが商売でも始めた日には、絶対うまくいくはずないからね――あなたも近況について、逐一ちゃんと報告してきなさい。驚くじゃないの」
「いや、もうちょっとあれこれ落ち着いてから連絡をと思って――というかお母さんも来るときは逐一事前報告する必要がっ」
カチャは喋っている途中で額を弾かれる。
乾いた小気味よい音がした。額を押さえた指の間から煙が噴き出してくる。
「親が子を訪ねるのにどうしていちいち連絡がいるの。はい、これ。新居祝い。狩りたてよ」
「あ、ありがとう――でも、狩りたてはいいけど、一匹まるごと尾頭付きはちょっと、多すぎ……」
「ご近所におすそ分けするのに丁度いいでしょう」
「ここのご近所の人、こんなもの食べないから!」
辺境と自由都市同盟のカルチャーギャップが語られている最中、一人の少年と一人の少女が店内に入ってくる。
「ここ……でいいのか? 何か店みたいなんだけど」
「いいんじゃないの。ほら、いるじゃない。あの時の人」
カチャは顔を上げる。
そこにいたのは、今年の秋郷祭で知り合った強化人間たちだった。
「あれ、ジグさんに――アスカさん?」
ケチャが彼女に聞く。
「カチャ、あなたの知り合い?」
「はい。お二人ともリアルブルーから来られた、強化人間という人たちで」
カチャが説明をしたところ、ジグが訂正を加える。やや照れ臭そうに。
「いや、違う。『元』強化人間だ、俺たち」
どうやら無事ハンター登録を終えたらしい。
カチャは彼ら自身のために、そのことを言祝いだ。
「あ、そうなんですか。おめでとうございます」
カチャはジグたちのため、何かお祝いした方がいいのではないかと考えた。
聞けば今年の聖輝節、ケーキの売上を競うイベントが各地で盛大に催されたそうである。ちょうどこんなにたくさんの熊肉が手に入ったことだし、どこかで座敷を借りて鍋イベントをしてみてはどうだろう。
毎年この時期には飲み会しているわけだし、それと絡めて。
というわけで数日後。
東方式焼肉屋『黄金の味』。
二階座敷では鍋パーティーが開かれていた。
「アレックスさん、ジュアンさんとの新居はもう決まりましたか?」
「おー。あいつ手回しいいからな。しかしなんだな、今年で独身も最後かと思うと、一抹の寂しさがあるなー」
「まーたそんなこと言って。浮気はもう止めといてくださいよ。今度こそジュアンさんから蜂の巣にされますからね」
グツグツ煮える大鍋を前に、カチャとアレックスが飲み交わす。
「にく、にくにく、にーくぅ」
コボルドコボちゃんはチャンチキ小皿を叩いて拍子取り。
アスカはそのコボちゃんの小皿に、煮えた肉を入れてやる。
ジグはニケと話をしている。ウーロン茶を飲みながら。
「へー、あんたんとこユニゾン島と取引があるのか?」
「ええ。愚弟も貸し出してましてね。今寄生宅からあそこの保養所へ通勤中です」
リプレイ本文
●鍋パーティーの下準備
ベレン学院は冬休みに入った。この時期は学生たちは窮屈な寮を離れ実家に里帰りする。
だがマルコ・ニッティはそういうわけにいかない。孤児の彼には、帰るべき家がないのだ。静まり返った寮で、一人勉学に勤しむばかり。
そんな彼の元へ天竜寺 詩(ka0396)がやってきた。ユキウサギの雪那と共に。
「久しぶりだねマルコくん」
彼女は挨拶もそこそこに、本題を切り出した。
「知り合いが近々鍋パーティーをやるんだけど、参加してみない? 勉強ばかりじゃ息が詰まるし、息抜きも必要でしょ?」
急な話だったので、マルコは面食う。しかし結局は説得に応じた。それには、以下の理由が大きく作用していたのかもしれない。
「ここだけの話、パーティーにはニケさんも来るんだ。お酒の席だしもしかしたら――何か弱点が掴めるかもよ?」
リゼリオ、カチャ宅。
エルバッハ・リオン(ka2434)は魔導トラック・スチールブルから降り、迎えに出たカチャに挨拶した。
「お久しぶりですカチャさん――」
と言いかけ小鼻をひくつかせる。
「……呑んでます?」
カチャがばつ悪そうに、口を手で覆う。
「分かります? 鍋パーティーするって決まってからこっち、リナリスさんのカクテル修行に付き合わされっぱなしでして」
噂をすれば何とやら、当のリナリス・リーカノア(ka5126)が二階の窓から顔を出す。
「エルさんこんにちは、お久しぶりだね♪」
「お久しぶりですリナリスさん。今カチャさんから聞きましたが、カクテル作りをなされているとか」
「うん。せっかくだから楽しいパーティにしたいと思ってさ。ところでエルさん、そのトラックに積んである果物とか野菜、何?」
「これは故郷で貰ったお土産です。おすそ分けしようと思いまして」
パーティー予算を浮かせてくれるこの申し出を、カチャもリナリスも喜んで受けた。
そこに人影が近づいてくる。
辞典のように分厚い本を2冊抱えたフィロ(ka6966)だ。メイド服の上から襷をかけ、額には『必勝』の鉢巻き。
「カチャ様、お願いの儀がございます!」
「おおう! な、なんだフィロさんですか。何事ですか」
「はい、風の噂に聞いたのですが、なんでも鍋パーティが催されるとか。どうかぜひとも私めに、パーティー遂行のお手伝いをさせていただけませんでしょうか?」
リナリスはフィロが持っている本のタイトルをチラ見した。
『奥深き女中道・中級編』『初心者でも失敗しない簡単?鍋料理』――両者、発行元は同じ『民☆明書房』である。
「SUKIYAKI、FUGUTIRIなる鍋料理では、女中が全てを取り仕切ってお客様に1皿目をお出しするところまでが女中道(メイド・ウェイ)の本懐であると伺いました。しかも鍋料理には鍋奉行と言う差配者が必須とも。これは是非とも実地体験して私のメイドスキルを向上させねばなりません」
改装中の一階店舗から、ルベーノ・バルバライン(ka6752)とニケの話声が聞こえてくる。
「――というわけで、今通いのバイトをしてるんです、ナルシスは」
「なにっ、ここからユニゾンまで通勤できるようになったのか!」
「いえ、違います。『ジェオルジから保養所まで通勤出来るようになった』です。ユニゾン本島へ行くには、保養所に設置されている別の扉を通らなければいけないようですよ」
「うむ、それではユニゾンのコボルドやμも呼ばねばなるまい。ちょっと行ってくるぞ」
●鍋パーティーが始まるよ
サクラ・エルフリード(ka2598)は頭上のユグディラ、ヤエに話しかける。
「こういう事でもないとなかなか食べませんし、今日はしっかりお肉を堪能しましょう……」
ヤエは返事をする代わりに、彼女の顔の前へ垂らした尻尾を振った。
隣を歩いているツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は白い息を零し、賑わう町並みを眺める。
「鍋をつついての宴会……は滅多にない経験なのですが、これだけ平和な日常を過ごすのは何時以来なんでしょうね」
「今年一年は、歴史にないほどバタバタした年でしたものね」
などと世間話をしていたところ、背後からざわつきが聞こえてきた。
肩越しに振り向いてみれば、イェジド・コシチェイに乗ったマルカ・アニチキン(ka2542)。薬酒「夜長」を入れた紙袋を持ち、特注物であるオフホワイトのセーター――左の胸元に、左眼が緑色になったドクロがワンポイントとしてついている――を着込んだ、よそ行きのいで立ち。
聞けば、自分たち同様鍋パーティーに参加とのことだった。酒はカチャに贈るのだとか。
そこから3者揃って『黄金の味』へ来てみれば、真紅のセクシーなカクテルドレスに大人っぽいメイクをキメたリナリスが、ジグとアスカを出迎えているところだった。
「女主人風にしてみたの。どうお? 悩殺されちゃう?」
と聞かれた2人はリアルブルーの社会通念に照らし、結構本気で心配した。
「悩殺ってか、法的にアウトな感じしかしねえ……」
「……誰かに命令されてそういうの着せられてるんじゃないのよね?」
その反応、リナリスとしてはちょっと残念。
(……身長143cmだと無理がある?)
などと敗因について頭を巡らせつつ、両手を広げる。
「とにかく、2人とも来てくれて嬉しいよ♪」
ジグとアスカに熱烈なハグ。
その後サクラたちにもハグを贈る。
『黄金の味』厨房の一角を陣取ったフィロは2冊の本を手元に正確無比な包丁捌きで、熊肉のみならず魚も野菜も型を揃えて切り分けて行く。手伝いのリオンとカチャを指揮しながら。
端切れ野菜もちゃんと取っておき、肉の臭み取り等に利用。ジビエは家畜肉と違いあくが強いので、下準備は欠かせない。
「出汁は昆布、煮るのは固い茎野菜から、肉は別鍋にて下茹でし匂い移りを防ぐ……確かに正論ですね」
「うべーの!」「るべえの!」「きたきた!」
ジェオルから保養所にやって来たルベーノは、自分を取り巻くコボルドたちに聞く。
「ユニゾンへの扉はどこだ?」
コボルドたちは彼を、敷地の一角にある転移扉の所へ連れて行った。
ルベーノは早速通ろうとした。しかし、出来なかった。一歩踏み込んだ途端元の場所に出てくる――セキュリティ的なものが働いているようだ。
それを見ていたコボルドが数匹、扉をくぐって行った。それからしばらくして戻ってくる。マゴイを連れて。
彼女は言った。
『……あなたは……ユニオンの理解者なので……特例その1が適用されるケースとして……通ってもよろしい……と思われる……』
かくしてルベーノは、一瞬で山奥から南の島へ渡る。
まずはカリカリ大袋と白いガラス製の卓上ツリーをマゴイに贈呈。
「これは聖輝節用の飾りだ。お前も飾っておくといい。賞味期限は問題ない、コボルド達への土産は預かっておいてくれ」
『……ありがとう……白くてとてもよい飾り……』
「ところでコボルド達が休暇だとお前1人になってしまうのではないか? 他の市民はどうした」
『……新規ワーカーはまだ長期休暇が来てないので……そのまま島にいる……私1人ではない……』
「そうか。ならいいが……それはそれとして今俺が通ってきた扉についてなんだが……あれは相応の防御設備を持たんと歪虚に奪われかねんのではないかと心配になってな」
『……セキュリティをかけているから……大丈夫……現にあなたも入れなかったはず……』
「まあ相手が人間ならそれだけでもよかろうが、それ以外の者が来る可能性もあるからな」
『……どういうこと……?』
「元憤怒王や黙示騎士が移動手段を求めているらしいと聞いたのだ。昔の遺跡にあった機械は、電力と聖のマテリアルの両方を使用しないと扉が作動しないようになっていた。イクシードを基にした力だけではここも攻略されてしまうかもしれん。他の方法を組み合わせるのは今からでは難しいか」
マゴイはちょっと動揺した。『……それはたいへん危険……』と呟いて考え込む。
彼女が一人会議を始める前にルベーノは、自分がここに来たそもそもの目的を思い出す。
「そうだ、カチャがパーティをすると言っていた。お前もどうだ。ジグやアスカも来ると聞いたぞ。新市民なのだろう?」
●食って飲んで食って
「結――結婚するんですか?」
「はい、その予定でして」
長く会っていなかったカチャに、いい機会だと近況を聞いてみた途端、これである。
(もとよりおっちょこちょいとも、危なっかしい部分があるとも感じていましたが……)
ツィスカは半ば呆れ半ば感心しつつ、カチャに言う。
「また随分思い切ったことをしましたね」
カチャがえへへと笑う。卓上簡易コンロに火を入れながら。
「なんていうか、成り行き任せで」
コシチェイはコボちゃんを小馬鹿にした目で眺め、ヒッヒッヒというやや不気味な笑い声を上げる。コボちゃんを、ただのチンケなコボルドだと思っていたので。
しかしコボちゃんは座敷に入ってきたサクラに、こう言った。
「おひさわし」
「コボちゃんはお久しぶりです……。変わらず元気なようで何より……」
こいつ人間語が喋れるのかとやや動揺するコシチェイ。
アレックスとマルカがコボに話しかける。
「よー、コボ。お前今年の夏、あの一戸建また建て直したらしいな」
「お勤め先のジェオルジ支局、年末はいつからお休みになるんです?」
こいつ一戸建て持っているのか。しかも勤め先も持っているのか。
内心激しく動揺するコシチェイは、雪那に飛び乗られても気づかない。
フィロとリオンが肉の盛られた大皿を運んでくる。後、口直しの野菜と果物も――そのほとんどはエルフハイム産だ。
「日本でも熊肉のお料理あるけど、私はまだ食べた事ないんだよ」
期待に胸を膨らませつつ詩は、マルコの様子を確認した――特にニケと話そうとはしていない。
(相変わらず印象は悪いのかな。でも恋愛漫画だと最初は悪印象が一発逆転でラブラブはよくあるし)
ここは自分がきっかけを作らねばと勢い込んだ詩は、積極的に絡んでいく。
「お姉ちゃんに聞いたけど、マルコ君こないだは大変だったんだって? でも直ぐにハンターを呼んだりして現場を維持したり対応も冷静で的確だし、しっかり現実的な対処ができてるよね♪ その後ルイ君とはどう?」
マルコは、やたらさわやかな笑顔で言った。
「ご心配なく。彼とは仲良くしてますよ? あれからとても相互理解が進みまして」
そんなこんなやっている間に鍋が煮えてきた。食欲をそそる味噌の香りが座敷に満ち始める。
サクラは頭上のヤエが生唾を飲みこむ音を聞いた。
「ヤエ、鍋は流石に頭の上だと私が火傷するので降りて食べてくださいね……」
促しに応じ、渋々ヤエが降りてくる。
フィロは鍋に付きっきり。獲物を見据える鷹のような目を注いでいる。
「0円笑顔はお皿を渡す時に必須……つまり、煮込む時は真剣な顔で真摯に接する方が」
「なあ、もう煮えてるんじゃねえ?」
手を出そうとしたアレックスの箸を菜箸で掴み阻止。
「お待ちくださいっ!」
取って付けた様な笑みを浮かべ、自分が良しと判断したものからさっさと小皿に盛って行く。
「こちらの肉と野菜の方が良く煮えて食べ頃ですっ……」
リナリスは自分が持ち込んで来た酒類、ジュース、種々のフレーバーを前に、シェーカーを振る。
「さあさあ、皆どんどん注文して。歓迎するって約束だし♪ ジグ君とアスカちゃんもどうぞ♪ マルコ君もね♪」
「俺たちは成人してないぞ?」
「大丈夫、クリムゾンウェストでは成人年齢色々だから。成人してるって自分で思えば飲んで平気♪ 甘いのはどうかな? カルーアミルクにブルーハワイ、サングリアも用意してきたよ♪」
コボちゃんが急にぴっと耳を上げた。
急いで座敷の扉を開けに行く。
すると、たくさんのコボルドたちが押し合いへし合い転がり込んで来た。
「こぼ!」「めりくり!」「こぼ!」
コボちゃんが仲間からの信頼も厚いことを知り、ますます顔を歪めるコシチェイ。
続けてルベーノが入ってきた。
「遅くなってすまんな」
そしてマゴイも。彼女はジグとアスカの姿を見かけるや近づいてきて、断りを入れた。
『……非常に悪いのだけれど……保養所の扉はセキュリティ強化工事のため……年末年始にかけ市民以外の往来を全面停止する……その間ユニゾンへの往来は市民候補者であっても……船便のみに限られる…………そこのあたりご理解よろしく……』
その後空間を操作し、座敷を一時的に大幅拡張した。コボルドたちの席を作るため。
●宴もたけなわ
年令が近いゆえかマルコ、ジグ、アスカの3者は、お互いすぐに馴染んでいる。
「リアルブルーでは、子供は皆学校に行くんですか?」
「ああ。少なくとも先進国では、そうするよう法によって定められてるな」
「守られてるとは限らないけどね」
サクラは猫舌な相棒のため、取った肉をフーフしてあげている。
「……そういえば猫舌でしたね、鍋に来たのに。……ある程度まで冷ましてあげますよ……」
相棒は肉中心に、自分は野菜もバランスよく、もりもりと食べる。
その傍らでリオンとカチャが話しこむ。
「依頼で色仕掛けを使っていたのが隠居中のお爺様の耳に入ったようでして」
「エルさんの部落では、そういうの問題にならないんじゃなかったでしたっけ?」
「ええ、純粋に依頼遂行のためなら――ですけど、面白がってやっていたことにもジジエル気づいたらしくて」
「なんですジジエルって」
「おじいさまの愛称です。うちでは長子の名前は皆『エルバッハ』。紛らわしくてしょうがないですから、愛称で呼んでるんです。『お前のように面白半分でやっていれば他の人の迷惑にしかならないだろう。今すぐハンターを止めてしまえ』と言われたのには、さすがに腹が立ちました。覚醒して叩きのめしてやろうかと」
「ジジエル死にますよ」
「大丈夫、ジジエルも一応覚醒者です。でも、実際にジジエルを叩きのめしたのはパパエルと母なんですよね。多少の問題はあっても頑張っている娘に対して何事だーっ、て。翌日ジジエル、包帯まみれになって失言を謝罪してきました」
彼女らの雑談に耳を傾けていたツィスカが、リナリスに話しかける。
「結婚の後も、2人ハンターを続けるんですか?」
「うん。でも、ニケさんの店舗に飲食店併設しようかなーとか、後々ハンター引退したらそういう道もありかなーと思わなくもないんだよね。カクテル修業もその一環……なんてね♪ 昼間喫茶店で夜はバー。大人になって色っぽさ500%アップのあたしとカチャが主人でー、小さくて可愛い子をいっぱい雇っ」
リナリスが言葉を切った。カチャからお尻をつねられたのだ。
「公私混同は駄目ですからね」
「う、浮気はしないよっ」
鍋管理人としてフィロは、たゆみなく働き続けている。
「あなたも食べませんか?」
とツィスカが誘っても、丁重に辞退。
「貴重なメイド・ウェイの実践機会ですので、こちらのことはお気になさらず。ほら、こちらの魚も食べ頃です」と小皿に盛り付け。
今日の彼女は自分が食べるより皆を腹一杯にする方を優先しているのだ。
マゴイはそんなフィロを多少不審そうに眺めていたが、特に文句は言わなかった。
マルカは自分のパルムがカチャのパルムとイクシードでボール遊びしているのを看過しつ、ジグたちの会話に参加する。
話題は魔法だ。
仮にどんなものがあったら便利と思うかという質問にジグは、こう答えた。
「うーん……変身の術?」
アスカも言う。
「私も同じかな」
そこで詩がふと、2人に聞いた。
「所でアスカちゃんとジグ君って出身は何処?」
「アメリカ」
「俺も」
「へえー、私のママもアメリカ人なんだよ。まぁ物心つく前に死んじゃって、アメリカに住んでた頃の事は覚えてないんだけど」
簡単な身の上話をした後彼女は、ぱんと手と叩く。
「そうだ、二人がハンターになった事をお祝いして歌を歌わせてもらうね。ちょっと待ってて」
ところでニケはほとんど喋らなくなってしまっていた。テーブルに肘を着き、眉間を揉むように指を当てている。
マルコがそれに気づき、尋ねた。
「どうかされたんですか?」
「ちょっと頭痛がね。私は酒が体質に合わないんですよ。特に嫌いなわけではないんですけど」
マルコは席を外れた。リナリスに頼んでトマトジュースを作ってもらい、ニケに渡す。
「どうぞ」
「気が利きますね。詩さんがさっき言っていましたが、学院で学ぶところが何かありましたか」
「多少は」
そこへ芸妓姿の詩が戻ってきた。顔に薄く白粉を塗り、紅を差している。
三味線を弾き弾き長唄を披露。雪那がそれに併せて跳びはね、くるくる踊る。
サクラはゆらりと立ち上がり、リュートを取り出す。
「む、ただ食べてるだけというのも悪いでしょうか……。せっかくなので私達も何かしたほうがいいですかね……」
長唄が終わった。
皆から拍手が起きる。
おもむろにサクラが演奏を始める。
「ヤエと来てますし一曲くらいはやりましょうか……。楽しい雰囲気にあった楽しい曲を何か……。ヤエの踊りつきで……」
ヤエも尻尾をくねくねさせ楽しそうに踊りながら、バイオリンを弾く。人とユニットの合奏だ。
終わった後は、また皆からの拍手。
それを受けたヤエとサクラは、照れくさそうに自分の席へ引っ込んで行く。
コシチェイは一切を無視し熊のお頭焼きをかじっていた。声には出さないがこう言いながら。
<ワシは満足じゃー!>
フィロが皆に呼びかける。
「最後の〆はごはん・うどんから選べますがいかがなさいますか。希望が分かれた場合は鍋を分けて作りますので、両方ともお楽しみいただけますよ」
詩はアスカに言う。ほかの女性参加者にも。
「良かったら、〆の後で着物着てみる? 記念写真を撮れるけど。男性は歌舞伎メイクもできるよ♪」
酔った勢いがあったのだろう。この詩の申し出に、鍋係のフィロ、酔いを醒ますのに忙しいニケ、実体の無いマゴイを除いた女性陣全員――リオン、マルカ、サクラ、リナリス、ツィスカ、カチャ、アスカが乗った。
男性陣――ルベーノ、ジグ、マルコ、アレックスも彼女らと同様の理由から、歌舞伎メイクを体験してみたりした。
詩は1名1名記念写真を撮り、それぞれ本人に渡した。リナリスとマルカもまた、それとは別個に記念写真を撮った。
●お開き
パーティーも終わった。参加者は別れの挨拶をして帰って行く。ユニットも一緒に。
詩はマルコを学院まで送るとした。何と言ってもまだ学生なので。彼とは何かと縁があるフィロも、それに同行した。
賑わい絶えぬ夜の街を行きながら、詩は、マルコに聞く。
「少しは息抜きになったかな?」
マルコは少し考え頷いた。マルカから貰ったスーパーCAM消しゴムを手の中で弄びながら。
続いて彼女は雪那に聞く。
「雪那も楽しかったかな?」
相棒は間髪入れず、何度も頷いた。
詩の頬が緩む。
「それなら良かったけど。フィロさんは?」
『私も楽しかったです』とフィロは答え、こう付け加える。
「今回の鍋料理で何か掴んだ気がいたします。次は正月パーティですね」
●おまけの贈り物
数日後。
バシリア刑務所にてスペットは鍋パーティーの集合写真を見ていた。
「……皆えらい顔塗ってんなー。仮装パーティーなんかこれ。あ、よう見たらマゴイまでおるやんけ。なにしとんのやあいつ」
「しかし有難いですなあ。わしらにも差し入れをくれるとは」
しみじみ言いながらブルーチャーが両手で広げるのは、防寒インナー。
それはスペットの持っている写真と一緒に、マルカが送ってきたものである。冬の刑務所は寒かろうと。
同日別の場所でジグとアスカもまた、鍋パーティーの写真を見ていた。リナリスがアルバムにまとめ、送ってきたのだ。
「いつの間にこんなに撮ってたんだ?」
「さあね」
ベレン学院は冬休みに入った。この時期は学生たちは窮屈な寮を離れ実家に里帰りする。
だがマルコ・ニッティはそういうわけにいかない。孤児の彼には、帰るべき家がないのだ。静まり返った寮で、一人勉学に勤しむばかり。
そんな彼の元へ天竜寺 詩(ka0396)がやってきた。ユキウサギの雪那と共に。
「久しぶりだねマルコくん」
彼女は挨拶もそこそこに、本題を切り出した。
「知り合いが近々鍋パーティーをやるんだけど、参加してみない? 勉強ばかりじゃ息が詰まるし、息抜きも必要でしょ?」
急な話だったので、マルコは面食う。しかし結局は説得に応じた。それには、以下の理由が大きく作用していたのかもしれない。
「ここだけの話、パーティーにはニケさんも来るんだ。お酒の席だしもしかしたら――何か弱点が掴めるかもよ?」
リゼリオ、カチャ宅。
エルバッハ・リオン(ka2434)は魔導トラック・スチールブルから降り、迎えに出たカチャに挨拶した。
「お久しぶりですカチャさん――」
と言いかけ小鼻をひくつかせる。
「……呑んでます?」
カチャがばつ悪そうに、口を手で覆う。
「分かります? 鍋パーティーするって決まってからこっち、リナリスさんのカクテル修行に付き合わされっぱなしでして」
噂をすれば何とやら、当のリナリス・リーカノア(ka5126)が二階の窓から顔を出す。
「エルさんこんにちは、お久しぶりだね♪」
「お久しぶりですリナリスさん。今カチャさんから聞きましたが、カクテル作りをなされているとか」
「うん。せっかくだから楽しいパーティにしたいと思ってさ。ところでエルさん、そのトラックに積んである果物とか野菜、何?」
「これは故郷で貰ったお土産です。おすそ分けしようと思いまして」
パーティー予算を浮かせてくれるこの申し出を、カチャもリナリスも喜んで受けた。
そこに人影が近づいてくる。
辞典のように分厚い本を2冊抱えたフィロ(ka6966)だ。メイド服の上から襷をかけ、額には『必勝』の鉢巻き。
「カチャ様、お願いの儀がございます!」
「おおう! な、なんだフィロさんですか。何事ですか」
「はい、風の噂に聞いたのですが、なんでも鍋パーティが催されるとか。どうかぜひとも私めに、パーティー遂行のお手伝いをさせていただけませんでしょうか?」
リナリスはフィロが持っている本のタイトルをチラ見した。
『奥深き女中道・中級編』『初心者でも失敗しない簡単?鍋料理』――両者、発行元は同じ『民☆明書房』である。
「SUKIYAKI、FUGUTIRIなる鍋料理では、女中が全てを取り仕切ってお客様に1皿目をお出しするところまでが女中道(メイド・ウェイ)の本懐であると伺いました。しかも鍋料理には鍋奉行と言う差配者が必須とも。これは是非とも実地体験して私のメイドスキルを向上させねばなりません」
改装中の一階店舗から、ルベーノ・バルバライン(ka6752)とニケの話声が聞こえてくる。
「――というわけで、今通いのバイトをしてるんです、ナルシスは」
「なにっ、ここからユニゾンまで通勤できるようになったのか!」
「いえ、違います。『ジェオルジから保養所まで通勤出来るようになった』です。ユニゾン本島へ行くには、保養所に設置されている別の扉を通らなければいけないようですよ」
「うむ、それではユニゾンのコボルドやμも呼ばねばなるまい。ちょっと行ってくるぞ」
●鍋パーティーが始まるよ
サクラ・エルフリード(ka2598)は頭上のユグディラ、ヤエに話しかける。
「こういう事でもないとなかなか食べませんし、今日はしっかりお肉を堪能しましょう……」
ヤエは返事をする代わりに、彼女の顔の前へ垂らした尻尾を振った。
隣を歩いているツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は白い息を零し、賑わう町並みを眺める。
「鍋をつついての宴会……は滅多にない経験なのですが、これだけ平和な日常を過ごすのは何時以来なんでしょうね」
「今年一年は、歴史にないほどバタバタした年でしたものね」
などと世間話をしていたところ、背後からざわつきが聞こえてきた。
肩越しに振り向いてみれば、イェジド・コシチェイに乗ったマルカ・アニチキン(ka2542)。薬酒「夜長」を入れた紙袋を持ち、特注物であるオフホワイトのセーター――左の胸元に、左眼が緑色になったドクロがワンポイントとしてついている――を着込んだ、よそ行きのいで立ち。
聞けば、自分たち同様鍋パーティーに参加とのことだった。酒はカチャに贈るのだとか。
そこから3者揃って『黄金の味』へ来てみれば、真紅のセクシーなカクテルドレスに大人っぽいメイクをキメたリナリスが、ジグとアスカを出迎えているところだった。
「女主人風にしてみたの。どうお? 悩殺されちゃう?」
と聞かれた2人はリアルブルーの社会通念に照らし、結構本気で心配した。
「悩殺ってか、法的にアウトな感じしかしねえ……」
「……誰かに命令されてそういうの着せられてるんじゃないのよね?」
その反応、リナリスとしてはちょっと残念。
(……身長143cmだと無理がある?)
などと敗因について頭を巡らせつつ、両手を広げる。
「とにかく、2人とも来てくれて嬉しいよ♪」
ジグとアスカに熱烈なハグ。
その後サクラたちにもハグを贈る。
『黄金の味』厨房の一角を陣取ったフィロは2冊の本を手元に正確無比な包丁捌きで、熊肉のみならず魚も野菜も型を揃えて切り分けて行く。手伝いのリオンとカチャを指揮しながら。
端切れ野菜もちゃんと取っておき、肉の臭み取り等に利用。ジビエは家畜肉と違いあくが強いので、下準備は欠かせない。
「出汁は昆布、煮るのは固い茎野菜から、肉は別鍋にて下茹でし匂い移りを防ぐ……確かに正論ですね」
「うべーの!」「るべえの!」「きたきた!」
ジェオルから保養所にやって来たルベーノは、自分を取り巻くコボルドたちに聞く。
「ユニゾンへの扉はどこだ?」
コボルドたちは彼を、敷地の一角にある転移扉の所へ連れて行った。
ルベーノは早速通ろうとした。しかし、出来なかった。一歩踏み込んだ途端元の場所に出てくる――セキュリティ的なものが働いているようだ。
それを見ていたコボルドが数匹、扉をくぐって行った。それからしばらくして戻ってくる。マゴイを連れて。
彼女は言った。
『……あなたは……ユニオンの理解者なので……特例その1が適用されるケースとして……通ってもよろしい……と思われる……』
かくしてルベーノは、一瞬で山奥から南の島へ渡る。
まずはカリカリ大袋と白いガラス製の卓上ツリーをマゴイに贈呈。
「これは聖輝節用の飾りだ。お前も飾っておくといい。賞味期限は問題ない、コボルド達への土産は預かっておいてくれ」
『……ありがとう……白くてとてもよい飾り……』
「ところでコボルド達が休暇だとお前1人になってしまうのではないか? 他の市民はどうした」
『……新規ワーカーはまだ長期休暇が来てないので……そのまま島にいる……私1人ではない……』
「そうか。ならいいが……それはそれとして今俺が通ってきた扉についてなんだが……あれは相応の防御設備を持たんと歪虚に奪われかねんのではないかと心配になってな」
『……セキュリティをかけているから……大丈夫……現にあなたも入れなかったはず……』
「まあ相手が人間ならそれだけでもよかろうが、それ以外の者が来る可能性もあるからな」
『……どういうこと……?』
「元憤怒王や黙示騎士が移動手段を求めているらしいと聞いたのだ。昔の遺跡にあった機械は、電力と聖のマテリアルの両方を使用しないと扉が作動しないようになっていた。イクシードを基にした力だけではここも攻略されてしまうかもしれん。他の方法を組み合わせるのは今からでは難しいか」
マゴイはちょっと動揺した。『……それはたいへん危険……』と呟いて考え込む。
彼女が一人会議を始める前にルベーノは、自分がここに来たそもそもの目的を思い出す。
「そうだ、カチャがパーティをすると言っていた。お前もどうだ。ジグやアスカも来ると聞いたぞ。新市民なのだろう?」
●食って飲んで食って
「結――結婚するんですか?」
「はい、その予定でして」
長く会っていなかったカチャに、いい機会だと近況を聞いてみた途端、これである。
(もとよりおっちょこちょいとも、危なっかしい部分があるとも感じていましたが……)
ツィスカは半ば呆れ半ば感心しつつ、カチャに言う。
「また随分思い切ったことをしましたね」
カチャがえへへと笑う。卓上簡易コンロに火を入れながら。
「なんていうか、成り行き任せで」
コシチェイはコボちゃんを小馬鹿にした目で眺め、ヒッヒッヒというやや不気味な笑い声を上げる。コボちゃんを、ただのチンケなコボルドだと思っていたので。
しかしコボちゃんは座敷に入ってきたサクラに、こう言った。
「おひさわし」
「コボちゃんはお久しぶりです……。変わらず元気なようで何より……」
こいつ人間語が喋れるのかとやや動揺するコシチェイ。
アレックスとマルカがコボに話しかける。
「よー、コボ。お前今年の夏、あの一戸建また建て直したらしいな」
「お勤め先のジェオルジ支局、年末はいつからお休みになるんです?」
こいつ一戸建て持っているのか。しかも勤め先も持っているのか。
内心激しく動揺するコシチェイは、雪那に飛び乗られても気づかない。
フィロとリオンが肉の盛られた大皿を運んでくる。後、口直しの野菜と果物も――そのほとんどはエルフハイム産だ。
「日本でも熊肉のお料理あるけど、私はまだ食べた事ないんだよ」
期待に胸を膨らませつつ詩は、マルコの様子を確認した――特にニケと話そうとはしていない。
(相変わらず印象は悪いのかな。でも恋愛漫画だと最初は悪印象が一発逆転でラブラブはよくあるし)
ここは自分がきっかけを作らねばと勢い込んだ詩は、積極的に絡んでいく。
「お姉ちゃんに聞いたけど、マルコ君こないだは大変だったんだって? でも直ぐにハンターを呼んだりして現場を維持したり対応も冷静で的確だし、しっかり現実的な対処ができてるよね♪ その後ルイ君とはどう?」
マルコは、やたらさわやかな笑顔で言った。
「ご心配なく。彼とは仲良くしてますよ? あれからとても相互理解が進みまして」
そんなこんなやっている間に鍋が煮えてきた。食欲をそそる味噌の香りが座敷に満ち始める。
サクラは頭上のヤエが生唾を飲みこむ音を聞いた。
「ヤエ、鍋は流石に頭の上だと私が火傷するので降りて食べてくださいね……」
促しに応じ、渋々ヤエが降りてくる。
フィロは鍋に付きっきり。獲物を見据える鷹のような目を注いでいる。
「0円笑顔はお皿を渡す時に必須……つまり、煮込む時は真剣な顔で真摯に接する方が」
「なあ、もう煮えてるんじゃねえ?」
手を出そうとしたアレックスの箸を菜箸で掴み阻止。
「お待ちくださいっ!」
取って付けた様な笑みを浮かべ、自分が良しと判断したものからさっさと小皿に盛って行く。
「こちらの肉と野菜の方が良く煮えて食べ頃ですっ……」
リナリスは自分が持ち込んで来た酒類、ジュース、種々のフレーバーを前に、シェーカーを振る。
「さあさあ、皆どんどん注文して。歓迎するって約束だし♪ ジグ君とアスカちゃんもどうぞ♪ マルコ君もね♪」
「俺たちは成人してないぞ?」
「大丈夫、クリムゾンウェストでは成人年齢色々だから。成人してるって自分で思えば飲んで平気♪ 甘いのはどうかな? カルーアミルクにブルーハワイ、サングリアも用意してきたよ♪」
コボちゃんが急にぴっと耳を上げた。
急いで座敷の扉を開けに行く。
すると、たくさんのコボルドたちが押し合いへし合い転がり込んで来た。
「こぼ!」「めりくり!」「こぼ!」
コボちゃんが仲間からの信頼も厚いことを知り、ますます顔を歪めるコシチェイ。
続けてルベーノが入ってきた。
「遅くなってすまんな」
そしてマゴイも。彼女はジグとアスカの姿を見かけるや近づいてきて、断りを入れた。
『……非常に悪いのだけれど……保養所の扉はセキュリティ強化工事のため……年末年始にかけ市民以外の往来を全面停止する……その間ユニゾンへの往来は市民候補者であっても……船便のみに限られる…………そこのあたりご理解よろしく……』
その後空間を操作し、座敷を一時的に大幅拡張した。コボルドたちの席を作るため。
●宴もたけなわ
年令が近いゆえかマルコ、ジグ、アスカの3者は、お互いすぐに馴染んでいる。
「リアルブルーでは、子供は皆学校に行くんですか?」
「ああ。少なくとも先進国では、そうするよう法によって定められてるな」
「守られてるとは限らないけどね」
サクラは猫舌な相棒のため、取った肉をフーフしてあげている。
「……そういえば猫舌でしたね、鍋に来たのに。……ある程度まで冷ましてあげますよ……」
相棒は肉中心に、自分は野菜もバランスよく、もりもりと食べる。
その傍らでリオンとカチャが話しこむ。
「依頼で色仕掛けを使っていたのが隠居中のお爺様の耳に入ったようでして」
「エルさんの部落では、そういうの問題にならないんじゃなかったでしたっけ?」
「ええ、純粋に依頼遂行のためなら――ですけど、面白がってやっていたことにもジジエル気づいたらしくて」
「なんですジジエルって」
「おじいさまの愛称です。うちでは長子の名前は皆『エルバッハ』。紛らわしくてしょうがないですから、愛称で呼んでるんです。『お前のように面白半分でやっていれば他の人の迷惑にしかならないだろう。今すぐハンターを止めてしまえ』と言われたのには、さすがに腹が立ちました。覚醒して叩きのめしてやろうかと」
「ジジエル死にますよ」
「大丈夫、ジジエルも一応覚醒者です。でも、実際にジジエルを叩きのめしたのはパパエルと母なんですよね。多少の問題はあっても頑張っている娘に対して何事だーっ、て。翌日ジジエル、包帯まみれになって失言を謝罪してきました」
彼女らの雑談に耳を傾けていたツィスカが、リナリスに話しかける。
「結婚の後も、2人ハンターを続けるんですか?」
「うん。でも、ニケさんの店舗に飲食店併設しようかなーとか、後々ハンター引退したらそういう道もありかなーと思わなくもないんだよね。カクテル修業もその一環……なんてね♪ 昼間喫茶店で夜はバー。大人になって色っぽさ500%アップのあたしとカチャが主人でー、小さくて可愛い子をいっぱい雇っ」
リナリスが言葉を切った。カチャからお尻をつねられたのだ。
「公私混同は駄目ですからね」
「う、浮気はしないよっ」
鍋管理人としてフィロは、たゆみなく働き続けている。
「あなたも食べませんか?」
とツィスカが誘っても、丁重に辞退。
「貴重なメイド・ウェイの実践機会ですので、こちらのことはお気になさらず。ほら、こちらの魚も食べ頃です」と小皿に盛り付け。
今日の彼女は自分が食べるより皆を腹一杯にする方を優先しているのだ。
マゴイはそんなフィロを多少不審そうに眺めていたが、特に文句は言わなかった。
マルカは自分のパルムがカチャのパルムとイクシードでボール遊びしているのを看過しつ、ジグたちの会話に参加する。
話題は魔法だ。
仮にどんなものがあったら便利と思うかという質問にジグは、こう答えた。
「うーん……変身の術?」
アスカも言う。
「私も同じかな」
そこで詩がふと、2人に聞いた。
「所でアスカちゃんとジグ君って出身は何処?」
「アメリカ」
「俺も」
「へえー、私のママもアメリカ人なんだよ。まぁ物心つく前に死んじゃって、アメリカに住んでた頃の事は覚えてないんだけど」
簡単な身の上話をした後彼女は、ぱんと手と叩く。
「そうだ、二人がハンターになった事をお祝いして歌を歌わせてもらうね。ちょっと待ってて」
ところでニケはほとんど喋らなくなってしまっていた。テーブルに肘を着き、眉間を揉むように指を当てている。
マルコがそれに気づき、尋ねた。
「どうかされたんですか?」
「ちょっと頭痛がね。私は酒が体質に合わないんですよ。特に嫌いなわけではないんですけど」
マルコは席を外れた。リナリスに頼んでトマトジュースを作ってもらい、ニケに渡す。
「どうぞ」
「気が利きますね。詩さんがさっき言っていましたが、学院で学ぶところが何かありましたか」
「多少は」
そこへ芸妓姿の詩が戻ってきた。顔に薄く白粉を塗り、紅を差している。
三味線を弾き弾き長唄を披露。雪那がそれに併せて跳びはね、くるくる踊る。
サクラはゆらりと立ち上がり、リュートを取り出す。
「む、ただ食べてるだけというのも悪いでしょうか……。せっかくなので私達も何かしたほうがいいですかね……」
長唄が終わった。
皆から拍手が起きる。
おもむろにサクラが演奏を始める。
「ヤエと来てますし一曲くらいはやりましょうか……。楽しい雰囲気にあった楽しい曲を何か……。ヤエの踊りつきで……」
ヤエも尻尾をくねくねさせ楽しそうに踊りながら、バイオリンを弾く。人とユニットの合奏だ。
終わった後は、また皆からの拍手。
それを受けたヤエとサクラは、照れくさそうに自分の席へ引っ込んで行く。
コシチェイは一切を無視し熊のお頭焼きをかじっていた。声には出さないがこう言いながら。
<ワシは満足じゃー!>
フィロが皆に呼びかける。
「最後の〆はごはん・うどんから選べますがいかがなさいますか。希望が分かれた場合は鍋を分けて作りますので、両方ともお楽しみいただけますよ」
詩はアスカに言う。ほかの女性参加者にも。
「良かったら、〆の後で着物着てみる? 記念写真を撮れるけど。男性は歌舞伎メイクもできるよ♪」
酔った勢いがあったのだろう。この詩の申し出に、鍋係のフィロ、酔いを醒ますのに忙しいニケ、実体の無いマゴイを除いた女性陣全員――リオン、マルカ、サクラ、リナリス、ツィスカ、カチャ、アスカが乗った。
男性陣――ルベーノ、ジグ、マルコ、アレックスも彼女らと同様の理由から、歌舞伎メイクを体験してみたりした。
詩は1名1名記念写真を撮り、それぞれ本人に渡した。リナリスとマルカもまた、それとは別個に記念写真を撮った。
●お開き
パーティーも終わった。参加者は別れの挨拶をして帰って行く。ユニットも一緒に。
詩はマルコを学院まで送るとした。何と言ってもまだ学生なので。彼とは何かと縁があるフィロも、それに同行した。
賑わい絶えぬ夜の街を行きながら、詩は、マルコに聞く。
「少しは息抜きになったかな?」
マルコは少し考え頷いた。マルカから貰ったスーパーCAM消しゴムを手の中で弄びながら。
続いて彼女は雪那に聞く。
「雪那も楽しかったかな?」
相棒は間髪入れず、何度も頷いた。
詩の頬が緩む。
「それなら良かったけど。フィロさんは?」
『私も楽しかったです』とフィロは答え、こう付け加える。
「今回の鍋料理で何か掴んだ気がいたします。次は正月パーティですね」
●おまけの贈り物
数日後。
バシリア刑務所にてスペットは鍋パーティーの集合写真を見ていた。
「……皆えらい顔塗ってんなー。仮装パーティーなんかこれ。あ、よう見たらマゴイまでおるやんけ。なにしとんのやあいつ」
「しかし有難いですなあ。わしらにも差し入れをくれるとは」
しみじみ言いながらブルーチャーが両手で広げるのは、防寒インナー。
それはスペットの持っている写真と一緒に、マルカが送ってきたものである。冬の刑務所は寒かろうと。
同日別の場所でジグとアスカもまた、鍋パーティーの写真を見ていた。リナリスがアルバムにまとめ、送ってきたのだ。
「いつの間にこんなに撮ってたんだ?」
「さあね」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/14 19:19:58 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/12/14 21:57:09 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/12/16 11:09:42 |