イノセント・イビル 死の中の地下茎

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/14 07:30
完成日
2018/12/23 13:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 『庭師』と通称される歪虚に実家を襲撃されたと報告を受け、急遽王都を発った若きダフィールド侯爵家当主カールは、護衛の兵士たちと共に大河エリダスの船便を乗り継ぎ、早馬を駆って故郷オーサンバラへと帰還した。
 最初に気付いたのは微かに鼻についた異臭。そして、村人たちの重苦しい空気── 既に事件から一週間が経っていたが、故郷はいまだに平穏を取り戻せてはいないようだった。無理もない、とカールは思った。まさかこのような片田舎が歪虚に襲われるなんて、思ってもみなかったろう。……ましてや、その襲撃で侯爵家の人間──前当主である我が父ベルムドと弟シモン──までもが命を落としたとあっては。
「おお、カール様……」
「カール様が帰って来た……!」
 そんな中、カールの帰還はオーサンバラの人々にとって久しぶりに明るいニュースとなった。内心、(何かに縋りたいのはこちらの方だ……)と思いながらそれを一切表に出さず、いつものように厳然とした態度でカールは彼らに対した。
「皆、此度はご苦労だった」
 馬を下りぬまま──それもまた貴族として必要な格式だった──告げるカールに、村人たちは頭を振って恐縮した。
「いえ! 我々など、侯爵家の方々のご心痛に比べれば……!」
「カール様……いえ、ご当主様こそ、その……お気を落とされませぬよう……」
 村人たちは泣いていた。先祖の遺言により代々、この村に館を構えて来た侯爵家と村人には、他の町村には無い独特な距離感があった。特に先代のベルムドは奇人として知られ、家族には嫌われていたものの、そのお祭り好きな性格と気前の良さから領民たちからは人気があった。村の重苦しい空気は……被害者たちを悼む通夜のそれでもあったのだ。
「……ありがとう。葬儀には皆も呼ぶ。父らとを偲んでやってくれ」
 カールはそう言うと、襲撃現場である侯爵家館へ向け移動を再開した。馬を駆けさせたのは早く現場に着く為と……濡れた瞳を乾かす為でもあった。
 やがて、館が見えてくると、護衛の兵たちが呻き、騒然とした。石造りの館は焼け落ちてこそいなかったが、ありとあらゆる可燃物を炎に焼き尽くされ、煤によって黒く染まったその姿はまるで墓標の様にも見えた。
「……! カール様……!?」
 現場に着くと、弟ソードが率いる広域騎馬警官隊の副官ヤングがカールたちを出迎えた。
 彼ら騎馬警官隊は、逃げる『庭師』を追って戦闘となり、半壊したが、ハンターたちの治療を受けて回復し、今は館の現場検証──と言う名の『後片付け』に追われていた。……この場合、彼らが『片付けて』いるのは、館の瓦礫の下に横たわる何十人もの遺体だった。当初は村人たちにも手伝ってもらっていたのだが、あまりにも酷い状況に半数近くが脱落していた。
「そんなに酷いのか……? 村人たちだって火災現場の処理くらい初めてではなかろうに……」
「……館を包んだ炎は三日三晩燃え続けました。石材や建物内部に籠った熱が引くのに更に二日…… 恐らく、油を大量に含んだ『蔦』を館中に張り巡らせてから火を点けたのでしょう。中にいた兵らの遺体の多くは炭化し、骨になっていました。が、折り重なった奥の方のは、その……『生焼け』で……」
 憔悴しきった表情でヤングがそう報告した時、『後片付け』に加わるべく館に入ったカールの護衛の兵たちが飛び出して来て、胃の中身を全部吐いた。
 彼らは今、知ったのだ。村に入った時から鼻腔に纏わりついていた、この耐えがたき臭気の源を……
「……もういい、分かった。それで、お前たちの長は……我が愚弟、ソードはどこにいる?」
「…………」
 ヤングは無言で、館の前庭──かつては緑の芝に覆われていたが、今は見る影もない──の片隅に建てられた天幕に目をやった。
「あいつは……ッ! このような時にいったい何を……!」
「カール様……!」
 寛恕を乞うヤングの声を無視して、カールは大股でそちらへ歩いて行った。
 垂れ提げられたままの覆いを腕で捲って中へと入る。
 そこには、入口に背を向けた状態で床几に座り込んだ弟ソードの姿。その前面に仮設された寝台の上に、もう一人の弟──ソードにとっては兄、シモンの遺体が横たえられていた。
 一拍、鼓動を跳ね上げたカールが、無言のままソードの隣に立つ。
 シモンの遺体は綺麗だった。恐らく、地下牢にいたことが幸いしたのだろう。シモンの遺体は、力を出し尽くして人外と化した護衛二人のものと共に見つかった。死因は心臓への刺突。人として『庭師』と戦い、人として死んだものと思われた。
 カールはシモンに祈りを捧げた。その魂が安らかなることを願った。
 そして、ソードに向き直った。背を丸め、肩を竦めて座り込んだままの弟の、襟首を掴んで持ち上げた。
「それで、お前は何をしている、ソード? 率いるべき部下も民たちも打ち棄てて…… 貴様、それでもダフィールド侯爵家の一員か? 次期当主の座を掛けて俺と競り合おうとしていた気概はどこへやった?」
 兄にぶら下げられたまま、ソードは視線を合わせない。
「……シモン兄が死んだ。あれだけ優秀だったのに、こんなに呆気なく…… 父上だってそうだ。まるで蝋燭の灯が吹き消されたように、突然、俺の人生から消されてしまった……」
「だからと言って、役目を放棄して良い理由にはならん。お前も貴族であるならば」
 カールは言った。身体の中で心が、魂がどれだけ慟哭に咽んでいても、表面上は何事もないように繕いながら、部下を、民たちを導いていかねばならない。それが貴族だ。
「俺はそうする。そうしなければならない。シモンもそうだ。こいつは自分の内心を隠すのが上手かったしな…… 末弟のルーサーは……流石にまだ子供だが」
「……兄貴たちはそうだろうな。だけど、カール兄、俺にはもう何もないんだ…… 自分の手で仇を取ることもできなかった。剣技も、軍略も、あの『庭師』には何も通用しなかった。ただそれだけを、自分は磨き続けてきたというのに…… こうして家族を失って、その証を見せつけられて…… 心にぽっかりと穴が空いてしまったようで、そこから俺の何もかもが零れ落ちていくようで……」
 カールは言葉を失った。まさかこの弟がここまで脆いものとは思っていなかった。大人びて見えてもソードはまだ16。まだまだ子供だったのだ。
(結局、俺は長男でありながら、家族の誰の事も、何も見えていなかったということか……)
 カールがそう唇を(内心で)噛み締めていると、唐突に天幕の外で悲鳴が起こった。
 ソードをその場に残して外に出たカールに、駆けつけて来た部下たちが信じられないような報告をした。
「遺体が起き上がり、襲い掛かって来たのです……!」

リプレイ本文

「ええ、あの糞……失礼。『庭師』は既に討ち果たしました」
「……僕たちはここ残って、焼け跡の処理の手伝いをしてる。……人手は幾らあっても足りなかったからね。館の中の構造もよく知ってたし、さ……」
 歪虚『庭師』の討伐依頼に急遽増援として派遣されたレイア・アローネ(ka4082)、アメリア・フォーサイス(ka4111)ディーナ・フェルミ(ka5843)の三人は、出迎えたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)とルーエル・ゼクシディア(ka2473)にそう知らされた。
「……我々も手伝うか。無駄足にならなかっただけ幸運……とはとてもじゃないが言えそうにないが」
 想像以上の惨状に、沈痛な表情で眉を顰めるレイア。ディーナは無言で両指を組んで犠牲者に対する祈りを捧げる。
「まあ、これも仕事の内…… やりましょうか」
 アメリアもまた腕捲りをして作業へ加わり。それを見送るとルーエルはアデリシアに目配せをし、自身は休憩の為に恋人のレイン・レーネリル(ka2887)の元へと戻った。
「凄惨な光景だよね…… 臭いも酷いし…… ソードさんが助かったのは良かったけど……」
 レインは作業の手を止めて、塹壕用シャベルの持ち手に両手と顎を乗せてぼんやりと空を眺めていた。
「ソードさんが痛々し過ぎて、向き合うのを避けちゃったよ…… 心配なのに。かける言葉が見つからないって言うか……」
 無言で傍らに寄り添うルーエルに、空を見上げたままでレインが続ける。
「……一夜にして大切な家族がいなくなっちゃうって、どんな気持ちなんだろう。ソードさん家、これから家族と上手くいきそうだったのに」
 レインが顔を伏せた。グズッと鼻を鳴らす音が聞こえた。
 もしもレインがいなくなったら── ルーエルはすぐに頭を振った。
 想像もできない。したくもない── ルーエルは無言でレインをギュッと抱きしめた。

 ルーエルとレインの視線の先── シモンの遺体が安置された天幕では、シレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)の二人がソードについていた。
 帰還したカールとソード、兄弟のやり取りに、二人は口を挟まなかった。だが、ソードがカールに告げた最後の言葉に、シレークスは思わず腰を浮かし…… しかし、それより早く飛び出したサクラがソードの頬を張っていた。
「それでもまだ! 貴方にはやるべきこと、やれることがあるでしょう……! ルーサーでさえ自分に出来ることを考え、動いているというのに…… いつまでもそんな事を言ってるなら、叩いてでも無理矢理気合入れますよ……!?」
 その勢いに目を丸くしながら、(もう殴ってるし……)と心中でツッコミを入れるカールとシレークス。
「……すみません」
 本人も気付いた。真っ赤になって顔を背けるサクラに毒気を抜かれて、シレークスはやれやれと微苦笑を浮かべてソードに向き直った。……先を越されたので殴るのは止めておく。まあ、迷える者を教え導くのも聖職者の役目だし。
「努力をした者が必ずしも報われる──世界はそんな風に都合よく出来てはねーんですよ。自分自身より格上の存在がいて当たり前。努力することに上限なんてありはしねぇんです」
 シレークスは俯くソードの襟首を掴んで無理矢理目を合わせさせた。いつもの営業スマイルな説教モードよりちょっぴり(ちょっぴり?)甘くない。
「だが、まあ、それはいーです。若者が壁にぶつかって挫けるのは、ある意味、通過儀礼でやがりますし。……私が許せねーのは、かつておめー自身が自分に課した誓約を、今のお前がすっかりないがしろにしちまってることです」
「……誓約?」
「まるっと忘れちまいやがりましたか? ──クリスを後悔させてみせる。男を磨いて、何処に出ても恥ずかしくない立派な紳士になると、私たちの前で誓って見せやがりましたよね? アレも無かったことにするつもりですか?」
 ソードは目を見開いた。自分にはまだ男として見栄を張り続けるべき相手がいたことを思い出す。
「都合の良い時だけ『子供』に戻るんじゃねぇです。そうやってこれまでの自分まで否定して……」
 言い終える前に、天幕の外に悲鳴が響いた。今日は説教に邪魔が入る日か、と苦虫を噛み潰したシレークスは、しかし、「死体が動いて襲い掛かって来た」との報に慌ててソードとカールをシモンの傍から引き離す。
「サクラ!」
「やってます」
 同時に、サクラはシモンの遺体に『ピュリフィケーション』──浄化の力を注ぎ込んだ。それをその場の全員が固唾を飲んで見守った。
「……どうやら大丈夫なようですね」
 浄化の力を受けても何の反応も見せないシモンに、サクラはホッと息を吐いた。
 恐らく交戦が始まったのだろう。天幕の外からは戦いの喧噪が聞こえてきた。
「チッ。おめーの事は後で直々にしごいてやるです」
 シレークスとサクラが得物を手に外へと出て行った。カールもまた兵たちの指揮を取るべく外へと向かい…… 最後にソードに声を掛けた。
「部下たちは戦っている。お前はどうする?」


「ッ! レインお姉さん! 館から離れて! 様子がおかしい!」
 館内に上がった悲鳴に尋常ならざるものを感じて、ルーエルは館近くで作業しているレインに切迫した様子で呼び掛けた。
 転げる様に中から出てくる兵隊たち。その殿軍に立って最後に飛び出して来たディーナが、長柄の鎚を身構えながら館へと向き直る。
「いったい何が……」
「ご遺体が動き出して襲って来たのです!」
 凛々しくも可愛らしい声でディーナが答える内にも、焼け落ちた扉や窓枠を乗り越えて地面に転げ落ちるようにしながら溢れ出て来る焼けた遺体の群れ── ディーナは両手で振り上げた得物にマテリアルの力を籠めると、それを躊躇うことなく振り下ろした。
(出会い頭の浄化は効果がなかった…… これはもう侵攻を止める為には物理的に破壊するしかないの。御親族方には遺体を見せられないの。でも、死者より生者の方が大事なの……!)
 別の場所でも悲鳴が上がる。敵は館の四方から溢れ出していた。兵の一人に組みついた直後、全身から炎を噴き出す死体。諸共に松明の様に燃え上がるその光景を目の当たりにして兵たちは恐慌に陥った。
「うわあぁぁ……!」
 そこかしこで兵たちに組みつかんと迫る死体たち── 立て続けに鳴り響いた銃声と共にその頭部を砕かれて、次々と地に倒れ伏していく。
 それは遺体を搬送する為に館の外に出ていたアメリアが悲鳴を聞いて駆け戻り、突撃銃で狙撃したものだった。
「ちょっと外に出ていた間に…… Merry Christmasですよ、Mr.Lawrence!」
 そのまま兵士に組みつかんとする死体を立射姿勢のまま狙い撃っていくアメリア。同様に外に出ていたレイアがその傍らを駆け抜け、抜き放った魔導剣にマテリアルを込めつつ、味方と敵の間に疾く割り込んで。魔力を纏った刃を薙ぎ払って四肢や胴ごと二つに断ち割る。
「無駄足に終わらなかったのは幸運──いや、不幸中の幸いだったな……!」
「死者の尊厳をこれ以上奪われるわけにはいかないの!」 
 そのまま壁役として味方の後退を支えるレイアとディーナ。弾倉が空になるまで突撃銃を撃ち放ったアメリアもホルスターから魔導拳銃を抜き放ち、「非覚醒者に無理をさせる訳にはいきませんしねー」とふんわり零しつつ、すぐに表情を引き締めて非覚醒者たちの前に立つ。
 そこへ、血を洗い流す為の水を井戸まで汲みに行って戻って来たアデリシアが思わずバケツを取り落とし。一目で状況を察すると奥歯を噛み締めた。
「……ふざけた置き土産をしていったな、『庭師』……!」
 アデリシアは長柄の鎚を手にそのまま敵中へと飛び込んでいった。
 それはまるで旋風だった。敵が組みついて来るのも構わず修羅の如く得物を振り回して当たるを幸いに薙ぎ払い。『ブリガトリオ』──乱立する闇の刃で敵を纏めて串刺しにする。
「……待ってろ、すぐ楽にしてやるからな……!」
 憤怒と苦衷とがないまぜになった表情で、戦神の導きの詩を朗々と戦場に響き渡らせるアデリシア。死者のやすらぎの地を謳い上げたそれは動く死体たちの動きを鈍らせ……すかさずルーエルが混乱する兵たちに指示を飛ばして落ち着かせに掛かる。
「大丈夫! 敵の動きは鈍い。ここにいる人たちで十分対応できます! 村人や負傷者等、戦えない人たちの避難を最優先! 危険を感じたらすぐに呼んで。すぐに駆け付けるから!」
 その声に、混乱し逃げ惑うばかりだった兵たちが我に返った。隊列を組んで槍衾を形成し、各所で戦線を構築し始める。
「ごめんね。魂の方は後でちゃんと弔ってあげるから……!」
 レインもまた『ファイアスローワー』──炎状の破壊エネルギーを振りまいて応戦に入った。……遺体の損壊が酷くて誰だか分からなくてよかった。もし、知ってる顔がいたら…… いや、躊躇うことはしないけれど。
「悪いな。少々荒っぽくはなるが、許せよ…… 今はお前たちを眠りにつかせる事が先決だ」
 アメリアの援護射撃の下、掴み掛って来る死体の腕をカウンターで斬り飛ばしつつ、刃に乗った魔力を一閃させて一気に敵を刺し貫くレイア。アデリシアもまた鎚頭の聖印を敵の脚へと引っ掛けるように得物を払い、倒れた敵をディーナが叩き潰していく。
 だが、敵は起き上がって来た。アデリシアとディーナが四肢を砕いた敵も、アメリアが頭部を撃ち抜いた敵も。レイアが胴を真っ二つにした敵すらも──
「な、なんだ、こいつは……?!」
「え…… うえぇぇぇ!!!???」
 驚愕し、悲鳴を上げるレイアとディーナ。損壊した動く死体の切断面から、何か植物の蔦の様なものがはみ出し、ウネウネと蠢いていた。その表面は油に塗れたように光っており、その先端から火炎放射を放ってきた。
「落ち着いてください。完全に行動停止するまで油断せず潰していきましょう。……映画とかでも油断した人から死んでいきますからねー」
 手早く弾倉の再装填を行いつつ、飄々と事態の変化に対応するアメリア。だが、その横で『庭師』を知る三人は怒りで顔面を蒼白にしていた。
「これは『庭師』の……! 少なくともアレ関係の仕業だ! それとも、まだどこかで生きているというのか?」
「どこまでも悪趣味な歪虚だなぁ! こういうのホント許せない!」
 アデリシアもまたブチ切れた。髪の毛がザワリと逆立ち、想いが弾ける。
「その身体は彼らのものだ! 貴様ごときが使っていいものではない!」
 旋風は暴風と化した。闇の刃を乱発しながら自ら敵中へと突進し、死体からはみ出した蔦を籠手越しに直接引っ掴み。それを無理やり蹴り剥がすようにして遺体から引きずり出す。
「レイア!」
「ををっ!?」
 アデリシアが放り投げて来た蔦を、レイアは慌てて空中で三つに下ろした。その後も次々と投じられて来る敵に剣閃を走らせ、時には二本纏めて薙ぎ払ったりもした。
「こっちは凄惨な現場の後片付けで鬱憤溜まってるんだ、根絶やしにしてやる!」
 マテリアルの火炎放射を振り撒くレイン。ディーナもまたつるはしを振るうように倒れた敵へ何度も何度も聖鎚を振り下ろし、中身の蔦がズタズタになるまで滅多打ちにする。
 そんな中、アメリアは一人、冷静さを保っていた。彼女はまだ比較的冷静なルーエルを捕まえると、思いついた仮定を確かめに掛かった。
「ねえ、あの蔦みたいなの、形状からコアみたいなのがあると思うんですけど、心当たり有りません?」
「え、ああ…… 『庭師』は『黒い種子』みたいなのを人に植え付けてたけど……」
「フーン……」
 アメリアは照準を敵の頭部や四肢から胸部へ変えた。銃撃によって動く死体の胴体に幾つもの小さな穴が空き…… 突如、ビクリと跳ねたかと思うと、四肢を残したまま動かなくなった。

「敵を包囲しろ! 我らの背後には村がある。一体とて奴らを通すな!」
 天幕から出て来たカールが兵たちの指揮を執り始めた。ルーエルはホッと息を吐きつつ、天幕の方をそっと見やった。
(願わくばソードさんにも警官隊を…… いや、今はまだ……)
 だが、ソードはやって来た。雄叫びと共に敵へと殴り掛かるシレークスと、静かに光を纏ったサクラと共に。
「もういいのですよ…… 皆さん、安らかに眠ってください……」
 自身へ群がり来る死体を光の波動で吹き飛ばす放つサクラ。同時に、光の杭を放って敵を拘束し、兵たちの戦いを援護することも忘れない。
「ソードさん! 大丈夫なんですか?!」
「まだ怒りをぶつける先がある…… だったらまだ戦える……!」
 駆けつけて来たルーエルにそう返して、ソード。気付いた警官たちが歓声を上げ……ヤングだけが一人、難しい表情でそれを見返した。

 戦況は優位に傾いた。
 館の外に出ていた動く死体──いや、死体を操っていた蔦型歪虚は掃討され、残りは屋内へと押し戻された。アメリアは館へ向かって歩を進めながら『跳弾』で遮蔽の向こう側にいる敵を撃ち倒し。館の外壁に取りつくと、タイミングを見計らって窓辺から屋内へ全弾発射した。マテリアルを纏った銃弾は光の豪雨と化して部屋の内部を跳ね回り、内包していた封印の力が敵の身体の自由を奪う。
「スタングレネード代わりです。突入時は危険ですからねー」
 その間にハンターたちと兵らが突入し、蔦を駆逐していった。
 別の突入口からもアデリシアがレクイエムで敵を押さえる間に警官隊が突入し、やがて蔦は一掃された。

 戦いが終わった後── ハンターたちは全ての遺体を回収した。
 聖導士たちが戦闘で生じた怪我人の治療に回り、蔦に汚された遺体に浄化を施した上で、せめてもの祈りを捧げて荼毘に付す。
 燃え上がる炎を、人々はジッと見つめていた。ディーナが死者への敬意を込めて歌うエクラの聖歌が、煙と共に天へと上る……
「あーあ、無事な遺体も少なくなっちゃった…… 嫌な気分だよ、凄くね」
「これであの種のことは全て終わりなのでしょうか…… だとしても、この結末は些か苦すぎますが……」
 参列し、その光景を見守りつつレインとアデリシア。弟君の遺体に損傷が無いのがカール殿にとってはせめてもの救いか、とレイアは辺境式に死者たちへ哀悼の意を表す。
(心のケアは馴染み深い仲間たちに任せよう。サクラたちに任せておけば大丈夫……だよな?(汗 )

「自分の無力さに打ちひしがれる…… かつてのシモンさんもそうだったのかな」
 呟くルーエルを心配そうにレインが見やる。
「僕は大丈夫。多分、ソードさんも。……鍛錬を積んだ人は強いから。意地があるかあらね」

「そう言えば、ベルムドさんの遺体は結局、判別がつきませんでしたね……」
 サクラがポツリと呟いた。
「あの庭師の上司に会う機会があったら、一発と言わず何発も殴ってあげないといけませんね……」

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    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/12 11:54:07
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/12/14 01:19:17