ゲスト
(ka0000)
【CF】綿菓子が萎むまでに
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/16 19:00
- 完成日
- 2018/12/29 03:19
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
精輝節のリゼリオ、祭の広場にマグノリアクッキージェオルジ支店の馬車と屋台も並んでいた。
手伝いに駆り出されたメグとギアも、エプロンを着けてホットチョコレートの鍋を混ぜている。
午前中の客が一段落し、2人も休憩がてら祭の様子を見て回ることにした。
メグ、ことマーガレット・ミケーリ。戦いには一向に慣れないが、先輩の背を見て頑張っている万年新米のハンター。ギア、こと、アクレイギア。エバーグリーンから転移し、元々砲身が取り付けられていた両腕を義手に交換、ナノマシンの修復技術により自由に動かせるようになった現在は、自分の手指で引き金を引く快感に目覚め、雑魔や歪虚と戦う日々を謳歌している。
転移したばかりの頃に迷子になっていたギアを先輩ハンターとメグが助けたことから交流が続き、本日は、マグノリアクッキー、ヴァリオスでそこそこ有名な洋菓子店の店長の孫娘が営む、ジェオルジ支店の屋台の手伝いの依頼を受けていた。
テーブルの片隅に金髪碧眼、瑞々しい少年の装いの人形が座って、時折客へ向かって手を振っている。
ポルトワールの老人達が、若い頃に出会った絡繰り仕掛けの茶運び人形に感銘を受けて作り始め、長い休眠を経て再び手を加えられている途中のそれ。メグが老人達の手伝いを引き受けていた頃に、ひーちゃん、という契約精霊がその人形を気に入ったのか、手足を動かし簡単な会話や意思表示を行っていた。
精霊と機械を完全に一体化したエバーグリーン出身のギアに会う。ひーちゃんの動きに何か良い影響が有るかも知れない、そして、単純に友人を友人に紹介したいという思いで、メグは絡繰りの歯車を取り外した人形を借り受けて、依頼の屋台へ連れ出してきた。
人形がぱたりぱたりと手を叩く。
CIAO!
CIAO!
――ギア! 時間! 大切なご主人さま!――
CIAO!
CIAO!
休憩の頃に来るから、一緒に見て回ろう。
そう言っていたギアの主人、正確には転移してきたギアの保護者で同居人で研究者。
ギアと出逢い腕が治るまで日常のことを手伝っていたが、今では友人という方が近く、直らない癖のまま主人と呼び続けている。ぼさぼさの髪に無精髭、草臥れたコートと古いブーツ。少し浮いた印象の、まだ若い青年が歩いてきた。
●
「ギアは戦う事が楽しいと言うんだ」
コットンキャンディの列に並んで、青年は言う。
「余り、戦うとか、そういう危ないことは、出来ればして欲しくないっていう、そう、なんて言うかな。親心、みたいなものは有るんだけれど……昔のギアのことを思うと、ひどかった、ううん、否、話すことでも無いのだろうけれど、でも、ひどかったころの、事を思うと、その、楽しい、と、言えることが……それが、安全か、そうでないかは、置いておくとしても。楽しい事が、あるのは良いこと、なのかなって、思う、いや、思うというか、そう、と言うか……」
相変わらず、要領を得ない言葉を連ねて、困ったように眉を下げる。その顔には年相応の幼さがあり、髭で誤魔化されているが童顔らしいと覗える。
友人が出来てよかったと青年は言う。メグとのことは本当に嬉しそうに話すと、メグとメグが憧れている人達のこと。ハンターにはいい人が多くて有り難いと言って、親ばかだなと笑う。
メグが目を瞠って、少し照れてはにかんだ。列は大分進んでいた。コインを取り出すメグの手を遮って、青年が3つと注文する。すぐに出来上がるふわふわのコットンキャンディの1つをメグに渡し、もう1つを反対隣へ差し出した。
そこに、有るべき少女の影は無い。
●
「…………ギア、迷子になりました」
広場の外れに佇み、銀の髪を靡かせるオートマトンの少女は呟いた。
そのすぐ側にギアの腰ほどの丈の子どもが呆然と立ち尽くしている。
「…………ギア、迷子を見付けました」
子どもはギアを見上げて、円らな瞳を潤ませる。今にも零れそうなそれに、ギアがたじろぐ。
「だ、だめです。泣かれると、ギアは、とても、困る……どうしよう。ギアは、……ギアが、迷子の時は、一緒に探して貰いました。そうです! ギアが探します」
ギアは子どもをじっと見詰めた。
「あなたの、ご主人さまを、ギアと一緒に探しましょう」
そうすれば、あなたは泣かなくていいですよね。
ギアの不在に気が付いたメグはコットンキャンディを青年に預け、屋台へと戻り事情を話す。
少し混み合ってきた屋台の列に、メグまで探しに向かうのは難しそうだ。
遅れてきた青年は大丈夫だよと3つのコットンキャンディを持ったままで笑う。
精輝節のリゼリオ、祭の広場にマグノリアクッキージェオルジ支店の馬車と屋台も並んでいた。
手伝いに駆り出されたメグとギアも、エプロンを着けてホットチョコレートの鍋を混ぜている。
午前中の客が一段落し、2人も休憩がてら祭の様子を見て回ることにした。
メグ、ことマーガレット・ミケーリ。戦いには一向に慣れないが、先輩の背を見て頑張っている万年新米のハンター。ギア、こと、アクレイギア。エバーグリーンから転移し、元々砲身が取り付けられていた両腕を義手に交換、ナノマシンの修復技術により自由に動かせるようになった現在は、自分の手指で引き金を引く快感に目覚め、雑魔や歪虚と戦う日々を謳歌している。
転移したばかりの頃に迷子になっていたギアを先輩ハンターとメグが助けたことから交流が続き、本日は、マグノリアクッキー、ヴァリオスでそこそこ有名な洋菓子店の店長の孫娘が営む、ジェオルジ支店の屋台の手伝いの依頼を受けていた。
テーブルの片隅に金髪碧眼、瑞々しい少年の装いの人形が座って、時折客へ向かって手を振っている。
ポルトワールの老人達が、若い頃に出会った絡繰り仕掛けの茶運び人形に感銘を受けて作り始め、長い休眠を経て再び手を加えられている途中のそれ。メグが老人達の手伝いを引き受けていた頃に、ひーちゃん、という契約精霊がその人形を気に入ったのか、手足を動かし簡単な会話や意思表示を行っていた。
精霊と機械を完全に一体化したエバーグリーン出身のギアに会う。ひーちゃんの動きに何か良い影響が有るかも知れない、そして、単純に友人を友人に紹介したいという思いで、メグは絡繰りの歯車を取り外した人形を借り受けて、依頼の屋台へ連れ出してきた。
人形がぱたりぱたりと手を叩く。
CIAO!
CIAO!
――ギア! 時間! 大切なご主人さま!――
CIAO!
CIAO!
休憩の頃に来るから、一緒に見て回ろう。
そう言っていたギアの主人、正確には転移してきたギアの保護者で同居人で研究者。
ギアと出逢い腕が治るまで日常のことを手伝っていたが、今では友人という方が近く、直らない癖のまま主人と呼び続けている。ぼさぼさの髪に無精髭、草臥れたコートと古いブーツ。少し浮いた印象の、まだ若い青年が歩いてきた。
●
「ギアは戦う事が楽しいと言うんだ」
コットンキャンディの列に並んで、青年は言う。
「余り、戦うとか、そういう危ないことは、出来ればして欲しくないっていう、そう、なんて言うかな。親心、みたいなものは有るんだけれど……昔のギアのことを思うと、ひどかった、ううん、否、話すことでも無いのだろうけれど、でも、ひどかったころの、事を思うと、その、楽しい、と、言えることが……それが、安全か、そうでないかは、置いておくとしても。楽しい事が、あるのは良いこと、なのかなって、思う、いや、思うというか、そう、と言うか……」
相変わらず、要領を得ない言葉を連ねて、困ったように眉を下げる。その顔には年相応の幼さがあり、髭で誤魔化されているが童顔らしいと覗える。
友人が出来てよかったと青年は言う。メグとのことは本当に嬉しそうに話すと、メグとメグが憧れている人達のこと。ハンターにはいい人が多くて有り難いと言って、親ばかだなと笑う。
メグが目を瞠って、少し照れてはにかんだ。列は大分進んでいた。コインを取り出すメグの手を遮って、青年が3つと注文する。すぐに出来上がるふわふわのコットンキャンディの1つをメグに渡し、もう1つを反対隣へ差し出した。
そこに、有るべき少女の影は無い。
●
「…………ギア、迷子になりました」
広場の外れに佇み、銀の髪を靡かせるオートマトンの少女は呟いた。
そのすぐ側にギアの腰ほどの丈の子どもが呆然と立ち尽くしている。
「…………ギア、迷子を見付けました」
子どもはギアを見上げて、円らな瞳を潤ませる。今にも零れそうなそれに、ギアがたじろぐ。
「だ、だめです。泣かれると、ギアは、とても、困る……どうしよう。ギアは、……ギアが、迷子の時は、一緒に探して貰いました。そうです! ギアが探します」
ギアは子どもをじっと見詰めた。
「あなたの、ご主人さまを、ギアと一緒に探しましょう」
そうすれば、あなたは泣かなくていいですよね。
ギアの不在に気が付いたメグはコットンキャンディを青年に預け、屋台へと戻り事情を話す。
少し混み合ってきた屋台の列に、メグまで探しに向かうのは難しそうだ。
遅れてきた青年は大丈夫だよと3つのコットンキャンディを持ったままで笑う。
リプレイ本文
●
ギアを探して人混みに紛れた青年を見送る傍ら、メグは片手でココアの鍋を混ぜ、片手でカップにマシュマロを浮かべて、パウダーシュガーを振りかける。
鍋の温かそうな湯気に惹かれた玲瓏(ka7114)がその忙しない手に声を掛けた。
「暫くぶりです。メグ様、……ひーちゃんもいらっしゃるのですね」
CIAO!
――お店はとっても、大忙し! せんきゃくばんらい!――
CIAO!
人形は腕を動かして応じるが、メグは会釈を一つ鍋から手を離せずにいる。
通り掛かったマリィア・バルデス(ka5848)もその忙しさに足を止めると、気遣わしげに調理台へと近付いた。
マーガレット、と、誰かが呼んだ声にマリィアの目がそちらへ向く。同じ屋台の店員が、伝票を天板に広げて手助けを求めている。
「おいそがしそうですし、お邪魔でなければお手伝いさせて戴いても?」
「今日は私がメグのお手伝いね。クレープはたまに家でも作るけど」
列を成した客に注文を取っている店長らしき女性を見付けて申し出る。
2人を見詰めた彼女は、是非お願い、と手を取ると、2人を連れて裏へ回る。
ふわりと広げた白いエプロンを被せた。
マグノリアクッキーのロゴ、フリルの肩と裾、動く度に広がって少し揺れるが足に絡むこともなく、跳ねるココアや生地から服を庇ってくれそうだ。
交差させた紐を腰で蝶結びに、端をひらひらと靡かせながら2人は屋台の表に連れ出される。
町を散策していた空蝉(ka6951)が人の流れを辿る様に祭の賑わいの中を歩いて行く。何か得るものはあるだろうかと見回すと、綿菓子3つを手に途方に暮れている青年を見付けた。
見ている間にもふらりと歩き去って仕舞いそうな青年を追い、どうしましたかと声を掛ける。
空蝉を見上げる様に首を捻った青年の手元で綿菓子が揺れる。
「……そう、ですね、ええと」
言葉に迷う彼に、空蝉がハンターだと告げて、困りごとなら手伝うと申し出る。
その様子に、穂積 智里(ka6819)も近付いて回りを見回す。この人混みだ、誰かを探しているのか、この人自身が迷子になってしまったのか。
「お手伝い出来ることはありますか?」
青年は、人を探していると答えた。
「女の子です、それから、特徴は、そうですね……何が分かりやすいかな。髪が長くて、それから……」
見ませんでしたか、と2人を交互に見た青年の目が不安に揺れている。
それを隠す様に伏せ、見てないですよね、と1人で探しに向かおうとする彼を、手伝うと引き留めて、2人は青年に続いて歩き出した。
季節の実りや乾したり漬けたりと加工したもの、聖輝節の飾り物に、可愛い人形や冬の装い、温かな食べ物。屋台を冷やかし、食べ歩きに興じながら広場の隅まで。
星野 ハナ(ka5852)の眼前で、少女が幼子をじっと見下ろしている。
反対側から歩いてきたカリアナ・ノート(ka3733)も、その姿を見付ける。
見知った少女だ。
「ギアおねーさん!……あれ?」
声を掛けようとして足を止める。一緒にいる子は誰だろう。
「泣きそうな子供達発見ですぅ」
2人の不安そうな様子に、星野はそっと近付いて互に見詰めて話し掛けた。
「お嬢ちゃんにボクゥ、もしかして2人とも迷子かなぁ?」
ギアの紫の目が星野を真っ直ぐに見詰めた。
「……ギアは、迷子です。この子どもも、迷子です」
淡々とした声が続ける。
子どもはギアと星野とカリアナを順に見上げて、円らな目を潤ませた。
ギアはひどく慌てた様子で子どもに手を伸ばすが、それは顔の前でひらひらと揺れるだけに留まっている。
どうしましょうとギアは言う。
迷子の子が泣いてしまう。子どものあやし方も、ふれ方も分からない。
「ギアが迷子になった時、ご主人さまを一緒に探して貰ったのですが、ギアは一緒に探す方法を知りません」
手を差し伸べようとして強張りそう呟いたギアに、星野は子どもと向かい合って視線を合わせる様にしゃがんでにっこりと笑む。
「まずは名前を教えて下さいぃ」
●
「完成品を1つ見せて貰っても良いかしら?」
マリィアはクレープの伝票を手に慌てている店員の傍へ向かう。
鉄板で丸く焼かれたクレープを調理台へ、クリームを絞り砕いたクッキーを散らすと、注文に会わせてフルーツやソースを並べる。
「焼いたらここにクレープの皮を貯めておくのよね? クレープの種が尽きたらそこで終了?」
動きを確認しながら尋ねるが、クレープの皮は貯まっておらず、焼ける傍からトッピングをして提供している状態、種は荷台に材料があるが、混ぜる必要があるらしい。空のボウルも重なっている。
道具の配置、材料の場所、調理と洗い物の場所。作業手順を確認する。
急ぐのは生地を焼くことと、ボウルを洗って新しい種を作ること。
「でしたら、それは私が」
玲瓏がボウルを引き受けると両腕で抱えて、急ぎ足で少し離れた洗い場へ向かう。
洗って戻ったボウルを熱湯で消毒し、レシピを頼りに材料を滑らかになるように丁寧に混ぜる。
お店に立つなんて夢みたいだと、動き始めた列を少し離れて眺めながら思う。
マリィアの手は器用にトンボを回して生地を丸く仕上げている。その手のボウルは残りが4分の1程度。
艶が出てホイッパーから真っ直ぐに滴るクリーム色の新しい種を、間に合ったと、隣に置く。
列はまだ続いている様だ。
1枚目が焼け、店員に確認を頼む。
瑕疵は無く、焼き色も良くて柔らかい。スパテルで調理台へ引き上げると、店員は少し肩を竦めて声を潜めた。
とても上手で美味しそうだけれど、もうちょっとだけ少なめで。
足りなくなっちゃう、と列を覗って内緒話の様に囁いた。
メグの方を覗うと、もう暫くココアの鍋から離れられそうに無い。列を見てはマシュマロを数えて、鍋を混ぜて不安そうにしている。
「これくらいかしら?」
縁よりも浅く一掬いした種を見せると、店員はそのくらい、と頷いた。
擦れてしまわない様に気を付けながら、けれど丸くなる様に手早く。
2枚目が焼け、3枚目が焼け、やがて店員がトッピングに専念できるようになった頃、玲瓏から追加のボウルが届いた。
店長の方も忙しない様子に、それを置くと玲瓏は列の方へと向かった。
忙しい場所には色々といたけれど、何れとも違うとその雰囲気を味わいながら、店長に託されたメニューを笑顔で配って列を回る。
迷う客を最後尾へ導き、隣や通路を妨げない様に整えて。テーブルの方を振り返ると、人形は精霊が腕を動かして、客を歓待しているらしい。
「ひーちゃん、動きが軽やかに……いらっしゃいませ、こちらへお並び下さい、メニューをどうぞ」
玲瓏に釣られた様に笑顔になった客は、頼まれ物らしいメモとメニューを見比べている。また少し忙しくなりそうだと笑顔を崩さずに思う。
メグが店長を呼ぶ声を聞いた。ココアの方にトラブルだろうか。
「そちらを手伝いますね」
大丈夫、行って差し上げて下さい、と店長からペンと帳簿、領収書を受け取る。
少し止まっていた湯気が、すぐにふわりと靡いて甘い香りを漂わせた。
●
2人の名前を交互に呼んでから青年は、改めて最初からギアの話を始めた。何か有ったのでは無いかと、何度も不安そうに呟きながら話す。
空蝉は微笑んで動かずに、穂積は時折促す様に頷きながらそれを聞いた。
「銃が好き、得意、ええと、あ。ハンターで……後は、オートマトン。言ってなかった、な。そう、オートマトンで、銃が好きなハンター、です」
オートマトン、と告げられると、空蝉の銀の双眸が奥深くに微かな光を明滅させた様に僅かに揺れる。
「同胞でございます」
青年がまじまじと空蝉を見た。ギアの他のオートマトンに外で会うのは初めてだという。
ギアに会わせてあげたい。依頼で色んな人に会っている彼女だから、こちらでの同胞も、もう珍しくは無いかも知れないけれど。
ギアを探して見回しながら話す青年の言葉は余計に途切れがちになる。
ハンターならば、こちらには依頼でと尋ねて頷くと、空蝉はそちらへはと依頼先を問う。
戻っていなかったと項垂れて答える声を遮る様に、穂積が人の流れの先を指して、本部は向こうの方だと言う。
「こういうお祭りでは本部近くに迷子案内所が併設されていることが多いです」
「事情の御座いませんようでしたら、届け出、放送なども使えるか確かめられるかと存じます。如何でございましょうか?」
空蝉は頷く。行くかと問われるまでも無く、青年もそちらへふらつく足を向けた。
もしかしたらと、もう一度マグノリアクッキーの傍を通って、そこにギアの姿が無い事を確かめてから本部へ向かった。鮮やかな緑に星と帽子を描いたテントに、運営の担当者だろう揃いの上着を着た数人が座っていた。その影に迷子らしい子どもの姿もある。
しかし、そこにギアはおらず、対応した担当者は拡声器を手にアナウンスを尋ねた。
「……もう少し、さがしてから……うまれた、ばかりでも……その、年頃の、女の子でもある……ので」
恥ずかしがるかも知れないと。
「30分毎くらいに、顔を出すことにしましょうか」
話すよりもずっと早く必要書類を書き終えた青年に穂積が提案する。そして、ふと。
「化粧室も見回った方が良いかもしれない、です」
彼自身では探しづらいだろうから、場内に数カ所設けられたその場所を尋ねて本部を離れた。
「ところで、ギアおねーさんはどうしてここへ?」
カリアナが尋ねると、ギアは目を瞠った。
ギア、大変なことをしてしまいました。強張った声でそう言って、右手と右脚を同時に出して転びそうになる。
「お姉さんはハンターの星野ハナって言いますぅ。……占いも、得意ですよぅ」
子どもは、うらない、と目を擦りながら泣きそうな声で言う。
カードを揺らしてみせるとぱちくりとして、興味津々とそれを見詰めた。
「……んんん? あっちの方とぉ、あっち……2人はメグちゃんの知り合いだったりしますぅ?」
一枚目が示したのは南門。本部の方だが、もう1枚の指す方には屋台しか無い。つい今し方見かけて、その行列に覗くのは後回しにしたマグノリアクッキーもその方角だ。
子どもは知らないと首を振ったが、ギアは頭を抱えている。
「ギア、お仕事でした」
休憩中にはぐれてしまった、戻る時間は過ぎている。
「それなら分かりましたぁ」
ぽん、と星野は手を叩く。
まずはクッキーの屋台へギアを連れて行き、それから本部へこの子を連れて行けば良い。
途次、カリアナは子どもと手を繋ぐ。
「1人で来たって、ことは……ないわよね、うん。ねえ、誰かと一緒に来たの?」
子どもは、おねえちゃん、と小さな声で言う。
「そっか、一緒に探そ! 屋台を見ながら。きっと見付かるわ」
子どもはカリアナの手をぎゅっと握った。微笑ましく、嬉しく、カリアナはにこりと目を細めた。手を引いて貰う時、姉はこんな気持ちなのだろうか。
星野の示した方へ進み、数軒を迂回したところにマグノリアクッキーの屋台はあった。
その列の先、白いエプロンがくるくると忙しなく動いている。
ギアに気が付いた店長が駆け寄ってくる。4人を見て状況を尋ねると、ギアがごめんなさいと頭を下げた。
「ギアは、迷子になってしまって、ですが、迷子も見付けてしまって、そして、連れてきて貰いました」
迷子、としゃがんで店長は子どもに尋ね、2人を見上げて、連れてきてくれたの、と尋ねる。
それぞれ頷くと立ち上がって、ありがとうと安堵した様に言う。
「それじゃあ仕方ないわ、戻るのはあなたとその子が迷子じゃ無くなってからね」
ギアも青年に探されているようで、彼はとても心配している。無事に合流して、子どもも探している人に会える様に。いってらっしゃいと手を振る店長に見送られて、4人は本部を目指して歩き出した。
●
人混みに酔ったのか足を止めがちになった子どもを星野が背に負う。クッキーにポテトチップスにと差し出してはぎゅっと星野の背に顔を押し付けて首を振って拒む子どもを、2人でどうにかあやそうと試み、ギアも見よう見まねで怖々と手を伸ばす。
もうすぐですよぅ、と星野が声を掛けながら、見えてくるギアが飛び跳ねて喜ぶ。
最初の30分が過ぎて本部に向かう。来ていないという答えに肩を落とす青年を励ます様に2人は次の場所を考える。
もう一度屋台へと歩きながら、青年はギアの思い出を呟いては落ち込んでいる。
「場内を虱潰しに探しつつ、何度も決めた場所に戻るのは有効だと思います」
きっと見付かると穂積に励まされ、少し困った様に笑った。
青年がぽつりと、ハンターというのは、いい人達だと呟く。
ギアを助けてくれたのも、ギアの友人も、仲間も、その関わっている多くの人がハンターだから。
「心配事は、尽きない。けれど、それは、ギアのことでは無いから、ギアは、今は、とても自由だから……」
過去のギアと現在のギアの相違、環境と身体の変化。それに伴う青年の不安と、ギア自身のこと。
同胞であるが故に、応える言葉は無いと空蝉は口を噤むが、
「……人は天命の元、生まれ落ちる……」
そう、一言だけ告げる。
辿り着いたクッキーの屋台でもたらされたのは、ギアが迷子と遭遇し、本部へ向かったという情報だった。
本部に到着したところに若い女性が駆け込んできた。子どもを見ると、いた、と叫んで駈け寄り、抱き締める。
「おねーちゃん?」
カリアナが尋ねると、子どもは頷いてその女性の名前を呼んだ。
「良かったですよぅ」
これからは気を付けて、と、本部を去る2人を見送った時。ギア、と小さな声が聞こえた。
「いらっしゃいましたね」
穂積が青年を促す。
見付かって良かった。つきりと胸が痛んで、暗い衝動に俯いて手で目を覆う。
「初めまして、空蝉でございます……アクレイギア殿」
空蝉が拳に手を重ねて顎を引くと、その仕草を真似る様にギアも手を重ねる。手が逆と青年に窘められて、はっと、ギアは2人の方へぺこりと深く頭を下げた。
「ギア、迷子では無くなりました! ありがとうございました!」
青年の腕に飛び付くように屋台の方へと向かい、青年に連れられて辿り着く。
「ありがとうございました! ギア、戻りました!」
エプロンを手に、手伝いの2人へ声を掛けて整列と会計に。手の空いた玲瓏はココアにマシュマロとパウダーシュガーを飾ったり、クレープの包みを巻いたりと手伝っている。
列の捌けた頃に訪ねてきた4人のハンターをテーブルへ案内し、マリィアが最後のクレープを焼く。折角だからと進められて自身と玲瓏の分も焼いて重ね、玲瓏が最後のココアを飾ってテーブルへついた。
ありがとうと綴られたチョコレートを飾ったクレープがそれぞれの手元へ届けられ、ささやかな労いの時間が過ぎていった。
ギアを探して人混みに紛れた青年を見送る傍ら、メグは片手でココアの鍋を混ぜ、片手でカップにマシュマロを浮かべて、パウダーシュガーを振りかける。
鍋の温かそうな湯気に惹かれた玲瓏(ka7114)がその忙しない手に声を掛けた。
「暫くぶりです。メグ様、……ひーちゃんもいらっしゃるのですね」
CIAO!
――お店はとっても、大忙し! せんきゃくばんらい!――
CIAO!
人形は腕を動かして応じるが、メグは会釈を一つ鍋から手を離せずにいる。
通り掛かったマリィア・バルデス(ka5848)もその忙しさに足を止めると、気遣わしげに調理台へと近付いた。
マーガレット、と、誰かが呼んだ声にマリィアの目がそちらへ向く。同じ屋台の店員が、伝票を天板に広げて手助けを求めている。
「おいそがしそうですし、お邪魔でなければお手伝いさせて戴いても?」
「今日は私がメグのお手伝いね。クレープはたまに家でも作るけど」
列を成した客に注文を取っている店長らしき女性を見付けて申し出る。
2人を見詰めた彼女は、是非お願い、と手を取ると、2人を連れて裏へ回る。
ふわりと広げた白いエプロンを被せた。
マグノリアクッキーのロゴ、フリルの肩と裾、動く度に広がって少し揺れるが足に絡むこともなく、跳ねるココアや生地から服を庇ってくれそうだ。
交差させた紐を腰で蝶結びに、端をひらひらと靡かせながら2人は屋台の表に連れ出される。
町を散策していた空蝉(ka6951)が人の流れを辿る様に祭の賑わいの中を歩いて行く。何か得るものはあるだろうかと見回すと、綿菓子3つを手に途方に暮れている青年を見付けた。
見ている間にもふらりと歩き去って仕舞いそうな青年を追い、どうしましたかと声を掛ける。
空蝉を見上げる様に首を捻った青年の手元で綿菓子が揺れる。
「……そう、ですね、ええと」
言葉に迷う彼に、空蝉がハンターだと告げて、困りごとなら手伝うと申し出る。
その様子に、穂積 智里(ka6819)も近付いて回りを見回す。この人混みだ、誰かを探しているのか、この人自身が迷子になってしまったのか。
「お手伝い出来ることはありますか?」
青年は、人を探していると答えた。
「女の子です、それから、特徴は、そうですね……何が分かりやすいかな。髪が長くて、それから……」
見ませんでしたか、と2人を交互に見た青年の目が不安に揺れている。
それを隠す様に伏せ、見てないですよね、と1人で探しに向かおうとする彼を、手伝うと引き留めて、2人は青年に続いて歩き出した。
季節の実りや乾したり漬けたりと加工したもの、聖輝節の飾り物に、可愛い人形や冬の装い、温かな食べ物。屋台を冷やかし、食べ歩きに興じながら広場の隅まで。
星野 ハナ(ka5852)の眼前で、少女が幼子をじっと見下ろしている。
反対側から歩いてきたカリアナ・ノート(ka3733)も、その姿を見付ける。
見知った少女だ。
「ギアおねーさん!……あれ?」
声を掛けようとして足を止める。一緒にいる子は誰だろう。
「泣きそうな子供達発見ですぅ」
2人の不安そうな様子に、星野はそっと近付いて互に見詰めて話し掛けた。
「お嬢ちゃんにボクゥ、もしかして2人とも迷子かなぁ?」
ギアの紫の目が星野を真っ直ぐに見詰めた。
「……ギアは、迷子です。この子どもも、迷子です」
淡々とした声が続ける。
子どもはギアと星野とカリアナを順に見上げて、円らな目を潤ませた。
ギアはひどく慌てた様子で子どもに手を伸ばすが、それは顔の前でひらひらと揺れるだけに留まっている。
どうしましょうとギアは言う。
迷子の子が泣いてしまう。子どものあやし方も、ふれ方も分からない。
「ギアが迷子になった時、ご主人さまを一緒に探して貰ったのですが、ギアは一緒に探す方法を知りません」
手を差し伸べようとして強張りそう呟いたギアに、星野は子どもと向かい合って視線を合わせる様にしゃがんでにっこりと笑む。
「まずは名前を教えて下さいぃ」
●
「完成品を1つ見せて貰っても良いかしら?」
マリィアはクレープの伝票を手に慌てている店員の傍へ向かう。
鉄板で丸く焼かれたクレープを調理台へ、クリームを絞り砕いたクッキーを散らすと、注文に会わせてフルーツやソースを並べる。
「焼いたらここにクレープの皮を貯めておくのよね? クレープの種が尽きたらそこで終了?」
動きを確認しながら尋ねるが、クレープの皮は貯まっておらず、焼ける傍からトッピングをして提供している状態、種は荷台に材料があるが、混ぜる必要があるらしい。空のボウルも重なっている。
道具の配置、材料の場所、調理と洗い物の場所。作業手順を確認する。
急ぐのは生地を焼くことと、ボウルを洗って新しい種を作ること。
「でしたら、それは私が」
玲瓏がボウルを引き受けると両腕で抱えて、急ぎ足で少し離れた洗い場へ向かう。
洗って戻ったボウルを熱湯で消毒し、レシピを頼りに材料を滑らかになるように丁寧に混ぜる。
お店に立つなんて夢みたいだと、動き始めた列を少し離れて眺めながら思う。
マリィアの手は器用にトンボを回して生地を丸く仕上げている。その手のボウルは残りが4分の1程度。
艶が出てホイッパーから真っ直ぐに滴るクリーム色の新しい種を、間に合ったと、隣に置く。
列はまだ続いている様だ。
1枚目が焼け、店員に確認を頼む。
瑕疵は無く、焼き色も良くて柔らかい。スパテルで調理台へ引き上げると、店員は少し肩を竦めて声を潜めた。
とても上手で美味しそうだけれど、もうちょっとだけ少なめで。
足りなくなっちゃう、と列を覗って内緒話の様に囁いた。
メグの方を覗うと、もう暫くココアの鍋から離れられそうに無い。列を見てはマシュマロを数えて、鍋を混ぜて不安そうにしている。
「これくらいかしら?」
縁よりも浅く一掬いした種を見せると、店員はそのくらい、と頷いた。
擦れてしまわない様に気を付けながら、けれど丸くなる様に手早く。
2枚目が焼け、3枚目が焼け、やがて店員がトッピングに専念できるようになった頃、玲瓏から追加のボウルが届いた。
店長の方も忙しない様子に、それを置くと玲瓏は列の方へと向かった。
忙しい場所には色々といたけれど、何れとも違うとその雰囲気を味わいながら、店長に託されたメニューを笑顔で配って列を回る。
迷う客を最後尾へ導き、隣や通路を妨げない様に整えて。テーブルの方を振り返ると、人形は精霊が腕を動かして、客を歓待しているらしい。
「ひーちゃん、動きが軽やかに……いらっしゃいませ、こちらへお並び下さい、メニューをどうぞ」
玲瓏に釣られた様に笑顔になった客は、頼まれ物らしいメモとメニューを見比べている。また少し忙しくなりそうだと笑顔を崩さずに思う。
メグが店長を呼ぶ声を聞いた。ココアの方にトラブルだろうか。
「そちらを手伝いますね」
大丈夫、行って差し上げて下さい、と店長からペンと帳簿、領収書を受け取る。
少し止まっていた湯気が、すぐにふわりと靡いて甘い香りを漂わせた。
●
2人の名前を交互に呼んでから青年は、改めて最初からギアの話を始めた。何か有ったのでは無いかと、何度も不安そうに呟きながら話す。
空蝉は微笑んで動かずに、穂積は時折促す様に頷きながらそれを聞いた。
「銃が好き、得意、ええと、あ。ハンターで……後は、オートマトン。言ってなかった、な。そう、オートマトンで、銃が好きなハンター、です」
オートマトン、と告げられると、空蝉の銀の双眸が奥深くに微かな光を明滅させた様に僅かに揺れる。
「同胞でございます」
青年がまじまじと空蝉を見た。ギアの他のオートマトンに外で会うのは初めてだという。
ギアに会わせてあげたい。依頼で色んな人に会っている彼女だから、こちらでの同胞も、もう珍しくは無いかも知れないけれど。
ギアを探して見回しながら話す青年の言葉は余計に途切れがちになる。
ハンターならば、こちらには依頼でと尋ねて頷くと、空蝉はそちらへはと依頼先を問う。
戻っていなかったと項垂れて答える声を遮る様に、穂積が人の流れの先を指して、本部は向こうの方だと言う。
「こういうお祭りでは本部近くに迷子案内所が併設されていることが多いです」
「事情の御座いませんようでしたら、届け出、放送なども使えるか確かめられるかと存じます。如何でございましょうか?」
空蝉は頷く。行くかと問われるまでも無く、青年もそちらへふらつく足を向けた。
もしかしたらと、もう一度マグノリアクッキーの傍を通って、そこにギアの姿が無い事を確かめてから本部へ向かった。鮮やかな緑に星と帽子を描いたテントに、運営の担当者だろう揃いの上着を着た数人が座っていた。その影に迷子らしい子どもの姿もある。
しかし、そこにギアはおらず、対応した担当者は拡声器を手にアナウンスを尋ねた。
「……もう少し、さがしてから……うまれた、ばかりでも……その、年頃の、女の子でもある……ので」
恥ずかしがるかも知れないと。
「30分毎くらいに、顔を出すことにしましょうか」
話すよりもずっと早く必要書類を書き終えた青年に穂積が提案する。そして、ふと。
「化粧室も見回った方が良いかもしれない、です」
彼自身では探しづらいだろうから、場内に数カ所設けられたその場所を尋ねて本部を離れた。
「ところで、ギアおねーさんはどうしてここへ?」
カリアナが尋ねると、ギアは目を瞠った。
ギア、大変なことをしてしまいました。強張った声でそう言って、右手と右脚を同時に出して転びそうになる。
「お姉さんはハンターの星野ハナって言いますぅ。……占いも、得意ですよぅ」
子どもは、うらない、と目を擦りながら泣きそうな声で言う。
カードを揺らしてみせるとぱちくりとして、興味津々とそれを見詰めた。
「……んんん? あっちの方とぉ、あっち……2人はメグちゃんの知り合いだったりしますぅ?」
一枚目が示したのは南門。本部の方だが、もう1枚の指す方には屋台しか無い。つい今し方見かけて、その行列に覗くのは後回しにしたマグノリアクッキーもその方角だ。
子どもは知らないと首を振ったが、ギアは頭を抱えている。
「ギア、お仕事でした」
休憩中にはぐれてしまった、戻る時間は過ぎている。
「それなら分かりましたぁ」
ぽん、と星野は手を叩く。
まずはクッキーの屋台へギアを連れて行き、それから本部へこの子を連れて行けば良い。
途次、カリアナは子どもと手を繋ぐ。
「1人で来たって、ことは……ないわよね、うん。ねえ、誰かと一緒に来たの?」
子どもは、おねえちゃん、と小さな声で言う。
「そっか、一緒に探そ! 屋台を見ながら。きっと見付かるわ」
子どもはカリアナの手をぎゅっと握った。微笑ましく、嬉しく、カリアナはにこりと目を細めた。手を引いて貰う時、姉はこんな気持ちなのだろうか。
星野の示した方へ進み、数軒を迂回したところにマグノリアクッキーの屋台はあった。
その列の先、白いエプロンがくるくると忙しなく動いている。
ギアに気が付いた店長が駆け寄ってくる。4人を見て状況を尋ねると、ギアがごめんなさいと頭を下げた。
「ギアは、迷子になってしまって、ですが、迷子も見付けてしまって、そして、連れてきて貰いました」
迷子、としゃがんで店長は子どもに尋ね、2人を見上げて、連れてきてくれたの、と尋ねる。
それぞれ頷くと立ち上がって、ありがとうと安堵した様に言う。
「それじゃあ仕方ないわ、戻るのはあなたとその子が迷子じゃ無くなってからね」
ギアも青年に探されているようで、彼はとても心配している。無事に合流して、子どもも探している人に会える様に。いってらっしゃいと手を振る店長に見送られて、4人は本部を目指して歩き出した。
●
人混みに酔ったのか足を止めがちになった子どもを星野が背に負う。クッキーにポテトチップスにと差し出してはぎゅっと星野の背に顔を押し付けて首を振って拒む子どもを、2人でどうにかあやそうと試み、ギアも見よう見まねで怖々と手を伸ばす。
もうすぐですよぅ、と星野が声を掛けながら、見えてくるギアが飛び跳ねて喜ぶ。
最初の30分が過ぎて本部に向かう。来ていないという答えに肩を落とす青年を励ます様に2人は次の場所を考える。
もう一度屋台へと歩きながら、青年はギアの思い出を呟いては落ち込んでいる。
「場内を虱潰しに探しつつ、何度も決めた場所に戻るのは有効だと思います」
きっと見付かると穂積に励まされ、少し困った様に笑った。
青年がぽつりと、ハンターというのは、いい人達だと呟く。
ギアを助けてくれたのも、ギアの友人も、仲間も、その関わっている多くの人がハンターだから。
「心配事は、尽きない。けれど、それは、ギアのことでは無いから、ギアは、今は、とても自由だから……」
過去のギアと現在のギアの相違、環境と身体の変化。それに伴う青年の不安と、ギア自身のこと。
同胞であるが故に、応える言葉は無いと空蝉は口を噤むが、
「……人は天命の元、生まれ落ちる……」
そう、一言だけ告げる。
辿り着いたクッキーの屋台でもたらされたのは、ギアが迷子と遭遇し、本部へ向かったという情報だった。
本部に到着したところに若い女性が駆け込んできた。子どもを見ると、いた、と叫んで駈け寄り、抱き締める。
「おねーちゃん?」
カリアナが尋ねると、子どもは頷いてその女性の名前を呼んだ。
「良かったですよぅ」
これからは気を付けて、と、本部を去る2人を見送った時。ギア、と小さな声が聞こえた。
「いらっしゃいましたね」
穂積が青年を促す。
見付かって良かった。つきりと胸が痛んで、暗い衝動に俯いて手で目を覆う。
「初めまして、空蝉でございます……アクレイギア殿」
空蝉が拳に手を重ねて顎を引くと、その仕草を真似る様にギアも手を重ねる。手が逆と青年に窘められて、はっと、ギアは2人の方へぺこりと深く頭を下げた。
「ギア、迷子では無くなりました! ありがとうございました!」
青年の腕に飛び付くように屋台の方へと向かい、青年に連れられて辿り着く。
「ありがとうございました! ギア、戻りました!」
エプロンを手に、手伝いの2人へ声を掛けて整列と会計に。手の空いた玲瓏はココアにマシュマロとパウダーシュガーを飾ったり、クレープの包みを巻いたりと手伝っている。
列の捌けた頃に訪ねてきた4人のハンターをテーブルへ案内し、マリィアが最後のクレープを焼く。折角だからと進められて自身と玲瓏の分も焼いて重ね、玲瓏が最後のココアを飾ってテーブルへついた。
ありがとうと綴られたチョコレートを飾ったクレープがそれぞれの手元へ届けられ、ささやかな労いの時間が過ぎていった。
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相談 カリアナ・ノート(ka3733) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/12/16 12:15:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/15 15:44:05 |