ゲスト
(ka0000)
【虚動】不滅の剣魔クリピクロウズ
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/09 22:00
- 完成日
- 2015/01/20 07:07
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
実験会場から逃げ出した、歪虚に操られたCAM。その逃走先と予測される地点には、既に数台の魔導アーマーとそれを扱う研究者などが集まっている。その中には、ブリジッタ・ビットマンとリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)、今作戦の為に招集されたハンター達の姿もあった。
第二師団の師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)と、彼女の率いる精鋭達がここに辿り着いたのは、多数の魔導装置を関係者が忙しそうに設置している頃だ。
「おー、何かいっぱいあるけど、一個も分かんねえな」
その様子を、シュタークは屈託なく眺めていた。その表情には、昂ぶる闘争心を奥に湛えた野性味を感じさせる笑みが浮かんでいる。
「あ、あんたが、第二師団の団長なのよ?」
そこに声をかけたのは、リーゼロッテを背後に伴うブリジッタだ。たむろする意気軒昂な団員達の様子に、気丈に振る舞いながらもその声は僅かに震えている。
「ん? ……なんだチビ助、お子様は立入禁止だぞ? ほれ、お母さんと一緒に帰れ。送ってやろうか?」
振り返り声の主を確認したシュタークは、その視線に合わせるように腰を下ろすとポンポンとその小さな頭に手を乗せる。
「ち、チビでもお子様でもないしっ、気安く触るなーなのよこのデカブツ!」
それにビクリと震えたブリジッタが、慌てて払いのけようと手を振り回す……が、その細腕はぺちぺちと体積の違いすぎる腕を叩くだけだ。
「ちょ、ちょっとブリちゃんっ……ごめんなさい、この子はブリジッタ・ビットマン。これでも、立派な研究者なんですよ?」
「これでもって何なのよー! ボインのくせに、なーんかぐーいあるのよ!」
万力で挟まれたように身動きが取れないまま、ブリジッタはばたばたと暴れる。
「ほー、こんなちっこいのもいるのか。んで、そのブリ何とかとボインさんが何の用だ?」
感心したようにシュタークはブリッタをまじまじと眺め、ようやく手を離して立ち上がった。
自由になったブリジッタは、頭をくしゃと払うと怯えた子犬のようにばっと距離を取って眼前の巨躯を睨みつける。
「ボイン……こほん、私は、錬金術師組合のリーゼロッテ・クリューガーです。ちなみに、まだこんな大きな子のいるような歳じゃありません」
「……あたしらは、作戦のせつめーに来たのよ」
もう説明とかどうでもいいからここを離れたい、そう思うブリジッタだった。
●
「――なるほど。そのスペシャルランチメニューとやらが出来上がるまで、時間稼ぎすりゃいいんだな?」
「何かちょっと違うのよー!」
掻い摘んだとはいえ、長々と説明しての反応がこれだ。
「ス・ペ・ル・ラ・ン・チャー! なのよ!」
肩で息をし、ブリジッタはシュタークのアホさ加減に辟易しながらもひたむきに説明を試みる。
「まあ、名前なんてどうでもいいじゃねえの。あたしは、こっちに来るでけえのをぶちのめす。そんだけだろ?」
「くっ……これだから覚醒者は……い、いや、こんなアホはこのデカブツだけなのよ……!」
豪快に笑うシュタークを前に、ブリジッタは頭を抱える。
「あっはっは、あんま細けえこと考えんなよ。ハゲるぞ?」
「もういいのよさ! さっさと行けデカブツ!」
しっしと、ブリジッタは追い払うように大きく手を振る。
彼女にはまだこれから諸々の作業が待っているのだ。無駄な時間と脳を使っている場合ではない。
●
第二師団は、実験会場の警護においてアイゼンハンダーの侵入を許し、歪虚と化したCAMまでみすみす逃してしまった。
歪虚が想定以上の戦力を傾けてきた、と言えば今回ばかりは通るだろう。
しかし、第二師団という部隊は、最前線で決して膝を折らずに帝国を守る存在だ。その意義を問うような失態は、その矜持を傷つけるに充分だった。
「おっらぁっ!」
シュタークの大剣が、CAMの脚部を強く叩く。装甲が凹み、バランスを崩したCAMが嫌に生物的な動きで地面に手をついて体勢を立て直す。
「団長に続けぇっ!」
その隙を狙って、ラディスラウス兵長の率いる近接部隊が一斉攻撃を仕掛けた。
今回の任務こそは、完遂しなければならない。その思いが、歪虚CAMの足を留めている。
「はっは! このまま行きゃ、ここでやっちまえるんじゃねえの!」
シュタークが、ナイフと言うには巨大過ぎる切っ先を飛び退って回避する。その目は、勝利を確信していた。
だが、
「……ん?」
不意に、視界の隅に妙なものを見つけた。
――黒いボロ布をマントのように巻いた、一体のスケルトン。
それは、いつの間にか間近に現れていた。
どこから、どうやって。
そんな些末事など考えるまでもない。シュタークはCAMの懐に入るべく、強烈に地面を蹴りつけていた。巨躯が砲弾のように跳び、通り道ついでに骨を殴り飛ばす。
パンと乾いた音が響いて、頭蓋骨が弾け飛ぶ。それで終わり。
そのままシュタークは、大剣を勢い良くCAMに向けて振り下ろし――
「――っ!」
その刹那、背後に莫大な殺気を感じ、シュタークは咄嗟に真横に飛んでいた。次の瞬間、彼女の頬が裂け、鮮血が舞う。
「なに……っ?」
呆気にとられつつ振り返れば……そこには、先ほどの骨が立っていた。小柄な体格に似合わない、大き目な拳を突き出したまま。
その拳が、シュタークのそれと全く同じ大きさだということに、彼女は気づかない。
「ち、邪魔すんじゃねえ!」
そうしている間にも、CAMは逃走を試みている。
シュタークは一息に骨との距離を詰め、一撃の下に葬ろうとし――切っ先は、骨の拳によって受け止められた。まるで鉄の塊を殴ったかのような衝撃が腕を伝う。
「嘘だろ!」
「だ、団長っ、そいつはもしかして、けん……!」
その様子を見た団員が、何かを言いかけた時だ。
ぼう、と髑髏の奥に淡い光が灯ったかと思うと、
「……っ、てめえら伏せろ!」
骨を中心に百メートル近くの範囲を、見えない衝撃波がまとめて吹き飛ばした。
●
不滅の剣魔クリピクロウズ。黒いボロ布を纏ったスケルトン。
団員達や遮蔽物の一切、仲間であるはずの歪虚CAMすら吹き飛ばして、剣魔はある一点を目指してゆっくりと歩く。
「っらぁ!」
シュタークの攻撃は、ぐるんと振り返った剣魔の大剣に受け止められる。次いで放たれた嵐のような無数の斬撃全てが、同じ末路を辿った。
直後、剣魔はシュタークと全く同じ軌道を描く、しかしより速度も重さも増した斬撃を繰り出してくる。
「く、そっ! 何だこいつは!」
受け流し、躱し、防御に徹すれば何とか持ちこたえられる。
だが、こちらの攻撃が全く通じない。
彼女以外の団員がその場にいた頃は、隙を突いた彼らの攻撃であっさりと倒せることもあった。しかしそれも、加速度的に通用しなくなっていく。
そうして残ったのは、シュターク一人。彼女を超える強さを発揮する剣魔を前に、立っていられる団員はいない。
第二師団の師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)と、彼女の率いる精鋭達がここに辿り着いたのは、多数の魔導装置を関係者が忙しそうに設置している頃だ。
「おー、何かいっぱいあるけど、一個も分かんねえな」
その様子を、シュタークは屈託なく眺めていた。その表情には、昂ぶる闘争心を奥に湛えた野性味を感じさせる笑みが浮かんでいる。
「あ、あんたが、第二師団の団長なのよ?」
そこに声をかけたのは、リーゼロッテを背後に伴うブリジッタだ。たむろする意気軒昂な団員達の様子に、気丈に振る舞いながらもその声は僅かに震えている。
「ん? ……なんだチビ助、お子様は立入禁止だぞ? ほれ、お母さんと一緒に帰れ。送ってやろうか?」
振り返り声の主を確認したシュタークは、その視線に合わせるように腰を下ろすとポンポンとその小さな頭に手を乗せる。
「ち、チビでもお子様でもないしっ、気安く触るなーなのよこのデカブツ!」
それにビクリと震えたブリジッタが、慌てて払いのけようと手を振り回す……が、その細腕はぺちぺちと体積の違いすぎる腕を叩くだけだ。
「ちょ、ちょっとブリちゃんっ……ごめんなさい、この子はブリジッタ・ビットマン。これでも、立派な研究者なんですよ?」
「これでもって何なのよー! ボインのくせに、なーんかぐーいあるのよ!」
万力で挟まれたように身動きが取れないまま、ブリジッタはばたばたと暴れる。
「ほー、こんなちっこいのもいるのか。んで、そのブリ何とかとボインさんが何の用だ?」
感心したようにシュタークはブリッタをまじまじと眺め、ようやく手を離して立ち上がった。
自由になったブリジッタは、頭をくしゃと払うと怯えた子犬のようにばっと距離を取って眼前の巨躯を睨みつける。
「ボイン……こほん、私は、錬金術師組合のリーゼロッテ・クリューガーです。ちなみに、まだこんな大きな子のいるような歳じゃありません」
「……あたしらは、作戦のせつめーに来たのよ」
もう説明とかどうでもいいからここを離れたい、そう思うブリジッタだった。
●
「――なるほど。そのスペシャルランチメニューとやらが出来上がるまで、時間稼ぎすりゃいいんだな?」
「何かちょっと違うのよー!」
掻い摘んだとはいえ、長々と説明しての反応がこれだ。
「ス・ペ・ル・ラ・ン・チャー! なのよ!」
肩で息をし、ブリジッタはシュタークのアホさ加減に辟易しながらもひたむきに説明を試みる。
「まあ、名前なんてどうでもいいじゃねえの。あたしは、こっちに来るでけえのをぶちのめす。そんだけだろ?」
「くっ……これだから覚醒者は……い、いや、こんなアホはこのデカブツだけなのよ……!」
豪快に笑うシュタークを前に、ブリジッタは頭を抱える。
「あっはっは、あんま細けえこと考えんなよ。ハゲるぞ?」
「もういいのよさ! さっさと行けデカブツ!」
しっしと、ブリジッタは追い払うように大きく手を振る。
彼女にはまだこれから諸々の作業が待っているのだ。無駄な時間と脳を使っている場合ではない。
●
第二師団は、実験会場の警護においてアイゼンハンダーの侵入を許し、歪虚と化したCAMまでみすみす逃してしまった。
歪虚が想定以上の戦力を傾けてきた、と言えば今回ばかりは通るだろう。
しかし、第二師団という部隊は、最前線で決して膝を折らずに帝国を守る存在だ。その意義を問うような失態は、その矜持を傷つけるに充分だった。
「おっらぁっ!」
シュタークの大剣が、CAMの脚部を強く叩く。装甲が凹み、バランスを崩したCAMが嫌に生物的な動きで地面に手をついて体勢を立て直す。
「団長に続けぇっ!」
その隙を狙って、ラディスラウス兵長の率いる近接部隊が一斉攻撃を仕掛けた。
今回の任務こそは、完遂しなければならない。その思いが、歪虚CAMの足を留めている。
「はっは! このまま行きゃ、ここでやっちまえるんじゃねえの!」
シュタークが、ナイフと言うには巨大過ぎる切っ先を飛び退って回避する。その目は、勝利を確信していた。
だが、
「……ん?」
不意に、視界の隅に妙なものを見つけた。
――黒いボロ布をマントのように巻いた、一体のスケルトン。
それは、いつの間にか間近に現れていた。
どこから、どうやって。
そんな些末事など考えるまでもない。シュタークはCAMの懐に入るべく、強烈に地面を蹴りつけていた。巨躯が砲弾のように跳び、通り道ついでに骨を殴り飛ばす。
パンと乾いた音が響いて、頭蓋骨が弾け飛ぶ。それで終わり。
そのままシュタークは、大剣を勢い良くCAMに向けて振り下ろし――
「――っ!」
その刹那、背後に莫大な殺気を感じ、シュタークは咄嗟に真横に飛んでいた。次の瞬間、彼女の頬が裂け、鮮血が舞う。
「なに……っ?」
呆気にとられつつ振り返れば……そこには、先ほどの骨が立っていた。小柄な体格に似合わない、大き目な拳を突き出したまま。
その拳が、シュタークのそれと全く同じ大きさだということに、彼女は気づかない。
「ち、邪魔すんじゃねえ!」
そうしている間にも、CAMは逃走を試みている。
シュタークは一息に骨との距離を詰め、一撃の下に葬ろうとし――切っ先は、骨の拳によって受け止められた。まるで鉄の塊を殴ったかのような衝撃が腕を伝う。
「嘘だろ!」
「だ、団長っ、そいつはもしかして、けん……!」
その様子を見た団員が、何かを言いかけた時だ。
ぼう、と髑髏の奥に淡い光が灯ったかと思うと、
「……っ、てめえら伏せろ!」
骨を中心に百メートル近くの範囲を、見えない衝撃波がまとめて吹き飛ばした。
●
不滅の剣魔クリピクロウズ。黒いボロ布を纏ったスケルトン。
団員達や遮蔽物の一切、仲間であるはずの歪虚CAMすら吹き飛ばして、剣魔はある一点を目指してゆっくりと歩く。
「っらぁ!」
シュタークの攻撃は、ぐるんと振り返った剣魔の大剣に受け止められる。次いで放たれた嵐のような無数の斬撃全てが、同じ末路を辿った。
直後、剣魔はシュタークと全く同じ軌道を描く、しかしより速度も重さも増した斬撃を繰り出してくる。
「く、そっ! 何だこいつは!」
受け流し、躱し、防御に徹すれば何とか持ちこたえられる。
だが、こちらの攻撃が全く通じない。
彼女以外の団員がその場にいた頃は、隙を突いた彼らの攻撃であっさりと倒せることもあった。しかしそれも、加速度的に通用しなくなっていく。
そうして残ったのは、シュターク一人。彼女を超える強さを発揮する剣魔を前に、立っていられる団員はいない。
リプレイ本文
二つの重く固い塊がぶつかり合い、連なった音は無数の爆撃の如く辺りを揺らす。
ただし、両者は互角ではない。全く同じ動きを模倣しながらも、剣魔は確実にシュタークを追い詰めていく。
一方的だ。
遠からず、シュタークが突破されてしまうだろうことが見て取れた。
「っしゃあ! 間に合ったぁっ!」
そんな剣魔の背後から、斧の一撃が振るわれた。容易く剣魔の頭蓋は砕け、辺りに破片を撒き散らす。
事前にカナタ・ハテナ(ka2130)とアイビス・グラス(ka2477)に聞いていたとはいえ、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は思った以上の軽い手応えに驚きを覚える。
頭部を失い傾ぐ体を、勢い余ったシュタークの大剣が粉砕する。
「……っ、援軍か。ありがてえが気をつけろよ」
シュタークは荒く息を吐き、崩れ落ちる骨に視線を向けながら言う。
「お願いだから、もう少し持って頂戴ね、私の体……」
過去に対峙した剣魔の姿と同じその骨を前に、アイビスは苦々しく呟いた。よりによって、他所の戦闘で負傷してしまっているこの時に出てこなくてもいいのにと。
「聞いてた通り不死身だよーぅ……」
超級まりお(ka0824)の声の先で、剣魔は既に体の再構築を始めていた。かちゃかちゃと乾いた音を立てながら、逆回しのように骨の破片が組み上がっていく。
咄嗟に、まりおはその渦中に飛び込んでいた。
「でも、ここで引き下がるわけにはいかないモンね。この再生カルシウムめー!!」
元の場所に帰ろうと浮き上がった大き目の骨を掴んで、力の限り放り投げる。
「効果があるのか知らねえが……!」
「ミィリアも手伝うよ!」
「時間稼ぎにはなりますかね!」
ボルディアとミィリア(ka2689)、リリティア・オルベール(ka3054)が次いで駆け寄り、同じく骨を投げ飛ばす。
直後に再生を終えた剣魔は、自身の体が少し軽くなったことに違和感を覚えたのか、手の平を見つめて首を傾げた。
「っらぁ!」
しかしそんな場違いな状態からでも、シュタークの剣は容易に受け止められる。
「成程、これが剣魔か。いや全く以て面白い」
シュタークの攻撃を剣魔が受け止めた瞬間、弥勒 明影(ka0189)は剣魔の死角となる位置から銃撃を加える。銃弾は真っ直ぐに剣魔の側頭部へと飛び――ひゅるんと伸びた剣魔の指が、目に追えない速度で弾を摘みとった。
「――試練として、十二分。不足なしと言えような」
明影は不敵に笑みを浮かべる。
「銃撃が見切られてる……! どこかで覚えたままなのかも!」
「カハハッ! ファンキーな骨野郎じゃねーか!」
アイビスの言葉に、ユハニ・ラハティ(ka1005)は大きく笑う。
「シュタークさん!」
八島 陽(ka1442)は素早くシュタークに駆け寄り、剣魔の特性や、カナタ・ハテナ(ka2130)が準備を行っている作戦などを手短に伝える。
「ああ、何となく分かった!」
シュタークが剣魔の猛攻を受けながら叫び返す。骨を減らした剣魔だが、その攻撃は欠片も衰えない。
「攻撃に変化を加えりゃ、通用すんだろっ?」
一度見た攻撃は効かない。その情報を元に、ボルディアが短剣に切り替え斬りかかる。
しかし、その切っ先が突き刺さる瞬間、剣魔の顔がぐるんと回ってボルディアを見た。いつの間にか、短剣は掴み取られている。
「……っ、おい聞いてた話とちげえぞ!」
「やぁーっ!」
次いでまりおは逆側から、手にした刀を振り下ろし――剣魔がそれに気付くと同時、刃を引いて腰を落とす。放たれたのは足払いだ。
軽い感触。
まるで枯れ枝を蹴ったような衝撃だけで剣魔の両足が地面から離れた。
「やった! キックキック!」
続けてまりおの蹴りが、完全に倒れこんだ剣魔に叩き込まれる。数度の蹴りで、肋骨から頭蓋から、ひび割れて砕け散る。
「なんで俺の攻撃は効かねえんだ!」
怒鳴り、やけくそ気味にボルディアは再び破壊された剣魔の残骸を投げ飛ばす。更にミィリア、リリティアも同じく動き、まりおは残った大きな残骸を細かく砕きに掛かる。
そこで異変が起きた。
投げ飛ばした骨、砕かれた破片。剣魔を構成していた全てが、空中でピタリと静止した。
次の瞬間、糸で引いたようにそれらが剣魔へ殺到する。
そして修復。
剣魔は伽藍堂の眼窩を光らせていた。
ハンター達が驚く間もなく、剣魔が動く。
「衝撃波が――!」
アイビスの言葉が終わらない内に、絶叫と共に剣魔を中心とした見えない力が炸裂した。
●
「さあ急ぐのじゃ、剣魔は待ってはくれんぞ!」
言いながら、カナタは魔導ドリルを地面に突き刺した。それに対し、応と威勢の良い声を上げるのはシャベルやつるはしを持った第二師団の団員達だ。
カナタはスペルランチャーの発射地点で団員の話を聞いた後、とある作戦を思いつき、彼らを伴って発射地点から離れた場所に来ていた。
「おい、どれくらい掘ったらいい」
「うむ、五メートルくらいは欲しいのう」
それを聞いた団員は頷くと、膨大なオーラを纏って覚醒する。周りの団員も次々と覚醒し、瓶の砂糖を掬うように安々と地面を掘り進んでいく。
カナタの想像以上の速度だ。
剣魔に敗北を喫したとは言え、師団の精鋭部隊だ。ついでに、普段から訓練の一環として土木建築を行っている彼らにとって、これくらいのことは造作も無い。
――しかし次の瞬間、剣魔の方角で何かが爆発した。
「衝撃波……お主らはこのまま掘り進めてくれ。カナタは試したい事があるでの!」
言うが早いかカナタは駆け出す。剣魔と戦った経験のある彼女の胸に、一抹の不安がよぎっている。
●
凄まじい力が迸り、数人のハンターが大きく吹き飛ばされた。しかし剣魔は周りを見渡し首を傾げる。まだ、残っている人間がいたからだ。
「話を聞いておいて良かった、ですが……」
「いやー、手裏剣持ってて良かったよ」
衝撃波は、その通り道の一番手前に存在する物体にしか力は及ばないらしい。
咄嗟にリリティアが投げたナイフもまりおの手裏剣も、どこかへ飛んでいってしまった。だが、彼女ら自身は無事だ。
「み、皆は大丈夫なのっ?」
ミィリアも、剣魔から目を逸らすことが出来ないまま、心配そうに声を上げる。
「……シュタークさんが無事な以上、そこまでダメージのある攻撃じゃなさそうだけど」
陽は、大剣を地面に刺し、力づくで衝撃波を防いでいたシュタークにちらと目をやる。
「ああ……ただ、耐えるのは結構しんどいんだなこれが」
シュタークは明らかに消耗していた。目立った怪我はないが、眉間に皺を寄せ荒く息を吐いている。
剣魔に襲いかかってくる動きは見えない。――しかし、再びその目の奥にぼうと光が宿った。
「ちっ、またか。あんまり使いたかなかったが……」
「よぉ姐さん、何やら仕掛けるならちぃと待ってくれ」
「奥の手みたいなのがあるの? だったらコピられるとヤバイから、最終手段でお願いね!」
意を決したようなシュタークの気配を感じ、まりおとユハニが声をかける。
「そうそう、何をやるにしろ、儂等がアイツを弱らせてからで頼むぜ!」
「何か、秘策があるんですか?」
手伝えることがあれば、とリリティアが尋ねれば、シュタークは顔を横に振った。
「手伝いはいらねえな。むしろ、下がってて貰わねえと困る……ま、使うなっつうなら取っとくよ」
それだけ言って、シュタークは剣魔に斬りかかった。やはり、事も無げに大剣は受け止められる。
「まあ、今はあのファンキーな衝撃波を止めねーとな!」
剣魔が攻撃を返した瞬間を狙って、ユハニが援護射撃に移る。しかし、剣魔は自分の鼻先を通って行く弾丸に見向きもせず、当たる弾だけを選んで片手で摘み取っていく。
拳銃も猟銃も同じ物だと捉えられているのだろうか。ユハニの攻撃は掠りもしない。
しかし剣魔の大剣は正確に、シュタークのそれを上回って返ってくる。
「危ない!」
ミィリアが叫ぶ。シュタークの体勢が、一度の攻撃で崩されていた。
蓄積したダメージが響いたのだろう。咄嗟に、ミィリアは両者の間に飛び込んでいた。
剣魔の動きに間髪はない。膨大な質量と速度を持った一撃は、それを受けたミィリアの小さな体を吹き飛ばすのに充分だった。
辛うじて盾を合わせることは出来た。
だが、それだけだ。意識まで彼方へ吹き飛ばしてしまいそうな衝撃が襲う。
「ミィリアさん!」
「こんの再生カルシウム!」
追撃を阻むべく飛び出したまりおとリリティアへ向けて、剣魔が指で銃の形を取った。親指を立て、人差し指の先を二人に。
そして、火薬の炸裂する音が響いた。
児戯の如く指先から、本当に銃弾が放たれる。
「くそ、やらせるか!」
陽はシュタークと、彼女に受け止められたミィリアに防性強化を掛ける。
「おう、ありがとよ!」
それを機に、シュタークは気を取り直して大剣を構える。
陽は頭を振って体勢を立て直そうとするミィリアを横に、剣魔を見据えた。
「子供に手を出すたぁ、ファンキーじゃねーな!」
ユハニが声を荒げるが、回避を行わない剣魔に彼が出来る事は少ない。
「こんなのはどうだ!」
まりおが剣魔の前でくるりと背を向け、刀を持ち替えて振り向きざまに斬りかかれば、剣魔はあっさりとそのフェイントに引っかかって肋骨を飛び散らせた。
「攻撃が通らない……!」
しかしリリティアの刀は閃けど、剣魔はほとんどの攻撃を無効化してしまう。
しかも、返ってくる攻撃は全て、シュタークを超えるもので上書きされるらしい。ただ一つ救いと言えるのは、剣魔がハンター達の撃破を再優先としていないところだろうか。
剣魔は、攻撃を受け止め、返しながら、着実に歩を進めていた。
「エサのことしか、考えておらぬようじゃの」
カナタが駆け付けた頃には、剣魔は想像以上に発射地点から近い場所までやって来ていた。だが、その進路は予想通りのものだ。
「済まぬ。シュタークどん、もう少し耐えてくれ。ミィリアどんも大丈夫かの?」
カナタはシュタークとミィリアにヒールを掛ける。
「……うん、まだ頑張れるよ!」
淡い光を浴びて、ミィリアが元気に胸を張る。
「ったく、ヒョロいガリ野郎にあれだけぶっ飛ばされるとはな!」
そこに、ボルディア、明影、アイビスが追いついた。
「ふむ、目の光が前兆なのは間違いないようだ。そして、妨害を行えば発動を止める事も可能、と」
必要以上に剣魔に近寄らず、明影は離れた位置で分析を行う。
「くっ、前のダメージが無かったら……でも、歪虚達の好き勝手にはさせないから……!」
アイビスは傷を押さえ、息も荒い。しかし瞳に宿る闘志は熱く、剣魔を睨みつける。
「皆、一度下がってくれぬか? 試したいことがある」
「お、回復魔法かな? カナタさんやっちゃってー?」
いきり立つハンター達の前に一歩出て、カナタが剣魔に手を向けヒールを唱えた。
言われた通り、全員が距離を取る。
カナタから沸き立つ淡い光が、きょとんとする剣魔に吸い込まれていき――何事も無く、剣魔はそのままゆっくり歩き始めた。
「ぬ、効果無しか」
「ダメかー。自動人形的な存在だったら、やり返してきそうだと思ったんだけど」
「とにかく、カナタは作戦の方を頼む。攻撃が全部通じなくなった奴は言ってくれ、攻性強化を試してみる」
「うむ、では頼んだぞ!」
陽の言葉にカナタは強く頷き、全力で戻っていく。
「カナタさん達の合図が来るまで、出来る限り引きつけて!」
ここからは、再び総力戦だ。アイビスの声に、全員が武器を構えた。
●
ボルディアはひたすら攻撃に変化をつけていく。三つの武器を、順手や逆手、足払いにフェイントまで織り交ぜて多彩に操る。
「どうだ骨野郎! 俺ぁこういう戦闘は得意だ、生憎だったな! そのまま死んでろボケが!」
何度目か、再生した剣魔の頭蓋に逆手で短剣を突き立てつつボルディアが吐き捨てる。
だが、いつの間にか剣魔は一撃では倒れなくなってきていた。頭に短剣を刺したまま、剣魔は同じ軌道で、しかし次元が違う速度と威力で以ってボルディアに短剣を振るう。
「……っ、させないでござる!」
合間に入ったミィリアが、盾で短剣を受け流す。早過ぎて切っ先を追うことも出来ないが、同じ軌道だと分かっていれば予測くらいはできる。
腕を伝う衝撃は並大抵のものではなく、先ほどのダメージも残っている。だが、ミィリアは決して膝をつかない。こんな無機質な相手に負けてやるほど、彼女の目指すものは軽くない。心が折れない限り、必ず何かが見えてくるはずだ。
「ちょっと肩借りるよー!」
ミィリアが身を挺して作った隙を、まりおは見逃さない。真正面から剣魔を迎えるシュタークの肩を蹴り、高く翻って剣魔を飛び越えると同時に刀を振るう。
明影とユハニは息を併せて挟撃するように銃弾を放つ。しかし弾丸は、剣魔に当たる寸前、空中でピタリと停止した。
「おいおい、そりゃファンキーだぜこの野郎!」
「なんと、手で止めるだけではないのか」
そして、止まった弾がくるりと反転したかと思うと――
「やべ!」
全く同じ軌道を描いて撃ち返された。二人は咄嗟に地面を転がる。頬に熱を感じるが、そんなものを気にしている場合ではない。
「っ、全力で斬り掛かれるのはいいんですけど……!」
弱い攻撃から仕掛けていくという作戦は、剣魔がシュタークの攻撃能力を全ての近接攻撃に適用している時点で既に破綻した。
リリティアは回避を重視し、隙を見て斬りかかる。
だが、
「避けきれない……!」
徐々にリリティアの体力は削られていく。
「だが、確実に奴のエネルギーは減っているはずだ!」
陽もまた、支援に徹しながら剣魔の攻撃に耐えていた。
剣魔が戦列を抜けてくれば、自ら武器の形態を切り替えて斬りかかる。
「もう少し……もう少しだから……!」
アイビスの全身を痛みが襲う。それは、彼女がわざと痛む動きを取っている結果だ。
そしてその結果は、彼女自身にも思わぬ攻撃の変化という形で現れる。痛みは筋肉を動かし、予想外の方向へ流れた拳が剣魔を砕く。
そして、
「皆、ご苦労じゃった! 後はカナタに任せるのじゃ!」
いつの間にか、剣魔はカナタの元へと辿り着いていた。
彼女の背後には、大きな縦穴が掘られている。彼女と第二師団員が、剣魔の足止めを狙って突貫工事で掘ったものだ。
穴は、剣魔とスペルランチャーの間にある。ハンター達が作戦の為に離れれば、剣魔は一直線にカナタへと向かった。
接敵の瞬間、カナタは剣魔の脇へと跳び込む。
「時間を稼げれば、こちらの勝ちじゃからのう!」
そしてそのまま剣魔の背後へ。剣魔は至近に迫った餌のことで頭が一杯なのか、彼女を見もしない。
カナタの鉄扇が、その背を強烈に押す。
その感触は軽かった。剣魔はぐらりと体勢を崩すと、ゆっくりと穴の中に落ちていった。
がしゃんと、落下という攻撃を受けた剣魔の体が音を立てて砕ける。そして再生しながら立ち上がった剣魔は、穴を取り囲むハンター達を暫く見上げ――絶叫を上げた。怨嗟の声は鋭く全員の耳朶を叩き、
「くっ、今のうちにありったけ攻撃を――!」
指示を飛ばそうと声を上げたカナタの眼前に、剣魔が現れていた。
思考が遅れる。穴の底に剣魔はいない。目の前だ。
どうやって、いつの間に。疑問が渦を巻く。
「シュターク姐さん! 奥の手って奴を!」
咄嗟に、ユハニが叫んだ。
「おうよ!」
シュタークが地面を蹴った。穴の上空の剣魔に向けて、大上段から大剣を振り下ろす。
今まで通り、その切っ先は容易く受け止められ。その瞬間に、シュタークは柄頭を思い切り捻った。
――同時に、切っ先から凄まじい爆炎が迸った。熱と爆風が辺りを舐め回す。
「あっちい!」
反動で戻ってきたシュタークが煤塗れで地面を転がる。黒煙を上げる大剣もまた、音を立てて地面を転がった。
「ちょっ、大丈夫ですかっ?」
「いやめっちゃきっつい……だから使いたくねえんだよなぁ」
「これで駄目なら、もう打つ手は無かろうな」
大の字で転がるシュタークを横目に、明影は風に流れる煙に目を凝らす。
しかし、煙の中にも、穴の底にも剣魔の姿はない。
そして、誰もが淡い期待を胸に抱き始めた時だ。
「な、何か地面が揺れてる……?」
陽が呟く。
直後、砂嵐が巻き起こった。
渦を巻く風が、辺りの土砂を巻き上げる。
絶叫が響いた。剣魔の発する、怨嗟の声だ。
渦の中心に殺到する土砂が、次第に人型を取っていく。人型は次々に土砂を取り込んでその体積は膨れ上がり、光る眼窩と恨みを音に変換する口腔を形作る。
「そ、そんなのありー?」
まりおの言葉は全員の共通した思いだった。
骨でなくなった剣魔は、吹き荒れる砂嵐の中でハンター達に目を向ける。そして、手にした大剣を大上段に振りかぶり――ぴたりと、その動きを止めた。同時に嵐も嘘のように収まり、宙の土砂が一気に落ちる。
奇しくも、離れた場所で大きな光が生まれたと時を同じくして。
その眩い光に、ハンター達が一瞬だけ目を伏せた。
そして再び目を開いた時――剣魔は姿を消していた。その場に大量の土砂を残して、何事もなかったかのように。
ただし、両者は互角ではない。全く同じ動きを模倣しながらも、剣魔は確実にシュタークを追い詰めていく。
一方的だ。
遠からず、シュタークが突破されてしまうだろうことが見て取れた。
「っしゃあ! 間に合ったぁっ!」
そんな剣魔の背後から、斧の一撃が振るわれた。容易く剣魔の頭蓋は砕け、辺りに破片を撒き散らす。
事前にカナタ・ハテナ(ka2130)とアイビス・グラス(ka2477)に聞いていたとはいえ、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は思った以上の軽い手応えに驚きを覚える。
頭部を失い傾ぐ体を、勢い余ったシュタークの大剣が粉砕する。
「……っ、援軍か。ありがてえが気をつけろよ」
シュタークは荒く息を吐き、崩れ落ちる骨に視線を向けながら言う。
「お願いだから、もう少し持って頂戴ね、私の体……」
過去に対峙した剣魔の姿と同じその骨を前に、アイビスは苦々しく呟いた。よりによって、他所の戦闘で負傷してしまっているこの時に出てこなくてもいいのにと。
「聞いてた通り不死身だよーぅ……」
超級まりお(ka0824)の声の先で、剣魔は既に体の再構築を始めていた。かちゃかちゃと乾いた音を立てながら、逆回しのように骨の破片が組み上がっていく。
咄嗟に、まりおはその渦中に飛び込んでいた。
「でも、ここで引き下がるわけにはいかないモンね。この再生カルシウムめー!!」
元の場所に帰ろうと浮き上がった大き目の骨を掴んで、力の限り放り投げる。
「効果があるのか知らねえが……!」
「ミィリアも手伝うよ!」
「時間稼ぎにはなりますかね!」
ボルディアとミィリア(ka2689)、リリティア・オルベール(ka3054)が次いで駆け寄り、同じく骨を投げ飛ばす。
直後に再生を終えた剣魔は、自身の体が少し軽くなったことに違和感を覚えたのか、手の平を見つめて首を傾げた。
「っらぁ!」
しかしそんな場違いな状態からでも、シュタークの剣は容易に受け止められる。
「成程、これが剣魔か。いや全く以て面白い」
シュタークの攻撃を剣魔が受け止めた瞬間、弥勒 明影(ka0189)は剣魔の死角となる位置から銃撃を加える。銃弾は真っ直ぐに剣魔の側頭部へと飛び――ひゅるんと伸びた剣魔の指が、目に追えない速度で弾を摘みとった。
「――試練として、十二分。不足なしと言えような」
明影は不敵に笑みを浮かべる。
「銃撃が見切られてる……! どこかで覚えたままなのかも!」
「カハハッ! ファンキーな骨野郎じゃねーか!」
アイビスの言葉に、ユハニ・ラハティ(ka1005)は大きく笑う。
「シュタークさん!」
八島 陽(ka1442)は素早くシュタークに駆け寄り、剣魔の特性や、カナタ・ハテナ(ka2130)が準備を行っている作戦などを手短に伝える。
「ああ、何となく分かった!」
シュタークが剣魔の猛攻を受けながら叫び返す。骨を減らした剣魔だが、その攻撃は欠片も衰えない。
「攻撃に変化を加えりゃ、通用すんだろっ?」
一度見た攻撃は効かない。その情報を元に、ボルディアが短剣に切り替え斬りかかる。
しかし、その切っ先が突き刺さる瞬間、剣魔の顔がぐるんと回ってボルディアを見た。いつの間にか、短剣は掴み取られている。
「……っ、おい聞いてた話とちげえぞ!」
「やぁーっ!」
次いでまりおは逆側から、手にした刀を振り下ろし――剣魔がそれに気付くと同時、刃を引いて腰を落とす。放たれたのは足払いだ。
軽い感触。
まるで枯れ枝を蹴ったような衝撃だけで剣魔の両足が地面から離れた。
「やった! キックキック!」
続けてまりおの蹴りが、完全に倒れこんだ剣魔に叩き込まれる。数度の蹴りで、肋骨から頭蓋から、ひび割れて砕け散る。
「なんで俺の攻撃は効かねえんだ!」
怒鳴り、やけくそ気味にボルディアは再び破壊された剣魔の残骸を投げ飛ばす。更にミィリア、リリティアも同じく動き、まりおは残った大きな残骸を細かく砕きに掛かる。
そこで異変が起きた。
投げ飛ばした骨、砕かれた破片。剣魔を構成していた全てが、空中でピタリと静止した。
次の瞬間、糸で引いたようにそれらが剣魔へ殺到する。
そして修復。
剣魔は伽藍堂の眼窩を光らせていた。
ハンター達が驚く間もなく、剣魔が動く。
「衝撃波が――!」
アイビスの言葉が終わらない内に、絶叫と共に剣魔を中心とした見えない力が炸裂した。
●
「さあ急ぐのじゃ、剣魔は待ってはくれんぞ!」
言いながら、カナタは魔導ドリルを地面に突き刺した。それに対し、応と威勢の良い声を上げるのはシャベルやつるはしを持った第二師団の団員達だ。
カナタはスペルランチャーの発射地点で団員の話を聞いた後、とある作戦を思いつき、彼らを伴って発射地点から離れた場所に来ていた。
「おい、どれくらい掘ったらいい」
「うむ、五メートルくらいは欲しいのう」
それを聞いた団員は頷くと、膨大なオーラを纏って覚醒する。周りの団員も次々と覚醒し、瓶の砂糖を掬うように安々と地面を掘り進んでいく。
カナタの想像以上の速度だ。
剣魔に敗北を喫したとは言え、師団の精鋭部隊だ。ついでに、普段から訓練の一環として土木建築を行っている彼らにとって、これくらいのことは造作も無い。
――しかし次の瞬間、剣魔の方角で何かが爆発した。
「衝撃波……お主らはこのまま掘り進めてくれ。カナタは試したい事があるでの!」
言うが早いかカナタは駆け出す。剣魔と戦った経験のある彼女の胸に、一抹の不安がよぎっている。
●
凄まじい力が迸り、数人のハンターが大きく吹き飛ばされた。しかし剣魔は周りを見渡し首を傾げる。まだ、残っている人間がいたからだ。
「話を聞いておいて良かった、ですが……」
「いやー、手裏剣持ってて良かったよ」
衝撃波は、その通り道の一番手前に存在する物体にしか力は及ばないらしい。
咄嗟にリリティアが投げたナイフもまりおの手裏剣も、どこかへ飛んでいってしまった。だが、彼女ら自身は無事だ。
「み、皆は大丈夫なのっ?」
ミィリアも、剣魔から目を逸らすことが出来ないまま、心配そうに声を上げる。
「……シュタークさんが無事な以上、そこまでダメージのある攻撃じゃなさそうだけど」
陽は、大剣を地面に刺し、力づくで衝撃波を防いでいたシュタークにちらと目をやる。
「ああ……ただ、耐えるのは結構しんどいんだなこれが」
シュタークは明らかに消耗していた。目立った怪我はないが、眉間に皺を寄せ荒く息を吐いている。
剣魔に襲いかかってくる動きは見えない。――しかし、再びその目の奥にぼうと光が宿った。
「ちっ、またか。あんまり使いたかなかったが……」
「よぉ姐さん、何やら仕掛けるならちぃと待ってくれ」
「奥の手みたいなのがあるの? だったらコピられるとヤバイから、最終手段でお願いね!」
意を決したようなシュタークの気配を感じ、まりおとユハニが声をかける。
「そうそう、何をやるにしろ、儂等がアイツを弱らせてからで頼むぜ!」
「何か、秘策があるんですか?」
手伝えることがあれば、とリリティアが尋ねれば、シュタークは顔を横に振った。
「手伝いはいらねえな。むしろ、下がってて貰わねえと困る……ま、使うなっつうなら取っとくよ」
それだけ言って、シュタークは剣魔に斬りかかった。やはり、事も無げに大剣は受け止められる。
「まあ、今はあのファンキーな衝撃波を止めねーとな!」
剣魔が攻撃を返した瞬間を狙って、ユハニが援護射撃に移る。しかし、剣魔は自分の鼻先を通って行く弾丸に見向きもせず、当たる弾だけを選んで片手で摘み取っていく。
拳銃も猟銃も同じ物だと捉えられているのだろうか。ユハニの攻撃は掠りもしない。
しかし剣魔の大剣は正確に、シュタークのそれを上回って返ってくる。
「危ない!」
ミィリアが叫ぶ。シュタークの体勢が、一度の攻撃で崩されていた。
蓄積したダメージが響いたのだろう。咄嗟に、ミィリアは両者の間に飛び込んでいた。
剣魔の動きに間髪はない。膨大な質量と速度を持った一撃は、それを受けたミィリアの小さな体を吹き飛ばすのに充分だった。
辛うじて盾を合わせることは出来た。
だが、それだけだ。意識まで彼方へ吹き飛ばしてしまいそうな衝撃が襲う。
「ミィリアさん!」
「こんの再生カルシウム!」
追撃を阻むべく飛び出したまりおとリリティアへ向けて、剣魔が指で銃の形を取った。親指を立て、人差し指の先を二人に。
そして、火薬の炸裂する音が響いた。
児戯の如く指先から、本当に銃弾が放たれる。
「くそ、やらせるか!」
陽はシュタークと、彼女に受け止められたミィリアに防性強化を掛ける。
「おう、ありがとよ!」
それを機に、シュタークは気を取り直して大剣を構える。
陽は頭を振って体勢を立て直そうとするミィリアを横に、剣魔を見据えた。
「子供に手を出すたぁ、ファンキーじゃねーな!」
ユハニが声を荒げるが、回避を行わない剣魔に彼が出来る事は少ない。
「こんなのはどうだ!」
まりおが剣魔の前でくるりと背を向け、刀を持ち替えて振り向きざまに斬りかかれば、剣魔はあっさりとそのフェイントに引っかかって肋骨を飛び散らせた。
「攻撃が通らない……!」
しかしリリティアの刀は閃けど、剣魔はほとんどの攻撃を無効化してしまう。
しかも、返ってくる攻撃は全て、シュタークを超えるもので上書きされるらしい。ただ一つ救いと言えるのは、剣魔がハンター達の撃破を再優先としていないところだろうか。
剣魔は、攻撃を受け止め、返しながら、着実に歩を進めていた。
「エサのことしか、考えておらぬようじゃの」
カナタが駆け付けた頃には、剣魔は想像以上に発射地点から近い場所までやって来ていた。だが、その進路は予想通りのものだ。
「済まぬ。シュタークどん、もう少し耐えてくれ。ミィリアどんも大丈夫かの?」
カナタはシュタークとミィリアにヒールを掛ける。
「……うん、まだ頑張れるよ!」
淡い光を浴びて、ミィリアが元気に胸を張る。
「ったく、ヒョロいガリ野郎にあれだけぶっ飛ばされるとはな!」
そこに、ボルディア、明影、アイビスが追いついた。
「ふむ、目の光が前兆なのは間違いないようだ。そして、妨害を行えば発動を止める事も可能、と」
必要以上に剣魔に近寄らず、明影は離れた位置で分析を行う。
「くっ、前のダメージが無かったら……でも、歪虚達の好き勝手にはさせないから……!」
アイビスは傷を押さえ、息も荒い。しかし瞳に宿る闘志は熱く、剣魔を睨みつける。
「皆、一度下がってくれぬか? 試したいことがある」
「お、回復魔法かな? カナタさんやっちゃってー?」
いきり立つハンター達の前に一歩出て、カナタが剣魔に手を向けヒールを唱えた。
言われた通り、全員が距離を取る。
カナタから沸き立つ淡い光が、きょとんとする剣魔に吸い込まれていき――何事も無く、剣魔はそのままゆっくり歩き始めた。
「ぬ、効果無しか」
「ダメかー。自動人形的な存在だったら、やり返してきそうだと思ったんだけど」
「とにかく、カナタは作戦の方を頼む。攻撃が全部通じなくなった奴は言ってくれ、攻性強化を試してみる」
「うむ、では頼んだぞ!」
陽の言葉にカナタは強く頷き、全力で戻っていく。
「カナタさん達の合図が来るまで、出来る限り引きつけて!」
ここからは、再び総力戦だ。アイビスの声に、全員が武器を構えた。
●
ボルディアはひたすら攻撃に変化をつけていく。三つの武器を、順手や逆手、足払いにフェイントまで織り交ぜて多彩に操る。
「どうだ骨野郎! 俺ぁこういう戦闘は得意だ、生憎だったな! そのまま死んでろボケが!」
何度目か、再生した剣魔の頭蓋に逆手で短剣を突き立てつつボルディアが吐き捨てる。
だが、いつの間にか剣魔は一撃では倒れなくなってきていた。頭に短剣を刺したまま、剣魔は同じ軌道で、しかし次元が違う速度と威力で以ってボルディアに短剣を振るう。
「……っ、させないでござる!」
合間に入ったミィリアが、盾で短剣を受け流す。早過ぎて切っ先を追うことも出来ないが、同じ軌道だと分かっていれば予測くらいはできる。
腕を伝う衝撃は並大抵のものではなく、先ほどのダメージも残っている。だが、ミィリアは決して膝をつかない。こんな無機質な相手に負けてやるほど、彼女の目指すものは軽くない。心が折れない限り、必ず何かが見えてくるはずだ。
「ちょっと肩借りるよー!」
ミィリアが身を挺して作った隙を、まりおは見逃さない。真正面から剣魔を迎えるシュタークの肩を蹴り、高く翻って剣魔を飛び越えると同時に刀を振るう。
明影とユハニは息を併せて挟撃するように銃弾を放つ。しかし弾丸は、剣魔に当たる寸前、空中でピタリと停止した。
「おいおい、そりゃファンキーだぜこの野郎!」
「なんと、手で止めるだけではないのか」
そして、止まった弾がくるりと反転したかと思うと――
「やべ!」
全く同じ軌道を描いて撃ち返された。二人は咄嗟に地面を転がる。頬に熱を感じるが、そんなものを気にしている場合ではない。
「っ、全力で斬り掛かれるのはいいんですけど……!」
弱い攻撃から仕掛けていくという作戦は、剣魔がシュタークの攻撃能力を全ての近接攻撃に適用している時点で既に破綻した。
リリティアは回避を重視し、隙を見て斬りかかる。
だが、
「避けきれない……!」
徐々にリリティアの体力は削られていく。
「だが、確実に奴のエネルギーは減っているはずだ!」
陽もまた、支援に徹しながら剣魔の攻撃に耐えていた。
剣魔が戦列を抜けてくれば、自ら武器の形態を切り替えて斬りかかる。
「もう少し……もう少しだから……!」
アイビスの全身を痛みが襲う。それは、彼女がわざと痛む動きを取っている結果だ。
そしてその結果は、彼女自身にも思わぬ攻撃の変化という形で現れる。痛みは筋肉を動かし、予想外の方向へ流れた拳が剣魔を砕く。
そして、
「皆、ご苦労じゃった! 後はカナタに任せるのじゃ!」
いつの間にか、剣魔はカナタの元へと辿り着いていた。
彼女の背後には、大きな縦穴が掘られている。彼女と第二師団員が、剣魔の足止めを狙って突貫工事で掘ったものだ。
穴は、剣魔とスペルランチャーの間にある。ハンター達が作戦の為に離れれば、剣魔は一直線にカナタへと向かった。
接敵の瞬間、カナタは剣魔の脇へと跳び込む。
「時間を稼げれば、こちらの勝ちじゃからのう!」
そしてそのまま剣魔の背後へ。剣魔は至近に迫った餌のことで頭が一杯なのか、彼女を見もしない。
カナタの鉄扇が、その背を強烈に押す。
その感触は軽かった。剣魔はぐらりと体勢を崩すと、ゆっくりと穴の中に落ちていった。
がしゃんと、落下という攻撃を受けた剣魔の体が音を立てて砕ける。そして再生しながら立ち上がった剣魔は、穴を取り囲むハンター達を暫く見上げ――絶叫を上げた。怨嗟の声は鋭く全員の耳朶を叩き、
「くっ、今のうちにありったけ攻撃を――!」
指示を飛ばそうと声を上げたカナタの眼前に、剣魔が現れていた。
思考が遅れる。穴の底に剣魔はいない。目の前だ。
どうやって、いつの間に。疑問が渦を巻く。
「シュターク姐さん! 奥の手って奴を!」
咄嗟に、ユハニが叫んだ。
「おうよ!」
シュタークが地面を蹴った。穴の上空の剣魔に向けて、大上段から大剣を振り下ろす。
今まで通り、その切っ先は容易く受け止められ。その瞬間に、シュタークは柄頭を思い切り捻った。
――同時に、切っ先から凄まじい爆炎が迸った。熱と爆風が辺りを舐め回す。
「あっちい!」
反動で戻ってきたシュタークが煤塗れで地面を転がる。黒煙を上げる大剣もまた、音を立てて地面を転がった。
「ちょっ、大丈夫ですかっ?」
「いやめっちゃきっつい……だから使いたくねえんだよなぁ」
「これで駄目なら、もう打つ手は無かろうな」
大の字で転がるシュタークを横目に、明影は風に流れる煙に目を凝らす。
しかし、煙の中にも、穴の底にも剣魔の姿はない。
そして、誰もが淡い期待を胸に抱き始めた時だ。
「な、何か地面が揺れてる……?」
陽が呟く。
直後、砂嵐が巻き起こった。
渦を巻く風が、辺りの土砂を巻き上げる。
絶叫が響いた。剣魔の発する、怨嗟の声だ。
渦の中心に殺到する土砂が、次第に人型を取っていく。人型は次々に土砂を取り込んでその体積は膨れ上がり、光る眼窩と恨みを音に変換する口腔を形作る。
「そ、そんなのありー?」
まりおの言葉は全員の共通した思いだった。
骨でなくなった剣魔は、吹き荒れる砂嵐の中でハンター達に目を向ける。そして、手にした大剣を大上段に振りかぶり――ぴたりと、その動きを止めた。同時に嵐も嘘のように収まり、宙の土砂が一気に落ちる。
奇しくも、離れた場所で大きな光が生まれたと時を同じくして。
その眩い光に、ハンター達が一瞬だけ目を伏せた。
そして再び目を開いた時――剣魔は姿を消していた。その場に大量の土砂を残して、何事もなかったかのように。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ミィリア(ka2689) ドワーフ|12才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/09 21:03:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/07 02:36:01 |
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質問卓 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/01/04 18:41:28 |