ゲスト
(ka0000)
商工会、冬のインターンシップのお知らせ
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/21 07:30
- 完成日
- 2018/12/31 00:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ヴァリオス商工会館・応接室。
気品と尊厳を兼ね備えた商売人たちの「顔」たるこの場所で、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)は自分の呼ばれた意味をいまいち飲み込めないままでいた。
というのも贔屓にしているちょっと言葉足らずな受付嬢の紹介で「行け」と言われただけであり、その用事がなんなのかも知らされていなかった。
とうの受付嬢はというと――聖輝節の売り上げ合戦だがなんだかで、ここのところひっきりなしにケーキ屋で働いている。
しばらく待たされたのち、彼女の前に現れたのはエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)と名乗る青年の優男だった。
数年間を同盟で過ごしたアンナなら名前くらいは知っている。
ヴァリオス商工会の青年会派閥のトップにして評議会議員の1人。
またの名を、若くして貿易で一財築いた「航海王子」その人だ。
畏まった挨拶もそこそこに、多少の身の上話を交えながらエヴァルドは本題に入る。
その内容を聞いて、アンナは思わず首をかしげて問い返してしまった。
「私に会長の秘書を……ですか?」
エヴァルドはにこやかな自信に満ちた笑みで、こくりと頷きかえす。
「ええ。最近多忙を極めておりまして。そろそろ秘書の1人でも持とうと、人脈の広い受付嬢さんに相談させていただいたところ――『ちょうど活き良いのがいる』とご紹介を受けた次第です」
「……また雑な紹介を」
友人の悪びれない笑顔を脳裏に浮かべ、頭を抱える。
「なぜハンターに声を? 同じ商工会の会員でもよいのでは?」
「秘書としての仕事はもちろんこなしていただきます。しかしそれと同時に、傍付きとしてボディガードも兼ねて欲しいというのがこちらの条件でした。最近、都市を行き来する機会も増えましたのでね。本来ならそれぞれ別に雇うべきですが……私が自由に使える商工会の資産にも限りがありますので、2つの仕事を一緒くたにできる人物が望ましいのです。ハンターというだけで一般的なボディガードの素質としては十二分。あとは秘書として優秀な人材を求めるだけ。非常に合理的な判断です」
「なるほど、お話は分かりました」
アンナは一息入れるように、出されたお茶に口をつける。
唇を潤して、それからふと、視線を落とした。
「だとしたら、私がお力になれるとは考えられません。だいいち商売をしたことがないのですから」
断りのつもりで口にしたアンナだったが、エヴァルドはその言葉を待っていたかのように、ニコリと口角をあげる。
「リアルブルーでは政治学と社会学を学んでいたと――そう、お聞きしておりますが」
アンナは外した視線を彼の方へと戻した。
「その情報は『彼女』からですか……確かに、専攻と付随分野として学んでおりました」
「でしたら、まさしく私の求める人材だ」
アンナの肯定に、エヴァルドは心持弾んだ調子で答えた。
「文化的な側面で、リアルブルーはクリムゾンウェストよりも数百年先を行っています。それは政治や社会的な側面であっても同じこと。我々の住むこの世界の経済概念は、そちらの世界ではすでに過去の遺物なのではありませんか?」
「一概にそうだとは言い切れませんが……おおむね『歴史』として学ぶ分野ではあります」
「素晴らしい」
エヴァルドは被せぎみに言い切る。
「ヴァリオスも、他の都市も、他の国家も、いつまでも今のままで未来へつながっていくことはありえない。新たな国家。新たな主権。新たな制度。そして新たな経済。それは目前のことではなくとも、近くも遠い将来、何度となく繰り返されていく事でしょう。同盟諸都市が王国から独立した時のように」
「それに関しては私も同意見です。現に他の国家ではすでにそう言った動きもみられているそうですね」
「そう。だからこそ、私は学びたいのです。リアルブルーという文化的未来を生きたその経験から」
落ち着き払ったように見えて、熱意のこもったエヴァルドの瞳。
それをどこか恐ろしいものと感じながら、アンナは気圧されるように言葉を濁した。
「私はまだまだ学徒の身でした。こちらの世界に転移してからは研究もままならない日々です。とても、人に教えられるような人間では……」
「構いません。秘書として私の仕事を手伝っていただきながら、時折、感じたことや思ったことを素直に口にしてくださればよいのです。その言葉のひとつひとつは、私にとっては未来から送られて来たメッセージに等しいのですから」
言い切って、エヴァルドはそれ以上言葉を重ねることをしなかった。
返事を待っている。
時間を与えられていることに気づいて、アンナは言われた通りに、正直に今の心境を語った。
「……すみません。突然のことで……少し、考えさせていただけませんか」
「もちろんです。指針になるのなら、報酬の話をしても構いませんよ」
「それは引き受けるかどうかを決めてからでお願いします」
「素晴らしい」
称えるように、エヴァルドは目を細めてほほ笑んだ。
「そうだ。迷われているあなたに、ちょうどいいイベントがあるのですが」
話を切り替えるように、エヴァルドはぽんと拍子を打つ。
「イベント、ですか?」
彼は傍にあった羊皮紙を1枚取り出すと、それを向かい合うテーブルの上に広げてみせた。
そこには整った字体で「ヴァリオス商工会・冬のインターンシップのお知らせ」と書かれていた。
「職場体験、というものだそうですね。リアルブルー出身の会員からうかがって、私どもでも取り入れてみようと企画したものです」
商工会の仕事を体感する6日間の職場体験。
どうやら募集者をグループ分けして、それぞれに仕事を割り振りこなしてもらう、という形式のようだ。
なるほど、リアルブルーの良いところは取り入れていこうと――エヴァルドの熱意に嘘がないことは、アンナにもなんとなく理解できたような気がした。
「分かりました。では、お返事はこれに参加をしてみてから――で構わないでしょうか」
「ええ。ぜひそうしてください。もちろん、色よいお返事を待っていますよ」
インターンの開始は数日後。
まずはこの目の前の案件に集中して取り組もう。
それがハンターとしてのアンナの、唯一絶対の信条だから。
気品と尊厳を兼ね備えた商売人たちの「顔」たるこの場所で、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)は自分の呼ばれた意味をいまいち飲み込めないままでいた。
というのも贔屓にしているちょっと言葉足らずな受付嬢の紹介で「行け」と言われただけであり、その用事がなんなのかも知らされていなかった。
とうの受付嬢はというと――聖輝節の売り上げ合戦だがなんだかで、ここのところひっきりなしにケーキ屋で働いている。
しばらく待たされたのち、彼女の前に現れたのはエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)と名乗る青年の優男だった。
数年間を同盟で過ごしたアンナなら名前くらいは知っている。
ヴァリオス商工会の青年会派閥のトップにして評議会議員の1人。
またの名を、若くして貿易で一財築いた「航海王子」その人だ。
畏まった挨拶もそこそこに、多少の身の上話を交えながらエヴァルドは本題に入る。
その内容を聞いて、アンナは思わず首をかしげて問い返してしまった。
「私に会長の秘書を……ですか?」
エヴァルドはにこやかな自信に満ちた笑みで、こくりと頷きかえす。
「ええ。最近多忙を極めておりまして。そろそろ秘書の1人でも持とうと、人脈の広い受付嬢さんに相談させていただいたところ――『ちょうど活き良いのがいる』とご紹介を受けた次第です」
「……また雑な紹介を」
友人の悪びれない笑顔を脳裏に浮かべ、頭を抱える。
「なぜハンターに声を? 同じ商工会の会員でもよいのでは?」
「秘書としての仕事はもちろんこなしていただきます。しかしそれと同時に、傍付きとしてボディガードも兼ねて欲しいというのがこちらの条件でした。最近、都市を行き来する機会も増えましたのでね。本来ならそれぞれ別に雇うべきですが……私が自由に使える商工会の資産にも限りがありますので、2つの仕事を一緒くたにできる人物が望ましいのです。ハンターというだけで一般的なボディガードの素質としては十二分。あとは秘書として優秀な人材を求めるだけ。非常に合理的な判断です」
「なるほど、お話は分かりました」
アンナは一息入れるように、出されたお茶に口をつける。
唇を潤して、それからふと、視線を落とした。
「だとしたら、私がお力になれるとは考えられません。だいいち商売をしたことがないのですから」
断りのつもりで口にしたアンナだったが、エヴァルドはその言葉を待っていたかのように、ニコリと口角をあげる。
「リアルブルーでは政治学と社会学を学んでいたと――そう、お聞きしておりますが」
アンナは外した視線を彼の方へと戻した。
「その情報は『彼女』からですか……確かに、専攻と付随分野として学んでおりました」
「でしたら、まさしく私の求める人材だ」
アンナの肯定に、エヴァルドは心持弾んだ調子で答えた。
「文化的な側面で、リアルブルーはクリムゾンウェストよりも数百年先を行っています。それは政治や社会的な側面であっても同じこと。我々の住むこの世界の経済概念は、そちらの世界ではすでに過去の遺物なのではありませんか?」
「一概にそうだとは言い切れませんが……おおむね『歴史』として学ぶ分野ではあります」
「素晴らしい」
エヴァルドは被せぎみに言い切る。
「ヴァリオスも、他の都市も、他の国家も、いつまでも今のままで未来へつながっていくことはありえない。新たな国家。新たな主権。新たな制度。そして新たな経済。それは目前のことではなくとも、近くも遠い将来、何度となく繰り返されていく事でしょう。同盟諸都市が王国から独立した時のように」
「それに関しては私も同意見です。現に他の国家ではすでにそう言った動きもみられているそうですね」
「そう。だからこそ、私は学びたいのです。リアルブルーという文化的未来を生きたその経験から」
落ち着き払ったように見えて、熱意のこもったエヴァルドの瞳。
それをどこか恐ろしいものと感じながら、アンナは気圧されるように言葉を濁した。
「私はまだまだ学徒の身でした。こちらの世界に転移してからは研究もままならない日々です。とても、人に教えられるような人間では……」
「構いません。秘書として私の仕事を手伝っていただきながら、時折、感じたことや思ったことを素直に口にしてくださればよいのです。その言葉のひとつひとつは、私にとっては未来から送られて来たメッセージに等しいのですから」
言い切って、エヴァルドはそれ以上言葉を重ねることをしなかった。
返事を待っている。
時間を与えられていることに気づいて、アンナは言われた通りに、正直に今の心境を語った。
「……すみません。突然のことで……少し、考えさせていただけませんか」
「もちろんです。指針になるのなら、報酬の話をしても構いませんよ」
「それは引き受けるかどうかを決めてからでお願いします」
「素晴らしい」
称えるように、エヴァルドは目を細めてほほ笑んだ。
「そうだ。迷われているあなたに、ちょうどいいイベントがあるのですが」
話を切り替えるように、エヴァルドはぽんと拍子を打つ。
「イベント、ですか?」
彼は傍にあった羊皮紙を1枚取り出すと、それを向かい合うテーブルの上に広げてみせた。
そこには整った字体で「ヴァリオス商工会・冬のインターンシップのお知らせ」と書かれていた。
「職場体験、というものだそうですね。リアルブルー出身の会員からうかがって、私どもでも取り入れてみようと企画したものです」
商工会の仕事を体感する6日間の職場体験。
どうやら募集者をグループ分けして、それぞれに仕事を割り振りこなしてもらう、という形式のようだ。
なるほど、リアルブルーの良いところは取り入れていこうと――エヴァルドの熱意に嘘がないことは、アンナにもなんとなく理解できたような気がした。
「分かりました。では、お返事はこれに参加をしてみてから――で構わないでしょうか」
「ええ。ぜひそうしてください。もちろん、色よいお返事を待っていますよ」
インターンの開始は数日後。
まずはこの目の前の案件に集中して取り組もう。
それがハンターとしてのアンナの、唯一絶対の信条だから。
リプレイ本文
●
聖輝節を目前に、ヴァリオスの街も華やかに色づく。
ここ、インターンの実施会場となった露天商店街も、たくさんのオーナメントやイルミネーションで賑やかに飾られていた。
「さあさあ、露店商店街で聖輝節のイベントだ。寄り道大歓迎だぜ!」
トナカイの着ぐるみに身を包んで、通りの入り口に立つジャック・エルギン(ka1522)が声を張り上げる。
手にしたガイドマップを道行く人に手渡すと、お店の並ぶ通りを身振りで指した。
「お、そこ行く似合いのカップルさん。日が沈んだらライトアップで綺麗だから、また覗いてみてくれよ~!?」
聖輝節のキャンペーンは街中どこの通りでもやっている。
とはいえ高級志向のあるこの街で元気な呼び込みの声はそれだけでも目を引くもので、ライトな客層の獲得に功を成していた。
商店街の出入り口には街路樹を飾りつけしたクリスマスツリー。
そこから通りを突っ切るようにならんだポールとワイヤーに、沢山のオーナメントや魔導イルミネーションがきらめいていた。
「あ、ガイドマップです。地図色が通りの風船の色と一致してるので、お店を探す参考にしてください」
案内テントではキヅカ・リク(ka0038)がアンナ=リーナ・エスト(kz0108)と共に、ふらっと立ち寄った客向けにジャックが配るのと同じガイドマップを配っていく。
「ここ、スタンプラリーになってます。どのお店でも一定額買い物をしてもらうとスタンプがもらえるので、枠の数だけ溜まったら、もういっかいここに立ち寄ってみてください。粗品準備して待ってます」
ガイドマップの裏面一角にあるマス目は今回のイベントの目玉であるスタンプラリーだ。
お店で買いものをしてもらうと、ここにポンと、特製スタンプを押してもらえることになっている。
「どのお店にも聖輝節限定商品があるんですけど、それを買ってもらえれば確実にスタンプ押してもらえるはずです。気に入ったのがあれば、ぜひお願いします――ふぅ」
お客を笑いながら見送って、リクはどっかりと椅子に腰かけた。
「大丈夫か?」
「ああ、ごめん。気を使わせるつもりはなかったんだ」
声を掛けたアンナに、リクはちょっと疲れの見える笑顔で返す。
超覚醒による代償――身に余るマテリアルの酷使による、フィジカルではなくメンタル的な安静期間。
外傷は少なくとも、本来ならば静養しているべきところだが。
「ま、乗りかかった船だし、やれるだけやってみるよ。それより俺は――あっ、聖輝節キャンペーンやってるのでよかったらどぞー」
リクが何かを言いかけたところで、新しいお客を見かけてそっちの対応に切り替える。
彼が何を飲み込んだのかアンナは気になったが、今はとにかくイベント運営に力を注ぐことにした。
「では、ここにスタンプを押しておきますね。ありがとうございました」
雑貨露店の店頭で、マキナ・バベッジ(ka4302)は台紙にポンとお店のスタンプを押す。
お客を見送ると、店主の若い男が苦笑いで頭を掻いた。
「いやー、すんません。助かりましたわ」
「いえ。慣れない事でしょうし、仕方ありませんよ」
マキナはいつもの抑揚のない声で店主に語ると、彼の前でもう一度見本の台紙にスタンプを押してみせる。
「了解っす。このスタンプ、手作りなんすよね? めっちゃ出来いいじゃないっすか。これ、このままお店のロゴに貰ってもいいっすか?」
「それはもちろん。むしろそうしていただけると嬉しいです」
各店舗のスタンプは屋号や実際のロゴ、それがないところは準備期間の各店舗とのブレストの中から着想を得て、ソフィア =リリィホルム(ka2383)とマキナが手分けして作った特注品。
名目はスタンプラリー用ではあるが、どこに出しても恥ずかしくない品だ。
一方、そのソフィアは一般客に紛れて鼻歌交じりに通りを歩いていた。
キャンペーンがちゃんと機能しているのか、見回りはとにかく大切だ。
そんな中、お客の波から頭ひとつ飛び出た、ピンク色のもふもふした頭が見えてひょいひょいと駆け寄る。
「おーい、ミアゴン。調子はどう?」
「ニャァァァス――って、ソフィアちゃんだったニャス」
「あはは、いいよ。役に入ってるね」
不格好なだみ声で振り向いた桃色の怪獣ミアゴン――こと中の人、ミア(ka7035)は一瞬「役」から「素」にもどってぴょんと飛び上がった。
「って、役も素もそんな変わんないじゃん――まっ、それはいっか」
「?」
首をかしげたミアゴンに、ソフィアは着ぐるみの表面をわしゃわしゃしながら笑顔を浮かべる。
「今日は一日うろちょろしてるから、何かあったらいつでも言ってね。あっ、あと、ミアゴンはあとから忙しくなるかもっ?」
「ん~、なんか良く分かんないけど、頑張るニャス~!」
「その意気その意気。よろしくねーっ」
「またニャース……って、ちびっ子レーダー感知ニャス! ニャァァァス! ミアゴンニャス!」
ミアゴンが子連れのお客を見つけて、ぴょんぴょんと跳ねながらかけていく。
凄みをきかせているようで、その実どこか間抜けなピエロみたいで、子供はゲラゲラと笑いながらドーンとミアゴンの懐へとタックル紛いに飛び込んだ。
「わー、痛ったそう……子供は容赦ないねぇ」
振り返り、苦笑するソフィア。
キンキンに寒い日でも、子供たちは元気である。
●
「おっ、アンナさん見っけ」
リクはバケットサンドの露店に並んだアンナの姿を見つけると、手を振り歩み寄った。
「リクも休憩か?」
「うん、店番はジャックにお願いして。あ、俺、ベーコンレタスでお願いします」
アンナがサンドを受け取るのと入れ違いに、店主はリクの注文を作り始めた。
「どう? インターン受けてみて」
「こうして何かを考えて、自分たちでやる――というのは楽しいよ。ただ、これと将来とが、どうしてもまだ繋がらないんだ」
語る彼女に、リクは自分のサンドを受け取ってから路肩へと誘う。
イルミネーションの下に並んで、バケットを頬ばった。
アンナがエヴァルドの誘いを受けていることは、設営中にそれとなく聞いていた。
というのも準備の最中、どこか心ここにあらずな彼女の様子をリクが気にかけていたから。
「力を持つ人の近くに行くとさ……景色って確かに変わる。良くも悪くも」
リクの言葉に、アンナはふとその横顔を見た。
他人の道をとやかく言う事はできない――それはリク自身が良く分かっていること。
「それは知らなかったじゃ済まされないし、どんなに困難でも後戻りも多分できない」
だから、彼にできるのは経験を語ること。
そこから彼女が何かを得てくれれば――そう願うのが、今のリクの精一杯だった。
「まぁ、それでもさ。何を選ぶにしても俺は応援してるよ。だから選ぶこと自体は、怖がらなくっていいんじゃないかな」
「……そうだな」
リクの言葉はアンナの心を直接後押しするものではなかった。
それでも、味方がいるというそれだけで、ひとつの支えになっていたのは確かだ。
「あー、でももし受けたら乗り物での移動避けられないけど……大丈夫?」
「うっ……」
ぽつりと付け加えたリクの言葉にアンナの顔が青ざめる。
ある意味決め手になりかねないその条件は、彼女にとっては死活問題だ。
「おー、帰って来たな」
案内所に戻って来た2人を、頭を取ったトナカイ姿のジャックが出迎えた。
リクからそれとなく何をしてくるのか聞いていたのだろう。
まだ煮え切らない2人の様子を見て、間を切るようにうんと背伸びをした。
「ま、俺としちゃあな。同盟のために働いてくれるならありがたいんだが」
言いながら、座っていた椅子を2人に開け渡す。
「どうせなら『自分のために』働いて貰いてぇな。そうじゃなきゃ、お互い身が入らねえだろうし」
「それは……ジャックの言う通りだと思う」
アンナはどこか自分を戒めるように苦笑する。
ちょっと緊張がほぐれたのを感じてか、ジャックはテントの隅にあった紙袋をアンナに放り投げる。
彼女は咄嗟にキャッチして中を見ると、そこには紅白の特徴的な衣装が詰め込まれていた。
「というわけでこれから忙しくなるからよ、ちょっと協力してくんね?」
アンナは一瞬戸惑った様子だったが、リクが無言でその背中をポンと叩く。
それを受けて彼女は、意を決して頷いた。
「俺メシ行ってくっから。その間に着替え頼むぜ~!」
「わ、分かった」
どたどたと着ぐるみのまま商店街に消えていくジャック。
自分にできることならなんでも試そう。
彼女はそのために、ハンターの道を選んだのだから。
「あっ……エヴァルドちゃん!」
子供にとり囲まれながら玉乗り芸を披露していたミアゴン――ミアは、通行人の中にふと見知った顔を見かけてぴょんと飛び寄った。
様子を見に訪れていたエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)は、突然のマスコットの来訪にやや驚いた様子でキョトンとする。
仕方がないので露店テントの裏へ彼の手を引いて飛び込むと、頭の部分を外してみせた。
「なるほど、ミアさんでしたか」
「渡したいものあったから、あえて良かったニャスよ~」
「渡したいもの?」
ミアは子供へ配る飴が詰まったカゴをごそごそ漁ると、手のひら大のプレゼント包みを取り出す。
「ミアサンタからのクリスマスプレゼント、ニャス!」
笑顔で手渡すミア。
受け取ったエヴァルドが中を見ると、珊瑚珠色のシルクリボンが納められていた。
「毎日じゃなくても良いから、髪を結うのに使ってくれると嬉しいニャぁ……ニャんて」
不安げに揺れる尻尾にエヴァルドはほほ笑んで、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます、大事にさせていただきますね。ただ、なにぶん仕事中でお返しできるものが――」
そんな気にしニャいで――柄にもなく高鳴るミアの心音は、突然響いた子供の声にかき消されてしまった。
「あー! こんなとこにホンモノもいた!」
別の意味でドキリとして、慌てて頭をつけるとニャーと両手を広げて見せる。
声につられてあっという間に他の子供も集まってきて、ミアゴンは引きずられるように通りの広いところへと連れていかれてしまった。
「大人気ですね……しかし、こんなところに『も』?」
ふと首をかしげたエヴァルドだったが、吊るされたオーナメントのひとつを見て納得したように頷く。
そこにはクリスマスオーナメントに紛れて、ミアゴンを模った小さなマスコットが存在感を放っていた。
――名付けて『隠れミアゴンを探せ』キャンペーン。
夜なべして準備した作品の出来栄えに、ソフィアは満足げに笑みを浮かべる。
各店舗のスタンプを彫るかたわら、空いた時間で作ったミアゴングッズは流石に商品化できるだけの数を揃えることができなかった。
だから第2案。
通りの飾りつけに混ぜてさりげなーくグッズを飾って、それを探して歩こうというもの。
探す楽しみを持ちながら、ついでに通りを隅々まで歩いてもらおうという魂胆だ。
「なるほど、確かに他の目的があれば興味のないエリアでも足を運んでいただけそうですね」
同じく見回りに出ていたマキナが、ソフィアの隣に並んでマスコットを見上げる。
ソフィアは苦笑しながら、ちょんとそれを指でつついた。
「ま~、代わりに客層がちびっこに集中してきちゃったけどね」
着ぐるみに扮したジャックらの外での呼び込みや、時間が経ったことによるキャンペーンの口コミ。
今回のイベント企画が結果として呼びこんだのは元気の有り余った子供たちだった。
冬になって遊び場が減って、彼らも何かとストレス発散の場所を探していたのだろう。
このイベントは、その恰好の的となっていた。
「ですが、子供が集まるということは親も引き込むことになります。結果オーライでは?」
「モノは考えようだねぇ……っと、おーい、大丈夫っ?」
目の前で少年がすてんと転んで、起き上がりがてらわんわんとなき始める。
「ああ……ひざ小僧をすりむいてしまってますね。ご両親は――えっ、はぐれた? それはこまったな」
しゃがんで同じ目線になりながら、問いかけたマキナは親らしい人影を探して辺りを見渡す。
が、やがて諦めると、よいしょと背中におぶってみせた。
「僕が案内所に連れていきますから、引き続き見回りお願いします」
「うん、わかったよ。こうなったらトラブルより迷子の方が多くなりそうだしね」
子連れが多いならそれに寄せたやり方はある。
それは今からでも少しずつ変えていけばいいことだ。
結果として儲けに繋がるのならば、その過程は間違いではないのだから。
●
陽が沈んでイルミネーションが本領を発揮し始めてからしばらく、そろそろどの露店も店じまいの準備が始まる。
それはキャンペーンスタッフであるハンター達の仕事の終わりでもあり、案内テントに集まって互いを労いあった。
「みなさん、本当にお疲れ様でした。この6日間いかがでしたか?」
労いに訪れたエヴァルドが6人の姿を見渡す。
その髪留めがさっそくプレゼントしたリボンにすげ変わっていて、ミアはさっと頬を染めて笑みをこぼした。
「いつもは売る側だけどよ、街全体のことを考えるってのはいい刺激になったぜ」
「そうですねー。自分のお店のことばっかり考えてもいられないから、気にすることはいつもより多かったかもです」
ジャックやソフィア、マキナらお店を持つ人間からすれば、普段気にする「商品」というミクロな視点から、「お店が属する空間」というマクロな視点へと意識を拡張したことになる。
普段とは勝手は違えど、ひとつの新たな視点として自分のお店を見つめなおす機会にもなるだろう。
「こんなナリで心配かけましたが、とりあえず無事に終わってよかったというのが一点。あとは……」
言いかけて、リクの視線がアンナの横顔に向く。
エヴァルドも彼の言いたいことは理解しているだろう。
だがアンナの言葉をここで急ぐようなことはせず、いつもの余裕のある笑みでただ苦労を労った。
「その、エストさん。同じように迷ってばかりの僕の言えた口ではないかもしれませんが……よい道が見つかることを願っています。お互いに、ハンターとして」
マキナがそう言い添えると、アンナはその日初めてふっと笑みをこぼした。
それは決して鼻で笑ったわけではなく、心から零れた、安堵の笑みだった。
「ありがとう。悩むことが許されているのなら……それをめいいっぱい享受しようと思う」
6日前の顔合わせの時の彼女からは出てくることがなかった言葉。
それはきっと彼女なりに、前へ進む決心をつけたということに他ならない。
誰に決められたでもない彼女自身の未来に、それは繋がっているのだろう。
聖輝節を目前に、ヴァリオスの街も華やかに色づく。
ここ、インターンの実施会場となった露天商店街も、たくさんのオーナメントやイルミネーションで賑やかに飾られていた。
「さあさあ、露店商店街で聖輝節のイベントだ。寄り道大歓迎だぜ!」
トナカイの着ぐるみに身を包んで、通りの入り口に立つジャック・エルギン(ka1522)が声を張り上げる。
手にしたガイドマップを道行く人に手渡すと、お店の並ぶ通りを身振りで指した。
「お、そこ行く似合いのカップルさん。日が沈んだらライトアップで綺麗だから、また覗いてみてくれよ~!?」
聖輝節のキャンペーンは街中どこの通りでもやっている。
とはいえ高級志向のあるこの街で元気な呼び込みの声はそれだけでも目を引くもので、ライトな客層の獲得に功を成していた。
商店街の出入り口には街路樹を飾りつけしたクリスマスツリー。
そこから通りを突っ切るようにならんだポールとワイヤーに、沢山のオーナメントや魔導イルミネーションがきらめいていた。
「あ、ガイドマップです。地図色が通りの風船の色と一致してるので、お店を探す参考にしてください」
案内テントではキヅカ・リク(ka0038)がアンナ=リーナ・エスト(kz0108)と共に、ふらっと立ち寄った客向けにジャックが配るのと同じガイドマップを配っていく。
「ここ、スタンプラリーになってます。どのお店でも一定額買い物をしてもらうとスタンプがもらえるので、枠の数だけ溜まったら、もういっかいここに立ち寄ってみてください。粗品準備して待ってます」
ガイドマップの裏面一角にあるマス目は今回のイベントの目玉であるスタンプラリーだ。
お店で買いものをしてもらうと、ここにポンと、特製スタンプを押してもらえることになっている。
「どのお店にも聖輝節限定商品があるんですけど、それを買ってもらえれば確実にスタンプ押してもらえるはずです。気に入ったのがあれば、ぜひお願いします――ふぅ」
お客を笑いながら見送って、リクはどっかりと椅子に腰かけた。
「大丈夫か?」
「ああ、ごめん。気を使わせるつもりはなかったんだ」
声を掛けたアンナに、リクはちょっと疲れの見える笑顔で返す。
超覚醒による代償――身に余るマテリアルの酷使による、フィジカルではなくメンタル的な安静期間。
外傷は少なくとも、本来ならば静養しているべきところだが。
「ま、乗りかかった船だし、やれるだけやってみるよ。それより俺は――あっ、聖輝節キャンペーンやってるのでよかったらどぞー」
リクが何かを言いかけたところで、新しいお客を見かけてそっちの対応に切り替える。
彼が何を飲み込んだのかアンナは気になったが、今はとにかくイベント運営に力を注ぐことにした。
「では、ここにスタンプを押しておきますね。ありがとうございました」
雑貨露店の店頭で、マキナ・バベッジ(ka4302)は台紙にポンとお店のスタンプを押す。
お客を見送ると、店主の若い男が苦笑いで頭を掻いた。
「いやー、すんません。助かりましたわ」
「いえ。慣れない事でしょうし、仕方ありませんよ」
マキナはいつもの抑揚のない声で店主に語ると、彼の前でもう一度見本の台紙にスタンプを押してみせる。
「了解っす。このスタンプ、手作りなんすよね? めっちゃ出来いいじゃないっすか。これ、このままお店のロゴに貰ってもいいっすか?」
「それはもちろん。むしろそうしていただけると嬉しいです」
各店舗のスタンプは屋号や実際のロゴ、それがないところは準備期間の各店舗とのブレストの中から着想を得て、ソフィア =リリィホルム(ka2383)とマキナが手分けして作った特注品。
名目はスタンプラリー用ではあるが、どこに出しても恥ずかしくない品だ。
一方、そのソフィアは一般客に紛れて鼻歌交じりに通りを歩いていた。
キャンペーンがちゃんと機能しているのか、見回りはとにかく大切だ。
そんな中、お客の波から頭ひとつ飛び出た、ピンク色のもふもふした頭が見えてひょいひょいと駆け寄る。
「おーい、ミアゴン。調子はどう?」
「ニャァァァス――って、ソフィアちゃんだったニャス」
「あはは、いいよ。役に入ってるね」
不格好なだみ声で振り向いた桃色の怪獣ミアゴン――こと中の人、ミア(ka7035)は一瞬「役」から「素」にもどってぴょんと飛び上がった。
「って、役も素もそんな変わんないじゃん――まっ、それはいっか」
「?」
首をかしげたミアゴンに、ソフィアは着ぐるみの表面をわしゃわしゃしながら笑顔を浮かべる。
「今日は一日うろちょろしてるから、何かあったらいつでも言ってね。あっ、あと、ミアゴンはあとから忙しくなるかもっ?」
「ん~、なんか良く分かんないけど、頑張るニャス~!」
「その意気その意気。よろしくねーっ」
「またニャース……って、ちびっ子レーダー感知ニャス! ニャァァァス! ミアゴンニャス!」
ミアゴンが子連れのお客を見つけて、ぴょんぴょんと跳ねながらかけていく。
凄みをきかせているようで、その実どこか間抜けなピエロみたいで、子供はゲラゲラと笑いながらドーンとミアゴンの懐へとタックル紛いに飛び込んだ。
「わー、痛ったそう……子供は容赦ないねぇ」
振り返り、苦笑するソフィア。
キンキンに寒い日でも、子供たちは元気である。
●
「おっ、アンナさん見っけ」
リクはバケットサンドの露店に並んだアンナの姿を見つけると、手を振り歩み寄った。
「リクも休憩か?」
「うん、店番はジャックにお願いして。あ、俺、ベーコンレタスでお願いします」
アンナがサンドを受け取るのと入れ違いに、店主はリクの注文を作り始めた。
「どう? インターン受けてみて」
「こうして何かを考えて、自分たちでやる――というのは楽しいよ。ただ、これと将来とが、どうしてもまだ繋がらないんだ」
語る彼女に、リクは自分のサンドを受け取ってから路肩へと誘う。
イルミネーションの下に並んで、バケットを頬ばった。
アンナがエヴァルドの誘いを受けていることは、設営中にそれとなく聞いていた。
というのも準備の最中、どこか心ここにあらずな彼女の様子をリクが気にかけていたから。
「力を持つ人の近くに行くとさ……景色って確かに変わる。良くも悪くも」
リクの言葉に、アンナはふとその横顔を見た。
他人の道をとやかく言う事はできない――それはリク自身が良く分かっていること。
「それは知らなかったじゃ済まされないし、どんなに困難でも後戻りも多分できない」
だから、彼にできるのは経験を語ること。
そこから彼女が何かを得てくれれば――そう願うのが、今のリクの精一杯だった。
「まぁ、それでもさ。何を選ぶにしても俺は応援してるよ。だから選ぶこと自体は、怖がらなくっていいんじゃないかな」
「……そうだな」
リクの言葉はアンナの心を直接後押しするものではなかった。
それでも、味方がいるというそれだけで、ひとつの支えになっていたのは確かだ。
「あー、でももし受けたら乗り物での移動避けられないけど……大丈夫?」
「うっ……」
ぽつりと付け加えたリクの言葉にアンナの顔が青ざめる。
ある意味決め手になりかねないその条件は、彼女にとっては死活問題だ。
「おー、帰って来たな」
案内所に戻って来た2人を、頭を取ったトナカイ姿のジャックが出迎えた。
リクからそれとなく何をしてくるのか聞いていたのだろう。
まだ煮え切らない2人の様子を見て、間を切るようにうんと背伸びをした。
「ま、俺としちゃあな。同盟のために働いてくれるならありがたいんだが」
言いながら、座っていた椅子を2人に開け渡す。
「どうせなら『自分のために』働いて貰いてぇな。そうじゃなきゃ、お互い身が入らねえだろうし」
「それは……ジャックの言う通りだと思う」
アンナはどこか自分を戒めるように苦笑する。
ちょっと緊張がほぐれたのを感じてか、ジャックはテントの隅にあった紙袋をアンナに放り投げる。
彼女は咄嗟にキャッチして中を見ると、そこには紅白の特徴的な衣装が詰め込まれていた。
「というわけでこれから忙しくなるからよ、ちょっと協力してくんね?」
アンナは一瞬戸惑った様子だったが、リクが無言でその背中をポンと叩く。
それを受けて彼女は、意を決して頷いた。
「俺メシ行ってくっから。その間に着替え頼むぜ~!」
「わ、分かった」
どたどたと着ぐるみのまま商店街に消えていくジャック。
自分にできることならなんでも試そう。
彼女はそのために、ハンターの道を選んだのだから。
「あっ……エヴァルドちゃん!」
子供にとり囲まれながら玉乗り芸を披露していたミアゴン――ミアは、通行人の中にふと見知った顔を見かけてぴょんと飛び寄った。
様子を見に訪れていたエヴァルド・ブラマンデ(kz0076)は、突然のマスコットの来訪にやや驚いた様子でキョトンとする。
仕方がないので露店テントの裏へ彼の手を引いて飛び込むと、頭の部分を外してみせた。
「なるほど、ミアさんでしたか」
「渡したいものあったから、あえて良かったニャスよ~」
「渡したいもの?」
ミアは子供へ配る飴が詰まったカゴをごそごそ漁ると、手のひら大のプレゼント包みを取り出す。
「ミアサンタからのクリスマスプレゼント、ニャス!」
笑顔で手渡すミア。
受け取ったエヴァルドが中を見ると、珊瑚珠色のシルクリボンが納められていた。
「毎日じゃなくても良いから、髪を結うのに使ってくれると嬉しいニャぁ……ニャんて」
不安げに揺れる尻尾にエヴァルドはほほ笑んで、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます、大事にさせていただきますね。ただ、なにぶん仕事中でお返しできるものが――」
そんな気にしニャいで――柄にもなく高鳴るミアの心音は、突然響いた子供の声にかき消されてしまった。
「あー! こんなとこにホンモノもいた!」
別の意味でドキリとして、慌てて頭をつけるとニャーと両手を広げて見せる。
声につられてあっという間に他の子供も集まってきて、ミアゴンは引きずられるように通りの広いところへと連れていかれてしまった。
「大人気ですね……しかし、こんなところに『も』?」
ふと首をかしげたエヴァルドだったが、吊るされたオーナメントのひとつを見て納得したように頷く。
そこにはクリスマスオーナメントに紛れて、ミアゴンを模った小さなマスコットが存在感を放っていた。
――名付けて『隠れミアゴンを探せ』キャンペーン。
夜なべして準備した作品の出来栄えに、ソフィアは満足げに笑みを浮かべる。
各店舗のスタンプを彫るかたわら、空いた時間で作ったミアゴングッズは流石に商品化できるだけの数を揃えることができなかった。
だから第2案。
通りの飾りつけに混ぜてさりげなーくグッズを飾って、それを探して歩こうというもの。
探す楽しみを持ちながら、ついでに通りを隅々まで歩いてもらおうという魂胆だ。
「なるほど、確かに他の目的があれば興味のないエリアでも足を運んでいただけそうですね」
同じく見回りに出ていたマキナが、ソフィアの隣に並んでマスコットを見上げる。
ソフィアは苦笑しながら、ちょんとそれを指でつついた。
「ま~、代わりに客層がちびっこに集中してきちゃったけどね」
着ぐるみに扮したジャックらの外での呼び込みや、時間が経ったことによるキャンペーンの口コミ。
今回のイベント企画が結果として呼びこんだのは元気の有り余った子供たちだった。
冬になって遊び場が減って、彼らも何かとストレス発散の場所を探していたのだろう。
このイベントは、その恰好の的となっていた。
「ですが、子供が集まるということは親も引き込むことになります。結果オーライでは?」
「モノは考えようだねぇ……っと、おーい、大丈夫っ?」
目の前で少年がすてんと転んで、起き上がりがてらわんわんとなき始める。
「ああ……ひざ小僧をすりむいてしまってますね。ご両親は――えっ、はぐれた? それはこまったな」
しゃがんで同じ目線になりながら、問いかけたマキナは親らしい人影を探して辺りを見渡す。
が、やがて諦めると、よいしょと背中におぶってみせた。
「僕が案内所に連れていきますから、引き続き見回りお願いします」
「うん、わかったよ。こうなったらトラブルより迷子の方が多くなりそうだしね」
子連れが多いならそれに寄せたやり方はある。
それは今からでも少しずつ変えていけばいいことだ。
結果として儲けに繋がるのならば、その過程は間違いではないのだから。
●
陽が沈んでイルミネーションが本領を発揮し始めてからしばらく、そろそろどの露店も店じまいの準備が始まる。
それはキャンペーンスタッフであるハンター達の仕事の終わりでもあり、案内テントに集まって互いを労いあった。
「みなさん、本当にお疲れ様でした。この6日間いかがでしたか?」
労いに訪れたエヴァルドが6人の姿を見渡す。
その髪留めがさっそくプレゼントしたリボンにすげ変わっていて、ミアはさっと頬を染めて笑みをこぼした。
「いつもは売る側だけどよ、街全体のことを考えるってのはいい刺激になったぜ」
「そうですねー。自分のお店のことばっかり考えてもいられないから、気にすることはいつもより多かったかもです」
ジャックやソフィア、マキナらお店を持つ人間からすれば、普段気にする「商品」というミクロな視点から、「お店が属する空間」というマクロな視点へと意識を拡張したことになる。
普段とは勝手は違えど、ひとつの新たな視点として自分のお店を見つめなおす機会にもなるだろう。
「こんなナリで心配かけましたが、とりあえず無事に終わってよかったというのが一点。あとは……」
言いかけて、リクの視線がアンナの横顔に向く。
エヴァルドも彼の言いたいことは理解しているだろう。
だがアンナの言葉をここで急ぐようなことはせず、いつもの余裕のある笑みでただ苦労を労った。
「その、エストさん。同じように迷ってばかりの僕の言えた口ではないかもしれませんが……よい道が見つかることを願っています。お互いに、ハンターとして」
マキナがそう言い添えると、アンナはその日初めてふっと笑みをこぼした。
それは決して鼻で笑ったわけではなく、心から零れた、安堵の笑みだった。
「ありがとう。悩むことが許されているのなら……それをめいいっぱい享受しようと思う」
6日前の顔合わせの時の彼女からは出てくることがなかった言葉。
それはきっと彼女なりに、前へ進む決心をつけたということに他ならない。
誰に決められたでもない彼女自身の未来に、それは繋がっているのだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/12/16 22:19:29 |
|
![]() |
振興キャンペーン相談室(相談卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/12/20 22:27:29 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/17 16:57:54 |