ゲスト
(ka0000)
年の終わりに何をする?
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/12/26 22:00
- 完成日
- 2018/12/31 01:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●歳末のユニゾン
12月の末。
緑と花に包まれた南海の小島ユニゾンには、いつもと変わらぬ平穏な時間が流れている。
現在住民の大半を占めるコボルドたちは大陸の保養所で長期休暇中。
港湾地区の商店は軒並み休業。
現在島に在住している市民は、外部者宿泊所に勤務している11名の人間だけ。
こう書くといかもゴーストタウン化したような印象を与えるが、実のところそんなことはない。
コボルドたちは転移扉を使ってちょろちょろ様子見に戻ってくるし、浜辺には人魚が群れているし、グリーク商会の商船関係者も定期的に入ってくるしで、人足はさほど衰えてないのである。
それはそれとしてマゴイのたゆみなきユニオン布教活動が功を奏したというべきなのかどうか、つい最近何と、わずか2名ではあるが、自発的な市民候補者が現れるに至った。
それはマゴイをおおいに喜ばせている。
ウテルスの手入れをしたり、スペットの顔を復元するための計画書を作ったり、島内環境管理装置の点検をしたりといった仕事をしつつ、自然と鼻歌を歌ってしまうほどに。
ユニオン、ユニオン、いいところ……
響き渡るその歌は緩やかなマテリアルの波動となって、市民生産機関の内部照明をほのかに色づける。本人は気づいていないが。
それが不意に止んだ。ウォッチャーから彼女に連絡が入ったのだ。
【マゴイ、市民生産機関へ 魔術師協会 からアクセスが入りました。アクセスしてきたのは 英霊 ぴょこ θ・F・92438・ソルジャー です】
『……あら、θ・F・92438・ソルジャーが……何かしらね……』
首を傾げながら通信室に入り機械の前へ。
出身地を同じくする英霊の声が聞こえてきた。
『もしもし、マゴイ、おるかの?』
『……はい……もしもし……こちらユニゾン島市民生産機関管理担当μ・F・92756471・マゴイ……』
『おお、マゴイおったかの。元気かの』
『……元気よ……何のご用事かしら……』
『んむ。今年も後少しで終わりじゃからして、よいお年をの挨拶をしておこうかと思うての』
マゴイはたっぷり3分間考え、質問した。
『……それは……どういう意味の挨拶なのかしら……』
ユニオンには年末年始を祝う習慣がない。週二日の休日と年に二カ月の長期休暇以外、これといったイベントがない。だから、ぴょこが言っていることがちょっと理解しづらかったのだ。
ぴょこもそれを分かっていたので、この世界において年末年始は特別な意味を持つものであるということを彼女に説明した。
続けてこう言った。
『その間はほとんどの者がのう、家族と過ごすのじゃ。都会へ働きに出ておる者も村に帰って来て、一緒に祝うのじゃ』
マゴイはつくづく嫌だというふうに眉をひそめ、こう漏らす。
『……家族と……三日も過ごす……なんていやらしい風習……』
『……まあ、ユニオン的にはそうかもしれんがの。とにかくクリムゾンでは年の終わりと始めにあれこれイベントするのじゃて。ユニゾンでも、なんぞやってみるといいかもしれぬぞ。ではの、邪魔したの』
ぴょこからの通信は終わった。
そこでウォッチャーが、また彼女に連絡した。
【マゴイ、グリーク商会の交易船が入港しました。市民志願者 ジグ・ソーヤー アスカ・井上 も乗船しています――】
●歳末の訪問者
ユニゾン港に降り立ったジグとアスカは、へえ、という顔をした。
「意外と開けてるんだな。人口がものすごく少ないって聞いたから、村みたいなのかと思ってたんだけど、そんな規模じゃないな、これ。普通に町って呼んでいいレベルだろ」
「そうね。なんだか閑散としてるけど、ハコモノは揃ってる感じ」
彼らの後ろから降りてくるのは、スペットとマリー。
「あんた、刑務所にいなくて大丈夫なわけ?」
「大丈夫や。社会奉仕活動ちゅう名目、タモンはんに作ってもろうとる。とにかく早いところマゴイに、俺の生体細胞のサンプル渡しとこうと思ってな。手続が終わり次第、顔の製作にかかってもらわんと……ところでお前は何しにユニゾンへ来たんや。エルフハイムに里帰りせんでええんか」
「いいのよ里帰りの一回や二回や三回や四回や五回キャンセルしたって。私たちの寿命は長いんだから。どうしても今、マゴイにクギを刺しておきたいのよ。直に会って」
「どういうこっちゃ」
「ナルシスくん、この冬ユニゾンの保養所でバイトしてるのよ。だから、万が一にも、その機に乗じて彼に手を出さないようにって言っておきたいの――もし手を出したらただじゃおかないから」
「ないやろ、そんなん」
「どうしてそう言い切れるの」
「色々理由はあるけど、まず第一にあいつ体があらへんがな。手ぇなんか最初から出されへん」
「そんっなのこの際何の保証にもならないでしょー! とにかくナルシスくんは私のものなんだから!」
そこへマゴイがやってきた。珍しく急いだ様子で。
『……市民候補……ソルジャー大歓迎……』
●ちょうどその頃、カチャ・タホは。
ペリニョンからもユニゾンからも遠く離れた辺境、タホ郷へ至る道。
そこでは降りしきる雪にまみれたカチャがぶつぶつ呟いていた。
「……あー……今年は帰らないって去年決めてたはずなのになあ……」
彼女は歩いて行く。郷への土産を両手に抱えて。
大好きとは言いがたいが、それでも事あるごとに帰らざるを得ない。それが彼女にとっての故郷である。
ヴヴヴと低い声が聞こえてきた。行く手に目玉が六つある虎が立ち塞がっている。
カチャは土産を降ろし、腰に結わえていた斧を握った。電光石火の速さで虎に打ってかかり、虎の首を切り落とす。黒い蒸気となって消え行く骸をそのままにまた荷物を抱え、歩きだす。
「郷にはアーマーがあるんだから、前もって道を除雪しといてくれればいいのに……」
ガルルルルと低い声が聞こえてきた。行く手に頭が骸骨になった白熊が立ち塞がっている。
カチャは土産を降ろし、腰に結わえていた斧を握る――前に叫んだ。
「もー! これで10匹目ー!」
リプレイ本文
●郷への道、はるか
炎のオーラを帯びた斧が白熊歪虚の頭から股まで真っ二つに切り裂く。
「カチャかっこいいー! 薔薇の騎士連隊長みたい! 濡れるッ!」
ハート目のリナリス・リーカノア(ka5126)は黄色い声援を上げつつ、カチャにウィンドガストを送る。白熊が倒されると同時に、オオアリクイ型歪虚が姿を現したのだ。
オオアリクイは初手を外された。
そこへフィロ(ka6966)が飛び込む。
「……ここは私がっ」
鎧通しをかけた鉄拳によってオオアリクイは、顔面を陥没させられ無に帰した。
もう近くに歪虚の気配はない。
フィロは自分が引いてきた雪橇に、悲しそうな眼差しを向けた。
「カチャ様、気のせいでなければ、肉になる獲物より歪虚の方が多い気がいたしますが……」
「それ、気のせいじゃないです。今の今まで、歪虚としか遭遇してないです……」
「……どうしましょう、カチャ様の部族に着くまでにお土産を調達するつもりが、空荷のまま到着しそうです」
憂わしげなフィロをリナリスが、明るく励ます。
「空荷のままでもタホ郷は温かく迎えてくれるよ。着いたら沢山ご馳走でるよ♪ ねーカチャ」
「ええ。うちの部族は客を迎えての飲み食いが大好きですから。きっと大歓迎しますよ。にしても、雪かきくらいはしてくれてても」
そこにチリリンチリリンとベルの音。
振り向けば魔導ママチャリ「銀嶺」が近づいてくる所。
乗っているのは――エルバッハ・リオン(ka2434)。
カチャは開口一番に言った。
「エルさん、ドレス透けてますけど寒くないですか?」
「この程度なら問題はないですよ」
涼しい顔で言ったリオンはママチャリを止め、額に手をかざす。
「新手ですね」
行く手から長毛の野牛歪虚が現れた。
カチャは半分諦めた顔で荷物を地面に置く。
フィロは言った。近づいてくる歪虚から目を離さずに。
「これが整備をしない理由かもしれませんね。部族の若人のための修行もあるのでしょうが……部族までの道を整備すれば、部族にもリゼリオにも歪虚が襲来しやすくなる可能性があります。それを防ぐ為ではないでしょうか」
「……うん、まあ、ものすごく好意的に解釈すればそういうことなのかも知れ――来ますよ!」
●歳末のユニゾン
マゴイはスペットから遺伝情報提供に来たという話を聞き、一旦場を離れていった。
『……市民生産機関のラボから生体サンプル採取装置を持ってくるので……すぐに戻ってくるので……それまでここでちょっと待っていて……』
というわけでジグとアスカはしばし港湾地区をぶらつくことにした。天竜寺 詩(ka0396)、レイア・アローネ(ka4082)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)がそれに同行する。
水路からきれいな歌声。のぞき込めば人魚たち。
詩は手を振り、声をかける。
「みんな、久しぶり」
「あら、おひさしぶり」「初めて見る子がいるけど、だあれ?」
「この子たちはね、アスカちゃんとジグ君。今度この島のソルジャーになるかも知れないの――ほら、二人とも人魚に会うの初めてでしょ? ご挨拶ご挨拶」
詩から背を押されたジグは、目のやりどころに窮しつつ挨拶する。
「あ、そのー、初めまして」
アスカがそれをからかう。
「やらしー、胸ばっかり見てる」
「見てねえよ!」
そこへ人間市民がやってきた。聞けば昼休みだとのこと。
詩は世間話がてら彼らにもジグたちを紹介した。
そして聞く。
「そういえば、年末年始に何かするの? イベントとかフェアとか」
職員たちは顔を見合わせ、言った。
「いや、特に……ないな」
「うん」
『……お待たせ……』
マゴイが戻って来た。バンド型の採取装置を携えて。
ちょうどいいので詩は、餅つきをしてもいいか聞くことにした。せっかくの年末にイベントなしというのも、勿体ない気がしたので。
●歳末のペリニョン村
マルカ・アニチキン(ka2542)はぴょこへ、社の大掃除をする意義を説明した。
「掃除には「掃き清める」という意味があります。「祓い清める」という精神的な意味も持ちます。加えて負のマテリアルの滞留を一掃するという意味もあるのです。お掃除するといいことづくめです」
『ほほう、それは耳寄りな話じゃの!』
「ところでぴょこ様、この『特攻服』にご興味ありませんか……? こちらの品はリアルブルーでは自由と強さの象徴だそうです……」
『おおお、かっ、かっこいいのじゃ!』
「ぴょこ様、よろしければこれを着て村の境界の隅から隅まで、ぴょこられぱんちを打ち上げていただけませんでしょうか……さすれば格好の邪気払いになるかと……っ」
『うむ、そうか。あいわかった!』
ご機嫌で跳ねて行くぴょこを見送り、心置きなく社内の掃除を始める。
続いてぴょこ様スペアの赤ウサギ青ウサギを優しく手洗いし、物干し竿に吊るす。
一段落したところでフルートを取り出し奏でる。前にメイムが披露した曲を心の中で歌いつつ。
(♪わたしの~祠のまーえでー鳴かないでくださーい~そこにわたしは居ません~、吊るされてなんていませーん♪)
突如耳後ろにむわんと暖かい息がかかってきた。
「ひっ!?」
飛び下がり振り向けば、愛馬がひっそり立っている。
「クトュルフの呼び声号、いつのまにか背後に這い寄る癖を直しなさい……」
パルムはマルカが掃き清めた社の前庭に、イクシード・フラグメントでぴょこの絵をかき遊んでいた。
●ユニゾン改善委員会
餅つきとは何かと詩に聞けば、皆で食べ物を作り、皆で食べるイベントだという。
ならばユニオンの理念に反するものではない。ということでマゴイは餅つきを許可した。何故わざわざ歳末に限り特殊なことをしようとするのかと首を傾げつつ。
そんな彼女にルベーノは、祭事の意義についてレクチャーを始めた。採取装置を腕に巻くスペットの傍らで。
「人は体内の生体時計を正常に保ち健康に生きるために太陽が必要だ。適度な運動も生き延びるための精神的な活力も必要だ。屋内に閉じ込められ運動も活力も不足する冬に、冬至の祭りを行うのは極めて理に適っているといえる。ここまでは分かるな」
『……おーけい……』
「ならばユニゾンのような気候であれば祭事を行わなくても良いかといえば、これも非だ。季節の催事も行えぬほど余剰物資もない貧しい国力の低い国で、祭事を開催できるような国を指導・統率するものの居ない、移住するに値せぬ地だと思われかねん」
マゴイは納得いかなそうな顔をして言った。
『……そんなことがあるの……?……生活に関わるデータはパンフレットで開示しているのに……』
マリーが呆れたように口を挟む。
「あんな細かい部分、ほとんどの人読まないんじゃないの」
ルベーノは心中彼女に同意しつつ続ける。
「国を傾けるほど贅を凝らす必要はないが、他国並みに祝いを行える地であると示さねば移住したいと思う人間が増えぬ。ウテルスで人が育つにはまだ時間がかかるのだろう? ステーツマンも外から呼ぶのだろう? ならばなおさら移住希望者が尻込みするような噂が立てられる場所になってはならん。人は未知を忌避する。新たな仲間を迎えたいのだろう、μ。この世界に生きるなら、取り込める既知は取りこまねば」
話し声を聞きつけたか、保養所から様子見に戻ってきているコボルドたちが集まってきた。
「おー、きゃく」「おきゃく!」
レイアは彼らの頭を撫でてやり、聞いてみる。
「年も終わりだが、お前達何かしたいことはあるか? もし何かしたいなら協力するが?」
コボルドたちはしばし相談しあい、結論をまとめる。
「とる」「かいがーら」「はな」
●カミングホーム
わが家へたどり着いたカチャを待っていたのは、居間で肉蕎麦をすすっているメイム(ka2290)であった。
「あ、遅かったねカチャさん。お昼ご飯はギガントピックのロースをぜいたくに使った肉蕎麦だよ♪」
「……メイムさん、来てたんですか」
「うん。お土産に大荷物を選ぶから、雪中登山とかする羽目になるんだよ。手荷物レベルに纏めれば近所の郷と共有の精霊門使えたのに~」
メイムはメディスンバッグから荷を出して見せつつ、ギガントロース最後の一枚を平らげる。
「まだ焼いてないけど、おもちもあるよ。今年は隣の男の娘、スシヲさん(16歳)が当番だって~。年明けの4月、八つ向こうのリルルゥちゃん(11歳)と結婚するってのろけてた。ススンデるね、タホ郷。どうやって人口維持してるのか謎だよ」
そこで奥からマサカリ担いだケチャが出てきた。
リナリスはすかさず丁寧にお辞儀する。
「お久しぶりです、ケチャお母様」
「あらリナリスいらっしゃい」
それを見習いフィロも挨拶。
「カチャ様のお母様ですか? カチャ様の友人の末席に名を連ねさせていただいておりますフィロと申します。本日はよろしくお願いします。道中でお土産を狩る予定でしたが、歪虚にしか遭遇せず……酒しか持ち込めず申し訳ありません」
「ああ、いいのよそんなこと。これから追加を取りに行くところだから」
「それならケチャ様、私もお供させていただけますか?」
「いいわよ」
「ありがとうございます、良い修行になります」
話が纏まったところでケチャはカチャの襟首を掴み、出て行く。
「さ、行きましょうか」
「私の意見は!?」
リオンがそれに同伴し、出て行く。
「活入れにシャンパンをどうぞ、カチャさん」
リナリスは残る。
メイムが意外そうに言った。
「あれ、一緒に行かないの?」
「うん。あたしは皆がお肉取ってくる間に、お酒の準備しとくんだ♪ ところでこの郷って、どうやってお酒入手してるのかな? 来るたび皆飲みまくってる印象なんだけど」
「んー、ある程度は郷で醸してるんじゃないかな。丘穂作ってるから」
2時間後。
フィロとケチャがギガントピックを2匹とって来た。
それから20分後。
リオンと、ぼろくたになったカチャが熊と鹿をとってきた。
狩りの途中崖から落ちたとのことだった。
●お祝いの方法
レイアがコボルドたちと一緒に貝殻と花を集め戻ってきたとき、餅つきはもう終わっていた。
早速始まる試食会。
マゴイはそこに、ルベーノから貰った餅の白兎を提供する。自分は食べられないからと。
餅のお供は詩が持ち込んできた、きなこと大根おろし。そしてレイアが作ってきたミネストローネ。
コボルドたちはルベーノからもらったドッグフードをまぶすという大胆なアレンジを試みていたが、そうなった餅は彼ら以外誰も食べようとしなかった。
レイアは、ミネストローネに餅を入れ食べているジグたちに聞いた。
「なあ、ジグ、アスカ。お前達はどういう年末を過ごしたい?」
アスカはいつものようにそっけなく答えた。
「私は特に何をしたいってないけど、まあ、それっぽい雰囲気は欲しいかもね」
ジグは懐かしむように言う。
「イルミネーションとか、花火とかな」
とそこで、コボルドたちが動き出した。
取ってきた貝殻と花をマゴイの周囲に並べ始める。詩が後で各所に飾ろうとしていた鏡餅も。
マゴイは戸惑い、尋ねた。
『……何をしているの……』
「まごーい、かざる」「さわれない、から」「まわり、かざる」
自分たちには、新年に群れの首長を飾り立てる風習がある。
食うや食わずのときには無理だったが、今では群れも巣もこんなに立派になった。ならば是非やらねば。
そういった事情を彼らから聞いたマゴイは、考え込んでしまった。
●タホ郷の歳末宴会
客人たちが持ち込んで来た土産の数々(ほぼ酒ばかり)は好評であった。
リナリスがカクテル修行の腕を振るって作ったサングリア、蜜柑やリンゴを漬けたウィスキー、紅茶の風味をつけたウィスキーは物珍しさもあって、大人気である。
「初めての味だなあ」
「混ぜて飲むのもなかなかオツなもんだな」
フィロもまた珍しがられた。
なにしろ郷にオートマトンが訪問してくるのは、初めてのことなのだ。
「ほお、あんたさん、飲み食い出来るのか」
「機械の体じゃと聞いたが、そういうことならわしらと変わりないな。飲みんさい飲みんさい」
「大変勉強になります」
串カツを手にちびちび飲んでいるメイムは、酌をして回っていたリナリスの姿が見えなくなっていることに気づいた。それと、カチャも。
(ま、いつものパターンかな)
と思いながらリオンに目をやれば、妙に楽しそうな様子。
(何かいいことでもあったかな? そういえばマルカさん、この年末どこで何してんだろ)
「ちょっと不安な事があって……あたしはカチャが大好きだけど。カチャはどうなのかな? 流されてるだけじゃないよね?」
カチャはリナリスの問いに、ちょっと怒ったような顔をした。
「流されてるだけで、ここまで来ると思います? 私は私の意志であなたのことが好きなんです」
強い調子の返答に、リナリスはもじもじと上目使い。
「もっとあたしの事求めて欲しい……カチャにならどんな事されてもいいって思ってるんだよ? 今まであたしがしてきた事全部、カチャにして欲しいっていうか……」
台詞の途中でカチャは、リナリスの顔の横にどんと手をついた。
「二言はなしですよ?」
今夜のカチャは、やけに強気だ。飲み過ぎなのかもしれない。
●行く年来る年
夜のユニゾン港湾地区がいっせいに色づいた。
赤、青、緑の組み合わせから白を含め、無限の色が生み出される。
建物の白壁に様々な幾何学模様が浮き上がり宙で手を繋ぎ、アーチを造る。
それを前にマゴイは、ジグとアスカに聞いた。
『……こういう感じで……いいのかしら……』
「うん、そうそう外れてはない」
「大分それっぽくはなってる」
スペットは髭をひねって目を細める。
「θにええ土産話が出来たわ」
歳末の催しがイルミネーションだけというのも寂しいが、何もないよりはずっといい。これからやれることを増やしていけばいいのだとルベーノは思う。詩、レイアと町の輝きを眺めながら。
(それにしても、μの中の家族と仲間の違いとは何なのだろうな)
そこは今ひとつ、謎である。
それはそれとしてマリーはまだ言っていた。
「本当にナルシス君には手を出さないでよ」
『……そういうことは起きない……』
●新年ドッキリ
リオンの手にあるのは地球連合軍用PDA。
画面に写っているのは彼女とカチャが半裸で毛布を被っているという、いかにもな事後画像。
「カチャさんから情熱的に求められましたよ。まあ、同性ですからお遊びと思えばいいではないですか」
「――こ、ここれ――あっ、郷の狩りで崖から落ちたとき!? そうでしょ、そうなんでしょ!」
「あ、バレました?」
「だって背景どう見ても崖下ですし雪ですし!」
早々ドッキリがばれてしまったことをリオンは、いささか惜しく思った。
でも仕方ない。今回はカチャの同行者が多く、工作する隙がほとんどなかったのだから……。
炎のオーラを帯びた斧が白熊歪虚の頭から股まで真っ二つに切り裂く。
「カチャかっこいいー! 薔薇の騎士連隊長みたい! 濡れるッ!」
ハート目のリナリス・リーカノア(ka5126)は黄色い声援を上げつつ、カチャにウィンドガストを送る。白熊が倒されると同時に、オオアリクイ型歪虚が姿を現したのだ。
オオアリクイは初手を外された。
そこへフィロ(ka6966)が飛び込む。
「……ここは私がっ」
鎧通しをかけた鉄拳によってオオアリクイは、顔面を陥没させられ無に帰した。
もう近くに歪虚の気配はない。
フィロは自分が引いてきた雪橇に、悲しそうな眼差しを向けた。
「カチャ様、気のせいでなければ、肉になる獲物より歪虚の方が多い気がいたしますが……」
「それ、気のせいじゃないです。今の今まで、歪虚としか遭遇してないです……」
「……どうしましょう、カチャ様の部族に着くまでにお土産を調達するつもりが、空荷のまま到着しそうです」
憂わしげなフィロをリナリスが、明るく励ます。
「空荷のままでもタホ郷は温かく迎えてくれるよ。着いたら沢山ご馳走でるよ♪ ねーカチャ」
「ええ。うちの部族は客を迎えての飲み食いが大好きですから。きっと大歓迎しますよ。にしても、雪かきくらいはしてくれてても」
そこにチリリンチリリンとベルの音。
振り向けば魔導ママチャリ「銀嶺」が近づいてくる所。
乗っているのは――エルバッハ・リオン(ka2434)。
カチャは開口一番に言った。
「エルさん、ドレス透けてますけど寒くないですか?」
「この程度なら問題はないですよ」
涼しい顔で言ったリオンはママチャリを止め、額に手をかざす。
「新手ですね」
行く手から長毛の野牛歪虚が現れた。
カチャは半分諦めた顔で荷物を地面に置く。
フィロは言った。近づいてくる歪虚から目を離さずに。
「これが整備をしない理由かもしれませんね。部族の若人のための修行もあるのでしょうが……部族までの道を整備すれば、部族にもリゼリオにも歪虚が襲来しやすくなる可能性があります。それを防ぐ為ではないでしょうか」
「……うん、まあ、ものすごく好意的に解釈すればそういうことなのかも知れ――来ますよ!」
●歳末のユニゾン
マゴイはスペットから遺伝情報提供に来たという話を聞き、一旦場を離れていった。
『……市民生産機関のラボから生体サンプル採取装置を持ってくるので……すぐに戻ってくるので……それまでここでちょっと待っていて……』
というわけでジグとアスカはしばし港湾地区をぶらつくことにした。天竜寺 詩(ka0396)、レイア・アローネ(ka4082)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)がそれに同行する。
水路からきれいな歌声。のぞき込めば人魚たち。
詩は手を振り、声をかける。
「みんな、久しぶり」
「あら、おひさしぶり」「初めて見る子がいるけど、だあれ?」
「この子たちはね、アスカちゃんとジグ君。今度この島のソルジャーになるかも知れないの――ほら、二人とも人魚に会うの初めてでしょ? ご挨拶ご挨拶」
詩から背を押されたジグは、目のやりどころに窮しつつ挨拶する。
「あ、そのー、初めまして」
アスカがそれをからかう。
「やらしー、胸ばっかり見てる」
「見てねえよ!」
そこへ人間市民がやってきた。聞けば昼休みだとのこと。
詩は世間話がてら彼らにもジグたちを紹介した。
そして聞く。
「そういえば、年末年始に何かするの? イベントとかフェアとか」
職員たちは顔を見合わせ、言った。
「いや、特に……ないな」
「うん」
『……お待たせ……』
マゴイが戻って来た。バンド型の採取装置を携えて。
ちょうどいいので詩は、餅つきをしてもいいか聞くことにした。せっかくの年末にイベントなしというのも、勿体ない気がしたので。
●歳末のペリニョン村
マルカ・アニチキン(ka2542)はぴょこへ、社の大掃除をする意義を説明した。
「掃除には「掃き清める」という意味があります。「祓い清める」という精神的な意味も持ちます。加えて負のマテリアルの滞留を一掃するという意味もあるのです。お掃除するといいことづくめです」
『ほほう、それは耳寄りな話じゃの!』
「ところでぴょこ様、この『特攻服』にご興味ありませんか……? こちらの品はリアルブルーでは自由と強さの象徴だそうです……」
『おおお、かっ、かっこいいのじゃ!』
「ぴょこ様、よろしければこれを着て村の境界の隅から隅まで、ぴょこられぱんちを打ち上げていただけませんでしょうか……さすれば格好の邪気払いになるかと……っ」
『うむ、そうか。あいわかった!』
ご機嫌で跳ねて行くぴょこを見送り、心置きなく社内の掃除を始める。
続いてぴょこ様スペアの赤ウサギ青ウサギを優しく手洗いし、物干し竿に吊るす。
一段落したところでフルートを取り出し奏でる。前にメイムが披露した曲を心の中で歌いつつ。
(♪わたしの~祠のまーえでー鳴かないでくださーい~そこにわたしは居ません~、吊るされてなんていませーん♪)
突如耳後ろにむわんと暖かい息がかかってきた。
「ひっ!?」
飛び下がり振り向けば、愛馬がひっそり立っている。
「クトュルフの呼び声号、いつのまにか背後に這い寄る癖を直しなさい……」
パルムはマルカが掃き清めた社の前庭に、イクシード・フラグメントでぴょこの絵をかき遊んでいた。
●ユニゾン改善委員会
餅つきとは何かと詩に聞けば、皆で食べ物を作り、皆で食べるイベントだという。
ならばユニオンの理念に反するものではない。ということでマゴイは餅つきを許可した。何故わざわざ歳末に限り特殊なことをしようとするのかと首を傾げつつ。
そんな彼女にルベーノは、祭事の意義についてレクチャーを始めた。採取装置を腕に巻くスペットの傍らで。
「人は体内の生体時計を正常に保ち健康に生きるために太陽が必要だ。適度な運動も生き延びるための精神的な活力も必要だ。屋内に閉じ込められ運動も活力も不足する冬に、冬至の祭りを行うのは極めて理に適っているといえる。ここまでは分かるな」
『……おーけい……』
「ならばユニゾンのような気候であれば祭事を行わなくても良いかといえば、これも非だ。季節の催事も行えぬほど余剰物資もない貧しい国力の低い国で、祭事を開催できるような国を指導・統率するものの居ない、移住するに値せぬ地だと思われかねん」
マゴイは納得いかなそうな顔をして言った。
『……そんなことがあるの……?……生活に関わるデータはパンフレットで開示しているのに……』
マリーが呆れたように口を挟む。
「あんな細かい部分、ほとんどの人読まないんじゃないの」
ルベーノは心中彼女に同意しつつ続ける。
「国を傾けるほど贅を凝らす必要はないが、他国並みに祝いを行える地であると示さねば移住したいと思う人間が増えぬ。ウテルスで人が育つにはまだ時間がかかるのだろう? ステーツマンも外から呼ぶのだろう? ならばなおさら移住希望者が尻込みするような噂が立てられる場所になってはならん。人は未知を忌避する。新たな仲間を迎えたいのだろう、μ。この世界に生きるなら、取り込める既知は取りこまねば」
話し声を聞きつけたか、保養所から様子見に戻ってきているコボルドたちが集まってきた。
「おー、きゃく」「おきゃく!」
レイアは彼らの頭を撫でてやり、聞いてみる。
「年も終わりだが、お前達何かしたいことはあるか? もし何かしたいなら協力するが?」
コボルドたちはしばし相談しあい、結論をまとめる。
「とる」「かいがーら」「はな」
●カミングホーム
わが家へたどり着いたカチャを待っていたのは、居間で肉蕎麦をすすっているメイム(ka2290)であった。
「あ、遅かったねカチャさん。お昼ご飯はギガントピックのロースをぜいたくに使った肉蕎麦だよ♪」
「……メイムさん、来てたんですか」
「うん。お土産に大荷物を選ぶから、雪中登山とかする羽目になるんだよ。手荷物レベルに纏めれば近所の郷と共有の精霊門使えたのに~」
メイムはメディスンバッグから荷を出して見せつつ、ギガントロース最後の一枚を平らげる。
「まだ焼いてないけど、おもちもあるよ。今年は隣の男の娘、スシヲさん(16歳)が当番だって~。年明けの4月、八つ向こうのリルルゥちゃん(11歳)と結婚するってのろけてた。ススンデるね、タホ郷。どうやって人口維持してるのか謎だよ」
そこで奥からマサカリ担いだケチャが出てきた。
リナリスはすかさず丁寧にお辞儀する。
「お久しぶりです、ケチャお母様」
「あらリナリスいらっしゃい」
それを見習いフィロも挨拶。
「カチャ様のお母様ですか? カチャ様の友人の末席に名を連ねさせていただいておりますフィロと申します。本日はよろしくお願いします。道中でお土産を狩る予定でしたが、歪虚にしか遭遇せず……酒しか持ち込めず申し訳ありません」
「ああ、いいのよそんなこと。これから追加を取りに行くところだから」
「それならケチャ様、私もお供させていただけますか?」
「いいわよ」
「ありがとうございます、良い修行になります」
話が纏まったところでケチャはカチャの襟首を掴み、出て行く。
「さ、行きましょうか」
「私の意見は!?」
リオンがそれに同伴し、出て行く。
「活入れにシャンパンをどうぞ、カチャさん」
リナリスは残る。
メイムが意外そうに言った。
「あれ、一緒に行かないの?」
「うん。あたしは皆がお肉取ってくる間に、お酒の準備しとくんだ♪ ところでこの郷って、どうやってお酒入手してるのかな? 来るたび皆飲みまくってる印象なんだけど」
「んー、ある程度は郷で醸してるんじゃないかな。丘穂作ってるから」
2時間後。
フィロとケチャがギガントピックを2匹とって来た。
それから20分後。
リオンと、ぼろくたになったカチャが熊と鹿をとってきた。
狩りの途中崖から落ちたとのことだった。
●お祝いの方法
レイアがコボルドたちと一緒に貝殻と花を集め戻ってきたとき、餅つきはもう終わっていた。
早速始まる試食会。
マゴイはそこに、ルベーノから貰った餅の白兎を提供する。自分は食べられないからと。
餅のお供は詩が持ち込んできた、きなこと大根おろし。そしてレイアが作ってきたミネストローネ。
コボルドたちはルベーノからもらったドッグフードをまぶすという大胆なアレンジを試みていたが、そうなった餅は彼ら以外誰も食べようとしなかった。
レイアは、ミネストローネに餅を入れ食べているジグたちに聞いた。
「なあ、ジグ、アスカ。お前達はどういう年末を過ごしたい?」
アスカはいつものようにそっけなく答えた。
「私は特に何をしたいってないけど、まあ、それっぽい雰囲気は欲しいかもね」
ジグは懐かしむように言う。
「イルミネーションとか、花火とかな」
とそこで、コボルドたちが動き出した。
取ってきた貝殻と花をマゴイの周囲に並べ始める。詩が後で各所に飾ろうとしていた鏡餅も。
マゴイは戸惑い、尋ねた。
『……何をしているの……』
「まごーい、かざる」「さわれない、から」「まわり、かざる」
自分たちには、新年に群れの首長を飾り立てる風習がある。
食うや食わずのときには無理だったが、今では群れも巣もこんなに立派になった。ならば是非やらねば。
そういった事情を彼らから聞いたマゴイは、考え込んでしまった。
●タホ郷の歳末宴会
客人たちが持ち込んで来た土産の数々(ほぼ酒ばかり)は好評であった。
リナリスがカクテル修行の腕を振るって作ったサングリア、蜜柑やリンゴを漬けたウィスキー、紅茶の風味をつけたウィスキーは物珍しさもあって、大人気である。
「初めての味だなあ」
「混ぜて飲むのもなかなかオツなもんだな」
フィロもまた珍しがられた。
なにしろ郷にオートマトンが訪問してくるのは、初めてのことなのだ。
「ほお、あんたさん、飲み食い出来るのか」
「機械の体じゃと聞いたが、そういうことならわしらと変わりないな。飲みんさい飲みんさい」
「大変勉強になります」
串カツを手にちびちび飲んでいるメイムは、酌をして回っていたリナリスの姿が見えなくなっていることに気づいた。それと、カチャも。
(ま、いつものパターンかな)
と思いながらリオンに目をやれば、妙に楽しそうな様子。
(何かいいことでもあったかな? そういえばマルカさん、この年末どこで何してんだろ)
「ちょっと不安な事があって……あたしはカチャが大好きだけど。カチャはどうなのかな? 流されてるだけじゃないよね?」
カチャはリナリスの問いに、ちょっと怒ったような顔をした。
「流されてるだけで、ここまで来ると思います? 私は私の意志であなたのことが好きなんです」
強い調子の返答に、リナリスはもじもじと上目使い。
「もっとあたしの事求めて欲しい……カチャにならどんな事されてもいいって思ってるんだよ? 今まであたしがしてきた事全部、カチャにして欲しいっていうか……」
台詞の途中でカチャは、リナリスの顔の横にどんと手をついた。
「二言はなしですよ?」
今夜のカチャは、やけに強気だ。飲み過ぎなのかもしれない。
●行く年来る年
夜のユニゾン港湾地区がいっせいに色づいた。
赤、青、緑の組み合わせから白を含め、無限の色が生み出される。
建物の白壁に様々な幾何学模様が浮き上がり宙で手を繋ぎ、アーチを造る。
それを前にマゴイは、ジグとアスカに聞いた。
『……こういう感じで……いいのかしら……』
「うん、そうそう外れてはない」
「大分それっぽくはなってる」
スペットは髭をひねって目を細める。
「θにええ土産話が出来たわ」
歳末の催しがイルミネーションだけというのも寂しいが、何もないよりはずっといい。これからやれることを増やしていけばいいのだとルベーノは思う。詩、レイアと町の輝きを眺めながら。
(それにしても、μの中の家族と仲間の違いとは何なのだろうな)
そこは今ひとつ、謎である。
それはそれとしてマリーはまだ言っていた。
「本当にナルシス君には手を出さないでよ」
『……そういうことは起きない……』
●新年ドッキリ
リオンの手にあるのは地球連合軍用PDA。
画面に写っているのは彼女とカチャが半裸で毛布を被っているという、いかにもな事後画像。
「カチャさんから情熱的に求められましたよ。まあ、同性ですからお遊びと思えばいいではないですか」
「――こ、ここれ――あっ、郷の狩りで崖から落ちたとき!? そうでしょ、そうなんでしょ!」
「あ、バレました?」
「だって背景どう見ても崖下ですし雪ですし!」
早々ドッキリがばれてしまったことをリオンは、いささか惜しく思った。
でも仕方ない。今回はカチャの同行者が多く、工作する隙がほとんどなかったのだから……。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/26 11:42:08 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/12/25 23:38:11 |