ゲスト
(ka0000)
そこに跪け、赦しを請え
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/22 15:00
- 完成日
- 2018/12/25 07:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
聖輝節で盛り上がるクリムゾンウェストではあるが、その一方で与えられた役目に勤しむ者達の姿があった。
「大神殿ねぇ。そんなに大事なら博物館にでも寄贈すりゃいいのに」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は荷馬車に体を横たえて空を見上げていた。
今回、チュプ大神殿行きを希望したのも、周辺の地形を理解する為だった。仮に戦場になったとするならば、地形は非常に重要だ。それも戦車型CAM『ヨルズ』を愛機とするドリスキルにとって、地形は武器にも障害にもなる。
少しでも地形を理解する事が勝利に繋がるのだが、いい加減同じような森ばかりで飽き始めていたようだ。
「ふふ、いけませんね。のんびりされていても良いのですか?」
馬車を操縦しているヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、振り返らずにそう呟いた。
自ら馬車を操縦しているのも、せっかくの聖輝節で部下に苦労させたくないかららしいのだが――。
「いいのか? 聖輝節って奴なんだろ? たまには休んだ方がいいんじゃないのか?」
「そうしたいところなんですが、そうもいきません。歪虚の襲撃に備える必要がありまして」
世間は聖輝節で忙しそうにしているが、ヴェルナーはまったく休んでいなかった。
元怠惰王のビックマーが倒れてから、部族会議は歪虚への警戒を強化した。
終末と呼ばれる事象がある歪虚から語られた為、敵の侵攻に備えていたのだ。
部族会議大首長補佐のヴェルナーも警備強化の為、休暇らしい休暇を取ることができていなかった。
「ああ、聞いたぜ。確か……なんとかって歪虚が言ってたんだよな」
「ブラッドリー、ですね」
歪虚ブラッドリー(kz0252)。
終末を予見し、辺境に危機を招き入れようと画策し続けていた。
先日もブラッドリーと顔を合わせたヴェルナーであるが、異質とも呼べる態度に強い警戒心を抱かずにはおれなかった。
あの歪虚は――あまりに危険過ぎる。
「そうそう。そいつだ。だが、あいつの話を聞いて気になったんだよな」
「気になった事ですか」
「ああ。終末が来るっていうのはいいとしてだ。なんで、それが楽園へ行く話に繋がるんだ? 終末が来たら終わりじゃないのか?」
ドリスキルは、疑問を口にする。
ブラッドリーの発言は独特であり、理解は簡単ではない。
だが、その難解な言葉の中に重要な何かがある事も事実だ。
そうは言ってもヴェルナーもブラッドリーの言葉を理解している訳ではない。
ドリスキルの疑問に答えるだけの情報は無い。
「それについては私も分かりません……!」
言葉の途中でヴェルナーは荷馬車を止めた。
突然の停止に荷馬車にいたドリスキルの体が大きく揺れる。
「お、おい。なんだよ、一体」
「その疑問。直接聞かれてはどうでしょう?」
「ああ?」
ドリスキルが首を上げれば、荷馬車の進路を塞ぐように一人の神父が立っていた。
――ブラッドリー。
荷馬車を止め、満足そうな不敵の笑みを浮かべる。
「ラッパ吹きの天使達。収穫は、進んでいますか?
終末を回避したくば、跪いて赦しを請いなさい。それも……もう無駄ですがね」
「大神殿ねぇ。そんなに大事なら博物館にでも寄贈すりゃいいのに」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は荷馬車に体を横たえて空を見上げていた。
今回、チュプ大神殿行きを希望したのも、周辺の地形を理解する為だった。仮に戦場になったとするならば、地形は非常に重要だ。それも戦車型CAM『ヨルズ』を愛機とするドリスキルにとって、地形は武器にも障害にもなる。
少しでも地形を理解する事が勝利に繋がるのだが、いい加減同じような森ばかりで飽き始めていたようだ。
「ふふ、いけませんね。のんびりされていても良いのですか?」
馬車を操縦しているヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、振り返らずにそう呟いた。
自ら馬車を操縦しているのも、せっかくの聖輝節で部下に苦労させたくないかららしいのだが――。
「いいのか? 聖輝節って奴なんだろ? たまには休んだ方がいいんじゃないのか?」
「そうしたいところなんですが、そうもいきません。歪虚の襲撃に備える必要がありまして」
世間は聖輝節で忙しそうにしているが、ヴェルナーはまったく休んでいなかった。
元怠惰王のビックマーが倒れてから、部族会議は歪虚への警戒を強化した。
終末と呼ばれる事象がある歪虚から語られた為、敵の侵攻に備えていたのだ。
部族会議大首長補佐のヴェルナーも警備強化の為、休暇らしい休暇を取ることができていなかった。
「ああ、聞いたぜ。確か……なんとかって歪虚が言ってたんだよな」
「ブラッドリー、ですね」
歪虚ブラッドリー(kz0252)。
終末を予見し、辺境に危機を招き入れようと画策し続けていた。
先日もブラッドリーと顔を合わせたヴェルナーであるが、異質とも呼べる態度に強い警戒心を抱かずにはおれなかった。
あの歪虚は――あまりに危険過ぎる。
「そうそう。そいつだ。だが、あいつの話を聞いて気になったんだよな」
「気になった事ですか」
「ああ。終末が来るっていうのはいいとしてだ。なんで、それが楽園へ行く話に繋がるんだ? 終末が来たら終わりじゃないのか?」
ドリスキルは、疑問を口にする。
ブラッドリーの発言は独特であり、理解は簡単ではない。
だが、その難解な言葉の中に重要な何かがある事も事実だ。
そうは言ってもヴェルナーもブラッドリーの言葉を理解している訳ではない。
ドリスキルの疑問に答えるだけの情報は無い。
「それについては私も分かりません……!」
言葉の途中でヴェルナーは荷馬車を止めた。
突然の停止に荷馬車にいたドリスキルの体が大きく揺れる。
「お、おい。なんだよ、一体」
「その疑問。直接聞かれてはどうでしょう?」
「ああ?」
ドリスキルが首を上げれば、荷馬車の進路を塞ぐように一人の神父が立っていた。
――ブラッドリー。
荷馬車を止め、満足そうな不敵の笑みを浮かべる。
「ラッパ吹きの天使達。収穫は、進んでいますか?
終末を回避したくば、跪いて赦しを請いなさい。それも……もう無駄ですがね」
リプレイ本文
「わふ。わうー?」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の乗っていた馬車は、強制的に停止させられる。
馬車はチュプ大神殿へ赴いて調査を行う予定だったが、ある存在によって移動を阻まれていた。
――歪虚ブラッドリー(kz0252)。
突如現れたブラッドリーの前に、馬車に乗っていたハンター達に緊張が走る。
「ドリーさんです」
アルマの声。
しかし、ブラッドリーは未だに沈黙を守る。
その視線は馬車を操縦する人物へ向けられていた。
「以前は私があなたを待ち伏せしていましたが、今度はあなたが待ち伏せですか」
帝国軍人にして部族会議補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、ため息をついた。
元怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイルを撃破した後、一度だけ二人は遭遇している。
終末の到来が確約されたと歓喜するブラッドリー。
正体不明な終末回避に尽力するヴェルナー。
水と油に等しい双方が再び出会う。
それは運命か。それとも必然か。
「おい、あいつはなんだ? あれが噂のブラッドリーか?」
馬車の荷台で寝転んでいたジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉は、上体を起こしながら傍らにいた八島 陽(ka1442)へそっと話し掛けた。
「鎌倉に出た瓦礫の恐竜、あれの中に居た奴の同類です」
「マジかよ。あの瓦礫の恐竜を何人で倒したと思ってるんだよ。空気を読めってんだよ、そういうのはクライマックスだけで十分だ」
「考えが読めない厄介な相手です」
八島は馬車の荷台から降りてブラッドリーへ対峙する。
「ヴェルナーさん……」
ヴェルナーの傍らにいた桜憐りるか(ka3748)は、心配そうな眼差しでヴェルナーの顔を見上げた。
ブラッドリーの狙いは不明なものの、ブラッドリーの視線がヴェルナーへ向けられている事はりるかも理解していた。
戦闘となるなら、りるかはヴェルナーを守る為に動く。
覚悟はしている。だが、りるかの心へ小さな棘が突き刺さる。
不安。その棘のせいか、りるかの腕がヴェルナーをぎゅっと掴ませる。
「りるかさん、心配はありません。まずは様子を見るとしましょう」
りるかに向けられるヴェルナーの笑顔。
その笑顔が心の棘をそっと外してくれる。
りるかはそんな感覚を抱いて小さく頷いた。
「私は問う。ブラッドリーよ、何が目的で現れた?」
荷台から降りた雨を告げる鳥(ka6258)は、堂々とした態度でブラッドリーへ臨む。
「目的ですか。天使達の動向を見定めながら、フロンティアへと誘う標となる事です」
フロンティア。
ブラッドリーがかつてくちにした言葉。
『辺境に終末が訪れる。楽園フロンティアは、その先にある』
その言葉の真意は不明だが、終末が訪れる切っ掛けは闇黒の魔人と呼ばれる青木 燕太郎(kz0166)にビックマーを吸収させる事。それを成功させる為、ブラッドリーは影で暗躍していた。
そしてその目論見は成功した訳だが、未だ終末の正体は見えてこない。
真の怠惰王であるオーロラも未だ動きを見せていない。
さらに楽園とは何か――。
「こちらは誘われるつもりはありません。早々お引き取り願いたいです」
「辛辣なら言葉の裏に潜むは、不安と恐怖。されど、その感情を抱く必要はありません。すべては神の望むままに……」
ヴェルナーの言葉に対して、ブラッドリーは反論する。
交わされる視線に乗せられる感情。
それはまさに衝突と称するに値する。
その傍らでアルマは一人マッピングセットでお絵描きを始める。
「……ドリーさん。構ってくれなくて、つまんないです」
●
「えと……どうして此方へいらっしゃったの、でしょうか?」
ヴェルナーを守るようにりるかは一歩前に出た。
戦うつもりならば、既にブラッドリーは行動を示しているはずだ。
だが、その素振りはない。だとするなら、目的は別にある。
「聡い天使ですね。先程の言葉がすべてです。フロンティアへ誘う標となる事」
「もう少し、具体的に……教えて下さい。ヴェルナーさんに何か、御用です?」
りるかはちらりと後方に視線を送る。
ヴェルナーは沈黙を守ったまま、ブラッドリーを警戒し続けていた。
「楽園へ早く還る為にはもっと協力者が必要です。それでそこの者に祝福を与える為に参りました」
「……!」
りるかは身構えた。
ブラッドリーの口にした祝福とは、龍園の一部ドラグーンを契約者にした事だと気付いた。つまり、ヴェルナーを契約者にするべく現れたという訳だ。
「祝福……あなたの神は余程高位の歪虚なのでしょうか」
「神はすべてを見守っています。終末の先にある楽園へ皆と共に還りましょう」
「あのよ。一つ聞いて見たかったんだけどよ」
緊迫した空気の中で口を開いたのはドリスキルだった。
クリムゾンウェストへ転移して間もないドリスキルだからこそ、この空気を打開できたのかもしれない。
「終末が来るってぇ事は終わりなんだろ。それがなんで、それが楽園へ行く話になるんだ?」
ドリスキルはブラッドリーの存在を聞いた段階で抱いた疑問だった。
終末が訪れるならそこで終わりだ。だが、楽園へ行くというのであればそれで終わりとはなっていない。
ならば、終末や楽園とは何なのか。
八島は、ある推論を述べ始める。
「これを見てください」
八島が見せたのは、スケッチブック。
そこに描かれていたのは一人の少女だった。
「八島さん、彼女は?」
「かつて夢幻城を偵察した際に目撃した少女です。あの城に普通の人間がいたとは考えられない。覚醒者でも危険な場所にいたとなれば、歪虚です。それもかなり高位の……」
八島は少女を思い出しながらスケッチブックへ顔を浮かび上がらせた。
もし八島の予想通りなら、この少女は――。
「彼女が怠惰王オーロラですよね?」
「ええ。上手に描かれています」
ブラッドリーはあっさり肯定する。
八島は、この少女の目覚めで強い倦怠感が発生した事を体感している。そして、この少女がオーロラであるならば、終末の正体についてもある程度の推理が可能となる。
「彼女がオーロラであるなら、ある仮説が成り立ちます。
怠惰王オーロラの特徴は強力な怠惰の感染です。その証拠にチュプ大神殿で描かれた終末の壁画には、倒れた人々が描かれていました。ピリカや遺跡の破損状況をみれば、戦って壊れたにしては不自然です。怠惰の感染で戦わずに敗れたと考えるべきでしょう」
怠惰の感染は、周囲にいる人間の活力を奪う能力。強く影響を受ければ立っている事すら困難になる程の倦怠感が対象を襲う。もし、強力な怠惰の感染が古代の人々を襲ったとするならば、歪虚側はまともな戦闘をする事もなく古代の人々を滅ぼす事ができただろう。
「私は推測する。怠惰を享受して無為に生き、死んでゆく事による破滅。それが、終末の正体なのではないか」
雨を告げる鳥も概ね八島と同じ推理だ。
おそらく怠惰の感染には有効範囲が存在し、その範囲外で影響を逃れた人々がチュプ大神殿に壁画として描いた。歪虚へ対抗すべき兵器で戦う事もできず、滅びが確定した文明。その顛末と、終末という存在を後世の世へ伝える為に。
「終末の答えに辿り着きましたか。本当に天使達は恐ろしい程に聡い」
ブラッドリーの答え。
二人の推測は的中していたようだ。だが、突き付けられていた問題はまだ残っている。
「楽園フロンティア。それは終末後を歪虚側からの視点で表現した呼称ではないでしょうか」
「それなら……みんな楽園に、連れて行かれます……。協力者に邪魔者を、排除させるつもり……なのですね」
八島の続けた推論で、りるかは自らが持っていた疑問の答えに気付いた。
誰が楽園へ連れて行かれるのか。
それは強力な怠惰の感染により倒れる事が楽園へ辿り着く術ならば、その場にいた全員が対象となる。
「そこには争いもなく、それ故に悲しみも苦しみもない。偽りの安らぎ。ブラッドリーの目的は楽園へ『還る』事」
雨を告げる鳥も八島と同様の推論だ。
楽園とは終末――怠惰王オーロラの持つ怠惰の感染による強制衰弱死。その先には苦しみも悲しみもない。
「私は問う。ブラッドリーよ。天使は喇叭を吹き、騎士は偽りの王を倒した。
後は終末の運命を辿るだけ。果たしてそうだろうか。
天使の剣は未だ折れず、騎士もまた健在だ。それでも語られる予言があるというのか」
雨を告げる鳥は、ブラッドリーへ言葉を突き付ける。
多くの者を巻き込み、終末へと誘う歪虚を前に一歩も臆する様子もない。
だが――。
「天使達よ。終末に答えは辿り着きましたが、楽園には辿り着きませんでしたか。それも無理からぬ事。神を知らぬが故」
「……!」
「言ったはずです。楽園は終末の先にある、と。
終末は、楽園への帰還の序章。終末の前に敗れてもいずれは楽園に帰還できるでしょう。ですが、私は天使達が終末を乗り越えて審判の刻を迎えると信じています。
我が神――父の御名において下される審判の刻を」
雨を告げる鳥と八島の前にブラッドリーは新たなる情報を語った。
しかし、それはかなり難解な代物だ。終末の前に倒れてもいずれ楽園へ帰還できるが、終末を乗り越えても、審判の刻が来ると語っている。
「そうですか。私にその手伝いをさせようというのですか」
話を聞いていたヴェルナーは、ようやく口を開いた。
終末はただの始まり。ここからが楽園帰還事業。ブラッドリーはその手伝いを契約者となったヴェルナーにさせるつもりなのだ。
「ヴェルナーさん……」
りるかはヴェルナーの袖をぎゅっと掴んだ。
ヴェルナーはりるかの肩にそっと手を置く。
「お断りします」
「……今ならば、神もお許しになりますよ?」
「聞こえませんでしたか? 歪虚となってあなたと協力する事はあり得ません。終末も、審判もここにいる皆さんと共に乗り越えて見せます。あなたを倒した上で」
「ブラッドリーよ。私も預言しよう」
ヴェルナーとブラッドリーの会話に雨を告げる鳥が口を挟んだ。
「貴方は貴方が信仰する神に準じる事はできるだろう。しかし、楽園に還る事はできはしない。人の想いによって命運は尽きる。それが貴方の運命だ」
毅然とした態度。
ブラッドリーは討ち果たす。
楽園になど、行かせはしない。
「抗い続けなさい、天使達。神はすべてご覧になっています。
何を選び、何を捨てるのか。私は、それを見届けた上で皆と楽園へ還ります」
●
「ヴェルナーさんっ、見てください!」
今までブラッドリーと話していた横でアルマはマッピングセットに絵を描き始めていた。
退屈を持て余した絵をヴェルナーとドリスキルの前に突き出した。
「……上手に描けているじゃねぇか」
「ええ。本当に」
「祝福を拒否したのなら、ここに用はありません」
アルマの行動を無視するかのように立ち去ろうとするブラッドリー。
その姿をアルマは、一瞥する。
「ドリーさーん。僕、『つまんない』です!」
『つまらない』。
その一言が合図であった。
八島はドリスキルへウィンドガスト。
同時にりるかはヴェルナーを庇うように前に立ち、ブラッドリーに向けてアイスボルトで狙い撃つ。
「ヴェルナーさんに……近付けさせません」
「天使達、この機を逃さず挑むつもりですか」
ブラッドリーは光の盾を展開してアイスボルトを防ぐ。
タイミングを合わせての奇襲。ハンター達は黙ってブラッドリーを逃がすつもりはないようだ。
「私は預言した。楽園には行かせないと」
雨を告げる鳥は万色の矢を放つ。
別方向からはレイピアを片手にヴェルナーがスラッシュエッジで迫る。
「何処へ行かれるのです? もてなしはこれからですよ」
「それで良いのです。抗う事が楽園へ帰還する鍵になります」
レイピアの一撃を光の盾で防ぐブラッドリー。
アルマの目に映る光球は三つ。アルマが一撃を叩き込めば、光の盾は形成できなくなる。
アルマはヴェルナーとブラッドリーが距離を置いた瞬間に体を割り込ませる。
「あっはっはっ! 僕、すっごく怒ってるって言いましたよねぇ!!
僕、燕太郎さんが大っ嫌いなんです。それを手伝わせたんですよね。うん、殺す」
殺意に満ちた笑顔を向けるアルマ。
機械剣「ドリーフック」を手にしてデルタレイが複数回放たれる。強烈な一撃が繰り返しブラッドリーへ注ぎ込まれる。気付けば、ブラッドリーの周辺にある光球はすべて消え失せている。
「駄犬の天使ですか。騎士に手を貸したのは終末を招く為に必要な事。彼の者が動く事で、終末は確実に到来する」
「青木にビックマーを殺させる事でオーロラを怒らせたのですか。……そうか。言い換えれば、青木を『利用』しましたね」
ブラッドリーの言葉に八島は気付いた。
青木がビックマーは『ハンターに倒された』と吹き込む事で、オーロラを怒らせれば終末は早まる。怒るオーロラが人間に対峙するのは自然流れだ。
ブラッドリーはその流れを加速させる為に力を貸していたのだろう。
「そんな言い訳は良いです。早く死んで欲しいです」
「……駄犬の天使。私も無駄に怠惰に手を貸していた訳ではないのですよ? 終末の欠片を味わいなさい」
突如、ブラッドリーの手にしていた本が勢い良く開き、ページが次々と開かれる。
「ネツァクからイェソドへ。その力を示せ」
ブラッドリーの言葉。
次の瞬間、周囲に不穏な空気が渦巻き始める。
「……あれ?」
アルマの体へ急に異変が発生する。
異常な倦怠感。一歩踏み出そうとするが、足が以上に重い。
その様子に八島は、自らの体験を元に気付く。
「あれは、怠惰の感染です」
「怠惰王ほどではありませんが、少し真似事させていただきました。それでも駄犬の天使は強い。私が止められるのは一時だけでしょう。ですが、それで十分です」
アルマの足元が光る。
地面に描かれる見た事もない絵柄。
「私がただ黙って待っていたとでも? 万一を考え、光球を一つ使って備えていました。
ネツァクからホドへ。その力を示せ。……レッドスプライト」
ブラッドリーの言葉と共にアルマの周囲に赤い雷のスパークが迸る。
それも宙から地面へ流れるようなスパーク。
何かが来る。それはアルマにも分かる。
だが、その雷は――。
「……おや?」
放たれるかと思われた一瞬、紋章が掻き消されて普通の地面へと戻っていく。
「カウンターマジック……です……」
りるかはアルマを救う為にカウンターマジックを発動させていた。
うまく動いてくれたおかげで赤い雷は消えてくれたようだ。
「見事ですね。ここは立ち去るとします」
ブラッドリーは踵を返した。
戦闘でブラッドリーの隠していた能力を垣間見られたのは大きな成果と言えるだろう。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の乗っていた馬車は、強制的に停止させられる。
馬車はチュプ大神殿へ赴いて調査を行う予定だったが、ある存在によって移動を阻まれていた。
――歪虚ブラッドリー(kz0252)。
突如現れたブラッドリーの前に、馬車に乗っていたハンター達に緊張が走る。
「ドリーさんです」
アルマの声。
しかし、ブラッドリーは未だに沈黙を守る。
その視線は馬車を操縦する人物へ向けられていた。
「以前は私があなたを待ち伏せしていましたが、今度はあなたが待ち伏せですか」
帝国軍人にして部族会議補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、ため息をついた。
元怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイルを撃破した後、一度だけ二人は遭遇している。
終末の到来が確約されたと歓喜するブラッドリー。
正体不明な終末回避に尽力するヴェルナー。
水と油に等しい双方が再び出会う。
それは運命か。それとも必然か。
「おい、あいつはなんだ? あれが噂のブラッドリーか?」
馬車の荷台で寝転んでいたジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉は、上体を起こしながら傍らにいた八島 陽(ka1442)へそっと話し掛けた。
「鎌倉に出た瓦礫の恐竜、あれの中に居た奴の同類です」
「マジかよ。あの瓦礫の恐竜を何人で倒したと思ってるんだよ。空気を読めってんだよ、そういうのはクライマックスだけで十分だ」
「考えが読めない厄介な相手です」
八島は馬車の荷台から降りてブラッドリーへ対峙する。
「ヴェルナーさん……」
ヴェルナーの傍らにいた桜憐りるか(ka3748)は、心配そうな眼差しでヴェルナーの顔を見上げた。
ブラッドリーの狙いは不明なものの、ブラッドリーの視線がヴェルナーへ向けられている事はりるかも理解していた。
戦闘となるなら、りるかはヴェルナーを守る為に動く。
覚悟はしている。だが、りるかの心へ小さな棘が突き刺さる。
不安。その棘のせいか、りるかの腕がヴェルナーをぎゅっと掴ませる。
「りるかさん、心配はありません。まずは様子を見るとしましょう」
りるかに向けられるヴェルナーの笑顔。
その笑顔が心の棘をそっと外してくれる。
りるかはそんな感覚を抱いて小さく頷いた。
「私は問う。ブラッドリーよ、何が目的で現れた?」
荷台から降りた雨を告げる鳥(ka6258)は、堂々とした態度でブラッドリーへ臨む。
「目的ですか。天使達の動向を見定めながら、フロンティアへと誘う標となる事です」
フロンティア。
ブラッドリーがかつてくちにした言葉。
『辺境に終末が訪れる。楽園フロンティアは、その先にある』
その言葉の真意は不明だが、終末が訪れる切っ掛けは闇黒の魔人と呼ばれる青木 燕太郎(kz0166)にビックマーを吸収させる事。それを成功させる為、ブラッドリーは影で暗躍していた。
そしてその目論見は成功した訳だが、未だ終末の正体は見えてこない。
真の怠惰王であるオーロラも未だ動きを見せていない。
さらに楽園とは何か――。
「こちらは誘われるつもりはありません。早々お引き取り願いたいです」
「辛辣なら言葉の裏に潜むは、不安と恐怖。されど、その感情を抱く必要はありません。すべては神の望むままに……」
ヴェルナーの言葉に対して、ブラッドリーは反論する。
交わされる視線に乗せられる感情。
それはまさに衝突と称するに値する。
その傍らでアルマは一人マッピングセットでお絵描きを始める。
「……ドリーさん。構ってくれなくて、つまんないです」
●
「えと……どうして此方へいらっしゃったの、でしょうか?」
ヴェルナーを守るようにりるかは一歩前に出た。
戦うつもりならば、既にブラッドリーは行動を示しているはずだ。
だが、その素振りはない。だとするなら、目的は別にある。
「聡い天使ですね。先程の言葉がすべてです。フロンティアへ誘う標となる事」
「もう少し、具体的に……教えて下さい。ヴェルナーさんに何か、御用です?」
りるかはちらりと後方に視線を送る。
ヴェルナーは沈黙を守ったまま、ブラッドリーを警戒し続けていた。
「楽園へ早く還る為にはもっと協力者が必要です。それでそこの者に祝福を与える為に参りました」
「……!」
りるかは身構えた。
ブラッドリーの口にした祝福とは、龍園の一部ドラグーンを契約者にした事だと気付いた。つまり、ヴェルナーを契約者にするべく現れたという訳だ。
「祝福……あなたの神は余程高位の歪虚なのでしょうか」
「神はすべてを見守っています。終末の先にある楽園へ皆と共に還りましょう」
「あのよ。一つ聞いて見たかったんだけどよ」
緊迫した空気の中で口を開いたのはドリスキルだった。
クリムゾンウェストへ転移して間もないドリスキルだからこそ、この空気を打開できたのかもしれない。
「終末が来るってぇ事は終わりなんだろ。それがなんで、それが楽園へ行く話になるんだ?」
ドリスキルはブラッドリーの存在を聞いた段階で抱いた疑問だった。
終末が訪れるならそこで終わりだ。だが、楽園へ行くというのであればそれで終わりとはなっていない。
ならば、終末や楽園とは何なのか。
八島は、ある推論を述べ始める。
「これを見てください」
八島が見せたのは、スケッチブック。
そこに描かれていたのは一人の少女だった。
「八島さん、彼女は?」
「かつて夢幻城を偵察した際に目撃した少女です。あの城に普通の人間がいたとは考えられない。覚醒者でも危険な場所にいたとなれば、歪虚です。それもかなり高位の……」
八島は少女を思い出しながらスケッチブックへ顔を浮かび上がらせた。
もし八島の予想通りなら、この少女は――。
「彼女が怠惰王オーロラですよね?」
「ええ。上手に描かれています」
ブラッドリーはあっさり肯定する。
八島は、この少女の目覚めで強い倦怠感が発生した事を体感している。そして、この少女がオーロラであるならば、終末の正体についてもある程度の推理が可能となる。
「彼女がオーロラであるなら、ある仮説が成り立ちます。
怠惰王オーロラの特徴は強力な怠惰の感染です。その証拠にチュプ大神殿で描かれた終末の壁画には、倒れた人々が描かれていました。ピリカや遺跡の破損状況をみれば、戦って壊れたにしては不自然です。怠惰の感染で戦わずに敗れたと考えるべきでしょう」
怠惰の感染は、周囲にいる人間の活力を奪う能力。強く影響を受ければ立っている事すら困難になる程の倦怠感が対象を襲う。もし、強力な怠惰の感染が古代の人々を襲ったとするならば、歪虚側はまともな戦闘をする事もなく古代の人々を滅ぼす事ができただろう。
「私は推測する。怠惰を享受して無為に生き、死んでゆく事による破滅。それが、終末の正体なのではないか」
雨を告げる鳥も概ね八島と同じ推理だ。
おそらく怠惰の感染には有効範囲が存在し、その範囲外で影響を逃れた人々がチュプ大神殿に壁画として描いた。歪虚へ対抗すべき兵器で戦う事もできず、滅びが確定した文明。その顛末と、終末という存在を後世の世へ伝える為に。
「終末の答えに辿り着きましたか。本当に天使達は恐ろしい程に聡い」
ブラッドリーの答え。
二人の推測は的中していたようだ。だが、突き付けられていた問題はまだ残っている。
「楽園フロンティア。それは終末後を歪虚側からの視点で表現した呼称ではないでしょうか」
「それなら……みんな楽園に、連れて行かれます……。協力者に邪魔者を、排除させるつもり……なのですね」
八島の続けた推論で、りるかは自らが持っていた疑問の答えに気付いた。
誰が楽園へ連れて行かれるのか。
それは強力な怠惰の感染により倒れる事が楽園へ辿り着く術ならば、その場にいた全員が対象となる。
「そこには争いもなく、それ故に悲しみも苦しみもない。偽りの安らぎ。ブラッドリーの目的は楽園へ『還る』事」
雨を告げる鳥も八島と同様の推論だ。
楽園とは終末――怠惰王オーロラの持つ怠惰の感染による強制衰弱死。その先には苦しみも悲しみもない。
「私は問う。ブラッドリーよ。天使は喇叭を吹き、騎士は偽りの王を倒した。
後は終末の運命を辿るだけ。果たしてそうだろうか。
天使の剣は未だ折れず、騎士もまた健在だ。それでも語られる予言があるというのか」
雨を告げる鳥は、ブラッドリーへ言葉を突き付ける。
多くの者を巻き込み、終末へと誘う歪虚を前に一歩も臆する様子もない。
だが――。
「天使達よ。終末に答えは辿り着きましたが、楽園には辿り着きませんでしたか。それも無理からぬ事。神を知らぬが故」
「……!」
「言ったはずです。楽園は終末の先にある、と。
終末は、楽園への帰還の序章。終末の前に敗れてもいずれは楽園に帰還できるでしょう。ですが、私は天使達が終末を乗り越えて審判の刻を迎えると信じています。
我が神――父の御名において下される審判の刻を」
雨を告げる鳥と八島の前にブラッドリーは新たなる情報を語った。
しかし、それはかなり難解な代物だ。終末の前に倒れてもいずれ楽園へ帰還できるが、終末を乗り越えても、審判の刻が来ると語っている。
「そうですか。私にその手伝いをさせようというのですか」
話を聞いていたヴェルナーは、ようやく口を開いた。
終末はただの始まり。ここからが楽園帰還事業。ブラッドリーはその手伝いを契約者となったヴェルナーにさせるつもりなのだ。
「ヴェルナーさん……」
りるかはヴェルナーの袖をぎゅっと掴んだ。
ヴェルナーはりるかの肩にそっと手を置く。
「お断りします」
「……今ならば、神もお許しになりますよ?」
「聞こえませんでしたか? 歪虚となってあなたと協力する事はあり得ません。終末も、審判もここにいる皆さんと共に乗り越えて見せます。あなたを倒した上で」
「ブラッドリーよ。私も預言しよう」
ヴェルナーとブラッドリーの会話に雨を告げる鳥が口を挟んだ。
「貴方は貴方が信仰する神に準じる事はできるだろう。しかし、楽園に還る事はできはしない。人の想いによって命運は尽きる。それが貴方の運命だ」
毅然とした態度。
ブラッドリーは討ち果たす。
楽園になど、行かせはしない。
「抗い続けなさい、天使達。神はすべてご覧になっています。
何を選び、何を捨てるのか。私は、それを見届けた上で皆と楽園へ還ります」
●
「ヴェルナーさんっ、見てください!」
今までブラッドリーと話していた横でアルマはマッピングセットに絵を描き始めていた。
退屈を持て余した絵をヴェルナーとドリスキルの前に突き出した。
「……上手に描けているじゃねぇか」
「ええ。本当に」
「祝福を拒否したのなら、ここに用はありません」
アルマの行動を無視するかのように立ち去ろうとするブラッドリー。
その姿をアルマは、一瞥する。
「ドリーさーん。僕、『つまんない』です!」
『つまらない』。
その一言が合図であった。
八島はドリスキルへウィンドガスト。
同時にりるかはヴェルナーを庇うように前に立ち、ブラッドリーに向けてアイスボルトで狙い撃つ。
「ヴェルナーさんに……近付けさせません」
「天使達、この機を逃さず挑むつもりですか」
ブラッドリーは光の盾を展開してアイスボルトを防ぐ。
タイミングを合わせての奇襲。ハンター達は黙ってブラッドリーを逃がすつもりはないようだ。
「私は預言した。楽園には行かせないと」
雨を告げる鳥は万色の矢を放つ。
別方向からはレイピアを片手にヴェルナーがスラッシュエッジで迫る。
「何処へ行かれるのです? もてなしはこれからですよ」
「それで良いのです。抗う事が楽園へ帰還する鍵になります」
レイピアの一撃を光の盾で防ぐブラッドリー。
アルマの目に映る光球は三つ。アルマが一撃を叩き込めば、光の盾は形成できなくなる。
アルマはヴェルナーとブラッドリーが距離を置いた瞬間に体を割り込ませる。
「あっはっはっ! 僕、すっごく怒ってるって言いましたよねぇ!!
僕、燕太郎さんが大っ嫌いなんです。それを手伝わせたんですよね。うん、殺す」
殺意に満ちた笑顔を向けるアルマ。
機械剣「ドリーフック」を手にしてデルタレイが複数回放たれる。強烈な一撃が繰り返しブラッドリーへ注ぎ込まれる。気付けば、ブラッドリーの周辺にある光球はすべて消え失せている。
「駄犬の天使ですか。騎士に手を貸したのは終末を招く為に必要な事。彼の者が動く事で、終末は確実に到来する」
「青木にビックマーを殺させる事でオーロラを怒らせたのですか。……そうか。言い換えれば、青木を『利用』しましたね」
ブラッドリーの言葉に八島は気付いた。
青木がビックマーは『ハンターに倒された』と吹き込む事で、オーロラを怒らせれば終末は早まる。怒るオーロラが人間に対峙するのは自然流れだ。
ブラッドリーはその流れを加速させる為に力を貸していたのだろう。
「そんな言い訳は良いです。早く死んで欲しいです」
「……駄犬の天使。私も無駄に怠惰に手を貸していた訳ではないのですよ? 終末の欠片を味わいなさい」
突如、ブラッドリーの手にしていた本が勢い良く開き、ページが次々と開かれる。
「ネツァクからイェソドへ。その力を示せ」
ブラッドリーの言葉。
次の瞬間、周囲に不穏な空気が渦巻き始める。
「……あれ?」
アルマの体へ急に異変が発生する。
異常な倦怠感。一歩踏み出そうとするが、足が以上に重い。
その様子に八島は、自らの体験を元に気付く。
「あれは、怠惰の感染です」
「怠惰王ほどではありませんが、少し真似事させていただきました。それでも駄犬の天使は強い。私が止められるのは一時だけでしょう。ですが、それで十分です」
アルマの足元が光る。
地面に描かれる見た事もない絵柄。
「私がただ黙って待っていたとでも? 万一を考え、光球を一つ使って備えていました。
ネツァクからホドへ。その力を示せ。……レッドスプライト」
ブラッドリーの言葉と共にアルマの周囲に赤い雷のスパークが迸る。
それも宙から地面へ流れるようなスパーク。
何かが来る。それはアルマにも分かる。
だが、その雷は――。
「……おや?」
放たれるかと思われた一瞬、紋章が掻き消されて普通の地面へと戻っていく。
「カウンターマジック……です……」
りるかはアルマを救う為にカウンターマジックを発動させていた。
うまく動いてくれたおかげで赤い雷は消えてくれたようだ。
「見事ですね。ここは立ち去るとします」
ブラッドリーは踵を返した。
戦闘でブラッドリーの隠していた能力を垣間見られたのは大きな成果と言えるだろう。
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終末に向かいし邂逅(相談卓) 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/12/22 13:58:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/19 17:37:58 |