ゲスト
(ka0000)
【陶曲】望みのままに手を伸ばせ
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/27 15:00
- 完成日
- 2019/01/07 23:52
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ご機嫌斜め
「おやおや、アウグスタ、随分とご機嫌斜めのようだね」
「ラルヴァおじいさま……」
嫉妬王ラルヴァは、自分の遠い配下であるアウグスタがむくれているのを見て穏やかに微笑んで見せた。
「聞いてくださるかしら……せっかくハンターと契約して私の言うことを聞いてくれるようになったのに、それをハンターに取られちゃったの」
「おや……それは残念だね」
「そう……でも、段々彼女も私の言うこと聞いてくれなくなっちゃって。悔しいから契約だけは残してるんだけど、もっと言うことを聞いてくれる人が欲しいわ」
「そうかい。だったら、アウグスタ、契約じゃなくてお友達を見付けたらどうかな?」
「お友達?」
「ああ、君はお話するのが好きだろう? お友達なら、君のお願いも聞いてくれるかもしれないねぇ……クフフ」
アウグスタはぱっと顔を輝かせた。そうだ! おしゃべりで楽しくしてこちらの仲間に引き入れてしまえば良いのだ!
「おじいさまありがとう! やってみる!」
「気をつけて行っておいで」
上司とも言える上位歪虚に手を振って、アウグスタはスキップした。それからはたと思い出す。
「ハンター……」
あの精霊の手先たちは、自分の手足たる蜘蛛雑魔をいつも簡単に倒してしまう。どれだけ連れて行っても同じである。
「また倒されちゃうのかしら……」
彼女は眉間に皺を寄せた。
●お疲れモード
「おやおや、お嬢さんはお疲れのご様子ですねぇ?」
クラーレ・クラーラ (kz0225)は偶然出くわした同属の少女歪虚・アウグスタがむすっとしながら歩いているのを見て声を掛けた。パラソルがくるりと回る。
「あら、クラーレお兄様こんにちは。お目にかかれて嬉しいわ」
アウグスタはおませにスカートを摘まんでお辞儀をしてみせる。上下関係くらいはわきまえているが、消耗から来る不機嫌が滲んでいるようではあった。
この二人、もちろん兄妹ではない。「お兄様」はアウグスタなりの礼儀である。
「こんにちは。何をそんなに疲れているのですかぁ?」
「蜘蛛をたくさん作って持って行ったは良いんだけど、ぜーんぶハンターにやられちゃったの」
「それはそれは。お疲れでしょうねぇ」
「また遊びに行きたいんだけど」
彼女はため息を吐く。
「またやられちゃうのかしら」
「でしたら、私の配下を貸して差し上げますよぉ。あなたのお好きな蜘蛛ではなくて、お人形さんですが」
「お人形さんなの?」
「ええ、陶器のお人形さんですよぉ」
「良いの?」
「ええ」
「やったぁ! ありがとう! お借りするわ! そうだ、お兄様みたいな傘を持たせてあげましょう。お兄様のことを知ってるハンターがいれば、きっとびっくりするに違いないわ! 顎が外れるくらい驚けば良いのよ」
「顎が外れるハンターがいたら教えてくださいねぇ」
「もちろん。お伝えするわ。じゃあまたね、お兄様」
●晴れない心
リアルブルー凍結に伴って転移して来た三人組がいる。転移してから三人ともハンターになり、今は生活を共にしている三人組だ。
「じゃあ、俺とジョンで買い物行ってくるから、お前はゆっくりしてろよ」
「……」
「ハンク、聞いてんのか?」
「……うん」
ハンクは頷くと、同居しているエドとジョンを送り出した。自分の様子がおかしいと言うことで、休ませているつもりだろうが……問題は、自分がエドとジョンが一緒にいるところを見ると心がざわついてしまうことだった。
(変なの……)
どちらかといても、胸が高鳴るようなことはない。恋しているわけではないのは確かだったが、いやに落ち着かない。
(一緒に買い物行って、何を話してるんだろう)
ぼんやりと考える。想像すればするほど気が狂いそうになった。自分は本来心が弱い。
一人にされたくない。
のけものにされたくない。
傍にずっと置いて欲しい。
いや。
傍にずっといて欲しい。
住まいに一人でいればいるほど、気が滅入って、ハンクも外に出た。じっとしていれば気が滅入るが、だからといって運動をするのも億劫だ。なんとなく歩きながら、町の外れまでさまよっていく。
「浮かない顔をしているのね」
幼い少女の声がした。そちらを見ると、黄色っぽいワンピースを着た、八歳くらいの少女がこちらを見ている。長い茶髪に金色の瞳だ。
「ちょっと元気が出なくてね」
「どうして元気が出ないの?」
「友達が……」
「お友達がどうしたの?」
「友達同士が仲良くしてると、何かもやもやした気持ちになるんだ。ごめんね、初対面の君に変な話をしたね」
「ううん。良いのよ。それより、あなた、やきもちやいてるのね?」
「やきもち?」
「うん。お友達三人でいて、他の二人が仲良しだからやきもちやいてるのね」
「そうなのかな……」
そうかもしれない。ジョンとエドは何だかんだ言って仲が良い。
「僕は二人にとって何なんだろう」
アプリの時もそうだった。同じ大学の学生が六人使徒に消された。優しかったエマ。彼女が死んでしまったのが嫌で辛くて。表向きは仇討ちではあったけれど、本当は何をしたかったのかわからない。同じ事がしたかっただけだったのかもしれない。
それに付き合ってアプリを入れたエドは、そのことについて文句も恨み言も言わなかった。ジョンもそうだ。自分のせいでエドの寿命まで縮めてしまったのに。
本当は、自分は二人にとってただのお荷物なのではないかとはずっと思っている。
表向きは親しくないようなことを言いながら、軽口を叩き合っている二人にずっと嫉妬している。
「もっとお話を聞かせて」
少女はハンクの顔を覗き込む。
「静かにお話できるところ、行きましょう?」
●ハンターオフィスにて
「なー、CJ、ハンク見なかったか?」
オフィスにて、エドと呼ばれている疾影士の少年は友人を探して青年職員C.J.に声を掛けた。
「一緒じゃないの? いつもニコイチみたいにいるじゃん」
「俺もそう思ってたんだけど、ジョンと買い物行ってる間にどっか行っちゃったんだよな」
「どうしたのかな」
言いながら、職員も周りを見回してハンクを探す。
「エド! この人がハンクを見たって!」
ジョンが一人の男性を連れてやって来た。男性は穏やかに微笑みながら、友達を探す少年たちをなだめようとする。
「まぁまぁ、落ち着きなさい君たち。小さな女の子と一緒だったよ。八歳くらいかなぁ。長い茶髪で黄色っぽいワンピースの……」
C.J.がマグカップを倒した。エドが振り返ると、彼は真っ青になっている。
「何だよ」
「それって、あの子じゃないでしょうね!?」
彼が指したのは、最近同盟を騒がせている少女歪虚・アウグスタの似顔絵だ。
「そうそうあの子……歪虚!?」
エドとジョンは理解が追いつかないような顔をしている。
「ハンクが歪虚に連れて行かれたってことか?」
「多分そうだ! ねえ! 誰か来て! 嫉妬歪虚が新人ハンターを連れて行っちゃったよ!」
「おやおや、アウグスタ、随分とご機嫌斜めのようだね」
「ラルヴァおじいさま……」
嫉妬王ラルヴァは、自分の遠い配下であるアウグスタがむくれているのを見て穏やかに微笑んで見せた。
「聞いてくださるかしら……せっかくハンターと契約して私の言うことを聞いてくれるようになったのに、それをハンターに取られちゃったの」
「おや……それは残念だね」
「そう……でも、段々彼女も私の言うこと聞いてくれなくなっちゃって。悔しいから契約だけは残してるんだけど、もっと言うことを聞いてくれる人が欲しいわ」
「そうかい。だったら、アウグスタ、契約じゃなくてお友達を見付けたらどうかな?」
「お友達?」
「ああ、君はお話するのが好きだろう? お友達なら、君のお願いも聞いてくれるかもしれないねぇ……クフフ」
アウグスタはぱっと顔を輝かせた。そうだ! おしゃべりで楽しくしてこちらの仲間に引き入れてしまえば良いのだ!
「おじいさまありがとう! やってみる!」
「気をつけて行っておいで」
上司とも言える上位歪虚に手を振って、アウグスタはスキップした。それからはたと思い出す。
「ハンター……」
あの精霊の手先たちは、自分の手足たる蜘蛛雑魔をいつも簡単に倒してしまう。どれだけ連れて行っても同じである。
「また倒されちゃうのかしら……」
彼女は眉間に皺を寄せた。
●お疲れモード
「おやおや、お嬢さんはお疲れのご様子ですねぇ?」
クラーレ・クラーラ (kz0225)は偶然出くわした同属の少女歪虚・アウグスタがむすっとしながら歩いているのを見て声を掛けた。パラソルがくるりと回る。
「あら、クラーレお兄様こんにちは。お目にかかれて嬉しいわ」
アウグスタはおませにスカートを摘まんでお辞儀をしてみせる。上下関係くらいはわきまえているが、消耗から来る不機嫌が滲んでいるようではあった。
この二人、もちろん兄妹ではない。「お兄様」はアウグスタなりの礼儀である。
「こんにちは。何をそんなに疲れているのですかぁ?」
「蜘蛛をたくさん作って持って行ったは良いんだけど、ぜーんぶハンターにやられちゃったの」
「それはそれは。お疲れでしょうねぇ」
「また遊びに行きたいんだけど」
彼女はため息を吐く。
「またやられちゃうのかしら」
「でしたら、私の配下を貸して差し上げますよぉ。あなたのお好きな蜘蛛ではなくて、お人形さんですが」
「お人形さんなの?」
「ええ、陶器のお人形さんですよぉ」
「良いの?」
「ええ」
「やったぁ! ありがとう! お借りするわ! そうだ、お兄様みたいな傘を持たせてあげましょう。お兄様のことを知ってるハンターがいれば、きっとびっくりするに違いないわ! 顎が外れるくらい驚けば良いのよ」
「顎が外れるハンターがいたら教えてくださいねぇ」
「もちろん。お伝えするわ。じゃあまたね、お兄様」
●晴れない心
リアルブルー凍結に伴って転移して来た三人組がいる。転移してから三人ともハンターになり、今は生活を共にしている三人組だ。
「じゃあ、俺とジョンで買い物行ってくるから、お前はゆっくりしてろよ」
「……」
「ハンク、聞いてんのか?」
「……うん」
ハンクは頷くと、同居しているエドとジョンを送り出した。自分の様子がおかしいと言うことで、休ませているつもりだろうが……問題は、自分がエドとジョンが一緒にいるところを見ると心がざわついてしまうことだった。
(変なの……)
どちらかといても、胸が高鳴るようなことはない。恋しているわけではないのは確かだったが、いやに落ち着かない。
(一緒に買い物行って、何を話してるんだろう)
ぼんやりと考える。想像すればするほど気が狂いそうになった。自分は本来心が弱い。
一人にされたくない。
のけものにされたくない。
傍にずっと置いて欲しい。
いや。
傍にずっといて欲しい。
住まいに一人でいればいるほど、気が滅入って、ハンクも外に出た。じっとしていれば気が滅入るが、だからといって運動をするのも億劫だ。なんとなく歩きながら、町の外れまでさまよっていく。
「浮かない顔をしているのね」
幼い少女の声がした。そちらを見ると、黄色っぽいワンピースを着た、八歳くらいの少女がこちらを見ている。長い茶髪に金色の瞳だ。
「ちょっと元気が出なくてね」
「どうして元気が出ないの?」
「友達が……」
「お友達がどうしたの?」
「友達同士が仲良くしてると、何かもやもやした気持ちになるんだ。ごめんね、初対面の君に変な話をしたね」
「ううん。良いのよ。それより、あなた、やきもちやいてるのね?」
「やきもち?」
「うん。お友達三人でいて、他の二人が仲良しだからやきもちやいてるのね」
「そうなのかな……」
そうかもしれない。ジョンとエドは何だかんだ言って仲が良い。
「僕は二人にとって何なんだろう」
アプリの時もそうだった。同じ大学の学生が六人使徒に消された。優しかったエマ。彼女が死んでしまったのが嫌で辛くて。表向きは仇討ちではあったけれど、本当は何をしたかったのかわからない。同じ事がしたかっただけだったのかもしれない。
それに付き合ってアプリを入れたエドは、そのことについて文句も恨み言も言わなかった。ジョンもそうだ。自分のせいでエドの寿命まで縮めてしまったのに。
本当は、自分は二人にとってただのお荷物なのではないかとはずっと思っている。
表向きは親しくないようなことを言いながら、軽口を叩き合っている二人にずっと嫉妬している。
「もっとお話を聞かせて」
少女はハンクの顔を覗き込む。
「静かにお話できるところ、行きましょう?」
●ハンターオフィスにて
「なー、CJ、ハンク見なかったか?」
オフィスにて、エドと呼ばれている疾影士の少年は友人を探して青年職員C.J.に声を掛けた。
「一緒じゃないの? いつもニコイチみたいにいるじゃん」
「俺もそう思ってたんだけど、ジョンと買い物行ってる間にどっか行っちゃったんだよな」
「どうしたのかな」
言いながら、職員も周りを見回してハンクを探す。
「エド! この人がハンクを見たって!」
ジョンが一人の男性を連れてやって来た。男性は穏やかに微笑みながら、友達を探す少年たちをなだめようとする。
「まぁまぁ、落ち着きなさい君たち。小さな女の子と一緒だったよ。八歳くらいかなぁ。長い茶髪で黄色っぽいワンピースの……」
C.J.がマグカップを倒した。エドが振り返ると、彼は真っ青になっている。
「何だよ」
「それって、あの子じゃないでしょうね!?」
彼が指したのは、最近同盟を騒がせている少女歪虚・アウグスタの似顔絵だ。
「そうそうあの子……歪虚!?」
エドとジョンは理解が追いつかないような顔をしている。
「ハンクが歪虚に連れて行かれたってことか?」
「多分そうだ! ねえ! 誰か来て! 嫉妬歪虚が新人ハンターを連れて行っちゃったよ!」
リプレイ本文
●呼びかけに応じて
「エドとジョンじゃない。今日はハンクは一緒じゃないの?」
天王寺茜(ka4080)は、C.J.の叫び声を聞きつけて駆けつけた。エドとジョンの二人と面識のある彼女は、いつも一緒にいるはずのハンクが見当たらないことに首を傾げる。しかし、エドとジョンが焦燥しているのには気付いた。
「一緒だったらこんなことになってねぇよ」
「え、居なくなったハンターってハンクのこと? 大変じゃない!」
それから、三々五々ハンターが集まった。六人集まったところで、C.J.は彼らにもう一度事情を説明する。
「アウグスタが……」
「新しい玩具を探してるってところかな?」
アウグスタの契約者騒動に関わっている穂積 智里(ka6819)とフワ ハヤテ(ka0004)は思い当たる節があるらしい。
「あのちびっ子がですかぁ?」
星野 ハナ(ka5852)もまたアウグスタとは面識がある。郷祭で彼女を怒らせ、話を逸らして戦闘に持ち込んだのはハナだ。
「わふ! こないだの人たちです!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)はエドとジョンに見覚えがあるらしい。尻尾の様によく動く耳をぱたぱたさせながら二人の方へぴょんと飛び込んだ。
「マジかよ。今度も助けてくれるの?」
「勿論です!」
「ふうん。結構可愛い顔じゃないか」
龍宮 アキノ(ka6831)は手配書の似顔絵を見てふむ、と考える。ジョンとエドを振り返った。
「まさかその坊や、可愛い女の子だからってホイホイついていっちまったわけじゃないだろうねぇ?」
「どうだろうな。どちらかと言うと自分より弱そうな女には付いていくと思うけど」
「なるほどね? まあ良いさ。とにかく、ハンク坊やを探しに行こうじゃないか」
●火種
目撃証言を辿った彼らがたどり着いたのは、町外れにある森の入り口だった。物々しい足音、ハヤテが乗るエクウスの蹄が立てる音に、二人が振り返る。
「あら、間に合ったのね」
アウグスタは余裕の表情だ。彼女は智里の姿を認めると、わずかに目を細める。
「またお会いしたわね。別に、今日は私のことを迎えに来たわけではないのでしょ?」
「アウグスタ……まだ迎えにくるには足りなくても、私は必ず貴女を迎えに行きます。そして……私は貴女の死をやり直します」
「随分簡単に言うこと」
それを合図にしたかの様に、森の向こうから金属音が聞こえる。だが、やって来たのはブリキの蜘蛛だけではなかった。
「へえ……なんだか随分懐かしい敵が混ざっているね」
それに気付いたのはハヤテだった。赤と黄色の二色のパラソル。雨除けには不足するが、ファッションには愛らしい。クラーレ・クラーラが持つパラソルと同じものだと彼は看破した。
「そのお人形、クラーレのじゃないのかな? 召喚を教えてもらったの? それとも借りてきたのかい? ああ分かるよ、女の子ってお人形遊び好きだよね!」
「アウグスタ、今度は人形遊びに目覚めたんですぅ?」
挑発的にハナが言う。
「クラーレ……ああ、腕四本、足二本の虫歪虚。手足六本ならただの虫じゃないですかぁ」
「蜘蛛は八本だけど」
「蜘蛛と昆虫は厳密には違いますけどぉ、人間と虫より全然近いんだから良いんじゃないですかぁ。虫歪虚の妹分、虫歪虚のアウグスタ。虫、虫、むーしっ、あはははは」
全力で煽りにかかるハナだが、アウグスタは郷祭の様に激昂する様子は見せない。笑んだまま言い放った。
「あなたそれ、好きな女の子の気を引きたい男の子そっくりよ? そんなに私の気を引きたいのかしら? 好きな人が振り返ってくれないとか、そう言う悩み?」
「こんなところでまでキャットファイトか?」
エドが呟いた。アウグスタはハナに向き直る。
「ハナちゃん、好きな人が振り返ってくれないなら、何度でも私の気を引いても良いのよ? 私は振り返ってあげるわ!」
それと同時に、森の木々をなぎ倒して、高さ三メートルはある大型蜘蛛が駆けつけた。アウグスタはハナの返事を待たずに飛び乗る。彼女はそこから高らかに言い放つ。
「郷祭でしてくれた意地悪のお返しよ!」
「ところで、こないだの蜘蛛さん、君のだったです? 楽しかったですー!」
そのタイミングで、アルマが割り込んだ。彼は、先日孤児院を襲撃した多数の蜘蛛雑魔の殲滅に参加している。数が多かったため、それはもう喜んで叩き潰した。
黒衣、赤い瞳。いっそ禍々しいとさえ言えるアルマの背に、虹色の翼がかかる。それと同時に、茜が踵からマテリアルを噴射して飛び上がった。
「ハンク!」
白龍の息吹が、アウグスタに向けて一直線に吹き付けられた。
それと同時に、ダブルキャストを用いたハヤテが、ファイアーボール一つとマジックアローを五本、息吹と同じ射程、アウグスタの両隣に撃ち込む。爆発が起きた。蜘蛛と人形の混成部隊で爆発範囲にいたものの内、爆発に巻き込まれたか、矢の当たった蜘蛛は全て消えた。だが、人形は立っている。
「流石、クラーレ謹製は頑丈なようだ!」
「おあいにく様! いつも一発で倒せると思ったら大間違いよ!」
「いやいや、ボクはいつも一発で倒せないと思って準備してきているからね。むしろ意外と蜘蛛が脆弱でびっくりしているのさ」
龍の息吹を、アウグスタの蜘蛛は後ろに下がって回避していた。そこにジェットブーツで着地した茜が、駆けつける。
「ハンク、大丈夫!?」
「あ、茜……」
「茜ちゃんって言うの? こんにちは。私はアウグスタよ」
「ハンクは連れて帰るわ」
「ええ、良いわよ。でもね」
アウグスタは身を乗り出して茜に囁いた。
「彼を連れて行って、それでめでたしめでたし、で終わると思う? 一度知ってしまったことって、そんな簡単に頭から消したり、忘れたりすることができるかしら? あなたには覚えがない? 私にはあるわ」
くすり、と微笑む。子供じみた、悪意の笑み。いじめっ子と呼ばれる者のそれだ。
「そうよね? ヘンリー。もう火はつけられた。どこまで燃え広がるか、楽しみね」
「アウグスタ……!」
そこに、智里のデルタレイが飛んできた。茜とハンクに気を取られていたアウグスタの蜘蛛に、傍らにいた人形の二体に光線が命中する。
「もう! 人がおしゃべりしているときに! お行儀が悪いわ! 行って良いわよ、ヘンリー。良かったわね、お迎えが来て。でも、私とまた遊んでくれるでしょう?」
「ハンク、行きましょう」
「またね」
茜はそのままハンクの手を引いた。その道中に、ハナが五色光符陣を敷いて露払いをする。光符陣はアウグスタと蜘蛛も結界で灼いた。
「ハナさんありがとう!」
「もうちょっとですぅ! やーい虫!」
「ごめんね、ハナちゃん。今日は私、あなたの相手してあげる気はないの。ハナちゃんじゃなくたって、お友達や好きな人との間に不安なことがあるんじゃないかしら! 何もないなんて言わせないわよ!」
「ないです!」
それに即答で応じたのはアルマだった。ハンクが顔を上げる。エドがちらりとアルマを見た。ジョンは両手でメイスを握りしめて、アウグスタを見ている。
「寂しいときは素直に一緒にいてくださいって言うです。そしたら、構ってくれるです! 僕も相棒さんと一緒に住んでますけど、そういう時はちゃんと言って、ぎゅって甘えるです!」
親愛と信頼。何も知らないエドたちにもそれは伝わった。
アウグスタはしばらく無言でアルマを眺めていたが、やがて口の端を釣り上げた。
「面白くない」
「えー、僕は楽しいです。もっと遊んで欲しいです。僕、アルマっていいます!」
「私の蜘蛛と遊んで楽しかったんでしょう? あなたは私を殺したいのよね? あなたは初めて見る顔」
アルマに、次いで智里に、アキノに言う。
「楽しかったです!」
「必ず、あなたを看取ります」
「そうだね。初めて会うよ。興味深いね」
「あなたたちはクラーレお兄様を知ってる……顎が外れるほど驚けば良いと思ったのに。面白くないわ」
ハヤテに、ハナに。
「そりゃ光栄だ。ボクは結構楽しんでるけどね」
「お前に面白がってもらうためにやってませぇん」
「良いわ! それぞれにゆかりのある子たちを差し向けてあげる! あなたたち! アルマくんと、大風呂敷のお姉さん、それから初対面のお姉様にご挨拶を! お人形さんたちはあの魔術師のお兄さんとハナちゃんよ! 私はここでさよならね。もう今日やることは終わったから!」
蜘蛛はアルマと智里とアキノを、人形たちはハヤテとハナを、それぞれ狙えるように移動し始める。その間に、アキノが機導浄化術・白虹を展開した。元々はマテリアル汚染への対処スキルだが、蜘蛛の糸には効果があるかどうか。
その蜘蛛や人形たちを、時には蹴り飛ばしたり、飛び越えたりしながら、茜がハンクを連れて戻ってくる。リレーの次走者の様にエドが手を伸ばした。
「エド、ハンクをお願い!」
「おう、サンキュ! 大丈夫か?」
エドがハンクの胴を捕まえて引っ張った。
「こ、こわい……」
「ジョン! あとは頼むぜ!」
半ばハンクを引きずるように、エドはその場から離脱した。ジョンがメイスを両手で持って構える。茜を見た。
「茜、申し訳ないが、僕に前線は無理だ。後方から支援につとめる」
「わかってるわ。気をつけて!」
アウグスタの蜘蛛はそのまま方向転換をして走り去った。それを合図に、蜘蛛と人形が押し寄せる。
玩具が向こうからやって来た。アルマは目を輝かせて、ファイアスローワーを展開した。最前衛の彼は巻き込みを気にしなくて良かった。一気に焼き払う。一部が運良く回避したが、数はかなり減った。アキノと智里も前に出る。同じ列に並べば、隣は気にしなくて良い。
「人形を巻き込んでも良いんだけどねぇ、ちょっと遠いね。まったく、ろくな遊びじゃないよ」
「人形の狙いはハナさんとハヤテさんの様です。私たちは蜘蛛が狙っていますし、まずはこちらから片付けましょう」
「お人形さんでも遊んで良いです?」
アルマのモノクルが煌めいた。ハヤテは馬上からファイアーボールを撃ち込む。ハナは五色光符陣だ。人数の少ないこちらに合流した茜も、デルタレイで応戦した。
「そうだね、蜘蛛と違ってこっちは少々頑丈なようだ。遊び相手は多いに越したことはないってさ!」
軽やかな蹄の音に、ハヤテの声が乗る。
やや頑丈な人形に多少は手間を取ったものの、ほどなくして蜘蛛と人形は全滅した。最後に逃げだそうとした蜘蛛を、ハヤテの馬が踏み潰して戦闘終了と相成った。
オフィスに戻ると、エドとハンクがソファに座って待っていた。その前でC.J.が頭を掻いている。
「名乗ったんだな」
「はい……」
アウグスタが言った「ヘンリー」とはハンクのことだ。ハンクとは短縮形であって、彼の本名はヘンリーなのである。ヘンリーだがハンクと呼ばれる、と言うのが平時でされる彼の自己紹介。つまり、本名をアウグスタに告げた、と言うことだ。
そのハンクの頭を、ハナが軽く拳で小突いた。驚いた振り返るのに、ハナは眉を下げて頭を撫でる。
「これから、きちんとマテリアル見極めなきゃ駄目ですよぅ? 歪虚にとって私達は美味しい餌でもあるんですからぁ……無事で良かったですぅ」
「全くの無機物なのか元は人間なのかさえまだ確定していないんです、アウグスタは。迎えに来なかったのが本当に人間の母親なのかお人形遊びが好きな子供だったのかすら不明なんです」
智里も言葉を添えた。
そのハナを、「女って怖いな」と言う顔でエドが見ている。それから彼は、首を振ってから気を取り直すようにアルマの方を向いた。
「それにしても、今度も魔王の面目躍如って感じだったよな」
それを聞くや、アルマの目がすっと細められた。
「……皆さんにお話してないはずです? 誰です? それ言ったの。まだ卵です! うろ覚えはすごく失礼です!」
アルマの自認は魔王の卵であって魔王ではない。火力的に魔王で納得していたエドは、にこにこしていたアルマが突然怒り出したのにうろたえた。
「ご、ごめんなさい! 俺の聞き間違いだったかも!」
「エド、何でも暗記に頼れるのは小学生までだ」
ジョンが呆れた様に言うが、かくいう彼も魔王だと思っていたので内心冷や汗である。
「そうか。歳だな」
「ハンク、大丈夫?」
茜が気遣わしげにハンクに問う。C.J.がエドとジョンを見て言った。
「君たちは外してくれ。友人の前じゃ言いにくいこともある」
「どう言う意味だよ」
「経験則で言ってる。行って」
エドは不承不承、ジョンは一応納得した顔でその場を去った。茜主導でハンクから聞き取りをする。ハンクは、小さな声で、人間関係に不安があったことを告げた。話を聞き終えてから、茜はハンクの肩に手を置く。
「ハンクが感じてるモヤモヤは誰だって、私だって経験あるわ。でもそれで相手と距離を取ったり、壁を作るのは良くないと思う」
「茜にもあるの?」
「だから、ハンクお前そう言うところだよ。エドもこの前そうだったけど。茜だって人間だから事情はあるし辛いこともあるんだよ。理想像にするな。他人を祀るな」
C.J.が苛立った様に頭を掻く。智里がそこを取りなすように、
「ハンクさん、仲間と家族は違うんです。そこを間違えると、辛くなるだけだと思います」
「友達なんて人生楽しんでりゃどうとでもなるだろうて。かくいうあたしだってまともな友達なんていないけど、それで人生苦労したことないしねぇ」
アキノが肩を竦めた。C.J.は我が意を得たりとばかりに頷いた。
「そうだよ。アキノを目指せとは言わないけど、それくらい開き直れば?」
「目指してなったもんじゃないよ」
「抱え込まないで、エドとジョンに素直に話してみたら?」
茜が話題を修正した。
「恥ずかしいって感情が全てをダメにすることはたくさんありますぅ。せっかく三人でここに来たんですからぁ、もっといっぱい話し合ってみて下さいねぇ」
「エドなら『そんなことで悩むなよ』とか言いそうだけどね」
「仲良しは素敵なことですよ?」
ハナと茜、アルマは明るい。目を伏せるハンクの背中を、茜が軽く叩いた。
「ハンク、男は度胸! 行動あるのみよ!」
「うん……そうだね……」
ハンクは曖昧に笑う。
そもそもの問題として、ハンクが他者の忠告を受け入れて思い込みを訂正できるような人格であれば、イクシード・アプリをインストールすることもなかった。シャトルに乗って月に行くこともなかった。こんなことを悩んで一人で抱え込むこともなかった。恐らくはお気楽に過ごして、友人たちの死を悼み、地球で凍結されていたことだろう。
問題の根幹は他にある。
ほら、嫉妬の声がする。
こちらにおいでと呼んでいる。
「エドとジョンじゃない。今日はハンクは一緒じゃないの?」
天王寺茜(ka4080)は、C.J.の叫び声を聞きつけて駆けつけた。エドとジョンの二人と面識のある彼女は、いつも一緒にいるはずのハンクが見当たらないことに首を傾げる。しかし、エドとジョンが焦燥しているのには気付いた。
「一緒だったらこんなことになってねぇよ」
「え、居なくなったハンターってハンクのこと? 大変じゃない!」
それから、三々五々ハンターが集まった。六人集まったところで、C.J.は彼らにもう一度事情を説明する。
「アウグスタが……」
「新しい玩具を探してるってところかな?」
アウグスタの契約者騒動に関わっている穂積 智里(ka6819)とフワ ハヤテ(ka0004)は思い当たる節があるらしい。
「あのちびっ子がですかぁ?」
星野 ハナ(ka5852)もまたアウグスタとは面識がある。郷祭で彼女を怒らせ、話を逸らして戦闘に持ち込んだのはハナだ。
「わふ! こないだの人たちです!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)はエドとジョンに見覚えがあるらしい。尻尾の様によく動く耳をぱたぱたさせながら二人の方へぴょんと飛び込んだ。
「マジかよ。今度も助けてくれるの?」
「勿論です!」
「ふうん。結構可愛い顔じゃないか」
龍宮 アキノ(ka6831)は手配書の似顔絵を見てふむ、と考える。ジョンとエドを振り返った。
「まさかその坊や、可愛い女の子だからってホイホイついていっちまったわけじゃないだろうねぇ?」
「どうだろうな。どちらかと言うと自分より弱そうな女には付いていくと思うけど」
「なるほどね? まあ良いさ。とにかく、ハンク坊やを探しに行こうじゃないか」
●火種
目撃証言を辿った彼らがたどり着いたのは、町外れにある森の入り口だった。物々しい足音、ハヤテが乗るエクウスの蹄が立てる音に、二人が振り返る。
「あら、間に合ったのね」
アウグスタは余裕の表情だ。彼女は智里の姿を認めると、わずかに目を細める。
「またお会いしたわね。別に、今日は私のことを迎えに来たわけではないのでしょ?」
「アウグスタ……まだ迎えにくるには足りなくても、私は必ず貴女を迎えに行きます。そして……私は貴女の死をやり直します」
「随分簡単に言うこと」
それを合図にしたかの様に、森の向こうから金属音が聞こえる。だが、やって来たのはブリキの蜘蛛だけではなかった。
「へえ……なんだか随分懐かしい敵が混ざっているね」
それに気付いたのはハヤテだった。赤と黄色の二色のパラソル。雨除けには不足するが、ファッションには愛らしい。クラーレ・クラーラが持つパラソルと同じものだと彼は看破した。
「そのお人形、クラーレのじゃないのかな? 召喚を教えてもらったの? それとも借りてきたのかい? ああ分かるよ、女の子ってお人形遊び好きだよね!」
「アウグスタ、今度は人形遊びに目覚めたんですぅ?」
挑発的にハナが言う。
「クラーレ……ああ、腕四本、足二本の虫歪虚。手足六本ならただの虫じゃないですかぁ」
「蜘蛛は八本だけど」
「蜘蛛と昆虫は厳密には違いますけどぉ、人間と虫より全然近いんだから良いんじゃないですかぁ。虫歪虚の妹分、虫歪虚のアウグスタ。虫、虫、むーしっ、あはははは」
全力で煽りにかかるハナだが、アウグスタは郷祭の様に激昂する様子は見せない。笑んだまま言い放った。
「あなたそれ、好きな女の子の気を引きたい男の子そっくりよ? そんなに私の気を引きたいのかしら? 好きな人が振り返ってくれないとか、そう言う悩み?」
「こんなところでまでキャットファイトか?」
エドが呟いた。アウグスタはハナに向き直る。
「ハナちゃん、好きな人が振り返ってくれないなら、何度でも私の気を引いても良いのよ? 私は振り返ってあげるわ!」
それと同時に、森の木々をなぎ倒して、高さ三メートルはある大型蜘蛛が駆けつけた。アウグスタはハナの返事を待たずに飛び乗る。彼女はそこから高らかに言い放つ。
「郷祭でしてくれた意地悪のお返しよ!」
「ところで、こないだの蜘蛛さん、君のだったです? 楽しかったですー!」
そのタイミングで、アルマが割り込んだ。彼は、先日孤児院を襲撃した多数の蜘蛛雑魔の殲滅に参加している。数が多かったため、それはもう喜んで叩き潰した。
黒衣、赤い瞳。いっそ禍々しいとさえ言えるアルマの背に、虹色の翼がかかる。それと同時に、茜が踵からマテリアルを噴射して飛び上がった。
「ハンク!」
白龍の息吹が、アウグスタに向けて一直線に吹き付けられた。
それと同時に、ダブルキャストを用いたハヤテが、ファイアーボール一つとマジックアローを五本、息吹と同じ射程、アウグスタの両隣に撃ち込む。爆発が起きた。蜘蛛と人形の混成部隊で爆発範囲にいたものの内、爆発に巻き込まれたか、矢の当たった蜘蛛は全て消えた。だが、人形は立っている。
「流石、クラーレ謹製は頑丈なようだ!」
「おあいにく様! いつも一発で倒せると思ったら大間違いよ!」
「いやいや、ボクはいつも一発で倒せないと思って準備してきているからね。むしろ意外と蜘蛛が脆弱でびっくりしているのさ」
龍の息吹を、アウグスタの蜘蛛は後ろに下がって回避していた。そこにジェットブーツで着地した茜が、駆けつける。
「ハンク、大丈夫!?」
「あ、茜……」
「茜ちゃんって言うの? こんにちは。私はアウグスタよ」
「ハンクは連れて帰るわ」
「ええ、良いわよ。でもね」
アウグスタは身を乗り出して茜に囁いた。
「彼を連れて行って、それでめでたしめでたし、で終わると思う? 一度知ってしまったことって、そんな簡単に頭から消したり、忘れたりすることができるかしら? あなたには覚えがない? 私にはあるわ」
くすり、と微笑む。子供じみた、悪意の笑み。いじめっ子と呼ばれる者のそれだ。
「そうよね? ヘンリー。もう火はつけられた。どこまで燃え広がるか、楽しみね」
「アウグスタ……!」
そこに、智里のデルタレイが飛んできた。茜とハンクに気を取られていたアウグスタの蜘蛛に、傍らにいた人形の二体に光線が命中する。
「もう! 人がおしゃべりしているときに! お行儀が悪いわ! 行って良いわよ、ヘンリー。良かったわね、お迎えが来て。でも、私とまた遊んでくれるでしょう?」
「ハンク、行きましょう」
「またね」
茜はそのままハンクの手を引いた。その道中に、ハナが五色光符陣を敷いて露払いをする。光符陣はアウグスタと蜘蛛も結界で灼いた。
「ハナさんありがとう!」
「もうちょっとですぅ! やーい虫!」
「ごめんね、ハナちゃん。今日は私、あなたの相手してあげる気はないの。ハナちゃんじゃなくたって、お友達や好きな人との間に不安なことがあるんじゃないかしら! 何もないなんて言わせないわよ!」
「ないです!」
それに即答で応じたのはアルマだった。ハンクが顔を上げる。エドがちらりとアルマを見た。ジョンは両手でメイスを握りしめて、アウグスタを見ている。
「寂しいときは素直に一緒にいてくださいって言うです。そしたら、構ってくれるです! 僕も相棒さんと一緒に住んでますけど、そういう時はちゃんと言って、ぎゅって甘えるです!」
親愛と信頼。何も知らないエドたちにもそれは伝わった。
アウグスタはしばらく無言でアルマを眺めていたが、やがて口の端を釣り上げた。
「面白くない」
「えー、僕は楽しいです。もっと遊んで欲しいです。僕、アルマっていいます!」
「私の蜘蛛と遊んで楽しかったんでしょう? あなたは私を殺したいのよね? あなたは初めて見る顔」
アルマに、次いで智里に、アキノに言う。
「楽しかったです!」
「必ず、あなたを看取ります」
「そうだね。初めて会うよ。興味深いね」
「あなたたちはクラーレお兄様を知ってる……顎が外れるほど驚けば良いと思ったのに。面白くないわ」
ハヤテに、ハナに。
「そりゃ光栄だ。ボクは結構楽しんでるけどね」
「お前に面白がってもらうためにやってませぇん」
「良いわ! それぞれにゆかりのある子たちを差し向けてあげる! あなたたち! アルマくんと、大風呂敷のお姉さん、それから初対面のお姉様にご挨拶を! お人形さんたちはあの魔術師のお兄さんとハナちゃんよ! 私はここでさよならね。もう今日やることは終わったから!」
蜘蛛はアルマと智里とアキノを、人形たちはハヤテとハナを、それぞれ狙えるように移動し始める。その間に、アキノが機導浄化術・白虹を展開した。元々はマテリアル汚染への対処スキルだが、蜘蛛の糸には効果があるかどうか。
その蜘蛛や人形たちを、時には蹴り飛ばしたり、飛び越えたりしながら、茜がハンクを連れて戻ってくる。リレーの次走者の様にエドが手を伸ばした。
「エド、ハンクをお願い!」
「おう、サンキュ! 大丈夫か?」
エドがハンクの胴を捕まえて引っ張った。
「こ、こわい……」
「ジョン! あとは頼むぜ!」
半ばハンクを引きずるように、エドはその場から離脱した。ジョンがメイスを両手で持って構える。茜を見た。
「茜、申し訳ないが、僕に前線は無理だ。後方から支援につとめる」
「わかってるわ。気をつけて!」
アウグスタの蜘蛛はそのまま方向転換をして走り去った。それを合図に、蜘蛛と人形が押し寄せる。
玩具が向こうからやって来た。アルマは目を輝かせて、ファイアスローワーを展開した。最前衛の彼は巻き込みを気にしなくて良かった。一気に焼き払う。一部が運良く回避したが、数はかなり減った。アキノと智里も前に出る。同じ列に並べば、隣は気にしなくて良い。
「人形を巻き込んでも良いんだけどねぇ、ちょっと遠いね。まったく、ろくな遊びじゃないよ」
「人形の狙いはハナさんとハヤテさんの様です。私たちは蜘蛛が狙っていますし、まずはこちらから片付けましょう」
「お人形さんでも遊んで良いです?」
アルマのモノクルが煌めいた。ハヤテは馬上からファイアーボールを撃ち込む。ハナは五色光符陣だ。人数の少ないこちらに合流した茜も、デルタレイで応戦した。
「そうだね、蜘蛛と違ってこっちは少々頑丈なようだ。遊び相手は多いに越したことはないってさ!」
軽やかな蹄の音に、ハヤテの声が乗る。
やや頑丈な人形に多少は手間を取ったものの、ほどなくして蜘蛛と人形は全滅した。最後に逃げだそうとした蜘蛛を、ハヤテの馬が踏み潰して戦闘終了と相成った。
オフィスに戻ると、エドとハンクがソファに座って待っていた。その前でC.J.が頭を掻いている。
「名乗ったんだな」
「はい……」
アウグスタが言った「ヘンリー」とはハンクのことだ。ハンクとは短縮形であって、彼の本名はヘンリーなのである。ヘンリーだがハンクと呼ばれる、と言うのが平時でされる彼の自己紹介。つまり、本名をアウグスタに告げた、と言うことだ。
そのハンクの頭を、ハナが軽く拳で小突いた。驚いた振り返るのに、ハナは眉を下げて頭を撫でる。
「これから、きちんとマテリアル見極めなきゃ駄目ですよぅ? 歪虚にとって私達は美味しい餌でもあるんですからぁ……無事で良かったですぅ」
「全くの無機物なのか元は人間なのかさえまだ確定していないんです、アウグスタは。迎えに来なかったのが本当に人間の母親なのかお人形遊びが好きな子供だったのかすら不明なんです」
智里も言葉を添えた。
そのハナを、「女って怖いな」と言う顔でエドが見ている。それから彼は、首を振ってから気を取り直すようにアルマの方を向いた。
「それにしても、今度も魔王の面目躍如って感じだったよな」
それを聞くや、アルマの目がすっと細められた。
「……皆さんにお話してないはずです? 誰です? それ言ったの。まだ卵です! うろ覚えはすごく失礼です!」
アルマの自認は魔王の卵であって魔王ではない。火力的に魔王で納得していたエドは、にこにこしていたアルマが突然怒り出したのにうろたえた。
「ご、ごめんなさい! 俺の聞き間違いだったかも!」
「エド、何でも暗記に頼れるのは小学生までだ」
ジョンが呆れた様に言うが、かくいう彼も魔王だと思っていたので内心冷や汗である。
「そうか。歳だな」
「ハンク、大丈夫?」
茜が気遣わしげにハンクに問う。C.J.がエドとジョンを見て言った。
「君たちは外してくれ。友人の前じゃ言いにくいこともある」
「どう言う意味だよ」
「経験則で言ってる。行って」
エドは不承不承、ジョンは一応納得した顔でその場を去った。茜主導でハンクから聞き取りをする。ハンクは、小さな声で、人間関係に不安があったことを告げた。話を聞き終えてから、茜はハンクの肩に手を置く。
「ハンクが感じてるモヤモヤは誰だって、私だって経験あるわ。でもそれで相手と距離を取ったり、壁を作るのは良くないと思う」
「茜にもあるの?」
「だから、ハンクお前そう言うところだよ。エドもこの前そうだったけど。茜だって人間だから事情はあるし辛いこともあるんだよ。理想像にするな。他人を祀るな」
C.J.が苛立った様に頭を掻く。智里がそこを取りなすように、
「ハンクさん、仲間と家族は違うんです。そこを間違えると、辛くなるだけだと思います」
「友達なんて人生楽しんでりゃどうとでもなるだろうて。かくいうあたしだってまともな友達なんていないけど、それで人生苦労したことないしねぇ」
アキノが肩を竦めた。C.J.は我が意を得たりとばかりに頷いた。
「そうだよ。アキノを目指せとは言わないけど、それくらい開き直れば?」
「目指してなったもんじゃないよ」
「抱え込まないで、エドとジョンに素直に話してみたら?」
茜が話題を修正した。
「恥ずかしいって感情が全てをダメにすることはたくさんありますぅ。せっかく三人でここに来たんですからぁ、もっといっぱい話し合ってみて下さいねぇ」
「エドなら『そんなことで悩むなよ』とか言いそうだけどね」
「仲良しは素敵なことですよ?」
ハナと茜、アルマは明るい。目を伏せるハンクの背中を、茜が軽く叩いた。
「ハンク、男は度胸! 行動あるのみよ!」
「うん……そうだね……」
ハンクは曖昧に笑う。
そもそもの問題として、ハンクが他者の忠告を受け入れて思い込みを訂正できるような人格であれば、イクシード・アプリをインストールすることもなかった。シャトルに乗って月に行くこともなかった。こんなことを悩んで一人で抱え込むこともなかった。恐らくはお気楽に過ごして、友人たちの死を悼み、地球で凍結されていたことだろう。
問題の根幹は他にある。
ほら、嫉妬の声がする。
こちらにおいでと呼んでいる。
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相談するとこです。 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/12/27 11:06:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/23 18:40:23 |