のんべんたこぱりん

マスター:愁水

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~2人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
7日
締切
2019/01/03 19:00
完成日
2019/01/15 04:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 X’mas Eve。
 聖なる夜に、鈴が鳴る。

 りんごんべる。
 りんごんべる。

 サーカスの天幕でも、旧市街でも、三兄妹が住まうアパートでも――鈴は鳴る。





「おー……これ……?」
「ん。ホームパーティー用に作られた……リアルブルーの、物体」

 その名を、たこ焼き器。

「はわ……お祭りの時しか食べられないと思ってた……お家で作れるの、すごいねー……。たこパだ、たこパー……」

 テーブルに準備された数台のたこ焼き器にぱちぱちと拍手を送ると、紅亜(kz0239)はスカートの裾を羽のようにはためかせ、キッチンへ羽ばたく。作業台では白亜(kz0237)が紅亜に背を向ける形で、たこを切っていた。だが、彼女の気配には気づいていたようで、手許の作業はそのまま、声を掛けてくる。

「紅亜か。すまないが、棚にある深皿を――」

 そう言い終える前、白亜は一瞬、身動ぎをした。紅亜が腕を回し、後ろから抱き付いてきたのである。女性恐怖症の白亜にとって、妹である紅亜は対象外。――だが、妹もうら若き女性だ。背後から唐突に抱き付かれれば、驚きもする。しかし、そんな兄の内心は気にもせず、紅亜は「んー……」と、安堵するように瞳を伏せながら、白亜の温もりに頬を預ける。こんな時の紅亜の気分を、白亜は知っていた。

「何だ、随分と機嫌が良いな。ホームパーティーがそんなに楽しみだったか?」
「んー……それも、あるけど……」
「けど、どうした?」
「ん……あのね、ハク……この前……収穫祭あった、でしょ……? そこでね……私……――」

 ――“あの人”の姿を、見たの。

「……」
「紅亜?」
「んん……なんでもない……収穫祭、楽しかったね……」

 あの穏やかな声。月に沈む瞳。彼は間違いなく、彼だった。
 大好きなおにいちゃんが生きていたことを伝えたら、大切な兄はどんな表情をするのだろう。彼の話題をする度、鬱悶に面を歪める兄は――。

「ねえ……ハク……」
「何だ?」
「ハクは……好きな人いたのに、どうして結婚しなかったの……?」
「な、何?」

 包丁を動かす白亜の手許が止まる。突如振られた話題に、白亜の声は僅かに上擦っていた。

「あれ……? ハクが軍人だった頃……婚約者、いたよね……?」
「あ、ああ……その話か」

 白亜は思い返すように呟きながら、再び包丁を動かす。――何年も前のことだ。白亜が重傷を負い、軍を退役する以前、白亜には婚約者がいた。相手は、軍にも顔が利く伯爵家の令嬢。伯爵は何度か応対した白亜のことを甚く気に入り、半ば強引に婚姻の話が進んだ。

「“好き”、……か。さて、な」
「……?」
「結婚、とは言っても、一言では語れんよ。俺にとっては、感情が先に来た話ではなかったんだ」
「でも……相手の人は、違ったんでしょ……?」
「……どうだろうな」
「あの時、結婚してたら……大きなお家も、綺麗な奥さんも、お金も手に入って……ハク、楽できたんでしょ……?」
「何だ、紅亜は今のような生活は嫌か?」
「んー……? んん……好きだよ……。クロは意地悪だけど、優しいし……ハクはあったかいし……ハクとクロが一緒だから……サーカス団、頑張れるよ……」
「ほう、クロは優しいか?」
「んー……時々……?」

 そこへ、咎めるような声音が紅亜の背を衝く。

「ちょっと……なにハク兄の邪魔してんの? ちゃんと手伝わないと食べさせないからね」
「えー……やっぱり、時々……ない……いつも意地悪だー……」
「は? なに、喧嘩売ってんの?」

 白亜は弟妹の戯れ合いに苦笑を零しながら、肩越しに振り返る。

「その辺にしておけ。ほら、そろそろ彼等も来る頃だろう。紅亜、皿を出しておけよ」
「はーい……」

 紅亜は白亜の身体から腕を引くと、棚から数枚の皿を取り出して、リビングの方へスリッパを鳴らしていった。

「クロ、生地を作っておいてくれるか?」
「……ん」

 黒亜(kz0238)はエプロンを着けると、袖を捲り、アームバンドで留める。ボウルを手に取り、薄力粉に卵、出汁汁――

「……」

 黒亜は横目に兄を盗み見る。彼の横顔は、何時もと何ら変わりはなかった。

「(クーの馬鹿正直さには呆れるけど……あの単純さに、ハク兄も救われてたりするのかな……)」

 それはきっと、自分には出来ないこと。

「(…………ま、別にいいけど)」

 黒亜は目線を手許に戻すと、ボウルをカシャカシャと鳴らし始めた。





 ――ピンポーーーン。

「はーい……」

 呼び鈴に応えながら、紅亜がパタパタと玄関へ向かう。





 りんごんべる。
 りんごんべる。

 誰の心にも鈴は鳴る。


リプレイ本文


 冬が来た。



「ふふ、クリスマスイヴに皆とタコヤキを食べるなんて、初めての事やわぁ。お祭りの時とは一味違う……そんな予感がする、やんね……!」

 X’mas Eveといえば全てが活気づき、華やかで、楽しみに満ちており――美味しいたこ焼きで溢れている。

「むむー? ……ふふ、心もお腹も幸せいっぱいな聖夜を、過ごせます様に」



 まあるくてあつあつの聖夜も、偶には悪くない。



**



 ピンポーン。



 馴染んだベルトポーチを腰に下げ、レナード=クーク(ka6613)がやって来た。

「メリー……えっと、タコパマス? やんねーっ!」
「……は?」

 黒亜(kz0238)が呆れ顔でレナードを部屋へ迎え入れると――

「「タコパマスー!」」

 流石、ノリの良い愉快なにゃんこシスターズ――ミア(ka7035)と白藤(ka3768)

 二人の手際で、既に具材の下準備は万端。
 だって、

「うちの郷土料理や、腕は誰にも……負けへんで!!」

 千枚通しを装備した本場のプロと、

「焼くし食べるし転がすし食べるニャっせ!」

 竹串を装備した食べるプロがタッグを組んだら、そりゃあ、ねえ。

「ほわぁ、これがたこ焼き器……。お家でもこうして作れるなんて……リアルブルーって便利な物が多いんやねぇ。あっ、僕も具材持ってきたんやった。これも追加してええやろか?」

 レナードが、ぽぽぽ、と、ポーチからエビ、ベーコン、ツナ、お餅、そしてチョコレートを取り出す。え、なに。ポーチの中、四次元なの?

「――あら、いつの間にかたくさんの具材が並んでいたのですね。ふふ、とても華やかだわ」

 人数分の空のグラスをトレイに乗せて、灯(ka7179)がキッチンから姿を見せる。

「皆さん、お好きな飲み物をどうぞ。お酒は林檎や檸檬、さくらんぼの果実酒を持ってきました。葡萄や杏、梅のジュースもありますよ。……あ、ホットワインも作れますので、飲みたい方は遠慮なく仰って下さいね」

 灯の頬に浮かんだ微笑みは、ゆったりと優しい。
 心ゆくまで弾むお喋りの場を、軽やかに奏でる唇を、口当たり良くそっと潤せるのなら――

「(素敵な夜を、みんなで美味しく迎えましょう。いつかこの思い出が、私の支えになるような)」

 例え欲を張った願いでも、求めるのは心を包むあたたかい時間。

「(……? 私、少し浮かれているのかしら? クリスマスの空気のせい、かな)」

 髪を嫋やかに彩るエンゼルランプの花飾りが、ちり、と、疼いたような気がした。










「――って、え゛?! 私も料理手伝うの?」
「ええ。よろしかったら紅亜さんと一緒に手伝って頂けますか? シーフードを買ってきたので、箸休めになるようなマリネを作りたいんです」

 灯から声を掛けられたロベリア・李(ka4206)。彼女の目はもう、死んでいる。

「あのね……自分で言うのもなんだけど、酷いわよ?」
「ふふ。でも、ドレッシングを作って具材に混ぜるくらいですから」
「ま、まぁ、灯が付いててくれるなら安心かしら……。紅亜。なんか言いたげな連中を黙らせるために一緒に頑張りましょ。うん。大丈夫。多分。きっと」

 おまじないを呟くロベリアを、紅亜(kz0239)は不思議そうな面持ちで見つめながら、「おー……」と右手の拳をのったりと突き上げた。灯はそんな紅亜に視線を向けると、満足そうに笑みを漏らす。

「(一人だけ何もしないなんて、きっとさみしいから)」



 ――しかし、事件は起きた。



「……ごめんなさい、灯」

 灯は見ていた。

「いえ、ロベリアさんが謝ることでは……。その……アレンジって素敵だと思います。新しい味が発見できるんですもの」

 マリネに投入されていくソレらを。

「灯ー……マリネまぜまぜしたよー……。チョコチップと氷砂糖と……酸っぱい水雲、増やしてみた……マリネは甘酸っぱいのが美味しいんでしょ……?」
「ええ、そうね。紅亜さんは間違っていないわ」

 ――シーフードinカオスDEマリネ、完成。

「(……マリネの一口目は、シュヴァルツに取り分けとこうかしら)」

 ロベリア、容赦なくシュヴァルツ(kz0266)の退路を断つ。










 さあ、たこパ開始!

「千枚通しで四角く切って、くるっと周りに沿わして回して中に切ったやつ入れるねん。自分で作ったやつは、特別おいしいんやで?」

 灯達に教えつつ、白藤は流石の手際の良さで第一弾のたこ焼きを完成。山芋と梅肉で仕上げた、芋梅たこ焼きだ。

「んんー。意外とコロコロするの、難しい気がするやんね……?」

 レナードは彼女の横で、先ずスタンダートなたこ焼きを、見様見真似でころころり。

「美味しい物が作れる様、頑張るで!!」

 意気込むレナードが徐々にコツを掴み始めた頃――



「遅れてすまぬのう。妾達も同席させてもらえると嬉しいのじゃが、よいか?」



 やって来たのは、最後の来訪者。前以て遅れる旨を連絡していた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)――“達”?

「失礼するよ。はい、白亜。お土産のクリスマスケーキ」

 アパートの下で偶然蜜鈴と一緒になった桜久世 琉架(kz0265)が、彼女の後ろから姿を見せる。

「具の追加に蒟蒻、チーズ、玉蜀黍、明太ソースにオムレツ用の卵を用意しておったのじゃ」

 蜜鈴の黒塗りの爪が、風呂敷のしずくバッグをしゅるりとほどき、藍染めに舞う蝶から持参してきたものを取り出した。

「たこ焼きにふわとろのオムレツとチーズと明太ソースは美味じゃと雑誌に載って居った故、試してみとうてな。ああ、後――」

 誰かがたこ焼き器で甘いものを作れるように、蜂蜜も用意してきた。

「ふむ、では馳走になるとするかのう」

 果実酒を湛えたグラスを片手に、白藤達が作ったたこ焼きを摘まみつつ、リビングの中央から少し離れた窓際の椅子に腰を掛ける蜜鈴。

「(寒い日に温かいもの……陽だまりの様な笑顔は最良よな)」

 楽しげな雰囲気に充足感で頬を綻ばせるも、

「(妾が踏み込んで良いものか……未だ少し手探りじゃのう)」

 彼等とは一歩、引いた距離を保つ。

 来る者は拒まず。
 去る者は追わず。
 寄り添いはすれど、それは永遠ではない。
 永い時を生きているからこそ、永久に続くものなど何も無いということを、彼女は知っている。――いや。

 本当に、そうだろうか?

「……」

 グラスの水面からふと視線を上げると、蜜鈴と同じように他の者達から距離を空けていた琉架が、窓越しから外の景色を眺めていた。

「(琉架辺りにはバレて居りそうじゃが……あ奴はそこまで妾に興味は無かろう。引き込むタイプでも無かろうて。この辺り、遠慮が無いのは――)」

 ほら。

「蜜鈴ちゃん! これ、ミアが作ったんニャス! 食べてーニャスよ♪」

 例えば、春陽の猫。

「……ふふ。それは是非、頂かねばのう。……ふむ、これは……干し柿とクリームチーズ、かのう? 意外な組み合わせじゃが、熱に蕩けたこの甘味は美味じゃのう」

 その感想に、ふにゃりと笑うミア。蜜鈴は、無邪気な口許に付いていたソースを懐紙で拭ってやる。その蜜鈴の双眸は慈しみに満ちていた。










 ☆ミアのチョイスDEオシャレなお品書き☆

 ・ベーコン+しいたけ+エリンギ
 ・ちくわ+しらす+梅肉+三つ葉
 ・生ハム+アボカド+トマト
 ・干し柿+クリームチーズ

「えへへー。ミアのチョイス、意外とオシャレニャス?」
「三毛にしてはね」

 おっと?

 ミアのたこ焼きを摘まむ黒亜の隣で、ミアもたこ焼きを頬張る。が、ふと思い出したように腰を上げると、キッチンで追加のたこを切っている白亜(kz0237)の下へ。そして、おずおずと声を掛けた。

「……なあなあ、ダディ」
「ミアか。どうした?」
「ダディ、結婚するんニャス?」

 不意を衝かれた白亜は手を止めると、ミアへ振り返る。紅亜から聞いたのだろう、ミアの頭と尻尾は、しゅん、と、力無く垂れていた。

「ミアの知らない人がダディの隣にいたら、ニャんか、こう……寂しくて、切なくて、しょんぼりな気分ニャス」

 邪気の無い無垢な心に潜む、彼女らしい“我儘”。その相貌に白亜は思わず口角を上げると、眩しい光を覗き込むような目許で諭す。

「紅亜からどう聞いたかは知らんが、ミアの言う女性と俺は……結婚などせんよ」
「……ほんとニャス?」
「ああ」

 白亜の言葉に、ミアは日向の猫のように目を細めて、安堵の吐息を漏らした。



 そんな二人の会話を、聞くとはなしに聞いていた白藤が、酒の入ったグラスを傾ける。

「(あぁ……彼にもおったんやなぁ、そういう人)」

 琥珀の液が唇を濡らす。しかし、その芳醇さが届いてこないのは――

「(まぁ、歳も歳やし、全くっちゅーんはないとは思っとったけど。ほんまに女性に興味がない訳やないんやな。……うち、なんや安心しとる? ……ちゃうな。それだけじゃあらへん)」

 彼は今、昔の婚約者のことをどう想っているのだろうか――という、僅かな焦りがそうさせるのかもしれない。

 落ち着かない胸の内で、うぅん、と悩むも、結局口は出せず、白藤の足はふらりとベランダへ向かった。以前、黒亜から貰った紙巻煙草の最後の一本をシガレットケースから抜くと、火を付け、紫煙を燻らせる。透き通るような淡い水色の冬空に上っていくのは――……

「(悩みもこないして煙になればえぇのに)」

 蟠りの無いその動きをぼんやりと目で追いながら「うちはどうやろか……?」と、思わず過去の男を思い返す。
 ――が、

「(いやぁ……よその女に子供孕ますような男は……想われへんなぁ)」

 彼、ロベリアの弟と別の道を歩むことより、ロベリアや彼女の双子の彼を、姉や兄と呼べなくなった“今”の方が、余程悲しい。



「――白藤」



 身体の中から何かが落下していくのを引き留めたのは、彼女の声。

 火を付けた煙草を咥えながら、白藤の隣へ来る。
 暫しの沈黙後、徐に煙草を指先へ移すと――

「ねえ、白藤。“いつか”なんて、いつ来なくなるか分からないわよ。分かってると思うけどね。だから、後悔しないようにやんなさい。私はいつだってあんたの味方だから」

 “姉”は、白藤が心引かれて慕わしい“今”という表情で、“妹”の幸せを願っていた。










「ふっふっふー、僕のチョコとミツリさんが持ってきた蜂蜜を入れて、ベビーカステラみたいなお菓子が出来たやんねー。あ、クロアくん! 良かったらこれ食べへん?」
「ん。……まあ、悪くないんじゃない?」
「やったーやんね! ……ふふ、来年もまた、こうして過ごせる日が沢山あると良いな……なんて」
「そんなの、お互い生きてれば機会なんていくらでもできるでしょ」

 相変わらず素っ気ない態度で、尤もなことを言う黒亜。しかし――

「おん! それもそやねぇ」

 言葉を交わす音は、互いに何時だって真っ直ぐだ。










 先客の二人に微笑みかけながら、蜜鈴が煙管を片手に、閑雅な足取りでベランダへやって来た。

「外は冷えるのう。ふむ、今宵の空に雪は降らぬか……?」

 蜜鈴は灯火の蝶で薄闇を照らしながら空を仰ぎ、温く吐息を零すと、空を撫でるようにひょいと指先を遊ばせた。すると、

「あら……綺麗やわぁ」

 光り輝く雪の幻影がはらりと歌い始める。
 次いで、空に放った《ワンダーフラッシュ》で“MerryChristmas”と一筆書き。

「妾は斯様な想い出のプレゼントしか出来ぬ故のう」

 今この瞬間が純然たる過去となり、心に残せるのなら――……










「お味、どうですか? 私、それ程器用ではないので、皆さんのお手本を見ながら焼いてみたのですが……」
「美味しいよ。焼き立てを用意してくれてありがとう」

 礼を告げる琉架に、「いえ」と、灯は微笑み返す。だが――

「桜久世さん、あの……」

 どうもぎこちない。
 琉架は、心が宙にあるような灯に眼差しを置きながら、促しもせず、只黙って傍らにいた。軈て、開き始めた蕾のように、厚みのある唇が動く。

「不躾でなければ、名前でお呼びしてもよろしいでしょうか。琉架さん、と」
「どうぞ?」

 小さく決した灯の意に、琉架は平然と即答した。そして、先程よりもほんの少し深い微笑みを唇の縁に浮かべながら――

「不思議なことを聞くね。皆にも同じことを?」




 宴も酣――という程でもないが、軽く片付けを手伝い、灯は少し早めにアパートを後にする。
 皆へのささやかなクリスマスプレゼントに、沢山の小さな花束を入れた花籠を部屋に置いてきた。帰りに各々が好きな花を持って帰れるように、と。

 程よく蕩ける赤色の酒気を目の縁に帯びながら、ミアは灯の背中を見送った。その姿が見えなくなると、ミアのブーツの踵がふらふらと左右に奏でる。覚束ないその足取りは酔いの所為か、心に抱える“思い入れ”の所為なのか。

「みんな、あったかい人達ばかりだニャぁ。……ずっと一緒にいられればいいのに」

 兄が死んでから、ミアはずっと独りだった。だから、例え“家族”になれなくとも、どうにも拘ってしまう。家族という関係に。



「三毛」



 その声は、茫洋とするミアの翳りを一瞬で透かした。

「上着も着ないでなにしてんの。……あ、プレゼント、どうもね」

 ミアも皆へのクリスマスプレゼントに、各々の誕生石を用意していた。

「あい、好きに加工してくれニャス――って、ふニャ? おお、もう一つのプレゼントも気に入ってくれたニャス?」

 ミアが振り返ると、ワントーンのマフラーを巻いた黒亜が階段の下で立っていた。

「……別に。手の届く場所にあったから」
「クロちゃんは時々優しいニャスけど、喉元をあったかくしたらもっと優しくなると思うニャス」
「は? オレの言葉に温度与えようとしても無駄だからね」
「ニャはは。そう言えば今日、くーちゃんご機嫌ニャス?」
「ああ……ルージュにもそんなこと聞かれてたみたいだね。会いたい人に会えた、とか言ってたみたいだけど」
「そう、ニャスか」

 あの夜、紅亜と共に見た“彼”のことだろうか。

「ほら、戻るよ。……そういえば、その服」
「あ、気づいたニャス? この青のワンピ、去年――」
「……似合ってるんじゃない?」

 肌寒い夜気が、酔った意識を心地良く刺激していた。だが、きっとそれだけではない。










 街の灯りが宵に映え、空気がしんと沈む頃。

 帰り際、白藤はツリーの傍に黒亜と紅亜のプレゼントを置いて、部屋を出た。そして、ファーマフラーに顎を埋めながら、階段の下で見送る白亜を振り返り、

「うちの灯に触れることを躊躇っても、これやったら、照らせるし持ち歩けるやろ?」

 赤椿のランプブローチを贈った。

「……うちはどっかいかへんよって。触れたいんやったら、傍で待っといたるよってな。……ほな、今日はおおきに」

 白亜は一瞬、何かを堪えるように眉を顰めたが、結んだままの唇に微かな笑みを浮かべた。そして――



「此方こそありがとう。……またな、白藤」



**



 ふわりふわり、雪の花が降り始める。どうかその白が、誰かの“忘れ雪”とならぬよう――。


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参加者一覧

  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クーク(ka6613
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • 花車の聖女
    灯(ka7179
    人間(蒼)|23才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/31 07:23:21
アイコン たこパの夜の相談卓
灯(ka7179
人間(リアルブルー)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/01/03 16:33:19