ゲスト
(ka0000)
【陶曲】黒い幽霊船
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2019/01/02 19:00
- 完成日
- 2019/01/15 01:41
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●奇妙な船
その船の出現で、平和な港の日常は破られた。
「ありゃなんだ?」
最初に気づいたのは、船の積み荷を上げ下ろしする荷役の男。
指さす先に、見慣れない船があった。
とはいえ、港湾都市ポルトワールでは大小さまざまな船が見られる。
男がまず最初に奇妙に思ったのは、船の大きさの割に立派すぎる舳先の船首像だ。
ブロンズ製にみえる三つ目の女神像は、まるで生きているような肉感を備えている。
だが本当に金属製であれば、重すぎて船が傾くだろう。
そして次に、その黒い船体が、ほとんど音を立てることなく波の上を滑るように動いていることに気づいた。
音もなく、船員の姿もなく、まるで船そのものが意志を持つ存在のように、動く船。
普段なら騒がしいカモメたちの姿も、いつの間にか消えている。
「なんだ? あの船は」
船に命を預けて海で生きる船員たちは敏感だ。明らかにあの船は「おかしい」。
そう感じ、及び腰になった瞬間。女神の目が輝いた。
●混乱の中で
緊急の出動依頼を受けて駆け付けたハンター達は、異様な光景にあっけにとられる。
女神の三つ目が輝くと紫光が迸り、中型の木造船が一隻、粉々に砕け散ったのだ。
よく見れば、いくつかの残っている船にはそっくりな小型の女神像が三叉槍を手にして甲板に立っていた。
無人の船はするすると動き、黒い船を守るように移動していく。
「これは……所謂『嫉妬』の眷属でしょうか」
アスタリスク(kz0234)が唸る。
そこに、同盟陸軍の1隊が到着した。
岸辺に泳ぎ着いた船員を助け、近くを逃げ惑う人々を誘導する。中には武装した魔導アーマーを海に向けて並べる者もいた。
アスタリスクは近くにいた軍人を捕まえて尋ねる。
「失礼ですが、貴方たちは覚醒者なのですか?」
「いえ。ですが訓練は受けていますので」
一瞬言葉に詰まるアスタリスク。いくら訓練を積んでいても、歪虚に対応するには不十分だ。
だからこそ、彼はVOIDと戦う力を得たくて、強化人間になる選択をしたのだから。
「もし良ければ、アーマーをお借りできませんか。協力させてください、お願いします」
そのすぐ近くでは、別の軍人に、ひとりの老人が取り縋っていた。
「頼む! あの灯台じゃ、助けてくれ!!」
「誰かがいるの?」
マリナ・リヴェール(kz0272)が見かねて声をかけると、必死の形相で振り向く顔。
「灯台守の息子が逃げ遅れたんじゃ! 孫も昼飯を届けに行って戻ってこん。頼む、助けてやってくれ!!」
「わかったわ。大丈夫、だからおじいさんは安全な場所にいてね」
マリナは軍人に年寄りを預け、同行したハンター達に苦笑いの顔を見せる。
「ごめん、勝手に決めちゃったわ。でも放っておけないわよね」
黒い船の女神像がまた1隻、前方の船を打ち砕いたかと思うと、港の奥へと入り込んでくる。
そのすぐそばには灯台が頼りなげに立っていた。
その船の出現で、平和な港の日常は破られた。
「ありゃなんだ?」
最初に気づいたのは、船の積み荷を上げ下ろしする荷役の男。
指さす先に、見慣れない船があった。
とはいえ、港湾都市ポルトワールでは大小さまざまな船が見られる。
男がまず最初に奇妙に思ったのは、船の大きさの割に立派すぎる舳先の船首像だ。
ブロンズ製にみえる三つ目の女神像は、まるで生きているような肉感を備えている。
だが本当に金属製であれば、重すぎて船が傾くだろう。
そして次に、その黒い船体が、ほとんど音を立てることなく波の上を滑るように動いていることに気づいた。
音もなく、船員の姿もなく、まるで船そのものが意志を持つ存在のように、動く船。
普段なら騒がしいカモメたちの姿も、いつの間にか消えている。
「なんだ? あの船は」
船に命を預けて海で生きる船員たちは敏感だ。明らかにあの船は「おかしい」。
そう感じ、及び腰になった瞬間。女神の目が輝いた。
●混乱の中で
緊急の出動依頼を受けて駆け付けたハンター達は、異様な光景にあっけにとられる。
女神の三つ目が輝くと紫光が迸り、中型の木造船が一隻、粉々に砕け散ったのだ。
よく見れば、いくつかの残っている船にはそっくりな小型の女神像が三叉槍を手にして甲板に立っていた。
無人の船はするすると動き、黒い船を守るように移動していく。
「これは……所謂『嫉妬』の眷属でしょうか」
アスタリスク(kz0234)が唸る。
そこに、同盟陸軍の1隊が到着した。
岸辺に泳ぎ着いた船員を助け、近くを逃げ惑う人々を誘導する。中には武装した魔導アーマーを海に向けて並べる者もいた。
アスタリスクは近くにいた軍人を捕まえて尋ねる。
「失礼ですが、貴方たちは覚醒者なのですか?」
「いえ。ですが訓練は受けていますので」
一瞬言葉に詰まるアスタリスク。いくら訓練を積んでいても、歪虚に対応するには不十分だ。
だからこそ、彼はVOIDと戦う力を得たくて、強化人間になる選択をしたのだから。
「もし良ければ、アーマーをお借りできませんか。協力させてください、お願いします」
そのすぐ近くでは、別の軍人に、ひとりの老人が取り縋っていた。
「頼む! あの灯台じゃ、助けてくれ!!」
「誰かがいるの?」
マリナ・リヴェール(kz0272)が見かねて声をかけると、必死の形相で振り向く顔。
「灯台守の息子が逃げ遅れたんじゃ! 孫も昼飯を届けに行って戻ってこん。頼む、助けてやってくれ!!」
「わかったわ。大丈夫、だからおじいさんは安全な場所にいてね」
マリナは軍人に年寄りを預け、同行したハンター達に苦笑いの顔を見せる。
「ごめん、勝手に決めちゃったわ。でも放っておけないわよね」
黒い船の女神像がまた1隻、前方の船を打ち砕いたかと思うと、港の奥へと入り込んでくる。
そのすぐそばには灯台が頼りなげに立っていた。
リプレイ本文
●
生活を支える船が破壊される様子を目の当たりにし、人々の間から悲鳴のような声が上がる。
「航海の無事を祈るはずの女神像に、船そのものを沈められては堪らないな」
ロニ・カルディス(ka0551)の言葉は、彼らの無念を代弁していた。
これ以上、女神の姿の歪虚を好きにはさせておけない。だが灯台も放ってはおけないだろう。
対応すべき事柄に対して、こちらの人数は限られている。
「とはいえ、彼らを頼るはハンターの名折れとも謗られような」
ストゥール(ka3669)はアスタリスクの背後から、同盟陸軍の部隊に呼び掛けた。
「ああ、此度は勇敢なる同盟陸軍諸氏については、住民の避難を優先するのがよいのではないかな」
深紅のグリフォンの上から、ヴァイス(ka0364)が更に声をかける。
高い場所からは、海上の敵影がよく見えた。時間がない。
「寧ろそっちの任務のプロだろう? 俺達よりも適任だ」
地形をよく知り、避難民の誘導に慣れていることは間違いないのだ。
ストゥールが尊大に頷く。
「彼らの命知らずは既に音に聞こえていようが、この度はハンターの勇猛さを暫し刮目してご覧じたまえ」
「おふたりのおっしゃる通りです。あなた方に民間人の命を託したいのです」
アスタリスクも言いつのり、どうにか納得させる。
というよりも、グリフォンの雄姿に、そしてハンター達の持ち込んだ装備に納得せざるを得なかったというのが本音だろう。
ゾファル・G・初火(ka4407)は愛機の黒い魔導アーマー、「ダルちゃん」のコクピットで両の拳を打ち合わせる。
「さて、今日もダルちゃん絶好調。ガルちゃんが泣いてるぞー」
随分とご機嫌だが、それもそのはず。対艦攻撃などそうしょっちゅう経験できるものではない。
ひりつくような戦場の空気を、ゾファルは思う存分堪能している。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)のコンフェッサー、セイバーIが隣に並ぶ。
「何かあったら口伝符を使ってくださいね。港の平和は正義のニンジャが守ってみせるからっ!」
夜桜 奏音(ka5754)はワイバーンの背に乗り込んだ。
ヴァイスはグリフォンを進ませながら、マリナに声をかけた。
「灯台の方は任せた。一隻敵が向かっているからくれぐれも気を付けてな」
「ありがとう!」
敵が灯台を目指しているのかどうかは、現時点ではわからない。だがどうにも嫌な感じがぬぐえなかった。
後には『仕方ない』という表情でヴァイスを振り向いたルトガー・レイヴンルフト(ka1847)のバイク、ハンス・ラインフェルト(ka6750)のエクウスが続く。
更にストゥールもゴースロンで加わった。
「つまり、何がなんでも民のために向かおうという君の蛮勇に付き従うのも吝かではない」
「心強いわ。よろしくね」
互い同調させた通信機から、状況が届く。
『魔導アーマーを借り受けましたが、火器の射程が足りません。灯台の援護に回ります』
アスタリスクのアーマーは、宣言通りのポイントに移動していく。
この間にも黒い船は岸壁に迫り、舳先の女神の姿が少しずつ大きく見えるようになっていた。
●
灯台までの道は見通しがよく、身を隠す場所はない。おそらく小型の歪虚が接近してくれば、すぐにこちらの姿を見つけるだろう。
ルトガーはその状況を確認しつつ、バイクをマリナの傍に並べる。
「マリナ、ハンターになったのか。聖導士と一緒に戦えるのは心強いな。回復は任せたぜ」
マリナの張りつめた表情が僅かに緩む。
「村を守りたいと思ったから。私にできて、他の人にはできないことでしょ」
「それはそうだな」
かつて歪虚にそそのかされた自身の弱さを許せないでいるのだろう。ならば、甘やかせばかえって傷つける。
ルトガーは多少危うさを感じつつも、マリナのやりたいことを見守ることにした。
少し離れたところで見ていたハンスが眦を決して声をかけた。
「確かに経験豊富な聖導士は、一騎当千とまでは行かなくても、充分戦線維持できる戦闘力があるものですが……生半可な聖導士が同じことをしたら、死にますよ?」
厳しい物言いだが、事実ではある。
「ハンターである以上、貴女が状況を読まずに死にたがるのは勝手ですが。貴女が死んだり大怪我をすれば嘆き悲しむ人もいるでしょう」
「……そうね。気をつけるわ」
マリナが灯台を見据える。
「でも自分の仲間だけが助かって、他の人を放っておいてもいいなんて、みんな思ってない。大丈夫よ、私は村を守るために経験を積みに来たんだから。ここで自滅なんてできない」
「それなら結構です。残される者の心もくれぐれもお忘れなきよう」
不意に、マリナが笑みを漏らした。
「貴方にもそういう人がいるのね? だったらお互いに生きて帰らなきゃね」
ハンスはそれには答えず、エクウスを進ませる。
「こちらの足が早いので、先に参ります。残された人の避難誘導はお任せします」
言い残すと、あっという間に駆け出して行った。
僅かにカーブする道の先に、灯台が見えてきた。同時に、歪虚の船の一団が海を滑るように進むのが見える。
ハンスはその方向、進路を後続に伝えた。
「さて、敵の目的は何処にあるやら」
そうつぶやいた直後、違和感を覚える。1隻の船の見え方が変わったのだ。
「……灯台ではなく、こちらに向かっているようですね。好都合ではありますが」
歪虚の特性から考えれば、灯台に逃げ込んだ数人に反応し、攻撃に向かっていた可能性がある。
覚醒者が生体ユニットに乗って近づけば、意識が灯台から逸れるのはあり得ることだった。
近づく船の上には1体の女性型の彫像のようなものが見えていた。その姿がみるみる近づいてくる。
ハンターの一団は灯台に続く道を逸れ、細い近道を下り、見通しの良い砂浜で敵を迎え撃つ。
狙い通り、敵は灯台よりもハンターを追いかけている。
彫像が手にした三叉槍のようなものを振り上げると、先頭のハンス目掛けて紫光が迸った。
ゴースロンを操り、その攻撃をかわすハンス。
「狙いは甘いですが、射程が長いのは厄介ですね」
そこに他の3人が合流する。
「うまく灯台から目を逸らせたようだな」
ルトガーは「ソウルトーチ」の炎を纏いつつ、声を張り上げた。
「ハンターだ、助けに来た。暫く灯台内で待っていてくれ。歪虚は必ず倒す!」
下手に外に出て来たり、ハンターが近づいたりすれば逆に狙われる怖れがあった。暫くは我慢してもらうしかない。
「マリナ、俺が怪我をしたら頼むぞ」
「暫し待つが良い」
ストゥールがルトガーとハンスに素早く近づき、「多重性強化」で守りを固める。
「知っているか、リアルブルーには新年に幸を運ぶタカラブネなるものが……何、今は関係ないことくらいはわかる」
「では災いを運んでくる船は、沈めるしかないでしょうね」
ハンスはゴースロンを降り、背中に輝く光の翼を広げる。小型飛行翼アーマーで飛翔し、射程の不利を補うまで接近するつもりだ。
今にも飛び立とうとするハンスを、ルトガーが呼び止めた。
「よし、間に合ったな。頼んだぞヒンメル」
皆の後を一生懸命ついてきて、ようやく追いついたルトガーのユキウサギが、ハンスを白い光の結界で守る。
「かたじけない。では」
ハンスの身体が宙に浮かぶ。
「ヘリでもあれば早かったかもしれぬな」
ストゥールはその姿を見送り、銃を構えた。
ハンスは真っ直ぐ船に接近すると、体勢を整え、愛刀を振るった。
次元斬の強烈な一撃に、甲板に大きな裂け目ができる。
更に一撃。的が大きい分、飛翔による不利はかなり補え、船には無数のひびが入っていた。
だが女神像自体にはあまり当たっていない。
「このまま沈めてしまいたいところですが、さて」
その間に、2隻がこちらに向きを変えていた。
ルトガーはその動きが、やや鈍重なことが気にかかる。
「歪虚には自爆する奴がいるが、まさかな」
警戒するよう呼びかけようとしたところで、懸念が現実のものとなった。
ハンスが対応していた船が、速度を増して岸へ近づく。
「どこへ行こうというのですか」
ハンスが更に刀を振り下ろそうとした瞬間、船が自爆したのだ。
爆風に巻き込まれ、ハンスは全身を襲う衝撃を感じた。
もしも強化された防御力がなければ、もっとひどい負傷を負っていただろう。
一度離脱するよりない。
「ねえ、あの人大丈夫なの!?」
マリナが真っ青になってルトガーの腕をつかんだ。
「己の行動に責任を持つのがハンターであると、先刻当人が言った通りであろうよ」
ストゥールはハンスの状況は、心配するほどではないと見た。
「その通りだ。だが普通の人間はそうはいかん。マリナ、灯台に先に行け」
「ああ、私のゴースロンを使うがよかろう。いざとなれば、バイクよりは人を運ぶことに長けておろう」
マリナはしばし迷っていたが、すぐに頷く。
「ありがとう。借りるわ」
すぐに身を翻し、ゴースロンに跨る。
「よし、では船は此方へ来てもらおうか」
ルトガーは再び「ソウルトーチ」の光を掲げ、黒い船に対応する仲間に状況を伝える。
●
ヴァイスはグリフォンの背から船の動きを確認。
「大きな黒い船が1隻、先頭と左右2隻ずつは護衛のようだな。他は遊撃というところか」
灯台へ向かった班の報告から、敵は正のマテリアルを狙って攻撃すると思われた。もっとも、基本的に歪虚というのはそういうものだが。
更にルトガーが言うには、「ソウルトーチ」が有効らしい。
ならば同様に注目を集める「灼熱」で誘導できるはずだ。それを確かめるため、ヴァイスは紅蓮のオーラを纏う。
大きな黒い船と、護衛役の5隻の進路は変わらず、灯台へ向かった2隻を除く3隻が舳先をヴァイスのグリフォンに向けていた。
「役割分担というわけか。だが黒い船がかからないのは却って対応しやすいな」
ヴァイスは自らを狙う船の位置を認め、グリフォンの背中を勇気づけるように掌で軽く叩く。
「頼むぞ」
勇猛なグリフォンはそれに応えるように、中空から海面へと舞い降りる。
一気に押しつぶすかのような「ダウンバースト」の威力に、船は大きく揺れる。
グリフォンは「ウォーターウォーク」で海面にとどまり、再び飛翔しようとした。
そこに黒い光線が襲い掛かる。
「何!?」
黒い船の女神像が、頭部をこちらに向けていたのだ。
『援護する。その間に飛び立てそうか?』
ロニの白いエクスシアが飛来し、黒い船の射線上に割り込む。
「問題ない。行くぞ、ホムラ」
ヴァイスは傷つきながらもどうにかグリフォンの体勢を立て直し、舞い上がる。
「あいつは船の向きと関係なく攻撃できるってことか。厄介だぜ」
だがひとつわかったことがある。ロニがそれを受けた。
『奴は割り込んだ俺を攻撃してこなかった。連続では攻撃してこない、いやできないのではないか?』
「かもしれんな」
ヴァイスはその情報を、仲間に知らせる。
入れ替わりに、奏音の駆るワイバーンが複雑な軌道を取りながら黒い船に迫る。
「手始めにでかいの一発行きますかね」
横から接近、船体に一撃……という計画だったが、そちらにはまるで主を守るように、小型の船が2隻待ち構える。
「それなら同士討ちで数を減らしましょう」
奏音の背に虹色の翼のような輝きが現れた。「白龍の息吹」による光輝の伸びる先、わずかに狙いが逸れる。
「少し距離が遠かったようですね」
ワイバーンの姿勢を制御しながらの術は、なかなかに困難だ。
更にもう一度、狙った船体に僅かな傷が刻まれる。この術の一番の狙いは破壊ではなく、相手の混乱だ。
思惑通り、女神像の放つ光線が僚船の船体を抉った。
だが別方向から光線が伸び、奏音のワイバーンは危うく難を避ける。
奏音は空高く飛翔し、いったん距離を取った。
――視界の端に、接近する影を認めながら。
ゾファルの黒い愛機が、フライトシールドをサーフボード代わりにして、海面上を滑っていた。
『ヒャッハー、俺様ちゃんチューブマスターじゃん』
黒い船が大きく見えてくる。僚船の混乱にも、前進のスピードは変わらない。
すぐにこれを仕留めたいところだったが、小型の護衛船が正面で射線を塞いでいた。
『邪魔するなら先に潰すしかないじゃん』
黒いヘイムダルの背負う、巨大な砲門が空に向いていた。
『スペルランチャー『天華』をお見舞いするんだぜ』
魔法弾が上空で炸裂、あたりに無数の火炎を振り撒いた。
本来は巻き込みを狙うところだが、単船相手でも躊躇しない大盤振る舞いである。
同士討ちに続き、降り注ぐ火炎が敵に襲い掛かる。
その混乱に、ルンルンが乗じる。
『ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法水蜘蛛の術!』
ルンルンのコンフェッサーが、乗り手の術をトレースして海上を駆ける。
『空から攻撃する人が多いから、敵の意識はそちらに向いているはずです!』
そう考え、敢えて波の上を走り接近。
『ニンジャシステム稼働……セイバーIちゃんが私達の進む未来を示してくれるもの。機忍殺法分身の術!』
敵をさらに混乱に陥れるため、ルンルンは見極めた方角へ「マテリアルバルーン」を放つ。
敵は、正のマテリアルに反応する。
コンフェッサーそっくりの2体のバルーンの出現に、護衛の船がそちらへ舳先を向けた。
船上の女神像が、光を放つ。実際の戦闘力はないに等しいバルーンはあっという間に弾け飛ぶ――が。
消滅したバルーンの陰で、ルンルンの実機が待ち構えていた。
『貫けニンジャランス!!』
機甲槍の一撃を、船は避けきれない。船体に大きな穴が空き、動きが止まる。
そこに、ヴァイスがひきつけていた遊撃担当の船が引き返してくる。
ヴァイスとロニが仕留めたのは2隻。黒い船に最も近かった1隻は、既に進路を変えていた。
護衛担当の抜けた穴をふさぐように回り込む。
『ちょこまかしやがってー、天華でまとめて丸焼きにしてやるじゃん』
ゾファルは黒い船までの進路を塞ぐ船に、「天華」の炎を振り撒く。
その中に、先刻ルンルンが止めた船もあった。
『そういやさっき、自爆がどうとか言ってたじゃん。その前にぶっ潰すほうがよさそうなんだぜ』
その言葉を聞いたかのように、船が水柱を上げて自爆。巻き込まれそうになったルンルンは爆発を回避しつつ、一旦距離を取る。
『ニンジャならこれぐらい簡単によけられるんだから!』
『そのまま行くといい、進路に敵はいない』
上空から機会を窺っていたロニが、ルンルンに見える範囲の情報を伝える。
それはチャンスでもあった。
(今なら射線を遮るものは何もない)
正面に躍り出ると、ビームキャノン「プリマーヤ」の砲口を向ける。
強力だが味方も巻き込んでしまう「マテリアルレーザー」を使う絶好のタイミングだ。
光が収束し、エネルギーの奔流となって三つ目の女神像に撃ち込まれた。
●
灯台にたどり着いたマリナは、そこで子供2人を抱きしめる男の姿にほっと息をつく。
「ハンターよ、助けに来たわ。怪我はない?」
「あ、ありがとう。港は、他の皆は大丈夫なのか?」
「ええ。同盟軍が来てくれて、避難を済ませたはずよ。きっとみんなを助けるけど、もう少しだけ我慢してね。――仲間が歪虚をやっつけてくれるから」
マリナは子供に笑顔を向ける。
つられてぎこちない笑みを浮かべた子供のひとりが、外を見て、また泣き出しそうな顔をする。
「おねえちゃん、あれ!」
灯台からは敵味方の様子がよく見えた。
白い優美なエクスシアが撃ったビームが、妙な軌跡を描いて霧散したのだ。
「あいつ、バリアを張るの?」
マリナはリアルブルー人だ。だからあのビームの性能ぐらいは分かる。
息を呑むマリナの耳に、アスタリスクからの通信が入った。
『今のバリアですが、黒い船は直前に停止しました。恐らく移動しながらバリアは使えないのでしょう』
ならば、ユニットが攻撃している間は港に近づけないはずだと、アスタリスクは主張した。
『今なら灯台から脱出できます。私も支援します』
『こっちの敵は引き付ける、今のうちに行け!』
ルトガーの声だ。
「分かったわ。こっちはゴースロンに3人乗りなの、スピードは出ないわ。お願い!」
マリナは灯台守に馬に乗れるかを尋ねる。
「乗れるのね? じゃあ子供さんたちにもしっかりつかまるように言ってね」
「おねえちゃんは?」
子供の心配そうな声に、マリナが明るい声で返す。
「お馬さんが走れなくなっちゃうからね。大丈夫、すぐに追いつくから」
マリナは灯台守の一家の乗り込んだゴースロンを祈るように軽く撫でると、走らせる。鈍重な魔導アーマーが、こちらに近づいていた。
「こういうときは、馬のほうが使えるわね……色々覚えることがあるわ」
そのひとりごとは、「これから」を思うからこそである。
黒い船は停止し、バリアを展開している。逃げる様子はない。
だがこちらも飛行時間や海上に浮かぶ時間に限界があり、いつまでもこうしてはいられない。
ゾファルは不敵な笑みを浮かべた。
『こうしてるのもたりいじゃん。乗り込んじまえば女神砲は撃てねーだろ?』
黒いヘイムダルが、盾をサーフボードに波の上を滑りだす。
そもそもバリアが物理攻撃も防ぐのか、確かめていないのだ。
近づく機体を認め、女神の三つ目が輝く。紫光がヘイムダルを薙ぎ払おうとするが、上手くすり抜ける。
ルンルンはそこであることに気づいた。
『今、ビームを出しましたよね? あの瞬間はバリアを展開していなかったのでは?』
ロニが答える。
『可能性はあるな』
自分のビームだけを通す可能性も否定できないが、試してみる価値はある。
『セイバーIちゃんの「マテリアルバルーン」でビームを射出させて、そのタイミングでこちらも仕掛けましょう!』
『分かった。皆、俺の射線内に入らないように気をつけてくれ』
ロニが黒い船を迂回し、上昇する。
ヴァイスはホムラを奮い立たせ、再び空へ。
「もう少しだけ頑張ってくれよ、相棒」
ロニと船を挟んだ反対側へ回り込む。
ルンルンは全員が位置についたことを確認し、黒い船に接近、バルーンを正面からぶつける。
「念のため、進路をふさぎます」
奏音は敵がバルーンを避けないよう、そのすぐそばに地縛符の結界を張る。
女神の三つ目が輝いた。
『皆さん今です、女神像を狙っちゃってください!』
バルーンが弾けると同時に、女神を狙ってそれぞれの渾身の一撃が放たれた。
船は大きいうえに、停止している。避ける術はなかった。
そして予想通り、バリアを張りながらビームを撃つことはできないらしい。
船が静かに動き出す。女神像は右舷側の三分の一程が欠落しているが、まだ船を動かすことができるようだ。
そこでゾファルのヘイムダルが、女神像の背後に姿を見せた。
「とんだじゃじゃ馬だぜ。いい加減観念しておとなしく乗せやがれ」
サーフボードに使っていたフライトシールドを本来の盾として持ち替え、魔導剣で切りかかる。
女神像は船に添えていた残る片手を振り上げると、ヘイムダルを打ち付ける。
「殴りもありなのかよ!」
盾で防ぎ、ゾファルが毒づく。
その間にも船は港へと近づいていた。
だが多勢に無勢、四方から干渉を受け、歪虚の対応力は限界を超えていた。
「もう少しだ、押せる!」
ヴァイスはここぞとばかり、「マジックアロー」を全弾撃ち込んだ。
ついに女神像の真ん中に大きなひびが入る。
禍々しい三つ目は光を失い、大きなひびを中心に、全身に無数のひび割れが広がり、女神像は崩れ落ちる。
バラバラになった欠片は、船から剥がれるように海に沈んでいった。
●
港に戻ったハンター達を、人々の歓声が出迎えた。
その中から駆け出してきたのは、灯台守の男だ。
「皆さんも大丈夫なんですか!?」
船の安全を守る男には、何よりも気になることだったのだろう。
「これぐらい問題ありませんよ。すぐに治ります」
ハンスはそう言って、ポーションを口にする。拭った血の跡も既に乾いていた。
ルトガーは灯台守の子供たちひとりずつの頭を撫でた。
「よく頑張ったな! 怖くなかったか?」
「怖かったけど……びゅんびゅんとぶロボットと鳥さんがかっこよかった! あ、それから、うぃんうぃんっていってるあれも!!」
指さす先には、返却した魔導アーマーをまだ眺めているアスタリスクの姿があった。
目を輝かせる子供たちは、どうやら心配なさそうだ。
ルトガーは改めてマリナを見る。
「よくやったな。改めて、これからも仲間としてよろしくな!」
「皆ほどすごいことはできなかったけど。もう少し修業を積みたいから、よろしくね」
ハンスはポーションの空瓶をぶらぶらさせながら、そのふたりの間から顔を出す。
「せっかく一仕事終わったのですから、一緒に一杯どうです。ここは魚が美味しいらしいですから、カルパッチョやアヒージョも期待できそうですよ」
それからアスタリスクのほうを見る。
「アスタリスクさんも是非。情報交換は、ハンターにとって大事な仕事の一つですよ」
今は危なっかしくとも、少しずつ経験を積んで行く新たな来訪者たち。
一日も早く誰かを、何よりも自らを守る力を得られるようにと願う。
いずれは共に、強大な敵に立ち向かっていくことになるのだろうから。
<了>
生活を支える船が破壊される様子を目の当たりにし、人々の間から悲鳴のような声が上がる。
「航海の無事を祈るはずの女神像に、船そのものを沈められては堪らないな」
ロニ・カルディス(ka0551)の言葉は、彼らの無念を代弁していた。
これ以上、女神の姿の歪虚を好きにはさせておけない。だが灯台も放ってはおけないだろう。
対応すべき事柄に対して、こちらの人数は限られている。
「とはいえ、彼らを頼るはハンターの名折れとも謗られような」
ストゥール(ka3669)はアスタリスクの背後から、同盟陸軍の部隊に呼び掛けた。
「ああ、此度は勇敢なる同盟陸軍諸氏については、住民の避難を優先するのがよいのではないかな」
深紅のグリフォンの上から、ヴァイス(ka0364)が更に声をかける。
高い場所からは、海上の敵影がよく見えた。時間がない。
「寧ろそっちの任務のプロだろう? 俺達よりも適任だ」
地形をよく知り、避難民の誘導に慣れていることは間違いないのだ。
ストゥールが尊大に頷く。
「彼らの命知らずは既に音に聞こえていようが、この度はハンターの勇猛さを暫し刮目してご覧じたまえ」
「おふたりのおっしゃる通りです。あなた方に民間人の命を託したいのです」
アスタリスクも言いつのり、どうにか納得させる。
というよりも、グリフォンの雄姿に、そしてハンター達の持ち込んだ装備に納得せざるを得なかったというのが本音だろう。
ゾファル・G・初火(ka4407)は愛機の黒い魔導アーマー、「ダルちゃん」のコクピットで両の拳を打ち合わせる。
「さて、今日もダルちゃん絶好調。ガルちゃんが泣いてるぞー」
随分とご機嫌だが、それもそのはず。対艦攻撃などそうしょっちゅう経験できるものではない。
ひりつくような戦場の空気を、ゾファルは思う存分堪能している。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)のコンフェッサー、セイバーIが隣に並ぶ。
「何かあったら口伝符を使ってくださいね。港の平和は正義のニンジャが守ってみせるからっ!」
夜桜 奏音(ka5754)はワイバーンの背に乗り込んだ。
ヴァイスはグリフォンを進ませながら、マリナに声をかけた。
「灯台の方は任せた。一隻敵が向かっているからくれぐれも気を付けてな」
「ありがとう!」
敵が灯台を目指しているのかどうかは、現時点ではわからない。だがどうにも嫌な感じがぬぐえなかった。
後には『仕方ない』という表情でヴァイスを振り向いたルトガー・レイヴンルフト(ka1847)のバイク、ハンス・ラインフェルト(ka6750)のエクウスが続く。
更にストゥールもゴースロンで加わった。
「つまり、何がなんでも民のために向かおうという君の蛮勇に付き従うのも吝かではない」
「心強いわ。よろしくね」
互い同調させた通信機から、状況が届く。
『魔導アーマーを借り受けましたが、火器の射程が足りません。灯台の援護に回ります』
アスタリスクのアーマーは、宣言通りのポイントに移動していく。
この間にも黒い船は岸壁に迫り、舳先の女神の姿が少しずつ大きく見えるようになっていた。
●
灯台までの道は見通しがよく、身を隠す場所はない。おそらく小型の歪虚が接近してくれば、すぐにこちらの姿を見つけるだろう。
ルトガーはその状況を確認しつつ、バイクをマリナの傍に並べる。
「マリナ、ハンターになったのか。聖導士と一緒に戦えるのは心強いな。回復は任せたぜ」
マリナの張りつめた表情が僅かに緩む。
「村を守りたいと思ったから。私にできて、他の人にはできないことでしょ」
「それはそうだな」
かつて歪虚にそそのかされた自身の弱さを許せないでいるのだろう。ならば、甘やかせばかえって傷つける。
ルトガーは多少危うさを感じつつも、マリナのやりたいことを見守ることにした。
少し離れたところで見ていたハンスが眦を決して声をかけた。
「確かに経験豊富な聖導士は、一騎当千とまでは行かなくても、充分戦線維持できる戦闘力があるものですが……生半可な聖導士が同じことをしたら、死にますよ?」
厳しい物言いだが、事実ではある。
「ハンターである以上、貴女が状況を読まずに死にたがるのは勝手ですが。貴女が死んだり大怪我をすれば嘆き悲しむ人もいるでしょう」
「……そうね。気をつけるわ」
マリナが灯台を見据える。
「でも自分の仲間だけが助かって、他の人を放っておいてもいいなんて、みんな思ってない。大丈夫よ、私は村を守るために経験を積みに来たんだから。ここで自滅なんてできない」
「それなら結構です。残される者の心もくれぐれもお忘れなきよう」
不意に、マリナが笑みを漏らした。
「貴方にもそういう人がいるのね? だったらお互いに生きて帰らなきゃね」
ハンスはそれには答えず、エクウスを進ませる。
「こちらの足が早いので、先に参ります。残された人の避難誘導はお任せします」
言い残すと、あっという間に駆け出して行った。
僅かにカーブする道の先に、灯台が見えてきた。同時に、歪虚の船の一団が海を滑るように進むのが見える。
ハンスはその方向、進路を後続に伝えた。
「さて、敵の目的は何処にあるやら」
そうつぶやいた直後、違和感を覚える。1隻の船の見え方が変わったのだ。
「……灯台ではなく、こちらに向かっているようですね。好都合ではありますが」
歪虚の特性から考えれば、灯台に逃げ込んだ数人に反応し、攻撃に向かっていた可能性がある。
覚醒者が生体ユニットに乗って近づけば、意識が灯台から逸れるのはあり得ることだった。
近づく船の上には1体の女性型の彫像のようなものが見えていた。その姿がみるみる近づいてくる。
ハンターの一団は灯台に続く道を逸れ、細い近道を下り、見通しの良い砂浜で敵を迎え撃つ。
狙い通り、敵は灯台よりもハンターを追いかけている。
彫像が手にした三叉槍のようなものを振り上げると、先頭のハンス目掛けて紫光が迸った。
ゴースロンを操り、その攻撃をかわすハンス。
「狙いは甘いですが、射程が長いのは厄介ですね」
そこに他の3人が合流する。
「うまく灯台から目を逸らせたようだな」
ルトガーは「ソウルトーチ」の炎を纏いつつ、声を張り上げた。
「ハンターだ、助けに来た。暫く灯台内で待っていてくれ。歪虚は必ず倒す!」
下手に外に出て来たり、ハンターが近づいたりすれば逆に狙われる怖れがあった。暫くは我慢してもらうしかない。
「マリナ、俺が怪我をしたら頼むぞ」
「暫し待つが良い」
ストゥールがルトガーとハンスに素早く近づき、「多重性強化」で守りを固める。
「知っているか、リアルブルーには新年に幸を運ぶタカラブネなるものが……何、今は関係ないことくらいはわかる」
「では災いを運んでくる船は、沈めるしかないでしょうね」
ハンスはゴースロンを降り、背中に輝く光の翼を広げる。小型飛行翼アーマーで飛翔し、射程の不利を補うまで接近するつもりだ。
今にも飛び立とうとするハンスを、ルトガーが呼び止めた。
「よし、間に合ったな。頼んだぞヒンメル」
皆の後を一生懸命ついてきて、ようやく追いついたルトガーのユキウサギが、ハンスを白い光の結界で守る。
「かたじけない。では」
ハンスの身体が宙に浮かぶ。
「ヘリでもあれば早かったかもしれぬな」
ストゥールはその姿を見送り、銃を構えた。
ハンスは真っ直ぐ船に接近すると、体勢を整え、愛刀を振るった。
次元斬の強烈な一撃に、甲板に大きな裂け目ができる。
更に一撃。的が大きい分、飛翔による不利はかなり補え、船には無数のひびが入っていた。
だが女神像自体にはあまり当たっていない。
「このまま沈めてしまいたいところですが、さて」
その間に、2隻がこちらに向きを変えていた。
ルトガーはその動きが、やや鈍重なことが気にかかる。
「歪虚には自爆する奴がいるが、まさかな」
警戒するよう呼びかけようとしたところで、懸念が現実のものとなった。
ハンスが対応していた船が、速度を増して岸へ近づく。
「どこへ行こうというのですか」
ハンスが更に刀を振り下ろそうとした瞬間、船が自爆したのだ。
爆風に巻き込まれ、ハンスは全身を襲う衝撃を感じた。
もしも強化された防御力がなければ、もっとひどい負傷を負っていただろう。
一度離脱するよりない。
「ねえ、あの人大丈夫なの!?」
マリナが真っ青になってルトガーの腕をつかんだ。
「己の行動に責任を持つのがハンターであると、先刻当人が言った通りであろうよ」
ストゥールはハンスの状況は、心配するほどではないと見た。
「その通りだ。だが普通の人間はそうはいかん。マリナ、灯台に先に行け」
「ああ、私のゴースロンを使うがよかろう。いざとなれば、バイクよりは人を運ぶことに長けておろう」
マリナはしばし迷っていたが、すぐに頷く。
「ありがとう。借りるわ」
すぐに身を翻し、ゴースロンに跨る。
「よし、では船は此方へ来てもらおうか」
ルトガーは再び「ソウルトーチ」の光を掲げ、黒い船に対応する仲間に状況を伝える。
●
ヴァイスはグリフォンの背から船の動きを確認。
「大きな黒い船が1隻、先頭と左右2隻ずつは護衛のようだな。他は遊撃というところか」
灯台へ向かった班の報告から、敵は正のマテリアルを狙って攻撃すると思われた。もっとも、基本的に歪虚というのはそういうものだが。
更にルトガーが言うには、「ソウルトーチ」が有効らしい。
ならば同様に注目を集める「灼熱」で誘導できるはずだ。それを確かめるため、ヴァイスは紅蓮のオーラを纏う。
大きな黒い船と、護衛役の5隻の進路は変わらず、灯台へ向かった2隻を除く3隻が舳先をヴァイスのグリフォンに向けていた。
「役割分担というわけか。だが黒い船がかからないのは却って対応しやすいな」
ヴァイスは自らを狙う船の位置を認め、グリフォンの背中を勇気づけるように掌で軽く叩く。
「頼むぞ」
勇猛なグリフォンはそれに応えるように、中空から海面へと舞い降りる。
一気に押しつぶすかのような「ダウンバースト」の威力に、船は大きく揺れる。
グリフォンは「ウォーターウォーク」で海面にとどまり、再び飛翔しようとした。
そこに黒い光線が襲い掛かる。
「何!?」
黒い船の女神像が、頭部をこちらに向けていたのだ。
『援護する。その間に飛び立てそうか?』
ロニの白いエクスシアが飛来し、黒い船の射線上に割り込む。
「問題ない。行くぞ、ホムラ」
ヴァイスは傷つきながらもどうにかグリフォンの体勢を立て直し、舞い上がる。
「あいつは船の向きと関係なく攻撃できるってことか。厄介だぜ」
だがひとつわかったことがある。ロニがそれを受けた。
『奴は割り込んだ俺を攻撃してこなかった。連続では攻撃してこない、いやできないのではないか?』
「かもしれんな」
ヴァイスはその情報を、仲間に知らせる。
入れ替わりに、奏音の駆るワイバーンが複雑な軌道を取りながら黒い船に迫る。
「手始めにでかいの一発行きますかね」
横から接近、船体に一撃……という計画だったが、そちらにはまるで主を守るように、小型の船が2隻待ち構える。
「それなら同士討ちで数を減らしましょう」
奏音の背に虹色の翼のような輝きが現れた。「白龍の息吹」による光輝の伸びる先、わずかに狙いが逸れる。
「少し距離が遠かったようですね」
ワイバーンの姿勢を制御しながらの術は、なかなかに困難だ。
更にもう一度、狙った船体に僅かな傷が刻まれる。この術の一番の狙いは破壊ではなく、相手の混乱だ。
思惑通り、女神像の放つ光線が僚船の船体を抉った。
だが別方向から光線が伸び、奏音のワイバーンは危うく難を避ける。
奏音は空高く飛翔し、いったん距離を取った。
――視界の端に、接近する影を認めながら。
ゾファルの黒い愛機が、フライトシールドをサーフボード代わりにして、海面上を滑っていた。
『ヒャッハー、俺様ちゃんチューブマスターじゃん』
黒い船が大きく見えてくる。僚船の混乱にも、前進のスピードは変わらない。
すぐにこれを仕留めたいところだったが、小型の護衛船が正面で射線を塞いでいた。
『邪魔するなら先に潰すしかないじゃん』
黒いヘイムダルの背負う、巨大な砲門が空に向いていた。
『スペルランチャー『天華』をお見舞いするんだぜ』
魔法弾が上空で炸裂、あたりに無数の火炎を振り撒いた。
本来は巻き込みを狙うところだが、単船相手でも躊躇しない大盤振る舞いである。
同士討ちに続き、降り注ぐ火炎が敵に襲い掛かる。
その混乱に、ルンルンが乗じる。
『ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法水蜘蛛の術!』
ルンルンのコンフェッサーが、乗り手の術をトレースして海上を駆ける。
『空から攻撃する人が多いから、敵の意識はそちらに向いているはずです!』
そう考え、敢えて波の上を走り接近。
『ニンジャシステム稼働……セイバーIちゃんが私達の進む未来を示してくれるもの。機忍殺法分身の術!』
敵をさらに混乱に陥れるため、ルンルンは見極めた方角へ「マテリアルバルーン」を放つ。
敵は、正のマテリアルに反応する。
コンフェッサーそっくりの2体のバルーンの出現に、護衛の船がそちらへ舳先を向けた。
船上の女神像が、光を放つ。実際の戦闘力はないに等しいバルーンはあっという間に弾け飛ぶ――が。
消滅したバルーンの陰で、ルンルンの実機が待ち構えていた。
『貫けニンジャランス!!』
機甲槍の一撃を、船は避けきれない。船体に大きな穴が空き、動きが止まる。
そこに、ヴァイスがひきつけていた遊撃担当の船が引き返してくる。
ヴァイスとロニが仕留めたのは2隻。黒い船に最も近かった1隻は、既に進路を変えていた。
護衛担当の抜けた穴をふさぐように回り込む。
『ちょこまかしやがってー、天華でまとめて丸焼きにしてやるじゃん』
ゾファルは黒い船までの進路を塞ぐ船に、「天華」の炎を振り撒く。
その中に、先刻ルンルンが止めた船もあった。
『そういやさっき、自爆がどうとか言ってたじゃん。その前にぶっ潰すほうがよさそうなんだぜ』
その言葉を聞いたかのように、船が水柱を上げて自爆。巻き込まれそうになったルンルンは爆発を回避しつつ、一旦距離を取る。
『ニンジャならこれぐらい簡単によけられるんだから!』
『そのまま行くといい、進路に敵はいない』
上空から機会を窺っていたロニが、ルンルンに見える範囲の情報を伝える。
それはチャンスでもあった。
(今なら射線を遮るものは何もない)
正面に躍り出ると、ビームキャノン「プリマーヤ」の砲口を向ける。
強力だが味方も巻き込んでしまう「マテリアルレーザー」を使う絶好のタイミングだ。
光が収束し、エネルギーの奔流となって三つ目の女神像に撃ち込まれた。
●
灯台にたどり着いたマリナは、そこで子供2人を抱きしめる男の姿にほっと息をつく。
「ハンターよ、助けに来たわ。怪我はない?」
「あ、ありがとう。港は、他の皆は大丈夫なのか?」
「ええ。同盟軍が来てくれて、避難を済ませたはずよ。きっとみんなを助けるけど、もう少しだけ我慢してね。――仲間が歪虚をやっつけてくれるから」
マリナは子供に笑顔を向ける。
つられてぎこちない笑みを浮かべた子供のひとりが、外を見て、また泣き出しそうな顔をする。
「おねえちゃん、あれ!」
灯台からは敵味方の様子がよく見えた。
白い優美なエクスシアが撃ったビームが、妙な軌跡を描いて霧散したのだ。
「あいつ、バリアを張るの?」
マリナはリアルブルー人だ。だからあのビームの性能ぐらいは分かる。
息を呑むマリナの耳に、アスタリスクからの通信が入った。
『今のバリアですが、黒い船は直前に停止しました。恐らく移動しながらバリアは使えないのでしょう』
ならば、ユニットが攻撃している間は港に近づけないはずだと、アスタリスクは主張した。
『今なら灯台から脱出できます。私も支援します』
『こっちの敵は引き付ける、今のうちに行け!』
ルトガーの声だ。
「分かったわ。こっちはゴースロンに3人乗りなの、スピードは出ないわ。お願い!」
マリナは灯台守に馬に乗れるかを尋ねる。
「乗れるのね? じゃあ子供さんたちにもしっかりつかまるように言ってね」
「おねえちゃんは?」
子供の心配そうな声に、マリナが明るい声で返す。
「お馬さんが走れなくなっちゃうからね。大丈夫、すぐに追いつくから」
マリナは灯台守の一家の乗り込んだゴースロンを祈るように軽く撫でると、走らせる。鈍重な魔導アーマーが、こちらに近づいていた。
「こういうときは、馬のほうが使えるわね……色々覚えることがあるわ」
そのひとりごとは、「これから」を思うからこそである。
黒い船は停止し、バリアを展開している。逃げる様子はない。
だがこちらも飛行時間や海上に浮かぶ時間に限界があり、いつまでもこうしてはいられない。
ゾファルは不敵な笑みを浮かべた。
『こうしてるのもたりいじゃん。乗り込んじまえば女神砲は撃てねーだろ?』
黒いヘイムダルが、盾をサーフボードに波の上を滑りだす。
そもそもバリアが物理攻撃も防ぐのか、確かめていないのだ。
近づく機体を認め、女神の三つ目が輝く。紫光がヘイムダルを薙ぎ払おうとするが、上手くすり抜ける。
ルンルンはそこであることに気づいた。
『今、ビームを出しましたよね? あの瞬間はバリアを展開していなかったのでは?』
ロニが答える。
『可能性はあるな』
自分のビームだけを通す可能性も否定できないが、試してみる価値はある。
『セイバーIちゃんの「マテリアルバルーン」でビームを射出させて、そのタイミングでこちらも仕掛けましょう!』
『分かった。皆、俺の射線内に入らないように気をつけてくれ』
ロニが黒い船を迂回し、上昇する。
ヴァイスはホムラを奮い立たせ、再び空へ。
「もう少しだけ頑張ってくれよ、相棒」
ロニと船を挟んだ反対側へ回り込む。
ルンルンは全員が位置についたことを確認し、黒い船に接近、バルーンを正面からぶつける。
「念のため、進路をふさぎます」
奏音は敵がバルーンを避けないよう、そのすぐそばに地縛符の結界を張る。
女神の三つ目が輝いた。
『皆さん今です、女神像を狙っちゃってください!』
バルーンが弾けると同時に、女神を狙ってそれぞれの渾身の一撃が放たれた。
船は大きいうえに、停止している。避ける術はなかった。
そして予想通り、バリアを張りながらビームを撃つことはできないらしい。
船が静かに動き出す。女神像は右舷側の三分の一程が欠落しているが、まだ船を動かすことができるようだ。
そこでゾファルのヘイムダルが、女神像の背後に姿を見せた。
「とんだじゃじゃ馬だぜ。いい加減観念しておとなしく乗せやがれ」
サーフボードに使っていたフライトシールドを本来の盾として持ち替え、魔導剣で切りかかる。
女神像は船に添えていた残る片手を振り上げると、ヘイムダルを打ち付ける。
「殴りもありなのかよ!」
盾で防ぎ、ゾファルが毒づく。
その間にも船は港へと近づいていた。
だが多勢に無勢、四方から干渉を受け、歪虚の対応力は限界を超えていた。
「もう少しだ、押せる!」
ヴァイスはここぞとばかり、「マジックアロー」を全弾撃ち込んだ。
ついに女神像の真ん中に大きなひびが入る。
禍々しい三つ目は光を失い、大きなひびを中心に、全身に無数のひび割れが広がり、女神像は崩れ落ちる。
バラバラになった欠片は、船から剥がれるように海に沈んでいった。
●
港に戻ったハンター達を、人々の歓声が出迎えた。
その中から駆け出してきたのは、灯台守の男だ。
「皆さんも大丈夫なんですか!?」
船の安全を守る男には、何よりも気になることだったのだろう。
「これぐらい問題ありませんよ。すぐに治ります」
ハンスはそう言って、ポーションを口にする。拭った血の跡も既に乾いていた。
ルトガーは灯台守の子供たちひとりずつの頭を撫でた。
「よく頑張ったな! 怖くなかったか?」
「怖かったけど……びゅんびゅんとぶロボットと鳥さんがかっこよかった! あ、それから、うぃんうぃんっていってるあれも!!」
指さす先には、返却した魔導アーマーをまだ眺めているアスタリスクの姿があった。
目を輝かせる子供たちは、どうやら心配なさそうだ。
ルトガーは改めてマリナを見る。
「よくやったな。改めて、これからも仲間としてよろしくな!」
「皆ほどすごいことはできなかったけど。もう少し修業を積みたいから、よろしくね」
ハンスはポーションの空瓶をぶらぶらさせながら、そのふたりの間から顔を出す。
「せっかく一仕事終わったのですから、一緒に一杯どうです。ここは魚が美味しいらしいですから、カルパッチョやアヒージョも期待できそうですよ」
それからアスタリスクのほうを見る。
「アスタリスクさんも是非。情報交換は、ハンターにとって大事な仕事の一つですよ」
今は危なっかしくとも、少しずつ経験を積んで行く新たな来訪者たち。
一日も早く誰かを、何よりも自らを守る力を得られるようにと願う。
いずれは共に、強大な敵に立ち向かっていくことになるのだろうから。
<了>
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 ストゥール(ka3669) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/01/02 17:17:05 |
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![]() |
質問卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/12/29 17:12:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/30 20:29:44 |