ゲスト
(ka0000)
モルッキー危機一発
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/12/29 19:00
- 完成日
- 2019/01/04 22:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「姐さん、大変でおます!」
ボロボロになったセルトポが息も絶え絶えにラロッカのところへと戻ってくる。
ラロッカはビッグマーが倒されて以降、無気力にねぐらでゴロゴロしていた。……怠惰はむしろたまにやる気を出したとき以外はいつもこんなもん、という気もしなくもないがさておき。
「あらぁ。どうしちゃったのぉ」
なにやらズタボロになっているセルトポに声をかけたのはモルッキーだった。ラロッカは、面倒くさそうに一瞥だけして、また気だるそうに視線を伏せるのみだ。だが。
「ビッグマー様を討ち取ったやつが誰なのか分かったんでおますー!」
「何!?」
続く言葉は、ラロッカのその、「たまに出るやる気」を刺激するほどのインパクトはあったようだ。二体の視線がセルトポに集まる。
「本当でおます! ハンターが言ってたでおます! ビッグマー様を倒したのは!」
「倒したのは!?」
「倒したのは!」
「倒したのはぁ?」
「倒したのは!」
固唾を飲んで見守る二体。そしてセルトポは……。
「………………あれ? 誰って言ってたでおますっけ?」
その言葉に、二体は盛大にずっこける。
……まあ、そんなわけで。
馬鹿は、絶賛馬鹿であった。
むしろ「逃げることに必死」になった時点で、「何かを伝えるために逃げようとした」ことを覚えていたことが奇跡に等しい。
「はあ……あんたに期待したあたしが馬鹿だったよ……」
冷たい声で言って、再びふて寝に入るラロッカ。
「う、うう……おいたわしや姐さん……不甲斐なくてすまないでおます……」
セルトポはそれにがっくりと肩を落とし……そこで体力がつきたのかパタッと倒れて寝息を立て始めた。
「……」
残されたモルッキーはしばし何かを考えている。
「でも、そうねえ。ハンターに聞けば確かに、ビッグマー様に止めを刺したのが誰かは分かるわよねえ……」
呟いて、ちらり、ラロッカとセルトポに順番に視線を向ける。
「姐さんのために、次はあたしが男を見せる番、かしらあ? なーんて、きゃ、格好いいー! 全国の女子中学生の皆さん、あたしの勇姿に期待よーん?」
そういってモルッキーは、手近なもので突貫で、今回の決戦用メカを作成するのだった。
●
目の前の雑魔を切り伏せて、その存在が無に還るのしっかりと確かめて……視線を、周囲に転じる。見れば仲間たちもそれぞれ敵を倒したところのようだ。
もう気配が無くなったのを感じて、伊佐美 透(kz0243)はふ、と息を吐く。
何気なさそうに軽く手首を返すと、手にした刀の剣先が鮮やかに翻る。残光を引くように、疾く──最後は余韻を残すように緩急をつけて──納刀。
たまたまなのだろうが、避難させていた辺境民たちから感謝と安堵のどよめきが上がったのはそのタイミングだった。
ビッグマーは討伐されたが、その破壊の爪痕は辺境に大きく残された。建て直しのために破壊された街道の整備などはまだまだ必要で、今日ここに集まるハンターたちが受けたのはその作業員たちの護衛である。
現れた雑魔を瞬く間に退治したハンターたちに、辺境の民は全員に代わる代わる称賛の声を浴びせていく。
透もその剣技を褒められると、遠慮しながらも恐怖を味わっただろう彼らを不安にさせまいと、「大丈夫ですよ。安心してください」と軽く応じた。
……ふと、振り替える。己の剣と言うものを。刀の扱いに慣れていたのは殺陣の技術があったからだ。戦いのためではない。
……別に戦いに使うことが嫌というわけではない。ただなんというか、自分が受ける評価は相応なのだろうか、ハッタリで誤魔化してここまでやってこれたのではないだろうか……そんな意識が、ずっとどこか心の奥底にあった……気はした。
そのことを、深く考えることはなかった。どうでもいいことではあるのだ。ハンターと言う立場は、自分にとって仮の居場所ではあるから。そこまで重要なことでもないから、その不安はなおざりにして……そうするうちに、戦いを重ねて。今は結局、どうなっているのだろう。
雑魚雑魔くらいなら、難なく倒せる。昔の自分なら、頼れる仲間が居たところで容易く自分から「安心してください」など言えなかったと……思う。
考えぬうちに、己の中で築かれていたもの。そうなったのは……。
そんなこともとりとめもなく考えながら過ごしていた護衛期間。
異常事態はまた発生した。
地響きを立てて接近してくるそれは……巨大な樽だった。その樽から、もぐらの歪虚が顔だけ出している。
辺境で時折確認される三馬鹿歪虚が一体、モルッキー。
「……何かを思い出すなあ、その状態」
「デザインに文句は言わないでちょうだいぃ。急いで作ったんだからぁ」
「いや、文句と言うか……」
脱力しかけて、しかし次の瞬間、そんな場合ではないと気を引き締めることになる。樽の横から何かが飛び出してきた。
手錠を思わせる輪を着けたアームが、樽から独立して行動していた。分離したそれが向かう方向は……!
「……!」
とっさに構え、アームの一体に近付く。刀捌きでその移動を阻むと、アームはそこで仕方ないと言う風に透に狙いを定めた。輪がぱかりと開き、中にあるワイヤーを蠢かせながらぶつかってくる。
「……作業員たちを狙う気か!?」
間近で見たその動きにはっきりと意図を感じて、怒りすら込めて透はモルッキーを見た。
「あのねぇ……ちょっとあなたたちハンターに聞きたいことかあるんだけどお」
モルッキーはそうして、身をくねらせながら答えてくる。
「だけどお、普通に聞いても素直に本当のこと教えてくれるとかぎらないでしょおー? で、今回のこのビックリメカ、『捕まえタル』ってわけえ」
……要するに。作業員を人質に取った上で何か聞こう、という訳なのだろう。何を聞くつもりなのか。……少し前にセルトポから交戦した、あの事か。あれと違って、そのまま言っても簡単には信じない、くらいの判断力はあるのか。
「……んなこと、させるかでさぁ!」
そうして、はっきりと怒気を込めて、辺境の戦士であるチィ=ズヴォーがモルッキーへと突撃していく。
怒りをこめて……だが、怒り任せではない。
今透が留めているアーム、それがその一体だけでないことはチィも認識している。その上で、モルッキーに向かうという意志を見せる。
──援護は、対処は、何とかしてくれ、してくれるだろうと、言葉すら交わさずその全身で示して見せて。
……自分の剣を最初に認めて、ずっと共にあってくれた存在。だから思える。今の俺に、出来ることがあるなら。守るべき人たちのために。……相棒のために。
チィはそのままモルッキーの居る樽に向かっていき、踏み込んで巨体のそれを貫通するような刺突を繰り出して見せる。
「……ヒッ!」
その一撃に、モルッキーは何故か、ただ威力に対してだけではない焦りを見せた気がした。
ボロボロになったセルトポが息も絶え絶えにラロッカのところへと戻ってくる。
ラロッカはビッグマーが倒されて以降、無気力にねぐらでゴロゴロしていた。……怠惰はむしろたまにやる気を出したとき以外はいつもこんなもん、という気もしなくもないがさておき。
「あらぁ。どうしちゃったのぉ」
なにやらズタボロになっているセルトポに声をかけたのはモルッキーだった。ラロッカは、面倒くさそうに一瞥だけして、また気だるそうに視線を伏せるのみだ。だが。
「ビッグマー様を討ち取ったやつが誰なのか分かったんでおますー!」
「何!?」
続く言葉は、ラロッカのその、「たまに出るやる気」を刺激するほどのインパクトはあったようだ。二体の視線がセルトポに集まる。
「本当でおます! ハンターが言ってたでおます! ビッグマー様を倒したのは!」
「倒したのは!?」
「倒したのは!」
「倒したのはぁ?」
「倒したのは!」
固唾を飲んで見守る二体。そしてセルトポは……。
「………………あれ? 誰って言ってたでおますっけ?」
その言葉に、二体は盛大にずっこける。
……まあ、そんなわけで。
馬鹿は、絶賛馬鹿であった。
むしろ「逃げることに必死」になった時点で、「何かを伝えるために逃げようとした」ことを覚えていたことが奇跡に等しい。
「はあ……あんたに期待したあたしが馬鹿だったよ……」
冷たい声で言って、再びふて寝に入るラロッカ。
「う、うう……おいたわしや姐さん……不甲斐なくてすまないでおます……」
セルトポはそれにがっくりと肩を落とし……そこで体力がつきたのかパタッと倒れて寝息を立て始めた。
「……」
残されたモルッキーはしばし何かを考えている。
「でも、そうねえ。ハンターに聞けば確かに、ビッグマー様に止めを刺したのが誰かは分かるわよねえ……」
呟いて、ちらり、ラロッカとセルトポに順番に視線を向ける。
「姐さんのために、次はあたしが男を見せる番、かしらあ? なーんて、きゃ、格好いいー! 全国の女子中学生の皆さん、あたしの勇姿に期待よーん?」
そういってモルッキーは、手近なもので突貫で、今回の決戦用メカを作成するのだった。
●
目の前の雑魔を切り伏せて、その存在が無に還るのしっかりと確かめて……視線を、周囲に転じる。見れば仲間たちもそれぞれ敵を倒したところのようだ。
もう気配が無くなったのを感じて、伊佐美 透(kz0243)はふ、と息を吐く。
何気なさそうに軽く手首を返すと、手にした刀の剣先が鮮やかに翻る。残光を引くように、疾く──最後は余韻を残すように緩急をつけて──納刀。
たまたまなのだろうが、避難させていた辺境民たちから感謝と安堵のどよめきが上がったのはそのタイミングだった。
ビッグマーは討伐されたが、その破壊の爪痕は辺境に大きく残された。建て直しのために破壊された街道の整備などはまだまだ必要で、今日ここに集まるハンターたちが受けたのはその作業員たちの護衛である。
現れた雑魔を瞬く間に退治したハンターたちに、辺境の民は全員に代わる代わる称賛の声を浴びせていく。
透もその剣技を褒められると、遠慮しながらも恐怖を味わっただろう彼らを不安にさせまいと、「大丈夫ですよ。安心してください」と軽く応じた。
……ふと、振り替える。己の剣と言うものを。刀の扱いに慣れていたのは殺陣の技術があったからだ。戦いのためではない。
……別に戦いに使うことが嫌というわけではない。ただなんというか、自分が受ける評価は相応なのだろうか、ハッタリで誤魔化してここまでやってこれたのではないだろうか……そんな意識が、ずっとどこか心の奥底にあった……気はした。
そのことを、深く考えることはなかった。どうでもいいことではあるのだ。ハンターと言う立場は、自分にとって仮の居場所ではあるから。そこまで重要なことでもないから、その不安はなおざりにして……そうするうちに、戦いを重ねて。今は結局、どうなっているのだろう。
雑魚雑魔くらいなら、難なく倒せる。昔の自分なら、頼れる仲間が居たところで容易く自分から「安心してください」など言えなかったと……思う。
考えぬうちに、己の中で築かれていたもの。そうなったのは……。
そんなこともとりとめもなく考えながら過ごしていた護衛期間。
異常事態はまた発生した。
地響きを立てて接近してくるそれは……巨大な樽だった。その樽から、もぐらの歪虚が顔だけ出している。
辺境で時折確認される三馬鹿歪虚が一体、モルッキー。
「……何かを思い出すなあ、その状態」
「デザインに文句は言わないでちょうだいぃ。急いで作ったんだからぁ」
「いや、文句と言うか……」
脱力しかけて、しかし次の瞬間、そんな場合ではないと気を引き締めることになる。樽の横から何かが飛び出してきた。
手錠を思わせる輪を着けたアームが、樽から独立して行動していた。分離したそれが向かう方向は……!
「……!」
とっさに構え、アームの一体に近付く。刀捌きでその移動を阻むと、アームはそこで仕方ないと言う風に透に狙いを定めた。輪がぱかりと開き、中にあるワイヤーを蠢かせながらぶつかってくる。
「……作業員たちを狙う気か!?」
間近で見たその動きにはっきりと意図を感じて、怒りすら込めて透はモルッキーを見た。
「あのねぇ……ちょっとあなたたちハンターに聞きたいことかあるんだけどお」
モルッキーはそうして、身をくねらせながら答えてくる。
「だけどお、普通に聞いても素直に本当のこと教えてくれるとかぎらないでしょおー? で、今回のこのビックリメカ、『捕まえタル』ってわけえ」
……要するに。作業員を人質に取った上で何か聞こう、という訳なのだろう。何を聞くつもりなのか。……少し前にセルトポから交戦した、あの事か。あれと違って、そのまま言っても簡単には信じない、くらいの判断力はあるのか。
「……んなこと、させるかでさぁ!」
そうして、はっきりと怒気を込めて、辺境の戦士であるチィ=ズヴォーがモルッキーへと突撃していく。
怒りをこめて……だが、怒り任せではない。
今透が留めているアーム、それがその一体だけでないことはチィも認識している。その上で、モルッキーに向かうという意志を見せる。
──援護は、対処は、何とかしてくれ、してくれるだろうと、言葉すら交わさずその全身で示して見せて。
……自分の剣を最初に認めて、ずっと共にあってくれた存在。だから思える。今の俺に、出来ることがあるなら。守るべき人たちのために。……相棒のために。
チィはそのままモルッキーの居る樽に向かっていき、踏み込んで巨体のそれを貫通するような刺突を繰り出して見せる。
「……ヒッ!」
その一撃に、モルッキーは何故か、ただ威力に対してだけではない焦りを見せた気がした。
リプレイ本文
現れた樽……もといモルッキーを目に、時音 ざくろ(ka1250)は高らかに声を上げた。
「作業員さん達は狙わせない、ざくろが相手だ!」
さあ、モルッキーのびっくり樽型メカを倒して撃退し、作業員さん達を護る冒険だ!
「着装マテリアルアーマー、魔力フル収束!」
叫ぶとともに、機導術によってマテリアルが防御膜として収束していく。
(絶対に作業員さん達を傷つけさせはしない、だからざくろは! ……それに)
「たーる♪ ……何か言ってみたくなっただけなのだ」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)の発言にざくろの耳がピクリ、と反応する。
「当りだと飛び出しそうなデザインっすね」
次いで神楽(ka2032)が呟くと、ざくろの背中がはっきり、ぴくぴくっと反応した。
(──それに、あのメカを見ているとこう、なんか無性に剣を突き刺したくなるんだ……)
……まあつまり、そういうアレだった。
ネフィリアは祖霊をその身に宿し、しなやかな身のこなしと速度を身につけ。
神楽もまた祖霊の力を引き出していくと、さらに共鳴させ、その効果を周囲へも伝達させていく。
遊んでいるかの様で、存外モルッキーに立ち向かう三人の様子は真剣だった。
特に神楽は。モルッキーへと向ける視線に、明らかにはっきりと何らかの意思を、目的を宿している。
だが、それは。
殺意と呼ぶものでは、無いだろう。
それを認めて、トリプルJ(ka6653)は口元をゆがめた。
「俺ぁどっちでも構わねぇよ」
聞こえるか聞こえないか。モルッキーに背を向けて、嘯くように告げる。
「お前がここで死ねばモグラ姫が出張ってくるだけだ。だから、俺ぁどっちでも構わねぇ。お前が情報を持って帰るもよし、お前がここで死ぬも良し。青木が出張る可能性が増えるなら、なんでもいい」
先の戦いを。なんとしても討たねばならぬ敵を。Jは、そこを見ている。故にこの戦いを、その行方をどう導くかは、どっちでも良い。どちらになっても転がしようはある──だが。
「まあそれはそれとして、一般人に被害を出されちゃ困るわけだ、こっちもよ?」
今度こそ、にやりと言ってJは自律するアームの一つへと向き直った。
(……どちらでも良い。本当に、そうなのだろうか……)
アティエイル(ka0002)は、静かに思う。
彼女は現状をこう考えている。
(これは、私たちが招いた結果、甘さ故の……不始末だ)
と。
故にこそ、辺境民たちは最優先で守らなければならない。
杖を翳し、詠唱する。未だ自由に行動するアームの一体を見据えて、その行き先にある辺境民、それを視界から遮断するかのように土の壁がそれの前へと築き上げられる。
「前には、出られないようお願いいたします」
通る声で告げ、作業員たちへと目をやる。彼らは頷くと、稼がれた時間を使って戦場から距離を開けていく。
取り残されたアームに、次いでアティエイルが生み出した炎の矢が襲い掛かった。
その威力に。目的の前に脅威だと認識したアームが、アティエイルへと向かった。
(誰かのせいではない、これは自分が追わず、仕留めずいた結果)
彼女はそれに、他の者に怪我をさせるようなことはあってはならないと、気を張って対峙する。
炎を、風を、生み出しては近い個所を狙って叩きつける。彼女のすぐそばで。
Jもまた、眼前の一体に向けて鉄爪を叩きつけていた。生じた亀裂にマテリアルを送り込む。装甲を透過して、一撃の威力が内部へと送り込まれ、アームはその胴体を跳ねさせた。
モルッキーに迫った三人もめいめい戦いを繰り広げている。
「凍りつけフリージングレイ!」
ざくろは掬い上げるように魔導剣を一閃、青白く輝く冷凍光線がモルッキーのゴーレムを貫いていく。
やっぱり焦りを見せる上げるモルッキー。
続いてネフィリアは、手にした斧槍を横倒しに構える。
「前にあった気がするモグラさんかな? かな? 一緒に遊ぼうなのだー♪」
「あ、あらそうだったかしらねぇ? ところでその武器でその構えでどう遊ぶのかしら?」
無論ここから豪快に横に薙ぎ払うのである。自分より大型の相手に範囲攻撃を用いるのは、別に自然な発想だろう。
その一撃に、悲鳴を上げて身を竦め、一瞬の後、ほっとした顔を見せるモルッキー。
「纏めて片付けるっす!」
安堵も束の間。さらに神楽が翳した手から電撃が一直線に、モルッキーと、それから今は非稼働のアームを纏めて貫いていく。
「ちょ、ちょっとあんたらいい加減にしなさーい!?」
なんか涙目でアームを振り上げるモルッキー。反撃のアームがざくろを襲う!
拘束を畏れ、受けずに回避したいざくろだったが、左右の連撃は回避が困難だった。一撃を受けてしまう。
「くっこの、くそ!」
もがくが簡単にははずれそうになかった。
神楽が声を上げる。
「セルトポからビックマー様倒したのは青木って聞いてないんすか! どう考えても俺達と戦う前にビックマー様の仇の青木を討てっす! なんなら協力するっすよ!」
ピクリとモルッキーの顔が動いた気がした。
「え? そんな話なの? 流石にそれはちょっと……無くない? どうなの?」
「疑うなら青木の様子を確認するっす。明らかに前より異常に強くなってるっす!」
行けると感じたか、更に声を張り上げる神楽。だが。
「うーん、確認しろって言われてえ、口車に騙されて帰らされたってのは癪だから……やっぱりもうちょっと信憑性が欲しいわよねん」
それにモルッキーは、やはりというように辺境民に目を向けるのだった。戦いはまだ、収束とはいかない。
「……ああ!?」
アティエイルが短く悲鳴を上げる。距離を詰められその身をアームに拘束される。さらにワイヤーが杖を絡め取り無力化する。魔術具を封じられては、彼女の細腕で、絞め落とされる前にアームを破壊することは難しい。
「待ってな」
Jの声がした。
彼から放たれたマテリアルが、アティエイルの杖を縛っているワイヤーに向けて放たれる。術具を封じる負のマテリアルに干渉すると、Jの意思に反応する様にそれはばらりと解け……そして吸い込まれるように、彼の鉄爪に巻き取られていく。
……回復したわけでは無い。ハンターの武器を無力化するのは結局拘束そのものではなく負のマテリアルによる作用だ。その不浄を『引き取った』だけ。
「J様!?」
それでは彼はどうなるのだ、と、アティエイルは叫ぶ。が。
「あの樽野郎には届かねえか……じゃ、返すぜ」
涼しげな顔のままでJは言って、再び意識を集中する。アティエイルを拘束するアームの足元から光の柱が立ち昇った。Jの身に転写された不浄はさらにアームへと移される。
「有難うございます……申し訳ありません」
この中でBSへの対策が出来たのはJだけだ。彼の備えが無ければ戦線が崩壊していた可能性は高い。
「……ま、いざとなりゃあ武器が無くても困らねえだけの力は霊闘士にはあるけどな」
敵の攻撃をかわしきっていた彼にそれを披露する場面は無かった。代わりにその言葉を証明するかのように再び鉄爪の一撃が深くアームにめり込み、沈黙させる。
モルッキーが慌てて起動させた新手にJが向かっていく。アティエイルも、この好機に己の役割を果たす番だと心得る。移動を妨げるアームの拘束はそのままだが、魔法は使える。締め上げと我慢比べの魔法攻撃の末に、彼女も一体を破壊した。透の方のもう一体も問題はないようだ。このまま、主にJの活躍を中心にアームは対処できるだろうと見通せた。
モルッキーとの戦いも続いている。
「離せっ、どうしても離さないなら……ロプラース! 急降下、必殺突撃ジュジャク!!」
未だ拘束から抜け出ることのできないざくろが、ファミリアたる機械化怪鳥「Lo+」に攻撃を命じる。
上空から、顔を出すモルッキーを直接狙う……が、モルッキーも反応する。回避はされないものの、怪鳥の一撃は樽の蓋部分に突き立つにとどまった。騎乗状態の急所である搭乗者の直接狙いは、使い魔を利用しても都合よく出来るものではない。
「なら……拡散ヒートレイだ!」
アームにより距離を置かれたざくろは、やむなく今度は機導術による熱放射による攻撃に切り替えた。先ほどの冷凍光線と合わせ、温度差により樽の強度を下げようという試みのようだ。その狙いが上手くいっているかは微妙だが、範囲攻撃、その衝撃はしっかりゴーレムを貫いている。
その横で。
「何かこれを見てると武器を突き入れたくなるね? 何でだろー??」
ネフィリアが、斧槍の、今度は槍部分を突き立てるように一撃を加えた。魔力を込めた一撃は、その斧槍の秘めた魔力の加護も受けて貫く威力となり、刃の根元近くまで樽へと突き立った。その光景に、ざくろが自らの魔導剣を手にうずうずしているが、残念ながら近づけないのである。
神楽は相変わらず、アームを巻き込んでの電撃を食らわせ続けている。
……そんな攻防を繰り返すうち……。
「あっ駄目っ! きゃあぁああうげええ」
途中から完全に気色悪い悲鳴へと変えながら……モルッキーの身体が樽から飛び出してきた。
べしょり。汚い音を立てて、ネズミの身体が地面に落下する。
「ホントに飛び出したっす!? チャンスっす~!」
神楽がモルッキーが落ちていった先に駆け寄る。
「え、いやちょっと貴方たち何するつもりな……の……」
顔を上げたモルッキーの声は後半から震えていた。
迫る神楽。その背後からしなやかに動く触手が生えていた……幻影だが。
「モグラさん、逃げないで僕といいことするのだー♪ ……いいことってなんだろ??」
ネフィリアが無邪気に言った。蒼白になって逃げだそうとするモルッキーの足に、神楽から伸びる触手が絡みついていく。毛深い体表を掻き分け、怖気を齎す感触が直接皮膚に……。
「いやこれ男は事務的に拘束するだけっすから」
うんもうやめる。何を書かされてるんだこれ。台詞とのかみ合わせが悪かったんだよ。
そんなわけで、モルッキーの逃亡は封じられた。ここから尋問タイムである。
「これで落ち着いて話せるっすね。お前が攻撃しないならこっちも攻撃しないんで安心するっす」
神楽は再び青木がビックマーを倒した事を告げ、改めて共闘を提案する。
「青木の居場所を教えて欲しいっす。一緒にビックマー様の仇を取るっす」
「そう言われても……うーん……やっぱりすぐには信じかねるしぃ……あたしじゃあこの場では答えかねるわよぉ」
モルッキーの返答に、神楽は頷く。
「お前たちのトップはラロッカ様っすもんね。それなら伝言してくれればいいっす。個人的にトーチカ様、いやトーチカに伝えて欲しい事もあるっすし」
「あんたが? ラロッカ様にぃ?」
「最近、彼女の様子はどうなんすか?」
「どうって……」
手短にモルッキーが答えると、神楽は荷物から何かを取り出した。
「元気がないっすか。ならこの手紙を渡して欲しいっす」
ポートレートと共に神楽が手紙を差し出すが、モルッキーはまだ尻込みする様子だ。
そこで、Jが『楽し気に』会話に参加してくる。
「言ったよな? 俺はどっちでもいい。伝言がやだってんなら、別の方法で次の奴にお出まし願うだけだぜ?」
そう言って、指をパキパキと鳴らす。……移動を封じられ、メカも停止させられた今、拒否すればこのまま取り囲まれてぶちのめされるだけなのだと、モルッキーはそれで理解する。
「わわわ、分かったわよ! 伝える! そしたら帰っていいのぉ!?」
悲鳴を上げてモルッキーが恭順を示すと、一同それで彼を解放し……かけて。
「確かオーロラちゃんの世話を焼いてるんすよね? 最近あの子どうっす? ビックマー様がやられて落ち込んでないっすか?」
思い出したように、神楽が聞いた。
「世話してたっていうかぁ……ビックマー様の傍にいたからあたしたちも近くにいることが多かったってだけでえ……最近のことはあたしたちもさっぱりよぉ」
が、聞けたのはそれだけだった。改めてモルッキーを解放すると、彼は一目散に逃げていく。
「今回は覚えておいてくれるのかな? かな? 逆に信じてくれなかったり、とかないといいけどねー」
ネフィリアが、見届けながら言った。
問答の間。
辺境民に被害が無かったことを確認して、アティエイルは安堵のため息を吐く。
そうして、それから。
(そういえば、彼……透様は、此度の事をどう思うのだろうか)
ふと思って、透の方を見た。
その表情は、晴れやかとは言えない──自分も似たような物だろうが。
彼を叱咤激励する事も、優しい言葉をかける事も到底出来そうにない。それでも。
(あの時にいて、今此処にいるは私とチィ様、そして透様だけ)
──彼も、後悔を、たらればをと、思い返すこともあるのだろうか。
悪い、とは思わない。彼女自身も思いはする。
だからただ、知りたくはあると感じた。彼は、前を向くのか、悔やみ立ち止まるのか。
そうして。
「……浮かない顔ですね」
彼女の視線を察した透の方から、そう話しかけてきた。やはり──彼もまた、そちらこそ、と言いたくなる顔ではあったが。
「『今度の選択』がどうなるのか、不安はあります」
そうして、彼は言った。見ているだけの自分たち。でも間違いのない、自分自身の選択という考え。
「ただやっぱり、『その時』が来たら向かい合う。それしか俺には……分かりません」
軽く頭を振りながら彼は言って。彼女はそれに。
「そう」
と、ただ、心にとどめて目を閉じるのみだった。
それは「彼」の一つの考えとして、否定も肯定もせずに。
●
やがてラロッカは、モルッキーからの伝言と手紙を受け取る。
「……馬鹿だねえ」
暫くの沈黙の後、やがて、彼女が告げたのはそれだけだった。
手紙にはこう書かれていた。
『結婚を受けるっす。一緒に協力してビックマー様の仇の青木を討つっす、愛しのマイハニー。追伸。このポートレートは俺だと思って欲しいっす』
いつか。戯れにそんな話もしただろうか。やはりあまり頭が良く無いラロッカには、おぼろげな記憶だ。
「馬鹿だよ、本当。いくらアタシでもね。歪虚と人間が結ばれないことくらい、分かっちゃいるってのに」
微かに笑う。
それでも。歪虚とはいえ存在してこの方非モテで生娘のラロッカは、それを嬉しく思う気持ちは紛れもなく……あったが。
「……姐さん?」
「有り得るわけないだろ」
「えっと、そうよねえ、歪虚が高位の歪虚を倒すとか、ないわよねえ……?」
「ああそうだよ。……だから人間と歪虚が共闘することも……ましてや結婚なんて、あるわけがないだろ」
……嬉しいから。だから。
ラロッカは──信じないことにした。何もかもを。
鼻で笑い飛ばす──どこか寂し気に。それから。
ポートレートを伏せて、彼女はまた怠惰に眠りに沈んだ。
「作業員さん達は狙わせない、ざくろが相手だ!」
さあ、モルッキーのびっくり樽型メカを倒して撃退し、作業員さん達を護る冒険だ!
「着装マテリアルアーマー、魔力フル収束!」
叫ぶとともに、機導術によってマテリアルが防御膜として収束していく。
(絶対に作業員さん達を傷つけさせはしない、だからざくろは! ……それに)
「たーる♪ ……何か言ってみたくなっただけなのだ」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)の発言にざくろの耳がピクリ、と反応する。
「当りだと飛び出しそうなデザインっすね」
次いで神楽(ka2032)が呟くと、ざくろの背中がはっきり、ぴくぴくっと反応した。
(──それに、あのメカを見ているとこう、なんか無性に剣を突き刺したくなるんだ……)
……まあつまり、そういうアレだった。
ネフィリアは祖霊をその身に宿し、しなやかな身のこなしと速度を身につけ。
神楽もまた祖霊の力を引き出していくと、さらに共鳴させ、その効果を周囲へも伝達させていく。
遊んでいるかの様で、存外モルッキーに立ち向かう三人の様子は真剣だった。
特に神楽は。モルッキーへと向ける視線に、明らかにはっきりと何らかの意思を、目的を宿している。
だが、それは。
殺意と呼ぶものでは、無いだろう。
それを認めて、トリプルJ(ka6653)は口元をゆがめた。
「俺ぁどっちでも構わねぇよ」
聞こえるか聞こえないか。モルッキーに背を向けて、嘯くように告げる。
「お前がここで死ねばモグラ姫が出張ってくるだけだ。だから、俺ぁどっちでも構わねぇ。お前が情報を持って帰るもよし、お前がここで死ぬも良し。青木が出張る可能性が増えるなら、なんでもいい」
先の戦いを。なんとしても討たねばならぬ敵を。Jは、そこを見ている。故にこの戦いを、その行方をどう導くかは、どっちでも良い。どちらになっても転がしようはある──だが。
「まあそれはそれとして、一般人に被害を出されちゃ困るわけだ、こっちもよ?」
今度こそ、にやりと言ってJは自律するアームの一つへと向き直った。
(……どちらでも良い。本当に、そうなのだろうか……)
アティエイル(ka0002)は、静かに思う。
彼女は現状をこう考えている。
(これは、私たちが招いた結果、甘さ故の……不始末だ)
と。
故にこそ、辺境民たちは最優先で守らなければならない。
杖を翳し、詠唱する。未だ自由に行動するアームの一体を見据えて、その行き先にある辺境民、それを視界から遮断するかのように土の壁がそれの前へと築き上げられる。
「前には、出られないようお願いいたします」
通る声で告げ、作業員たちへと目をやる。彼らは頷くと、稼がれた時間を使って戦場から距離を開けていく。
取り残されたアームに、次いでアティエイルが生み出した炎の矢が襲い掛かった。
その威力に。目的の前に脅威だと認識したアームが、アティエイルへと向かった。
(誰かのせいではない、これは自分が追わず、仕留めずいた結果)
彼女はそれに、他の者に怪我をさせるようなことはあってはならないと、気を張って対峙する。
炎を、風を、生み出しては近い個所を狙って叩きつける。彼女のすぐそばで。
Jもまた、眼前の一体に向けて鉄爪を叩きつけていた。生じた亀裂にマテリアルを送り込む。装甲を透過して、一撃の威力が内部へと送り込まれ、アームはその胴体を跳ねさせた。
モルッキーに迫った三人もめいめい戦いを繰り広げている。
「凍りつけフリージングレイ!」
ざくろは掬い上げるように魔導剣を一閃、青白く輝く冷凍光線がモルッキーのゴーレムを貫いていく。
やっぱり焦りを見せる上げるモルッキー。
続いてネフィリアは、手にした斧槍を横倒しに構える。
「前にあった気がするモグラさんかな? かな? 一緒に遊ぼうなのだー♪」
「あ、あらそうだったかしらねぇ? ところでその武器でその構えでどう遊ぶのかしら?」
無論ここから豪快に横に薙ぎ払うのである。自分より大型の相手に範囲攻撃を用いるのは、別に自然な発想だろう。
その一撃に、悲鳴を上げて身を竦め、一瞬の後、ほっとした顔を見せるモルッキー。
「纏めて片付けるっす!」
安堵も束の間。さらに神楽が翳した手から電撃が一直線に、モルッキーと、それから今は非稼働のアームを纏めて貫いていく。
「ちょ、ちょっとあんたらいい加減にしなさーい!?」
なんか涙目でアームを振り上げるモルッキー。反撃のアームがざくろを襲う!
拘束を畏れ、受けずに回避したいざくろだったが、左右の連撃は回避が困難だった。一撃を受けてしまう。
「くっこの、くそ!」
もがくが簡単にははずれそうになかった。
神楽が声を上げる。
「セルトポからビックマー様倒したのは青木って聞いてないんすか! どう考えても俺達と戦う前にビックマー様の仇の青木を討てっす! なんなら協力するっすよ!」
ピクリとモルッキーの顔が動いた気がした。
「え? そんな話なの? 流石にそれはちょっと……無くない? どうなの?」
「疑うなら青木の様子を確認するっす。明らかに前より異常に強くなってるっす!」
行けると感じたか、更に声を張り上げる神楽。だが。
「うーん、確認しろって言われてえ、口車に騙されて帰らされたってのは癪だから……やっぱりもうちょっと信憑性が欲しいわよねん」
それにモルッキーは、やはりというように辺境民に目を向けるのだった。戦いはまだ、収束とはいかない。
「……ああ!?」
アティエイルが短く悲鳴を上げる。距離を詰められその身をアームに拘束される。さらにワイヤーが杖を絡め取り無力化する。魔術具を封じられては、彼女の細腕で、絞め落とされる前にアームを破壊することは難しい。
「待ってな」
Jの声がした。
彼から放たれたマテリアルが、アティエイルの杖を縛っているワイヤーに向けて放たれる。術具を封じる負のマテリアルに干渉すると、Jの意思に反応する様にそれはばらりと解け……そして吸い込まれるように、彼の鉄爪に巻き取られていく。
……回復したわけでは無い。ハンターの武器を無力化するのは結局拘束そのものではなく負のマテリアルによる作用だ。その不浄を『引き取った』だけ。
「J様!?」
それでは彼はどうなるのだ、と、アティエイルは叫ぶ。が。
「あの樽野郎には届かねえか……じゃ、返すぜ」
涼しげな顔のままでJは言って、再び意識を集中する。アティエイルを拘束するアームの足元から光の柱が立ち昇った。Jの身に転写された不浄はさらにアームへと移される。
「有難うございます……申し訳ありません」
この中でBSへの対策が出来たのはJだけだ。彼の備えが無ければ戦線が崩壊していた可能性は高い。
「……ま、いざとなりゃあ武器が無くても困らねえだけの力は霊闘士にはあるけどな」
敵の攻撃をかわしきっていた彼にそれを披露する場面は無かった。代わりにその言葉を証明するかのように再び鉄爪の一撃が深くアームにめり込み、沈黙させる。
モルッキーが慌てて起動させた新手にJが向かっていく。アティエイルも、この好機に己の役割を果たす番だと心得る。移動を妨げるアームの拘束はそのままだが、魔法は使える。締め上げと我慢比べの魔法攻撃の末に、彼女も一体を破壊した。透の方のもう一体も問題はないようだ。このまま、主にJの活躍を中心にアームは対処できるだろうと見通せた。
モルッキーとの戦いも続いている。
「離せっ、どうしても離さないなら……ロプラース! 急降下、必殺突撃ジュジャク!!」
未だ拘束から抜け出ることのできないざくろが、ファミリアたる機械化怪鳥「Lo+」に攻撃を命じる。
上空から、顔を出すモルッキーを直接狙う……が、モルッキーも反応する。回避はされないものの、怪鳥の一撃は樽の蓋部分に突き立つにとどまった。騎乗状態の急所である搭乗者の直接狙いは、使い魔を利用しても都合よく出来るものではない。
「なら……拡散ヒートレイだ!」
アームにより距離を置かれたざくろは、やむなく今度は機導術による熱放射による攻撃に切り替えた。先ほどの冷凍光線と合わせ、温度差により樽の強度を下げようという試みのようだ。その狙いが上手くいっているかは微妙だが、範囲攻撃、その衝撃はしっかりゴーレムを貫いている。
その横で。
「何かこれを見てると武器を突き入れたくなるね? 何でだろー??」
ネフィリアが、斧槍の、今度は槍部分を突き立てるように一撃を加えた。魔力を込めた一撃は、その斧槍の秘めた魔力の加護も受けて貫く威力となり、刃の根元近くまで樽へと突き立った。その光景に、ざくろが自らの魔導剣を手にうずうずしているが、残念ながら近づけないのである。
神楽は相変わらず、アームを巻き込んでの電撃を食らわせ続けている。
……そんな攻防を繰り返すうち……。
「あっ駄目っ! きゃあぁああうげええ」
途中から完全に気色悪い悲鳴へと変えながら……モルッキーの身体が樽から飛び出してきた。
べしょり。汚い音を立てて、ネズミの身体が地面に落下する。
「ホントに飛び出したっす!? チャンスっす~!」
神楽がモルッキーが落ちていった先に駆け寄る。
「え、いやちょっと貴方たち何するつもりな……の……」
顔を上げたモルッキーの声は後半から震えていた。
迫る神楽。その背後からしなやかに動く触手が生えていた……幻影だが。
「モグラさん、逃げないで僕といいことするのだー♪ ……いいことってなんだろ??」
ネフィリアが無邪気に言った。蒼白になって逃げだそうとするモルッキーの足に、神楽から伸びる触手が絡みついていく。毛深い体表を掻き分け、怖気を齎す感触が直接皮膚に……。
「いやこれ男は事務的に拘束するだけっすから」
うんもうやめる。何を書かされてるんだこれ。台詞とのかみ合わせが悪かったんだよ。
そんなわけで、モルッキーの逃亡は封じられた。ここから尋問タイムである。
「これで落ち着いて話せるっすね。お前が攻撃しないならこっちも攻撃しないんで安心するっす」
神楽は再び青木がビックマーを倒した事を告げ、改めて共闘を提案する。
「青木の居場所を教えて欲しいっす。一緒にビックマー様の仇を取るっす」
「そう言われても……うーん……やっぱりすぐには信じかねるしぃ……あたしじゃあこの場では答えかねるわよぉ」
モルッキーの返答に、神楽は頷く。
「お前たちのトップはラロッカ様っすもんね。それなら伝言してくれればいいっす。個人的にトーチカ様、いやトーチカに伝えて欲しい事もあるっすし」
「あんたが? ラロッカ様にぃ?」
「最近、彼女の様子はどうなんすか?」
「どうって……」
手短にモルッキーが答えると、神楽は荷物から何かを取り出した。
「元気がないっすか。ならこの手紙を渡して欲しいっす」
ポートレートと共に神楽が手紙を差し出すが、モルッキーはまだ尻込みする様子だ。
そこで、Jが『楽し気に』会話に参加してくる。
「言ったよな? 俺はどっちでもいい。伝言がやだってんなら、別の方法で次の奴にお出まし願うだけだぜ?」
そう言って、指をパキパキと鳴らす。……移動を封じられ、メカも停止させられた今、拒否すればこのまま取り囲まれてぶちのめされるだけなのだと、モルッキーはそれで理解する。
「わわわ、分かったわよ! 伝える! そしたら帰っていいのぉ!?」
悲鳴を上げてモルッキーが恭順を示すと、一同それで彼を解放し……かけて。
「確かオーロラちゃんの世話を焼いてるんすよね? 最近あの子どうっす? ビックマー様がやられて落ち込んでないっすか?」
思い出したように、神楽が聞いた。
「世話してたっていうかぁ……ビックマー様の傍にいたからあたしたちも近くにいることが多かったってだけでえ……最近のことはあたしたちもさっぱりよぉ」
が、聞けたのはそれだけだった。改めてモルッキーを解放すると、彼は一目散に逃げていく。
「今回は覚えておいてくれるのかな? かな? 逆に信じてくれなかったり、とかないといいけどねー」
ネフィリアが、見届けながら言った。
問答の間。
辺境民に被害が無かったことを確認して、アティエイルは安堵のため息を吐く。
そうして、それから。
(そういえば、彼……透様は、此度の事をどう思うのだろうか)
ふと思って、透の方を見た。
その表情は、晴れやかとは言えない──自分も似たような物だろうが。
彼を叱咤激励する事も、優しい言葉をかける事も到底出来そうにない。それでも。
(あの時にいて、今此処にいるは私とチィ様、そして透様だけ)
──彼も、後悔を、たらればをと、思い返すこともあるのだろうか。
悪い、とは思わない。彼女自身も思いはする。
だからただ、知りたくはあると感じた。彼は、前を向くのか、悔やみ立ち止まるのか。
そうして。
「……浮かない顔ですね」
彼女の視線を察した透の方から、そう話しかけてきた。やはり──彼もまた、そちらこそ、と言いたくなる顔ではあったが。
「『今度の選択』がどうなるのか、不安はあります」
そうして、彼は言った。見ているだけの自分たち。でも間違いのない、自分自身の選択という考え。
「ただやっぱり、『その時』が来たら向かい合う。それしか俺には……分かりません」
軽く頭を振りながら彼は言って。彼女はそれに。
「そう」
と、ただ、心にとどめて目を閉じるのみだった。
それは「彼」の一つの考えとして、否定も肯定もせずに。
●
やがてラロッカは、モルッキーからの伝言と手紙を受け取る。
「……馬鹿だねえ」
暫くの沈黙の後、やがて、彼女が告げたのはそれだけだった。
手紙にはこう書かれていた。
『結婚を受けるっす。一緒に協力してビックマー様の仇の青木を討つっす、愛しのマイハニー。追伸。このポートレートは俺だと思って欲しいっす』
いつか。戯れにそんな話もしただろうか。やはりあまり頭が良く無いラロッカには、おぼろげな記憶だ。
「馬鹿だよ、本当。いくらアタシでもね。歪虚と人間が結ばれないことくらい、分かっちゃいるってのに」
微かに笑う。
それでも。歪虚とはいえ存在してこの方非モテで生娘のラロッカは、それを嬉しく思う気持ちは紛れもなく……あったが。
「……姐さん?」
「有り得るわけないだろ」
「えっと、そうよねえ、歪虚が高位の歪虚を倒すとか、ないわよねえ……?」
「ああそうだよ。……だから人間と歪虚が共闘することも……ましてや結婚なんて、あるわけがないだろ」
……嬉しいから。だから。
ラロッカは──信じないことにした。何もかもを。
鼻で笑い飛ばす──どこか寂し気に。それから。
ポートレートを伏せて、彼女はまた怠惰に眠りに沈んだ。
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モッルキー撃退相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/12/29 15:27:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/12/26 19:20:28 |