【王戦】目玉たちのマーチングバンド

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/02 07:30
完成日
2019/01/11 20:09

みんなの思い出

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オープニング

 遠目から見た『ソレ』らは、一見、『空中を浮遊する金属製の目玉』の様に見えた。
 左右に機械の腕を生やし、多種多様な『楽器』を持っていた。そして、それを演奏するような動作を繰り返しながら、派手な行進曲を大音量で響き渡らせつつ、街道を進んでいた。
 その歩みは速くはなかった。むしろ、人々に見せつけるかのような堂々とした行進だった。
 そして、クリムゾンウェストの人々には聞き慣れぬ電子的な音声で、繰り返しこう叫んでいた。
 「王ハ来マセリ!」と──

「……アレか? 突如、我が領内に現れた『目玉の楽団』というのは……」
 そんな『目玉』たちを馬上から遠目に見やって、鎧姿の壮年の男が傍らの騎士に呟いた。
 男の名は、ハロルド・オードラン。グラズヘイム王国に仕える伯爵位を持つ貴族であり、王国の中南西部に位置するオードラン伯爵領を統治する領主である。
「左様です、閣下。最初の遭遇は二日前の真夜中── 大音量の音楽で通りを練り歩くあの目玉たちに叩き起こされた村人たちからの通報によりその存在が確認されました」
「連中はあの様に叫びながら、非常にゆっくりとした速度で街道を王都へ進んでいます。騒音以外、特に実害はなかったので監視に留めていましたが……その進入を阻止しようと阻止したフィルトの街の警邏隊が鎧袖一触に蹴散らされました」
 複数の部下たちが立て板に水を流すように流暢に繋げて報告をする。
 オードラン伯爵家は尚武の家系として知られる。オードラン伯ハロルドもまた卿と呼ばれるより将と呼ばれる方を好んだ。
「防衛線を突破した『目玉』たちはそのまま街中へと侵入しましたが、兵民共に犠牲者は出ていません。街に対する破壊行為もなく、ああやって音楽を奏でながら道を進み続けるばかりで……」
 つまり、それこそがあの『目玉の楽団』の目的ということなのだろう。『歪虚の王』の到来を王国民に報せる先触れ── 一々止めを刺さないのは……恐らく、対等の敵手と見做されていないからだろう。歪虚の王に。我々が。このグラズヘイム王国が。
「楽団の行進というより、ピエロかブリキのおもちゃの練り歩きと言った風情だが……舐められたものだ。最近、王国各地に出没しているという『目玉』と同種のモノか?」
「恐らくは。ただ、我が領内に出現したものは数が多く、また、大きさも一回り大きいようで……」
 ふむ、と伯爵は再び『目玉の楽団』に目をやった。
 王都では、今回の『目玉』は古代の遺産の一種であると踏んでいた。似たようなものに遭遇することが多い遺跡考古学者たちの見解である。ただし、それがゴーレムと同じ様なものなのか、それ以上の技術で作られたものかまでは分からない。
 ふむ、と伯爵は沈思した。ともかく情報が足りていない。
「……このまま領内を素通りされたとあっては武門の名折れ。一当たり、仕掛けるぞ」
「閣下……!」
「分かっている。無茶はせん。あくまでも情報の収集が目的だ」
 尚武の家系として知られるオードラン伯爵家はその兵力の1/3をハルトフォート砦に派遣している。実戦経験は豊富だが動員できる数は少ない。今、引き連れている手勢も即応できた一部だけだ。
「接敵は騎兵のみで行う。可能であれば一撃離脱を試みるが、絶対に無理はするな」
 伯爵を先頭に、街道脇の刈り入れの終わった畑を駆けて、道を往く『目玉の楽団』を追う。指揮官先頭は武門の習わしであると同時に、『目玉』たちの反応を最も見やすい位置から確認する為でもある。
 やがて、追うオードラン伯の視界が目玉たちの後尾を捉えた。
 行き足の遅い『目玉』たちの側方へと回り、距離を取って追い抜きざまにその様相を観察する。
 『目玉』たちの数は40機程か。サーベルを上下に振って楽団の指揮を執る『鼓手長』を先頭に、ビューグル(信号ラッパ)やトランペット、スーザフォン(大きな朝顔状のフロントベルを持つ低音金管楽器)、ファイフ(横笛)、スネアドラム(小太鼓)にバスドラム(大太鼓)、シンバルといった楽器を持ったものから、カラーガードやバトントワラーのように旗やバトンでパフォーマンスを演じるものまでいる。……そして、それら楽器と奏でられている音楽と相関関係は見られない。であれば、それらはきっと飾りか武器だ。
 追い抜きに掛かる伯爵と騎兵たちに、『目玉』たちは反応を見せなかった。情報を得る為に幅を寄せると、まるでマーチングバンドのように『目玉』たちが一斉に横へと振り向いた。
 離れて見せると『目玉』たちは再び前へと向き直った。速度を上げて前方へと回り込むと、まるで警笛の様に喇叭がリズミカルな音を立てた。
「敵隊列に突入する。槍の穂先は上に向けたまま、ただ一直線に敵隊列を駆け抜けろ」
 オードラン伯を先頭に一気に襲歩まで加速して突撃へと移る伯の騎士たち。ドラムロール混じりのリズムが打ち鳴らされる中、吹き鳴らされる喇叭の号令と共に他の『目玉』たちがきびきびした動きで隊列を横へと展開する。砲列のが如くこちらへ向けられるトランペット群。その後ろには旗持ちとバトン持ちがいつでも前に出られるように控える。
「攻撃はするな!」
 伯の指示に従い、騎士たちの二列縦隊が『目玉』の隊列の只中を駆け抜けた。『目玉』たちは攻撃して来なかった。接触し、ぶつかることなく交差した二つの隊列を見て、野次馬たちが歓声を上げる。
 一旦、速度を落として二手に分かれ、今度はそれぞれ左右の斜め後方から仕掛ける。敵も左右二手に別れ、先と同様の迎撃態勢を整える。
「槍を前に!」
 今度は明確に攻撃態勢を取る。瞬間、スーザフォンから汽笛の様な重低音が鳴り響き、騎士たちは見えざる重しを乗せられたかのようにその動きを遅くした。続いてトランペットが鳴り響き、指向性を持った衝撃波が叩きつけられ、直撃を受けた騎士たちが馬ごと吹き飛ばされた。それらを逃れて無事接近が出来たものたちも、ファイフが掻き鳴らした甲高い音に人馬共に鼓膜を叩かれ、半数が棹立ちになった馬から転げ落ちることとなった。辛うじて敵へと到達した騎士たちが突き立てた騎兵槍は、だが、その多くが『目玉』の装甲を貫けずに騎士たちの手の中から跳ね飛んだ。
 驚愕しつつそのまま駆け抜けようとした騎士たちは、旗持ちとバトン持ちたちによってすれ違いざまに叩き落とされた。敵隊列を抜けることが出来たのは、伯を始め僅か数騎だけだった。最後に一人立っていた『鼓手長』が目にも止まらぬサーベルの一閃を振るい…… 伯は盾を綺麗に真っ二つにされつつ、その傍らを駆け抜けた。
 『目玉の楽団』の戦闘能力の高さに、伯は目を丸くした。
 死者は一人も出なかった。
 だが、もう一度攻撃を仕掛けようとは思う気にはなれなかった。
「王ハ来マセリ!」
「王ハ来マセリ!」
 『目玉』たちは彼らをその場に残し、王都へ続く街道を進んでいった。

リプレイ本文

 王都へ行進を続ける金属目玉の討伐を依頼され、オードラン伯爵領へと到着したハンターたちは、長閑な田園風景の中をどんちゃん騒ぎで進む目標を目視で確認すると、対応策を話し合うべく一旦街道から外れた林の中へと移動した。
「……よくあれだけの数を揃えたもんだなぁ」
 木々の陰、膝立ちで姿を隠したR7エクスシア『シュネルギア』の操縦席で、カメラを最大望遠にして映した敵影を見て、八島 陽(ka1442)はどこか呆れた様に呟いた。
「確かに、あれだけ数が多いと厄介だな」
 砲戦ゴーレム『紅蓮』の肩に片脚を掛けて敵勢を確認していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がにこりともせず、生真面目に答える。通信機のスイッチを入れたまま独り言ちてた事に気付いた陽が、うわ、と小声で慌て…… そんな二人のやり取りを聞いていたルベーノ・バルバライン(ka6752)──ハッチを開放した魔導アーマー『プラヴァー』の操縦席に立ち、傍目からは『機体からにょっきり生えて』いるように見える──が、二人の懸念を豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ、全て蹴散らしてしまえば良かろう! 浮遊していると言っても、騎士の攻撃が当たる高さなら殴れないことはないであろうしな!」
 その物言いにアルトと陽(のR7)が顔を見合わせ、それぞれ苦笑じみた表情を浮かべた。だが、確かにそのような意気で掛からねば、あの集団を相手に勝利を得ることなど叶わぬか。
「……そうだな。出し惜しみせずに初めから全力で行こう。情報によれば、『スーザフォン』の重低音と『ファイフ(横笛)』の超音波はこちらの動きを阻害してくるらしい。十全のパフォーマンスが発揮できなくなるのは厄介だ。こいつらから優先して叩きたいところだ、が……」
 そこでアルトは言い淀み、軽く眉をしかめた。40体もの『目玉』が整列する中、どれがどの『楽器』を持っているのか、真横からでは判然としなかったのだ。
 いや、数の多い楽器は分かる。目玉たちは同じ楽器で固まって隊列を組んでいるから。後、スーザフォン。こいつは単純にバカでかいから瞭然だ。が、『喇叭』と『横笛』に関しては完全に隊列の中に紛れてしまっている。
「それにしても、どうして目玉型なんでしょう……? 王は見ているぞ、とでも言いたいのでしょうか?」
「不気味な連中だな。何を考えているのか分からないところが特に」
 長旅の小休止を取る相棒たち──リーリーの『ガスト』とワイバーン『アウローラ』の背を撫でながら、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)とレイア・アローネ(ka4082)が眉をひそめ合う。
「はい。はた迷惑な楽団の公演はここで仕舞いにしてもらいたいところです。幕はとっくに下りていると知らしめてやりましょう」
 サクラ・エルフリード(ka2598)の言葉に、ヴァルナは彼女と視線を合わせて頷き合った。……このオードラン伯爵領は共に旅をした仲間たちの故郷であり、彼女らに後顧の憂いを抱かせぬ為にも、片付けてしまいたい。
「よし。そうと決まりゃあ……! おい、Volcanius! 俺たちの後について来い。敵との距離が100になったらそれを維持しつつ、砲撃準備状態で待機だ」
「『紅蓮』。敵との距離70まで前進し、連続装填の準備。砲撃は都度、指示を出す」
 パシン! と拳を打ち鳴らして、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が背後に聳え立つ砲戦ゴーレムに指示を出しつつ、颯爽と愛馬に跳び乗って。アルトもまた動き出したゴーレムから飛び降りると、その脇を共に歩きながら籠手をキュッと締め直す……
 ハンターたちが出陣する。
 低いモーター音と共にその身を起こす陽とサクラのR7。レイアは飛竜のアウローラ──以前は互いを認識するのに名前を必要としていなかったが、他の飛竜と作戦するようになって識別の為に命名した──の背に乗り、林の裏手に回り込む様に助走をつけつつ、地を蹴って離陸させ。そのまま敵に見つからぬよう地表ギリギリを飛んでゆく。ヴァルナはリーリーの獣鎧の鞍に跨ると、愛鳥の頸を撫で、馬の様に横腹を足で叩いて駈足を指示。魔導アーマーの内部に潜り込んでハッチを閉めたルベーノのプラヴァーがそのヴァルナに続いて、歩き始めた陽とサクラのR7の傍らを追い抜いていく……
「あの目玉たち…… こちらが攻撃態勢を取らなければ仕掛けてこないようですし、優先目標を間合いに収めるまでは武器を構えずに接近しましょう」
 ヴァルナの提案に従い、陽は長大な電磁加速砲「ドンナー」の砲口を、騎士が掲げる槍の如く空へと向け直した。同様に全ての武器を上へと向けた仲間と共に、敵の後方へと回り込んで、追う形で接近していく……
 距離100── 接近するこちらに気付いた目玉たちが、喇叭手の号令の下、前進を続けたまま一斉にこちらを振り返った。この時点でも紛れた喇叭手の位置は掴めない。
 距離50── 再びの号令と共に敵の隊列が左右へ大きく展開した。槍使いの横列の間を抜けてこちらの前面に出て、その『砲列』を構える金管楽器とサクソホーン群。既にその足は止まり、どうやらその場でこちらを迎え撃つ構えのようだ。
「……『お目こぼし』はここまでのようですね。流石にこれだけの数の覚醒者とユニットを無視することはできませんか」
 距離40── リーリーの背の上で、ヴァルナは家紋と誓約の刻まれた龍槍を前へと構えた。陽もまた同様にその砲口を前面へ。しかし、まだ発砲しない。スーザフォンはまだ射程外──それに、敵の前衛もあまり巻き込めない。
「では、皆様…… 後は『招かれざる客』らしく、強引にパーティー会場まで押し通るのみ──!」
 ヴァルナは相棒たるガストに「その『疾風』という名に相応しい突進を」と指示を出した。風の抵抗を少しでも減らすべく頭を下げた主に呼応し、自らも一本の矢の様に首を伸ばして加速するリーリー。その向かう先には、金色をキラキラ輝かせてずらりと並んだ金管砲列── しかし、その走りには臆した様子は微塵も無い。
 ヴァルナの突進を皮切りに、ハンターたちが各個に全力での突撃を開始した。ボルディアは愛馬が走り易いよう馬上に腰を浮かせると、不敵な笑みと共に巨大な魔斧「モレク」を肩へと担ぎ上げつつ、先頭のヴァルナに並び駆け。その2騎の頭上を、翼を全力で羽ばたかせたレイアの飛竜が飛び越して前に出る。
「今だ、ゴーレム! ぶっ放せ!」
「紅蓮、連続装填指示。砲撃を絶やすな」
 ボルディアとアルトが魔導スマホに指示を飛ばし。それをゴーレム用短電話で受けたVolcaniusたちが一斉に砲撃を開始した。距離120の後方から適宜、弾着修正を行いながら、敵の前衛に向けて12ポンド施条砲を発砲するボルディア機。距離70に位置したアルトの『紅蓮』は、68ポンド・カロネード砲を通常に倍する速度で装填しながら、敵隊列のど真ん中に次々と砲弾を送り込む。
 空気を切り裂く音と共に、敵隊列に幾つもの炸裂の華が咲く。強度を増した砲弾は広範囲に破片を撒き散らし、目玉たちの装甲を切り裂き、喰い込み、薙ぎ払う。
 しかし、目玉たちは動じない。次々と砲弾が降り注ぐ中、整然と隊列を維持したままで…… 直後、まるで汽笛か鯨の鳴き声かの様な重低音を、ハンターたちに向けられたスーザフォンの巨大な『朝顔』が鳴り響かせた。
 その瞬間、地を駆けるヴァルナのリーリーと、装輪ダッシュ中のルベーノ機、サクラと陽のR7の前進速度がガクンと落ちた。レイアの飛竜などはそれに加えて高度をも喪失する。
「なんだっ!? 機体が……重い?!」
「これは…… マテリアルの流れが阻害されて……?」
 ルベーノ、サクラ、陽の3人は即座にコンソールに手を伸ばし、ダメコンを行ってマテリアルの循環を正常化させた。
 内臓にまで響く迫力の重低音に耐えつつ前進を続けるハンターたち── だが、今度はそこへファイフ(横笛)の超音波が襲い掛り、兜や装甲を抜けて直接、生身の思考を掻きむしった。
「チィッ……!」
 ボルディアはその騒音に耐えた。しかし、馬は耐えられなかった。棹立ちになって嘶き、ドォと倒れる愛馬から飛び降り、膝を曲げて着地するボルディア。そんな足の止まったハンターたちへ向けて金管楽器らの砲列が一斉に『衝撃波』を撃ち放ち。碌に回避運動も取れぬまま、ゴゥと叩きつけられるその音の壁を、機導術で超音波の悪影響を除いた陽は、急ぎ機に盾を構えさせて、片膝立ちのまま受け凌ぐ。
 そんな中、ただ一人レイアだけが重低音と超音波に抵抗すると、砲撃態勢に入った金管たちを見るやすぐに動けなくなった味方機の陰に飛び込んで衝撃波の嵐をやり過ごし。そのままそっと敵中を窺い、横笛がスーザフォンの近くにいることを確認した。
「あーくそ、やかましい! テメェ等目玉の癖に楽器なんざ弾いてんじゃねえよ! 耳作ってから出直して来やがれ!」
 愛馬の頭部を胸に抱えて庇ったボルディアが立ち上がり、己の脚で再び突撃を再開した。同時にスマホに指示を出して砲戦機の弾着を修正して自身の突撃を支援させる。その突進に応じた金管砲手たちがスチャッと楽器を天に向け、整然と後退を開始して。同時に前に出て来た前衛──旗持ちとバトン持ちらと一糸の乱れもなく芸術的にすれ違い、あっという間に隊列転換を完了させる。
 それを確認したアルトもまた紅蓮に目標変更を指示すると、機体の陰から飛び出し、別の方向から敵へと疾く走る。
「テメェ等の雑音聞くくれぇなら、酔っ払いのアイドルソング聞いてる方がまだマシだ! 二度と聞かねえように空の果てまで吹き飛ばしてやらぁぁぁ!」
 雄叫び、突撃していくボルディアに向かって投擲されるバトンの乱舞。クルクルと回転しながら飛んでくるそれをアダマス鉱石製の漆黒鎧に当たるに任せて突っ込んで来るボルディアを、旗持ちの槍衾が迎え撃ち…… その穂先がボルディアに届く寸前、後方から放たれた一条の紫色の閃光が、彼女に槍をつけようとしていた旗持ちを撃ち貫いた。
 それは、片膝立ちのまま長大なレールガンを構えた陽機が本体直結で撃ち放った『マテリアルライフル』による一撃だった。背部のエンハンサーが展開し、冷却の為に白煙を吐く。追加装備のジェネレーターが再びエンハンサーを通じて出力をドンナーへ注ぎ込んで放たれる第二撃── その光の槍は再び敵の隊列を縦に貫き、何体かの目玉に開いた破孔から炎を噴き出させる。
 その隙を見逃さず、ボルディアは敵隊列の只中に突入すると、祖霊──かつて先祖が契りを結んだ炎犬を自らに憑依させて幻影を纏いて巨大化した。まるで炎を噴き出す巨人の様な姿と化したボルディアが重低音の雄叫びを上げながら魔斧を大きく横へと振り被り…… 直後、天を劈くような気炎を爆発的に放出しながら大炎の旋風と化し、目玉たちの装甲を飴細工の様に断ち割り、潰し、吹き飛ばす。
 そこへアルトが指示した砲弾が降り注ぎ……その爆発に邪魔をされて、戦場に鳴り響き辻けたスーザフォンと横笛の音が一旦、止まり、瞬間、呪縛から逃れて反撃に出るハンターたち。敵へ向かって走りながら投擲姿勢へと移行し、敵前衛の只中へ向かってプラズマグレネードを投擲するサクラのR7。目玉に当たって地面に転がったそれが爆発して周囲へプラズマ炎を撒き散らし。体調の戻ったアウローラに労わりの言葉を駆けつつ抜刀し、低空を旋回して来たレイアがそこへと突入。魔導剣「カオスウィース」のトリガーを引いて血色の刀身から噴き出した光と闇の魔力に更に己がマテリアルを注ぎ込み、魔力の奔流と化した刃を真横へと薙ぎ払って旗持ちとバトン持ちとを同時に横一文字に斬って捨てる。
「弱ってる相手から狙っていきましょう…… ガンポッド、起動。……初めてですけど、上手く動いてくださいね……!」
 サクラの操作に従い、機体に固定されていた羽根の様な形状のガンポッドが解放され、サクラ機の周囲を浮遊し始め…… サクラの攻撃指示によって、ポッドの内臓ジェネレーターから出力されたエネルギー光線が、範囲攻撃によって傷ついた目玉たちを切り裂き始める。
 そのガンポッドに半自動で攻撃させつつ、合間に再びプラズマグレネードを投げ込むサクラ機。更に右腕に抜いたビームガンを両手に構えて前進しつつ、傷ついた敵から優先的にガンとポッドで交互に狙い撃ち。その支援の下、最大出力で魔導エンジンをぶん回したルベーノ機が、脚部から溢れ出した余剰エネルギーを光の剣と成して敵隊列を突き抜けて、目玉たちの隊列と装甲、双方を切り裂きながら、旗持ちとバトン持ちの間を縦横無尽に駆け抜け始める。
「敵の隊列が乱れている内に、まずは位置の判明しているスーザフォンと横笛を……!」
 射撃で味方を支援しながら、無線機のマイク越しに、サクラ。飛んでくるバトンを自機とポッドに回避させつつ、再びグレネードを投擲して敵の壁に穴を開ける。
「突っ込みます。支援を。……行きますよ、ガスト!」
 ヴァルナの命に応じて、リーリーがその翡翠色の美しい羽根を大きく広げた。そして突進を継続しながら何度も何度も羽ばたいて……やがて、地を蹴ると同時にふわりとその身体が浮かび上がり。そのまま目玉たちの頭上を飛び越えて一気にスーザフォンの元へと滑空していく。
 だが、勿論、目玉たちもされるままを良しとはしない。全目玉の中で唯一、他とは異なるカラーリングを施された『鼓手長』が他の目玉たちの上を浮遊し、リーリーの突入を阻まんと迫る。
「エース機か…… 余裕があったら遊んでみたいところだが、一応、王国の『黒の騎士』でもあるからな。ここは確実な勝利を優先しよう」
 アルトは機械指輪に唇をつけて炎の様なオーラをゆらりとその身に纏うと、同時に体内のマテリアルの内圧を高めていき……直後、自身の残像すらも吹き飛ばす勢いで強引に全身を超加速させた。そうして地を蹴って跳躍すると空中で身体を捻り。そのまま目玉たちの上を跳び渡る様にしながら瞬く間に横笛の元へと駆け抜けて行く……
 その間、鼓手長が味方を襲わぬよう、対応したのはレイアだった。
「仲間の邪魔はさせん。お前たちは私と遊んでもらうぞ!」
 レイアは鼓手長を挑発するように魔導剣と聖盾を両手に大きく掲げると、トリガーを引いて再び刃に魔力を纏わせた。
 先手を取ったのは鼓手長だった。手早くサーベルを振るって二回攻撃を仕掛けてくる敵の刃に、レイアが持つ聖盾(金属製だ)の先端が瞬く間に切り飛ばされた。レイアはヒュウ! と息を吐きつつ、高威力を得た刃で以ってカウンターを叩き込む。
「随分と切れ味の鋭い剣だ。だが、生憎、私もアウローラも半減されるような防御は無いぞ」
 レイアは不敵に笑うと愛竜に再度の接近の指示を出し、バレルロールを繰り返しながら鼓手長の前進を阻み続けた。

 眼下に広がる目玉の原の中にスーザフォンの『朝顔』を見つけて、ヴァルナはそちらへ向かって下りるようガストの背を叩いて指を差した。
 応じて翼を畳み込んで揚力を小さくしていって、地を駆けながら着地するリーリー。そのまま緩く弧を描く様に旋回しながらスーザフォン持ちへと加速しつつ、愛鳥の背の上でヴァルナは周りから飛んでくるバトンを潜り抜けるように躱しつつ、龍槍の穂先に己の魔力を注ぎ込み……
「ガスト!」
 主の指示に従い、敵の右側を突くと見せて左へ急跳躍するリーリー。重い得物を持つスーザフォン持ちはその動きに対応できなかった。回避は全て相棒に任せ、自らは攻撃に集中するヴァルナ。3回の連続突きを加えた後に、更に刃に乗った全ての魔力を放出して放して追撃し。三つの破損のど真ん中を撃ち抜き、見事、スーザフォン持ちの目玉を地面へと打ち倒す。
「次は、横笛を……!」
 休む間もなく鳥首をめぐらせたヴァルナは、しかし、その手綱を持つ手を緩めることとなった。スーザフォンの傍にいたファイフ(横笛)持ちは、後続したアルトが既に倒すところだったからだ。
 空中を舞い散る紅きマテリアルの花弁── 通常に倍する速さで通り過ぎつつ試作法術刀「華焔」(使用者の魔力を強引に吸い上げる深紅の騎士刀)を振るって横笛持ちを切り裂くアルト。その一撃に耐えてみせた横笛持ちだったが、攻撃はそこでは止まらない。着地と同時に流れるようなステップで身体を回し、反対側の足が地に着くや爆発的に踏み込んで、逆側へと抜けながらもう一閃。その際、行き掛けの駄賃とばかりに、横笛の守り手たちを目にも止まらぬ速さで斬りつけて回り、むしろ、それらをスクリーンにしながら横笛に再接近。破壊したバトン持ちの身体が地に落ちるより早くそれを踏み台にして大きく空へと舞い上がり……直上から横笛持ちへ騎士刀を突き入れ、止めを刺す。
 悠々と地面へ下りるアルトの動きに追随して地面へ舞い降る紅き花弁── 同時に、破壊された目玉たちがずしゃり、と一斉に地面へ崩れ落ちた。

 バステ持ちの両目玉が倒された事実はすぐに味方に伝えられた。
「よっしゃ、このまま──ッ!?」
 再度巨大化して旗持ちたちを薙ぎ払おうとしていたボルディアは、しかし、目玉たちが隊列を変えながら急速に自分たちから離れていくのを見て目を丸くした。
 鳴り響く喇叭の曲調はそれまでのものと違っていた。スネアドラムも速いテンポで急かす様なリズムを繰り返しており……
 次の瞬間、目玉たちの隊列は一斉にその場を全力で離脱し始めた。
「んなぁっ!?」
「まさか、こいつら逃げるつもりじゃ……!」
 陽は慌てて砲口を振ると、遠ざかる敵隊列に向けてマテリアルライフルを撃ち放った。紫色のビームが敵隊列の端を貫き、何機かの目玉が火を噴いて爆発する。だが、すぐに射程外へと逃れられて、陽は機を立たせると慌ててそれを追い掛け始める。
 敵はやみくもに逃げ回っているわけではなかった。目玉たちは『紅蓮』との距離を40まで縮めると、瞳の砲口から負のマテリアルビームを放ち、その集中攻撃によって瞬く間に撃破した。
「敵との距離を保て……ってか、全力移動で逃げろォ!」
 赤熱した腕から放出した幾条もの『炎の鎖』でもって最後尾の目玉を絡め取ったボルディアが、事態に気付いて慌てて自身のゴーレムに向かって叫ぶ。

 敵は全力移動を繰り返してハンターたちを振り回した。それに追いつくにはハンターたちも全力移動するしかなく、そうしてこちらの攻撃を封じておいて、目玉たちは戦力の一部を割いて残し、一方的に殴って来た。そして、そちらに対応しようと背を向ければ、本隊丸ごとでビームを放つ。
「どうやらあのドラムマーチには移動力を上げる効果があるようですね……」
 尽きた『リロードキャスト』に『インジェクション』を叩き込んで各武装にエネルギーの再装填をして。捨てがまりに残された目玉たちに向かってマテリアルライフルを放つサクラ。
「喇叭手だ。目玉たちに指示を出してる喇叭手を倒さないと……!」
 マテリアルライフルを撃ち尽くしたレールガンを背に回しつつ、陽機は斬艦刀を引き抜いて敵本隊を追う。
「うおおぉぉ……!」
 と雄叫びを上げながらプラヴァーの高速移動で敵本隊へと突っ込んだルベーノ機に対し、クルクルと旗を巻き付けた槍を突き入れて来る旗持ちたち。「甘いな!」と叫んだルベーノは、機を後ろに跳び下がらせて。だが、旗持ちたちは揃った動きで更に踏み込んで来て。ルベーノはしかしニヤリと笑うと、自身の眼前に『スペルウォール』──マテリアルの実体壁を作って彼我と敵とを分断した。(足は無いが)多々良を踏んで急停止する槍持ちたち。そこへルベーノと同じく雄たけびを上げながら背後から飛び込んで来たボルディアがその槍持ち達を魔斧の一撃で吹き飛ばし。その間にスピンターンを果たしたルベーノのプラヴァーが再加速して槍持ちたちとは反対側にいたスネアドラムの隊列に突入し、ナックル「ラウムシュラーゲン」の周りに渦巻く様に力場を収束させ…… 拳を突き出し、放った『スペルステーク』が正面の敵を殴り飛ばす……

 本隊への攻撃を阻もうとする鼓手長と、味方を守らんとするレイアが、この日幾度目かの激突を果たした。
 互いに刃を振るいながらすれ違い…… 直後、レイアのアウローラが力なく羽ばたきを止め、墜落する。
「起き上がらなくていい。休んでいろ、アウローラ」
 受け身を取りつつ地面を転がり…… 離さず持ち続けた剣と盾を構えて鼓手長に向き直りつつ告げるレイア。サーベルの露を払い、止めを刺さんと接近して来た鼓手長は、しかし、横合いから突っ込んで来たヴァルナとガストによって阻まれた。
「今依頼における唯一の幻獣仲間です。やらせるわけにはいきません」
 残った魔力の全てを振り絞る様に龍槍へと込めながら、素早く槍を繰り出すヴァルナ。それをサーベルで器用に受け滑らせつつ反撃の剣先を振るう鼓手長。そこへ『人機一体』──CAMと己の感覚を共有させてまさに一体と化したサクラが側方から速度と質量を乗せて盾ごと敵へと体当たりをする。
「ただの盾ではないのですよ、これは……! マテリアルドリル、抉り穿て!」
 サクラがスイッチを押し込むと同時に、機の円形の盾に形成される円錐状のマテリアル光── それが高速で回転し始め、突き入れた先端が鼓手長の装甲を削って火花を散らす。
 背部のエンハンサーを展開し、力を込めてそれを押し込むサクラ機を、鼓手長がサーベルの柄で殴って逃れ出る。その行く手を阻むレイアとヴァルナの白刃。起き上がったサクラ機がドリルの先端を鼓手長へと向ける。
「まだ倒れてないですか…… それならばもう一度、全力で抉らせて貰いますよ……!」

 同じ頃、敵本隊に飛び込んで敵を切り捲っていたアルトの身体から舞い散る紅の花弁が消えた。全周から体当たりをするようにして彼女が回避するスペースを埋め、手にしたスティックで殴りつけるスネアドラマーたち。だが、アルトは僅かな地面の隙間を抜けて敵の包囲から逃れ出ると、こちらを包囲したはずの敵を外側から円を描く様に斬り捨てる。
「金属目玉(Armored eyeball)とか可愛くねぇんだよ、おめぇら! 幻獣を見習え。もふもふだぞ!」
 バステから回復した愛馬に再び跳び跨り、右へ左へ魔斧を振って次々と目玉たちを叩き壊していくボルディア。プラヴァーの掌底突きで目玉を内部から破壊したルベーノも、両腕で大きく円を描く様にしながら機体の全身にマテリアルを練り上げて……「青龍翔咬波!」の叫びと共に両手を突き出して前方へと放出。2体を纏めて吹き飛ばす。
 本隊を構成する目玉の数が減っていく。敵中でカメラを振って、敵隊列に紛れた喇叭手を探し続けて来た陽は、ようやくその姿を見つけ出して、即座にスロットルを押し込んだ。
「見つけた……!」
 全てのアクティブスラスターを後方へと向け、全力噴射するシュネルギア。揺らめき立つ陽炎と巻き上がる砂塵を背に一気に喇叭手へと距離を詰め…… 途中、立ち塞がった小太鼓持ち2体を、盾の表面に展開した攻勢防壁でもって弾き飛ばす。
「もう逃がさない! ここで決める!」
 盾を翳したまま喇叭手に体当たりをかまして再度の攻勢防壁で吹き飛ばし、隊列から弾き出して孤立させ。『超重錬成』によって瞬間的に巨大化させた斬艦刀を振り被り、真一文字に振り下ろす。
 それを受けようとした喇叭手は、ただの一撃で手にした喇叭を破壊された。ひしゃげた喇叭を手にしたまま、後退しながら喇叭の音を鳴らして助けを呼ぶ。
 だが、それは叶わなかった。
 再び斬艦刀を巨大化させた陽機がその大きさからは信じられぬほど手早く得物を左下段に構え直し。そのまま横一文字に切り払った後、踏み込んでからの体寄せ──再度の攻勢防壁で敵の体勢を崩しつつ、大上段から踏み込んで目玉を一息に斬り捨てた。


 喇叭手の撃破後、それまで見事な連携を見せていた目玉たちの対応が目に見えて遅くなった。状況の変化に対応できなくなり、また座標単位で味方を制御していたドラムたちが減少するにつれ、動きには統一性の無くなっていった。
「組織的な抵抗は終わりました。残敵を掃討します」
 斬艦刀と盾を手に、全身鎧の騎士よろしく地を駆ける陽機と共に、手前勝手に戦う他なくなった目玉たちをハンターたちが各個に撃破して回る。

 鼓手長は最後まで戦い、ヴァルナの槍とサクラ機のドリルに幾つもの穴を穿たれ、破壊された。
「王……ハ……来マ……セ……」
 レイアは敵手の沈黙を確認すると大きく息を吐き、負傷したアウローラの元に歩み寄ってその奮闘に感謝した。

依頼結果

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参加者一覧

  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    インフラマラエ
    インフラマラエ(ka0752unit002
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka0796unit006
    ユニット|ゴーレム
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    シュネルギア
    シュネルギア(ka1442unit003
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka2598unit003
    ユニット|CAM
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ガスト
    ガスト(ka2651unit001
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グレン
    紅蓮(ka3109unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka6752unit002
    ユニット|魔導アーマー

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
シレークス(ka0752
ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/01/02 02:34:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/01 00:48:26