• 陶曲

【陶曲】RIGHT STUFF ♯1

マスター:のどか

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/04 09:00
完成日
2019/01/15 00:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「我、頼リ無シ」


 その日の同盟軍倉庫は喧騒と金属音にあふれていた。
 同盟各都市における嫉妬歪虚の活動の活発化。
 それを受けて軍としても虎の子の特機隊を持て余しておくつもりはなく、有事にいつでも出撃し戦果を出せるよう準備が求められていた。
 機動兵器を投入するような大掛かりな作戦が軍で発令されることはそうなく、内々の錬成の日々に隊員たちは明け暮れていた。

 そんな状況が変化を見せたのはつい一晩前のこと。
 街に聖輝節の余韻が残る中で、フマーレの兵器工場に発注していたCAMの強化パーツが納品されたのだ。
「はーーーっくしょいっ!!」
 大きなくしゃみをひとつして、ジーナ・サルトリオ(kz0103)は赤くなった鼻をむずむずさせる。
「どうした、風邪か」
「うーん、なんか調子悪くって……えーーきしっ!」
 隣で尋ねた仏頂面のヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)に、もう一発特大のくしゃみで返すジーナ。
 肌を刺すような真冬の同盟。
 CAMを格納するためのだだっ広いハンガーも凍てつくような寒さで、防寒具無しにはいられない。
 鼻頭を外套に包まれた腕でごしごしこすりながら、それでも彼女は目を輝かせて目の前の機体を見上げた。
「これがヴィオ大尉のカスタムデュミナス――えっと、開発コードは何でしたっけ? ブダイ?」
「色鮮やかな魚にするんじゃない。開発コード『無頼』。東方の言葉で『無法者』という意味だ」
 口にして、ヴィオもまた己の機体を見上げた。
 今まさにパーツの装着・換装が進むヴィオ機。
 一番の特徴は魔導型デュミナスの上から着込むようにして全身に装着される追加装甲。
 その重厚なフォルムは、リアルブルーの「ドミニオンMk.Ⅴ」に着想を得たものだった。
「順調だな。今日中には試験稼働まで行けるだろう」
「中佐、お疲れ様です」
「ん」
 ふらりと現れたダニエル・コレッティ(kz0102)に、ヴィオとジーナは並んで敬礼をする。
「隊長! ヴィオ大尉ばっかりずるい! エルモの装備はいつ届くんですか~!?」
「さぁ、年が明けてからじゃない? 言っとくけど、ヴィオのやつほど大掛かりな改修じゃないから。あと、軍から貸与されたCAMに勝手に名前を付けるんじゃない」
「えっへぇ、ごめんなさい」
 ニヤついた笑顔で悪びれる様子のないジーナに、ダニエルはため息をつく。
「それはそうと、明日にはハンターと一緒に現場でのテストも行ってもらうから。海岸線の警備だぞ」
「ええぇぇぇぇ!? 海岸線!? 昨日、錆取りしたばっかりなのに!?」
「ジーナが勝手にやったことだろ。整備班のスケジュールでは来週の予定」
「うう~、鬼、悪魔、隊長!」
「決定事項だからさ、よろしく」
 ひらひらと手を振りながら去っていくダニエルの背中を、ジーナは威嚇するように唸りながら見送る。
 ヴィオもため息交じりにそんな様子を見守って、それからもう一度、肩部アーマーの取り付け作業に掛かった現場を見上げた。
 完成の暁には、きっと自分の手足となって戦果をあげてくれることだろう。
「残る問題は――」
 ふと零れた言葉を飲み込んで、ヴィオはふいと視線を逸らして訓練場へと向かって歩き出した。


「――今日はずいぶんと豊作ね」
 砂浜の岩陰からコックピットのスコープを覗くディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、浅い海面から顔を出すトゲトゲした甲殻の雑魔を捉えてトリガーを引いた。
 大砲のような爆音と共にCAMスナイパーライフルから銃弾が放たれ、カニ型雑魔の背中に突き刺さる。
「歪虚事件の活発化は負のマテリアルの活性化にも繋がる。結果として、以前に比べて雑魔も発生しやすい状況になっているのだろう」
 完成した魔導型デュミナス「無頼」のコックピットで、ヴィオは思いっきりフットペダルを踏み込んだ。
 背面スラスターに火が灯り、数秒のラグの後、機体はぐんと敵陣に突貫する。
 懐に飛び込んだ無頼の斬機刀が弧を描き、根本から腕を両断した。
「悪くない反応だ。モーションの調整でもう少し最適化は行えそうだが……」
 操作感の1つ1つを確かめるヴィオは、ふと仲間たちの動きに目を向ける。
 ディアナ機――これ以上に優秀なバックスは見たことがない。
 だが、一向に上達の兆しがないコマンド入力では固定砲台として以上の戦果は期待ができない。
 一方でジーナ機――射撃は並。接近戦には目を張るものはあるが……勢いに任せすぎるのは考えものだ。
 ガトリング砲で弾幕を張りながら、一時後退する無頼。
 隊列に戻ると、ジーナが興奮したように声を弾ませた。
「いいなぁ! 私もエルモのカスタムが待ち遠しいよ~!」
 ついでに軍人としての意識も少し足りないか……これに関しては彼女の軍人教育も任されている自分の責任でもある。

 課題はいまだ山積み。
 客観的なチーム内の実力してヴィオは突出している。
 そしてチーム内に突出した存在がいるということは――それはそれで連携に不和を生むものだ。
 どうしても現場の判断に頼ることとなる対歪虚戦闘において、ダニエルの采配に頼るわけにもいかない。
 ヴィオは命を預ける仲間として彼女らの成長を心から望んでいる。
 だが、乱れ行く世界の情勢を鑑みれば……自分たちに悠長な時間はないことは分かっていた。
 
 不意に計器が赤い点滅でエラーを示し、ヴィオは弾かれたようにコンソールを見る。
 表示は背部エンジンのトラブル。
 何があった――状況を確認しようとする前に、突然、機体が勝手に歩き始めた。
「これは……」
「どうしたの、ヴィオ大尉」
 真っ先に異変に気付いたのは一歩引いた位置から見てた後方のディアナ。
「分からない、計器にはエンジントラブルが示されているが……こちらの操縦を受け付けない」
 ペダルを、レバーを操作するが全く反応がない。
 意に反して動く無頼は次第に動きの「カド」が取れ始めると、握りしめた斬機刀でジーナ機へと一足で切りかかった。
「うわっ……な、なに!?」
「機体から離れろ! 機体の制御を何者かに奪われている!」
「大尉、脱出して。状況が分からない以上、無頼の自由を奪うわ」
 ディアナのスコープが無頼の脚部を捉える。
「脱出を含めて一切の操作を受け付けない。構わない、やってくれ」
「待って! 状況が分かってないのにそんな……!」
「耳元でわめかないで! ただ動けなくするだけよ……!」
 放たれた銃弾。
 しかし無頼は半身開くようにして脚への直撃を避けると、スラスターを吹かして目の前のジーナ機に体当たった。
「きゃああああああ!」
「くっ……!?」
 もつれるように砂浜へと倒れ込む2機。
 両者のコックピットの中まで伝わる衝撃。
 そんな中、先に立ち上がったのは無頼だった。
 重負荷の掛かる関節を軋ませながら、冷たいバイザーごしの瞳が周囲の存在を見渡していた。

リプレイ本文


「とりあえず2人とも落ち着きなさい!」
 沢城 葵(ka3114)の声が通信機から響いて、通信機で言い争っていたジーナ・サルトリオ(kz0103)、ディアナ・C・フェリックス(kz0105)が言葉を詰まらせる。
「で、でも、状況もよくわかってないのに、いきなり撃つなんて……」
「だから動けなくするだけと言っているでしょう! あなたが叫ぶからチャンスを失ったわ」
「だから、それをやめなさいって――ジーナ、正面!」
「へ?」
 葵の声につられてジーナが正面を見る。
 モニターの先には転倒したエルモを見下ろしながら、逆手に握った斬機刀を頭上高く掲げる無頼の姿。
「うわぁぁぁぁぁ! ヴィオ大尉やめてぇぇぇ!?」
「どうにかできるならとっくに――」
 ヴィオがレバーをガチャガチャしながら答えた矢先、銃弾の雨あられが無頼の鎧のような装甲を乱れ打つ。
「這い出すなりなんなり、早くしてくれ」
 深紅のオファニム――レラージュ・ベナンディのコックピットで、アニス・テスタロッサ(ka0141)が面倒そうに語る。
 衝撃に反応したのか、無頼がその場でうずくまるように身を丸めると、エルモは赤ん坊みたいに傍から這い出す。
 入れ違いに、斬艦刀を盾に警戒しながらにじり寄る魔導型デュミナス――インスレーター・SF。
 キヅカ・リク(ka0038)はコックピットのバイザー越しに、亀のように丸まった無頼の様子を見て首をかしげた。
「ヴィオ大尉、その機体ってコマンド式なんですよね……防御姿勢は?」
「少なくともこのパターンはない」
「ってことはなんだ。エンジントラブルで暴走だあ? ありえねぇだろ」
 ヴィオの答えに、アニスは眉をひそめる。
 彼の言葉によればトラブルが起きたのはエンジン。
 たかだかエネルギーの供給ユニットの不具合で機体が勝手に動くだなんてこと、ありえやしない。
 ジーナが涙目で叫ぶ。
「実は中佐に言われてそういう訓練ってオチじゃないよね!? むしろ、そうだって言って!?」
「はい。ジーナ、息吸ってー。吸ってー。吸ってー……止めて。吐いてー」
「はっ! はっ! はっ! ひっ……ふぅ~……」
「ちっとは落ち着いたか? ったく、新型機のお披露目もあって楽な仕事だと思ったんだケドなー」
 ため息交じりに口にしたリコ・ブジャルド(ka6450)だったが、口先ほど表情は嫌そうではない。
 エクスシア――トラバントIIのイニシャライズオーバーを起動すると、足元に迫っていたカニ雑魔が大きな爪を振う。
 岩でも砕きそうな一撃をトラバントはシールドで受け止めた。
「こっちもこっちでってかー? OKOK。不測の事態に備えてバックアップのあたしたちがいるんだ。ジーナとディアナも任務なんだから、とりあえずこっちに協力してくれよ」
「えっ、で、でも……」
 ジーナの歯切れが悪い返事。
 彼女のバイザーと連動したエルモのカメラアイが、カニ雑魔と無頼とを行き来する。
「なるべく無頼も大尉も傷付けないよう頑張るから……どうか、お姉はんもおちついて力を貸して」
「小夜ちゃぁん」
 浅黄 小夜(ka3062)に諭されて、心配性なジーナの情けない声が漏れる。
「無頼の不調が蟹雑魔の影響かもしれないから……私たちが抑える間に、そっちの討伐をお願いしたいんよ」
「そもそも無頼は単独で押さえられる存在だとは思えません。それに加えて、ディアナさんの狙撃への的確な対応。適材適所――連携が私たちには必要です」
 天王寺茜(ka4080)が跨った大型バイクのエンジンを吹かし、片手でインカムの位置を調整しながら指摘する。
「せやから……出来る事、一緒に頑張って欲しい」
 2人に諭されながらしばらくコックピットで唸っていたジーナだが、やがて大きくかぶりを振るとパンと自分で頬を張る。
「うん、わかった! 早くカニ雑炊を片付けて、大尉を助けたらいいんだよね!」
「雑炊じゃなくって雑魔な?」
「えっ……あっ、間違えた~!」
 リコにケタケタ笑われてジーナは顔を真っ赤にしてながらお腹を鳴らす。
 それでも淀みないレバー操作で、上陸する雑魔へと向かって機体を走らせた。
「ったく、締らないわねぇ……」
 苦笑しながらまたがるイェジド――桜華の首筋を撫でてやる。
 すると、通信に不躾なトーンのディアナの声が響く。
「大丈夫なんでしょうね?」
「ダイジョーブだよ。こーゆーののスペシャリストがこっちには居るんだ」
 かるーいノリで返したリコの言葉にディアナは返事をせず、それが彼女の半信半疑さを際立たせる。
「こういう荒事に関しちゃ、貴女達よりよほどベテランよぉ。悔しかったら腕あげなさい」
「……言うじゃない」
 熱くなると口数が少なくなるタイプね。
 そんなことを考えながら肩をすくめる葵。
「そういうことで、良いですね。ヴィオ大尉」
 リクは制圧射撃で防御姿勢を取ったままの無頼にそう投げかける。
「多少荒くても問題はない。海軍上がりは鍛え方が違う」
「ははっ、そりゃ頼もしいや!」
「大丈夫……絶対、助けます」
 エクスシア――CoMのコックピットで、手の震えを押さえるようにレバーを握りしめる小夜。
 大丈夫。
 お姉はんのためにも、大尉も無頼も、どっちも助けてみせる。
「話はまとまったな。それじゃ、点呼3つで射撃を解くぞ。3――2――1――」
 アニスの最後のカウントと同時に、インスレーターが斬艦刀での守りを解いて、CoMと共にスラスターを吹かす。
 無頼もまた、弾丸の嵐が去ったのを察知したのだろう。
 ゆっくりと身を起こしながら両手を開いて、斬機刀の切っ先を構えた。


「青藍、前に出て!」
 砂を巻き上げながら走り出す茜のバイク。
 彼女の指示を受けてバイクの横からオートソルジャー――青藍が飛び出す。
 重装仕様のその姿は規格サイズこそ違えど、戦場において無頼と対を成す存在にも見える。
 青藍は無頼とカニ雑魔の群れとの間に割って入るように陣取って、イニシャライズフィールドを展開。
 戦場を分断するように立ちはだかる。
「ジーナさん、ディアナさん、他のみんなも。1人1体ずつ雑魔から目を離さないようにしてください。私たちも1体を押さえつつ、入口をできるだけ塞ぎます」
「りょーかい。まっ、各個撃破が理想だよな」
 リコは近場の1体に狙いを定めつつ、トラバントの下半身に備えられたフライトフレームで一気に空へと駆けのぼる。
 大型ブースターの噴出は大量の砂を巻き上げたが、加速して砂ぼこりから飛び出すと、下方に見える真っ赤な雑魔の背中にガトリングの火線を集中した。
 ガガガッと鈍い音がして甲羅の刺々しい突起が欠けていく。
 お返しにと口から吐かれた泡鉄砲が放たれたが、シールドと展開したフィールドがそれを弾いた。
「お前たちに構ってる暇はないんだぁぁぁぁ!!」
 トラバンドを頭上に、エルモが盾を構えながら波打ち際のカニへと猛進する。
 反撃の爪を盾で受け止め、弾くと、そのまま逆手にナイフをスロットから抜いて、甲羅へと突き立てた。
「ひゅぅ。良い動きすんじゃん」
 様子を見下ろしながら、リコが感心したように口笛を吹く。
 しかし、その刃はリコのガトリングと同じように甲羅の突起を砕いただけで、その先まで届いたような手ごたえはなかった。
「かったぁ!?」
「まっ、見るからにそうよねぇ」
 カサカサと青藍の脇を抜けようとしたカニへと、葵と桜華が飛び掛かる。
 桜華は鋭い牙で足にかじりつき、力業で押しとどめた。
「あんまりおいしくなさそうねぇ。食いではありそうなのに」
 カジカジと、脚の甲殻をかみ砕けない桜華に葵はため息をひとつ。
 カニが爪で反撃してくると一旦飛びのいて、また別のカニから飛んできた棘もひょいとかわしてみせる。
「良い反応。カニごときに捕まるんじゃないわよ!」
 鼓舞するように声をかけるのと同時に、大砲のような轟音が戦場に響く。
 否、ディアナの放ったスナイパーライフルの銃声だ。
 とは言え、口径的に砲弾と呼んでも差支えのない銃弾が潮風を裂いて、棘弾を放ったカニの足一本を吹き飛ばした。

「――やるな」
 戦況全体を視界に収めながら戦うアニスが、独り言のように呟く。
 他方、無頼側の戦場では飛び込んだインスレーターの一撃を、無頼が斬機刀を肩に担ぐようにして受け止める。
「峯打ちだから、衝撃だけは我慢してください!」
 打撃の直前に声だけでも掛ければ、多少はパイロットも身構えておくことができるだろう。
(雑魔には見向きもしないで、的確にこっちだけを狙ってる。とはいってもターゲッティングはランダム……まるで低知能のCPUみたいだ)
 リクが状況判断に頭を悩ませていると、不意に機体の掛ける圧がふっと軽くなったような気がした。
 否、無頼が身を引くように一歩距離を取って斬艦刀の重圧から逃れたのだ。
 そのまま同機はすり足のような足さばきで機体の向きを変えると、増加させたスラスターを吹かしてロケットのように加速する。
 戦場を隔てる青藍の背中へと迫る肉弾戦車だったが、突然現れた光の壁がその行く手を阻んだ。
「ここから先は……行かせません」
 CoMのブラストハイロゥに行く手を阻まれた無頼は、物理的に衝突した光の壁沿いに距離を詰め斬機刀を翻す。
 咄嗟にフライシールドが回り込んで一撃を受け止めたが、馬力の差か、逆袈裟に閃いた一閃はCoMの脚部装甲をえぐる。
「んぅう……! まだ、大丈夫……です!」
 反撃ではなく、小夜が選んだのはイニシャライズフィールドの展開。
 マテリアル粒子の結界が周囲を包み込み、当然、無頼もまた輝きに包まれる。
「もし歪虚による不調やったら……これで」
 しかし、目立った効果は見られない。
 無頼が再び斬機刀を振り上げると、レラージュのプラズマライフルが牽制するように2機の間に打ち込まれた。
「ナイスアシスト!」
 一瞬、刀を振り下ろしあぐねた隙にインスレーターが距離を詰めた。
 後ろから無頼の斬機刀を握る右腕を抑えつける。
 同時にリクは、絶好の位置から同機背面のエンジンユニットを見た。
 そして、思わず目を疑う。
 これは……なんだ?
 エンジンの片方、ちょうどマテリアルユニットの部分に突き刺さる――これは鉄板?
 鋼色をしたCAMの手のひら大サイズの金属片が、そこに突き刺さっていた。
 いや、それだけならいい。
 金属片は増殖しているかのようにCAM本体に向かって接合部を覆うように包み込んで、なおも成長するように肥大化、増殖を繰り返していた。
「小夜ちゃん、左を押さえられる!?」
「は、はい……!」
 咄嗟に叫んだリクに、小夜が返事をしてCoMで無頼の左腕を押さえる。
 両サイドを挟み込まれるようにして身動きを封じられた無頼。
「テッサ、すぐにエンジン部を破壊するんだ!」
「こいつ……歪虚? 生きてるのか?」
 引き金を絞りながら、アニスはスコープごしに謎の金属片に視線を奪われる。
 だが引き金を引くよりも早く、彼女の叫びが通信機を通じて2人の耳に届いた。
「――散開しろッ!」
「えっ……?」
 戸惑うリク。
 だが、足元にロックが解除されたプラズマグレネードが転がっているのが見えて、さっと表情から血の気が引いた。
 アニスが見たのは、腰に備えられていたグレネードがハンガーのロック解除によって自由落下したその瞬間。
 咄嗟に手を離して離れようとする2機。
 しかし、プラズマの爆風が彼らを包むのはそれよりも早かった。

「今のは!?」
 突然の爆音と光に茜が思わず戦場を振り返る。
「うわー、なかなかにえげつないことしたぜ、あの暴走CAM。自分ごとかー」
 苦い表情で顔をしかめるリコ。
 その指はさも当たり前のように、ガトリングのトリガーを引き続けているが。
 やがて銃弾の雨あられに耐えられなくなったのか、眼下のカニの甲羅にピシリとヒビが入る。
 そこから矢継ぎ早に甲殻内へと叩きこまれていく銃弾。
 実やらミソやらを銃痕からびちゃびちゃと飛び散らせながら、やがて崩れ落ちたカニはマテリアルの粒子となって消えていった。
「よーし、まずは一体!」
 リコはパチンとコックピット内で指を鳴らす。
「ちょっと、ヴィオ! あんたは大丈夫なの!?」
 通信機へ声を荒げる葵に、ヴィオのくぐもった声が帰って来る。
「ああ……軽く頭を打ったが、機体に機能不全になるほどの損壊はない」
 それは幸運か、それとも不幸か。
 爆炎が晴れていくと、そこには焦げ付いた様子ながらも重厚な追加装甲に包まれた無頼が変わらぬ姿で立っていた。
「小夜ちゃん、大丈夫!?」
 安否を確認しながら、リクも自らの機体の状態を急いで確認していく。
 足元を中心に損傷はあるものの、可動に問題はない。
「だ、大丈夫……びっくりしたけど、CoMも無事……です」
 フライシールドが直撃を防いでくれたのだろう。
 しかし、先ほど脚に受けた無頼の一撃から内部フレームにもダメージが入ったか。
 半壊とまでは言わないが、それに近い状態まで既に追い詰められているのが、コンソールで赤く光る脚部の状態を見てよくわかった。


 残る4体のカニはすべて砂浜への上陸を終えて、鋭い爪を振り上げながら6本の脚をせわしなく動かしてハンター達と交戦を続ける。
「うぅ……なんか、背筋がぞわぞわってする動き」
 生々しい雑魔の動きに顔をしかめた茜は、バイクを走らせながら頭上に防御障壁を展開すると、青藍へ向けて放たれた棘弾を防ぐ。
 そのままカニの脚の森へと分け入って、錬成で巨大化させた深紅のガントレットで脚の1本をとらえた。
 ブリンと生々しい手ごたえと共に、足が根本から叩き折れる。
「カニを捌くには……まず、足を落とす!」
「あ~、良いわねぇ。カニなんて久しく食べてないわ」
 もげた脚から綺麗な繊維状の身が震えているのが見えて(とはいえ、すぐにマテリアル粒子になって消えてしまったが)、葵は思わず舌なめずり。
 同時に、ジーナのお腹がぐーっとなる。
「これ終わったら絶対カニ雑炊食べるんだから!」
「良いわね~。ちょっと柑橘を絞るのもツウよ♪」
「戦闘中になんて話してんだよ。あたしもお腹へるだろ!」
 笑顔で逆ギレのリコに、葵とジーナは声をそろえて叫ぶ。
「「日本人は蟹みると美味しそうっていうの(よ)!!」」
 ジーナ日本人じゃないじゃん。
 言うだけ野暮な反論はお腹の虫と共に飲み込む。
 一方で、足を1本失ってぐらついたカニ雑魔の巨体を、インファイトの距離で交戦する青藍ががっちりと抑える。
 返しにカニの爪が青藍の腕部を挟み込むが、それくらいで切断されるほど重装型オートソルジャーはヤワじゃない。
「青藍、そのまま抑えて!」
 大きく開いたカニの腹の下に、バイクごと滑り込む茜。
 真っ白なお腹に向けてガントレットを突き上げ、マテリアルを注ぐ。
「甲羅はお腹から、一息に……突くッ!」
 放たれたファイアスローワーがヤワな部分から体を貫いた。
 磯臭さと共に「ミソ」がぶちまけられ、それから完全に沈黙した。
「あ~、やっぱりお腹側ヤワいの? そこまで似てるなら食べられればいいのに……ジーナ!」
 いろんな意味で残念そうな葵。
 その掛け声でジーナのエルモがカニに真正面から飛び込むと、両の腕をカニのお腹の下へと差し込んだ。
「おぉぉぉりゃぁぁぁあああ!!!」
 よほど女子とは思えない掛け声とともに、カニをちゃぶ台返し。
 お天道様にさらけ出されたお腹に桜華が飛び掛かる。
「は~い、ちょっとビリビリするわよ」
 放たれた葵のライトニングボルトがカニの巨体を貫く。
 追って振り下ろされたエルモのナイフがそれにトドメを刺した。

「俺が前に出るから、小夜ちゃんは中距離をお願い!」
「分かり……ました」
 小夜の機体状況を確認しながら、入れ替わるようにバックへ下がらせるリク。
 鋭い踏み込みと共に閃いた無頼の斬機刀を斬艦刀で受け止めると、力任せに押し返して距離を取る。
「そりゃ、プログラムされてる大尉のモーションも使えるよね……こりゃ、無傷でどうにかするのは無理かな」
 覚悟を決めながら、峯で構えていた刀を刃側で構えなおす。
「お姉はん……どこか、あまり無頼を壊さないで止められそうな場所ってある?」
「えっ、う~ん、そうだなぁ……よぉし、おぉぉぉぉりゃぁぁぁあああ!!」
 再びの掛け声は別のカニをひっくり返したのだろう。
「そう言えば、膝フレームのスペアがこの間届いてたよ! そこなら簡単な交換で――食べられないなら往生せいやぁぁぁあああ!!」
 ガツン、ガキンとナイフが乱れ突く音が通信機から響いて、小夜は思わず苦笑する。
「聞いての通りです……何とか、できそう?」
「何とか……する! 小夜ちゃんはタイミングを見て、右方向を塞ぐようにハイロウを広げて!」
 インスレーターは無頼の放つガトリングをあえて受けながら、斬艦刀を掲げて真っすぐに突貫。
 小夜は右側から接近しつつ、広げたままのブラストハイロウで壁を作るように無頼の右側を塞いだ。
「ヴィオ大尉、行きますッ!」
 振り下ろされた斬艦刀。
 無頼は再び斬機刀で受け止め、いなすように後退る。
「させない……!」
 小夜のアースウォールが無頼の後ろに突き立ち、その後退を邪魔する。
 退路を塞がれせ痺れを切らした無頼は、斬艦刀を大きく弾くようにして左側へと倒れるように飛び出す。
「テッサ!」
 リクが合図するよりも先に、無言の銃弾が無頼の装甲の隙間――左の膝関節を打ち抜く。
「動く向きが分かってんなら――動かない的と同じだ」
 ガクリと膝を負った無頼。
 すぐさまインスレーターがその肩を押して機体を抑え込むと、背中のエンジンユニットがあらわになる。
「切ります……!」
 CoMの放つウィンドスラッシュがエンジンユニットの機体との接合部を切り刻む。
 金属片に浸食されたユニットが砂浜に落ちると、同時にエネルギー不足で力の弱まった無頼はゆっくりと沈黙していった。
 

 雑魔も片付くと、外部からの解除コードを使って、沈黙した無頼からヴィオはすぐに助け出された。
 頭を打った時の額の傷以外は目立った外傷はなく、まさしく鍛え方の違いを見せつけられた。
「無事でホント良かったぁ」
 砂浜にどっかりと腰を下ろしたジーナは大きなため息をついた。
「お姉はんもお疲れ様……」
「小夜ちゃんこそ、汗びっしょりだよ。大丈夫?」
 ジーナに言われて、小夜は慌ててハンカチで顔の汗を拭う。
 それからニコリと笑顔を返して、ふと、沈黙した無頼を見上げた。
「それにしても……結局なんだったのかな」
「見たところ歪虚――だと思うけれど、どうにも釈然としないわね」
 エンジン部を浸食していた金属片。
 切り離されたそれは、やがてエンジン部ごとマテリアル粒子になって消えてしまった。
 それは雑魔がそうであったように、まさしく歪虚が消滅するときの反応。
「タイミングがタイミングだけに人為的なものも感じたものだけど……少なくとも、出撃時はこんなのついてなかったのよね?」
 葵の質問に、ヴィオは自信を持って答える。
「当然だ。CAMは軍の財産だからな……そういう“異物”の確認にはとりわけ気を張っている」
「だとすると『ここ』で狙われたと考えるのが妥当かしら」
 見渡すのは冬の砂浜。
 その静けさの中に、今、他の脅威は見受けられない。
「……どうかしたか?」
 輪から外れて、波打ち際を眺めていたディアナにアニスが声をかけた。
 ディアナが振り向いた時、その瞳にどこか冷たい感情を感じたような気がしたが、彼女はすぐに瞼を閉じてしまう。
「……なんでもないわ。少し、潮風が傷にしみるのよ」
 口にして、ザクリザクリと杖を突きながら自らの機体に戻っていくディアナ。
 アニスは何も言わずにそれを見送るが、杖を掴む彼女の手が小さく震えているのをその目で見た。

「――みんな、これ見てくれない!?」
 不意に叫び声が聞こえて、みなの視線が一斉にそちらを向く。
 見ると戦場から遠く離れた砂浜の向こうでリクが地面を指差しながら、大きく手を振っていた。
「なんですかね……これ?」
 近づいて覗き込んだ茜は、思わず首を傾げる。
 そこにあったのは楕円形の平べったい金属の板。
 まるでどこかから飛んで来たかのように、砂の中に半分ほど突き刺さっていた。
「これ、無頼についてたやつに似てない? 見つけたのはこれだけで、なんでこんなとこにもあるのか分からないけど――あっ」
 言うや否や金属板がマテリアル粒子になって消え始めて、リクは思わず声をあげる。
 思わず砂の中から取り上げようとするも、「それ」は特に何か反撃をするでもなく、まるで命がないかのように無言でサラサラと潮風に消えていった。
「うーん、わからんっ」
 空に昇っていく粒子を見送って、リコがお手上げ~と手を広げる。
「とりあえず、誰も怪我無くてよかったな。ジーナも思ったより良い動きしてんじゃん」
「えっ、あっ、ありがとう! 誰かにそう言われるのって初めてかも……」
 ジーナはどこか照れ臭そうに頭を掻く。
「でも武装がなー、ぱっとしねーよなー。プラズマボム辺りがあると、目くらましから牽制までできて便利だな!」
「プラズマボムかぁ。エルモにはマテリアル兵器を持たせるって話は中佐に聞いてるんだけど……今からでも言ってみようかな?」
 プラズマボム――その言葉にリクと小夜の顔からさっと血の気が引く。
 正直、生身だったら死んでたかも……そんなことを思うとCAMのありがたさを改めて感じるもの。
 顔色の悪い2人に、ジーナはキョトンとして首をかしげた。
「青藍もお疲れさま。立派な初陣だったわよ。後で砂を落とさないとね」
 茜も壁役として頑張ったパートナーを見上げ、その足をポンポンと叩く。
 不慣れなユニット戦闘だが、思ったよりも頑張れたような気がする。
「さーて。それじゃ早いとこ報告してカニ食べ行きましょう。カニ」
 葵の言葉に、追い打つようにぐーとお腹が鳴る。
 それが誰の音だったのかは分からないが、少なくとも、みんな同じ気持ちだったのは確かだろう。
 陸軍のキャリアートラックが到着すると、一行は砂浜を後にした。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜ka4080

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ファイナルフォーム
    インスレーター・FF(ka0038unit001
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    CoM(ka3062unit005
    ユニット|CAM
  • 面倒見のいいお兄さん
    沢城 葵(ka3114
    人間(蒼)|28才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    オウカ
    桜華(ka3114unit002
    ユニット|幻獣
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    セイラン
    青藍(ka4080unit002
    ユニット|自動兵器
  • 《キルアイス》
    リコ・ブジャルド(ka6450
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    トラバント・ツヴァイ
    トラバントII(ka6450unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/01/03 22:40:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/31 16:20:25