先の無い道

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/11 19:00
完成日
2019/01/18 01:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●噂
 自由都市同盟にあるちょっとした山についての噂である。
 そこはどちらかと言うと、山菜や食べられる草がたくさん自生しているため、採集目的で入る人が多い山だった。この日も、ある村の若い男性が、野草を取りに入っていた。
「そこの方……」
 その時だった。若い女の声がした。
「俺か?」
「ええ、そこの方。こちらにもっとたくさんありますよ」
「それはありがたい」
 同じように野草を探しにきたのだろう。教えてくれるとは親切な。木々の向こうにいるらしく、女の姿は見えない。青年は草木をかき分けてそちらに進んで行った。
「こちらです」
 声のする方に歩いて行く。やがて、目の前が開けた。
「うわっ!?」
 そこは急な傾斜だった。声を追って、いつの間にかこんな所まで来てしまったらしい。危なかった。かき分けていた枝につかまっていなければ、落下していたかもしれない。
 ほっと一息吐いたものの、彼は自分を呼んだ女のことが気になった。彼女はまさかここから落ちてしまったのか? そう思って慌てて下を覗き込んだその時だった。

「もう少しだったのに」

 低い女の声が彼の耳に囁いたのは。

●おばけなんてないさ
「って言う話があったんだって!」
 と、エルフの青年はぶるぶると震えながら締めくくった。話を聞いていたのは、ちょっとしたことで知り合ったドワーフ二人。その内、斧を持った方はやれやれと首を横に振る。
「くっだらねえ。女の声なんかに釣られてほいほい行っちまうのが悪いんだろ」
「いや、この話が怖いのは、わざわざ自分には悪意があったと知らせてくるところだ」
 槍を持ったドワーフが言う。
「それで、ハンターオフィスに通報は行ったのか?」
「わかんない。俺も伝聞だから。もう終わった話かもしれないし」
「そんなおかしなことが起きたら、オフィスに通報が行ってるに決まってるだろ。俺は明日あそこで材木の下見に行くんだよ」
「えっ、危なくない?」
 斧のドワーフが言うのに、エルフの青年は眉を寄せる。
「俺も付いていこうか?」
「なんなら俺も付き合うぜ」
 槍のドワーフも申し出るが、斧のドワーフは顔の前で手を振って、取り合わない。
「だーから! そんな話があるならオフィスに連絡行ってるに決まってるだろって! もう何もいねぇよ」
「ええー?」
「だからこの話はこれでしまいだ! 明日確かめてきてやるから!」
 俺が怖くなるからやめろ、とは彼は言わなかった。
 言えなかったのである。

●頭上より
「くっそ、あの軟弱野郎が妙なこと言うから落ち着かないじゃねぇか」
 翌日、斧のドワーフは件の山に入って、武器に使う材木の下見をしていた。後で仲間と来て、お目当ての木を切り倒すのだ。ぶっつけ本番で来ても仕方ないのでこうして先に来て良い木を探すのである。
「もし、そこの方……」
 突然、女の声に呼び止められて、斧のドワーフは鳥肌が立つのを感じた。
「なななななな、何だよ!」
「こちらに良い木がありますよ……」
「ほ、本当か?」
「ええ、本当ですよ。さあこちらへいらっしゃい……」
 本当なら、ここで逃げ帰ってオフィスに通報するべきなのだ。しかし、彼は恐らく歪虚であろうそれに背中を向けるのが嫌だった。そんなことはプライドが許さない。
「おう、案内してもらおうじゃねぇか」
 と、乗ってしまったのである。
 声に案内されるがままに、彼は山の中に入って行った。急な斜面に連れて行かれることはわかっていたので、慎重に進む。
「そこに大きな石がありますから、飛び越えてくださいまし」
 と、言われて彼はピンときた。ははあ、これで、飛び越えた先が斜面、と言うわけだ。
「はっ、お前、自分のことが知られてないとでも思ってんのか? 有名だぜ。残念だがここまでだ。俺はこのままハンターオフィスに通報する。どうだ、悔しいだろう」
 恐らく女の姿をしているであろう歪虚にしたり顔を見せてやろうと、彼は上を見た。そして仰天した。
 ミイラのようにひからびた、男とも女ともつかない人間のようなものが、奇妙に捻れた姿勢で枝にぶら下がっているからである。
「おのれ……!」
 静かに憤慨したような、低い声。
「ひええええええ!!!!!」
 斧のドワーフは一目散に来た道を引き返した。そしてハンターオフィスに通報した。

●ハンターオフィスにて
「やれやれ……おのれ、なんてどの口で言うんだろうね」
 ハンターオフィス中年職員はこめかみに手を当てた。斧のドワーフは丸くなってソファに座っている。その背中を撫でて宥めているのがエルフの青年で、口元を抑えてそっぽを向いているのが槍のドワーフだ。どうやら、槍の方は笑いをこらえているらしい。これでも当人同士は友人だと言うのだから関係性というのはわからないものである。
「樹上に潜んでいるようだが、山だからね。木々の間を飛んで対決するわけには行かないだろう。まずは下ろさないといけない。木を切り倒すか、遠距離攻撃で撃ち落とすか、引きつけるか、まあそれは君たちに任せる。くれぐれも気をつけてくれ」

リプレイ本文

●どこかで聞く話
「聞いたようなお話ですけれど、怖かったですね、お気の毒に」
 玲瓏(ka7114)は斧のドワーフを慰めながら聴取に当たっていた。彼はぐったりしてぽつぽつと話をしている。
「危険と知って、なんで近付くかなー」
 エンバディ(ka7328)は、少し離れたところで依頼人のドワーフをジト目で見ている。
「だから俺たち着いて行くって言ったのに」
 弓のエルフも頬を膨らませている。斧のドワーフは捨てられた犬の様な顔で彼を見た。
「ただの噂だからもういねぇと思ったんだよぉ……」
「だからって自分で試さなくても良いじゃないか……」
 元神官は眉間に皺を寄せる。エアルドフリス(ka1856)が話を戻した。
「なんとも迷惑な話だねぇ。人の恐怖心に訴えるのに長けているようだが、何処まで分かっているのやら。ま、正体が判りゃあ所詮は雑魔だ」
「涼を得るための怪談話は夏の風物詩ですが、実際の怪談は季節問わずでしょう。興醒めではありますが」
 ハンス・ラインフェルト(ka6750)が腕を組んで頷くと、エアルドフリスは首を傾げた。
「怪談という程でもないな、ミイラもどきとでも呼ぶべきかね?」
「『干し肉』でいいんじゃない? あまりカッコいい名前だと、なんか悔しいし」
 すっぱりと言い放つエンバディ。玲瓏と槍のドワーフが噴き出した。
「そりゃあ良い。聞いたか? お前が出くわしたのは干し肉だ。もう怯えるのはやめろ」
「何言ってんだよ! 干し肉食えなくなるじゃねぇか!」
「あんた、繊細すぎない?」
 青年エルフが呆れた様に言う。玲瓏とエアルドフリスはそれを聞きながら、地図に崖の方角や雑魔を見たところを書き込んでもらっている。
「ふむ。崖はこちら側で間違いないね?」
「ああ。ここの石を飛び越えろって言われたからな。多分着地してバランスを崩したら転げ落ちるような場所になっている筈だ」
 斧のドワーフは、落ち着きを取り戻したらしくてきぱきと答えている。ただ、疲労の色は濃い。
「もう一つ。その声は、従わないといけないような気がするものでしたか? それとも無視しようと思えばできるものでしたか?」
「無視はできるぜ。俺は石飛び越えろって言われて飛び越えなかったけど特に強制力みたいなもんは感じなかった」
「俺からももう一つ。どれくらいの高さにいたかね?」
「あー、そうだな四メートルくらいかな。結構高かったな」
「魔法なら充分射程内だよぉ」
 エンバディが頷く。ハンスも剣の柄を持ち直して、続ける。
「次元斬でも充分届きますね。行きましょうか」

●怪異を求めて
 山に到着すると、エアルドフリスは連れているイヌワシのアナムを山頂に向けて飛ばした。ファミリアズアイで視覚を共有し、遠隔の斥候とする。
「エアルドフリスくん大丈夫かい?」
 ファミリアズアイを使用している時には能動的な行動が行えない。エンバディが手を取る。エアルドフリスはゆるく微笑んだ。
「ああ、大丈夫だよ。すまないね、少々遅くなる」
「いえ、構いませんよ。すり足で歩いても良いくらいだと思っています」
 ハンスが言った。彼はゆっくり進んで別行動になっても構わないとすら思っていたので、特に気にしていない。
「ひとまず、山頂まで行きましょうか」
 玲瓏が地図を広げて先頭に立った。その後ろから、エンバディ、エアルドフリス、ハンスと続く。エアルドフリスが覚醒している都合、晴れているのに雨の音が続いていた。彼の服は、実際の天候に関わらず湿り気を帯びる。彼こそが奇譚の登場人物のようだ。
「声をかけて誘うような感じは、河童やのっぺらぼう……妖怪のような感じもいたしますね」
 玲瓏は故郷の言い伝えを思い起こしながら呟いた。
「でも雑魔なんですよね、落ちたところで喰らおうということなのでしょうか」
「どうだろうねぇ……目撃証言を聞くと、栄養が足りてるようには思えないけど」
 斧のドワーフが出くわしたのは八合目くらいらしいが、エルフの青年によると、噂の場所はまちまちらしい。五合目まで上がったところで、
「あ」
 エアルドフリスが小さく呟いた。エンバディが振り返る。
「何か見つかったのかい?」
「ああ。これは……もう少し上かな。木の上にね。なるほど、これは気味が悪い」
 どうやら、アナムの視界に雑魔を見付けたらしい。彼は相棒のイヌワシを呼び戻した。ファミリアズアイを解除して、手にとまらせる。エンバディが手を放すと、彼は微笑んで謝意を示した。
「もう少し進むとしようか」
 それから一行は八合目までゆっくりと進むが、特に何も起こらない。
「何も出ないねぇ」
 エンバディが怪訝そうに呟く。玲瓏も戸惑って辺りをきょろきょろ見回した。
「……ハンス」
 エアルドフリスがハンスに呼びかける。
「はい。何を探しましょうか」
「山菜で良いんじゃないか」
「何の話?」
 二人のやりとりに、エンバディが眉間の皺を深くして問いかける。
「目当てのものがある、との甘言で釣っているなら、何か植物を探していた方が良いのかもしれません」
 ハンスは小声でそう言うと、しゃがみ込んで野草を物色し始めた。
「山菜の土産でも持ち帰りたかったのですが、見つかりませんね」
「こう雑草が多いと、なかなか見つからないかもしれませんね」
 玲瓏が話を合わせた。エンバディは息を潜めて頭上を警戒している。
 その時だった。
「もし……」
「来た……!」
 エンバディが小さく呟く。
「お探しの物でしたら、こちらに来ればもっとあります……まずはもっと上までおいで下さいな」
「ご親切にありがとうございます」
 玲瓏が朗らかに返した。彼女は、地図を見る。後ろから覗き込みながらコンパスを見せるエンバディに、無言のまま自分たちが今いる場所と、崖のあたりを指した。元神官はこくこくと頷いて首を引っ込める。
「では行きましょうか」
 ハンスが言った。玲瓏は地図を見ながら慎重に進む。ひとまず山頂までで危ない道はなさそうだが、用心するに越したことはない。
 一行はやがて山頂に到着した。
「もう少し先、その藪の向こうにたくさんの山菜がございます」
「そうですか。ところで熱冷ましの薬草なんかもほしいなと思うんですが、それらはどちらに」
 玲瓏が愛想良く尋ねると、声は平坦に、
「それもその向こうに」
「武器にできそうな木材は」
「それもその向こうに」
「鎮咳の薬草」
「それもその向こうにあります」
「雑ぅ!」
 エンバディが思わず呻く。声に戸惑った様子はない。ハンターたちは樹上を観察した。
「さあ……その藪の向こうへおいでなさい」
「……そこです!」
 玲瓏が風雷陣を投げた。落ちた雷は、くっきりとその雑魔の姿を浮かび上がらせ……。
「話には聞いていたけど、キモイ……雑巾みたい」
 エンバディが呟いた。ミイラのような、男とも女ともつかない奇妙に捻れた人型の物が枝にぶら下がっている。
「おのれ……!」
 その左右から、もう二体が現れた。

●干し肉三兄弟現る
「干し肉兄弟だったかぁ……」
 エンバディが額に手を当てた。オフィスでは一体分の情報しかなかった。どうやら複数犯だったらしい。
「何兄弟だろうと斬るだけですがね」
 ハンスが剣を抜く。木漏れ日に刀身がきらりと光った。
「悪意の捻じ曲がった雑魔が三体……ここは余程負のマテリアルが溜まりやすい場所なんでしょうかね」
「雑魔がいる以上、多少は溜まってるかも」
 エンバディは集中してマテリアルの流れを把握した。杖を握りしめて、掲げる。正四面体が赤く光ると、樹上で吹雪が吹き荒れた。最初に玲瓏の風雷陣を当てられたものは吹雪を回避したが、残りの二体に雪が叩きつけられる。
「空、風、樹、地、結ぶは水。天地均衡の下、巡れ」
 エンバディと同じように、天地均衡によって集中していたエアルドフリスは、黒縄縛を発動した。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん」
 彼は強く雑魔達を見据えた。
「――縛れ!」
その一喝に、紫色の重力波が広がる。圧力がかかって、枝がみしみしと軋んだ。だが折れるにはいたらず、三体の内二体が重力に負けて移動を邪魔されている。
「おのれ……おのれ……」
「お前も落ちろよォォォォォ!!!!」
「ギエエエエエエ!!!!!」
 雑魔達が口々に喚き始めた。エンバディが肩を竦める。
「八つ当たりは見苦しいねぇ」
「全くです」
 刀を抜いたハンスは前に出た。枝ごと斬りたい都合上、真下には立てないが、高いところの敵を斬るなら離れすぎていると当てられない。雑魔が射程に入ったところで、彼は次元斬りを見舞った。範囲内の二体の内、片方がもろに食らって落下する。重い物が落ちた音に、アナムが警戒するように鋭く鳴いた。
「落ちた! 気をつけろ!」
 ハンターたちは、見通しの悪い足下に敵が落ちたことに一瞬だけ身構えたが、すぐに形を失ったのを見て再び頭上の敵に注意を移す。
「おのれぇ!」
 一体が、手元の枝を折って玲瓏に投げつけた。しかし、身構えるまでもなく、それは明後日の方向に飛んでいく。
「雑ぅ!」
 エンバディが再び呻いた。
「た、確かに雑ですね……」
「ギョエエエエエ!!!!!」
 もう一体が狙ったのはハンスだった。めりめりべきっ、と無理矢理むしり取る様に折れる音が、向こうの荒れ狂い度合いを表しているようだ。ぶん投げられた枝の軌道を、ハンスは予測して軽く回避した。
「雑と言いますかなんと言いますか」
「本当に八つ当たりじゃないか。とは言え、ああいういい加減なのが変なところに当たったりするからねぇ。さっさと倒してしまおう」
 エアルドフリスがふっと笑う。ハンスが再び次元斬を放った。バギッ! と、重くて短い音がする。枝が折れた音だ。雑魔が無理矢理むしり取ったのとは違って、研ぎ澄まされた一撃は瞬時に枝ごと雑魔を切り落としている。周辺の余波を受けた枝も同じように折れた。
「雑魔だろうが人だろうが。斬れる相手を逃すつもりはありませんよ、私は」
 振り抜いた剣を構え直して、ハンスが涼しげに言い放つ。先ほどと同じように落下した雑魔は、符を構えた玲瓏の前で消えた。

●アグレッシブシャウト
 さて残りは一体である。アグレッシブな叫び声を上げる個体で、樹上で悔しそうに腕を振り回している。
「キエエエエエ!!! グギョエエエエエエ!!!!!」
「個体差ありすぎじゃないかなぁ……」
「主犯は一体だけだったんでしょうか。薬草はどちらに?」
「その藪の向こうです」
 打って変わって冷静な声。
「漫才じゃないかぁ」
「怪談と言うほどでもない、とは思っていたがまさか漫談だったとはねぇ」
 呆れ返るエンバディ。エアルドフリスがその横で氷蛇咬を撃ち放った。凍り付き、一瞬静かになる。
「ギ……エエエエエエエ……」
「効いてるね。畳み掛けるなら今だ」
「ありがとうございます」
「了解だよぉ」
 玲瓏とエンバディが、凍り付いて身動きが上手く取れないでいる雑魔に一気に畳み掛けた。玲瓏は風雷陣を鋭く放ち落雷を、エンバディはファイアアローを放つ。
「ギョアアアアアアアアアア……」
 雑魔だけに攻撃が当たったため、今度は枝が折れなかった。雑魔はそのまま、樹上で塵となってさらさらと崩れて消えた。
「これで全部かなぁ」
「山菜はどちらにありますか?」
 玲瓏が声を掛ける。返事は来ない。

 ただ、鳥の声と、覚醒したエアルドフリスが起こす雨音だけが山に響いていた。

●飲み比べ
 玲瓏は、山を下りながらピュリフィケーションで浄化を試みていた。ハンスが言うように、ここには負のマテリアルが溜まっているのかもしれない。
「お守り代わりに、と思いまして」
「そうだね。目に見えた汚染はなさそうだが、雑魔がいた以上やっておいて損はないな」
 覚醒を解いて、すっかり乾いた服装のエアルドフリスが微笑む。イヌワシのアナムは主の肩に止まって大人しくしていた。
「それにしても、噂話に反してなかなかやかましい雑魔だったねぇ」
 エンバディが疲れ切ったように首を振る。ツッコミ疲れだろうか。
「興醒めどころの話ではありませんでしたね」
 ハンスが薄く微笑んだ。

 オフィスに戻ると、件の依頼人トリオはまだ残っていた。戻って来たハンターたちの報告を聞くと、斧のドワーフはなんとも言えない顔をする。コーヒーだと思って飲んだら、泥水だった時のような顔だ。槍のドワーフはソファに突っ伏して肩を震わせているし、エルフの青年もくすくすと笑っている。
「これからは危険だとかそう言う噂があったら近づかない方が良いよぉ」
「お、おう、そうだな……」
 エンバディが疲れた顔をしているのを見て、斧のドワーフは反論せずに頷いた。
「お前も挑発を続けてやれば良かったんだ。そうしたら面白いもんが見れた」
 槍のドワーフが笑いながら振り返る。
「う、うるせぇな! 一人であんなもん見て冷静でいられるか!」
「そうですね。お一人ではご不安だったことでしょう。ところで、せっかく邪魔者が消えたのですから、景気づけに一杯いかがです?」
 ハンスが斧のドワーフの肩をぽんと叩いた。ドワーフは長身の舞刀士を見上げて目を瞬かせる。
「酒?」
「つまらない事など酒で流してしまいませんか? そうですねえ……私もそこそこ嗜む方なので、飲み比べはどうでしょう」
 彼がそう持ちかけると、斧のドワーフの顔にみるみる生気が戻った。顔が輝くとはこのことか。
「良いぜ! 最近浴びるほど飲むとかなかなかなかったからな」
「負けた方が相手の酒代も払うということで」
「乗った」
「え、待って。俺も行く」
「俺も同行しよう」
 エルフの青年と槍のドワーフが口々に申し出た。
「ンだよ……飲みに行くくらい一人で行かせろ」
「いやぁ……同行してもらった方が良いと思うよぉ」
 エンバディも口添えをする。
「ああ、そうだね。俺もそう思うよ。財布は多い方が良い、だろう?」
 エアルドフリスが槍のドワーフとエルフに言うと、二人は深く頷いた。
「飲み比べは医師としておすすめしませんが、たくさん飲まれるならお友達について来てもらった方が良いと思います」
 玲瓏がくすりと笑う。ダダをこねるようにぶつくさ言っているドワーフは、確かに恐怖を忘れたようであった。
「あ、じゃあさ、せっかくだから皆で飲みに行かない? ご飯食べてるだけでも全然良いし!」
 エルフの青年が手をぱん、と叩いた。
「良いだろう。それならこいつが財布出せなくなるほど深酒する前に止めることもできるな」
「そうだよ。だってお酒って急にがばがば飲んだら危ないんでしょ?」
「何で俺が負けること前提なんだよー!?」
「だって君、ペース配分下手そうじゃないかぁ……」
 エンバディの舌鋒が冴える。
「ぐぬぬ……」
「自覚があるなら改めろ。飯には早いが、たまには悪くねぇ。行くか」
 槍のドワーフが立ち上がった。時間はまだ早いが日は暮れている。空はやっぱり晴れていて、星たちが賑やかに輝いていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 風雅なる謡楽士
    玲瓏(ka7114
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 舌鋒のドラグーン
    エンバディ(ka7328
    ドラグーン|31才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 怪談雑魔討伐【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/01/10 22:02:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/08 14:38:12