【空の研究】牡丹雪が降る前に

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/04 15:00
完成日
2019/01/14 19:28

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 アメリア・マティーナ(kz0179)は今にも雪の降りだしそうな曇天の下にいた。ぴりぴりと寒気が体を刺す。
「……何かをはっきりさせるには、あまり似合いでない天気かもしれませんねーえ……」
 黒いローブのフードをすっぽりとかぶったまま、そう呟いてアメリアはひとり歩いてゆく。
 似合いではない、などとは実に勝手な言い分だ。アメリアは呟いたばかりの自分の言葉に苦笑する。天気とは、空が作り出すもので、空にとって人間の都合など知ったことではない。何にもとらわれずにすべてを超越して存在している……、それが、空だ。
 だから、その空を人間の都合のよいように利用しようとする『空の研究』は、本当は触れてはならない領分に手を出した、禁忌の研究であるのかもしれない。
「そうであるとわかっていても、私はこれしか、できないのですけれどねーえ」
 自嘲気味にアメリアはため息をついて、小さな家へ近づいていった。
 ここには、ひとりの女性を住まわせて……いや、率直に言えば「軟禁して」いる。その女性は、アメリアの従姉妹……、シェーラ・チェーロだ。
 シェーラは、ことあるごとにアメリアと空の研究所の活動を邪魔してきた張本人である。アメリアの策によって捕らえることができたものの、何を尋ねても黙ったままで、行動の理由がわからぬままだったのである。また邪魔をされてはかなわないし、かといって厳罰に処すこともできずにただとどめておくしかなかった。
 だが。
「私は、研究者ですからねーえ。わからないことを、いつまでもそのままにしておくわけにはいかないのですよーお」
 アメリアは、小屋の扉を開いた。



 何の感情も見せぬ瞳で、シェーラは姿勢よく椅子に座り、アメリアを見据えた。アメリアもそれに対して少しの動揺も見せず、シェーラの真正面に椅子を置き、向き合って座った。
「今日はひとつ、仮説を聞いていただきましょうかねーえ」
 穏やかな口調で、アメリアは語り始めた。シェーラは何の反応も返さない。だが、アメリアはそれを意に介さなかった。
「シェーラ、あなたがなぜ私や空の研究所の邪魔をしてきたのか、私にはわからなかったのですよーお。わかりませんでしたから、知りたいと思いましてねーえ。それを知るために、あなたのことについて、調べさせていただきましたよーお。ずいぶんと、手間はかかりましたけれどねーえ」
 アメリアは、ハンターの力を借りてシェーラの実家であるチェーロ家について調べたあとも、自分の研究の傍ら、独自に調査を続けていたのである。チェーロ家はアメリアの母の実家でもある。つまり。
「あなたについて調べることは、意図しないところであったとはいえ私自身のルーツを知ることでもありました」
 そう、アメリアは、自分自身についてもずいぶんと調べることになったのだった。これまで、アメリアが特に知りたいとも思わなかったことだった。アメリアにとって「知る価値、解明する価値のあること」はほとんど「空に関すること」だけだ。
「私の母は、何らかの事情でチェーロ家と疎遠になった……、それは私も知っていましたよーお。その事情が何だったのかは、調査しても出てきませんでしたがねーえ。しかしひとつわかったことがあります。母は、チェーロ家でも将来を嘱望された優秀な学者候補だったようですねーえ。そう、兄に妬まれるほどに。母の兄……私にとっては伯父、あなたにとっては父となる人ですねーえ……」
 アメリアは、その伯父についてほとんど何も知らない。
「シェーラ。あなたは、父親に命じられたのでは? 私を、殺せと」
 率直に、アメリアが告げた。これは、ハンターの手を借りてチェーロ家を調査した際に得られた情報だった。これを聞いてもシェーラは、是非を答えず、微動だにすらしなかった。アメリアは構わず続けた。
「私の母は結局、学者として大成することはありませんでした。けれど、娘である私は、研究者となった……、空の研究所を設立し、王国の承認を得た……、シェーラ、あなたの父は、それが気に入らなかったのではありませんかねーえ?」
 アメリアが、そこで言葉を切ると。しばらくの沈黙ののち、シェーラは、はーっ、と大きくため息をついた。そして。
「……半分、正解ね」
「半分、ですか」
「今、あなたが話したことは、すべてそのとおりだわ。でも、もう少し、足らないの。私が父に命じられていたのは確かだわ。だけれど、父の思惑とは別に、私の考えもあったのよ。……それが、あなたにわかって?」
「……いいえ、残念ながら」
「でしょうね」
 シェーラはまたため息をついた。
「答えを、教えてあげてもいいわ。ただし、もう少し仮説を持っていらっしゃい。そしたら私は本当のことを話す。そして、もうあなたの邪魔をしないと約束もしてあげましょう」
「ふうむ……。誰かの知恵を借りても?」
「いいでしょう。どうせ、もう、あなたにはこれが限界でしょうし」
 シェーラが、あきらめたように肩を落とすのを、アメリアは苦笑して眺めた。
「すみませんねーえ。では、もう少し、待っていていただきましょう」



 アメリアがシェーラの部屋から出てくると、そこには空の研究所の研究員であるキランと、職員であるスバルが待っていた。ふたりとも、中の様子をうかがっていたらしい。キランは憤慨している。
「被害者はこっちだってのに、なんであんな偉そうなこと言われなくちゃならないんだよ!?」
「まあまあ」
 アメリアが苦笑してキランをなだめた。
「おそらく、シェーラには折れるためのきっかけが必要なのですよーお。その証拠に、彼女は『正解を示せ』ではなく『仮説を持ってこい』と言いましたからねーえ」
「では、正解を出さずとも、理由を話してくれる、と?」
 スバルが心配そうに尋ねる。ええ、とアメリアは頷いた。
「私は、他人の気持ちを推し量るのが苦手ですからねーえ。被害者は確かにこちらではありますが、きっと彼女も傷ついているのでしょう、なぜだか、わかりませんが。……ですので、ここはひとつ、皆さんの知恵を借りることにしましょうかねーえ」
「ったく、面倒くせえ女だなあ」
 キランがぼやき、スバルが笑った。
「そうですねーえ。人とは本来、面倒くさいものなのでしょうからねーえ。……ああ、上手くいけば、皆でゆっくり、雪見でもできるかもしれませんねーえ」
 アメリアは、窓の外、相変わらずの曇天を眺めて、呟いた。

リプレイ本文

「こんな妙な依頼を受けてくださったこと、感謝いたしますよーお」
 アメリア・マティーナ(kz0179)はやってきたハンターたちに丁寧にお辞儀をした。
「そんなこと言いっこなしだよ、アメリアさん。新しい年もよろしくね」
 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が差し入れに、とパイを手渡しながら微笑む。その後ろからボルディア・コンフラムス(ka0796)も頷いた。
「そうだぜ。シェーラについてはいろいろ調査もしたことだし、協力させてもらわねえとな」
「その通りだ」
 レイア・アローネ(ka4082)も顔を出す。
「なんとなく……、この件を放っておけない気分になって関わってしまった。私がやれることなど限りがあるだろうが……それでも最後まで見届けたい……」
 三人ともシェーラの故郷へと調査に乗り出した際、協力してくれただけに、ことの真相を知りたいという思いでいたのである。その気持ちは、長くアメリアと空の研究所に関わってきた雨を告げる鳥(ka6258)も同じだった。
「推測しよう。シェーラ・チェーロの思惑についてを。真に望むものを」



 ハンター四名は、空の研究所で互いの意見を交換したあと、シェーラがいるという小屋へ向かった。意見交換の場にアメリアは加わらず、シェーラの前でそれぞれの考えを発表するときに聴く、と言う。
「私だけが先に聞いて、したり顔をしているわけにはいきませんからねーえ」
「そういうところ、結構律儀だよねアメリアさん」
 マチルダがくすくすと笑った。アメリアはそれにつられて少し微笑んだ。どこか緊張した空気が流れる中、マチルダはいつも通りの自然体で、アメリアはそれだけですでに助けられた気持ちだった。
「……随分と人を集めて、大仰だこと」
 姿を現したシェーラは、ハンターたちを見て顔をしかめた。しかしそれは、不快というよりは少し寂しげに見えた。
「申し訳ありませんねーえ、思慮の足りない私ひとりだけではどうにも……」
「そういう自虐発言は結構です」
 苦笑したアメリアに、シェーラはぴしゃりと言い返した。レイアが思わず目を見張る。思っていたよりもシェーラはわかりやすく「構って欲しい」という態度でいるように見えたからだ。
「何故そこまでしてアメリアに「考えて欲しい」のか。もしくは気付いて欲しいのか……」
「なんですって?」
 ほつりと呟いてしまったレイアの言葉に、シェーラがキッと目を向ける。いや、とレイアが口篭もると、シェーラはしまった、というように息を飲んで、バツが悪そうに俯いた。
「仮説を、と言ったのはこちらですものね。自分にとって都合の悪い意見を封じ込めようとしてはいけませんでしたわ。お許しくださいませ」
「い、いや……、こちらこそ不躾で申し訳なかった」
「ちょうどいいから、レイアの考えから話すことにしようじゃねーか」
 ボルディアが提案し、皆椅子に腰を落ち着けて話を始めた。アメリアだけが立ったまま、お茶の支度をし始める。
「ああ、耳は傾けていますからねーえ、構わず進めてくださいねーえ」
「では……。私はこの件に、理屈ではない根深いものを感じるのだ。幼いころ懐いていたという話や、捕まってからも黙秘を続けている件など……。初めからシェーラにはアメリアを害する気持ちはない……というのは流石に好意的過ぎかもしれないが」
 レイアが語り出した話を、シェーラは静かに聞いていた。
「アメリアが先に語ったという仮説について、半分正解とはいうが、父親の命はきっかけに過ぎなかったのではないか? 直接の動機は彼女自身のどうしようもないものではないかと……いかんな、憶測なのは仕方ないとしても感情論ばかりだ」
「うん、でも、私もそう思ったよ」
 レイアがいかんな、と顔をしかめたところで、マチルダが口を挟んだ。
「あ、ごめんね、口を出して」
「いや、続けてくれ」
 レイアはこだわりなく先を促す。マチルダが皆の説に補足していく形で話すつもりだ、ということは事前に伝えられていたのだ。
「アメリアさんの仮説も正しいということは、お父さんに言われなかったら邪魔しなかったってことかな? それとも、個人的にアメリアさんに近づこうと思ってた?」
 マチルダの質問に、シェーラは表情を変えぬまま、少しだけ首を傾げ、平坦に言った。
「それは自分でもわからない。もし父に命じられなかったら、というのは無意味な想像だわ。実際、命令は下されたんだもの」
「確かに、その通りね。だけどね、私は「シェーラさんがアメリアさんに、ひと片ならぬ想いを抱いていたのは間違いない」って思ってるの。そうでなかったら疎遠になった親戚に、態々こんな面倒なことしないんじゃないかな、って。お父さんに言われて取った手段も、犯人がシェーラさんと気付くようになっていたし、ご実家の資料を渡すというのも不審な行為で、シェーラさん自身はお父さんの考えとは同調していないように感じる」
「マチルダ・スカルラッティの言う通りだ」
 今度は、鳥が口を開いた。
「私はずっと疑問であった。確かに妨害はあったが、命を奪うものでもなかった。周到に背後関係を見せなかったのに、なぜ突然、チェーロ家の関係を示したのか」
 鳥の言葉に、マチルダが頷いた。不思議に思っていたポイントは、皆同じであったようだ。鳥は頷き返して続ける。
「その真意は、アメリア・マティーナ自身が語ったように自らのルーツを探させる。或いは思い出させることであったのではないか。私は仮説を組み立てる。アメリア・マティーナと親交があったということは、当然、その母親とも親交があったはずだ。即ち。「崇められる存在」だと断言するだけの何かを知っているのではないだろうか。……そうだな。例えば、王家に連なる血筋にある。等のように」
「王家!?」
 ボルディアが目を丸くしてのけ反った。鳥は冷静に補足する。
「これは流石に荒唐無稽な仮説だが、それくらいに特別な存在であるというべき何かを持っていると考える」
「……血筋、というか、血縁に関しては、私も考えた。父親から関心を向けられなかった娘……、実は血が繋がっていない……、シェーラとアメリアは実の姉妹なのでは……と。王家とまではいかずとも、これも突飛過ぎか……?」
「血筋については私の方から否定しておきましょうねーえ」
 アメリアが、紅茶のカップを配りながら口をはさんだ。
「シェーラと私は、間違いなくイトコ同士です。もちろん、王家に連なる血筋などではありませんよーお」
「まあ、そうだろうな」
 鳥が紅茶を受け取りながら、あっさり頷いた。自分でもそれはさすがにないであろうと思っていたため、落胆もないのだ。
「そっかー。じゃあ、なおのこと……、北斗星がアメリアさんってどういうこと?」
 マチルダが首をかしげ、シェーラを眺めた。皆、それにならうようにシェーラに視線を向ける。彼女は、表情を変えぬまま、黙っている。まだ仮説が足らないというわけなのだろうか。レイアが、おずおずと、再び口を開いた。
「あなたの求めてるものはもっと根本的な動機の推理だろう。前回の調査しかしていないからな、そこは正直弱い……。だけど弱いなりに主張したい事はある。あなたは何よりアメリアに気付いて欲しいのではないか? いや、自分でもわかっているのかな。わかっているからこそこうして我々の協力を求めているのかもしれない」
 最初はおずおずと話していたレイアだったが、次第にしっかりとした口調でシェーラとアメリアの双方に向かって語った。沈黙を守っていたシェーラが、はあ、とひとつため息をついた。
「ええ、それに関しては認めます。私は、アメリア・マティーナに、気付いて欲しかったのよ。わかってほしかったのよ」
 誰もが予想外だと思うほど、シェーラがあっさりと言った。アメリアが、深くかぶったフードの下で目を見張る。しかし、それ以上をシェーラは語らない。まだ仮説が足らないようだと、ボルディアが軽く挙手をした。
「ちょっと、聞いてもらってもいいか」
 全員が、無言で頷いた。ボルディアが皆の顔をぐるりと眺めてから、シェーラに視線を合わせてゆっくりと口を開く。
「お前の生まれ故郷にな、俺も行ったんだよ。だから、知ってるわけだが……、幼い頃はアメリアを慕っていた。そして、村では友人と呼べるものは居なくて、家族仲も恐らく良くはねぇ。控えめに言って、お前はずっと孤独だったんじゃねぇか? その真っ暗闇を唯一照らす太陽が、アメリアだった……てのは、言い過ぎか?」
 ボルディアは一度言葉を切った。シェーラは、唇を引き結んだままだ。構わず、ボルディアは続ける。
「そんな相手を殺せと命じられた。まぁ、飲めるわきゃねぇな。頼れる人も居ないお前は、きっとアメリアをどうやったら助けられるか考えたはずだ。助けになってくれる人はいない。アメリアに真実を話しても信じてもらえる確証がない。仮に信じたとしても、それが家にばれたら今度こそ、確実にアメリアを殺そうと更に追っ手を仕向けるかもしれない。……なら、自分がアメリアを狙い続けていると実家に見せれば、少なくともその間はアメリアを護れる。研究を邪魔したのは、あわよくば研究を止めてくれれば狙わなくて済むと思ったから……だったりしてな」
 しん、と。
 その場が静まり返った。皆、神妙な顔つきでシェーラを見守っていた。ボルディアが、慈母のごとき穏やかな顔で続ける。
「なあ、シェーラ。もう我慢しなくていいんじゃねぇのか。ずっと一人で頑張ってきて、もう疲れ切っただろ? そろそろ休んでも、誰かを頼ってもいい頃だ」
 誰もが、ボルディアの言葉に聴き入っていた。しかしその中で、一番心を揺さぶられているのは、やはり、シェーラだった。ボルディアの語りを聞き終えて、重いため息をつく。
「その仮説は、ほぼ正解といっていいでしょう」
 そう言ったシェーラに、一同は顔を見合わせた。シェーラがついに、ことの真相を語るときがきたのだと悟ると、自然、場は静かになる。
「私は、チェーロ家の娘として、将来を嘱望されて育ちました。しかし……、私には学問を志す意味が少しも見いだせなかった……」
 シェーラは、訥々と語り出した。全員が、固唾を飲んで彼女を見守った。
「そんな中で、向かうべき目標を、進むべき道を定めて一心に研究をしていく……それも、誰にも相手にされない中で、よ。……私にはそれが、この上なく眩しく、美しく見えたの。だから彼女は……、アメリアは、わたしにとっての北斗星だった。位置も輝きも変わらぬ、私の唯一星」
「……そんなに、大層な存在として祭り上げられていたとは、驚きですねーえ」
 アメリアが、茶化すふうでもなく静かにそう言った。
「驚き? 驚きですって?」
 ここまでつとめて冷静に語っていたシェーラが、声を荒げた。
「どうして!? どうしてなの!? 私はあんなに、こんなに、貴女を慕っていたのに!! 貴方こそが、私の北斗星なのに!!!」
 アメリアが、北斗星。
 皆が感じていた疑問が、明かにされた瞬間でもあった。シェーラは、アメリアのことを唯一の輝きとして信奉にも似た思いを抱いていたのである。
「どうして、あんな小娘なんかを有難がるの!? 王家の血筋だからといって、どうして!? どうして、あんな、何もできない小娘なんかを!?」
 小娘。それが誰のことを指しているのか、全員が察していた。恐れ多くも王家の血筋……、システィーナ・グラハムのことであろうことを。
「システィーナ様は、何もできない小娘ではありません」
 はっきりと、アメリアが言いきった。フードに隠された双眸を、それでも真っ直ぐにシェーラに向ける。
「私があなたのことを「どうでもいい存在だ」と思って気にも留めず、忘れ去ってしまったのにはそれなりの理由があるのですよーお。……それは、あなたには志がなかったからです」
「こころざし……?」
「はい。あなたに将来への展望はありましたか? 目指すべき道は? 成し遂げたいことは? 何も、なかったでしょう。ただただ、父親に認められることと、チェーロ家の一員としての証を立てたい、それだけを考えていたはずですよーお」
「……」
「私は、何かを志す人間にしか興味はありません。だからこそ、血の繋がった身内であっても、あなたのことをやすやすと忘れてしまったのですよーお。あなたが、私のことを信奉し、北斗星と呼んでくれたとて、そんなことは何の重石にもなりはしませんでした。申し訳ないことながらねーえ」
「……」
 シェーラの双眸が大きく見開かれ、揺らいだ。涙の膜が張られているのが、誰の目にも明らかだった。
「私が陛下を敬愛していたのは、誰にも認められなかった私の研究を、興味深いものとして取り上げてくださり、何より、私の熱意を認めてくださったからですよーお。システィーナ殿下は、その陛下の意志を継ぎ、私の研究に未来を見出してくださった。そして何より、ご自分も王国の未来のために志を持ち、尽力されている……、私が王家を『北斗星』と崇めるのは、それが理由なのですよーお」
「こころ、ざし……」
 もう一度、シェーラが呟いた。涙は、今にも零れ落ちそうであった。
「実は私もシェーラさんの村にいってみたんだけど」
 おずおずと、マチルダが口を挟んだ。
「お父さんの神経質そうな怒鳴り声に尻込みして……。家名で周囲の人からも一線引かれている感じだったし、会えなくなってからのアメリアさんへの想いが増してたのかなという気もするんだ」
 父親からの命令はあったにしろ、シェーラがアメリアへの想いを募らせていたことも事実なのではないか、だからこそ、研究の妨害をしてしまったのではないか。そんな想いもこめて、マチルダは言葉を紡いだ。シェーラは、否定も肯定もしなかった。ただ一言、これだけを、口にした。
「殺したく、なかったわ……。アメリア……、私は、あなたを殺したくなかった……」
 レイアが、ボルディアが、マチルダが、鳥が、大きく安堵の息をついた。それが一番、聞きたい言葉だったような、気がした。アメリアも、心なしほっとしているように見えた。
「それを聞けて、良かったですよーお」
 アメリアが、フードに隠れていても笑っているとわかる声色で、そう微笑んだ。その言葉に頷きつつも、鳥が心配そうな声を出す。
「私は迷う。シェーラ・チェーロをこのまま解放してよいのかと。自身の子を愛さず、疎遠になった血族の殺害を厭わない父親の下に帰してよいのかと。……別の道はないのだろうか」
 アメリアは頷いて、シェーラを見つめた。
「それは、今度こそ、シェーラ、あなたが自分で決めることです。……決められますよねーえ?」
 シェーラは、アメリアを見返し、そしてハンターたちの顔を見まわした。
「ええ」
 そしてはっきりと、大きく、頷いたのだった。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談・考察卓
雨を告げる鳥(ka6258
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/01/04 12:18:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/02 23:56:58