ゲスト
(ka0000)
【虚動】Schwarz Geist
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/01/10 19:00
- 完成日
- 2015/01/23 09:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ブリジッタ・ビットマン博士、並びにリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)組合長殿、そしてナサニエル・カロッサ(kz0028)錬魔院長殿にご報告を。帝国軍第一師団ヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0059)副長、到着いたしました」
ご苦労様ですねぇ、と挨拶を返したナサニエル他、他の大人たちが手短に挨拶を済ませる中、肝心のブリジッタはというと……。
「は……はかせ!? そ、それってこのあたしのことなのよね……?」
ふおお、と頬を輝かせるブリジッタ。
考えてみれば、リーゼはいつも「ブリちゃん」だし、ついさっき会ったばかりのシュタークにしてもお子様呼ばわりだ。
見ず知らずの人間から、一人前として扱われて悪い気はしないのだろう。
「ほほー、少しは見る目のある奴が来たみたいなのよさ! ごくろーなのね! あたしがカオルくんの開発者の……」
彼女にしては珍しく、挨拶を返そうといそいそと副長の方に近づくブリジッタ。しかし、その眼前にすっとリーゼが立ち塞がった。
「ちょっと、ボイン! ケツが邪魔なのよさ!」
騒ぐブリジッタを無視して、リーゼロッテは挨拶を述べた。
「任務ご苦労様です。ここは、私とブリちゃんにナサく……こほん。ブリジッタ博士とナサニエル院長で何とかしますから、敵を魔導アーマーに近づけないようお願いします」
「ちょっとボイン~……?」
それは、言うべきことは何もないと言わんばかりの社交辞令で、普段のリーゼを知るブリジッタにすれば違和感があった。
(第一師団副長……革命の狂犬と呼ばれている、目的のためには手段を択ばない人……)
リーゼとて、革命前からの幕僚であるエイゼンシュテインのことは知っている。知っていればこそ、その悪い噂は嫌でも耳に入って来る。
帝国における革命は、前皇帝の人柄もあり流血は最小限に抑えられた、というのが内外の評価だ。
先帝は、最後まで恭順を拒んだ者に対しては、粛清ではなく国外逃亡か、第十師団に代表される懲役を持って臨んだからだ。
それでも血が一滴も流れないという訳にはいかなかった。
最後まで恭順も亡命も拒んだ集団はやはり存在し、そう言った集団についてはやむを得ず討伐命令が出されたと言う事も周知の事実である。
そして、その際先頭に立ってそれを実行したのがこのエイゼンシュテインだった、というのは帝国で知らぬ者は無かった。殺された旧体制派には、まだ少年兵や子供も含まれていたという噂もある。
リーゼが思わずブリジッタを守るように振る舞ったのはそんな理由からである。
「おやぁ? 眼帯のおっさんじゃねえか! 久しぶりだなあ!」
と、そこに第二師団『フュアアイネ』師団長シュターク・シュタークスン(kz0075)が現れた。帝国で開催される騎士議会には、各師団の副長以上に出席の義務がある。二人の間に面識があるのは当然であった。
「貴官も息災そうで何よりだ。時に、ハルクスの……副長の様子はどうか?」
「あァ、あたしやスザナのやることに、悲鳴ばっかりあげてるよ。この調子じゃハゲるだろうな。ハッハッハッ!」
なにが可笑しいのか豪快に笑うシュターク。
「そうか。何よりだ」
エイゼンシュテインは相変わらず無表情であったが、その口許が僅かに緩んだのをようやくリーゼの影から顔を出したブリジッタは見逃さなかった。
「……これだから大人は解らないのよさ!」
●
その後、シュタークたちが、剣魔クリピグロウズの迎撃に赴き、なおもエイゼンシュテインと彼に同行していたハンターたちがブリジッタたちの側で周囲を警戒していた時、それは起こった。
突如、魔導アーマーたちが待機していた陣地に凄まじい負のマテリアルが撃ち込まれ、爆発したのだ。幸い、第一射はあらぬ場所に着弾し、人や物に被害を出すことは無かったが、陣地は騒然となった。
既に、CAMとその護衛につけられた剣機の眷属たちは陣地からも確認できるが、距離が遠い。第一、方向が違った。
「別働隊、という訳か?」
砲撃が来た方向を双眼鏡で確認したエイゼンシュテインは気付いた。海岸付近に広がる荒野で一か所だけ僅かに高くなった丘。その上に立つ小さな黒い人影。
流石に、この距離では細かい姿までは解らない。しかし、それだけにその人影が抱えている、この距離からでもはっきりと解る長大な機導砲の存在は嫌でも目についた。
「間違いないようだな」
その人影は遠目に見ても何か悍ましい気配を感じさせずにはいられなかった。
何より、その人影より此方に近い距離には別の歪虚が二体、既にこちらへと向かっていた。
「総員、傾注せよ」
エイゼンシュテインの言葉に、ハンターたちは一斉に彼の方を向いた。
「我々はこれより敵砲撃手の無力化に向かう。作戦は、此方に向かっている敵戦力の迎撃を行う迎撃班、敵砲撃手の砲撃を引きつけ、その護衛を叩く突撃班、そして敵の注意が突撃班に向いている間に、砲撃手の無力化を行う奇襲の三班に分かれる」
そう説明した後、エイゼンシュテインは周辺の地図を広げた。
「敵に、ブリジッタ博士たちのスペルランチャー部隊への砲撃を許せば、我々はCAMに対する決定打を失うことになる。また、ブリジッタ博士たちを含む帝国の貴重な人材も危険に晒されるだろう」
改めて、居並ぶ魔導アーマーを指す。
「既に、ベルトルード沖で第四師団が剣機リンドヴルムの量産型と交戦に入ったという情報も入っている。敵の狙いは飛行能力を有するリンドヴルムでCAMを持ち去ることにあると想定される」
地図上の海が指される。
「別方面からは、既に出現が確認された「不滅の剣魔」がスペルラチャー部隊に迫っているがこれにはシュターク師団長と別のハンターたちが迎撃に向かっている。我々は、仲間を信じて全力で敵の砲撃能力を失逸させる。以上だ。直ちに編成に入れ」
そう言ってから副長は、改めてリーゼの方を向き、直立不動で敬礼をおこなった。
●
「魔導アーマー……革命軍め、CAMの他にこんな兵器を隠し持っていた何て……!」
黒い軍帽と、銀色の髪の下から黄色く濁った眼を光らせ、少女は忌々し気に呟いた。
「大丈夫だよ……今度は収束率をもう少しだけ上げて撃ってみるね。今の一発で誤差も修正出来た筈……」
目を閉じ、何者かと会話する少女。
「それより、今どの辺り? ……何だ。もう、南ユーベルヴァルンを通過するんだ……え? 儂が着くまで持つかって? ……心配してるんだ?」
――グハハハハハハハハ! 誰が貴様の身など案ずるかツィカーデよ!
ゾンネンシュトラール帝国南ユーベルヴァルン州上空。それは、その鋼鉄の装甲に雲の上で燦然と輝く陽光を反射しながら飛翔していた。
その鉄塊の周囲を覆うは黒とも紫ともつかぬ色をした邪悪に笑う髑髏だ。
――儂が案じておるのはな、儂が食らうまで獲物共が残っているかという事よ!
青空に、哄笑が響き渡った。
ご苦労様ですねぇ、と挨拶を返したナサニエル他、他の大人たちが手短に挨拶を済ませる中、肝心のブリジッタはというと……。
「は……はかせ!? そ、それってこのあたしのことなのよね……?」
ふおお、と頬を輝かせるブリジッタ。
考えてみれば、リーゼはいつも「ブリちゃん」だし、ついさっき会ったばかりのシュタークにしてもお子様呼ばわりだ。
見ず知らずの人間から、一人前として扱われて悪い気はしないのだろう。
「ほほー、少しは見る目のある奴が来たみたいなのよさ! ごくろーなのね! あたしがカオルくんの開発者の……」
彼女にしては珍しく、挨拶を返そうといそいそと副長の方に近づくブリジッタ。しかし、その眼前にすっとリーゼが立ち塞がった。
「ちょっと、ボイン! ケツが邪魔なのよさ!」
騒ぐブリジッタを無視して、リーゼロッテは挨拶を述べた。
「任務ご苦労様です。ここは、私とブリちゃんにナサく……こほん。ブリジッタ博士とナサニエル院長で何とかしますから、敵を魔導アーマーに近づけないようお願いします」
「ちょっとボイン~……?」
それは、言うべきことは何もないと言わんばかりの社交辞令で、普段のリーゼを知るブリジッタにすれば違和感があった。
(第一師団副長……革命の狂犬と呼ばれている、目的のためには手段を択ばない人……)
リーゼとて、革命前からの幕僚であるエイゼンシュテインのことは知っている。知っていればこそ、その悪い噂は嫌でも耳に入って来る。
帝国における革命は、前皇帝の人柄もあり流血は最小限に抑えられた、というのが内外の評価だ。
先帝は、最後まで恭順を拒んだ者に対しては、粛清ではなく国外逃亡か、第十師団に代表される懲役を持って臨んだからだ。
それでも血が一滴も流れないという訳にはいかなかった。
最後まで恭順も亡命も拒んだ集団はやはり存在し、そう言った集団についてはやむを得ず討伐命令が出されたと言う事も周知の事実である。
そして、その際先頭に立ってそれを実行したのがこのエイゼンシュテインだった、というのは帝国で知らぬ者は無かった。殺された旧体制派には、まだ少年兵や子供も含まれていたという噂もある。
リーゼが思わずブリジッタを守るように振る舞ったのはそんな理由からである。
「おやぁ? 眼帯のおっさんじゃねえか! 久しぶりだなあ!」
と、そこに第二師団『フュアアイネ』師団長シュターク・シュタークスン(kz0075)が現れた。帝国で開催される騎士議会には、各師団の副長以上に出席の義務がある。二人の間に面識があるのは当然であった。
「貴官も息災そうで何よりだ。時に、ハルクスの……副長の様子はどうか?」
「あァ、あたしやスザナのやることに、悲鳴ばっかりあげてるよ。この調子じゃハゲるだろうな。ハッハッハッ!」
なにが可笑しいのか豪快に笑うシュターク。
「そうか。何よりだ」
エイゼンシュテインは相変わらず無表情であったが、その口許が僅かに緩んだのをようやくリーゼの影から顔を出したブリジッタは見逃さなかった。
「……これだから大人は解らないのよさ!」
●
その後、シュタークたちが、剣魔クリピグロウズの迎撃に赴き、なおもエイゼンシュテインと彼に同行していたハンターたちがブリジッタたちの側で周囲を警戒していた時、それは起こった。
突如、魔導アーマーたちが待機していた陣地に凄まじい負のマテリアルが撃ち込まれ、爆発したのだ。幸い、第一射はあらぬ場所に着弾し、人や物に被害を出すことは無かったが、陣地は騒然となった。
既に、CAMとその護衛につけられた剣機の眷属たちは陣地からも確認できるが、距離が遠い。第一、方向が違った。
「別働隊、という訳か?」
砲撃が来た方向を双眼鏡で確認したエイゼンシュテインは気付いた。海岸付近に広がる荒野で一か所だけ僅かに高くなった丘。その上に立つ小さな黒い人影。
流石に、この距離では細かい姿までは解らない。しかし、それだけにその人影が抱えている、この距離からでもはっきりと解る長大な機導砲の存在は嫌でも目についた。
「間違いないようだな」
その人影は遠目に見ても何か悍ましい気配を感じさせずにはいられなかった。
何より、その人影より此方に近い距離には別の歪虚が二体、既にこちらへと向かっていた。
「総員、傾注せよ」
エイゼンシュテインの言葉に、ハンターたちは一斉に彼の方を向いた。
「我々はこれより敵砲撃手の無力化に向かう。作戦は、此方に向かっている敵戦力の迎撃を行う迎撃班、敵砲撃手の砲撃を引きつけ、その護衛を叩く突撃班、そして敵の注意が突撃班に向いている間に、砲撃手の無力化を行う奇襲の三班に分かれる」
そう説明した後、エイゼンシュテインは周辺の地図を広げた。
「敵に、ブリジッタ博士たちのスペルランチャー部隊への砲撃を許せば、我々はCAMに対する決定打を失うことになる。また、ブリジッタ博士たちを含む帝国の貴重な人材も危険に晒されるだろう」
改めて、居並ぶ魔導アーマーを指す。
「既に、ベルトルード沖で第四師団が剣機リンドヴルムの量産型と交戦に入ったという情報も入っている。敵の狙いは飛行能力を有するリンドヴルムでCAMを持ち去ることにあると想定される」
地図上の海が指される。
「別方面からは、既に出現が確認された「不滅の剣魔」がスペルラチャー部隊に迫っているがこれにはシュターク師団長と別のハンターたちが迎撃に向かっている。我々は、仲間を信じて全力で敵の砲撃能力を失逸させる。以上だ。直ちに編成に入れ」
そう言ってから副長は、改めてリーゼの方を向き、直立不動で敬礼をおこなった。
●
「魔導アーマー……革命軍め、CAMの他にこんな兵器を隠し持っていた何て……!」
黒い軍帽と、銀色の髪の下から黄色く濁った眼を光らせ、少女は忌々し気に呟いた。
「大丈夫だよ……今度は収束率をもう少しだけ上げて撃ってみるね。今の一発で誤差も修正出来た筈……」
目を閉じ、何者かと会話する少女。
「それより、今どの辺り? ……何だ。もう、南ユーベルヴァルンを通過するんだ……え? 儂が着くまで持つかって? ……心配してるんだ?」
――グハハハハハハハハ! 誰が貴様の身など案ずるかツィカーデよ!
ゾンネンシュトラール帝国南ユーベルヴァルン州上空。それは、その鋼鉄の装甲に雲の上で燦然と輝く陽光を反射しながら飛翔していた。
その鉄塊の周囲を覆うは黒とも紫ともつかぬ色をした邪悪に笑う髑髏だ。
――儂が案じておるのはな、儂が食らうまで獲物共が残っているかという事よ!
青空に、哄笑が響き渡った。
リプレイ本文
ツィカーデと呼ばれる暴食の少女は、荒野を滑空して飛来する矢をとっくに感知していた。しかし、彼女は動かない。何故なら動く必要が無いからである。
「当たれ……!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は自らが放った大弓の矢が彼方の高台に立つ歪虚に向かって飛翔する様を見ながらそう呟いた。
しかし、光を纏ったその矢は、ツイカーデに命中する直前、物々しい機械の手足を接続した白骨死体、グレイブワーカーGCのガーダーによって弾き飛ばされた。
「防がれた……!」
舌打ちするオウカ。
「構わん! どんどん撃ってゾンビの方を釘づけにするんや!」
冬樹 文太(ka0124)は、そうオウカを激励すると自らの猟銃の弾丸をマテリアルでブーストし、放つ。
GCはこれも、盾で弾く。しかし、これは文太の狙い通りだ。
「革命軍……!」
一方のツィカーデは、遂にその長大な長距離砲を構える。
「9時の方向! 来るで!」
咄嗟に叫ぶ文太。直後、長距離砲から放たれた黒いシャワーのようなエネルギーが荒野に降り注ぐ。
「拡散弾か。好都合だね。避ける事は得意じゃないんだ」
イーディス・ノースハイド(ka2106)は不敵に笑うと、大盾を構えゆっくりと前進する。
「直撃は避けたい所ですね」
イーディスと並んで、盾を構えるマッシュ・アクラシス(ka0771)も相手を見据えつつそう同意した。
その間にも、ツィカーデの拡散砲は広範囲に降り注ぐ。
「全員を庇い切るのは不可能か……仕方が無い。キミだけでも後ろに入って」
「す、すみません……!」
申し訳なさそうにイーディスに庇われるのはまだ、ハンターになって日の浅い月護 紫苑(ka3827)である。
だが、紫苑も庇われてばかりではなく、最前面で砲火に晒されるイーディスとマッシュを自身のマテリアルで覆い、少しでも二人の負担を減らそうと試みる。
「ありがとう。だが、私は歪虚を討つ剣ではなく英雄たる剣を守る盾だからね、気にする事はない。キミはキミの役目を果たせばいい」
「は、はい……」
イーディスはそう優しく微笑むと、仲間たちを見る。
「そして、剣の役目は――彼らに任せよう」
ハンターたちは長距離砲の攻撃に晒されながらも、何とかツィカーデの陣取る丘の傍まで辿り着いていたのだ。
イーディスの言葉に呼応するように、何人かのハンターが近接武器を携え、突撃の構えを見せる。しかし、それよりガーダーキャノンの機関砲が火を噴いた。銃弾は荒れ地を抉りながら、ハンターたちの方へと迫る。
しかし、横合いから放たれた弾丸がGCのガーダーに着弾。その衝撃で火線が逸れる。
「ふふん♪ 折角ここまで辿り着いたんだ。邪魔はさせないよ♪」
Kurt 月見里(ka0737)は、なおも銃撃でガーダーの攻撃を逸らしながら不敵に笑った。
「2発目3発目を撃たせたら、流石にヤベーよなっ! 何にせよ、俺たちは囮……なら、速攻あるのみだ!」
真っ先に動いたのは旭岩井崎 旭(ka0234)だった。覚醒により梟の頭を持つ鳥人のような姿となった彼はマテリアルを燃やして、低姿勢のまま信じられないような速度で大地を駈ける。
その目標は丁度ツィカーデの傍に立つような形で待ち構えるGCである。
既にGCも、旭の存在を察知し機銃を放つが、旭は更に速度を上げてそれを回避しつつ、一直線に敵へと迫る。
「さあ、砲撃の返礼と行くぜッ!」
そのまま、GCに向けて鋭い突きを繰り出す旭。速度、角度共にそう簡単には回避できない一撃の筈だ。
「なっ……?」
旭は驚愕した。突如、彼の眼前からGCが消えたのだ。
正確には、GCは直前でブースターを吹かし、頭上に飛び上ることで旭の必殺の突きを回避したのだ。
「しまった……!」
歯噛みする旭。
そう、GCは単に攻撃を回避しただけでなく、旭の進路上に盾から機雷を投下するのを忘れなかったのだ。
なまじ、最高速度で突っ込んだばかりに急停止は不可能。機雷が爆発し、旭は否応なくそれに巻き込まれた。
「旭さん!?」
悲痛な叫び声を上げ、紫苑がイーディスの盾の陰から飛び出した。
しかし、これで一時的にツィカーデはがら空きとなった。
「妹がスペルランチャーのエネルギー供給に行ってるんだ。攻撃させる訳にはいかないよ!」
天竜寺 舞(ka0377)はその隙を逃さず、クレイモアを構えて一気にツィカーデへと肉薄する。
「妹……? 姉妹揃って革命軍に与するなんて!」
それを聞いたツィカーデ悔しそうに呟くと、長距離砲を片手で保持したまま腰を低く落とし、マントの下に手を入れる。直後、何か重いものが嵌る金属製の音が響いた。
「ここが年貢の納め時だよ!」
剣にマテリアルを込め、素早く振りかぶる舞。その一連の動きは決して遅くはなかった。
「……なっ!?」
しかし、舞が気づいた時には既にツィカーデは舞の懐……クレイモアの間合いの内側へと飛び込んでいたのである。
驚愕に目を見開く舞。振り上げられたツィカーデの拳には、機械的なデザインのガントレットが装着されており、そのガントレットには鈍く光る金属の杭が装填されていた。
「……!」
身を捻じって回避しようとする舞にツィカーデの拳が叩きつけられる。
同時に、ガントレットから勢いよく杭が打ち出され舞の胴体を無残に貫く。
「あ……!」
血を流しながら吹っ飛ばされる舞。激痛にその意識が遠くなっていく。
「舞さんっ!」
咄嗟に駆け寄ろうとする紫苑。
一方、この光景を見たマッシュは確信していた。
「あの傷跡……、オレーシャ兵長をやったのは貴女でしたか」
直後、頭上からGCの機関砲が降り注ぐ。
「上か!」
盾を構えるマッシュを翻弄する様に銃撃を繰り返すGC。しかし、GCが高度を下げた瞬間であった。
「派手に暴れさせてもらうぞ!」
榊 兵庫(ka0010)の振り上げた長柄の槍が、見事にGCの胴体を打ち据え、地面に叩きつけたのだ。
空中からの攻撃を妨害されたGCは素早く、起き上がると再びシールドに内蔵された機雷散布装置を起動させた。
「邪魔な機械人形め、お前に興味はねえんだよ!」
その光景を見たキー=フェイス(ka0791)は舌打ちすると、ばら撒かれた機雷に向かって拳銃を連発した。
その内の一発が遂に命中。GCから充分に離れる前に暴発した機雷は、他の機雷にも誘爆し、大爆発がGCを飲み込んだ。
「いいね……この奪い奪われる、闘争の気配。さあて、それじゃあ俺も参加するかね」
イブリス・アリア(ka3359)は、ニヤリと笑うとゆっくりと刀を引き抜いた。爆炎の向こうではGCが未だに防御姿勢を取ったままだ。
絶好のチャンスを逃さぬよう、イブリスはマテリアルで自身の動きを極限まで加速すると大地を蹴った。
「狙うべきは弱点かね……機械化してない頭や胴体に核でもあれば手っ取り早いんだが」
爆発の衝撃もあって、反応が遅れたGCの胴体つまり朽ちた死体の部分にイブリスの刃が打ち込まれた。
「どうだ?」
だが、GCはすかさずガーダーの側面で、イブリスを打ち据える。
強烈な衝撃に吹き飛ばされたイブリスは何とか体勢を立て直し、敵の攻撃に対して備えるべく身構えた。
しかし、GCは直ぐには動かない。いや、動けなかった。まるで、機械が動力部に損傷を受けたかのようにその動きがぎこちなくなる。
「効いているのか……?」
眉を顰めるイブリス。だが、彼が再び武器を構えた瞬間ツィカーデが叫んだ。
「一旦後退せよ! 援護する!」
砲を構えるツィカーデ。
しかし、その時ツィカーデの死角と思われる方向――目が包帯に覆われている方角からマリーシュカ(ka2336)が飛び込んで来た。
「この格好……話に聞いていたアイゼンハンダーに似ているわね。やっぱり旧帝国絡みかしら」
猛然と大鋏を突き出すマリー。
しかし、相手はやはり人間ではなかったというべきか、片目にもかかわらず迅速に反応したツィカーデは素早い素早く身を躱すと先程舞に打ち込んだパイルバンカーを再度構える。
「伏兵だと!? 小癪な!」
だが、今度は反対方向からティーア・ズィルバーン(ka0122)が斧を構えて切り掛かる。
「兵長をやったのはお前だな! いい加減邪魔すんの諦めやがれ。その腐った誇りと一緒にその砲置いてけやぁぁぁ!!」
「お前は、ここで討つ……!」
更に、機導剣を構えたオウカや、他のハンターたちもツィカーデも抑えに回る。
一方、指揮官の支援を期待できなくなったGCはそれでも何とか体勢を立て直し、機銃掃射でハンターたちを牽制する。
「全く、流石は死体というべきか。往生際が悪いね」
大盾の背後に負傷したハンターたちやそれを治療する紫苑を庇いながらイーディスが顔を顰めた。その盾に弾丸が降り注ぎ火花が散る。
「これだけ、撃っても弾切れしないなんて、反則だよね」
Kurtは、陸上用の弾丸に換装した水中銃を打ちながら舌打ちした。
一方、マッシュは構えた盾の影で、黄金に輝く戦槌を握りしめる。
「滅んでいただけませんか……!」
マッシュの手から投擲された槌は、見事にGCの銃口に直撃。周囲に雷鳴のような轟音が轟き、GCがよろめいた。
「あれを撃たせたら終わりやからな、行くで!」
文太はその隙を逃さず、マテリアルを込めた弾丸を遠距離からGCの本体に向けて放った。
強力なマテリアルの籠もった弾丸に貫かれたGCの頭部は無残に爆散する。
だが、頭部を失ったGCはなおも銃弾を闇雲バラ撒き続ける。
「しつこいな。もう、弱点は解っている!」
だが、そこでイブリスが再度死体に刀で切りつける。
「これで、終わりだ!」
更に、榊の突き出した槍を死体部分に受け、ようやくGCは黒い霧となって消滅。後に残された手足も、爆発した。
●
複数のハンターを相手にし、更に接近戦では無用の長物と化す筈の長距離砲を保持したままでいてなお、ツィカーデは優勢であった。
最小限度の動きで多方向から襲い掛かるハンターたちの刃を躱し、徒手空拳のみで重い一撃を打ち込んで行く。
迂闊に仕掛ければ舞同様パイルバンカーの餌食になる事が解っている以上、ハンターたちも攻めあぐねていたのだ。
「間もなくエイゼンシュテイン閣下の指揮の下、革命軍の魔導アーマー部隊が貴軍を撃滅するわ。投降しなさい」
間合いを取りながら、マリーシュカはふと思いついたままに挑発を口にする。
時間稼ぎが目的だったのだが、彼女は言ってすぐに後悔した。
「……この手の品の無い口上は苦手だわ」
しかし、この言葉は意外な効果をもたらした。
「エイゼンシュテイン……? 革命の狂犬の名前を、お前が何故知って……くぅっ?」
まるで、思い出せない何かを思い出そうとするかのようにこめかみの辺りを抑えるツィカーデ。
「革命なんて、とっくに終わってるんだよ!」
咄嗟に踏み込もうとするティーア。しかし、ツィカーデは素早く立ち上がると再度パイルバンカーを構える。
「迂闊に踏み込むな」
後方から響いて来た声に、ティーアは踏み止まる直後、空を切って落下して来た複数の投槍がツィカーデの足元に突き刺さった。
これを好機と見て、Kurtもツィカーデに対する牽制を始めた。
「つまんない死体のお守りも終わったみたいだし、折角だから、俺とちょっと遊ばない?」
訂正。ナンパを始めた。
「戦闘は継続している! 場を弁えないのか! 貴様、どこの師団の所属だ!」
当然ながら、ツィカーデは怒鳴る。
「あ、俺はKurt! ハンターやってるんだ。よろしくね♪」
「傭兵か! 規律が弛みきっている! これだから革命軍は……!」
ツィカーデかKurtに狙いを定めたのを見て、負けじとキーもナンパを始めた。
「よっ、カワイコちゃん。その眼帯の下と、外套の下が気になっちまって、今夜は眠れそうにないぜ!」
「ふ、服の下!? 夜!? ……破廉恥な革命軍めぇ!」
血の気の無い顔を真っ赤にして、ツィカーデが怒鳴った瞬間、柊 真司(ka0705)が馬に乗って猛然と駆けて来た。
「仲間はやらせねぇ! 何が何でも機導砲は破壊する!」
馬に乗ったまま、ツィカーデの長距離砲に雨あられと弾丸を打ち込む真司。
「龍騎兵だと!?」
突然の奇襲に歯噛みするツィカーデ。
「一気に破壊させて貰うぜ!」
すれ違い様に更に猛射を浴びせる真司。弾丸の殆どは砲身に命中したが、一部の弾丸が砲を持つツィカーデの腕にも着弾し、火花を散らす。
「次は、あたしの番だね。元オペ子だからって甘くないよ!」
この派手な攻撃に乗じて反対側から接近していたシンシア・クリスティー(ka1536)も有効な距離まで近づくと、砲身に向けてフレイムアローを連射する。
「おのれ、革命軍め……! この装備では……!」
ツィカーデの長距離砲は、ある程度距離が離れていれば先程のように拡散弾などで複数の敵を纏めて相手にする事も出来た。
しかし、こうしてある程度接近されてしまえば却って邪魔になる。そして、この場合頑丈なツィカーデ本体に対して試作品である砲は余りにデリケートだ。
しかし、敵の部隊を砲撃するにはこの武器は不可欠。こういった事情もあって、ツィカーデはダメージこそ受けていないものの苦戦を強いられていたのである。
「如何にもって感じだね……こんなはた迷惑な代物にはさくっと退場してもらいたいところだけれど……」
奇襲の機会を伺いながら、星垂(ka1344)はじっと敵の様子を観察していた。真司やシンシアの攻撃で砲は所々破損しているように見える。
「確実に、ここで壊さないと」
ふと、星垂が周囲を見ると同じように好機を伺って身を伏せているユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)、アルファス(ka3312)の二人と目が合った。
「やるしか……無いか」
星垂はそれ以上時間を無駄にしなかった。
二人に向かって頷いて見せると、敢えて真正面からツィカーデに突っ込んでいく。
「また新手か!」
ツィカーデは再度パイルバンカーをセットし、星垂の方に向かう。
「早い……!」
星垂が不意を突き、接近戦で有利な短刀を握っていたにもかかわらず、ツィカーデは闇色の刃の軌跡を掻い潜ってその血塗れの杭を星垂に突き立てる。
「あうっ……」
血を流して、吹っ飛ぶ星垂。しかし、その瞬間砲身の方は完全にがら空きであったのだ。
「後は、頼むよっ……!」
薄れていく視界の中、飛び出したユーリとアルファスの姿を確認した星垂はそう笑った。
●
「アレを破壊して……CAMを止める!」
機械に詳しいアルファスは、外見からある程度砲の構造に見当を付けた上で、狙った部位に向け渾身の機導剣を振り抜いた。
マテリアルの閃光が煌めき、砲身の一部が深く斬られる。
「何だと!?」
星垂を撃ち抜いた杭を再度収納したツィカーデが叫んだ時には、既に姿勢を低くして飛び込んで来たユーリが、アルファスの作った傷口に自身の剣で第二撃を入れていた。
「思い通りにはさせません!」
ユーリが叫ぶ。
「撤退するよ! ユーリ!」
アルファスは咄嗟にユーリを抱えて飛び下がる。
ツィカーデは砲を構えて二人を狙うが、そこに真司とシンシア、そしてKurtや文太、キーも集中砲火を浴びせる。
「革命軍め、革命軍め!」
集中砲火を浴びた砲は、部品や装甲を飛び散らせ、更にショートした様子を見せる。
同時に、銃と接続されていた腕も激しい攻撃で表面が剥げ、義手としての姿を露わにした。
「あら、あなたも義手だったの? なら、遠慮することは無いわね」
マリーシュカはそう言って自身の大鋏でツィカーデの義手を挟む。既に、集中砲火で損傷していたツィカーデの義手が軋んだ。
「しまった……!」
「このまま、ちょんぎってしまいましょう!」
甲高い金属音が響き、呆気なく義手は捩じ切られた。
CAM実験場の周辺で「アイゼンハンダー」と交戦したハンターたちにとってはどれだけ攻撃しても傷つけられなかったあの義手とは対照的に余りに呆気なく、である。
「やった……!」
土煙と共に、荒れ地に落下したシュバルツェス・ランゲブルーノ砲を見てティーアが叫ぶ。
「……やはり、この腕では駄目です。軍医殿」
手首の辺りで切断された義手を一瞥し、目を閉じて静かに呟くツィカーデにマリーシュカは、鋏を突きつけた。
「なら、どんな腕なら良いというの? ……さあ、今度は冗談ではないわ。投降しなさい」
『無論、この儂よ! この儂のみがツィカーデに相応しい!』
突如、遥かな高空から響いて来たこの世の物とも思えぬ声が周囲の大気を震わせる。直後、帝国では珍しくない曇天の厚い雲を突き破って黒にも紫にも見える禍々しい光の柱が一直線に地上のツィカーデを照らす。
「やっと来たんだ? ……遅いよ」
ツィカーデの黄色く濁った瞳がゆっくりと開かれる。
同時に、ツィカーデは両足を広げると、手首から先を失った義手を高々と天空に差し上げる。
直後、天空より鈍く輝く鉄塊が高速で落下し、ツィカーデの義手と衝突して凄まじい衝撃が大地を駆ける。
慌てて盾や腕で身を守ったハンターたちが目を開けると、既に光は収まっていた。
そして、ツィカーデが、新たに装着した巨大な義手をゆっくりと構え、ハンターたちを睥睨する。
「あれは……!」
ユーリが鋭く息を飲む。
「うん。間違いないね」
彼女とアルファス、それにティーアとマッシュもその義手の形状には見覚えがあった。
「辺境からここまで飛んで来たってのかよ……」
ティーアが呟く。
「それに、そのふざけた格好……なるほど。貴女も、いや「貴女が」というべきでしょうか?」
マッシュも相手を睨む。
戦闘の余波と、合体の衝撃か、もともとボロボロだったツィカーデのマントは失われ、その下の、帝国軍の制服が顕わになっていた。
少女の外見。
旧帝国軍の制服。
そして、不釣り合いに巨大な鋼鉄の義手。
実験場周辺での「アイゼンハンダー」との戦いに参加した者も、そうでない者もようやく理解した。
『左様! 辺境で貴様らが滅ぼしたのは、あ奴の下らぬ戯れのために調達された出来損ないに過ぎん。『儂ら』こそ貴様らの言う『災厄の十三魔』が一位、アイゼンハンダーよ!』
今や、義手に絡みつく人魂のような形状になった黒い亡霊が嘲笑する。
その義手が、蒸気を吐いたかと思うと、幾つかのボルトや装甲が外れ、義手はより攻撃的な真の姿を露わにする。
『では、ツィカーデよ! 挨拶代わりの一発と行こうではないか!』
ツィカーデは、地面に転がっていた長距離砲を足で蹴り上げて、残っている方の腕で掴むと、無言でその巨大な義手を振り被り、地面に叩きつけた。
●
「なんですの!? あれは!」
同時刻、ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)は驚愕に目を見開いた。
ベアトリスたち六名がいる場所は、ツィカーデの陣取っていた高台からはかなり距離があった。
にも、かかわらずベアトリスの居る位置からも、丘そのものを覆い尽くす凄まじい爆発と黒煙ははっきりと認識できた。
この時点のベアトリスたちには知る由も無かったが、それこそが真の義手と合体したツィカーデの、いやアイゼンハンダーの一撃だったのだ。
「く……向こうも、心配ですが、今はこちらに集中しなければ……!」
ベアトリスが眼前のグレイブワーカーLSに注意を戻した瞬間、彼女の傍らで前衛を支援していたTail・Raccon(ka3447)が敵に向けてホーリーライトを放った。
「気をつけろ! こいつら、突破を狙っているぞ!」
そうTailが叫んだ直後、輝く光の弾が二体のLSの内、前衛に居た方に命中する。
「任せて、ボクが止めるよ!」
オキクルミ(ka1947)はそう叫んで、手近な一体との距離を詰める。
「これ以上、行かせる訳にはいかないわ」
同時に、シエラ・ヒース(ka1543)ももう一体に対して猛然と攻撃を仕掛けた。
二人の狙いは、自身の武器を叩きつけてLSを弾き飛ばし、すこしでも時間を稼ぐことである。
だが、二体のLSはそれを呼んでいたかのように背部のバーニアを吹かすと、高く飛び上がり、二人の頭上を跳び越える。
「おいおい、おっさんを走らせるんじゃねえよ……ま、最低限の仕事はこなしますかねっとぉ」
だが、敵がそう来ることはハンターたちも予測していた。
後衛の鵤(ka3319)は銃を構えて駆け出すと、着地しようとするLSの脚部に向けて引き金を引く。
だが、LSの機械化された手足に施された装甲は、弾丸を弾く。更に、LSは鵤に向けて自身の機導剣を伸ばして、その身体を貫こうとする。
「おっとぉ、そう来ることはおじさん解ってたよ」
だが、鵤も咄嗟に盾を構え、何とかその攻撃に耐える。
「汚らわしい改造死体共に易々と突破を許す訳がありませんわ!」
ベアトリスも、同様に伸ばされた剣を盾で防御しつつ接近し、相手の動きを封じるべくエレクトリックショットを放つ。
だが、死体のマテリアルを動力にして機械の手足を動かしているグレイブワーカーに、この攻撃は効果が薄く、動きを封じるには至らない。
そして、二体のグレイブワーカーは再度跳躍の構えを見せる。
「そう簡単に行かせる訳には行かないんですよね」
しかし、そこにルーメンスピアを構えたGacrux(ka2726)が突っ込んで来た。光の力を纏った十字の穂先が全力でLSの一体の死体部分に向かって突き出される。
素早く、アクロバティックな動きが身上のグレイブワーカーではあったが、跳躍の直前を狙ったのが功を奏し、渾身の一突きはGacruxの狙い通り、敵の背骨をも貫通した。
「ルクス君、避けて!」
「え、鵤さん……がはっ!」
しかし、敵の機導剣に注意を払っていなかったGacruxは自身が貫いたLSの機導剣で胴体を貫かれてしまう。
「くそ……!」
咄嗟に、治療のためTail はGacruxに駆け寄った。
一方、LS二体は更に距離を離そうとするがやはり、Gacruxの攻撃は致命的だったのか、槍で突き刺された方は、動きが目に見えて鈍っていた。
「よくも、ルクス君を……おっさん怒っちゃったよ!」
死体部分が弱点であると解った鵤は徹底的に弾丸を撃ちこむ。
「早く、止めを!」
そこに、ベアトリスも集中砲火を浴びせる。
「行かせない……!」
最後に、シエラの槍が死体の髑髏を貫く、二回目の光による攻撃を受けたLSは、今度こそ倒れ、その死体部分は黒い霧となって荒野に散っていた。
しかし、この間にもう一体は更に距離を稼いでいた。
迎撃班はGacruxと、彼の治療にTailを取られ手数が足りない。また、まだ動けるメンバーの傷も決して浅くない。
強力な改造ゾンビである敵に対し、やや戦力が少なかったこと。そして、その戦力を戦術で埋め切る事が出来なかったのが原因だろうか。
それでも、ハンターたちは何とかLSを止めようと銃を放つ。と、銃撃を受けたLSが大きく身をかがめた。
「また飛ぶつもりですの?」
ベアトリスは敵の動きを先読みして銃を上に向ける。
しかし、直後LSは跳躍するのではなく、地面を滑るように移動した。スライディングである。
「しまった……」
歯噛みするベアトリス。咄嗟の事で狙いが逸れる。
「コイツはボクが引き受けた! とりゃー!」
しかし、LSが身を起こそうとした瞬間、この時とばかりオキクルミがLSの上に馬乗りになった。
全力で相手を抑え込もうとするオキクルミ。しかし、LSはもがきながらその機導剣でオキクルミの細い体を貫く。
「くぅ……可愛い女の子に乗っかってもらってるのに、そのありがたみが解らない何て……はっ! だからこそ!? ……とにかく、このっ、このっ!」
何やら意味の解らない事を叫びながらオキクルミも斧で相手の頭部を打ち据える。
だが、やはりグレイブワーカーの力は凄まじくオキクルミが脱出されそうになった瞬間、再び高台の方で爆発が起きた。
●
『これはどうした訳だ!? 欠陥品め!』
義手の亡霊が喚く。
炸薬によるパンチで丘ごと周囲のハンターたちを吹き飛ばしたアイゼンハンダーは、地形ごと吹き飛んで、丘のあった場所に現れたクレーターの中心で悠々とシュバルツェス・ランゲ・ブルーノ砲による、ブリジッタやナサニエルたちスペルランチャー部隊への砲撃に成功……した筈であった。
「ごめんなさい」
むしろ、冷静なのはアイゼンハンダー本体の方であった。
「二人で、ギリギリまで出力を調整したのはいいけれど、革命軍の攻撃で生じた砲身の損傷を計算し切れていなかったみたい」
そう、仮にスペルランチャー部隊に命中すれば恐るべき被害をもたらした筈の砲撃は、発射直前で砲身が暴発し、エネルギーの半ばは周囲に拡散し、発射された分も全く見当違いの場所に着弾して失敗したのである。
『ぬぅ……! お主のせいではないぞ、あ奴がこのような欠陥品を……!』
当然、砲は完全に壊れて発射不可能となっている。
「試作品なのは解っていた筈。軍医殿のせいじゃないよ。それと、備えて」
ツィカーデの警告に、亡霊は咄嗟にスペルランチャー部隊の陣取る方角を見た。
『ク、所詮はデク人形……遊戯とやらも、ここまでか!』
アイゼンハンダーの視線の先で、動きを封じられた歪虚CAMがスペルランチャーの閃光に飲み込まれていく。
直後、スペルランチャーの光は、アイゼンハンダーをも飲み込んだ。
●
オキクルミの決死の足止めで、スペルランチャー発射前にスペルランチャー部隊に辿り着けなかったグレイブワーカーは、歪虚CAMが破壊されたのを確認すると、最早スペルランチャー部隊に興味を示さなかった。
ようやく引き剥がしたオキクルミの手当てに追われるハンターたちを無視して荒野を跳躍し、アイゼンハンダーのパンチとスペルランチャーの直撃でもはや焼け野原と化した荒野の中心に辿り着く。
そこでは、全く無傷のアイゼンハンダーが完全に使い物にならなくなった大砲の残骸を義手から切り離して担いでいた。
「戻ったか。バテンカイトスの様子も気になる。一刻も早く帰投するぞ」
そう言ってから、ツィカーデはふとこちらをじっとみる痩身の男、エイゼンシュテインに気付いた。
「アレを受けて無傷とはな。これが、お前の手に入れた歪虚の、十三魔とやらの力か。……ツィカーデ一等兵」
ゆっくりと口を開くエイゼンシュテイン。あくまでも爆風で吹き飛ばされただけで、直撃は避けていたせいか、深手を受けながらも立ちあがった数名のハンターたちも、固唾を飲んで二人の会話を見守っている。
「……? 誰だ? 何故、私の名前と昔の階級を知っているっ」
「お前のその片目は覚えていないのか。私の片目は良く覚えている」
「誰だと聞いて……くぅっ」
再び、頭を押させるアイゼンハンダー。
『叛徒共の戯言に付き合うな! ……そこの貴様、女々しいぞ。お前が誰であろうと、この娘は既に我が物……いや、最早一心同体よ』
「良かろう」
エイゼンシュテインは全く感情を覗かせず淡々と言う。
「ならば、私も言う事は無い。お前が私の過去であっても、最早敵である事には変わらない」
「はぁっ、はぁっ……革命軍! 今回は……今回だけはお前たちの勝ちだ。だが、お前たちのそれは所詮は戦術的勝利に過ぎない……! 今回の作戦で貴重なデータも手に入った……次は、必ず……!」
そう言い捨てると、アイゼンハンダーはグレイブワーカーと共に、荒野の彼方に去って行く。
最早、これ以上、ハンターたちに用は無いとばかりに。
「畜生……!」
埃塗れのティーアが、拳を地面に叩きつける。
「状況を把握出来ないのかしようとしないのか……もはや帝国軍人であった自分が大事なだけにもみえてしまいますね……」
ようやく追いついて、何とか敵の姿をこの目で見る事は出来たベアトリスも複雑そうな表情で呟く。
やがて、剣魔の迎撃に向かったシュタークたちや、海上で量産型リンドヴルムの迎撃に当たっていたユーディトたちからも勝利の報告がもたらされる。
しかし、スペルランチャー部隊の待つ本陣に帰還するハンターたちは重苦しい雰囲気に包まれたままであった。
「当たれ……!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は自らが放った大弓の矢が彼方の高台に立つ歪虚に向かって飛翔する様を見ながらそう呟いた。
しかし、光を纏ったその矢は、ツイカーデに命中する直前、物々しい機械の手足を接続した白骨死体、グレイブワーカーGCのガーダーによって弾き飛ばされた。
「防がれた……!」
舌打ちするオウカ。
「構わん! どんどん撃ってゾンビの方を釘づけにするんや!」
冬樹 文太(ka0124)は、そうオウカを激励すると自らの猟銃の弾丸をマテリアルでブーストし、放つ。
GCはこれも、盾で弾く。しかし、これは文太の狙い通りだ。
「革命軍……!」
一方のツィカーデは、遂にその長大な長距離砲を構える。
「9時の方向! 来るで!」
咄嗟に叫ぶ文太。直後、長距離砲から放たれた黒いシャワーのようなエネルギーが荒野に降り注ぐ。
「拡散弾か。好都合だね。避ける事は得意じゃないんだ」
イーディス・ノースハイド(ka2106)は不敵に笑うと、大盾を構えゆっくりと前進する。
「直撃は避けたい所ですね」
イーディスと並んで、盾を構えるマッシュ・アクラシス(ka0771)も相手を見据えつつそう同意した。
その間にも、ツィカーデの拡散砲は広範囲に降り注ぐ。
「全員を庇い切るのは不可能か……仕方が無い。キミだけでも後ろに入って」
「す、すみません……!」
申し訳なさそうにイーディスに庇われるのはまだ、ハンターになって日の浅い月護 紫苑(ka3827)である。
だが、紫苑も庇われてばかりではなく、最前面で砲火に晒されるイーディスとマッシュを自身のマテリアルで覆い、少しでも二人の負担を減らそうと試みる。
「ありがとう。だが、私は歪虚を討つ剣ではなく英雄たる剣を守る盾だからね、気にする事はない。キミはキミの役目を果たせばいい」
「は、はい……」
イーディスはそう優しく微笑むと、仲間たちを見る。
「そして、剣の役目は――彼らに任せよう」
ハンターたちは長距離砲の攻撃に晒されながらも、何とかツィカーデの陣取る丘の傍まで辿り着いていたのだ。
イーディスの言葉に呼応するように、何人かのハンターが近接武器を携え、突撃の構えを見せる。しかし、それよりガーダーキャノンの機関砲が火を噴いた。銃弾は荒れ地を抉りながら、ハンターたちの方へと迫る。
しかし、横合いから放たれた弾丸がGCのガーダーに着弾。その衝撃で火線が逸れる。
「ふふん♪ 折角ここまで辿り着いたんだ。邪魔はさせないよ♪」
Kurt 月見里(ka0737)は、なおも銃撃でガーダーの攻撃を逸らしながら不敵に笑った。
「2発目3発目を撃たせたら、流石にヤベーよなっ! 何にせよ、俺たちは囮……なら、速攻あるのみだ!」
真っ先に動いたのは旭岩井崎 旭(ka0234)だった。覚醒により梟の頭を持つ鳥人のような姿となった彼はマテリアルを燃やして、低姿勢のまま信じられないような速度で大地を駈ける。
その目標は丁度ツィカーデの傍に立つような形で待ち構えるGCである。
既にGCも、旭の存在を察知し機銃を放つが、旭は更に速度を上げてそれを回避しつつ、一直線に敵へと迫る。
「さあ、砲撃の返礼と行くぜッ!」
そのまま、GCに向けて鋭い突きを繰り出す旭。速度、角度共にそう簡単には回避できない一撃の筈だ。
「なっ……?」
旭は驚愕した。突如、彼の眼前からGCが消えたのだ。
正確には、GCは直前でブースターを吹かし、頭上に飛び上ることで旭の必殺の突きを回避したのだ。
「しまった……!」
歯噛みする旭。
そう、GCは単に攻撃を回避しただけでなく、旭の進路上に盾から機雷を投下するのを忘れなかったのだ。
なまじ、最高速度で突っ込んだばかりに急停止は不可能。機雷が爆発し、旭は否応なくそれに巻き込まれた。
「旭さん!?」
悲痛な叫び声を上げ、紫苑がイーディスの盾の陰から飛び出した。
しかし、これで一時的にツィカーデはがら空きとなった。
「妹がスペルランチャーのエネルギー供給に行ってるんだ。攻撃させる訳にはいかないよ!」
天竜寺 舞(ka0377)はその隙を逃さず、クレイモアを構えて一気にツィカーデへと肉薄する。
「妹……? 姉妹揃って革命軍に与するなんて!」
それを聞いたツィカーデ悔しそうに呟くと、長距離砲を片手で保持したまま腰を低く落とし、マントの下に手を入れる。直後、何か重いものが嵌る金属製の音が響いた。
「ここが年貢の納め時だよ!」
剣にマテリアルを込め、素早く振りかぶる舞。その一連の動きは決して遅くはなかった。
「……なっ!?」
しかし、舞が気づいた時には既にツィカーデは舞の懐……クレイモアの間合いの内側へと飛び込んでいたのである。
驚愕に目を見開く舞。振り上げられたツィカーデの拳には、機械的なデザインのガントレットが装着されており、そのガントレットには鈍く光る金属の杭が装填されていた。
「……!」
身を捻じって回避しようとする舞にツィカーデの拳が叩きつけられる。
同時に、ガントレットから勢いよく杭が打ち出され舞の胴体を無残に貫く。
「あ……!」
血を流しながら吹っ飛ばされる舞。激痛にその意識が遠くなっていく。
「舞さんっ!」
咄嗟に駆け寄ろうとする紫苑。
一方、この光景を見たマッシュは確信していた。
「あの傷跡……、オレーシャ兵長をやったのは貴女でしたか」
直後、頭上からGCの機関砲が降り注ぐ。
「上か!」
盾を構えるマッシュを翻弄する様に銃撃を繰り返すGC。しかし、GCが高度を下げた瞬間であった。
「派手に暴れさせてもらうぞ!」
榊 兵庫(ka0010)の振り上げた長柄の槍が、見事にGCの胴体を打ち据え、地面に叩きつけたのだ。
空中からの攻撃を妨害されたGCは素早く、起き上がると再びシールドに内蔵された機雷散布装置を起動させた。
「邪魔な機械人形め、お前に興味はねえんだよ!」
その光景を見たキー=フェイス(ka0791)は舌打ちすると、ばら撒かれた機雷に向かって拳銃を連発した。
その内の一発が遂に命中。GCから充分に離れる前に暴発した機雷は、他の機雷にも誘爆し、大爆発がGCを飲み込んだ。
「いいね……この奪い奪われる、闘争の気配。さあて、それじゃあ俺も参加するかね」
イブリス・アリア(ka3359)は、ニヤリと笑うとゆっくりと刀を引き抜いた。爆炎の向こうではGCが未だに防御姿勢を取ったままだ。
絶好のチャンスを逃さぬよう、イブリスはマテリアルで自身の動きを極限まで加速すると大地を蹴った。
「狙うべきは弱点かね……機械化してない頭や胴体に核でもあれば手っ取り早いんだが」
爆発の衝撃もあって、反応が遅れたGCの胴体つまり朽ちた死体の部分にイブリスの刃が打ち込まれた。
「どうだ?」
だが、GCはすかさずガーダーの側面で、イブリスを打ち据える。
強烈な衝撃に吹き飛ばされたイブリスは何とか体勢を立て直し、敵の攻撃に対して備えるべく身構えた。
しかし、GCは直ぐには動かない。いや、動けなかった。まるで、機械が動力部に損傷を受けたかのようにその動きがぎこちなくなる。
「効いているのか……?」
眉を顰めるイブリス。だが、彼が再び武器を構えた瞬間ツィカーデが叫んだ。
「一旦後退せよ! 援護する!」
砲を構えるツィカーデ。
しかし、その時ツィカーデの死角と思われる方向――目が包帯に覆われている方角からマリーシュカ(ka2336)が飛び込んで来た。
「この格好……話に聞いていたアイゼンハンダーに似ているわね。やっぱり旧帝国絡みかしら」
猛然と大鋏を突き出すマリー。
しかし、相手はやはり人間ではなかったというべきか、片目にもかかわらず迅速に反応したツィカーデは素早い素早く身を躱すと先程舞に打ち込んだパイルバンカーを再度構える。
「伏兵だと!? 小癪な!」
だが、今度は反対方向からティーア・ズィルバーン(ka0122)が斧を構えて切り掛かる。
「兵長をやったのはお前だな! いい加減邪魔すんの諦めやがれ。その腐った誇りと一緒にその砲置いてけやぁぁぁ!!」
「お前は、ここで討つ……!」
更に、機導剣を構えたオウカや、他のハンターたちもツィカーデも抑えに回る。
一方、指揮官の支援を期待できなくなったGCはそれでも何とか体勢を立て直し、機銃掃射でハンターたちを牽制する。
「全く、流石は死体というべきか。往生際が悪いね」
大盾の背後に負傷したハンターたちやそれを治療する紫苑を庇いながらイーディスが顔を顰めた。その盾に弾丸が降り注ぎ火花が散る。
「これだけ、撃っても弾切れしないなんて、反則だよね」
Kurtは、陸上用の弾丸に換装した水中銃を打ちながら舌打ちした。
一方、マッシュは構えた盾の影で、黄金に輝く戦槌を握りしめる。
「滅んでいただけませんか……!」
マッシュの手から投擲された槌は、見事にGCの銃口に直撃。周囲に雷鳴のような轟音が轟き、GCがよろめいた。
「あれを撃たせたら終わりやからな、行くで!」
文太はその隙を逃さず、マテリアルを込めた弾丸を遠距離からGCの本体に向けて放った。
強力なマテリアルの籠もった弾丸に貫かれたGCの頭部は無残に爆散する。
だが、頭部を失ったGCはなおも銃弾を闇雲バラ撒き続ける。
「しつこいな。もう、弱点は解っている!」
だが、そこでイブリスが再度死体に刀で切りつける。
「これで、終わりだ!」
更に、榊の突き出した槍を死体部分に受け、ようやくGCは黒い霧となって消滅。後に残された手足も、爆発した。
●
複数のハンターを相手にし、更に接近戦では無用の長物と化す筈の長距離砲を保持したままでいてなお、ツィカーデは優勢であった。
最小限度の動きで多方向から襲い掛かるハンターたちの刃を躱し、徒手空拳のみで重い一撃を打ち込んで行く。
迂闊に仕掛ければ舞同様パイルバンカーの餌食になる事が解っている以上、ハンターたちも攻めあぐねていたのだ。
「間もなくエイゼンシュテイン閣下の指揮の下、革命軍の魔導アーマー部隊が貴軍を撃滅するわ。投降しなさい」
間合いを取りながら、マリーシュカはふと思いついたままに挑発を口にする。
時間稼ぎが目的だったのだが、彼女は言ってすぐに後悔した。
「……この手の品の無い口上は苦手だわ」
しかし、この言葉は意外な効果をもたらした。
「エイゼンシュテイン……? 革命の狂犬の名前を、お前が何故知って……くぅっ?」
まるで、思い出せない何かを思い出そうとするかのようにこめかみの辺りを抑えるツィカーデ。
「革命なんて、とっくに終わってるんだよ!」
咄嗟に踏み込もうとするティーア。しかし、ツィカーデは素早く立ち上がると再度パイルバンカーを構える。
「迂闊に踏み込むな」
後方から響いて来た声に、ティーアは踏み止まる直後、空を切って落下して来た複数の投槍がツィカーデの足元に突き刺さった。
これを好機と見て、Kurtもツィカーデに対する牽制を始めた。
「つまんない死体のお守りも終わったみたいだし、折角だから、俺とちょっと遊ばない?」
訂正。ナンパを始めた。
「戦闘は継続している! 場を弁えないのか! 貴様、どこの師団の所属だ!」
当然ながら、ツィカーデは怒鳴る。
「あ、俺はKurt! ハンターやってるんだ。よろしくね♪」
「傭兵か! 規律が弛みきっている! これだから革命軍は……!」
ツィカーデかKurtに狙いを定めたのを見て、負けじとキーもナンパを始めた。
「よっ、カワイコちゃん。その眼帯の下と、外套の下が気になっちまって、今夜は眠れそうにないぜ!」
「ふ、服の下!? 夜!? ……破廉恥な革命軍めぇ!」
血の気の無い顔を真っ赤にして、ツィカーデが怒鳴った瞬間、柊 真司(ka0705)が馬に乗って猛然と駆けて来た。
「仲間はやらせねぇ! 何が何でも機導砲は破壊する!」
馬に乗ったまま、ツィカーデの長距離砲に雨あられと弾丸を打ち込む真司。
「龍騎兵だと!?」
突然の奇襲に歯噛みするツィカーデ。
「一気に破壊させて貰うぜ!」
すれ違い様に更に猛射を浴びせる真司。弾丸の殆どは砲身に命中したが、一部の弾丸が砲を持つツィカーデの腕にも着弾し、火花を散らす。
「次は、あたしの番だね。元オペ子だからって甘くないよ!」
この派手な攻撃に乗じて反対側から接近していたシンシア・クリスティー(ka1536)も有効な距離まで近づくと、砲身に向けてフレイムアローを連射する。
「おのれ、革命軍め……! この装備では……!」
ツィカーデの長距離砲は、ある程度距離が離れていれば先程のように拡散弾などで複数の敵を纏めて相手にする事も出来た。
しかし、こうしてある程度接近されてしまえば却って邪魔になる。そして、この場合頑丈なツィカーデ本体に対して試作品である砲は余りにデリケートだ。
しかし、敵の部隊を砲撃するにはこの武器は不可欠。こういった事情もあって、ツィカーデはダメージこそ受けていないものの苦戦を強いられていたのである。
「如何にもって感じだね……こんなはた迷惑な代物にはさくっと退場してもらいたいところだけれど……」
奇襲の機会を伺いながら、星垂(ka1344)はじっと敵の様子を観察していた。真司やシンシアの攻撃で砲は所々破損しているように見える。
「確実に、ここで壊さないと」
ふと、星垂が周囲を見ると同じように好機を伺って身を伏せているユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)、アルファス(ka3312)の二人と目が合った。
「やるしか……無いか」
星垂はそれ以上時間を無駄にしなかった。
二人に向かって頷いて見せると、敢えて真正面からツィカーデに突っ込んでいく。
「また新手か!」
ツィカーデは再度パイルバンカーをセットし、星垂の方に向かう。
「早い……!」
星垂が不意を突き、接近戦で有利な短刀を握っていたにもかかわらず、ツィカーデは闇色の刃の軌跡を掻い潜ってその血塗れの杭を星垂に突き立てる。
「あうっ……」
血を流して、吹っ飛ぶ星垂。しかし、その瞬間砲身の方は完全にがら空きであったのだ。
「後は、頼むよっ……!」
薄れていく視界の中、飛び出したユーリとアルファスの姿を確認した星垂はそう笑った。
●
「アレを破壊して……CAMを止める!」
機械に詳しいアルファスは、外見からある程度砲の構造に見当を付けた上で、狙った部位に向け渾身の機導剣を振り抜いた。
マテリアルの閃光が煌めき、砲身の一部が深く斬られる。
「何だと!?」
星垂を撃ち抜いた杭を再度収納したツィカーデが叫んだ時には、既に姿勢を低くして飛び込んで来たユーリが、アルファスの作った傷口に自身の剣で第二撃を入れていた。
「思い通りにはさせません!」
ユーリが叫ぶ。
「撤退するよ! ユーリ!」
アルファスは咄嗟にユーリを抱えて飛び下がる。
ツィカーデは砲を構えて二人を狙うが、そこに真司とシンシア、そしてKurtや文太、キーも集中砲火を浴びせる。
「革命軍め、革命軍め!」
集中砲火を浴びた砲は、部品や装甲を飛び散らせ、更にショートした様子を見せる。
同時に、銃と接続されていた腕も激しい攻撃で表面が剥げ、義手としての姿を露わにした。
「あら、あなたも義手だったの? なら、遠慮することは無いわね」
マリーシュカはそう言って自身の大鋏でツィカーデの義手を挟む。既に、集中砲火で損傷していたツィカーデの義手が軋んだ。
「しまった……!」
「このまま、ちょんぎってしまいましょう!」
甲高い金属音が響き、呆気なく義手は捩じ切られた。
CAM実験場の周辺で「アイゼンハンダー」と交戦したハンターたちにとってはどれだけ攻撃しても傷つけられなかったあの義手とは対照的に余りに呆気なく、である。
「やった……!」
土煙と共に、荒れ地に落下したシュバルツェス・ランゲブルーノ砲を見てティーアが叫ぶ。
「……やはり、この腕では駄目です。軍医殿」
手首の辺りで切断された義手を一瞥し、目を閉じて静かに呟くツィカーデにマリーシュカは、鋏を突きつけた。
「なら、どんな腕なら良いというの? ……さあ、今度は冗談ではないわ。投降しなさい」
『無論、この儂よ! この儂のみがツィカーデに相応しい!』
突如、遥かな高空から響いて来たこの世の物とも思えぬ声が周囲の大気を震わせる。直後、帝国では珍しくない曇天の厚い雲を突き破って黒にも紫にも見える禍々しい光の柱が一直線に地上のツィカーデを照らす。
「やっと来たんだ? ……遅いよ」
ツィカーデの黄色く濁った瞳がゆっくりと開かれる。
同時に、ツィカーデは両足を広げると、手首から先を失った義手を高々と天空に差し上げる。
直後、天空より鈍く輝く鉄塊が高速で落下し、ツィカーデの義手と衝突して凄まじい衝撃が大地を駆ける。
慌てて盾や腕で身を守ったハンターたちが目を開けると、既に光は収まっていた。
そして、ツィカーデが、新たに装着した巨大な義手をゆっくりと構え、ハンターたちを睥睨する。
「あれは……!」
ユーリが鋭く息を飲む。
「うん。間違いないね」
彼女とアルファス、それにティーアとマッシュもその義手の形状には見覚えがあった。
「辺境からここまで飛んで来たってのかよ……」
ティーアが呟く。
「それに、そのふざけた格好……なるほど。貴女も、いや「貴女が」というべきでしょうか?」
マッシュも相手を睨む。
戦闘の余波と、合体の衝撃か、もともとボロボロだったツィカーデのマントは失われ、その下の、帝国軍の制服が顕わになっていた。
少女の外見。
旧帝国軍の制服。
そして、不釣り合いに巨大な鋼鉄の義手。
実験場周辺での「アイゼンハンダー」との戦いに参加した者も、そうでない者もようやく理解した。
『左様! 辺境で貴様らが滅ぼしたのは、あ奴の下らぬ戯れのために調達された出来損ないに過ぎん。『儂ら』こそ貴様らの言う『災厄の十三魔』が一位、アイゼンハンダーよ!』
今や、義手に絡みつく人魂のような形状になった黒い亡霊が嘲笑する。
その義手が、蒸気を吐いたかと思うと、幾つかのボルトや装甲が外れ、義手はより攻撃的な真の姿を露わにする。
『では、ツィカーデよ! 挨拶代わりの一発と行こうではないか!』
ツィカーデは、地面に転がっていた長距離砲を足で蹴り上げて、残っている方の腕で掴むと、無言でその巨大な義手を振り被り、地面に叩きつけた。
●
「なんですの!? あれは!」
同時刻、ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)は驚愕に目を見開いた。
ベアトリスたち六名がいる場所は、ツィカーデの陣取っていた高台からはかなり距離があった。
にも、かかわらずベアトリスの居る位置からも、丘そのものを覆い尽くす凄まじい爆発と黒煙ははっきりと認識できた。
この時点のベアトリスたちには知る由も無かったが、それこそが真の義手と合体したツィカーデの、いやアイゼンハンダーの一撃だったのだ。
「く……向こうも、心配ですが、今はこちらに集中しなければ……!」
ベアトリスが眼前のグレイブワーカーLSに注意を戻した瞬間、彼女の傍らで前衛を支援していたTail・Raccon(ka3447)が敵に向けてホーリーライトを放った。
「気をつけろ! こいつら、突破を狙っているぞ!」
そうTailが叫んだ直後、輝く光の弾が二体のLSの内、前衛に居た方に命中する。
「任せて、ボクが止めるよ!」
オキクルミ(ka1947)はそう叫んで、手近な一体との距離を詰める。
「これ以上、行かせる訳にはいかないわ」
同時に、シエラ・ヒース(ka1543)ももう一体に対して猛然と攻撃を仕掛けた。
二人の狙いは、自身の武器を叩きつけてLSを弾き飛ばし、すこしでも時間を稼ぐことである。
だが、二体のLSはそれを呼んでいたかのように背部のバーニアを吹かすと、高く飛び上がり、二人の頭上を跳び越える。
「おいおい、おっさんを走らせるんじゃねえよ……ま、最低限の仕事はこなしますかねっとぉ」
だが、敵がそう来ることはハンターたちも予測していた。
後衛の鵤(ka3319)は銃を構えて駆け出すと、着地しようとするLSの脚部に向けて引き金を引く。
だが、LSの機械化された手足に施された装甲は、弾丸を弾く。更に、LSは鵤に向けて自身の機導剣を伸ばして、その身体を貫こうとする。
「おっとぉ、そう来ることはおじさん解ってたよ」
だが、鵤も咄嗟に盾を構え、何とかその攻撃に耐える。
「汚らわしい改造死体共に易々と突破を許す訳がありませんわ!」
ベアトリスも、同様に伸ばされた剣を盾で防御しつつ接近し、相手の動きを封じるべくエレクトリックショットを放つ。
だが、死体のマテリアルを動力にして機械の手足を動かしているグレイブワーカーに、この攻撃は効果が薄く、動きを封じるには至らない。
そして、二体のグレイブワーカーは再度跳躍の構えを見せる。
「そう簡単に行かせる訳には行かないんですよね」
しかし、そこにルーメンスピアを構えたGacrux(ka2726)が突っ込んで来た。光の力を纏った十字の穂先が全力でLSの一体の死体部分に向かって突き出される。
素早く、アクロバティックな動きが身上のグレイブワーカーではあったが、跳躍の直前を狙ったのが功を奏し、渾身の一突きはGacruxの狙い通り、敵の背骨をも貫通した。
「ルクス君、避けて!」
「え、鵤さん……がはっ!」
しかし、敵の機導剣に注意を払っていなかったGacruxは自身が貫いたLSの機導剣で胴体を貫かれてしまう。
「くそ……!」
咄嗟に、治療のためTail はGacruxに駆け寄った。
一方、LS二体は更に距離を離そうとするがやはり、Gacruxの攻撃は致命的だったのか、槍で突き刺された方は、動きが目に見えて鈍っていた。
「よくも、ルクス君を……おっさん怒っちゃったよ!」
死体部分が弱点であると解った鵤は徹底的に弾丸を撃ちこむ。
「早く、止めを!」
そこに、ベアトリスも集中砲火を浴びせる。
「行かせない……!」
最後に、シエラの槍が死体の髑髏を貫く、二回目の光による攻撃を受けたLSは、今度こそ倒れ、その死体部分は黒い霧となって荒野に散っていた。
しかし、この間にもう一体は更に距離を稼いでいた。
迎撃班はGacruxと、彼の治療にTailを取られ手数が足りない。また、まだ動けるメンバーの傷も決して浅くない。
強力な改造ゾンビである敵に対し、やや戦力が少なかったこと。そして、その戦力を戦術で埋め切る事が出来なかったのが原因だろうか。
それでも、ハンターたちは何とかLSを止めようと銃を放つ。と、銃撃を受けたLSが大きく身をかがめた。
「また飛ぶつもりですの?」
ベアトリスは敵の動きを先読みして銃を上に向ける。
しかし、直後LSは跳躍するのではなく、地面を滑るように移動した。スライディングである。
「しまった……」
歯噛みするベアトリス。咄嗟の事で狙いが逸れる。
「コイツはボクが引き受けた! とりゃー!」
しかし、LSが身を起こそうとした瞬間、この時とばかりオキクルミがLSの上に馬乗りになった。
全力で相手を抑え込もうとするオキクルミ。しかし、LSはもがきながらその機導剣でオキクルミの細い体を貫く。
「くぅ……可愛い女の子に乗っかってもらってるのに、そのありがたみが解らない何て……はっ! だからこそ!? ……とにかく、このっ、このっ!」
何やら意味の解らない事を叫びながらオキクルミも斧で相手の頭部を打ち据える。
だが、やはりグレイブワーカーの力は凄まじくオキクルミが脱出されそうになった瞬間、再び高台の方で爆発が起きた。
●
『これはどうした訳だ!? 欠陥品め!』
義手の亡霊が喚く。
炸薬によるパンチで丘ごと周囲のハンターたちを吹き飛ばしたアイゼンハンダーは、地形ごと吹き飛んで、丘のあった場所に現れたクレーターの中心で悠々とシュバルツェス・ランゲ・ブルーノ砲による、ブリジッタやナサニエルたちスペルランチャー部隊への砲撃に成功……した筈であった。
「ごめんなさい」
むしろ、冷静なのはアイゼンハンダー本体の方であった。
「二人で、ギリギリまで出力を調整したのはいいけれど、革命軍の攻撃で生じた砲身の損傷を計算し切れていなかったみたい」
そう、仮にスペルランチャー部隊に命中すれば恐るべき被害をもたらした筈の砲撃は、発射直前で砲身が暴発し、エネルギーの半ばは周囲に拡散し、発射された分も全く見当違いの場所に着弾して失敗したのである。
『ぬぅ……! お主のせいではないぞ、あ奴がこのような欠陥品を……!』
当然、砲は完全に壊れて発射不可能となっている。
「試作品なのは解っていた筈。軍医殿のせいじゃないよ。それと、備えて」
ツィカーデの警告に、亡霊は咄嗟にスペルランチャー部隊の陣取る方角を見た。
『ク、所詮はデク人形……遊戯とやらも、ここまでか!』
アイゼンハンダーの視線の先で、動きを封じられた歪虚CAMがスペルランチャーの閃光に飲み込まれていく。
直後、スペルランチャーの光は、アイゼンハンダーをも飲み込んだ。
●
オキクルミの決死の足止めで、スペルランチャー発射前にスペルランチャー部隊に辿り着けなかったグレイブワーカーは、歪虚CAMが破壊されたのを確認すると、最早スペルランチャー部隊に興味を示さなかった。
ようやく引き剥がしたオキクルミの手当てに追われるハンターたちを無視して荒野を跳躍し、アイゼンハンダーのパンチとスペルランチャーの直撃でもはや焼け野原と化した荒野の中心に辿り着く。
そこでは、全く無傷のアイゼンハンダーが完全に使い物にならなくなった大砲の残骸を義手から切り離して担いでいた。
「戻ったか。バテンカイトスの様子も気になる。一刻も早く帰投するぞ」
そう言ってから、ツィカーデはふとこちらをじっとみる痩身の男、エイゼンシュテインに気付いた。
「アレを受けて無傷とはな。これが、お前の手に入れた歪虚の、十三魔とやらの力か。……ツィカーデ一等兵」
ゆっくりと口を開くエイゼンシュテイン。あくまでも爆風で吹き飛ばされただけで、直撃は避けていたせいか、深手を受けながらも立ちあがった数名のハンターたちも、固唾を飲んで二人の会話を見守っている。
「……? 誰だ? 何故、私の名前と昔の階級を知っているっ」
「お前のその片目は覚えていないのか。私の片目は良く覚えている」
「誰だと聞いて……くぅっ」
再び、頭を押させるアイゼンハンダー。
『叛徒共の戯言に付き合うな! ……そこの貴様、女々しいぞ。お前が誰であろうと、この娘は既に我が物……いや、最早一心同体よ』
「良かろう」
エイゼンシュテインは全く感情を覗かせず淡々と言う。
「ならば、私も言う事は無い。お前が私の過去であっても、最早敵である事には変わらない」
「はぁっ、はぁっ……革命軍! 今回は……今回だけはお前たちの勝ちだ。だが、お前たちのそれは所詮は戦術的勝利に過ぎない……! 今回の作戦で貴重なデータも手に入った……次は、必ず……!」
そう言い捨てると、アイゼンハンダーはグレイブワーカーと共に、荒野の彼方に去って行く。
最早、これ以上、ハンターたちに用は無いとばかりに。
「畜生……!」
埃塗れのティーアが、拳を地面に叩きつける。
「状況を把握出来ないのかしようとしないのか……もはや帝国軍人であった自分が大事なだけにもみえてしまいますね……」
ようやく追いついて、何とか敵の姿をこの目で見る事は出来たベアトリスも複雑そうな表情で呟く。
やがて、剣魔の迎撃に向かったシュタークたちや、海上で量産型リンドヴルムの迎撃に当たっていたユーディトたちからも勝利の報告がもたらされる。
しかし、スペルランチャー部隊の待つ本陣に帰還するハンターたちは重苦しい雰囲気に包まれたままであった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/06 04:31:21 |
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作戦相談卓 ティーア・ズィルバーン(ka0122) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/10 12:43:35 |