ゲスト
(ka0000)
【虚動】災厄天を仰ぐ
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/10 19:00
- 完成日
- 2015/01/18 08:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「不気味な男だ……もはや人外となった俺が不気味というのも妙な話だが」
フリッツ・バウアーは剣機の背に乗り空を行く。目線の先にはフードを被ったもう一人の歪虚。確か、ヴォールと言ったか。ここに至るまで作戦以外の会話は特になく、その為人も分からずじまいだった。
階級も分からないが、直属の上司でないということは間違いない。ならば本来敬意を払う必要もなければ、命令に従う必要もない。とはいえ、上から協力するように言われている以上は当面従うとまではいかなくとも、協力する必要はある。
「まぁどうでもいい話か。俺は俺の任務を果たすまで」
フリッツが今回与えられていた任務。それはCAMの回収だ。仮に破壊されていても残骸ぐらいは確保する必要がある。その為に量産型の剣機リンドヴルムをこれだけ揃えてきたのだ。
「ここまでさしたる抵抗も無し……当然だな、ヒンメルリッターの数ではカバーしきれまい。だがそろそろ……」
周囲を見回すフリッツは、やがて眼の端に探していたものを捉えた……グリフォンだ。
「いたな……」
楽しそうに……心底楽しそうに口角を吊り上げたフリッツ。空戦を行える敵群がいる以上、それを排除して任務に臨まなければ……だから、これは命令に違反しているわけではない。その範疇での行動だ。
「俺はあれを足止めする……一人で十分。とはいえ、追手を0には出来ないだろう」
「追手が来ようとも我を害することは叶わん。好きにするがいい」
「……了解した」
それだけ告げると、すぐにフリッツはヴォールと距離を取る。
(不気味な男だ……)
結局、その印象が変わることは無かった。
●
「来やがった、量産型剣機だ!」
「リンドヴルム型、もつけるべきじゃないかしら? トウルスト型と区別しないと」
「細かいことはいんだよ! 腕が鳴るぜ……なぁブリッツ!」
「まったく……大声でグリフォンの名前まで呼んで……ホント男って……」
うるさいぐらいにやる気にあふれるオットー・アルトリンゲン。そして、その後ろからやれやれと言った表情を浮かべながら追従していくサラ・グリューネマン。両者ともヒンメルリッターに3名のみ存在する兵長であり、団の最高戦力と言っても差し支えない。
加えて、今回の作戦にはこの兵長たちを先頭に、30騎近いグリフォンライダーが出撃している。交戦予測ポイントがグライシュタットとそう離れていないため戦力を多く割けたというのが大きい。
「ん? あれは……誰か乗ってるみたいだな」
接近してくるリンドヴルムの中に人が乗っている個体を見つけたオットーは、あれが親玉だろうと判断した。それに対し攻撃を仕掛けるため武器を構え直し……
「待つんだ」
そこを進路に割って入ったロルフに止められた。倣うように、サラも近くでグリフォンを留める。
「うわ、なんだよ団長! 危ねぇだろ!?」
「何故止めたんですか……?」
「敵の目的はCAMだ。そう考えるとそろそろ……ほら」
見ると、リンドヴルムたちがコンテナを投下している。
「コンテナを落として……結界まではまだ距離があるのに……」
「こちらと交戦状態に入る前に重りを無くして、強引に突破しようとしているんだろう。2人は兵を指揮して可能な限りあいつらを落としてくれ」
「おいおい、じゃああの親玉っぽいのは団長がやるのかよ! ずるいぜ、俺が先に見つけたのによ!」
「団長命令だ。頼むよ、二人とも」
「ちっ……了解」
団長命令は絶対だ。納得できないという表情を浮かべながらも迎撃態勢を取るオットー。サラもやはり不服そうな表情だがそれに続く。
コンテナを落とし速度を上げたリンドヴルムはロルフに見向きもせず駆け抜けていき、それを後方のグリフォン達が攻撃し撃墜しようとする。
だが、その中の1体だけは、空に留まるロルフの前で停止した。
「あの時の生き残り……現師団長のロルフ・シュトライトだな」
「フリッツ・バウアー……」
「他の連中はリンドヴルムの撃破に向かわせ、俺には貴様一人で当たると……舐められたものだな」
実際は違う。ロルフは分かっていた。フリッツに空戦で対抗できるのは自分しかいないということを。他の人間が当たったところで、被害をいたずらに増やすだけだということを。
「あの時は手傷を負っていたからな。退かざるを得なかった……だが、今回はそうはいかんぞ? すぐに貴様を倒し、残ったヒンメルリッターどもを皆殺しにしてやる!」
「僕も、あの時とは違うのでね……『双撃』のシュトライト、参る!」
ロルフは愛用する双剣を引き抜き、リンドヴルムに突撃した。
●
リンドヴルムたちが落としていったコンテナ。そこには多数のゾンビが搭載されていた。
これらが狙っているのは考えるまでもない……CAMだ。結界の防衛を担っていた軍とハンターの一部はこれらの迎撃を行っていた。
コンテナを投下したリンドヴルムたちはそのまま自分たちの頭上を結界に向かって飛んでいき、第5師団のグリフォン達がそれを追いかけていく。頭上に残ったリンドヴルムは一体、それを抑えているのはたった一頭のグリフォンだけだ。空で戦う術を持たないハンターたちにはそれに関してどうこう言う事は出来ない。彼らに出来ることは目前の敵を倒すことのみ。
ハンターたちは、それぞれの考えを持ってゾンビたちに立ち向かう。しかし敵は多数。どんなに安全策を取っていても多少の損耗は避けられない。
そんなどこか不利な状況での戦闘が始まってから何分かが経過した後のことだった……先程まで空で戦っていたはずのリンドヴルムと、グリフォンが落ちてきたのは。
グリフォンの背に乗っていたのは第5師団の師団長だった。彼が何かしたのか、それともはるか後方にある結界が上手くいったのか……
「ちっ……やってくれたなロルフ・シュトライトめ」
リンドヴルムの背から降りてきたのは血色の悪い男。彼がフリッツ・バウアーだと知っている人間はこの場にどれだけいるだろう。だが、知らなくとも彼の目的を想像することは難しい事ではない。空を飛ぶことの出来るリンドブルムを利用して防衛網を突破し、CAMを回収しようというのだろう。
「この愚図め! とっとと起き上がれ!」
傷ついたリンドヴルムに怒声を浴びせるフリッツ。リンドヴルムはまだ息はあるようだ。立ち上がろうとしているようにも見える、恐らくはその気になればまだ飛べるのだろう。
戦闘に疲労していたハンターたちではあったが、誰からともなく武器を持ち直す。リンドヴルムはこの場で倒さなければならない。たとえどんな障害があったとしても。
「不気味な男だ……もはや人外となった俺が不気味というのも妙な話だが」
フリッツ・バウアーは剣機の背に乗り空を行く。目線の先にはフードを被ったもう一人の歪虚。確か、ヴォールと言ったか。ここに至るまで作戦以外の会話は特になく、その為人も分からずじまいだった。
階級も分からないが、直属の上司でないということは間違いない。ならば本来敬意を払う必要もなければ、命令に従う必要もない。とはいえ、上から協力するように言われている以上は当面従うとまではいかなくとも、協力する必要はある。
「まぁどうでもいい話か。俺は俺の任務を果たすまで」
フリッツが今回与えられていた任務。それはCAMの回収だ。仮に破壊されていても残骸ぐらいは確保する必要がある。その為に量産型の剣機リンドヴルムをこれだけ揃えてきたのだ。
「ここまでさしたる抵抗も無し……当然だな、ヒンメルリッターの数ではカバーしきれまい。だがそろそろ……」
周囲を見回すフリッツは、やがて眼の端に探していたものを捉えた……グリフォンだ。
「いたな……」
楽しそうに……心底楽しそうに口角を吊り上げたフリッツ。空戦を行える敵群がいる以上、それを排除して任務に臨まなければ……だから、これは命令に違反しているわけではない。その範疇での行動だ。
「俺はあれを足止めする……一人で十分。とはいえ、追手を0には出来ないだろう」
「追手が来ようとも我を害することは叶わん。好きにするがいい」
「……了解した」
それだけ告げると、すぐにフリッツはヴォールと距離を取る。
(不気味な男だ……)
結局、その印象が変わることは無かった。
●
「来やがった、量産型剣機だ!」
「リンドヴルム型、もつけるべきじゃないかしら? トウルスト型と区別しないと」
「細かいことはいんだよ! 腕が鳴るぜ……なぁブリッツ!」
「まったく……大声でグリフォンの名前まで呼んで……ホント男って……」
うるさいぐらいにやる気にあふれるオットー・アルトリンゲン。そして、その後ろからやれやれと言った表情を浮かべながら追従していくサラ・グリューネマン。両者ともヒンメルリッターに3名のみ存在する兵長であり、団の最高戦力と言っても差し支えない。
加えて、今回の作戦にはこの兵長たちを先頭に、30騎近いグリフォンライダーが出撃している。交戦予測ポイントがグライシュタットとそう離れていないため戦力を多く割けたというのが大きい。
「ん? あれは……誰か乗ってるみたいだな」
接近してくるリンドヴルムの中に人が乗っている個体を見つけたオットーは、あれが親玉だろうと判断した。それに対し攻撃を仕掛けるため武器を構え直し……
「待つんだ」
そこを進路に割って入ったロルフに止められた。倣うように、サラも近くでグリフォンを留める。
「うわ、なんだよ団長! 危ねぇだろ!?」
「何故止めたんですか……?」
「敵の目的はCAMだ。そう考えるとそろそろ……ほら」
見ると、リンドヴルムたちがコンテナを投下している。
「コンテナを落として……結界まではまだ距離があるのに……」
「こちらと交戦状態に入る前に重りを無くして、強引に突破しようとしているんだろう。2人は兵を指揮して可能な限りあいつらを落としてくれ」
「おいおい、じゃああの親玉っぽいのは団長がやるのかよ! ずるいぜ、俺が先に見つけたのによ!」
「団長命令だ。頼むよ、二人とも」
「ちっ……了解」
団長命令は絶対だ。納得できないという表情を浮かべながらも迎撃態勢を取るオットー。サラもやはり不服そうな表情だがそれに続く。
コンテナを落とし速度を上げたリンドヴルムはロルフに見向きもせず駆け抜けていき、それを後方のグリフォン達が攻撃し撃墜しようとする。
だが、その中の1体だけは、空に留まるロルフの前で停止した。
「あの時の生き残り……現師団長のロルフ・シュトライトだな」
「フリッツ・バウアー……」
「他の連中はリンドヴルムの撃破に向かわせ、俺には貴様一人で当たると……舐められたものだな」
実際は違う。ロルフは分かっていた。フリッツに空戦で対抗できるのは自分しかいないということを。他の人間が当たったところで、被害をいたずらに増やすだけだということを。
「あの時は手傷を負っていたからな。退かざるを得なかった……だが、今回はそうはいかんぞ? すぐに貴様を倒し、残ったヒンメルリッターどもを皆殺しにしてやる!」
「僕も、あの時とは違うのでね……『双撃』のシュトライト、参る!」
ロルフは愛用する双剣を引き抜き、リンドヴルムに突撃した。
●
リンドヴルムたちが落としていったコンテナ。そこには多数のゾンビが搭載されていた。
これらが狙っているのは考えるまでもない……CAMだ。結界の防衛を担っていた軍とハンターの一部はこれらの迎撃を行っていた。
コンテナを投下したリンドヴルムたちはそのまま自分たちの頭上を結界に向かって飛んでいき、第5師団のグリフォン達がそれを追いかけていく。頭上に残ったリンドヴルムは一体、それを抑えているのはたった一頭のグリフォンだけだ。空で戦う術を持たないハンターたちにはそれに関してどうこう言う事は出来ない。彼らに出来ることは目前の敵を倒すことのみ。
ハンターたちは、それぞれの考えを持ってゾンビたちに立ち向かう。しかし敵は多数。どんなに安全策を取っていても多少の損耗は避けられない。
そんなどこか不利な状況での戦闘が始まってから何分かが経過した後のことだった……先程まで空で戦っていたはずのリンドヴルムと、グリフォンが落ちてきたのは。
グリフォンの背に乗っていたのは第5師団の師団長だった。彼が何かしたのか、それともはるか後方にある結界が上手くいったのか……
「ちっ……やってくれたなロルフ・シュトライトめ」
リンドヴルムの背から降りてきたのは血色の悪い男。彼がフリッツ・バウアーだと知っている人間はこの場にどれだけいるだろう。だが、知らなくとも彼の目的を想像することは難しい事ではない。空を飛ぶことの出来るリンドブルムを利用して防衛網を突破し、CAMを回収しようというのだろう。
「この愚図め! とっとと起き上がれ!」
傷ついたリンドヴルムに怒声を浴びせるフリッツ。リンドヴルムはまだ息はあるようだ。立ち上がろうとしているようにも見える、恐らくはその気になればまだ飛べるのだろう。
戦闘に疲労していたハンターたちではあったが、誰からともなく武器を持ち直す。リンドヴルムはこの場で倒さなければならない。たとえどんな障害があったとしても。
リプレイ本文
●
「ストゥール! へばるんじゃあないんだね!」
「分かっている、言われるまでもない!」
ニーナ・アンフィスバエナ(ka1682)とストゥール(ka3669)は死力を尽くして戦っており、他のハンターたちと比べてもかなり多くのゾンビたちを撃破していた。
とはいえ、その代償は大きく、スキルも全て使い付くし体力も限界が見え始めていた。
空から敵が落ちてきたのはそんな時だった。
「真下にいたら洒落にならなかったぜ……」
落ちたリンドヴルムの姿を眺めながら、ガルシア・ペレイロ(ka0213)は戦闘の最中にありながらもホッと胸をなで下ろす。ニーナやストゥールと比べるとガルシアは体力的にもかなり余裕がある。長期戦を視野に入れ、堅実な戦い方をしていたからだろう。
「せーが、なんだかおっきいのとかどっかーんですー」
「あぁ。やたらでかいのが来たな、こりゃ……」
氷蒼 雪月花(ka0235)の言葉に高嶺 瀞牙(ka0250)も頷いた。
「本当に……戦場では何がおこるのかわからないな」
仙道・宙(ka2134)はあっけにとられたかのように一時呆然とする。空から敵が降ってくる事態は想定していなかったようだ。もっとも、このゾンビたちも元はリンドヴルムにより運ばれ空から投下されたコンテナから出てきた敵なのだが。
「こいつを片付けない限り、要らぬ被害が出そうだな……」
榊 兵庫(ka0010)は呟き前に出る。ゾンビとの戦いで多少損耗はあったが、その言葉の通りリンドヴルムを倒さなければ……いや、倒せずとも飛ばせないようにしなければどれだけの被害が出るか分からない。
さらに、落ちてきたのはリンドヴルムだけではなかった。その近くにはグリフォンとそれに乗っていた男。そしてもう一人……
「ゾンビの次はリンドヴルムと……VOIDO?」
様子を見ていた無限 馨(ka0544)はしかめっ面を浮かべる。倒れているのは第5師団長のロルフだ。つまり、あの敵はその師団長と同格、あるいはそれ以上の強さということだ。
「なぁ、あいつ今……じぶんの乗騎に向かってなんつった?」
上空の様子をみながらスキルを温存していた岩井崎 旭(ka0234)。落ちてきてすぐはベルセルクのスキルは息が長めでよかった……なんてことを考えていたが、リンドヴルムの側に立つフリッツを見てその表情は変わった。あの男は、確かに言った。『愚図』と。自分の身を預けるべき相棒に向かってだ。馬に乗る人間として、その言葉は許せるものではなかった。
「リンドヴルム……あれを撃破するために時間を稼がないとならねぇ……でも、とりあえずは一発殴る! それが大前提だ!」
旭と似たような感情を持っていたのは春日 啓一(ka1621)だ。
以前フリット戦った際はその攻撃を受け意識を失ってしまった。だが今度は……
「……今度は、てめぇの好きにはさせねぇぜ!」
ハンターたちが各々行動を開始するとき、リンドヴルムを墜落させたロルフも痛む体をおして立ち上がっていた。痛む、とは言っても想定よりはずっと軽傷だ。
「結界の起動が上手くいったお陰だな……」
ただ、リンドヴルムを落とす際に反撃を受け乗騎であるグリフォンが怪我をしたようだ。少なくともこの戦闘中は飛べないだろう。再び飛ばれてもそれを追う手段は無い。ここで確実に仕留める必要がある。
「……それにしても、思ったよりゾンビ共が残っているな……よし」
そんなロルフの決意を知ってか知らずか、対面に立つフリッツはそう呟き懐から針のようなものを取り出した。それらをフリッツはゾンビに向かって投げ、突き射す。
「あの愚図を守ってやれ。弾幕を張り、敵の接近を許すな」
「それは一体何の真似……くっ!」
フリッツの行動を怪しむロルフだったが、周囲のゾンビから攻撃を受けたため、その行動の真意をすぐに察知することはできなかった。
●
「ロルフも大丈夫そうだね……一度下がって態勢をたてなおすんだーね」
「そうだな、死にかけ同士仲良くしようではないか」
ここまで激しい戦闘を繰り広げていたニーナとストゥールは一度後退。入れ替わるように兵衛が一路リンドヴルムに向かってかけていく。
「これは……!」
だが、その兵衛の前に数体のゾンビが立ち塞がる。先ほどまでとは違う、完全とまではいかないものの統率された動きだ。兵衛の脳裏に地上に落ちてすぐにフリッツがとっていた行動と言葉が思い起こされる。
「どういうことかは分からないが……あの言葉はゾンビたちへの命令というのは間違いないか」
ゾンビたちは手に付けられた銃器をすでに兵衛に向けている。
もとよりゾンビたちが立ち塞がろうともリンドヴルムの破壊を優先するつもりであったが……
「くっ……これは……!」
ゾンビたちは弾幕を張って兵衛を集中的に狙ってくる。連携を取って行動するつもりであったが、生命回復なり後退なりを優先した仲間が多い。
「くそ、邪魔だなこいつら……!」
ガルシアも兵衛同様に回復を後回しにしていたのだが、脚の速さに差があった。加えてフリッツの制御下にないゾンビであっても攻撃をしてきており、それらに足止めを食らうことになっていた。結果的に初動の足並みはそろわず、兵衛は一人先行する形になっていたのだ。
弾丸が兵衛を穿つ。攻撃を受けるにも限度があり、ゾンビとの戦いに消耗していた体力はさらに削られ傷が増えていく。
「……せめて……一太刀……!」
最後の力を振り絞り、兵衛は大地を踏みしめ体を前に。武器にマテリアルを込めながら、踏み込んだ勢いそのままにリンドヴルムに渾身の突きを放つ。
……だが、その攻撃は立ち塞がったゾンビに止められる。攻撃を受け止めたゾンビは兵衛の強烈な一撃により倒されたものの、リンドヴルムには届かず。
「くそ……」
口惜しそうにつぶやきながら兵衛は前のめりに倒れる。腹部には、先程倒されたゾンビの持っていた剣が突き刺さっていた。
「CAMのところに行かせるわけにはいかないっすからね。出し惜しみは無しでいくっすよ!」
反対方面から突っ込んでいくのは馨だ。マテリアルヒーリングを使っていた為初動は遅れた物の、瞬脚のおかげでその移動力は一時的ながら最も高くなる。その機動力を活かしてリンドヴルムに接近していく。だが、やはりその動きを妨げたのはゾンビたちの弾幕。兵衛と比べ回避に自信のある馨だが、攻撃の全てを避けきれるわけではない。傷はどんどん増えていく。
「まだまだっ!」
馨は邪魔なゾンビを斬りつけつつ横に躱しリンドヴルムに向かう。
「ちょっと位置が高いか……それなら、脚を!」
そのまま部位狙いで飛ぶのに重要であるはずの翼を狙う……予定だったが、巨体故に手持ちの短剣では届かず、脚への攻撃で妥協する。元々耐久力の高いリンドヴルムだったが、やはり墜落の際に受けたダメージが響いているのか、効果はありそうだ。
「よっし……うわっ!」
そのまま連続攻撃を……そう思った矢先、馨は追いかけてきたゾンビに捕まる。こうなると自慢の機動力を活かすことができない。
「しまっ……!」
馨は悲鳴を上げることもかなわず、ゾンビの持つ剣で滅多刺しにされその場に倒れた。
「ちっ……出遅れたな」
兵衛や馨が戦闘している間にガルシアはゾンビに受けた傷をマテリアルヒーリングで癒しつつ接近していく。しかし、リンドヴルムに近づくにつれゾンビからの攻撃が精度を増していき、すぐにマテリアルヒーリングでは抗せなくなる。
「あいつを倒したらゾンビの相手を……なんて考えてたが、ちょっと甘かったみたいだな」
この状態ではリンドヴルムには攻撃は届かない。ならばせめてと、ガルシアは立ち塞がるゾンビに槍を向ける。
攻めの構えを取り渾身撃を組み合わせた一撃は、銃弾を掻い潜りながらゾンビに突き刺さる。光の力を持つ槍の威力はゾンビに対しては効果的だ。一撃でゾンビは倒される。だが、その後に待っていたのは銃器による再度の集中砲火。為す術をもはや持たないガルシアは銃弾の雨を受け倒れた。
「くっ……まずいな」
宙はウィンドスラッシュでリンドヴルムの翼を狙う。フリッツの鞭による妨害も受けず、射程も十分以上確保できる。最も効率よくダメージを与えられるのが宙だった。さらに、もう少し近づければ……
(ファイアアローの射程に入る……)
火属性のファイアアローならゾンビ体が主のリンドヴルムにもかなりのダメージが与えられるはずだ。
だが、近づけば当然敵の攻撃に晒される。宙に目を付けたゾンビが銃撃を行う。
「ぐわっ!」
直撃を受けた宙はその場に倒された。思いのほか、あっさりと……
●
一方、ロルフはフリッツに対していた。もっとも、一対一というわけではない。周囲のゾンビが近づいて来て攻撃を行っていた。
「殴る! とはいっても……このままじゃまずいか。持ってくれよ……」
フリッツの前に立っているのは帝国軍の師団長。それと戦っているにも関わらず、余裕があるのはフリッツの方だ。その様子から油断がならないのは分かる。まずはやるべきことをやろうと、旭は自己治癒を行い体力の回復を行う。
「加勢するぜ!」
「っ! すまない、助かるよ」
周囲からゾンビの攻撃を受け苦戦するロルフ。そこに守りの構えを取りながら啓一が走り込んでくる。
フリッツはやってきた啓一を一瞥するが……そのままロルフへの攻撃を優先する。ロルフの方が脅威となる……そういう判断なのだろう。
ロルフの方もゾンビの攻撃を躱しながら機導砲をフリッツに撃ち込みながら応戦する。戦況は互角……とは言えない。周囲からゾンビの攻撃を受けている為、ロルフは攻撃を回避しきれていないようだ。
ならばと、啓一は警戒しながらもフリッツに向かう。ロルフの方に意識が向いている今がチャンスという判断だ。
守りの構えを解かず接近し……間合いの一歩手前から踏込み、ドリルナックルで殴りにかかる。
「喰らえ!」
「っと……その顔、見た覚えがあるな」
フリッツは、啓一の攻撃を躱すと、いつかと同じように蹴り飛ばし啓一と距離を取る。
「くっ……やっぱり単独じゃ厳しいか」
そのまま追撃しようと鞭を構えたフリッツだったが、その攻撃を中断し飛び退く。同時に、先程までフリッツがいた場所を機導砲が貫く。
「ふん、さすがに油断ならんな」
苛立たし気に呟くフリッツ。
(もっとも相手は二人、どうとでも料理することが出来る……)
そう思った矢先だった。
「こっちにもいるぜ!」
横から回り込んできた旭。うろつくゾンビを掻い潜り、フリッツに突っ込んでいく。
「なかなか鋭い動きだ。だが……直線的すぎるな!」
しかし、フリッツにはその動きが見切られていたようだ。すぐに鞭が飛んできて剣を絡めとる。
「くそっ……!」
悪あがきをするかのように、旭は剣を投げつける。だが、これは囮。旭はそのままさらに踏み込んでナックルを叩き込もうと……
「甘いな」
「っ!!」
不意に、旭は横殴りの衝撃に襲われる。鞭での攻撃……にしては質量が大きすぎる。吹き飛ばされながら横目で見て、その答えが分かった。フリッツは鞭で、味方であるはずのゾンビを捕え勢いよくぶつけてきたのだ。
「届かなかったか……でもな」
瞬間、旭は笑った。
「てめーの相手は、俺だけじゃないんだぜ?」
「油断したな、フリッツ!」
すぐさま撃ち込まれたロルフの機導砲がフリッツを襲う。
「くっ!」
機導砲は外れる者の、フリッツの態勢は崩れる。
「いいか良く聞け……こいつはここにいねぇレオーネの分だ!」
強く踏み込みながら撃ち込まれた啓一による殴打。さらに……腹部に捻じ込まれたナックルがそのまま射出され、フリッツの体ごと飛び、弾き飛ばす。
「何!?」
すぐにフリッツは態勢を立て直したが、その表情には驚愕の色が浮かんでいる。
「どうだ!」
「……なるほど、なかなか面白い手だ。今のは驚いたぞ……」
効果はあった……視線を横にずらすと、旭の姿。ゾンビを叩きつけられたわけだから無傷ではないが、それでもまだ戦えそうだ。
(ロルフもまだ余力がありそうだし、このままいけるか?)
そう啓一が考えた時だった。リンドヴルムが咆哮を上げたのは。
●
リンドヴルムが咆哮を上げる少し前……
「準備はいいのですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
瀞牙はマテリアルヒーリングを使用して自己回復を行った。その間雪月花は豆乳を飲みつつ待機していた。出来るだけ瀞牙の傍らでサポートをし、ともに戦いたいという考えからだろうが、結果的に行動に遅れた生じた感は否めない。
「さて……ロルフさんは無事みたいだな。俺達は剣機の方に向かおう……いくぞ、雪月花!」
兵衛やガルシアが受けたように、弾幕の洗礼を受ける。ただその数自体は先程と比べて減っていた。その分、つけ入る隙はある。
「主役はゆずるつもりだったけど、そうも言ってられないみたいだ-ね」
「確かに……ふははっ、今一度前座働きでもしようか!」
接近していく瀞牙、雪月花を見てニーナ、ストゥールは援護するために前進する。
「脇役が舞台にあがるんじゃなーいんだね!」
残った体力を振り絞りながら、ニーナは銃のトリガーを引く。だが、銃の射程は敵のそれとほぼ同じかそれ以下だ。当然敵からの攻撃に晒される。
「くっ……まだまだ! 寝るのは家に帰ってからでいいんだね!!」
ニーナに付き合うように前に出たストゥールも弓でゾンビを狙い撃つ。光の力を持つ弓の威力は抜群であり、二人はさらにゾンビの撃破数を増やしていく。
だが、その攻勢も長くは続かない。より近距離で戦っていたニーナが先に力尽きる。
「ニーナ君! くそ……」
歯を食いしばりながら弓を引くストゥール。弓の射程を活かせばより遠くから、より安全に攻撃が出来ただろう。だが、今となってはもう遅い。ストゥールにも銃弾が多数命中し力尽きる。
だが、その甲斐あってゾンビたちの防衛網は薄くなっていた。
「いける……援護頼むぞ雪月花!」
走り込んだ瀞牙は数の減ったゾンビたちの横を抜けリンドヴルムに肉薄する。ただ、このままだと馨と同様狙いの翼には攻撃が届かない。
「仕方ない……その図体を少し借りるぞ」
ならばと瀞牙はリンドヴルムの脚部に足を掛け跳びあがり、翼へ近接攻撃を仕掛けた。
「どかーんといくですよ!」
さらに、雪月花が翼を狙いホーリーライトを放つ。
二人の連携攻撃で翼にかなりのダメージを与えることが出来た。
「よし、上手くいった……っ!?」
「せーが!?」
翼にダメージを与えた瀞牙だったが、着地したタイミングをゾンビに狙われた。銃撃によりかなりのダメージを受けたかよろける瀞牙。すぐさま雪月花がヒールを使用するが、それでもダメージは大きい。
「くっ……一度離れるしかないか……」
瀞牙は雪月花を気にしつつもゾンビたちから全力移動で距離を取る。マテリアルヒーリングを使用する余裕を作るためだ。それに雪月花も続く。
「……間に合わないか?」
回復が終わったのと、リンドヴルムが翼を羽ばたかせるのはほぼ同時。もう飛ぶことを止めることは出来ない……そう思った矢先のことだった。
「空に戻るか……ならこれはその餞別だ」
その翼は空へと戻る前に炎の矢に貫かれた。これは宙によるファイアアローによるものだ。
宙は、仲間たちが敵の攻撃を受け倒れた際敵が追撃を加えていないことに気づいていた。そこで、多少のダメージを受けたところでいかにも致命傷を受けたような演技をしつつ倒れてみせた。単純な手だがこれが意外に有効で、ゾンビたちは宙がまだ余力を残していることに気づかず他の相手に回ってしまった。お陰で、集中で威力を高めたファイアアローを翼に叩き込むことが出来た。
「これでもう飛ぶこともできないだろう」
言葉通り、宙の攻撃はリンドヴルムを倒すには至らなかったが、空を飛べなくするには十分だった。
●
リンドヴルムの咆哮は、痛みに苦しむ悲鳴のようにも聞こえた。翼は実際に火がついたわけでもないのに、焼け爛れたように崩れていく。
「……やってくれたな……これでは作戦実行は不可能だ」
フリッツはそう言ってため息を吐く。それと同時に、手に持った針を今度はロルフの周りにいたゾンビたちに投げ、突き刺す。
「そいつらの足止めをしろ」
「待て! 逃げるのか!」
そう言って背を向けるフリッツを呼び止める啓一。だが、その動きを制するかのようにゾンビたちが攻撃を行う。啓一も旭も、そしてロルフもゾンビたちへの対応に追われることになった。さらに……
「……! なんだ、ゾンビたちが……」
「向こうからもやってくるのですよー」
瀞牙と雪月花の言葉通りゾンビ達の増援。これらは近くの戦場で戦っていたゾンビたちであり、それを追撃してきた帝国軍もなだれ込んできた。
こうして戦場は一時乱戦状態に陥った。ハンターたちは戦闘不能になった者達を安全な場所に移動させることを優先し、その間にフリッツはゾンビの群れの中に消えてしまった。
その後、余力のあるものはゾンビの迎撃に加わり、最終的には帝国軍と協力してこれを殲滅した。フリッツを仕留めることは出来なかったが、戦果は十分だったといえる。
こうして、ハンターたちはリンドヴルムの飛行。ひいてはCAMのパーツを持ち去ろうとする敵の狙いを阻止することに成功したのだった。
「ストゥール! へばるんじゃあないんだね!」
「分かっている、言われるまでもない!」
ニーナ・アンフィスバエナ(ka1682)とストゥール(ka3669)は死力を尽くして戦っており、他のハンターたちと比べてもかなり多くのゾンビたちを撃破していた。
とはいえ、その代償は大きく、スキルも全て使い付くし体力も限界が見え始めていた。
空から敵が落ちてきたのはそんな時だった。
「真下にいたら洒落にならなかったぜ……」
落ちたリンドヴルムの姿を眺めながら、ガルシア・ペレイロ(ka0213)は戦闘の最中にありながらもホッと胸をなで下ろす。ニーナやストゥールと比べるとガルシアは体力的にもかなり余裕がある。長期戦を視野に入れ、堅実な戦い方をしていたからだろう。
「せーが、なんだかおっきいのとかどっかーんですー」
「あぁ。やたらでかいのが来たな、こりゃ……」
氷蒼 雪月花(ka0235)の言葉に高嶺 瀞牙(ka0250)も頷いた。
「本当に……戦場では何がおこるのかわからないな」
仙道・宙(ka2134)はあっけにとられたかのように一時呆然とする。空から敵が降ってくる事態は想定していなかったようだ。もっとも、このゾンビたちも元はリンドヴルムにより運ばれ空から投下されたコンテナから出てきた敵なのだが。
「こいつを片付けない限り、要らぬ被害が出そうだな……」
榊 兵庫(ka0010)は呟き前に出る。ゾンビとの戦いで多少損耗はあったが、その言葉の通りリンドヴルムを倒さなければ……いや、倒せずとも飛ばせないようにしなければどれだけの被害が出るか分からない。
さらに、落ちてきたのはリンドヴルムだけではなかった。その近くにはグリフォンとそれに乗っていた男。そしてもう一人……
「ゾンビの次はリンドヴルムと……VOIDO?」
様子を見ていた無限 馨(ka0544)はしかめっ面を浮かべる。倒れているのは第5師団長のロルフだ。つまり、あの敵はその師団長と同格、あるいはそれ以上の強さということだ。
「なぁ、あいつ今……じぶんの乗騎に向かってなんつった?」
上空の様子をみながらスキルを温存していた岩井崎 旭(ka0234)。落ちてきてすぐはベルセルクのスキルは息が長めでよかった……なんてことを考えていたが、リンドヴルムの側に立つフリッツを見てその表情は変わった。あの男は、確かに言った。『愚図』と。自分の身を預けるべき相棒に向かってだ。馬に乗る人間として、その言葉は許せるものではなかった。
「リンドヴルム……あれを撃破するために時間を稼がないとならねぇ……でも、とりあえずは一発殴る! それが大前提だ!」
旭と似たような感情を持っていたのは春日 啓一(ka1621)だ。
以前フリット戦った際はその攻撃を受け意識を失ってしまった。だが今度は……
「……今度は、てめぇの好きにはさせねぇぜ!」
ハンターたちが各々行動を開始するとき、リンドヴルムを墜落させたロルフも痛む体をおして立ち上がっていた。痛む、とは言っても想定よりはずっと軽傷だ。
「結界の起動が上手くいったお陰だな……」
ただ、リンドヴルムを落とす際に反撃を受け乗騎であるグリフォンが怪我をしたようだ。少なくともこの戦闘中は飛べないだろう。再び飛ばれてもそれを追う手段は無い。ここで確実に仕留める必要がある。
「……それにしても、思ったよりゾンビ共が残っているな……よし」
そんなロルフの決意を知ってか知らずか、対面に立つフリッツはそう呟き懐から針のようなものを取り出した。それらをフリッツはゾンビに向かって投げ、突き射す。
「あの愚図を守ってやれ。弾幕を張り、敵の接近を許すな」
「それは一体何の真似……くっ!」
フリッツの行動を怪しむロルフだったが、周囲のゾンビから攻撃を受けたため、その行動の真意をすぐに察知することはできなかった。
●
「ロルフも大丈夫そうだね……一度下がって態勢をたてなおすんだーね」
「そうだな、死にかけ同士仲良くしようではないか」
ここまで激しい戦闘を繰り広げていたニーナとストゥールは一度後退。入れ替わるように兵衛が一路リンドヴルムに向かってかけていく。
「これは……!」
だが、その兵衛の前に数体のゾンビが立ち塞がる。先ほどまでとは違う、完全とまではいかないものの統率された動きだ。兵衛の脳裏に地上に落ちてすぐにフリッツがとっていた行動と言葉が思い起こされる。
「どういうことかは分からないが……あの言葉はゾンビたちへの命令というのは間違いないか」
ゾンビたちは手に付けられた銃器をすでに兵衛に向けている。
もとよりゾンビたちが立ち塞がろうともリンドヴルムの破壊を優先するつもりであったが……
「くっ……これは……!」
ゾンビたちは弾幕を張って兵衛を集中的に狙ってくる。連携を取って行動するつもりであったが、生命回復なり後退なりを優先した仲間が多い。
「くそ、邪魔だなこいつら……!」
ガルシアも兵衛同様に回復を後回しにしていたのだが、脚の速さに差があった。加えてフリッツの制御下にないゾンビであっても攻撃をしてきており、それらに足止めを食らうことになっていた。結果的に初動の足並みはそろわず、兵衛は一人先行する形になっていたのだ。
弾丸が兵衛を穿つ。攻撃を受けるにも限度があり、ゾンビとの戦いに消耗していた体力はさらに削られ傷が増えていく。
「……せめて……一太刀……!」
最後の力を振り絞り、兵衛は大地を踏みしめ体を前に。武器にマテリアルを込めながら、踏み込んだ勢いそのままにリンドヴルムに渾身の突きを放つ。
……だが、その攻撃は立ち塞がったゾンビに止められる。攻撃を受け止めたゾンビは兵衛の強烈な一撃により倒されたものの、リンドヴルムには届かず。
「くそ……」
口惜しそうにつぶやきながら兵衛は前のめりに倒れる。腹部には、先程倒されたゾンビの持っていた剣が突き刺さっていた。
「CAMのところに行かせるわけにはいかないっすからね。出し惜しみは無しでいくっすよ!」
反対方面から突っ込んでいくのは馨だ。マテリアルヒーリングを使っていた為初動は遅れた物の、瞬脚のおかげでその移動力は一時的ながら最も高くなる。その機動力を活かしてリンドヴルムに接近していく。だが、やはりその動きを妨げたのはゾンビたちの弾幕。兵衛と比べ回避に自信のある馨だが、攻撃の全てを避けきれるわけではない。傷はどんどん増えていく。
「まだまだっ!」
馨は邪魔なゾンビを斬りつけつつ横に躱しリンドヴルムに向かう。
「ちょっと位置が高いか……それなら、脚を!」
そのまま部位狙いで飛ぶのに重要であるはずの翼を狙う……予定だったが、巨体故に手持ちの短剣では届かず、脚への攻撃で妥協する。元々耐久力の高いリンドヴルムだったが、やはり墜落の際に受けたダメージが響いているのか、効果はありそうだ。
「よっし……うわっ!」
そのまま連続攻撃を……そう思った矢先、馨は追いかけてきたゾンビに捕まる。こうなると自慢の機動力を活かすことができない。
「しまっ……!」
馨は悲鳴を上げることもかなわず、ゾンビの持つ剣で滅多刺しにされその場に倒れた。
「ちっ……出遅れたな」
兵衛や馨が戦闘している間にガルシアはゾンビに受けた傷をマテリアルヒーリングで癒しつつ接近していく。しかし、リンドヴルムに近づくにつれゾンビからの攻撃が精度を増していき、すぐにマテリアルヒーリングでは抗せなくなる。
「あいつを倒したらゾンビの相手を……なんて考えてたが、ちょっと甘かったみたいだな」
この状態ではリンドヴルムには攻撃は届かない。ならばせめてと、ガルシアは立ち塞がるゾンビに槍を向ける。
攻めの構えを取り渾身撃を組み合わせた一撃は、銃弾を掻い潜りながらゾンビに突き刺さる。光の力を持つ槍の威力はゾンビに対しては効果的だ。一撃でゾンビは倒される。だが、その後に待っていたのは銃器による再度の集中砲火。為す術をもはや持たないガルシアは銃弾の雨を受け倒れた。
「くっ……まずいな」
宙はウィンドスラッシュでリンドヴルムの翼を狙う。フリッツの鞭による妨害も受けず、射程も十分以上確保できる。最も効率よくダメージを与えられるのが宙だった。さらに、もう少し近づければ……
(ファイアアローの射程に入る……)
火属性のファイアアローならゾンビ体が主のリンドヴルムにもかなりのダメージが与えられるはずだ。
だが、近づけば当然敵の攻撃に晒される。宙に目を付けたゾンビが銃撃を行う。
「ぐわっ!」
直撃を受けた宙はその場に倒された。思いのほか、あっさりと……
●
一方、ロルフはフリッツに対していた。もっとも、一対一というわけではない。周囲のゾンビが近づいて来て攻撃を行っていた。
「殴る! とはいっても……このままじゃまずいか。持ってくれよ……」
フリッツの前に立っているのは帝国軍の師団長。それと戦っているにも関わらず、余裕があるのはフリッツの方だ。その様子から油断がならないのは分かる。まずはやるべきことをやろうと、旭は自己治癒を行い体力の回復を行う。
「加勢するぜ!」
「っ! すまない、助かるよ」
周囲からゾンビの攻撃を受け苦戦するロルフ。そこに守りの構えを取りながら啓一が走り込んでくる。
フリッツはやってきた啓一を一瞥するが……そのままロルフへの攻撃を優先する。ロルフの方が脅威となる……そういう判断なのだろう。
ロルフの方もゾンビの攻撃を躱しながら機導砲をフリッツに撃ち込みながら応戦する。戦況は互角……とは言えない。周囲からゾンビの攻撃を受けている為、ロルフは攻撃を回避しきれていないようだ。
ならばと、啓一は警戒しながらもフリッツに向かう。ロルフの方に意識が向いている今がチャンスという判断だ。
守りの構えを解かず接近し……間合いの一歩手前から踏込み、ドリルナックルで殴りにかかる。
「喰らえ!」
「っと……その顔、見た覚えがあるな」
フリッツは、啓一の攻撃を躱すと、いつかと同じように蹴り飛ばし啓一と距離を取る。
「くっ……やっぱり単独じゃ厳しいか」
そのまま追撃しようと鞭を構えたフリッツだったが、その攻撃を中断し飛び退く。同時に、先程までフリッツがいた場所を機導砲が貫く。
「ふん、さすがに油断ならんな」
苛立たし気に呟くフリッツ。
(もっとも相手は二人、どうとでも料理することが出来る……)
そう思った矢先だった。
「こっちにもいるぜ!」
横から回り込んできた旭。うろつくゾンビを掻い潜り、フリッツに突っ込んでいく。
「なかなか鋭い動きだ。だが……直線的すぎるな!」
しかし、フリッツにはその動きが見切られていたようだ。すぐに鞭が飛んできて剣を絡めとる。
「くそっ……!」
悪あがきをするかのように、旭は剣を投げつける。だが、これは囮。旭はそのままさらに踏み込んでナックルを叩き込もうと……
「甘いな」
「っ!!」
不意に、旭は横殴りの衝撃に襲われる。鞭での攻撃……にしては質量が大きすぎる。吹き飛ばされながら横目で見て、その答えが分かった。フリッツは鞭で、味方であるはずのゾンビを捕え勢いよくぶつけてきたのだ。
「届かなかったか……でもな」
瞬間、旭は笑った。
「てめーの相手は、俺だけじゃないんだぜ?」
「油断したな、フリッツ!」
すぐさま撃ち込まれたロルフの機導砲がフリッツを襲う。
「くっ!」
機導砲は外れる者の、フリッツの態勢は崩れる。
「いいか良く聞け……こいつはここにいねぇレオーネの分だ!」
強く踏み込みながら撃ち込まれた啓一による殴打。さらに……腹部に捻じ込まれたナックルがそのまま射出され、フリッツの体ごと飛び、弾き飛ばす。
「何!?」
すぐにフリッツは態勢を立て直したが、その表情には驚愕の色が浮かんでいる。
「どうだ!」
「……なるほど、なかなか面白い手だ。今のは驚いたぞ……」
効果はあった……視線を横にずらすと、旭の姿。ゾンビを叩きつけられたわけだから無傷ではないが、それでもまだ戦えそうだ。
(ロルフもまだ余力がありそうだし、このままいけるか?)
そう啓一が考えた時だった。リンドヴルムが咆哮を上げたのは。
●
リンドヴルムが咆哮を上げる少し前……
「準備はいいのですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
瀞牙はマテリアルヒーリングを使用して自己回復を行った。その間雪月花は豆乳を飲みつつ待機していた。出来るだけ瀞牙の傍らでサポートをし、ともに戦いたいという考えからだろうが、結果的に行動に遅れた生じた感は否めない。
「さて……ロルフさんは無事みたいだな。俺達は剣機の方に向かおう……いくぞ、雪月花!」
兵衛やガルシアが受けたように、弾幕の洗礼を受ける。ただその数自体は先程と比べて減っていた。その分、つけ入る隙はある。
「主役はゆずるつもりだったけど、そうも言ってられないみたいだ-ね」
「確かに……ふははっ、今一度前座働きでもしようか!」
接近していく瀞牙、雪月花を見てニーナ、ストゥールは援護するために前進する。
「脇役が舞台にあがるんじゃなーいんだね!」
残った体力を振り絞りながら、ニーナは銃のトリガーを引く。だが、銃の射程は敵のそれとほぼ同じかそれ以下だ。当然敵からの攻撃に晒される。
「くっ……まだまだ! 寝るのは家に帰ってからでいいんだね!!」
ニーナに付き合うように前に出たストゥールも弓でゾンビを狙い撃つ。光の力を持つ弓の威力は抜群であり、二人はさらにゾンビの撃破数を増やしていく。
だが、その攻勢も長くは続かない。より近距離で戦っていたニーナが先に力尽きる。
「ニーナ君! くそ……」
歯を食いしばりながら弓を引くストゥール。弓の射程を活かせばより遠くから、より安全に攻撃が出来ただろう。だが、今となってはもう遅い。ストゥールにも銃弾が多数命中し力尽きる。
だが、その甲斐あってゾンビたちの防衛網は薄くなっていた。
「いける……援護頼むぞ雪月花!」
走り込んだ瀞牙は数の減ったゾンビたちの横を抜けリンドヴルムに肉薄する。ただ、このままだと馨と同様狙いの翼には攻撃が届かない。
「仕方ない……その図体を少し借りるぞ」
ならばと瀞牙はリンドヴルムの脚部に足を掛け跳びあがり、翼へ近接攻撃を仕掛けた。
「どかーんといくですよ!」
さらに、雪月花が翼を狙いホーリーライトを放つ。
二人の連携攻撃で翼にかなりのダメージを与えることが出来た。
「よし、上手くいった……っ!?」
「せーが!?」
翼にダメージを与えた瀞牙だったが、着地したタイミングをゾンビに狙われた。銃撃によりかなりのダメージを受けたかよろける瀞牙。すぐさま雪月花がヒールを使用するが、それでもダメージは大きい。
「くっ……一度離れるしかないか……」
瀞牙は雪月花を気にしつつもゾンビたちから全力移動で距離を取る。マテリアルヒーリングを使用する余裕を作るためだ。それに雪月花も続く。
「……間に合わないか?」
回復が終わったのと、リンドヴルムが翼を羽ばたかせるのはほぼ同時。もう飛ぶことを止めることは出来ない……そう思った矢先のことだった。
「空に戻るか……ならこれはその餞別だ」
その翼は空へと戻る前に炎の矢に貫かれた。これは宙によるファイアアローによるものだ。
宙は、仲間たちが敵の攻撃を受け倒れた際敵が追撃を加えていないことに気づいていた。そこで、多少のダメージを受けたところでいかにも致命傷を受けたような演技をしつつ倒れてみせた。単純な手だがこれが意外に有効で、ゾンビたちは宙がまだ余力を残していることに気づかず他の相手に回ってしまった。お陰で、集中で威力を高めたファイアアローを翼に叩き込むことが出来た。
「これでもう飛ぶこともできないだろう」
言葉通り、宙の攻撃はリンドヴルムを倒すには至らなかったが、空を飛べなくするには十分だった。
●
リンドヴルムの咆哮は、痛みに苦しむ悲鳴のようにも聞こえた。翼は実際に火がついたわけでもないのに、焼け爛れたように崩れていく。
「……やってくれたな……これでは作戦実行は不可能だ」
フリッツはそう言ってため息を吐く。それと同時に、手に持った針を今度はロルフの周りにいたゾンビたちに投げ、突き刺す。
「そいつらの足止めをしろ」
「待て! 逃げるのか!」
そう言って背を向けるフリッツを呼び止める啓一。だが、その動きを制するかのようにゾンビたちが攻撃を行う。啓一も旭も、そしてロルフもゾンビたちへの対応に追われることになった。さらに……
「……! なんだ、ゾンビたちが……」
「向こうからもやってくるのですよー」
瀞牙と雪月花の言葉通りゾンビ達の増援。これらは近くの戦場で戦っていたゾンビたちであり、それを追撃してきた帝国軍もなだれ込んできた。
こうして戦場は一時乱戦状態に陥った。ハンターたちは戦闘不能になった者達を安全な場所に移動させることを優先し、その間にフリッツはゾンビの群れの中に消えてしまった。
その後、余力のあるものはゾンビの迎撃に加わり、最終的には帝国軍と協力してこれを殲滅した。フリッツを仕留めることは出来なかったが、戦果は十分だったといえる。
こうして、ハンターたちはリンドヴルムの飛行。ひいてはCAMのパーツを持ち去ろうとする敵の狙いを阻止することに成功したのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 侍亭の新戦力
仙道・宙(ka2134)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談スレッド ストゥール(ka3669) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/10 17:20:16 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/10 16:40:33 |