ゲスト
(ka0000)
正月! 餅つき! 新年会!
マスター:凪池シリル
オープニング
「でさあ!」
ハンターオフィスの受付嬢、アン=ズヴォーが宣言した。
餅つきをして餅を食べて新年会をやる。何故ならそう言うものだと聞いたから。
以上。
……いや本気で、これ以上何を言えばいいんだ。
言うべきことはこれだけなのだが、これでは圧倒的に字数が足りない。
と言うわけで、会場内になんか居る奴の様子でも適当に描写しておこうと思う。
興味ない方は以降はどうでもいい。
むしろこれ以前もどうでも良かった。タイトル以外要らないぞこれ。
……良いじゃないか。つまり正月なんだよ。
●
「ん、つきたて餅はやっぱり旨いな」
「まあ、良く食うやつも旨えは旨えですが、確かに結構違えもんですなあ」
言いながら食べ歩くのは伊佐美 透(kz0243)とチィ=ズヴォーである。
これまでも、ロッソからパック餅を手に入れたり、交流が復活してからは東方から仕入れたりと、何度かこちらでも餅自体は食べたことのある二人だ。何故かは良くわからないけど確かに冬になると食べたくなる、透にとって餅とはそういう食べ物だった。
その透の手にあるのは磯部と言われるあれで、シンプルに醤油に浸けてノリで巻いたのみのもの。チィは、やはりこれまでの付き合いのうちに透から、「お前の好みって言うとこんな感じじゃないか?」と教えられた、バターと醤油、それから砂糖を適当に混ぜて味付けしたものをいたく気に入って、今日もまずはそうやって食べている。
せっかくだからあまり自宅ではやらない食べ方も味わえるだろうか、と二人はのんびりと会場を見回して。
「……あ」
「……。どうも」
高瀬 康太と遭遇した。
「あ、うん。えーと、明けましておめでとう」
「……おめでとうございます」
透とはそれなりに色々とあって、現在はと言えば、反目する理由はもうないがこれまでかこれまでだけに微妙に距離感が取り辛い間柄である。
どうしたもんかな、と透が視線をさ迷わせるうちに、場の空気の流れとしてか、康太の手元を見て。
「……何か言いたいことでも?」
すると、牽制するように康太が言った。彼の手にあるのは……餡ころ餅。
いや別に良いんじゃないかなごくスタンダードな食べ方だし。思うも下手な言い方すると変なフォロー入れたようになるだろうか。かといってスルーするのもなんだか気にしてるみたいだしなあ。一瞬悩んだ結果。
「あーえっと……こしあん派?」
何故かそんなことを聞いていた。
「……。いえまあ別に。でも選ぶならこちらじゃ無いですか? 口当たりが上品です」
あ、これ別にみたいな態度取ってるけどわりとこだわってる感じじゃないだろうか。この話も適当に切り上げよう。『どっちかと言えばつぶあん派』の透は内心、そんなことを思うのだった。
●
阿部川餅をにこにこと食べているリッキィの隣で、シュンはピザソースとチーズをトッピングして食べていた。
「甘いもん好きだよなあ」
「君のお陰ですっかりとね」
上機嫌で甘い匂いにすんすんと鼻を鳴らすリッキィの少し後ろを、その背を眺めるようにしてシュンは歩いていく。
(顔緩んでねーよな)
人が大勢集まる中だ。つい口元から頬を片手で覆いながらシュンは思う。
……元々リッキィは、さほど食事に興味がある方では無かったのだ。研究一辺倒にのめり込むタイプで、栄養が取れればそれでいい、という人間だった。
それが何故こうなったか?
リッキィに惚れたシュンが、アプローチのために甘味を散々貢いだからである。ある意味で「胃袋を掴んだ」形で関係を成立させた二人だった。
今やこの手のイベントや依頼先の有名甘味の情報はリッキィが先に仕入れてくる有り様だ。
「ほらシュン、遅いじゃないか。はぐれてしまうよ!」
考え事をしていたら少し離れてしまっていたらしい。慌ててシュンは距離を詰めた。
「別にガキじゃねえんだから、少しはぐれたってなんとかなるだろ」
「まあそりゃそうだけどね。でもせっかくだから君と一緒に食べたいんだよ、私は」
食事は味わうもので、そして、一緒に食べるともっと美味しいことを教えてくれた君だから。
言葉にせずに伝えられて。ぐぅ、とシュンは下がりそうになる目尻を引き締める。
「──今年もよろしく、だよ」
そうして、それで思い出したようにリッキィは言った。
新年会。その場に。
「ああ、そうだな。今年も……」
出来れば、これからもずっと。
新しい年。それを祝う場。言うまでもないそんなことを、でも改めて心に留め直すのも、悪くはないだろう。
ハンターオフィスの受付嬢、アン=ズヴォーが宣言した。
餅つきをして餅を食べて新年会をやる。何故ならそう言うものだと聞いたから。
以上。
……いや本気で、これ以上何を言えばいいんだ。
言うべきことはこれだけなのだが、これでは圧倒的に字数が足りない。
と言うわけで、会場内になんか居る奴の様子でも適当に描写しておこうと思う。
興味ない方は以降はどうでもいい。
むしろこれ以前もどうでも良かった。タイトル以外要らないぞこれ。
……良いじゃないか。つまり正月なんだよ。
●
「ん、つきたて餅はやっぱり旨いな」
「まあ、良く食うやつも旨えは旨えですが、確かに結構違えもんですなあ」
言いながら食べ歩くのは伊佐美 透(kz0243)とチィ=ズヴォーである。
これまでも、ロッソからパック餅を手に入れたり、交流が復活してからは東方から仕入れたりと、何度かこちらでも餅自体は食べたことのある二人だ。何故かは良くわからないけど確かに冬になると食べたくなる、透にとって餅とはそういう食べ物だった。
その透の手にあるのは磯部と言われるあれで、シンプルに醤油に浸けてノリで巻いたのみのもの。チィは、やはりこれまでの付き合いのうちに透から、「お前の好みって言うとこんな感じじゃないか?」と教えられた、バターと醤油、それから砂糖を適当に混ぜて味付けしたものをいたく気に入って、今日もまずはそうやって食べている。
せっかくだからあまり自宅ではやらない食べ方も味わえるだろうか、と二人はのんびりと会場を見回して。
「……あ」
「……。どうも」
高瀬 康太と遭遇した。
「あ、うん。えーと、明けましておめでとう」
「……おめでとうございます」
透とはそれなりに色々とあって、現在はと言えば、反目する理由はもうないがこれまでかこれまでだけに微妙に距離感が取り辛い間柄である。
どうしたもんかな、と透が視線をさ迷わせるうちに、場の空気の流れとしてか、康太の手元を見て。
「……何か言いたいことでも?」
すると、牽制するように康太が言った。彼の手にあるのは……餡ころ餅。
いや別に良いんじゃないかなごくスタンダードな食べ方だし。思うも下手な言い方すると変なフォロー入れたようになるだろうか。かといってスルーするのもなんだか気にしてるみたいだしなあ。一瞬悩んだ結果。
「あーえっと……こしあん派?」
何故かそんなことを聞いていた。
「……。いえまあ別に。でも選ぶならこちらじゃ無いですか? 口当たりが上品です」
あ、これ別にみたいな態度取ってるけどわりとこだわってる感じじゃないだろうか。この話も適当に切り上げよう。『どっちかと言えばつぶあん派』の透は内心、そんなことを思うのだった。
●
阿部川餅をにこにこと食べているリッキィの隣で、シュンはピザソースとチーズをトッピングして食べていた。
「甘いもん好きだよなあ」
「君のお陰ですっかりとね」
上機嫌で甘い匂いにすんすんと鼻を鳴らすリッキィの少し後ろを、その背を眺めるようにしてシュンは歩いていく。
(顔緩んでねーよな)
人が大勢集まる中だ。つい口元から頬を片手で覆いながらシュンは思う。
……元々リッキィは、さほど食事に興味がある方では無かったのだ。研究一辺倒にのめり込むタイプで、栄養が取れればそれでいい、という人間だった。
それが何故こうなったか?
リッキィに惚れたシュンが、アプローチのために甘味を散々貢いだからである。ある意味で「胃袋を掴んだ」形で関係を成立させた二人だった。
今やこの手のイベントや依頼先の有名甘味の情報はリッキィが先に仕入れてくる有り様だ。
「ほらシュン、遅いじゃないか。はぐれてしまうよ!」
考え事をしていたら少し離れてしまっていたらしい。慌ててシュンは距離を詰めた。
「別にガキじゃねえんだから、少しはぐれたってなんとかなるだろ」
「まあそりゃそうだけどね。でもせっかくだから君と一緒に食べたいんだよ、私は」
食事は味わうもので、そして、一緒に食べるともっと美味しいことを教えてくれた君だから。
言葉にせずに伝えられて。ぐぅ、とシュンは下がりそうになる目尻を引き締める。
「──今年もよろしく、だよ」
そうして、それで思い出したようにリッキィは言った。
新年会。その場に。
「ああ、そうだな。今年も……」
出来れば、これからもずっと。
新しい年。それを祝う場。言うまでもないそんなことを、でも改めて心に留め直すのも、悪くはないだろう。
リプレイ本文
「これが餅つき……勉強になります」
フィロ(ka6966)は餅つき会場で、餅の返しをやる人員として手伝いに回っていた。
出来上がった餅を横に置くと、食べ頃サイズに切り分ける作業に。仕上げにと彼女が準備したのは阿部川、磯辺、おろしポン酢、漉し餡、ずんだなどに加え、あんみつや鍋焼うどん、餅巾着にお好み焼きまで、と多少手の込んだものも仕込み済みだ。
丸めたり、味付けをしたりといった作業を、鞍馬 真(ka5819)やエンバディ(ka7328)が手伝っている。真は性分だから、と自覚して受け入れているが、エンバディは流れから抜けるに抜け出せないといった状況だった。
「随分、色々あるん、ですね」
エンバディは、北方出身で餅には馴染みが薄い。作業に圧倒されるのが半分、興味が半分といった様子でフィロに話しかける。
「余らせず全部食べていただきたいですから」
「はあ……成程」
確かにこれだけ味のバリエーションがあれば飽きずに沢山食べることが出来るだろう。……早く食べたい。エンバディは益々思いを募らせるが、運ばれてきた餅はまだ大量にあった。
「私は大根おろしとポン酢でいただくポン酢おろしと餅入りお好み焼きが好きですが、甘味が好きな方は違う選択をするのではないかと思います」
「そうですか……」
だから早く食べてみたいんだってば! 内心で叫ぶも、フィロはもっと働いているので言いだせない。会話をしながらも彼女は鍋焼きうどんに餅を投入し、餅巾着もうどんと同じ鍋で煮て出来頃を見張っている。この場で最も手間がかかるのは餅入りお好み焼きか。それもマルチタスクの中、隙を見て焼き上げている。
エンバディは諦めるように、新たに搗きあがった餅の入った箱を運んでくる。
(僕に体力仕事は無理ですぅ~魔術師ですしぃ~!)
やはり声には出せずに心で叫ぶ彼は、実の所、魔術師にしては筋力は高い。故郷で戦闘訓練を受けていたせいだろうか。……そんな気風の郷土故に、彼の自意識では己は貧弱、と思っているわけだが。
持ちを運び終えて、ふう、と息を吐いて腕を振る。筋力はあっても持久力は不足しているのだ。そんなエンバディが餅にありつけるのは、もう少し先である──
そんな餅つき会場から、あまりにも重く鈍い音が響く。
「ふふーん、いつもの斧や棍棒に比べたらなんてことないじゃない」
くるり。重い杵をなんてことなさそうに翻し肩に担いで見せるのはサラン・R・シキモリ(ka3415)だった。
辺境の辺境にいた彼女は餅は初めてだ。
「お餅? ふふっ、美味しそうじゃない。楽しみだわ」
そう言って興味深く餅つきを見学した後、チャレンジしてみるかと言われ体力には自信が出ると進み出て……先ほどの一撃である。
そのまま全力モードで搗きまくるサラン。上がるどよめきは感嘆なのか呆れなのか……あるいは、胸元と臍周りが空いた大胆な服装と、サービス精神なのか装着された猫耳カチューシャのせいなのか。
「……そんなに、激しく搗くものなのですか?」
慄きながら呟いたのは、順番待ちをしていたサクラ・エルフリード(ka2598)だった。彼女も餅つきは初めてで、何となく楽しみにしていたのだが。
「え? 強く搗けば搗くほど美味しくできるんじゃないの?」
「いや……そこまで強くやる必要はない。飛び散るというか……臼が割れるぞ?」
キョトンと答えるサレンに突っ込みを入れたのは鳳凰院ひりょ(ka3744)だった。さりげなくアドバイスし、二人を順番に見守ることにする。
「どんどんつくわよっ。みてらっしゃい」
「餅つき、実際にするのは初めてですね……。頑張って搗いて美味しいお餅にします……」
気を取り直して、交互にチャレンジするサランとサクラ。どうやら、二人とも中々に楽しめたようだ。
勿論、楽しみは搗くだけではない。
「搗きたてのお餅はまた格別です……。どの味でも皆違った美味しさが……。これは、いくらでも食べれそうです……」
色んな味を食べ比べするサクラ。サランはと言えば、まずそのままで食べてみて、いっぱいに広がるもち米の味に不思議そうに首をかしげる。
「もう少し甘い方がいいわね……」
「甘いのですか? そうしたら……」
サクラは餡子の餅が並べられているあたりを示す。
「こし餡? つぶ餡? どっちがいいのかしら」
「私はどっちでも。美味しければいいじゃないですか」
「それはそうねっ。運動の後はどれも美味しい♪ 他におススメはどれかしら? まだまだいけるわよ」
サランの様子にサクラはニコリと頷き……それから、ふと気がついて。
「でも、喉に詰まらせやすいと聞きます。良く噛んで気を付けて食べてくださいね?」
そう忠告すると、サランはえ? と意外そうな顔をした。この分だと、やはりよく分からずに詰まらせる人が居るかもしれない。食べ歩きながら注意して見てようと、サクラは思うのだった。
餅つき体験企画は中々に好評なようで、まだ人は集まっている。
「お! も! ち! じゃもーんっ!!」
ぴょこぴょこっと跳ねて人混みから顔を出しながら進み出たのは泉(ka3737)である。
(ぺったん、ぺったん。ハンマーでどっかんとくいじゃもん! これもきっとできるんじゃもん♪)
と胸を張る彼女は実際、中々堂々と杵を操っている。
「ユキウサギもびっくりなキネづかい! みるんじゃもん!」
愛嬌のある声と様子に、見守る者たちはほっこり笑顔を浮かべていく。そんな彼女に、白藤(ka3768)とミア(ka7035)が近づいていく。
「ふたりとも、あけましておめでとー、じゃもんっ!」
「泉ちゃん、おめでとうニャスー」
「おお、ええ挨拶やなあ。おめでとさん」
ミアは正月らしく着物姿である。赤香色地に白彼岸花柄のそれはショート丈で裾はフリル。髪飾りも彼岸花の意匠である。そんな出で立ちではあるが、ミアも餅つきはやるつもりらしい。
「お餅は大好きニャス! でも、自分で搗いたお餅の方がもっと美味しいと思うニャス! うニャあああぁぁ、お餅ぃぃーーー!!!」
ハイテンションに叫びをあげ、天真爛漫に餅を搗く二人を白藤は垂れ下がった笑顔で見守っている。
二人が餅つきに夢中になる間、白藤に初月 賢四郎(ka1046)が話しかけていた。白藤とミアとは、以前依頼で世話になった縁がある。
「あけましておめでとうございます。良ければいかがですか?」
一言挨拶、といった雰囲気でワインを掲げ薦める賢四郎。挨拶を返して受け取る白藤。件の依頼も酒がらみの話だったとその時の事やその後の話で軽く談笑する。
「できたてー♪ もちもちー♪ ボクのほっぺといっしょー♪ もちもちー♪」
やがて泉とミアの二人が餅を掲げるようにして戻ってくると、それじゃこの辺で、と賢四郎は辞することにした──やはり彼女はどこか違う世界の人間だ、と自覚しながら。
「おさとーとしょーゆのあまーいおもち! きなこのおもち! ちょっぴりやいてみたらしおもちもできるんじゃもん?」
ブルーの絵本──正確には雑誌──で読んだという美味しそうな餅。色々食べてみたいと、両手で頬を抑えて嬉しそうにする泉に、ミアも一杯食べようニャス! と力強く頷く。
漉し餡とか粒餡とか。海苔とかきな粉とか。赤とか白とかなんかも。好きな人が好きなだけ楽しめればそれでいい、とミアは思う。
(新年はお目出度いもの。みんなが笑顔で、新しい年を出発するんニャス)
搗きたて餅を搗いた分だけ、勿論とばかりにたくさん食べる二人を、
「喉詰まらせんように、ゆっくりたべやー」
と、白藤は少し心配気味に見つめていた。二人が、それから周囲の人たちがいつ詰まらせてもいいように、ぬるいお茶など準備して。
「ところでしーちゃんは、何を作るつもりニャス!?」
そんな心配性の彼女に、お見通しとばかりに目をキラン、と輝かせて、ミアが白藤に問いかける。
ふふっと、白藤は少し緊張を解いて笑った。
──……三人の楽しい時間は、まだまだ続きそうだ。
賢四郎はそれから、ようやく少し余裕が出来たらしいフィロに話しかけていた。
話題は以前共に関わった件のその後の復興の進みの話などだ。彼女との会話の中で、賢四郎は、フィロにどこか共感も覚えつつ、しかし己とは何か違うのだろう、と感じた。
そんな中。
「この餅、良いですか?」
話しかけられて、フィロが向き直る。
「ええ、そちらはご自由にどう……ぞ」
餅の詰まった箱を軽々持ち上げるのはミリア・ラスティソード(ka1287)だった。了承の言葉を得て──ややつまり気味の語尾だったのは気にせず──それじゃ、と軽く頭を下げて持ち運んでいく。
賢四郎とフィロは顔を見合わせた。
「ついさっき取りに来たばっかりじゃないですか? 彼女」
そんな量の餅をミリアはどうしているのか。
食う。ひたすら食う。あるから食う。それだけである。
いま何キロ吸い込まれてるのかとか質量保存の法則どこ行ったなどと細かい事は気にしてはいけない。
そこに一切の不正も迷惑もない。無くなれば自ら搗きに行き、そして戻って餅を消しにかかる。
周辺には七輪と網火箸と炭と海苔、醤油、塩コショウ、チーズ、あんこ、味噌、カレー、マヨネーズ、大根おろし、バター、蜂蜜、きな粉、各種ジャム。
余りに周到、かつ気合の入った準備の様子はもはや最終決戦か何かなのか。
──彼女はここに餅を食うために存在し、それ以外にはない・
彼女がやがて、ふと横を見た。不意にその視線に、これまでと異なる光が宿る。
……揚げ餅。そういうのもあるのか。
彼女の行動は迅速だった。迷うことなく鍋に油を満たし、火にかける。尚この間にも餅は消え続けている。
十分に油が熱せられた。瞬間、一つの餅の塊が鍋の上を高く舞う。ふとそちらに目をやった人が捉えることが出来たのは剣閃の残像、その光の筋。そして切り分けられた餅が鍋に投入されゆく様。
餅が揚がっていく。並べられた各種餅が消えゆく横で。やがて鍋の真横にあった餅も消えた──そして積み上げられていた揚げ餅も、次の瞬間、消えた。
「──餅は良い。美味いし、腹持ちも良いし、たくさん食べても飽きねぇ。最高の食べ物の内のひとつだ」
低く、しかし威厳のある声に、道行く人が振り返る。
超世界パーフェクトブラックからやって来た暗黒皇帝、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は今日も、救いを求める民草の視線にその威光を掲げるべく堂々と立っていた。
「だがしかし、そんな餅にも唯一と言っていい弱点がある……」
声が抑えられる。注目が集められる。彼の者がこれほどまでに称える食べ物の、その弱点とは一体──?
「──それは色が白いことだ!!!」
……まあ、そんな話だろうとは思ってましたけど。
そんなわけで偉大なるデスドクロ様はそんな餅のウィークポイントをカバーした最強の餅を作ることにしたのだった。
まあ、最強と言ってもそんな難しいものではない。
まずは焼いた餅に醤油を塗る。これで少しは白さが消える。
そしてその上から黒ゴマをまんべんなくまぶす。
最後に海苔を三重に巻いて、完全に餅を包み隠す。
かくして餅は暗黒に包まれた。
「名付けてダークネスおもちだ。コレで冬場も風邪知らずってもんよ」
得意げに言い放っては彼は完璧と化したその黒の餅を食らい、また餅を搗くのであった。
「やっぱ寒い時期にゃ黒いモン食べねえとな。グーハハハハ!」
デスドクロが勝ち誇る会場の、その隅では。ディーナ・フェルミ(ka5843)が難しい顔を浮かべていた。
「食べ方は聞いてるの、お菓子として食べたこともあるの。でも子供の頃から食べ慣れた食材じゃないからアレンジが難し~の~」
呻く彼女の前にはいくつかの『試作品』が並べられている。
焼き鳥を埋めてみた。
焼肉のたれを塗って炙ってみた。
料理本を参考に肉野菜炒めをかけてみた。
ミンチ肉のあんをかけてみた。
豚ロースで巻いて甘辛く焼いてみた。
そして。
「ど、どれもコレジャナイ感が半端ないの……」
試食しては地面に腕を付き、前屈姿勢で敗北感に打ちひしがれる。
どうしようか。このまま退散しようか。ふと思うも……やはりできない。待っていてくれてるかも、知れないから。
やがてディーナは決意して、作ったものを乗せたトレイを手にとぼとぼと歩き始める。
「あ、ディーナの姐さん! ……姐さん?」
落ち込む彼女の様子に、迎えるアンが声のトーンを落とす。
「搗きたてお餅とお肉は食べ専の私には高難度過ぎたの。つ、次のバレンタインを期待するの、うわーん」
半泣きのディーナに、アンは困った笑顔で、差し出された餅の一つを手に取る。
「今回もありがとうごぜえやすディーナの姐さん。面白え味でさあ」
「ううー。今一フォローになる感想じゃないのー」
「でも、手前どもは楽しいでさぁ。ふざけたんじゃねえ、姐さんが全力で取り組んだ結果なら、新しい味、あるがままを手前どもは楽しみまさぁ。……姐さんにも、挫けるだけじゃなくて、楽しんで帰ってほしいでさぁ」
載せられた餅を一つ、ディーナに差し出しながらアンは笑顔で話しかける。分け合って、一緒に食べる、この時間が幸福なのだというように。
促されるようにディーナも自作の餅を頬張って、少し笑って、それからやっぱり納得いかないと立ち上がる。
「次はがっつり度肝を抜くの~。他のお餅も制覇して構想を練るの~」
そうして、ずんだ餅やら鍋焼きうどんやらを食べつつ会場を歩き始めて……次に向かった一角では、雑煮が出来上がりつつあるようだった。
「ふむ。雑煮を作っているのか?」
ひりょが話しかけたのはエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)である。磯部や辛み餅などを摘まみつつ彼女が作る鍋からは出汁の匂いが漂っている。
「せっかくの正月にこうして集まったのだ。雑煮でも作ってみるかと思ったのだが……他の人の雑煮はどうなのか、と思ってな」
雑煮というものは地域によって味付けや具材などがかなり異なる。聞いてみるのも面白そうだと思ったのだ。
料理自体の知識が増えるというのもあるが、人と話す良い機会だ……と。
「うちはシンプルに出汁と葉物野菜と人参を少々……ってところですね」
エラが答える。入れる餅は食べるのが大変だからと小さめに切って貰って、少し焼き目を入れて。
「寒いしやっぱり温まるわー」
「ふむ。それなら向こうに汁粉などもあったようだが」
「汁粉はちょっと重いわねー。年は嫌だわー」
「……」
それは女性相手にどう反応すればいいのか。困ったひりょは少し視線を逸らしてエラの雑煮、それから彼女が自身で準備したのだろう磯部や辛み餅などにも目を向ける。
「おや、これは」
「そう。薄口醤油。あったからこっちが良いわねって。年はいy「天丼するネタなのだろうかそれは!?」
そんな会話をする横で、雑煮を作るもう一組。穂積 智里(ka6819)とハンス・ラインフェルト(ka6750)である。
「大根、人参、ほうれん草、里いも……」
具材を準備しながら指折り数える智里にハンスが視線を向ける。
「うちのお雑煮は七草粥と混ざっちゃったのか、七品目入れろって言われてたんですよね」
「ほう……」
今日は日本の行事という事で基本的には智里の主導なのだろう。ハンスは手伝いに回りつつ、マウジーの家族の話を興味深そうに聞いている。
ベースは醤油のすまし汁仕立て。そこに……。
「お祖母ちゃんがコクが足りないってチーズを足したりしたのを見た記憶があったけど、どういう7品目だったかうろ覚えになってしまって」
と、チーズを入れて、焼いた餅の上から注いで、香りと飾りに柚子の皮を乗せれば、これで七品目。だが……。
「もしかしたらシメジだったかな、鶏肉も入っていた気がするなって思うんですけど……」
どうやら、かなりうろ覚えであるらしい。だが出来上がったそれを、ハンスは「美味しいですね。これがマウジーの家庭の味ですか」と優しい笑みを浮かべて言えば、智里もはにかみ笑顔を浮かべて寄り添って共に食べる。
そんな光景を横目にしながらひりょもそれらを参考に自分なりの雑煮を完成させて。
(ふむ、我ながら美味く出来たな。まぁ、これは一緒に作ったメンバーの力もあっての事だが)
満足して、皆に振舞いながらも自らも味わっていた。
……と。
「ここにあるのがゾウニ? とかいうものなのか? 多種多様なようだな……」
そこに、ふらりとやってきたのはレイア・アローネ(ka4082)。
「……で、どれが旨いのだ?」
こらそこ、場合が場合ならさらりと火種になりかねないことを言わない。
「明けましておめでとう」
「おめでとさんダヨ~♪」
挨拶を交わしながらともに歩くのは八原 篝(ka3104)とパトリシア=K=ポラリス(ka5996)である。
「むかし、お正月に田舎に帰った時にお父さんがお餅をついてたっけ。腰を痛めてたけど」
慣れた様子で落ち着いて歩く篝に対して、パトリシアはかなり上機嫌だ。
「おもちモチモチ~♪ あんまり食べたことなかったカラ、おもちちゃん、楽しみにしてたんダヨ~♪」
言いながら彼女がデコレーション用にと取り出したのは苺やチョコチップ。篝は一度言葉を無くす……が、餡子が用意されているのを見てふと閃く。
まずこし餡で苺を包み、更に餅でそれをくるむ。
「これで苺大福になるはず……どうかしら」
「ふむふむ~♪」
パトリシアは篝をししょーと仰ぎながら、興味深々、手つきを眺めている。
「暖かいお餅と餡が、苺でさっぱり、ダヨ~」
「チョコとか熱で溶けるものもお餅で包むようにすれば有りかもね」
言いながら篝は今度は自分の分を用意し始める。
一口大にちぎった熱々のお餅を、醤油で味付けした冷たい大根おろしに絡めたおろし餅。
「さっぱりとしていて、いくらでも食べられるわ」
「ピリっときたヨ~。ちょっと大人の味?」
「甘い味付けのものを沢山食べ過ぎた後の口直しにもちょうど良いわよ」
「うん、まだまだ食べるヨ~♪」
そんな風に歩いていると、やはり餅を片手に食べ歩いていたメアリ・ロイド(ka6633)、エラとそれぞれ遭遇する。
餅を食べるのは初というメアリは栗きんとんを絡めて食べていた。エラは……。
「あら、そっちもおろし餅?」
「ええ。辛味大根の大根は鬼おろしよ。もちろん」
篝の問いに、ごりごりと大根をおろす仕草をしながらエラが答えて篝に差し出すと篝もご相伴に預かる。そんな一幕があったり。
「メアリには、苺をプレゼントなんだヨ~」
「……予想外ですが、それも面白そうですね」
最近ぐっと仲良くなったメアリにパトリシアが持ち込んだ材料を差し出して、メアリも苺大福を味わったりしていた。
連れ立って歩いて行くうちに、丁度というか、透と康太が会話していた所にも行き会う一行。
「高瀬さんはこし餡派ですか。美味しいですよね、私も好きです」
「え、まあ……はい」
メアリが、ごく当然のように近づいて康太に話しかけてから、ふと気がついたように小首をかしげる。
「高瀬さんが、伊佐美さんと情報収集以外の会話をしてるとか、貴重なものを見ました」
「え? いや……」
透がメアリの言葉に、反射的に何か言いかけて、それからやはり、ふと気付いたように康太を見る。
「……いや、うん。雰囲気、変わったよなあ……」
「いや、何がですか! 何ですか一体!」
透がそう言うと、康太はまたかつてのような不快感を少し見せるのだった……が。
「タカセくんお久しぶり♪ こしあん? 皆自分がどっちなのか言えるの、玄人っぽくて、かっくいいんダヨ~」
パトリシアまで他の友人と同じようにけろりと普通に話しかけると、またすぐに戸惑いの表情に戻る。
彼女は、これからそれぞれの良さを聞いて回って、食べてみて、自分も何派か確かめてみるつもりだという。
そんな会話に、すっかり巻き込まれて、女性に囲まれる形になり狼狽えている康太を目に。
いや何なんだろうこれ。本当、少し見ない間に何があったんだろう。思いながら透はとりあえずチィを引いてさり気なく遠ざかってみるのだった。
そんな透とチィの元に、手伝いが一息ついたのか真が餅を片手に話しかけてくる。
「新年早々会えて嬉しいよ」
そう二人に告げる真は穏やかな笑顔を浮かべていた──一時期病んでいた印象を払拭するくらいの。
実を言えば、今も別件で落ち込んではいる。が、透の前では前向きに明るく、暗い部分は見せないと改めて決意したから。
「うん、明けましておめでとう、真」
「おめでとうでさぁ」
明るく振舞う真に、二人も特に何も気にする様子もなく笑顔を返してくる。
……ずっと依頼に入っていると日付の感覚が無くなってくるから、こういう節目は大切にしなければ……と仕事中毒を自覚しながら真は思う。
「二人は今年の目標とかあるの?」
それでだろうか、新年らしい話をしようと、二人に向けて聞いてみた。
「今年の目標……というか、目指すこと、やるべきことは今年も変わらない……かな」
「手前どもは別に目標ってぇのは。とにかく目の前のことに全力でさあ」
「はは。そうか」
二人の答えに、だよね、と真は納得して笑って。
「私は……もっと強くなることだよ。一人でも多くの人を助けられるように、ね」
そうして、真も己の想いを告げた。二人はやっぱり、ただ、らしいな、とゆっくり頷いたのだった。
賑わいを増していく広場で、鷹藤 紅々乃(ka4862)と久我・御言(ka4137)はこの行事に相応しく共に着物姿で楽しんでいる。
二人とも日本出身で、馴染みのある空間だ。こうして正月に餅を食べられることを喜ぶ紅々乃を、御言は限りなく優しい目で見つめている。
御言が勧めるのは定番の餡ころ餅。手ずから作ってくれたそれを紅々乃は満面の笑みで食べ終えると、私も御言さんに作って召し上がって頂くのです! と作り始めたのは、こしあんのあんこ餅に、カットした苺や蜜柑を焼餅を叩いて伸ばした餅で包んだフルーツ餅。
「さあ頂きましょう!」
ずらり並べたそれを、宣言と共に彼女自身も張り切って食べ始めて。
「随分たくさん作ったのだね」
色んな種類の餅が来るのを、微笑んで全て完食しつつも、思わず御言はポツリと言う。
もぐもぐ食べて次の餅に伸ばしていた紅々乃の手がピタリと止まった。
「はぅっ……うっかり食べ過ぎたでしょうか……御言さん……ぷくぷくになった私に幻滅しちゃいますか?!」
一転狼狽えて、御言と自分の腹に視線をいったりきたりさせる紅々乃に、御言はしまったと思った。
どちらかといえば種類に感心して言ったのだが、量と取られたのは少しデリカシーに欠けたかもしれない。
──が、彼女のあたふたする姿は、それもまた愛しい。
それはそれでよし、と紅々乃を見つめる視線──そこに含まれる全て──に気がついて、紅々乃は「もう……」と呟いて。
そうして芽生える己の想いに、改めて思う。
(──一昨年の冬、御言さんの想いを伺って……それから様々な出来事がありましたけど)
その様々な出来事。その全てにおいて。いつも彼がそばに居てくれたから、私は『私』でいられた。
(私は、御言さんが大好きです……!!)
ふとしたことでこみ上げてくるその想いを。
敢えて、口には出さない。
……出さずとも彼はもう、受け止めてくれるから。
笑みを、ただ優しいだけではないものに変えて、御言は紅々乃の肩を更に寄せる。
人の多い会場だ。彼らの事を偶々か意識してか見止める者も居ただろう──が。
(リア充おおいに結構だ)
御言はそれらを気にするそぶりもない。自分の彼女を自慢する事に、躊躇いなど無いのだった。
そんな御言をレイアは、見かけてはいた。
友人が来られなくなったため一人で参加していた彼女ではあるが、まあ、彼らに声など掛けられるわけがなかった。
誰か交流できそうな、一人のものは居ないかと視線を巡らせていると、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が目に入る。
軽く挨拶を交わした後、レイアが餅というものは初めてだ、というと、ルベーノは、
「餅か……確かこの前食ったのが初めてだったと思うぞ。俺は米食地帯の出身ではないからな」
と、やはりあまり慣れていない様子で答えた。
「季節の食い物らしいという認識はあるぞ。喉に詰まりやすゆえ掃除機を準備して食えと言われたな、そう言えば」
「私もリアルブルーの友人もいるから聞いた事くらいはあるのだが……ライスで作ったパン……か?」
「まあそんなところではないかな。はっはっは」
大雑把すぎるレイアの理解を、ルベーノも細かいことは気にしないという豪快さで軽く流す。
「縁起物らしいからな。せっかくの年初め、一通り喰って験担ぎせねばなるまい」
「この食感……かなり独特だが……悪くないかもしれん」
そんな会話を挟みながら、色々食べ歩く二人。
そうして餅自体も堪能しながらも、ルベーノは周囲を観察していた。色々ある昨今だが、それでも祭りのハレの気に人々は笑顔を浮かべている。
「どんな祭りであれ、祭りが盛況であるのは良いことだな、ハッハッハ」
笑うルベーノに、レイアは来年こそ友人を連れて来よう、と決意するのだった。
神代 誠一(ka2086)は年末年始を重体で過ごし寒さで引き籠っていた所を、相棒のクィーロ・ヴェリル(ka4122)に誘われての参加。
「だっから! 見てる方が寒いんだっつーの! 俺の為に防寒してろ!」
クィーロの姿を一目見るなり、薄着が過ぎるとマフラーを強引に巻く誠一。クィーロは苦笑して素直に巻かれていた。そんなやり取りも楽しみながら、早速料理に取り掛かるのはクィーロ。完全に任せる体制の誠一。
雑煮、磯辺焼き……と手慣れた様子で作りながら、ふと顔を上げて、
「重体回復を祝ってもあるから今日は誠一が食べたい餅料理を作ってあげるよ。何が食べたい?」
問えば誠一が答えたのは汁粉だった。思い出の味だという。言われてすぐに、これまた手際よく作り上げていくクィーロ。
「はー……うっま。お前ほんとになんでも器用に作るよな。あったまるわ……」
誠一の感想に、クィーロは満足して頷くと、そのまま次の料理に取り掛かる。どうやら豆餅のようだ。
「確か、リアルブルーでは餅に年齢分の豆を入れるんだっけ?」
「お前色々混ざってるぞそれは……」
苦笑してツッコミながら、まあいいかと一緒に豆餅の制作に取り掛かる誠一。どうやら年齢分豆を入れるのは継続のようだ──とはいえ、クィーロの年齢は正確なところは分からない。そのため彼の分は適当に作られたのだが……。
「誠一の豆は足りないんじゃないかな? まだ二十個だよ?」
「……ちったぁサバ読ませろよ。へいへい」
誠一の分は、そんなやり取りをしながらも律義に豆を押し込んで、最終的に豆ボコだらけになった餅に彼は一瞬沈黙する。……が、食ってみたら美味かったのでまあ良し! と直後には笑っていた。
……そんな彼だからだろうか。相棒と過ごしながらも、色んな人が声を掛けに訪れたりもして。
エラはやはり、こういう時は同行者に気遣ってか、それでも軽く新年の挨拶だけは交わして去っていき。
白藤も。「かわいこちゃんと一緒やから、今日は堪忍な、先生ー?」と、生真面目すぎて冗談が通じないの知っててふざけて揶揄って去っていく。
笑ったり慌てたり。あるいは丁寧に。色んな人と代わる代わる接する、そんな相棒を見ながら。
それらが完全に通り過ぎただろう最後に、誠一だけに聞こえる声でクィーロは言った。
「そういえば……誠一、今年もよろしくね」
それに誠一も、思わずといったふうに小さく──誰に見せたものとも違う──笑みを浮かべて。
「ん。今年もよろしく」
そう、答えるのだった。
白藤が泉とミアにも振舞いながら制作したのはぜんざいだ。
「あまーいのんが食べたいんやぁ♪」
そう言って彼女は缶詰の小豆を緩めたものに塩昆布を付けて餅を投下する。甘い餡子を程よい塩味が引き締めて、より甘味を引き立たせつつも後引く味に仕上がっている。
「もちもちーじゃもんっ!」
「甘いニャスー。しーちゃんの特製ぜんざい、幸せニャス!」
感激する二人に、白藤はまねてもちもちと伸ばしながら食べる泉の頬をもちもちやなーとつついてやり、ミアのほっぺについた餡子を拭ってやったりと構い倒す。
「ふふ、新しい年、こない楽しい迎えれるなんてな」
くすくす笑う白藤。
そんな三人に象徴されるように。
場内は幸せな空気に包まれている。
エンバディも、ようやく餅にありついて。餅料理を、美味しく堪能する。
知り合いを渡り歩いていた賢四郎とエラがここで合流した。
喧騒を離れ、賑やかな空気を外側から眺めるようにして。
「……今後の展望はどうなりそうですかね」
この時も。動乱の気配は今、世界のあちこちで同時に忍び寄っている。こんな時にそんな話を──とは、彼女は言わなかった。掴んでいる幾つかの話。その見通しを語り。……脚色のない報告に、全く気の抜けない状況であると再認する。
賢四郎はそれに──
「少なくとも現実のみを見て、その先をどうするか……ですな」
マキャベリストの顔で、告げた。エラもきっと、今すぐに事が起これば、そういうものだ、と淡々と対応に出るのだろうと思った。そんな彼女を、やはり今日出会った中では一番近しい存在と彼は感じる。
事実は事実。その上で。今この時は──
グラスを掲げ、透明な液体越しに会場を見る。
すると、エラもまた隣でグラスを掲げていた。
「……新年に、乾杯」
苦笑して、グラスを鳴らす。
──それでもやはり、だから。この一時は、温かいのだと。
フィロ(ka6966)は餅つき会場で、餅の返しをやる人員として手伝いに回っていた。
出来上がった餅を横に置くと、食べ頃サイズに切り分ける作業に。仕上げにと彼女が準備したのは阿部川、磯辺、おろしポン酢、漉し餡、ずんだなどに加え、あんみつや鍋焼うどん、餅巾着にお好み焼きまで、と多少手の込んだものも仕込み済みだ。
丸めたり、味付けをしたりといった作業を、鞍馬 真(ka5819)やエンバディ(ka7328)が手伝っている。真は性分だから、と自覚して受け入れているが、エンバディは流れから抜けるに抜け出せないといった状況だった。
「随分、色々あるん、ですね」
エンバディは、北方出身で餅には馴染みが薄い。作業に圧倒されるのが半分、興味が半分といった様子でフィロに話しかける。
「余らせず全部食べていただきたいですから」
「はあ……成程」
確かにこれだけ味のバリエーションがあれば飽きずに沢山食べることが出来るだろう。……早く食べたい。エンバディは益々思いを募らせるが、運ばれてきた餅はまだ大量にあった。
「私は大根おろしとポン酢でいただくポン酢おろしと餅入りお好み焼きが好きですが、甘味が好きな方は違う選択をするのではないかと思います」
「そうですか……」
だから早く食べてみたいんだってば! 内心で叫ぶも、フィロはもっと働いているので言いだせない。会話をしながらも彼女は鍋焼きうどんに餅を投入し、餅巾着もうどんと同じ鍋で煮て出来頃を見張っている。この場で最も手間がかかるのは餅入りお好み焼きか。それもマルチタスクの中、隙を見て焼き上げている。
エンバディは諦めるように、新たに搗きあがった餅の入った箱を運んでくる。
(僕に体力仕事は無理ですぅ~魔術師ですしぃ~!)
やはり声には出せずに心で叫ぶ彼は、実の所、魔術師にしては筋力は高い。故郷で戦闘訓練を受けていたせいだろうか。……そんな気風の郷土故に、彼の自意識では己は貧弱、と思っているわけだが。
持ちを運び終えて、ふう、と息を吐いて腕を振る。筋力はあっても持久力は不足しているのだ。そんなエンバディが餅にありつけるのは、もう少し先である──
そんな餅つき会場から、あまりにも重く鈍い音が響く。
「ふふーん、いつもの斧や棍棒に比べたらなんてことないじゃない」
くるり。重い杵をなんてことなさそうに翻し肩に担いで見せるのはサラン・R・シキモリ(ka3415)だった。
辺境の辺境にいた彼女は餅は初めてだ。
「お餅? ふふっ、美味しそうじゃない。楽しみだわ」
そう言って興味深く餅つきを見学した後、チャレンジしてみるかと言われ体力には自信が出ると進み出て……先ほどの一撃である。
そのまま全力モードで搗きまくるサラン。上がるどよめきは感嘆なのか呆れなのか……あるいは、胸元と臍周りが空いた大胆な服装と、サービス精神なのか装着された猫耳カチューシャのせいなのか。
「……そんなに、激しく搗くものなのですか?」
慄きながら呟いたのは、順番待ちをしていたサクラ・エルフリード(ka2598)だった。彼女も餅つきは初めてで、何となく楽しみにしていたのだが。
「え? 強く搗けば搗くほど美味しくできるんじゃないの?」
「いや……そこまで強くやる必要はない。飛び散るというか……臼が割れるぞ?」
キョトンと答えるサレンに突っ込みを入れたのは鳳凰院ひりょ(ka3744)だった。さりげなくアドバイスし、二人を順番に見守ることにする。
「どんどんつくわよっ。みてらっしゃい」
「餅つき、実際にするのは初めてですね……。頑張って搗いて美味しいお餅にします……」
気を取り直して、交互にチャレンジするサランとサクラ。どうやら、二人とも中々に楽しめたようだ。
勿論、楽しみは搗くだけではない。
「搗きたてのお餅はまた格別です……。どの味でも皆違った美味しさが……。これは、いくらでも食べれそうです……」
色んな味を食べ比べするサクラ。サランはと言えば、まずそのままで食べてみて、いっぱいに広がるもち米の味に不思議そうに首をかしげる。
「もう少し甘い方がいいわね……」
「甘いのですか? そうしたら……」
サクラは餡子の餅が並べられているあたりを示す。
「こし餡? つぶ餡? どっちがいいのかしら」
「私はどっちでも。美味しければいいじゃないですか」
「それはそうねっ。運動の後はどれも美味しい♪ 他におススメはどれかしら? まだまだいけるわよ」
サランの様子にサクラはニコリと頷き……それから、ふと気がついて。
「でも、喉に詰まらせやすいと聞きます。良く噛んで気を付けて食べてくださいね?」
そう忠告すると、サランはえ? と意外そうな顔をした。この分だと、やはりよく分からずに詰まらせる人が居るかもしれない。食べ歩きながら注意して見てようと、サクラは思うのだった。
餅つき体験企画は中々に好評なようで、まだ人は集まっている。
「お! も! ち! じゃもーんっ!!」
ぴょこぴょこっと跳ねて人混みから顔を出しながら進み出たのは泉(ka3737)である。
(ぺったん、ぺったん。ハンマーでどっかんとくいじゃもん! これもきっとできるんじゃもん♪)
と胸を張る彼女は実際、中々堂々と杵を操っている。
「ユキウサギもびっくりなキネづかい! みるんじゃもん!」
愛嬌のある声と様子に、見守る者たちはほっこり笑顔を浮かべていく。そんな彼女に、白藤(ka3768)とミア(ka7035)が近づいていく。
「ふたりとも、あけましておめでとー、じゃもんっ!」
「泉ちゃん、おめでとうニャスー」
「おお、ええ挨拶やなあ。おめでとさん」
ミアは正月らしく着物姿である。赤香色地に白彼岸花柄のそれはショート丈で裾はフリル。髪飾りも彼岸花の意匠である。そんな出で立ちではあるが、ミアも餅つきはやるつもりらしい。
「お餅は大好きニャス! でも、自分で搗いたお餅の方がもっと美味しいと思うニャス! うニャあああぁぁ、お餅ぃぃーーー!!!」
ハイテンションに叫びをあげ、天真爛漫に餅を搗く二人を白藤は垂れ下がった笑顔で見守っている。
二人が餅つきに夢中になる間、白藤に初月 賢四郎(ka1046)が話しかけていた。白藤とミアとは、以前依頼で世話になった縁がある。
「あけましておめでとうございます。良ければいかがですか?」
一言挨拶、といった雰囲気でワインを掲げ薦める賢四郎。挨拶を返して受け取る白藤。件の依頼も酒がらみの話だったとその時の事やその後の話で軽く談笑する。
「できたてー♪ もちもちー♪ ボクのほっぺといっしょー♪ もちもちー♪」
やがて泉とミアの二人が餅を掲げるようにして戻ってくると、それじゃこの辺で、と賢四郎は辞することにした──やはり彼女はどこか違う世界の人間だ、と自覚しながら。
「おさとーとしょーゆのあまーいおもち! きなこのおもち! ちょっぴりやいてみたらしおもちもできるんじゃもん?」
ブルーの絵本──正確には雑誌──で読んだという美味しそうな餅。色々食べてみたいと、両手で頬を抑えて嬉しそうにする泉に、ミアも一杯食べようニャス! と力強く頷く。
漉し餡とか粒餡とか。海苔とかきな粉とか。赤とか白とかなんかも。好きな人が好きなだけ楽しめればそれでいい、とミアは思う。
(新年はお目出度いもの。みんなが笑顔で、新しい年を出発するんニャス)
搗きたて餅を搗いた分だけ、勿論とばかりにたくさん食べる二人を、
「喉詰まらせんように、ゆっくりたべやー」
と、白藤は少し心配気味に見つめていた。二人が、それから周囲の人たちがいつ詰まらせてもいいように、ぬるいお茶など準備して。
「ところでしーちゃんは、何を作るつもりニャス!?」
そんな心配性の彼女に、お見通しとばかりに目をキラン、と輝かせて、ミアが白藤に問いかける。
ふふっと、白藤は少し緊張を解いて笑った。
──……三人の楽しい時間は、まだまだ続きそうだ。
賢四郎はそれから、ようやく少し余裕が出来たらしいフィロに話しかけていた。
話題は以前共に関わった件のその後の復興の進みの話などだ。彼女との会話の中で、賢四郎は、フィロにどこか共感も覚えつつ、しかし己とは何か違うのだろう、と感じた。
そんな中。
「この餅、良いですか?」
話しかけられて、フィロが向き直る。
「ええ、そちらはご自由にどう……ぞ」
餅の詰まった箱を軽々持ち上げるのはミリア・ラスティソード(ka1287)だった。了承の言葉を得て──ややつまり気味の語尾だったのは気にせず──それじゃ、と軽く頭を下げて持ち運んでいく。
賢四郎とフィロは顔を見合わせた。
「ついさっき取りに来たばっかりじゃないですか? 彼女」
そんな量の餅をミリアはどうしているのか。
食う。ひたすら食う。あるから食う。それだけである。
いま何キロ吸い込まれてるのかとか質量保存の法則どこ行ったなどと細かい事は気にしてはいけない。
そこに一切の不正も迷惑もない。無くなれば自ら搗きに行き、そして戻って餅を消しにかかる。
周辺には七輪と網火箸と炭と海苔、醤油、塩コショウ、チーズ、あんこ、味噌、カレー、マヨネーズ、大根おろし、バター、蜂蜜、きな粉、各種ジャム。
余りに周到、かつ気合の入った準備の様子はもはや最終決戦か何かなのか。
──彼女はここに餅を食うために存在し、それ以外にはない・
彼女がやがて、ふと横を見た。不意にその視線に、これまでと異なる光が宿る。
……揚げ餅。そういうのもあるのか。
彼女の行動は迅速だった。迷うことなく鍋に油を満たし、火にかける。尚この間にも餅は消え続けている。
十分に油が熱せられた。瞬間、一つの餅の塊が鍋の上を高く舞う。ふとそちらに目をやった人が捉えることが出来たのは剣閃の残像、その光の筋。そして切り分けられた餅が鍋に投入されゆく様。
餅が揚がっていく。並べられた各種餅が消えゆく横で。やがて鍋の真横にあった餅も消えた──そして積み上げられていた揚げ餅も、次の瞬間、消えた。
「──餅は良い。美味いし、腹持ちも良いし、たくさん食べても飽きねぇ。最高の食べ物の内のひとつだ」
低く、しかし威厳のある声に、道行く人が振り返る。
超世界パーフェクトブラックからやって来た暗黒皇帝、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は今日も、救いを求める民草の視線にその威光を掲げるべく堂々と立っていた。
「だがしかし、そんな餅にも唯一と言っていい弱点がある……」
声が抑えられる。注目が集められる。彼の者がこれほどまでに称える食べ物の、その弱点とは一体──?
「──それは色が白いことだ!!!」
……まあ、そんな話だろうとは思ってましたけど。
そんなわけで偉大なるデスドクロ様はそんな餅のウィークポイントをカバーした最強の餅を作ることにしたのだった。
まあ、最強と言ってもそんな難しいものではない。
まずは焼いた餅に醤油を塗る。これで少しは白さが消える。
そしてその上から黒ゴマをまんべんなくまぶす。
最後に海苔を三重に巻いて、完全に餅を包み隠す。
かくして餅は暗黒に包まれた。
「名付けてダークネスおもちだ。コレで冬場も風邪知らずってもんよ」
得意げに言い放っては彼は完璧と化したその黒の餅を食らい、また餅を搗くのであった。
「やっぱ寒い時期にゃ黒いモン食べねえとな。グーハハハハ!」
デスドクロが勝ち誇る会場の、その隅では。ディーナ・フェルミ(ka5843)が難しい顔を浮かべていた。
「食べ方は聞いてるの、お菓子として食べたこともあるの。でも子供の頃から食べ慣れた食材じゃないからアレンジが難し~の~」
呻く彼女の前にはいくつかの『試作品』が並べられている。
焼き鳥を埋めてみた。
焼肉のたれを塗って炙ってみた。
料理本を参考に肉野菜炒めをかけてみた。
ミンチ肉のあんをかけてみた。
豚ロースで巻いて甘辛く焼いてみた。
そして。
「ど、どれもコレジャナイ感が半端ないの……」
試食しては地面に腕を付き、前屈姿勢で敗北感に打ちひしがれる。
どうしようか。このまま退散しようか。ふと思うも……やはりできない。待っていてくれてるかも、知れないから。
やがてディーナは決意して、作ったものを乗せたトレイを手にとぼとぼと歩き始める。
「あ、ディーナの姐さん! ……姐さん?」
落ち込む彼女の様子に、迎えるアンが声のトーンを落とす。
「搗きたてお餅とお肉は食べ専の私には高難度過ぎたの。つ、次のバレンタインを期待するの、うわーん」
半泣きのディーナに、アンは困った笑顔で、差し出された餅の一つを手に取る。
「今回もありがとうごぜえやすディーナの姐さん。面白え味でさあ」
「ううー。今一フォローになる感想じゃないのー」
「でも、手前どもは楽しいでさぁ。ふざけたんじゃねえ、姐さんが全力で取り組んだ結果なら、新しい味、あるがままを手前どもは楽しみまさぁ。……姐さんにも、挫けるだけじゃなくて、楽しんで帰ってほしいでさぁ」
載せられた餅を一つ、ディーナに差し出しながらアンは笑顔で話しかける。分け合って、一緒に食べる、この時間が幸福なのだというように。
促されるようにディーナも自作の餅を頬張って、少し笑って、それからやっぱり納得いかないと立ち上がる。
「次はがっつり度肝を抜くの~。他のお餅も制覇して構想を練るの~」
そうして、ずんだ餅やら鍋焼きうどんやらを食べつつ会場を歩き始めて……次に向かった一角では、雑煮が出来上がりつつあるようだった。
「ふむ。雑煮を作っているのか?」
ひりょが話しかけたのはエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)である。磯部や辛み餅などを摘まみつつ彼女が作る鍋からは出汁の匂いが漂っている。
「せっかくの正月にこうして集まったのだ。雑煮でも作ってみるかと思ったのだが……他の人の雑煮はどうなのか、と思ってな」
雑煮というものは地域によって味付けや具材などがかなり異なる。聞いてみるのも面白そうだと思ったのだ。
料理自体の知識が増えるというのもあるが、人と話す良い機会だ……と。
「うちはシンプルに出汁と葉物野菜と人参を少々……ってところですね」
エラが答える。入れる餅は食べるのが大変だからと小さめに切って貰って、少し焼き目を入れて。
「寒いしやっぱり温まるわー」
「ふむ。それなら向こうに汁粉などもあったようだが」
「汁粉はちょっと重いわねー。年は嫌だわー」
「……」
それは女性相手にどう反応すればいいのか。困ったひりょは少し視線を逸らしてエラの雑煮、それから彼女が自身で準備したのだろう磯部や辛み餅などにも目を向ける。
「おや、これは」
「そう。薄口醤油。あったからこっちが良いわねって。年はいy「天丼するネタなのだろうかそれは!?」
そんな会話をする横で、雑煮を作るもう一組。穂積 智里(ka6819)とハンス・ラインフェルト(ka6750)である。
「大根、人参、ほうれん草、里いも……」
具材を準備しながら指折り数える智里にハンスが視線を向ける。
「うちのお雑煮は七草粥と混ざっちゃったのか、七品目入れろって言われてたんですよね」
「ほう……」
今日は日本の行事という事で基本的には智里の主導なのだろう。ハンスは手伝いに回りつつ、マウジーの家族の話を興味深そうに聞いている。
ベースは醤油のすまし汁仕立て。そこに……。
「お祖母ちゃんがコクが足りないってチーズを足したりしたのを見た記憶があったけど、どういう7品目だったかうろ覚えになってしまって」
と、チーズを入れて、焼いた餅の上から注いで、香りと飾りに柚子の皮を乗せれば、これで七品目。だが……。
「もしかしたらシメジだったかな、鶏肉も入っていた気がするなって思うんですけど……」
どうやら、かなりうろ覚えであるらしい。だが出来上がったそれを、ハンスは「美味しいですね。これがマウジーの家庭の味ですか」と優しい笑みを浮かべて言えば、智里もはにかみ笑顔を浮かべて寄り添って共に食べる。
そんな光景を横目にしながらひりょもそれらを参考に自分なりの雑煮を完成させて。
(ふむ、我ながら美味く出来たな。まぁ、これは一緒に作ったメンバーの力もあっての事だが)
満足して、皆に振舞いながらも自らも味わっていた。
……と。
「ここにあるのがゾウニ? とかいうものなのか? 多種多様なようだな……」
そこに、ふらりとやってきたのはレイア・アローネ(ka4082)。
「……で、どれが旨いのだ?」
こらそこ、場合が場合ならさらりと火種になりかねないことを言わない。
「明けましておめでとう」
「おめでとさんダヨ~♪」
挨拶を交わしながらともに歩くのは八原 篝(ka3104)とパトリシア=K=ポラリス(ka5996)である。
「むかし、お正月に田舎に帰った時にお父さんがお餅をついてたっけ。腰を痛めてたけど」
慣れた様子で落ち着いて歩く篝に対して、パトリシアはかなり上機嫌だ。
「おもちモチモチ~♪ あんまり食べたことなかったカラ、おもちちゃん、楽しみにしてたんダヨ~♪」
言いながら彼女がデコレーション用にと取り出したのは苺やチョコチップ。篝は一度言葉を無くす……が、餡子が用意されているのを見てふと閃く。
まずこし餡で苺を包み、更に餅でそれをくるむ。
「これで苺大福になるはず……どうかしら」
「ふむふむ~♪」
パトリシアは篝をししょーと仰ぎながら、興味深々、手つきを眺めている。
「暖かいお餅と餡が、苺でさっぱり、ダヨ~」
「チョコとか熱で溶けるものもお餅で包むようにすれば有りかもね」
言いながら篝は今度は自分の分を用意し始める。
一口大にちぎった熱々のお餅を、醤油で味付けした冷たい大根おろしに絡めたおろし餅。
「さっぱりとしていて、いくらでも食べられるわ」
「ピリっときたヨ~。ちょっと大人の味?」
「甘い味付けのものを沢山食べ過ぎた後の口直しにもちょうど良いわよ」
「うん、まだまだ食べるヨ~♪」
そんな風に歩いていると、やはり餅を片手に食べ歩いていたメアリ・ロイド(ka6633)、エラとそれぞれ遭遇する。
餅を食べるのは初というメアリは栗きんとんを絡めて食べていた。エラは……。
「あら、そっちもおろし餅?」
「ええ。辛味大根の大根は鬼おろしよ。もちろん」
篝の問いに、ごりごりと大根をおろす仕草をしながらエラが答えて篝に差し出すと篝もご相伴に預かる。そんな一幕があったり。
「メアリには、苺をプレゼントなんだヨ~」
「……予想外ですが、それも面白そうですね」
最近ぐっと仲良くなったメアリにパトリシアが持ち込んだ材料を差し出して、メアリも苺大福を味わったりしていた。
連れ立って歩いて行くうちに、丁度というか、透と康太が会話していた所にも行き会う一行。
「高瀬さんはこし餡派ですか。美味しいですよね、私も好きです」
「え、まあ……はい」
メアリが、ごく当然のように近づいて康太に話しかけてから、ふと気がついたように小首をかしげる。
「高瀬さんが、伊佐美さんと情報収集以外の会話をしてるとか、貴重なものを見ました」
「え? いや……」
透がメアリの言葉に、反射的に何か言いかけて、それからやはり、ふと気付いたように康太を見る。
「……いや、うん。雰囲気、変わったよなあ……」
「いや、何がですか! 何ですか一体!」
透がそう言うと、康太はまたかつてのような不快感を少し見せるのだった……が。
「タカセくんお久しぶり♪ こしあん? 皆自分がどっちなのか言えるの、玄人っぽくて、かっくいいんダヨ~」
パトリシアまで他の友人と同じようにけろりと普通に話しかけると、またすぐに戸惑いの表情に戻る。
彼女は、これからそれぞれの良さを聞いて回って、食べてみて、自分も何派か確かめてみるつもりだという。
そんな会話に、すっかり巻き込まれて、女性に囲まれる形になり狼狽えている康太を目に。
いや何なんだろうこれ。本当、少し見ない間に何があったんだろう。思いながら透はとりあえずチィを引いてさり気なく遠ざかってみるのだった。
そんな透とチィの元に、手伝いが一息ついたのか真が餅を片手に話しかけてくる。
「新年早々会えて嬉しいよ」
そう二人に告げる真は穏やかな笑顔を浮かべていた──一時期病んでいた印象を払拭するくらいの。
実を言えば、今も別件で落ち込んではいる。が、透の前では前向きに明るく、暗い部分は見せないと改めて決意したから。
「うん、明けましておめでとう、真」
「おめでとうでさぁ」
明るく振舞う真に、二人も特に何も気にする様子もなく笑顔を返してくる。
……ずっと依頼に入っていると日付の感覚が無くなってくるから、こういう節目は大切にしなければ……と仕事中毒を自覚しながら真は思う。
「二人は今年の目標とかあるの?」
それでだろうか、新年らしい話をしようと、二人に向けて聞いてみた。
「今年の目標……というか、目指すこと、やるべきことは今年も変わらない……かな」
「手前どもは別に目標ってぇのは。とにかく目の前のことに全力でさあ」
「はは。そうか」
二人の答えに、だよね、と真は納得して笑って。
「私は……もっと強くなることだよ。一人でも多くの人を助けられるように、ね」
そうして、真も己の想いを告げた。二人はやっぱり、ただ、らしいな、とゆっくり頷いたのだった。
賑わいを増していく広場で、鷹藤 紅々乃(ka4862)と久我・御言(ka4137)はこの行事に相応しく共に着物姿で楽しんでいる。
二人とも日本出身で、馴染みのある空間だ。こうして正月に餅を食べられることを喜ぶ紅々乃を、御言は限りなく優しい目で見つめている。
御言が勧めるのは定番の餡ころ餅。手ずから作ってくれたそれを紅々乃は満面の笑みで食べ終えると、私も御言さんに作って召し上がって頂くのです! と作り始めたのは、こしあんのあんこ餅に、カットした苺や蜜柑を焼餅を叩いて伸ばした餅で包んだフルーツ餅。
「さあ頂きましょう!」
ずらり並べたそれを、宣言と共に彼女自身も張り切って食べ始めて。
「随分たくさん作ったのだね」
色んな種類の餅が来るのを、微笑んで全て完食しつつも、思わず御言はポツリと言う。
もぐもぐ食べて次の餅に伸ばしていた紅々乃の手がピタリと止まった。
「はぅっ……うっかり食べ過ぎたでしょうか……御言さん……ぷくぷくになった私に幻滅しちゃいますか?!」
一転狼狽えて、御言と自分の腹に視線をいったりきたりさせる紅々乃に、御言はしまったと思った。
どちらかといえば種類に感心して言ったのだが、量と取られたのは少しデリカシーに欠けたかもしれない。
──が、彼女のあたふたする姿は、それもまた愛しい。
それはそれでよし、と紅々乃を見つめる視線──そこに含まれる全て──に気がついて、紅々乃は「もう……」と呟いて。
そうして芽生える己の想いに、改めて思う。
(──一昨年の冬、御言さんの想いを伺って……それから様々な出来事がありましたけど)
その様々な出来事。その全てにおいて。いつも彼がそばに居てくれたから、私は『私』でいられた。
(私は、御言さんが大好きです……!!)
ふとしたことでこみ上げてくるその想いを。
敢えて、口には出さない。
……出さずとも彼はもう、受け止めてくれるから。
笑みを、ただ優しいだけではないものに変えて、御言は紅々乃の肩を更に寄せる。
人の多い会場だ。彼らの事を偶々か意識してか見止める者も居ただろう──が。
(リア充おおいに結構だ)
御言はそれらを気にするそぶりもない。自分の彼女を自慢する事に、躊躇いなど無いのだった。
そんな御言をレイアは、見かけてはいた。
友人が来られなくなったため一人で参加していた彼女ではあるが、まあ、彼らに声など掛けられるわけがなかった。
誰か交流できそうな、一人のものは居ないかと視線を巡らせていると、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が目に入る。
軽く挨拶を交わした後、レイアが餅というものは初めてだ、というと、ルベーノは、
「餅か……確かこの前食ったのが初めてだったと思うぞ。俺は米食地帯の出身ではないからな」
と、やはりあまり慣れていない様子で答えた。
「季節の食い物らしいという認識はあるぞ。喉に詰まりやすゆえ掃除機を準備して食えと言われたな、そう言えば」
「私もリアルブルーの友人もいるから聞いた事くらいはあるのだが……ライスで作ったパン……か?」
「まあそんなところではないかな。はっはっは」
大雑把すぎるレイアの理解を、ルベーノも細かいことは気にしないという豪快さで軽く流す。
「縁起物らしいからな。せっかくの年初め、一通り喰って験担ぎせねばなるまい」
「この食感……かなり独特だが……悪くないかもしれん」
そんな会話を挟みながら、色々食べ歩く二人。
そうして餅自体も堪能しながらも、ルベーノは周囲を観察していた。色々ある昨今だが、それでも祭りのハレの気に人々は笑顔を浮かべている。
「どんな祭りであれ、祭りが盛況であるのは良いことだな、ハッハッハ」
笑うルベーノに、レイアは来年こそ友人を連れて来よう、と決意するのだった。
神代 誠一(ka2086)は年末年始を重体で過ごし寒さで引き籠っていた所を、相棒のクィーロ・ヴェリル(ka4122)に誘われての参加。
「だっから! 見てる方が寒いんだっつーの! 俺の為に防寒してろ!」
クィーロの姿を一目見るなり、薄着が過ぎるとマフラーを強引に巻く誠一。クィーロは苦笑して素直に巻かれていた。そんなやり取りも楽しみながら、早速料理に取り掛かるのはクィーロ。完全に任せる体制の誠一。
雑煮、磯辺焼き……と手慣れた様子で作りながら、ふと顔を上げて、
「重体回復を祝ってもあるから今日は誠一が食べたい餅料理を作ってあげるよ。何が食べたい?」
問えば誠一が答えたのは汁粉だった。思い出の味だという。言われてすぐに、これまた手際よく作り上げていくクィーロ。
「はー……うっま。お前ほんとになんでも器用に作るよな。あったまるわ……」
誠一の感想に、クィーロは満足して頷くと、そのまま次の料理に取り掛かる。どうやら豆餅のようだ。
「確か、リアルブルーでは餅に年齢分の豆を入れるんだっけ?」
「お前色々混ざってるぞそれは……」
苦笑してツッコミながら、まあいいかと一緒に豆餅の制作に取り掛かる誠一。どうやら年齢分豆を入れるのは継続のようだ──とはいえ、クィーロの年齢は正確なところは分からない。そのため彼の分は適当に作られたのだが……。
「誠一の豆は足りないんじゃないかな? まだ二十個だよ?」
「……ちったぁサバ読ませろよ。へいへい」
誠一の分は、そんなやり取りをしながらも律義に豆を押し込んで、最終的に豆ボコだらけになった餅に彼は一瞬沈黙する。……が、食ってみたら美味かったのでまあ良し! と直後には笑っていた。
……そんな彼だからだろうか。相棒と過ごしながらも、色んな人が声を掛けに訪れたりもして。
エラはやはり、こういう時は同行者に気遣ってか、それでも軽く新年の挨拶だけは交わして去っていき。
白藤も。「かわいこちゃんと一緒やから、今日は堪忍な、先生ー?」と、生真面目すぎて冗談が通じないの知っててふざけて揶揄って去っていく。
笑ったり慌てたり。あるいは丁寧に。色んな人と代わる代わる接する、そんな相棒を見ながら。
それらが完全に通り過ぎただろう最後に、誠一だけに聞こえる声でクィーロは言った。
「そういえば……誠一、今年もよろしくね」
それに誠一も、思わずといったふうに小さく──誰に見せたものとも違う──笑みを浮かべて。
「ん。今年もよろしく」
そう、答えるのだった。
白藤が泉とミアにも振舞いながら制作したのはぜんざいだ。
「あまーいのんが食べたいんやぁ♪」
そう言って彼女は缶詰の小豆を緩めたものに塩昆布を付けて餅を投下する。甘い餡子を程よい塩味が引き締めて、より甘味を引き立たせつつも後引く味に仕上がっている。
「もちもちーじゃもんっ!」
「甘いニャスー。しーちゃんの特製ぜんざい、幸せニャス!」
感激する二人に、白藤はまねてもちもちと伸ばしながら食べる泉の頬をもちもちやなーとつついてやり、ミアのほっぺについた餡子を拭ってやったりと構い倒す。
「ふふ、新しい年、こない楽しい迎えれるなんてな」
くすくす笑う白藤。
そんな三人に象徴されるように。
場内は幸せな空気に包まれている。
エンバディも、ようやく餅にありついて。餅料理を、美味しく堪能する。
知り合いを渡り歩いていた賢四郎とエラがここで合流した。
喧騒を離れ、賑やかな空気を外側から眺めるようにして。
「……今後の展望はどうなりそうですかね」
この時も。動乱の気配は今、世界のあちこちで同時に忍び寄っている。こんな時にそんな話を──とは、彼女は言わなかった。掴んでいる幾つかの話。その見通しを語り。……脚色のない報告に、全く気の抜けない状況であると再認する。
賢四郎はそれに──
「少なくとも現実のみを見て、その先をどうするか……ですな」
マキャベリストの顔で、告げた。エラもきっと、今すぐに事が起これば、そういうものだ、と淡々と対応に出るのだろうと思った。そんな彼女を、やはり今日出会った中では一番近しい存在と彼は感じる。
事実は事実。その上で。今この時は──
グラスを掲げ、透明な液体越しに会場を見る。
すると、エラもまた隣でグラスを掲げていた。
「……新年に、乾杯」
苦笑して、グラスを鳴らす。
──それでもやはり、だから。この一時は、温かいのだと。
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餅つきと新年会。 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/01/08 08:27:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/07 02:05:28 |