ゲスト
(ka0000)
【陶曲】2人のオートマトン
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/01/20 22:00
- 完成日
- 2019/01/28 01:00
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●反省会と今後の方針
嫉妬の歪虚サイゴンはハンターたちと一戦まみえた経験により、力押しだけでは駄目だ。作戦と言うものを考えなくてはいけないということを学んだ。
……だが、その作戦というものを具体的にどうしたらいいのかまでは、いまいち頭が回らない。
なので、ラルヴァに聞いた。
ラルヴァはこう答えた。
「そうだね、お前が軍団全部を一人で操るのは難しいだろうね。要となれるレベルの兵隊を作り、一部それに指揮を任せてはどうだい。レベルが高い兵隊を作るには、並の兵隊数十体を作る以上に力がいるから、その分軍団全体の総数は減ることになるがね」
「なるほど。そいつはとてもよさそうなお考えだど。おらっち、やってみるど。そのためには、なんかいい仲間を見つけねばなあ」
早速前回のゴミ捨て場へ行ってみようとしかけたサイゴンを、ラルヴァがすかさず呼び止める。
「サイゴン、この際オートマトンを使ってみてはどうかね。カッツォが以前集めてきたものが、いくらか残っているよ。満足な姿形ではないが」
●小骨が喉に刺さったような
オートマトンのユニは町角のベンチに座って、年明けの昂揚が醒め切らぬ通りを眺めていた。
たくさんの人が通る。
種族――人間、エルフ、ドワーフ、鬼、ドラグーン。オートマトンは、わずか。
性別――男、女、両方、どちらでもないもの。
年齢――赤ん坊からお年寄り。
ユニにとっては最後のカテゴリー『年齢』が、目下一番気にかかる。
人間は刻々姿を変えていく。
乳母車に乗った赤ん坊が、脇を歩いている兄弟と同じ姿に、次いで車を押している両親と同じ姿になる。
オートマトンの姿は時と共に変化しない。
経年劣化してあちこち機能が衰えたりすることはあるだろうが、同じ姿、同じ顔だ。
子供として作られたものは子供のまま、大人として作られたものは大人のまま。
今自分と同じ背格好の子供がいたとしても、何年かのうちにその子は、違う姿になってしまう。
オートマトンは人間からどう見えるのだろう。
彼らから見て本当に同じ『人間』として映っているのだろうか。
自分が知っている異世界生まれの英霊は、明確にその点を否定し続けているのだが。
人間は人間の中から新しい人間を作り出すことができる。たとえ種族が違っていても、そこだけは共通項だ。
その共通項がオートマトンにはない。
オートマトンの中から新しいオートマトンは生まれない。
そしてこの世界にはオートマトンを新しく作り出す技術がない。
その状態がこのまま続くとすれば、今存在している異世界渡りの機体が使い尽くされると同時に、オートマトンという存在も消え失せてしまう。
だけど人間は消えない。常に新しい個体が発生し続けるのだから。
「……」
ユニはなんともおかしな気分を味わっていた。
腹立たしいような、悲しいような、苛々するような。
折よく尋ねることが出来る人がその場にいれば、教えてくれたかもしれない。ユニ、それは嫉妬というものだ。あなたは人間を羨ましく思っているのだと。
しかしそういう人は、今この場にいない。
もやもやしたものを抱えたままユニは、軽く伸びをした。そこで、通りを行く1人の人物に目を留めた。
オートマトンだ。
青い髪に青い目をしている。
外見年齢は――12かそこいら。
(ワタシと同じくらいですね)
オートマトンにありがちな男女の区別がつけにくい面相。
(そこも、ワタシと似てますね)
とはいえ、全体の印象から言うと少女ではなく少年――ぽい。
体全体をカーキ色のローブで覆っている。無表情な顔の右半分には厚いベールがかかっている。
そんな彼(多分)からユニは、目が離せなかった。
オートマトン仲間だからという理由からではない。彼が全身から醸し出している剣呑な空気を、微妙に感じ取ったのだ。
彼は他の人間と変わらぬ自然な、早くも遅くもない歩みで歩道を歩いて行く。前だけを見ながら。
その歩みがふと止まった。
側にいる家族連れの、乳母車に視線を降ろす。
次の瞬間彼の手は、父親が押していた乳母車を掴んだ。
「何をする!」
とっさに身構えた父親が倒れた。腹を刺されて。
母親が悲鳴を上げる。
乳母車が魔導トラックが疾駆してくる車道に放り投げられた。中に入っている赤ん坊ごと、軽々と。
「うぉ!?」
反射的にトラックドライバーがブレーキを踏む。
だがブレーキをかけたからといって、車が急に止まるものではない。
ユニは反射的に車道へ飛び出す。乳母車をかばい抱き、トラックと接触しつつも受け身を取る。守り切る。
『彼』はそんな彼女の行動を見ていない。
その前に乳母車の側にいた兄弟2人の腕を右手と左手で掴んで引き寄せ、軽々跳躍する。通りの建物の屋根へ。
その激しい動きによってローブの一部がめくれた。
そこに見えたのは、金属部分が剥き出しになった腕、足。服で隠されている部分も――恐らく同様ではあるまいか。
隠されている顔の右半分も、多分。
ユニは乳母車から火がついたように泣いている赤ん坊を出し、母親のもとへ戻す。
母親は助けを求めていた。血を流し倒れている夫の傍らで。突然の出来事にどうしていいか分からず狼狽しきっている。
「誰か、誰か――子供が! 助けて!――夫が――!」
その間にオートマトンは、建物の屋根沿いに走って行く。
引きずられて行く子供たちは体をあちこちにぶつけられている。屋根瓦、煙突、出窓の庇。
傷だらけになって泣きわめくその声を、オートマトンは意に介していない。
むしろいよいよスピードを速め、跳躍する。屋根から屋根へと。
片方の子供がその拍子に思い切り、腹を屋根の角へぶつけた。ぐっ、という呻き声。子供は白目をむいて気絶する。
それでもオートマトンは意に介していない。どうも、死んでもいいと思っているらしい。
ユニは母親に向かい、力強く言った。
「大丈夫です、助けますから!」
そして、走り出した。もう1人のオートマトンを追いかけて。
嫉妬の歪虚サイゴンはハンターたちと一戦まみえた経験により、力押しだけでは駄目だ。作戦と言うものを考えなくてはいけないということを学んだ。
……だが、その作戦というものを具体的にどうしたらいいのかまでは、いまいち頭が回らない。
なので、ラルヴァに聞いた。
ラルヴァはこう答えた。
「そうだね、お前が軍団全部を一人で操るのは難しいだろうね。要となれるレベルの兵隊を作り、一部それに指揮を任せてはどうだい。レベルが高い兵隊を作るには、並の兵隊数十体を作る以上に力がいるから、その分軍団全体の総数は減ることになるがね」
「なるほど。そいつはとてもよさそうなお考えだど。おらっち、やってみるど。そのためには、なんかいい仲間を見つけねばなあ」
早速前回のゴミ捨て場へ行ってみようとしかけたサイゴンを、ラルヴァがすかさず呼び止める。
「サイゴン、この際オートマトンを使ってみてはどうかね。カッツォが以前集めてきたものが、いくらか残っているよ。満足な姿形ではないが」
●小骨が喉に刺さったような
オートマトンのユニは町角のベンチに座って、年明けの昂揚が醒め切らぬ通りを眺めていた。
たくさんの人が通る。
種族――人間、エルフ、ドワーフ、鬼、ドラグーン。オートマトンは、わずか。
性別――男、女、両方、どちらでもないもの。
年齢――赤ん坊からお年寄り。
ユニにとっては最後のカテゴリー『年齢』が、目下一番気にかかる。
人間は刻々姿を変えていく。
乳母車に乗った赤ん坊が、脇を歩いている兄弟と同じ姿に、次いで車を押している両親と同じ姿になる。
オートマトンの姿は時と共に変化しない。
経年劣化してあちこち機能が衰えたりすることはあるだろうが、同じ姿、同じ顔だ。
子供として作られたものは子供のまま、大人として作られたものは大人のまま。
今自分と同じ背格好の子供がいたとしても、何年かのうちにその子は、違う姿になってしまう。
オートマトンは人間からどう見えるのだろう。
彼らから見て本当に同じ『人間』として映っているのだろうか。
自分が知っている異世界生まれの英霊は、明確にその点を否定し続けているのだが。
人間は人間の中から新しい人間を作り出すことができる。たとえ種族が違っていても、そこだけは共通項だ。
その共通項がオートマトンにはない。
オートマトンの中から新しいオートマトンは生まれない。
そしてこの世界にはオートマトンを新しく作り出す技術がない。
その状態がこのまま続くとすれば、今存在している異世界渡りの機体が使い尽くされると同時に、オートマトンという存在も消え失せてしまう。
だけど人間は消えない。常に新しい個体が発生し続けるのだから。
「……」
ユニはなんともおかしな気分を味わっていた。
腹立たしいような、悲しいような、苛々するような。
折よく尋ねることが出来る人がその場にいれば、教えてくれたかもしれない。ユニ、それは嫉妬というものだ。あなたは人間を羨ましく思っているのだと。
しかしそういう人は、今この場にいない。
もやもやしたものを抱えたままユニは、軽く伸びをした。そこで、通りを行く1人の人物に目を留めた。
オートマトンだ。
青い髪に青い目をしている。
外見年齢は――12かそこいら。
(ワタシと同じくらいですね)
オートマトンにありがちな男女の区別がつけにくい面相。
(そこも、ワタシと似てますね)
とはいえ、全体の印象から言うと少女ではなく少年――ぽい。
体全体をカーキ色のローブで覆っている。無表情な顔の右半分には厚いベールがかかっている。
そんな彼(多分)からユニは、目が離せなかった。
オートマトン仲間だからという理由からではない。彼が全身から醸し出している剣呑な空気を、微妙に感じ取ったのだ。
彼は他の人間と変わらぬ自然な、早くも遅くもない歩みで歩道を歩いて行く。前だけを見ながら。
その歩みがふと止まった。
側にいる家族連れの、乳母車に視線を降ろす。
次の瞬間彼の手は、父親が押していた乳母車を掴んだ。
「何をする!」
とっさに身構えた父親が倒れた。腹を刺されて。
母親が悲鳴を上げる。
乳母車が魔導トラックが疾駆してくる車道に放り投げられた。中に入っている赤ん坊ごと、軽々と。
「うぉ!?」
反射的にトラックドライバーがブレーキを踏む。
だがブレーキをかけたからといって、車が急に止まるものではない。
ユニは反射的に車道へ飛び出す。乳母車をかばい抱き、トラックと接触しつつも受け身を取る。守り切る。
『彼』はそんな彼女の行動を見ていない。
その前に乳母車の側にいた兄弟2人の腕を右手と左手で掴んで引き寄せ、軽々跳躍する。通りの建物の屋根へ。
その激しい動きによってローブの一部がめくれた。
そこに見えたのは、金属部分が剥き出しになった腕、足。服で隠されている部分も――恐らく同様ではあるまいか。
隠されている顔の右半分も、多分。
ユニは乳母車から火がついたように泣いている赤ん坊を出し、母親のもとへ戻す。
母親は助けを求めていた。血を流し倒れている夫の傍らで。突然の出来事にどうしていいか分からず狼狽しきっている。
「誰か、誰か――子供が! 助けて!――夫が――!」
その間にオートマトンは、建物の屋根沿いに走って行く。
引きずられて行く子供たちは体をあちこちにぶつけられている。屋根瓦、煙突、出窓の庇。
傷だらけになって泣きわめくその声を、オートマトンは意に介していない。
むしろいよいよスピードを速め、跳躍する。屋根から屋根へと。
片方の子供がその拍子に思い切り、腹を屋根の角へぶつけた。ぐっ、という呻き声。子供は白目をむいて気絶する。
それでもオートマトンは意に介していない。どうも、死んでもいいと思っているらしい。
ユニは母親に向かい、力強く言った。
「大丈夫です、助けますから!」
そして、走り出した。もう1人のオートマトンを追いかけて。
リプレイ本文
●
キヅカ・リク(ka0038)は自分同様異変に気づき現場に集まってきたハンター――マルカ・アニチキン(ka2542)、ディーナ・フェルミ(ka5843)、百鬼 一夏(ka7308)、空蝉(ka6951)、フィロ(ka6966)、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)、天竜寺 舞(ka0377)――が効果射程内にいるうちに連結通話を発動した。以後の通信を円滑にするために。
オートマトンは子供2人の腕を掴んで引きずり回している。その体が傷つくのも構わずに。どう見ても生き物を扱っている態度ではない。
空蝉の中で暴走自動人形に対する処理プログラムが起動した。暴走のけじめは同朋が下すべき――AIがそう命じている。
閉じられた口から出るのはいつもと違う、機械的なテクノボイス。
『対人暴行傷害ヲ認知。脅威ヲ排除セヨ』
彼は地を蹴った。瞬脚と立体移動を駆使し、追跡にかかる。
マルカが魔杖ケイオスオーシスにマジックフライトをかけ、飛ぶ。
「私が索敵をします! 情報は随時お伝えしますので!――待ってくださいユニさん、このエピキノニアを!」
舞がフィロに囁いた。
「何とかあいつに気づかれないようにして接近して子供取り返してみる。その間あいつの注意を引き付けてて」
「承知いたしました」
隠身で姿を消した相手にそう返したフィロは、恐るべき速さで追跡を始めた。
続いてツィスカが動く。
「何ゆえ子供に害を為したかは存ぜぬが、明確に抵抗され得ぬ者に手を出した……幼い生命だから、などと綺麗事は言いませんが、己の我侭で無辜の民に災厄を齎したのならば――我らが相応のエゴを叩きつけられる覚悟をせねばなるまい」
リクもまた動く。
「大丈夫、あれは僕らが追うから。ごめん、そこの怪我人お願い!」
後事を託されたディーナは先に行った仲間に向け、声を張り上げた。
「回復してから追いかけるの、連絡するの!」
瀕死の父親にリザレクションとフルリカバリーをかけ、抜けかけていた命を呼び戻す。
ディーナ同様場に留まっている一夏は、パニック状態にある母親を落ち着かせることに専念した。絶対助けるという意志を込め、優しく励ます。
「大丈夫です! 私達が絶対助けます。だからお母さんは赤ちゃんと待っていてください」
父親の傷が塞がった。呻き声を上げ目を開ける。
それを見て安堵した母親はへたへた座り込む。
妻と赤ん坊が無事なことを確認した父親の頬が緩む。だがすぐ固まる。残りの2人の子供が場にいないことに気づいたのだ。
「セリーヌ、アントンとギヨメは?」
その問いに母親は、声を震わせ訴える。
「あなた、あなた、攫われたの、2人とも――」
ディーナがそれを遮り、力強く言い切った。
「大丈夫なの、お子さんは皆が助けに行ったの。ここで旦那さんと待っていてほしいの。怖い思いをして戻ってきた子供達には、お父さんとお母さんの優しいハグが必要なの」
●
空蝉と横並びで走っているユニは、オートマトンに呼びかける――マルカから申し出があったものの結局彼女は、マジックフライトを武器にかけてもらうことはしなかった。自分は空中移動に不慣れであると思ったので。エピキノニアは、ありがたく借してもらったが。
「止まってください! 子供たちを放してください! 死んでしまいます!」
オートマトンは速度を殺さぬまま方向転換をし、通りを跨いだ向かい側の屋根へ跳び移る。
フィロが進行方向から現れたのだ。彼女の移動速度は、オートマトンを上回っていた。
そこでリクが追いつき、合流してくる。
彼は聖盾剣アレクサンダーで顔をかばうようにしつつ、オートマトンに呼びかける。
フィロと連携し、逃げ道を塞ぐようにして。
「待て、止まれ! 何故そんな事をする! その子達を解放しろ! そうすれば攻撃は控える! これ以上の逃走を続けるなら、こちらも手段を選べない!」
最終警告が含まれた呼びかけをオートマトンは無視し、動き続ける。
その体を銃弾が掠めた。
オートマトンは一瞬立ち止まり、弾が飛んできた方向を見やる。離れた屋根の上に魔導銃メークエンデを構えたツィスカの姿があるのを確認し、舌を打つ。
ユニが再びオートマトンに問いかける。彼女にはなんとしても不可解だった。同族である相手が人間を痛め付け平気でいられることが。
「あなたは、オートマトンでしょう。オートマトンが何故人間に危害を――」
オートマトンの無表情だった顔に、明白な嘲りが浮かぶ。
『なんで危害を加えたらいけねえのかが分かんねえな。何匹潰しても後から後からウジムシみたいに増えてくるでねえか、こいつらはよう』
絶句するユニ。
フィロはオートマトンから視線を外さぬまま、彼女に言う。
「あれは明確に私達の敵です。殺して身体を奪ったか、目覚める前の身体を歪虚が乗っ取ったか。どうであれもう2度と私達の仲間として目覚めることはありません。本来のあの子のためにも、私達はあの子を破壊して取り返さなければなりません」
●
『お父さんの応急処置は終わったの。今からディーナたちも現場に向かうの。マルカさん、オートマトンは今どこにいるの?』
ディーナからの通信を受けたマルカは、右に左にせわしく目を走らせた。空中にいる彼女には、町全体が俯瞰出来る。戦いの様子も、全て。
「――ディーナさんがいる位置から西に7区画行った先です――いや今移動して5区画に戻――とにかく、川岸の通りを――動き回っています」
報告の最中、彼女は息を詰めた。
オートマトンがいきなり子供の1人――兄の方――を高く高くぶん投げたのだ。
小さな体が加速をつけ上昇する、それから一直線に地上へ引きずり降ろされて行く。
●
舞は子供が落下して行く方へ全力で跳躍した。
空中で小さな体を捕まえ抱き込む。自分の背を下にし落下する。屋根の端を壊し庇をぶち抜き鉄柵で体を刺しつつ着地する。硬い石畳の上へ。
ディーナが魔導ママチャリ銀嶺で駆けつけてきた。
彼女は子供と舞にリザレクションをかけ、傷を回復させる。
頃合いよく場に、警察と病院関係者がやってきた。一夏が予め、出動要請をかけていたのである。
彼女らはその人たちに兄を預け、まだ捕らわれている弟のところへ向かう。
●
舞がすかさず救援に向かったため戦力が1人欠けることになったが、この際一気に畳み掛けるべきだ。
瞬時にそう判断を下したリクは盾の裏に隠していた聖機剣から、機動砲を発動させた。
オートマトンはすんでの所でその攻撃をかわす。荷を1つ捨てたことで回避力が増したのだ。
しかしローブと顔を覆うベールが破れた。金属剥き出しの上体と顔半分が露になる。
コードと部品の集合体である上腕。右手首に連結している短剣が子供目がけて振り下ろされた。
リクは咄嗟に体当たりをかける。攻性防壁を発動して。
オートマトンは雷撃に弾かれ後退した。そこから態勢を立て直そうとするところに、ツィスカの制圧射撃。
フィロがオートマトンに突進した。子供を掴んでいる左腕にしがみつき押さえ込む。
オートマトンは右腕の短刀で彼女の腕を突き刺し、引きはがそうとした。
『そうまでして人間の奴隷でいだいべが。同族ながら虫酸が走るべ』
侮蔑的な眼差しを向けてくる相手にフィロは、それに負けぬぐらい、いやもっと強い侮蔑を込めて返す。
「私達オートマトンは人の友として望まれ作られた、不老と不変という人の理想の形の1つ。私は人の友であること、オートマトンであることに強烈な自負と誇りを抱いております。人に憧れたことも人に成り代わりたいと思った事もありません。人と手を取り合い共に繁栄する事が私達オートマトンの使命です」
その言葉を聞いたユニが一瞬はっとしたような顔をした。続けてハンマーを手に、背後からオートマトンに飛びかかる。
オートマトンは振り向いた。
子供を掴みフィロを刺したまま蹴りを食わせ、ユニを屋根から突き落とす。
そこで隠の徒による接近を図っていた小夏が、仕掛けた。
「ヒーローは遅れて登場するものです!」
叫ぶなり子供の体を抱き、引きはがしにかかる。
そうはさせじとオートマトンは、子供を掴む手にますます力を込めた。
鋼の指が肉に食い込み骨を折る。朦朧としていた子供の意識が覚醒した。絞め殺されそうな悲鳴が絞り出された。
屋根に駆け上がってきたディーナはその子供に向け、アンチボディを連発する。これ以上の肉体へのダメージを極力阻止するために。
フィロは怪力無双の腕力で、オートマトンの腕をぎりぎりとよじる。ねじる。
オートマトンの腕が子供の腕を掴んだまま、途中からもぎ取れた。
それに乗じて小夏は、子供をなんとかもぎ取った。
人間の安全が確保されるのを見届けた空蝉は魔導剣カオスウィースを手に、攻撃を始める。
オートマトンの刃が自身に食い込むのも意に介さず、返しの刃を相手に叩き込む。火花交じりの応酬は、彼を戦闘不能の状態に陥れた。と同時にオートマトンの力を殺いだ。
しかしオートマトンは、まだ子供を狙おうとする。
ディーナはプルガトリオを発動し動きを抑えようとしたが、どうにも効きが悪かった。
速度を鈍らせつつも相手は、無理やり動いてくる。
『こ・ん・な・も・のぉおおおおらっちにはきかねえだぞぉおおおおおお!』
足、脚、頭、腹。
猛攻に耐えつつも彼女は、奇妙な既視感に囚われた。
(……今聞いたのと同じ台詞、最近、どこかで聞いたことがあるよう、な……)
一夏がその脇からオートマトンの間合いに飛び込む。左腕目がけ白虎神拳を放つ。
「何で町でこんな事をしたのか教えてくれませんか? 子供を攫う目的ならこんな派手な事はしないです。人を殺す目的ならあの場で暴れた方が被害が――」
壊れた半分の顔を剥き出しにして、オートマトンが嗤った。その刃が一夏の瞼数ミリの位置を掠める。
『ハンターとの戦いにおいて何が有効か調べるためだべ。その結論は出ただ。人間を盾にするのが一番だべ。おめえたちには、それが一番こたえるんだべ? 人間がオートマトンを壊すのはかまわねえ、だども、オートマトンが人間を壊すことはと許せねえ思うだな?』
そこまで言ったときオートマトンは、真横に短剣を突き出した。
ナイトカーテンで接近していた舞の腹に刃が刺さる。
ほぼ同時に彼女のユナイテッド・ドライブ・ソードが、オートマトンの額に刺さる。
「それはオートマトンがどうとかじゃない。何かを憎み恨む意思があるのなら、それもまた人だから。人としてやってはいけない事をやった責任は取ってもらうよ!」
血と言葉を喉から吐き出す舞。
オートマトンは、低い声で言う。
『都合がいい時だけ人間扱いするでねえ。おめえたちはおらたちにあらかじめ植え込んでいるではねえか。人間に逆らえねえ本能をよ。そこにいる連中がいい例ではねえか』
直後彼の姿は粉々に吹き飛んだ。リクが改めて機導砲を放ったのだ。これだけ憎しみに凝り固まった相手を説得するのは無理だと判断して。
機動砲の破壊力は物凄まじかった。オートマトンは跡形も残さず消滅した。
「一件落着、なの」
息を吐いたディーナは改めて子供の治癒と、仲間の治癒を始める。自分自身の傷については、それを癒すスキルを携帯していないので、諦めるしかない。
一同は泣きじゃくる子供を連れ、地上に降りる。そこには先に助け出された兄と、病院、警察関係者たちが待っていた。
千切れたオートマトンの腕は、子供の腕にまだしがみついている。
ツィスカはそこに尋常ならざる憎悪を感じ取り、眉をひそめた。
「卿は何を示し、何を貫くつもりか……」
空蝉が鉄の指を一本ずつ開き、子供から引きはがす。
それを一夏が受け取り、布でくるんだ。
「これはしかるべきところに送って、解析願いましょう」
マルカが滑るように宙を降りてきて、言う。
「お迎えが来ましたよ」
その言葉どおり、病院の馬車がやってきた。子供たちの両親が窓から顔を出す。
「アントン、ギヨメ!」
「無事だったか!」
ディーナは兄弟と手を繋ぎ、促す。
「さあ2人とも、元気にパパとママに会いに行こうね」
子供たちは彼女を引っ張るようにして走りだした。馬車へ。
「パパ!」「ママー!」
ユニは考え込むような顔をして、その情景を眺める。
それに気づいた舞が彼女に言った。
「あの家族の事が心配?」
「はい。でも……ワタシのこの気持ち、本物なんでしょうか。単にそうプログラミングされているから、というのじゃなくて。ワタシ、人間と同じでしょうか」
真剣な問いに舞は、微笑みで返す。
「あんたがサイゴンに言われた事を気にしてるのは知ってる。でもね、ただの機械は誰かを心配したりなんかしない。その心がある限り体が鉄だろうが何だろうがあんたは人間だよ。そしてもしあんたがあの子供みたいに捕まったらあたし達は絶対助けにいく。信じな」
彼女らのやり取りが気になったリクはさりげなく話に入り、大体の事情を聞きだす。
少し間を置いてから、ユニに聞く。
「何か気分が悪いとかそういうこと、ない?」
「いいえ、気分は悪くないです。ただちょっと」
言葉を切った間にユニが見せた表情は実に人間的なものだった。そこに狂いは感じ取れない。
「ワタシたちオートマトンは、いずれいなくなっちゃうんだなって思うと、寂しいような気持ちがするんです。そうならない人間が、いいなあって思うんです」
リクは力を抜き、片目を瞑る。
「オートマトンが次世代を作れないわけじゃない。ヒトとして一緒に過ごしたこの時間を僕らは忘れたりはしない。そして僕達がいつかEGに追いつくくらいに成ったら、きっと僕らは会いに行く――それまでちょっと、時間を貰うかもしれないけれどね」
フィロも言った。姉が妹を諭すように。
「簡単な話ですよ、ユニ様。誰かの理想であるならば、その理想を貫いて生きる自分でありたいと思ませんか。そう思えば、生きること自体が誇らしい。貴方も誰かの理想の形の1つなのですよ、ユニ様」
「ワタシが?」
「ええ。ユニ様、私達は皆ハンターオフィスでこの世界の方々に望まれて目覚めました。これほどの親愛と信頼を向けて下さった方々に、どうしてそれ以外の情を返せましょう」
マルカが馬車へ乗り込んで行く。ジュースを母親に渡し、話しかけながら。
「大事を取って、私が病院までご同行致します。安全は守られますのでご安心ください。何か不安なこと等あれば――」
後日、今回の事件のあらましが、公的機関から住民に向け発表された。
その中で強調されたのは「暴れたのは歪虚であってオートマトンではない。ハンターによって被害は最小限に抑えられた」という二点。
それはマルカが頼んだものだった。この事件によって住民が、オートマトン、並びにハンターへの感情を悪化させないように、と。
キヅカ・リク(ka0038)は自分同様異変に気づき現場に集まってきたハンター――マルカ・アニチキン(ka2542)、ディーナ・フェルミ(ka5843)、百鬼 一夏(ka7308)、空蝉(ka6951)、フィロ(ka6966)、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)、天竜寺 舞(ka0377)――が効果射程内にいるうちに連結通話を発動した。以後の通信を円滑にするために。
オートマトンは子供2人の腕を掴んで引きずり回している。その体が傷つくのも構わずに。どう見ても生き物を扱っている態度ではない。
空蝉の中で暴走自動人形に対する処理プログラムが起動した。暴走のけじめは同朋が下すべき――AIがそう命じている。
閉じられた口から出るのはいつもと違う、機械的なテクノボイス。
『対人暴行傷害ヲ認知。脅威ヲ排除セヨ』
彼は地を蹴った。瞬脚と立体移動を駆使し、追跡にかかる。
マルカが魔杖ケイオスオーシスにマジックフライトをかけ、飛ぶ。
「私が索敵をします! 情報は随時お伝えしますので!――待ってくださいユニさん、このエピキノニアを!」
舞がフィロに囁いた。
「何とかあいつに気づかれないようにして接近して子供取り返してみる。その間あいつの注意を引き付けてて」
「承知いたしました」
隠身で姿を消した相手にそう返したフィロは、恐るべき速さで追跡を始めた。
続いてツィスカが動く。
「何ゆえ子供に害を為したかは存ぜぬが、明確に抵抗され得ぬ者に手を出した……幼い生命だから、などと綺麗事は言いませんが、己の我侭で無辜の民に災厄を齎したのならば――我らが相応のエゴを叩きつけられる覚悟をせねばなるまい」
リクもまた動く。
「大丈夫、あれは僕らが追うから。ごめん、そこの怪我人お願い!」
後事を託されたディーナは先に行った仲間に向け、声を張り上げた。
「回復してから追いかけるの、連絡するの!」
瀕死の父親にリザレクションとフルリカバリーをかけ、抜けかけていた命を呼び戻す。
ディーナ同様場に留まっている一夏は、パニック状態にある母親を落ち着かせることに専念した。絶対助けるという意志を込め、優しく励ます。
「大丈夫です! 私達が絶対助けます。だからお母さんは赤ちゃんと待っていてください」
父親の傷が塞がった。呻き声を上げ目を開ける。
それを見て安堵した母親はへたへた座り込む。
妻と赤ん坊が無事なことを確認した父親の頬が緩む。だがすぐ固まる。残りの2人の子供が場にいないことに気づいたのだ。
「セリーヌ、アントンとギヨメは?」
その問いに母親は、声を震わせ訴える。
「あなた、あなた、攫われたの、2人とも――」
ディーナがそれを遮り、力強く言い切った。
「大丈夫なの、お子さんは皆が助けに行ったの。ここで旦那さんと待っていてほしいの。怖い思いをして戻ってきた子供達には、お父さんとお母さんの優しいハグが必要なの」
●
空蝉と横並びで走っているユニは、オートマトンに呼びかける――マルカから申し出があったものの結局彼女は、マジックフライトを武器にかけてもらうことはしなかった。自分は空中移動に不慣れであると思ったので。エピキノニアは、ありがたく借してもらったが。
「止まってください! 子供たちを放してください! 死んでしまいます!」
オートマトンは速度を殺さぬまま方向転換をし、通りを跨いだ向かい側の屋根へ跳び移る。
フィロが進行方向から現れたのだ。彼女の移動速度は、オートマトンを上回っていた。
そこでリクが追いつき、合流してくる。
彼は聖盾剣アレクサンダーで顔をかばうようにしつつ、オートマトンに呼びかける。
フィロと連携し、逃げ道を塞ぐようにして。
「待て、止まれ! 何故そんな事をする! その子達を解放しろ! そうすれば攻撃は控える! これ以上の逃走を続けるなら、こちらも手段を選べない!」
最終警告が含まれた呼びかけをオートマトンは無視し、動き続ける。
その体を銃弾が掠めた。
オートマトンは一瞬立ち止まり、弾が飛んできた方向を見やる。離れた屋根の上に魔導銃メークエンデを構えたツィスカの姿があるのを確認し、舌を打つ。
ユニが再びオートマトンに問いかける。彼女にはなんとしても不可解だった。同族である相手が人間を痛め付け平気でいられることが。
「あなたは、オートマトンでしょう。オートマトンが何故人間に危害を――」
オートマトンの無表情だった顔に、明白な嘲りが浮かぶ。
『なんで危害を加えたらいけねえのかが分かんねえな。何匹潰しても後から後からウジムシみたいに増えてくるでねえか、こいつらはよう』
絶句するユニ。
フィロはオートマトンから視線を外さぬまま、彼女に言う。
「あれは明確に私達の敵です。殺して身体を奪ったか、目覚める前の身体を歪虚が乗っ取ったか。どうであれもう2度と私達の仲間として目覚めることはありません。本来のあの子のためにも、私達はあの子を破壊して取り返さなければなりません」
●
『お父さんの応急処置は終わったの。今からディーナたちも現場に向かうの。マルカさん、オートマトンは今どこにいるの?』
ディーナからの通信を受けたマルカは、右に左にせわしく目を走らせた。空中にいる彼女には、町全体が俯瞰出来る。戦いの様子も、全て。
「――ディーナさんがいる位置から西に7区画行った先です――いや今移動して5区画に戻――とにかく、川岸の通りを――動き回っています」
報告の最中、彼女は息を詰めた。
オートマトンがいきなり子供の1人――兄の方――を高く高くぶん投げたのだ。
小さな体が加速をつけ上昇する、それから一直線に地上へ引きずり降ろされて行く。
●
舞は子供が落下して行く方へ全力で跳躍した。
空中で小さな体を捕まえ抱き込む。自分の背を下にし落下する。屋根の端を壊し庇をぶち抜き鉄柵で体を刺しつつ着地する。硬い石畳の上へ。
ディーナが魔導ママチャリ銀嶺で駆けつけてきた。
彼女は子供と舞にリザレクションをかけ、傷を回復させる。
頃合いよく場に、警察と病院関係者がやってきた。一夏が予め、出動要請をかけていたのである。
彼女らはその人たちに兄を預け、まだ捕らわれている弟のところへ向かう。
●
舞がすかさず救援に向かったため戦力が1人欠けることになったが、この際一気に畳み掛けるべきだ。
瞬時にそう判断を下したリクは盾の裏に隠していた聖機剣から、機動砲を発動させた。
オートマトンはすんでの所でその攻撃をかわす。荷を1つ捨てたことで回避力が増したのだ。
しかしローブと顔を覆うベールが破れた。金属剥き出しの上体と顔半分が露になる。
コードと部品の集合体である上腕。右手首に連結している短剣が子供目がけて振り下ろされた。
リクは咄嗟に体当たりをかける。攻性防壁を発動して。
オートマトンは雷撃に弾かれ後退した。そこから態勢を立て直そうとするところに、ツィスカの制圧射撃。
フィロがオートマトンに突進した。子供を掴んでいる左腕にしがみつき押さえ込む。
オートマトンは右腕の短刀で彼女の腕を突き刺し、引きはがそうとした。
『そうまでして人間の奴隷でいだいべが。同族ながら虫酸が走るべ』
侮蔑的な眼差しを向けてくる相手にフィロは、それに負けぬぐらい、いやもっと強い侮蔑を込めて返す。
「私達オートマトンは人の友として望まれ作られた、不老と不変という人の理想の形の1つ。私は人の友であること、オートマトンであることに強烈な自負と誇りを抱いております。人に憧れたことも人に成り代わりたいと思った事もありません。人と手を取り合い共に繁栄する事が私達オートマトンの使命です」
その言葉を聞いたユニが一瞬はっとしたような顔をした。続けてハンマーを手に、背後からオートマトンに飛びかかる。
オートマトンは振り向いた。
子供を掴みフィロを刺したまま蹴りを食わせ、ユニを屋根から突き落とす。
そこで隠の徒による接近を図っていた小夏が、仕掛けた。
「ヒーローは遅れて登場するものです!」
叫ぶなり子供の体を抱き、引きはがしにかかる。
そうはさせじとオートマトンは、子供を掴む手にますます力を込めた。
鋼の指が肉に食い込み骨を折る。朦朧としていた子供の意識が覚醒した。絞め殺されそうな悲鳴が絞り出された。
屋根に駆け上がってきたディーナはその子供に向け、アンチボディを連発する。これ以上の肉体へのダメージを極力阻止するために。
フィロは怪力無双の腕力で、オートマトンの腕をぎりぎりとよじる。ねじる。
オートマトンの腕が子供の腕を掴んだまま、途中からもぎ取れた。
それに乗じて小夏は、子供をなんとかもぎ取った。
人間の安全が確保されるのを見届けた空蝉は魔導剣カオスウィースを手に、攻撃を始める。
オートマトンの刃が自身に食い込むのも意に介さず、返しの刃を相手に叩き込む。火花交じりの応酬は、彼を戦闘不能の状態に陥れた。と同時にオートマトンの力を殺いだ。
しかしオートマトンは、まだ子供を狙おうとする。
ディーナはプルガトリオを発動し動きを抑えようとしたが、どうにも効きが悪かった。
速度を鈍らせつつも相手は、無理やり動いてくる。
『こ・ん・な・も・のぉおおおおらっちにはきかねえだぞぉおおおおおお!』
足、脚、頭、腹。
猛攻に耐えつつも彼女は、奇妙な既視感に囚われた。
(……今聞いたのと同じ台詞、最近、どこかで聞いたことがあるよう、な……)
一夏がその脇からオートマトンの間合いに飛び込む。左腕目がけ白虎神拳を放つ。
「何で町でこんな事をしたのか教えてくれませんか? 子供を攫う目的ならこんな派手な事はしないです。人を殺す目的ならあの場で暴れた方が被害が――」
壊れた半分の顔を剥き出しにして、オートマトンが嗤った。その刃が一夏の瞼数ミリの位置を掠める。
『ハンターとの戦いにおいて何が有効か調べるためだべ。その結論は出ただ。人間を盾にするのが一番だべ。おめえたちには、それが一番こたえるんだべ? 人間がオートマトンを壊すのはかまわねえ、だども、オートマトンが人間を壊すことはと許せねえ思うだな?』
そこまで言ったときオートマトンは、真横に短剣を突き出した。
ナイトカーテンで接近していた舞の腹に刃が刺さる。
ほぼ同時に彼女のユナイテッド・ドライブ・ソードが、オートマトンの額に刺さる。
「それはオートマトンがどうとかじゃない。何かを憎み恨む意思があるのなら、それもまた人だから。人としてやってはいけない事をやった責任は取ってもらうよ!」
血と言葉を喉から吐き出す舞。
オートマトンは、低い声で言う。
『都合がいい時だけ人間扱いするでねえ。おめえたちはおらたちにあらかじめ植え込んでいるではねえか。人間に逆らえねえ本能をよ。そこにいる連中がいい例ではねえか』
直後彼の姿は粉々に吹き飛んだ。リクが改めて機導砲を放ったのだ。これだけ憎しみに凝り固まった相手を説得するのは無理だと判断して。
機動砲の破壊力は物凄まじかった。オートマトンは跡形も残さず消滅した。
「一件落着、なの」
息を吐いたディーナは改めて子供の治癒と、仲間の治癒を始める。自分自身の傷については、それを癒すスキルを携帯していないので、諦めるしかない。
一同は泣きじゃくる子供を連れ、地上に降りる。そこには先に助け出された兄と、病院、警察関係者たちが待っていた。
千切れたオートマトンの腕は、子供の腕にまだしがみついている。
ツィスカはそこに尋常ならざる憎悪を感じ取り、眉をひそめた。
「卿は何を示し、何を貫くつもりか……」
空蝉が鉄の指を一本ずつ開き、子供から引きはがす。
それを一夏が受け取り、布でくるんだ。
「これはしかるべきところに送って、解析願いましょう」
マルカが滑るように宙を降りてきて、言う。
「お迎えが来ましたよ」
その言葉どおり、病院の馬車がやってきた。子供たちの両親が窓から顔を出す。
「アントン、ギヨメ!」
「無事だったか!」
ディーナは兄弟と手を繋ぎ、促す。
「さあ2人とも、元気にパパとママに会いに行こうね」
子供たちは彼女を引っ張るようにして走りだした。馬車へ。
「パパ!」「ママー!」
ユニは考え込むような顔をして、その情景を眺める。
それに気づいた舞が彼女に言った。
「あの家族の事が心配?」
「はい。でも……ワタシのこの気持ち、本物なんでしょうか。単にそうプログラミングされているから、というのじゃなくて。ワタシ、人間と同じでしょうか」
真剣な問いに舞は、微笑みで返す。
「あんたがサイゴンに言われた事を気にしてるのは知ってる。でもね、ただの機械は誰かを心配したりなんかしない。その心がある限り体が鉄だろうが何だろうがあんたは人間だよ。そしてもしあんたがあの子供みたいに捕まったらあたし達は絶対助けにいく。信じな」
彼女らのやり取りが気になったリクはさりげなく話に入り、大体の事情を聞きだす。
少し間を置いてから、ユニに聞く。
「何か気分が悪いとかそういうこと、ない?」
「いいえ、気分は悪くないです。ただちょっと」
言葉を切った間にユニが見せた表情は実に人間的なものだった。そこに狂いは感じ取れない。
「ワタシたちオートマトンは、いずれいなくなっちゃうんだなって思うと、寂しいような気持ちがするんです。そうならない人間が、いいなあって思うんです」
リクは力を抜き、片目を瞑る。
「オートマトンが次世代を作れないわけじゃない。ヒトとして一緒に過ごしたこの時間を僕らは忘れたりはしない。そして僕達がいつかEGに追いつくくらいに成ったら、きっと僕らは会いに行く――それまでちょっと、時間を貰うかもしれないけれどね」
フィロも言った。姉が妹を諭すように。
「簡単な話ですよ、ユニ様。誰かの理想であるならば、その理想を貫いて生きる自分でありたいと思ませんか。そう思えば、生きること自体が誇らしい。貴方も誰かの理想の形の1つなのですよ、ユニ様」
「ワタシが?」
「ええ。ユニ様、私達は皆ハンターオフィスでこの世界の方々に望まれて目覚めました。これほどの親愛と信頼を向けて下さった方々に、どうしてそれ以外の情を返せましょう」
マルカが馬車へ乗り込んで行く。ジュースを母親に渡し、話しかけながら。
「大事を取って、私が病院までご同行致します。安全は守られますのでご安心ください。何か不安なこと等あれば――」
後日、今回の事件のあらましが、公的機関から住民に向け発表された。
その中で強調されたのは「暴れたのは歪虚であってオートマトンではない。ハンターによって被害は最小限に抑えられた」という二点。
それはマルカが頼んだものだった。この事件によって住民が、オートマトン、並びにハンターへの感情を悪化させないように、と。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/18 23:44:47 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/01/20 13:08:38 |