• 陶曲

【陶曲】鉄板蜘蛛VS泥田蛇

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/18 12:00
完成日
2019/01/25 01:05

みんなの思い出

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オープニング

●B級怪獣映画
 その日、「大地の裂け目」と呼ばれる場所へ調査隊が派遣されていた。しかし、その調査隊が困り果ててオフィスに駆け込んできた。
「泥から出てきたみたいな蛇がいるんですよ。あと鉄板を組み合わせたみたいな蜘蛛」
 そこで、たまたまオフィスに居合わせた司祭兼ハンターのアルトゥーロ、新米で修行中のジョンが様子見に立候補した。二人は馬に乗って現場に急行。どうにも、大きな歪虚だと聞いていたので、騎乗したままで歪虚に接近した。
 全長四メートルにはなろうかと言う蛇が二体いた。おそらく、もとは一メートル五十センチ程度の蛇なのだろう。それが四メートルになることによって、スケールがそのまま拡大された。長さだけでなく太さも相応になっている。大人でも乗れそうだ。
 が、問題はそれだけではなかった。現場にいた歪虚は泥田蛇だけではなかったのである。鉄板蜘蛛と聞いていたのでまさかとは思っていたが……。

「えい! この! 踏み潰してやるわ! 私が先にいたの! あっち行って!」
「キシャーッ!」
 高さ三メートルはあろうかと言う、鉄板を組み合わせたような蜘蛛が、前脚を上げて泥田蛇にがっちり組み付いている。その蜘蛛の、頭と胴体の間に騎乗するように座って、手綱を引いているのは……。
「アウグスタ……」
 最近同盟で事件を起こしている少女歪虚、アウグスタだったのである。着ているのはいつもの黄色いワンピースではなく、黄土色の乗馬服だ。行儀良くヘルメットまでかぶっている。
「B級怪獣対決映画か? レビューサイトで星が一つでもつけば良い方だ」
 ジョンが眉を上げて呟く。
 大蜘蛛の足下では、小型犬サイズの蜘蛛と陶器人形が大量に動き回っており、大蜘蛛を援護するように泥田蛇に向かっている。

「どうしますか?」
 ジョンは先輩の指示を仰ごうとアルトゥーロを見た。アルトゥーロは、不思議そうな顔でアウグスタを見ている。
「司祭さん?」
 アルトゥーロはそれではっと我に返った。
「え? あ、ああ、ごめん。どっかで見たことあるような気がして……」
「手配書じゃないですか? ……いや、待ってください。あなたの故郷、歪虚に滅ぼされたって言ってませんでした?」
 別に盗み聞きするつもりはなかったのだが、覚醒者になるときの順番待ちの時に、アルトゥーロがオフィス職員C.J.に話しているのが聞こえてしまったのだ。
「まさか、あなたの故郷を焼いた歪虚が彼女?」
「それはないと思う。もう二十年も前の話だし。彼女が出てきたのは最近なんだろう?」
「それもそうですね……それで、どうしましょうか」
「被害が出ないなら相討ちになるのを待ってても良いと思うけど……どっちにも加勢できないし……いや、でもそれだと調査隊が困るね」
 アルトゥーロも困惑している。調査隊は安全圏まで避難しているが、歪虚を排除したらすぐにでも調査に行きたいらしい。
 鉄板蜘蛛の内、泥田蛇と互角に渡り合えるサイズなのは、アウグスタが乗っている大蜘蛛だけだ。残りは全て小型蜘蛛である、大蜘蛛が相手にしているのは二体の蛇の内片方、もう片方は、小型蜘蛛がたかっている。
「このっ! どっか行きなさい!」
 大蜘蛛が突進した。大型歪虚同士の白熱した戦いの傍では、大型VS小型の戦いも地味に続いている。
 蛇は自分にたかってくる蜘蛛や人形たちを、身体を振ったり、尻尾で叩いたりして応戦した。
 しかし、やがて蛇は業を煮やしたのか口を大きく開けると、群の中に顔を突っ込んだ。漫画であれば、ばっくし、とでも擬音が書かれただろうか。敵をくわえた蛇は、そのまま丸呑みにする。
「あっ」
 二人の聖導士はそれを見てぎょっとした。まさか歪虚の同士討ちが起こるとは思わなかったのである。
「きゃーっ!?」
 この世の終わりのような声を上げたのはアウグスタだった。彼女は、次々と小型蜘蛛を丸呑みにする泥田蛇を見ると、手綱を握る手をわなわなと震わせた。
「う……うわーん! ひどい! ひどいわー!!!!」
 彼女は脚をじたばたさせながら、顔を覆って泣き出した。蜘蛛は主の動揺をうけて、おろおろしたようにアウグスタの周りに集まっているが、人形は相変わらずパラソルで蛇に突撃している。
「わ、私の可愛い蜘蛛を! 戦って倒すならともかく! 食べちゃうなんて! 丸呑みにするなんてひどいわー! えーんえーん! お人形だってお兄様から借りてるのよ!」
「どう言う基準なんですかね」
「歪虚の基準は理解できないね」
 二人は辛辣である。相手は歪虚でこちらはエクラ教司祭と、歪虚のせいで故郷を追われたリアルブルー人なのだから当然の反応ではあるのだが。
「ちょっとあなたたち!」
 アウグスタは目をつり上げて二人に呼びかけた。
「手伝って! この蛇をやっつけに来たんでしょう!?」
「お断りだ。確かにこの蛇を倒しに来たけど、それは君の為じゃない。排除するなら君もだ、オーガスタ」
「申し訳ない。君が生きているお嬢さんなら喜んで頼みを聞いたんだがね」
 ジョンは顔をしかめて、アルトゥーロはウィンクをしてそれぞれにアウグスタの申し出を一蹴。アウグスタは愕然とした顔をする。
「なっ……女の子のお願いを簡単に却下するなんて、ひどいわ……」
 ジョンはメイスを掲げた。シャドウブリットを撃ち込む。
「きゃーっ! こっちは何もしてないのになんてことするの!? 最低! ひどいひどい! こうしてやる!」
「何を言ってるんだ。いるだけで有害だろう」
 アウグスタは蜘蛛の向きを変えさせた。その蜘蛛が、二人に向かって糸を吹きかける。しかし、糸に掛かってしまったのはアルトゥーロの方だった。ミイラの如くぐるぐる巻きにされた彼は、目をぱちぱちと瞬かせる。
「な、何故僕が……」
「ご、ごめんなさい司祭さん……一発で仕留めきれませんでした……」
 アウグスタは憤然として言い放った。
「ヘルメットがなかったら即死だったわ!」
「良いことを聞いたよ。さて、これは、僕たち二人では無理そうですね。応援を呼びましょう」

 そして、ハンターたちが呼ばれた、と言うわけである。

リプレイ本文

●強い人類
 ハンターたちが駆けつけると、まさにそこはB級怪獣映画。鉄板蜘蛛VS泥田蛇のバトルシーンであった。開始二十分か三十分くらいで、二種類目の怪獣出現に人類が唖然とする頃合いのシーンである。
「歪虚同士で潰し合いか……連中も暇なもんだ。我々には好都合だがな」
 だが、駆けつけた人類は無力ではない。コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は鼻を鳴らす。ロニ・カルディス(ka0551)も同じく冷静だ。
「こういう状況を、漁夫の利、と言うのだったか? 事情は分からないが、精々この状況を利用させてもらおう」
「ああ。何とかと鋏は使いようという諺もある。歪虚同士でやり合ってくれるなら、こちらが弱らせる手間が省ける、と言うものだ」
「こうも争い、乱戦となれば、普段ならば届かない相手にも切っ先を届ける好機でもありますか」
 橘花 夕弦(ka6665)もまた、この混戦をチャンスと捉えている一人である。
「あっ! みんなー! 今日は私のために集まってくれてありがとうー!」
 駆けつけたハンターを見て、何を勘違いしたものか、アウグスタは大喜びで両手を振っている。顔見知りがいるものだから、彼女はまるで自分のためにハンターが駆けつけてくれたように見えたのだろうか。
 その向こうから、ジョンがコーネリアに向かって手を振っていた。と、言うのも、彼がリアルブルーから月に離脱するシャトルに歪虚がやって来た時、それを撃破したハンターの一行に彼女がいたからである。
「やあやあアウグスタ、元気そうだね! で、噂の蛇はあれかい? いやデカいなー」
 アウグスタに馬上から手を振り返したのはフワ ハヤテ(ka0004)。
「そうなの。こんなのが二匹もいるからほんとに困ってるんだから。私が先にいたのに」
「ところで何で今日はワンピースじゃないんでしょう」
 穂積 智里(ka6819)が疑問を呈する。
「今まで蜘蛛の上に乗っていてもワンピースだったんですから、今更乗馬服に着替えなくてもいいかなって思いました」
「だって今日は最初っから戦うつもりで来たんだもの! スカートの中が見えたらお行儀が悪いってママに言われたわ」
「……歪虚の下着を見たがる人も、歪虚の下着で興奮する人も多分いないと思います」
「そう言う問題じゃないの! お行儀が悪いの! それになんでもかんでもあなたの基準に合わせるギリもスジアイもないの!」
 頭からぽこぽこと湯気が出るようであった。これだけ事件を引き起こしておいて、行儀もへったくれもあるか。智里でなければ罵倒されていたことだろう。
「えっと、これはどうなっちゃってるのかしら……アウグスタさんを手伝ってあげたらいいの?」
 困惑気味なのはイリアス(ka0789)だ。
「そうだな。まずは手伝ってやれ」
 コーネリアが言った。ハヤテが馬を走らせる。それぞれが攻撃態勢に入った。
「それこそ、斬り伏せてみせましょう――なりたい剣というもの、自分の願いというものも見えてきましたものですから」
 夕弦が刀を抜いた。イリアスは続々と戦闘準備をする仲間たちに釣られるように銃を抜き、そして首を傾げた。
「ところで、こんな所で何してたの?」
「食らえー!」
 しかしアウグスタは、援軍(?)の登場に気を良くしたのか、張り切って蜘蛛に衝突し、イリアスの疑問は晴れないままとなった。

●奇妙な共闘
 ロニは集中するとレクイエムを歌った。これは歪虚やアンデッドなど、既に死んでいるものに効果を発揮する。つまり、アウグスタにも。彼はアウグスタに聞こえない位置に陣取った筈だったが、アウグスタの方が動き回るせいで範囲に入る。その途端、彼女は体を震わせて喚いた。
「ぎゃー! このお歌嫌い!」
「まあまあ、少し我慢して。その蛇に当たりやすくなるからさ」
 攻撃としての初手はハヤテのブリザードだった。彼は馬を走らせたまま集中し、ブリザードを放つ。蛇の片方は回避してしまったが、もう一体と小型蜘蛛、人形のいくつかは吹雪に巻き込まれる。
「おっと、すまないね。ちょっと他のが巻き込まれるかもしれないが、なあに蛇は寒いのが苦手というだろう? 阻害を与える上での些細な犠牲さ! 食われるよりはマシだよね!」
「仕方のないお兄さんね。いつもへらへらしてるからそうなのよ」
 偉そうにアウグスタが言い放った。
 回避はされたものの、蛇の注意がアウグスタからハンターたちに向いた。アウグスタはチャンスとばかりに大蜘蛛を蛇に組み付かせる。重たい音とけたたましい金属音が響いた。
「今のうちよ!」
 小型蜘蛛もわらわらとたかって行く。人形たちもパラソルで袋叩きにし始めた。
「下がってください!」
 智里が声を掛けた。馬で周辺を駆け回っていた三人は了解して距離を置く。智里は、エグリゴリから扇状に広がる破壊エネルギーを放った。ファイアスローワーだ。たかっている蜘蛛と人形は巻き込まれて割れたり落ちたりしている。蛇に組み付いている都合で、アウグスタも巻き込まれてしまう。
「あっづ!! ちょっと! もっと気をつけてよ!」
 ハンターたちは身構えた。聞いた話によれば、攻撃すると仕返しとして糸を吐いてくると言う。しかし彼女は蛇をねじ伏せようとするばかりでこちらに反撃しようとはしない。
「もしかして……わざじゃなければ……少なくとも向こうにわざとだと思われなければ良いのか?」
 ジョンは明確に、アウグスタに対する攻撃としてシャドウブリットを使ったと聞いている。そういえば、レクイエムに巻き込まれた時も文句だけだった。ロニがまさかと言う表情で呟くと、ハヤテが笑い、コーネリアが鼻を鳴らした。
「いやー、優しいね。わざとじゃないなら許してくれるなんて」
「単純な頭だ」
「……アウグスタは、本当に蜘蛛が可愛いんでしょうか」
 そんなことを口にする智里を、コーネリアが怪訝そうに見下ろした。
「知らん。どうした」
「だって小蜘蛛はいつも一撃で消滅します。クラーレの人形だってもっと保つのに、ですよ? 大蜘蛛も小蜘蛛に比べれば多少大事にしてるかな、程度に思えます」
「歪虚の考えることに一貫性があるとは思えない」
「そうかもしれませんね」
 一方、イリアスは散々悩んだ挙げ句、マーキスソングを歌うことにした。これは……アウグスタには効いてしまうのだろか。できるだけ、歌の届かない範囲で歌おうとは思っているが。
「入っちゃったらごめんなさいね」
 申し訳なさそうにしながら、蛇をレイターコールドショットで撃ち抜く。先ほどから散々避けにくい攻撃だったり動きにくい攻撃だったりを受けた蛇は、既に片方が満身創痍だ。痛いのか悔しいのか暴れている。
「貴様の革を剥ぎ取れば一体いくつ財布が作れるだろうな?」
 コーネリアが追撃を加えた。キラースティンガー。銃口から赤い閃光が弾けると、同時にマテリアルで高速回転しながら弾丸が発射された。着弾。抉るような音が響く。
「もっとも歪虚で出来た財布など欲しくはないが」
 徹底攻撃の間隙を縫って、夕弦が接近した。ほのかに青白く輝く刀身が、蛇を斬る。白刃を振るってすぐに、彼は剣を鞘に納めた。納刀の構えだ。だが、今斬られた蛇は彼を狙って鎌首をもたげる。シャーッ! と鋭く呼気を立てると、彼に向かって開いた口を……!
「やーいやーい! 寒くて全然当たらないんでしょ! やーい!」
 アウグスタが煽る。彼女の言うとおり、蛇は散々受けた凍結の影響で思うように動けない。柄に手を掛けたままの弓弦の目の前に、口が開いたままの頭がめり込んだ。
 一方、もう一匹はコーネリアに向かってするすると寄って行く。こちらの方は尾による打撃を試みた。しかし、
「振り幅が大きいと言うのも考え物だな。頭を使え馬鹿め」
 そう、モーションが大きすぎて、回避が容易だったのだ。おまけに、こちらもブリザードの行動阻害を受けているせいで、強ばったように動きがぎくしゃくしている。コーネリアからしたら児戯に等しい。
「その調子! もうちょっとよ!」
 アウグスタがはしゃいでいる。コーネリアは眉を上げる。
「言っておくが、これは貴様の為ではないし、貴様から褒められる言われもない」
「なんで? すごいものにはすごいって言わなきゃ」
 それは無邪気な子どもそのものの笑み。
 もっとも、蛇を蛸殴りにしているのを無邪気な子どもと言うかどうかは別である。

●斬り伏せる光
 再び、蛇に対する集中攻撃が続いた。うっかり巻き込んじゃいました、で通用するならそこまで神経を使わなくて良い。ロニはもう一度レクイエムを歌い上げた。
「この歌嫌い!」
「もっと明るい曲が良いのかい?」
 ハヤテが言いながらマジックアローを撃ち放つ。蛇の内片方がそれで倒れた。
「やったぁ!」
「喜ぶのはまだ早いです! もう一匹!」
 智里がアイシクルコフィンを放つ。展開された術式の上に、蜘蛛がいようが人形がいようが構わない。アウグスタは蛇に近づいていると自分も巻き込まれることを学習したようで、少し離れたところから蜘蛛に糸を吐かせている。
 強くて固い音がした。氷片が術式から突き出す音だ。蛇はどんどん身動きが取れなくなっていく。
 夕弦は、仲間たちが攻撃している間に一計を案じた。まずは気配を消す。恐らく、仲間たちの攻撃で、もう一体の蛇もすぐに瀕死になるだろう。彼は蛇の背後に移動した。
 イリアスのレイターコールドショット、コーネリアのフローズンパニッシャーが、それぞれ蛇を狙う。氷漬けでかなり身動きに制限が出ている筈だ。
「すごいすごい!」
「勘違いするな、私はあの蛇を倒すために貴様の兵隊を借りただけだ。貴様はいずれ私が地獄に連れて行く、首を洗って待っていろ」
 コーネリアが吐き捨てるように言ったが、何を勘違いしたものか、
「知ってる! それツンデレって言うんだ! 今度は私の番ね!」
 アウグスタが意気揚々と手綱を引く。大蜘蛛はそれを受けて突進した。蛇は回避できない。
 けたたましい音を立てて、蜘蛛が蛇に激突した。もはや勝敗は決したようなものだった。

 その時、夕弦が動いた。

 アウグスタは、さっきまで全然気にならなかった夕弦が、突然存在感を持って蛇に躍りかかったことに仰天した。何この人、いつの間にいたの? 彼は蛇の尾から駆け上がると、鞘に収まっていた剣を抜き放った。鞘から水の様な光が溢れる。

(きれい)

 彼女は忘れている。蛇に攻撃を仕掛けた以上、ロニのレクイエムが聞こえる範囲に自分が入っていることを。
 彼女は知らない。夕弦の青藍蛟は、敵味方問わずに一直線のものを斬り伏せると。彼が次の戦いに繋げる「傷」を狙っていることを。

 それは彼女も斬り伏せる光。

 蛇を両断したその光は、アウグスタの蜘蛛の胴体にもまた命中した。金属が損傷する音が高く響く。

「なっ……!」
 アウグスタは唇をわなわなと震わせた。
「今のはわざと! 絶対わざとでしょ! 酷い!」
「戯れを」
 夕弦は薄く微笑む。その笑みに怯んで、アウグスタはぎりっと奥歯を噛んだ。

●撤退勧告
「さて、どうする?」
 ハヤテが馬をなだめながらアウグスタを見上げる。
「このデカい蛇の後、さらに戦うのも疲れるよ。引いた方がお互いの為だと思うね」
「私の心配をしてくれるの? そうじゃないわよね? お互いのためと言うことは、あなたたちも疲れると言うことだわ」
 アウグスタは少し意地悪な笑みを浮かべる。しかし、彼の言うとおり、蜘蛛、人形はハンターたちの範囲攻撃に巻き込まれてかなりが減っている。アウグスタと大蜘蛛も、万全ではない。おまけにこの魔術師、範囲攻撃に長けているようだ。今更この数で戦っても不利だろう。
 智里を見る。急にファイアスローワーを使うようになった彼女に、アウグスタは困惑、警戒もしている。この前まで三本ビームとバリアだったのに。
 コーネリア。口喧嘩なら受けて立つが、あの蛇を抉った弾丸を受けるのは嫌だ。今だってほら、銃口がこちらに向いている。
 夕弦。凄まじい攻撃を仕掛けてきた彼は、彼女にとっては今刺してきた蜂のようなものだった。あの刀、すごく斬れる。
 イリアスを見た。あの人は私と戦って良いのか迷っている。でも、お友達が戦うんだから戦うでしょう。
 ロニに視線を向けて、彼女は顔をしかめた。あの人の歌、嫌い。聴いているだけで体が竦んでしまう。きゅっと眉間に寄った視線の意味を、ハヤテとロニは正しく理解した。
「お歌の時間が良いそうだよ、ロニ。聴かせてあげてくれるかい」
「ああ。好きなだけ聴かせてやろう」
「……良いわ。これで手打ちにしてあげる」
 ジョンが息を詰めながらその様子を見守っている。アルトゥーロも、どこか困惑したようにアウグスタを見ていた。アウグスタは手綱を引くと、蜘蛛を方向転換させて、そのまま走り去った。

●思い出せない
「アルトゥーロ司祭」
 智里はオフィスに帰還してから、同行した司祭に声を掛けた。
「アウグスタについてなんですが。子供の頃、大人になってから、合唱の練習に来なくなった子、教会の施し、孤児院や学校慰問の際に。目の色や髪の色、もしかしたら名前も違うかもしれません。それでも似た雰囲気の誰かを、アルトゥーロ司祭は知っていらっしゃるのではないですか」
「……思い出せなくて」
 彼は眉間に皺を寄せて考え込む。
「ええ、確実に、僕は彼女を知っている、筈です。でも、どこでどう会ったのか、まったく思い出せなくて」
「私は彼女の死をやり直してきちんと見送りたいです」
 智里は言った。
「だから可能なら彼女の軌跡も知りたい。確信がなくても構いません。アルトゥーロ司祭の気付いたことを教えて下さい」
 アルトゥーロはしばらく眉間に皺を寄せて思い出そうと試みていたが、どうしても出てこないらしい。智里を見て、頷いた。
「わかりました。思い出した事があったら、お話ししましょう」
「お願いします」
「それにしても」
 アルトゥーロはふっと微笑んだ。
「歪虚であろうとなんであろうと、弔われる機会があるのは幸せなことですね。僕の村は歪虚に襲われて消えてしまいました。行方不明者も……恐らく死亡しているであろう彼らは、まだ弔われないままですから」

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参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 静かな覆い
    橘花 夕弦(ka6665
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】歪虚と鋏は使いよう。
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2019/01/17 23:07:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/15 02:17:21