ゲスト
(ka0000)
【陶曲】ハウンド・ハウス
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/18 19:00
- 完成日
- 2019/01/25 01:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●お化け屋敷
エドワード・”エド”・ダックワースは息を殺してベッドの下に隠れている。猟犬じみた雑魔が、彼の匂いをたどっているのが聞こえた。
(畜生、雑魔のくせに何で鼻が利くんだよふざけんなよ……死んでんなら嗅覚いらねぇだろ)
放置された廃屋の一室だ。肝試しスポットになっているが、いつの間にか雑魔化した犬のたまり場になっていたようだ。
エドはこの廃屋に、リアルブルーから転移してから知り合ったブルー出身者と一緒に来ていた。ちょっと行ってみようぜ、と言うことである。
(もっと強く言えば良かった)
ブルーから転移する前、イクシード・アプリが出回って、自分たちもそれをインストールした時のことだ。あの時は使徒に消された友人たちの仇討ち、と言う名目で(要するにエドとしてはやばい超能力を使ってみたかったのである)、ペンシルベニアの廃病院に入った。その時はハンター六人に連合軍の軍人まで巻き込んだ大騒動になった。引っ込みがつかなくなって強気な態度でいたらビンタされたし友人はストレッチャーで運ばれた。
と、言うことがあったので、廃屋に行こうと言った今回の知り合いたちをエドは止めた。歪虚が出たらどうすんだ、と言うことである。彼らは言った。
「エディがどうにかしてくれるだろ?」
調子に乗ってしまったのである。
(ハンクに知られたらなんて言われるか)
詳細は割愛するが、友人にして同居人の一人であるハンクが最近やたらとエドに構ってくる。そのハンクを置いて、彼の知らない他人とお化け屋敷に行きました、なんてバレたら殺される。
うんざりだ。いや、そのうんざりが、逆にエドをここに来させたのかも知れない。一応、もう一人の同居人、ジョンに行き先は告げてあった。ジョンは言った。
「遅くなってバレる前に帰って来い。僕も仕事に行く」
ジョンも出掛けて行った。強くなりたいらしい。
ブルーでは文学部の学生だったエドは、少なからずクリムゾンウェストのインテリアや建築様式にも興味があった。興味をひかれ、夢中になって家具やらなんやら見て回っている内に、犬の吠え声がした。誰が見ても雑魔である。
「逃げろ!」
他の二人は一般人だ。後はお察しの通り。エドは自分を囮にして二人を逃がした。オフィスへの通報を托して。
つまり、ハンクに自分のやったことがバレる。
(別に付き合ってるわけでもないのになんであいつに後ろめたく思わないといけないんだよ!!!!)
「クソ!」
思わず毒づくと、犬がこちらを見た。
「やべ」
エドは隠れていたベッドをひっくり返して投げつけた。犬が下敷きになる。ドア前がふさがれたが、壁歩きのスキルでドアを登って廊下に出る。
「あいつら遅いよ!」
また別の部屋に入る。隠の徒で気配を薄くした。
犬の爪音が廊下でする。
外からは犬の鳴き声がしている。
●ハンターオフィスにて
「エド? いや、来てないけど」
「そう、ですか……」
オフィス職員C.J.は、エドを探すヘンリー・”ハンク”・フェアフィールドに眉を寄せて首を振った。ハンクは肩を落とす。付き添いはマシュー・アーミテイジだ。どうやら、エドがちょっと出掛けるからと留守番を頼まれたらしい。ハンクを一人にしておく愚行は犯さなかったわけだ。
「ジョンは知らないって?」
「ジョンは別件で出掛けてます。エドは、この前のことがあったから、心配で」
先日、ハンクは嫉妬の歪虚にたぶらかされた。その際に、エドがハンクを助けに来たので、その歪虚に目を付けられているのではないか。ハンクはそう心配している、らしい。
(でもなぁ)
ハンクはどうも人間関係に悩んだところを嫉妬歪虚につけ込まれたらしい。
(ハンクって好きな女の子が死んじゃったからアプリ入れて使徒に立ち向かったんだっけ)
どうにも、ハンクは人間関係でのめり込みやすいきらいが見受けられる。C.J.はそこを危惧していた。
(束縛とかじゃないよね)
「ヘンリー、確かに心配ですが、エドワードもハンターです。例の歪虚の実力もわかっているでしょうし、見かければ逃げてくるでしょう」
「蜘蛛に乗ってたらがちゃがちゃうるさいし、アウグスタを見たらダッシュで逃げるだろうしね。うん、あんまり帰って来ないなら、その時は捜索の依頼を出すよ。まだ心配する時間じゃあ……」
C.J.がそう言ってハンクを宥めようとしたその瞬間だった。
「た、大変だ! 廃屋に雑魔が出た!」
二人の少年がオフィスに駆け込んで来る。
「何だって!? 君たちよく無事だったな」
「一緒に行ったハンターが逃がしてくれたんだよ! 屋内に三匹、外に五匹いる。囮になって逃がしてくれた!」
「勇敢だな。ちなみになんて人?」
「エディ! エドワード・ダックワース! この前ブルーから来た疾影士だ」
「……え?」
ハンクの顔が強ばったのを見て、C.J.はこめかみに手を当てた。
(アウグスタって見る目だけは確かだよな)
エドワード・”エド”・ダックワースは息を殺してベッドの下に隠れている。猟犬じみた雑魔が、彼の匂いをたどっているのが聞こえた。
(畜生、雑魔のくせに何で鼻が利くんだよふざけんなよ……死んでんなら嗅覚いらねぇだろ)
放置された廃屋の一室だ。肝試しスポットになっているが、いつの間にか雑魔化した犬のたまり場になっていたようだ。
エドはこの廃屋に、リアルブルーから転移してから知り合ったブルー出身者と一緒に来ていた。ちょっと行ってみようぜ、と言うことである。
(もっと強く言えば良かった)
ブルーから転移する前、イクシード・アプリが出回って、自分たちもそれをインストールした時のことだ。あの時は使徒に消された友人たちの仇討ち、と言う名目で(要するにエドとしてはやばい超能力を使ってみたかったのである)、ペンシルベニアの廃病院に入った。その時はハンター六人に連合軍の軍人まで巻き込んだ大騒動になった。引っ込みがつかなくなって強気な態度でいたらビンタされたし友人はストレッチャーで運ばれた。
と、言うことがあったので、廃屋に行こうと言った今回の知り合いたちをエドは止めた。歪虚が出たらどうすんだ、と言うことである。彼らは言った。
「エディがどうにかしてくれるだろ?」
調子に乗ってしまったのである。
(ハンクに知られたらなんて言われるか)
詳細は割愛するが、友人にして同居人の一人であるハンクが最近やたらとエドに構ってくる。そのハンクを置いて、彼の知らない他人とお化け屋敷に行きました、なんてバレたら殺される。
うんざりだ。いや、そのうんざりが、逆にエドをここに来させたのかも知れない。一応、もう一人の同居人、ジョンに行き先は告げてあった。ジョンは言った。
「遅くなってバレる前に帰って来い。僕も仕事に行く」
ジョンも出掛けて行った。強くなりたいらしい。
ブルーでは文学部の学生だったエドは、少なからずクリムゾンウェストのインテリアや建築様式にも興味があった。興味をひかれ、夢中になって家具やらなんやら見て回っている内に、犬の吠え声がした。誰が見ても雑魔である。
「逃げろ!」
他の二人は一般人だ。後はお察しの通り。エドは自分を囮にして二人を逃がした。オフィスへの通報を托して。
つまり、ハンクに自分のやったことがバレる。
(別に付き合ってるわけでもないのになんであいつに後ろめたく思わないといけないんだよ!!!!)
「クソ!」
思わず毒づくと、犬がこちらを見た。
「やべ」
エドは隠れていたベッドをひっくり返して投げつけた。犬が下敷きになる。ドア前がふさがれたが、壁歩きのスキルでドアを登って廊下に出る。
「あいつら遅いよ!」
また別の部屋に入る。隠の徒で気配を薄くした。
犬の爪音が廊下でする。
外からは犬の鳴き声がしている。
●ハンターオフィスにて
「エド? いや、来てないけど」
「そう、ですか……」
オフィス職員C.J.は、エドを探すヘンリー・”ハンク”・フェアフィールドに眉を寄せて首を振った。ハンクは肩を落とす。付き添いはマシュー・アーミテイジだ。どうやら、エドがちょっと出掛けるからと留守番を頼まれたらしい。ハンクを一人にしておく愚行は犯さなかったわけだ。
「ジョンは知らないって?」
「ジョンは別件で出掛けてます。エドは、この前のことがあったから、心配で」
先日、ハンクは嫉妬の歪虚にたぶらかされた。その際に、エドがハンクを助けに来たので、その歪虚に目を付けられているのではないか。ハンクはそう心配している、らしい。
(でもなぁ)
ハンクはどうも人間関係に悩んだところを嫉妬歪虚につけ込まれたらしい。
(ハンクって好きな女の子が死んじゃったからアプリ入れて使徒に立ち向かったんだっけ)
どうにも、ハンクは人間関係でのめり込みやすいきらいが見受けられる。C.J.はそこを危惧していた。
(束縛とかじゃないよね)
「ヘンリー、確かに心配ですが、エドワードもハンターです。例の歪虚の実力もわかっているでしょうし、見かければ逃げてくるでしょう」
「蜘蛛に乗ってたらがちゃがちゃうるさいし、アウグスタを見たらダッシュで逃げるだろうしね。うん、あんまり帰って来ないなら、その時は捜索の依頼を出すよ。まだ心配する時間じゃあ……」
C.J.がそう言ってハンクを宥めようとしたその瞬間だった。
「た、大変だ! 廃屋に雑魔が出た!」
二人の少年がオフィスに駆け込んで来る。
「何だって!? 君たちよく無事だったな」
「一緒に行ったハンターが逃がしてくれたんだよ! 屋内に三匹、外に五匹いる。囮になって逃がしてくれた!」
「勇敢だな。ちなみになんて人?」
「エディ! エドワード・ダックワース! この前ブルーから来た疾影士だ」
「……え?」
ハンクの顔が強ばったのを見て、C.J.はこめかみに手を当てた。
(アウグスタって見る目だけは確かだよな)
リプレイ本文
●深層の要求
(こんなに顔の良い男どもに迎えに行ってもらえるって、エドの奴どんな徳を積んでるわけ?)
C.J.は居並ぶ面々を見渡して呆れた様に首を振った。クオン・サガラ(ka0018)、アーク・フォーサイス(ka6568)、トリプルJ(ka6653)、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は廃屋の情報を目撃者から聞き取りしている。
「外に少なくとも四匹、中には二匹か」
アークが顎に手を当てて考える。
「実際、建物の陰に隠れていたりもするでしょうから、もっと多いかもしれませんね」
クオンがとんとん、と即席マップに描かれた建物の裏手を指した。
「多めに見積もった方が良い、か」
レオーネが頷いた。
「猟犬じみてるってことは、こっちの動きを止めてくる可能性もあるな」
トリプルJは、書き出された雑魔の特徴を見て呟いた。それから彼は、ハンターたちの様子を窺っているC.J.の方に歩み寄る。
「なあ」
「なに」
彼はハンクをちらりと見た。
「ヘンリーの奴なんだが、孤児院でボランティアとかはできねぇか?」
「どう言うこと?」
トリプルJは自分の考えを説明した。ハンクは、ざっくり言ってしまえば自分が選ばれない恐怖に駆られているのではないか。それなら、自分より無力で小さな子どもたちが寄ってくる孤児院に住み込みのボランティアをすることによって、代替手段ではあるが充足する可能性が高い。
「うん、僕も似たようなことを考えてた……人間関係の不安って、だいたい嫌われるとか必要とされてないとかそう言うことだし、めちゃくちゃ慕われる環境なら多少変わるかもしれない」
「だろ? それでだな、俺はアウグスタ騒動の孤児院、オネストの方。あそこが良いかと思っている」
「君、そんなことまで調べてあるの? なるほどね。でも僕は賛成できない」
「どうして?」
「知ってるかもしれないけど」
C.J.はそこで、先日起こった「アウグスタのキャロル」事件の話をした。もう一つの孤児院が、およそ六百を越える蜘蛛に取り囲まれた事件だ。ハンター二十五名の活躍によって死傷者ゼロで済んだが……。
「アウグスタは同じ所に現れることがある」
彼は言った。
「オネストの方も、ハンクがいるって知られたらアウグスタが来るかもしれない。それこそ何をされるかわからない」
「そうか」
「ただ、似たような環境は用意できるかも。心当たりがあるから打診しておく」
「ああ。頼む」
「君がそこまで考えてやる義理はないのにね。ありがとうね」
「俺は強欲なんだ。例え知らない相手でも、リアルブルー人が一人でも歪虚に落とされるのは我慢ならねえ」
「トリプルJ、行けるかい?」
アークが声を掛けた。
「ああ、今行く。悪いな。じゃあ、頼むぜCJ」
「俺が窓から入ってエドを探しに行く。クオンが屋根から、レオーネとマシューが外に残る」
現場までの道中で、アークが作戦をまとめている。
「きみはどうする?」
「ああ、見付け次第、ファントムハンドで引き寄せて鎧徹しでぶん殴るって寸法だ」
「良いね」
「それじゃあ、屋外を三等分で受け持ちましょうか。厳密には難しいと思いますが」
クオンが提案した。複数を一人ないしは新人二人で受け持つのも少々厄介だ。
「ところで……」
マシューがクオンの足下を見て目を瞬かせた。
「すごい銃ですね」
「ええ、これを持って入れないので私は屋根からなんですよ」
そこには、長さ三メートルは超える巨大なガトリングガンが置かれていた。これを生身で担ぐのは、覚醒者でないと難しい。
「突入する時にはこれで援護しますよ」
「よし」
やがて廃屋が見えた。なるほど、確かに数頭の猟犬じみた雑魔が見える。五頭だ。
「やっぱり見えないのがいたようだね。中も二匹だけとは限らないかも」
アークが言いながら、トランシーバーの送話ボタンを押した。全員の無線に短いノイズが走る。
「通信環境は良好みたいだ。何かあったら教えて」
「ああ」
レオーネが手を挙げた。
●イブリスの咆吼
「修羅場の番犬退治と行きますか。まあ、これが終わってからが修羅場ですが、そっちは依頼外ですので本人に解決してもらいたい所です」
クオンがダイダロスのアームを作動させながら言った。レオーネが、それを聞いてふむ、と顎に手を当てる。
「シュラバ……あれか、鶏小屋に雄鶏を二羽入れない的な……この場合雑魔が雌鳥で……」
彼がそう呟いていると、轟音が響いた。他の銃火器の銃声を景気が良いと言うなら、クオンが両手で支えるイブリスの銃声はインフレだ。体が揺れるのではないかと思うくらいの轟音。実際にマテリアルエネルギーはインフレ気味で、余剰エネルギーが銃口でチカチカと瞬いている。その代わり、威力も制圧の勢いも折り紙付きだ。雑魔たちは吠えているが、吠え声が聞こえない。
「アーク、気をつけて!」
レオーネが声を張る。猟犬が多く見える左手にクオンが制圧射撃を叩き込み、右手にはトリプルJが向かっている。その間を、自分の背丈よりも刃渡りの長いターミナーレイを携えて、アークが走って行く。彼が地面を蹴って壁に飛びつくと、その足はまるで地面を踏むように吸い付いた。
「すごいですね」
マシューが目を瞬かせた。レオーネは頷くと、ガラスの装飾がついた銃を構えた。
「シニョール・マシュー、俺が近づけさせないよう励むんで、よろしくな。防性強化、防御障壁、いざとなったら頼む」
「イエッサー」
マシューも魔導拳銃を構えた。クオンは空中から弾丸の雨を降らせながら屋根に向かって飛んで行く。雑魔が高く吠えるのが聞こえた。ダメージがあったらしい。その一体に向かって、レオーネがレイターコールドショットを放った。慣れた、安定した構えに、マシューが意外そうに見る。
「軍属経験がおありですか?」
「信じてもらえないけどね」
「安心しました」
マシューは冗談めかして言うと、反撃に備えて防性強化をレオーネに施した。
●一等賞はポーション
窓からの侵入に成功したアークは、耳を澄ませた。犬の爪が、板の床を叩くカチカチという小さな音が聞こえる。複数だ。エドの気配はここからではわからない。外から断続的に続くイブリスの銃声が、家を振動させている。天井からぱらぱらと砂埃が落ちた。
ベッドがドアの前でひっくり返っていた。ドアに靴跡がついている。なるほど。彼も壁歩きか。アークは同じようにドアを越えて、廊下に降り立った。
うなり声がした。そちらを向くと、犬がアークを見付けて姿勢を低くしている。アークは剣を抜いて水平に構えた。疾風剣ならこの狭い廊下でも取り回しが利く。
その時、犬の後ろで静かにドアが開いた。身長がアークとそう変わらない男性がそろりと出てくる。恐らく、エドだ。
「ヘイ」
彼が後ろから犬に声を掛けた。相手の注意が逸れると、アークが床板を蹴る。疾風剣が雑魔を一刀のもとに貫き斬り、憐れみを誘う鳴き声を上げて、雑魔は消滅した。
「エド?」
「そうだ。やべー銃声がするから来てくれたんだと思って。ありがとう。あんたは?」
「俺はアーク。アーク・フォーサイスだ。あと、レオーネとクオン、トリプルJ、マシューが来てる」
「トリプルJ?」
エドはその名前に聞き覚えがあったらしい。と、言うのも、エドがアメリカの森で迷子になった時に巻き込んだハンターの一人がトリプルJだったからだ。
「とりあえず、ここを出よう。怪我は……」
「大したことない」
エドの前面は汚れがついていた。恐らく、雑魔に飛びかかられたのだろう。アークはポーションを渡す。
「飲んで。あと何匹かいるよね」
「サンキュ。二匹はいる」
「わかった」
アークは頷くと、通信機を出して送話ボタンを押した。
「エドと合流した。これから脱出する」
「了解しました」
「ベネ! お疲れ様アーク。こちらは順調だ」
「ああ、素早くはあるが大したことはねぇ」
「中の雑魔はどうですか? 外に出てくるならまとめて制圧射撃しますが」
「そうだね」
アークはエドを見た。エドは頷いた。
「誘い出そうぜ」
「誘い出してみる。猟犬じみているし、獲物が逃げれば追ってくるかも」
その時だった。低い唸りがして、二人は振り返る。
「オーケー、アーク。かけっこだ」
「一等賞でポーション一本かな?」
「それはビリにくれ」
二人は駆け出した。
●La vita e bella
屋根の上からの、不意打ちの様な射撃で、一頭、また一頭と倒れていく。建物の裏手では、トリプルJがファントムハンドで捕まえた雑魔をインシネレーションで叩きのめしている。
屋内のアークからは合流の報せが来た。クオンは玄関側の方を向いて、中から出てくる敵に備えている。
「それにしても、飛行戦闘は犬たちの天敵……になるのでしょうかね……」
独りごちる。いくら脚力があっても、彼らは空中戦闘ができない。それを上から一方的に撃ちまくるのだから、犬からしたら飛んだ災難だろう。
「はたから見ると怪しいハンターですけど」
その時無線が入った。
「もうすぐ玄関だ」
アークだ。クオンはガトリングを持ち直した。
レオーネの銃が火を……否氷を吹いた。レイターコールドショットを当てられた雑魔は、凍り付いて身動きが取れなくなる。マシューを見て合図すると、彼はデルタレイを発動した。
「出てきた時にアークとエドが餌食になるっていうのは御免蒙るね」
「同感です」
「もうすぐ玄関だ」
アークの声がした。二人も、玄関に狙いを付ける。
「俺も向かう」
トリプルJからも連絡が入った。家の中を、二人の人間が走る足音がする。かなり頑張っているようだ。
朽ちかけていた玄関ドアが吹き飛んだ。覚醒者に蹴り飛ばされれば、普通の家でもそうなる。アークとエドが飛び出した。続いて、二頭の猟犬も。
イブリスが何度目かの轟音を立てた。弾幕が張られる。生き残っていた猟犬にレオーネがレイターコールドショットを当て、マシューは出てきた二頭にデルタレイを放った。駆けつけたトリプルJが、それでもまだ残っている一頭を鎧徹しで殴りつける。
「た、助かった……」
地面に膝を突いたエドが息も絶え絶えに呟く。マシューとレオーネが駆け寄った。クオンはダイダロスで降りて来る。エドはマシューの顔を見て、青ざめた。何しろ、彼にハンクの留守番を頼んだのである。その彼が自分の窮地を知っていると言うことは……。
「マット、ハンクは……?」
「心配してましたよ」
「オウ……」
エドは頭を抱えた。
「殺される」
「バレて殺される方が俺はまだいいと思うけどね」
レオーネが涼しい顔で言う。
「どう言う意味だよ」
「俺のファミリアは避難できたプリンチペッサ達を除いてリアルブルーに留まった。そう言えば俺の事情の一端は理解できるな?」
「彼女が何人もいるってことは理解した」
「ファミリアって言ったじゃないか。妹だよ」
プリンチペッサとは、イタリア語でお姫様のことだ。レオーネがそれくらい妹たちを可愛がっていることの表れでもある。妹たちが姫なら、その兄たる彼はプリンチペ……王子様であるが、彼の顔面はあまりにも説得力がある。
エドは黙り込んだ。リアルブルーから逃げてきた彼はそれがどう言うことか、実感を伴った上でわかっている。
「自分を囮にして、一般人を逃したんだよね。そこは純粋に格好いいと思うよ」
帰る道すがら、ハンクにどう言い訳をしようか頭を悩ませているエドに、アークがそっと声を掛けた。
「止めきれなかったのは俺だから。調子に乗ってたし」
「調子に乗っちゃうのは……まあ、それも性格なのかな……? パートナーがいれば違うかもしれないけれど。どう思う?」
作ろうとしてできるものでもないが。
「やだよ! 絶対付き合ってる内に嫌われる!」
「パートナーになるくらいだったら、そんな簡単に嫌われないんじゃない?」
「もうすぐ着きますよ」
クオンが声を掛けた。
「修羅場については……依頼外なので、それはご自分で……」
●アベルには聞こえないこと
戻って来た一行はC.J.の傍らに、法衣を来た長い赤毛の男性がいるのに気付いた。ハンクはその隣で所在なさげにしている。
「うっ」
エドが小さく呟いた。ハンクがそれを聞いてこちらを見る。目が剣呑に濁っている。
「エド」
「言っておくけど、俺はお前の息子じゃない。ましてや彼氏でもねぇ。お前に束縛されるいわれはない」
「僕が面倒臭い彼女みたいだって!?」
「そこまで言ってねぇよ! 自覚があるんだったら改めろ! 何だよ、やれ何時に帰ってくるとか誰と行くんだとか! 創世記のカインを見習え! あいつは神様にまで言ったぞ! 『私は弟の監視者ではありません』ってな!」
「それ、殺した後じゃありませんでした?」
マシューが呟いた。レオーネが肩を竦めて見せる。
そんな二人を見ながら、C.J.がトリプルJを手招きした。
「トリプルJ、こちらヴィルジーリオ。ヴィルジーリオ、こちらトリプルJ」
「こんにちは。魔術師で司祭をしておりますヴィルジーリオです。事情は彼から聞きました。ボランティア先をお探しだそうで」
それで、トリプルJは察した。この司祭の元に住み込みを、と言うことか。
「私は構いません。後は彼次第ですが、あの様子を見ると彼の意思にかかわらず引き離した方が良さそうですね」
お互いに顔を真っ赤にしてわめき合うエドとハンクを見て、ヴィルジーリオは目を細めた。クオンはやや引き気味で見守っている。レオーネは腕を組んでなんとも言えない微笑みを浮かべているし、アークもマシューも声を掛けづらいらしい。
「俺も二週間ほど付き添えればと思うんだが」
「申し訳ありませんが、物理的に無理です。ただ、いつでも様子を見に来て頂く分には構いません。物理的に無理なだけなので」
「そうか」
向こうでは口論がヒートアップしている。そこにトリプルJが割って入った。
「だいたい君は大学でもそうだったじゃないか!」
「お前だって変わらねぇだろ!」
「落ち着け。心配を理解されないのも辛いもんだな。ところでヘンリー、多分俺はお前の望みを叶えてやれるぜ? だからアウグスタに騙される前に、俺との賭けに乗ってみないか」
彼はエドに完全に背中を向けてハンクを見下ろした。エドはこれを幸いとばかりに、アークとレオーネのもとにすっ飛んでいく。
「……僕の望み?」
「興味があるなら、そこの司祭様に着いて行け」
「こんばんは、ハンク」
ヴィルジーリオは無表情で言った。
「今日から君はうちの子です」
「……は?」
エドがぽかんとして司祭とC.J.を見比べた。
(こんなに顔の良い男どもに迎えに行ってもらえるって、エドの奴どんな徳を積んでるわけ?)
C.J.は居並ぶ面々を見渡して呆れた様に首を振った。クオン・サガラ(ka0018)、アーク・フォーサイス(ka6568)、トリプルJ(ka6653)、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は廃屋の情報を目撃者から聞き取りしている。
「外に少なくとも四匹、中には二匹か」
アークが顎に手を当てて考える。
「実際、建物の陰に隠れていたりもするでしょうから、もっと多いかもしれませんね」
クオンがとんとん、と即席マップに描かれた建物の裏手を指した。
「多めに見積もった方が良い、か」
レオーネが頷いた。
「猟犬じみてるってことは、こっちの動きを止めてくる可能性もあるな」
トリプルJは、書き出された雑魔の特徴を見て呟いた。それから彼は、ハンターたちの様子を窺っているC.J.の方に歩み寄る。
「なあ」
「なに」
彼はハンクをちらりと見た。
「ヘンリーの奴なんだが、孤児院でボランティアとかはできねぇか?」
「どう言うこと?」
トリプルJは自分の考えを説明した。ハンクは、ざっくり言ってしまえば自分が選ばれない恐怖に駆られているのではないか。それなら、自分より無力で小さな子どもたちが寄ってくる孤児院に住み込みのボランティアをすることによって、代替手段ではあるが充足する可能性が高い。
「うん、僕も似たようなことを考えてた……人間関係の不安って、だいたい嫌われるとか必要とされてないとかそう言うことだし、めちゃくちゃ慕われる環境なら多少変わるかもしれない」
「だろ? それでだな、俺はアウグスタ騒動の孤児院、オネストの方。あそこが良いかと思っている」
「君、そんなことまで調べてあるの? なるほどね。でも僕は賛成できない」
「どうして?」
「知ってるかもしれないけど」
C.J.はそこで、先日起こった「アウグスタのキャロル」事件の話をした。もう一つの孤児院が、およそ六百を越える蜘蛛に取り囲まれた事件だ。ハンター二十五名の活躍によって死傷者ゼロで済んだが……。
「アウグスタは同じ所に現れることがある」
彼は言った。
「オネストの方も、ハンクがいるって知られたらアウグスタが来るかもしれない。それこそ何をされるかわからない」
「そうか」
「ただ、似たような環境は用意できるかも。心当たりがあるから打診しておく」
「ああ。頼む」
「君がそこまで考えてやる義理はないのにね。ありがとうね」
「俺は強欲なんだ。例え知らない相手でも、リアルブルー人が一人でも歪虚に落とされるのは我慢ならねえ」
「トリプルJ、行けるかい?」
アークが声を掛けた。
「ああ、今行く。悪いな。じゃあ、頼むぜCJ」
「俺が窓から入ってエドを探しに行く。クオンが屋根から、レオーネとマシューが外に残る」
現場までの道中で、アークが作戦をまとめている。
「きみはどうする?」
「ああ、見付け次第、ファントムハンドで引き寄せて鎧徹しでぶん殴るって寸法だ」
「良いね」
「それじゃあ、屋外を三等分で受け持ちましょうか。厳密には難しいと思いますが」
クオンが提案した。複数を一人ないしは新人二人で受け持つのも少々厄介だ。
「ところで……」
マシューがクオンの足下を見て目を瞬かせた。
「すごい銃ですね」
「ええ、これを持って入れないので私は屋根からなんですよ」
そこには、長さ三メートルは超える巨大なガトリングガンが置かれていた。これを生身で担ぐのは、覚醒者でないと難しい。
「突入する時にはこれで援護しますよ」
「よし」
やがて廃屋が見えた。なるほど、確かに数頭の猟犬じみた雑魔が見える。五頭だ。
「やっぱり見えないのがいたようだね。中も二匹だけとは限らないかも」
アークが言いながら、トランシーバーの送話ボタンを押した。全員の無線に短いノイズが走る。
「通信環境は良好みたいだ。何かあったら教えて」
「ああ」
レオーネが手を挙げた。
●イブリスの咆吼
「修羅場の番犬退治と行きますか。まあ、これが終わってからが修羅場ですが、そっちは依頼外ですので本人に解決してもらいたい所です」
クオンがダイダロスのアームを作動させながら言った。レオーネが、それを聞いてふむ、と顎に手を当てる。
「シュラバ……あれか、鶏小屋に雄鶏を二羽入れない的な……この場合雑魔が雌鳥で……」
彼がそう呟いていると、轟音が響いた。他の銃火器の銃声を景気が良いと言うなら、クオンが両手で支えるイブリスの銃声はインフレだ。体が揺れるのではないかと思うくらいの轟音。実際にマテリアルエネルギーはインフレ気味で、余剰エネルギーが銃口でチカチカと瞬いている。その代わり、威力も制圧の勢いも折り紙付きだ。雑魔たちは吠えているが、吠え声が聞こえない。
「アーク、気をつけて!」
レオーネが声を張る。猟犬が多く見える左手にクオンが制圧射撃を叩き込み、右手にはトリプルJが向かっている。その間を、自分の背丈よりも刃渡りの長いターミナーレイを携えて、アークが走って行く。彼が地面を蹴って壁に飛びつくと、その足はまるで地面を踏むように吸い付いた。
「すごいですね」
マシューが目を瞬かせた。レオーネは頷くと、ガラスの装飾がついた銃を構えた。
「シニョール・マシュー、俺が近づけさせないよう励むんで、よろしくな。防性強化、防御障壁、いざとなったら頼む」
「イエッサー」
マシューも魔導拳銃を構えた。クオンは空中から弾丸の雨を降らせながら屋根に向かって飛んで行く。雑魔が高く吠えるのが聞こえた。ダメージがあったらしい。その一体に向かって、レオーネがレイターコールドショットを放った。慣れた、安定した構えに、マシューが意外そうに見る。
「軍属経験がおありですか?」
「信じてもらえないけどね」
「安心しました」
マシューは冗談めかして言うと、反撃に備えて防性強化をレオーネに施した。
●一等賞はポーション
窓からの侵入に成功したアークは、耳を澄ませた。犬の爪が、板の床を叩くカチカチという小さな音が聞こえる。複数だ。エドの気配はここからではわからない。外から断続的に続くイブリスの銃声が、家を振動させている。天井からぱらぱらと砂埃が落ちた。
ベッドがドアの前でひっくり返っていた。ドアに靴跡がついている。なるほど。彼も壁歩きか。アークは同じようにドアを越えて、廊下に降り立った。
うなり声がした。そちらを向くと、犬がアークを見付けて姿勢を低くしている。アークは剣を抜いて水平に構えた。疾風剣ならこの狭い廊下でも取り回しが利く。
その時、犬の後ろで静かにドアが開いた。身長がアークとそう変わらない男性がそろりと出てくる。恐らく、エドだ。
「ヘイ」
彼が後ろから犬に声を掛けた。相手の注意が逸れると、アークが床板を蹴る。疾風剣が雑魔を一刀のもとに貫き斬り、憐れみを誘う鳴き声を上げて、雑魔は消滅した。
「エド?」
「そうだ。やべー銃声がするから来てくれたんだと思って。ありがとう。あんたは?」
「俺はアーク。アーク・フォーサイスだ。あと、レオーネとクオン、トリプルJ、マシューが来てる」
「トリプルJ?」
エドはその名前に聞き覚えがあったらしい。と、言うのも、エドがアメリカの森で迷子になった時に巻き込んだハンターの一人がトリプルJだったからだ。
「とりあえず、ここを出よう。怪我は……」
「大したことない」
エドの前面は汚れがついていた。恐らく、雑魔に飛びかかられたのだろう。アークはポーションを渡す。
「飲んで。あと何匹かいるよね」
「サンキュ。二匹はいる」
「わかった」
アークは頷くと、通信機を出して送話ボタンを押した。
「エドと合流した。これから脱出する」
「了解しました」
「ベネ! お疲れ様アーク。こちらは順調だ」
「ああ、素早くはあるが大したことはねぇ」
「中の雑魔はどうですか? 外に出てくるならまとめて制圧射撃しますが」
「そうだね」
アークはエドを見た。エドは頷いた。
「誘い出そうぜ」
「誘い出してみる。猟犬じみているし、獲物が逃げれば追ってくるかも」
その時だった。低い唸りがして、二人は振り返る。
「オーケー、アーク。かけっこだ」
「一等賞でポーション一本かな?」
「それはビリにくれ」
二人は駆け出した。
●La vita e bella
屋根の上からの、不意打ちの様な射撃で、一頭、また一頭と倒れていく。建物の裏手では、トリプルJがファントムハンドで捕まえた雑魔をインシネレーションで叩きのめしている。
屋内のアークからは合流の報せが来た。クオンは玄関側の方を向いて、中から出てくる敵に備えている。
「それにしても、飛行戦闘は犬たちの天敵……になるのでしょうかね……」
独りごちる。いくら脚力があっても、彼らは空中戦闘ができない。それを上から一方的に撃ちまくるのだから、犬からしたら飛んだ災難だろう。
「はたから見ると怪しいハンターですけど」
その時無線が入った。
「もうすぐ玄関だ」
アークだ。クオンはガトリングを持ち直した。
レオーネの銃が火を……否氷を吹いた。レイターコールドショットを当てられた雑魔は、凍り付いて身動きが取れなくなる。マシューを見て合図すると、彼はデルタレイを発動した。
「出てきた時にアークとエドが餌食になるっていうのは御免蒙るね」
「同感です」
「もうすぐ玄関だ」
アークの声がした。二人も、玄関に狙いを付ける。
「俺も向かう」
トリプルJからも連絡が入った。家の中を、二人の人間が走る足音がする。かなり頑張っているようだ。
朽ちかけていた玄関ドアが吹き飛んだ。覚醒者に蹴り飛ばされれば、普通の家でもそうなる。アークとエドが飛び出した。続いて、二頭の猟犬も。
イブリスが何度目かの轟音を立てた。弾幕が張られる。生き残っていた猟犬にレオーネがレイターコールドショットを当て、マシューは出てきた二頭にデルタレイを放った。駆けつけたトリプルJが、それでもまだ残っている一頭を鎧徹しで殴りつける。
「た、助かった……」
地面に膝を突いたエドが息も絶え絶えに呟く。マシューとレオーネが駆け寄った。クオンはダイダロスで降りて来る。エドはマシューの顔を見て、青ざめた。何しろ、彼にハンクの留守番を頼んだのである。その彼が自分の窮地を知っていると言うことは……。
「マット、ハンクは……?」
「心配してましたよ」
「オウ……」
エドは頭を抱えた。
「殺される」
「バレて殺される方が俺はまだいいと思うけどね」
レオーネが涼しい顔で言う。
「どう言う意味だよ」
「俺のファミリアは避難できたプリンチペッサ達を除いてリアルブルーに留まった。そう言えば俺の事情の一端は理解できるな?」
「彼女が何人もいるってことは理解した」
「ファミリアって言ったじゃないか。妹だよ」
プリンチペッサとは、イタリア語でお姫様のことだ。レオーネがそれくらい妹たちを可愛がっていることの表れでもある。妹たちが姫なら、その兄たる彼はプリンチペ……王子様であるが、彼の顔面はあまりにも説得力がある。
エドは黙り込んだ。リアルブルーから逃げてきた彼はそれがどう言うことか、実感を伴った上でわかっている。
「自分を囮にして、一般人を逃したんだよね。そこは純粋に格好いいと思うよ」
帰る道すがら、ハンクにどう言い訳をしようか頭を悩ませているエドに、アークがそっと声を掛けた。
「止めきれなかったのは俺だから。調子に乗ってたし」
「調子に乗っちゃうのは……まあ、それも性格なのかな……? パートナーがいれば違うかもしれないけれど。どう思う?」
作ろうとしてできるものでもないが。
「やだよ! 絶対付き合ってる内に嫌われる!」
「パートナーになるくらいだったら、そんな簡単に嫌われないんじゃない?」
「もうすぐ着きますよ」
クオンが声を掛けた。
「修羅場については……依頼外なので、それはご自分で……」
●アベルには聞こえないこと
戻って来た一行はC.J.の傍らに、法衣を来た長い赤毛の男性がいるのに気付いた。ハンクはその隣で所在なさげにしている。
「うっ」
エドが小さく呟いた。ハンクがそれを聞いてこちらを見る。目が剣呑に濁っている。
「エド」
「言っておくけど、俺はお前の息子じゃない。ましてや彼氏でもねぇ。お前に束縛されるいわれはない」
「僕が面倒臭い彼女みたいだって!?」
「そこまで言ってねぇよ! 自覚があるんだったら改めろ! 何だよ、やれ何時に帰ってくるとか誰と行くんだとか! 創世記のカインを見習え! あいつは神様にまで言ったぞ! 『私は弟の監視者ではありません』ってな!」
「それ、殺した後じゃありませんでした?」
マシューが呟いた。レオーネが肩を竦めて見せる。
そんな二人を見ながら、C.J.がトリプルJを手招きした。
「トリプルJ、こちらヴィルジーリオ。ヴィルジーリオ、こちらトリプルJ」
「こんにちは。魔術師で司祭をしておりますヴィルジーリオです。事情は彼から聞きました。ボランティア先をお探しだそうで」
それで、トリプルJは察した。この司祭の元に住み込みを、と言うことか。
「私は構いません。後は彼次第ですが、あの様子を見ると彼の意思にかかわらず引き離した方が良さそうですね」
お互いに顔を真っ赤にしてわめき合うエドとハンクを見て、ヴィルジーリオは目を細めた。クオンはやや引き気味で見守っている。レオーネは腕を組んでなんとも言えない微笑みを浮かべているし、アークもマシューも声を掛けづらいらしい。
「俺も二週間ほど付き添えればと思うんだが」
「申し訳ありませんが、物理的に無理です。ただ、いつでも様子を見に来て頂く分には構いません。物理的に無理なだけなので」
「そうか」
向こうでは口論がヒートアップしている。そこにトリプルJが割って入った。
「だいたい君は大学でもそうだったじゃないか!」
「お前だって変わらねぇだろ!」
「落ち着け。心配を理解されないのも辛いもんだな。ところでヘンリー、多分俺はお前の望みを叶えてやれるぜ? だからアウグスタに騙される前に、俺との賭けに乗ってみないか」
彼はエドに完全に背中を向けてハンクを見下ろした。エドはこれを幸いとばかりに、アークとレオーネのもとにすっ飛んでいく。
「……僕の望み?」
「興味があるなら、そこの司祭様に着いて行け」
「こんばんは、ハンク」
ヴィルジーリオは無表情で言った。
「今日から君はうちの子です」
「……は?」
エドがぽかんとして司祭とC.J.を見比べた。
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/14 22:40:49 |
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相談卓 アーク・フォーサイス(ka6568) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2019/01/17 14:07:18 |