• 王戦

【王戦】“ 3 ” ~宿命の三差路~

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/01/17 09:00
完成日
2019/01/27 21:16

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●アルテミス小隊再始動
 国内潜伏歪虚追跡調査隊、通称『アルテミス小隊』は事実上、活動を停止していた。
 度重なる歪虚との戦いにより、多くの騎士や兵士が倒れ、構成員がいなくなった為、名前だけが残っていたのだが、とある商会の働きにより、再編成し、再活動が決まったのだ。
「……私には、小隊長に就く資格はありません」
 古都に用意された一室で、紡伎 希(kz0174)は青の隊騎士ノセヤにそう告げた。
「すべての責任は、僕が取る事になります。貴女に何か、事情があったとしてもです」
 ゆっくりと答えたノセヤの視線は、希ではなく、少女の背後に置かれた巨大な棺桶のような鞘に向けられている。
 あの中身が【魔装】だという事をノセヤは知らない。また、知ろうともしないだろう。
「『緑髪の少女』と貴女が同一人物……という疑惑の件については、気にしなくて良いと思いますよ」
「ノセヤ様……」
「貴女は記憶を失った転移者。ソルラ先輩はそう言って、貴女の保証人になった。その事実は、ソルラ先輩が亡くなった今も変わりません」
 ゆっくりとした口調で言ったノセヤの言葉に希は顔を伏せた。
「私はまだ……守られているのですね」
「貴女を疑う事は、貴女を保証したソルラ先輩を疑う事になりますから」
 事の真偽を確認しようにも、保証人は既にこの世にいない。
 ならば、保証を無効にするかという事になる。そして、小隊を後援する商会は、戦死した騎士の家なのだ。
 疑惑を訴えた事で商会が後援から離れれば、小隊は維持できなくなる。少しでも戦力が必要な時に、それでは困るのだ。
「それに、この国は寛大です。貴女が後ろめたいと思う事も、それに見合うだけの結果を出せばいい事です」
「ノセヤ様は最初からそのつもりだったのですね」
「ソルラ先輩なら、そうしていた……と思うからですよ」
 人の繋がりという事は、きっと、こういう事なのだろうと希は思った。
 罪を償う方法は色々あるのだろう。そして、これが求められている事であれば――。
「小隊長の件、お受けいたします」
 希は席から立ち上がって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。ソルラ先輩も、水の精霊も、きっと、喜ばれると思います」
 ホッとした様子でノセヤは書類を希の前に差し出す。
 アルテミス小隊が再始動するにあたり、差し当って最大の問題は業務量の増加だった。
 ノセヤはそうでなくとも忙しいので、小隊業務まで手が回らない。
 具体的な実務やハンターへの依頼などを行える人物が必要だったのだ。そこで、騎士団の外郭団体という立場を活かし、小隊長も民間からという事でノセヤが希を推したのだ。
 希はエトファリカ連邦国からの依頼で、部隊専属の受付嬢や、観戦武官専属となった経験もあるので、適任だったというのもある。
「さて、早速ですが、すぐにでも取り組んで貰う仕事があります」
「はい」
 ピッと姿勢を正す希の前に、資料の束が置かれた。
 刻令術式外輪船フライングシスティーナ号の現状に関する資料だ。
「実は、フライングシスティーナ号を飛行させる手段を考えています。それも、すぐに出来る方法です」
「すぐに……という事は、ロッソのような科学技術ではなく……という事ですね」
「その通りです。王国内の既存技術を組み合わせて――のつもりなのですが、私は騎士団直属なので、騎士団が把握する以外の情報は、なかなか知り得ません。ですが、ハンターの皆さんであれば、色々と知っている事もあるかと」
「分かりました。つまり、ハンター達からアイデアを聞いて、纏めると」
 物分かりの良い希の言葉にノセヤは頷いた。
「ハンターには依頼を出しているので、もうじき、到着するでしょう」
 その時、部屋の扉が叩かれた。
 ハンターが到着した……ような様子では無かった。
「た、大変です。街道の一つにミュールによく似た歪虚が出現したと!」
「フリュイ様はなんと?」
「アークエルスの領主様は、まだ領地内に侵入していないので騎士団が出るべきと……」
 伝令の報告にノセヤは額に手を当てて唸った。
 ブツブツと何か呟きながら、やがて、力強く頷いた。
「ハンターを呼んでいるのです。再始動の手始めに、その歪虚を討伐しましょう」
 フリュイの私兵が戦えない訳がないのだ。恐らく、試されているのだろう。
「分かりました。それでは、アルテミス小隊、出撃致します」
 希がピシっと敬礼したのであった。

●古都アークエルスへと至る街道
 メインの街道から外れているというのもあるが、その日は珍しく人の気配が少なかった。
 静かな三差路に栗梅色の髪を揺らしている少女の影がみっつばかり並んでいる。
「ミュール、早くしなよぉ!」
「そうそう。早くしないとイヴ様に失礼だよぉ!」
「や、やだよう。こんな何にも無い所で」
 少女らは、いずれもミュール(kz0259)の分体だった。
 王国各地に分体は散らばって活動しているようで、強い個体から弱い個体まで様々だが、こうして分体同士で目撃される事は珍しいかもしれない。
「ほら、人間が来たよぉ、ミュール」
「本当だねぇ。しかも、あれは“裏切者”と一緒にいた人間とハンターみたいぃ」
「に、逃げよう。ミュール達の目的は、もっと違うし」
「えぇー! ミュールったら、情けないよぉ! コピーミスしちゃって!」
 やんややんやと同じ姿をしている少女らが騒いでいた。
 近付いてくる希やハンター達に対し、一人のミュールが両手を広げる。
「ふふふ。お姉ちゃん達をここで懲らしめちゃうからぁ!」
 負のマテリアルが全身から発せられ、瞬く間に木札へと【変容】した。
 次の瞬間、内側から開くように木札が展開すると、異界への門が開く。
 開いた門から“禍々しき角を持つ青年の影”が姿を現した。
「ミュールすごーいぃ! シャーが出て来たよぉ~! ほら、ミュールも早くしなよぉ!」
「いや! ミュールが開く所はここじゃない!」
「もう、言う事聞かないなら、こうよぉ!」
 ハンター達の方に向かって逃げ出そうとした少女の背に向かって、ミュールは【強制】を放った。
「今すぐ門を開いてぇ!」
「いやだ! いやだ!」
 【強制】に必死に抵抗する少女と無邪気に笑う少女。
 二人のミュールと駆けつけたハンター達の前に、異界から出現した“禍々しき角を持つ青年の影”が立ち塞がった。


==========解説==========
●目的
傲慢歪虚の殲滅

●内容
街道の三差路に出現した傲慢歪虚を殲滅あるいは撃退する。

●状況
OP『●古都アークエルスへと至る街道』の直後からリプレイは開始。
ミュール達の会話をハンター達は見聞きしているものとする。
便宜上、ハンター達と傲慢歪虚の間は10スクエア離れている。
ミュールのうち、1体は最初のラウンド終了時に木札へと【変容】し、次ラウンド最初に異界への門が開く(門からは1体の傲慢貴族が出現する)。

リプレイ本文


 “禍々しき角を持つ青年の影”からは圧倒的な殺意を感じる。
 傲慢の歪虚ミュール(kz0259)の分体が立札に【変容】し、立札が開いた“門”から出現した影を、分体の一人は、『シャー』と呼んだ。
「戦う意志のない個体とは、接触してみたかったけど……今回は諦め、だね」
 十色 エニア(ka0370)が諦めたような口調で告げつつ、髪を揺らし、ステップを踏む。
 マテリアルを高め、唄と踊りで抵抗力を増す能力を使う為だ。
「傲慢らしい事はミュールがいるから確かだろうが……傲慢ゆえの能力対策が必要か……」
 敵の動きを油断なく観察しながら二丁の銃を構える瀬崎・統夜(ka5046)。
 エニアがアイデアル・ソングを使わなければ、傲慢との戦いは不利になるのは必至だった。
 そう感じるだけ、瀬崎は傲慢との戦いをくぐり抜けてきた。
 相手を命令通り動かす【強制】。受けたダメージを返す【懲罰】。
 この二つへの対策が必須であり、それは瀬崎だけではなく、この場に集まった他のハンター達も熟知しているようだ。
 符を構えた夜桜 奏音(ka5754)もマテリアルを集中させる。
「これは、ちょっと厄介な感じですね」
 “門”から出て来た影からは強い負のマテリアルを感じる。
 ただの歪虚ではないかもしれない。それに奥で無邪気に笑う分体と、泣きそうな表情になっている分体だっているのだ。
 奏音は改めて、面々を見渡す。全員が後衛職なので、位置取りやスキルには要注意だろう。
 アイデアル・ソングの効果範囲は意外と狭いから、前衛後衛に分かれるよりかは、やり易いかもしれない。
「あの蜘蛛もでしたが……増えるのも傲慢の特徴だったでしょうか?」
 とある高位の傲慢歪虚を思い出してクリスティア・オルトワール(ka0131)が言った。
 錬金杖を力強く握り締め、宙に魔方陣を描く一方で、“門”から現れた影を凝視する。
「“シャー”……こちらも遊戯盤の駒の名前、ですか……」
 名が意味するのは『王』だ。
 その盤上遊戯の中で、最も大切な駒である事から推測するに、強力な歪虚であるのは容易に想像できた。
「やっぱり、強いのかな?」
「名前に相応しい力を持っているはずです。転移や傲慢特有の能力に、より注意が必要です」
 エニアの問いにクリスティアは頷きながら答えた。
 短い距離を転移して間合いを詰めてくるという戦法も脅威だ。気が付けば背後を取られる可能性だってある。
「全ての個体に該当する訳ではありませんが……視認出来る所であれば、転移できるはずです」
 紡伎 希(kz0174)が【魔装】を手にしながらハンター達に告げる。
「お互いに背をカバーできるようにする事と、何より、奇襲に慌てない事か」
「そうですね」
 瀬崎と夜桜が希の台詞に応える。
 逆に言えば、警戒している限り、敵としても安易に転移はできないはずだ。
 転移した先に何らかの罠や待ち伏せの可能性があるなら、仕掛ける側も無理はできない。
 ミュールが【魔装】に対して、唐突に指を差す。
「あー! そんなところに隠れていたんだぁ! この裏切り者ぉ!」
「ネルさんのことです?」
 希と【魔装】を庇うようにアルマ・A・エインズワース(ka4901)がズィっと前に出た。
 立ち塞がったアルマが邪魔だったようで、やや身体を横に伸ばしながら分体は言う。
「名前なんか知らないよぉ。裏切り者は裏切り者だもん!」
「ネルさんが裏切り者なんて、とんでもないですー! お友達になってくれた、優しくて素敵な歪虚のヒトです!」
「人間に使われてるなんてイヴ様は絶対認めない。だから、それは傲慢の裏切り者なんだよぉ!」
 アルマと分体の話は平行線のようで、会話にならない……という事は、これ以上は戦いで決着をつけるしかない。
 ガチャガチャと音を立てて【魔装】の機構が剣モードに変更する。万が一、歪虚が転移で飛んできた時の為だろう。
「希……アルテミスなんて字面は痒いが、まあ協力するのは吝かじゃない。新生した小隊の初陣を勝利で飾るか」
「はい! 統夜様、よろしくお願いします」
 傲慢との戦が始まろうとしていた。


 真っ先に動いたのはアルマだった。
「僕のお友達を虐めようとする君たちは『嫌な子』ですね? 嫌なのは全部、じゅっとお片付けしないとダメなんですよー」
 狙いは【強制】に掛かっている様子な方の分体。
 アルマの蒼色の美しい外套が揺らめく中、機導術式陣を前方に展開する。
「殺ス」
 十分な殺意を含み、言い放った直後、術式陣から発生した無数の氷柱が分体を貫いた。
「ひ、酷いよぉ!」
「射撃目標は右の傲慢娘!」
「あの状態では懲罰を使用する余裕はないでしょうし」
 瀬崎の射撃とクリスティアの魔法攻撃が続く。
 【強制】に掛かって、その命令を実行中の分体からは【懲罰】はないと睨んでの集中攻撃だった。
 ハンター達の読みは正解だった。だが、同時に多くの情報を敵に与えた攻撃でもあった。
「今の中で、一番強い攻撃は、そこの大型犬みたいな男のエルフのお兄ちゃんで、次点で金髪のお姉ちゃんだね」
 無傷の分体が楽しそうに告げる。
 誰の攻撃の時に【懲罰】を使った方が良いか、見極められたのだ。
 3人の連続攻撃を受けても、立札に【変容】しつつある分体は倒し切れなかった。
「分体の身体が少しずつ立札に変わっていきますね」
 奏音が符を構えたまま、観察していた。
 エニアのアイデアル・ソングが発動する頃には、すっかりと【変容】が終わる。
「分体のミュール自身が“門”という事は……」
 なんだか嫌な予感を感じるエニア。
 シャーが出てくるまでの一連の出来事は近付くまでに見ていたので、次に起こるのは簡単に予想がついた。
 “門”から新手が出てくるのだろう。そして、戦術的に考えれば、それは立札となった分体よりも、強力なはずだ。
「ミュールからの“お願い”だよぉ。シャーは“全力”で戦ってぇ!」
 変容しなかった分体が【強制】をシャーに使った。
 傲慢歪虚は人間と戦う際、基本的には全力を出さない。
 それは傲慢ゆえの性質というものだろう。しかし、時には“全力”を出す場合もある。
 もっとも、てっとり早いのは【強制】を使う事だ。
「…………」
 言葉を発する事なく、シャーは漆黒の剣を手にしたまま突撃してきた。
 鋭い斬撃がエニアを襲うが、持ち前の身軽さで避ける。
「この位ならって!? 連続攻撃?」
「誰を最初に倒すべきか分かっているみたいですね」
 咄嗟にエニアを庇ったのはアルマだった。盾と機導籠手でシャーの攻撃を防ぎきる。
 無傷――とはいかないが。
 そうこうしている間に、立札が負のマテリアルを放って、内側から展開を始めた。
 何か出てくる前に倒しておきたかった所だが、防ぐには、アルマが後4人は必要だったかもしれない。
 “門”から現れたのは、様々な装飾品を纏った漆黒の人型歪虚だった。
「あれは報告書にあった“ファルズィーン”でしょうか」
 冷静にクリスティアは分析する。
 以前、別の街道に出現した個体は傲慢兵士――ピヤーダ――を召喚した。
 次から次に召喚されても厄介だ。
 “門”から進み出た傲慢貴族はハンター達を指差すと負のマテリアルを発して【強制】を行使する。
「偉大なる王の御前である。ひれ伏せ」
「私の目の前で、それだけは絶対させません」
 力強く宣言したのはクリスティア。
 【強制】の脅威は嫌になる程分かっているのだ。こんな所で屈する訳にはいかない。
 そして、その為の手段をクリスティアは持っている。苦しんだあの時、手にしていなかった魔法を。
 彼女の決意が込められたカウンターマジックは傲慢貴族の【強制】を打ち消した。
「そいつは“出て来たばっかり”だ。攻撃する」
 瀬崎が魔導銃をシャーに向けたまま、もう片方の手に持つ龍銃の銃口を天に向ける。
 あらぬ方向に撃っている訳ではない。マテリアルが込められた特別な射撃は、敵に光の雨となって降り注ぐ。
 傲慢貴族は避ける事はせずにそれを全て受け止めた。
 次の瞬間、全身から発した負のマテリアルが靄となって、瀬崎を襲った。
 受けた攻撃をそのまま返す【懲罰】だ。しかし、それは瀬崎の身体に達する前にか細くなって、弱々しいものになった。
 瀬崎の無事を祈る仲間達の力かもしれない。
「彼奴は【懲罰】を使ったぜ」
「そっか、出て来たばかりだから、誰の攻撃が一番強いって分からないんだ」
 エニアがポンと手を叩いた。
 手にはワイヤーウィップを持つ。少なくとも、眼前に迫っているシャーを牽制する事は出来るだろう。
「今がチャンスですね」
「それじゃ、遠慮なく! 希さんも行きますよ」
「はい! 私も合わせます」
 奏音の符術と、アルマ、希の機導術が傲慢貴族を直撃する。
 強力な攻撃を受けたからか、敵は間合いを維持して今一度【強制】を放った。
 それは先程のような広範囲ではなく、単体限定だ。先程よりも強度は高いだろう。
 狙われたのはアルマではなく、奏音だった。
「仲間を攻撃しろ」
「そう簡単に操る事ができるとは思わないでください」
 符をクルっとめくると不可思議なマテリアルの流れ、そっくり、傲慢貴族へと降りかかった。
 呪詛返しは見事に決まったようだ。
「もうっ! 裏切り者はいなくなってぇ!」
 分体は自分に向かってきた傲慢貴族に【強制】を放った。
 それを受けて、傲慢貴族は動きを止めると、自身の身体に両手に深々と貫く。
 どさっと崩れ落ち、身動きを止めた。
「味方だった相手にも容赦なしか」
「幾らでもいるもん。シャー、ファルズィーンを召喚してよぉ……って、そっか、ミュールが【強制】掛けちゃったんだ」
 瀬崎の台詞にベーと舌を出して応えた分体だったが、自分の台詞の途中で、ハッと気が付いた様子だった。
 どうやら、後先考えない所もあるようだ。
 【強制】は強力だが、使いどころは傲慢にとっても難しいようである。
「愚かですよー」
 嬉々としながら、アルマが光り輝く三角形を作り出す。
 もっとも、アルマの中では積極的に攻撃する気が無かった。
 大事なのは【懲罰】を使わせない抑止力なのだ。
 その効果は有効だった。シャーはクリスティアの魔法攻撃を受けても【懲罰】の使用は見送っていたからだ。
「“全力で戦う”という事は相手を見下したりしていない訳ですからね」
「わたしが唄っている限り、【強制】も通じないし」
 クリスティアとエニアはシャー相手に時間を稼げていた。
 もっとも、微妙なバランスの上でた。シャーの攻撃がエニアに届ききれなかったのだ。
「魔術師が魔法を使わないことだって、あったりするのよ」
 そんな事を得意げに言うエニア。
 傲慢貴族を倒せた事で、ハンター達の攻撃はシャーに集中する。
 しかし、シャーはアルマの攻撃を警戒して【懲罰】を放てない。
「ミュールだって、殴れるんだからぁ!」
 唐突に巨大なこん棒を手にして分体が直接殴ってきた。
 希に直撃したようにも見えたが、誰かの祈りの力か、防ぎきったようだ。
「泥試合になりそうですね」
「こちらもアルマさんの攻撃が思うように出せないので、仕方ないです」
 次の魔法を唱えようとマテリアルを練るクリスティアに、白巫女の力で癒しの波動を発する奏音。
 分体が上手に戦えなかったという幸運を突いて傲慢貴族を倒せたが、その後は、お互いに決めてを欠いた。
 アルマの攻撃力は確かに高い。他のハンターと比べても突出している。だから、敵としては【懲罰】をアルマに残しておかなければならない。
 だが、ハンター達もアルマが攻撃出来ないので、パーティー全体の攻撃力は低下する。
 その結果、泥試合になったのだった。


 最終的に戦いの行方は、回復手段があるハンター達が辛うじて押し切った形となった。
 シャーは瀬崎が予備の銃を使ってまでトリガーエンドを連続して撃ち込んだのが致命傷となり、ボロボロと消え去る。
「あーあ。シャーまで倒されちゃった」
「何をしにここに来たのですか?」
 戦いは終わりだと告げるように、こん棒をポイっと捨てる分体にクリスティアは尋ねる。
「だって、それをする事が、イヴ様のためなんだもん」
 傲慢王の名を口にして分体は跳ねるように街道から外れていく。
 それを確認してから、エニアは崩れるようにペタンと地に座りこんだ。ずっと踊っていたからだ。
「流石に、きついわ」
「ありがとうございます。エニア様」
「アルテミスの登録ハンターとして、これからも変わらずに支援するからね」
 お礼を言って来た希に、エニアは【魔装】を撫でながら微笑を浮かべて答える。
 カタっと【魔装】が動いた。勝手に動いたのか、どうか分からないが。
「この後、フライングシスティーナ号の事がありますから、まだ終わりではないですよ」
「そうだった……」
 クリスティアの言葉に空を仰ぎ見るエニア。
 この青空に、あの大きな船を飛ばすのだ。
 空を飛ぶ魔法を永続させる方法か、あるいは飛翔できる装備で船を覆うか……などとエニアは考えてはいた。
「フライングシスティーナ号が空を飛ぶためには……ですか……」
 奏音は妙案があまり浮かんでいないようだ。
 船体下から何か噴出してその反動で……とも頭の中に浮かぶが……払いのけた。
「まぁ、既に出回っている技術を組み合わせるしかないな」
 CAMを飛ばしたり箒やソリを飛ばす技術や魔法があるのだからと統夜は言う。
 アルマがうんうんと頷いた。
「ユニットや幻獣に引っ張って貰って飛ばす案もありますよ」
 詳しく話すのは、とりあえず、古都に戻ってからの話だ。ただ、これだっという答えに辿り着くのは今回の依頼だけでは困難だろう。
 そもそも、飛んでもいないものを飛ばすというのはハードルが高すぎる。まずは“浮かせる”事が大事だ。推進する方法はまた別に考えればいいのだから。
 アルマは座り込んだエニアに手を貸す希から【魔装】を受け取ると、満面の笑みを浮かべて優しく話し掛ける。
「ネルさん、お久しぶりですー。僕ですっ」
 ――返事は無い。
 それでも頭の中に『随分と強くなったようだな』と声が響いた気がした。
「……また、お喋りできるようになったらいいです。絶対守りますからね!」
 【魔装】は傲慢からは裏切り者として認識されているのだ。
 所有者である希は今後もアルテミス小隊の顔として活動する以上、戦闘は避けられないので、いつか、熾烈な戦いが待っているかもしれない。十分に抱き締めなでなでした後に、希に【魔装】を返す。
「それでは皆様、古都に帰還しましょう。暖かい紅茶を煎れますので」
 希の宣言にハンター達は頷いた。


 街道に出現したミュールの分体を含む傲慢歪虚をハンター達は撃退した。
 倒し切れなかった分体はいずこかへ逃げたようだが、一先ずの脅威は去っただろう。
 また、フライングシスティーナ号を飛ばすアイデアをハンター達から聞き取れたのであった。


 おしまい

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クリスティア・オルトワール(ka0131
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/01/16 15:45:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/13 00:38:09