ゲスト
(ka0000)
【陶曲】前略・森の中から
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/18 19:00
- 完成日
- 2019/01/28 23:14
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ならず者集団「宵闇の剣」のお仕事
「なあボス。俺っちらの後ろからなんか変な音がしねーか?」
同盟領の人里離れた森の中、鈎っ鼻の小男、ラデオラが振り向いた。
「……なんも音なんざしてねーじゃねぇかよ」
ボスと呼ばれたひげ面で筋肉質の男、グランジも振り向いて確認し、小男を睨めつけた。
「そういえばこの辺はしばらく立ち入ってなかったよな?」
「連絡を取ってやらにゃあならん盗賊もいねえしな」
色男のアルゼアが首をひねり、はげ頭で大男のバルデオがふんと背を向ける。
彼らはならず者集団「宵闇の剣(セラータ・スパーダ)」。盗賊たちのテリトリーを渡り歩き情報交換や調整役などを引き受けている。ワルの片棒を担いでいる一方で、盗賊の仕事に一般人が巻き込まれないようにしたり人里に到達する前の歪虚情報を流すといった善行もしているため、役人から見逃されている面もある。
「しかし、そういう場所こそ……」
「……ひねくれ者」
下唇の捻れた男、ステイゼが口を開くと眠そうな目の少年、エドアムがすかさずからかった。
その時だった!
――ガジッ、バキキッ! どしぃ……ん。
「何だ?」
「とにかく確認だ」
グランジたちは音のした現場に急いだ。
●その後の「百年目のエルフ」
「テニスの次に商売になると思ったんですけどね」
テニスなどスポーツ用品を取り次いでいた商人集団「テラボ」の商人が肩を落として魔導トラックに手を添えた。
「ねえ、テラボのおじさん。壁設置にはどうすればいいんだっけ?」
魔導トラックの運転席に収まっていたフラ・キャンディ(kz0121)が顔を出して聞いてきた。
「足元のレバーです。そこはフラさんサイズにカスタマイズしてないからしゃがむしかないかも」
「低い位置ならむしろボク向きなんじゃない? かくれんぼは得意なんだよ……あった。コレだね?」
フラが何かを操作すると、トレーラーのような魔道トラックの荷室側面が下に降り、大きな壁となった。反対側には蜘蛛のような脚が荷室内部から展開し、大地をがしり。
「テニスコートの半分の面積のコートからこの壁にボールを打ち込んで、跳ね返りを打ち返しラリーするゲームです」
スカッシュといいます、と商人。
説明を聞いていたフラの後見人たる老人、ジル・コバルトは呆れた。
「どう考えても魔導トラックの経費が高いじゃろ」
「技術者は喜んで試作してくれて、各地で催した見世物としても良かったんですが……プレイヤーは増えませんでしたねぇ」
「当然じゃの」
「ジルさん、ここにいたのかい」
そこに、ジルの資産管理をする青年がやってきた。
「裏の情報屋からネタが入った。森の中を大型歪虚が移動中とのことだ」
「ボクの里だった場所に近いの?!」
ひょいと運転席から顔を出すフラ。
「いや。そっちの心配はないが、どうも『大地の裂け目』に一直線に向かってるようでね」
後日、ハンターオフィスに大ミノムシ歪虚退治の依頼が持ち込まれた。
「移動を止めて殲滅するならこのスカッシュ……いえいえ、移動壁面トラックが効果的ですよう」
テラボの商人、失敗作の移動スカッシュトラックを歪虚退治用に執拗に売り込み、結果取引成立。負債物件の損切りに成功した。
運転席をフラのサイズにカスタマイズしていたため、フラも作戦に参加することになる。
「なあボス。俺っちらの後ろからなんか変な音がしねーか?」
同盟領の人里離れた森の中、鈎っ鼻の小男、ラデオラが振り向いた。
「……なんも音なんざしてねーじゃねぇかよ」
ボスと呼ばれたひげ面で筋肉質の男、グランジも振り向いて確認し、小男を睨めつけた。
「そういえばこの辺はしばらく立ち入ってなかったよな?」
「連絡を取ってやらにゃあならん盗賊もいねえしな」
色男のアルゼアが首をひねり、はげ頭で大男のバルデオがふんと背を向ける。
彼らはならず者集団「宵闇の剣(セラータ・スパーダ)」。盗賊たちのテリトリーを渡り歩き情報交換や調整役などを引き受けている。ワルの片棒を担いでいる一方で、盗賊の仕事に一般人が巻き込まれないようにしたり人里に到達する前の歪虚情報を流すといった善行もしているため、役人から見逃されている面もある。
「しかし、そういう場所こそ……」
「……ひねくれ者」
下唇の捻れた男、ステイゼが口を開くと眠そうな目の少年、エドアムがすかさずからかった。
その時だった!
――ガジッ、バキキッ! どしぃ……ん。
「何だ?」
「とにかく確認だ」
グランジたちは音のした現場に急いだ。
●その後の「百年目のエルフ」
「テニスの次に商売になると思ったんですけどね」
テニスなどスポーツ用品を取り次いでいた商人集団「テラボ」の商人が肩を落として魔導トラックに手を添えた。
「ねえ、テラボのおじさん。壁設置にはどうすればいいんだっけ?」
魔導トラックの運転席に収まっていたフラ・キャンディ(kz0121)が顔を出して聞いてきた。
「足元のレバーです。そこはフラさんサイズにカスタマイズしてないからしゃがむしかないかも」
「低い位置ならむしろボク向きなんじゃない? かくれんぼは得意なんだよ……あった。コレだね?」
フラが何かを操作すると、トレーラーのような魔道トラックの荷室側面が下に降り、大きな壁となった。反対側には蜘蛛のような脚が荷室内部から展開し、大地をがしり。
「テニスコートの半分の面積のコートからこの壁にボールを打ち込んで、跳ね返りを打ち返しラリーするゲームです」
スカッシュといいます、と商人。
説明を聞いていたフラの後見人たる老人、ジル・コバルトは呆れた。
「どう考えても魔導トラックの経費が高いじゃろ」
「技術者は喜んで試作してくれて、各地で催した見世物としても良かったんですが……プレイヤーは増えませんでしたねぇ」
「当然じゃの」
「ジルさん、ここにいたのかい」
そこに、ジルの資産管理をする青年がやってきた。
「裏の情報屋からネタが入った。森の中を大型歪虚が移動中とのことだ」
「ボクの里だった場所に近いの?!」
ひょいと運転席から顔を出すフラ。
「いや。そっちの心配はないが、どうも『大地の裂け目』に一直線に向かってるようでね」
後日、ハンターオフィスに大ミノムシ歪虚退治の依頼が持ち込まれた。
「移動を止めて殲滅するならこのスカッシュ……いえいえ、移動壁面トラックが効果的ですよう」
テラボの商人、失敗作の移動スカッシュトラックを歪虚退治用に執拗に売り込み、結果取引成立。負債物件の損切りに成功した。
運転席をフラのサイズにカスタマイズしていたため、フラも作戦に参加することになる。
リプレイ本文
●
どっぱぁん、と森の中から巨体が飛び出してきた。
それは表面のごちゃごちゃした物体で、倒木の塊の長細い何かという感じだ。
大ミノムシ歪虚である。
そのわき目も振らない前進は暴力的で圧倒的。うかつに前に出ればあっという間に蹂躙されて重体となってしまう勢いだ。
「敵、森から出ました。予想進路を進行中」
続いてエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がワイバーン、北極(ka3142unit008)を駆り森上空から出てきた。隠れるように低空飛行していたが、視界の通る平原に出たので今度は敵の斜め後方にピタリと位置取りしている。
「はいはい。見えたわよー」
エラの通信を受けたキーリ(ka4642)、手のひらをひさしのようにかざし敵確認しつつ、横に立つ刻令ゴーレム「Volcanius」のラムルタフル(ka4642unit002)の巨体にぽふりと手をやる。さっきまでくるくる踊りながら「ただ単に待機するってのも退屈ねー」とか言ってたのは内緒だ。
「あー、確かにミノムシねー。どでかいミノムシが羽化する瞬間なんて見たくないわねー」
「え? 羽化したら綺麗な蝶になるんじゃないの?」
スカッシュ用移動壁面魔導トラックに乗ったフラ・キャンディ(kz0121)からの通信。
「絶対キモいわよ。イモムシってただでさえキモいのに」
「うーん、大きい。……まあ、羽化するのか定かじゃないけど増えられるのも困るし。此処で退治したいね」
断言したキーリに今度は霧雨 悠月(ka4130)からの通信。
「ふ、増えるの?! これ、押し潰されるんじゃないかなぁ」
「た、たとえ話ですよぉ、フラさん。もし増えても僕が何とかしますからぁ」
通信越しにびくっとなったフラに、その近くで待ち伏せする弓月・小太(ka4679)が男らしさを見せる。
「確かに、一匹見たらウジャウジャいると思えっていいますしねぇ~」
うふふ、と星野 ハナ(ka5852)からの通信。リーリー(ka5852unit006)に騎乗しテンションを上げて準備している。
「えええ~っ! ウジャウジャ~?!」
「森の中にそのような気配はありませんでした。フラ様は恋人様の言葉だけを信じるとよいでしょう」
慌てるフラにエラの冷静な指摘。面白くありませんねぇ、とかからかったハナの声も聞こえたり。フラの怯えっぷりに一定の満足をしてそうな響きがある。
「まずは周囲の防御を剥ぐのが優先でしょうかぁ? 貫通弾なら中までダメージがいくといいのですけどぉ」
話を変えるべく小太がダインスレイブ(ka4679unit003)に可変機銃「ポレモスSGS」を構えさせつつ準備する。
「そうだね。まずは外装を剥がしていかないと」
悠月も待機しつつ敵の動きを注視している。
そこへ新たに森上空から出てくる影が!
「ほかに敵はいなかったよ! 蒼海熱風『J9』、およびとあらば即・参上!」
時音 ざくろ(ka1250)である。
グリフォン、蒼海熱風『J9』(ka1250unit005)に乗って爆走する敵の大型ミノムシ歪虚の横に付けた。
「集まったわね。じゃ、作戦開始するわよ~」
キーリの合図で、ラムルタフルの砲撃が始まった。
「……総論として、キモいということになるのでしょうかね。誰からも否定の言葉がありませんでした」
最後にエラがぽそっとそんなことをこぼす。
●
――ドォンン……ヒュルル……ドゴォォォン!
ラムルタフルの炸裂弾が大ミノムシ歪虚の背中に命中した。周囲へまき散らした霰玉で纏っている大木に大きなダメージを加えた。木っ端が派手に散る。
が、ここで信じられない光景が。
「あら。イモムシご~ろごろ?」
着弾確認したキーリの言う通り、敵は炸裂の勢いに逆らわずゴロンと転がりまた走っている。
「ミノムシだけどね……表面は削ったけど穴は開いてないかな」
突っ込みを入れる悠月、並走しつつこの行動がダメージのあった装甲を地面に押し付けることでの再付着も狙った動きもあると確認。
「あらら、侵攻ルートも変わっちゃいましたかねぇ」
「了解だよ、ハナさん」
ハナ、リーリーに騎乗しキーリの砲撃の反対側を並走していたので侵攻ルートのズレの大きさが分かりやすい。通信を受けたフラ、待機場所を微調整する。
「派手に爆裂するのはダメね。ラムルタフル、着弾修正。火炎弾に換装して連続装填。その後はその場に待機よ」
キーリ、敵の防御の粗削り作業を指示しておいてユニットを離れた。前線へと急ぐ。
その頭上を火炎弾が飛ぶ。放物線を描いて着弾すると、今度はミノムシを吹き飛ばすことなく炎が一瞬広がった。
「ど、どうやら貫通徹甲弾が良さそうですねぇ」
前方で待ち伏せする小太、ダインスレイブの主砲二門に貫通徹甲弾の装填操作をした。
「足止め前に邪魔な木々を少しでも除去しておく方がいいでしょう」
ここでエラが動いた。騎乗の北極、狙われないよう軸を大きく外した後、接近しつつ敵の真後ろを取った。
「エラさん、キーリさんの砲撃とは逆サイドをお願いします!」
ここで敵と並走する悠月からの通信。
悠月の反対側はハナが並走しているが、最初の攻撃で詰まった距離からすでに間を取っている。
同時にざくろから通信。
「こっちはざくろに任せて。……着装マテリアルアーマー、魔力フル収束…離されないよう喰らいつくよJ9!」
ざくろのJ9、悠月側に入って並走した。
この分厚い体勢を見てエラ、頷く。
そして攻撃態勢。ハナ側に少し進路を外す。
「分かりました。焼き払え……」
「頑張って走って下さいねぇ。貴方の足頼りにしてますよぅ」
同時にハナは加速し前に逃げた。反対側といい、息の合った連携で見事な入れ替えを見せる。
そしてエラ、マテリアルを集中させ、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射した!
「延炎」
エラの声が響いた時、ハナ側前方の小太。
「これ以上は進ませないのですよぉっ。中身まで纏めて貫きますぅっ!」
ダインスレイブの主砲、仰角ほぼゼロで火を噴いた!
――ゴォゥ……ドシッ、ドシッ!
延炎の火の手が広がり、砲撃が敵を貫いた。
「燃やし尽くせ拡散ヒートレイ!」
反対側ではJ9のざくろが上空から扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射。情け無用だ。
「じゃ、僕たちもいくよ、シグレ!」
その後に悠月がシグレに拍車を掛けた。
だっ、と敵側に加速したシグレ。悠月の振り上げた斬魔刀「祢々切丸」の黒い刀身に波打つような白銀の光が走る。
反対側の火炎と砲撃の衝撃と同時に、ガツッ、と木々にめり込む刃。
敵本体には効果的ではないが、外装は結構はがれた。
(しまった)
それでも悠月、後悔した。
力任せに縦に振り下ろしたが、ミノムシの木々の並びに沿って横の一撃を食らわせばよかったかも、と。
(そうすれば奥の本体に届いたかもしれないけど……)
どうしてそうしなかったのだろう、と思った。
まずは外装を剥がし、と最初に自分が言った言葉もある。
が、狙っても良かったのではという思いもある。
どうして、と自問しつつ敵から距離を置いた時だった。
――びしゃああっ!
「な、中から出たのは体液ですかぁ?」
撃った小太の困惑の声が通信に入ってくる。
「……まさかそんな攻撃もあるとはね」
離れてほっと一息つく悠月だった。本体に刃が届いていたら飛び散る体液を食らうことになっていた。
が、しかし。
――ぶぅん、どがっ!
「わっ!」
後ろの尻尾が粘液を付けて振り回した丸太がヒットした。
「ってそれで攻撃してくるの!?」
それだけではない。粘液も飛んで来た。
「おっ、と……振り回してくる丸太も危ないけど、粘液や糸もちょっと厄介だ」
二撃目となる粘液攻撃をかわした悠月、真顔で言うのはいま粘液が味方の攻撃で吹っ飛んでしまった丸太を再回収して身にまとうのを確認したから。
「食らっても大変だし、かわしても防御アップか……」
どうする、と思案し一旦距離を取った悠月だが、その時!
●
「敵の速度、遅くなってます!」
攻撃後、エラは敵の観察を怠ってなかった。
「ここで仕掛けますよぅ。うふふふふ……」
ミノムシを追い越し先行していたハナ、きききと止まって振り返り符を構える。
「EX縛符「地霊」なんて持ってきたんですぅうふふワイルドカードも使っちゃって強度思いっきり上げて使っちゃいますよぉそれにしても予想進路はずれて焦ったじゃないですかもうこれからでもやっちゃいますよぉ」
怒涛のような言葉とともにハナ、全開!
でもって地縛符、発動。大ミノムシ歪虚が早速そこに突撃し地面がぬかるんだ。
巨体を生かした進軍、ここで停車。
そう。
止まったのである。
「え? ホント」
フラ、自ら進行阻止する役目を担ってスタンバイした位置より少し手前の停止に驚いている。
「この位置ならもしまた走り出しても勢いは付きませんからねー」
「今だっ! ここで倒すよ!」
真の狙いを話すハナ。上空からはこのチャンスを逃さずざくろのJ9が急降下してきている。
ハナの五色光符陣とざくろのヒートレイの光と炎がミノムシに炸裂する。
が、いずれもダメージは外殻のみ。
ミノムシは身の危険を感じて頭を中に入れている!
「外装を剥がすのは徹甲榴弾の方が効果的でしょうかぁ。それなら榴弾、撃ち込みますぅっ」
小太のダインスレイブからの射線が遅れたのは、換装していたから。
すぐに徹甲榴弾、ほぼゼロ仰角で発射。
――ごぼっ……どごぉんんん……。
「はいはい。木の装甲を吹き飛ばせれば良いのね?」
ラムルタフルに撃ち方止めを指示して前線に上がって来たキーリがエクステンドキャストしたメテオスウォームを落とす。遠距離射撃ではない分タイミングもばっちり。
どかーん、と火球3発が爆散し小太の内部爆破攻撃でもろくなった外殻をさらに飛び散らせた。
「小太さん、やった!」
恋人の活躍を喜ぶフラ。
が、ここで信じられない光景が!
●
「気を付けてください。敵が蓑を捨てました!」
上空観察していたエラからの通信。
そう。
大ミノムシ歪虚がそれまで身を覆っていた木々を捨て、白いブヨブヨの巨体を晒して鎌首をもたげるように上体を浮かせていたのである。
キモい!
本当に体表はブヨブヨだ。
もとい。
その、何と高いことか!
「くっ! 木々をまき散らして近寄れないね」
地上部隊の悠月、接近を阻まれた。
いや、それだけではない。
何と、ミノムシは口から何本もの粘液を糸としまき散らし頭部を回したのである。
「くっ……」
エラは北極のバレルロールで回避。
「ちょっと! シグレ!」
「な、なんですかぁこれは」
悠月とシグレ、振り回される木々は警戒にかわしていたが粘液には捕まった。そしてハナとリーリーは木々も食らって粘液も食らった。
「……やっぱりキモいじゃないの」
キーリ、アースウォールでシャットアウトしたのでセーフ。
で、捕まった悠月とハナ、ぐぐぐと引き寄せられる!
「あっ。粘液でつかんだ木々を寄せてまた蓑を作ってるよ!」
フラの言う通り。
そしてシグレとリーリーもこのままではほかの丸太と一緒に蓑の一部にされてしまう!
「頑張れシグレ、終わったら毛づくろいだよ」
悠月、引きずられるシグレから飛び降りつつ祢々切丸一閃!
「僕たちは負けないよ! 大地の歌を、勇気の歌を!」
そのままファセット・ソング。
「足止めを食らったら大変だ、気を付けてJ9……剣よ今一度元の姿に…超重解放斬!」
この音楽に乗り、悠然とターンして来たざくろのJ9がダウンバースト。そのまま魔導剣でリーリーを捉えた粘液をぶった斬る。
そしてこの間にッ!
「わざわざ頭部を狙いやすくしてくれるとは……穿て。散矢」
先の攻撃を回避したエラ。北極を立て直すと射程強化のマジックアローを敵頭部に撃ち込んだ。
「本体を晒したですかぁ? それならどんどんと削っていきますぅっ」
小太は遠慮なく大きく晒された腹部に射撃を集中する。
――どぉん……びっしゃあぁぁ!
着弾とともに飛び散る体液。
さらに敵は苦悶の様子で暴れまわっているので体液も大木も再びまき散らされた。特に丸太はそのままの質量なのでこの場にいる全員に多大なダメージを与えることとなる。
「あっ!」
そしてフラの叫び。
それまで敵はその場にくぎ付けになっていたが、再び猛スピードで前進を始めたのだ。
「スカッシュコート展開!」
フラ、トラックを壁に変形。
同時にどっしぃぃぃん、と激突した。
「何とか止まったわね、フラっち」
アイスボルトを撃ちつつ追走したキーリの言う通り、壁面魔導トラックはやや車体が浮いていたがなんとか敵の侵攻を止めていた。
「よし、射撃のチャンスだね!」
フラが運転席の外に出る。
が、敵がまた頭部を鎌首のように上げたぞ!
「……誰か!」
上空でこの様子を確認していたエラだが、それは飛びすぎる中の背中越し。援護は間に合わない。
「ぼ、僕のフラさんは狙わせませんっ。射撃型の機体ですけど、守るくらいは出来るのですよぉっ」
――どしぃぃ、ん。
フラの上に巨体を落とした敵だが、その隙間に間一髪、ダインスレイブが飛び込んだ。フラの上に四つん這いになり押しつぶされないように踏ん張る。
「うふふふふ……」
この時、ハナが復活。ごごごと復讐に燃えていた。
「それじゃ僕らのオンステージ開幕。ラストスパートだよ、ギアを上げよう!」
流れを変えるべく悠月の熱唱も響く。
そして斬り付け、五色の光。
びっしゃあ、と再び体液が散るが、今度は前とは様子が違う。
量が多すぎるのだッ!
●
それはまるで、体の中の水分をすべて放出するかのようだった。
あたかも、飛び立つ前の蝉が体重を軽くするかのように。
そう。
ミノムシ歪虚は背中を中から割って体液をまき散らせつつ、美しい羽を広げようとしていたのだ。
「いやー凄いわね……キモい色だけど」
アースウォールに隠れつつキーリがこぼす。
茶色い羽で美しさの欠片もない。
「……どこに飛んでも逃がしません」
エラ、敏感に反応。
距離を取って逃がさないよう敵の動きを注視する。
この隙に敵は完全羽化。
ばさっと飛翔……
「シグレ、毛づくろいだよっ!」
飛翔に合わせ悠月も飛んだ。
主人の言葉に力を振り絞ったシグレが跳躍しているッ!
「これで幕切れだっ!」
まるで舞台の幕を斬るように祢々切丸を横薙ぎし、敵のバランスを崩した。
そして上空。急降下してくる影は……
「マテリアル解放、超重剣オーバードライブ…縦一文字斬り!!!」
ざくろだッ!
真上から解放練成した魔剣で再び超重練成した物理の一撃を落とし込むッ!
――ドシッ!
巨大化した魔導剣「カオスウィース」が羽化した巨大歪虚を斬った。
敵、ふらふらと力なく高度を下げる。もう攻撃してくる余力も、飛んでいることさえままならない状況だ。
これにて討……。
「うふふふ……しぶといですねぇ。ちゃんと息の根を止めて上げますからねぇ」
ハナ、追撃。
「ま、止まったと思ったら動き出したりとかしぶとかったわねー」
キーリもお付き合いのアイスボルト。
「……さすがに抜け殻の方がまた動き出すなどはないですね」
エラはしっかりと次の災難への備えを取るべく観察に専念。
その頃には浮かした敵本体も墜落し、ぱさぱさと乾いた身体を風に散らして姿を消そうとしていた。
無事に殲滅。
今度こそ本当に討伐完了である。
●
で、戦い終わって。
「小さいですが、湧き水のある場所がはここから少し離れた地点にあります。そちらに移動しましょう」
戦場から北極に乗って視察飛行していたエラが返って来て報告した。
「そうしてもらえるとありがたいかな。ここじゃ十分シグレに毛づくろいしてやれないから」
悠月の返事。
そのそばにはシグレが身をしなやかに横たえている。主人の約束を待っているのだ。もちろん、ここでは無理だと勘付いているようで、仕方ないとばかりに身を起こしているが。
「はいはーい、次はシグレちゃんにリーリーヒーリングですよぉ」
ハナがリーリーを伴ってナース活動にやって来た。
「そういやそうだね。毛づくろいよりさきに癒してもらうのがいいね」
主人にそういわれ、大人しくまた身を横たえるシグレ。とはいえ、ぱっさぱっさと尻尾を振っている。毛づくろい、待ち遠しいようで。
この時、キーリ。
「これ、どうするの?」
フラの乗って来た移動壁面魔導トラックを見ている。
歪虚の体当たりを受けてボロボロである。
「これはもう動かないんじゃないかな?」
ざくろ、寂しそうに車体に掌を添える。
「ダメ。エンジン掛からないし元通り変形もできないよ」
運転席から出てきたフラがお手上げポーズをする。
「え、ええっと、抱えて帰った方がいいです……かねぇ?」
小太が心配そうにしながら言ったときだった。
「へええ、抱いて帰るの? フラっちを?」
「あ、あのぉ……」
によによ笑いのキーリが小太を肘でつんつん!
「さすがにJ9でも抱えて帰れないんじゃないかな?」
「まあそうだよねっ」
そんな二人をよそにざくろとフラがまともなお話。
でもって、キーリが話す相手を変えた。
「そうそう。スカッシュだっけ? フラっちはやるの?」
「ううん。ボクはまだやったことないんだよ。見ただけ。壁に跳ね返る球の動きも面白いんだよ」
フラとそんな話題で盛り上がる。
「リアルブルーのスポーツだね。ざくろもまだやったことないかなぁ」
ざくろも混ざってわいわい。
「あの、フラさん……」
小太が会話に入りたがっているが、どうもうまくいかない。というより、キーリの意地悪である。
「これからの行動が決まりました。水場がありますのでそこまで移動します」
そこにエラが伝達にやって来た。向こうではすでに悠月がシグレに、ハナがリーリーに乗ってこちらを振り返っている。
「よし。行こう、J9」
「ラムルタフル、移動は苦手なのよね~」
ざくろとキーリも動き出した。
「あ。これはここに放棄でいいって言われてたから……」
フラ、もう動かない魔導トラックを見た。
どうしよう、と小太の方を見る。
「そ、そうですねぇ……」
というわけで、みんなで移動。
空にはエラの北極とざくろのJ9。
大地にはハナのリーリーがリズムよく足を運び、悠月のシグレがしたっしたっと優雅に軽く走る。
その後ろからラムルタフルが悠然と。キーリは掴まって一緒に移動。
さらにその後ろ。
1機のダインスレイブがゆっくりと続いていた。
コクピットの中には、脚を広げて座っている小太がいた。
その前。両脚を広げた間にフラが収まっていた。
「その、小太さん。前、見える?」
「み、見えますよぉ。いまは自動歩行ですから見えなくてもなんとかなりますしぃ」
狭い中、小さな二人がぎゅうぎゅう詰めで収まっている。
「その、シートベルトはいいの?」
「せ、戦闘したり激しい動きをするわけじゃないですからぁ……でも」
小太、目の前に座るフラの両脇から手を回し、前で手を組んでやった。
「こ、こうすれば……」
「……うん」
とかなんとか。
その後、小太さん・ありがと、とか、はわわ・身を預けてきたら当たっちゃいますよぉ、とか、あん・くすぐったい、とか、フラさんの髪・いい匂いですぅ、とか。
とても微笑ましい様子のようだった。
「……全部、通信で丸聞こえですけどね」
エラ、やれやれな感じだったり。
どっぱぁん、と森の中から巨体が飛び出してきた。
それは表面のごちゃごちゃした物体で、倒木の塊の長細い何かという感じだ。
大ミノムシ歪虚である。
そのわき目も振らない前進は暴力的で圧倒的。うかつに前に出ればあっという間に蹂躙されて重体となってしまう勢いだ。
「敵、森から出ました。予想進路を進行中」
続いてエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がワイバーン、北極(ka3142unit008)を駆り森上空から出てきた。隠れるように低空飛行していたが、視界の通る平原に出たので今度は敵の斜め後方にピタリと位置取りしている。
「はいはい。見えたわよー」
エラの通信を受けたキーリ(ka4642)、手のひらをひさしのようにかざし敵確認しつつ、横に立つ刻令ゴーレム「Volcanius」のラムルタフル(ka4642unit002)の巨体にぽふりと手をやる。さっきまでくるくる踊りながら「ただ単に待機するってのも退屈ねー」とか言ってたのは内緒だ。
「あー、確かにミノムシねー。どでかいミノムシが羽化する瞬間なんて見たくないわねー」
「え? 羽化したら綺麗な蝶になるんじゃないの?」
スカッシュ用移動壁面魔導トラックに乗ったフラ・キャンディ(kz0121)からの通信。
「絶対キモいわよ。イモムシってただでさえキモいのに」
「うーん、大きい。……まあ、羽化するのか定かじゃないけど増えられるのも困るし。此処で退治したいね」
断言したキーリに今度は霧雨 悠月(ka4130)からの通信。
「ふ、増えるの?! これ、押し潰されるんじゃないかなぁ」
「た、たとえ話ですよぉ、フラさん。もし増えても僕が何とかしますからぁ」
通信越しにびくっとなったフラに、その近くで待ち伏せする弓月・小太(ka4679)が男らしさを見せる。
「確かに、一匹見たらウジャウジャいると思えっていいますしねぇ~」
うふふ、と星野 ハナ(ka5852)からの通信。リーリー(ka5852unit006)に騎乗しテンションを上げて準備している。
「えええ~っ! ウジャウジャ~?!」
「森の中にそのような気配はありませんでした。フラ様は恋人様の言葉だけを信じるとよいでしょう」
慌てるフラにエラの冷静な指摘。面白くありませんねぇ、とかからかったハナの声も聞こえたり。フラの怯えっぷりに一定の満足をしてそうな響きがある。
「まずは周囲の防御を剥ぐのが優先でしょうかぁ? 貫通弾なら中までダメージがいくといいのですけどぉ」
話を変えるべく小太がダインスレイブ(ka4679unit003)に可変機銃「ポレモスSGS」を構えさせつつ準備する。
「そうだね。まずは外装を剥がしていかないと」
悠月も待機しつつ敵の動きを注視している。
そこへ新たに森上空から出てくる影が!
「ほかに敵はいなかったよ! 蒼海熱風『J9』、およびとあらば即・参上!」
時音 ざくろ(ka1250)である。
グリフォン、蒼海熱風『J9』(ka1250unit005)に乗って爆走する敵の大型ミノムシ歪虚の横に付けた。
「集まったわね。じゃ、作戦開始するわよ~」
キーリの合図で、ラムルタフルの砲撃が始まった。
「……総論として、キモいということになるのでしょうかね。誰からも否定の言葉がありませんでした」
最後にエラがぽそっとそんなことをこぼす。
●
――ドォンン……ヒュルル……ドゴォォォン!
ラムルタフルの炸裂弾が大ミノムシ歪虚の背中に命中した。周囲へまき散らした霰玉で纏っている大木に大きなダメージを加えた。木っ端が派手に散る。
が、ここで信じられない光景が。
「あら。イモムシご~ろごろ?」
着弾確認したキーリの言う通り、敵は炸裂の勢いに逆らわずゴロンと転がりまた走っている。
「ミノムシだけどね……表面は削ったけど穴は開いてないかな」
突っ込みを入れる悠月、並走しつつこの行動がダメージのあった装甲を地面に押し付けることでの再付着も狙った動きもあると確認。
「あらら、侵攻ルートも変わっちゃいましたかねぇ」
「了解だよ、ハナさん」
ハナ、リーリーに騎乗しキーリの砲撃の反対側を並走していたので侵攻ルートのズレの大きさが分かりやすい。通信を受けたフラ、待機場所を微調整する。
「派手に爆裂するのはダメね。ラムルタフル、着弾修正。火炎弾に換装して連続装填。その後はその場に待機よ」
キーリ、敵の防御の粗削り作業を指示しておいてユニットを離れた。前線へと急ぐ。
その頭上を火炎弾が飛ぶ。放物線を描いて着弾すると、今度はミノムシを吹き飛ばすことなく炎が一瞬広がった。
「ど、どうやら貫通徹甲弾が良さそうですねぇ」
前方で待ち伏せする小太、ダインスレイブの主砲二門に貫通徹甲弾の装填操作をした。
「足止め前に邪魔な木々を少しでも除去しておく方がいいでしょう」
ここでエラが動いた。騎乗の北極、狙われないよう軸を大きく外した後、接近しつつ敵の真後ろを取った。
「エラさん、キーリさんの砲撃とは逆サイドをお願いします!」
ここで敵と並走する悠月からの通信。
悠月の反対側はハナが並走しているが、最初の攻撃で詰まった距離からすでに間を取っている。
同時にざくろから通信。
「こっちはざくろに任せて。……着装マテリアルアーマー、魔力フル収束…離されないよう喰らいつくよJ9!」
ざくろのJ9、悠月側に入って並走した。
この分厚い体勢を見てエラ、頷く。
そして攻撃態勢。ハナ側に少し進路を外す。
「分かりました。焼き払え……」
「頑張って走って下さいねぇ。貴方の足頼りにしてますよぅ」
同時にハナは加速し前に逃げた。反対側といい、息の合った連携で見事な入れ替えを見せる。
そしてエラ、マテリアルを集中させ、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射した!
「延炎」
エラの声が響いた時、ハナ側前方の小太。
「これ以上は進ませないのですよぉっ。中身まで纏めて貫きますぅっ!」
ダインスレイブの主砲、仰角ほぼゼロで火を噴いた!
――ゴォゥ……ドシッ、ドシッ!
延炎の火の手が広がり、砲撃が敵を貫いた。
「燃やし尽くせ拡散ヒートレイ!」
反対側ではJ9のざくろが上空から扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射。情け無用だ。
「じゃ、僕たちもいくよ、シグレ!」
その後に悠月がシグレに拍車を掛けた。
だっ、と敵側に加速したシグレ。悠月の振り上げた斬魔刀「祢々切丸」の黒い刀身に波打つような白銀の光が走る。
反対側の火炎と砲撃の衝撃と同時に、ガツッ、と木々にめり込む刃。
敵本体には効果的ではないが、外装は結構はがれた。
(しまった)
それでも悠月、後悔した。
力任せに縦に振り下ろしたが、ミノムシの木々の並びに沿って横の一撃を食らわせばよかったかも、と。
(そうすれば奥の本体に届いたかもしれないけど……)
どうしてそうしなかったのだろう、と思った。
まずは外装を剥がし、と最初に自分が言った言葉もある。
が、狙っても良かったのではという思いもある。
どうして、と自問しつつ敵から距離を置いた時だった。
――びしゃああっ!
「な、中から出たのは体液ですかぁ?」
撃った小太の困惑の声が通信に入ってくる。
「……まさかそんな攻撃もあるとはね」
離れてほっと一息つく悠月だった。本体に刃が届いていたら飛び散る体液を食らうことになっていた。
が、しかし。
――ぶぅん、どがっ!
「わっ!」
後ろの尻尾が粘液を付けて振り回した丸太がヒットした。
「ってそれで攻撃してくるの!?」
それだけではない。粘液も飛んで来た。
「おっ、と……振り回してくる丸太も危ないけど、粘液や糸もちょっと厄介だ」
二撃目となる粘液攻撃をかわした悠月、真顔で言うのはいま粘液が味方の攻撃で吹っ飛んでしまった丸太を再回収して身にまとうのを確認したから。
「食らっても大変だし、かわしても防御アップか……」
どうする、と思案し一旦距離を取った悠月だが、その時!
●
「敵の速度、遅くなってます!」
攻撃後、エラは敵の観察を怠ってなかった。
「ここで仕掛けますよぅ。うふふふふ……」
ミノムシを追い越し先行していたハナ、きききと止まって振り返り符を構える。
「EX縛符「地霊」なんて持ってきたんですぅうふふワイルドカードも使っちゃって強度思いっきり上げて使っちゃいますよぉそれにしても予想進路はずれて焦ったじゃないですかもうこれからでもやっちゃいますよぉ」
怒涛のような言葉とともにハナ、全開!
でもって地縛符、発動。大ミノムシ歪虚が早速そこに突撃し地面がぬかるんだ。
巨体を生かした進軍、ここで停車。
そう。
止まったのである。
「え? ホント」
フラ、自ら進行阻止する役目を担ってスタンバイした位置より少し手前の停止に驚いている。
「この位置ならもしまた走り出しても勢いは付きませんからねー」
「今だっ! ここで倒すよ!」
真の狙いを話すハナ。上空からはこのチャンスを逃さずざくろのJ9が急降下してきている。
ハナの五色光符陣とざくろのヒートレイの光と炎がミノムシに炸裂する。
が、いずれもダメージは外殻のみ。
ミノムシは身の危険を感じて頭を中に入れている!
「外装を剥がすのは徹甲榴弾の方が効果的でしょうかぁ。それなら榴弾、撃ち込みますぅっ」
小太のダインスレイブからの射線が遅れたのは、換装していたから。
すぐに徹甲榴弾、ほぼゼロ仰角で発射。
――ごぼっ……どごぉんんん……。
「はいはい。木の装甲を吹き飛ばせれば良いのね?」
ラムルタフルに撃ち方止めを指示して前線に上がって来たキーリがエクステンドキャストしたメテオスウォームを落とす。遠距離射撃ではない分タイミングもばっちり。
どかーん、と火球3発が爆散し小太の内部爆破攻撃でもろくなった外殻をさらに飛び散らせた。
「小太さん、やった!」
恋人の活躍を喜ぶフラ。
が、ここで信じられない光景が!
●
「気を付けてください。敵が蓑を捨てました!」
上空観察していたエラからの通信。
そう。
大ミノムシ歪虚がそれまで身を覆っていた木々を捨て、白いブヨブヨの巨体を晒して鎌首をもたげるように上体を浮かせていたのである。
キモい!
本当に体表はブヨブヨだ。
もとい。
その、何と高いことか!
「くっ! 木々をまき散らして近寄れないね」
地上部隊の悠月、接近を阻まれた。
いや、それだけではない。
何と、ミノムシは口から何本もの粘液を糸としまき散らし頭部を回したのである。
「くっ……」
エラは北極のバレルロールで回避。
「ちょっと! シグレ!」
「な、なんですかぁこれは」
悠月とシグレ、振り回される木々は警戒にかわしていたが粘液には捕まった。そしてハナとリーリーは木々も食らって粘液も食らった。
「……やっぱりキモいじゃないの」
キーリ、アースウォールでシャットアウトしたのでセーフ。
で、捕まった悠月とハナ、ぐぐぐと引き寄せられる!
「あっ。粘液でつかんだ木々を寄せてまた蓑を作ってるよ!」
フラの言う通り。
そしてシグレとリーリーもこのままではほかの丸太と一緒に蓑の一部にされてしまう!
「頑張れシグレ、終わったら毛づくろいだよ」
悠月、引きずられるシグレから飛び降りつつ祢々切丸一閃!
「僕たちは負けないよ! 大地の歌を、勇気の歌を!」
そのままファセット・ソング。
「足止めを食らったら大変だ、気を付けてJ9……剣よ今一度元の姿に…超重解放斬!」
この音楽に乗り、悠然とターンして来たざくろのJ9がダウンバースト。そのまま魔導剣でリーリーを捉えた粘液をぶった斬る。
そしてこの間にッ!
「わざわざ頭部を狙いやすくしてくれるとは……穿て。散矢」
先の攻撃を回避したエラ。北極を立て直すと射程強化のマジックアローを敵頭部に撃ち込んだ。
「本体を晒したですかぁ? それならどんどんと削っていきますぅっ」
小太は遠慮なく大きく晒された腹部に射撃を集中する。
――どぉん……びっしゃあぁぁ!
着弾とともに飛び散る体液。
さらに敵は苦悶の様子で暴れまわっているので体液も大木も再びまき散らされた。特に丸太はそのままの質量なのでこの場にいる全員に多大なダメージを与えることとなる。
「あっ!」
そしてフラの叫び。
それまで敵はその場にくぎ付けになっていたが、再び猛スピードで前進を始めたのだ。
「スカッシュコート展開!」
フラ、トラックを壁に変形。
同時にどっしぃぃぃん、と激突した。
「何とか止まったわね、フラっち」
アイスボルトを撃ちつつ追走したキーリの言う通り、壁面魔導トラックはやや車体が浮いていたがなんとか敵の侵攻を止めていた。
「よし、射撃のチャンスだね!」
フラが運転席の外に出る。
が、敵がまた頭部を鎌首のように上げたぞ!
「……誰か!」
上空でこの様子を確認していたエラだが、それは飛びすぎる中の背中越し。援護は間に合わない。
「ぼ、僕のフラさんは狙わせませんっ。射撃型の機体ですけど、守るくらいは出来るのですよぉっ」
――どしぃぃ、ん。
フラの上に巨体を落とした敵だが、その隙間に間一髪、ダインスレイブが飛び込んだ。フラの上に四つん這いになり押しつぶされないように踏ん張る。
「うふふふふ……」
この時、ハナが復活。ごごごと復讐に燃えていた。
「それじゃ僕らのオンステージ開幕。ラストスパートだよ、ギアを上げよう!」
流れを変えるべく悠月の熱唱も響く。
そして斬り付け、五色の光。
びっしゃあ、と再び体液が散るが、今度は前とは様子が違う。
量が多すぎるのだッ!
●
それはまるで、体の中の水分をすべて放出するかのようだった。
あたかも、飛び立つ前の蝉が体重を軽くするかのように。
そう。
ミノムシ歪虚は背中を中から割って体液をまき散らせつつ、美しい羽を広げようとしていたのだ。
「いやー凄いわね……キモい色だけど」
アースウォールに隠れつつキーリがこぼす。
茶色い羽で美しさの欠片もない。
「……どこに飛んでも逃がしません」
エラ、敏感に反応。
距離を取って逃がさないよう敵の動きを注視する。
この隙に敵は完全羽化。
ばさっと飛翔……
「シグレ、毛づくろいだよっ!」
飛翔に合わせ悠月も飛んだ。
主人の言葉に力を振り絞ったシグレが跳躍しているッ!
「これで幕切れだっ!」
まるで舞台の幕を斬るように祢々切丸を横薙ぎし、敵のバランスを崩した。
そして上空。急降下してくる影は……
「マテリアル解放、超重剣オーバードライブ…縦一文字斬り!!!」
ざくろだッ!
真上から解放練成した魔剣で再び超重練成した物理の一撃を落とし込むッ!
――ドシッ!
巨大化した魔導剣「カオスウィース」が羽化した巨大歪虚を斬った。
敵、ふらふらと力なく高度を下げる。もう攻撃してくる余力も、飛んでいることさえままならない状況だ。
これにて討……。
「うふふふ……しぶといですねぇ。ちゃんと息の根を止めて上げますからねぇ」
ハナ、追撃。
「ま、止まったと思ったら動き出したりとかしぶとかったわねー」
キーリもお付き合いのアイスボルト。
「……さすがに抜け殻の方がまた動き出すなどはないですね」
エラはしっかりと次の災難への備えを取るべく観察に専念。
その頃には浮かした敵本体も墜落し、ぱさぱさと乾いた身体を風に散らして姿を消そうとしていた。
無事に殲滅。
今度こそ本当に討伐完了である。
●
で、戦い終わって。
「小さいですが、湧き水のある場所がはここから少し離れた地点にあります。そちらに移動しましょう」
戦場から北極に乗って視察飛行していたエラが返って来て報告した。
「そうしてもらえるとありがたいかな。ここじゃ十分シグレに毛づくろいしてやれないから」
悠月の返事。
そのそばにはシグレが身をしなやかに横たえている。主人の約束を待っているのだ。もちろん、ここでは無理だと勘付いているようで、仕方ないとばかりに身を起こしているが。
「はいはーい、次はシグレちゃんにリーリーヒーリングですよぉ」
ハナがリーリーを伴ってナース活動にやって来た。
「そういやそうだね。毛づくろいよりさきに癒してもらうのがいいね」
主人にそういわれ、大人しくまた身を横たえるシグレ。とはいえ、ぱっさぱっさと尻尾を振っている。毛づくろい、待ち遠しいようで。
この時、キーリ。
「これ、どうするの?」
フラの乗って来た移動壁面魔導トラックを見ている。
歪虚の体当たりを受けてボロボロである。
「これはもう動かないんじゃないかな?」
ざくろ、寂しそうに車体に掌を添える。
「ダメ。エンジン掛からないし元通り変形もできないよ」
運転席から出てきたフラがお手上げポーズをする。
「え、ええっと、抱えて帰った方がいいです……かねぇ?」
小太が心配そうにしながら言ったときだった。
「へええ、抱いて帰るの? フラっちを?」
「あ、あのぉ……」
によによ笑いのキーリが小太を肘でつんつん!
「さすがにJ9でも抱えて帰れないんじゃないかな?」
「まあそうだよねっ」
そんな二人をよそにざくろとフラがまともなお話。
でもって、キーリが話す相手を変えた。
「そうそう。スカッシュだっけ? フラっちはやるの?」
「ううん。ボクはまだやったことないんだよ。見ただけ。壁に跳ね返る球の動きも面白いんだよ」
フラとそんな話題で盛り上がる。
「リアルブルーのスポーツだね。ざくろもまだやったことないかなぁ」
ざくろも混ざってわいわい。
「あの、フラさん……」
小太が会話に入りたがっているが、どうもうまくいかない。というより、キーリの意地悪である。
「これからの行動が決まりました。水場がありますのでそこまで移動します」
そこにエラが伝達にやって来た。向こうではすでに悠月がシグレに、ハナがリーリーに乗ってこちらを振り返っている。
「よし。行こう、J9」
「ラムルタフル、移動は苦手なのよね~」
ざくろとキーリも動き出した。
「あ。これはここに放棄でいいって言われてたから……」
フラ、もう動かない魔導トラックを見た。
どうしよう、と小太の方を見る。
「そ、そうですねぇ……」
というわけで、みんなで移動。
空にはエラの北極とざくろのJ9。
大地にはハナのリーリーがリズムよく足を運び、悠月のシグレがしたっしたっと優雅に軽く走る。
その後ろからラムルタフルが悠然と。キーリは掴まって一緒に移動。
さらにその後ろ。
1機のダインスレイブがゆっくりと続いていた。
コクピットの中には、脚を広げて座っている小太がいた。
その前。両脚を広げた間にフラが収まっていた。
「その、小太さん。前、見える?」
「み、見えますよぉ。いまは自動歩行ですから見えなくてもなんとかなりますしぃ」
狭い中、小さな二人がぎゅうぎゅう詰めで収まっている。
「その、シートベルトはいいの?」
「せ、戦闘したり激しい動きをするわけじゃないですからぁ……でも」
小太、目の前に座るフラの両脇から手を回し、前で手を組んでやった。
「こ、こうすれば……」
「……うん」
とかなんとか。
その後、小太さん・ありがと、とか、はわわ・身を預けてきたら当たっちゃいますよぉ、とか、あん・くすぐったい、とか、フラさんの髪・いい匂いですぅ、とか。
とても微笑ましい様子のようだった。
「……全部、通信で丸聞こえですけどね」
エラ、やれやれな感じだったり。
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最終発言 2019/01/17 14:17:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/14 15:14:08 |