ゲスト
(ka0000)
【王戦】大地に立つ
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 2日
- 締切
- 2019/01/14 22:00
- 完成日
- 2019/01/18 19:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●連絡会
ディスプレイに2つの写真が表示されている。
左側は某国警察から提供された犯罪者のもの。
若い頃から悪質な犯罪を繰り返しており、刑務所に入ったままリアルブルー凍結に巻き込まれた男だ。
右側は先日グラズヘイム王国で捕縛された人型歪虚。
堕落者であるか契約者であるかは不明だが、人間ではなく歪虚に分類される人外だ。
「虫歯の治療跡まで一致しました」
発言者は緊張しきっている。
各国各組織の重鎮が集まる連絡会なので、ただのオフィス職員には正直きつい。
「ご苦労」
「転移か複製か」
「いずれにせよ王級以上の歪虚の関与は確実だ」
「ご……尋問は?」
多数の視線がカソック姿の女性へ集中した。
人好きのする穏やかな顔なのに目だけは怖い。
「ハンターが聞き出したこと以外は何も」
イヴと呼称される歪虚を強烈に信奉している。
いつの間にかクリムゾンウェストにいて、流されるままに欲を満たしていただけ。
人格を壊す勢いで聞き取っても分かったのはその程度だ。
「足りない情報から推測できますな」
「時間稼ぎか」
「技術も根性も無い木っ葉でもあの程度のテロができる」
「最終的には価値観を書き換えられた職業軍人か?」
「それで済めば楽ですな。最悪は」
言いかけて首を振る。
「王国に警戒を呼びかけましょう」
「地球人の顔写真は今日中に提供できます。全てではありませんが」
「助かります」
リアルブルー凍結以前であれば絶対に他国に公開されないデータが1つにまとめられてクリムゾンウェスト人の手に渡される。
「次の議題へ移りましょう」
「王国新型機体の割り当てについてですが……」
人類の置かれた状況はあまりに厳しく、1つ1つの脅威に向けることが可能な力は限られていた。
●黒い竜
全高8メートルの巨人達が、群れではなく部隊としての動きで瞬く間に風景に溶け込んだ。
小高い丘から見下ろしていたワイバーンが、困惑した雰囲気で首を傾げる。
「どうした」
下から声が響く。
覇気と精気に満ち満ちた声なのだが、声の主は泥にまみれて何かを創っている。
「ナゼ」
「奴等では大したことはできねェよ」
ワイバーンは数度瞬いてから主をじっとみつめる。
「強くなるのに熱心だな」
黒竜はCAMを1体こね終わり、楽しげに笑って身を起こす。
元人間が置いていったエクラの印を一瞥して、気配の濃い古ぼけたもの1つだけを己の口に放り込んだ。
「奴等の強さは群れの一員としての強さだ」
「今モ群」
「本来の群れじゃねェだろ? 本来の群れにいるときならなヤりたかったがなァ」
薄い気配の印を竜爪で磨り潰す。
追い出された正マテリアルが歪虚CAMに吸い込まれ、負の属性を持つ魔導エンジンが起動する。
「お前も適当に食っておけ。ハンターが動き出したら飯を食う暇もねェぞ」
災厄の竜が、人の街を眺めて楽しげに笑った。
●新型機体工場
「見学者の皆さんは白線を超えないでくださ~い」
聖堂戦士が一生懸命ガイド役を頑張っている
案内と書かれた腕章が真新しい。
「超えないでくださいって……」
「こんな所まで入っていいの? 新型機でしょ? 機密でしょ?」
あなたと一緒に来たハンターが、混乱しながらガイドにたずねている。
「ハンターの皆さん向けに生産中の機体ですので許可が出ているんです。詳しくは、えーっと」
自作のメモを見ているがよく分かっていない。
王国初の搭乗機体ということになっているが各国各世界の技術を結集した品でもあるので、よくも悪くも保守的な王国人ではだいたいの場合理解しきれない。
「ファンタジーロボアニメに登場しそう」
「のりうつって操縦するの? 憑依中は体はコクピットに? マジかよ」
ロボ好きには大好評だ。
「ワシみたいなジジィにはキツいわ。ワシは今まで通りR7かのー」
腰の曲がった老人が目を細くした。
自然な動きで歩いてくる青年が気になる。
数週間と短くはあるが濃密なハンター活動で培った経験が警告を発している。
それに見覚えもある。
地球にいた頃、老人がまだただの老人だった頃、テレビで見た顔だ。
確か災害救助の場面で、映っていた部隊は地球凍結の瞬間まで任務を果たしていた、はずだ。
「ちょっと待ってくれんかの」
老人が青年を遮る。
すると、青年が外套の下からソードオフ・ショットガンを取り出し躊躇無く引き金を引いた。
「用心はしとくもんじゃなっ」
悲劇は起こらなかった。
覚醒状態に移行していたため、常人なら数人まとめて殺せる散弾は老人のシックスパックで完全防御された。
「敵襲じゃぁっ!」
青年が複数のハンターに取り抑えられる。
工場内に警報が鳴り響き隔壁が急降下。
直後に外部から30ミリの銃撃が始まる。
鉄が鉄を穿つ音が強過ぎるだ。
銃撃は明らかに強化されて、連合宙軍のノーマルデュミナス相手に数分耐えるはずの隔壁があっという間に凸凹になる。
「新型機が」
新型機の搭乗口が、誰も操作していないのに静かに開いた。
騎士を思わせる形の機体が、私を使えとあなたに語りかけてくるようだ。
あなたは生身のまま防衛戦に参加してもいいし、新型機と共に戦場に踏み出してもいい。
ディスプレイに2つの写真が表示されている。
左側は某国警察から提供された犯罪者のもの。
若い頃から悪質な犯罪を繰り返しており、刑務所に入ったままリアルブルー凍結に巻き込まれた男だ。
右側は先日グラズヘイム王国で捕縛された人型歪虚。
堕落者であるか契約者であるかは不明だが、人間ではなく歪虚に分類される人外だ。
「虫歯の治療跡まで一致しました」
発言者は緊張しきっている。
各国各組織の重鎮が集まる連絡会なので、ただのオフィス職員には正直きつい。
「ご苦労」
「転移か複製か」
「いずれにせよ王級以上の歪虚の関与は確実だ」
「ご……尋問は?」
多数の視線がカソック姿の女性へ集中した。
人好きのする穏やかな顔なのに目だけは怖い。
「ハンターが聞き出したこと以外は何も」
イヴと呼称される歪虚を強烈に信奉している。
いつの間にかクリムゾンウェストにいて、流されるままに欲を満たしていただけ。
人格を壊す勢いで聞き取っても分かったのはその程度だ。
「足りない情報から推測できますな」
「時間稼ぎか」
「技術も根性も無い木っ葉でもあの程度のテロができる」
「最終的には価値観を書き換えられた職業軍人か?」
「それで済めば楽ですな。最悪は」
言いかけて首を振る。
「王国に警戒を呼びかけましょう」
「地球人の顔写真は今日中に提供できます。全てではありませんが」
「助かります」
リアルブルー凍結以前であれば絶対に他国に公開されないデータが1つにまとめられてクリムゾンウェスト人の手に渡される。
「次の議題へ移りましょう」
「王国新型機体の割り当てについてですが……」
人類の置かれた状況はあまりに厳しく、1つ1つの脅威に向けることが可能な力は限られていた。
●黒い竜
全高8メートルの巨人達が、群れではなく部隊としての動きで瞬く間に風景に溶け込んだ。
小高い丘から見下ろしていたワイバーンが、困惑した雰囲気で首を傾げる。
「どうした」
下から声が響く。
覇気と精気に満ち満ちた声なのだが、声の主は泥にまみれて何かを創っている。
「ナゼ」
「奴等では大したことはできねェよ」
ワイバーンは数度瞬いてから主をじっとみつめる。
「強くなるのに熱心だな」
黒竜はCAMを1体こね終わり、楽しげに笑って身を起こす。
元人間が置いていったエクラの印を一瞥して、気配の濃い古ぼけたもの1つだけを己の口に放り込んだ。
「奴等の強さは群れの一員としての強さだ」
「今モ群」
「本来の群れじゃねェだろ? 本来の群れにいるときならなヤりたかったがなァ」
薄い気配の印を竜爪で磨り潰す。
追い出された正マテリアルが歪虚CAMに吸い込まれ、負の属性を持つ魔導エンジンが起動する。
「お前も適当に食っておけ。ハンターが動き出したら飯を食う暇もねェぞ」
災厄の竜が、人の街を眺めて楽しげに笑った。
●新型機体工場
「見学者の皆さんは白線を超えないでくださ~い」
聖堂戦士が一生懸命ガイド役を頑張っている
案内と書かれた腕章が真新しい。
「超えないでくださいって……」
「こんな所まで入っていいの? 新型機でしょ? 機密でしょ?」
あなたと一緒に来たハンターが、混乱しながらガイドにたずねている。
「ハンターの皆さん向けに生産中の機体ですので許可が出ているんです。詳しくは、えーっと」
自作のメモを見ているがよく分かっていない。
王国初の搭乗機体ということになっているが各国各世界の技術を結集した品でもあるので、よくも悪くも保守的な王国人ではだいたいの場合理解しきれない。
「ファンタジーロボアニメに登場しそう」
「のりうつって操縦するの? 憑依中は体はコクピットに? マジかよ」
ロボ好きには大好評だ。
「ワシみたいなジジィにはキツいわ。ワシは今まで通りR7かのー」
腰の曲がった老人が目を細くした。
自然な動きで歩いてくる青年が気になる。
数週間と短くはあるが濃密なハンター活動で培った経験が警告を発している。
それに見覚えもある。
地球にいた頃、老人がまだただの老人だった頃、テレビで見た顔だ。
確か災害救助の場面で、映っていた部隊は地球凍結の瞬間まで任務を果たしていた、はずだ。
「ちょっと待ってくれんかの」
老人が青年を遮る。
すると、青年が外套の下からソードオフ・ショットガンを取り出し躊躇無く引き金を引いた。
「用心はしとくもんじゃなっ」
悲劇は起こらなかった。
覚醒状態に移行していたため、常人なら数人まとめて殺せる散弾は老人のシックスパックで完全防御された。
「敵襲じゃぁっ!」
青年が複数のハンターに取り抑えられる。
工場内に警報が鳴り響き隔壁が急降下。
直後に外部から30ミリの銃撃が始まる。
鉄が鉄を穿つ音が強過ぎるだ。
銃撃は明らかに強化されて、連合宙軍のノーマルデュミナス相手に数分耐えるはずの隔壁があっという間に凸凹になる。
「新型機が」
新型機の搭乗口が、誰も操作していないのに静かに開いた。
騎士を思わせる形の機体が、私を使えとあなたに語りかけてくるようだ。
あなたは生身のまま防衛戦に参加してもいいし、新型機と共に戦場に踏み出してもいい。
リプレイ本文
●光の騎士
オレンジの爆炎がコンクリを砕いた。
支えを失った隔壁がゆっくりと崩れていく。
「やれ」
30mm砲15門と携帯火器20による制圧射撃。
足音すらたてずに突入する野戦服の軍人達。
悪い意味でも伝統的な王国軍では、高位の覚醒者がいたとしても対抗不能な攻撃だった。
コンクリの粉塵舞う中空に火花が生じる。
鉄と鉄が打ち合わされ潰れあう音が他の音を圧倒する。
そこに新たな轟音と閃光が加わり、非戦闘員だけでなく非番のハンターまで混乱状態に陥った。
一部ハンターはなんとか持ち堪えているが数が少ない。
軍人が速度を緩め手榴弾を投擲した。
「フラッシュバン!?」
工場の職員が気付くが職員には打つ手が無い。
対物の爆発物が緩やかに回転する。
そのまま、新型機の開いたままのハッチに入り込むかと思われた。
慣性も引力も無視して手榴弾の進路が歪む。
6つの高性能爆薬が、白と金の美女に引き寄せられ同時に爆発した。
民間人が絶句する。
悲鳴を漏らす者、奥歯を砕くほどに噛みしめる者、気絶した者も当然いる。
風が吹く。
粉塵の濃度が下がる。
現れたのは肉と骨の残骸ではなく、長大な魔剣を手に凜々しく立つヴァルナ=エリゴス(ka2651)だった。
白い肌を赤い血が伝う。
レガースは踝まで床に埋まり、蜘蛛の巣状のひび割れが2つ床に刻まれている。
だがそんなものは人の記憶には残らない。
後光を思わせる金の輝きが、魂の奥深くに刻み込まれた。
「素晴らしい練度です」
魔剣の間近で渦巻く力は、ヴァルナを襲った爆圧とほぼ同じ威力だ。
「故に手加減はしません」
魔剣を振り抜く。
剣術基準では定石外れの動きだ。
軍人の中の剣を嗜む者は、無意味な動きと断じてヴァルナを無視し新型機へ走る。
その判断は致命的な誤断であった。
渦巻く力が6つに分かれて逆流する。
無色で無音のそれに気付いた軍人もいるが、呪詛や魔術の領域の存在を有効に迎え撃つ手段は持っていない。
多少強化されているとはいえ人間の体格では耐えることはできず、四肢や胴の一部を失い完全に戦闘能力を失った。
ヴァルナの口から鮮血が零れた。
身体欠損無しで耐えたとはいえ体の損傷は深刻だ。
軍人はまだ10人以上いるのに、切っ先が床に埋まった魔剣を動かす力も残っていない。
「頑張るの、R8ネオちゃん!」
「それ非公式開発コードですからっ! CAMじゃないことになってますからー!」
緊張感の無い声が2つ響いた。
濃い緑の光が弾けてヴァルナを照らす。
本来なら死ぬまでの短い時間彼女を苦しめるはず傷が、時間が巻き戻されるようにして消し去られ健在な肉体が復活する。
「棍と法術装備がないの~」
隔壁が消えた入り口から差し込む光がCAM並の巨体を照らす。
それは待機状態の機体とは別物だ。
白銀の装甲は生命力を感じさせ、緩く握られた巨大な剣が神々しい光を帯びている。
「守護者用の装備なんて用意できませんンッ!」
顔見知りの研究員の声を右から左に聞き流しながら、ディーナ・フェルミ(ka5843)は形の良い鼻から可愛らしい息を吐いた。
「そこの人達、理由は聞かないのっ」
見た目も言動も柔らかくても歴戦の聖導士だ。
何が脅威であるか瞬時に判断し、剣を斜め下に向け床すれすれに旋回させる。
その動きが何を意味しているか予備動作から読み取れる程度にはヴァルナも歴戦だ。
ヴァルナが横へ飛んだ直後、十分な加速を得た剣先が何度も何度も軍人を襲い大量の血飛沫があがる。
ディーナの眉が危険な角度を描く。
殺人の手応えに苛まれているからではない。
「これって」
歪虚だ。
この手応えは歪虚しかあり得ない。
勘ではあるが、外れ確率は太陽が逆から昇る確率と同程度だ。
工場の外に10程度の砲火が生じる。
30mm弾が未だ無防備な非搭乗機に向かい飛翔する。
「ここは私達に任せるの!」
自分の体を使う感覚で機体を操作する。
青いマントが優雅に翻る。小型で分厚い盾が残像を伴う速度で振るわれる。
30mm弾全てが受け止められて、重く厚い弾丸が地面にめり込み不気味な音をたてた。
「戦士団は一般人と自分達の避難を急ぐの!」
大声で呼びかけながら前へ出る。
隔壁を乗り越えた瞬間陽光で目が眩みそうになるが、光量が自動で調節された。
「リザレクションが使えないのは残念だけど」
翠のオーラが機体を包む。
装甲は無事とはいえ被弾時の衝撃で痛んだ関節部が、ヴァルナの体と同じように癒えさらにディーナの操縦に適した形に変化する。
機体に内包された膨大なマテリアルとベリアル金属の性質によるものだ。
「桜花爛漫と」
白に近い緑光が刀身周辺に出現。
「縦横無尽なら使えるのっ」
後方を守るため回避は捨てて盾で30mm弾を防ぎつつ、一切の容赦のない斬撃を周囲の軍人へ向ける。
攻撃に専念できないため狙いは甘いが問題は無い。
脆い軍人は新型機を迂回するしかなく、迂回するため時間がかかり味方が防戦準備するため時間が生じる。
「多少時間はかかっても落ちないの、アルトさんもいるし隔壁の外は任せるの」
頼りになる味方がいるのだ。
ディーナは激戦の中で勝利を確信していた。
●小精霊といっしょ
ハッチを開いた新型機3つ、押し合いへし合いしながらアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)ににじりよる。
それは物理的には錯覚だが霊的には事実である。
「新型機とやらか。普通のCAMにすら乗ったことがない身ではパフォーマンスを発揮することは無理だろう」
アルトが背を向けると愕然とした気配が3つ……いや3集団。
新型機に宿る精霊達である。
「ついてきても構わない」
3集団がルクシュヴァリエから離脱する直前に動きが鈍る。
内輪もめを思わせる気配が数秒続いてから、小さな気配が3つ分かれて残りは機体の中へ戻る。
「小精霊だけではないな」
3つのうち不自然なほど大きな気配が2つ、びくりと震えてアルトの背中に回り込んだ。
「さて」
意識を切り替える。
そろそろ隔壁が外側から破壊されそうだ。
他の面々と共に守りに回れば完璧に防ぐことはできるだろうが、一方を守るだけで完封できる相手とは思えない。
「振り落とされるなよ」
必要最小限のマテリアルを足に回して床を蹴る。
恐るべき質と技術は凄まじい加速を生み出し、倒れていく隔壁以上の速度で外との境界線を踏み越える。
中小精霊3柱は長い赤髪にしがみつくのが精一杯で、アルトに助力するどころかただ守られているだけだ。
「CAM15機を確認」
騎士刀を覆う炎のオーラが激しく燃え上がりながら無色に変じる。
巨大な熱量は物理的であると同時に霊的で、精霊3柱も発火直前だ。
「人型11、10」
異様に静かな銃声が連続する。
向きは斜め前から3発、左右から2発、ほぼ真後ろから4つ。
当たればアルトですら無傷で済まない威力の大口径弾だ。
「まさか」
これだけならアルトの予想の範囲内だ。
実際、鋭角に横から前へ進むだけで全てを躱してみせた。
問題は30mmアサルトライフルと大型盾を装備した歪虚CAM15機だ。
まるでアルトの戦法が分かっているかのように、一度では全滅しない陣形に2秒で移行していた。
「軍か」
至近のCAMシールドに跳び乗りベクトルを水平に変更する。
誤射覚悟の精密射撃を前傾するだけで躱し、糸よりも細いデュミナス型の急所へ華焔を差し入れる。
ただ刺すだけではない。
高速走行と回避をしながら連続攻撃だ。
1機につき3刺し。
それで3機の歪虚CAMが形を保ったまま残骸と化す。
6機は殺しきるつもりだったのに戦果は半分だ。
残る12機からは微かな怯えとそれ以上の使命感、それらを制御しきる心胆を感じる。
攻撃に移るタイミングで横から1機が突撃。
盾ごと胸部を切り刻まれる代わりに他の11機を生き残らせる。
機体はかつて戦った歪虚CAMでも中身は次元が違う。
力はアルトがハンター登録した頃のハンター並みかそれ以上。数年でアルトに匹敵したかもしれない心技体がある。
「リアルブルーの国家から部隊ごと奪い取ったか」
だが全てがわずかずつ捻れている。
本来持っていた信念も誓いも1個の歪虚に向く形に歪められている。
阻止を試みる2機を迂回して後続のCAMへ。
斉射直後の10機を纏めて切り裂く動きの始点に生身の軍人が飛び掛かる。
「下種め」
苦痛を認識させない速度と精度で刃を繰り出してから、アルトは黒幕に対する評価を一言口にした。
●新型機防衛戦
リチェルカ・ディーオ(ka1760)の耳を不協和音が直撃した。
どれも、新型機に乗り込んだハンターと繋げた通信機だ。
「分隊規模の運用で初めて分かった不具合かなー」
1つの隔壁は破壊されもう1つも半壊状態だ。
今の所30mm弾は飛んできていないが歪虚CAMより小さな気配を近くに感じる。
「やるしかないか――ご老人、後で話を伺いたい!」
ジーナ(ka1643)は魔導パイロットインカムを起動したまま外してコクピットに引っかけ、少しだけ高次元に待機する精霊に対して合図を送る。
五感が消失する。
おそるおそる伸びてくる精霊の気配をこちらから巻き込んで己に紐付ける。
気づいたときには鉄の巨体を己の体と認識して戦場に立っていた。
「浪漫じゃの~」
新人老人ハンターが子供の盾になる位置でのんびりつぶやく。
「おじーちゃんも隠れていた方がいいよー」
「そういう訳にもいかんじゃろっ!?」
老人の首に喉元に冷たい刃が当てられた。
視界の隅にあるのは野戦服だろうか。
「ワシは見捨てろぉっ!」
覚悟した痛みはいつまでたっても襲って来ない。
恐る恐る後ろを向くと、ナイフ装備の軍人が幻影の複数に絡まれジーナ機の足下に拘束されていた。
「最初に使うのがこれとはな」
ファントムハンドである。
戦術次第で凄まじい効果を発揮するスキルであると同時に、引き寄せた敵と至近距離での戦いを強いられる危険なスキルでもある。
ジーナはそっと腕を伸ばす。
4メートルを超える剣の切っ先を軍人の胸元へ押し当て、切りも潰しもせず絶妙な力加減で肺から空気を追い出し気絶させた。
「ご老体の覚悟は見せて貰った」
「くっころ!」
「この状況で冗談を言えるなら問題ないな」
顔を真っ赤にした老人を横目で確認しながら、ジーナはセンサを駆使して情報を集める。
酷くきな臭い。
2つの元隔壁での防衛は成功し、少数入り込んだ敵もヴァルナによって無力化されたように見える。
だがハンターになる前となってからの経験が、過去最大級の警告を発している。
「ん」
通信機越しにジーナから要請されリチェルカが口を開く。
「ね~、どうやって敵に気付いたの~?」
「う、む」
まだ顔の赤い老人が、わざとらしい咳払いをすることで心を落ち着けようとする。
「生身のまま来たってことは~、きっと新型機がほしいんだよー」
リチェルカが拳銃の引き金を引く。
コンクリ一色の壁しかないはずの場所が鮮血の赤に染まる。
改めてよく確かめると、そこには都市迷彩の軍人が腹を押さえてうずくまっていた。
「なーんか、害獣やVOID……じゃなくて雑魔に襲われたときと同じ気配を感じたんじゃ」
苦しむ軍人を沈痛な面持ちでみつめ、老人が切ない息を漏らす。
「じゃあ」
「そういうことだろうな」
リチェルカもジーナも同じ結論に到達する。
敵は、歪虚だ。
ヴァルナが斜め後ろへ飛ぶように駆ける。
覚醒に伴う燐光が竜翼の如く伸び、一瞬で二度翻った魔剣を清らかに照らし出す。
研究員の頭と心臓を狙った銃弾が2つ、固い床に転がり耳障りな音をたてた。
「スキル抜きでは2人押さえるのが精一杯です」
ガウスジェイルで敵の攻撃を惹きつけカウンターバーストで痛烈に反撃する。
それで敵の位置は判明するが倒すには至らない。
契約者は対人用銃器程度では死なないのだ。
「私が盾に」
ジーナ機が一歩踏み出すと同時に轟音が発生する。
一応形を保っていた隔壁が、巨人が振るうハンマーに打たれでもしたかのように砕けて宙に舞う。
「スナイパーライフル装備の歪虚CAM15機を確認」
「そちらを優先しろ。隔壁周辺の歪虚は私が受け持つ」
飛び込んできたデュミナスが無数の腕につかまれつんのめる。
ジーナ機が、CAM基準では異様な速度で突きを放って胸部をコンクリ製床に縫い止めた。
「『ハンター専用・対邪神用CAM』、それを目指したことは見栄や狂言ではない」
新手から飛んできた30mm弾を斬って落とす。
一繋がりの動きとしてコクピットと動力炉を切り裂き剣を引き抜く。
ただの歪虚CAMなど、いくら乗り手が優れていようが何十機いても敵ではない。
そうなるよう研究し作り上げ磨き上げたのだ。
「騎士よ」
装甲の隙間から翠光が溢れる。
白銀の四肢が目に見えて太くなり、機体のフレームが設計値を上回る強靱さで筋力を支えて速度に変換する。
「ヒトの叡智と数多の精霊の加護の元に切り拓け!!」
五感への情報に加え、最新のCAMを思わせる処理済み情報がジーナの脳味噌へ叩き込まれる。
敵の位置、障害物の位置、非戦闘員や遊軍の位置。
脅威度や緊急度別に分かり易く色分けされ、何も無い場所には声援を思わせるマテリアル光が多数瞬く。
「頑張り過ぎだ。ここは私に任せてもらおう」
ジーナは口で言ったつもりだがテレパシーの形で精霊に届く。
小精霊のテンションが通常状態になる。
ジーナは少し減った情報を元に加速を微調整。
非戦闘員や待機状態の機体に向かう30mm弾を剣と盾で弾きながら侵入者との距離を一気に0にする。
「さらばだ」
歪虚の気配の濃いコクピットを刺し貫き、返す刀でデュミナスの頭部を潰して胸部に押し込める。
最後に残った1機は、後方から飛来した龍鉱石の塊が胸を貫かれ止めを刺された。
なお、その矢を放ったリチェルカは戦果を確認できていない。
大量にばらまかれる銃弾を横回転して避けて拳銃を構えても、直前まで銃撃していたはずの元軍人現歪虚の姿を見つけられない。
直感に従い違和感のある方向に向き直る。
非覚醒者なら肉片確実な散弾が届き、しかし十分に防御された胴部防具でかすり傷に留まる。
「1年後なら勝てなかったかも~」
容赦なく引き金を引く。
敵は駆け出しハンター程度の身体能力しかないが、身についた技術がリアルブルーの大国が大金を長期間つぎ込んだ代物だ。
油断する余裕も手加減する余裕も全く無い。
「そっちに2人!」
慈悲の一撃を与えながら叫ぶ。
ヴァルナの魔剣が急旋回。銃というには太いものを構えていた元軍人を一人切り捨てる。
息をつく暇もない。
見慣れぬ銃口が非戦闘員を向く度に防御に回らざるをえず、敵の数を減らす機会がなかなかない。
最大の問題は、敵が何人潜んでいるか分からないことだ。
「おじーちゃんこの人達の手口に心当たりないー?」
「ワシはミリオタじゃなくて鉄オタじゃぁっ!」
新型機の予備装甲を両手で持ち上げ民間人の盾にする。
数ヶ月前はただの老人だった彼は、今では人類の盾にして剣であるハンターの一員だ。
「助かります」
金の髪がふわりと揺れた。
年甲斐無く赤面する老人の目の前で、数倍濃いマテリアルと数段上の戦技で刃が振るわれる。
対装甲ロケット弾も、対物ライフル弾も、どれも新型機に届かずヴァルナに向かった上で超絶の技により跳ね返される。
「使い捨てていい人材ではないはずですが」
ヴァルナの顔には苦い感情が浮かんでいる。
歪虚相手に躊躇う理由はないとはいえ、おそらく洗脳されただろう男達を殺すのは気が滅入る。
しかし手加減はできない。状態異常で無力化しきれない程度には相手が強いのだ。
「価値を理解していないか価値を認めていないかのどちらかだろうね~」
リチェルカの声の調子は明るいがハンドサインを送る指からは憤怒が感じられる。
ヴァルナはサインに従い大きな段ボールを刺し貫く。
爆弾で自爆直前だった元人間が1人、痛みを認識することも無くこの世を去った。
●騎士
戦闘開始直後。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)達の目の前で勢いよくハッチが開いた。
「乗ってみたいと思っちゃいたが」
真新しい機体を見上げる。
傷一つない白銀の装甲が目に眩しく、淡く漂う翠の光が何故だか得意気に見える。
「新型機にまで誘われるとはな」
「そういう機体ですからね」
鹿東 悠(ka0725)は柔らかく微笑み、悪戯小僧を見る目をルクシュヴァリエに向ける。
協力を得たのは小精霊だが、格の高い精霊が素知らぬ顔で紛れていることも珍しくない。
今後、ハンターが自身の専用機をカスタマイズしていく過程で、そのハンターと縁のある精霊が手を貸すこともあるはずだ。
「お先に!」
レイオスが白兵戦使用機に乗り込む。
R7のそれを流用した座席に座りベルトを締めると、操作もしていないのにハッチが閉まって違和感なく視点が高くなる。
粉塵が舞っているのに息苦しくない。
頭部センサが集めた情報は五感に変換され、装甲でもある特殊金属が捉えた情報が肌感覚としてレイオスに届く。
それだけではない。
動力炉は心臓、フレームは骨格、機体を巡るマテリアルは血液として全てレイオスの制御下にある。
「これが“自己を機体とする”ってことか、まるで巨人になったみたいだ」
感嘆7割で呆れが2割で畏れが1割だ。
発想も力も人間の領域を脱しかけている。
「如何です?」
ルクシュヴァリエ開発陣の1人である悠がたずねる。
彼が選んだのはやや細見の機体で、盾の代わりにリアブルーの影響を受けた銃器を装備している。
「オレは技術者でも評論家でもないからすごいってことしか分からない」
剣を鞘から抜く。
素材も造りも平凡そのものなのに、腕部を通して流れ込むマテリアルが凄まじい。
「だから新しい力、実戦で試させてもらうぜ!」
悠の笑みが濃くなり、剥き出しの刃じみた気配が小精霊を怯えさせた。
「満足したようでなによりだ」
立ち上がったもう1機は剣を抜くことすらせず走り出している。
外からの攻撃で歪んでわずか開いた隔壁の隙間へ走りは幅跳びの要領で飛び込んだ。
30mm弾が殺到する。
明らかに知性のある精霊が悲鳴をあげる。
悲鳴にあてられた小精霊が騒いでルクシュヴァリエの制御が乱れた。
「落ち着け」
30mm弾複数が被弾した機体が見事に着地する。
各関節の微かな動きだけですり足を行い、CAM基準での至近距離からの銃撃を全て躱してみせる。
「おい精霊、俺は瀕死になってもすぐには死なん。しかしお前はそうではない」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は金剛不壊が使えなかったと考えながら、鞘ごと引き抜いた剣を横薙ぎに振るう。
鞘が壊れても勢いは衰えず、至近の1機の腰から反対の脇に凹みをつけ、もう1機の足に食い込みようやく止まる。
「命が危ういと思ったら俺より先にこの機体から抜け出せよ」
無茶言うな! という意思が返って来たので呵々大笑する。
「万一の話だ。この程度の相手に負けるほど……ほう」
盾を腕から外して隔壁の前に叩き込む。
10を超える105mm弾が直撃。着弾は同時であり極めて頑丈な盾にひび割れが生じた。
「俺にとっては生産ラインを守り、人的被害も出さない事こそ肝要でな! 他の事なぞ些末に過ぎん!」
剣で殴る。
銃盾装備機が平衡を崩して内側から押し退けられる。
「ぎりぎりまでは付き合って貰うぞ精霊よ!」
ひぃん、という妙に色っぽい声を耳以外で感じながら、元は某国精鋭だった集団に向かい突っ込んでいった。
「確か、CAM奪還ゲームが初出か」
デュミナス1機を突き刺しにしつつ、レイオス機がするりと隙間から抜け出る。
「改造の程度は前の墓泥棒と同系――いや、動きが良くなってるか」
止めを刺すことより敵の意図をくじくことを優先する。
ただ移動することで生身の敵を妨害し、隔壁の横に爆弾を仕掛けようとしたデュミナスに切りつける。
「しかし」
新型機に不満は無い。
レイオスのように心技体揃ったハンターであれば、妖刀にも魔剣にもせず聖剣として使いこなせるだろう。
「国産機というには……」
他国と異世界の要素が強すぎる。
王国騎士であるレイオスが乗って勝利に貢献すれば上層部に少しは言い訳できる、と思いたい。
「騎士らしくランスチャージだ。まあ槍じゃ無いけどな」
ソウルエッジが発動。
通常時でもマテリアルを纏っていた刃が高密度のマテリアルで完全に覆い尽くされる。
そしてチャージングへ繋げようとして、機体に備わる機能がチャージングのための力を吸収して別物に変える。
「速いっ」
予想を超えた速度に驚きつつ全神経を機体に集中する。
使用中の人機一体でも不可能なレベルで機体と心が近づく。
レイオスとルクシュヴァリエのマテリアルが重なり合い剣に集中した。
「デイブレイカーが巻き込まれて」
ただの剣が山吹色の刃の変わっている。
今は機体の奥で眠っている、レイオスの腰にあるはずの愛剣の色だ。
無機物じみた瞳がレイオスに向く。
鍛えているとはいえ生身でしかない元軍人が、安全装置を抜いた手榴弾を抱えて新型機の進路に飛び込んでくる。
無視すれば傷を負い、足を止めれば遠くからこちらを狙うスナイパーライフルの餌食になる形だ。
「お前の力を見せろ、ルクシュヴァリエ!」
レイオスは止まらない。
爆発の範囲を見切って進路を調整。
元軍人には剣も機体も触れさせず、しかも速度も落とさずすり抜ける。
血飛沫混じりの爆風が背後から届くが、対高位歪虚戦用に開発された機体には全く通用しない。
「貴方達の凶行、止めさせてもらう!」
歪虚に全てを奪われた者への敬意を口にして、歪虚CAM4機を機能停止寸前にまで追い込んだ。
「スナイパーライフル装備の歪虚CAM15機を確認」
「そちらを優先しろ。隔壁周辺の歪虚CAMは私が受け持つ」
ルベーノとジーナの声の響きが消える前に、聴覚を麻痺させるレベルの轟音が工場と反対側から届いた。
●芸術的自爆
「ハッハッハ、面白い物を持ってきているではないか!」
ルベーノ機が低い丘の麓で鞘付き剣を振り下ろす。
剣先と岩に偽装された爆弾が接触。
ルクシュヴァリエの全力により鞘が砕けて火花が発生。
亀裂から入り込んだ火気によって建造物破壊用兵器がいきなり起爆する。
「心地よいわ!」
爆風で受け身をとる。
無理のない姿勢で押し出され、するりと脚を伸ばして横向きにデュミナスへ着地する。
顔とその下のセンサが砕け、関節で吸収しきれなかった衝撃が中の元軍人の意識を刈り取った。
秒に満たない時間で持ち替えられた30mmガトリングガンが、射線の重ならない向きと高さでルクシュヴァリエを狙う。
その数、14門。
1人と1機を仕留めるには過剰に過ぎる狂気の戦術だ。
「この落ち着き、この練度、見事なものよ」
30mmの弾雨の中で騎士が踊る。
青いマントが千切れ各所の装甲に火花が散るが、関節部の損傷は皆無で脚が鈍るどころが動作の冴えが増す。
空からの銃声。
包囲網端のデュミナスが前のめりに倒れてスナイパーライフルが転がり落ちる。
敵部隊の混乱は一瞬だけだ。
その一瞬で、ルベーノは包囲網から抜け出し山と積まれた爆弾に向かい剣を突き込む。
「貴様等が価値観を狂わされる前であれば、勝敗は逆だったろうよ!」
ルクシュヴァリエが剣を放り投げ四肢を縮込める。
土下座に等しい無様な姿勢だ。
そして、爆風を受け流して耐えるための最適に姿勢だ。
「本当にするとは」
薄い紅に染まったルクシュヴァリエが、上空で頭を振った。
工場破壊に使われるはずだった爆薬が丘を吹き飛ばすだけで終わらずクレーターまで発生させる。
多数のデュミナスが無残な塵と化す。
驚くべきことに半数近くが生き延びてはいるが、センサや片脚を喪うなどして戦力が激減した機体がほとんどだ。
「この程度のバンザイアタックは慣れたものよ」
クレーターをを囲む盛り土の中から、兜状の頭部装甲を喪ったルベーノ機が起き上がった。
「少しだけ、被害が大きかったな」
大きめの精霊が怯えているのでマテリアルヒーリングを使ってやる。
傷口がふさがるように薄い装甲が復活するが、それはあまりにも薄くこれ以上の戦闘は無理そうだった。
●ルクシュヴァリエ飛ぶ
機体にかかる力全てが直感的に分かる。
それだけ分かれば向きと速度と位置も簡単に短時間で推測できる。
「ちょっとした見学のつもりがこれですか。これも一つの縁ですか……ねぇ」
空飛ぶ騎士がマントを翻す。
風を孕んだ青が広がり機体を微かに減速。
減速しなければコクピットがあった箇所を複数の105mm弾が通り過ぎる。
「良縁かどうかは兎も角、巡り巡って福となる……か?」
開発の現場を思い出して動作を組み立てる。
CAM並の人型を飛ばすという暴挙をしているのに、リアルブルーの戦闘ヘリ並には安定している。
「この状況を覆すために力を使わせて貰いましょう。……いくぞ」
鋭角での進路変更を無理なく終わらせ、速度を上げながら敵集団へ接近。
対空射撃としては水準以上の弾幕を軽々躱しつつライフルを1度だけ発砲する。
外見は他と変わらぬ指揮官機に直撃。
胸部の一部がが凹んだ程度で戦闘力は維持されているが、指揮官が負傷したようで部隊としての動きが明らかに鈍った。
「ルベーノは駄目か」
生きている気配はあるが戦闘続行は無理だ。
あげた戦果は凄まじく、敵の近くで隠れる技は見事なものだが今役に立たないのは事実である。
「使わせてもらうぞ」
艶のある声に獣性が滲む。
敵射程内なのに嘲笑うように旋回して正面へ。
一撃離脱ではあるが異様なほどに攻撃的だ。
赤みを増した機体をきしませながら、慣性を感じさせない進路変更を連続で行う。
「初めての搭乗でここまで分かるか」
各パーツがどこまで耐えられどこまで壊して良いが手に取るように分かる。
同一機種に10年乗り続けた熟練パイロットの動きが今できている。
剣を真後ろへ振る。
既存機種であれば死角の向きから飛んできた105ミリ弾が、単純に速く頑丈な切っ先に砕かれ散っていく。
悠は敵の視線と動きを見て結論を下した。
「敵に爆弾は残っていない」
「聖堂戦士団に伝えておくの~」
銃声と鉄が潰れる音が伴奏として聞こえる。
ディーナやアルトはまだ戦闘中のようだ。
アルトの殲滅力を相手にここまで抗戦するのは驚異的だ。
それほどの部隊を仕留められるのだから大戦果といっていい。
「こちらは2機。相手は逃げ腰の2分隊」
口角が上がる。
退路確保に向かおうとしたデュミナスに一撃を浴びせる。
機先を制せられたため敵部隊の後退が遅れ、工場内をジーナ達に任せたレイオス機に追いつかれた。
「難事だな?」
105mmの砲口に光が生じると同時にルクシュヴァリエが横へずれる。
フーファイターが効いているとしても滑らかすぎる動きで地上からの狙撃を回避。
わざと目立つ動作で退路を断つ位置へ回り込む。
それはフェントでもある。
矢にしては重すぎ無骨すぎる龍鉱石の塊が、悠機に気を取られたデュミナスの装甲を砕いて重要パーツを複数破壊した。
「やあやあ、遅れたけど支援いくよ~」
狙撃には向いていないよう見えるバリスタなのに、本職が使った狙撃銃じみた精度である。
1矢で破壊しきる威力も複数機貫通して隊全体にダメージを与える特殊能力もないが、ただの射撃攻撃で並のCAMを超える機体を確実に壊して潰していく。
悠の脳裏に、敵の捕縛という選択肢が一瞬浮かんだ。
「スコアを稼ぐか」
意識して否定する。
敵の手には105mmスナイパーライフルがある。
今となっては射程だけが取り柄の低威力武器だ。
その射程が問題なのだ。
工場に向けられたら高価な機材が破壊されるかもしれない。街に向けられたら罪も無い子供が死ぬかもしれない。
「手段を選ぶ意識が残っているうちに」
着地寸前まで高度を下げ、速度は落とさず剣を振り切る。
デュミナスの腕がガトリングガンと一緒に宙に舞う。
「終わらせてやる」
悲鳴は、最後まで聞こえなかった。
「大丈夫。完了。しゅうりょー」
工場の外の歪虚が全滅した後、リチェルカが断言するまで10分以上必要だった。
安堵のため息と力尽きた吐息が数十重なり大きな音になる。
「みなさん」
ヴァルナが剣を下ろす。
すらりと伸びる髪は激戦の後なのに乱れていない。
「お疲れ様でした。癒し手がすぐにやって来ます。近くに負傷された方がいたら伝えてあげてください」
ストレスでぼろぼろの人々が素直にうなずく。
人型の襲撃者を防ぎ続けた彼女の言葉には非常に説得力があった。
「ほんとおつかれだよー」
リチェルカはきょろきょろしている。
精霊の気配が宗教の聖地並に濃い。
ルクシュヴァリエ周辺だけでなく、鼻に触れるような距離にも意思ある正マテリアルの気配がある。
「無理しちゃだめだよー」
記憶にある気配を近くに感じ、リチェルカはいたわりの言葉をかけていた。
ロープでぐるぐる巻きにされた元軍人が運び出されていく。
極少数、偶然生き残った元軍人だ。
「うーん」
ディーナが難しい顔をしている。
癒やそうにも既に歪虚化した相手の治癒は難しく、そもそも相手は治療を拒否している。
聖堂戦士団経由で崑崙基地に移送されることになるのだろうが……。
「ちょっとまずいかも」
聖堂戦士団によると、ハンターを呼ぶほどでもない襲撃も王国各地で発生しているらしかった。
オレンジの爆炎がコンクリを砕いた。
支えを失った隔壁がゆっくりと崩れていく。
「やれ」
30mm砲15門と携帯火器20による制圧射撃。
足音すらたてずに突入する野戦服の軍人達。
悪い意味でも伝統的な王国軍では、高位の覚醒者がいたとしても対抗不能な攻撃だった。
コンクリの粉塵舞う中空に火花が生じる。
鉄と鉄が打ち合わされ潰れあう音が他の音を圧倒する。
そこに新たな轟音と閃光が加わり、非戦闘員だけでなく非番のハンターまで混乱状態に陥った。
一部ハンターはなんとか持ち堪えているが数が少ない。
軍人が速度を緩め手榴弾を投擲した。
「フラッシュバン!?」
工場の職員が気付くが職員には打つ手が無い。
対物の爆発物が緩やかに回転する。
そのまま、新型機の開いたままのハッチに入り込むかと思われた。
慣性も引力も無視して手榴弾の進路が歪む。
6つの高性能爆薬が、白と金の美女に引き寄せられ同時に爆発した。
民間人が絶句する。
悲鳴を漏らす者、奥歯を砕くほどに噛みしめる者、気絶した者も当然いる。
風が吹く。
粉塵の濃度が下がる。
現れたのは肉と骨の残骸ではなく、長大な魔剣を手に凜々しく立つヴァルナ=エリゴス(ka2651)だった。
白い肌を赤い血が伝う。
レガースは踝まで床に埋まり、蜘蛛の巣状のひび割れが2つ床に刻まれている。
だがそんなものは人の記憶には残らない。
後光を思わせる金の輝きが、魂の奥深くに刻み込まれた。
「素晴らしい練度です」
魔剣の間近で渦巻く力は、ヴァルナを襲った爆圧とほぼ同じ威力だ。
「故に手加減はしません」
魔剣を振り抜く。
剣術基準では定石外れの動きだ。
軍人の中の剣を嗜む者は、無意味な動きと断じてヴァルナを無視し新型機へ走る。
その判断は致命的な誤断であった。
渦巻く力が6つに分かれて逆流する。
無色で無音のそれに気付いた軍人もいるが、呪詛や魔術の領域の存在を有効に迎え撃つ手段は持っていない。
多少強化されているとはいえ人間の体格では耐えることはできず、四肢や胴の一部を失い完全に戦闘能力を失った。
ヴァルナの口から鮮血が零れた。
身体欠損無しで耐えたとはいえ体の損傷は深刻だ。
軍人はまだ10人以上いるのに、切っ先が床に埋まった魔剣を動かす力も残っていない。
「頑張るの、R8ネオちゃん!」
「それ非公式開発コードですからっ! CAMじゃないことになってますからー!」
緊張感の無い声が2つ響いた。
濃い緑の光が弾けてヴァルナを照らす。
本来なら死ぬまでの短い時間彼女を苦しめるはず傷が、時間が巻き戻されるようにして消し去られ健在な肉体が復活する。
「棍と法術装備がないの~」
隔壁が消えた入り口から差し込む光がCAM並の巨体を照らす。
それは待機状態の機体とは別物だ。
白銀の装甲は生命力を感じさせ、緩く握られた巨大な剣が神々しい光を帯びている。
「守護者用の装備なんて用意できませんンッ!」
顔見知りの研究員の声を右から左に聞き流しながら、ディーナ・フェルミ(ka5843)は形の良い鼻から可愛らしい息を吐いた。
「そこの人達、理由は聞かないのっ」
見た目も言動も柔らかくても歴戦の聖導士だ。
何が脅威であるか瞬時に判断し、剣を斜め下に向け床すれすれに旋回させる。
その動きが何を意味しているか予備動作から読み取れる程度にはヴァルナも歴戦だ。
ヴァルナが横へ飛んだ直後、十分な加速を得た剣先が何度も何度も軍人を襲い大量の血飛沫があがる。
ディーナの眉が危険な角度を描く。
殺人の手応えに苛まれているからではない。
「これって」
歪虚だ。
この手応えは歪虚しかあり得ない。
勘ではあるが、外れ確率は太陽が逆から昇る確率と同程度だ。
工場の外に10程度の砲火が生じる。
30mm弾が未だ無防備な非搭乗機に向かい飛翔する。
「ここは私達に任せるの!」
自分の体を使う感覚で機体を操作する。
青いマントが優雅に翻る。小型で分厚い盾が残像を伴う速度で振るわれる。
30mm弾全てが受け止められて、重く厚い弾丸が地面にめり込み不気味な音をたてた。
「戦士団は一般人と自分達の避難を急ぐの!」
大声で呼びかけながら前へ出る。
隔壁を乗り越えた瞬間陽光で目が眩みそうになるが、光量が自動で調節された。
「リザレクションが使えないのは残念だけど」
翠のオーラが機体を包む。
装甲は無事とはいえ被弾時の衝撃で痛んだ関節部が、ヴァルナの体と同じように癒えさらにディーナの操縦に適した形に変化する。
機体に内包された膨大なマテリアルとベリアル金属の性質によるものだ。
「桜花爛漫と」
白に近い緑光が刀身周辺に出現。
「縦横無尽なら使えるのっ」
後方を守るため回避は捨てて盾で30mm弾を防ぎつつ、一切の容赦のない斬撃を周囲の軍人へ向ける。
攻撃に専念できないため狙いは甘いが問題は無い。
脆い軍人は新型機を迂回するしかなく、迂回するため時間がかかり味方が防戦準備するため時間が生じる。
「多少時間はかかっても落ちないの、アルトさんもいるし隔壁の外は任せるの」
頼りになる味方がいるのだ。
ディーナは激戦の中で勝利を確信していた。
●小精霊といっしょ
ハッチを開いた新型機3つ、押し合いへし合いしながらアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)ににじりよる。
それは物理的には錯覚だが霊的には事実である。
「新型機とやらか。普通のCAMにすら乗ったことがない身ではパフォーマンスを発揮することは無理だろう」
アルトが背を向けると愕然とした気配が3つ……いや3集団。
新型機に宿る精霊達である。
「ついてきても構わない」
3集団がルクシュヴァリエから離脱する直前に動きが鈍る。
内輪もめを思わせる気配が数秒続いてから、小さな気配が3つ分かれて残りは機体の中へ戻る。
「小精霊だけではないな」
3つのうち不自然なほど大きな気配が2つ、びくりと震えてアルトの背中に回り込んだ。
「さて」
意識を切り替える。
そろそろ隔壁が外側から破壊されそうだ。
他の面々と共に守りに回れば完璧に防ぐことはできるだろうが、一方を守るだけで完封できる相手とは思えない。
「振り落とされるなよ」
必要最小限のマテリアルを足に回して床を蹴る。
恐るべき質と技術は凄まじい加速を生み出し、倒れていく隔壁以上の速度で外との境界線を踏み越える。
中小精霊3柱は長い赤髪にしがみつくのが精一杯で、アルトに助力するどころかただ守られているだけだ。
「CAM15機を確認」
騎士刀を覆う炎のオーラが激しく燃え上がりながら無色に変じる。
巨大な熱量は物理的であると同時に霊的で、精霊3柱も発火直前だ。
「人型11、10」
異様に静かな銃声が連続する。
向きは斜め前から3発、左右から2発、ほぼ真後ろから4つ。
当たればアルトですら無傷で済まない威力の大口径弾だ。
「まさか」
これだけならアルトの予想の範囲内だ。
実際、鋭角に横から前へ進むだけで全てを躱してみせた。
問題は30mmアサルトライフルと大型盾を装備した歪虚CAM15機だ。
まるでアルトの戦法が分かっているかのように、一度では全滅しない陣形に2秒で移行していた。
「軍か」
至近のCAMシールドに跳び乗りベクトルを水平に変更する。
誤射覚悟の精密射撃を前傾するだけで躱し、糸よりも細いデュミナス型の急所へ華焔を差し入れる。
ただ刺すだけではない。
高速走行と回避をしながら連続攻撃だ。
1機につき3刺し。
それで3機の歪虚CAMが形を保ったまま残骸と化す。
6機は殺しきるつもりだったのに戦果は半分だ。
残る12機からは微かな怯えとそれ以上の使命感、それらを制御しきる心胆を感じる。
攻撃に移るタイミングで横から1機が突撃。
盾ごと胸部を切り刻まれる代わりに他の11機を生き残らせる。
機体はかつて戦った歪虚CAMでも中身は次元が違う。
力はアルトがハンター登録した頃のハンター並みかそれ以上。数年でアルトに匹敵したかもしれない心技体がある。
「リアルブルーの国家から部隊ごと奪い取ったか」
だが全てがわずかずつ捻れている。
本来持っていた信念も誓いも1個の歪虚に向く形に歪められている。
阻止を試みる2機を迂回して後続のCAMへ。
斉射直後の10機を纏めて切り裂く動きの始点に生身の軍人が飛び掛かる。
「下種め」
苦痛を認識させない速度と精度で刃を繰り出してから、アルトは黒幕に対する評価を一言口にした。
●新型機防衛戦
リチェルカ・ディーオ(ka1760)の耳を不協和音が直撃した。
どれも、新型機に乗り込んだハンターと繋げた通信機だ。
「分隊規模の運用で初めて分かった不具合かなー」
1つの隔壁は破壊されもう1つも半壊状態だ。
今の所30mm弾は飛んできていないが歪虚CAMより小さな気配を近くに感じる。
「やるしかないか――ご老人、後で話を伺いたい!」
ジーナ(ka1643)は魔導パイロットインカムを起動したまま外してコクピットに引っかけ、少しだけ高次元に待機する精霊に対して合図を送る。
五感が消失する。
おそるおそる伸びてくる精霊の気配をこちらから巻き込んで己に紐付ける。
気づいたときには鉄の巨体を己の体と認識して戦場に立っていた。
「浪漫じゃの~」
新人老人ハンターが子供の盾になる位置でのんびりつぶやく。
「おじーちゃんも隠れていた方がいいよー」
「そういう訳にもいかんじゃろっ!?」
老人の首に喉元に冷たい刃が当てられた。
視界の隅にあるのは野戦服だろうか。
「ワシは見捨てろぉっ!」
覚悟した痛みはいつまでたっても襲って来ない。
恐る恐る後ろを向くと、ナイフ装備の軍人が幻影の複数に絡まれジーナ機の足下に拘束されていた。
「最初に使うのがこれとはな」
ファントムハンドである。
戦術次第で凄まじい効果を発揮するスキルであると同時に、引き寄せた敵と至近距離での戦いを強いられる危険なスキルでもある。
ジーナはそっと腕を伸ばす。
4メートルを超える剣の切っ先を軍人の胸元へ押し当て、切りも潰しもせず絶妙な力加減で肺から空気を追い出し気絶させた。
「ご老体の覚悟は見せて貰った」
「くっころ!」
「この状況で冗談を言えるなら問題ないな」
顔を真っ赤にした老人を横目で確認しながら、ジーナはセンサを駆使して情報を集める。
酷くきな臭い。
2つの元隔壁での防衛は成功し、少数入り込んだ敵もヴァルナによって無力化されたように見える。
だがハンターになる前となってからの経験が、過去最大級の警告を発している。
「ん」
通信機越しにジーナから要請されリチェルカが口を開く。
「ね~、どうやって敵に気付いたの~?」
「う、む」
まだ顔の赤い老人が、わざとらしい咳払いをすることで心を落ち着けようとする。
「生身のまま来たってことは~、きっと新型機がほしいんだよー」
リチェルカが拳銃の引き金を引く。
コンクリ一色の壁しかないはずの場所が鮮血の赤に染まる。
改めてよく確かめると、そこには都市迷彩の軍人が腹を押さえてうずくまっていた。
「なーんか、害獣やVOID……じゃなくて雑魔に襲われたときと同じ気配を感じたんじゃ」
苦しむ軍人を沈痛な面持ちでみつめ、老人が切ない息を漏らす。
「じゃあ」
「そういうことだろうな」
リチェルカもジーナも同じ結論に到達する。
敵は、歪虚だ。
ヴァルナが斜め後ろへ飛ぶように駆ける。
覚醒に伴う燐光が竜翼の如く伸び、一瞬で二度翻った魔剣を清らかに照らし出す。
研究員の頭と心臓を狙った銃弾が2つ、固い床に転がり耳障りな音をたてた。
「スキル抜きでは2人押さえるのが精一杯です」
ガウスジェイルで敵の攻撃を惹きつけカウンターバーストで痛烈に反撃する。
それで敵の位置は判明するが倒すには至らない。
契約者は対人用銃器程度では死なないのだ。
「私が盾に」
ジーナ機が一歩踏み出すと同時に轟音が発生する。
一応形を保っていた隔壁が、巨人が振るうハンマーに打たれでもしたかのように砕けて宙に舞う。
「スナイパーライフル装備の歪虚CAM15機を確認」
「そちらを優先しろ。隔壁周辺の歪虚は私が受け持つ」
飛び込んできたデュミナスが無数の腕につかまれつんのめる。
ジーナ機が、CAM基準では異様な速度で突きを放って胸部をコンクリ製床に縫い止めた。
「『ハンター専用・対邪神用CAM』、それを目指したことは見栄や狂言ではない」
新手から飛んできた30mm弾を斬って落とす。
一繋がりの動きとしてコクピットと動力炉を切り裂き剣を引き抜く。
ただの歪虚CAMなど、いくら乗り手が優れていようが何十機いても敵ではない。
そうなるよう研究し作り上げ磨き上げたのだ。
「騎士よ」
装甲の隙間から翠光が溢れる。
白銀の四肢が目に見えて太くなり、機体のフレームが設計値を上回る強靱さで筋力を支えて速度に変換する。
「ヒトの叡智と数多の精霊の加護の元に切り拓け!!」
五感への情報に加え、最新のCAMを思わせる処理済み情報がジーナの脳味噌へ叩き込まれる。
敵の位置、障害物の位置、非戦闘員や遊軍の位置。
脅威度や緊急度別に分かり易く色分けされ、何も無い場所には声援を思わせるマテリアル光が多数瞬く。
「頑張り過ぎだ。ここは私に任せてもらおう」
ジーナは口で言ったつもりだがテレパシーの形で精霊に届く。
小精霊のテンションが通常状態になる。
ジーナは少し減った情報を元に加速を微調整。
非戦闘員や待機状態の機体に向かう30mm弾を剣と盾で弾きながら侵入者との距離を一気に0にする。
「さらばだ」
歪虚の気配の濃いコクピットを刺し貫き、返す刀でデュミナスの頭部を潰して胸部に押し込める。
最後に残った1機は、後方から飛来した龍鉱石の塊が胸を貫かれ止めを刺された。
なお、その矢を放ったリチェルカは戦果を確認できていない。
大量にばらまかれる銃弾を横回転して避けて拳銃を構えても、直前まで銃撃していたはずの元軍人現歪虚の姿を見つけられない。
直感に従い違和感のある方向に向き直る。
非覚醒者なら肉片確実な散弾が届き、しかし十分に防御された胴部防具でかすり傷に留まる。
「1年後なら勝てなかったかも~」
容赦なく引き金を引く。
敵は駆け出しハンター程度の身体能力しかないが、身についた技術がリアルブルーの大国が大金を長期間つぎ込んだ代物だ。
油断する余裕も手加減する余裕も全く無い。
「そっちに2人!」
慈悲の一撃を与えながら叫ぶ。
ヴァルナの魔剣が急旋回。銃というには太いものを構えていた元軍人を一人切り捨てる。
息をつく暇もない。
見慣れぬ銃口が非戦闘員を向く度に防御に回らざるをえず、敵の数を減らす機会がなかなかない。
最大の問題は、敵が何人潜んでいるか分からないことだ。
「おじーちゃんこの人達の手口に心当たりないー?」
「ワシはミリオタじゃなくて鉄オタじゃぁっ!」
新型機の予備装甲を両手で持ち上げ民間人の盾にする。
数ヶ月前はただの老人だった彼は、今では人類の盾にして剣であるハンターの一員だ。
「助かります」
金の髪がふわりと揺れた。
年甲斐無く赤面する老人の目の前で、数倍濃いマテリアルと数段上の戦技で刃が振るわれる。
対装甲ロケット弾も、対物ライフル弾も、どれも新型機に届かずヴァルナに向かった上で超絶の技により跳ね返される。
「使い捨てていい人材ではないはずですが」
ヴァルナの顔には苦い感情が浮かんでいる。
歪虚相手に躊躇う理由はないとはいえ、おそらく洗脳されただろう男達を殺すのは気が滅入る。
しかし手加減はできない。状態異常で無力化しきれない程度には相手が強いのだ。
「価値を理解していないか価値を認めていないかのどちらかだろうね~」
リチェルカの声の調子は明るいがハンドサインを送る指からは憤怒が感じられる。
ヴァルナはサインに従い大きな段ボールを刺し貫く。
爆弾で自爆直前だった元人間が1人、痛みを認識することも無くこの世を去った。
●騎士
戦闘開始直後。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)達の目の前で勢いよくハッチが開いた。
「乗ってみたいと思っちゃいたが」
真新しい機体を見上げる。
傷一つない白銀の装甲が目に眩しく、淡く漂う翠の光が何故だか得意気に見える。
「新型機にまで誘われるとはな」
「そういう機体ですからね」
鹿東 悠(ka0725)は柔らかく微笑み、悪戯小僧を見る目をルクシュヴァリエに向ける。
協力を得たのは小精霊だが、格の高い精霊が素知らぬ顔で紛れていることも珍しくない。
今後、ハンターが自身の専用機をカスタマイズしていく過程で、そのハンターと縁のある精霊が手を貸すこともあるはずだ。
「お先に!」
レイオスが白兵戦使用機に乗り込む。
R7のそれを流用した座席に座りベルトを締めると、操作もしていないのにハッチが閉まって違和感なく視点が高くなる。
粉塵が舞っているのに息苦しくない。
頭部センサが集めた情報は五感に変換され、装甲でもある特殊金属が捉えた情報が肌感覚としてレイオスに届く。
それだけではない。
動力炉は心臓、フレームは骨格、機体を巡るマテリアルは血液として全てレイオスの制御下にある。
「これが“自己を機体とする”ってことか、まるで巨人になったみたいだ」
感嘆7割で呆れが2割で畏れが1割だ。
発想も力も人間の領域を脱しかけている。
「如何です?」
ルクシュヴァリエ開発陣の1人である悠がたずねる。
彼が選んだのはやや細見の機体で、盾の代わりにリアブルーの影響を受けた銃器を装備している。
「オレは技術者でも評論家でもないからすごいってことしか分からない」
剣を鞘から抜く。
素材も造りも平凡そのものなのに、腕部を通して流れ込むマテリアルが凄まじい。
「だから新しい力、実戦で試させてもらうぜ!」
悠の笑みが濃くなり、剥き出しの刃じみた気配が小精霊を怯えさせた。
「満足したようでなによりだ」
立ち上がったもう1機は剣を抜くことすらせず走り出している。
外からの攻撃で歪んでわずか開いた隔壁の隙間へ走りは幅跳びの要領で飛び込んだ。
30mm弾が殺到する。
明らかに知性のある精霊が悲鳴をあげる。
悲鳴にあてられた小精霊が騒いでルクシュヴァリエの制御が乱れた。
「落ち着け」
30mm弾複数が被弾した機体が見事に着地する。
各関節の微かな動きだけですり足を行い、CAM基準での至近距離からの銃撃を全て躱してみせる。
「おい精霊、俺は瀕死になってもすぐには死なん。しかしお前はそうではない」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は金剛不壊が使えなかったと考えながら、鞘ごと引き抜いた剣を横薙ぎに振るう。
鞘が壊れても勢いは衰えず、至近の1機の腰から反対の脇に凹みをつけ、もう1機の足に食い込みようやく止まる。
「命が危ういと思ったら俺より先にこの機体から抜け出せよ」
無茶言うな! という意思が返って来たので呵々大笑する。
「万一の話だ。この程度の相手に負けるほど……ほう」
盾を腕から外して隔壁の前に叩き込む。
10を超える105mm弾が直撃。着弾は同時であり極めて頑丈な盾にひび割れが生じた。
「俺にとっては生産ラインを守り、人的被害も出さない事こそ肝要でな! 他の事なぞ些末に過ぎん!」
剣で殴る。
銃盾装備機が平衡を崩して内側から押し退けられる。
「ぎりぎりまでは付き合って貰うぞ精霊よ!」
ひぃん、という妙に色っぽい声を耳以外で感じながら、元は某国精鋭だった集団に向かい突っ込んでいった。
「確か、CAM奪還ゲームが初出か」
デュミナス1機を突き刺しにしつつ、レイオス機がするりと隙間から抜け出る。
「改造の程度は前の墓泥棒と同系――いや、動きが良くなってるか」
止めを刺すことより敵の意図をくじくことを優先する。
ただ移動することで生身の敵を妨害し、隔壁の横に爆弾を仕掛けようとしたデュミナスに切りつける。
「しかし」
新型機に不満は無い。
レイオスのように心技体揃ったハンターであれば、妖刀にも魔剣にもせず聖剣として使いこなせるだろう。
「国産機というには……」
他国と異世界の要素が強すぎる。
王国騎士であるレイオスが乗って勝利に貢献すれば上層部に少しは言い訳できる、と思いたい。
「騎士らしくランスチャージだ。まあ槍じゃ無いけどな」
ソウルエッジが発動。
通常時でもマテリアルを纏っていた刃が高密度のマテリアルで完全に覆い尽くされる。
そしてチャージングへ繋げようとして、機体に備わる機能がチャージングのための力を吸収して別物に変える。
「速いっ」
予想を超えた速度に驚きつつ全神経を機体に集中する。
使用中の人機一体でも不可能なレベルで機体と心が近づく。
レイオスとルクシュヴァリエのマテリアルが重なり合い剣に集中した。
「デイブレイカーが巻き込まれて」
ただの剣が山吹色の刃の変わっている。
今は機体の奥で眠っている、レイオスの腰にあるはずの愛剣の色だ。
無機物じみた瞳がレイオスに向く。
鍛えているとはいえ生身でしかない元軍人が、安全装置を抜いた手榴弾を抱えて新型機の進路に飛び込んでくる。
無視すれば傷を負い、足を止めれば遠くからこちらを狙うスナイパーライフルの餌食になる形だ。
「お前の力を見せろ、ルクシュヴァリエ!」
レイオスは止まらない。
爆発の範囲を見切って進路を調整。
元軍人には剣も機体も触れさせず、しかも速度も落とさずすり抜ける。
血飛沫混じりの爆風が背後から届くが、対高位歪虚戦用に開発された機体には全く通用しない。
「貴方達の凶行、止めさせてもらう!」
歪虚に全てを奪われた者への敬意を口にして、歪虚CAM4機を機能停止寸前にまで追い込んだ。
「スナイパーライフル装備の歪虚CAM15機を確認」
「そちらを優先しろ。隔壁周辺の歪虚CAMは私が受け持つ」
ルベーノとジーナの声の響きが消える前に、聴覚を麻痺させるレベルの轟音が工場と反対側から届いた。
●芸術的自爆
「ハッハッハ、面白い物を持ってきているではないか!」
ルベーノ機が低い丘の麓で鞘付き剣を振り下ろす。
剣先と岩に偽装された爆弾が接触。
ルクシュヴァリエの全力により鞘が砕けて火花が発生。
亀裂から入り込んだ火気によって建造物破壊用兵器がいきなり起爆する。
「心地よいわ!」
爆風で受け身をとる。
無理のない姿勢で押し出され、するりと脚を伸ばして横向きにデュミナスへ着地する。
顔とその下のセンサが砕け、関節で吸収しきれなかった衝撃が中の元軍人の意識を刈り取った。
秒に満たない時間で持ち替えられた30mmガトリングガンが、射線の重ならない向きと高さでルクシュヴァリエを狙う。
その数、14門。
1人と1機を仕留めるには過剰に過ぎる狂気の戦術だ。
「この落ち着き、この練度、見事なものよ」
30mmの弾雨の中で騎士が踊る。
青いマントが千切れ各所の装甲に火花が散るが、関節部の損傷は皆無で脚が鈍るどころが動作の冴えが増す。
空からの銃声。
包囲網端のデュミナスが前のめりに倒れてスナイパーライフルが転がり落ちる。
敵部隊の混乱は一瞬だけだ。
その一瞬で、ルベーノは包囲網から抜け出し山と積まれた爆弾に向かい剣を突き込む。
「貴様等が価値観を狂わされる前であれば、勝敗は逆だったろうよ!」
ルクシュヴァリエが剣を放り投げ四肢を縮込める。
土下座に等しい無様な姿勢だ。
そして、爆風を受け流して耐えるための最適に姿勢だ。
「本当にするとは」
薄い紅に染まったルクシュヴァリエが、上空で頭を振った。
工場破壊に使われるはずだった爆薬が丘を吹き飛ばすだけで終わらずクレーターまで発生させる。
多数のデュミナスが無残な塵と化す。
驚くべきことに半数近くが生き延びてはいるが、センサや片脚を喪うなどして戦力が激減した機体がほとんどだ。
「この程度のバンザイアタックは慣れたものよ」
クレーターをを囲む盛り土の中から、兜状の頭部装甲を喪ったルベーノ機が起き上がった。
「少しだけ、被害が大きかったな」
大きめの精霊が怯えているのでマテリアルヒーリングを使ってやる。
傷口がふさがるように薄い装甲が復活するが、それはあまりにも薄くこれ以上の戦闘は無理そうだった。
●ルクシュヴァリエ飛ぶ
機体にかかる力全てが直感的に分かる。
それだけ分かれば向きと速度と位置も簡単に短時間で推測できる。
「ちょっとした見学のつもりがこれですか。これも一つの縁ですか……ねぇ」
空飛ぶ騎士がマントを翻す。
風を孕んだ青が広がり機体を微かに減速。
減速しなければコクピットがあった箇所を複数の105mm弾が通り過ぎる。
「良縁かどうかは兎も角、巡り巡って福となる……か?」
開発の現場を思い出して動作を組み立てる。
CAM並の人型を飛ばすという暴挙をしているのに、リアルブルーの戦闘ヘリ並には安定している。
「この状況を覆すために力を使わせて貰いましょう。……いくぞ」
鋭角での進路変更を無理なく終わらせ、速度を上げながら敵集団へ接近。
対空射撃としては水準以上の弾幕を軽々躱しつつライフルを1度だけ発砲する。
外見は他と変わらぬ指揮官機に直撃。
胸部の一部がが凹んだ程度で戦闘力は維持されているが、指揮官が負傷したようで部隊としての動きが明らかに鈍った。
「ルベーノは駄目か」
生きている気配はあるが戦闘続行は無理だ。
あげた戦果は凄まじく、敵の近くで隠れる技は見事なものだが今役に立たないのは事実である。
「使わせてもらうぞ」
艶のある声に獣性が滲む。
敵射程内なのに嘲笑うように旋回して正面へ。
一撃離脱ではあるが異様なほどに攻撃的だ。
赤みを増した機体をきしませながら、慣性を感じさせない進路変更を連続で行う。
「初めての搭乗でここまで分かるか」
各パーツがどこまで耐えられどこまで壊して良いが手に取るように分かる。
同一機種に10年乗り続けた熟練パイロットの動きが今できている。
剣を真後ろへ振る。
既存機種であれば死角の向きから飛んできた105ミリ弾が、単純に速く頑丈な切っ先に砕かれ散っていく。
悠は敵の視線と動きを見て結論を下した。
「敵に爆弾は残っていない」
「聖堂戦士団に伝えておくの~」
銃声と鉄が潰れる音が伴奏として聞こえる。
ディーナやアルトはまだ戦闘中のようだ。
アルトの殲滅力を相手にここまで抗戦するのは驚異的だ。
それほどの部隊を仕留められるのだから大戦果といっていい。
「こちらは2機。相手は逃げ腰の2分隊」
口角が上がる。
退路確保に向かおうとしたデュミナスに一撃を浴びせる。
機先を制せられたため敵部隊の後退が遅れ、工場内をジーナ達に任せたレイオス機に追いつかれた。
「難事だな?」
105mmの砲口に光が生じると同時にルクシュヴァリエが横へずれる。
フーファイターが効いているとしても滑らかすぎる動きで地上からの狙撃を回避。
わざと目立つ動作で退路を断つ位置へ回り込む。
それはフェントでもある。
矢にしては重すぎ無骨すぎる龍鉱石の塊が、悠機に気を取られたデュミナスの装甲を砕いて重要パーツを複数破壊した。
「やあやあ、遅れたけど支援いくよ~」
狙撃には向いていないよう見えるバリスタなのに、本職が使った狙撃銃じみた精度である。
1矢で破壊しきる威力も複数機貫通して隊全体にダメージを与える特殊能力もないが、ただの射撃攻撃で並のCAMを超える機体を確実に壊して潰していく。
悠の脳裏に、敵の捕縛という選択肢が一瞬浮かんだ。
「スコアを稼ぐか」
意識して否定する。
敵の手には105mmスナイパーライフルがある。
今となっては射程だけが取り柄の低威力武器だ。
その射程が問題なのだ。
工場に向けられたら高価な機材が破壊されるかもしれない。街に向けられたら罪も無い子供が死ぬかもしれない。
「手段を選ぶ意識が残っているうちに」
着地寸前まで高度を下げ、速度は落とさず剣を振り切る。
デュミナスの腕がガトリングガンと一緒に宙に舞う。
「終わらせてやる」
悲鳴は、最後まで聞こえなかった。
「大丈夫。完了。しゅうりょー」
工場の外の歪虚が全滅した後、リチェルカが断言するまで10分以上必要だった。
安堵のため息と力尽きた吐息が数十重なり大きな音になる。
「みなさん」
ヴァルナが剣を下ろす。
すらりと伸びる髪は激戦の後なのに乱れていない。
「お疲れ様でした。癒し手がすぐにやって来ます。近くに負傷された方がいたら伝えてあげてください」
ストレスでぼろぼろの人々が素直にうなずく。
人型の襲撃者を防ぎ続けた彼女の言葉には非常に説得力があった。
「ほんとおつかれだよー」
リチェルカはきょろきょろしている。
精霊の気配が宗教の聖地並に濃い。
ルクシュヴァリエ周辺だけでなく、鼻に触れるような距離にも意思ある正マテリアルの気配がある。
「無理しちゃだめだよー」
記憶にある気配を近くに感じ、リチェルカはいたわりの言葉をかけていた。
ロープでぐるぐる巻きにされた元軍人が運び出されていく。
極少数、偶然生き残った元軍人だ。
「うーん」
ディーナが難しい顔をしている。
癒やそうにも既に歪虚化した相手の治癒は難しく、そもそも相手は治療を拒否している。
聖堂戦士団経由で崑崙基地に移送されることになるのだろうが……。
「ちょっとまずいかも」
聖堂戦士団によると、ハンターを呼ぶほどでもない襲撃も王国各地で発生しているらしかった。
依頼結果
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新型機と工場を守ろ~ リチェルカ・ディーオ(ka1760) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/01/14 19:47:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/12 12:32:56 |