• 東幕

【東幕】百鬼夜行

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/16 12:00
完成日
2019/02/04 06:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●張られた罠
「……という訳でスメラギ様。暫くの間留守にしますので。何かありましたら朱夏をお使いください」
「おう、分かったけどよ。……お前がわざわざ出向く必要があるのかよ?」
「ええ。今ここで無理をするといよいよ幕府を糾弾する声が高まりますからね。……最近、憤怒王蓬生を東方で見かけた、なんていう話も聞きましたしね。あまりゆっくりもしていられない状況です」
「げ。それって大丈夫なのかよ?」
「さて、報告を聞いた限り、向こうとしてはこちらを傷つける意図はないようでしたが……腐っても歪虚王です。油断はできませんね」
「それってお前が出張ったら余計マズいやつなんじゃねえの……?」
「んー。そうですね。あまり使いたい手段ではなかったのですが……下手に草の者を使ってバレた時、足元を掬われますから。そうも言っていられないのですよ」
 淡々と言う立花院 紫草(kz0126)に、渋い顔をするスメラギ(kz0158)。
 ――ハンター達や幕府軍の日々の対応により、憤怒火口からの勢いは徐々に弱まりつつある。
 しかし、東方各地に飛散した歪虚や雑魔は残ったまま。
 苦戦を続ける幕府軍に対し、日に日に公家の圧力が高まっていた。
 すなわち、防衛という役目を、公家に渡せ――という訳だ。
 今まで水面下でチクチクと嫌味を言うだけだったのが、最近は面と向かって会議で言うようにまでなって来ている。
 公家に賛同する中小武家も徐々にだが増えてきていると言う話もある。
 ここで下手を打つと、武家最上位第一家門の長『征夷大将軍』と上位六家門に対する不満が一気に爆発、そのまま公家に政権を奪われかねない。
「あー。そういう……。それでお前が直接……その、秘宝があるっていう安武城に乗り込むって訳か」
「理解が早くて助かります。その話が事実なら、どちらにせよハンターと一緒に行かなくてはなりませんしね」
「まあ、ハンターが一緒なら大丈夫か。くれぐれも無理すんなよ」
「おや。私を誰だとお思いですか? 歪虚に後れを取るようなことはありませんよ」
「あー。そりゃまあ、そうなんだけどよ」
 涼やかに言う紫草に、頭をボリボリと掻くスメラギ。
 確かにこの男には、武家の軍勢が束になってかかっても勝てないだろう。
 スメラギでも足止め出来て数秒と言ったところではないだろうか。
 ――それでも、何だろう。この胸に宿る漠然とした不安は。
「……では、お願いしますね」
 軽く頭を下げて立ち去る紫草。
 この内々の会議の数日後、彼は安武城に旅立って行った。
 ――そこに、罠があるとも知らずに。

●的中した予感
 スメラギは焦っていた。
 紫草とハンター達が安武城に出発して暫くの後、やってきた早馬によって安武城周辺に大量の歪虚が目撃されているという情報が入ってきたからだ。
 城の警備は厳重だが、覚醒者は少なく、憤怒の数が多いと防衛しきれない恐れがある。
 更に問題は……更に安武城を目指して移動している憤怒歪虚の軍勢の存在が明らかになったのだ。
 迫りくる援軍に対応する為に、急ぎ符術師達を派遣しようと手配したが、公家も、兵も、殆どの者が出払っているような状況だった。
「くそ……! 何だってこんな時に……!」
 頭を掻き毟るスメラギ。
 ……こうも折悪く全員が出払っているなんてことが起こり得るだろうか?
 いくら察しの悪いスメラギでも何か作為的なものを感じる。
 ともあれ、今はそんなことを考えている場合ではない。
 この状況を何とかしなくては……。
「紫草のことだからそう簡単にはくたばらねえだろうが、征夷大将軍戦死なんてことになったら洒落にならねえからな……」
 ぼやきながら、目まぐるしく思考を巡らせるスメラギ。
 今俺様の使える手持ちの札は――。
 ……史郎(kz0242)は? いや、今から繋ぎをつけて呼び出していたら間に合わない。
 九代目詩天は……この状況に巻き込んだら、ドサクサに紛れて命を狙われかねない。
 三条家の軍師、水野 武徳(kz0196)に遊び人名義で状況説明の書状は送ってあるから、きっちり仕事はしてくれていると思うが――真美は暫く詩天で大人しくしていた方がいいだろう。
 ……ということは、この伝手も使えない。
 こうなったらもう、俺様が乗り込むしかねえな。
 あと使えるのは――。
 スメラギはバタバタと支度をして、大急ぎで転移門を潜った。

「悪ィが、皆手を貸してくれ! 大至急!」
「え……? どうかしたんですか?」
「何かあったのか?」
 青ざめた顔でハンターズソサエティに駆け込んで来たスメラギに驚くハンター達。
 肩で息をしながら、彼は続ける。
「……紫草とハンター達が、ちょっとヤベェことになってる」
 ――安武城に向かったハンターと紫草が歪虚に襲われていること。
 城の周辺には恐らく指揮官クラスの歪虚がいるであろうこと。
 そして更に、安武城に憤怒歪虚の援軍が迫っていること。
 続いた彼の説明に、ハンター達が凍りつく。
「そんな……! 何でそんな状況に?」
「紫草達が出発してから判明したことなんだ。恐らくあいつら気づいてねえ」
「それはマズいわね……」
「ああ。ハンターも一緒だからそう簡単にやられはしないと思うが、安武城を警備する兵達に覚醒者は少ねえし……城を囲む歪虚に加えて援軍まで合流した日にゃ流石の紫草もヤベェと思う。城へは紫草が手配した後続組のハンター達が向かってくれてるから、俺様達は安武城に向けて進軍している憤怒歪虚を食い止める。……頼む。どうか、力を貸してくれ」
「……分かった。急ぐとしよう」

 まるで百鬼夜行のように、城目指して進軍する歪虚達。
 それを止める為に、ハンター達は急ぎ出立した。

リプレイ本文

 ハンター達の目に映る古びた城。
 それを目指して、憤怒の歪虚の大群がゆっくりとした速度で進んで行く。
 ぞろぞろと連なるそれに、エンバディ(ka7328)は顔を顰める。
「うっわ。何アレ。うざ……!」
「随分と数が多いですね。あれも憤怒火口の影響でしょうか……」
 途切れることのない憤怒の行列を見つめる八重 春亜(ka7018)。
 ここ最近、故郷を騒がせている事件については彼女の耳にも届いていた。
 最近は大分落ち着いてきたと聞いていたのだが……この時の為に、戦力を温存していたのだろうか。
 眉根を寄せる春亜の横で、琴吹 琉那(ka6082)がかくりと首を傾げる。
「ま、相手はんは雑魔やろ? 城を狙ってはるとはいえ、兵糧攻めも水攻めもあらへん。ほなら奇襲も迎撃もしやすいわ」
「そうね。あれだけいれば適当に撃っても当たりそうだし」
「此処で少しでも数を減らす……いえ、全滅させるつもりでいかないとですね」
「ああ。気を引き締めて行こう」
 マリィア・バルデス(ka5848)とサクラ・エルフリード(ka2598)に頷く鞍馬 真(ka5819)。
 ――ここに派遣する兵の都合が悉くつかなかったとスメラギから聞いた。
 帝自らが動かなければならない状況を作り出した……そう。この敵襲自体が彼を誘き出す敵の罠であることも考えられる。
 彼は黒龍の巫。この国の人間であれば帝を害しようとは考えないだろうが――歪虚であればその限りではない。
 真がそんなことを考えている間も、アシェ-ル(ka2983)とスメラギの話し声が続いていた。
「これは、スメラギ様が将軍様に恩を売る絶好の機会ですね!」
「あ? あいつがこの程度で恩を感じてくれるかね」
「そりゃもう! 立派になりましたねー! って泣いてくださいますよ!」
「……それはそれでキモイな」
「将軍様の反応はさておき、この状況を打破すれば、公家も『防衛を寄越せ』と強くは言い難くなるでしょうか」
「それはどうかなぁ。スメラギさんも公家でしょ? そこ突かれると痛いよね……。でも、公家の兵が動けずにハンターが対応した、という事実はあるから、そっちから攻めることは出来るかも」
 セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)の呟きに考え込む龍堂 神火(ka5693)。
 スメラギもそうだなー……と頭を巡らせかけて、ぷるぷると頭を振る。
「いや、その話は後だ! 早く行こうぜ」
「スメラギさん!」
 言うが早いか、駆け出そうとした帝。
 アニス・エリダヌス(ka2491)に呼び止められて振り返る。
「何だよ。時間ねえんだぞ」
「……気が逸るのは良く分かります。だからこそ、冷静に対処しなければなりません」
 どこか自分に言い聞かせるような響きのあるアニスの言葉。
 ――安武城で、今まさに一番大切な人が戦っている。
 この状況に、気持ちがさざ波立つけれど……。
 ここを抜かれたら、今度こそあの人の危機だ。だからこそ、冷静に、確実に事を成さねばならない。
「ん。わーってるよ」
 素直に頷いたスメラギを見守る黒戌(ka4131)。
 あの城には妹も向かっていて……彼自身、スメラギやアニスの置かれた状況は他人事ではなかった。
 各々は一騎当千の兵であっても、物量差とは覆し難いもの。
 ――焦らず、だが早急に対応せねば。
 スキルを使えば馬と並走くらいは出来よう……。
 そう考えていた彼に、馬に乗ったアルスレーテ・フュラー(ka6148)が手を伸ばす。
「はいはい。黒戌、後ろ乗って」
「む? しかし……」
「妹さんがあそこにいるんでしょう? 私の姉も一緒なの。負けるような人ではないけれどね。……貴方の足が速いのは分かってるけれど、力を温存しましょ」
 コントラルト(ka4753)の気遣うような声。
 何より、その申し出は合理的に思えて……。黒戌は軽く頭を下げる。
「……相分かり申した。かたじけない」
「いいのよ。黒戌さんには逃げる敵、追いかけて貰わなきゃいけないしね」
 いくら足が速くないとはいえなかなかハードだと思うわよー、とさらりと言うアルスレーテ。
 働かせることを織り込み済の善意のようだ。流石です。
「移動手段がない方は相乗りを! それでは参ります!」
 ゴースロンの手綱を引いて叫ぶアティ(ka2729)。それが、作戦開始の合図となった。


「魔導ママチャリで走るのが1番速いって乙女として微妙な気がしますぅ……」
「大丈夫です! ルンルン忍法式の中ではママチャリは爆速です!!」
「細かいことは気にするな! 走れーー!!」
 魔導ママチャリのペダルをものすごい勢いで漕ぎながらボヤく星野 ハナ(ka5852)に、ちょっとズレた励ましをするルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は2人に並走しつつもワハハと笑い飛ばす。
 土煙をあげながら爆走する三台の魔導ママチャリ。
 馬やバイクと並走するそれは、魔導エンジンを積んで改良されているという事実があってもなかなかの視界の暴力だが、知能の低い歪虚達はそんなことも気にならないらしい。
 まっすぐに城を目指せと命じられているのか……すごいスピードで横から現れたハンター達に特に反応する様子もなく。
 陣形を崩すこともなかった為、彼らは難なく歪虚に近づくことが出来た。
「追いついたのですー! お兄様!」
「エステルに合わせる! ……総員散会! 予定通り囲い込め!」
 マテリアルを練り上げ始めるエステル・ソル(ka3983)に頷くアルバ・ソル(ka4189)。
 彼の指示に、ハンター達も素早く行動を開始した刹那、6つの火球が降り注ぎ……あっという間に炎に飲まれる歪虚。
 周囲を焼き尽くすそれを見たロジャー=ウィステリアランド(ka2900)がヒュー! と口笛を吹く。
「すっげー! 派手だなー!」
「こういう時、リアルブルーでは『たまやー!』っていうんですよ」
「へえ? そうなのか?」
「それは花火を見た時の掛け声でちゅよ! ほらほら、ロジャしゃん歪虚を通せんぼするでちゅ!」
 ルンルンの教えをそのまま受け取る紅の世界出身のロジャーにツッコむ蒼の世界出身の北谷王子 朝騎(ka5818)。
 彼らの横をすり抜けるように、空蝉(ka6951)が前に出て……閉じていた目を見開いた。
「……目標ヲ確認。コレヨリ殲滅ヲ開始シマス」
 振るわれる空蝉の剣。風を切るような音。繰り出される斬撃が次々と敵を切り裂いていく。
「ハッハッハ! 敵が雲霞の如く湧く戦場で正面に立つ誉れをそう簡単に譲っては漢が廃るわ!」
「私達が盾になります! 皆さんは後方からお願いします!」
「了解です! それじゃ思い切りいきますよ……!」
「はーい! お任せください!」
「うん。いくよー!」
 鉄爪を閃かせて敵陣に斬りこんで行くルベーノ。盾を構えるサクラに、夜桜 奏音(ka5754)とルンルン、エンバディが頷く。
「五光招来! 急急如律令!」
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法光神の術!」
「白き嵐。冷たき抱擁。両手を広げて包み込め!」
 続く詠唱。奏音とルンルンが投げた符による五光の結界と、エンバディが生み出した冷気の嵐。
 光に視界を塞がれ、冷気で氷ついた歪虚達が動きを止める。
「ハハハ! こりゃいい! 殴ってくれと言わんばかりだな!」
「ルベーノさん! 私達の役割は後衛の方を守ることですからね……!?」
「分かっている! ……が、これを殴らないでいつ殴るんだ?」
「……それはごもっともです」
 笑うルベーノに苦笑するサクラ。
 確かに、動きが鈍っているうちに減らしてしまった方がいい。
 ルベーノは全身のマテリアルを練り、水の龍が噛むが如き力を放出し、サクラは近づく敵を剣で斬り伏せて行く。
 そして仲間達が討ち漏らした歪虚を、朝騎とロジャーが丁寧に潰して回っていた。
「ロジャしゃん、今日は随分張り切ってるでちゅね」
「ん? どうせ経費はショーグン持ちなんだ。折角だから景気よくいっちゃおっかな~って」
「ああ……そういうことでちゅか」
 納得したように頷く朝騎。
 ロジャーの手にした弓からいつもより多い数の矢が発射されていると思えばそういうことらしい。
 無事に戻ってみれば、ハンター達から請求書が回って来ると考えると若干紫草が可哀想な気がして来るが……まあ、命あっての物種だ。
 多少の出費は大目に見てくれるだろう。多分。
「おっと。朝騎! 塗壁1匹ご案内だ! 頼むぜ!」
「了解でちゅ! どんどんいくでちゅよ!」
「おうよー!」


 ――果てしなく続いている憤怒の行進。
 ただただ城を目指していたそれは、正面から往く手を阻んだハンター達に先頭にいた集団が狩られ、ごっそり抜け落ちたことで変化が起きた。
 行進を放棄し、逃亡するものが現れたのだ。
 この行進自体、城にいる歪虚に命じられたものではあったのだろうが――この場には指揮官級の歪虚はいない。
 そうなると、士気を失ったものの統率は不可能。行進を離脱しようとする歪虚と、進もうとする歪虚で場が騒然とし始め……その動きは、側面から敵を叩いていたハンター達から伺い知ることが出来た。
 レイア・アローネ(ka4082)は目の前の光景に眉を顰める。
「……烏合の衆とはまさにこのことか。しかしマズいな。行進の速度は遅くなったが横に広がり始めてる」
「城に到達されては困ります。先に向かう歪虚を優先して討ちましょう」
「乱戦になるぞ。覚悟はいいか?」
「勿論です」
 歪虚を見据えたまま呟くレイアに頷く春亜。アティもワンドを構える。
「支援します。いざとなったら黄泉路からも呼び戻して差し上げますからどうぞご安心を」
「それは心強い。……では行くぞ!」
「そのいざが来ないのが一番ですけれどもね。……八重家が一子、春亜! 参ります!」
 剣と刀、それぞれの得物を抜き放ち、走り出すレイアと春亜。
 バイクを銃架代わりにして狙撃を繰り返していたマリィアが顔を上げる。
「……敵だけ狙い撃つのが難しくなってきたわ。元々歪虚の量的に包囲は無理だとは踏んでたけど、こう広がられると隙間から突破されかねないわね」
「はわわ。お兄様、どうしましょう……!」
 仲間と敵が入り乱れ始め、アワアワと慌てるエステル。アルバは暫し考えてから口を開く。
「同士討ちは避けたい。仲間がいないところを狙えるか? 出来ればなるべく沢山敵を巻き込めるのがいい」
「そうね……。敵の数を減らせば結果的に支援になるわね。露払いしてくれてる春亜達も守れるし。OK。フォールシュートに切り替えるわ」
「はい! 分かったです! じゃあ引き続き星奏を撃つです!」
 アルバの提案に銃を構え直すマリィア。すぐさま詠唱に入るエステル。彼もそれに続く。
 歪虚の群れに降り注ぐ銃弾の雨と火球の嵐。
 その攻撃で、歪虚の群れに大きな穴が開くも、すぐさま後続の歪虚が雪崩れ込んで来てその穴も塞がれて行く。
 中央横で、接敵されないように必死に光の結界を張り続けているハナも若干押され気味だった。
「ちょっと何なんですかぁ……! 敵全然減ったように見えないですよぅ!」
「ハナさん! 危ないです!」
 立ち塞がる塗壁目掛けて光の矢を連打するアシェール。
 崩れ落ちる塗壁を踏みつけ、ハナへと迫る骸骨武者。
 それを両断して、セツナがため息をつく。
「まったく、知能が低いというのも考えものですね。敵か味方かも区別しないんですから……」
「こういう数の暴力だと結構有効なのがムカつきますけどねぇ……!」
「とにかく攻撃あるのみです! 攻撃は最大の防御って言いますし!」
「露払いは引き受けます。どうぞ続けてください!」
 続いて襲ってきた歪虚を叩き伏せながら言うアシェールとセツナにこくりと頷くハナ。意を決したようにビシィ! と符を構える。
「分かったですよぅ! 私、人間砲台になりますぅ!」
「わあ! ハナさんカッコいいです!」
「人間砲台っていうとどちらかというと自分が飛んでいくイメージがあるんですけど……」
 ぱちぱちと手を叩くアシェールにでっかい冷や汗を流すセツナ。
 ハナはそれを気にせず、歪虚を睨み付ける。
「よーし! やるですよぅ! あ、ちょっと背中がお留守になっちゃうのでカバーお願いしますねぇ!」
「分かりました!」
「任せてください!!」
 アシェールとセツナの力強い返事に不敵な笑みを返すハナ。
 一瞬のうちに必要な符を揃えると、再び光の結界を作り出す――!


 攻撃は絶やさず続けているが、とにかく敵の数が多い。
 向こうは一部逃亡を開始しているものの総崩れという程ではない。
 あまりの手数の多さに、ハンター達も対処するのがやっとという状況だった。
 真はスメラギの盾になり続けながら、城の方を振り返る。
 ――幸い、戦況は均衡している。
 仲間達が突出した歪虚を優先して叩いてくれている為、城に向かう歪虚は出ていない。
 こうしている間も、ルンルンや奏音、ハナ達が派手に範囲攻撃を繰り出して敵の数を減らしてくれているし、あともう少しで押し返せるか……。
「……数が多いな。向こうも本気で潰しにかかっているということかな」
「くそ……! 神火! 塗壁そっち行った! 潰せ!」
「了解!! ……行け! ファルガ!!」
 真の呟きに焦りを滲ませるスメラギ。
 そのの声に応えて神火が符を投げる。
 紅の鎧を纏った鳥の幻影が空を舞い、生み出した風の刃で塗壁を塵に還して行く。
 そこに音もなく現れた化け提灯。
 吐き出される炎がスメラギを襲い……アニスがその前に割って入る。
 装甲の焦げた匂い。その熱さに顔を顰めた彼女。
 真の跳躍。彼の一閃が、歪虚を数体一気に両断した。
「アニスさん、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。……スメラギさん! 前に出過ぎたらダメだって言ったじゃないですか!」
「いやいや、向こうが突っ込んで来たんだよ!」
「でもスメラギさん、ボクより前に出てましたよ」
 アニスにメッ! と叱られて言い返すスメラギ。神火のバイザー越しの目線を受け止めてうぐぐ、と唸る彼に、真が苦笑する。
「きみがやられたら色々終わるものでね。多少鬱陶しくても我慢してくれ」
「わーってるよ。お前も守るものが多くて大変だな、真」
「何だい? 急に」
「いんや。お前、仕事中毒っていうか、あっちこっち飛び回って人助けしてるみてえだからさ」
「……仕事中毒と言われるとちょっと考えてしまうけど。私はただ、手が届く限りは手を伸ばしたいと思っているだけだよ」
「そうだな。手を伸ばしたいところが多すぎて手が何本あったって足りねえ」
 呟いて、己の手を見つめるスメラギ。
 ――この国を、民を、これから生まれて来るであろう黒き龍を守ると決めた。
 何かを犠牲にして国を守るのも、自分の代で最後にする。
 だからこそ、ここで紫草を犠牲にする訳にはいかないのだ。
 その為にこうして、自らこの地にやってきたのだろう。
 若き帝の想いを察して、真は小さくため息をつく。
「……きみは頑張っていると思うよ。やろうとしていることは、すぐに叶うことではないけど」
「その言葉そっくり返すぜ。誰かの為だからって、地べたに這いつくばれる奴はそういねえ。真は迷わずそういうことが出来るだろ」
「はは。きみにそんなこと言われるとは思わなかった」
「あ? お前が獄炎の影の時の戦いの時何してたか知ってっぞ」
 スメラギの言葉に真は目を見開く。
 あれは、頑張っていたのは自分だけではない。手伝いをしただけなのだが……まさかそういう評価になっていたとは。
「何だよ」
「いやぁ、きみの期待にお答えして、きちんと仕事をこなさないといけないなと改めて思ってね」
 くすりと笑って、剣を構え直す真。
 2人のやり取りを聞きながら、神火も考えていた。
 ――今回、スメラギの近くについたのは勿論彼を護る為だ。
 でも、本当は、それだけではなくて……符術師としての彼を近くで見たい気持ちがあったのだ。
 一緒に戦ってみて、改めて思う。
 スメラギは符術師としての実力もあるけれど、それだけじゃない。
 ――守るべきものを、きちんと見据えている。
 きっとそれが『強さ』に繋がっているのだろう。
 ……それに比べて、自分はどうだろう?
 ボクにも、守りたいものはある。あると、思う。
 ……それに手が届いているだろうか。守れているのだろうか?
 何のために強くなるのか。強さとは何なのか……。
「……頑張らなきゃ、ボクも」
 ぽつりと呟く神火。
 そうだ。この戦いもきっと、この国を……あの子を守ることに繋がるはずだ。
「頑張るって何をだよ」
「この戦いをですよ! スメラギさん、一緒に戦って……皆で勝ちましょう」
「そうですね。ここから先は行かせないつもりで頑張りましょう。あ、でも飛び出すのは禁止ですよ?」
「わーってるっての!!」
「皆、敵が迫ってる。積もる話は後にしようか」
 にんまりと笑う神火に頷くスメラギ。アニスのダメ押しにまた吠えて……。
 真の声に、3人はこくりと頷いて……敵と対峙する。


「……はぁっ!」
「アルスレーテさん、大丈夫!?」
「平気! コントラルト、攻撃続けて!」
「分かったわ……!」
 憤泥の攻撃を受け止めたアルスレーテ。そのまま回し蹴りで敵を沈めると、息を整えて敵と距離を取る。
 献身の祈りでコントラルトに自身の力を分け与えている彼女。
 その状況を鑑みても、あまり攻撃に転じない方が良いように思われたが……だからこそ、コントラルトに攻撃に集中して欲しい。
 そんな彼女の気持ちを察してか、琉那も黒戌も、積極的にアルスレーテとコントラルトを守るような動きを見せていた。
「お二人さん、私はいいからコントラルトを守って欲しいんだけど」
「勿論そうしてますえ? たまたまアルスレーテはんが近くにいらはるからやないの? ねえ、黒戌はん」
「うむ。効率を考えてのことで御座るよ」
「そう?」
 断言する二人に小首を傾げるアルスレーテ。
 黒戌も琉那も、本心は別なところにあるのだろうけれど……これも彼らなりの気遣いなのだろう。
 だったらこちらも、それに行動で応えるまで。
 そして、コントラルトはマテリアルを足から噴射して機動力を上げつつ、光線などを駆使して範囲攻撃を繰り返していた。
 元々、本人の攻撃威力も高い上に、アルスレーテの力も加算され、向かい来る憤怒歪虚は面白いように吹き飛んでいる。
 デルタレイをもう一撃入れようとした彼女は、敵の動きが変化したことに気が付いた。
「コントラルトはん、どうかしはりました?」
「ちょっと、敵の動きが変わった気がするんだけど……」
 琉那の問いに上空から答えるコントラルト。その言葉に、黒戌もじっと目を凝らす。
「……ゆっくりとした動きでは御座るが、敵が後退を始めているようでござるな」
「あらやだ。ホントだわ。城を諦めてくれるならいいんだけど、私達を迂回されると厄介ね……。コントラルト、追撃宜しく! 届く限りでね」
「了解よ!」
「黒戌と琉那は討ち漏らしをボコボコにしちゃって!」
「承知した。琉那殿、皆に敵が後退し始めていると通信をお願いできるで御座るか?」
「任せておくれやす。……こちら右翼。琉那どす。敵が後退し始めましたえ。気をつけておくれやす」
 アルスレーテの指示で動き出すハンター達。琉那がトランシーバーに向けて話始めると、受信音と共に声が返って来る。
「コチラ空蝉。通話ヲ受理。敵ノ状況ヲ確認シマシタ。コレヨリ追撃モードニ移行シマス」
「こちらエンバディ。皆にも伝えるねー!」
「よろしくお願いしますえ……って、空蝉さん何か話し方が変わっていらはる?」
「空蝉さん、戦いが始まってずっとこんな感じ。笑ったまま敵切り刻んでるよ。今すごい速さで敵を追い始めたし」
 エンバディの物騒な実況。
 そう。空蝉はまるで戦闘機械そのもの。笑顔を張り付けたまま、終始敵を切り刻んでいた。
「敵が後退を始めてる。エステル、深追いは禁物だぞ」
「はいです! でも極力敵の数を減らすです!」
「ああ、それでいい。良く分かってるな」
 アルバに褒められ、頬を染めるエステル。
 その横を、すごい勢いでルベーノが走って行く。
「待て! コラ逃げるな! 俺と戦え!!」
「えええ。この場合お帰り戴いた方がいいと思うんですけど……!」
 そういいつつも、敵を追い始めるサクラ。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術! そう簡単に逃がしませんよー!」
「悪いなー。それこっちの狙い通りなんだよねー」
「さすがロジャしゃん! どんどん撃つですよー!」
 そしてルンルンは逃げ惑う敵の動きを容赦なく阻害し、ロジャーと朝騎はサクサクとそれを始末して……。
「うおおお!! 薙ぎ払うですよぅーー!!」
 ハナは敵が見えなくなるまで、立派に人間砲台の役目を果たした。


「……流石にあそこまで離れりゃ戻って来ることもねえだろ。皆、お疲れさん、助かったぜ」
 スメラギの言葉にホッと安堵のため息を漏らすハンター達。
 敵は3割程残った状態ではあったが、あまりにしぶといハンター達の攻撃に最終的には戦線を維持出来ずに逃げ出した。
 結果としては上々であろう。
「少しは、国の役に立てましたでしょうか?」
「ああ、勿論だ。この調子なら紫草達にも影響出てねえだろ」
「良かったです……!」
 帝に頭を垂れながら言う春亜に頷くスメラギ。エステルが嬉しそうに跳ねる。
「セツナさんもサクラさんもこちらへ。治療しますよ」
「え? かすり傷ですよ」
「はい。数が多かったのでちょっと揉まれた程度です」
「かすり傷でも傷は傷です! さあ!」
 セツナとサクラの背中をぐいぐいと押すアティ。
 アシェールはひょい、とスメラギの顔を覗き込んだ。
「スメラギ様! 将軍と武家に恩を売るつもりはなくとも良い事をしたので、ちゃんとアピールして下さいね!」
「あ? わざわざ言うことでもないんじゃね?」
「ダメですよ! 『俺様とハンター達で危機を救ったんだ』って。スメラギ様は大きな事をするんですからアピール大事です」
「そんなもんかね……」
「確かに、そういうのってちゃんと宣伝しないと皆に伝わらないんじゃないですかね」
「そうですよ! ルンルン忍法大活躍っぷりを是非宣伝してください!」
 神火の言葉に考え込むスメラギ。続いたルンルンの言葉に、仲間達が噴き出した。


 こうして、ハンター達は歪虚の撃退に成功した。
 その後、安武城に向かったハンターと紫草が無事であったこと、城に保管されていた本物の“秘宝”発見の報せも入り、東方の動乱平定の更なる一歩を踏み出したのだった。

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MVP一覧

  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983
  • 正義なる楯
    アルバ・ソルka4189
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音ka5754
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • Xカウンターショット
    ロジャー=ウィステリアランド(ka2900
    人間(紅)|19才|男性|猟撃士
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 黒風の守護者
    黒戌(ka4131
    人間(紅)|28才|男性|疾影士
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 洗斬の閃き
    セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 忍者(自称)
    琴吹 琉那(ka6082
    人間(蒼)|16才|女性|格闘士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 潰えぬ微笑
    空蝉(ka6951
    オートマトン|20才|男性|舞刀士
  • 舞鶴の献身
    八重 春亜(ka7018
    オートマトン|18才|女性|舞刀士
  • 舌鋒のドラグーン
    エンバディ(ka7328
    ドラグーン|31才|男性|魔術師

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ロジャー=ウィステリアランド(ka2900
人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー)
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/15 20:32:19
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アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2019/01/16 10:03:15