ゲスト
(ka0000)
【東幕】願わくば侍なき世を……
マスター:近藤豊
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/17 15:00
- 完成日
- 2019/01/20 08:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
詩天と泰山で発生した騒動は、歪虚が起因していた事で治まったかに見えた。
双方が矛を収めて統制を強化していたが、火種は思わぬところから上がってきた。
「水野殿っ!」
三条家軍師の水野 武徳(kz0196) は張る本陣に、楠木 香(kz0140)が飛び込んできた。
余程急いで 来たのだろう。息を切らせながら、礼をそこそこに武徳へ対面する。
一方、武徳は。
「思ったよりも早かったな」
「その落ち着きよう……来るのを察しておられたな」
香と対称的な武徳の態度。
事の発端は、幕府の影響力低下にあった。度重なる雑魔の襲撃や高位歪虚の暗躍を許した事で高い戦力を保有する幕府の不要論を叫ばれ始めたのだ。
特に朝廷側から大政奉還を要求するかのような発言も飛び出した事で、東方の諸国は大きく揺れる事になった。
「先日も命を狙われたからな。それに手紙も届いておる故……」
「手紙?」
「いや、何でもない。それより……反乱した国衆を討ちにきたか?」
「……!」
香は言葉を詰まらせる。
香が急遽詩天へ急いだ理由は、詩天内での『内乱』であった。
幕府の求心力低下による朝廷の発言権増大。さらに幕府から武家へ発令された『民の敵たる歪虚を殲滅せよ』という命は、各武家の武力増強に正当性を与える事となった。
軍備か整えば、野心を持つ者も現れる。
武徳は静かに語り始める。
「先日、隠忍倭衆が掴んだ話では武家の間で三条家に対する流言工作が仕掛けられておったわ。下位の武家である三条家が、次期政権の要職を狙い、真美様を帝へ差し出したとな」
「馬鹿な。三条家はお家存続の為に、婚儀には反対であろう!」
「工作を仕掛けた者にとって、真実などどうでも良い。必要な事は国衆を動かす事じゃからな」
流言を仕掛けた者の思惑は成功した。
この流言で困った国衆は、勝ち組と定めて幕府に関与せんとする三条家を見限り、反乱を起こしたのだ。
武徳は騒乱に備えていた為、国衆が若峰の北にある入間原へ集まった所を見計らって布陣。敢えて奇襲を行わず、睨み合う形を取っていた。
「その者は東方を再び戦国の世へ戻す気なのか……」
「これもすべて幕府が不甲斐なさよ。帝が心を痛め、朝廷と幕府を廃そうとなされるのも分かるわい」
「…………」
「楠木殿、単身で参ったのではあるまい? 手勢はどうされた?」
「入間原の南で待機させている」
「ならば良い。幕府の兵まで現れたとなれば、国衆は降伏どころか死兵となってこちらへ攻め入るであろうからな。被害を抑える為に仕掛けた策が失敗するところじゃったわ」
「策?」
香は問いかけた。
既に武徳は国衆鎮圧へと動いていたようだ。それを示すかのように隠忍倭衆が一人姿を見てる。
「殿。理鶯山に陣が張られております。馬印は、三階笠。若き武将が命を下しております」
「なるほど、黒幕は観音坂か。あの生真面目息子が工作とはのぅ。
ハンターへ理鶯山で布陣する敵陣を攻撃するよう伝令を走らせい。武将は生け捕りでも討ち取っても構わん」
武徳は、隠密に敵陣を探らせていた。
国衆との交戦を見計らって武徳を奇襲するのであれば、何処かからこちらの動きを見張っているはず。武徳はそれを逆手に取り、敵陣をハンターに奇襲させるつもりだった。
「待て、水野殿。観音坂を生け捕ってどうされるつもりだ?」
「処遇は検討するが、君主の子息が他国へ工作を仕掛けたのじゃ。出方次第じゃが、打ち首も致し方あるまい」
「……!」
香も覚悟した答えであった。
他国への工作を子息の暴発として処理すれば、三条家と観音坂家の衝突は手打ちとなる。その場合、攻め入った子息は切腹。
逆に観音坂家が抵抗すれば三条家は対抗せざるを得ない。その場合、双方で戦闘は大規模化。民の血は流れ、子息は打ち首となるだろう。
「戦が大きくなればさらに大きな戦乱となる、か。子息を生かせば責任の所在は何処へ求めるのか……」
「これも戦国の世の習いよ。そうせねば、裏切った国衆を罰せねばならん。見せしめも仕方あるまい。
そして、この事件をおぬしは忘れてはならん。元糺せば幕府が招いた種。時流を見失えば、更なる血が流れる事と知れ」
武徳の言葉が、香の心へ突き刺さった。
●
「馬鹿な! ここに来て、父は私を見捨てるのか!」
若き武将、観音坂智則は憤慨した。
父であり、隣国の領主の観音坂公康は幕府を救う名目で智則に三条家攻略を命じていた。
すべては幕府を利用せんとする三条家を倒し、幕府への忠義を示す為。
最初は反対していたが、公康の説得に応じた智則。
己の殺して工作を指示したが、公康は旗色が悪いと判断した途端、自らは何も知らなかった、すぐに投降しろとの手紙を寄越した。
切り捨てられた。
それが智則の抱いた率直な言葉であった。
「若、如何されますか?」
「…………」
年老いた老将の言葉に、智則は黙した。
死が怖いのではない。このまま国衆と共に三条家と戦っても、本国は争う気がない。下手をすれば本国と三条家の双方から討たれる。国衆もただでは済まない。
では、投降して黒幕は公康だと訴えるか? いや、詩天での工作は事実であり、自らの切腹は免れない。さらに三条家も争う気の無い観音坂家と争えば第三国の介入を招く恐れもある。真実が異なると分かっていても自分の切腹で手討ちとするだろう。
「下手に生かせば、責任の所在は父上へ求める事となる。それは悪戯に民の血を流す事になる、か」
「若?」
家臣の問いかけに、智則は心を決めた。
「爺、腹を決めた。
戦だ。この智則、汚名を着て戦場で散って見せよう!」
猛る智則。
しかし、本陣にハンターが迫っている事を、智則は知らなかった。
双方が矛を収めて統制を強化していたが、火種は思わぬところから上がってきた。
「水野殿っ!」
三条家軍師の水野 武徳(kz0196) は張る本陣に、楠木 香(kz0140)が飛び込んできた。
余程急いで 来たのだろう。息を切らせながら、礼をそこそこに武徳へ対面する。
一方、武徳は。
「思ったよりも早かったな」
「その落ち着きよう……来るのを察しておられたな」
香と対称的な武徳の態度。
事の発端は、幕府の影響力低下にあった。度重なる雑魔の襲撃や高位歪虚の暗躍を許した事で高い戦力を保有する幕府の不要論を叫ばれ始めたのだ。
特に朝廷側から大政奉還を要求するかのような発言も飛び出した事で、東方の諸国は大きく揺れる事になった。
「先日も命を狙われたからな。それに手紙も届いておる故……」
「手紙?」
「いや、何でもない。それより……反乱した国衆を討ちにきたか?」
「……!」
香は言葉を詰まらせる。
香が急遽詩天へ急いだ理由は、詩天内での『内乱』であった。
幕府の求心力低下による朝廷の発言権増大。さらに幕府から武家へ発令された『民の敵たる歪虚を殲滅せよ』という命は、各武家の武力増強に正当性を与える事となった。
軍備か整えば、野心を持つ者も現れる。
武徳は静かに語り始める。
「先日、隠忍倭衆が掴んだ話では武家の間で三条家に対する流言工作が仕掛けられておったわ。下位の武家である三条家が、次期政権の要職を狙い、真美様を帝へ差し出したとな」
「馬鹿な。三条家はお家存続の為に、婚儀には反対であろう!」
「工作を仕掛けた者にとって、真実などどうでも良い。必要な事は国衆を動かす事じゃからな」
流言を仕掛けた者の思惑は成功した。
この流言で困った国衆は、勝ち組と定めて幕府に関与せんとする三条家を見限り、反乱を起こしたのだ。
武徳は騒乱に備えていた為、国衆が若峰の北にある入間原へ集まった所を見計らって布陣。敢えて奇襲を行わず、睨み合う形を取っていた。
「その者は東方を再び戦国の世へ戻す気なのか……」
「これもすべて幕府が不甲斐なさよ。帝が心を痛め、朝廷と幕府を廃そうとなされるのも分かるわい」
「…………」
「楠木殿、単身で参ったのではあるまい? 手勢はどうされた?」
「入間原の南で待機させている」
「ならば良い。幕府の兵まで現れたとなれば、国衆は降伏どころか死兵となってこちらへ攻め入るであろうからな。被害を抑える為に仕掛けた策が失敗するところじゃったわ」
「策?」
香は問いかけた。
既に武徳は国衆鎮圧へと動いていたようだ。それを示すかのように隠忍倭衆が一人姿を見てる。
「殿。理鶯山に陣が張られております。馬印は、三階笠。若き武将が命を下しております」
「なるほど、黒幕は観音坂か。あの生真面目息子が工作とはのぅ。
ハンターへ理鶯山で布陣する敵陣を攻撃するよう伝令を走らせい。武将は生け捕りでも討ち取っても構わん」
武徳は、隠密に敵陣を探らせていた。
国衆との交戦を見計らって武徳を奇襲するのであれば、何処かからこちらの動きを見張っているはず。武徳はそれを逆手に取り、敵陣をハンターに奇襲させるつもりだった。
「待て、水野殿。観音坂を生け捕ってどうされるつもりだ?」
「処遇は検討するが、君主の子息が他国へ工作を仕掛けたのじゃ。出方次第じゃが、打ち首も致し方あるまい」
「……!」
香も覚悟した答えであった。
他国への工作を子息の暴発として処理すれば、三条家と観音坂家の衝突は手打ちとなる。その場合、攻め入った子息は切腹。
逆に観音坂家が抵抗すれば三条家は対抗せざるを得ない。その場合、双方で戦闘は大規模化。民の血は流れ、子息は打ち首となるだろう。
「戦が大きくなればさらに大きな戦乱となる、か。子息を生かせば責任の所在は何処へ求めるのか……」
「これも戦国の世の習いよ。そうせねば、裏切った国衆を罰せねばならん。見せしめも仕方あるまい。
そして、この事件をおぬしは忘れてはならん。元糺せば幕府が招いた種。時流を見失えば、更なる血が流れる事と知れ」
武徳の言葉が、香の心へ突き刺さった。
●
「馬鹿な! ここに来て、父は私を見捨てるのか!」
若き武将、観音坂智則は憤慨した。
父であり、隣国の領主の観音坂公康は幕府を救う名目で智則に三条家攻略を命じていた。
すべては幕府を利用せんとする三条家を倒し、幕府への忠義を示す為。
最初は反対していたが、公康の説得に応じた智則。
己の殺して工作を指示したが、公康は旗色が悪いと判断した途端、自らは何も知らなかった、すぐに投降しろとの手紙を寄越した。
切り捨てられた。
それが智則の抱いた率直な言葉であった。
「若、如何されますか?」
「…………」
年老いた老将の言葉に、智則は黙した。
死が怖いのではない。このまま国衆と共に三条家と戦っても、本国は争う気がない。下手をすれば本国と三条家の双方から討たれる。国衆もただでは済まない。
では、投降して黒幕は公康だと訴えるか? いや、詩天での工作は事実であり、自らの切腹は免れない。さらに三条家も争う気の無い観音坂家と争えば第三国の介入を招く恐れもある。真実が異なると分かっていても自分の切腹で手討ちとするだろう。
「下手に生かせば、責任の所在は父上へ求める事となる。それは悪戯に民の血を流す事になる、か」
「若?」
家臣の問いかけに、智則は心を決めた。
「爺、腹を決めた。
戦だ。この智則、汚名を着て戦場で散って見せよう!」
猛る智則。
しかし、本陣にハンターが迫っている事を、智則は知らなかった。
リプレイ本文
その世界に秩序をもたらしたのは、幕府であった。
武家の確立と武力による統治。それは、修羅道と化した世を一時は正した。
しかし――。
幕府の統治が衰えれば修羅道の世が再び顔を見せ始める。
「何奴っ!」
観音坂家の本陣に老将の怒声が響く。
それの声を受け、本陣へ雪崩れ込むハンターの面々。
「参ります」
幕の向こうから飛びだしたエルバッハ・リオン(ka2434)は、布を翻しながら本陣内の敵を見定める。
侍が7人。
感覚で捉えれば――全員覚醒者。
まだ敵は柄に手を掛けてもいない。奇襲が成功したならば、早々に仕掛けるのは必定。
「一気に攻め落とします」
リオンの錬金杖「ヴァイザースタッフ」から生じたファイアーボール。
侍が刀を抜く前に炸裂する火炎弾。隣の侍を巻き込んで大きな爆発を引き起こす。
この陣へ飛び込んだ瞬間から、リオンは覚悟を決めていた。
戦況から鑑みても観音坂智則の退路は断たれている。
捕縛されれば良くて切腹。通常は磔や討ち首が執り行われる。本国へ逃げ帰っても既に君主である観音坂公康は智則を見放した。反逆と見なされ、討ち首とされるだろう。
捨て駒。
それが智則を称するに最適な言葉だ。リオンはそんな智則を憐れに思い、死に花ぐらいは咲かせてやると決めていた。
「敵襲かっ! 皆、若を守るのじゃ」
長年生きてきたであろう老将は、周囲の若武者へ呼び掛ける。
状況から襲撃者が三条家軍師水野 武徳(kz0196)の放った刺客だと気付いている。今、老将に課せられた役目は、智則を生かしてこの修羅場から脱出させる事だ。
――だが。
「何処へ、行かれるというのです?」
聖罰刃「ターミナー・レイ」を片手に老将の前へ立ったハンス・ラインフェルト(ka6750)。
戦場には似付かわしくない着物姿ではあるが、その風格は一角の将。老将は手にした刀を抜き放った。
「戦場で堂々と我らに挑むか」
「……水野様も面白い依頼をなさる。こういう依頼は好きですよ、フフフ」
「!? くっ、おぬしらは傭兵か!」
老将は、斬り掛かる。
上段から振り下ろした一撃を、ハンスは体を翻して回避する。
その表情に一切の焦りは無い。
「私も稀に考えるのです。歪虚ではなく、同じ覚醒者が刃を交えればどうなるか。
あなた方もハンターならハンターズオフィスは双方の依頼を受理するのでしょうか。それとも握りつぶすのか。考えるだけでも楽しそうだとは思いませんか」
ターミナー・レイの柄を握るハンス。
そこから放たれる殺気を老将は瞬時に感じ取る。
「……人斬りか。傭兵稼業で己の要求を満たすか」
「人を斬ってこその剣客。これもまた否定できない事実ですよ」
唾をゴクリと飲み込む老将。
ハンスの殺気に緊張感を隠しきれない。
一方、老将の命で智則の護衛に入ろうとする若武者達だったが――。
「面白い。名も命も投げ打ってまで戦いに挑むというのなら……私も貴様等の望みに応えるまでだ」
不動 シオン(ka5395)は、剛刀「大輪一文字」を片手に若武者達の前へ立つ。
シオンもまた、この戦いにある種特別な思いを抱いて馳せ参じていた。
名誉も。
命も。
すべてを捨て去り、退路無き死闘を挑んでくる相手。
そして、そのような相手が抱く覚悟に全力を持って応える。
シオンは、この時を待ち続けていたのだ。
「この戦いで命を落としても、決して無駄死にとは呼ばせない。誰にも、だ」
大輪一文字から繰り出される突き。
チャージングにより威力を引き上げられ、苛烈な一撃が若武者の鎧を捉える。
古い時代の甲冑なのだろう。刀の斬撃であれば防ぎ切れるのかもしれないが、鋭い切っ先の突きを完全に防ぎ切る事はできない。
鎖骨辺りに突き刺さった刀身。引き抜かれると同時に、呼吸をする暇もなく若武者は力無く地面へ倒れる。
「み、皆……」
突然の襲撃に狼狽える智則。
だが、こうなる事は分かっていた。
君主公康の命で詩天に流言工作を仕掛け、若峰から遠い国衆に反乱を起こさせる。その国衆を扇動する形で智則が若峰へ攻め上がる手筈であった。
しかし、その目論見は武徳に看破され、入間原で三条家と国衆が睨み合っている。その状況を知った公康も旗色が悪いと察して子息である智則を切り捨てた。
帰る場所を失った智則に残されたのは、汚名を着てでも戦場で勇敢に戦って死ぬ事。
死は――免れる事のできない『結果』であった。
「さて。俺様ちゃんの出番かな」
襲撃したハンター達が若武者を押さえる最中、ゆっくりと智則に近づく者。
ゾファル・G・初火(ka4407)。
死地を望み、喧嘩に明け暮れるゾファルであったが、今日はあの思い出の装備に身を包んで姿を現した。
「おぬしは……?」
「あん? そうか、東方ってぇのは口上ってぇのがあるんだったな」
ため息をつくゾファル。
まるでメインディッシュを前にテーブルマナーを求められて面倒そうな雰囲気だ。
だが、今日ばかりはゾファルも付き合ってやるつもりだ。
死地に身を投じ、覚悟を決めた若者の『門出』だ。
付き合ってやってもバチは当たらない。
「三条家軍師、水野武徳の食客。ゾファル・G・初火。俺様ちゃんがお前に一騎討ちを申し込んでやるぜ」
「観音坂家嫡男、観音坂智則……いざ、参るっ!」
●
瞬く間に本陣は、戦場独特の雰囲気に包まれる。
無理もない。ハンター達は武徳からは早期決着を打診されているのだ。
仮に戦いが長引いて智則が国衆へ全軍突撃を命じられれば、三条家と国衆が正面から激突する。そうなっても三条家の勝利は間違いないが、観音坂家に加担した国衆を放置する事はできない。
武徳は、国衆の土地に残った妻子も厳しく罰せなくてはならない。
それは詩天の地に禍根を残すだけではなく、新しい時代を前に古い慣習に縛られた所業を行わなければならなくなる。
流す血は、少なくしたい。
それが武徳の願いであった。
「身代わりを立てて逃げ、再起を図るが奸雄。その上で生国に戻り下克上して自分が盟主となれば英雄。どちらでもなかった貴方方の主君はここで死ぬのが一番幸せだと思いますよ」
ハンスの一撃を、老将は辛うじて受け流す。
既にハンスからの斬撃を数回受けている。
老将も年齢を重ねて相応の修羅場は潜ってきた。
だが、眼前に立つハンスの力量も度胸も殺気も、すべてが段違いだ。
(何故傭兵がかような力を……)
「智則さん、でしたか? あちらはゾファルさんが楽しみたいそうですから。私は数を『楽しめれば』十分です。幸い、貴方なら首を討ち取っても塩漬けなどせず放置で十分でしょう?」
苦悶の表情を浮かべる老将の前で、ハンスは不敵な笑みを浮かべる。
「そのような力を、何処で……」
「聞いても役に立ちませんよ。間もなく骸を晒すのですから」
「抜かせ! 貴様は許さん。
若には奸雄の真似などできるはずもない。国へ帰って公康様を討つ事はできても、民を犠牲になどできん御方だ。愚弄などさせん!」
老将が言い放つ精一杯の言葉。
だが、ハンスには分かる。その老将の言葉は、智則が実直であり、真面目であり、民を愛する者である事が。
だからこそ、君主にはなれない。
平時ならば最良の武将かもしれないが、歪虚と争い、幕府や朝廷と政争で火花を散らす戦いだ。かような若き将こそ、新しい時代に力を振るうべきだが。
「本当に惜しい人材ですね」
「……!」
ハンスの一言に気を抜いた老将。
次の瞬間、老将の首元に向けて放たれる一閃。
頸動脈を捉え、激しく血が流れ出す。
「若……申し訳、ありませぬ……」
そう言い残し、前のめりで倒れる老将。
恨むべきは老将の定めか。
それとも生まれ出でた時代か。
しかし、ハンスは振り返らない。
今、自分が立つ場所は人の命を散らす合戦の場だと知っているから。
「まだ足りません。門出に相応しい、深紅の薔薇でこの地を染めるには……」
ハンスは、血を求めて若武者へと向かって斬り掛かった。
●
「どうした。その程度か? 私の肌に傷一つ付けられんようでは刀の錆にもならんぞ?」
シオンは、敢えて若武者を煽った。
決して若武者を侮辱しているのではない。この地で命を賭して戦う覚悟をした者達が相手なのだ。
だからこそ、シオンは決して手を抜かない。
それは己が命を賭すに値する存在の為に、刀を振るう者達だから。
如何に彼らが自分よりも力量が下であろうとも、彼らを前に全力で挑まなければならない。
「うおおっ!」
焦れるように飛び出す斬り掛かる若武者。
決死の突撃なのだろうが、既に何度も斬り掛かっている為にシオンに動きは読まれている。
右からの横薙ぎを既の所で交わしたシオン。
過ぎゆく刃の一瞬を突いて、電光石火による一撃。
大輪一文字は、若武者の首を捉え引き裂かれる。
地面に向かって流れ出る血。その合間から漏れ出でる呼吸音。
しかし、若武者の顔に敗戦の色は見られない。
「もらった!」
シオンの残心を狙って、別の若武者が斬り掛かる。
若武者達は始めから一人を犠牲にしてもう一人がシオンを攻撃する方法に賭けていたのだ。
だが、それでもシオンの潜り抜けてきた修羅場には届かない。
「遅い」
シオンは振り向くと同時に、若武者へ抜き胴の一撃。
既に何度も攻撃を受けていた甲冑は砕け、大輪一文字の刃は若武者の腹部を捉えていた。
噴き出す血。
その流れ出る量を見るだけで、若武者が致命傷を負った事が分かる。
「……む、無念」
「忘れない。この戦いを」
倒れる若武者を前に、シオンはそう呟いた。
勝ち目が無くても覚悟を決めてシオンに挑んだ者達。
名を知らぬ相手ではあるが、東方の時代に取り残されて死んでいった者をシオンは敬意を持って戦ったのだ。
●
ハンター達の間で、智則とゾファルの一騎討ちに異論は出されなかった。
それはリオンも同意。だからこそ、リオンは本陣に残った若武者を相手にしている。彼らもまた、己が立たされた立場を理解しているはずだ。ならば、リオンもまた彼らに対して相応の礼儀を持って『接する』他無い。
「!」
若武者の一撃をリオンはシールド「リパルション」で受け止める。
至近距離まで接近する若武者。
その表情から彼らが追い詰められた鼠のようだ。
そして、そのような鼠だからこそ相手が猫であっても果敢に挑んでくる。
「若! 国衆に命じて下され。水野に攻めて一矢を」
若武者から智則への懇願。
そう、この戦いは追い詰められた末に暴発する可能性を孕んでいた。
国衆と三条家が激突すれば、また多くの血が流れ禍根が生まれる。
このような戦いが再び発生する恐れが出てくる。
それがリオンにも理解できていたからこそ……。
「絶対にさせません」
リオンは若武者から距離を取った後、頭上に3つの火球を生み出した。
それらの火球を国衆から離れた場所で炸裂させる。
誰もいない場所に吹き荒れる炎。
爆炎の存在に国衆達も気付いたようだ。
――警告。動けば、次のメテオウォームは直撃させる。
「これで国衆も臆してすぐには動けないでしょう」
再び斬り掛かる若武者。
このリオンの攻撃は国衆を脅すだけではなく、本陣が攻撃を受けている事を国衆に気付かせる結果となった。国衆からしてみれば、庇護してくれた観音坂家が攻撃を受けている。もし、観音坂家が倒されれば自分達の処遇はどうなるのか。このまま攻撃すれば、一族郎党処罰される事は明白。
混乱は、瞬く間に国衆達へ伝播していく。
「ならば、ここで貴様を止めてくれる」
刀を手に突進する若武者。
だが、リオンは既に懐から符を手にしていた。
頭上に向けて放り投げられる符。
次の瞬間、稲妻が若武者の体を貫いた。
焼けた匂いが周囲に広がっていく。
「斬り合いで倒せない事はお詫びします。これが私の戦い方なんです」
●
三人のハンターにより、智則の護衛は瞬く間に討ち取られていく。
それは智則が迎える終焉のカウントダウンとなっていた。
「……くっ」
焦れた智則が前へ出る。
下段から構えた刀を大きく上へ振り抜いた。
だが、その一撃をゾファルはパリィグローブ「ディスターブ」で受け止める。
「どうした? お前の死地はそんなもんか?」
ゾファルは敢えて智則を挑発する。
武徳の屋敷で勝手に食客を名乗り入り浸っているのも、こうした荒事が舞い込んでくるからだ。武徳ならばきっと最適な『死地』を用意してくれる。
今回の一件もそうだ。
ゾファルにとって智則はよく知らない将だ。それでも本国から切り捨てられ、生き残る事が困難な状況へと陥った事は理解できる。
そうした者程、命の炎が燃え尽きるその瞬間に咲き誇る。
「死に物狂いで来いよ。道場での剣術じゃ、俺様ちゃんには勝てねぇぞ」
智則は言い放つゾファルを静かに見据えた。
実はゾファルの指摘通り、この戦いが智則にとっての初陣である。実戦経験の無い智則は道場で剣術を学んできたものの、合戦で刀を握るのは初めてである。
普通ならば、臆して逃げ出し無様を晒すだろう。
だが、智則はゾファルの前で凛とする姿を見せている。どうやら相応の覚悟を持っているようだ。
「本国に戻ろうと捕縛されようと、要らぬ血が流れるは必定。ならば、この刀が折れる瞬間まで正々堂々戦って散ってみせる。それが、私にできる唯一の役目だ」
「へぇ、いい色を見せてくれるじゃん。智則ちゃん」
それは、死に直面した者のみが放つ色。
普段は自ら死地に飛び込んでいるが、今回は智則が死を覚悟。既に刀を躱しながら、何発か拳を叩き込んでいる。身も心も限界な事は智則も分かっているはずだ。
――次の一撃でケリを付ける。
ゾファルは直感的に感じ取った。
「決着を付けるか。これが貴様の望んだ戦いだ。最早これで悔いは無かろう?
……何か言い残す事はあるか?」
若武者達を片付け終えたシオンが声を掛ける。
この戦いの幕引きを前に、その胸中を聞いておきたかった。
呼吸を整えた智則の口から一言。
「願わくば、侍なき世を……」
侍なき世。
古い慣習と強き者が支配する世界。
新政府になれば、このような世界は変わるのだろうか。
自分のような死を迎える者が減る事を――願っている。
「参る!」
智則は前に出る。
繰り出すは、大きく踏み込んでからの突き。
しかし、その突きは虚空へ吸い込まれる。
蒼機拳「ドラセナ」を振るったゾファルは、桜吹雪の幻影を生み出した。
ゾファルの姿を見失うも、智則はその攻撃を急には止められない。
その隙を突き、ドラセナが智則の甲冑を打ち砕く。
深く突き刺さる拳。智則の胸部を貫いた。
「最後のは、いい一撃じゃん。願いを込めた一撃だったじゃん」
耳元で囁くゾファル。
満足したかのように智則は静かに倒れた。
武家の確立と武力による統治。それは、修羅道と化した世を一時は正した。
しかし――。
幕府の統治が衰えれば修羅道の世が再び顔を見せ始める。
「何奴っ!」
観音坂家の本陣に老将の怒声が響く。
それの声を受け、本陣へ雪崩れ込むハンターの面々。
「参ります」
幕の向こうから飛びだしたエルバッハ・リオン(ka2434)は、布を翻しながら本陣内の敵を見定める。
侍が7人。
感覚で捉えれば――全員覚醒者。
まだ敵は柄に手を掛けてもいない。奇襲が成功したならば、早々に仕掛けるのは必定。
「一気に攻め落とします」
リオンの錬金杖「ヴァイザースタッフ」から生じたファイアーボール。
侍が刀を抜く前に炸裂する火炎弾。隣の侍を巻き込んで大きな爆発を引き起こす。
この陣へ飛び込んだ瞬間から、リオンは覚悟を決めていた。
戦況から鑑みても観音坂智則の退路は断たれている。
捕縛されれば良くて切腹。通常は磔や討ち首が執り行われる。本国へ逃げ帰っても既に君主である観音坂公康は智則を見放した。反逆と見なされ、討ち首とされるだろう。
捨て駒。
それが智則を称するに最適な言葉だ。リオンはそんな智則を憐れに思い、死に花ぐらいは咲かせてやると決めていた。
「敵襲かっ! 皆、若を守るのじゃ」
長年生きてきたであろう老将は、周囲の若武者へ呼び掛ける。
状況から襲撃者が三条家軍師水野 武徳(kz0196)の放った刺客だと気付いている。今、老将に課せられた役目は、智則を生かしてこの修羅場から脱出させる事だ。
――だが。
「何処へ、行かれるというのです?」
聖罰刃「ターミナー・レイ」を片手に老将の前へ立ったハンス・ラインフェルト(ka6750)。
戦場には似付かわしくない着物姿ではあるが、その風格は一角の将。老将は手にした刀を抜き放った。
「戦場で堂々と我らに挑むか」
「……水野様も面白い依頼をなさる。こういう依頼は好きですよ、フフフ」
「!? くっ、おぬしらは傭兵か!」
老将は、斬り掛かる。
上段から振り下ろした一撃を、ハンスは体を翻して回避する。
その表情に一切の焦りは無い。
「私も稀に考えるのです。歪虚ではなく、同じ覚醒者が刃を交えればどうなるか。
あなた方もハンターならハンターズオフィスは双方の依頼を受理するのでしょうか。それとも握りつぶすのか。考えるだけでも楽しそうだとは思いませんか」
ターミナー・レイの柄を握るハンス。
そこから放たれる殺気を老将は瞬時に感じ取る。
「……人斬りか。傭兵稼業で己の要求を満たすか」
「人を斬ってこその剣客。これもまた否定できない事実ですよ」
唾をゴクリと飲み込む老将。
ハンスの殺気に緊張感を隠しきれない。
一方、老将の命で智則の護衛に入ろうとする若武者達だったが――。
「面白い。名も命も投げ打ってまで戦いに挑むというのなら……私も貴様等の望みに応えるまでだ」
不動 シオン(ka5395)は、剛刀「大輪一文字」を片手に若武者達の前へ立つ。
シオンもまた、この戦いにある種特別な思いを抱いて馳せ参じていた。
名誉も。
命も。
すべてを捨て去り、退路無き死闘を挑んでくる相手。
そして、そのような相手が抱く覚悟に全力を持って応える。
シオンは、この時を待ち続けていたのだ。
「この戦いで命を落としても、決して無駄死にとは呼ばせない。誰にも、だ」
大輪一文字から繰り出される突き。
チャージングにより威力を引き上げられ、苛烈な一撃が若武者の鎧を捉える。
古い時代の甲冑なのだろう。刀の斬撃であれば防ぎ切れるのかもしれないが、鋭い切っ先の突きを完全に防ぎ切る事はできない。
鎖骨辺りに突き刺さった刀身。引き抜かれると同時に、呼吸をする暇もなく若武者は力無く地面へ倒れる。
「み、皆……」
突然の襲撃に狼狽える智則。
だが、こうなる事は分かっていた。
君主公康の命で詩天に流言工作を仕掛け、若峰から遠い国衆に反乱を起こさせる。その国衆を扇動する形で智則が若峰へ攻め上がる手筈であった。
しかし、その目論見は武徳に看破され、入間原で三条家と国衆が睨み合っている。その状況を知った公康も旗色が悪いと察して子息である智則を切り捨てた。
帰る場所を失った智則に残されたのは、汚名を着てでも戦場で勇敢に戦って死ぬ事。
死は――免れる事のできない『結果』であった。
「さて。俺様ちゃんの出番かな」
襲撃したハンター達が若武者を押さえる最中、ゆっくりと智則に近づく者。
ゾファル・G・初火(ka4407)。
死地を望み、喧嘩に明け暮れるゾファルであったが、今日はあの思い出の装備に身を包んで姿を現した。
「おぬしは……?」
「あん? そうか、東方ってぇのは口上ってぇのがあるんだったな」
ため息をつくゾファル。
まるでメインディッシュを前にテーブルマナーを求められて面倒そうな雰囲気だ。
だが、今日ばかりはゾファルも付き合ってやるつもりだ。
死地に身を投じ、覚悟を決めた若者の『門出』だ。
付き合ってやってもバチは当たらない。
「三条家軍師、水野武徳の食客。ゾファル・G・初火。俺様ちゃんがお前に一騎討ちを申し込んでやるぜ」
「観音坂家嫡男、観音坂智則……いざ、参るっ!」
●
瞬く間に本陣は、戦場独特の雰囲気に包まれる。
無理もない。ハンター達は武徳からは早期決着を打診されているのだ。
仮に戦いが長引いて智則が国衆へ全軍突撃を命じられれば、三条家と国衆が正面から激突する。そうなっても三条家の勝利は間違いないが、観音坂家に加担した国衆を放置する事はできない。
武徳は、国衆の土地に残った妻子も厳しく罰せなくてはならない。
それは詩天の地に禍根を残すだけではなく、新しい時代を前に古い慣習に縛られた所業を行わなければならなくなる。
流す血は、少なくしたい。
それが武徳の願いであった。
「身代わりを立てて逃げ、再起を図るが奸雄。その上で生国に戻り下克上して自分が盟主となれば英雄。どちらでもなかった貴方方の主君はここで死ぬのが一番幸せだと思いますよ」
ハンスの一撃を、老将は辛うじて受け流す。
既にハンスからの斬撃を数回受けている。
老将も年齢を重ねて相応の修羅場は潜ってきた。
だが、眼前に立つハンスの力量も度胸も殺気も、すべてが段違いだ。
(何故傭兵がかような力を……)
「智則さん、でしたか? あちらはゾファルさんが楽しみたいそうですから。私は数を『楽しめれば』十分です。幸い、貴方なら首を討ち取っても塩漬けなどせず放置で十分でしょう?」
苦悶の表情を浮かべる老将の前で、ハンスは不敵な笑みを浮かべる。
「そのような力を、何処で……」
「聞いても役に立ちませんよ。間もなく骸を晒すのですから」
「抜かせ! 貴様は許さん。
若には奸雄の真似などできるはずもない。国へ帰って公康様を討つ事はできても、民を犠牲になどできん御方だ。愚弄などさせん!」
老将が言い放つ精一杯の言葉。
だが、ハンスには分かる。その老将の言葉は、智則が実直であり、真面目であり、民を愛する者である事が。
だからこそ、君主にはなれない。
平時ならば最良の武将かもしれないが、歪虚と争い、幕府や朝廷と政争で火花を散らす戦いだ。かような若き将こそ、新しい時代に力を振るうべきだが。
「本当に惜しい人材ですね」
「……!」
ハンスの一言に気を抜いた老将。
次の瞬間、老将の首元に向けて放たれる一閃。
頸動脈を捉え、激しく血が流れ出す。
「若……申し訳、ありませぬ……」
そう言い残し、前のめりで倒れる老将。
恨むべきは老将の定めか。
それとも生まれ出でた時代か。
しかし、ハンスは振り返らない。
今、自分が立つ場所は人の命を散らす合戦の場だと知っているから。
「まだ足りません。門出に相応しい、深紅の薔薇でこの地を染めるには……」
ハンスは、血を求めて若武者へと向かって斬り掛かった。
●
「どうした。その程度か? 私の肌に傷一つ付けられんようでは刀の錆にもならんぞ?」
シオンは、敢えて若武者を煽った。
決して若武者を侮辱しているのではない。この地で命を賭して戦う覚悟をした者達が相手なのだ。
だからこそ、シオンは決して手を抜かない。
それは己が命を賭すに値する存在の為に、刀を振るう者達だから。
如何に彼らが自分よりも力量が下であろうとも、彼らを前に全力で挑まなければならない。
「うおおっ!」
焦れるように飛び出す斬り掛かる若武者。
決死の突撃なのだろうが、既に何度も斬り掛かっている為にシオンに動きは読まれている。
右からの横薙ぎを既の所で交わしたシオン。
過ぎゆく刃の一瞬を突いて、電光石火による一撃。
大輪一文字は、若武者の首を捉え引き裂かれる。
地面に向かって流れ出る血。その合間から漏れ出でる呼吸音。
しかし、若武者の顔に敗戦の色は見られない。
「もらった!」
シオンの残心を狙って、別の若武者が斬り掛かる。
若武者達は始めから一人を犠牲にしてもう一人がシオンを攻撃する方法に賭けていたのだ。
だが、それでもシオンの潜り抜けてきた修羅場には届かない。
「遅い」
シオンは振り向くと同時に、若武者へ抜き胴の一撃。
既に何度も攻撃を受けていた甲冑は砕け、大輪一文字の刃は若武者の腹部を捉えていた。
噴き出す血。
その流れ出る量を見るだけで、若武者が致命傷を負った事が分かる。
「……む、無念」
「忘れない。この戦いを」
倒れる若武者を前に、シオンはそう呟いた。
勝ち目が無くても覚悟を決めてシオンに挑んだ者達。
名を知らぬ相手ではあるが、東方の時代に取り残されて死んでいった者をシオンは敬意を持って戦ったのだ。
●
ハンター達の間で、智則とゾファルの一騎討ちに異論は出されなかった。
それはリオンも同意。だからこそ、リオンは本陣に残った若武者を相手にしている。彼らもまた、己が立たされた立場を理解しているはずだ。ならば、リオンもまた彼らに対して相応の礼儀を持って『接する』他無い。
「!」
若武者の一撃をリオンはシールド「リパルション」で受け止める。
至近距離まで接近する若武者。
その表情から彼らが追い詰められた鼠のようだ。
そして、そのような鼠だからこそ相手が猫であっても果敢に挑んでくる。
「若! 国衆に命じて下され。水野に攻めて一矢を」
若武者から智則への懇願。
そう、この戦いは追い詰められた末に暴発する可能性を孕んでいた。
国衆と三条家が激突すれば、また多くの血が流れ禍根が生まれる。
このような戦いが再び発生する恐れが出てくる。
それがリオンにも理解できていたからこそ……。
「絶対にさせません」
リオンは若武者から距離を取った後、頭上に3つの火球を生み出した。
それらの火球を国衆から離れた場所で炸裂させる。
誰もいない場所に吹き荒れる炎。
爆炎の存在に国衆達も気付いたようだ。
――警告。動けば、次のメテオウォームは直撃させる。
「これで国衆も臆してすぐには動けないでしょう」
再び斬り掛かる若武者。
このリオンの攻撃は国衆を脅すだけではなく、本陣が攻撃を受けている事を国衆に気付かせる結果となった。国衆からしてみれば、庇護してくれた観音坂家が攻撃を受けている。もし、観音坂家が倒されれば自分達の処遇はどうなるのか。このまま攻撃すれば、一族郎党処罰される事は明白。
混乱は、瞬く間に国衆達へ伝播していく。
「ならば、ここで貴様を止めてくれる」
刀を手に突進する若武者。
だが、リオンは既に懐から符を手にしていた。
頭上に向けて放り投げられる符。
次の瞬間、稲妻が若武者の体を貫いた。
焼けた匂いが周囲に広がっていく。
「斬り合いで倒せない事はお詫びします。これが私の戦い方なんです」
●
三人のハンターにより、智則の護衛は瞬く間に討ち取られていく。
それは智則が迎える終焉のカウントダウンとなっていた。
「……くっ」
焦れた智則が前へ出る。
下段から構えた刀を大きく上へ振り抜いた。
だが、その一撃をゾファルはパリィグローブ「ディスターブ」で受け止める。
「どうした? お前の死地はそんなもんか?」
ゾファルは敢えて智則を挑発する。
武徳の屋敷で勝手に食客を名乗り入り浸っているのも、こうした荒事が舞い込んでくるからだ。武徳ならばきっと最適な『死地』を用意してくれる。
今回の一件もそうだ。
ゾファルにとって智則はよく知らない将だ。それでも本国から切り捨てられ、生き残る事が困難な状況へと陥った事は理解できる。
そうした者程、命の炎が燃え尽きるその瞬間に咲き誇る。
「死に物狂いで来いよ。道場での剣術じゃ、俺様ちゃんには勝てねぇぞ」
智則は言い放つゾファルを静かに見据えた。
実はゾファルの指摘通り、この戦いが智則にとっての初陣である。実戦経験の無い智則は道場で剣術を学んできたものの、合戦で刀を握るのは初めてである。
普通ならば、臆して逃げ出し無様を晒すだろう。
だが、智則はゾファルの前で凛とする姿を見せている。どうやら相応の覚悟を持っているようだ。
「本国に戻ろうと捕縛されようと、要らぬ血が流れるは必定。ならば、この刀が折れる瞬間まで正々堂々戦って散ってみせる。それが、私にできる唯一の役目だ」
「へぇ、いい色を見せてくれるじゃん。智則ちゃん」
それは、死に直面した者のみが放つ色。
普段は自ら死地に飛び込んでいるが、今回は智則が死を覚悟。既に刀を躱しながら、何発か拳を叩き込んでいる。身も心も限界な事は智則も分かっているはずだ。
――次の一撃でケリを付ける。
ゾファルは直感的に感じ取った。
「決着を付けるか。これが貴様の望んだ戦いだ。最早これで悔いは無かろう?
……何か言い残す事はあるか?」
若武者達を片付け終えたシオンが声を掛ける。
この戦いの幕引きを前に、その胸中を聞いておきたかった。
呼吸を整えた智則の口から一言。
「願わくば、侍なき世を……」
侍なき世。
古い慣習と強き者が支配する世界。
新政府になれば、このような世界は変わるのだろうか。
自分のような死を迎える者が減る事を――願っている。
「参る!」
智則は前に出る。
繰り出すは、大きく踏み込んでからの突き。
しかし、その突きは虚空へ吸い込まれる。
蒼機拳「ドラセナ」を振るったゾファルは、桜吹雪の幻影を生み出した。
ゾファルの姿を見失うも、智則はその攻撃を急には止められない。
その隙を突き、ドラセナが智則の甲冑を打ち砕く。
深く突き刺さる拳。智則の胸部を貫いた。
「最後のは、いい一撃じゃん。願いを込めた一撃だったじゃん」
耳元で囁くゾファル。
満足したかのように智則は静かに倒れた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/01/15 01:23:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/13 11:40:38 |